基板スライス方法
【課題】薄い半導体ウェハを比較的短時間で容易に製造することができ、かつ製品率を向上させることのできる基板スライス方法を提供する。
【解決手段】基板10上に非接触にレーザ集光手段16を配置する工程と、レーザ集光手段16により、基板10表面にレーザ光を照射し、基板10内部にレーザ光26を集光する工程と、レーザ集光手段16と基板10を相対的に移動させて、基板10内部に改質層12を形成する工程と、基板10側壁に改質層12を露出させる工程と、改質層12をエッチングする工程とを有する基板スライス方法。
【解決手段】基板10上に非接触にレーザ集光手段16を配置する工程と、レーザ集光手段16により、基板10表面にレーザ光を照射し、基板10内部にレーザ光26を集光する工程と、レーザ集光手段16と基板10を相対的に移動させて、基板10内部に改質層12を形成する工程と、基板10側壁に改質層12を露出させる工程と、改質層12をエッチングする工程とを有する基板スライス方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板スライス方法に関し、特に、半導体ウェハを薄く切り出して製造する基板スライス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン(Si)ウェハに代表される半導体ウェハを製造する場合には、図示しないが、石英るつぼ内に溶融されたシリコン融液から凝固した円柱形のインゴットを適切な長さのブロックに切断して、その周縁部を目標の直径になるよう研削し、その後、ブロック化されたインゴットをワイヤソーによりウェハ形にスライスして半導体ウェハを製造するようにしている(例えば、特許文献1および2参照。)。
【0003】
このようにして製造された半導体ウェハは、前工程で回路パターンの形成等、各種の処理が順次施されて後工程に供され、この後工程で裏面がバックグラインド処理されて薄片化が図られることにより、厚さが約750μmから100μm以下、例えば75μmや50μm程度に調整される。
【0004】
従来における半導体ウェハは、以上のように製造され、インゴットがワイヤソーにより切断され、しかも、切断の際にワイヤソーの太さ以上の切り代が必要となるので、厚さ0.1mm以下の薄い半導体ウェハを製造することが非常に困難であり、製品率も向上しないという問題がある。
【0005】
また、半導体ウェハにバックグラインド処理を施す場合には、作業に長時間を要し、微細な研削カスが半導体ウェハの回路パターンを汚染するおそれがある。
【0006】
また近年、次世代の半導体として、硬度が大きく、熱伝導率も高いシリコンカーバイド(SiC)が注目されているが、SiCの場合には、Siよりも硬度が大きい関係上、インゴットをワイヤソーにより容易にスライスすることができない事態が予想される。
【0007】
一方、集光レンズでレーザ光の集光点をインゴットの内部に合わせ、そのレーザ光でインゴットを相対的に走査することにより、インゴットの内部に多光子吸収による面状の加工領域を形成し、この加工領域を剥離面としてインゴットの一部を基板として剥離する基板製造方法および基板製造装置が開示されている(例えば、特許文献3および4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008‐200772号公報
【特許文献2】特開2005‐297156号公報
【特許文献3】特開2005‐277136号公報
【特許文献4】特開2005‐294325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
シリコンインゴット内部にYAGレーザを集光することでシリコンインゴット表面と平行な面状の改質層を形成し、ウェハをスライスする技術においては、改質層の形成後、ウェハを剥離することは容易ではない。
【0010】
本発明の目的は、薄い半導体ウェハを比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることのできる基板スライス方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、基板上に非接触にレーザ集光手段を配置する工程と、レーザ集光手段により、基板表面にレーザ光を照射し、基板内部にレーザ光を集光する工程と、レーザ集光手段と基板を相対的に移動させて、基板内部に改質層を形成する工程と、基板側壁に改質層を露出させる工程と、改質層をエッチングする工程とを有する基板スライス方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、薄い半導体ウェハを比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることのできる基板スライス方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る基板スライス方法を説明する模式的断面構造図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る基板スライス方法を説明する模式的鳥瞰図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る基板スライス方法において、劈開工程後の基板の模式的鳥瞰図。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチングによる分離工程後の基板の模式的鳥瞰図。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチングによる分離工程後の基板の剥離面における光学顕微鏡写真。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る基板スライス方法を説明する模式的鳥瞰図。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係る基板スライス方法を説明する模式的鳥瞰図。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチング工程後の半導体ウェハの模式的鳥瞰図。
【図9】本発明の第4の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチング工程後の基板の上下面にアクリル板を貼付後、カッター刃などの楔状圧入材を圧入する剥離工程を説明する模式的断面構造図。
【図10】本発明の第4の実施の形態に係る基板スライス方法において、カッター刃などの楔状圧入材を圧入する剥離工程後に基板が剥離された様子を説明する模式的鳥瞰図。
【図11】本発明の第4の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチング工程後の基板の上下面にアクリル板を貼付後、カッター刃などの楔状圧入材を圧入する剥離工程における顕微鏡写真。
【図12】本発明の第5の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチング工程後の基板の上下面にアクリル板を貼付後、剥離工程を説明する模式的断面構造図。
【図13】本発明の第5の実施の形態に係る基板スライス方法において、角方向Fから力を印加することによって、基板を剥離する様子を説明する模式的鳥瞰図。
【図14】本発明の第5の実施の形態に係る基板スライス方法において、剥離された基板の剥離面における光学顕微鏡写真。
【図15】比較例において、剥離された基板の剥離面における光学顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0015】
又、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態に係る基板スライス方法を説明する模式的断面構造は、図1に示すように表され、模式的鳥瞰構造は、図2に示すように表される。
【0017】
第1の実施の形態に係る基板スライス方法は、図1および図2に示すように、基板10上に非接触に集光レンズ16を配置する工程と、集光レンズ16により、レーザ光20を集光して、基板10表面にレーザ光22を照射し、基板10内部にレーザ光26を集光する工程と、集光レンズ16と基板10を相対的に移動させて、基板10内部に改質層12を形成する工程と、基板10側壁に改質層12を露出させる工程と、改質層12をエッチングする工程とを有する。
【0018】
図1および図2に示すように、集光レンズ16と基板10間には、レーザ光20の収差増強材として、収差増強ガラス板18を配置しても良い。集光レンズ16と基板10間にこのような収差増強ガラス板18を配置することによって、基板10の表面にレーザスポット24を形成するレーザ光22は、基板10の表面で屈折されて、レーザ光26として基板10の内部に進入し、基板10の内部に焦点Pを結ぶ際に、所定の深さおよび幅を有する像を結ぶことになる。このことによって、基板10の内部に形成される改質層12を所定の深さtを有するように形成することができる。
【0019】
基板10としては、例えば、厚さ約0.625mmのSiウェハを使用する。Siウェハの面方位は。例えば(100)面を使用する。
【0020】
集光レンズ16と基板10を相対的に移動させて、基板10内部に改質層12を形成する工程は、例えば、基板10をXYステージ(図示省略)上に載置し、図2に示すように、Y方向の移動速度10mm/秒で、X方向に1μmステップで送りながら、レーザ光20,22,26を基板10の内部に集光させることによって行われる。集光レンズ16の焦点距離は、例えば、約2mm、開口数は、0.8である。収差増強ガラス板18は、例えば、厚さ0.15mmのガラスで形成される。結果として、基板10の表面から約250μmの深さに、深さ約80μmの幅を有する改質層12が形成される。レーザ光20の光源としては、例えば、波長1064μm、パルス幅約150nmのYAGレーザ(10kHz、0.7W)を適用することができる。図2においては、例えば、レーザ光の照射領域は、6mm×6mmである。
【0021】
基板10側壁に改質層12を露出させる工程は、例えば、基板10を所定の結晶面に沿って、劈開する工程を備えていても良い。このような劈開工程後の基板10の模式的鳥瞰構造は、図3に示すように、基板10uおよび10dによって改質層12が挟まれた構造を備える。ここで、劈開面14a〜14dは、図2および図3に示すように表される。図2においては、例えば、劈開面14a〜14dでかこまれた劈開領域は、5mm×5mmである。
【0022】
次に、改質層12をエッチングする工程は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液からなるエッチング液を使用することができる。その他のエッチング液としては、水酸化カリウム水溶液などアルカリ系のエッチング液を適用することができる。
【0023】
約60℃、10%の水酸化ナトリウム水溶液を使用して、約5時間エッチングしたところ、改質層12が完全にエッチングされ、図4に示すように、基板10は、基板10uおよび10dに改質層12から剥離された。すなわち、第1の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチングによる分離工程後の基板10の模式的鳥瞰構造は、図4に示すように、基板10の劈開面14a〜14dから改質層12がエッチングされて、完全に除去され、基板10は、薄い基板10uおよび基板10dに分離される。ここで、分離された薄い基板10uおよび基板10dの厚さは、例えば、約数10μm〜約200μm以下である。
【0024】
第1の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチングによる分離工程後の基板10uの剥離面における光学顕微鏡写真は、図5に示すように表される。図5から明らかなように、基板10uの剥離面は、粗面化されている。このような粗面化された基板10uの剥離面を太陽光の照射面として使用することで、太陽電池に適用する場合の太陽光の集光効率を高めることができる。
【0025】
厚い基板10のサイズは、特に限定されるものではないが、例えばφ300mmの厚いシリコンウェハからなり、レーザ光線20の照射される表面が予め平坦化されていることが好ましい。また、基板10はSiに限定されるものではなく、サファイア基板、サファイア基板上にGaN層をエピタキシャル成長させた基板、GaN基板、AlGaN/GaN基板、SiC基板、SiC基板上にGaN層をエピタキシャル成長させた基板、GaAs基板、InP基板などを適用可能である。
【0026】
このレーザ光線20は、基板10の周面ではなく、表面に照射装置(図示省略)から集光レンズ16を介して照射される。このレーザ光線20は、例えばパルス幅が1μs以下のパルスレーザ光からなり、900nm以上の波長、好ましくは1000nm以上の波長が選択され、YAGレーザ等が好適に使用される。
【0027】
このレーザ光線20は、厚み0.625mmの基板に照射したときの光線透過率が1〜80%の波長であることが望ましい。例えば、基板10がSiの場合、波長が800nm以下のレーザ光では吸収が大きいため、表面のみが加工され、内部の改質層12を形成することができないため、900nm以上の波長、好ましくは、1000nm以上の波長が選択される。また、波長10.64μmのCO2レーザでは、光線透過率が高すぎるため、基板10の加工をすることが困難なため、YAG基本波のレーザなどが好適に使用される。
【0028】
レーザ光20の波長が900nm以上が好ましい理由は、波長が900nm以上であれば、シリコンからなる基板10に対するレーザ光20の透過性を向上させ、基板10の内部に改質層12を確実に形成することができるからである。レーザ光20は、基板10の表面の周縁部に照射され、あるいは基板10の表面の中心部から周縁部方向に照射される。
【0029】
集光レンズ16は、基板10の内部にレーザ光20のエネルギーを効率的に集中させるよう機能する。この集光レンズ16の開口数(NA)は、基板10の表面におけるアブレーション等による損失を防止する観点から、大きな数値、具体的には約0.5以上、約0.5〜約0.8が好ましい。
【0030】
基板10と焦点Pとは相対的に移動するが、この相対的な移動には、前述の如く、例えば、XYステージが使用される。
【0031】
第1の実施の形態に係る基板スライス方法によれば、インゴットをワイヤソーにより切断するのではなく、接触加工の限界を超えることのできるレーザ光20により、基板10を薄く形成して剥離するので、厚さ0.1mm以下の薄い半導体ウェハなどの基板10をも短時間で容易に製造することができ、しかも、薄い基板10を得ることができるので、無駄が少なく、製品率を著しく向上させることができる。
【0032】
また、前工程の段階から薄い基板10を容易に製造することができるので、基板10にバックグラインド処理を長時間施す必要がなく、微細な研削カスが基板上の回路パターンを汚染するおそれもない。
【0033】
また、半導体ウェハやインゴットが硬度の大きいSiCの場合にも、薄い半導体ウェハを容易に製造することが可能になる。
【0034】
第1の実施の形態に係る基板スライス方法においては、集光レンズ16を使用するが、開口数が大きい集光レンズ16を使用する場合には、レーザ光20の焦点の集光スポットが小さくなるので、基板10の内部に改質層12を連続形成するためには、レーザ光20の照射回数を増やす必要がある。
【0035】
そこで、第1の実施の形態に係る基板スライス方法においては、図1および図2に示すように、厚い基板10の表面と集光レンズ16との間に、レーザ光20用の収差増強材である収差増強ガラス板18を介在させ、この収差増強ガラス板18を介在させた状態でレーザ光20を照射することにより、レーザ光20の照射回数を減少させるようにしている。
【0036】
収差増強ガラス板18は、特に限定されるものではないが、例えば厚いカバーガラスやスライドガラス等が使用可能である。
【0037】
このように第1の実施の形態に係る基板スライス方法によれば、レーザ光線2を単に照射するのではなく、収差増強ガラス板18を介在して集光スポットを拡大し、集光スポットの間隔を大きくすることができるので、上記効果の他、レーザ光20の照射回数を削減することもできる。
【0038】
ここで、基板10には、少なくとも適当な長さにブロック化されたインゴットや厚い半導体ウェハが含まれる。また、レーザ集光手段には、少なくとも凹面鏡や各種レンズ等が含まれる。収差増強材として、必要数のガラス板を適宜使用することができる。
【0039】
第1の実施の形態に係る基板スライス方法によれば、切り代が不要で微細加工に適する非接触のレーザ光により基板10内に改質層12を形成し、この改質層12をエッチングして基板10を剥離することで、薄い基板10u、10dを得ることができる。
【0040】
第1の実施の形態に係る基板スライス方法によれば、基板10の肉厚に拘わらず、対応可能なレーザ光20を用いるので、薄い基板を比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることができる。
【0041】
また、基板10の表面と集光レンズ16との間に、レーザ光用の収差増強ガラス板18を介在するので、集光スポットを拡大してレーザ光の照射回数を減少させることができる。
【0042】
第1の実施の形態に係る基板スライス方法によれば、薄い半導体ウェハを比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることのできる基板スライス方法を提供することができる。
【0043】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態に係る基板スライス方法を説明する模式的鳥瞰構造は、図6に示すように表される。改質層12は、基板10の内部において深さtを有し、かつ平面構造は、基板10の内部に形成された2次元の格子状パターン構造を有する。改質層12の深さtの値は、例えば、80μm程度である。
【0044】
XYステージの動作をY方向の移動速度を10mm/秒として、X方向に10μmステップで移動させて、縦方向配置パターンV1,V2,V3,…,V10,…を有する改質層12を形成する。次に、X方向の移動速度を10mm/秒として、Y方向に10μmステップで移動させて、横方向配置パターンH1,H2,H3,…,H7,…を有する改質層12を形成する。
【0045】
第2の実施の形態に係る基板スライス方法においては、改質層12の形成工程が異なるのみであり、その他の形成工程は、第1の実施の形態に係る基板スライス方法と同様であるため、重複説明は省略する。
【0046】
第2の実施の形態によれば、薄い半導体ウェハを比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることのできる基板スライス方法を提供することができる。
【0047】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態に係る基板スライス方法を説明する模式的鳥瞰構造は、図7に示すように表される。改質層12は、基板10の内部において深さtを有し、かつ平面構造は、基板10の内部に形成された2次元のドット状パターン構造を有する。改質層12の深さtの値は、例えば、80μm程度である。
【0048】
XYステージの動作をY方向の移動速度を100mm/秒として、X方向に10μmステップで移動させて、縦方向配置パターンV0,V1,V2,V3,…,V12,…に沿って、ドット状パターンを有する改質層12を形成する。
【0049】
第3の実施の形態に係る基板スライス方法は、改質層12の形成工程が異なるのみであり、その他の形成工程は、第1の実施の形態に係る基板スライス方法と同様であるため、重複説明は省略する。
【0050】
なお、2次元のドット状パターン構造は、図7に示す例は一例であって、ランダムに配置されていても良い。
【0051】
第3の実施の形態によれば、薄い半導体ウェハを比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることのできる基板スライス方法を提供することができる。
【0052】
[第4の実施の形態]
第4の実施の形態に係る基板スライス方法は、改質層12をエッチングする工程において、エッチング時間を1時間として短くした点が異なるのみであり、その他の工程は、第1の実施の形態と同様である。その結果、エッチング工程後の基板10の模式的鳥瞰構造は、図8に示すように、エッチングによって、基板10の側壁面の改質層12が退行し、エッチング溝32(図9参照)が形成された構造が得られる。例えば、基板10の外周の1辺を除く3辺の改質層12相当部分に、深さ約1mm、幅約0.1mmのエッチング溝が形成される。このような構造は、例えば、劈開面14a、14b、14c、14dのうち、劈開面14bのみエッチング保護膜を形成することによって得ることができる。
【0053】
第4の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチング工程後の基板10の上下面に、アクリル板28uおよび28dを貼付後、楔状圧入材30としてカッター刃を圧入する剥離工程を説明する模式的断面構造は、図9に示すように表される。
【0054】
すなわち、図9に示すように、基板10の上下面に、例えば、厚さ約5mmのアクリル板28u、28dからなる半剛性基板をそれぞれ貼付する。ここで、基板10の上下面とアクリル板28uおよび28dとを貼付するには、例えば、エポキシ系の接着剤34uおよび34dを用いる。さらに、基板10を剥離するには、改質層12のエッチング工程によって形成されたエッチング溝32に対して、厚さ約400μmの楔状圧入材30としてカッター刃を圧入して、基板10を上下方向に剥離して、薄い基板10uおよび10dを形成する。
【0055】
アクリル板28uおよび28dなどの剥離補助板は、特に限定されるものではないが、例えば基板10よりも大きい平板からなり、薄い基板10u、10dに対向する平坦な対向面に、自己粘着性のシート、あるいはエポキシ系の接着剤34u、34dによって、粘着される。
【0056】
また、基板10を指等で剥離するのではなく、基板10の全表面にアクリル板28uおよび28dを粘着固定して剥離するので、基板10全体を均一に剥離し、損傷部分のない薄い基板10u、10dを得ることが可能になる。
【0057】
また、剥離補助板としては、基板10に着脱自在に粘着する弾性変形可能なシートやフィルム、これらを備えた弾性変形可能な板などを適用することも可能である。
【0058】
また、基板10の側面に改質層12を露出させることによって、剥離作業の基点を得ることができるので、基板10を容易に剥離することができる。
【0059】
さらに、基板10の表面にアクリル板28uおよび28dを固定し、このアクリル板28uおよび28dと共に基板10を剥離すれば、汚染を招くことなく、基板10全体を均一に剥離し、損傷部分の少ない薄い基板10u、10dを得ることが可能になる。
【0060】
第4の実施の形態に係る基板スライス方法において、楔状圧入材30としてカッター刃を圧入する剥離工程後に基板10が剥離された様子を説明する模式的鳥瞰構造は、図10に示すように表される。
【0061】
また、第4の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチング工程後の基板10の上下面にアクリル板28uおよび28dを貼付後、楔状圧入材30としてカッター刃を圧入する剥離工程における顕微鏡写真は、図11に示すように表される。
【0062】
図9および図11から明らかなように、エッチング溝32に楔状圧入材30としてカッター刃を圧入することによって、基板10は、基板10uおよび10dに剥離されている。
【0063】
第4の実施の形態によれば、薄い半導体ウェハを比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることのできる基板スライス方法を提供することができる。
【0064】
[第5の実施の形態]
第5の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチング工程後の基板10の上下面にアクリル板28u、28dを貼付後、剥離工程を説明する模式的断面構造は、図12に示すように表される。
【0065】
また、第5の実施の形態に係る基板スライス方法において、角方向Fからアクリル板28u、28dを上下に剥離することで、基板10を剥離する様子を説明する模式的鳥瞰構造は、図13に示すように表される。図13においては、アクリル板28u、28d、エポキシ系の接着剤34uおよび34dについては、図示を省略している。
【0066】
第5の実施の形態に係る基板スライス方法においては、第4の実施の形態と同様して、約10分間のエッチングで、深さ約0.1mmのエッチング溝32a,32b(図12参照)を形成した基板10の上下面にアクリル板28u、28dを貼付後、図13に示すように、角方向から力Fu、Fdを加えることによって、基板10を上下に剥離して、基板10u、10dを形成している。
【0067】
エッチング時間および剥離工程における力Fu、Fdの印加方向が異なるのみであって、その他の工程は、第4の実施の形態と同様である。なお、図12において力Fu、Fdは、角方向Fから印加される力が、上下方向に基板10に加わる成分を表現したものである。
【0068】
第5の実施の形態に係る基板スライス方法において、剥離された基板10uの剥離面における光学顕微鏡写真は、図14に示すように表される。図14から明らかなように、角方向Fから力を加えることによって、基板10を上下に剥離して、薄い基板10u、10dを形成することができる。
【0069】
第5の実施の形態によれば、薄い半導体ウェハを比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることのできる基板スライス方法を提供することができる。
【0070】
(比較例)
第1〜第5の実施の形態のように、改質層12をエッチングして、基板10側壁にエッチング溝を形成する工程を実施せずに、辺方向から力Fu、Fdを加えることによって、基板10を上下に剥離する工程を試みた場合の剥離された基板10の剥離面における光学顕微鏡写真は、図15に示すように表される。改質層12をエッチングして、基板10側壁にエッチング溝を形成する工程を実施せずに、基板10を上下に剥離することは容易ではなく、図15に示すように、基板10の2/3は剥離していない。
【0071】
[その他の実施の形態]
上記のように、本発明は第1〜第5の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面は例示的なものであり、この発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0072】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態などを含む。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の基板スライス方法により基板を効率良く薄く形成することができることから、薄く切り出された半導体ウェハは、Si基板であれば、太陽電池に応用可能であり、また、GaN系半導体デバイスなどのサファイア基板などであれば、発光ダイオード、レーザダイオードなどに応用可能であり、SiCなどであれば、SiC系パワーデバイスなどに応用可能であり、透明エレクトロニクス分野、照明分野、ハイブリッド/電気自動車分野など幅広い分野において適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
10、10u、10d…基板
12…改質層
14a、14b、14c、14d…劈開面
16…集光レンズ(レーザ集光手段)
18…収差増強ガラス板(収差増強材)
20、22、26…レーザ光
24…レーザスポット
28u、28d…アクリル板(剥離補助板)
30…楔状圧入材
32、32a、32b…エッチング溝
34u、34d…接着剤
V0,V1,V2,V3,…,V10,V11,V12…縦方向配置パターン
H1,H2,H3,…,H10…横方向配置パターン
Fu、Fd…力
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板スライス方法に関し、特に、半導体ウェハを薄く切り出して製造する基板スライス方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、シリコン(Si)ウェハに代表される半導体ウェハを製造する場合には、図示しないが、石英るつぼ内に溶融されたシリコン融液から凝固した円柱形のインゴットを適切な長さのブロックに切断して、その周縁部を目標の直径になるよう研削し、その後、ブロック化されたインゴットをワイヤソーによりウェハ形にスライスして半導体ウェハを製造するようにしている(例えば、特許文献1および2参照。)。
【0003】
このようにして製造された半導体ウェハは、前工程で回路パターンの形成等、各種の処理が順次施されて後工程に供され、この後工程で裏面がバックグラインド処理されて薄片化が図られることにより、厚さが約750μmから100μm以下、例えば75μmや50μm程度に調整される。
【0004】
従来における半導体ウェハは、以上のように製造され、インゴットがワイヤソーにより切断され、しかも、切断の際にワイヤソーの太さ以上の切り代が必要となるので、厚さ0.1mm以下の薄い半導体ウェハを製造することが非常に困難であり、製品率も向上しないという問題がある。
【0005】
また、半導体ウェハにバックグラインド処理を施す場合には、作業に長時間を要し、微細な研削カスが半導体ウェハの回路パターンを汚染するおそれがある。
【0006】
また近年、次世代の半導体として、硬度が大きく、熱伝導率も高いシリコンカーバイド(SiC)が注目されているが、SiCの場合には、Siよりも硬度が大きい関係上、インゴットをワイヤソーにより容易にスライスすることができない事態が予想される。
【0007】
一方、集光レンズでレーザ光の集光点をインゴットの内部に合わせ、そのレーザ光でインゴットを相対的に走査することにより、インゴットの内部に多光子吸収による面状の加工領域を形成し、この加工領域を剥離面としてインゴットの一部を基板として剥離する基板製造方法および基板製造装置が開示されている(例えば、特許文献3および4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008‐200772号公報
【特許文献2】特開2005‐297156号公報
【特許文献3】特開2005‐277136号公報
【特許文献4】特開2005‐294325号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
シリコンインゴット内部にYAGレーザを集光することでシリコンインゴット表面と平行な面状の改質層を形成し、ウェハをスライスする技術においては、改質層の形成後、ウェハを剥離することは容易ではない。
【0010】
本発明の目的は、薄い半導体ウェハを比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることのできる基板スライス方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するための本発明の一態様によれば、基板上に非接触にレーザ集光手段を配置する工程と、レーザ集光手段により、基板表面にレーザ光を照射し、基板内部にレーザ光を集光する工程と、レーザ集光手段と基板を相対的に移動させて、基板内部に改質層を形成する工程と、基板側壁に改質層を露出させる工程と、改質層をエッチングする工程とを有する基板スライス方法が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、薄い半導体ウェハを比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることのできる基板スライス方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る基板スライス方法を説明する模式的断面構造図。
【図2】本発明の第1の実施の形態に係る基板スライス方法を説明する模式的鳥瞰図。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る基板スライス方法において、劈開工程後の基板の模式的鳥瞰図。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチングによる分離工程後の基板の模式的鳥瞰図。
【図5】本発明の第1の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチングによる分離工程後の基板の剥離面における光学顕微鏡写真。
【図6】本発明の第2の実施の形態に係る基板スライス方法を説明する模式的鳥瞰図。
【図7】本発明の第3の実施の形態に係る基板スライス方法を説明する模式的鳥瞰図。
【図8】本発明の第4の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチング工程後の半導体ウェハの模式的鳥瞰図。
【図9】本発明の第4の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチング工程後の基板の上下面にアクリル板を貼付後、カッター刃などの楔状圧入材を圧入する剥離工程を説明する模式的断面構造図。
【図10】本発明の第4の実施の形態に係る基板スライス方法において、カッター刃などの楔状圧入材を圧入する剥離工程後に基板が剥離された様子を説明する模式的鳥瞰図。
【図11】本発明の第4の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチング工程後の基板の上下面にアクリル板を貼付後、カッター刃などの楔状圧入材を圧入する剥離工程における顕微鏡写真。
【図12】本発明の第5の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチング工程後の基板の上下面にアクリル板を貼付後、剥離工程を説明する模式的断面構造図。
【図13】本発明の第5の実施の形態に係る基板スライス方法において、角方向Fから力を印加することによって、基板を剥離する様子を説明する模式的鳥瞰図。
【図14】本発明の第5の実施の形態に係る基板スライス方法において、剥離された基板の剥離面における光学顕微鏡写真。
【図15】比較例において、剥離された基板の剥離面における光学顕微鏡写真。
【発明を実施するための形態】
【0014】
次に、図面を参照して、本発明の実施の形態を説明する。以下の図面の記載において、同一又は類似の部分には同一又は類似の符号を付している。ただし、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なることに留意すべきである。したがって、具体的な厚みや寸法は以下の説明を参酌して判断すべきものである。又、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれていることはもちろんである。
【0015】
又、以下に示す実施の形態は、この発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、この発明の実施の形態は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記のものに特定するものでない。この発明の実施の形態は、特許請求の範囲において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
[第1の実施の形態]
本発明の第1の実施の形態に係る基板スライス方法を説明する模式的断面構造は、図1に示すように表され、模式的鳥瞰構造は、図2に示すように表される。
【0017】
第1の実施の形態に係る基板スライス方法は、図1および図2に示すように、基板10上に非接触に集光レンズ16を配置する工程と、集光レンズ16により、レーザ光20を集光して、基板10表面にレーザ光22を照射し、基板10内部にレーザ光26を集光する工程と、集光レンズ16と基板10を相対的に移動させて、基板10内部に改質層12を形成する工程と、基板10側壁に改質層12を露出させる工程と、改質層12をエッチングする工程とを有する。
【0018】
図1および図2に示すように、集光レンズ16と基板10間には、レーザ光20の収差増強材として、収差増強ガラス板18を配置しても良い。集光レンズ16と基板10間にこのような収差増強ガラス板18を配置することによって、基板10の表面にレーザスポット24を形成するレーザ光22は、基板10の表面で屈折されて、レーザ光26として基板10の内部に進入し、基板10の内部に焦点Pを結ぶ際に、所定の深さおよび幅を有する像を結ぶことになる。このことによって、基板10の内部に形成される改質層12を所定の深さtを有するように形成することができる。
【0019】
基板10としては、例えば、厚さ約0.625mmのSiウェハを使用する。Siウェハの面方位は。例えば(100)面を使用する。
【0020】
集光レンズ16と基板10を相対的に移動させて、基板10内部に改質層12を形成する工程は、例えば、基板10をXYステージ(図示省略)上に載置し、図2に示すように、Y方向の移動速度10mm/秒で、X方向に1μmステップで送りながら、レーザ光20,22,26を基板10の内部に集光させることによって行われる。集光レンズ16の焦点距離は、例えば、約2mm、開口数は、0.8である。収差増強ガラス板18は、例えば、厚さ0.15mmのガラスで形成される。結果として、基板10の表面から約250μmの深さに、深さ約80μmの幅を有する改質層12が形成される。レーザ光20の光源としては、例えば、波長1064μm、パルス幅約150nmのYAGレーザ(10kHz、0.7W)を適用することができる。図2においては、例えば、レーザ光の照射領域は、6mm×6mmである。
【0021】
基板10側壁に改質層12を露出させる工程は、例えば、基板10を所定の結晶面に沿って、劈開する工程を備えていても良い。このような劈開工程後の基板10の模式的鳥瞰構造は、図3に示すように、基板10uおよび10dによって改質層12が挟まれた構造を備える。ここで、劈開面14a〜14dは、図2および図3に示すように表される。図2においては、例えば、劈開面14a〜14dでかこまれた劈開領域は、5mm×5mmである。
【0022】
次に、改質層12をエッチングする工程は、例えば、水酸化ナトリウム水溶液からなるエッチング液を使用することができる。その他のエッチング液としては、水酸化カリウム水溶液などアルカリ系のエッチング液を適用することができる。
【0023】
約60℃、10%の水酸化ナトリウム水溶液を使用して、約5時間エッチングしたところ、改質層12が完全にエッチングされ、図4に示すように、基板10は、基板10uおよび10dに改質層12から剥離された。すなわち、第1の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチングによる分離工程後の基板10の模式的鳥瞰構造は、図4に示すように、基板10の劈開面14a〜14dから改質層12がエッチングされて、完全に除去され、基板10は、薄い基板10uおよび基板10dに分離される。ここで、分離された薄い基板10uおよび基板10dの厚さは、例えば、約数10μm〜約200μm以下である。
【0024】
第1の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチングによる分離工程後の基板10uの剥離面における光学顕微鏡写真は、図5に示すように表される。図5から明らかなように、基板10uの剥離面は、粗面化されている。このような粗面化された基板10uの剥離面を太陽光の照射面として使用することで、太陽電池に適用する場合の太陽光の集光効率を高めることができる。
【0025】
厚い基板10のサイズは、特に限定されるものではないが、例えばφ300mmの厚いシリコンウェハからなり、レーザ光線20の照射される表面が予め平坦化されていることが好ましい。また、基板10はSiに限定されるものではなく、サファイア基板、サファイア基板上にGaN層をエピタキシャル成長させた基板、GaN基板、AlGaN/GaN基板、SiC基板、SiC基板上にGaN層をエピタキシャル成長させた基板、GaAs基板、InP基板などを適用可能である。
【0026】
このレーザ光線20は、基板10の周面ではなく、表面に照射装置(図示省略)から集光レンズ16を介して照射される。このレーザ光線20は、例えばパルス幅が1μs以下のパルスレーザ光からなり、900nm以上の波長、好ましくは1000nm以上の波長が選択され、YAGレーザ等が好適に使用される。
【0027】
このレーザ光線20は、厚み0.625mmの基板に照射したときの光線透過率が1〜80%の波長であることが望ましい。例えば、基板10がSiの場合、波長が800nm以下のレーザ光では吸収が大きいため、表面のみが加工され、内部の改質層12を形成することができないため、900nm以上の波長、好ましくは、1000nm以上の波長が選択される。また、波長10.64μmのCO2レーザでは、光線透過率が高すぎるため、基板10の加工をすることが困難なため、YAG基本波のレーザなどが好適に使用される。
【0028】
レーザ光20の波長が900nm以上が好ましい理由は、波長が900nm以上であれば、シリコンからなる基板10に対するレーザ光20の透過性を向上させ、基板10の内部に改質層12を確実に形成することができるからである。レーザ光20は、基板10の表面の周縁部に照射され、あるいは基板10の表面の中心部から周縁部方向に照射される。
【0029】
集光レンズ16は、基板10の内部にレーザ光20のエネルギーを効率的に集中させるよう機能する。この集光レンズ16の開口数(NA)は、基板10の表面におけるアブレーション等による損失を防止する観点から、大きな数値、具体的には約0.5以上、約0.5〜約0.8が好ましい。
【0030】
基板10と焦点Pとは相対的に移動するが、この相対的な移動には、前述の如く、例えば、XYステージが使用される。
【0031】
第1の実施の形態に係る基板スライス方法によれば、インゴットをワイヤソーにより切断するのではなく、接触加工の限界を超えることのできるレーザ光20により、基板10を薄く形成して剥離するので、厚さ0.1mm以下の薄い半導体ウェハなどの基板10をも短時間で容易に製造することができ、しかも、薄い基板10を得ることができるので、無駄が少なく、製品率を著しく向上させることができる。
【0032】
また、前工程の段階から薄い基板10を容易に製造することができるので、基板10にバックグラインド処理を長時間施す必要がなく、微細な研削カスが基板上の回路パターンを汚染するおそれもない。
【0033】
また、半導体ウェハやインゴットが硬度の大きいSiCの場合にも、薄い半導体ウェハを容易に製造することが可能になる。
【0034】
第1の実施の形態に係る基板スライス方法においては、集光レンズ16を使用するが、開口数が大きい集光レンズ16を使用する場合には、レーザ光20の焦点の集光スポットが小さくなるので、基板10の内部に改質層12を連続形成するためには、レーザ光20の照射回数を増やす必要がある。
【0035】
そこで、第1の実施の形態に係る基板スライス方法においては、図1および図2に示すように、厚い基板10の表面と集光レンズ16との間に、レーザ光20用の収差増強材である収差増強ガラス板18を介在させ、この収差増強ガラス板18を介在させた状態でレーザ光20を照射することにより、レーザ光20の照射回数を減少させるようにしている。
【0036】
収差増強ガラス板18は、特に限定されるものではないが、例えば厚いカバーガラスやスライドガラス等が使用可能である。
【0037】
このように第1の実施の形態に係る基板スライス方法によれば、レーザ光線2を単に照射するのではなく、収差増強ガラス板18を介在して集光スポットを拡大し、集光スポットの間隔を大きくすることができるので、上記効果の他、レーザ光20の照射回数を削減することもできる。
【0038】
ここで、基板10には、少なくとも適当な長さにブロック化されたインゴットや厚い半導体ウェハが含まれる。また、レーザ集光手段には、少なくとも凹面鏡や各種レンズ等が含まれる。収差増強材として、必要数のガラス板を適宜使用することができる。
【0039】
第1の実施の形態に係る基板スライス方法によれば、切り代が不要で微細加工に適する非接触のレーザ光により基板10内に改質層12を形成し、この改質層12をエッチングして基板10を剥離することで、薄い基板10u、10dを得ることができる。
【0040】
第1の実施の形態に係る基板スライス方法によれば、基板10の肉厚に拘わらず、対応可能なレーザ光20を用いるので、薄い基板を比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることができる。
【0041】
また、基板10の表面と集光レンズ16との間に、レーザ光用の収差増強ガラス板18を介在するので、集光スポットを拡大してレーザ光の照射回数を減少させることができる。
【0042】
第1の実施の形態に係る基板スライス方法によれば、薄い半導体ウェハを比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることのできる基板スライス方法を提供することができる。
【0043】
[第2の実施の形態]
第2の実施の形態に係る基板スライス方法を説明する模式的鳥瞰構造は、図6に示すように表される。改質層12は、基板10の内部において深さtを有し、かつ平面構造は、基板10の内部に形成された2次元の格子状パターン構造を有する。改質層12の深さtの値は、例えば、80μm程度である。
【0044】
XYステージの動作をY方向の移動速度を10mm/秒として、X方向に10μmステップで移動させて、縦方向配置パターンV1,V2,V3,…,V10,…を有する改質層12を形成する。次に、X方向の移動速度を10mm/秒として、Y方向に10μmステップで移動させて、横方向配置パターンH1,H2,H3,…,H7,…を有する改質層12を形成する。
【0045】
第2の実施の形態に係る基板スライス方法においては、改質層12の形成工程が異なるのみであり、その他の形成工程は、第1の実施の形態に係る基板スライス方法と同様であるため、重複説明は省略する。
【0046】
第2の実施の形態によれば、薄い半導体ウェハを比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることのできる基板スライス方法を提供することができる。
【0047】
[第3の実施の形態]
第3の実施の形態に係る基板スライス方法を説明する模式的鳥瞰構造は、図7に示すように表される。改質層12は、基板10の内部において深さtを有し、かつ平面構造は、基板10の内部に形成された2次元のドット状パターン構造を有する。改質層12の深さtの値は、例えば、80μm程度である。
【0048】
XYステージの動作をY方向の移動速度を100mm/秒として、X方向に10μmステップで移動させて、縦方向配置パターンV0,V1,V2,V3,…,V12,…に沿って、ドット状パターンを有する改質層12を形成する。
【0049】
第3の実施の形態に係る基板スライス方法は、改質層12の形成工程が異なるのみであり、その他の形成工程は、第1の実施の形態に係る基板スライス方法と同様であるため、重複説明は省略する。
【0050】
なお、2次元のドット状パターン構造は、図7に示す例は一例であって、ランダムに配置されていても良い。
【0051】
第3の実施の形態によれば、薄い半導体ウェハを比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることのできる基板スライス方法を提供することができる。
【0052】
[第4の実施の形態]
第4の実施の形態に係る基板スライス方法は、改質層12をエッチングする工程において、エッチング時間を1時間として短くした点が異なるのみであり、その他の工程は、第1の実施の形態と同様である。その結果、エッチング工程後の基板10の模式的鳥瞰構造は、図8に示すように、エッチングによって、基板10の側壁面の改質層12が退行し、エッチング溝32(図9参照)が形成された構造が得られる。例えば、基板10の外周の1辺を除く3辺の改質層12相当部分に、深さ約1mm、幅約0.1mmのエッチング溝が形成される。このような構造は、例えば、劈開面14a、14b、14c、14dのうち、劈開面14bのみエッチング保護膜を形成することによって得ることができる。
【0053】
第4の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチング工程後の基板10の上下面に、アクリル板28uおよび28dを貼付後、楔状圧入材30としてカッター刃を圧入する剥離工程を説明する模式的断面構造は、図9に示すように表される。
【0054】
すなわち、図9に示すように、基板10の上下面に、例えば、厚さ約5mmのアクリル板28u、28dからなる半剛性基板をそれぞれ貼付する。ここで、基板10の上下面とアクリル板28uおよび28dとを貼付するには、例えば、エポキシ系の接着剤34uおよび34dを用いる。さらに、基板10を剥離するには、改質層12のエッチング工程によって形成されたエッチング溝32に対して、厚さ約400μmの楔状圧入材30としてカッター刃を圧入して、基板10を上下方向に剥離して、薄い基板10uおよび10dを形成する。
【0055】
アクリル板28uおよび28dなどの剥離補助板は、特に限定されるものではないが、例えば基板10よりも大きい平板からなり、薄い基板10u、10dに対向する平坦な対向面に、自己粘着性のシート、あるいはエポキシ系の接着剤34u、34dによって、粘着される。
【0056】
また、基板10を指等で剥離するのではなく、基板10の全表面にアクリル板28uおよび28dを粘着固定して剥離するので、基板10全体を均一に剥離し、損傷部分のない薄い基板10u、10dを得ることが可能になる。
【0057】
また、剥離補助板としては、基板10に着脱自在に粘着する弾性変形可能なシートやフィルム、これらを備えた弾性変形可能な板などを適用することも可能である。
【0058】
また、基板10の側面に改質層12を露出させることによって、剥離作業の基点を得ることができるので、基板10を容易に剥離することができる。
【0059】
さらに、基板10の表面にアクリル板28uおよび28dを固定し、このアクリル板28uおよび28dと共に基板10を剥離すれば、汚染を招くことなく、基板10全体を均一に剥離し、損傷部分の少ない薄い基板10u、10dを得ることが可能になる。
【0060】
第4の実施の形態に係る基板スライス方法において、楔状圧入材30としてカッター刃を圧入する剥離工程後に基板10が剥離された様子を説明する模式的鳥瞰構造は、図10に示すように表される。
【0061】
また、第4の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチング工程後の基板10の上下面にアクリル板28uおよび28dを貼付後、楔状圧入材30としてカッター刃を圧入する剥離工程における顕微鏡写真は、図11に示すように表される。
【0062】
図9および図11から明らかなように、エッチング溝32に楔状圧入材30としてカッター刃を圧入することによって、基板10は、基板10uおよび10dに剥離されている。
【0063】
第4の実施の形態によれば、薄い半導体ウェハを比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることのできる基板スライス方法を提供することができる。
【0064】
[第5の実施の形態]
第5の実施の形態に係る基板スライス方法において、エッチング工程後の基板10の上下面にアクリル板28u、28dを貼付後、剥離工程を説明する模式的断面構造は、図12に示すように表される。
【0065】
また、第5の実施の形態に係る基板スライス方法において、角方向Fからアクリル板28u、28dを上下に剥離することで、基板10を剥離する様子を説明する模式的鳥瞰構造は、図13に示すように表される。図13においては、アクリル板28u、28d、エポキシ系の接着剤34uおよび34dについては、図示を省略している。
【0066】
第5の実施の形態に係る基板スライス方法においては、第4の実施の形態と同様して、約10分間のエッチングで、深さ約0.1mmのエッチング溝32a,32b(図12参照)を形成した基板10の上下面にアクリル板28u、28dを貼付後、図13に示すように、角方向から力Fu、Fdを加えることによって、基板10を上下に剥離して、基板10u、10dを形成している。
【0067】
エッチング時間および剥離工程における力Fu、Fdの印加方向が異なるのみであって、その他の工程は、第4の実施の形態と同様である。なお、図12において力Fu、Fdは、角方向Fから印加される力が、上下方向に基板10に加わる成分を表現したものである。
【0068】
第5の実施の形態に係る基板スライス方法において、剥離された基板10uの剥離面における光学顕微鏡写真は、図14に示すように表される。図14から明らかなように、角方向Fから力を加えることによって、基板10を上下に剥離して、薄い基板10u、10dを形成することができる。
【0069】
第5の実施の形態によれば、薄い半導体ウェハを比較的短時間で容易に製造することができ、しかも、製品率を向上させることのできる基板スライス方法を提供することができる。
【0070】
(比較例)
第1〜第5の実施の形態のように、改質層12をエッチングして、基板10側壁にエッチング溝を形成する工程を実施せずに、辺方向から力Fu、Fdを加えることによって、基板10を上下に剥離する工程を試みた場合の剥離された基板10の剥離面における光学顕微鏡写真は、図15に示すように表される。改質層12をエッチングして、基板10側壁にエッチング溝を形成する工程を実施せずに、基板10を上下に剥離することは容易ではなく、図15に示すように、基板10の2/3は剥離していない。
【0071】
[その他の実施の形態]
上記のように、本発明は第1〜第5の実施の形態によって記載したが、この開示の一部をなす論述および図面は例示的なものであり、この発明を限定するものであると理解すべきではない。この開示から当業者には様々な代替実施の形態、実施例および運用技術が明らかとなろう。
【0072】
このように、本発明はここでは記載していない様々な実施の形態などを含む。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明の基板スライス方法により基板を効率良く薄く形成することができることから、薄く切り出された半導体ウェハは、Si基板であれば、太陽電池に応用可能であり、また、GaN系半導体デバイスなどのサファイア基板などであれば、発光ダイオード、レーザダイオードなどに応用可能であり、SiCなどであれば、SiC系パワーデバイスなどに応用可能であり、透明エレクトロニクス分野、照明分野、ハイブリッド/電気自動車分野など幅広い分野において適用可能である。
【符号の説明】
【0074】
10、10u、10d…基板
12…改質層
14a、14b、14c、14d…劈開面
16…集光レンズ(レーザ集光手段)
18…収差増強ガラス板(収差増強材)
20、22、26…レーザ光
24…レーザスポット
28u、28d…アクリル板(剥離補助板)
30…楔状圧入材
32、32a、32b…エッチング溝
34u、34d…接着剤
V0,V1,V2,V3,…,V10,V11,V12…縦方向配置パターン
H1,H2,H3,…,H10…横方向配置パターン
Fu、Fd…力
【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に非接触にレーザ集光手段を配置する工程と、
前記レーザ集光手段により、前記基板表面にレーザ光を照射し、前記基板内部にレーザ光を集光する工程と、
前記レーザ集光手段と前記基板を相対的に移動させて、前記基板内部に改質層を形成する工程と、
前記基板側壁に前記改質層を露出させる工程と、
前記改質層をエッチングする工程と
を有することを特徴とする基板スライス方法。
【請求項2】
前記改質層は、前記基板内部において所定の厚さを有し、かつ平面構造は、前記基板内部に形成された2次元の格子状パターンを有することを特徴とする請求項1に記載の基板スライス方法。
【請求項3】
前記改質層は、前記基板内部において所定の厚さを有し、かつ平面構造は、前記基板内部に形成された2次元のドット状パターンを有することを特徴とする請求項1に記載の基板スライス方法。
【請求項4】
前記改質層をエッチングする工程により形成されたエッチング溝から前記基板を剥離する工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の基板スライス方法。
【請求項5】
前記基板を剥離する工程は、前記エッチング溝に対して楔状圧入材を圧入する工程を有することを特徴とする請求項4に記載の基板スライス方法。
【請求項6】
前記基板を剥離する工程は、前記基板の角方向から力を印加する工程を有することを特徴とする請求項4に記載の基板スライス方法。
【請求項7】
前記改質層をエッチングする工程後、前記基板の上下面に半剛性基板を貼付する工程を有することを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の基板スライス方法。
【請求項8】
前記改質層をエッチングする工程において、水酸化ナトリウム水溶液からなるエッチング液を使用することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の基板スライス方法。
【請求項1】
基板上に非接触にレーザ集光手段を配置する工程と、
前記レーザ集光手段により、前記基板表面にレーザ光を照射し、前記基板内部にレーザ光を集光する工程と、
前記レーザ集光手段と前記基板を相対的に移動させて、前記基板内部に改質層を形成する工程と、
前記基板側壁に前記改質層を露出させる工程と、
前記改質層をエッチングする工程と
を有することを特徴とする基板スライス方法。
【請求項2】
前記改質層は、前記基板内部において所定の厚さを有し、かつ平面構造は、前記基板内部に形成された2次元の格子状パターンを有することを特徴とする請求項1に記載の基板スライス方法。
【請求項3】
前記改質層は、前記基板内部において所定の厚さを有し、かつ平面構造は、前記基板内部に形成された2次元のドット状パターンを有することを特徴とする請求項1に記載の基板スライス方法。
【請求項4】
前記改質層をエッチングする工程により形成されたエッチング溝から前記基板を剥離する工程を有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の基板スライス方法。
【請求項5】
前記基板を剥離する工程は、前記エッチング溝に対して楔状圧入材を圧入する工程を有することを特徴とする請求項4に記載の基板スライス方法。
【請求項6】
前記基板を剥離する工程は、前記基板の角方向から力を印加する工程を有することを特徴とする請求項4に記載の基板スライス方法。
【請求項7】
前記改質層をエッチングする工程後、前記基板の上下面に半剛性基板を貼付する工程を有することを特徴とする請求項4〜6のいずれか1項に記載の基板スライス方法。
【請求項8】
前記改質層をエッチングする工程において、水酸化ナトリウム水溶液からなるエッチング液を使用することを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の基板スライス方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−60860(P2011−60860A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−206370(P2009−206370)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【出願人】(000190116)信越ポリマー株式会社 (1,394)
【Fターム(参考)】
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