説明

塗布液の塗布装置

【課題】 塗布液の消費を極力抑制しつつ吐出孔からの塗布液の吐出状態の良否を判定し、良好な塗布状態を維持可能な塗布液の塗布装置を提供する。
【解決手段】 塗布ヘッド7の吐出面7aに一列に配列されて設けられた複数の吐出孔7bから、それぞれの吐出孔7bに対応して設けられた圧電素子7eの駆動によって各吐出孔7bから塗布液の液滴を吐出させ基板W等の塗布対象物上に塗布液を塗布する塗布液の塗布装置において、所定周波数の振動を発生させる発振装置としての超音波発振装置8と、この超音波発振装置8の発振に伴って圧電素子7eから出力される出力信号に基づいて吐出孔7bからの塗布液の液滴の吐出状態の良否を判定する制御装置13とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、圧電素子に電圧を印加して吐出孔から塗布液の液滴を吐出させ塗布対象物に塗布する塗布液の塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、表示装置や半導体装置などを製造工程においては、基板上に機能性薄膜や微細な回路パターンを形成するプロセスがあり、このようなプロセスにおいて、インクジェット方式の塗布ヘッド用いて塗布液を塗布する塗布液の塗布装置が用いられている。
【0003】
このような塗布装置は、塗布対象物を載置したテーブルと塗布ヘッドとを水平方向において相対移動させながら、塗布ヘッドの吐出孔から塗布対象物の被塗布面に向けて塗布液の液滴を順次吐出させることで、塗布対象物に塗布液を塗布している(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
このような塗布装置の塗布ヘッドは、複数の吐出孔を備える。これらの吐出孔は個別に液室に接続されており、それぞれの液室には可撓性の振動板を介して圧電素子が接続される。そして、各圧電素子に駆動電圧を印加して圧電素子を伸縮動作させることで振動板を振動させて液室内に容積変化を生じさせ、この容積変化を利用して吐出孔から塗布液の液滴を吐出させる。
【0005】
また、このような塗布装置においては、各吐出孔から設定量の塗布液が吐出されているか否か、或いは、各吐出孔から塗布液が吐出されているか否かを定期的に検査することが行なわれている。
【0006】
このような検査は、吐出孔から吐出された塗布液の重量を電子天秤等の秤で測定したり、吐出孔から検査用基板上に塗布した塗布液の液滴をカメラ等で撮像したりする技術が知られている。
【0007】
しかしながら、これらの技術はいずれも、その検査の都度、各吐出孔から塗布液を実際に吐出させるので、塗布液の消費を伴うものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2003−103207号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、塗布液の消費を極力抑制しつつ吐出孔からの塗布液の吐出状態の良否を判定し、良好な塗布状態を維持可能な塗布液の塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一実施形態に係る塗布液の塗布装置は、
圧電素子に電圧を印加して吐出孔から塗布液の液滴を吐出させ塗布対象物に塗布する塗布液の塗布装置において、
前記圧電素子に振動を付与する発振装置と、
前記圧電素子に電圧を印加していない状態での前記発振装置によって振動が付与された前記圧電素子からの出力信号に基づいて、前記吐出孔からの前記塗布液の液滴の吐出状態の良否を判定する制御装置と
を備えるものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、塗布液の消費を極力抑制しつつ吐出孔からの塗布液の吐出状態の良否を判定し、良好な塗布状態を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明の第1の実施形態に係る塗布液の塗布装置の概略構成を示す正面図である。
【図2】図2は、本発明の第1の実施形態に係る塗布液の塗布装置の概略構成を示す平面図である。
【図3】図3は、本発明の第1の実施形態に係る塗布液の塗布装置の概略構成を示す側面図である。
【図4】図4は、本発明の第1の実施形態に係る塗布液の塗布装置の要部構成を示す図である。
【図5】図5は、本発明の第1の実施形態に係る塗布液の塗布装置の動作状態を示す図である。
【図6】図6は、圧電素子の経時劣化の度合いと圧電素子からの出力信号との相関関係を示す図である。
【図7】図7は、駆動電圧に対する吐出量の関係を示す図である。
【図8】図8は、本発明の第2の実施形態に係る塗布液の塗布装置の要部構成を示す図である。
【図9】図9は、本発明の第2の実施形態に係る塗布液の塗布装置の動作状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の第1の実施形態について図1〜図7を参照して説明する。
【0014】
塗布装置1は、図1〜図3に示すように、ベース2を有する。このベース2上には、矢印Y方向に沿って設けられた一対のガイドレール3を介して搬送テーブル4が移動可能に設けられる。
【0015】
搬送テーブル4は、図示しない駆動機構によってガイドレール3の延設方向であるY軸方向(図示矢印Y方向)に沿って往復移動される。この搬送テーブル4の上面には、塗布対象物としての基板Wが真空吸着や静電チャック等の吸着手段によって吸着保持される。ここで、基板Wは、例えば、半導体ウエハ等のシリコン基板や表示パネルを製造するために用いられる矩形状のガラス基板が用いられる。
【0016】
ベース2の略中央位置には、Y軸方向に直交するX軸方向(図示矢印X方向)に沿って、搬送テーブル4を跨いで門型フレーム5が設けられる。この門型フレーム5は、一方の脚部と他方の脚部の間に掛け渡された平面視で矩形枠状の支持フレーム6を備る。この支持フレーム6には、複数、この実施形態においては3つの塗布ヘッド7がX軸方向に沿って千鳥状の配列で取り付けられる。
【0017】
塗布ヘッド7は、インクジェット方式の塗布ヘッドであり、図5に示すように、その下面である吐出面7aには複数の吐出孔7bが矢印X方向に沿って配列されて形成される。吐出孔7bは、それぞれ、塗布液を蓄える圧力室としての液室7cに連通する。この液室7cの天井部は、可撓性の振動板7dで塞がれている。この振動板7dにおける液室7cとは反対側の面(上面)には、圧電素子7eが取り付けられる。また、液室7cには、液室7c内に塗布液を供給する流路(不図示)が接続される。
【0018】
このように構成された塗布ヘッド7によれば、駆動電圧が印加されることによって圧電素子7eが伸縮動作し、この圧電素子7eの伸縮動作によって振動板7dが上下方向に撓み変形(振動)する。そして、この振動板7dの撓み変形によって液室7c内に圧力変化が生じ、この作用により、吐出孔7bから塗布液の液滴が吐出する。
【0019】
したがって、塗布ヘッド7は、圧電素子7eに印加する駆動電圧の大きさ変えることで吐出孔7bから吐出させる塗布液の液滴の量を調整することができ、駆動電圧の印加間隔を変更することで吐出周波数(吐出時間間隔)を調整することができる。
【0020】
なお、各塗布ヘッド7には、不図示の塗布液供給手段によって塗布液が供給される。この塗布液としては、例えば、配向膜を形成するための配向膜溶液やレジスト膜を形成するためのレジスト液等を用いることができる。
【0021】
また、搬送テーブル4の移動方向(Y軸方向)における一方の端部側(図1、2における右側の端部側)には、発振装置としての超音波発生装置8が設けられる。
【0022】
超音波発生装置8は、図4に示すように、塗布ヘッド7毎に設けられ、塗布ヘッド7に対向する表面を有し、かつ塗布ヘッド7の吐出面7aと略同じ大きさに形成された平板状の振動部材8aと、これらの振動部材8aの裏面にそれぞれ固定された超音波振動子8bと、各振動部材8aを個別に支持する支持部材8cと、各超音波振動子8bと電気的に接続された超音波発振器8d(図5参照)とを備える。
【0023】
複数の支持部材8cは、昇降駆動手段としてのエアシリンダ9の作動ロッド9aの先端に固定支持された昇降板10上に設けられる。エアシリンダ9は、搬送テーブル4の側壁に固定された略L字状の断面を有するブラケット部材11に支持固定される。
【0024】
また、塗布装置1は、図5に示すように、圧電素子7eに生じる振動を検出する検出器12を備える。この検出器12は、圧電素子7eに信号線を介して接続されるとともに、制御装置13に出力信号を送信可能に電気的に接続される。
【0025】
制御装置13は、搬送テーブル4の移動、塗布ヘッド7による液滴の吐出、超音波発振器8dの発振等を制御する。また、制御装置13は、記憶部13aを付随して備えており、この記憶部13aには溶液の塗布に必要な各種データが記憶される。さらに、制御装置13は、塗布装置1に生じた異常を作業者に報知するための報知手段13bを備える。なお、各種データとは、例えば、吐出孔7bから所定量の液滴を吐出させるために設定された圧電素子に対する駆動電圧、基板W上における塗布液の液滴の塗布位置を示す塗布パターンデータ、搬送テーブル4の移動速度などである。
【0026】
次に、作動について説明する。
【0027】
このような塗布装置1においては、基板Wに対する塗布液の塗布を行うにあたり、まず、制御装置13の制御によって搬送テーブル4がガイドレール3上における基板Wの搬入/搬出作業位置(図1において破線で示す左端側の位置)に位置付けられる。そして、この位置において、搬送テーブル4上には、不図示の搬送ロボットによって基板Wが供給される。
【0028】
搬送テーブル4上に供給された基板Wは、搬送テーブル4が備える吸着手段によって吸着保持される。
【0029】
搬送テーブル4に基板Wが保持されると、制御装置13の制御によって搬送テーブル4がガイドレール3の反対側の端部(右端部)へ向けてY軸方向に沿って移動を開始する。
【0030】
この搬送テーブル4の移動中、制御装置13はガイドレール3に付随して設けられたリニアエンコーダ等の位置検出器(不図示)の出力に基づいて搬送テーブル4の位置情報を取り込む。そして、この位置情報に基づき、基板Wが塗布ヘッド7の下方を通過するタイミングに合せて各圧電素子7bに駆動電圧を印加することで塗布ヘッド7の各吐出孔7bから予め設定された量の液滴を吐出させ、基板W上に設定された各塗布位置に対して塗布液の液滴を塗布する。
【0031】
基板Wが塗布ヘッド7の下方を通過し、搬送テーブル4がガイドレール3の右側端部(図1において実線で示す位置)に到達したならば、搬送テーブル4の移動を停止させる。次いで、搬送テール4を左側端部へ向けて移動させ、基板Wの搬入/搬出作業位置に位置付ける。
【0032】
搬送テーブル4が、搬入/搬出作業位置に位置付けられたならば、不図示の搬送ロボットによって、塗布が完了した基板Wを搬送テーブル4上から取り出し、新たな基板Wを搬送テーブル4に供給する。
【0033】
このような作業を繰返すことで、複数の基板Wに対する塗布液の塗布が順次行われる。
【0034】
なお、基板Wに対する塗布液の塗布は、基板Wを塗布ヘッド7の下方を1回通過させることで行なう以外にも、2回以上の通過によって行なうようにしても良い。
【0035】
このような塗布装置1では、塗布ヘッド7の各吐出孔7bから設定された量の液滴が吐出されることが必要である。そのため、検出器12を用いて、所定のタイミング毎に各吐出孔7bからの液滴の吐出状態、例えば、吐出の有無、予め設定された吐出量の液滴が吐出されているか否か等の検査を行なう。
【0036】
そこで、検出器12を用いた、各吐出孔7bからの液滴の吐出状態の検査について説明する。
【0037】
なお、この液滴の吐出状態の検査は、設定時間間隔毎、設定枚数の基板Wに対する塗布液の塗布が完了する毎、或いは、各吐出孔7bからの平均吐出回数が設定数に達する毎等、所定のタイミングで行なえばよいが、ここでは、1枚の基板Wに対する塗布液の塗布が完了する毎、より具体的には、1枚の基板Wに対する塗布液の塗布が完了し、搬入/搬出作業位置において当該基板Wと次に塗布対象となる基板Wとの搬出/搬入作業が行なわれるタイミングに合わせて行なうものとして説明する。
【0038】
搬送テーブル4上に吸着保持された基板Wに対する塗布液の塗布が完了すると、搬送テーブル4は搬入/搬出作業位置に移動して停止する。
【0039】
搬送テーブル4が搬入/搬出作業位置に停止すると、塗布液が塗布された基板Wの搬出と新たな基板Wの供給が行なわれるが、この作業と並行して、各吐出孔7bからの吐出状態の検査が行なわれる。
【0040】
搬送テーブル4が搬入/搬出作業位置に停止に停止した状態において、超音波発生装置8の各振動部材8aは、丁度それぞれが対応する塗布ヘッド7の直下に位置するように設定されている。
【0041】
そこでまず、エアシリンダ9が駆動され、昇降板10が上昇端へと移動される。昇降板10が上昇端に位置した状態では、各振動部材8aは塗布ヘッド7の吐出面に僅かな隙間を隔てて対向した状態となる。
【0042】
この状態で、超音波発振器8dを所定の振幅および所定の周波数、すなわち、所定の波形で発振させる。超音波発振器8dが発振されると、その出力信号に基づいて各超音波振動子8bが所定の振幅および周波数で振動する。超音波振動子8bの振動は振動部材8aに伝達され、振動部材8aが振動する。
【0043】
振動部材8aの振動は、振動部材8aと塗布ヘッド7の吐出面との間の空気を介して各吐出孔7b内の塗布液に伝達される。塗布液に伝達された振動は、それぞれの吐出孔7bの塗布液を介して液室7c内の塗布液へと伝わり、振動板7dを介してそれぞれ対応する圧電素子7eに伝達され、各圧電素子7eを振動させる。すなわち、超音波発振器8dの出力は、超音波振動子8bの振動が空気と塗布液を伝播して圧電素子7eを充分に伝わる程度の大きさに設定されている。
【0044】
圧電素子7eは、圧電効果を有するから、振動するとその振動によって生じる変形の大きさや振動の周期に応じた波形の電圧が生じる。そして、発生した電圧は、各圧電素子7eから出力されて検出器12に入力される。検出器12は、それぞれの圧電素子7eから出力された電圧の信号を増幅したり、ノイズを除去したりして、圧電素子7eの出力信号、例えは、出力電圧の時間的変化を表した出力電圧波形やこれから得られる出力電圧の振幅(振幅の平均値を含む)や電圧の出力周波数として制御装置13に出力する。
【0045】
制御装置13は、圧電素子7e毎に得られた出力信号に基づいて、当該圧電素子7eに対応する吐出孔7bからの吐出状態の良否を判定する。
【0046】
すなわち、制御装置13の記憶部13aには、圧電素子7eの基準となる出力信号(「基準出力信号」と称す。)が予め実験等によって求められて記憶されている。
【0047】
具体的には、正常な圧電素子7eに対して、上述と同様にして、超音波発生装置8によって所定の振幅および所定の周波数の超音波振動を印加する。このとき、当該圧電素子7eから出力される電圧信号から、圧電素子7eの出力信号を求める。そして、これを基準出力信号として記憶部13aに記憶させる。
【0048】
また、圧電素子7eが経時的な劣化特性を有し、この経時劣化に応じて吐出孔7bからの液滴の吐出量が減少することがある。このような場合には、経時劣化の度合いが異なる複数の圧電素子7eに対して、上述と同様にして、所定の振幅および所定の周波数の超音波振動を印加し、それぞれの圧電素子7eから得られる出力信号に基づいて、圧電素子7eの経時劣化の度合いと出力信号との相関関係(図6)を求める。また、駆動電圧に対する吐出量の関係(図7)についても予め求めておく。このとき、この関係は圧電素子7eの経時劣化に伴って変動するから、経時劣化の度合いに応じて生じる変動に対する補正係数等を定めておき、補正係数を用いて前述の駆動電圧に対する吐出量の関係を補正するようにする。例えば、図7に示すように、駆動電圧に対する吐出量の関係が電圧の増加に対して吐出量が一定の傾きを持って直線的に増加する関係(図7の直線a)を有し、圧電素子7eの経時劣化が進行するに従ってこの傾きが漸減(図7の直線b、c)する場合、この傾きに対する補正係数を経時劣化の度合い毎に設定しておき、経時劣化の度合いに応じて前記傾きを直線bや直線cのように補正するようにするといった具合である。
【0049】
このようにして求めた、圧電素子7eの経時劣化の度合いと出力信号との相関関係、駆動電圧に対する吐出量の関係、および圧電素子7eの経時劣化の度合いに応じた補正係数を、圧電素子7eの経時劣化に対する駆動電圧の補正情報として記憶部13aに記憶させる。
【0050】
このように、記憶部13aに基準出力信号と駆動電圧の補正情報が記憶された制御装置13は、検出器12から出力された各圧電素子7eの出力信号が入力されると、まず、圧電素子7e毎に基準出力信号との比較を実行する。例えば、制御装置13は、圧電素子7eの出力信号から得た出力電圧波形と基準出力信号として記憶された出力電圧波形とを比較し、両者が一致するか否か、或いは、予め設定された許容範囲内で一致するか否かを判定する。判定の結果が「一致」であれば、その圧電素子7eに対応する吐出孔7bからの液滴の吐出状態は良好であると判断し、次の基板Wに対する塗布に備えて待機する。
【0051】
なおここで、出力電圧波形の比較は、出力電圧の振幅と周波数とがそれぞれ一致(許容範囲内を含む)するか否かによって判定することができる。この場合、振幅と周波数のいずれかが不一致であれば、両出力電圧波形は「不一致」であると判定する。
【0052】
なお、振幅と周波数のうちいずれか一方のみの比較によって判定するようにしても良い。例えば、圧電素子7eが経時劣化によって出力電圧の振幅が変化するが周波数は変化しない特性を有する場合、振幅のみを比較すればよく、出力電圧の周波数が変化するが振幅は変化しない特性を有する場合、周波数のみを比較すればよい。
【0053】
なお、以下、圧電素子7eの出力信号から得た出力電圧波形を単に出力信号、基準出力信号として記憶された出力電圧波形を基準出力信号と称す。
【0054】
一方、判定の結果が「不一致」であった場合、その圧電素子7eに対応する吐出孔7bからの液滴の吐出状態が、吐出量不足であると判定し、駆動電圧の補正情報に基づいて駆動電圧の補正値を算出する。
【0055】
この場合、まず、圧電素子7eの出力信号と基準出力信号との差を求める。そして、この差に基づいて、記憶部13aに記憶された、図6に示す、圧電素子7eの経時劣化の度合いと出力信号との相関関係からその圧電素子7eの経時劣化の度合いを求める。次いで、求めた経時劣化の度合い、予め設定された吐出量、図7に示す、駆動電圧に対する吐出量の関係、および圧電素子7eの経時劣化の度合いに応じた補正係数に基づいて、当該圧電素子7eに対する補正駆動電圧を算出する。
【0056】
例えば、圧電素子7eの経時劣化の度合いに応じた補正係数を用いて補正した駆動電圧に対する吐出量の関係が、図7における劣化1(直線b)であって、予め設定された吐出量がM1であった場合、駆動電圧V0に変えて駆動電圧V1を補正駆動電圧として求め、当該圧電素子7eに対する新たな駆動電圧として設定し、次の基板Wに対する塗布に備えて待機する。
【0057】
なお、記憶部13aには、圧電素子7eの出力信号と基準出力信号との差に対する上限値が設定されており、両者の差が上限値に達したときには、吐出量の補正が不可能であると判定し、その後の基板Wに対する塗布液の塗布を実行しない判定をすると共に、報知手段13bによって吐出状態に不良が生じた旨を報知する。この報知は、警報音を発するとともに、モニタ等に吐出状態に不良が生じた吐出孔7bを特定するための管理番号、例えば、塗布ヘッド7の番号と吐出孔7bの番号などを表示することによって行なう。
【0058】
また、圧電素子7eから出力信号が得られない場合、圧電素子7eの破損等による吐出状態の不良であるとして、やはり、その後の基板Wに対する塗布液の塗布を実行しない判定をすると共に報知手段13bによってその旨を報知する。
【0059】
なお、上述において、少なくとも、超音波発生装置8によって圧電素子7eに超音波振動を付与している間、およびこの振動の印加によって振動させられた圧電素子7eからの出力信号を検出器12によって検出している間は、圧電素子7e対して駆動電圧が印加されない状態となっている。
【0060】
このような実施形態によれば、発振装置としての超音波発生装置8を設け、この超音波発生装置8によって塗布ヘッド7の圧電素子7eに超音波振動を印加する。そして、この振動の印加によって振動させられた圧電素子7eからの出力信号に基づいて、当該圧電素子7eに対応する吐出孔7bからの液滴の吐出状態の良否を判定するようにした。そのため、吐出孔7bからの液滴の吐出状態の良否判定を行なう際に、吐出孔7bから液滴を実際に吐出させる必要が無いため、塗布液の無駄な消費を抑制しつつ塗布液の良好な塗布状態を維持することができる。
【0061】
また、吐出孔7bからの液滴の吐出状態が不良の場合に、圧電素子7eの経時的な劣化に対する駆動電圧の補正情報に基づいて、液滴の吐出状態の不良が吐出量不足であるか否かを判定し、吐出量不足であった場合には、圧電素子7eに印加する駆動電圧を補正して、吐出量不足を解消するようにした。これによっても、塗布液の良好な塗布状態を維持することができる。
【0062】
また、超音波発生装置8を用いた吐出孔7bからの液滴の吐出状態の良否判定は、搬送テーブル4に対する基板Wの搬出/搬入作業と並行して行なうようにした。そのため、吐出孔7bからの液滴の吐出状態の良否判定の時間を個別に設ける必要が無く、生産性を向上させることが可能となる。
【0063】
また、全ての塗布ヘッド7の全ての吐出孔7bについての吐出状態の良否判定を同時並行的に行なうようにした。これにより、液滴の吐出状態の良否判定に要する時間の短縮を図ることができる。
【0064】
次に、第2の実施形態について図8、9を用いて説明する。
【0065】
第2の実施形態が第1の実施形態と異なる点は、発振装置の構成である。第1の実施形態における超音波発生装置8は、振動部材8aを塗布ヘッド7の吐出面7aに近接配置して空気を介して超音波振動を吐出孔7b内の塗布液に伝達させたが、第2の実施形態では、液槽15を設け、塗布ヘッド7の吐出面7aを液槽15に貯留した液体、この実施形態では塗布液の溶媒Lに接触させて、液槽15内の液体を介して吐出孔7b内の塗布液に超音波振動を伝達させるようにした点である。
【0066】
すなわち、第2の実施形態においては、昇降板10の上には、支柱16を介して液槽15が支持される。液槽15内には、塗布液の溶媒Lが所定量貯留される。液槽15には、溶媒Lの供給手段と排出手段(いずれも不図示)が設けられており、液槽15内での溶媒Lの液面高さを所定の高さに保つことができるようになっている。
【0067】
この液槽15の下面には、超音波振動子8bが設けられる。超音波振動子8bは、超音波発振器8dと接続される。この第2の実施形態においては、超音波発生装置8は、超音波振動子8bと超音波発振器8dとで構成される。
【0068】
このような第2の実施形態における液滴の吐出状態の検査は、第1の実施形態と同様に、搬送テーブル4に対する基板Wの搬出/搬入作業と並行して行なわれる。
【0069】
すなわち、搬送テーブル4が搬入/搬出作業位置に停止に停止した状態において、液槽15は、3つの塗布ヘッド7の直下に位置するように設定されている。
【0070】
この状態でエアシリンダ9が駆動され、昇降板10が上昇端へと移動される。昇降板10が上昇端に位置した状態で、塗布ヘッド7の吐出面が液槽15内の溶媒Lに接触した状態となる。
【0071】
次いで、超音波発振器8dを所定の周波数で発振させる。超音波発振器8dが発振されると、その出力信号に基づいて超音波振動子8bが所定の周波数で振動する。超音波振動子8bの振動は液槽15の底面を介して溶媒Lに伝達される。
【0072】
溶媒Lの振動は、各吐出孔7b内の塗布液に伝達され、塗布液に伝達された振動はそれぞれの吐出孔7b内、液室7c内へと伝わり、振動板7dを介して圧電素子7eに伝達され、各圧電素子7eを振動させることとなる。すなわち、この場合の超音波発振器8dの出力は、超音波振動子8bの振動が溶媒Lと塗布液を伝播して圧電素子7eを充分に伝わる程度の大きさに設定されている。
【0073】
この後は、第1の実施形態と同様の動作によって、各圧電素子7eに対応する吐出孔7bからの吐出状態の良否の判定、吐出量の補正等を実行する。
【0074】
なお、液滴の吐出状態の良否判定が完了したら、液槽15を下降させて液槽15内の溶媒Lから塗布ヘッド7の吐出面7aを離隔させるが、このとき、塗布ヘッド7の吐出面7a0に溶媒Lが付着して残ることがある。このような場合には、公知のワイピング手段を用いて吐出面7aに付着した溶媒Lを除去するようにすると良い。
【0075】
このような第2の実施形態においても、第1の実施形態と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0076】
また、第2の実施形態においては、液体である溶媒Lを介して液体である塗布液に超音波振動を伝達させるようにしたので、塗布液に超音波振動を効率よく伝達させることが可能となり、ひいては、圧電素子7eに伝播させることができる。そのため、吐出孔7bからの液滴の吐出状態の良否判定を良好に実施することが可能となる。
【0077】
なお、上述の実施形態において、発振装置としての超音波発生装置8による振動を空気や溶媒等の液体を伝達させて圧電素子7eに印加するようにしたが、これに限られるものではなく、例えば、超音波振動子8bを塗布ヘッド7の吐出面や側面に接触させて、塗布ヘッド7を伝達させて圧電素子7eに超音波振動を印加するようにしても良い。
【0078】
また、超音波振動に限らず、圧電素子7eに圧電効果を生じさせることができる振動であれば良い。
【0079】
また、圧電素子7eの出力信号と基準出力信号との比較を1回だけ行なって、両者の一致、不一致を判定するものとしたが、これに限られるものではなく、複数回の比較結果に基づいて判定するようにしても良い。
【0080】
例えば、超音波振動を予め設定された時間間隔を置いて複数回印加し、それぞれの印加時における圧電素子7eの出力信号を得る。このようにして得られた複数の出力信号を平均した平均出力信号や、複数の出力信号を相互に比較して異常値を抽出・除外した残りの出力信号を平均した平均出力信号と基準出力信号とを比較して、両者の一致、不一致を判定する。
【0081】
このようにすることで、検出器12による測定不良や超音波振動の伝達不良等による突発的な異常によって、圧電素子7eに対する補正駆動電圧が誤った値に設定されるという不具合が生じることを抑制することが可能となる。
【0082】
また、圧電素子7eの出力信号と基準出力信号との差に対する上限値を設定し、両者の差が上限値を超えたときには吐出量の補正が不可能であると判定するものとしたが、これに限られるものではなく、例えば、出力信号と基準出力信号との差に基づいて算出する駆動電圧の補正値に対して上限値や下限値を設定するようにしても良い。この場合にも、補正値が上限値や下限値を超えた場合には、吐出量の補正が不可能であると判定し、その後の基板Wに対する塗布液の塗布を実行しない判定をすると共に、報知手段13bによって吐出状態に不良が生じた旨を報知するようにすれば良い。
【0083】
また、個々の圧電素子7eについて、駆動電圧の連続補正に対する上限値を予め設定しておき、設定回数だけ連続して駆動電圧の補正が行われたときには、その後の基板Wに対する塗布液の塗布を実行しない判定をすると共に、報知手段13bによって吐出状態に不良が生じた旨を報知するようしても良い。
【0084】
すなわち、圧電素子7eの劣化は緩慢であるから、駆動電圧を一度補正したらその後しばらくの間は駆動電圧の補正が必要になることはないと考えられる。そのため、上述のように吐出状態を判定するたびに駆動電圧の補正が行なわれることが連続した場合には、通常の劣化とは異なる異常が圧電素子7eに生じていることが考えられるのである。
【0085】
したがって、このようにすることにより、圧電素子7eの予期せぬ異常についても対応することが可能となり、これによっても、塗布液の良好な塗布状態をより確実に維持することができる。
【符号の説明】
【0086】
1 塗布装置
7 塗布ヘッド
7a 吐出孔
7d 圧電素子
8 超音波発生装置(発振装置)
8b 超音波振動子
8d 超音波発振器
15 液槽

【特許請求の範囲】
【請求項1】
圧電素子に予め設定された駆動電圧を印加することによって吐出孔から塗布液の液滴を吐出させ塗布対象物に塗布する塗布液の塗布装置において、
前記圧電素子に振動を付与する発振装置と、
前記圧電素子に電圧を印加していない状態での前記発振装置によって振動が付与された前記圧電素子からの出力信号に基づいて、前記吐出孔からの前記塗布液の液滴の吐出状態の良否を判定する制御装置と
を備えることを特徴とする塗布液の塗布装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記圧電素子からの前記出力信号と予め設定された出力信号との比較に基づいて前記駆動電圧を調整することを特徴とする請求項1記載の塗布液の塗布装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記予め設定された出力信号よりも前記圧電素子からの出力信号が小さいときには前記駆動電圧を増加させるように調整することを特徴とする請求項2記載の塗布液塗布装置。
【請求項4】
前記制御装置は、前記圧電素子からの出力信号と予め設定された出力信号との差が許容値を超えたときには、前記塗布対象物に対するその後の塗布液の塗布を実行しないように制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗布液の塗布装置。
【請求項5】
前記制御装置は、前記圧電素子からの出力信号が得られないときには、前記塗布対象物に対するその後の塗布液の塗布を実行しないように制御することを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗布液塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−22562(P2013−22562A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−162283(P2011−162283)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000002428)芝浦メカトロニクス株式会社 (907)
【Fターム(参考)】