説明

基板吸着装置

【課題】基板吸着時の基板振動が抑制され、安定して基板を吸着保持することができる基板吸着装置の提供。
【解決手段】基板吸着装置は、高速流体を流出口Eから流出してベルヌーイ効果により吸着対象基板7を吸引する吸着部1と、流出口Eから吸着対象基板方向に所定距離を空けて流出口Eを囲むように配置され、吸着部1により吸引された吸着対象基板7に当接するパッド4とを備える。パッド4が流出口Eを囲むように配置されているので、吸着対象基板7がパッド4の当接したときの振動の発生を抑制することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ウェハ等の基板を吸着し搬送する基板吸着装置に関する。
【背景技術】
【0002】
真空成膜装置等においては、ウェハやガラス基板等の基板を搬送する工程がある。基板を搬送する装置の一つとして、高速流体により発生するベルヌーイ効果を利用して基板を非接触で保持する非接触搬送装置が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平11−330203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の装置では、吸着部から離れた基板周辺部を4つのピンに当接させる構造となっている。しかしながら、このような構造の場合、吸着した基板が振動するという問題が生じることが解った。成膜後の基板7は高温状態にあり、その表面に生成した膜は柔らかく傷つきやすい。そのため、吸着搬送時に基板振動によって基板表面がピンで叩かれたり擦られたりするような状況となった場合、ピンが当接する領域にキズが発生するという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
請求項1の発明に係る基板吸着装置は、高速流体を流出口から流出してベルヌーイ効果により吸着対象基板を吸引する吸着部と、流出口から吸着対象基板方向に所定距離を空けて流出口を囲むように配置され、吸着部により吸引された吸着対象基板に当接するパッドとを備えたことを特徴とする。
請求項2の発明は、請求項1に記載の基板吸着装置において、パッドはリング形状であることを特徴とする。
請求項3の発明は、請求項2に記載の基板吸着装置において、リング形状であるパッドの内径を、流出口の外形とほぼ同一としたものである。
請求項4の発明は、請求項1〜3のいずれか一項に記載の基板吸着装置において、パッドは複数に分割され、その分割された複数のパッドが流出口を囲むように配置されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、基板吸着時の基板振動が抑制され、安定して基板を吸着保持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【図1】本実施の形態の基板吸着装置を示す図である。
【図2】吸着部1の吸着動作の概念を説明する図であり、(a)は断面図、(b)はC矢視図である。
【図3】吸着パッド4の変形例を示す図であり、(a)は第1の変形例を、(b)は第2の変形例を、(c)は第3の変形例を示す。
【図4】吸着パッドの比較例を示す図である。
【図5】基板振動に関する測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明の実施するための形態について説明する。図1は本実施の形態による基板吸着装置を示す図である。図1では、図示上下方向が鉛直方向である。吸着装置は、不図示の駆動部により駆動される搬送部5と、ウェハやガラス基板等の基板7を吸着する吸着部1とを備えている。吸着部1は搬送部5の下端に取り付けられ、搬送部5により上下方向(z方向)およびxy方向に移動可能に構成されている。
【0009】
搬送部5には支持板2が設けられて居る。吸着パッド4は、支持板2から下方に延びる支柱3の下端に固定されている。その結果、吸着パッド4は吸着部1の下端面から距離hだけ離れた仮想平面VP上に配置されることになる。吸着部1には、正圧の気体、例えば圧縮空気や窒素ガスなどが配管6を介して供給される。吸着部1は、供給された気体を凹部11内に噴出する。基板7は、ベルヌーイ効果によって吸着部1方向に吸引され、吸着パッド4に当接する。その状態で搬送部5を駆動することにより、基板7の搬送を行うことが可能となる。
【0010】
図2は、吸着部1の吸着動作の概念を説明する図であり、(a)は基板7が吸着されている状態における吸着部1の断面図であり、(b)はC矢視図である。図2(b)に示すように、吸着部1の凹部11には、供給された気体を噴出する噴出口12が3箇所形成されている。この噴出口12から高速流体として噴出された気体は、凹部11の内周面に沿った旋回流を形成する。旋回流となった高速流体は、凹部11の開口面(気体流出口)から凹部外へと流出する。図2(b)においてハッチングを施した領域Eが気体流出口を示している。
【0011】
このような旋回流が形成された吸着部1を基板7に近づけると、高速流体は吸着部1と吸着パッド4との隙間、および吸着パッド4と基板7との隙間を通って外側へと流出する。その結果、基板7はベルヌーイ効果により吸着部方向へと引き寄せられ、吸着パッド4に当接するようになる。吸着パッド4には、リング部41と、上述した支柱3に固定される枝状の連結部42とが形成されている。
【0012】
リング部41が吸着部1の気体流出口Eに跨っていると吸着に影響するので、ロング部41の内径dは気体流出口Eの外径以上に設定される。また、基板7に対する吸着力は吸着部1に対向する領域に働くので、上述した基板振動を防止するためには、基板7の気体流出口Eに対向する領域の近傍に、リング部41を当接させるのが好ましい。図2に示す例では、リング部41の内径dは、吸着部1の気体流出口Eの外径とほぼ同一に形成されている。なお、吸着パッド4の材質としては、高温の基板7を吸着する場合には、耐熱性を考慮し、ステンレス材、セラミックス材、カーボン材、Si基板、石英ガラス等が用いられる。また、成膜後の基板7が高温でなければ、樹脂等も用いることができる。
【0013】
ところで、吸着パッド4を設けていない一般的なベルヌーイチャックでは、基板7が吸着部1の下端に近付き過ぎると凹部11部分の気体の圧力による斥力が大きくなるので、基板7は、自重に斥力を加えた大きさとベルヌーイ効果による負圧とがバランスする位置に非接触保持されることになる。そのため、特許文献1に記載の装置のように、基板周辺部の数箇所にピンが当接する構造の場合、基板中心部分の吸引力と基板周辺部分のピンの当接力とのバランスが崩れやすく、基板振動が発生しやすい。その結果、基板振動によって基板表面がピンで叩かれたり擦られたりするような状況となり、ピンが当接する領域にキズが発生するという問題があった。
【0014】
一方、本実施の形態における吸着パッド4では、流体の流出口である凹部11を囲むようにリング部41が設けられているので、吸着が安定して振動が発生しにくくなる。また、リング部41を吸着部1が対向する領域(すなわち吸着領域)の近傍に設けて、吸着力の作用する領域と吸着パッド4が当接する領域とが近接するようにすると、当接力の作用する位置が吸引力の作用する領域に近くなり、振動の発生が抑制されることになる。なお、図2に示す例では、加工を簡単にするために、リング部41および連結部42の下面を均一の面としたが、リング部41のみが基板7と当接するように、リング部41と連結部42との間に段差を設けてもよい。それにより、当接面が吸着部1の中心軸に対して対象形状となる。
【0015】
[変形例]
図3(a)は、本実施の形態の変形例1を示す図であり、吸着パッド4の形状を円形としたものである。また、吸着パッド4のリング状部分は完全にリングでなくてもよく、リング状の部分を複数に分割して凹部11を囲むように配置するようにしても良い。図3(b),(c)は、そのような構造の吸着パッド4を示したものである。図3(b)に示す変形例2を示したものであり、リング部41を部分41a,41b,41cに3分割した場合である。また、図3(c)に示す変形例3では、円形状の吸着パッド4を3つの部分4a,4b,4cに分割した場合を示す。
【0016】
図5は、図2および図3(a)に示す吸着パッド4を用いて基板を保持した場合と、図4に示すように吸着部1から離れた位置において3点支持により基盤を保持した場合の、基板振動の測定結果を示したものである。基板寸法は□156mm、t=0.2mmであり、測定点A,Bは図2(b)に示す位置である。基板の変位はレーザ変位計で測定し、1分間に得られた測定データから最大変位最小変位を10点抽出し、その10点平均振幅で評価した。
【0017】
図5において、横軸は吸着部1に供給する気体(空気)の圧力を表し、縦軸は10点平均振幅を表す。折れ線L11,L12は図2の吸着パッド4を用いた場合の点A,Bにおける測定結果を示し、折れ線L21,L22は図3(a)の吸着パッド4を用いた場合の点A,Bにおける測定結果を示し、折れ線L31.L32は図4の吸着パッド400を用いた場合の点A,Bにおける測定結果を示す。図2,図3(a)に示す吸着パッド4を用いた方が、吸着パッド400を用いた場合より明らかに振幅が小さいことが分かる。さらに、横軸の流体圧力が変化しても振幅の変化が小さいことがわかる。これは何らかの外乱により流体圧力が変動しても基板振動に影響を与え難いことを示す。また、図2,図3(a)の吸着パッド4の間では、大きく異ならないことが分かる。
【0018】
以上のように、本実施の形態の吸着パッド4を用いた基板吸着装置においては、図2に示すように気体流出口Eを囲むように吸着パッド4を設けたので、吸着時の基板の振動を抑えることができる。成膜後の基板7は高温状態にあり、その表面に生成した膜は柔らかく傷つきやすい。そのため、基板振動が大きいと膜が傷つくという問題があったが、本実施の形態を用いることで、振動による膜へのダメージを防止することができる。さらに、吸着パッド4のリング形状部分の内径dを気体流出口Eの外形とほぼ同一としたので、当接力の作用する位置が吸引力の作用する領域に近くなり、振動の発生が抑制される。
【0019】
上述した各実施形態はそれぞれ単独に、あるいは組み合わせて用いても良い。それぞれの実施形態での効果を単独あるいは相乗して奏することができるからである。また、本発明の特徴を損なわない限り、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではない。
【符号の説明】
【0020】
1:吸着部、2:支持板、3:支柱、4,400:吸着パッド、7:基板、11:凹部、12:噴出口、41:リング部、42:連結部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高速流体を流出口から流出してベルヌーイ効果により吸着対象基板を吸引する吸着部と、
前記流出口から吸着対象基板方向に所定距離を空けて前記流出口を囲むように配置され、前記吸着部により吸引された前記吸着対象基板に当接するパッドとを備えたことを特徴とする基板吸着装置。
【請求項2】
請求項1に記載の基板吸着装置において、
前記パッドはリング形状であることを特徴とする基板吸着装置。
【請求項3】
請求項2に記載の基板吸着装置において、
リング形状である前記パッドの内径を、前記流出口の外形とほぼ同一としたことを特徴とする基盤吸着装置。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか一項に記載の基板吸着装置において、
前記パッドは複数に分割され、その分割された複数のパッドが前記流出口を囲むように配置されていることを特徴とする基板吸着装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−264579(P2010−264579A)
【公開日】平成22年11月25日(2010.11.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−119896(P2009−119896)
【出願日】平成21年5月18日(2009.5.18)
【出願人】(000001993)株式会社島津製作所 (3,708)
【Fターム(参考)】