説明

基準尺

【課題】 本発明は、接着によって互いに接続された複数の部分部材(10,20)から構成された基準尺に関する。
【解決手段】 接着が、部分部材(10,20)の互いに対向する境界面(11,21;12,22)で行われる。そのために、二つの部分部材(10,20)のそれぞれ互いに対向する境界面(11,21;12,22)が、測定方向(X)に延びており、それらの間に有る、測定方向(X)に対して垂直な方向を向いた隙間(31,32)を形成し、その隙間内に接着剤(4)が配備される。そのような措置によって、接着剤(4)が、膨張又は収縮して体積を変化させた時に、測定方向(X)を向いた力が部分部材(10,20)に加わることができないという作用効果が実現される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1の上位概念に基づく基準尺に関する。
【背景技術】
【0002】
大きな長さを測定するためには、複数の部分部材から組み立てられた基準尺が用いられる。その理由は、今日要求される高い測定精度と長期間の安定性を有する基準尺が比較的短い長さでしか安価に製造できないからである。
【0003】
特許文献1による基準尺は、支持部材の上に測定方向に順番に並んだ複数の部分部材から構成されている。支持部材上において、それらの部分部材は、それぞれ接着剤によって固定されている。
【0004】
本発明が出発点とする特許文献2により、測定方向に順番に配置された複数の部分部材から成る基準尺が周知であり、それらの部分部材は、それらを当接させた箇所において、接着剤を用いて互いに接続されている。そのような二つの部分部材を互いに密着させた当接箇所は、測定方向に拡がる隙間を形成して、その隙間内に接着剤が投入されている。即ち、接着剤は、一方の部分部材の面領域と他方の部分部材の面領域の間に投入されており、それらの互いに対向する面領域の垂直方向は、測定方向を向いている。販売されている接着剤は、硬化する時、老朽化した時及び環境条件(温度、湿度)が変化した時に体積を変化させて、収縮又は膨張できるという特性を有する。隙間内の接着剤の体積が変化すると、接着剤が間に投入されている、部分部材の互いに対向する二つの面領域に力が加わる。そのような力は、測定方向を向いており、部分部材の長さを変化させるか、或いは部分部材を移動させる可能性が有り、それは、位置測定時に測定誤差を生じさせてしまう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平1−282422号公報
【特許文献2】米国特許第4,261,106号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、長期間に渡って安定した高い測定精度を有する、大きな長さを測定するための基準尺を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本課題は、本発明による請求項1の特徴に基づく基準尺によって解決される。
【0008】
有利な実施形態は、従属請求項の措置によって得られる。
【0009】
本発明による基準尺は、測定方向に関する位置を測定するための測定目盛を有する。測定方向に測定範囲を拡大するために、基準尺は、複数の部分部材から構成されており、それらの部分部材は、それらの接続箇所において、互いに対向する第一の境界面によって相互の隙間を形成し、その隙間内に、部分部材を互いに接続する接着剤が配備される。それらの互いに対向する第一の境界面は、測定方向に延びており、それらの境界面の間に有る、測定方向に対して垂直な方向を向いた隙間を形成して、その隙間内に、接着剤が配備される。
【0010】
そのような措置によって、接着剤が、膨張又は収縮によって体積を変化させた時に、測定方向を向いた力が部分部材に加わることができないという作用効果が実現される。部分部材の圧縮、伸長及び移動が防止され、その結果位置測定の高い精度が長期間に渡って安定して保証されることとなる。
【0011】
部分部材の互いに対向する第一の境界面の垂直方向は、それぞれ測定方向に向かう成分を持たない。
【0012】
これらの部分部材は、それらの接続箇所において、互いに対向する第二の境界面を構成する。そのような二つの部分部材の互いに対向する第二の境界面の垂直方向は、それぞれ測定方向に向かう成分を有する。これらの互いに対向する第二の境界面は、部分部材を接続する接着剤を配備されない。
【0013】
互いに対向する第一の境界面を測定目盛の外に配置するのが有利である。そのために、有利には、二つの部分部材の中の一方の部分部材が、それらの接続箇所に切込みを有し、その切込みに、他方の部分部材の突起が嵌入する。そのような切込みと突起は、一方では測定方向に延びる少なくとも二つの互いに対向する境界面を構成して、それらの境界面は、接着剤が配備される隙間を形成し、他方では測定方向に対して垂直に延びる、接着剤が配備されない少なくとも一つの当接箇所を形成する。そのような当接箇所は、測定目盛の領域内に有り、測定目盛の目盛線の長手方向に対して平行に延びる。
【0014】
これらの切込みと突起が舌状に形成されている場合、互いに平行に測定方向に延びる一対の境界面が形成され、そのため接着剤を投入される二つの隙間が形成される。これらの切込みと突起は、それぞれ測定方向に延びる互いに平行に配置された二つの境界面を有し、それらの境界面は、前記の互いに対向する第一の境界面を構成する。そして、そのような二つの部分部材の互いに対向する第一の境界面は、二つの隙間を形成して、それらの隙間内に、それぞれ接着剤が配備される。それらの二つの隙間は、部分部材の中心線に対して対称的に配置される。
【0015】
特に、接着剤の流れ止めが配備される。その流れ止めは、例えば、一方の部分部材の互いに間隔を開けて配置された複数の垂直片によって構成され、それらの垂直片の間の空間は、接着剤を収容するためのポケットを形成する。
【0016】
高精度の位置測定のためには、部分部材がガラス又はセラミックガラスから構成され、その上の測定目盛が光電式に走査可能なように構成されるのが有利である。
【0017】
本発明の更なる利点及び詳細は、以下における添付図面に基づく実施例の記載から明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】組合せ時における基準尺の二つの部分部材の接続箇所の平面図
【図2】部分部材を組み合わた状態での図1の平面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1と2は、基準尺の互いに接続すべき二つの部分部材10,20の接続箇所を図示している。各部分部材10,20は、測定方向Xに関する位置測定のために設けられた測定目盛1を有する。この測定目盛1は、数μm、特に、10μm以下の同じ周期Pの目盛線3が測定方向Xに並んだ配列から成る増分式ライン目盛である。それに代わって、或いはそれに追加して、測定目盛1は、絶対式符号化部分、特に、異なる幅の目盛線が測定方向Xに配置された配列とすることもできる。
【0020】
高精度の位置測定のために、部分部材10,20は、有利には、本質的に安定しており、曲げに強い、そして、有利には、0°〜50°の温度範囲における平均熱膨張係数αが1.5×10-6-1以内の材料から構成され、ZERODUR(登録商標)、SITAL(登録商標)、ULE(登録商標)などの所謂非膨張のガラス又はセラミックガラスを使用した場合、0.1×10-6-1以内となる。高精度の位置測定のために、測定目盛1は、光電式に走査可能なように構成され、振幅格子又は位相格子として構成される。そのために、測定目盛1の目盛線3は、有利には、光を反射するように構成され、特に、高反射性の材料から成る、部分部材10,20の被膜で構成される。
【0021】
図2に図示されている通り、当接された状態、即ち、組み合わされた状態では、二つの部分部材10,20は、それらの接続箇所において、接着によって互いに接続されている。そのために、二つの部分部材10,20の接続されている側の端部は、それぞれ互いに平行に測定方向Xに延びる互いに対向する第一の境界面11,21及び12,22を有する。互いに対向する一方の部分部材10の第一の境界面11と他方の部分部材20の第一の境界面21は、それらの間に有る隙間31を形成し、その隙間内に、接着剤4が投入される。この例では、部分部材10と20は、互いに平行に測定方向Xに延びる互いに対向する第一の境界面12と22を有し、それらの境界面は、それらの間に有る隙間32を形成し、その隙間内に、接着剤4が投入される。これらの二つの隙間31,32は、測定方向Xに対して垂直な方向、即ち、Y方向を向いている。隙間31,32の厚さは、それぞれ約25μmであり、接着は、有利には、部分部材10,20の(Z方向の)全幅に渡って行われ、その幅は、有利には、2mm以上である。接着剤4は、例えば、二成分のエポキシ樹脂製接着剤である。
【0022】
一方の部分部材10の第一の境界面11と12は、互いに平行に測定方向Xに延びており、そのためそれらの境界面の垂直方向N11とN12は、それぞれ測定方向Xに向かう成分を持たない。それらの境界面11及び12とそれぞれ対向する他方の部分部材20の境界面21と22は、同じく互いに平行に測定方向Xに延びており、そのためそれらの境界面の垂直方向N21とN22は、それぞれ測定方向Xに向かう成分を持たない。
【0023】
更に、二つの部分部材10,20は、互いに対向する第二の境界面13,23、14,24及び15,25を有し、これらの境界面は、それらの垂直方向N13,N23,N14,N24,N15,N25がそれぞれ測定方向Xに向かう成分を持つように延びている。これらの第二の境界面13,23;14,24;15,25は、二つの部分部材10,20を接続する接着剤4を配備されない。即ち、それぞれ第二の境界面13,23;14,24;15,25から形成される隙間33,34及び35には、接着剤4が投入されていない。接着剤4は、垂直方向N11,N21及びN12,N22が測定方向Xに向かう成分を持たない、部分部材10,20の互いに対向する境界面11,21及び12,22によって形成される一つ又は複数の隙間31,32にのみ投入される。
【0024】
このような措置の利点は、接着剤4が収縮又は膨張する形で体積を変化させた場合に、測定方向Xを向いた力の成分が部分部材10,20に対して生じ得ないことである。そのために、接着剤4は、垂直方向の成分が測定方向Xに延びる、二つの部分部材10,20の互いに対向する面で保持されないように配備されている。
【0025】
二つの部分部材10と20は、同じ横断面を有し、同じ高さ(Z方向に、即ち、図面の平面に向かって延びる高さ)で延びている。即ち、部分部材10,20の測定目盛1が同一平面内に存在するように、接続されている。
【0026】
ここで例示した接続箇所の構成の利点は、目盛線3の長手方向に対して平行に延びる当接箇所が測定目盛1内に有り、その当接箇所では、境界面13と23が測定方向Xに対して垂直に、即ち、Y方向に延びていることである。それに対して、第一の境界面11,21;12,22は、測定目盛1の外に有る。そのことを実現するために、一方の部分部材10は、それらの接続箇所に切込み5を有し、その切込みに、他方の部分部材20の突起6が嵌入する。これらの切込み5と突起6がそれぞれ舌状に形成されている場合、それらは、測定方向Xに延びる互いに平行に配置された複数の第一の境界面11,21及び12,22を構成する。これらの第一の境界面11,21及び12,22は、互いに平行に延びる二つの隙間31,32を形成し、それらの隙間内に、二つの部分部材10,20を接続するための接着剤4が配備される。二つの隙間31,32は、部分部材10,20の中心線Mに対して鏡面対称に延びている。
【0027】
隙間33は、部分部材10の最後の目盛線とそれに続く部分部材20の目盛線とが周期Pに相当する間隔を開けて配置されるように調整されている。そのために、隙間33をゼロにすることもできる。
【0028】
流動的な接着剤4を使用する場合、接着剤4を投入した時に接着剤4の拡がりを防止する流れ止め7を配備するのが有利である。図示されている例では、そのような流れ止め7は、Y方向に向かって隙間31と32内に突き出た、部分部材20の垂直片として構成されている。接着剤4が両方向+Xと−Xに拡がるのを防止するために、そのような二つの垂直片の間にそれぞれ接着剤4を配備するのが有利である。そして、測定方向Xに対して互いに間隔を開けて配置された二つの垂直片は、それらの間に有る接着剤4を収容するためのポケットを形成する。更に、流れ止め7としての役割を果たす垂直片は、二つの部分部材10,20の間に(Y方向の)所定の幅の隙間31と32を実現するためのスペーサーを構成する。
【符号の説明】
【0029】
1 測定目盛
3 目盛線
4 接着剤
5 切込み
6 突起
7 流れ止め
10 部分部材
11 部分部材10の第一の境界面
12 部分部材10の第一の境界面
13 部分部材10の第二の境界面
14 部分部材10の第二の境界面
15 部分部材10の第二の境界面
20 部分部材
21 部分部材20の第一の境界面
22 部分部材20の第一の境界面
23 部分部材20の第二の境界面
24 部分部材20の第二の境界面
25 部分部材20の第二の境界面
31 隙間
32 隙間
33 隙間
34 隙間
35 隙間
M 部分部材10,20の中心線
N11 境界面11の垂直方向
N12 境界面12の垂直方向
N13 境界面13の垂直方向
N14 境界面14の垂直方向
N15 境界面15の垂直方向
N21 境界面21の垂直方向
N22 境界面22の垂直方向
N23 境界面23の垂直方向
N24 境界面24の垂直方向
N25 境界面25の垂直方向
P 目盛線3の周期
X 方向
Y 方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測定方向(X)に関する位置を測定するための測定目盛(1)を備えた基準尺であって、この基準尺は、少なくとも二つの部分部材(10,20)から組み立てられ、それらの部分部材の互いに対向する第一の境界面(11,21;12,22)が、相互の隙間(31,32)を形成し、その隙間内に、部分部材(10,20)を互いに接続する接着剤(4)が配備される基準尺において、
互いに対向する第一の境界面(11,21;12,22)は、それぞれ測定方向(X)に延びており、それらの境界面の間に有る、測定方向(X)に対して垂直な方向を向いた隙間(31,32)を形成して、その隙間内に、接着剤(4)が配備されることを特徴とする基準尺。
【請求項2】
部分部材(10,20)の接続箇所に、互いに対向する第一の境界面(11,21;12,22)が有り、それらの境界面の垂直方向(N11,N21,N12,N22)が、測定方向(X)に向かう成分を持たず、部分部材(10,20)の接続箇所に、互いに対向する第二の境界面(13,23;14,24;15,25)が有り、それらの境界面の垂直方向(N13,N23,N14,N24,N15,N25)が、それぞれ測定方向(X)に向かう成分を有し、これらの互いに対向する第二の境界面(13,23;14,24;15,25)が、部分部材(10,20)を接続する接着剤(4)を配備されないことを特徴とする請求項1に記載の基準尺。
【請求項3】
互いに対向する第一の境界面(11,21;12,22)が、測定目盛(1)の外に配置されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の基準尺。
【請求項4】
二つの部分部材の中の一方の部分部材(10)が、それらの接続箇所に切込み(5)を有し、その切込みに、他方の部分部材(20)の突起(6)が嵌入することを特徴とする請求項1から3までのいずれか一つに記載の基準尺。
【請求項5】
当該の切込み(5)と突起(6)が、それぞれ測定方向(X)に延びる互いに平行に配置された二つの境界面(11,21;12,22)を有し、それらの境界面が、当該の互いに対向する第一の境界面(11,21;12,22)を構成することを特徴とする請求項4に記載の基準尺。
【請求項6】
二つの部分部材(10,20)の互いに対向する第一の境界面(11,21;12,22)が、二つの隙間(31,32)を形成して、それらの隙間内に、それぞれ接着剤(4)が配備されることと、
これらの二つの隙間(31,32)が、部分部材(10,20)の中心線(M)に対して対称的に配置されていることと、
を特徴とする請求項5に記載の基準尺。
【請求項7】
接着剤(4)に対する流れ止め(7)が配備されていることを特徴とする請求項1から6までのいずれか一つに記載の基準尺。
【請求項8】
当該の流れ止め(7)が、部分部材(10,20)の中の一方の部分部材の互いに間隔を開けて配置された垂直片によって構成されていることを特徴とする請求項7に記載の基準尺。
【請求項9】
部分部材(10,20)が、ガラス又はセラミックガラスから構成されていることを特徴とする請求項1から8までのいずれか一つに記載の基準尺。
【請求項10】
測定目盛(1)が、光電式に走査可能なように構成されていることを特徴とする請求項1から9までのいずれか一つに記載の基準尺。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−180129(P2011−180129A)
【公開日】平成23年9月15日(2011.9.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−14677(P2011−14677)
【出願日】平成23年1月27日(2011.1.27)
【出願人】(390014281)ドクトル・ヨハネス・ハイデンハイン・ゲゼルシヤフト・ミツト・ベシユレンクテル・ハフツング (115)
【氏名又は名称原語表記】DR. JOHANNES HEIDENHAIN GESELLSCHAFT MIT BESCHRANKTER HAFTUNG
【Fターム(参考)】