説明

基板の接合方法

【課題】基板の材質に限定されず、基板に形成した回路素子にダメージを与えることなく、基板の特定領域だけ選択的に接合を可能にする基板の接合方法を提供する。
【解決手段】2枚の基板10a,10bの接合面Fに薄膜樹脂層13が形成された領域に、選択的に活性化溶液L2を噴射する。活性化溶液を任意の領域に選択的に噴射する際には、流体噴射装置、例えば周知のインクジェットプリンタを用いるのが好ましい。薄膜樹脂層にオゾン水などの活性化溶液が噴射されると、原子状の活性酸素が薄膜樹脂層を構成するシリコーン樹脂や変性シリコーン樹脂が酸化(活性化)され、接着性が発現した接着層14に改質される。これにより、2枚の基板の接合面に、接着性を有する接着層14が形成される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板の接合方法に関し、詳しくは、接合面を選択的に形成可能な基板の接合技術に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)と称される半導体デバイスなどでは、回路を形成した基板どうしを接合して、積層化することが行われている。このような回路素子を形成した基板どうしを接合する方法として、例えば、特許文献1には、一方の基板をポリジメチルシロキサンで形成し、この一方の基板に紫外線を照射して表面を活性化させ、接着性を付与して他方の基板と接合する方法が知られている。また、大気圧プラズマの照射によって樹脂を活性化させ、接着性を付与した基板どうしを接合する方法も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−130836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された発明では、基板を構成する材質自体が紫外線によって活性化されるため、任意の領域だけに紫外線を照射して、部分的に接合することが困難であり、基板全面を接合する用途に限られるという課題があった。また、基板を構成する材質自体を活性化させるため、基板の材質が限定されてしまい、例えば、シリコン基板どうしの接合には用いることができないという課題もあった。更に、紫外線を照射したり、あるいは大気圧プラズマを照射することで樹脂を活性化させ、接着性を発現させる方法では、紫外線や大気圧プラズマのエネルギーによって、接合を行わない領域にある回路等にもダメージが及ぶ虞もある。
【0005】
本発明にかかるいくつかの態様は、上記事情に鑑みてなされたものであり、基板の材質に限定されず、基板に形成した回路素子にダメージを与えることなく、基板の特定領域だけ選択的に接合を可能する基板の接合方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のいくつかの態様は次のような基板の接合方法を提供した。
すなわち、本発明の基板の接合方法は、互いに接合させる2枚の基板のうち、少なくとも何れか一方の基板の接合面に向けて、シリコーン樹脂または変性シリコーン樹脂を含む溶質を有機溶媒に溶解させた樹脂溶液を噴射し、前記接合面の任意の領域に選択的に薄膜樹脂層を形成する工程と、該薄膜樹脂層に向けて原子状態の活性酸素を作用させることが可能な活性化溶液を噴射し、該活性酸素で前記薄膜樹脂層を酸化させることにより、前記薄膜樹脂層に接着性を発現させた接着層に改質する工程と、前記2枚の基板どうしを前記接着層を介して接合する工程と、を少なくとも備えたことを特徴とする。
【0007】
本発明の基板の接合方法によれば、基板の任意の領域だけに薄膜樹脂層を形成し、活性化溶液によって接着性を発現させた接着層に改質してから接合することにより、基板に形成された回路装置等のの配置に考慮した任意の接合パターンで接合することが可能になる。これにより、基板の接合面全体で接合する場合と比較して、回路配線等の酸化や変質を防止することができる。
【0008】
また、接合直前に活性化溶液で薄膜樹脂層を活性化させて接着性を発現させることで、従来のように紫外線や大気圧プラズマを用いて接合させる場合と比較して、基板に形成された回路装置を劣化させたり、損傷させたりする虞がなく、外部応力に対して耐久性の低い回路装置が形成された基板どうしを接合することも可能になる。
【0009】
噴射された前記樹脂溶液の有機溶媒を蒸発乾燥させる工程を更に備えているのが好ましい。
前記活性化溶液は、オゾンを溶存させたオゾン水であることが好ましい。
前記基板はシリコンウェーハであればよい。
前記薄膜樹脂層は、前記基板の接合面に予め設けられた凹部および/または凸部に選択的に形成することが好ましい。
前記樹脂溶液には、更に顔料または染料を含み、前記接着層に任意の色調を付与してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の基板の接合方法を段階的に示した要部拡大断面図である。
【図2】薄膜樹脂層を構成する樹脂の構造式を示した図である。
【図3】薄膜樹脂層を構成する樹脂の構造式を示した図である。
【図4】薄膜樹脂層を構成する樹脂の構造式を示した図である。
【図5】薄膜樹脂層を構成する樹脂の構造式を示した図である。
【図6】薄膜樹脂層を構成する樹脂の構造式を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の基板の接合方法の最良の形態について説明する。なお、本実施形態は、発明の趣旨をより良く理解させるために具体的に説明するものであり、特に指定のない限り、本発明を限定するものではない。また、以下の説明で用いる図面は、本発明の特徴をわかりやすくするために、便宜上、要部となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0012】
図1は、本発明の基板の接合方法を段階的に示した要部拡大断面図である。
まず、接合を行う2枚の基板10a,10bを用意する(図1(a)参照)。基板10a,10bは、例えば、シリコン基板(シリコンウェーハ)、ガラス基板、樹脂基板等を用いることができる。また、基板10a,10bの接合面Fには、凹部11や凸部12などが形成されていればよい。本実施形態では、この凹部11や凸部12を選択的に接合領域とした事例を挙げる。
【0013】
次に、2枚の基板10a,10bの接合面Fの任意の領域に、選択的に樹脂溶液L1を噴射する(図1(b)参照)。樹脂溶液L1は、例えば、接合面Fの凹部11だけに噴射すればよい。樹脂溶液L1を任意の領域に選択的に噴射する際には、流体噴射装置、例えば周知のインクジェットプリンタを用いるのが好ましい。流体噴射装置を構成する噴射ヘッド21から、後述する薄膜樹脂層を形成するための樹脂溶液L1を、接合面Fの任意の領域、例えば凹部11だけに選択的に噴射(塗布)する。
【0014】
噴射ヘッド21から噴射させる樹脂溶液L1は、シリコーン樹脂または変性シリコーン樹脂を少なくとも含む溶質を有機溶媒に溶解させたものである。シリコーン樹脂としては、ストレートシリコーンオイルと称される、シロキサン結合からなる直鎖状ポリマーのシリコーンオイルを用いればよい。
【0015】
図2は、主要なストレートシリコーンオイルの構造式を示す図である。
ストレートシリコーンオイルは、主に3種類のものが挙げられる。即ち、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイルである。ジメチルシリコーンオイルは、ポリシロキサンの側鎖および末端が全てメチル基に置換されたものである。メチルフェニルシリコーンオイルは、ポリシロキサンの側鎖の一部がフェニル基に置換されたものである。また、メチルハイドロジェンシリコーンオイルは、ポリシロキサンの側鎖の一部が水素に置換されたものである。
【0016】
一方、変性シリコーン樹脂としては、上述したようなストレートシリコーンオイルのうち、側鎖や末端に有機基を導入した変性シリコーンオイルを用いればよい。この変性シリコーンオイルは、置換される有機基の結合位置によって主に4種類のものが挙げられる。即ち、側鎖型、両末端型、片末端型、側鎖両末端型である。また、導入する有機基の性質によって反応性シリコーンオイルと非反応性シリコーンオイルに分けられる。
【0017】
図3は、主要な変性シリコーンオイルのうち、側鎖型の変性シリコーンオイルのいくつかの構造式を示す図である。この側鎖型の変性シリコーンオイルでは、ポリシロキサンの側鎖の一部を有機基に置換したものであり、導入有機基によって反応性シリコーンオイルと非反応性シリコーンオイルに分けられる。
【0018】
図4は、主要な変性シリコーンオイルのうち、両末端型の変性シリコーンオイルのいくつかの構造式を示す図である。この両末端型の変性シリコーンオイルでは、ポリシロキサンの両方の末端を有機基に置換したものであり、導入有機基によって反応性シリコーンオイルと非反応性シリコーンオイルに分けられる。
【0019】
図5は、主要な変性シリコーンオイルのうち、片末端型の変性シリコーンオイルのいくつかの構造式を示す図である。この片末端型の変性シリコーンオイルでは、ポリシロキサンの一方の末端を有機基に置換したものである。
【0020】
図6は、主要な変性シリコーンオイルのうち、側鎖両末端型の変性シリコーンオイルのいくつかの構造式を示す図である。この側鎖両末端型の変性シリコーンオイルでは、ポリシロキサンの側鎖、および両方の末端を有機基に置換したものである。
【0021】
以上例示したようなシリコーン樹脂または変性シリコーン樹脂などの溶質を分散、溶解させる有機溶媒としては、例えば、PEGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)、ブチルセロソルブ、シクロヘキシルベンゼン、キシレン等が挙げられる。
以下に薄膜樹脂層13を形成する際に噴射する樹脂溶液の組成例を示す。
シリコーン樹脂または変性シリコーン樹脂成分 15重量%
PEGMEA 70重量%
ブチルセロソルブ 10重量%
シクロヘキシルベンゼン 3重量%
キシレン 2重量%
【0022】
なお、上述した樹脂溶液に、更に顔料や染料などの着色成分を配合することもできる。これによって、後工程で形成される接着層に任意の色調を付与することもできる。
また、樹脂溶液L1を選択的に噴射する領域は、上述した凹部11に限らず、例えば、接合する基板に形成されている回路パターンに応じて、任意の領域に噴射させるように、流体噴射装置を制御すればよい。
【0023】
次に、接合面Fの任意の領域に樹脂溶液L1を噴射、塗布した2枚の基板10a,10bを乾燥させ、樹脂溶液L1に含まれる有機溶媒成分を蒸発させる。これにより、2枚の基板10a,10bの任意の領域、例えば凹部11には、上述したシリコーン樹脂または変性シリコーン樹脂からなる薄膜である薄膜樹脂層13が形成される(図1(c)参照)。なお、基板10a,10bを乾燥は、例えば、220℃で30分程度行えばよい。
【0024】
次に、2枚の基板10a,10bの接合面Fに薄膜樹脂層13が形成された領域に、選択的に活性化溶液L2を噴射する(図1(d)参照)。活性化溶液L2を任意の領域に選択的に噴射する際には、流体噴射装置、例えば周知のインクジェットプリンタを用いるのが好ましい。流体噴射装置を構成する噴射ヘッド21から、後述する活性化溶液L2を、接合面Fに薄膜樹脂層13が形成された領域だけに選択的に噴射する。なお、活性化溶液L2を噴射する流体噴射装置は、前工程である樹脂溶液L1を噴射した流体噴射装置を用いればよい。即ち、樹脂溶液L1と活性化溶液L2とを別のインクタンクに充填しておき、切り替えて噴射すればよい。一方、樹脂溶液L1と活性化溶液L2とを別の流体噴射装置によって噴射するのも好ましい。
【0025】
活性化溶液L2は、薄膜樹脂層13に向けて、原子状態の活性酸素を作用させることが可能な溶液であればよく、例えば、水にオゾン(O)を溶存させたオゾン水が挙げられる。このオゾン水に含まれるオゾンは、O→O+O(原子)という形で分解しやすく、この分解の際に酸化能力の強い原子状の活性酸素によって、オゾン水の噴射対象を選択的に酸化させる。なお、活性化溶液L2は、オゾン水以外にも、過酸化水素水など、原子状の活性酸素を放出しやすい液体であれば広く適用可能である。
【0026】
こうして、薄膜樹脂層13にオゾン水などの活性化溶液L2が噴射されると、原子状の活性酸素が薄膜樹脂層13を構成するシリコーン樹脂や変性シリコーン樹脂が酸化(活性化)され、接着性が発現した接着層14に改質される。これにより、2枚の基板10a,10bの接合面Fに、接着性を有する接着層14が形成される。
【0027】
この後、2枚の基板10a,10bの接合面Fどうしを対面させ、所定の押圧力により押し付ける(図1(e)参照)。これにより、2枚の基板10a,10bの接合面Fは、活性化溶液L2の噴射で接着性を発現させた接着層14によって接合される。そして、2枚の基板10a,10bを一体化させた接合基板15が得られる(図1(f)参照)。
【0028】
以上のように、本発明の基板の接合方法によれば、流体噴射装置を用いて基板の10a,10bの任意の領域だけに薄膜樹脂層13を形成し、活性化溶液L2によって接着性を発現させた接着層14に改質してから接合することにより、基板に形成された回路装置の配置に考慮した任意の接合パターンで接合することが可能になる。これにより、基板の接合面全体で接合する場合と比較して、回路配線等の酸化や変質を防止することができる。
【0029】
また、接合直前に活性化溶液L2で薄膜樹脂層13を酸化させて接着性を発現させることで、従来のように紫外線や大気圧プラズマを用いて接合させる場合と比較して、基板に形成された回路装置を劣化させたり、損傷させたりする虞がなく、外部応力に対して耐久性の低い回路装置が形成された基板どうしを接合することも可能になる。そして、接合する基板の材質自体を活性化させる接合方法と比較して、基板を構成する材質が限定されず、例えば、シリコン基板(シリコンウェーハ)どうしを接合することも可能になる。
【0030】
さらに、活性化溶液L2にオゾン水を用いることによって、酸化に寄与しなかったオゾンは速やかに酸素分子となり、基板に残留することなく拡散される。これにより、環境汚染の懸念が無く、基板どうしを安全に接合することが可能になる。
【0031】
そして、流体噴射装置で樹脂溶液L1を噴射して薄膜樹脂層13を形成することによって、基板の10a,10bを接合する接着層14を任意の厚みに形成することができる。これによって、基板の10a,10bの接合面に形成した凹凸の配列に応じて、例えば凹部や凸部だけに選択的に任意の厚みで接着層14を設けることができ、接合後の積層基板の厚みの均一性や平坦性を適正に保つ事が可能になる。
【符号の説明】
【0032】
10a,10b・・基板、11・・凹部、12・・凸部、13・・薄膜樹脂層、14・・接着層、21・・噴射ヘッド、L1・・樹脂溶液、L2・・活性化溶液、F・・接合面。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに接合させる2枚の基板のうち、少なくとも何れか一方の基板の接合面に向けて、シリコーン樹脂または変性シリコーン樹脂を含む溶質を有機溶媒に溶解させた樹脂溶液を噴射し、前記接合面の任意の領域に選択的に薄膜樹脂層を形成する工程と、
該薄膜樹脂層に向けて原子状態の活性酸素を作用させることが可能な活性化溶液を噴射し、該活性酸素で前記薄膜樹脂層を酸化させることにより、前記薄膜樹脂層に接着性を発現させた接着層に改質する工程と、
前記2枚の基板どうしを前記接着層を介して接合する工程と、
を少なくとも備えたことを特徴とする基板の接合方法。
【請求項2】
噴射された前記樹脂溶液の有機溶媒を蒸発乾燥させる工程を更に備えたことを特徴とする請求項1記載の基板の接合方法。
【請求項3】
前記活性化溶液は、オゾンを溶存させたオゾン水であることを特徴とする請求項1または2記載の基板の接合方法。
【請求項4】
前記基板はシリコンウェーハであることを特徴とする請求項1ないし3いずれか1項記載の基板の接合方法。
【請求項5】
前記薄膜樹脂層は、前記基板の接合面に予め設けられた凹部および/または凸部に選択的に形成することを特徴とする請求項1ないし4いずれか1項記載の基板の接合方法。
【請求項6】
前記樹脂溶液には、更に顔料または染料を含み、前記接着層に任意の色調を付与することを特徴とする請求項1ないし5いずれか1項記載の基板の接合方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−194964(P2010−194964A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−44430(P2009−44430)
【出願日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】