説明

基材の被膜形成方法および装置

【課題】ガスバリア性や耐化学特性などの機能に優れた被膜を、安価に大面積の基材に対して形成可能であり、とくに凹凸のある立体形状の基材に対しても適用可能な被膜形成方法および装置を提供する。
【解決手段】噴出口から基材に向けて噴出させた不活性ガスに、高周波電圧を常圧下で印加して、不活性ガスをプラズマ化させることにより発生させたプラズマ化不活性ガスに対し、プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する方向に反応ガスを供給して該反応ガスとプラズマ化不活性ガスを合流させることにより、反応ガスの少なくとも一部がプラズマ化されてなるプラズマ化反応ガスを発生させ、該プラズマ化反応ガスを、プラズマ化不活性ガスとともに基材に向けて吹き付けることにより、基材表面に、非晶質素材からなる被膜を形成することを特徴とする基材の被膜形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばプラスチック製品にガスバリア性や耐化学特性などの機能を付与するために、非晶質素材からなる均一被膜を基材表面に形成するための基材の被膜形成方法および装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、プラスチック製品(フィルム、シート)のガスバリア性を改善するために、基材を無機物薄膜や炭素膜で被覆する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
DLC(ダイアモンド状炭素系素材)のコーティング技術は、ガスバリア性、表面保護特性を改善する技術として知られている。プラスチック製品にDLC薄膜をコーティングするにあたっては、真空中(数Pa〜数10Pa)中での低温プラズマによるCVD(化学蒸着)コーティング、イオン化蒸着、アークイオンプレーティング、スパッタリング等を行う必要がある。この理由は、高い電子温度であっても電子密度を下げることによってプラズマの温度を高温にならないようにして基材の温度劣化を防ぐためであり、一般的な大気圧付近での熱プラズマでは、プラスチックが分解、変形してしまうためである、例えば、PET(ポリエチレンテレフタレート)の熱変形温度は80℃程度である。
【0004】
しかし真空プロセスは、真空設備を形成するための消費電力が大きく、起動にも時間がかかるという問題を有しており、また、作業を狭いチャンバー内で行う必要があるため、真空プロセスを採用するにあたっての制約が大きい。また、真空プラズマCVD法では、プラズマ密度が小さいため、その成膜速度は遅く、所望の厚さの被膜を形成するためには時間がかかるので、高価な電子部品、機能材料にしか適用することができない。
【0005】
また、プラスチックにもコーティング可能な低温プラズマを発生することが可能な非平衡プラズマ(電子温度は高いが、イオンは低温に保たれているプラズマ)を、大気圧下で形成する技術の提案がされている(特許文献2、3)。このような技術は、安定的にグロー放電を維持するため、アーク放電やストリーマ放電を生じないように、雰囲気ガスとして不活性ガスを用い、数kHz以上の高周波電界をかけることによって、大気圧下、非平衡状態の低温プラズマを発生させ、反応ガスをプラズマ化して、CVD処理を行うものである。このようなCVD処理においては、平板状の対向電極間にプラズマを発生させるのが一般的であった。
【0006】
また、平板状の電極間に所定の流速で流入させた反応ガスをプラズマ化してプラズマを発生させ、プラズマ化した反応ガスの流速を利用して、電極間からプラズマ化反応ガスを吹き出させる、いわゆるリモート式プラズマCVD装置が提案されている(特許文献4、5)。しかし、大面積の基材表面に対して、ガスバリア性の高い被膜を形成させることは困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第3176558号公報
【特許文献2】特開2000−26632号公報
【特許文献3】特開平11−12735号公報
【特許文献4】特開2007−327089号公報
【特許文献5】特開2003−3266号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の常圧低温プラズマCVD法では、大面積の基材(例えば、幅30cm以上のシート状の基材)に均一にDLC被膜を形成することは困難であった。すなわち、形成されたDLC被膜は、膜厚が均一ではなく、その結果、ガスバリア性の位置によるばらつきも大きかった。
【0009】
また、平面形状の基材に対してDLC被膜を形成することは比較的容易であったが、凹凸が大きい立体形状の基材に対しては、均一にDLC被膜を形成することが困難であった。
【0010】
そこで本発明の課題は、このような現状に鑑み、ガスバリア性や耐化学特性などの機能に優れた被膜を、安価に大面積の基材に対して形成可能であり、とくに凹凸のある立体形状の基材に対しても適用可能な被膜形成方法および装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明に係る基材の被膜形成方法は、噴出口から基材に向けて噴出させた不活性ガスに、高周波電圧を常圧下で印加して、前記不活性ガスをプラズマ化させることにより発生させたプラズマ化不活性ガスに対し、前記プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する方向に反応ガスを供給して該反応ガスと前記プラズマ化不活性ガスを合流させることにより、前記反応ガスの少なくとも一部がプラズマ化されてなるプラズマ化反応ガスを発生させ、該プラズマ化反応ガスを、前記プラズマ化不活性ガスとともに前記基材に向けて吹き付けることにより、前記基材の基材表面に、非晶質炭素系素材からなる被膜を形成することを特徴とする方法からなる。ここで、常圧とは、大気圧若しくは近傍の圧力をいい、具体的には、絶対圧として5〜200kPaの圧力範囲を指すものとする。すなわち、常圧とは、一般的なロータリーポンプやコンプレッサを用いることによって、簡便かつ迅速に(数秒で)で大気圧から減圧若しくは加圧ができる圧力範囲をいう。また、プラズマ化とは、ガスが励起した状態をいい、電子が解離、イオン化された状態の分子、若しくは、電子が高エネルギー状態に遷移してラジカル化された分子を含むガスの状態をいう。
【0012】
上記非晶質炭素系素材の具体例としては、代表的にはDLC(ダイアモンド状炭素系素材)などが挙げられる。また、反応ガスの全部がプラズマ化(電離)している必要はなく、部分的にプラズマ化(電離)していればよい。このような本発明の基材の被膜形成方法によれば、噴出口から基材に向けて噴出された不活性ガスが、高周波電圧の印加によりプラズマ化されてプラズマ化不活性ガスとなり、該プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する方向に供給された反応ガスの少なくとも一部をプラズマ化してプラズマ化反応ガスを発生させ、該プラズマ化反応ガスとともに基材に向けて吹き付けられるので、平面形状や、基材表面に凹凸のある立体形状からなる基材に対しても、常圧低温プラズマCVD法によるリモート処理が可能である。
【0013】
本発明に係る基材の被膜形成方法において、前記不活性ガスは、希ガスまたは窒素ガスからなることが好ましい。また、前記反応ガスは炭化水素含有ガスからなることが好ましく、とくにアセチレン含有ガスからなることが好ましい。アセチレンは、分子中の炭素比率が炭化水素ガスの中でも高く、被膜形成速度が高いため、反応ガスにアセチレンが含有されることにより、被膜形成効率の向上が可能となる。なお、炭化水素含有ガスとして、炭化水素蒸気を用いることもできる。さらに、炭化水素含有ガスを、例えばアセチレンとヘリウムの混合ガスとすることもできる。
【0014】
本発明に係る基材の被膜形成方法において、前記反応ガスを、前記プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する少なくとも2つの方向に供給して、前記反応ガスと前記プラズマ化不活性ガスを合流させることが好ましい。例えば、反応ガスを、プラズマ化不活性ガスと交差する2つのガス流に分け、これらのガス流を、互いに衝突し合う方向に供給することができる。このように、反応ガスを、プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する複数の方向に供給することにより、プラズマ化不活性ガスと反応ガスの混合状態が向上し、プラズマ化反応ガスの発生が確実に行われる。
【0015】
また、本発明に係る基材の被膜形成方法において、前記反応ガスを、前記プラズマ化不活性ガスの噴射方向と垂直に交差する方向に供給して、前記反応ガスと前記プラズマ化不活性ガスを合流させることが好ましい。このように、反応ガスがプラズマ化不活性ガスの噴射方向と垂直に交差する方向に、反応ガスを供給することにより、反応ガス供給点においてプラズマ化されずに残留した一部の反応ガスが、より基材側においてプラズマ化不活性ガスと合流し、あるいはプラズマ化されずに基材表面と接触することが防止されるので、被膜形成の処理がより安定化するようになる。
【0016】
また、上記課題を解決するために、本発明に係る基材の被膜形成装置は、不活性ガスが導入され、前記不活性ガスを基材に向けて噴出させる噴出手段と、該噴出手段から噴出された前記不活性ガスに高周波電圧を印加してプラズマ化させることにより、プラズマ化不活性ガスを発生させる高周波電圧印加手段と、反応ガスが導入され、前記プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する方向に前記反応ガスを供給して、該反応ガスと前記プラズマ化不活性ガスを合流させる合流手段とを備えていることを特徴とするものからなる。
【0017】
上記非晶質炭素系素材の具体例としては、代表的にはDLC(ダイアモンド状炭素系素材)などが挙げられる。また、反応ガスの全部がプラズマ化(電離)している必要はなく、部分的にプラズマ化(電離)していればよい。このような本発明の基材の被膜形成装置によれば、基材に向けて噴出された不活性ガスが、高周波電圧の印加によりプラズマ化されてプラズマ化不活性ガスとなり、該プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する方向に反応ガスが供給されるので、反応ガスの少なくとも一部は、プラズマ化不活性ガスとの合流によりプラズマ化してプラズマ化反応ガスとなり、そのままプラズマ化不活性ガスのガス流れに乗って基材に向けて吹き付けられる。このようにして、常圧低温プラズマCVD法によるリモート処理が実現され、平面形状や、基材表面に凹凸のある立体形状からなる基材に対しても、均一被膜を形成することが可能となる。
【0018】
本発明に係る基材の被膜形成装置において、前記不活性ガスは、希ガスまたは窒素ガスからなることが好ましい。また、前記反応ガスが炭化水素含有ガスからなることが好ましく、とくにアセチレン含有ガスからなることが好ましい。アセチレンは、分子中の炭素比率が炭化水素ガスの中でも高く、被膜形成速度が高いため、反応ガスにアセチレンが含有されることにより、被膜形成効率の向上が可能となる。なお、炭化水素含有ガスとして、トルエン、ヘキセン等の炭化水素蒸気を用いることもできる。さらに、炭化水素含有ガスを、例えばアセチレンとヘリウムの混合ガスとすることもできる。
【0019】
本発明に係る基材の被膜形成装置において、前記合流手段が、前記反応ガスを、前記プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する少なくとも2つの方向に供給して、前記反応ガスと前記プラズマ化不活性ガスを合流させるものであることが好ましい。例えば、反応ガスを、プラズマ化不活性ガスと交差する2つのガス流に分け、これらのガス流を、互いに衝突し合う方向に供給することができる。このように、反応ガスを、プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する複数の方向に供給することにより、プラズマ化不活性ガスと反応ガスの混合状態が向上し、プラズマ化反応ガスの発生が確実に行われる。
【0020】
また、本発明に係る基材の被膜形成装置において、前記合流手段が、前記反応ガスの少なくとも一部を、前記プラズマ化不活性ガスの噴射方向と垂直に交差する方向に供給して、前記反応ガスと前記プラズマ化不活性ガスを合流させるものであることが好ましい。このように、反応ガスがプラズマ化不活性ガスの噴射方向と垂直に交差する方向に、反応ガスを供給することにより、反応ガス供給点においてプラズマ化されずに残留した一部の反応ガスが、より基材側においてプラズマ化不活性ガスと合流し、あるいはプラズマ化されずに基材表面と接触することが防止されるので、より安定化した被膜形成処理が実現可能となる。
【0021】
本発明に係る基材の被膜形成装置において、前記高周波電圧印加手段は対向電極を備えていることが好ましい。対向電極としては、所定間隔の空隙を介して平行に対向させた、所定の幅と長さを有する一対の平板などが採用できる。具体的には、周波数2〜20kHz、パルス幅2〜10μ秒の矩形パルス波の電圧波形を有する高周波電圧が印加される場合に、上記空隙の間隔は0.2〜5mmであることが好ましい。また、該対向電極の少なくとも一方の対向面側には、固体誘電体が配置されていることが好ましい。固体誘電体としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン等のプラスチック、ガラス、金属酸化物等が使用可能である。
【0022】
本発明に係る基材の被膜形成装置において、前記噴出手段は、前記不活性ガスが導入される不活性ガス導入路と、前記不活性ガスが噴出される噴出口と、前記不活性ガスを前記噴出口に向けて案内する不活性ガス流案内板とを有することが好ましい。上記噴出口は、基材の幅全体にわたって連続的または非連続的に形成可能である。また、上記不活性ガス流案内板は、噴出口の手前で不活性ガスの流れを整え、噴出口から噴出される不活性ガスの流れを、基材の幅方向において均一化するために、不活性ガス導入路内に所定の案内角度をもたせて設置される板状体であり、好ましくは、前記基材の幅方向両端部間における前記不活性ガスの噴出圧力の差に応じて、前記案内角度を制御可能に形成されるものである。例えば、不活性ガス導入路内の噴出口近傍において、基材の幅方向両端部間の圧力差を微差圧計で検知し、検知された圧力差に基づいて、該圧力差が所定値以下となるように上記案内角度を調整するサーボ機構をフィードバック制御することによって、噴出口から噴出される不活性ガスが、基材の幅方向に均一な流れを形成可能となる。とくに、噴出口から噴出される不活性ガスの線速度が3〜12m/秒のときに、好ましい噴出状態が実現可能である。
【0023】
本発明に係る基材の被膜形成装置において、前記合流手段は、前記反応ガスが導入される反応ガス導入路と、前記反応ガスが供給される供給口と、前記反応ガスを前記供給口に向けて案内する反応ガス流案内板とを有することが好ましい。上記供給口は、基材の幅全体にわたって連続的または非連続的に形成可能である。また、上記反応ガス流案内板は、供給口の手前で反応ガスの流れを整え、供給口から前記プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する方向に供給される反応ガスの流れを、基材の幅方向において均一化するために、反応ガス導入路内に所定の案内角度をもたせて設置される板状体であり、好ましくは、前記基材の幅方向両端部間における前記反応ガスの供給圧力の差に応じて、前記案内角度を制御可能に形成されるものである。例えば、反応ガス導入路内の供給口近傍において、基材の幅方向両端部間の圧力差を微差圧計で検知し、検知された圧力差に基づいて上記案内角度をフィードバック制御することによって、供給口から前記プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する方向に供給される反応ガスが、基材の幅方向に均一な流れを形成可能となる。とくに、供給口から供給される反応ガスの線速度が0.5〜3m/秒のときに、好ましい供給状態が実現可能である。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る基材の被膜形成方法および装置によれば、平面形状や、基材表面に凹凸のある立体形状からなる基材に対しても、常圧低温プラズマCVD法によるリモート処理が可能となる。また、基材の被膜形成装置を可搬式装置とすることも可能であり、建築外壁、屋外設備への被膜形成作業が容易化される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の一実施態様に係る基材の被膜形成装置を示す図である。
【図2】図1の基材の被膜形成装置1のA−A断面からみた縦断面図である。
【図3】図1の基材の被膜形成装置1のB−B断面からみた縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下に、本発明の望ましい実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施態様に係る基材の被膜形成装置1を示す図である。不活性ガス導入路2には、150〜200kPaの圧力を有するヘリウム(He)ガスが導入されており、噴出口3から基材4に向けて噴出されている。噴出口3は、基材4の幅方向(図1の表裏方向)全体にわたって、連続的なスリット形状または非連続的な円形状に形成されている。また、不活性ガス導入路2は、噴出口3に向かう不活性ガスの流れを基材4の幅全体に拡幅するように形成されている。すなわち、不活性ガス導入路2内に導入されたヘリウムガスは、基材4の幅全体にわたって設けられた噴出口3から噴出され、基材4の幅全体にわたる噴出流となる。
【0027】
噴出口3から噴出されたヘリウムガスは、噴出口3の噴出方向下流側に設けられた対向電極6、16の隙間を通過する際に、対向電極6、16に印加された高周波電圧によってプラズマ化され、プラズマ化不活性ガスとなり、基材4に向けて噴射される。噴射方向は、図1では図の下方であるが、水平方向や鉛直上方でもよい。
【0028】
一方、反応ガス導入路7、17には、150〜200kPaの圧力を有する、アセチレン(C)とヘリウムの混合ガスが導入されており、供給口8から、プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する方向に供給されて、上記混合ガスとプラズマ化不活性ガスとが合流している。供給口8は、基材4の幅方向(図1の紙面表裏方向)全体にわたって、連続的なスリット形状または非連続的な円形状に形成されている。また、反応ガス導入路7、17は、供給口8、18に向かう混合ガスの流れを基材4の幅全体に拡幅するように形成されており、さらに、拡幅された混合ガスの流れを供給口8、18に送るための供給路9、19が設けられている。すなわち、反応ガス導入路7、17内に導入された混合ガスは、基材4の幅全体に拡幅され、さらに供給路9、19を経て、基材4の幅全体にわたって設けられた供給口8、18から、上記プラズマ化不活性ガスの噴射方向と垂直に交差する方向に供給される。このようにして、混合ガスは、プラズマ化不活性ガスと合流することによって、基材4の幅全体にわたるプラズマ化反応ガス12となって、吹出口10から基材4に向けて噴射される。このようにして、基材4の基材表面には、基材4の幅全体にわたるDLC被膜が均一に形成される。なお、図1では反応ガス導入路が左右双方に設けられている例が示されているが、反応ガス導入路7、17のいずれか一方を省略することも可能である。
【0029】
図2は、図1の基材の被膜形成装置1のA−A断面からみた縦断面図である。不活性ガス導入パイプ5から不活性ガス導入路2内に導入され、直角に流れ方向を変えられて、基材4の幅方向(図2の左右方向)に拡幅されたヘリウムガスの流れは、不活性ガス流案内板11によって整流され、噴出口3に向けて、基材4の幅方向に均一な流れを形成する。不活性ガス流案内板11は、その案内角度を制御可能に形成されており、基材4の幅方向両端部間におけるヘリウムガスの噴出圧力に差がある(すなわち、基材4の幅方向に不均一な流れが生じている)ときには、その噴出圧力差を打ち消すように案内角度が変更されるようになっている。
【0030】
図2に示されるような不活性ガス導入路2の内部構造は、図3のように、反応ガス導入路7(17)においても、同様に採用可能である。すなわち、内に反応ガス流案内板13(23)を設けた場合には、反応ガス導入パイプ15(25)から反応ガス導入路7(17)内に導入され、直角に流れ方向を変えられて、基材4の幅方向(図3の左右方向)に拡幅された混合ガスの流れが、反応ガス流案内板13(23)によって整流され、供給口8(18)に向けて、基材4の幅方向に均一な流れを形成するようになる。
【実施例】
【0031】
〔実験例〕
基材種類: ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルム
基材厚み: 100μm
対向電極の放電部面積: 100cm(幅200mm×長さ50mm)
高周波電圧: 周波数30kHz、パルス幅3μ秒の矩形パルス波
不活性ガス: ヘリウム
不活性ガス線速度: 4.5m/秒
反応ガス: アセチレン(C)と窒素の混合ガス
被膜形成処理時間: 5秒
高周波電圧: ピーク電圧20kV、周波数20kHz、パルス幅3μ秒の矩形パルス波
吹出口寸法: 幅20cm×隙間0.2cm
【0032】
上記の実験条件にて、図1に示される基材の被膜形成装置を用いて、反応ガス線速度とC濃度を変化させて、形成された被膜の厚みと被膜形成速度の関係を調べた。実験結果を表1に示す。
【0033】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0034】
本発明に係る基材の被膜形成方法および装置は、建築物の内装および外装、大型の構造物および装置の基材表面に被膜形成させる際に、従来の低温プラズマを利用した溶射ガンと同様に用いることができる。また、上記被膜形成方法および装置を採用することにより、立体形状への被膜形成が可能であり、高温処理に向かない高分子等からなる基材に対して、ガスバリア性や耐化学特性に優れた被膜を容易に形成できる。
【符号の説明】
【0035】
1 基材の被膜形成装置
2 不活性ガス導入路
3 噴出口
4 基材
5 不活性ガス導入パイプ
6、16 対向電極
7、17 反応ガス導入路
8、18 供給口
9、19 供給路
10 吹出口
11 不活性ガス流案内板
12 プラズマ化反応ガス
13、23 反応ガス流案内板
15、25 反応ガス導入パイプ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
噴出口から基材に向けて噴出させた不活性ガスに、高周波電圧を常圧下で印加して、前記不活性ガスをプラズマ化させることにより発生させたプラズマ化不活性ガスに対し、前記プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する方向に反応ガスを供給して該反応ガスと前記プラズマ化不活性ガスを合流させることにより、前記反応ガスの少なくとも一部がプラズマ化されてなるプラズマ化反応ガスを発生させ、該プラズマ化反応ガスを、前記プラズマ化不活性ガスとともに前記基材に向けて吹き付けることにより、前記基材の基材表面に、非晶質素材からなる被膜を形成することを特徴とする基材の被膜形成方法。
【請求項2】
前記非晶質素材が、炭素原子および水素原子を主構成原子として含む非晶質炭素系素材からなる、請求項1に記載の基材の被膜形成方法。
【請求項3】
前記不活性ガスは、希ガスまたは窒素ガスからなるとともに、前記反応ガスが炭化水素含有ガスからなる、請求項1または2に記載の基材の被膜形成方法。
【請求項4】
前記反応ガスを、前記プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する少なくとも2つの方向に供給して、前記反応ガスと前記プラズマ化不活性ガスを合流させる、請求項1〜3のいずれかに記載の基材の被膜形成方法。
【請求項5】
前記反応ガスを、前記プラズマ化不活性ガスの噴射方向と垂直に交差する方向に供給して、前記反応ガスと前記プラズマ化不活性ガスを合流させる、請求項1〜4のいずれかに記載の基材の被膜形成方法。
【請求項6】
不活性ガスが導入され、前記不活性ガスを基材に向けて噴出させる噴出手段と、該噴出手段から噴出された前記不活性ガスに高周波電圧を印加してプラズマ化させることにより、プラズマ化不活性ガスを発生させる高周波電圧印加手段と、反応ガスが導入され、前記プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する方向に前記反応ガスを供給して、該反応ガスと前記プラズマ化不活性ガスを合流させる合流手段とを備えていることを特徴とする基材の被膜形成装置。
【請求項7】
前記不活性ガスは、希ガスまたは窒素ガスからなるとともに、前記反応ガスが炭化水素含有ガスからなる、請求項6に記載の基材の被膜形成装置。
【請求項8】
前記合流手段が、前記反応ガスを、前記プラズマ化不活性ガスの噴射方向と交差する少なくとも2つの方向に供給して、前記反応ガスと前記プラズマ化不活性ガスを合流させる、請求項6または7に記載の基材の被膜形成装置。
【請求項9】
前記合流手段が、前記反応ガスの少なくとも一部を、前記プラズマ化不活性ガスの噴射方向と垂直に交差する方向に供給して、前記反応ガスと前記プラズマ化不活性ガスを合流させる、請求項6〜8のいずれかに記載の基材の被膜形成装置。
【請求項10】
前記高周波電圧印加手段は対向電極を備えており、該対向電極の少なくとも一方の対向面側に固体誘電体が配置されている、請求項6〜9のいずれかに記載の基材の被膜形成装置。
【請求項11】
前記噴出手段は、前記不活性ガスが導入される不活性ガス導入路と、前記不活性ガスが噴出される噴出口と、前記不活性ガスを前記噴出口に向けて案内する不活性ガス流案内板とを有する、請求項6〜10のいずれかに記載の基材の被膜形成装置。
【請求項12】
前記噴出口は、前記基材の幅全体にわたって連続的または非連続的に形成されている、請求項11に記載の基材の被膜形成装置。
【請求項13】
前記不活性ガス流案内板は、前記基材の幅方向両端部間における前記不活性ガスの噴出圧力の差に応じて、前記案内角度を制御可能に形成されている、請求項11または12に記載の基材の被膜形成装置。
【請求項14】
前記合流手段は、前記反応ガスが導入される反応ガス導入路と、前記反応ガスが供給される供給口と、前記反応ガスを前記供給口に向けて案内する反応ガス流案内板とを有する、請求項13に記載の基材の被膜形成装置。
【請求項15】
前記供給口は、前記基材の幅全体にわたって連続的または非連続的に形成されている、請求項14に記載の基材の被膜形成装置。
【請求項16】
前記反応ガス流案内板は、前記基材の幅方向両端部間における前記反応ガスの供給圧力の差に応じて、前記案内角度を制御可能に形成されている、請求項14または15に記載の基材の被膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−209281(P2010−209281A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−59491(P2009−59491)
【出願日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度 文部科学省『地域科学技術振興事業委託事業「<環境調和型機能性表面>の製造技術開発と<公共試作開発ラボ>による地域展開」』に係る委託研究の成果で、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)
【Fターム(参考)】