説明

基板用金属材料およびその製造方法

【課題】基板用金属材料の表面にエッチング処理によって粗化処理を行う場合に、廃却物が生じるマスキング工程(レジスト塗布工程)を省略することができかつ半田を載せるための下地となる平滑なS面が得られる基板用金属材料の製造方法の確立と、それによって得られる基板用金属材料の提供。
【解決手段】厚さ70μm以上の金属材料素材の片面に金属めっき処理を行い、前記金属めっき処理によって形成された層をバリア層として他方の面を粗化処理する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来のプリント配線板にチップを半田で載せるための下地処理を施したプリント配線板用金属材料およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
印刷回路基板は通常電気絶縁性の基材上に銅箔回路を形成し、スルーホール等を形成し、ソルダーレジストを塗布した後、エッチングなどで回路形成を行う。プリント配線板は板状あるいはシート状のガラスエポキシ基材の表面に銅箔を張り合わせてなる、いわゆる銅張基板を加工して製造される。その銅張基板は例えばFR−4(Flame retardant Type4)のようなガラス繊維とエポキシ樹脂の複合材料から成る難燃性のプリント配線板用樹脂基材と、数10〜100μm程度の板厚の銅板材からなるプリント配線板用金属材料とをホットプレス法により完全に接合して製造されるが、この接合を確実なものとするためには、銅板材の表面に粗化処理を施すことが望まれる。また、近年では比較的大容量の電流に対応した配線板の要求も増えている。その多くは車載用やエレベーター等の回路制御用基板として使われる。一般的に薄い銅箔での粗化処理は、電気めっきで表面に微細な凹凸を付けるが、厚さ70μm以上の金属板については、表面粗さを稼ぐためにエッチング処理をすることが多い。特許文献1には、銅層と樹脂絶縁層を一体化するに当り十分な密着力を確保できる銅層の表面処理法を提供することを目的として、例えば厚さ100μm以上の圧延銅箔に適用される表面処理法であって、谷から山までの高さが5μmを超える凹凸を含んで生成されるように銅層の表面にエッチング型化学粗化処理をし、さらに前記表面処理面に黒化還元処理をすることが記載されている。
【0003】
樹脂と銅箔の接着力を上げるためには、アンカー効果を高める粗化処理の他に、化学的接着力を高める金属めっきがある。
【0004】
プリント配線用金属材料は図2に示したようにプリント配線板用樹脂基材2の表面にホットプレス法等の熱圧着プロセスによって接合されている。プリント配線板用金属材料1は粗化処理を施した後、プリント配線板用樹脂基材2の配線形成側に接合され、さらにフォトエッチング法等によってパターニング加工されて、配線パターン層となっている。近年、大容量の電流に対応した配線板についても高密度化が要求されており、樹脂との接着のために粗化処理した面(以下「M面」という)と反対側の面(以下「S面」という)すなわち基板の外側の面に、チップが搭載されることが予想され、そのための半田を載せるために下地めっきが要求される。この面は外観の点からも平滑に保つことが望ましい。
【0005】
【特許文献1】特開2006−152329号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、プリント配線板用金属材料などの基板用金属材料の表面にエッチング処理によって粗化処理を行う場合、M面をエッチング粗化する前にS面となる側にマスキングテープを貼り合わせS面を保護しなければならない。マスキングに使われたテープは再利用できないので、通常廃却することになる。その量は製品と同じ面積だけ必要であり、コストや環境の点を考慮すると省略したほうが好ましい。さらに省略によって製造スペースの点でもメリットが得られる。
【0007】
本発明は、基板用金属材料の表面にエッチング処理によって粗化処理を行う場合に、廃却物が生じるマスキング工程(レジスト塗布工程)を省略することができかつ半田を載せるための下地となる平滑なS面が得られる基板用金属材料の製造方法の確立と、それによって得られる基板用金属材料を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の基板用金属材料は、厚さ70μm以上の金属材料素材の片面に金属めっき層を有し、他方の面にJIS B0601 1994における十点平均粗さRzが1.0μm以上10.0μm以下の溝を有する基板用金属材料である。
【0009】
前記金属めっき層は、Sn、Ni、Fe、Mo、Wのいずれか1つまたは2つ以上の組み合わせからなるとよい。
【0010】
前記金属めっき層の膜厚が0.1μm以上3.0μm以下であるとよい。
【0011】
また、本発明の基板用金属材料の製造方法は、厚さ70μm以上の金属材料素材の片面に金属めっき処理を行う工程と、前記金属めっき処理によって形成された層をバリア層として他方の面を粗化処理する粗化工程とを含むことを特徴とする基板用金属材料の製造方法である。
【0012】
前記粗化工程は、エッチング粗化処理またはショットブラスト処理のうちいずれか1つ、または電気めっき処理を含めてこれら2つ以上の組み合わせにより行うとよい。
【0013】
基板用金属材料の表面の全部若しくはその一部に、更に金属の微粒子が付着しているとよい。
【発明の効果】
【0014】
これらの方法で製造された大電流基板用金属板は、S面は半田濡れ性良好な下地めっき処理を施し、M面は樹脂との密着性を上げるための粗化処理が施される。さらに、この工程で作製すればマスキングテープを必要としない効率的かつ経済的な処理方法となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明は、金属板の厚さが70μm(0.07mm)以上の積層配線板用金属板の片面にNi等の平滑な金属めっき処理を施す。この金属は、次工程である粗化工程におけるエッチング処理液に溶解しないものである必要があるため、Sn、Ni、Fe、Mo、Wのいずれか1つまたは2つ以上の組み合わせからなるとよい。反面、Znのような金属はエッチング液に溶解するため不向きである。
【0016】
Niめっきは硫酸過水系エッチング液に対して表面が削られにくい性質がある。また、半田の下地となることが出来るため、Niめっきはさらに好ましいものである。
【0017】
その後、エッチング等で粗化処理を行い平滑めっきした面と反対の面を粗化する。最後に粗化した面(M面)に必要な後処理を行うことで、マスキング工程を省略でき、なおかつ半田の下地を築くことができる。後処理として使うことのできる金属は、Cu、Ni、Zn、Si、Mo、Wが挙げられる。これらのうち1つもしくは2つ以上の金属を電気めっきの方法で付着させる。このように後めっきを行うことにより、基板用金属材料の表面の全部若しくはその一部に、金属の微粒子が付着する。このときのめっき膜厚は数nm〜数十nmである。
【0018】
材料となる配線板用金属板の厚さが70μm未満の場合、エッチング処理するときのハンドリングが難しい。すなわち、金属板が切れやすくなり、粗化処理のバリア層として行う金属めっきが0.1μm未満の場合には、バリア層として機能しない可能性がある。また、3.0μm以上めっきをすると、めっきの内部応力により形状を保持することが困難になる。
【0019】
また、溝の深さは1.0〜10.0μmであることから、溝の表面粗さはJIS B0601 1994における十点平均粗さRzが1.0μm以上10.0μm以下とした。
【0020】
粗化処理を行う金属材料は一般的な銅板材等が好適である。但し、これのみには限定されないのは勿論であり、アルミ板等の金属にも適用可能である。さらに近年では、金属と有機材料とを組み合わせた熱伝導率の高いハイブリッド複合材が開発されており、このような材料に関しても同様の処理を施すことが可能である。また、バリア層として使われる金属についてもNiめっきだけでなく、Ni合金として処理することもできるし、他の金属との合金であってもエッチングのバリア効果があれば同様に適用可能である。
【実施例】
【0021】
<実施例1>
材料として、10cm×9cm、厚さ0.28mm(280μm)の無酸素銅板を用い、電解脱脂、酸洗処理を行った後、硫酸過水系エッチング液に一定時間浸し、このときの金属溶出量を測定した。これとは別に、同様の無酸素銅板にNiめっきを厚さ0.6μmのせた試料に同様の処理を施した。どちらのサンプルも十点平均粗さRzは0.4〜0.5μmであった。用いたエッチング液は、荏原電産社製過水硫酸系エッチング液NBDII(商品名)である。エッチング条件を表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
このとき、Niめっき処理を施していない無酸素銅板では、表面が削られて質量が0.18g減少し、表面粗さはRz:3.0μmまで粗くなった。これに対して、Niめっきを施したサンプルの質量変化は無く、表面粗さもRz:0.4μmと変わらなかった。
【0024】
これを図1を用いて説明する。図1に示すように、金属材料素材として10cm×9cm、厚さ0.28mm(280μm)の銅板(無酸素銅板)4を用意し(工程(a))、その片面に金属めっき層としてNiめっき5を厚さ0.6μm施し(工程(b))、上記の条件で電解脱脂、酸洗処理を行った後、硫酸過水系エッチング液に一定時間浸して表面粗さRzが0.4μmの粗化処理の溝6を形成した(工程(c))。その後、防錆処理の後めっき7としてCuの微粒子を付着させた(工程(d))。このようにして片面にNiめっきを有し、もう一方の面に溝を有する金属材料をマスキング工程を経ずに得ることができた。
【0025】
<実施例2>
1Lビーカーに上記過水硫酸系エッチング液を入れた。この中に無酸素銅の銅板(厚さ0.28mm)を塩ビ板(塩化ビニルの板)に貼り付け、100mm×90mm部分のみを露出させた試料を一定条件の下エッチング液に浸漬させた。浸漬処理は<実施例1>と同様の処理条件で行った。
【0026】
次に、このエッチング液に銅片を0g/L、3g/L、10g/L溶解させたもの、NiSOを0g/L、3g/L、10g/L溶解させたもの、これらの条件を組み合わせたもので、同様の実験を行い、溶出量と十点平均粗さRzの関係を調べた。測定結果を表2に示す。
【0027】
【表2】

【0028】
NiSO、3g/Lを投入した時ニッケルイオン濃度は1.14g/L、硫酸イオン濃度は1.86g/Lであり、10g/Lを投入した時ニッケルイオン濃度は3.79g/L、硫酸イオン濃度は6.21g/Lである。実施例1において、Niめっきが溶解するスピードは銅のエッチングの時と比較すると極端に遅いために、Niイオン濃度0〜4g/Lの範囲で検証すれば十分であると判断した。
【0029】
表2より銅イオン濃度10g/LでNiイオン濃度を増加させたときに銅のエッチング速度に影響を及ぼすことはなかった。この実験からは、Niイオンの影響については銅イオン濃度の影響と比較すると極端に少ないことがわかる。しかし、長期的な処理を行った場合、Niイオンが過酸化水素を分解することや、表面をミクロで観察した場合、溝の形状が異なるという現象が現れるために、Niイオン濃度は低いところで管理する必要がある。
【0030】
<実施例3>
材料として、10cm×9cm、厚さ0.28mmの無酸素銅板にNiめっき、Snめっき膜厚を0.07μm、0.6μm、1.5μmと変えたサンプルについて、実施例2と同様にエッチング液で処理した。金属溶出量を表3に示す。
【0031】
【表3】

【0032】
めっき膜厚が0.1μm以下の場合、金属によってはバリア効果が得られないものもある。そのため、バリア層としてめっきするためには、めっき膜厚0.1μm以上であることが望ましい。また、めっき膜厚が3.0μmを超えても大きな効果はさほど期待できず、コストが増大する。また、めっき液中の金属消費量が増えるため液の管理が大変になる。めっき膜厚は3.0μm以下が望ましい。
【0033】
めっき膜厚は全て蛍光X線装置:SFT 157(SII製)で測定した。
【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明における銅条処理のプロセスを示す図である
【図2】高放熱対応の銅ベース基板の断面を示す図である。
【符号の説明】
【0035】
1 導体回路(プリント配線板用金属材料)
2 絶縁層(プリント配線板用樹脂基材)
3 べースメタル
4 銅条(銅板)
5 金属めっき
6 溝
7 後めっき(金属の微粒子)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
厚さ70μm以上の金属材料素材の片面に金属めっき層を有し、他方の面にJIS B0601 1994における十点平均粗さRzが1.0μm以上10.0μm以下の溝を有することを特徴とする基板用金属材料。
【請求項2】
前記金属めっき層は、Sn、Ni、Fe、Mo、Wのいずれか1つまたは2つ以上の組み合わせからなることを特徴とする請求項1に記載の基板用金属材料。
【請求項3】
前記金属めっき層の膜厚が0.1μm以上3.0μm以下であることを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の基板用金属材料。
【請求項4】
厚さ70μm以上の金属材料素材の片面に金属めっき処理を行う工程と、前記金属めっき処理によって形成された層をバリア層として他方の面を粗化処理する粗化工程とを含むことを特徴とする基板用金属材料の製造方法。
【請求項5】
前記粗化工程は、エッチング粗化処理またはショットブラスト処理のうちいずれか1つ、または電気めっき処理を含めてこれら2つ以上の組み合わせにより行うことを特徴とする請求項4に記載の基板用金属材料の製造方法。
【請求項6】
請求項4または5に記載の基板用金属材料の製造方法により作製した基板用金属材料の表面の全部若しくはその一部に、更に金属の微粒子を付着させたことを特徴とする基板用金属材料。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−100868(P2010−100868A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−270879(P2008−270879)
【出願日】平成20年10月21日(2008.10.21)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】