説明

基板のプラズマ処理方法

【課題】マスクパターンが配置されたサファイア基板に対して、プラズマ処理を行い、サファイア基板の表面にマスクパターンに応じた凹凸構造を形成する基板のプラズマ処理において、PR選択比を向上させて、凹凸構造の高アスペクト比化や微細化を実現する。
【解決手段】サファイア基板のプラズマ処理方法において、表面に配置されたレジスト膜によりマスクパターンが形成されたサファイア基板に対して、BClが主体のガスにCHガスを混合した混合ガスを用いてプラズマ処理を行い、サファイア基板の表面にマスクパターンに応じた凹凸構造を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マスクパターンが配置されたサファイア基板に対して、プラズマ処理を行い、サファイア基板の表面にマスクパターンに応じた凹凸構造を形成する基板のプラズマ処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LEDデバイスの製造工程において、デバイスからの光の外部取出し効率を向上させるために、サファイア基板の表面に凹凸構造を形成する工程としてエッチング処理(プラズマ処理)が行われている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
従来のサファイア基板に対するエッチング処理では、まず、サファイア基板の表面にフォトレジスト(レジスト膜)を配置してマスクパターンを形成し、その後、BClが主体のガスを用いて、サファイア基板に対するプラズマ処理が行われる。これにより、サファイア基板の表面にマスクパターンに応じた部分に円錐状または円錐台状の複数の突起から成る凹凸構造が形成される。このように凹凸構造が形成されたサファイア基板は、PSS(Patterned Sapphire Substrate)と呼ばれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−294156号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、LEDデバイスにおいて、デバイスからの光の外部取出し効率をさらに向上させるために、PSSにおいて凹凸構造の高アスペクト比化や微細化が求められている。このように凹凸構造の高アスペクト比化や微細化を図るためには、エッチング処理におけるPR選択比(サファイア基板のエッチングレート/レジスト膜のエッチングレート)を高める必要がある。
【0006】
しかしながら、サファイアは酸化アルミニウム(Al)の単結晶であるため、BClが主体のガス系でエッチング処理を行うと、サファイアから発生するOとClとによりレジスト膜がエッチングされる。そのため、プロセス条件の最適化を図っても、高いPR選択比を得ることができない。
【0007】
また、凹凸構造を微細化するためにマスクパターンを微細化すると、レジスト膜自体が脆弱となるため、PR選択比を向上させることが難しい。
【0008】
従って、本発明の目的は、上記課題を解決することにあって、マスクパターンが配置されたサファイア基板に対して、プラズマ処理を行い、サファイア基板の表面にマスクパターンに応じた凹凸構造を形成する基板のプラズマ処理において、PR選択比を向上させて、凹凸構造の高アスペクト比化や微細化を実現できる基板のプラズマ処理方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
【0010】
本発明の第1態様によれば、表面に配置されたレジスト膜によりマスクパターンが形成されたサファイア基板に対して、BClが主体のガスにCHガスを混合した混合ガスを用いてプラズマ処理を行い、サファイア基板の表面にマスクパターンに応じた凹凸構造を形成する、基板のプラズマ処理方法を提供する。
【0011】
本発明の第2態様によれば、CHガスの混合比率が5〜25%の範囲である、第1態様に記載の基板のプラズマ処理方法を提供する。
【発明の効果】
【0012】
本発明では、BClが主体のガスにCHガスを混合した混合ガスを用いて、サファイア基板に対するプラズマ処理を行い、サファイア基板の表面にマスクパターンに応じた凹凸構造を形成する。これにより、CHガスを混合しない場合に比べて高いPR選択比を得ることができる。よって、PSSの凹凸構造に対して、高アスペクト比化または微細化を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施の形態にかかるドライエッチング装置の構成図
【図2】エッチング処理工程(PSS作成工程)の説明図
【図3】混合するガスの混合比率を変えてテストを行った結果のグラフ
【図4】実施例2と比較例1との凹凸構造の対比説明図
【図5】混合するガスの種類を変えてテストを行った結果のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。
【0015】
(実施の形態)
本発明の一の実施の形態に係るプラズマ処理装置の一例としてICP(誘導結合プラズマ)型のドライエッチング装置1の構成図を図1に示す。
【0016】
ドライエッチング装置1は、サファイア基板2にプラズマ処理を行う処理室を構成するチャンバ(真空容器)3を備える。チャンバ3の上端開口は石英等の誘電体により形成された天板4により密閉状態で閉鎖されている。天板4上にはICPコイル5が配置されている。ICPコイル5にはマッチング回路を含む第1の高周波電源部6が電気的に接続されている。天板4と対向するチャンバ3内の底部側には、バイアス電圧が印加される下部電極としての機能及び基板2の保持台としての機能を有する基板ステージ10が配置されている。
【0017】
また、チャンバ3に設けられたエッチング用のガス導入口3aには、ガス供給部7が接続されている。ガス供給部7には、複数種類のガスの供給ラインが備えられており、それぞれのガス種のライン毎に設けられた開閉バルブ7a、7b、および流量調整部7cの開閉動作および開度が選択的に制御されることにより、ガス導入口3aから所望の流量および仕様の処理ガスを供給できる。本実施の形態では、ガス供給部7には、複数種類のガスとして、例えば、BCl、Cl、Arのガス供給ラインが備えられており、これらのガス供給ラインに加えてCHのガス供給ラインが備えられている。また、チャンバ3に設けられた排気口3bには、真空ポンプや圧力制御弁等から構成される圧力制御部8が接続されている。
【0018】
ドライエッチング装置1では、基板2の搬入出の際に、複数の基板2がトレイ9に収容された状態にて取り扱われる。薄板円盤状のトレイ9には、厚み方向に貫通する複数の円孔である基板収容孔9aが形成されており、基板収容孔9aの内壁面には、孔中心に向けて突出する環状の基板支持部9bが形成されている。それぞれの基板収容孔9aでは、基板2の外周縁部の下面部分が基板支持部9bの上面に支持された状態にて、基板2が収容される。
【0019】
トレイ9の材質としては、例えばアルミナ(Al)、窒化アルミニウム(AlN)、ジルコニア(ZrO)、イットリア(Y)、窒化シリコン(SiN)、炭化シリコン(SiC)等のセラミクス材や、アルマイトで被覆したアルミニウム、表面にセラミクスを溶射したアルミニウム、樹脂材料で被覆したアルミニウム等の金属がある。Cl系プロセスの場合にはアルミナ、イットリア、炭化シリコン、窒化アルミニウム等、F系プロセスの場合には石英、水晶、イットリア、炭化シリコン、アルマイトを容射したアルミニウム等を採用することが考えられる。なお、本実施の形態では、炭化シリコンを主材料として形成されたトレイ9が用いられる。
【0020】
図1に示すように、基板ステージ10は、セラミクス等の誘電体部材により形成されたステージ上部11と、表面にアルマイト被覆を形成したアルミニウム等により形成され、バイアス電圧が印加される下部電極として機能する金属ブロック12と、絶縁体13とを備える。基板ステージ10の最上部に配置されるステージ上部11は、金属ブロック12の上面に固定されており、ステージ上部11および金属ブロック12の外周が絶縁体13により覆われている。
【0021】
円板状のステージ上部11の上端面は、トレイ9の下面を支持するトレイ支持部14となっている。また、トレイ9のそれぞれの基板収容孔9aと対応する短円柱状の複数の基板保持部15がトレイ支持部14から上向きに突出して形成されている。
【0022】
ここで、トレイ9、基板2、および基板保持部15等の関係について説明する。それぞれの基板2は、その縁部がトレイ9の基板支持部9bにより支持された状態にて、それぞれの基板収容孔9a内に収容される。トレイ9の下面がトレイ支持部14上に配置された状態では、基板保持部15により基板2が押し上げられ、トレイ9の基板支持部9bから基板2が離間した状態とされる。すなわち、基板収容孔9aに基板2を収容しているトレイ9をステージ上部11上に配置すると、基板収容孔9aに収容された基板2は基板支持部9bから浮き上がり、基板2の縁部と基板支持部9bとが互いに離間した状態にて、基板2の下面が基板保持部15上に配置される。
【0023】
ステージ上部11に設けられた個々の基板保持部15にはESC電極(静電吸着用電極)16が内蔵されている。これらのESC電極16は電気的に互いに絶縁されており、直流電源を内蔵するESC駆動電源部20から静電吸着用の直流電圧が印加される。
【0024】
それぞれの基板保持部15の上面には冷却ガス供給口17が設けられており、それぞれの冷却ガス供給口17は冷却ガス供給路18を通じて共通の冷却ガス供給部21に接続されている。なお、本実施の形態では、冷却ガスとしてヘリウム(He)が用いられ、プラズマ処理中において、基板保持部15と基板2との間に冷却ガスが供給されることで基板2の冷却が行われる。
【0025】
金属ブロック12には、バイアス電圧としての高周波を印加する第2の高周波電源部22が電気的に接続されている。第2の高周波電源部22はマッチング回路を備えている。
【0026】
また、金属ブロック12内には、金属ブロック12を冷却するための冷媒流路19が形成されており、冷却ユニット23より温度調節された冷媒が冷媒流路19に供給されることで、金属ブロック12が冷却される。
【0027】
次に、上述したような構成を有するドライエッチング装置1を用いて、サファイア基板2の表面に対してエッチング処理を行って、微小な凹凸構造を形成する加工(PSS:Patterned Sapphire Substrate)について説明する。
【0028】
エッチング処理用のガスとしては、BClが主体のガスにCHガスを所定の混合比率にて混合した混合ガスが用いられ、ガス供給部7からガス導入口3aを通じて混合ガスがチャンバ3内に供給される。それとともに、圧力制御部8によりチャンバ3内は所定圧力に調整される。続いて、第1の高周波電源部6からICPコイル5に高周波電圧を印加する。これによりチャンバ3内にプラズマが発生する。また、第2の高周波電源部22により金属ブロック12にバイアス電圧を印加し、チャンバ3内で発生したプラズマを基板ステージ10側へ引き寄せる。このプラズマにより、サファイア基板2に対するエッチング処理が行われる。なお、エッチング処理中は、それぞれの基板2がESC電極16により静電吸着され、基板2と基板保持部15との間に供給される冷却ガスにより基板2が冷却される。
【0029】
ここで、サファイア基板2の表面に対するエッチング処理を行うことにより実施されるPSS加工についてその概略を、図2(A)〜(E)の説明図を用いて説明する。
【0030】
まず、図2(A)に示すように、サファイア基板2の表面には突起状の複数のレジスト51(レジスト膜)が配置されている。これらのレジスト51は、形成される凹凸構造に応じたマスクパターンを形成する。
【0031】
次に、サファイア基板2に対するエッチング処理が開始されると、レジスト51により覆われていない基板2の表面がプラズマに曝されてエッチングされる。具体的には、サファイア基板2の表面に対しては、イオンエッチングと、活性種(ラジカル)との化学反応によるエッチングが行われる。一方、レジスト51自体もプラズマに曝されるため、基板2に対するエッチングの進行とともに、エッチングされることになる。具体的には、レジスト51に対しては、イオンエッチングが行われるとともに、サファイア基板2に対するエッチングにより発生したOやClによるエッチングが併せて行われる。
【0032】
さらに、エッチングの進行に伴い、デポ(フッ化アルミニウム、CH基がプラズマ重合して生じたポリマーやレジスト由来のカーボン系の反応生成物)が発生する。このデポ52はサファイア基板2の表面やレジスト51に付着する。サファイア基板2の表面やレジスト51の頂部では、デポ52の付着量よりもイオンエッチングによる除去量が勝っているため、デポ52の膜は形成されない。一方、レジスト51の側面ではイオンエッチングの作用が弱いため、付着したデポ52が残存して膜を形成する(図2(B)参照)。このデポ52の膜は、エッチングの進行に伴って成長し、その一部はサファイア基板2の上面を徐々に覆いながら広がっていく。このように、マスクとして機能するデポ52がサファイア基板2のエッチングの進行に伴って広がることで、サファイア基板2の表面において、レジスト51およびデポ52にて覆われた部分に、テーパ面を有する円錐台状の突起53が形成される(図2(C)参照)。
【0033】
エッチングの進行に伴い、レジスト51が後退する(すなわち、容積が減少する)と、レジスト51の側面や突起53のテーパ面におけるイオンエッチング効果が次第に強くなり、デポ52も消失する(図2(D)参照)。この段階でサファイア基板2に対するエッチングを停止すれば、その頂部にレジスト51が配置された複数の円錐台状の突起53から成る凹凸構造を備えたPSSが得られる。
【0034】
その後、さらにエッチングを継続すると、レジスト51が完全に消滅して、図2(E)に示すように、複数の円錐状の突起53から成る凹凸構造を備えたPSSが得られる。円錐状の突起53は高さHおよび幅Wを有し、高さH/幅Wがアスペクト比となっており、エッチング処理におけるPR選択比が高くなる程、突起53の幅Wに対する高さHの比率が大きくなり、高アスペクト比の突起53を形成することができる。
【0035】
本実施の形態のエッチング処理では、エッチング処理用のガスとして、BClが主体のガス(例えばBCl(>80%)/Cl(<10%)/Ar(<10%))にCHガスを所定の混合比率にて混合した混合ガスが用いられる。そのため、BClが主体のガスのみ(すなわち、CHガスを混合しない)でエッチング処理を行う場合に比して、PR選択比を高くすることができ、その結果、高アスペクト比の突起53を有する凹凸構造を形成することができる。なお、CHガスを混合させて用いることによる効果については、実施例の説明にて後述する。
【0036】
エッチング処理中は、冷却ガスによる冷却に加えて、冷却ユニット23によって冷媒流路19中で冷媒を循環させて金属ブロック12を冷却し、それによってステージ上部11及び基板保持部15に保持された基板2が冷却される。したがって、エッチング処理において、基板2の温度が確実に制御される。所定の処理時間経過すると、第1の高周波電源部6によるICPコイル5への高周波電圧の印加および第2の高周波電源部22による基板ステージ10の金属ブロック12へのバイアス電圧の印加を停止するとともに、エッチング処理用のガスの供給を停止して、基板2に対するエッチング処理が完了する。
【0037】
(実施例)
次に、上述した実施の形態のプラズマ処理装置を用いて、サファイア基板に対するエッチング処理を行った実施例および比較例について説明する。
【0038】
まず、BClが主体のガスへのCHガスの混合比率を変えてサファイア基板に対するエッチング処理を行い、CHガスを混合することによる効果を検証した。
【0039】
以下に比較例1および実施例1、2における主要なプロセス条件を示す。
(比較例1)
BClガス量: 160sccm
CHガス量: 0sccm
(実施例1)
BClガス量: 145sccm
CHガス量: 15sccm(混合比率:9.4%)
(実施例2)
BClガス量: 135sccm
CHガス量: 25sccm(混合比率:15.6%)
【0040】
実施例1、2および比較例1ともに共通するプロセス条件は次の通りである。
チャンバ内圧力: 0.6Pa
ICPコイルへの印加パワー: 1200W
バイアス: 667W
He圧力: 2400Pa
He流量: 40sccm
温度: 40℃
【0041】
これらのプロセス条件に基づいて、エッチング処理を行った結果、次の結果が得られた。
(比較例1)
処理時間: 750sec
突起高さH2: 659nm
突起幅W2: 1330nm
PR選択比: 0.34
(実施例1)
処理時間: 750sec
突起高さH: 933nm
突起幅W: 1500nm
PR選択比: 0.41
(実施例2)
処理時間: 840sec
突起高さH1: 1070nm
突起幅W1: 1580nm
PR選択比: 0.62
【0042】
これら比較例1、実施例1および2について得られた結果として、サファイア基板に対するエッチングレートおよびPR選択比の比較を図3のグラフに示す。図3に示すように、BClが主体のガスへのCHガスの混合比率を変えた場合であっても、サファイア基板に対するエッチングレートはほとんど変化しなかった。一方、BClが主体のガスへCHガスを混合させた場合(実施例1、2)は、CHガスを混合させない場合(比較例1)に比して、PR選択比が上昇しており、実施例1よりも混合比率が高い実施例2の方が高いPR選択比を得られた。
【0043】
ここで、実施例2のサファイア基板2の凹凸構造の形成過程、および比較例1のサファイア基板2の凹凸構造の形成過程を対比して図4(A)〜(E)に示す。
【0044】
実施例2では、BClが主体のガスへCHガスを混合して用いている。サファイアは酸化アルミニウム(Al)の単結晶であるため、CHガスのようなフッ素系のガスを混合させてエッチング処理を行うと、フッ化アルミニウムやCH基がプラズマ重合して生じたポリマーが発生してデポとして装置内に付着して堆積する。そのため、CHガスを混合して用いる実施例2では、CHガスを混合しない比較例1に比して、デポの付着量が多くなる。
【0045】
具体的には、図4(B)に示すように、比較例1ではレジスト151の側面に付着するデポ152は僅かであり、図4(C)の状態では、突起153の側面(テーパ面)に付着していたデポ152が消滅している。これに対して、実施例2では、突起53の側面へのデポ52の付着量が比較例1に比して多く、サファイア基板2のエッチングの進行に伴って、デポ52が広がっている(図4(B)〜(C)参照)。そのため、デポ52により覆われるサファイアの範囲が広くなり、形成される突起53を大型化できる(図4(D)〜(E)参照)。
【0046】
実施例2において、図4(B)〜(E)に示すそれぞれの状態における突起53の底面の幅W1、W2、W3、W4は、対応する状態における比較例1の突起153の底面の幅W11、W12、W13よりも大きくなっている。さらに実施例2にて最終的に形成された円錐状の突起53の高さH1は、比較例1の突起153の高さH11よりも高くなっている。
【0047】
また、バイアスの大きさや圧力等を調整してエッチングの異方性を制御することで、突起53の幅Wの大きさを調整できる。異方性を強くすれば幅Wは狭くなり、弱くすれば幅Wは広くなる。本発明の方法では、PR選択比を大きくすることができるため、突起53の幅Wの調整代に余裕が生まれ、高さと幅の比率が最適な凹凸構造を有するPSSが得やすくなる。
【0048】
なお、比較例1では、突起153の高さH11が659nm、幅W13が1330nmであり、そのアスペクト比は0.50であった。これに対して、実施例2では、突起53の高さH1が1070nm、幅W4が1580nmであり、そのアスペクト比は0.68であった。このように突起のアスペクト比についても、比較例1よりも実施例2の方が高くなった。
【0049】
また、BClが主体のガスへのCHガスの混合比率をさらに変えてサファイア基板に対するエッチング処理を行ったところ、次のような結果が得られた。この結果についても実施例3、4として図3のグラフに示す。実施例3および4についても、比較例1よりも高いPR選択比を得ることができた。
(実施例3)
BClガス量: 125sccm
CHガス量: 35sccm(混合比率:21.9%)
エッチングレート: 69.2nm/min
PR選択比: 0.62
(実施例4)
BClガス量: 120sccm
CHガス量: 40sccm(混合比率:25.0%)
エッチングレート: 58.9nm/min
PR選択比: 0.51
【0050】
次に、BClが主体のガスへ混合させるガスの種類を変えてサファイア基板に対するエッチング処理を行い、CHガスを混合することによる効果を検証した。
【0051】
(実施例5):BClガス量:135sccm、CHガス量:25sccm
(比較例2):BClガス量:135sccm、CFガス量:25sccm
(比較例3):BClガス量:135sccm、Cガス量:25sccm
(比較例4):BClガス量:135sccm、CHFガス量:25sccm
(比較例5):BClガス量:160sccm
【0052】
実施例5、比較例2〜5ともに共通するプロセス条件は次の通りである。
チャンバ内圧力: 0.6Pa
ICPコイルへの印加パワー: 1500W
バイアス: 834W
He圧力: 2400Pa
He流量: 40sccm
温度: 40℃
処理時間: 650sec
【0053】
これらのプロセス条件に基づいて、エッチング処理を行った結果、次の結果が得られた。
(実施例5)
突起高さH: 1050nm
突起幅W: 1390nm
PR選択比: 0.62
(比較例2)
突起高さH: 621nm
突起幅W: 1290nm
PR選択比: 0.36
(比較例3)
突起高さH: 574nm
突起幅W: 1330nm
PR選択比: 0.34
(比較例4)
突起高さH: 696nm
突起幅W: 1300nm
PR選択比: 0.41
(比較例5)
突起高さH: 616nm
突起幅W: 1260nm
PR選択比: 0.36
【0054】
これら実施例5、比較例2〜5について得られたPR選択比の比較を図5のグラフに示す。図5に示すように、他のガスを混合しない比較例5では、PR選択比が0.36と低かった。また、CHガス以外のガスを混合した比較例2〜4についてもPR選択比が0.34〜0.41程度であり、比較例5と大差がなかった。これに対して、BClが主体のガスへCHガスを混合した実施例5ではPR選択比が0.62となり、他の比較例2〜5と比べて大幅にPR選択比を向上させることができた。
【0055】
これらの実施例1〜5、および比較例1〜5のテスト結果からは、BClが主体のガスへCHガスを混合することにより、PR選択比を大幅に向上できる効果が得られることが判る。また、ICPコイルへの印加電圧やバイアス電圧、さらに他のパラメータ(特に圧力)を調整することにより、形成される突起53の形状(特に幅)を調整することが可能である。
【0056】
CHガスが多いとサファイアの表面を覆うデポが多くなり、所望の幅に突起を加工する上で、隣接する突起の底部同士が繋がり、エッチングストップの現象が生じやすい。また、エッチングガスであるBCl主体のガス量が減りすぎるとエッチングレートが低下する。エッチングストップやエッチングレートの低下が生じると、PR選択比が低下する。したがって、BClが主体のガスへのCHガスの混合比率は、5〜25%の範囲内とすることが好ましく、10〜20%の範囲内とすることがより好ましい。この混合比率の範囲外においても、他のプロセス条件を調整することによりPR選択比を向上させることは可能であるかもしれないが、混合比率を5〜25%の範囲内に設定することにより、他のプロセス条件の調整を比較的簡単なものとしながら、PR選択比向上の効果を得ることができる。また、CHガスをプラズマ化した場合、ポリマー等のデポが生じる。このデポは、PR選択比を上げるのみでなく、チャンバ内にも付着する。したがって、CHガス量が多いと、デポを除去するためのクリーニング処理時間が長くなり、場合によってはチャンバ内にてダストの発生が生じる。したがって、あまり多くのCHガスを混合することは、装置の生産性の観点からも望ましくなく、混合比率を上述の範囲とすることが望ましい。
【0057】
このような混合比率を含めた各種プロセス条件の調整としては、例えば次のような傾向を考慮して行うことができる。BClが主体のガスへのCHガスの混合比率については、混合比率を増加し過ぎると、PR選択比を高めることはできるが凹凸構造にて形成される突起の幅Wも増加することになる。隣接する突起同士が一体化される程、突起の幅Wが増加し過ぎることは好ましくない。また、バイアスパワーを上昇させることで、形成される突起の幅Wの増加を抑制できる。さらに、チャンバ内の圧力を下げることにより、突起の高さHを保持しながら幅Wを狭めることができる。
【0058】
ここで、BClが主体のガスへ混合されるCHガスについて説明する。本発明の基板に対するエッチング方法はサファイア基板が対象となっている。しかしながら、サファイアは酸化アルミニウム(Al)の単結晶であるため、フッ素系のガスを混合させてエッチング処理を行うと、フッ化アルミニウムが発生し残渣(デポ)として装置内に付着して堆積する。そのため、一般的には、フッ素系のガスを、サファイア基板のエッチング処理用のガスに混合することは適切ではないと考えられている。本発明では、このように経験的に知られている従来の考え方に反して、BClが主体のガスへCHガスを混合させて、サファイア基板に対するエッチング処理を行うことで、PR選択比の向上を図ることを可能とするものである。
【0059】
また、CHガスは、高圧ガス保安法上では可燃性ガスには該当しないため、取り扱いが比較的容易であることから、HやCHガスを用いることと比較して、装置構成を簡易とすることが可能である。
【0060】
なお、本発明は上述の構成に限定されるものではなく、その他種々の態様で実施できる。例えば、円盤状の基板に代えて、四角形状の基板に対しても本実施の形態のエッチング処理方法を適用できる。
【0061】
また、上述の構成では、トレイ9の基板収容孔9aの内壁の全周囲に渡って形成された基板支持部9bにより、基板2の縁部の全周囲が支持されるような例について説明したが、基板支持部9bが基板収容孔9aの内壁の一部について形成されて、基板2の縁部がその外周の一部において支持されるような構成を採用しても良い。
【0062】
なお、上記様々な実施形態のうちの任意の実施形態を適宜組み合わせることにより、それぞれの有する効果を奏するようにすることができる。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明は、マスクパターンが配置されたサファイア基板に対して、プラズマ処理を行い、サファイア基板の表面にマスクパターンに応じた微小な凹凸構造を形成する基板のプラズマ処理方法に適用できる。特に、LEDデバイスの製造工程において、デバイスからの光の外部取出し効率を向上させるために、サファイア基板の表面に凹凸構造を形成するエッチング処理に適用できる。
【符号の説明】
【0064】
1 ドライエッチング装置
2 基板
3 チャンバ
3a ガス導入口
3b 排気口
4 天板
5 ICPコイル
6 第1の高周波電源部
7 ガス供給部
8 圧力制御部
9 トレイ
9a 基板収容孔
9b 基板支持部
10 基板ステージ
11 ステージ上部
12 金属ブロック
13 絶縁体
14 トレイ支持部
15 基板保持部
16 ESC電極
17 冷却ガス供給口
18 冷却ガス供給路
19 冷媒流路
20 ESC駆動電源部
21 冷却ガス供給部
22 第2の高周波電源部
23 冷却ユニット
51 レジスト
52 デポ
53 突起

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に配置されたレジスト膜によりマスクパターンが形成されたサファイア基板に対して、BClが主体のガスにCHガスを混合した混合ガスを用いてプラズマ処理を行い、サファイア基板の表面にマスクパターンに応じた凹凸構造を形成する、基板のプラズマ処理方法。
【請求項2】
CHガスの混合比率が5〜25%の範囲である、請求項1に記載の基板のプラズマ処理方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−204785(P2012−204785A)
【公開日】平成24年10月22日(2012.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−70622(P2011−70622)
【出願日】平成23年3月28日(2011.3.28)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】