説明

塗布物の製造装置および製造方法

【課題】 わずかな乾燥ムラの発生をも抑制しながら少なくとも自然乾燥よりも乾燥速度を早く維持できる面性も生産性も向上できる塗布膜の製造装置および製造方法を提供する。
【解決手段】 塗布装置の塗布部から乾燥炉の搬入口までの塗布膜搬送距離が0.2m以上〜0.8m以下の範囲にある。乾燥炉内は複数の乾燥ゾーンに分割され乾燥ゾーン毎に給排気手段を有しており、さらに乾燥炉天板と塗布膜の距離を一様にするための距離調節手段を有する。また、天板と底板との距離を10mm以上〜100mm以下の範囲とし、天板と塗布膜との天板側間隙の高さL1と、底板と基材との底板側間隙の高さL2と、の関係が高さL1≦高さL2である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布物の製造装置および製造方法に関するものである。特に、塗布液に有機溶剤を含み膜厚精度として誤差1%以下の膜厚ムラが製品上欠陥として認識される光学フィルム等の製造において使用される。
【背景技術】
【0002】
近年ウェットコーティング技術を利用して製造される光学フィルム製品には、膜厚精度として誤差1%以下を要求されるような製品が増えてきている。そのような光学フィルムの製造では、一般的に塗布液の溶媒として有機溶剤を使用することが多いが、有機溶剤は水に比べると蒸発速度が速く、塗布後の乾燥過程において精密に乾燥しないと、風紋のようなムラを生じせしめることが知られている。
【0003】
従来は塗布膜の乾燥効率を上げることを目的とする技術が多く、例えば特許文献1には走行する基材の両面に熱風を当てる方法が提案されているが、この方法では熱風を塗布膜面に当てるためムラが発生し、高い膜厚精度を要求される製品では用いることができない。
【0004】
一方で、精密な塗膜の形成のために乾燥効率よりも精密に乾燥することに重きをおいた技術も提案されている。例えば、特許文献2では乾燥初期に膜面の乾燥風の風速を低くすることが提案されている。
また、特許文献3では乾燥時の雰囲気溶剤濃度を飽和状態にして極力乾燥速度を抑えることで結果的に精密な乾燥を行なうことも提案されている。
しかし、これらの方法は乾燥速度を遅くすることでムラのない面状を達成しようとするものであり、生産性が落ちるという欠点が存在する。
【0005】
そこで、少しでも乾燥速度を上げるために蒸発した溶剤を効率的に除去しながら乾燥する方法として、特許文献4では走行する基材を囲み基材搬送部と溶剤除去部に分割して蒸発した溶剤を溶剤除去部の横風で常に除去しながら乾燥する方法が提案されている。この方法は基材搬送部を基材近傍に狭く区切っていることが特徴である。
また、特許文献5では横風で除去するのではなく、凝縮板に蒸発した溶剤を凝縮させて除去する方法が提案されている。
また、乾燥速度を上げるために乾燥風を整流化しながら横風を直接走行する基材に当てる方法も提案されている。しかし、例えば特許文献6に記載の方法では、特に乾燥初期の塗液粘度が1.5倍まで上昇するまでは風を当てないことを前提としており、乾燥速度を飛躍的に向上させることはできない。
これらの方法は、乾燥速度を大気中に放置したいわゆる自然乾燥の乾燥速度よりも上げることができず、飛躍的な生産性の向上ができないことが問題になる。
【0006】
【特許文献1】特開2002−59074号公報
【特許文献2】特開2003−126768号公報
【特許文献3】特開2002−320898号公報
【特許文献4】特開2003−93954号公報
【特許文献5】特表2002−515585号公報
【特許文献6】特開2005−81256号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明における課題は、わずかな乾燥ムラの発生を抑制しながら少なくとも自然乾燥よりも乾燥速度を早く維持でき、面性と生産性を向上することができる塗布物の製造装置および製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に記載の発明は、搬送中の帯状の基材に有機溶剤を含む塗布液を塗布し塗布膜を形成する塗布装置と、前記基材に形成した塗布膜を搬送しながら乾燥する乾燥装置とを有する塗布物の製造装置において、
前記乾燥装置は、少なくとも
天板と、底板と、右側板と、左側板と、前記塗布膜が搬入され、かつ、前記塗布装置の塗布部からの塗布膜搬送距離が0.2m以上〜0.8m以下の範囲にある搬入口と、前記塗布膜を搬出する搬出口と、を有する乾燥炉と、
前記乾燥炉を分割してなり、かつ、前記塗布膜の搬送方向に沿って配置された複数の乾燥ゾーンと、
各乾燥ゾーン内へ空気を給気する給気手段と、
各乾燥ゾーン内の空気を排気する排気手段と、
前記給気手段が各乾燥ゾーン内へ給気する空気の給気量、または、前記排気手段が各乾燥ゾーン内から排気する空気の排気量、または、その両方を制御する制御手段と、
前記複数の乾燥ゾーンのうち少なくとも1ゾーンは、前記天板と前記基材の対向する面の距離が一様になるように調節する距離調節手段を備えることを特徴とする塗布物の製造装置である。
【0009】
請求項2に記載の発明は、前記天板と底板との間隙が10mm以上〜100mm以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の塗布物の製造装置である。
【0010】
請求項3に記載の発明は、前記基材の塗布膜を形成した側に設置された乾燥炉の天板と、
前記天板と前記塗布膜との間隙L1と、
前記基材の塗布膜を形成した側とは反対側に設置された乾燥炉の底板と、
前記底板と前記基材との間隙L2と、
を有し、
L1とL2がL1≦L2の関係を満たすことを特徴とする請求項2に記載の塗布物の製造装置である。
【0011】
請求項4に記載の発明は、前記各乾燥ゾーンの右側板または左側板のいずれかに配置された給気口と、
前記給気口を介して各乾燥ゾーン内に空気を給気する給気手段と、
前記給気口と対向する前記各乾燥ゾーンの左側板または右側板のいずれかに配置された排気口と、
前記排気口を介して各乾燥ゾーン内から空気を排気する排気手段と、
を有し、
前記給気手段、または、排気手段、または、その両方を用いて各乾燥ゾーン内に発生させる空気の流れが、前記各乾燥ゾーンの天板側間隙と底板側間隙の両方に流れる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗布物の製造装置である。
【0012】
請求項5に記載の発明は、前記給気口と前記排気口の開口部の高さが前記天板と底板との間隙とほぼ一致していることを特徴とする請求項4に記載の塗布物の製造装置である。
【0013】
請求項6に記載の発明は、前記距離調節手段として、前記天板の前記基材に対向する面に格子状の区画を設定し、その区画ごとに距離調節素子を配置し、前記各距離調節素子を個別に伸縮させる距離調節素子駆動手段を備えることを特徴とする、請求項1〜5に記載の塗布物の製造装置である。
【0014】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜6のいずれかに記載の製造装置を用いて形成したことを特徴とする光学フィルムである。
【0015】
請求項8に記載の発明は、搬送中の帯状の基材に有機溶剤を含む塗布液を塗布し塗布膜を形成する塗布工程と、次に、前記基材に形成した塗布膜を乾燥炉内で搬送しながら乾燥する乾燥工程とを有する塗布物の製造方法において、
前記乾燥炉は、天板と、底板と、右側板と、左側板と、前記塗布膜が搬入される搬入口と、前記塗布膜が搬出される搬出口と、を有し、
かつ前記乾燥炉は、前記塗布膜の搬送方向に沿って複数の乾燥ゾーンに分割されてなり、
前記搬送中の帯状の基材に有機溶剤を含む塗布液を塗布し塗布膜を形成する塗布工程と、
次に、前記基材に塗布液を塗布し塗布膜を形成した位置から0.2m以上〜0.8m以下の範囲に配置された前記乾燥炉の搬入口へ塗布膜を搬送する搬送工程と、
次に、前記乾燥炉の搬入口から塗布膜を搬入する搬入工程と、
次に、前記各乾燥ゾーン内へ空気を給気する給気手段と、各乾燥ゾーン内の空気を排気する排気手段と、を有し、給気手段が各乾燥ゾーン内へ給気する空気の給気量、または、排気手段が各乾燥ゾーン内から排気する空気の排気量、または、その両方を制御手段で制御し、かつ、前記複数の乾燥ゾーンのうち少なくとも1ゾーンでは、前記天板と前記基材の対向する面の距離が一様になるように調節して前記基材に形成した塗布膜を乾燥ゾーン内で搬送しながら乾燥する乾燥工程と、
次に、前記乾燥炉の搬出口から塗布膜を搬出する工程と、
を有することを特徴とする塗布物の製造方法である。
【0016】
請求項9に記載の発明は、前記天板と底板との間隙が10mm以上〜100mm以下の範囲であることを特徴とする請求項8に記載の塗布物の製造方法である。
【0017】
請求項10に記載の発明は、前記基材の塗布膜を形成した側に設置された乾燥炉の天板と、
前記天板と前記塗布膜との天板側間隙の高さL1と、
前記基材の塗布膜を形成した側とは反対側に設置された乾燥炉の底板と、
前記底板と前記基材との底板側間隙の高さL2と、
を有し、
高さL1と高さL2が高さL1≦高さL2の関係を満たすことを特徴とする請求項9に記載の塗布物の製造方法である。
【0018】
請求項11に記載の発明は、前記各乾燥ゾーンの右側板または左側板のいずれかに配置された給気口と、
前記給気口を介して各乾燥ゾーン内に空気を給気する給気手段と、
前記給気口と対向する前記各乾燥ゾーンの左側板または右側板のいずれかに配置された排気口と、
前記排気口を介して各乾燥ゾーン内から空気を排気する排気手段と、
を有し、
前記給気手段、または、排気手段、または、その両方を用いて各乾燥ゾーン内に発生させる空気の流れが、前記各乾燥ゾーンの天板側間隙と底板側間隙の両方に流れる
ことを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の塗布物の製造方法である。
【0019】
請求項12に記載の発明は、前記給気口と前記排気口の開口部の高さが前記天板と底板との間隙とほぼ一致していることを特徴とする請求項11に記載の塗布物の製造方法である。
【0020】
請求項13に記載の発明は、前記距離調節手段として、前記天板の前記基材に対向する面に格子状の区画を設定し、その区画ごとに距離調節素子を配置し、前記各距離調節素子を個別に伸縮させる距離調節素子駆動手段を備えることを特徴とする、請求項8〜12に記載の塗布物の製造方法である。
【0021】
請求項14に記載の発明は、請求項8〜13のいずれかに記載の製造方法を用いて形成したことを特徴とする光学フィルムである。
【発明の効果】
【0022】
本発明における塗布物の製造装置および製造方法を使用することにより、わずかな乾燥ムラの発生をも抑制しながら少なくとも自然乾燥よりも乾燥速度を早く維持でき、面性と生産性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
以下、本発明の一実施形態について、図面を参照して説明する。
図1は、本発明における塗布物の製造装置を側面から見たときの側面概略図である。塗布装置1aの塗布部1bにおいて基材9a上に塗布膜9bが塗布される。塗布膜9bが形成された基材9aは、乾燥装置2の乾燥炉5内部へ搬送される。
【0024】
乾燥炉5の内部は、基材9aの搬送方向に複数の乾燥ゾーン18に分割されている。各乾燥ゾーンは乾燥炉5外部または隣接する乾燥ゾーンとの間に設けられた仕切り板により、仕切られている。隣接する各乾燥ゾーンは直線的に配置されていても、屈折して配置されていてもよい。また、各乾燥ゾーンは、給気口と、排気口と、給気手段と、排気手段と、給気量または排気量、またはその両方を制御する制御手段とをそれぞれ備えている。
【0025】
図1は、乾燥炉5内部に4つの乾燥ゾーン18を基材9aの搬送方向に直線的に配置したものであり、各乾燥ゾーン18には、給気口6aと給気口6aと対向する位置に設置され図示されていない排気口6bが1つずつ設置されており、図示していないが給気口6aを介して乾燥ゾーン18内へ空気を給気する給気手段と、同じく図示していないが排気口6bを介して乾燥ゾーン18内から空気を排気する排気手段とが1つずつ設置されている。また、内圧力測定手段7aが各乾燥ゾーン18内に1つずつ設置され、外圧力測定手段7bが搬入口3付近に設置されていてもよい。これは本発明の一実施形態を表したものであり、これに限定されるものではない。
【0026】
基材9aに形成された塗布膜9bは、仕切り板31に形成されている搬入口3から乾燥炉5内へ搬入され、仕切り板32〜34で仕切られている各乾燥ゾーン18を順次通過して、仕切り板35に形成されている搬出口4から乾燥炉5外へ搬出される。
【0027】
このとき、内圧力測定手段7aや外圧力測定手段7bが設置されている場合には、乾燥炉5内と外部の差圧や、隣接する乾燥ゾーン18内の差圧が所定の範囲内、望ましくは−2Pa以上〜2Pa以下の範囲になるよう、各乾燥ゾーンの給気手段および排気手段は調節されてもよい。内圧力測定手段7aや外圧力測定手段7bが設置されていない場合には、各乾燥ゾーンの給気手段および排気手段は、所定の給排気量になるように調整される。
【0028】
図2は、図1に示された乾燥装置2のA−A’断面概略図である。乾燥炉5の右側板に給気口の開口部14を有する給気口6aが設置されており、乾燥炉5の左側板の給気口6aと対向する位置に排気口の開口部15を有する排気口6bが設置されている。本発明では、給気口6aから給気手段を用いて乾燥炉5内へ空気を給気し、排気口6bから排気手段を用いて乾燥炉5内から空気を排気している。つまり、給気口6aから排気口6bに向かって、基材9aの搬送方向に対し垂直の方向に空気の流れ17を発生させ、蒸発した友希溶剤25を乾燥炉5外部へ排出している。
【0029】
図1および図2では、基材9の搬送方向に向って右側から左側に空気の流れ17が発生しているが、これは本発明の一実施形態を表したものであり、基材9aの搬送方向に向って左側から右側に空気の流れが発生していてもよい。つまり、乾燥炉5の左側板に給気口が設置されており、乾燥炉5の右側板の給気口と対向する位置に排気口が設置されていてもよい。
【0030】
本発明の乾燥装置2は、塗膜が動かなくなる半固化状態までムラなく乾燥させることが目的であるため、空気の流れ17は層流に近い均一なものであることが望ましい。このため、塗布膜9bから乾燥炉5の天板までの距離L1は数mm〜数cmのオーダーで、かつ、距離L1のばらつきを±5%以内に抑えることが望ましい。
【0031】
特に幅広の乾燥炉の場合、天板にはたわみが発生しやすい。天板がたわんでいると、距離L1は、幅方向の両端部分に比べて中央部分で小さくなることが多い。距離L1が小さくなった箇所では空気の流れ17の速度が周囲に比べて速くなり、そのために塗布膜9bに乾燥ムラが発生する。距離L1を一様にするためには、天板のたわみが許容範囲内におさまるような材質および厚さの平板や、たわみが発生することをあらかじめ計算に入れて、乾燥炉5として組み立てられたときに塗布膜9bまでの距離L1の分布が許容範囲内になるように調整された形状の板を、天板として用いてもよい。
【0032】
また天板の、塗布膜9bと対向する側の面に、複数の距離調節素子27を格子状の区画に2次元的に配置し、塗布膜9bまでの距離L1が一様になるように調節しても良い。図3は、図1の塗布物の製造装置を塗布膜側から見たときの平面概略図であり、最初の乾燥ゾーン18aにおいて複数の距離調節素子27を配置した場合を模式的に示したものである。各距離調節素子27は図示せぬ距離調節素子駆動手段により個別に動作させることが可能で、天板がたわみなどにより変形している場合でも、各距離調節素子27は塗布膜9bまでの距離L1が一様になるように調整することが出来る。
【0033】
距離調節素子27としては、PZTやPVDF等の圧電材料を平板状の形状にし、両面に電極を形成したものなどが利用できる。一個の距離調節素子27の大きさ、すなわち距離調整可能な区画の単位は、より小さいほうがより精密な距離調整が可能である。また、図3では簡単のため、もっとも搬入口3に近い乾燥ゾーン18aのみに距離調節素子27を配置しているが、必要な乾燥ゾーンに渡り配置することが望ましい。
【0034】
なお、各乾燥ゾーンの給気手段および排気手段は個別に流量の設定が可能であり、ある乾燥ゾーンを幅方向の空気の流れ17が全くない状態とすることも可能である。塗布直後の乾燥初期は、塗布膜9bは溶剤成分をまだ多く含むため流動性が高く、特に気流の影響を受けやすい。そこで最初の1ゾーンまたは最初から数ゾーンの給排気を止めて、基材9aの搬送方向により発生する同伴風のみで非常にゆっくり乾燥させ、流動が起きない程度に塗布膜9bが半硬化したところで、給排気を行っている乾燥ゾーン内に搬送するようにしてもよい。
【0035】
給排気を止めた乾燥ゾーンにおいても、乾燥炉5の天板と塗布膜9bとの距離L1を一様になるように調整することは重要である。それは、給排気を行っているときと同様、基材9aの搬送方向により発生する同伴風の速度が、距離L1が小さくなった箇所では周囲に比べて速くなり、そのために塗布膜9bに乾燥ムラが発生するからである。
【0036】
本発明における塗布装置1は、グラビア、ワイヤーバー、ダイ等を用いることができるが、これらに限定されるものではない。
【0037】
本発明における乾燥装置2は、塗布装置1aの塗布部1bから塗布膜搬送距離8で0.2m以上〜0.8m以下の範囲に設置されている。ここで塗布膜搬送距離8とは、塗布部1aと搬入口3との直線距離ではなく、搬送される基材9aに沿った長さのことを指している。基材9aの搬送速度は制約事項ではないが、20m/min以上〜60m/min以下程度の一般的な速度を有する乾燥装置2を用いている。塗布膜搬送距離8が0.8mより離れると自然に乾燥していく領域が無視できなくなり、自然乾燥によるムラが生じるため好ましくない。また、0.2m未満であると基材9aを搬入する搬入口3において外気を遮断してしまうため好ましくない。
【0038】
乾燥炉5は、基材9を囲む箱型の形状をしており、基材9aを搬入する搬入口3と、基材9aを搬出し搬入口3に対向して設置された搬出口4と、基材9aの塗布膜9bを形成した側に設置された天板12と、基材9aを挟んで天板12と対向して設置された底板13と、基材9aの搬送方向に向って右側であり、基材9aの幅方向に設置された右側板と、右側板と対向して設置された左側板とで構成されている。ここで、搬送される基材9aに対し、重力方向上面側に塗布膜9bが形成されているか、下面側に塗布膜9bが形成されているかは関係ない。
【0039】
本発明における給気手段と排気手段としては、一般的にブロアが用いられるが、給気量および排気量を調節できるものであればブロアに限定されるものではない。
【0040】
本発明における制御手段としては、内圧力測定手段7aや外圧力測定手段7bが設置されている場合には、乾燥炉5内と外部の差圧や、隣接する乾燥ゾーン18内の差圧が所定の範囲、望ましくは−2Pa以上〜2Pa以下の範囲になるように、給気手段により乾燥炉5内へ給気される空気の給気量と排気手段により乾燥炉5内から排気される空気の排気量を制御することができるものであればよく、特に制約すべき事項ではない。また、内圧力測定手段7aや外圧力測定手段7bが設置されていない場合には、各乾燥ゾーンの給気手段および排気手段が、所定の給排気量になるように制御することができるものであればよい。
【0041】
塗布中は塗布室への入退室などにより乾燥装置2外の気圧の変動は避けられない。その変動の都度、制御手段を用い、乾燥炉5内へ給気される空気の給気量と乾燥炉5内から排気される空気の排気量を変更していたのでは、逆に乾燥装置2内の気流が乱れムラを発生させる原因となる。そのため、塗布開始前の静的な給気量、または、排気量、または、その両方の制御用として制御手段は使用されてもよい。しかし、圧力測定時や、給気量と排気量の制御時に基材9を搬送させていても停止させていてもよい。
【0042】
本発明における天板と底板との距離11は、天板12と底板13との基材面に対し垂直方向の距離を示している。給気口6aにおける給気量と排気口6bにおける排気量を少なく保ち、かつ、乾燥速度を速めるために、ある程度空気の流れ17が発生する空間を制約する必要がある。そこで天板と底板との距離11は10mm以上〜100mm以下の範囲が好ましい。10mm未満では基材9aが搬送されたときに天板12または底板13への接触などトラブルの原因となるため好ましくない。また、100mmより高くすると乾燥速度を速めるために給気量と排気量を増加させる必要があり、給気手段および排気手段の増設やエネルギーコストの増加などコスト面の問題があり好ましくない。
【0043】
乾燥炉5の右側板に設置した給気口と左側板に設置した排気口の開口部の高さは、給気口の開口部14と排気口の開口部15の基材面に対し垂直方向の口径を示している。ここで、天板と底板との距離11と給気口と排気口の開口部の高さ16がほぼ一致していることが好ましい。こうすることで、給気口6aと排気口6b間に発生する空気の流れ17が、乾燥炉5の天板12と底板13との間に一様に発生し、基材9aの塗布膜9bを形成した側と基材9aの塗布膜9bを形成した側とは反対側に空気の流れ17が発生する。これにより、基材9aを搬送する高さにブレが生じにくくなり、安定性が確保されてムラ発生を防止することができる。
【0044】
基材9aの塗布膜9bを形成した側と基材9aの塗布膜9bを形成した側とは反対側のどちらか一方にのみ空気の流れを発生させようとすると、基材9aの搬送する高さを厳密に定めなければならない。しかし、現実的には基材9aを搬送すると基材9aを搬送する高さにブレが生じるため、ムラ発生の原因となる。
なお、給気口6aと排気口6b間に発生する空気の流れ17を、より安定して発生させるために、給気口6aにおける給気量と排気口6bにおける排気量を一致させることが好ましい。
【0045】
さらに、給気量と排気量を管理することが好ましい。基材9aに形成した塗布膜9bと天板12との天板側間隙の高さL1と基材9aと底板13との底板側間隙の高さL2でその量を管理することができる。このとき、高さL1と高さL2が高さL1≦高さL2の関係になっていることが好ましい。天板と底板との距離11が10〜100mmの範囲であり、かつ、高さL1≦高さL2の関係を満たすとき、最も面性と生産性を向上することができる。
【0046】
乾燥装置2の長さ(基材の搬送方向)は特に制約すべき事項ではない。乾燥装置2の長さは塗布膜が乾燥するかどうかで決定されるものであり、製品によって異なるものである。ただし、本発明では、5m以上〜100m以下程度の一般的な長さの乾燥装置2を用いている。
【0047】
本発明における乾燥装置2は、わずかな乾燥ムラの発生をも抑制しながら少なくとも自然乾燥よりも乾燥速度を早く維持することができるため、その効果が最も現れるのは乾燥初期である。乾燥装置の全長すべてが本発明の乾燥装置2によるものではなく、搬入口3を含む乾燥初期段階のみに本発明の乾燥装置2を導入することも可能である。その場合、図1に示すように、前半部に第一乾燥装置として本発明の乾燥装置2を導入し、後半部に第二乾燥装置10として公知の乾燥装置を導入してもよい。
【0048】
第二乾燥装置10としては、スリットノズルやパンチングメタルから基材に形成された塗布膜に温度を上昇させた噴流を当てるような方式を導入しても良いし、クイックリターン方式のノズルや基材の搬送方向に平行流を流す方式のノズルから熱風を噴出する方式でも良い。また、片面だけでなく両面から加熱手段を設けても良い。市販されているいかなる乾燥装置を使用しても本発明の効果をさまたげるものではない。
【0049】
さらに、図1および図3には本発明の乾燥装置2と公知の第二乾燥装置10をそれぞれの装置として独立させる場合を示しているが、一つの乾燥装置の中で、前半部が本発明の乾燥装置による方式をとり、後半部が公知の乾燥装置に基づく方式をとる場合でも本発明の効果は変わらない。
【0050】
本発明の塗布物の製造装置および製造方法は、様々な製品に対して用いることができるが、特に有機溶剤を溶媒とする分散物の塗布に対して効果がある。その中でも近年需要が伸びている光学フィルムのようなこれまで以上にムラに対する許容余地の少ない製品に効果的である。
【0051】
ここで、光学フィルムとは主に液晶やプラズマディスプレイなどの表示装置の最表面またはその内側に使用されるフィルムであり、ハードコートフィルム、反射防止フィルム、防眩性フィルム、光学補償フィルム、光拡散フィルムなどが挙げられる。
【0052】
また、本発明に用いられる有機溶剤としては、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、2−メトキシエタノール等のアルコール類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチル等のケトン類、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル類、ジイソプロピルエーテル等のエーテル類、エチレングリコール、プロピレングリコール、ヘキシレングリコール等のグリコール類、エチルセロソルブ、ブチルセロソルブ、エチルカルビトール・ブチルカルビトール等のグリコールエーテル類、ヘキサン、ヘプタン・オクタン等の脂肪族炭化水素類、ハロゲン化炭化水素、ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素、N−メチルピロリドン、ジメチルホルムアミド等が挙げられ、1種、または、2種類以上の混合物として用いてよいが、これらに限定されるものではない。
【0053】
本発明の塗布液に用いられるバインダーとしては、紫外線硬化性樹脂、電子線硬化性樹脂などの電離放射線硬化性樹脂や熱硬化性樹脂等が挙げられ、電離放射線硬化性樹脂等には光重合開始剤が含まれる。
【0054】
電離放射線硬化性樹脂としては、多価アルコールのアクリル酸またはメタクリル酸エステルのような多官能性のアクリレート樹脂、ジイソシアネート、多価アルコール及びアクリル酸またはメタクリル酸のヒドロキシエステル等から合成されるような多官能のウレタンアクリレート樹脂等が挙げられる。またこれらの他にも、アクリレート系の官能基を有するポリエーテル樹脂、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、アルキッド樹脂、スピロアセタール樹脂、ポリブタジエン樹脂、ポリチオールポリエン樹脂等も使用することができる。
【0055】
熱硬化性樹脂としては、熱硬化型ウレタン樹脂、フェノール樹脂、尿素メラミン樹脂、エポキシ樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等が挙げられる。
【0056】
光重合開始剤としては、活性エネルギー線が照射された際にラジカルを発生するものであればよく、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、2−メチル[4−(メチルチオ)フェニル]モルフォリノプロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、ベンゾフェノン、1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、ビス(2,6−ジメトキシベンゾイル)−2,4,4−トリメチルペンチルフォスフィンオキサイド等が挙げられる。光重合開始剤の添加量は、活性エネルギー線硬化単量体10〜80質量部に対して、0.1〜10質量部が好ましく、1〜7質量部がより好ましく、1〜5質量部がさらに好ましい。
【0057】
本発明に用いられる基材9としては、用途によって様々なものを使用することができる。基材9を構成する成分としては、例えば、アセチルセルロース、トリアセチルセルロース等のセルロース系フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系フルイム、ポリメチルメタクリレート等のアクリル系フィルム等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、基材9は、単層からなっていても複数層からなっていてもよい。なお、基材9の厚さは一般的に10〜500μmのものが用いられる。

【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明の塗布膜の製造装置を側面から見たときの側面概略図。
【図2】図1に示された乾燥装置の断面概略図。
【図3】本発明の塗布膜の製造装置を塗布膜側から見たときの平面概略図。
【符号の説明】
【0059】
1 塗布装置
2 乾燥装置
3 搬入口
4 搬出口
5 乾燥炉
6a 給気口
6b 排気口
7a 内圧力測定手段
7b 外圧力測定手段
8 塗布膜搬送距離
9a 基材
9b 塗布膜
10 第二乾燥装置
11 天板と底板との距離
12 天板
13 底板
14 給気口の開口部
15 排気口の開口部
16 給気口と排気口の開口部の高さ
17、17a 空気の流れ
18、18a 乾燥ゾーン
25 蒸発した有機溶剤
27 距離調節素子
31〜35 仕切り板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送中の帯状の基材に有機溶剤を含む塗布液を塗布し塗布膜を形成する塗布装置と、前記基材に形成した塗布膜を搬送しながら乾燥する乾燥装置とを有する塗布物の製造装置において、
前記乾燥装置は、少なくとも
天板と、底板と、右側板と、左側板と、前記塗布膜が搬入され、かつ、前記塗布装置の塗布部からの塗布膜搬送距離が0.2m以上〜0.8m以下の範囲にある搬入口と、前記塗布膜を搬出する搬出口と、を有する乾燥炉と、
前記乾燥炉を分割してなり、かつ、前記塗布膜の搬送方向に沿って配置された複数の乾燥ゾーンと、
各乾燥ゾーン内へ空気を給気する給気手段と、
各乾燥ゾーン内の空気を排気する排気手段と、
前記給気手段が各乾燥ゾーン内へ給気する空気の給気量、または、前記排気手段が各乾燥ゾーン内から排気する空気の排気量、または、その両方を制御する制御手段と、
前記複数の乾燥ゾーンのうち少なくとも1ゾーンは、前記天板と前記基材の対向する面の距離が一様になるように調節する距離調節手段を備えることを特徴とする塗布物の製造装置。
【請求項2】
前記天板と底板との距離が10mm以上〜100mm以下の範囲であることを特徴とする請求項1に記載の塗布物の製造装置。
【請求項3】
前記基材の塗布膜を形成した側に設置された乾燥炉の天板と、
前記天板と前記塗布膜との天板側間隙の高さL1と、
前記基材の塗布膜を形成した側とは反対側に設置された乾燥炉の底板と、
前記底板と前記基材との底板側間隙の高さL2と、
を有し、
高さL1と高さL2が高さL1≦高さL2の関係を満たすことを特徴とする請求項2に記載の塗布物の製造装置。
【請求項4】
前記各乾燥ゾーンの右側板または左側板のいずれかに配置された給気口と、
前記給気口を介して各乾燥ゾーン内に空気を給気する給気手段と、
前記給気口と対向する前記各乾燥ゾーンの左側板または右側板のいずれかに配置された排気口と、
前記排気口を介して各乾燥ゾーン内から空気を排気する排気手段と、
を有し、
前記給気手段、または、排気手段、または、その両方を用いて各乾燥ゾーン内に発生させる空気の流れが、前記各乾燥ゾーンの天板側間隙と底板側間隙の両方に流れる
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の塗布物の製造装置。
【請求項5】
前記給気口と前記排気口の開口部の高さが前記天板と底板との距離とほぼ一致していることを特徴とする請求項4に記載の塗布物の製造装置。
【請求項6】
前記距離調節手段として、前記天板の前記基材に対向する面に格子状の区画を設定し、その区画ごとに距離調節素子を配置し、前記各距離調節素子を個別に伸縮させる距離調節素子駆動手段を備えることを特徴とする、請求項1〜5に記載の塗布物の製造装置。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の製造装置を用いて形成したことを特徴とする光学フィルム。
【請求項8】
搬送中の帯状の基材に有機溶剤を含む塗布液を塗布し塗布膜を形成する塗布工程と、次に、前記基材に形成した塗布膜を乾燥炉内で搬送しながら乾燥する乾燥工程とを有する塗布物の製造方法において、
前記乾燥炉は、天板と、底板と、右側板と、左側板と、前記塗布膜が搬入される搬入口と、前記塗布膜が搬出される搬出口と、を有し、
かつ前記乾燥炉は、前記塗布膜の搬送方向に沿って複数の乾燥ゾーンに分割されてなり、
前記搬送中の帯状の基材に有機溶剤を含む塗布液を塗布し塗布膜を形成する塗布工程と、
次に、前記基材に塗布液を塗布し塗布膜を形成した位置から0.2m以上〜0.8m以下の範囲に配置された前記乾燥炉の搬入口へ塗布膜を搬送する搬送工程と、
次に、前記乾燥炉の搬入口から塗布膜を搬入する搬入工程と、
次に、前記各乾燥ゾーン内へ空気を給気する給気手段と、各乾燥ゾーン内の空気を排気する排気手段と、を有し、給気手段が各乾燥ゾーン内へ給気する空気の給気量、または、排気手段が各乾燥ゾーン内から排気する空気の排気量、または、その両方を制御手段で制御し、かつ、前記複数の乾燥ゾーンのうち少なくとも1ゾーンでは、前記天板と前記基材の対向する面の距離を調節する距離調節手段を有し、前記天板と前記基材の対向する面の距離が一様になるようにして、前記基材に形成した塗布膜を乾燥ゾーン内で搬送しながら乾燥する乾燥工程と、
次に、前記乾燥炉の搬出口から塗布膜を搬出する工程と、
を有することを特徴とする塗布物の製造方法。
【請求項9】
前記天板と底板との距離が10mm以上〜100mm以下の範囲であることを特徴とする請求項8に記載の塗布物の製造方法。
【請求項10】
前記基材の塗布膜を形成した側に設置された乾燥炉の天板と、
前記天板と前記塗布膜との天板側間隙の高さL1と、
前記基材の塗布膜を形成した側とは反対側に設置された乾燥炉の底板と、
前記底板と前記基材との底板側間隙の高さL2と、
を有し、
高さL1と高さL2が高さL1≦高さL2の関係を満たすことを特徴とする請求項9に記載の塗布物の製造方法。
【請求項11】
前記各乾燥ゾーンの右側板または左側板のいずれかに配置された給気口と、
前記給気口を介して各乾燥ゾーン内に空気を給気する給気手段と、
前記給気口と対向する前記各乾燥ゾーンの左側板または右側板のいずれかに配置された排気口と、
前記排気口を介して各乾燥ゾーン内から空気を排気する排気手段と、
を有し、
前記給気手段、または、排気手段、または、その両方を用いて各乾燥ゾーン内に発生させる空気の流れが、前記各乾燥ゾーンの天板側間隙と底板側間隙の両方に流れる
ことを特徴とする請求項8〜10のいずれかに記載の塗布物の製造方法。
【請求項12】
前記給気口と前記排気口の開口部の高さが前記天板と底板との距離とほぼ一致していることを特徴とする請求項11に記載の塗布物の製造方法。
【請求項13】
前記距離調節手段として、前記天板の前記基材に対向する面に格子状の区画を設定し、その区画ごとに距離調節素子を配置し、前記各距離調節素子を個別に伸縮させる距離調節素子駆動手段を備えることを特徴とする、請求項8〜12に記載の塗布物の製造方法。
【請求項14】
請求項8〜13のいずれかに記載の製造方法を用いて形成したことを特徴とする光学フィルム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−246417(P2008−246417A)
【公開日】平成20年10月16日(2008.10.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−92840(P2007−92840)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000003193)凸版印刷株式会社 (10,630)
【Fターム(参考)】