説明

基準信号発生装置

【課題】起動からホールドオーバが起きるまでのタイミングによらず、高精度な自走用制御電圧信号を出力する。
【解決手段】基準信号発生装置は、起動して1PPSを受信すると、同時に自装置内のPLL回路の制御電圧信号のDAC値を順次記憶する。基準信号発生装置は、制御値変化量算出タイミングになると、当該タイミングの直前の期間でのDAC値の変化量である制御値変化量を算出する。基準信号発生装置は、このようなタイミングでの制御値変化量の算出を二回行うと、隣り合う期間の制御値変化量の差分値を算出し、当該差分値が推定利用可能閾値レベルと比較する。基準信号発生装置は、差分値が推定利用可能閾値レベル以下であることを検出すると、このタイミングの直前の期間のDAC値から自走用制御電圧信号の推定を開始し、それ以前の期間のDACを利用しない。この処理は、推定開始の判断がされるまで繰り返し行われる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、デジタル通信等の無線通信設備に用いる基準信号発生装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
携帯電話や地上波デジタル放送等の広範囲なエリアで無線システムを提供する場合には、末端の機器にデータを送信するために複数の基地局が必要となる。これらの基地局では、仕様上、高精度な基準信号すなわち基準周波数信号やタイミング信号が必要となる。そして、このような状況下で用いられる基準信号発生装置は、電圧制御発振器を備え、GPSシステムから得られる1PPSのような高精度なリファレンス信号に自装置が発生する基準信号を同期させるように、電圧制御発振器に対して制御電圧信号を与えることで、高精度な基準信号を発生している。そして、この基準信号発生装置では、特許文献1に示すように、GPS信号から得られる1PPSと発振器の出力信号とを比較して、その差からGPS信号の1PPSに常に同期するように発振器の発振周波数制御を行っている。
【0003】
ところで、このようにGPS等の測位用衛星を用いた測位システムから得られるリファレンス信号を利用する場合、測位用衛星からの測位信号を確実且つ正確に受信し続けなければならない。しかしながら、GPSアンテナの設置位置や設置方向により測位信号が受信できなかったり、妨害波等により測位信号を正確に受信できなかったり、測位用衛星から測位信号が送信されなかったりした場合には、同期のためのリファレンス信号を得ることができない。このようなリファレンス信号の入力断の状態(ホールドオーバ状態)になると、従来の基準信号発生装置は、電圧制御発振器に与えられていた過去の制御電圧信号のレベル変化に基づいて、自走用の制御電圧信号を順次推定して、電圧制御発振器に与えていた。
【特許文献1】特開2002−16438号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述のような従来の基準信号発生装置では、予め設定された時間長に亘る過去の制御電圧信号のレベルに基づいて推定演算を行っているが、このような推定方法では、次に示す問題が生じる。
図6は、基準信号発生装置の起動時点からの制御電圧信号のレベル(DAC値)の推移を示す図であり、一定の周波数からなる基準信号を発生するための制御電圧信号のレベルの推移を示す図である。なお、図6(A)は立ち上がり特性が良い状況を示し、図6(B)は立ち上がり特性が悪い状況を示す。また、図中におけるTa,Tbはそれぞれホールドオーバが発生して、自走用の制御電圧信号に切り替えるタイミングを示し、Ttは推定に参照する期間(推定参照期間)を示す。
【0005】
自走用の制御電圧信号へ切り替えるタイミングが、装置の起動時点から十分に時間経過し、制御電圧信号のレベルが安定している状態下である場合(タイミングTaの場合)、図6(A)、図6(B)に示すように、立ち上がり特性に関係することなく、推定参照期間Tt中での制御電圧信号のレベル変動が少なく、最小自乗法等を用いて自走用制御電圧信号を精度良く推定することができる。
【0006】
ところが、自走用の制御電圧信号へ切り替えるタイミングが、装置の起動時点からあまり経過しておらず、推定参照期間Ttの最も過去の時点が起動直後に達するような場合(タイミングTbの場合)、図6(B)に示すように立ち上がり特性が悪ければ、推定参照期間Tt内に、制御電圧信号のレベルの時間変化率が高い期間が含まれてしまう。
【0007】
このように、制御電圧信号のレベルが安定せず時間変化率が高い期間が含まれると、上述の最小自乗法を用いるような比較的容易な演算で精度が得られるような推定方法を用いても、推定される自走用の制御電圧信号の精度が低くなってしまう。
【0008】
したがって、本発明の目的は、起動からホールドオーバが発生するタイミングまでの時間長に影響されることなく、高精度に自走用制御電圧信号を推定して出力できる基準信号発生装置を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、位相比較器、ループフィルタ、電圧制御発振器、および制御手段を備える基準信号発生装置に関するものである。位相比較器は、外部からのリファレンス信号と電圧制御発振器の出力する基準信号から得られる調整用タイミング信号との位相差を取得し位相差信号を出力する。ループフィルタは、位相差信号から制御電圧信号を生成する。電圧制御発振器は、制御電圧信号に基づいて基準信号を発生する。そして、制御手段は、過去の制御電圧信号の推移に基づく自走用制御電圧信号を生成し、リファレンス信号の入力断を検出すると制御電圧信号に代えて自走用制御電圧信号を電圧制御発振器へ与える。この際、制御手段は、それぞれが予め設定した時間長からなる期間毎に前記制御電圧信号のレベル変化量を時系列に算出する。そして、制御手段は、時系列に隣り合う期間同士のレベル変化量の差が所定閾値レベル以下になった期間から以降の制御電圧信号を用いて自走用制御電圧信号の推定を行う。
【0010】
この構成では、自走用制御電圧信号の推定に対して、装置の立ち上がり直後のようなレベル変動が大きい期間内における制御電圧信号が用いられず、レベル変動が小さくなってからの制御電圧信号のみが用いられるので、自走用制御電圧信号の推定結果が比較的容易な推定演算を用いても高精度になる。
【0011】
この発明の基準信号発生装置の制御手段は、所定閾値レベルを、レベル変化量の差を算出するタイミング毎に設定している。制御手段は、自装置の起動時点から自走用制御電圧信号の推定を開始し、レベル変化量の差を算出するタイミング毎にレベル変化量の差と所定閾値レベルとを比較し、レベル変化量の差が所定閾値レベルになったことを検出した時点で、過去の推定結果を破棄して、新たな推定を開始する。
【0012】
この構成では、自装置の起動時点から時系列に推定利用可能を判断する閾値レベルが設定され、これら閾値レベルによる判断に応じて新たな推定に切り替えられるので、起動時点からの経過時間に応じた適切な推定が行われる。これにより、自走用制御電圧信号を状況に応じて、より高精度に推定することができる。
【0013】
また、この発明の基準信号発生装置の制御手段は、所定閾値レベルのそれぞれを、時系列において過去に当たる前のタイミングでの閾値レベル以下に後のタイミングでの閾値レベルの方が設定されている。
【0014】
この構成では、起動時点からの経過時間が長いほど一定の基準信号を出力するために電圧制御発振器へ与えられる制御電圧信号のレベルが安定することに対応させ、起動時点からの経過時間が短いほど閾値レベルを高くし、起動時点からの経過時間が長いほど閾値レベルを変化させないか低く設定する。このような設定とすることで、起動特性に依存する自装置の状態に応じた閾値レベルが設定され、各状態に応じた最適な推定が可能になるとともに、経過時間に応じて、より高精度な推定が可能になる。
【0015】
また、この発明の基準信号発生装置の制御手段は、レベル変化量の差が所定閾値レベルになったことを検出した時点で、自走用制御電圧信号の推定を開始する。
【0016】
この構成では、自走用制御電圧信号の推定開始タイミングが制御電圧信号のレベル変化の状況に応じて決定されるので、起動直後から自走用制御電圧信号の推定を常時行う必要がない。
【0017】
また、この発明の基準信号発生装置の制御手段は、リファレンス信号の入力断を検出したタイミングが自装置の起動時点から前記推定による推定不能時間内であることを検出すると、予め設定した固定レベルの自走用制御電圧信号を生成する。
【0018】
この構成では、上述のような推定が可能な程度に過去の制御電圧信号を得ることができない状況でホールドオーバが発生しても、自走用制御電圧信号を出力することができる。
【0019】
また、この発明の基準信号発生装置の制御手段は、自装置の起動時点を基準として、レベル変化量の差が所定閾値レベルにならない時間長が所定時間長に達すると、自走用制御電圧信号の推定を開始する。
【0020】
この構成では、制御電圧信号のレベルが不安定な状態が続いても、推定が開始されていないという事態が生じず、強制的に自走用制御電圧信号を推定することができる。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、装置の起動特性に影響されることなく自走用制御電圧信号を高精度に推定して、ホールドオーバ時に出力することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
本発明の第1の実施形態に係る基準信号発生装置について図を参照して説明する。
【0023】
図1は、本実施形態の基準信号発生装置およびこの装置にリファレンス信号を与える回路を示す概略ブロック図である。なお、以下の説明では、GPSを用いてリファレンス信号を取得する例を示すが、他のGNSSを用いても良く、さらには外部装置からリファレンス信号を取得しても良い。
【0024】
本実施形態の基準信号発生装置1は、制御部10、位相比較器11、ループフィルタ12、スイッチ回路13、電圧制御発振器14、分周器15を備える。
【0025】
この基準信号発生装置1にはGPS受信機2が接続されており、GPS受信機2にはGPSアンテナ3が接続されている。GPS受信機2は、GPSアンテナ3で受信した測位用信号に基づいて航法メッセージ等の測位関連情報を取得するとともに、リファレンス信号である1PPSを生成し、位相比較器11へ与える。
【0026】
位相比較器11は、1PPSと、電圧制御発振器14から出力される基準周波数信号を分周器15で分周してなる調整用タイミング信号との位相差を検出し、当該位相差に基づく電圧レベルの位相差信号を生成して出力する。ループフィルタ12は、ローパスフィルタ等により構成され、位相差信号の電圧レベルを時間軸上で平均化することで、制御電圧信号を生成して制御部10とスイッチ回路13へ出力する。
【0027】
スイッチ回路13は、電圧制御発振器14の制御信号入力端子に対して、ループフィルタ12または制御部10の何れか一方を接続するように切り替え可能とする回路である。この切り替えは、制御部10からの切替制御信号に応じて行われる。
【0028】
制御部10は、基準信号発生装置1を動作させる各種制御を行う。また、制御部10は、ループフィルタ12から入力される制御電圧信号のレベル(DAC値)を時系列で観測して記憶するとともに、予め設定した所定タイミング毎に制御電圧信号のレベル変化量を算出する。そして、制御部10は、詳細な方法は後述するが、時系列で隣り合うタイミングでそれぞれ算出されたレベル変化量に基づいて、自走用制御電圧信号の推定や出力を制御する。また、制御部10は、GPS受信機2から1PPSの受信の有無に応じてスイッチ回路13の切替制御を行う。具体的には、制御部10は、GPS受信機2から1PPSを取得できればループフィルタ12と電圧制御発振器14とを接続するように切替制御信号をスイッチ回路13へ与える。一方、制御部10は、GPS受信機2から1PPSを取得できなければ、すなわちホールドオーバを検出すれば、自身(制御部10)と電圧制御発振器14とを接続するように切替制御信号をスイッチ回路13へ与える。そして、制御部10は、ホールドオーバを検出した時点で、推定した自走用制御電圧信号を出力する。自走用制御電圧信号は、スイッチ回路13を介して電圧制御発振器14へ与えられる。
【0029】
次に、制御部10における自走用制御電圧信号の推定方法について詳細に説明する。
【0030】
図2は自走用制御電圧信号の推定、出力フローを示すフローチャートである。また、図3(A)は装置起動時からの制御電圧信号レベル(DAC値)の時間特性を示す図であり、自走用制御電圧信号の推定方法を説明するための図である。図3(A)において、fcはDAC値の特性曲線を示す。また、図3(B)は自走用制御電圧信号の推定に利用する期間を説明するための図であり、ハッチングバー部分が推定に実際に利用する期間を示す。
【0031】
基準信号発生装置1が起動操作されると内部の各機能部が起動し(S101)、制御部10は計時を開始する。また、制御部10は、GPS受信機2からの1PPS信号の入力を確認すると、ループフィルタ12と電圧制御発振器14とを接続するようにスイッチ回路13を制御する。これに伴い、位相比較器11、ループフィルタ12、スイッチ回路13、電圧制御発振器14、分周器15からなるPLL回路が形成され、GPS受信機2からの1PPS信号に同期した基準周波数信号が出力される。この基準周波数信号の生成工程において、ループフィルタ12からは位相比較器11の位相差信号に応じた制御電圧信号が出力される。制御部10は、この制御電圧信号レベル(DAC値)の取得及び記憶を開始する(S102)。
【0032】
制御部10は、DAC値の取得、記憶を、例えばPLL回路として位相比較を行うタイミング毎に生成される各制御電圧信号を時系列に取得および記憶していく。
【0033】
そして、予め設定した第1回制御値変化量算出タイミングT1に達すると、制御部10は、起動時点T0から第1回制御値変化量算出タイミングT1までの期間TL1で記憶されたDAC値を読みだし、移動平均の算出等で得られる第1制御値変化量Ma1を算出して記憶する(S103)。
【0034】
次に、制御部10は、第2回制御値変化量算出タイミングT2に達するまで上述のように順次DAC値を記憶していく(S104:No→S141)。そして、制御部10は、第2回制御値変化量算出タイミングT2に達すると、第1回制御値変化量算出タイミングT1から第2回制御値変化量算出タイミングT2までの期間TL2で記憶されたDAC値を読みだし、移動平均の算出等で得られる第2制御値変化量Ma2を算出して記憶する(S104:Yes→S105)。
【0035】
制御部10は、今回算出した第2制御値変化量Ma2と、直前の制御値変化量算出タイミングである第1制御値変化量算出タイミングT1で算出した第1制御値変化量Ma1との差分値を算出する(S106)。すなわち、時系列で隣り合う期間TL1と期間TL2とでの制御値変化量Ma1,Ma2の差(変化量)を算出する。
【0036】
制御部10は、制御値変化量の差分値が、自走用制御電圧信号の推定利用可能閾値レベル以下であることを検出すると(S107:Yes)、自走用制御電圧信号の推定を開始する(S108)。この際、制御部10は、推定開始を検出した第2制御変化量算出タイミングT2の直前の期間TL2のDAC値に基づいて、N次関数でフィッティングする等の最小自乗法等を用いた推定方法で自走用電圧制御信号を推定し、DAC値を算出する。
【0037】
なお、ここで、推定開始のトリガとなる推定利用可能閾値レベルは予め実験等により設定されており、制御値変化量の差分値が当該推定利用可能閾値レベル以下であれば、推定される自走用制御電圧信号のDAC値による基準周波数信号と1PPSに同期し続けることで継続的に得られるDAC値による基準周波数信号との位相差が、装置の信頼性スペック範囲内に入るように設定されている。
【0038】
一方、制御部10は、制御値変化量の差分値が推定利用可能閾値レベルよりも高ければ(S107:No)、制御値変化量Ma2を更新記憶し(S171)、次の第3回制御値変化量算出タイミングT3に達するまで上述のように順次DAC値を記憶していく(S141)。そして、制御部10は、第3回制御値変化量算出タイミングT3に達すると、直前の期間TL3での制御値変化量Ma3と、前のタイミングで記憶した制御値変化量Ma2との差分値を算出して、推定開始の検出を行う。そして、制御値変化量Ma2,Ma3の差分値が推定利用可能閾値レベル以下になることを検出すると、期間TL3以降のDAC値を用いて自走用制御電圧信号の推定を開始し、推定利用可能閾値レベルよりも高いことを検出すると、制御値変化量Ma3を更新記憶し、次の第4回制御値変化量算出タイミングT4に達するまで上述のように順次DAC値を記憶していく。このような推定開始の検出は、制御値変化量の差分値が推定利用可能閾値レベル以下になるまでタイミングT5以降も繰り返し行われ、推定利用可能閾値レベル以下になったタイミングで自走用制御電圧信号の推定を開始する。なお、この繰り返し処理が予め設定した推定開始検出停止時間に達すると、制御部10は、強制的に自走用制御電圧信号の推定を開始する。
【0039】
制御部10は、自走用制御電圧信号の推定が開始されると、継続してループフィルタ12から新たなDAC値を取得する毎に、自走用制御電圧信号を推定しなおして更新していく(S109)。
【0040】
この際、制御部10は、上述のように検出された推定開始のタイミングの直前の期間以降で且つ予め設定した推定参照用時間長に存在するDAC値に基づいて自走用制御電圧信号の推定を行う。例えば、図3(A)における期間の三つ分に対応する時間長を推定参照期間とした場合で、第2回制御値変化量算出タイミングT2から推定を開始した場合、期間TL2以降のDAC値が利用可能となるので、図3(B)に示すように、第2回制御値変化量算出タイミングT2に相当するタイミングでは期間TL2のDAC値のみから自走用制御電圧信号の推定を行い、第3回制御値変化量算出タイミングT3に相当するタイミングでは期間TL2,TL3のDAC値のみから自走用制御電圧信号の推定を行う。また、第3回制御値変化量算出タイミングT3と第4回制御値変化量算出タイミングT4との間のタイミングT3’では、期間TL2,TL3のDAC値とタイミングT3からタイミングT3’までの間のDAC値とから自走用制御電圧信号の推定を行う。そして、第4回制御値変化量算出タイミングT4に相当するタイミングでは期間TL2〜TL4のDAC値から自走用制御電圧信号の推定を行う。また、第4回制御値変化量算出タイミングT4以降の例えば第5回制御値変化量算出タイミングT5に相当するタイミングでは期間TL3〜TL5のDAC値から自走用制御電圧信号の推定を行う。
【0041】
このように、推定開始を判定したタイミングの直前の期間を含んで設定される推定に利用する時間長が予め設定した推定参照期間よりも長ければ、最近の推定参照用時間長内のDAC値を利用し、推定開始タイミングの直前の期間を含んで設定される推定に利用する時間長が予め設定した推定参照期間よりも短ければ、利用できる時間長内のDAC値のみを利用して自走用制御電圧信号の推定を行う。これにより、制御値変化量の変化が大きい時に取得されたDAC値が自走用制御電圧信号の推定に利用されないので、推定精度が向上する。
【0042】
このような自走用制御電圧信号の推定は、繰り返し行われ、推定されたDAC値は、順に更新記憶される(S110:No→S109)。
【0043】
次に、このような推定が行われている期間に、ホールドオーバを検出すると(S110:Yes)、制御部10は、スイッチ回路13に対して、制御部10と電圧制御発振器14とを接続するように切替制御を行い、推定した自走用制御電圧信号を出力する(S111)。そして、これ以降のホールドオーバ期間内では、制御部10は、自身で推定した自走用制御電圧信号のDAC値をも含んで、上述の推定処理を継続して行い、自走用制御電圧信号を出力し続ける(S112)。
【0044】
このような構成および処理を行うことで、基準信号発生装置1は、ホールドオーバ状態となった時点で、1PPSに同期した場合の制御電圧信号と同等の精度からなる自走用制御電圧信号を出力することができる。これにより、基準信号発生装置1は、ホールドオーバが発生しても、高精度な基準周波数信号を出力し続けることができる。
【0045】
図4は本実施形態の構成の基準信号発生装置により推定開始から24時間後に生成される基準周波数信号の位相差を計測する実験結果を示したグラフであり、(A)が従来の推定方法を用いた場合を示し、(B)〜(D)が本実施形態の推定方法を用いた場合を示す。なお、従来の推定方法とは、推定開始タイミングを本実施形態のように最適化せず、単に過去の所定時間長のDAC値に基づいて推定を行うものである。一方、(B)〜(D)に示す本実施形態の推定方法では、それぞれ推定利用可能閾値レベルが異なり、(B)の推定利用可能閾値レベルDth1>(C)の推定利用可能閾値レベルDth2>(D)の推定利用可能閾値レベルDth3に設定されている。すなわち、(B),(C),(D)の順で推定開始タイミングでのDAC値の変化量が小さくなければ推定が開始されないように設定されている。
【0046】
図4に示すように、本実施形態の推定方法を用いることで、従来の推定方法よりも、位相差の分布にバラツキがなく、位相差が略0の度数が大幅に増加している。この結果を見ても分かるように、本実施形態の構成および推定方法を用いることで、ホールドオーバが発生しても高精度な基準周波数信号を発生することができる。
【0047】
また、上述のように所定時間に亘り推定が開始されない場合に、強制的に推定を開始することで、自走用制御電圧信号を推定されないままとなることを防止できるので、ホールドオーバが発生した時点で、確実に自走用制御電圧信号へ切り替えて、基準周波数信号を発生することができる。
【0048】
なお、上述の説明には詳細に記載していないが、制御値変化量の差分値が推定利用可能閾値レベル以下になる前にホールドオーバが発生することも考えられる。このような場合、制御部10は、予め設定した固定のDAC値からなる自走用制御電圧信号を出力するようにすればよい。これにより、基準信号発生装置は、起動後のいずれの時点でホールドオーバが発生しても、自走用制御電圧信号を用いて基準周波数信号を発生することができる。
【0049】
以上のように、本実施形態の構成を用いることで、ホールドオーバが発生しても、それぞれの時点に応じて最適で且つ可能な限り高精度な基準周波数信号を発生することができる。
【0050】
次に、第2の実施形態に係る基準信号発生装置について説明する。
【0051】
本実施形態の基準信号発生装置は、第1の実施形態に示した基準信号発生装置と同じ構成であり、自走用制御電圧信号の推定および出力方法が異なるものである。したがって、以下の説明では、自走用制御電圧信号の推定および出力方法についてのみ説明する。
【0052】
図5は、本実施形態の自走用制御電圧信号の推定、出力フローを示すフローチャートである。
【0053】
基準信号発生装置1が起動操作されると内部の各機能部が起動し(S201)、制御部10は計時を開始する。また、制御部10は、この起動処理により動作開始するPLL回路におけるループフィルタ12からの制御電圧信号レベル(DAC値)の取得及び記憶を開始する(S202)。これと同時に、制御部10は、自走用制御電圧信号の推定を開始し、順次得られるDAC値を用いて自走用制御電圧信号の推定を行う(S203)。
【0054】
制御部10は、制御電圧信号の取得、記憶を、例えばPLL回路として位相比較を行うタイミング毎に時系列で行い、予め設定した第1回制御値変化量算出タイミングに達すると、上述の第1の実施形態と同様に、第1制御値変化量を算出して記憶する(S204)。
【0055】
次に、制御部10は、第2回制御値変化量算出タイミングに達するまで上述のように順次DAC値を記憶していき、第2回制御値変化量算出タイミングに達すると、第1の実施形態と同様に、第2制御値変化量を算出して記憶する(S205)。
【0056】
制御部10は、第2制御値変化量と第1制御値変化量との差分値(第1回差分値)を算出する(S206)。すなわち、時系列で隣り合う期間同士での制御値変化量の差(変化量)を算出する。
【0057】
制御部10は、第1回差分値が第1推定継続閾値以下であれば(S207:Yes)、以降の差分値算出処理を行わず、起動時から行われている自走用制御電圧信号の推定結果を破棄し、第2回制御値変化量算出タイミングの直前の期間からのDAC値を用いた推定へ切り替える(S208)。すなわち、第1制御値変化量算出タイミング以前のDAC値を利用しない推定へ切り替える。なお、第1推定継続閾値は、推定利用可能閾値レベルと同じ概念をもって、予め設定されており、第1推定継続閾値は、起動からの経過時間を加味して設定されている。
【0058】
一方、制御部10は、第1回差分値が第1推定継続閾値よりも高ければ(S207:No)、次の第3回制御値変化量算出タイミングに達するまで上述のように順次DAC値を記憶していくとともに、起動時からの推定を継続する。そして、制御部10は、第3回制御値変化量算出タイミングに達すると、上述の第1の実施形態と同様に第3制御値変化量を算出して記憶する(S271→S272)。制御部10は、第3制御値変化量と第2制御値変化量との差分値(第2回差分値)を算出する(S273)。
【0059】
次に、制御部10は、第2回差分値が第2推定継続閾値以下であれば(S274:Yes)、以降の差分値算出処理を行わず、起動時から行われている自走用制御電圧信号の推定を破棄し、第3回制御値変化量算出タイミングの直前の期間からのDAC値を用いた推定へ切り替える(S275)。なお、第2推定継続閾値は、上述の第1推定継続閾値以下の値に設定されている。これは、どのような電圧制御発振器であっても、起動からの経過時間が長いほど、一定の基準周波数信号を生成するためのDAC値が安定し易いことを利用している。そして、この際にも、第1の実施形態や本実施形態の第1推定継続閾値と同様に、当該閾値を用いて推定を切り替えた後の推定結果に基づく基準周波数の誤差精度が装置の仕様を満たすように設定されている。以下、第3推定継続閾値以降の閾値は、第2推定継続閾値以下に設定されている。
【0060】
一方、制御部10は、第2差分値が第2推定継続閾値よりも高ければ(S274:No)、次の第4回制御値変化量算出タイミングに達するまで上述のように順次DAC値を記憶していくとともに、起動時からの推定を継続する(S277→S272)。このような差分値を推定継続閾値と比較して推定を切り替える処理は、順次訪れる制御値変化量算出タイミングでの差分値が、そのタイミングに応じて設定された推定継続閾値以下になるまで、繰り返し行われるが、この繰り返し回数が予め設定した繰り返し閾値に達すると(S276:Yes)、以降の差分値算出処理を行わず、自走用制御電圧信号の推定をリセットする(S275)。
【0061】
このように、各種のタイミングで推定が開始されると、継続的に推定される自走用制御電圧信号のDAC値は順次更新記憶される(S209)。そして、このように推定が継続的に行われている期間に、ホールドオーバが検出されると(S210:Yes)、制御部10は、スイッチ回路13に対して、制御部10と電圧制御発振器14とを接続するように切替制御を行い、推定した自走用制御電圧信号を出力する(S211)。そして、これ以降のホールドオーバ期間内では、制御部10は、自身で推定した自走用制御電圧信号のDAC値をも含んで、上述の推定処理を継続して行い、自走用制御電圧信号を出力し続ける(S212)。
【0062】
このように、本実施形態に示す推定処理を行っても、基準信号発生装置1は、ホールドオーバ状態となった時点で、1PPSに同期した場合の制御電圧信号と同等の精度からなる自走用制御電圧信号を出力することができる。これにより、基準信号発生装置1は、ホールドオーバが発生しても、高精度な基準周波数信号を出力し続けることができる。
【0063】
さらに、本実施形態の推定方法を用いることで、起動直後から確実に自走用制御電圧信号が得られ、且つ起動時からの経過時間に応じて最適な自走用制御電圧信号に推定が切り替えられる。これにより、起動時点からの経過時間に応じた高精度な自走用制御電圧信号を得て、高精度な基準周波数信号を発生することができる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の実施形態に係る基準信号発生装置およびこの装置にリファレンス信号を与える回路を示す概略ブロック図である。
【図2】第1の実施形態の自走用制御電圧信号の推定、出力フローを示すフローチャートである。
【図3】装置起動時からの制御電圧信号レベル(DAC値)の時間特性を示す図である。
【図4】第1の実施形態の構成の基準信号発生装置により推定開始から24時間後に生成される基準信号の位相差を計測する実験結果を示したグラフ
【図5】第2の実施形態の自走用制御電圧信号の推定、出力フローを示すフローチャートである。
【図6】基準信号発生装置の起動時点からの制御電圧信号のレベルの推移を示す図である。
【符号の説明】
【0065】
1−基準周波数信号発生装置、10−制御部、11−位相比較器、12−ループフィルタ、13−スイッチ回路、14−電圧制御発振器、15−分周器、2−GPS受信機、3−GPSアンテナ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
外部からのリファレンス信号と電圧制御発振器の出力する基準信号から得られる調整用タイミング信号との位相差を取得し位相差信号を出力する位相比較器と、
前記位相差信号から制御電圧信号を生成するループフィルタと、
前記制御電圧信号に基づいて前記基準信号を発生する電圧制御発振器と、
過去の制御電圧信号の推移に基づく自走用制御電圧信号を生成し、前記リファレンス信号の入力断を検出すると前記制御電圧信号に代えて前記自走用制御電圧信号を前記電圧制御発振器へ与える制御手段と、を備え、
前記制御手段は、
それぞれが予め設定した時間長からなる期間毎に前記制御電圧信号のレベル変化量を時系列に算出し、
時系列に隣り合う期間同士のレベル変化量の差が所定閾値レベル以下になった期間から以降の前記制御電圧信号を用いて前記自走用制御電圧信号の推定を行う、基準信号発生装置。
【請求項2】
前記制御手段は、
前記所定閾値レベルを、前記レベル変化量の差を算出するタイミング毎に設定しており、
自装置の起動時点から前記自走用制御電圧信号の推定を開始し、
前記レベル変化量の差を算出するタイミング毎に前記レベル変化量の差と前記所定閾値レベルとを比較し、前記レベル変化量の差が推定利用可能な閾値レベルになったことを検出した時点で、過去の推定結果を破棄して、新たな推定を開始する、請求項1に記載の基準信号発生装置。
【請求項3】
前記制御手段は、
前記所定閾値レベルのそれぞれを、時系列において過去に当たる前のタイミングでの閾値レベル以下に後のタイミングでの閾値レベルが設定されている、請求項2に記載の基準信号発生装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記レベル変化量の差が前記所定閾値レベルになったことを検出した時点で、前記自走用制御電圧信号の推定を開始する、請求項1に記載の基準信号発生装置。
【請求項5】
前記制御手段は、
前記リファレンス信号の入力断を検出したタイミングが自装置の起動時点から推定不能時間内であることを検出すると、予め設定した固定レベルの前記自走用制御電圧信号を生成する、請求項4に記載の基準信号発生装置。
【請求項6】
前記制御手段は、
自装置の起動時点を基準として、前記レベル変化量の差が前記所定閾値レベルにならない時間長が所定時間長に達すると、前記自走用制御電圧信号の推定を開始する請求項4または請求項5のいずれかに記載の基準信号発生装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−56699(P2010−56699A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−217480(P2008−217480)
【出願日】平成20年8月27日(2008.8.27)
【出願人】(000166247)古野電気株式会社 (441)
【Fターム(参考)】