説明

基材に芳香族ポリマーが結合した構造体の製造方法、並びに、導電性基材に結合した芳香族ポリマー鎖を有してなる構造体、及び該構造体を含む電子素子

【課題】基材に芳香族ポリマーが結合した形の構造体を効率良く得る構造体の製造方法及び導電性基材であるかかる構造体を提供する。
【解決手段】
式(I)の芳香族化合物を重合触媒と式(II)で表される基を有する基材の存在下で重縮合することを含む上記構造体の製造方法。
【化1】


〔式中、Arは芳香環からなる二価の基であり、Xはハロゲン原子等であり、Yは酸素原子、硫黄原子、イミノ基等であり、nは0または1であり、Mは、水素原子、−B(OQ1)2(Q1は水素原子または炭化水素基など)などである)である。〕
【化2】


〔式中、Arは芳香環からなる価数p+1の基であり、Xaはハロゲン原子または−SO3a(ここにQaは置換もしくは非置換の炭化水素基を表す)で示される一価の基であり、pは1以上の整数であり、pが2以上の整数である場合には存在する複数のXは同一または異なる。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材とそれに結合した芳香族ポリマーとを有する構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
主鎖の結合が共役でつながっている芳香族ポリマーは、電気特性、光学特性、耐熱性、力学特性等の点で優れた特性を持ち、導電材料、光電変換材料、発光材料、非線形光学材料、電池用材料、電子部品材料、自動車用材料などの先端機能材料に有用であることが知られている(非特許文献1)。特に、導電材料、光電変換材料、発光材料などの用途においては、基材に芳香族ポリマーが結合したものが求められている。
【0003】
金属など溶媒に不溶な基材の表面改質を目的として、基材表面に開始基を結合させてモノマーを重合させる方法が知られている。例えば福田らは基材表面からのリビングラジカル重合を実現しており、これによりポリマー鎖の末端が基材表面に結合している構造が得られている。しかし、この方法は芳香族ポリマーには活用できない。
【0004】
基材表面に芳香族ポリマーの末端が結合した構造を得る方法としては基材表面に結合できる末端基を有するポリマーを用いる方法が多数知られているが、これは重合の工程と基材表面に結合させる工程があるため反応効率および作業効率が悪い。そのため、工業的な実用化には限界がある。重合工程と並行して基材表面と結合する反応も行う方法として、例えばBeinhoffらが示したように山本カップリングを利用して、臭素化された芳香環を2個有するモノマーの重合を、同じく臭素化された芳香環を有する基材表面においてNi(0)触媒下で行う方法が知られている(非特許文献2)。
【0005】
しかし、山本カップリングを用いた上記の方法では、生成する芳香族ポリマーのうち基材に結合して生成するものの割合が少なく、結合せずに生成するポリマーの割合が多いという問題がある。
【0006】
【非特許文献1】Chem.Rev.102,1359(2002)
【非特許文献2】Langmuir 22,2411(2006)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の課題は、基材に芳香族ポリマーが結合した形の構造体を効率良く得る構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、モノマーが連鎖的に結合する連鎖重合の開始基を基材の表面などに置くことにより上記課題を解決することができることを見出した。
【0009】
即ち、本発明は、該課題を解決する手段として、
基材と、該基材に結合した芳香族ポリマーとを有する構造体の製造方法にして、
下記の一般式(I)で表される芳香族化合物を溶媒中で重合触媒と下記の一般式(II)で表される基を有する基材の存在下で重縮合することを含む上記構造体の製造方法を提供する。
【0010】
【化1】

【0011】
〔式中、Arは芳香環からなる二価の基であり、
Xはハロゲン原子、ニトロ基または−SO3Q(ここにQは置換もしくは非置換の炭化水素基を表す)で示される一価の基であり、
Yは酸素原子、硫黄原子、イミノ基、置換イミノ基、エテニレン基、置換エテニレン基またはエチニレン基であり、
nは0または1であり、
Mは、水素原子、−B(OQ1)2(ここに二つのQ1は独立に水素原子または炭化水素基であるか、あるいは結合して一緒に環を形成する)、−Si(Q2)3(ここにQ2は炭化水素基である)、−Sn(Q3)3(ここにQ3は炭化水素基である)、または−Z1(Z2)(ここにZ1は金属原子または金属イオンであり、Z2はカウンターアニオンであり、mは0以上の整数である)である。〕
【0012】
【化2】

【0013】
〔式中、Arは芳香環からなる価数p+1の基であり、Xaはハロゲン原子または−SO3a(ここにQaは置換もしくは非置換の炭化水素基を表す)で示される一価の基であり、pは1以上の整数であり、pが2以上の整数である場合には存在する複数のXは同一または異なる。〕
【0014】
本発明は、また、上記製造方法により得られる、基材と、該基材に結合した芳香族ポリマーとを有する構造体を提供する。
【0015】
さらに、本発明は、導電性基材と、該導電性基材に結合した下記一般式(VI)で表される構造を有する芳香族ポリマー鎖とを有する構造体を提供する。
【0016】
【化3】

【0017】
(式中、Ar、Ar、X及びpは上述の通りであり、iは繰り返し構造Arの数平均重合度である。)
【0018】
さらに、本発明は、上記の、導電性基材と、該導電性基材に結合した前記芳香族ポリマー鎖とを有する構造体を含む電子素子を提供する。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、基材に芳香族ポリマーが結合した構造体を効率的に得ることが可能である。
【0020】
基材が例えば電極である場合は、電極に結合している芳香族ポリマーの結合部からポリマー主鎖に沿って効率よく電気を流すことが可能であるため、電気的に優れた特性を示す。そこで、導電材料、光電変換材料、発光材料、電池用材料、電子部品材料などの先端機能材料に有用である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下、本発明を実施の形態に即して詳細に説明する。本明細書および特許請求の範囲の記載において、以下の用語は次に定義する意味で使用する。
【0022】
「炭化水素オキシ基」とはRO−で表される一価の基、「炭化水素メルカプト基」とはRS−で表される一価の基、「炭化水素カルボニル基」とはR−C(=O)−で表される一価の基、「炭化水素オキシカルボニル基」とはR−O−C(=O)−で表される一価の基、そして、「炭化水素スルホニル基」とは、R−S(=O)−で表される一価の基を示す。「炭化水素二置換アミノ基」とは(R)N−で表され二個のRは同一でも異なってもよい一価の基、「炭化水素二置換アミノカルボニル基」とは、(R)N−C(=O)−で表され二個のRは同一でも異なってもよい一価の基を意味する。ここで、Rは炭化水素基を表す。
【0023】
<構造体の製造方法>
−モノマー−
本発明の製造方法ではモノマーとして前記一般式(I)で表される芳香族化合物が用いられる。
【0024】
上記一般式(I)におけるArは芳香環からなる二価の基である。ここで、「芳香環からなる二価の基」とは、芳香族環式化合物中に存在する1又は2以上の芳香環の環構成員である異なる二個の原子(これらは炭素原子及び/又はヘテロ原子であり、好ましくは炭素原子である)の各々に結合した計二個の水素原子を取り除くことにより形成される2価の残基を意味する。ここで、芳香族環式化合物は炭素環式芳香族化合物および複素環式芳香族化合物を包含する。
【0025】
前記の芳香環としては、例えば、ベンゼン環、ピリジン環、1,2−ジアジン環、1,3−ジアジン環、1,4−ジアジン環、1,3,5−トリアジン環、フラン環、ピロール環、チオフェン環、ピラゾール環、イミダゾール環、オキサゾール環、チアゾール環、オキサジアゾール環、チアジアゾール環、アザジアゾール環の単環式芳香環;該単環式芳香環の中から互いに独立に選んだ2つ以上が縮合した縮合多環式芳香環;該単環式芳香環及び/又は該縮合多環式芳香環の中から互いに独立に選んだ2つ以上の環を、単結合、メチレン基、エチレン基、エテニレン基、エチニレン基、酸素原子、硫黄原子、イミノ基、カルボニル基、スルホニル基等の2価の原子または基で連結した芳香環集合;該縮合多環式芳香環または該芳香環集合の隣り合う2つの芳香環をメチレン基、エチレン基、カルボニル基、スルホニル基等の二価の基で橋架けした架橋を1つ以上有する有橋多環式芳香環を挙げることができる。これらの芳香環の中でも、単環式芳香環及び有橋多環式芳香環が好ましい。
【0026】
該縮合多環式芳香環において、縮合する単環式芳香環の数は、2〜4が好ましく、2〜3がより好ましく、2がさらに好ましい。該芳香環集合において、連結される単環式芳香環及び/又は縮合多環式芳香環の数として、2〜4が好ましく、2〜3がより好ましく、2がさらに好ましい。該有橋多環式芳香環において、橋架けされる単環式芳香環及び/又は縮合多環式芳香環の数として、2〜4が好ましく、2〜3がより好ましく、2がさらに好ましい。
【0027】
前記芳香環をそれらの基本構造で(即ち、非置換状態で)例示する。前記単環式芳香環としては、例えば、
【0028】
【化4】

【0029】
縮合多環式芳香環としては、例えば、
【0030】
【化5】

【0031】
芳香環集合としては、例えば、
【0032】
【化6】

【0033】
有橋多環式芳香環としては、例えば、
【0034】
【化7】

【0035】
を挙げることができる。
【0036】
これらの芳香環の中でも、好ましくは1、2、7、8、9、11、12、13、14、18、19、22、23、26、27、28、29、36、37、38、39、40、41、42、43、47、48、49、50、51、52、53、54、55、56、57、59、60、68、69であり、より好ましくは1、2、7、9、18、22、36、38、39、43、48、49、51、52、53、55、57、60であり、さらに好ましくは、1、2、7、18、36、39、48、53、55、57、60であり、特に好ましくは、1、2、18、39、55、60である。
【0037】
上記の芳香環は、水素原子、炭素原子、酸素原子、窒素原子のみからなることが好ましく、水素原子、炭素原子、酸素原子のみからなることがより好ましく、水素原子と炭素原子のみからなることがさらに好ましい。
【0038】
上記の芳香環は、それを構成する炭素原子に結合した水素原子が、ヒドロキシ基、フッ素原子、ニトロ基、シアノ基、炭化水素基、炭化水素オキシ基、炭化水素二置換アミノ基、炭化水素メルカプト基、炭化水素カルボニル基、炭化水素オキシカルボニル基、炭化水素二置換アミノカルボニル基、炭化水素スルホニル基により置換されてもよい。このとき、置換基としては、フッ素原子、ニトロ基、シアノ基、炭化水素基、炭化水素オキシ基、炭化水素二置換アミノ基、炭化水素メルカプト基、炭化水素カルボニル基、炭化水素オキシカルボニル基がより好ましく、フッ素原子、ニトロ基、シアノ基、炭化水素基、炭化水素オキシ基、炭化水素二置換アミノ基がさらに好ましい。また、芳香環を構成する窒素原子に結合した水素原子が、炭化水素基で置換されてもよい。さらに、このような炭素原子上の置換基および/または窒素原子上の置換基が2つ以上存在する場合には、それらから選ばれる2つの置換基が結合して一緒に環を形成してもよい。
【0039】
前記の炭化水素基、並びに前記の炭化水素オキシ基、炭化水素二置換アミノ基、炭化水素メルカプト基、炭化水素カルボニル基、炭化水素オキシカルボニル基、炭化水素二置換アミノカルボニル基、および炭化水素スルホニル基に含まれる炭化水素基としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ノニル基、ドデシル基、ペンタデシル基、オクタデシル基、ドコシル基等の炭素原子数1〜50程度のアルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロへキシル基、シクロノニル基、シクロドデシル基、ノルボニル基、アダマンチル基等の炭素原子数3〜50程度の環状飽和炭化水素基;エテニル基、プロペニル基、3−ブテニル基、2−ブテニル基、2−ペンテニル基、2−ヘキセニル基、2−ノネニル基、2−ドデセニル基等の炭素原子数2〜50程度のアルケニル基;フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、2−メチルフェニル基、3−メチルフェニル基、4−メチルフェニル基、4−エチルフェニル基、4−プロピルフェニル基、4−イソプロピルフェニル基、4−ブチルフェニル基、4−t−ブチルフェニル基、4−ヘキシルフェニル基、4−シクロヘキシルフェニル基、4−アダマンチルフェニル基、4−フェニルフェニル基等の炭素原子数6〜50程度のアリール基;フェニルメチル基、1−フェニレンエチル基、2−フェニルエチル基、1−フェニル−1−プロピル基、1−フェニル−2−プロピル基、2−フェニル−2−プロピル基、3−フェニル−1−プロピル基、4−フェニル−1−ブチル基、5−フェニル−1−ペンチル基、6−フェニル−1−ヘキシル基等の炭素原子数7〜50程度のアラルキル基等が挙げられる。炭素原子数1〜20の炭化水素基が好ましく、より好ましくは炭素原子数1〜12の炭化水素基であり、さらに好ましくは炭素原子数1〜8の炭化水素基である。
【0040】
上記の炭化水素基、並びに上記の炭化水素オキシ基等に含まれる炭化水素基は、例えば、ヒドロキシ基、フッ素原子、ニトロ基、シアノ基等により置換されていてもよい。
【0041】
上記一般式(I)におけるXは、ハロゲン原子、ニトロ基または−SO3Qで示される基(ここにQは置換もしくは非置換の炭化水素基を表す)であり、ハロゲン原子、
−SO3Qで示される基(ここにQは置換もしくは非置換の炭化水素基を表す)が好ましい。
【0042】
ここでいうハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子であり、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。
【0043】
−SO3Qで示される基においてQで表される非置換の炭化水素基としては、前記Arの芳香環の置換基として前述したものを例示でき、置換炭化水素基としてはそれらを例えばフッ素原子で置換したものがあげられる。−SO3Qで示される基の具体例としては、メチルスルホ基、フェニルスルホ基、p-トリルスルホ基、トリフルオロメチルスルホ基があげられる。
【0044】
Xとして、好ましくはハロゲン原子、−SO3Qで示される基であり、より好ましくは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、−SO3Qで示される基であり、さらに好ましくは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロメチルスルホ基である。
【0045】
上記一般式(I)におけるYは、酸素原子、硫黄原子、イミノ基、置換イミノ基、エテニレン基、置換エテニレン基またはエチニレン基であり、nは0または1である。
【0046】
ここに置換イミノ基は、−N(Q’)− (ここで、Q’は置換基を表す)で示される基であり、Q’としては、炭化水素基があげられる。炭化水素基の具体例としては前記のものがあげられる。
【0047】
また置換エテニレン基は、−C(Q'’)=C(Q''')−(ここで、Q'’およびQ'''は独立に水素原子または置換基をあらわすが、Q'’およびQ'''の少なくとも1つは置換基である。)で示される基である。ここにQ'’およびQ'''における置換基としては、炭化水素基があげられる。炭化水素基の具体例としては前記Arの芳香環の置換基として前述したものがあげられる。
【0048】
Yとして、好ましくは酸素原子、イミノ基、置換イミノ基、エチニレン基であり、より好ましくは酸素原子、イミノ基、置換イミノ基であり、さらに好ましくは酸素原子、イミノ基である。nとして、0が好ましい。
【0049】
上記一般式(I)におけるMは、水素原子、−B(OQ1)2、−Si(Q2)3、−Sn(Q3)3または−Z1(Z2)を表す。
【0050】
−B(OQ1)2におけるQ1は水素原子または炭化水素基であり、2つのQ1は同じであっても異なってもよく、あるいは結合して一緒に環を形成してもよい。Q1における炭化水素基としては、前記Arの芳香環の置換基として前述した炭化水素基が挙げられ、アルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ノニル基がより好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基がさらに好ましい。環を形成する場合には、2つのQ3から形成される2価の炭化水素基として、1,2−エチレン基、1,1,2,2−テトラメチル−1,2−エチレン基、1,3−プロピレン基、2,2−ジメチル−1,3−プロピレン基、1,2−フェニレン基が好ましい。
【0051】
−Si(Q2)3におけるQ2は炭化水素基であり、3つのQ2は同じであっても異なってもよい。Q2における炭化水素基としては、前記Arの芳香環の置換基として前述した炭化水素基が挙げられ、アルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ノニル基がより好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基がさらに好ましい。
【0052】
−Sn(Q3)3におけるQ3は炭化水素基であり、3つのQ3は同じであっても異なってもよい。Q3における炭化水素基としては、前記Arの芳香環の置換基として前述した炭化水素基が挙げられ、アルキル基が好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ノニル基がより好ましく、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基がさらに好ましい。
【0053】
−Z1(Z2)におけるZ1は金属原子または金属イオンであり、Z2はカウンターアニオンであり、mは0以上の整数である。Z1としては、具体例としてLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ga、In、Tl、Pb、Sc、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Y、Zr、Nb、Mo、Tc、Ru、Rh、Ag、Cd、La、Ce、Sm、Eu、Hf、Ta、W、Re、Os、Ir、Pt、Au、Hg等の原子またはイオンを挙げることができる。好ましくはLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、Sr、Ba、Al、Ga、In、Tl、Pb、Sc、Ti、Cu、Zn、Y、Zr、Ag、Hgであり、より好ましくはLi、Na、K、Rb、Cs、Be、Mg、Ca、In、Tl、Pb、Cu、Zn、Zr、Ag、Hgであり、さらに好ましくはLi、Na、K、Mg、Ca、Cu、Znである。
【0054】
2としては、通常、ブレンステッド酸の共役塩基が使用され、具体例としては、フッ化物イオン、塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、過塩素酸イオン、テトラフルオロボレートイオン、ヘキサフルオロホスフェイトイオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、安息香酸イオン、水酸化物イオン、酸化物イオン、メトキサイドイオン、エトキサイドイオン等が挙げられる。好ましくは塩化物イオン、臭化物イオン、ヨウ化物イオン、硫酸イオン、硝酸イオン、炭酸イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、安息香酸イオンであり、より好ましくは塩化物イオン、臭化物イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、トルエンスルホン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、プロピオン酸イオン、安息香酸イオンであり、さらに好ましくは塩化物イオン、臭化物イオン、メタンスルホン酸イオン、トリフルオロメタンスルホン酸イオン、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオンである。
【0055】
mは、上記一般式(I)で表される芳香族化合物が全体として電気的に中性となるように決定される。なおMがZ1(Z2)の場合、つまり上記一般式(I)で表される芳香族化合物がZ1(Z2)−(Y)−Ar−Xで表される場合において、Z1とm個のZ2とがイオン結合により電気的に中性となる。
【0056】
上記一般式(I)におけるMは、ホウ素原子、ケイ素原子、スズ原子、金属原子を含む原子団であることが好ましく、ホウ素原子、スズ原子、マグネシウム原子、亜鉛原子を含む原子団であることがより好ましく、ホウ素原子を含む原子団であることが特に好ましい。
【0057】
前記一般式(I)で表される芳香族化合物の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0058】
【化8】

【0059】
【化9】

【0060】
【化10】

【0061】
−重合触媒−
本発明の方法に用いられる重合触媒としては、例えば、Chem.Rev.102,1359(2002)記載の錯体のうち下記式で表される配位子を含む、銅錯体、パラジウム錯体、ニッケル錯体等が挙げられる。
【0062】
【化11】

【0063】
(式中、Phはフェニル基、Etはエチル基、そしてt−Buは第3ブチル基をそれぞれ表す。)
【0064】
これらの中でも同文献記載のホスフィンまたはカルベンを配位子として含むパラジウム錯体等が好ましい。パラジウム錯体としてさらに好ましくはホスフィン化合物を配位子として含むパラジウム錯体であり、特に好ましくは下記一般式(III)で表されるホスフィン化合物を配位子として含むパラジウム錯体である。
P(R1)3 (III)
(式中、3つのR1は同一または異なり、下記の一般式(IV)で表される基または下記の一般式(V)で表される基であり、但し、3つのR1のうち少なくとも一つは一般式(IV)で表される基である。)
−C(R2)3 (IV)
(式中、3つのR2は同一または異なり、水素原子または置換もしくは非置換の炭化水素基であり、但し、2つ以上のR2が水素原子であることはなく、また、3つのR2のうちの2つのR2が結合して一緒に環を形成してもよい。)
【0065】
【化12】

【0066】
(式中、R3〜R7は独立に水素原子、置換もしくは非置換の炭化水素基、置換もしくは非置換の炭化水素オキシ基、置換もしくは非置換の炭化水素二置換アミノ基、置換もしくは非置換の炭化水素メルカプト基、置換もしくは非置換の炭化水素カルボニル基、置換もしくは非置換の炭化水素オキシカルボニル基、置換もしくは非置換の炭化水素二置換アミノカルボニル基または置換もしくは非置換の炭化水素スルホニル基であり、R3およびR4のうち少なくとも1つは水素原子以外の基であり、R3とR5、R5とR7、R4とR6、およびR6とR7の組合わせのうちの少なくとも1つの組合わせにおいて当該二つの基は結合して一緒に環を形成してもよい。)
上記一般式(III)において、R1は上記一般式(IV)で表される基または上記一般式(V)で表される基であり、3つのR1は同じでも異なっていてもよく、3つのR1のうち少なくとも一つは一般式(IV)で表される基である。
【0067】
上記一般式(IV)において、R2は水素原子または置換もしくは非置換の炭化水素基であり、3つのR2は同じでも異なっていてもよく、2つのR2が一緒になって環を形成してもよく、2つの以上のR2が水素原子であることはない。(即ちR2が一緒になって環を形成していない場合、少なくとも2つのR2は置換もしくは非置換の炭化水素基である。)
上記一般式(V)において、R3〜R7は独立に、好ましくは水素原子または置換もしくは非置換の炭化水素基である。
【0068】
上記一般式(IV)のR2の置換もしくは非置換の炭化水素基としては、上記一般式(I)のArの芳香環の置換基として例示した非置換もしくは置換の炭化水素基を挙げることができる。
【0069】
上記一般式(IV)の基として、t−ブチル基、3−エチル−3−ペンチル基、イソプロピル基、イソブチル基、3−ペンチル基、シクロペンチル基、1−メチルシクロヘキシル基、シクロヘキシル基が好ましく、t−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基がより好ましく、t−ブチル基、シクロヘキシル基がさらに好ましい。
【0070】
上記一般式(V)中のR3〜R7で表され得る置換もしくは非置換の炭化水素基の内の非置換炭化水素基としては、上記一般式(I)のArの芳香環の置換基として例示した炭化水素基を挙げることができる。該炭化水素基として、炭素原子数1〜12のアルキル基、炭素原子数3〜12のシクロアルキル基、炭素原子数6〜12のアリール基が好ましく、炭素原子数6〜12のアリール基がより好ましく、フェニル基が特に好ましい。置換炭化水素基は、このような非置換の炭化水素基が、例えばフッ素原子、ニトロ基、シアノ基等により置換されたものを挙げることができる。
【0071】
またR3〜R7により表され得る非置換の、炭化水素オキシ基、炭化水素二置換アミノ基、炭化水素メルカプト基、炭化水素カルボニル基、炭化水素オキシカルボニル基、炭化水素二置換アミノカルボニル基および炭化水素スルホニル基の具体例および好ましい例は、上記一般式(I)のArの芳香環の置換基として説明した通りである。これらに置換してよい置換基は、前記の置換もしくは非置換の炭化水素基における置換してよい置換基と同じ定義であり、好ましい例および具体例も同じである。
【0072】
上記一般式(V)中のR3〜R7としては、水素原子、置換もしくは非置換の炭化水素基、置換もしくは非置換の炭化水素オキシ基、および置換もしくは非置換の炭化水素二置換アミノ基が好ましく、水素原子、置換もしくは非置換の炭化水素基、および置換もしくは非置換の炭化水素オキシ基がより好ましく、水素原子、および置換もしくは非置換の炭化水素基がさらに好ましい。
【0073】
上記一般式(V)で表される基の具体例としては、2−メチルフェニル基、2,6−ジメチルフェニル基、2,4,6−トリメチルフェニル基、2−エチルフェニル基、2,6−ジエチルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2、6−ジイソプロピルフェニル基、2−t−ブチルフェニル基、2−フェニルフェニル基、2、6−ジフェニルフェニル基、2−メトキシフェニル基、2,6−ジメトキシフェニル基、2,4,6−トリメトキシフェニル基、2−エトキシフェニル基、2,6−ジエトキシフェニル基、2−イソプロポキシフェニル基、2、6−ジイソプロポキシフェニル基、2−t−ブトキシフェニル基、2−フェノキシフェニル基、2、6−ジフェノキシフェニル基、2−(2−メチルフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジメチルフェニル)フェニル基、2−(2−エチルフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジエチルフェニル)フェニル基、2−(2−イソプロピルフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)フェニル基、2−(2−t−ブチルフェニル)フェニル基、2−(2−メトキシフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジメトキシフェニル)フェニル基、2−(2,4,6−トリメトキシフェニル)フェニル基、2−(2−エトキシフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジエトキシフェニル)フェニル基、2−(2−イソプロポキシフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジイソプロポキシフェニル)フェニル基、2−(2−t−ブトキシフェニル)フェニル基、2−(2,6−t−ブトキシフェニル)フェニル基等が挙げられる。好ましくは、2−メチルフェニル基、2−エチルフェニル基、2−イソプロピルフェニル基、2−t−ブチルフェニル基、2−フェニルフェニル基、2−メトキシフェニル基、2−エトキシフェニル基、2−イソプロポキシフェニル基、2−t−ブトキシフェニル基、2−フェニノキシフェニル基、2−(2−メチルフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジメチルフェニル)フェニル基、2−(2−エチルフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジエチルフェニル)フェニル基、2−(2−イソプロピルフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)フェニル基、2−(2−t−ブチルフェニル)フェニル基、2−(2−メトキシフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジメトキシフェニル)フェニル基、2−(2,4,6−トリメトキシフェニル)フェニル基、2−(2−エトキシフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジエトキシフェニル)フェニル基、2−(2−イソプロポキシフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジイソプロポキシフェニル)フェニル基、2−(2−t−ブトキシフェニル)フェニル基、2−(2,6−t−ブトキシフェニル)フェニル基が挙げられ、より好ましくは2−(2−メチルフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジメチルフェニル)フェニル基、2−(2−エチルフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジエチルフェニル)フェニル基、2−(2−イソプロピルフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)フェニル基、2−(2−t−ブチルフェニル)フェニル基、2−(2−メトキシフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジメトキシフェニル)フェニル基、2−(2,4,6−トリメトキシフェニル)フェニル基、2−(2−エトキシフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジエトキシフェニル)フェニル基、2−(2−イソプロポキシフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジイソプロポキシフェニル)フェニル基、2−(2−t−ブトキシフェニル)フェニル基、2−(2,6−t−ブトキシフェニル)フェニル基であり、さらに好ましくは2−(2,6−ジメチルフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジエチルフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジ−イソプロピルフェニル)フェニル基、2−(2−t−ブチルフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジメトキシフェニル)フェニル基、2−(2−エトキシフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジエトキシフェニル)フェニル基、2−(2,6−ジイソプロポキシフェニル)フェニル基、2−(2,6−t−ブトキシフェニル)フェニル基である。
【0074】
一般式(III)で表されるホスフィン化合物を配位子として含むパラジウム錯体の好ましい具体例としては、上記の配位子の具体的な例の名称を用いて表すと、Pd(PPhMe)、Pd(P(t−Bu)、Pd(PEt、Pd(PCy、Pd(dppb)、Pd(dppe)、Pd(dppp)、Pd(BINAP)等が挙げられる。
【0075】
本発明で用いられるパラジウム錯体は、例えば上記一般式(III)で表されるホスフィン化合物を配位子として含むパラジウム錯体の場合は、該ホスフィン化合物とパラジウム(0)・ジベンジリデンアセトン錯体のような可溶化したPd(0)錯体を混合することにより製造することができる。また、該ホスフィン化合物存在下にパラジウム(II)の酢酸塩や塩化物を還元してパラジウム(0)を生成させて製造することができる。該パラジウム錯体の製法として、Chem.Rev.102,1359(2002)およびその参照文献に記載されている方法が例示される。これらの製造方法により反応溶液として得られたホスフィン化合物を配位子として含むパラジウム錯体は単離せずに、そのまま重縮合に用いてもよいし、単離して用いてもよい。
【0076】
該ホスフィン化合物の使用量に限定はないが、パラジウム(0)に対する該ホスフィン化合物の使用量(モル比)として0.5〜10が好ましく、0.8〜5がより好ましく、0.9〜3がさらに好ましい。
【0077】
該錯体の本発明の製造方法における使用量に制限はないが、上記一般式(I)で表される芳香族化合物に対するパラジウム錯体として、好ましくは0.0001〜10モル%であり、より好ましくは0.001〜5モル%であり、さらに好ましくは0.01〜5モル%である。
【0078】
−開始基−
本発明において、反応溶媒に不溶な基材は上記一般式(II)で表される基を有する。該一般式(II)で表される基は一般式(I)で表される芳香族化合物が連鎖的に縮重合して芳香族ポリマーに成長する開始基として機能する。
【0079】
一般式(II)におけるXaは、ハロゲン原子または−SO3aで示される基(ここにQaは置換もしくは非置換の炭化水素基を表す)である。ここでハロゲン原子とは、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子であり、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が好ましい。
【0080】
aで示される置換もしくは非置換の炭化水素基としては、前記Arの芳香環の置換基として説明した炭化水素基およびその置換炭化水素基があげられる。置換炭化水素基の置換基としては例えばフッ素原子があげられる。
【0081】
−SO3aで示される基の具体例としては、メチルスルホ基、フェニルスルホ基、p-トリルスルホ基、トリフルオロメチルスルホ基があげられる。
【0082】
aは、好ましくはハロゲン原子、−SO3aで示される基であり、より好ましくは塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子、−SO3aで示される基であり、さらに好ましくは臭素原子、ヨウ素原子、トリフルオロメチルスルホ基である。
【0083】
Arは芳香環からなる価数p+1の基である。ここで、「芳香環からなる価数p+1の基」とは、芳香族環式化合物中に存在する1又は2以上の芳香環の環構成員である異なるp+1個の原子(これらは炭素原子及び/又はヘテロ原子である)の各々に結合した水素原子を取り除くことにより形成される価数p+1の残基を意味する。ここで、芳香族環式化合物は基Arに関して説明した通りであり、芳香環の種類、芳香環が有し得る置換基、具体例、好ましい例などすべて前述した通りである。
【0084】
一般式(II)においてArに結合する基Xaの数pは1以上であり、合成の観点から好ましくは1〜5であり、さらに好ましくは1〜2である。一つのArに複数のXaが結合する場合、それらは同一でも異なってもよい。合成の観点からは、複数のXが存在する場合には、それらは好ましくは1〜5種の基からなり、さらに好ましくは1〜2種の基からなる。
【0085】
前記一般式(II)で表される基の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0086】
【化13】

【0087】
【化14】

【0088】
【化15】

【0089】
−基材−
本発明において、上記一般式(II)で表される基を表面に有する基材は反応溶媒に不溶である。しかし、形状、材料等が限定されず、導電性でも非導電性でもよい。即ち、形状は用途に応じて選択することができ、板状、球状、粉状、ゴム状、ゼリー状などであってよい。また、材料は、用途に応じて、例えば電子工業分野、ディスプレイ分野等で公知のものを使用することができる。その具体例としては、ガラス、サファイア、半導体(例えば、シリコン等)、樹脂(例えば、ポリスチレンゲル等)、卑金属(例えば、亜鉛、アルミニウム、クロム、錫、ニッケル、銅、鉄、タングステン、コバルト、ロジウム等)、貴金属(例えば、白金、金、パラジウム、銀等)、酸化物(例えば、酸化シリコン、インジウムスズ酸化物、酸化スズ、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化アルミニウム、酸化ルテニウム、酸化ストロンチウムルテニウム、酸化バリウム鉛、酸化インジウム、酸化亜鉛等)、窒化物(例えば、窒化シリコン、窒化ガリウム等)、炭化物(例えば、炭化シリコン等)等が挙げられる。
【0090】
基材への一般式(II)で表される基の導入状態は基材の、特に基材の表面部分の構造に依存する。基材が多孔性でしかも連続気泡構造であると、一般式(II)で表される基の導入方法によっては一般式(II)で表される基は基材の表面部のみならず内部にも導入されるが、このような基材は本発明の方法にとり好ましくはない。本発明の方法にとっては、表面が滑らかであるか、あるいは表面に凹凸があったり表面部のみが多孔性である基材が好ましい。一般式(II)で表される基はそうした孔または凹部の内表面を含む表面に導入されることになる。本明細書において基材の表面とは、基材表面に存在する孔または凹部の内表面を含む意味で使用される。
【0091】
基材と一般式(II)で表される基とを化学結合させる作業は該重縮合に先だって完了させても、該重縮合中に同時進行させてもよい。該重縮合に先だって完了させておくことが好ましい。該基材の表面での一般式(II)で表される基の数密度に特に限定はなく、用途によって変えることができる。基材表面への機能付与の観点からその数密度は1個/μmから20個/nmが好ましく、200個/μmから20個/nmがさらに好ましく、100,000個/μmから20個/nmが特に好ましい。
【0092】
基材に一般式(II)で表される基を化学結合させる方法に特に制限されない。従って、例えば、一般式(II)で表される基を有する基材は、該一般式(II)で表される基と官能基とを有するカップリング剤と、基材とを反応させることにより製造することができる。ここでカップリング剤が有する官能基は、基材との間に化学結合を生成する官能基(この場合、官能基は反応性の原子を包含する意味で用いる)である。該カップリング剤としてはシランカップリング剤及びチオール系カップリング剤(共に、例えば、材料技術 14(10)288(1996)参照)が挙げられ、市販されているものを用いることができる。
【0093】
基材に一般式(II)で表される基を化学結合させる別の方法としては、架橋を伴う電界重合(日本接着学会誌 34(8)311(1998))等が挙げられる。
【0094】
さらに別の方法として、光および/または熱によってラジカルを発生する化合物を用いてラジカル反応にて基材に一般式(II)で表される基を化学結合させることもできる。
【0095】
基材との間に形成される化学結合は共有結合、配位結合、水素結合及びイオン結合のいずれでもよく、好ましくは共有結合または水素結合であり、強固な結合を形成するためにさらに好ましくは共有結合である。
【0096】
上記のカップリング剤を用いる場合、カップリング剤が有する官能基の種類は、形成される結合の種類のほかに、基材を構成する材料、基材の表面状態(表面に存在する反応性基などの種類)に応じて適宜選択することが望ましい。カップリング剤に存在する、基材との間に化学結合を生成する官能基と一般式(II)で表される基の個数は必ずしも1対1である必要はなく、1:100から100:1までの比であっても良い。
【0097】
上記の共有結合または水素結合を形成するような官能基としては、例えば、メルカプト基、ジスルフィド結合、ヒドロキシ基、カルボキシ基、スルホン酸基、ホスホン酸基、トリアルコキシシリル基、トリヒドロキシシリル基、クロロカルボニル基(-COCl)、シアナート基、イソシアナート基、塩素原子、臭素原子、およびヨウ素原子が挙げられ、基材表面にある一種または複数種の反応性基などとの反応により、共有結合および/または水素結合が形成される。なお、ジスルフィド結合は二つのメルカプト基がしばしば結合して生じるが、メルカプト基と同様に共有結合または水素結合を形成する機能を有する。これらの具体例のうち、基材と共有結合を形成しやすい点で、メルカプト基、ジスルフィド結合、トリアルコキシシリル基およびトリヒドロキシシリル基が好ましい。
【0098】
上記の光および/または熱によってラジカルを発生する化合物としては、アゾ化合物、有機過酸化物などが代表的であり、レーザーのようにエネルギーの大きい光を用いる場合は置換または非置換の炭化水素も有効である。アゾ化合物および有機過酸化物としては、ラジカル発生剤として慣用される公知のものを使用することができる。
【0099】
なお、トリアルコキシシリル基の3個のアルコキシル基の種類は同一でも異なってもよく、各アルコキシル基は通常炭素原子数1〜9、好ましくは1〜4のものである。
【0100】
基材を上述したカップリング剤で処理して基材表面に一般式(II)で表される基を結合させる方法を具体的に説明する。
【0101】
・シランカップリング剤を用いる場合:
例えば、トリアルコキシシリル基および/またはトリヒドロキシシリル基と一般式(II)で表される基とを有するシランカップリング剤(例えばブロモフェニルトリメトキシシラン(Petrarch社製))の水溶液を基材に塗布して乾燥させることによって基材に一般式(II)で表される基(例の場合、ブロモフェニル基)を導入することができる。この方法は上記の具体例で示した基材に用いることができ、ガラス、サファイア、シリコン、鉄、アルミニウム、亜鉛、酸化シリコン、インジウムスズ酸化物、酸化スズ、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化アルミニウムを基材とする場合に好ましく、ガラス、シリコン、鉄、アルミニウム、亜鉛、酸化シリコン、インジウムスズ酸化物を基材とする場合に特に好ましい。
【0102】
・チオール系カップリング剤を用いる場合:
メルカプト基と一般式(II)で表される基とを有するチオール系カップリング剤(例えばブロモベンゼンチオール(例えば東京化成製)のアルコール溶液を基材に塗布して乾燥させることによって基材に一般式(II)で表される基(例の場合、ブロモフェニル基)を導入することができる。この方法は上記の具体例で示した基材に用いることができ、白金、金、パラジウム、シリコン、鉄、アルミニウム、亜鉛、酸化シリコン、インジウムスズ酸化物、酸化スズ、酸化チタン、酸化モリブデン、酸化タングステン、酸化タンタル、酸化アルミニウムを基材とする場合に好ましく、白金、金、パラジウム、鉄、アルミニウム、亜鉛、酸化シリコン、インジウムスズ酸化物を基材とする場合に更に好ましく、金を基材とする場合に特に好ましい。
【0103】
前記シランカップリング剤の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0104】
【化16】

【0105】
【化17】

【0106】
【化18】

【0107】
【化19】

【0108】
【化20】

【0109】
前記チオール系カップリング剤の具体例としては、以下のものが挙げられる。
【0110】
【化21】

【0111】
【化22】

【0112】
【化23】

【0113】
【化24】

【0114】
【化25】

【0115】
【化26】

【0116】
【化27】

【0117】
【化28】

【0118】
【化29】

【0119】
【化30】

【0120】
【化31】

【0121】
【化32】

【0122】
こうして本発明の方法により得られる芳香族ポリマーは、一般式(II)においてp=1であるとき一本の直鎖状であり、その片末端において前記基材に結合している。また、p≧2であるときは、Arにおいて分岐して延びるp本の直鎖状ポリマー鎖が得られる。
【0123】
−反応溶媒−
本発明の方法において重縮合は溶媒中で行われる。使用する溶媒は一般的には制限されないが、使用される基材が不溶であり、また基材が損なわれることのない有機溶媒を選択することが好ましい。使用できる溶媒としては、例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素;ヘプタン、シクロヘキサン等の鎖状および環状の脂肪族炭化水素;クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ジクロロメタン等のハロゲン化炭化水素;アセトニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、iso−プロピルアルコール等のアルコール類;ジオキサン、テトラヒドロフラン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン等のアミド類;ニトロメタン、ニトロベンゼン等のニトロ化合物類;水が挙げられる。反応溶媒としては、芳香族炭化水素系、ハロゲン化炭化水素、ニトリル類、エーテル類、ニトロ化合物類または水が好ましい。これらの反応溶媒は、単独でも2種以上の混合物として使用してもよい。
【0124】
−好適反応条件−
本発明の方法では、前記一般式(I)で表される芳香族化合物を溶媒中で重合触媒と一般式(II)で表される基を有する基材の存在下で重縮合する。
【0125】
該重縮合の反応条件としては、Chem.Rev.102,1359(2002)およびその参照文献に記載されている、前記重合触媒としてパラジウム錯体を用いる種々の芳香族カップリングの反応条件を用いることができる。特に、上記一般式(I)におけるMが−B(OQ1)2である芳香族化合物を用いる反応は、Chem.Rev.95,2457(1995)およびその参照文献に記載される鈴木カップリングと呼ばれる代表的な反応であり、本発明の方法においても好ましい反応条件である。以下、説明する。
【0126】
重縮合は塩基の存在下で行うことが望ましい。塩基の具体例としては、カウンターカチオンがリチウムイオン、ナトリウムイオン、カリウムイオン、セシウムイオン、およびテトラアルキルアンモニウムイオンから選ばれる、水酸化物塩、炭酸塩、リン酸塩、フッ化物塩が挙げられる。特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸セシウムが好ましい。
【0127】
該塩基の使用量は限定されないが、上記一般式(I)で表される芳香族化合物に対して、好ましくは0.01〜1000モル倍量であり、より好ましくは0.1〜100モル倍量であり、さらに好ましくは1〜30モル倍量である。
【0128】
鈴木カップリングを用いた重縮合は溶媒中で行なう。使用することができる溶媒は一般的に上述した通りである。
【0129】
該反応溶媒の使用量は、通常、上記一般式(I)で表される芳香族化合物1gに対して、0.01〜10,000mLで使用するが、好ましくは0.1〜1,000mLであり、より好ましくは1〜200mLである。
【0130】
鈴木カップリングを用いた重縮合の反応温度は、通常、−100℃〜200℃であり、好ましくは−50℃〜150℃であり、より好ましくは−20℃〜100℃である。該反応の時間は、通常、0.1分間〜1,000時間であり、好ましくは1分間〜500時間であり、より好ましくは10分間〜200時間である。
【0131】
鈴木カップリングを用いた重縮合の後処理としては、反応終了後に基材を反応溶液から取り出し、必要に応じて有機溶媒、塩酸水溶液、水等で洗浄し、乾燥することにより芳香族ポリマーが結合した基材を得ることが好ましい。
【0132】
本発明の方法において鈴木カップリングを用いる場合、重合触媒として上記一般式(III)で表されるホスフィン化合物を配位子として含むパラジウム錯体を用いる。基材に結合して得られる芳香族ポリマーは下記一般式(VI)で表される構造を有し、該一般式において該構造の左末端が基材に結合した状態となる。開始基となる一般式(II)で表される基の数は一定で、各開始基から各ポリマー鎖が連鎖的に成長するために、分子量分布のより狭い芳香族ポリマーを得ることが可能となる。
【0133】
【化33】

【0134】
(式中、Ar、Ar、X及びpは前記で定義の通りであり、iは繰り返し構造Arの数平均重合度である。)
【0135】
ここで、一般式(VI)におけるiの大きさに限定はないが、1,000,000〜1が好ましく、100,000〜1がさらに好ましく、50,000〜1が最も好ましい。
【0136】
こうして得られる上記一般式(VI)で表される芳香族ポリマー鎖は、重合副反応や後処理反応により、Xが水素原子に置換されることがある。
【0137】
上記の反応条件においては、まず、パラジウム錯体と一般式(II)で表される基が反応して、下記の一般式(VII)で表されるパラジウム錯体構造を有する基が生じる。次に、一般式(VII)で表される基より重合が開始され、上記一般式(I)で表される芳香族化合物が連鎖的に重縮合して一般式(VI)で表される構造の芳香族ポリマー鎖が生成する。
【0138】
【化34】

【0139】
(式中、Ar、X及びpは前記で定義の通りであり、Rgはホスフィン、カルベン等の配位子、好ましくはホスフィン配位子であり、さらに好ましくは上記一般式(III)で表されるホスフィン化合物である。)
【0140】
<導電性基材と芳香族ポリマー鎖とを有する構造体>
上述した構造体の製造方法の説明において、基材が導電性基材であるものは特に電子素子の構成材料ないしは構成素子として有用である。
【0141】
そこで、本発明は、特に、導電性基材と、該導電性基材に結合した前記一般式(VI)で表される構造を有する芳香族ポリマー鎖とを有する構造体を提供するものである。
【0142】
導電性基材としては、例えば、基材として上述した例の中でも、卑金属、貴金属または導電性酸化物を含む材料が挙げられる。ここで、導電性酸化物としては、例えば、インジウムスズ酸化物、酸化ルテニウム(RuO2)、酸化ストロンチウムルテニウム(SrRuO3)、酸化バリウム鉛(BaPbO3)、酸化インジウム(In2O3)、酸化スズ、酸化亜鉛等の導電性金属酸化物が挙げられる。
【0143】
本構造体において、芳香族ポリマー鎖は一端側が前記基材に結合し他端側は自由な状態にあり、しかも通常基材表面上に存在する無数の結合サイトに結合している。したがって、あたかも地面に無数の草が生えて形成された草原の状態に模すことができ、ポリマー鎖はある厚さを有する層状態にある。このポリマー層の厚さ、即ち、形成された芳香族ポリマー鎖全体の平均的長さは反応条件に依存して様々になる。また、特定条件で得られた芳香族ポリマー鎖でも個々のポリマー鎖の長さは一様ではないが、最長のポリマー鎖と最短のポリマー鎖との中間値として、製造の際の反応の容易性及び構造体の機能性の観点から0.1nm〜10cmの範囲が好ましく、0.5nm〜1mmの範囲がより好ましく、1nm〜100μmの範囲がさらに好ましく、5nm〜1μmの範囲が特に好ましい。
【0144】
本発明の構造体は、上記反応中または反応後のさらなる加工によって上記基材および生成するポリマー鎖の構造が化学的および物理的に変化していてもよい。
【0145】
<電子素子>
本発明の基材が導電性基材であるものは上述のように電子素子の構成材料ないしは構成素子として有用である。
【0146】
そこで、本発明は、導電性基材と、該導電性基材に結合した前記一般式(VI)で表される構造を有する芳香族ポリマー鎖とを有する構造体を含む電子素子を提供する。
【0147】
本発明の電子素子としては、例えば、電極と有機化合物を構成要素として含むものが挙げられ、具体的には、発光素子、光電変換素子、トランジスタ素子、キャパシタ素子、圧電素子等を挙げることができる。より具体的には有機物の多層構造を有するこれら公知の電子素子の、多層構造の一部を本発明の構造体に置き換える構成を用いることができる。これらの電子素子は、必要に応じて、該構造体に加えて、陽極、陰極、正孔輸送層、電子輸送層、正孔注入層、電子注入層、正孔阻止層、電子阻止層、発光層、バッファ層等の層を有していてもよい。
【0148】
本発明の電子素子の構造は、特に限定されないが、本発明の電子素子の一実施態様は、例えば、インジウムスズ酸化物からなる基材を用いて製造した該構造体上に、電子輸送層、陰極金属を順番に積層するものである。ここで、該構造体又は電子輸送層を構成する材料が、発光する機能を有する部分構造を含んでいる場合には、前記電子素子を発光素子として使用することができる。本発明の電子素子は、発光素子、光電変換素子に用いることができる。これらの素子についても有機物の多層構造を有する公知の発光素子又は光電変換素子の多層構造の一部を本発明の構造体に置き換える構成を用いることができる。
【実施例】
【0149】
以下に、実施例に基づき本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によりその範囲を限定されるものではない。
【0150】
<実施例1>
(i)ブロモ基を有するポリスチレンゲルの合成
4-ブロモスチレン1.00 g (5.46 mmol)に1,4-ジビニルベンゼン36 mg (0.27 mmol) 、2,2'-アゾビス(イソブチロニトリル) 18 mg (0.11 mmol)、トルエン2.0mLを加え、アルゴン雰囲気下で80 ℃で220分間撹拌して室温まで冷却した。得られたゲルを乳鉢ですりつぶしクロロホルムで膨潤させてメタノール150mL中で沈殿させた。得られた沈殿をろ過で回収しメタノールで洗浄して真空乾燥させると白色粉末(a)が 576 mg(収率57%)が得られ、これを基材とした。
【0151】
(ii) ブロモ基を有するポリスチレンゲルへの Pd 錯体導入
(i)で得られた粉末(a)0.20 g (Br 基 1.1 mmol)とPd(P(t-Bu)32 1.12 g (2.2 mmol)をトルエン1.6 mLに加え、70 ℃で3 時間撹拌して室温まで冷却した。生じた沈殿をろ過で回収しトルエンで洗浄して乾燥させ、ソックスレー抽出用のフィルターに移した。テトラヒドロフラン(THF) でソックスレー抽出 (100 ℃) を 2 時間行ない、フィルター上の粉末を可能な限り取り出して真空乾燥することによって180 mgの粉末(b)を得た。
【0152】
(iii)Pd錯体を導入したゲル表面での連鎖重縮合
(ii)で得られた粉末(b)89.7 mgにTHF 4.5 mLと2MのNa2CO3水溶液11.5 mLを加えた後、系をアルゴンガス置換した。これに2-ブロモ-9,9-ジオクチルフルオレン-7-ボロン酸カテコールエステル330.8 mgのTHF(4.5 mL)溶液を加え、室温で2時間20分撹拌した。生じた沈殿をろ過で回収後、THFで洗浄し風乾させた。得られた粉末をクロロホルムで 4 時間(100 ℃) ソックスレー抽出し、基材に結合した芳香族ポリマーと基材とを有する構造体(固体)とした。抽出後の固体を可能な限り回収して真空乾燥(60 ℃)し粉末(c)98.4 mgを得た。
【0153】
<比較例1>
山本重合比較実験
2,7-ジブロモ-9,9-ジオクチルフルオレンを 69 mg (0.12 mmol)、2,2'-ビピリジルを 36 mg (0.23 mmol)と前記粉末(a)20 mgと混ぜ、系をアルゴンガスで置換した後、THF 4.5 mL を加え、60℃で5分間撹拌したところにビス(1,5-シクロオクタジエン)ニッケルを 62 mg (0.22 mmol) 加えた。60 ℃ で 2 時間撹拌した後室温まで冷却し、撹拌しながら 35%塩酸をピペットで 2 滴加えた後、生じた沈殿をろ過で回収した。これをTHFとメタノールと水とで洗浄し風乾させて得られた粉末をクロロホルムで 4 時間(100 ℃) ソックスレー抽出した。抽出後の固体を可能な限り回収して真空乾燥(60℃)して粉末(d)11.9 mgを得た。
【0154】
<参考例1>
・連鎖重縮合によるポリフルオレン
2-ブロモ-9,9-ジオクチルフルオレン-7-ボロン酸カテコールエステル150 mgにTHF 8mLと2M Na2CO3水溶液5mLを加えた後、系をアルゴンガスで置換した。これに((t-Bu)3P)Pd(Ph)Br 6.0 mgのTHF(2 mL)溶液を加え、室温で30分間攪拌した後、油相を分取した。分取した油相に2N塩酸5mLとメタノール20mLを加え、生じた沈殿をろ過し、水およびメタノールで洗浄後、真空乾燥(60 ℃)することにより、波長365nmの紫外線の照射を受けると青く光るポリフルオレン粉末(e)84 mgを得た。
【0155】
このポリマーの分子量をゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)で測定したポリスチレン換算の数平均分子量(Mn)は25000であり、分子量分布(Mw/Mn)は1.8であった。(ここで、MwはGPCで測定したポリスチレン換算の重量平均分子量を示す。)
【0156】
<評価例1>
一回反射ATR装置(Pike MIRacle)を装着した赤外分光装置(日本分光 FT/IR-460Plus)を用いて上記粉末(a)〜(e)のFT−IRスペクトルを測定(積算回数12回)した。そのスペクトルを図1に示す。スペクトルa〜eはそれぞれ粉末(a)〜(e)に対応する。スペクトルa(ブロモ基を有するポリスチレンゲル)では1485cm-1に吸収があることに対してスペクトルe(ポリフルオレン)は1455cm-1に吸収がある。1485cm-1のピーク高さを基準にするとスペクトルcの方がスペクトルdより1455cm-1のピークが高く、スペクトルcの方がスペクトルdより多くのポリフルオレン鎖がゲルに結合していることが示唆される。これは820 cm-1から810 cm-1にピークの変化からも支持される。
【0157】
粉末(a)〜(d)の元素分析(C,H,N:自動分析法;Br:イオンクロマトグラフ法;P,Pd:ICP発光分光法)を行った。粉末(a)〜(d)を構成する単位を想定し、組成比を調整してC,H,N,Br,P,Pdの6種の原子重量組成をシミュレーションして誤差が5%以内に収まったときの単位組成比から、粉末(c)の方が粉末(d)の3.5倍のフルオレンが同量のゲルに結合していることが明らかになった。また、この結果と粉末(a)の表面積(BET法で測定:16.21m2/g)を用いて粉末(c)におけるポリフルオレン鎖の密度を計算すると4.9本/nm2であったことから、非常に高い密度でポリフルオレン鎖が結合していることが明らかになった。
【0158】
このように、本発明の製造方法によれば従来の方法よりも高い効率で基材に芳香族ポリマーを結合させることができる。さらに、先に述べたように連鎖重縮合の性質により、基材に結合しているポリマー鎖の長さは制御されており分子量分布は狭い。
【0159】
<合成例1>(2-(4'-ブロモフェニル)エタンチオールの合成)
【0160】
【化35】

【0161】
(1) (2) (3)
【0162】
【化36】

【0163】
(4)(2-(4'-ブロモフェニル)エタンチオール)
【0164】
・化合物(2)の合成
4-ブロモフェネチルアルコール(化合物(1))15.0g(74.6mmol)、脱水ジクロロメタン350mL、N,N'-ジイソプロピルエチルアミン(DIEA)12.8g(89.5mmol)を混合、室温で30分間攪拌した後、反応混合物をドライアイスーアセトン浴で−20℃に冷却し、メタンスルフォニルクロリド10.25g(89.5mmol)を8分間で滴下した。−20℃で2時間撹拌後、水250mLと1N HCl水溶液100mLの混合物に注ぎ、分液した。有機層を採り、水層をジクロロメタン(DCM)200mLで2回洗浄有機層を集め、飽和重曹水350mLで洗浄後、硫酸マグネシウムで乾燥してから減圧下濃縮して得た白色結晶をヘキサン15mLで3回洗浄し、終夜減圧乾燥して化合物(2)19.6g得た。収率94.1%。NMRによって構造を確認した。
【0165】
・化合物(3)の合成
化合物(2)19.5g(69.9mmol)のDMF696mL溶液に、炭酸セシウム68.3g(209.6mmol)を加え、室温で30分間攪拌した。次に室温でチオ酢酸19.95g(209.6mmol)を5分間で加え、30分間撹拌後、水2800mLに反応混合物を加え、撹拌後、酢酸エチル700mLで3回抽出した。有機層を水560mLで2回、次いで、飽和食塩水280mLで洗浄、硫酸ナトリウムで乾燥し、減圧濃縮して18.5gの褐色オイルを得た。このオイルをカラム精製(シリカゲル250g、酢酸エチル/ヘキサン=5/95)に2回処して、化合物(3)14.3g(微黄色結晶)を得た。収率79.0%。NMRによって構造を確認した。
【0166】
・化合物(4)の合成
反応容器に窒素雰囲気下、水素化リチウムアルミニウム8.08g(213.0mmol)、次いで脱水THF276mLを加えた。氷水浴で冷却し、内温0℃付近で攪拌しながら、化合物(3)13.8g(53.25mmol)の脱水THF552mL溶液を2時間かけて滴下した。滴下終了後氷水浴をはずし、周囲温度で2時間攪拌した後、氷水浴で冷却して、内温2−5℃で精製水276mLを30分間かけて滴下、次いで1N HCl水溶液552mLを加えた。酢酸エチル414mLで3回抽出し、あわせた有機層を飽和食塩水138mLで洗浄後、減圧濃縮した。得られた残渣13.5gをカラム精製(シリカゲル550g、ヘキサン、2回)して、化合物(4)(2-(4'-ブロモフェニル)エタンチオール)9.11gを得た。収率78.8%。NMRによって構造を確認した。
【0167】
<実施例2>
(i)金電極担持2-(4'-ブロモフェニル)エタンチオールの合成
金を電極として蒸着させたガラス板をオゾンガスに2分間暴露させることにより、金電極表面の付着物を取り除いた。この金電極を、上記合成例1で得られた2-(4'-ブロモフェニル)エタンチオール23mg(0.11mmol)のエタノール26.5mL溶液に浸し、1日静置した後に引き上げ、エタノールで洗浄し、乾燥窒素ガスを吹きかけて乾燥させた。こうして処理した金電極表面には、その結合形態は完全には明らかではないが、式:-S-CH2CH2-(C6H4)-Brで表される基が結合している。
【0168】
(ii)金電極担持2-(4'-ブロモフェニル)エタンチオールへのPd錯体導入
(i)で得られた金電極とPd(P(t-Bu)3)247.6mg(0.093mmol)にグローブボックス中でトルエン6.1mLを加え、70℃で2時間撹拌して室温まで冷却した。グローブボックス中で金電極をとり出し、トルエン4mLで5回洗浄して乾燥させた。こうして処理した金電極表面には、その結合形態は完全には明らかではないが、式:-S-CH2CH2-(C6H4)-PdBr(Pt-Bu3)で表される基が結合している。
【0169】
(iii)Pd錯体を導入した金電極での連鎖重縮合
グローブボックス中、2-ブロモ-9,9-ジオクチルフルオレン-7-ボロン酸カテコールエステル221.6mg、THF15mLを混合し、2MのNa2CO3水溶液7.5mLを加えて(ii)で得られた金電極を浸して室温で5時間30分撹拌した。金電極をとり出し、クロロホルム4mLで3回、メタノール4mLで3回、蒸留水4mLで3回、メタノール4mLで3回、クロロホルム4mLで3回の順で洗浄して乾燥させた。得られた電極に波長が365nmの紫外線を照射すると青く光った。したがって、金電極表面に結合した状態でポリフルオレン鎖が生成していることが確認された。
【0170】
<実施例3>
(i) 金電極担持p-ブロモベンゼンチオールの合成
金を電極として蒸着させたガラス板をオゾンガスに1分間暴露させることにより、金電極表面の付着物を取り除いた。この金電極を、p-ブロモベンゼンチオールのエタノール溶液 (4 mM) に浸漬し、1日静置した後に引き上げてエタノールで洗浄し、乾燥窒素ガスを吹きかけて乾燥させた。こうして処理した金電極 (基材(1)とする) 表面には、その結合形態は完全には明らかではないが、式:-S-(C6H4)-Brで表される基が結合している。
【0171】
(ii) 金電極担持p-ブロモベンゼンチオールへのPd錯体導入
グローブボックス中、基材(1)をPd(P(t-Bu)3)2のトルエン溶液 (15 mM) に浸漬し、70℃で2時間撹拌して室温まで冷却した。グローブボックス中で金電極をとり出してトルエンに浸漬し、引き上げてからトルエンをかけ流す洗浄を2回繰り返し、窒素ガスを吹きつけて電極を乾燥させた。こうして処理した金電極 (基材(2)とする) 表面には、その結合形態は完全には明らかではないが、式:-S-(C6H4)-PdBr(Pt-Bu3)で表される基が結合している。
【0172】
(iii) Pd錯体を導入した金電極の連鎖重縮合
グローブボックス中、2-ブロモ-9,9-ジオクチルフルオレン-7-ボロン酸カテコールエステル 219.8 mg (0.374 mmol)、THF 15 mL を混合し、2M Na2CO3水溶液7.5mLを加え、基材(2)を浸して室温で5時間30分撹拌した。金電極をとり出し、トルエン、蒸留水、メタノールで十分に洗浄し窒素ガスを噴きつけ乾燥させた。得られた電極に波長が365nmの紫外線を照射すると青く光った。したがって、金電極表面に結合した状態でポリフルオレン鎖が生成していることが確認された。一方、重合溶液をメタノール(ポリフルオレンの貧溶媒)に滴下しても沈殿は起こらす、生成したポリマーは全て金電極表面に結合していることが確認された。これは無駄なモノマーの消費が起こらなかったことを示す。
【0173】
<合成例2>
2-ブロモ-9,9-ジオクチルフルオレン-7-ボロン酸ピナコールエステルの合成法
不活性ガス雰囲気下、反応容器に2,7-ジブロモ-9,9-ジオクチルフルオレン 184.6 g (0.337 mol)、t-ブチルメチルエーテル 2310 mL を加え、-70℃にてn-ブチルリチウムの 1.6 M ヘキサン溶液を滴下し、0℃に昇温後-65℃まで再冷却した。次いで、-60℃以下にてイソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン 68.89 g (0.370 mol) を滴下し、同温度にて1時間攪拌し、室温にて1時間攪拌した。次いで、-20℃にて蒸留水 460 mL を添加し、撹拌後に有機層から水層を除去した。有機層に飽和食塩水 650 mL を加え攪拌し有機層から水層を除去する操作を2回繰り返し、得られた有機層を無水硫酸マグネシウムにて乾燥し、溶媒を留去した。次いで、ヘキサンと酢酸エチルを展開溶媒としシリカゲルカラムクロマトグラフィーを行い、溶媒留去、減圧乾燥することにより白色固体を 115 g 得た。得られた生成物のH NMRの測定結果は次の通りであった。
【0174】
H NMR (CDCl3,299.4 MHz,rt) : d 0.56 (br,4H), 0.82 (t,6H),0.93 ‐ 1.28 (m,20H), 1.38 (s,12H),1.78 ‐ 2.13 (m,4H),7.39 ‐ 7.49 (m,2H),7.52 ‐ 7.60 (m,1H),7.62 ‐ 7.68 (m,1H),7.69 ‐ 7.74 (m,1H),7.76 ‐ 7.85 (m,1H)
【0175】
<実施例4>
・Pd錯体を導入した金電極の連鎖重縮合
グローブボックス中、2-ブロモ-9,9-ジオクチルフルオレン-7-ボロン酸ピナコールエステル 148.7 mg (0.250 mmol)、THF 10 mL を混合し、2M Na2CO3水溶液 5.0 mL を加え、基材(2)を浸して室温で5時間30分撹拌した。金電極をとり出し、トルエン、蒸留水、メタノールで十分に洗浄し窒素ガスを噴きつけ乾燥させた。得られた電極に波長が365nmの紫外線を照射すると青く光った。したがって、金電極表面に結合した状態でポリフルオレン鎖が生成していることが確認された。一方、重合溶液をメタノール(ポリフルオレンの貧溶媒)に滴下しても沈殿は起こらず、生成したポリマーは全て金電極表面に結合していることが確認された。これは無駄なモノマーの消費が起こらなかったことを示す。
【0176】
<合成例3>
p-ヨードベンゼンチオールの合成
不活性ガス雰囲気下、p-ヨードベンゼンスルフォニルクロリド 46.0 g (152 mmol)、酢酸 460 mL、亜鉛 68.1 g (1.22 mmol) を混合して還流下6時間撹拌した。一晩放置後、反応混合物を飽和塩化アンモニウム水溶液と蒸留水の混合物に加え、撹拌してろ過した。ろ上物をt-ブチルメチルエーテルで洗浄し、ろ液と洗液を混合してt-ブチルメチルエーテルで2回抽出した。有機層を飽和食塩水で洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥して濃縮した。濃縮液をシリカゲルカラムクロマトグラフィーで展開し、t-ブチルメチルエーテルで溶出させた。溶出液の溶媒を留去し、t-ブチルメチルエーテルとヘキサンから再結晶することでp-ヨードベンゼンチオール 5.6 g を得た。
【0177】
反応終了後にろ別した沈殿 42 g に 1,4-ジオキサン 840 mL、I2 39.6 g (156 mmol)、PPh3 409 g (1.56 mol) を加え、5時間撹拌還流した。室温に冷却してt-ブチルメチルエーテルと蒸留水を加えて撹拌し、有機層から水層を除去した。有機層に飽和食塩水を加え攪拌し有機層から水層を除去し、得られた有機層を無水硫酸ナトリウムにて乾燥し、溶媒を留去した。次いで、ヘキサンを展開溶媒としシリカゲルクロマトグラフィーを行い、溶媒を留去した。得られた固体にヘキサンを加え抽出し、抽出液を濃縮して上澄み液を回収し、溶媒留去、減圧乾燥することにより白色固体を 8.03 g 得た。
【0178】
<実施例5>
(i)金電極担持p-ヨードベンゼンチオールの合成
金を電極として蒸着させたガラス板をオゾンガスに1分間暴露させることにより、金電極表面の付着物を取り除いた。この金電極を、p-ヨードベンゼンチオールのエタノール溶液 (4 mM) に浸漬し、1日静置した後に引き上げてエタノールで洗浄し、乾燥窒素ガスを吹きかけて乾燥させた。こうして処理した金電極 (基材(3)とする) 表面には、その結合形態は完全には明らかではないが、式:-S-(C6H4)-Iで表される基が結合している。
【0179】
(ii) 金電極担持p-ヨードベンゼンチオールへのPd錯体導入
グローブボックス中、基材(3)をPd(P(t-Bu)3)2のトルエン溶液 (15 mM) に浸漬し、70℃で2時間撹拌して室温まで冷却した。グローブボックス中で金電極をとり出してトルエンに浸漬し、引き上げてからトルエンをかけ流す洗浄を2回繰り返し、窒素ガスを吹きつけて電極を乾燥させた。こうして処理した金電極 (基材(4)とする) 表面には、その結合形態は完全には明らかではないが、式:-S-(C6H4)-PdI(Pt-Bu3)で表される基が結合している。
【0180】
(iii)Pd錯体を導入した金電極の連鎖重縮合
グローブボックス中、2-ブロモ-9,9-ジオクチルフルオレン-7-ボロン酸ピナコールエステル 149.6 mg (0.251 mmol)、THF 10 mL を混合し、2M Na2CO3水溶液 5.0 mL を加え、基材(4)を浸して室温で5時間30分撹拌した。金電極をとり出し、トルエン、蒸留水、メタノールで十分に洗浄し窒素ガスを噴きつけ乾燥させた。得られた電極に波長が365nmの紫外線を照射すると青く光った。したがって、金電極表面に結合した状態でポリフルオレン鎖が生成していることが確認された。膜厚を触針式の膜厚計 (ビーコ社製DEKTAK) で測定したところ 20 nm 〜 100 nm であった。一方、重合溶液をメタノール(ポリフルオレンの貧溶媒)に滴下しても沈殿は起こらす、生成したポリマーは全て金電極表面に結合していることが確認された。これは無駄なモノマーの消費が起こらなかったことを示す。
【0181】
<合成例4>
・4-ブロモ-2-ヘキシルオキシフェニルボロン酸ピナコールエステルの合成
不活性ガス雰囲気下、200mL四つ口フラスコに1,4-ジブロモ-2-ヘキシルオキシベンゼン 2.0 g (6.0 mmol) を脱水処理したt-ブチルメチルエーテル 60 mL に溶解させ、-70℃まで冷却した。次いで、1.6 M のn-ブチルリチウムのヘキサン溶液を-70℃で6分かけて滴下し、-70℃で2時間攪拌した。次いで、2-イソプロポキシ-4,4,5,5-テトラメチル-1,3,2-ジオキサボロラン 1.5 mL を-70℃にて1分かけて滴下し、攪拌しながら1時間15分かけて室温まで昇温し、10時間攪拌を続けた。次いで、0℃で蒸留水 30 mL を加え、室温まで昇温した後30分攪拌を行い、酢酸エチルを加えて攪拌した後、有機層を水層と分離した。該有機層を濃縮し-5℃で一晩静置し固体 2.3 g を得た。得られた固体のうち、1.1 g を40℃でメタノール 2 mL に溶解させ、室温まで冷却して結晶を析出させた。得られた結晶を濾過、乾燥することにより、目的物を 0.5 g 得た。
GC-MS : [M+] = 382
【0182】
<実施例6>
・Pd錯体を導入した金電極の連鎖重縮合
グローブボックス中、4-ブロモ-2-ヘキシルオキシフェニルボロン酸ピナコールエステル 96.7 mg (0.252 mmol)、THF 10 mL を混合し、2M Na2CO3水溶液 5.0 mL を加え、基材(4)を浸して室温で4時間撹拌した。金電極をとり出し、トルエン、蒸留水、メタノールで十分に洗浄し窒素ガスを噴きつけ乾燥させた。得られた電極に波長が365nmの紫外線を照射すると青く光った。したがって、金電極表面に結合した状態でポリフルオレン鎖が生成していることが確認された。一方、重合溶液をメタノール(ポリフルオレンの貧溶媒)に滴下しても沈殿は起こらす、生成したポリマーは全て金電極表面に結合していることが確認された。これは無駄なモノマーの消費が起こらなかったことを示す。
【0183】
<比較例2>
・フルオレンポリマーのスピンコート膜
不活性ガス雰囲気下、2-ブロモ-9,9-ジオクチルフルオレン-7-ボロン酸ピナコールエステル149 mg (0.25mmol) とTHF 38 mL を混合して溶液とし、2M Na2CO3 水溶液 5 mL を加えた。別途、(t-Bu3P)Pd(Ph)Br (J. Am. Chem. Soc. 2004, 126, 1184-1194) 5.8mg(0.025mmol, 5mol%) をTHF 2 mL に溶解させた黄色溶液を不活性ガス雰囲気下で、上記モノマー溶液中へ一括仕込みし室温で3時間20分撹拌した。室温にて水層を除去した後、得られた有機層のうち 14.9 g に2規定塩酸 20 mLを加えて撹拌し、この混合物をメタノール 40 mL 中に滴下した。析出したポリマーをろ取し、蒸留水、メタノールで洗浄、減圧乾燥することで黄色の粉末としてポリマーを得た。得られたポリマー 2 mg をトルエン 1.9 g に溶解させ、金を電極として蒸着させたガラス板上にスピンコートにて回転速度2500rpmで5秒、3500rpmで15秒とし成膜した。
【0184】
<評価例2 発光スペクトル>
実施例1で得られた粉末(c)及び実施例2〜6で得られた電極のおのおのに対し波長350nmの励起光を照射して、得られた発光スペクトルを測定した。その結果を図2に示す。実施例2の曲線(○のプロット)と実施例3の曲線(×のプロット)とは区別できない状態で重なって得られた。
【0185】
これらの結果から明らかに原料に対応する芳香族ポリマーが基材に結合した状態で生成していることが確認できる。
【0186】
<実施例7>
・Pd錯体を導入した金電極の連鎖重縮合
グローブボックス中、5-ブロモピリジン-3-ボロン酸ピナコールエステル(アルドリッチ) 71.0 mg (0.25 mmol)、THF 10 mL を混合し、2M Na2CO3水溶液 5.0 mL を加え、基材(2)を浸して室温で4時間10分撹拌した。金電極をとり出し、トルエン、蒸留水、メタノールで十分に洗浄し窒素ガスを吹き付け乾燥させた。得られた電極の UV スペクトルを未処理金電極をリファレンスに使用したダブルビームで積分球を使用し測定すると、360 nm に極大をもつ吸収が 300 nm から 600 nm までの領域に観測された。したがって、金電極表面に結合した状態でポリピリジン鎖が生成していることが確認された。
【0187】
<参考例2>
・低分子モデル反応
(i) 金粒子担持p-ブロモベンゼンチオールの合成
金粒子をオゾンガスに1分間暴露させることにより、表面の付着物を取り除いた。この金粒子を、p-ブロモベンゼンチオールのエタノール溶液 (4 mM) に浸漬し、1日静置した後にろ過で回収してエタノールで洗浄し、乾燥窒素ガスを吹きかけて乾燥させた。こうして処理した金粒子 (金粒子(1)とする) 表面には、その結合形態は完全には明らかではないが、式:-S-(C6H4)-Brで表される基が結合している。
【0188】
(ii)金粒子担持p-ブロモベンゼンチオールへのPd錯体導入
グローブボックス中、金粒子(1)をPd(P(t-Bu)3)2のトルエン溶液 (15 mM) に浸漬し、70℃で2時間撹拌して室温まで冷却した。反応容器をグローブボックス中で静置して上澄み液を取り除き、ここにトルエンを加えて再度上澄み液を取り除く操作を繰り返した。次いで金粒子をろ過で回収してトルエンで十分に洗浄し、窒素ガスを吹きつけて金粒子を乾燥させた。こうして処理した金粒子 (金粒子(2)とする) 表面には、その結合形態は完全には明らかではないが、式:-S-(C6H4)-PdBr(Pt-Bu3)で表される基が結合している。
【0189】
(iii) Pd錯体を導入した金粒子の連鎖重縮合
グローブボックス中で調製したベンゼンボロン酸カテコールエステル 51.6 mg (0.25 mmol)とTHF 10 mL の溶液を、金粒子(2)に加えた。次いで、2M Na2CO3水溶液5.0mLを加え室温で3時間40分撹拌した。金粒子をろ過で回収し、トルエン、蒸留水、メタノールで十分に洗浄し窒素ガスを噴きつけ乾燥させた(金粒子(3)とする)。
【0190】
(iv) 金粒子結合物の脱離操作
金粒子(3)にクロロホルムを加え80℃で6時間10分還流し、金粒子をろ別して抽出液を濃縮すると白色固体が痕跡量得られた。LC-MS (APPI / posi) を測定すると m/z = 370 (M+) が観測され、該白色固体には(C6H5)-(C6H4)-S-S(C6H4)-(C6H5) が含まれることが示された。観測された化合物は、金粒子表面に存在した -SC6H4C6H5 が加熱処理により二量化したものである。このことから、金粒子表面に結合した-S-(C6H4)-BrにPd錯体が導入され、縮合反応が進行していることが明らかとなった。
【0191】
<実施例8>
(i) Pd錯体を導入した金粒子の連鎖重縮合
グローブボックス中で調製した2−ブロモ−9,9−ジオクチルフルオレン−7−ボロン酸ピナコールエステル147.8mg(0.248mmol)とTHF10mLの溶液を、参考例2の(ii)で得られた金粒子(2)に加えた。次いで、2M NaCO水溶液5.0mLを加え室温で2時間撹拌した。金粒子をろ過で回収し、トルエン、蒸留水、メタノールで十分に洗浄し窒素ガスを噴きつけ乾燥させた(金粒子(4)とする)。金粒子(4)に波長が365nmの紫外線を照射すると青く光った。したがって、金粒子に結合した状態でポリフルオレン鎖が生成していることが確認された。一方、ろ液をメタノール(ポリフルオレンの貧溶媒)に滴下しても沈殿は起こらず、生成したポリマーは全て金粒子表面に結合していることが確認された。これは無駄なモノマー消費が起こらなかったことを示す。
【0192】
(ii) 金粒子結合物の脱離操作
金粒子(4)にクロロホルムを加え80℃で12時間還流し、金粒子をろ別して抽出液を濃縮すると黄色固体が痕跡量得られた。サイズ排除クロマトグラフィーで該固体を測定すると、該固体はポリスチレン換算で4,170,000から3,800の分子量の分布を持ち、数平均分子量が90,000(数平均重合度に換算すると231)であった。
【産業上の利用可能性】
【0193】
基材が例えば電極である場合は、電極に結合している芳香族ポリマーの結合部からポリマー主鎖に沿って効率よく電気を流すことが可能であるため、電気的に優れた特性を示す。そこで、導電材料、光電変換材料、発光材料、電池用材料、電子部品材料などの先端機能材料に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0194】
【図1】実施例1および比較例1で得られた粉末(a)〜(e)のFT−IRスペクトルを示す。
【図2】実施例1で得られた粉末(c)及び実施例2〜6で得られた電極のおのおのに対し波長350nmの励起光を照射して得られた発光スペクトルを示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、該基材に結合した芳香族ポリマーとを有する構造体の製造方法にして、
下記の一般式(I)で表される芳香族化合物を溶媒中で重合触媒と下記の一般式(II)で表される基を有する基材の存在下で重縮合することを含む上記構造体の製造方法。
【化1】


〔式中、Arは芳香環からなる二価の基であり、
Xはハロゲン原子、ニトロ基または−SO3Q(ここにQは置換もしくは非置換の炭化水素基を表す)で示される一価の基であり、
Yは酸素原子、硫黄原子、イミノ基、置換イミノ基、エテニレン基、置換エテニレン基またはエチニレン基であり、
nは0または1であり、
Mは、水素原子、−B(OQ1)2(ここに二つのQ1は独立に水素原子または炭化水素基であるか、あるいは結合して一緒に環を形成する)、−Si(Q2)3(ここにQ2は炭化水素基である)、−Sn(Q3)3(ここにQ3は炭化水素基である)、または−Z1(Z2)(ここにZ1は金属原子または金属イオンであり、Z2はカウンターアニオンであり、mは0以上の整数である)である。〕
【化2】


〔式中、Arは芳香環からなる価数p+1の基であり、Xaはハロゲン原子または−SO3a(ここにQaは置換もしくは非置換の炭化水素基を表す)で示される一価の基であり、pは1以上の整数であり、pが2以上の整数である場合には存在する複数のXは同一または異なる。〕
【請求項2】
前記重合触媒がパラジウム錯体である請求項1に係る構造体の製造方法。
【請求項3】
前記一般式(II)で表される基を有する基材が、前記一般式(II)で表される基と官能基とを有するカップリング剤と、基材とを反応させることにより製造されたものである請求項1又は2に係る構造体の製造方法。
【請求項4】
前記一般式(II)で表される基と官能基とを有するカップリング剤が、チオール系カップリング剤及びシランカップリング剤からなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項3に係る構造体。
【請求項5】
前記パラジウム錯体が下記の一般式(III)で表されるホスフィン化合物を配位子として含む請求項2に係る構造体の製造方法。
P(R1)3 (III)
(式中、3つのR1は同一または異なり、下記の一般式(IV)で表される基または下記の一般式(V)で表される基であり、但し3つのR1のうち少なくとも一つは一般式(IV)で表される基である。)
−C(R2)3 (IV)
(式中、3つのR2は同一または異なり、水素原子または置換もしくは非置換の炭化水素基であり、
但し、2つ以上のR2が水素原子であることはなく、また、3つのR2のうちの2つのR2が結合して一緒に環を形成してもよい。)
【化3】

(式中、R3〜R7は独立に水素原子、置換もしくは非置換の炭化水素基、置換もしくは非置換の炭化水素オキシ基、置換もしくは非置換の炭化水素二置換アミノ基、置換もしくは非置換の炭化水素メルカプト基、置換もしくは非置換の炭化水素カルボニル基、置換もしくは非置換の炭化水素オキシカルボニル基、置換もしくは非置換の炭化水素二置換アミノカルボニル基または置換もしくは非置換の炭化水素スルホニル基であり、R3およびR4のうち少なくとも1つは水素原子以外の基であり、R3とR5、R5とR7、R4とR6、およびR6とR7の組合わせのうちの少なくとも1つの組合わせにおいて当該二つの基は結合して一緒に環を形成してもよい。)
【請求項6】
一般式(V)におけるR3〜R7が独立に水素原子または置換もしくは非置換の炭化水素基である請求項5に係る構造体の製造方法。
【請求項7】
前記の芳香族化合物が一般式(I)〔但し、式中、Mは−B(OQ1)2(ここに二つのQ1は独立に水素原子または炭化水素基であるか、あるいは結合して一緒に環を形成する)であり、Ar、X、Y、及びnは前記の通りである〕で表される化合物であり、
前記重合触媒が請求項5に記載の一般式(III)で表されるホスフィン化合物を配位子として有するパラジウム錯体であり、
前記重縮合を塩基の存在下で鈴木カップリングにより行う、
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に係る構造体の製造方法。
【請求項8】
前記Arで表される芳香環からなる二価の基が、単環式芳香環、縮合多環式芳香環、芳香環集合、又は有橋多環式芳香環から環構成元素に結合した水素原子を2個取り除いてなる基である請求項1〜7のいずれか一項に係る構造体の製造方法。
【請求項9】
前記Arで表される芳香環からなる二価の基が、有橋多環式芳香環から環構成元素に結合した水素原子を2個取り除いてなる基である請求項8に係る構造体の製造方法。
【請求項10】
前記有橋多環式芳香環から環構成元素に結合した水素原子を2個取り除いてなる基が、フルオレンジイル基である請求項9に係る構造体の製造方法。
【請求項11】
前記Arで表される芳香環からなる二価の基が、単環式芳香環から環構成元素に結合した水素原子を2個取り除いてなる基である請求項8に係る構造体の製造方法。
【請求項12】
前記単環式芳香環から環構成元素に結合した水素原子を2個取り除いてなる基が、フェニレン基である請求項11に係る構造体の製造方法。
【請求項13】
前記単環式芳香環から環構成元素に結合した水素原子を2個取り除いてなる基が、ピリジンジイル基である請求項11に係る構造体の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれか1項に記載の製造方法により得られる、基材と、該基材に結合した芳香族ポリマーとを有する構造体。
【請求項15】
導電性基材と、該導電性基材に結合した下記一般式(VI)で表される構造を有する芳香族ポリマー鎖とを有する構造体。
【化4】

(式中、Ar、Ar、X及びpは請求項1において定義の通りであり、iは繰り返し構造Arの数平均重合度である。)
【請求項16】
前記Arで表される芳香環からなる二価の基が、単環式芳香環、縮合多環式芳香環、芳香環集合、又は有橋多環式芳香環から環構成元素に結合した水素原子を2個取り除いてなる基である請求項15に係る構造体。
【請求項17】
前記Arで表される芳香環からなる二価の基が、有橋多環式芳香環から環構成元素に結合した水素原子を2個取り除いてなる基である請求項16に係る構造体。
【請求項18】
前記有橋多環式芳香環から環構成元素に結合した水素原子を2個取り除いてなる基が、フルオレンジイル基である請求項17に係る構造体。
【請求項19】
前記Arで表される芳香環からなる二価の基が、単環式芳香環から環構成元素に結合した水素原子を2個取り除いてなる基である請求項16に係る構造体。
【請求項20】
前記単環式芳香環から環構成元素に結合した水素原子を2個取り除いてなる基が、フェニレン基である請求項19に係る構造体。
【請求項21】
前記単環式芳香環から環構成元素に結合した水素原子を2個取り除いてなる基が、ピリジンジイル基である請求項19に係る構造体。
【請求項22】
前記導電性基材が卑金属、貴金属または酸化物を含む材料からなる請求項15〜21のいずれか1項に係る構造体。
【請求項23】
前記の芳香族ポリマー鎖の最長のものと最短のものとの中間値が、0.1nm〜10cmの範囲にある請求項15〜22のいずれか1項に係る構造体。
【請求項24】
請求項15〜23のいずれか1項に記載の構造体を含む電子素子。
【請求項25】
発光素子である請求項24に係る電子素子。
【請求項26】
光電変換素子である請求項24に係る電子素子。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−19186(P2009−19186A)
【公開日】平成21年1月29日(2009.1.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20188(P2008−20188)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(592218300)学校法人神奈川大学 (243)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】