説明

基板ホルダおよびそれを備えた成膜装置

【課題】本発明の課題は、基板ホルダの基板受け治具に被処理基板を嵌め込む際に、被処理基板を浮きなく嵌め込め、その結果、被処理基板の外周縁に割れ、欠けが発生しない基板ホルダおよびそれを備えた成膜装置を提供することである。
【解決手段】本発明の基板ホルダ21および蒸着装置20は、筒体22aの下端に内向きに張り出す内側フランジ22cを有し、筒体22aに嵌め込まれた半導体基板4の外周縁を内側フランジ22cで支持する基板受け治具22を備え、内側フランジ22cに、半導体基板4の外周縁に対する逃げ溝23を設けた基板ホルダ21およびそれを備えた蒸着装置20である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被処理基板としての半導体基板などを保持する基板ホルダおよびそれを備えた成膜装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の成膜装置および基板ホルダの一例を、図4,5を参照して説明する。
【0003】
図4は成膜装置としての蒸着装置の概略構成を示す断面図であり、図5(a)は基板ホルダに被処理基板としての半導体基板を保持した状態の要部拡大図であり、図5(b)は基板受け治具の部分断面斜視図である。
【0004】
図4,5において、10は従来の蒸着装置、1はチャンバ、1aは排気系、2は蒸着源、3はプラネタリウム、3aは蒸着窓、4は半導体基板、5は基板受け治具、5aは筒体、5bは外側フランジ、5cは内側フランジ、7はスプリング部、8はカバー、9は基板ホルダ、Bは電子ビーム、Mは蒸着物質である。
【0005】
図4に示すように、従来の蒸着装置10は、チャンバ1内部の下方に配置された蒸着源2と、内部上方に配置されたプラネタリウム3とを備え、チャンバ1の内部は排気系1aから排気されて真空状態となる。
【0006】
蒸着源2は、基台2aの上面に設けられた坩堝2bと、この基台2aの側部に設けられた電子銃2cとからなる。
【0007】
そして、この坩堝2b内にアルミニウムなどの蒸着物質Mを入れ、電子銃2cからの電子ビームBによって加熱することにより、蒸着物質Mを蒸気として上方に発散させるようになっている。
【0008】
また、プラネタリウム3は、球面状の凹部を有し、チャンバ1内に等間隔に3枚(図示は2枚のみ)配置され、プラネタリウム支持機構6により、それぞれ凹部の焦点方向が蒸着源2に向くように支持されている。
【0009】
プラネタリウム支持機構6は、チャンバ1の上方中央部に設けられた公転駆動部6aと、この公転駆動部6aによって回転する公転軸6bと、その下端から等角度間隔の3方に張り出した支持アーム6cと、この支持アーム6cに設けられた自転車輪部6dと、この自転車輪部6dが転がり運動する軌道部6eによって構成されている。
【0010】
3枚のプラネタリウム3は、球面状の凸部となる裏面側中央部をそれぞれ、この自転車輪部6dの回転軸に固定されている。
【0011】
このように構成されたプラネタリウム3は、凹部を蒸着源2に向けた状態で、自転運動しながら公転運動して、蒸着源2からの蒸着物質Mを均一に受けるようになっている。
【0012】
また、プラネタリウム3には、多数の蒸着窓3aが開口されており、この各に裏面(上方)側から、それぞれ半導体基板4を保持した基板ホルダ9が嵌め込まれるようになっている。
【0013】
基板ホルダ9は、図5に示すように、基板受け治具5とカバー8とを備え、その間に半導体基板4を挟み込んでスプリング部7の押圧で保持するようになっている。
【0014】
詳細には、基板受け治具5は、極めて短い筒体5aの上端に外向きに張り出した外側フランジ5bと、下端に内向きに張り出した内側フランジ5cとを有するリング状の金属板(例えば、材質はステンレス)であり、筒体5aの内径は半導体基板4外径よりも若干大きくなっており、筒体5a内に半導体基板4を嵌め込み、その外周縁を内側フランジ5cで支持するようになっている。
【0015】
また、筒体5aはプラネタリウム3の蒸着窓3aに嵌め込まれて、その外側フランジ5bでプラネタリウム3に保持されるようになっている。(例えば、特許文献1)。
【特許文献1】実開平4−18655号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、上記のような従来の基板ホルダ9および蒸着装置10では、図6に示すように、基板受け治具5に半導体基板4を嵌め込む際に、半導体基板4の外周縁が基板受け治具5の内側フランジ5cにしっかりと全面で当接せずに少し浮いた状態(図中、浮きSで示す)となることがあった。
【0017】
この浮きSが発生する原因は、基板受け治具5を量産性および経済性のよいプレス加工(絞り加工)で製作するときに生じる底部コーナのアール部Rに半導体基板4の外周縁が乗り上げるためであった。
【0018】
またさらに、半導体基板4の厚さを薄くするため研磨した場合、半導体基板4の外周縁に設けられている面取り部分が減少しナイフエッジとなり、基板受け治具5のアール部Rに引っかかりやすくなるという要因もあった。
【0019】
そして、このように浮きSが生じた状態で、カバー8で押圧したり、プラネタリウム3の自転運動や公転運動のストレスが加わると、半導体基板4のエッジに割れ、欠けが発生するという問題があった。
【0020】
本発明の課題は、基板ホルダの基板受け治具に被処理基板を嵌め込む際に、被処理基板を浮きなく嵌め込め、その結果、被処理基板の外周縁に割れ、欠けが発生しない基板ホルダおよびそれを備えた成膜装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の基板ホルダは、
筒体の下端に内向きに張り出す内側フランジを有し、筒体に嵌め込まれた被処理基板の外周縁を内側フランジで支持する基板受け治具を備えた基板ホルダーにおいて、内側フランジに、被処理基板の外周縁に対する逃げ溝を設けたことを特徴とする基板ホルダである。
【0022】
また、本発明の成膜装置は、筒体の下端に内向きに張り出す内側フランジを有し、筒体に嵌め込まれた被処理基板の外周縁を内側フランジで支持する基板受け治具を備えた基板ホルダーにおいて、内側フランジに、被処理基板の外周縁に対する逃げ溝を設けた基板ホルダを備えたことを特徴とする成膜装置である。
【発明の効果】
【0023】
本発明の基板ホルダおよびそれを備えた成膜装置によれば、基板ホルダの基板受け治具に被処理基板を嵌め込む際に、被処理基板を浮きなく嵌め込め、その結果、被処理基板の外周縁に割れ、欠けが発生しない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
本発明の成膜装置および基板ホルダの一例を、図1,2を参照して説明する。
【0025】
図1は本発明の成膜装置としての蒸着装置の概略構成を示す断面図であり、図2(a)は本発明の基板ホルダに被処理基板としての半導体基板を保持した状態の要部拡大図であり、図2(b)は基板受け治具の部分断面斜視図である。尚、図4,5と同一部分には同一符号を付す。
【0026】
図1,2において、20は本発明の蒸着装置、1はチャンバ、1aは排気系、2は蒸着源、3はプラネタリウム、3aは蒸着窓、4は半導体基板、7はスプリング部、8はカバー、21は基板ホルダ、22は基板受け治具、22aは筒体、22bは外側フランジ、22cは内側フランジ、Bは電子ビーム、Mは蒸着物質である。
【0027】
図1に示すように、本発明の蒸着装置20が、従来の蒸着装置10(図4)の構成と異なる点はそれが備える基板ホルダが異なる点である。
【0028】
このため、同一構成部分の説明は省略し、以下、基板ホルダの構成について図2を参照して詳述する。
【0029】
基板ホルダ21は、図2に示すように、基板受け治具22とカバー8とを備え、その間に半導体基板4を挟み込んでスプリング部7の押圧で保持するようになっている。
【0030】
詳細には、基板受け治具22は、極めて短い筒体22aの上端に外向きに張り出した外側フランジ22bと、下端に内向きに張り出した内側フランジ22cとを有するリング状の金属板(例えば、材質はステンレス)であり、筒体22aの内径は半導体基板4外径よりも若干大きくなっており、筒体22a内に半導体基板4を嵌め込み、その外周縁を内側フランジ22cで支持するようになっている。
【0031】
また、筒体22aはプラネタリウム3の蒸着窓3aに嵌め込まれて、その外側フランジ22bでプラネタリウム3に保持されるようになっている。
【0032】
ここで、内側フランジ22cには、半導体基板4の外周縁に対する逃げ溝23が設けられており、基板受け治具22に半導体基板4を嵌め込む際に、半導体基板4の外周縁と内側フランジ22cとの間に浮きが生じないようになっている。
【0033】
この逃げ溝23は内側フランジ22cの全周囲に亘って形成され、逃げ溝23の外側面は筒体22aの内壁面と連続面をなすように形成されている。
【0034】
また、逃げ溝23の断面形状は、U字状である。
【0035】
逃げ溝23の溝幅は、筒体22aの内径と半導体基板4の外径との差寸法の2〜3倍の範囲にしてある。
【0036】
これにより、半導体基板4が筒体22a内で最大にズレても、半導体基板4の外周縁が逃げ溝23の内周エッジに引っ掛かることがなく好適である。
【0037】
また、逃げ溝23の溝深さは、内側フランジ22cの厚さ寸法の1/5〜1/2の範囲にしてある。
【0038】
これにより、基板受け治具22をプレス加工で製作する際の加工歪や強度低下が少なく好適である。
【0039】
このような基板ホルダ21およびそれを備えた蒸着装置20では、基板受け治具22に半導体基板4を嵌め込む際に、半導体基板4を浮きなく嵌め込め、その結果、半導体基板4の外周縁に割れ、欠けが発生しない。
【0040】
尚、上記では、逃げ溝23の断面形状をU字状の例で説明したが、とくにこれに限るわけではなく、図3(a)に示すように、V字状としてもよい。
【0041】
逃げ溝23の断面形状をV字状にすると、U字状の場合に比較して、逃げ溝23を形成するときに除去する肉量が少なくて済み、加工歪や強度低下がさらに少なくてよい。
【0042】
またさらに、図3(b)に示すように、筒体22aを、内側フランジ22cから上方に向かって広がるテーパ状とすると、基板受け治具22に半導体基板4を嵌め込んだり取り出したりする作業がスムースに行えて作業性がよい。
【0043】
ここで、筒体22aの内壁面と、内側フランジ22cの内壁面とのなす角度θを、90°〜100°の範囲とすると、基板受け治具22内での半導体基板4の保持安定性もよく、かつ作業性もよい。
【0044】
また、上記では成膜装置として蒸着装置の例で説明したが、とくにこれに限るわけではなく、基板受け治具を備えた基板ホルダに被処理基板を保持して成膜処理する装置であれば何にでも適用できる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明は、基板ホルダの基板受け治具に被処理基板を嵌め込む際に、被処理基板を浮きなく嵌め込め、その結果、被処理基板の外周縁に割れ、欠けが発生しない基板ホルダおよびそれを備えた成膜装置に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明の成膜装置としての蒸着装置の概略構成を示す断面図
【図2】本発明の基板ホルダに被処理基板としての半導体基板を保持した状態の要部拡大図および、基板受け治具の部分断面斜視図
【図3】本発明の基板ホルダの基板受け治具の他の例の部分断面斜視図
【図4】従来の成膜装置としての蒸着装置の概略構成を示す断面図
【図5】従来の基板ホルダに被処理基板としての半導体基板を保持した状態の要部拡大図および、基板受け治具の部分断面斜視図
【図6】従来の基板ホルダおよび蒸着装置の課題を説明する断面図
【符号の説明】
【0047】
1 チャンバ
1a 排気系
2 蒸着源
2a 基台
2b 坩堝
2c 電子銃
3 プラネタリウム
3a 蒸着窓
4 半導体基板
5,22 基板受け治具
5a,22a 筒体
5b,22b 外側フランジ
5c,22c 内側フランジ
6 プラネタリウム支持機構
6a 公転駆動部
6b 公転軸
6c 支持アーム
6d 自転車輪部
6e 軌道部
7 スプリング部
8 カバー
9,21 基板ホルダ
10 従来の蒸着装置
20 本発明の蒸着装置
23 逃げ溝
B 電子ビーム
M 蒸着物質
R アール部
S 浮き
θ 筒体22aの内壁面と内側フランジ22cの内壁面とのなす角度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
筒体の下端に内向きに張り出す内側フランジを有し、前記筒体に嵌め込まれた被処理基板の外周縁を前記内側フランジで支持する基板受け治具を備えた基板ホルダーにおいて、
前記内側フランジに、前記被処理基板の外周縁に対する逃げ溝を設けたことを特徴とする基板ホルダ。
【請求項2】
前記逃げ溝は前記内側フランジの全周囲に亘って形成されたことを特徴とする請求項1に記載の基板ホルダ。
【請求項3】
前記逃げ溝の外側面は前記筒体の内壁面と連続面をなすことを特徴とする請求項1または2に記載の基板ホルダ。
【請求項4】
前記逃げ溝の断面形状は、U字状またはV字状であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の基板ホルダ。
【請求項5】
前記逃げ溝の溝幅は、前記筒体の内径と前記被処理基板の外径との差寸法の2〜3倍の範囲であることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の基板ホルダ。
【請求項6】
前記逃げ溝の溝深さは、前記内側フランジの厚さ寸法の1/5〜1/2の範囲であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の基板ホルダ。
【請求項7】
前記筒体は、前記内側フランジから上方に向かって広がるテーパ状であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の基板ホルダ。
【請求項8】
前記筒体の内壁面と、前記内側フランジの内壁面とのなす角度は、90°〜100°の範囲であることを特徴とする請求項7に記載の基板ホルダ。
【請求項9】
前記基板受け治具は、前記筒体の上端に外向きに張り出す外側フランジを有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の基板ホルダ。
【請求項10】
前記筒体に嵌め込まれた被処理基板の上から前記被処理基板を前記内側フランジに押し付けるカバーをさらに備えたことを特徴とする請求項1〜9のいずれかに記載の基板ホルダ。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の前記基板ホルダを備えたことを特徴とする成膜装置。
【請求項12】
前記成膜装置は、前記基板ホルダをプラネタリウムに取り付けて被処理基板に蒸着処理を施す蒸着装置であることを特徴とする請求項11に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−114490(P2009−114490A)
【公開日】平成21年5月28日(2009.5.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−286925(P2007−286925)
【出願日】平成19年11月5日(2007.11.5)
【出願人】(302062931)NECエレクトロニクス株式会社 (8,021)
【Fターム(参考)】