説明

塗布膜の乾燥方法及び光学フイルム

【課題】有機溶剤を含む塗布面を乾燥させる際に、蒸発した溶剤に起因する対流が塗布面近傍に発生するのを抑制し、乾燥ムラを防止できる。
【解決手段】走行する長尺状のウエブ12に有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜を、乾燥ゾーン26において一方向流れの乾燥風で乾燥する方法であって、塗布膜面が下向き且つ水平面に対して0°〜45°の角度をなすように走行させながら乾燥させ、前記塗布膜の膜厚をh(μm)とし、前記塗布膜の粘度μ(mPa・s)としたとき、h/μ>0.5の範囲を満たす初期乾燥において、乾燥ゾーン26内の中心付近における相対風速をU(m/秒)とし、ウエブ12の塗布幅をX(m)とし、有機溶剤の平均分子量をMとし、乾燥ゾーン26内の温度における有機溶剤の蒸気圧分率をVとしたとき、下記式の条件を満たすように乾燥を行う。 {(M/28.8)−1}×V×(X/U)1.5<0.25

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は塗布膜の乾燥方法及び光学フイルムに係り、特に、走行する長尺状の支持体(以下、ウエブという)に有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜を乾燥ムラのないように乾燥する乾燥方法及び光学フイルムに関する。
【背景技術】
【0002】
通常、有機溶剤を含む塗布液を連続走行する支持体上に塗布して形成した塗布膜を乾燥する場合、乾燥風を給排気して乾燥を促進させている。しかし、給排気される乾燥風の乱れが塗布面に直接当たることにより塗布面を流動させるため、乾燥後の塗布面に乾燥ムラ(たとえば、膜厚ムラに起因するスジ故障)が発生するという問題がある。特に、液晶表示装置等に使用される光学フイルム(例えば、光学補償フイルム、反射防止フイルム、防眩性フイルム等)の塗布の乾燥においては、乾燥ムラが光学性能上致命的な欠陥となる場合がある。
【0003】
このような乾燥ムラを抑制する対策としては、多孔板を用いて乾燥風を整流する方法(特許文献1)、支持体幅方向の一方端側から他方端側に流れる一方向流れの乾燥風を発生させる方法(特許文献2、3)等、により乾燥風の乱れが直接塗布面に当らないようにすることが提案されている。
【0004】
塗布面が下を向いた状態で各種塗布装置により塗布を行うのは、光学フイルムの製造では一般的であるが、従来のように、乾燥ムラは、特に、塗布面を下向きにして乾燥する場合に発生し易い。すなわち、塗布膜から蒸発した溶剤ガスは、通常は空気よりも重いために下に流れ落ち、塗布膜近傍の相対的に軽い空気が上昇して対流する対流現象が発生する。この対流により塗布膜近傍では蒸発したガスが不均一になり、蒸発速度偏差を生じて乾燥ムラになる。また、光学フイルムの製造ラインの設計上、塗布膜面が下を向くことが避けられない場合がある。たとえば、特許文献4には、塗布面を下向きにしたまま乾燥する時間をできるだけ短くすることで、上記の乾燥ムラを抑制する方法が提案されている。
【特許文献1】特公平2−58554号公報
【特許文献2】特開2001−170547号公報
【特許文献3】特開2005−81257号公報
【特許文献4】特開2005−279339号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1〜3は、特に、塗布面を下向きにして乾燥させる場合に、塗布膜から蒸発した溶剤ガスに起因して生じる対流現象については考慮しておらず、乾燥ムラを充分に抑制できなかった。
【0006】
また、特許文献4は、乾燥工程を長くとりたい場合に、塗布乾燥ライン全体が大型化するという問題がある。たとえば、支持体の下面に塗布する塗布工程を1階に設け、上向きに反転させた塗布面を乾燥させる乾燥工程を2階に設ける場合、塗布面を下向きにして乾燥するのを極力避けなければならないため、乾燥工程は1階に設けることができず、スペースを有効に利用できない。
【0007】
本発明はこのような事情に鑑みてなされたもので、有機溶剤を含む塗布面を乾燥させる際に、蒸発した溶剤に起因する対流が塗布面近傍に発生するのを抑制し、乾燥ムラを防止できる塗布膜の乾燥方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の請求項1は前記目的を達成するために、走行する長尺状の支持体に有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜を、前記支持体を囲むように形成された乾燥ゾーンにおいて前記支持体幅方向の一方端から他方端に流れる一方向流れの乾燥風で乾燥する方法であって、前記支持体を前記塗布膜面が下向き且つ水平面に対して0°〜45°の角度をなすように走行させながら乾燥する塗布膜の乾燥方法において、前記塗布膜の膜厚をh(μm)とし、前記塗布膜の粘度μ(mPa・s)としたとき、h/μ>0.5の範囲を満たす初期乾燥において、前記乾燥ゾーン内の中心付近における相対風速をU(m/秒)とし、前記支持体の塗布幅をX(m)とし、前記有機溶剤の平均分子量をMとし、前記乾燥ゾーン内の温度における前記有機溶剤の蒸気圧分率をVとしたとき、下記式の条件を満たすように乾燥を行うことを特徴とする塗布膜の乾燥方法を提供する。
【0009】
{(M/28.8)−1}×V×(X/U)1.5<0.25
本発明の請求項2は前記目的を達成するために、走行する長尺状の支持体に有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜を、前記支持体を囲むように形成され且つ内部に前記支持体の走行方向に給気部と排気部を交互に配置した乾燥ゾーンにおいて、前記給気部と前記排気部の間で流れる一方向流れの乾燥風で乾燥する方法であって、前記支持体を前記塗布膜面が下向き且つ水平面に対して0°〜45°の角度をなすように走行させながら乾燥する塗布膜の乾燥方法において、前記塗布膜の膜厚をh(μm)とし、前記塗布膜の粘度μ(mPa・s)としたとき、h/μ>0.5の範囲を満たす初期乾燥において、前記乾燥ゾーン内の中心付近における相対風速をU(m/秒)とし、隣設された前記給気部と前記排気部の中心間距離をX(m)とし、前記有機溶剤の平均分子量をMとし、前記乾燥ゾーン内の温度における前記有機溶剤の蒸気圧分率をVとしたとき、下記式の条件を満たすように乾燥を行うことを特徴とする塗布膜の乾燥方法を提供する。
【0010】
{(M/28.8)−1}×V×(X/U)1.5<0.25
本発明者らは、塗布面近傍に対流が発生するのを抑制するためには、塗布面から蒸発した溶剤ガスを、溶剤ガスの境界層が発達する前に迅速に除去することが重要であり、これには、乱流を引き起こさない領域でできるだけ乾燥風の風速を大きくすることが特に有効であることを見出した。本発明の請求項1又は2によれば、h/μ>0.5の範囲を満たす初期乾燥において、上記各式を満たすように乾燥風の風速及び乾燥風長を設定するので、塗布面近傍に対流を引き起こす一因である蒸発した溶剤ガスを迅速に除去でき、塗布面近傍における対流の発生を抑制できる。これにより、塗布面に乾燥ムラが生じるのを抑制できる。
【0011】
なお、塗布膜のh/μは、塗布直後から乾燥の進行とともに小さくなるが、塗布直後からh/μ>0.5の範囲を満たす初期乾燥において、上記各式の乾燥条件にすることが重要である。
【0012】
また、乾燥風長とは、塗布膜の上を乾燥風が給気から排気までの間に連続して流れる長さであり、この長さが長いほど塗布膜表面において溶剤ガスの境界層が発達することを意味する。請求項1では塗布面の幅方向に乾燥風を流しているので塗布幅に相当し、請求項2では、支持体の搬送方向に乾燥風を流しているので、給気部と排気部の中心間距離に相当する。
【0013】
また、相対風速は、乾燥装置内で測定した乾燥風の風速から、支持体の走行速度の乾燥風供給方向成分を差し引いた値で表される(詳細は実施例で説明する)。
【0014】
なお、請求項1は、支持体幅方向に一方向の乾燥風を発生させて塗布膜を乾燥させる場合であり、請求項2は、支持体の走行方向に給排気部を交互に設け、支持体の走行方向に乾燥風を発生させて塗布膜を乾燥させる場合である。
【0015】
請求項3は請求項1又は2において、前記相対風速は、3m/秒以下とすることを特徴とする。
【0016】
これにより、乾燥風の風速が大き過ぎないので、塗布膜面を流動させることなく、均一に乾燥できる。
【0017】
請求項4は、請求項1〜3の何れか1項に記載の塗布膜の乾燥方法を適用して光学フイルムを製造したことを特徴とする。
【0018】
ここで、光学フイルムとしては、液晶表示板用の光学補償フイルム、反射防止フイルム、防眩性フイルム等の各種機能を有するフイルムを含むものである。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、有機溶剤を含む塗布面を乾燥させる際に、蒸発した溶剤に起因する対流が塗布面近傍に発生するのを抑制し、乾燥ムラを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下添付図面に従って本発明に係る塗布膜の乾燥方法の好ましい実施の形態について説明する。
【0021】
まず、本発明における第1の実施形態について説明する。本実施形態は、乾燥ゾーンにおいて、支持体幅方向に一方向の乾燥風を発生させて塗布膜を乾燥させる方法である。
【0022】
図1は、本発明の乾燥方法を実施するための塗布膜の塗布・乾燥装置を上から見た平面図であり、図2は図1のA−A線に沿った断面図である。
【0023】
図1及び図2に示すように、塗布・乾燥装置10は、主として、走行する長尺状の支持体12(以下、「ウエブ12」と言う)に有機溶剤を含む塗布液を塗布する塗布機14と、塗布液が塗布されたウエブ12を通過させて塗布膜の乾燥を行なう乾燥装置16とより構成される。本実施形態では、乾燥装置16は、塗布機14の直後に設けられる。
【0024】
塗布機14は、例えば、ワイヤーバー14Aを備えたバー塗布装置を使用することができ、複数のサポートローラ20、22、24に支持されて走行するウエブ12の下面に塗布液が塗布されて塗布膜が形成される。塗布膜の厚さは、ウエット厚さで1μm〜50μmの範囲であり、2μm〜40μmの範囲であるのが好ましく、2μm〜10μmの範囲であるのがより好ましい。塗布液の粘度は、20mPas/秒以下が好ましい。ウエブ12の走行速度は5〜100m/分の範囲が好ましく、20〜80m/分の範囲が特に好ましい。
【0025】
乾燥装置16の乾燥装置本体18は、塗布機14の直後に設けられ、走行するウエブ12の塗布膜面側(ウエブの下面側)に沿った長四角な箱体状に形成され、箱体の各辺のうちの塗布膜面側の辺(箱体の上辺)が切除されている。また、ウエブ12を挟んで、乾燥装置本体18の反対側位置には、乾燥装置16外からの、例えば空調風等の風により、ウエブ12の安定走行が阻害されないように遮蔽蓋30が被せられる。そして、塗布機14で塗布液が塗布されたウエブ12は、乾燥装置16の入口開口18Aから乾燥ゾーン26内に搬入され、出口開口18Bから搬出される。これにより、走行するウエブ12を囲む乾燥ゾーン26が形成される。
【0026】
乾燥ゾーン26は、乾燥装置本体18を、ウエブ12の走行方向に直交した複数の仕切板28、28…で仕切ることにより、複数の分割ゾーン26A、26B、26C、26D、26E、26F、26G(本実施例では7つの分割ゾーン)に分割される。この場合、乾燥ゾーン26を分割する仕切板28の上端と、ウエブ12に形成された塗布膜面との距離は、0.5mm〜20mmの範囲が好ましく、1mm〜15mmの範囲であるのがより好ましい。
【0027】
また、図1に示すように、乾燥ゾーン26の各分割ゾーン26A〜26Gには一方向気流発生手段32が設けられる。なお、分割される乾燥ゾーンの数や1つの乾燥ゾーンに設置される一方向気流発生手段32の数は上記の数には限定されない。
【0028】
一方向気流発生手段32は、乾燥装置本体18の両側辺の一方側に設けられた給気ノズル34A〜34Gに給気ダクト36が分岐接続され、給気ダクト36には給気ファン38が設けられる。また、乾燥装置本体18の両側辺の他方側に給気ノズル34A〜34Gに対向して排気ノズル40A〜40Gが設けられ、各排気ノズル40A〜40Gに排気ダクト42が分岐接続されると共に、排気ダクト42に排気ファン44が設けられる。また、排気ダクト42の途中から循環ダクト46が給気ファン38の吸込み側に接続されると共に、循環ダクト46の途中に新鮮な乾燥風の導入ダクト48が設けられる。また、給気ダクト36には、乾燥風の温度を制御する風温制御器41が設けられ、給気ノズル34A〜34Gから吹き出す乾燥風の温度が調節される。
【0029】
図3は、給気ノズル及び排気ノズルの構成を説明する説明図である。図3に示すように、各給気ノズル34A〜34Gは、給気口33がウエブ12の走行方向に長い略四角状に形成されると共に、該給気口33に向けて拡径したラッパ管状に形成される。また、各給気ノズル34A〜34Gの内部には整流器35が設けられ、整流器35は給気口33に設けられた第1の多孔板35Aと、給気口33の上流側に設けられた第2の多孔板35Bとで構成される。第1の多孔板35Aの孔の開口は第2の多孔板35Bの孔の開口よりも小さく形成され、第1の多孔板35Aと第2の多孔板35Bとの間には給気口33から吹き出す乾燥風の均圧室37が形成される。一方、各給気ノズル34A〜34Gに対向配置された各排気ノズル40A〜40Gにも整流器35が設けられ、第1の多孔板35Aが排気口39に設けられると共に、排気口39の下流側に第2の多孔板35Bが設けられる。これにより、給気ファン38と排気ファン44を駆動することによって各分割ゾーン26A〜26Gには、図3に示すように、塗布膜面上をウエブ幅方向の一方端側(給気側)から他方端側(排気側)に流れる一方向の均一な乾燥風が発生する。そして、塗布膜面からの蒸発した有機溶剤を含む排気ガスの一部は排気ダクト42から循環ダクト46を通って循環され、導入ダクト48からの乾燥風と混合される。これにより、有機溶剤を含む乾燥風が各分割ゾーン26A〜26Gに給気されるので、塗布膜面からの有機溶剤の急激な蒸発を生じないようにできる。
【0030】
また、図1に示すように、給気ダクト36の分岐された枝管と排気ダクト42の分岐された枝管には、それぞれ給気バルブ50A〜50Gと排気バルブ52A〜52Gが設けられ、給気バルブ50A〜50Gと排気バルブ52A〜52Gの開度はコントローラ54によって制御される。そして、コントローラ54は、ウエブ走行方向の上流側の分割ゾーン26Aから下流側の分割ゾーン26Gにいくに従って乾燥風の風速が徐々に小さくなるように各バルブ50A〜50G、52A〜52Gを制御する。乾燥風の風速を徐々に小さくする態様としては、上流の分割ゾーン26Aから下流の分割ゾーン26Gに連続的に風速が小さくしてもよく、あるいは段階的に風速が小さくなるようにしてもよい。また、コントローラ54は、乾燥ゾーン全体の平均乾燥速度を速くするために、乾燥風を乾燥ゾーン66全体で大きくするように各給気バルブ、排気バルブを制御することもできる。
【0031】
また、乾燥装置本体18の幅はウエブ12の幅よりも大きくなるように形成され、乾燥ゾーン26の両側の開放部分が整風板56で蓋がされた整風部分が設けられている。この整風部分は、給気口から塗布膜端までの距離と、塗布膜端から排気口までの距離を確保することにより、乾燥ゾーン26に急激な乾燥風の流れを作らないようにしたものである。
【0032】
次に、上記の如く構成された乾燥装置16を用いて、本発明の塗布膜の乾燥方法を説明する。
【0033】
サポートローラ20、22、24に支持され走行するウエブ12に塗布機14のワイヤーバー14Aで塗布液を塗布した直後、乾燥装置16によって塗布膜面の乾燥が行なわれる。
【0034】
乾燥ゾーン26内では、給気ファン38と排気ファン44を駆動することにより、各分割ゾーン26A〜26Gには、ウエブ幅方向の一方端側(給気側)から他方端側(排気側)に向けて一方向に流れる乾燥風が発生する。これにより、塗布膜面近傍で蒸発した有機溶剤を含む乾燥風が乾燥ゾーン26から排気されて次第に乾燥される。
【0035】
この乾燥は、塗布直後の塗布膜面は有機溶剤が十分に含まれた状態にあり、特に、有機溶剤を溶媒とする塗布液を塗布した直後の初期乾燥において塗布面が下を向いた状態(本実施形態では、塗布面が水平面に対して0°〜45°の範囲である状態をいう)では、塗布膜から蒸発した溶剤ガスは、通常は空気よりも重いために下に流れ落ち、その周囲にある相対的に軽い空気が上昇し、循環流である対流が発生する。この結果、塗布膜近傍では蒸発したガスの濃度や乾燥速度が不均一になり乾燥ムラになる。また、この対流に起因して渦が発生した乾燥風が塗布膜面に当たることで塗布膜面を流動させ、乾燥ムラを生じることもある。
【0036】
このため、乾燥時、特に塗布直後の初期乾燥における塗布膜面の乾燥ムラを抑制するために、塗布した後の初期乾燥においては、塗布膜面近傍に発生する溶剤蒸気の対流が発生しないように、迅速に溶剤蒸気を排気することが重要になる。
【0037】
そこで、本発明では、乾燥ゾーン26内の中心付近における相対風速をU(m/秒)とし、ウエブ12の塗布幅(乾燥風長)をX(m)とし、有機溶剤の平均分子量をMとし、乾燥ゾーン26内の温度における有機溶剤の蒸気圧分率をVとしたとき、下記式(1)の条件を満たすように乾燥する。
【0038】
{(M/28.8)−1}×V×(X/U)1.5<0.25…(1)
ここで、相対風速U(m/秒)とは、ウエブ12の走行速度に対する乾燥風の風速である。また、有機溶剤の蒸気圧分率V(−)は、Antoineの式(参考文献:化学便覧 基礎編 改訂5版)により蒸気圧を計算して求めることができる。
【0039】
上記式(1)のように、乱流を引き起こさない領域でできるだけ大きな風速の乾燥風を発生させ、給気から排気までの距離にほぼ相当する塗布幅を小さくすることで、塗布膜面近傍における溶剤蒸気を迅速に排気する。これにより、塗布膜面近傍に生じる溶剤蒸気による対流の発生を抑制できる。そして、この対流に起因して塗布膜面近傍の境界層が乱れることにより発生する乾燥ムラを防止し、均一な乾燥を行うことができる。また、塗布直後から乾燥ゾーン入口までを密閉空間にすることにより、該密閉空間内には溶剤ガスが飽和するため乾燥ムラは起こらない。したがって、この場合、密閉空間内は無風でもよい。
【0040】
また、ウエブ12が乾燥ゾーン26を走行することで、乾燥ゾーン26の入口側と出口側における塗布膜面近傍の有機溶剤濃度が異なる場合があるが、乾燥ゾーン26を、複数の分割ゾーン26A〜26Gに分割したことで解消することができる。すなわち、7分割された各分割ゾーン26A〜26Gの給気バルブ50A〜50Gと排気バルブ52A〜52Gとの開度を制御して、各分割ゾーン26A〜26Gを流れる乾燥風の風速を調整することにより、乾燥ゾーン26の入口側と出口側における塗布膜面近傍で蒸発する有機溶剤濃度の異なりを解消することができる。
【0041】
たとえば、本実施形態では、ウエブ走行方向の上流側の分割ゾーン26Aから下流側の分割ゾーン26Cにいくに従って乾燥風の風速が徐々に小さくし、乾燥ゾーン26の後半では乾燥風を低速化して乾燥中期で発生する乾燥ムラを発生させないようにすることができる。また、乾燥風を乾燥ゾーン26で高速化することにより、乾燥ゾーン全体の平均乾燥速度を速くすることも可能である。
【0042】
次に、本発明における第2の実施形態について説明する。本実施形態は、乾燥ゾーンにおいて、支持体走行方向に一方向の乾燥風を発生させて塗布膜を乾燥させる方法である。
【0043】
図4は、本発明における第2の実施形態を実施するための乾燥装置56を説明する断面図であり、図5は、給気・排気ノズルの構成を模式的に示した側面図である。また、図6は、給気ノズルのウエブ幅方向の断面図であり、図7は、排気ノズルのウエブ幅方向の断面図である。なお、図4において、塗布機の記載は省略したが、第1の実施形態と同様に隣接して塗布機を設けても良い。
【0044】
図4に示すように、乾燥装置56の乾燥装置本体58内は、走行するウエブ12の塗布膜面側(ウエブの下面側)に沿った長四角な箱体状に形成され、その内部には、ウエブ12の搬送経路を形成するサポートローラ59が複数設けられた乾燥ゾーン66が形成される。そして、塗布膜面12A(図6、図7参照)を下にして走行するウエブ12は、入口開口62から乾燥装置本体58内に搬入され、出口開口64から搬出される。
【0045】
乾燥ゾーン66は、乾燥装置本体58内を複数の仕切板68…で仕切ることにより、ウエブ12の走行方向に複数の分割ゾーン66A,66B,66Cに分割される(図4では3分割である)。各分割ゾーン66A,66B,66Cには、後述する給気ノズル、排気ノズルを備えた一方向気流発生手段72が乾燥路長分の数(図4では2基ずつ)だけ設けられ、分割ゾーンごとに乾燥条件が設定される。なお、分割される乾燥ゾーンの数や1つの乾燥ゾーンに設置される一方向気流発生手段72の数は上記の数には限定されない。
【0046】
図4及び図5に示すように、一方向気流発生手段72は、主に、分割ゾーン66A,66B,66Cの上流側位置に設けられた給気ノズル74(給気部)と、該給気ノズル74よりも下流側位置に設けられた排気ノズル76(排気部)と、給気ノズル74と排気ノズル76との間に設けられた平面部材78とより構成される。なお、この平面部材78は、必ずしも必要ではない。また、給気ノズル74と排気ノズル76との位置を逆にして、排気ノズル76の方を給気ノズル74よりも上流側に配置してもよい。第1の実施形態における図1と同様に、給気ノズル74…には給気ダクトが分岐接続され、給気ダクトには給気ファンが設けられる。また、排気ノズル76…には排気ダクトが分岐接続されると共に、排気ダクトに排気ファンが設けられる。また、排気ダクトの途中から循環ダクトが給気ファンの吸込み側に接続されると共に、循環ダクトの途中に新鮮な乾燥風の導入ダクトが設けられる。また、給気ダクトには、乾燥風の温度を制御する風温制御器が設けられ、給気ノズル74から吹き出す乾燥風の温度が調節される。
【0047】
図5及び図6に示すように、給気ノズル74は、給気口74Aに備えた第1の多孔板80を介して塗布膜面12A上に向けて乾燥風を吹き出すように構成され、乾燥装置本体58と一体的に形成される。すなわち、乾燥装置本体58内が、表面に多数の貫通孔80Aを有する第1の多孔板80で上下に仕切られており、第1の多孔板80の下側空間に給気側の均圧室82が形成される。この均圧室82の側面には、上記の給気ダクト、給気ファン等より給気側の均圧室82に乾燥風を供給する供給配管84の接続口86が設けられる(図6参照)。このように、給気ノズル74の吹き出し面に第1の多孔板80を配置することにより、均圧室82に供給された乾燥風の圧力が高められ、均圧室82で均圧化された後、吹き出される。
【0048】
図5及び図7に示すように、排気ノズル76は、給気ノズル74と同様にウエブ12の塗布膜面12A側に配置され、給気ノズル74から吹き出された乾燥風を排気口76Aに備えた第2の多孔板88を介して排気するように構成され、乾燥装置本体58と一体的に形成される。
【0049】
排気ノズル76は、乾燥風の流れが給気ノズル74と逆になるだけで構造的には給気ノズル74と同様である。すなわち、乾燥装置本体58内が、その表面に多数の貫通孔88Aを有する第2の多孔板88で上下に仕切られ、第2の多孔板88の下側空間に排気側の均圧室90が形成される。この均圧室90の側面には、上記の乾燥風の排気ダクト、排気ファンに接続する排気配管92の接続口94が設けられる。このように、排気ノズル76の排気面に第2の多孔板88を配置することにより、給気ノズル74から吹き出され、塗布膜面12A上を流れる乾燥風を排気ノズル76内に均一に排気できる。
【0050】
また、第1の実施形態における図1と同様に、乾燥風の風速は、供給配管84に接続される給気バルブや排気配管92に接続される排気バルブの開度をコントローラによって調節することにより制御できる。また、第1の実施形態と同様に、コントローラは、ウエブ走行方向の上流側の分割ゾーン66Aから下流側の分割ゾーン66Cにいくに従って、乾燥風の風速が徐々に小さくするように各給気バルブ、排気バルブを制御することができる。乾燥風の風速を徐々に小さくする態様としては、上流の分割ゾーン66Aから下流の分割ゾーン66Cに連続的に風速が小さくしてもよく、あるいは段階的に風速が小さくなるようにしてもよい。また、乾燥ゾーン全体の平均乾燥速度を速くするために、乾燥風を乾燥ゾーン66全体で大きくするよう各給気バルブ、排気バルブを制御することもできる。
【0051】
次に、上記の如く構成された図4の乾燥装置56を用いて、本発明の塗布膜の乾燥方法を説明する。
【0052】
サポートローラ59に支持され走行するウエブ12に図示しない塗布機で塗布された直後、乾燥装置56によって塗布膜面の乾燥が行なわれる。
【0053】
乾燥ゾーン66内では、給気ファン(不図示)と排気ファン(不図示)を駆動することにより、分割された各分割ゾーン66A〜66Cでは、ウエブ走行方向の給気側から排気側に向けて一方向に流れる乾燥風が発生する。これにより、塗布膜面近傍で蒸発した有機溶剤を含む乾燥風が乾燥ゾーン66から排気されて次第に乾燥される。
【0054】
この乾燥は、塗布直後の塗布膜面は有機溶剤が十分に含まれた状態にあり、特に、有機溶剤を溶媒とする塗布液を塗布した直後の初期乾燥において塗布面が下を向いた状態(本実施形態では、塗布面が水平面に対して0°〜45°の範囲である状態をいう)では、塗布膜から蒸発した溶剤ガスは、通常は空気よりも重いために下に流れ落ち、その周囲にある相対的に軽い空気が上昇し、循環流である対流が発生する。この結果、塗布膜近傍では蒸発したガスの濃度や乾燥速度が不均一になり乾燥ムラになる。また、この対流に起因して渦が発生した乾燥風が塗布膜面に当たることで塗布膜面を流動させ、乾燥ムラを生じることもある。
【0055】
このため、乾燥時、特に塗布直後の初期乾燥における塗布膜面の乾燥ムラを抑制するために、塗布直後の初期乾燥では、塗布膜面近傍に発生する溶剤蒸気の対流が発生しないように、迅速に溶剤蒸気を排気することが重要になる。
【0056】
そこで、本発明では、乾燥ゾーン66内の中心付近における相対風速をU(m/秒)とし、一方向気流発生手段72における給気口74Aと排気口76Aの間の中心間距離(乾燥風長)をX(m)とし、有機溶剤の平均分子量をMとし、乾燥ゾーン66内の温度における有機溶剤の蒸気圧分率をV(−)としたとき、下記式(2)の条件を満たすように乾燥する。
【0057】
{(M/28.8)−1}×V×(X/U)1.5<0.25…(2)
ここで、相対風速U(m/秒)とは、ウエブ12の走行速度に対する乾燥風の風速である。また、有機溶剤の蒸気圧分率V(−)は、Antoineの式(参考文献:化学便覧 基礎編 改訂5版)により蒸気圧を計算して求めることができる。
【0058】
上記式(2)のように、乱流を引き起こさない領域でできるだけ大きな風速の乾燥風を発生させ、給気ノズル、排気ノズル間の中心間距離xを小さくとることで、塗布膜面近傍における溶剤蒸気を迅速に排気する。これにより、塗布膜面近傍に生じる溶剤蒸気による対流の発生を抑制できる。そして、この対流に起因して塗布膜面近傍の境界層が乱れることにより発生する乾燥ムラを防止し、均一な乾燥を行うことができる。また、塗布直後から乾燥ゾーン入口までを密閉空間にすることにより、該密閉空間内には溶剤ガスが飽和するため乾燥ムラは起こらない。したがって、この場合、密閉空間内は無風でもよい。
【0059】
また、ウエブ走行方向の上流側の分割ゾーン66Aから下流側の分割ゾーン66Cにいくに従って乾燥風の風速が徐々に小さくし、乾燥ゾーン66の後半では乾燥風を低速化して乾燥中期で発生する乾燥ムラを発生させないようにすることができる。また、乾燥風を乾燥ゾーン66で高速化することにより、乾燥ゾーン全体の平均乾燥速度を速くすることも可能である。
【0060】
以上説明した第1、2の実施形態によれば、有機溶剤を含む塗布面を乾燥させる際に、塗布面近傍に蒸発した溶剤ガスに起因する対流が発生するのを抑制し、乾燥ムラを防止できる。
【0061】
以上、本発明に係る塗布膜の乾燥方法の実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、各種の態様が採り得る。
【0062】
たとえば、上記各実施形態では、乾燥装置内に給気ノズル及び排気ノズルを設けたが、給気ノズル又は排気ノズルのいずれか一方を設けてもよい。また、本発明の塗布膜の乾燥方法が適用できる構成であれば、上記各実施形態で述べた乾燥装置の構成に限定されない。
【0063】
また、本発明において同時に塗布される塗布液の塗布層(塗布膜)の数は単層に限定されるものではなく、必要に応じて同時多層塗布方法にも適用できる。
【0064】
次に、本発明に使用される各種材料について説明する。
【0065】
本発明に使用される塗布液の有機溶剤としては、メチルエチルケトン(MEK)、アセトン、メチルイソブチルケトン(MIBK)、メタノール、エタノール、n−プロパノール、メチルアセテート等を単独、又は混合溶剤として用いることができるが、沸点が100°C以下のものが特に好ましい。
【0066】
本発明で使用されるウエブ12としては、一般に幅0.3〜5m、長さ45〜10000m、厚さ5〜200μmのポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6ナフタレート、セルロースダイアセテート、セルローストリアセテート、セルロースアセテートプロピオネート、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド等のプラスチックフイルム、紙、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレンブテン共重合体等の炭素数が2〜10のα−ポリオレフィン類を塗布又はラミネートした紙、アルミニウム、銅、錫等の金属箔等、或いは帯状基材の表面に予備的な加工層を形成させたものが含まれる。更に、前記したウエブ12には、光学補償シート塗布液、磁性塗布液、写真感光性塗布液、表面保護、帯電防止あるいは滑性用塗布液等がその表面に塗布され、乾燥された後、所望する長さ及び幅に裁断されるものも含まれ、これらの代表例としては、光学補償シート、各種写真フイルム、印画紙、磁気テープ等が挙げられる。
【0067】
塗布液の塗布方法として、上記したバーコーティング法の他、カーテンコーティング法、エクストルージョンコーティング法、ロールコーティング法、ディップコーティング法、スピンコーティング法、印刷コーティング法、スプレーコーティング法及びスライドコーティング法を使用することができる。特にバーコーティング法、エクストルージョンコーティング法、スライドコーティング法が好適に使用できる。
【0068】
次に、本発明の塗布膜の乾燥方法を適用して光学補償シートを製造する方法、それを用いた液晶表示装置について説明する。
【0069】
[LCD用光学補償シート]
以下にセルロースアシレートフイルム透明支持体上にディスコティック化合物からなる光学異方性層を塗設した光学補償シートを直接偏光板の保護フイルムとして用いる液晶表示装置について記載するが、これに限定されるものではない。
【0070】
これらに用いられるディスコティック化合物については特開平7−267902号、特開平7−281028号、特開平7−306317号の各公報に詳細に記載されている。それらによると、光学異方層はディスクティック構造単位を有する化合物から形成される層である。即ち、光学異方層は、モノマー等の低分子量の液晶性ディスコティック化合物層、または重合性の液晶性ディスコティック化合物の重合(硬化)により得られるポリマー層である。それらのディスクティック(円盤状)化合物の例としては、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.71巻、111頁(1981年)に記載されているベンゼン誘導体、C.Destradeらの研究報告、Mol.Cryst.122巻、141頁(1985年)、Physics lett,A,78巻、82頁(1990)に記載されているトルキセン誘導体、B.Kohneらの研究報告、Angew.Chem.96巻、70頁(1984年)に記載されたシクロヘキサン誘導体及びJ.M.Lehnらの研究報告、J.Chem.Commun.,1794頁(1985年)、J.Zhangらの研究報告、J.Am.Chem.Soc.116巻、2655頁(1994年)に記載されているアザクラウン系やフェニルアセチレン系マクロサイクルなどを挙げることができる。上記ディスクティック(円盤状)化合物は、一般的にこれらを分子中心の母核とし、直鎖のアルキル基やアルコキシ基、置換ベンゾイルオキシ基等がその直鎖として放射線状に置換された構造であり、液晶性を示し、一般的にディスコティック液晶とよばれるものが含まれる。ただし、分子自身が負の一軸性を有し、一定の配向を付与できるものであれば上記記載に限定されるものではない。また、前記公報において円盤状化合物から形成したとは、最終的にできた物が前記化合物である必要はなく、例えば前記低分子ディスコティック液晶が熱、光等で反応する基を有しており、結果的に熱、光等で反応により重合または架橋し、高分子量化し液晶性を失ったものも含まれる。さらに、ディスコティックネマティック相または一軸性の柱状相を形成し得る、円盤状化合物の少なくとも一種を含有し、かつ光学異方性を有することを特徴とする化合物を用いることが好ましい。また円盤状化合物がトリフェニレン誘導体であることが好ましい。ここで、トリフェニレン誘導体が、特開平7−306317号公報に記載の(化2)で表される化合物であることが好ましい。
【0071】
また、セルロースアシレートフイルムは、配向膜の支持体として好ましく用いられる。それらは特開平9−152509号公報に詳細に記載されているものを適用できる。すなわち、配向膜は本発明で作製されたセルロースアシレートフイルム上又はそのセルロースアシレートフイルム上に塗設された下塗層上に設けられる。配向膜は、その上に設けられる液晶性ディスコティック化合物の配向方向を規定するように機能する。ここで配向膜は、光学異方層に配向性を付与できるものであれば、どのような層でも良い。
【0072】
配向膜の好ましい例としては、有機化合物(好ましくはポリマー)のラビング処理された層、無機化合物の斜方蒸着層、及びマイクログルーブを有する層、さらにω−トリコサン酸、ジオクタデシルメチルアンモニウムクロライド及びステアリル酸メチル等のラングミュア・ブロジェット法(LB膜)により形成される累積膜、あるいは電場あるいは磁場の付与により誘電体を配向させた層を挙げることができる。
【0073】
配向膜用の有機化合物の例としては、ポリメチルメタクリレート、アクリル酸/メタクリル酸共重合体、スチレン/マレインイミド共重合体、ポリビニルアルコール、ポリ(N−メチロールアクリルアミド)、スチレン/ビニルトルエン共重合体、クロロスルホン化ポリエチレン、ニトロセルロース、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリオレフィン、ポリエステル、ポリイミド、酢酸ビニル/塩化ビニル共重合体、エチレン/酢酸ビニル共重合体、カルボキシメチルセルロース、ポリエチレン、ポリプロピレン及びポリカーボネート等のポリマー及びシランカップリング剤等の化合物を挙げることができる。好ましいポリマーの例としては、ポリイミド、ポリスチレン、スチレン誘導体のポリマー、ゼラチン、ポリビルアルコール及びアルキル基(炭素原子数6以上が好ましい)を有するアルキル変性ポリビルアルコールを挙げることができる。
【0074】
中でもアルキル変性のポリビニルアルコールは特に好ましく、液晶性ディスコティック化合物を均一に配向させる能力に優れている。これは配向膜表面のアルキル鎖とディスコティック液晶のアルキル側鎖との強い相互作用のためと推察される。また、アルキル基は、炭素原子数6〜14が好ましく、更に、−S−、−(CH)C(CN)−または−(C)N−CS−S−を介してポリビニルアルコールに結合していることが好ましい。上記アルキル変性ポリビニルアルコールは、未端にアルキル基を有するものであり、ケン化度80%以上、重合度200以上が好ましい。また、上記側鎖にアルキル基を有するポリビニルアルコールは、クラレ(株)製のMP103、MP203、R1130などの市販品を利用することができる。
【0075】
また、LCDの配向膜として広く用いられているポリイミド膜(好ましくはフッ素原子含有ポリイミド)も有機配向膜として好ましい。これはポリアミック酸(例えば、日立化成(株)製のLQ/LXシリーズ、日産化学(株)製のSEシリーズ等)を支持体面に塗布し、100〜300℃で0.5〜1時間焼成した後、ラビングすることにより得られる。
【0076】
更に、本発明のセルロースアシレートフイルムに適用される配向膜は、上記ポリマーに反応性基を導入することにより、あるいは上記ポリマーをイソシアネート化合物及びエポキシ化合物などの架橋剤と共に使用して、これらのポリマーを硬化させることにより得られる硬化膜であることが好ましい。
【0077】
配向膜に用いられるポリマーと、光学異方層の液晶性化合物とが、これらの層の界面を介して化学的に結合していることが好ましい。配向膜のポリマーが、ビニル部分、オキシラニル部分またはアジリジニル部分を有する基で、少なくとも一個のヒドロキシル基が置換されたポリビニルアルコールから形成されていることが好ましい。ビニル部分、オキシラニル部分またはアジリジニル部分を有する基が、エーテル結合、ウレタン結合、アセタール結合またはエステル結合を介してポリビニルアルコール誘導体のポリマー鎖に結合していることが好ましい。ビニル部分、オキシラニル部分またはアジリジニル部分を有する基が、芳香族環を持たないことが好ましい。上記ポリビニルアルコールが、特開平9−152509号公報に記載の(化22)であることが好ましい。
【0078】
また、前記ラビング処理は、LCDの液晶配向処理工程として広く採用されている処理方法を利用することができる。即ち、配向膜の表面を、紙やガーゼ、フェルト、ゴムあるいはナイロン、ポリエステル繊維などを用いて一定方向に擦ることにより配向を得る方法を用いることができる。一般的には、長さ及び太さが均一な繊維を平均的に植毛した布などを用いて数回程度ラビングを行うことにより実施される。
【0079】
また、無機斜方蒸着膜の蒸着物質としては、SiOを代表とし、TiO、ZnO等の金属酸化物、あるいやMgF等のフッ化物、さらにAu、Alなどの金属が挙げられ
る。尚、金属酸化物は、高誘電率のものであれば斜方蒸着物質として用いることができ、上記に限定されるものではない。無機斜方蒸着膜は、蒸着装置を用いて形成することができる。フイルム(支持体)を固定して蒸着するか、あるいは長尺フイルムを移動させて連続的に蒸着することにより無機斜方蒸着膜を形成することができる。光学異方層を配向膜を使用せずに配向させる方法として、支持体上の光学異方層をディスコティック液晶層を形成し得る温度に加熱しながら、電場あるいは磁場を付与する方法を挙げることができる。
【0080】
セルロースアシレートフイルムは、特開平8−5837号、特開平7−191217号、特開平8−50206号、特開平7−281028号の各公報に詳細に記載されている下記の基本構成を有する光学補償シートに用いることができる。セルロースアシレートフイルム及びその上に設けられた光学異方層からなる光学補償シートが適用例であり、該光学異方層がディスコティック構造単位を有する化合物から形成される層である。LCDへの適用例としては、偏光板の片側に上記光学補償シートを粘着剤を介して貼り合わせる、もしくは、偏光素子の片側に保護フイルムとして、上記光学補償シートを接着剤を介して貼り合わせることが好ましい。光学異方素子は少なくともディスコティック構造単位(ディスコティック液晶が好ましい)を有することが好ましい。
【0081】
該ディスコティック構造単位の円盤面(以下、単に「面」とも言う)が、セルロースアシレートフイルム面に対して傾いており、且つ該ディスコティック構造単位の円盤面とセルロースアシレートフイルムとのなす角度が、光学異方層の深さ方向において変化していることが好ましい。
【0082】
セルロースアシレートフイルムと一緒に用いられる上記光学補償シートの好ましい態様は下記のとおりである。
(b1)角度の平均値が、光学異方層の深さ方向において光学異方層の底面からの距離の増加と共に増加している。
(b2)該角度が、5〜85°の範囲で変化する。
(b3)該角度の最小値が、0〜85°の範囲(好ましくは0〜40°)にあり、その最大値が5〜90°の範囲(好ましくは50〜85°)にある。
(b4)該角度の最小値と最大値との差が、5〜70度の範囲(好ましくは10〜60°)にある。
(b5)該角度が、光学異方層の深さ方向でかつ光学異方層の底面からの距離の増加と共に連続的に変化(好ましくは増加)している。
(b6)光学異方層が、さらにセルロースアシレートを含んでいる。
(b7)光学異方層が、さらにセルロースアセテートブチレートを含んでいる。
(b8)光学異方層と透明支持体との間に、配向膜(好ましくはポリマーの硬化膜)が形成されている。
(b9)光学異方層と配向膜との間に、下塗層が形成されている。
(b10)光学異方層が、光学補償シートの法線方向から傾いた方向に、0以外のレターデーションの絶対値の最小値を有する。
(b11)該配向膜が、ラビング処理されたポリマー層である上記(b8)記載の光学補償シート。
【0083】
該光学異方層へ添加することで、該光学異方層の配向温度を変えることのできる有機化合物を含むことが好ましい。該有機化合物が、重合性基を有するモノマーであることが好ましい。
【0084】
セルロースアシレートフイルムが適用される表記の光学補償シートの作製方法については、例えば特開平9−73081号、特開平8−160431号、特開平9−73016号の各公報に詳細に記載されているが、これらに限定されるものではない。
【0085】
以下、光学補償シートの作製方法についての一例を示す。
(c1)送り出された長尺状のセルロースアシレートフイルムの表面に配向膜形成用樹脂を含む塗布液を塗布、乾燥して透明樹脂層を形成される。
(c2)該透明樹脂層の表面に、ラビングローラを用いてラビング処理を施して透明樹脂層を配向膜を形成させる。ラビングロールを該フイルム基板の連続搬送工程内にある2つの搬送用ロール間に配置し、回転する該ラビングロールに該フイルム基板をラップさせながら該フイルム基板を搬送することによって、連続して該フイルム基板上の配向膜表面にラビング処理を施すことが好ましい。フイルム基板の走行方向に対し、回転軸を傾けてラビングロールを配置することも可能である。ラビングロール自身の真円度、円筒度、振れがいずれも30μm以下であることが好ましい。上記記載のラビング方法を用いた装置において、装置内に1セット以上の予備のラビングロールを備えていることが好ましい。
(c3)液晶性ディスコティック化合物を含む塗布液を、該配向膜上に塗布する。塗布は
ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、マイクログラビア法やエクストルージョンコート法(米国特許2681294号明細書)等の方法を適宜使用することができる。
【0086】
該透明樹脂層の表面のラビング処理を、ラビングローラを除塵しながら実施し、且つラビング処理した樹脂層の表面を除塵することが好ましい。液晶性ディスコティック化合物として架橋性官能基を有する液晶性ディスコティック化合物を用いられる。形成された塗布層(塗布膜)の表面を本発明の塗布膜の乾燥方法を適用して蒸発させ、溶媒の大部分を蒸発させた塗布層を加熱することにより、ディスコティックネマティック相の液晶層とすることからなることが好ましい。
(c4)該塗布された層を乾燥した後、加熱してディスコティックネマティック相の液晶層を形成させ、連続的に該液晶層に光照射してディスコティック液晶を硬化させることが好ましい。該塗布層の加熱を、該透明樹脂フイルムの液晶層を持たない側に、熱風または遠赤外線を付与することにより、あるいは加熱ローラを接触させることにより行なうことが好ましい。また該塗布層の乾燥後の加熱を、該透明樹脂フイルムの両面に、熱風または遠赤外線を付与することにより行なうことが好ましい。
(c5)配向膜及び液晶層が形成されたセルロースアシレートフイルムを巻き取ることが好ましい。
【0087】
[LCD用光学補償シートの応用法]
次にセルロースアシレートフイルムをパネルへ応用する例を示す。それらは、特開平8−95034号、特開平9−197397号、特開平11−316378号の各公報に詳細に記載されている。前記各公報に記載されている光学補償シートは、液晶表示装置、特に透過型液晶表示装置に有利に用いられる。透過型液晶表示装置は、液晶セルおよびその両側に配置された二枚の偏光板からなる。液晶セルは、二枚の電極基板の間に液晶を担持している。光学補償シートは、液晶セルと一方の偏光板との間に、一枚配置するか、あるいは液晶セルと双方の偏光板との間に二枚配置する。液晶セルのモードは、VAモード、TNモード、またはOCBモードであることが好ましい。
【0088】
[防眩フイルム、反射防止フイルム]
セルロースアシレートフイルムは、また防眩フイルム、反射防止フイルムへの適用が好ましく実施できる。LCD、PDP、CRT、EL等のフラットパネルディスプレイの視認性を向上する目的で、セルロースアシレートフイルムの片面または両面に防眩層、反射防止層の何れかあるいは両方を付与することができる。このような機能を付与したフイルムは防眩フイルム、反射防止フイルムと呼ばれ、防眩層と反射防止層の両方を具備したものを防眩性反射防止フイルムと呼ぶ。一般的に防眩フイルムならば透明支持体と防眩層から構成され、反射防止フイルムならば透明支持体上に単層から複数層の光干渉層から成る反射防止層が最表面に設けられ、必要に応じてハードコート層、防眩層が支持体と光干渉層の間に設けられる。
【0089】
透明支持体としては、LCD用途にはセルロースアシレートフイルムが好ましく、特にはセルロースアセテートが好ましい。本発明の防眩、反射防止フイルムをLCDに用いる場合、片面に粘着層を設ける等してディスプレイの最表面やディスプレイ内部の空気との界面に配置する。セルローストリアセテートは偏光板の偏光子を保護する保護フイルムに用いられるため、本発明の防眩、反射防止フイルムをそのまま保護フイルムに用いることがコスト、ディスプレイの薄手化の観点で好ましい。
【0090】
以下に、まず好ましい防眩フイルム、反射防止フイルムの実施態様を記述する。
【0091】
(態様A1) セルロースアシレートフイルムと少なくとも1層の屈折率が1.30から1.49の含フッ素樹脂からなる低屈折率層を含む防眩性反射防止フイルムにおいて、該セルロースアシレートフイルムと低屈折率層の間に屈折率が1.50から2.00であるバインダを含む防眩層を有することを特徴とする防眩性反射防止フイルム。
【0092】
(態様A1−2) セルロースアシレートフイルムと少なくとも1層の屈折率が1.30から1.49の含フッ素樹脂からなる低屈折率層を含む防眩性反射防止フイルムにおいて、該セルロースアシレートフイルムと低屈折率層の間に屈折率が1.50から2.00であるバインダを含むハードコート層を有することを特徴とする反射防止フイルム。
【0093】
(態様A2) 前記本発明で作製されたセルロースアシレートフイルムと防眩層の間に少なくとも1層のハードコートを有することを特徴とする態様A1に記載の防眩性反射防止フイルム。
【0094】
(態様A3) 前記含フッ素樹脂からなる低屈折率層が熱または電離放射線硬化性を有することを特徴とする態様A1またはA1−2またはA2に記載の防眩性反射防止又はクリア型反射防止フイルム。
【0095】
(態様A4) 前記防眩層がマット微粒子と電離放射線硬化性樹脂を含むバインダから成ることを特徴とする態様A3に記載の防眩性反射防止フイルム。
【0096】
(態様A4−1) 前記ハードコート層が電離放射線硬化性樹脂を含むバインダから成ることを特徴とする態様A1−2に記載の反射防止フイルム。
【0097】
(態様A5) 前記防眩層において、マット微粒子と電離放射線硬化性樹脂を含むバインダとの屈折率差が0.05未満であることを特徴とする態様A4に記載の防眩性反射防止フイルム。
【0098】
(態様A6) 前記防眩層において、前記マット微粒子の平均粒径が1μm〜10μmであることを特徴とする態様A4に記載の防眩性反射防止フイルム。
【0099】
(態様A7) 前記防眩層において、前記1.50から2.00の屈折率を有するバインダが高屈折率モノマーと3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとの混合物の熱または電離放射線硬化物であることを特徴とする態様A4に記載の防眩性反射防止フイルム。 (態様A8) 前記防眩層において、前記1.50から2.00の屈折率を有するバインダがAl、Zr、Zn、Ti、In、Snから選ばれる金属の酸化物超微粒子と3官能以上の(メタ)アクリレートモノマーとの混合物の熱または電離放射線硬化物であることを特徴とする態様A4に記載の防眩性反射防止フイルム。
【0100】
(態様A9) 前記含フッ素樹脂からなる低屈折率層が動摩擦係数0.03から0.15、且つ水に対する接触角が90から120°であることを特徴とする態様A4から態様A8のいずれか1つに記載の防眩性反射防止フイルム。
【0101】
(態様A10) 態様A1からA9のいずれか1つに記載した防眩性反射防止フイルムを、偏光板における偏光層の2枚の保護フイルムのうちの少なくとも一方に用いたことを特徴とする偏光板。
【0102】
(態様A11) 態様A1からA9のいずれか1つに記載の防眩性反射防止フイルムまたは態様A10に記載の防眩性反射防止偏光板の反射防止層をディスプレイの最表層に用いたことを特徴とする液晶表示装置。
【0103】
(態様A12) 屈折率が1.65乃至2.40である高屈折率層と、屈折率が1.20乃至1.55である低屈折率層とを有する反射防止膜であって、高屈折率層が、1乃至200nmの平均粒径を有する無機微粒子を5乃至65体積%および架橋しているアニオン性基を有するポリマーを35乃至95体積%含むことを特徴とする態様1に記載の反射防止膜。
【0104】
(態様A12−1) 屈折率が1.65乃至2.40である高屈折率層と屈折率が1.4乃至1.7である中屈折率層と屈折率が1.2乃至1.55である低屈折率層とを低、高、中の屈折率順に積層した反射防止膜。積層時には中屈折率層は高屈折率と低屈折率の間に屈折率を調整する。
【0105】
(態様A13) 高屈折率層のアニオン性基を有するポリマーが、リン酸基またはスルホン酸基をアニオン性基として有する態様A12に記載の反射防止膜。
【0106】
(態様A14) 高屈折率層のアニオン性基を有するポリマーが、さらにアミノ基またはアンモニウム基を有する態様A12に記載の反射防止膜。
【0107】
(態様A15) 高屈折率層の無機微粒子が、1.80乃至2.80の屈折率を有する態様A12に記載の反射防止膜。
【0108】
(態様A16) 高屈折率層が塗布により形成された層であり、アニオン性基を有するポリマーが層の塗布と同時または塗布後に、重合反応により形成されたポリマーである態様A12に記載の反射防止膜。
【0109】
(態様A17) 低屈折率層が、含フッ素樹脂からなり、熱または電離放射線硬化性を有することを特徴とする態様A12に記載の反射防止膜。
【0110】
(態様A18) 低屈折率層が、0.5乃至200nmの平均粒径を有する無機微粒子を50乃至95質量%およびポリマーを5乃至50質量%含み、該無機微粒子を少なくとも2個以上積み重ねることにより微粒子間にミクロボイドが形成されている層である態様A12に記載の反射防止膜。
【0111】
(態様A19) 態様A12からA18のいずれか1つに記載の反射防止膜の表面に凹凸形状を有し、低屈折率層および高屈折率層の膜厚が実質的に均一であることを特徴とする防眩性反射防止フイルム。
【0112】
(態様A20) 態様A19の防眩性反射防止フイルムにおいて、透明支持体上に支持体よりも屈折率の低い層を少なくとも一層設ける工程と、外部からの圧力により該透明支持体の少なくとも片面に表面凹凸を形成する工程をこの順序に実施することにより、防眩性反射防止フイルムを製造する方法。
【0113】
(態様A21) 態様A12からA20のいずれか1つに記載の反射防止フイルムを、偏光板の片面または両面に、偏光子の保護フイルムとして、あるいは保護フイルムの表面に張り合わせるフイルムとして具備した偏光板。
【0114】
(態様A22) 態様A21の偏光板を、少なくとも片面の最表面に配置された低屈折率層が視認側となるように配置したことを特徴とする画像表示装置。
【0115】
本発明の防眩、反射防止フイルムには、必要に応じてハードコート層を設けることができる。ハードコート層に用いる化合物は、飽和炭化水素またはポリエーテルを主鎖として有するポリマーであることが好ましく、架橋構造を有していることが好ましい。架橋構造を有するポリマーを得るためには、二以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーを電離放射線または熱により架橋するのが好ましい。
【0116】
二つ以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの例には、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル(例、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4−ジクロヘキサンジアクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート)、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、1,2,3−シクロヘキサンテトラメタクリレート、ポリウレタンポリアクリレート、ポリエステルポリアクリレート)、ビニルベンゼンおよびその誘導体(例、1,4−ジビニルベンゼン、4−ビニル安息香酸−2−アクリロイルエチルエステル、1,4−ジビニルシクロヘキサノン)、ビニルスルホン(例、ジビニルスルホン)、アクリルアミド(例、メチレンビスアクリルアミド)およびメタクリルアミドが含まれる。
【0117】
ポリエーテルを主鎖として有するポリマーは、多官能エポシキ化合物の開環重合反応により合成することが好ましい。これらのエチレン性不飽和基を有するモノマーは、塗布後、電離放射線または熱による重合反応により硬化させる必要がある。
【0118】
二以上のエチレン性不飽和基を有するモノマーの代わりまたはそれに加えて、架橋性基の反応により、架橋構造をバインダーポリマーに導入してもよい。架橋性官能基の例には、イソシアナート基、エポキシ基、アジリジン基、オキサゾリン基、アルデヒド基、カルボニル基、ヒドラジン基、カルボキシル基、メチロール基および活性メチレン基が含まれる。ビニルスルホン酸、酸無水物、シアノアクリレート誘導体、メラミン、エーテル化メチロール、エステルおよびウレタン、テトラメトキシシランのような金属アルコキシドも、架橋構造を導入するためのモノマーとして利用できる。ブロックイソシアナート基のように、分解反応の結果として架橋性を示す官能基を用いてもよい。また、本発明において架橋基とは、上記化合物に限らず上記官能基が分解した結果反応性を示すものであってもよい。これら架橋基を有する化合物は塗布した後に、熱などによって架橋させる必要がある。
【0119】
フイルムに防眩性を付与する手段としては、1)可視光を散乱する粒径のマット粒子をバインダ中に分散して表面凹凸を有する防眩層を形成する方法、2)エンボスやサンドブラスト等により支持体表面に凹凸を付与する方法、3)塗布組成物の相分離構造により表面に凹凸を付与する方法等、様様な手法が公開特許公報にて公開されているが、一般的には4)マット粒子をバインダ中に分散する方法で実用化されている。
【0120】
防眩層の形成には、表面凹凸形成による防眩性付与の目的で、樹脂化合物からなるバインダに加えて樹脂または無機化合物からなる微粒子(マット剤)が用いられる。平均粒径は1.0から10.0μmが好ましく、1.5から5.0μmがより好ましい。また、防眩層のバインダ膜厚よりも小さい粒径の微粒子が、該微粒子全体の50%未満であることが好ましい。粒度分布はコールターカウンター法により測定できるが、分布は粒子数分布に換算して考える。防眩層膜厚は0.5乃至10μmが好ましく、1乃至5μmがより好ましい。
【0121】
防眩層を形成するために用いる樹脂バインダには、上記ハードコート層を形成するために用いられる素材が膜強度、透明性の観点から好ましく用いられる。反射防止層と組み合わせる場合には、さらに上記ハードコート素材に加えて、高屈折率モノマーまたは高屈折率無機微粒子を併用することで層の屈折率を1.50から2.00まで高くすることにより、反射防止性能を向上することができる場合がある。高屈折率モノマーの例には、ビス(4−メタクリロイルチオフェニル)スルフィド、ビニルナフタレン、ビニルフェニルスルフィド、4−メタクリロキシフェニル−4‘−メトキシフェニルチオエーテル等が含まれる。高屈折率無機微粒子の例には、チタン、ジルコニウム、アルミニウム、インジウム、亜鉛、錫、アンチモンのうちより選ばれる少なくとも一つの酸化物からなる粒径100nm以下、好ましくは50nm以下の微粒子を含有することが好ましい。微粒子の例としては、TiO2、ZrO2、Al23 、In23、ZnO、SnO2、Sb23、ITO等が挙げられる。無機微粒子の添加量は、ハードコート層の全重量の10乃至90質量%であることが好ましく、20乃至80質量%であると更に好ましい。
【0122】
エンボスにより支持体表面に凹凸を付与する場合には、複数層の光学干渉層全てを形成した後に表面凹凸を形成するのが好ましい。表面凹凸を形成した後にウエット塗布にて複数の光学干渉層を形成すると、凹に塗布液が溜まることにより発生する各層の膜厚ムラのために反射防止性能の著しい悪化を引き起こし、好ましくない。全光学干渉層を形成した後にエンボス処理することにより、光学干渉層の膜厚が実質的に均一になる。ここで、実質的に均一とは、中心膜厚±3%以内であることを意味する。
【0123】
反射防止フイルムには、光学薄膜による光干渉の原理に基づいて設計された膜厚、屈折率、層構成となるように低屈折率層の単層、あるいは低屈折率層と高屈折率層の複数層から構成される反射防止層を設ける。ここで低屈折率層、高屈折率層とは、それぞれ支持体の屈折率よりも低い屈折率を有する層、支持体の屈折率よりも高い屈折率を有する層を指し、いずれも反射防止の対象となる光の波長オーダー以下の膜厚を有する。このような非常に薄い膜厚を有する層は光学薄膜と呼ばれ、反射防止膜や反射膜等、光干渉の原理に基づいた光学機能層として様様な用途に実用化されている。
【0124】
反射防止層としては、低屈折率層、高屈折率層がそれぞれ下記式(f1)、(f2)を満足することが好ましい。
【0125】
式(f1) mλ/4×0.7<n1d1<mλ/4×1.3
式(f2) nλ/4×0.7<n2d2<nλ/4×1.3
式中、mは正の奇数(一般に1)、nは正の整数であり、n1、n2はそれぞれ低屈折率層、高屈折率層の屈折率であり、そして、d1、d2はそれぞれ低屈折率層、高屈折率層の膜厚である。
【0126】
低屈折率層には、屈折率が1.30〜1.49までのものが、膜強度と屈折率のバランスを兼ね備えた素材として選択できる。具体的には、特開平11−38202号、特開平11−326601号の各公報等で開示されるような光の散乱を生じない程粒径が小さな微粒子間に空気の隙間を有する低屈折率層や、熱または電離放射線により架橋する含フッ素化合物が好ましく用いられる。架橋性のフッ素高分子化合物としてはパーフルオロアルキル基含有シラン化合物(例えば(ヘプタデカフルオロ−1,1,2,2−テトラデシル)トリエトキシシラン)等の他、含フッ素モノマーと架橋性基付与のためのモノマーを構成単位とする含フッ素共重合体が挙げられる。
【0127】
含フッ素モノマー単位の具体例としては、例えばフルオロオレフィン類(例えばフルオロエチレン、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロ−2,2−ジメチル−1,3−ジオキソール等)、(メタ)アクリル酸の部分または完全フッ素化アルキルエステル誘導体類(例えばビスコート6FM(大阪有機化学製)やM−2020(ダイキン製)等)、完全または部分フッ素化ビニルエーテル類等である。
【0128】
架橋性基付与のためのモノマーとしてはグリシジルメタクリレートのように分子内に予め架橋性官能基を有する(メタ)アクリレートモノマーの他、カルボキシル基やヒドロキシル基、アミノ基、スルホン酸基等を有する(メタ)アクリレートモノマー(例えば(メタ)アクリル酸、メチロール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アリルアクリレート等)が挙げられる。後者は共重合の後、架橋構造を導入できることが特開平10−25388号および特開平10−147739号の各公報に記載されている。
【0129】
また上記含フッ素モノマーを構成単位とするポリマーだけでなく、フッ素原子を含有しないモノマーとの共重合体を用いてもよい。併用可能なモノマー単位には特に限定はなく、例えばオレフィン類(エチレン、プロピレン、イソプレン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等)、アクリル酸エステル類(アクリル酸メチル、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸2−エチルヘキシル)、メタクリル酸エステル類(メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸ブチル、エチレングリコールジメタクリレート等)、スチレン誘導体(スチレン、ジビニルベンゼン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等)、ビニルエーテル類(メチルビニルエーテル等)、ビニルエステル類(酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、桂皮酸ビニル等)、アクリルアミド類(N−tertブチルアクリルアミド、N−シクロヘキシルアクリルアミド等)、メタクリルアミド類、アクリロ二トリル誘導体等を挙げることができる。
【0130】
高屈折率層には、上記防眩層を高屈折率化するときに好ましく用いられる素材が同様に用いられる。好ましい屈折率範囲は1.70〜2.20であり、好ましい膜厚範囲は5〜300nmであり、上記数式(f2)に従って設計された屈折率、膜厚とする。
【0131】
ハードコート層、防眩層、反射防止層の各層は、ディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート法、マイクログラビア法やエクストルージョンコート法(米国特許2681294号明細書)により、塗布により形成することができる。二以上の層を同時に塗布してもよい。同時塗布の方法については、米国特許2761791号、米国特許2941898号、米国特許3508947号、米国特許3526528号の各明細書および原崎勇次著、コーティング工学、253頁、朝倉書店(1973)に記載がある。
【0132】
なお、特開2003-149413には、角変化による、コントラスト低下、階調または黒白反転および色相変化などがほとんど生じない、表示品位に優れる液晶表示装置を提供するために、酢化度59.0〜61.5%のセルロースアセテートフイルム上に、透光性樹脂中に透光性微粒子を含む光拡散層を有する光拡散フイルムであって、セルロースアセテートフイルムの厚みが20〜70μmであり、長さ100mm当たりカットオフ値が0.8mmの平均表面粗さRaが0.2μm以下である光拡散フイルムについての記載があり、この発明は本発明にも適応できる。
【0133】
本発明の防眩フイルム、反射防止フイルムは、防眩層、反射防止層の形成前または形成後に何らかの手段により支持体の裏面を鹸化処理することにより、LCDを始めとする各用途に用いられる偏光板の製造において、偏光子の保護フイルムとして片面若しくは両面に直接偏光子と貼り合わせることができる。
【0134】
特にLCDの広視野角化のために液晶を封入したセルと偏光板との間に位相差フイルムを配置する場合には、セルの両面に配置される偏光板のうち、視認側に用いられる偏光板の空気界面側の保護フイルムに防眩フイルムまたは反射防止フイルムを、その反対面でありセルと偏光子の間となる面に位相差フイルムをそれぞれ偏光子の両面に保護層として貼り合わせて用いることができる。このような構成の偏光板は、従来の偏光板と同等の厚みでありながら広視野角、低反射といった機能を付与することが可能であり、高機能LCD用途に極めて好ましい。
【0135】
屈折率の異なる無機化合物(金属酸化物等)の透明薄膜を積層させた多層膜として、化学蒸着(CVD)法や物理蒸着(PVD)法、金属アルコキシド等の金属化合物のゾルゲル方法でコロイド状金属酸化物粒子皮膜を形成後に後処理(紫外線照射:特開平9−157855号公報、プラズマ処理:特開2002−327310号公報)して薄膜を形成する方法が挙げられる。一方、生産性が高い反射防止膜として、無機粒子をマトリックスに分散されてなる薄膜を積層塗布してなる反射防止膜が各種提案されている。
【0136】
上述したような塗布による反射防止フイルムに微細な凹凸の形状を有する防眩性を付与した反射防止層から成る反射防止フイルムも挙げられる。
【0137】
[塗布型反射防止フイルムの層構成]
基体上に少なくとも中屈折率層、高屈折率層、低屈折率層(最外層)の順序の層構成から成る反射防止膜は、以下の関係を満足する屈折率を有する様に設計される。 高屈折率層の屈折率>中屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率又、透明支持体と中屈折率層の間に、ハードコート層を設けてもよい。更には、中屈折率ハードコート層、高屈折率層及び低屈折率層からなってもよい。例えば、特開平8−122504号公報、同8−110401号公報、同10−300902号公報、特開2002−243906号公報、特開2000−111706号公報等が挙げられる。 又、各層に他の機能を付与させてもよく、例えば、防汚性の低屈折率層、帯電防止性の高屈折率層としたもの(例、特開平10−206603号公報、特開2002−243906号公報等)等が挙げられる。 反射防止膜のヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。又膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0138】
基体上に防眩層、低屈折率層を積層した層構成からなる防眩性反射防止膜は以下を満足する屈折率を有する様に設計される。防眩層>低屈折率層の屈折率、また又、透明支持体と防眩層の間に、ハードコート層を設けてもよい。反射防止膜のヘイズは、防眩層にあったヘイズとすることが好ましい。又膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0139】
基体上にハードコート層を設け、低屈折率層を積層した層構成からなるクリア型反射防止膜以下を満足する屈折率を有する様に設計される。防眩層>低屈折率層の屈折率、また又、透明支持体と防眩層の間に、ハードコート層を設けてもよい。反射防止膜のヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。又膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0140】
もしくは基体上に防眩層を設け、高屈折率層、低屈折率層を積層した層構成からなる防眩性反射防止膜以下を満足する屈折率を有する様に設計される。高屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率。反射防止膜のヘイズは、防眩層にあったヘイズとすることが好ましい。また、膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0141】
もしくは基体上にハードコート層を設け、高屈折率層、低屈折率層を積層した層構成からなる防眩性反射防止膜以下を満足する屈折率を有する様に設計される。高屈折率層の屈折率>透明支持体の屈折率>低屈折率層の屈折率。反射防止膜のヘイズは、5%以下あることが好ましく、3%以下がさらに好ましい。又膜の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験でH以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。
【0142】
(反射防止フイルムに用いる透明支持体)
透明支持体の光透過率は、80%以上であることが好ましく、86%以上であることがさらに好ましい。透明支持体のヘイズは、2.0%以下であることが好ましく、1.0%以下であることがさらに好ましい。透明支持体の屈折率は、1.4乃至1.7であることが好ましい。また、プラスチックフイルムを用いることが好ましい。プラスチックフイルムの材料の例には、セルロースエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等、)、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ポリアリレート、ポリエーテルイミド、ポリメチルメタクリレートおよびポリエーテルケトン等が挙げられる。
【0143】
(高屈折率層および中屈折率層)
反射防止膜の高い屈折率を有する層は、平均粒径100nm以下の高屈折率の無機化合物超微粒子及びマトリックスバインダーを少なくとも含有する硬化性膜から成る。高屈折率の無機化合物微粒子としては、屈折率1.65以上の無機化合物が挙げられ、好ましくは屈折率1.7以上のものが挙げられる。例えば、Ti、Zn、Sb、Sn、Zr、Ce、Ta、La、In等の酸化物、これらの金属原子を含む複合酸化物等が挙げられる。このような超微粒子とするには、粒子表面が表面処理剤で処理されること(例えば、シランカップリング剤等:特開平11−295503号公報、同11−153703号公報、特開2000−9908号公報、アニオン性化合物或は有機金属カップリング剤:特開2001−310432号公報等)、高屈折率粒子をコアとしたコアシェル構造とすること(:特開2001−166104号等)、特定の分散剤併用(例、特開平11−153703号公報、特許番号US6210858B1、特開2002−2776069号公報等)等挙げられる。マトリックスを形成する材料としては、従来公知の熱可塑性樹脂、硬化性樹脂皮膜等が挙げられる。更に、ラジカル重合性及び/又はカチオン重合性の重合性基を少なくとも2個以上含有の多官能性化合物含有組成物、加水分解性基を含有の有機金属化合物及びその部分縮合体組成物から選ばれる少なくとも1種の組成物が好ましい。例えば、特開2000−47004号公報、同2001−315242号公報、同2001−31871号公報、同2001−296401号公報等に記載の化合物が挙げられる。又、金属アルコキドの加水分解縮合物から得られるコロイド状金属酸化物と金属アルコキシト゛組成物から得られる硬化性膜も好ましい。例えば、特開2001−293818号公報等に記載されている。高屈折率層の屈折率は、−般に1.70〜2.20である。高屈折率層の厚さは、5nm〜10μmであることが好ましく、10nm〜1μmであることがさらに好ましい。中屈折率層の屈折率は、低屈折率層の屈折率と高屈折率層の屈折率との間の値となるように調整する。中屈折率層の屈折率は、1.50〜1.70であることが好ましい。
【0144】
(低屈折率層)
低屈折率層は、高屈折率層の上に順次積層して成る。低屈折率層の屈折率は1.20〜1.55である。好ましくは1.30〜1.50である。耐擦傷性、防汚性を有する最外層として構築することが好ましい。耐擦傷性を大きく向上させる手段として表面への滑り性付与が有効で、従来公知のシリコーンの導入、フッ素の導入等から成る薄膜層の手段を適用できる。含フッ素化合物の屈折率は1.35〜1.50であることが好ましい。より好ましくは1.36〜1.47である。また、含フッ素化合物はフッ素原子を35〜80質量%の範囲で含む架橋性若しくは重合性の官能基を含む化合物が好ましい。例えば、特開平9−222503号公報明細書の段落番号[0018]〜[0026]、同11−38202号公報明細書の段落番号[0019]〜[0030]、特開2001-40284号公報明細書の段落番号[0027]〜[0028]、特開2000−284102号公報等に記載の化合物が挙げられる。シリコーン化合物としてはポリシロキサン構造を有する化合物であり、高分子鎖中に硬化性官能基あるいは重合性官能基を含有して、膜中で橋かけ構造を有するものが好ましい。例えば、反応性シリコーン(例、サイラプレーン(チッソ(株)製等)、両末端にシラノール基含有のポリシロキサン(特開平11−258403号公報等)等が挙げられる。架橋又は重合性基を有する含フッ素及び/又はシロキサンのポリマーの架橋又は重合反応は、重合開始剤、増感剤等を含有する最外層を形成するための塗布組成物を塗布と同時または塗布後に光照射や加熱することにより実施することが好ましい。又、有機金属化合物と特定のフッ素含有炭化水素基含有のシランカップリング剤とを触媒共存下に縮合反応で硬化するゾルゲル硬化膜も好ましい。例えば、ポリフルオロアルキル基含有シラン化合物またはその部分加水分解縮合物(特開昭58−142958号公報、同58−147483号公報、同58−147484号公報、特開平9−157582号公報、同11−106704号公報記載等記載の化合物)、フッ素含有長鎖基であるポリ「パーフルオロアルキルエーテル」基を含有するシリル化合物(特開2000−117902号公報、同2001−48590号公報、同2002−53804号公報記載の化合物等)等が挙げられる。
【0145】
低屈折率層は、上記以外の添加剤として充填剤(例えば、二酸化珪素(シリカ)、含フッ素粒子(フッ化マグネシウム,フッ化カルシウム,フッ化バリウム)等の一次粒子平均径が1〜150nmの低屈折率無機化合物、特開平11−3820公報の段落番号[0020]〜[0038]に記載の有機微粒子等)、シランカップリング剤、滑り剤、界面活性剤等を含有することができる。低屈折率層が最外層に位置する場合、低屈折率層は気相法(真空蒸着法、スパッタリング法、イオンプレーティング法、プラズマCVD法等)により形成されても良い。安価に製造できる点で、塗布法が好ましい。低屈折率層の膜厚は、30〜200nmであることが好ましく、50〜150nmであることがさらに好ましく、60〜120nmであることが最も好ましい。
【0146】
(反射防止フイルムの他の層)
さらに、ハードコート層、前方散乱層、プライマー層、帯電防止層、下塗り層や保護層等を設けてもよい。
【0147】
(ハードコート層)
ハードコート層は、反射防止フイルムに物理強度を付与するために、透明支持体に設ける。特に、透明支持体と前記高屈折率層の間に設けることが好ましい。ハードコート層は、光及び/又は熱の硬化性化合物の架橋反応、又は、重合反応により形成されることが好ましい。 硬化性官能基としては、光重合性官能基が好ましく、又加水分解性官能基含有の有機金属化合物は有機アルコキシシリル化合物が好ましい。
【0148】
これらの化合物の具体例としては、高屈折率層で例示したと同様のものが挙げられる。ハードコート層の具体的な構成組成物としては、例えば、特開2002−144913号公報、同2000−9908号公報、WO0/46617号公報等記載のものが挙げられる。
【0149】
高屈折率層はハードコート層を兼ねることができる。このような場合、高屈折率層で記載した手法を用いて微粒子を微細に分散してハードコート層に含有させて形成することが好ましい。ハードコート層は、平均粒径0.2〜10μmの粒子を含有させて防眩機能(アンチグレア機能)を付与した防眩層(後述)を兼ねることもできる。ハードコート層の膜厚は用途により適切に設計することができる。ハードコート層の膜厚は、0.2〜10μmであることが好ましく、より好ましくは0.5〜7μmである。ハードコート層の強度は、JIS K5400に従う鉛筆硬度試験で、H以上であることが好ましく、2H以上であることがさらに好ましく、3H以上であることが最も好ましい。又、JISK5400に従うテーバー試験で、試験前後の試験片の摩耗量が少ないほど好ましい。
【0150】
(前方散乱層)
前方散乱層は、液晶表示装置に適用した場合の、上下左右方向に視角を傾斜させたときの視野角改良効果を付与するために設ける。上記ハードコート層中に屈折率の異なる微粒子を分散することで、ハードコート機能と兼ねることもできる。例えば、前方散乱係数を特定化した特開11−38208号公報、透明樹脂と微粒子の相対屈折率を特定範囲とした特開2000−199809号公報、ヘイズ値を40%以上と規定した特開2002−107512号公報等が挙げられる。
【0151】
(アンチグレア機能)
反射防止膜は、外光を散乱させるアンチグレア機能を有していてもよい。アンチグレア機能は、反射防止膜の表面に凹凸を形成することにより得られる。反射防止膜がアンチグレア機能を有する場合、反射防止膜のヘイズは、3〜30%であることが好ましく、5〜20%であることがさらに好ましく、7〜20%であることが最も好ましい。反射防止膜表面に凹凸を形成する方法は、これらの表面形状を充分に保持できる方法であればいずれの方法でも適用できる。例えば、低屈折率層中に微粒子を使用して膜表面に凹凸を形成する方法(例えば、特開2000−271878号公報等)、低屈折率層の下層(高屈折率層、中屈折率層又はハードコート層)に比較的大きな粒子(粒径0.05〜2μm)を少量(0.1〜50質量%)添加して表面凹凸膜を形成し、その上にこれらの形状を維持して低屈折率層を設ける方法(例えば、特開2000−281410号公報、同2000−95893号公報、同2001−100004号公報、同2001−281407号公報等)、最上層(防汚性層)を塗設後の表面に物理的に凹凸形状を転写する方法(例えば、エンボス加工方法として、特開昭63−278839号公報、特開平11−183710号公報、特開2000−275401号公報等記載)等が挙げられる。
【0152】
以下に、この反射防止膜の製造方法の一例を記載する。
【0153】
透明支持体であるウエブが送り出されるようになっている。ウエブはガイドローラによってガイドされて除塵機に送りこまれるようになっている。除塵機は、ウエブWの表面に付着した塵を取り除くことができるようになっている。除塵機の下流には、塗布手段であるエクストルージョン方式の塗布装置の塗布ヘッドが設けられており、塗布液がバックアップローラに巻き掛けられたウエブに塗布できるようになっている。塗布方法はディップコート法、エアーナイフコート法、カーテンコート法、スライドコート法、ローラーコート法、ワイヤーバーコート法、グラビアコート、マイクログラビア法等も用いることができる。塗布ヘッドは、クリーンルーム等の清浄な雰囲気に設置するとよい。その際、清浄度はクラス1000以下が好ましく、クラス100以下がより好ましく、クラス10以下が更に好ましい。
【0154】
防眩層、反射防止層を支持体(すでに何らかの機能層が形成されているものも含む)上に逐次、もしくは同時に塗布する。塗布ヘッドの下流には、(初期)乾燥ゾーン、加熱(本乾燥)ゾーンが順次設けられている。(初期)乾燥ゾーンで、形成された塗布層(塗布膜)の表面を気体層でシールしながら溶媒を抑制下に蒸発させ、溶媒の大部分を蒸発させ後に、塗布層をさらに加熱(本乾燥)ゾーンで乾燥することが好ましい。乾燥ゾーンにおける該塗布層表面の気体層のシールは、塗布層の表面に沿って気体を塗布層の移動速度に対して−0.1〜0.1m/秒の相対速度となるように移動させることが好ましい。上記溶媒を抑制下に蒸発させるには、塗布層中の溶媒含有量の減少速度が時間と比例関係にある期間内に行なうことが好ましい。乾燥は覆いを付けることが好ましい。また、乾燥風には整流した風もしくは均一な風を用いても良いし、もしくは蒸発した溶媒を塗布膜面に対向して設置された冷却凝縮板により凝縮させ取り除いても良い。乾燥工程の下流には塗布膜の硬化工程とて例えば紫外線照射装置が設けられており、紫外線照射により、所望の硬化、架橋を形成できるようになっている。また素材によっては熱で硬化するための熱処理ゾーンが設けられ所望の硬化、架橋を行うこともある。または巻き取った後、別工程でオーブン加熱や、搬送しての熱処理を行うこともある。そして、この下流に設けられた巻取り機により、反射防止膜が形成されたウエブが巻き取られるようになっている。
【0155】
基材、フイルム上に逐次塗布を行い2層以上の塗布層を形成させる場合には、これらを連続で行う(巻き取らず、塗布、乾燥工程を繰り返し、最終的に巻き取る)ことが生産上は好ましい。
【実施例】
【0156】
(実施例A)
本発明の有機溶剤を含む塗布膜の乾燥の実施例として、以下に光学補償シートの一例で説明する。
【0157】
まず、光学補償シートの製造工程の概要について説明する。図8は、本発明に係る塗布液の塗布乾燥方法が適用される光学補償シートの製造工程を説明する説明図である。なお、同図では、第1の実施形態の乾燥装置16を適用した例で説明する。
【0158】
図8に示すように、予め配向膜形成用のポリマー層が形成された透明支持体であるウエブ12が送出機104により送り出され、複数のガイドローラ106…によって支持されながらラビング処理装置108へ送り込まれる。ラビングローラ110は、ポリマー層にラビング処理を施すために設けられる。ラビングローラ110の下流には除塵機112が設けられており、ウエブ12の表面に付着した塵が取り除かれる。除塵機112の下流には塗布機114が設けられ、ディスコネマティック液晶を含む塗布液がウエブ12に塗布される。
【0159】
上記塗布液が塗布されたウエブ12は、本発明の乾燥方法が適用される初期乾燥ゾーン116を経た後、本乾燥ゾーン118、加熱ゾーン120で乾燥される。この下流には、紫外線ランプ122が設けられ、紫外線照射により液晶を架橋させ、所望のポリマーが形成される。そして、この下流に設けられた巻取り機124により、ポリマーが形成されたウエブ12が巻き取られる。
【0160】
図8の光学補償シートの製造工程において、初期乾燥ゾーン116は、図2の各分割ゾーン26A〜26Gにおける乾燥風の風速(給気速度及び排気速度)を表1のように変えたときに、製造された光学補償シートの乾燥ムラの発生状況を目視により調べた。
【0161】
面状の評価は、○:乾燥ムラがほとんど見えない、△:乾燥ムラがわずかに見える、×:乾燥ムラがはっきりと見える、の3段階で行った。なお、「○」は、商品として十分な均一性を有するものである。
【0162】
本実施例においては、ウエブ12として厚さ100μmであるトリアセチルセルロース(フジタック、富士写真フイルム(株)製)を使用した。そして、ウエブ12の表面に、長鎖アルキル変性ポバール(MP−203、クラレ(株)製)の2質量%溶液をウエブ1mあたり25mL塗布後、60℃で1分間乾燥させて作られた配向膜用樹脂層を形成したウエブ12を、送り出し機104より送り出しながら、ラビング処理装置108によりラビング処理して配向膜を形成した。ラビング処理におけるラビングローラ110の押し付け圧は、配向膜の樹脂層1cmあたり98Pa(10kgf/cm)とすると共に、回転周速を5.0m/秒とした。
【0163】
次に、配向膜用樹脂層をラビング処理して得られた配向膜上に、塗布液としては、ディスコティック化合物TE−8の(3)とTE−8の(5)(図9参照)の重量比で4:1の混合物に、光重合開始剤(イルガキュア907、日本チバガイギー(株)製造)を前記混合物に対して1重量%、レベリング剤(フッ素系界面活性剤であるメガファックF−781−F、大日本インキ化学工業製)を0.5質量%添加した混合物の30質量%メチルエチルケトン溶液とする液晶性化合物を含む塗布液を使用した。なお、メチルエチルケトンは、分子量(M)が72であり、乾燥温度20℃における蒸気圧分率(V)が0.12である。
【0164】
ウエブ12を走行速度21m/分で走行させながら、この塗布液を配向膜上に、塗布液量がウエブ1m当りウエット厚さで7μmになるようにワイヤーバー14Aで塗布した。そして、塗布直後に、乾燥装置16を使用して乾燥を行なった。
【0165】
相対風速Uは、以下の手順で測定した。ウエブ12の搬送を停止した状態で、乾燥風の風速を、日本カノマックス社製風速計クリモマスター風速計6543により測定した。このときの測定位置は、ウエブ12の塗布膜面と該塗布膜面と対向する乾燥装置本体18内の底面との間の高さで、かつウエブ12の幅方向中心の位置とした。
【0166】
ここで、ウエブ12の走行速度が21m/分のとき、風速に換算すると0.35m/秒に相当する。本例では、クリモマスター風速計の測定風速V(m/秒)と、ウエブ12の走行方向とは直交するので、相対風速Uは、(V+0.350.5として求めた。
【0167】
本実施例では、ゾーン1は図1の分割ゾーン26A、ゾーン2は分割ゾーン26B、ゾーン3は分割ゾーン26C、ゾーン4は分割ゾーン26D、ゾーン5は分割ゾーン26E、ゾーン6は分割ゾーン26F、ゾーン7は分割ゾーン26Gとする。
【0168】
次に、ウエブ12を、100°Cに調整された本乾燥ゾーン118及び、130°Cに調整された加熱ゾーン120を通過させてネマチック相を形成した後、この配向膜及び液晶性化合物が塗布されたウエブ12を連続搬送しながら、液晶層の表面に紫外線ランプ122により紫外線を照射した。
【0169】
実施例1〜6、比較例1及び2は、乾燥風の温度を25°Cとし、図1の各分割ゾーン26A〜26Gの給排気の相対風速を、ゾーン1からゾーン4までを表1に記載した風速U(m/秒)、ゾーン5、6は0.3m/秒、ゾーン7は0.1m/秒とし、上流側から下流側にいくに従って乾燥風の風速を3段階で小さくなるようにして乾燥した場合である。このとき、各分割ゾーン26A〜26Gにおいて、塗布幅Xは表1の塗布幅X(m)とし、ウエブ12の塗布膜面は水平から30°傾けた状態で乾燥した。この結果を表1に示す。
【0170】
【表1】

表1に示すように、光学補償シートの乾燥ムラは、式(1)の値が0.25以下である実施例1〜4では、ほとんど見られなかった。一方、式(1)の値が0.25を超える比較例1〜3では、乾燥ムラがみられた。
【0171】
次に、配向膜上に塗布する塗布液の溶剤を、上記のメチルエチルケトンからメチルイソブチルケトン(分子量M:100、乾燥温度20℃における蒸気圧分率V:0.026)とした以外は同様の液晶性化合物を含む塗布液を調製し、製造された光学補償シートの乾燥ムラの発生状況を調べた。
【0172】
実施例7〜11、及び比較例3は、乾燥風の温度を25°Cとし、図1の各分割ゾーン26A〜26Gの給排気の相対風速Uを、ゾーン1からゾーン4までを表2に記載した相対風速U(m/秒)、ゾーン5、6は0.3m/秒、ゾーン7は0.1m/秒とし、上流側から下流側にいくに従って乾燥風の風速を3段階で小さくなるようにして乾燥した場合である。このとき、各分割ゾーン26A〜26Gにおいて、塗布幅Xは表1の塗布幅X(m)とし、ウエブ12の塗布膜面は水平から30°傾けた状態で乾燥した。この結果を表2に示す。
【0173】
【表2】

表2に示すように、溶剤をメチルイソブチルケトンにした液晶性化合物を含む塗布液においても、式(1)の値が0.25以下である実施例7〜11では乾燥ムラがなく、面状が良好であった。一方、式(1)の値が0.25を超える比較例3では乾燥ムラが多く、面状が良好でなかった。
【0174】
また、ウエブ12の塗布膜面が真下(水平に対して0°)に向くように乾燥させた場合、ウエブ12の塗布膜面が下向きで水平に対して45°となるように傾けて乾燥させた場合のいずれにおいても、乾燥条件(乾燥風の風速、塗布幅)を変えて検討した結果、上記と同様に、式1の値が0.25よりも小さければ、乾燥ムラがなく、面状が良好であった。
【0175】
さらに、本発明の適用範囲外の乾燥条件において、ウエブ12の塗布膜面がなす角度を変えたときの、乾燥ムラの発生状況を調べた。なお、液晶性化合物を含む塗布液の溶剤としては、メチルイソブチルケトンを用いた。この結果を表3に示す。
【0176】
【表3】

表3に示すように、本発明の適用範囲外の乾燥条件において、ウエブ12の塗布膜面がなす角度が0〜45°の範囲であると、乾燥ムラが発生した(試験1〜3)。しかし、ウエブ12の塗布膜面がなす角度が60°になると、乾燥ムラはほとんど発生しなかった(試験4)。
【0177】
以上の結果より、ウエブ12の塗布膜面がなす角度が0〜45°の範囲であるときに、本発明の乾燥条件を適用することで、乾燥ムラが防止できることを確認できた。
【0178】
次に、本発明の乾燥条件を適用すべき時間(ゾーンの範囲)について調べた。
【0179】
実施例3と同様に、乾燥風の風速を、1.2m/秒、0.3m/秒、0.1m/秒の順に3段階で変化させ、1.2m/秒から0.3m/秒へ切り替えるゾーンを変化させた。
【0180】
すなわち、式(1)の値が0.2である実施例3の条件下で、各ゾーン出口における塗布膜の膜厚h(μm)と粘度μ(mPa・s)との関係を調べた。膜厚は、倉敷紡績株式会社製赤外線膜厚計RX−200により測定し、塗布直後及び各ゾーンで測定した膜厚より、各ゾーンにおける塗布膜中の固形分濃度を求めた。そして、この固形分濃度と同じ塗布液を調製し、該塗布液の粘度を(株)エーアンドディー製振動式粘度計CJV−5000で測定し、塗布膜の粘度とした。この結果を表4に示す。
【0181】
【表4】

【0182】
【表5】

※風速が1.2m/秒のゾーンを出た直後の値。
【0183】
表4より、塗布膜のh/μは、乾燥の進行とともに小さくなる。表4、5に示すように、塗布膜のh/μがh/μ≦0.5を満たすまで、式(1)の乾燥条件で乾燥すると、乾燥ムラがほとんどみられず良好であった。一方、h/μ≦0.5を満たすまで式(1)の乾燥条件で乾燥しなかった比較例3−1、3−2では、乾燥ムラが発生し、面状は好ましくなかった。
【0184】
さらに、ウエブ12の走行速度を12m/分(風速換算では0.2m/秒に相当)とした以外は、実施例3と同様にして各ゾーン出口における塗布膜の膜厚h(μm)と粘度μ(mPa・s)との関係を調べた。
【0185】
【表6】

【0186】
【表7】

※風速が1.2m/秒のゾーンを出た直後の値。
【0187】
表6、7に示すように、塗布膜のh/μがh/μ≦0.5を満たすまで、式(1)の乾燥条件で乾燥すると、乾燥ムラがほとんどみられず良好であった(実施例3−2、実施例3−3)。一方、h/μ≦0.5を満たすまで式(1)の乾燥条件で乾燥しなかった比較例3−3では、乾燥ムラが発生し、面状は好ましくなかった。
【0188】
以上から、塗布膜のh/μがh/μ≦0.5となるまで、即ちh/μ>0.5の範囲で式(1)の乾燥条件を適用することにより、乾燥ムラを効果的に抑制できることがわかった。
【0189】
(実施例B)
次に、図8における図1の乾燥装置16の代わりに図4の乾燥装置56を適用した場合についても、実施例Aと同様に、製造された光学補償シートの乾燥ムラの発生状況を目視により調べた。
【0190】
なお、図4では乾燥ゾーン66を3つの分割ゾーン66A〜66Cに区分したが、本実施例では、7つの分割ゾーン66A〜66Gに区分し、ゾーン1は図4の分割ゾーン66A、ゾーン2は分割ゾーン66B、ゾーン3は分割ゾーン66C、ゾーン4は分割ゾーン66D(不図示)、ゾーン5は分割ゾーン66E(不図示)、ゾーン6は分割ゾーン66F(不図示)、ゾーン7は分割ゾーン66G(不図示)である。
【0191】
実施例12〜15、及び比較例4は、乾燥風の温度を25°Cとし、各分割ゾーン66A〜66Gの給排気の相対風速を、ゾーン1からゾーン4までを表4の相対風速U(m/秒)とし、ゾーン5、6は0.3m/秒、ゾーン7は0.1m/秒とし、上流側から下流側にいくに従って乾燥風の風速を3段階で小さくなるようにして乾燥した場合である。なお、各分割ゾーン66A、66B…において、給気・排気の中心間距離Xは表4の中心間距離Xとし、ウエブ12の塗布膜面を水平から30°傾けて乾燥させ、液晶性化合物を含む塗布液には、溶剤としてメチルイソブチルケトン(分子量M:100、乾燥温度20℃における蒸気圧分率V:0.026)を用いた。
【0192】
相対風速Uは、以下の手順で測定した。ウエブ12の搬送を停止した状態で、乾燥風の風速を、日本カノマックス社製風速計クリモマスター風速計6543により測定した。このときの測定位置は、ウエブ12の塗布膜面と該塗布膜面と対向する乾燥装置本体58内の底面との間の高さで、かつ給気ノズルと排気ノズルの中間位置とした。
【0193】
ここで、ウエブ12の走行速度が18m/分であるので、風速に換算すると0.3m/秒に相当する。本例では、クリモマスター風速計の測定風速V(m/秒)と、ウエブ12の走行方向とは同じであるため、相対風速は、(V−0.3)で表される。この結果を表8に示す。
【0194】
【表8】

表8に示すように、式(2)の値が0.25よりも小さい実施例12〜14では乾燥ムラがなく、面状が良好であった。一方、式(2)の値が0.25を超える比較例4、5では乾燥ムラが多く、面状が良好でなかった。
【0195】
また、ウエブ12の塗布膜面が真下(水平に対して0°)に向くように乾燥させた場合、ウエブ12の塗布膜面が下向きで水平に対して45°となるように傾けて乾燥させた場合のいずれにおいても、乾燥条件(乾燥風の風速、給気・排気間の中心間距離)を変えて検討した結果、上記と同様の結果が得られることがわかった。
【0196】
以上より、本発明の塗布膜の乾燥方法を適用することにより、乾燥ムラのない面状の良好な光学補償シートを得ることができることを確認した。
【図面の簡単な説明】
【0197】
【図1】第1の実施形態における塗布・乾燥装置を説明する断面図である。
【図2】図1のA−A線に沿った断面図である。
【図3】図1の乾燥装置における給気・排気ノズルの構成を説明する説明図である。
【図4】第2の実施形態における乾燥装置を説明する断面図である。
【図5】図4の給気・排気ノズルの構成を示した側面図である。
【図6】図4の給気ノズルを示したウエブ幅方向の断面図である。
【図7】図4の排気ノズルを示したウエブ幅方向の断面図である。
【図8】本発明が適用される光学補償フイルムの製造工程を説明する説明図である。
【図9】本実施例のディスコティック化合物の化学式を示す図である。
【符号の説明】
【0198】
10…塗布・乾燥装置、12…ウエブ、12A…塗布膜面、14、114…塗布機、16、56…乾燥装置、18、58…乾燥装置本体、26、66…乾燥ゾーン、26A〜26G、66A〜66C…分割ゾーン、32、72…一方向気流発生手段、34、74…給気ノズル、40、76…排気ノズル、116…初期乾燥ゾーン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行する長尺状の支持体に有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜を、前記支持体を囲むように形成された乾燥ゾーンにおいて前記支持体幅方向の一方端から他方端に流れる一方向流れの乾燥風で乾燥する方法であって、前記支持体を前記塗布膜面が下向き且つ水平面に対して0°〜45°の角度をなすように走行させながら乾燥する塗布膜の乾燥方法において、
前記塗布膜の膜厚をh(μm)とし、前記塗布膜の粘度μ(mPa・s)としたとき、h/μ>0.5の範囲を満たす初期乾燥において、
前記乾燥ゾーン内の中心付近における相対風速をU(m/秒)とし、前記支持体の塗布幅をX(m)とし、前記有機溶剤の平均分子量をMとし、前記乾燥ゾーン内の温度における前記有機溶剤の蒸気圧分率をVとしたとき、下記式の条件を満たすように乾燥を行うことを特徴とする塗布膜の乾燥方法。
{(M/28.8)−1}×V×(X/U)1.5<0.25
【請求項2】
走行する長尺状の支持体に有機溶剤を含む塗布液を塗布して形成した塗布膜を、前記支持体を囲むように形成され且つ内部に前記支持体の走行方向に給気部と排気部を交互に配置した乾燥ゾーンにおいて、前記給気部と前記排気部の間で流れる一方向流れの乾燥風で乾燥する方法であって、前記支持体を前記塗布膜面が下向き且つ水平面に対して0°〜45°の角度をなすように走行させながら乾燥する塗布膜の乾燥方法において、
前記塗布膜の膜厚をh(μm)とし、前記塗布膜の粘度μ(mPa・s)としたとき、h/μ>0.5の範囲を満たす初期乾燥において、
前記乾燥ゾーン内の中心付近における相対風速をU(m/秒)とし、隣設された前記給気部と前記排気部の中心間距離をX(m)とし、前記有機溶剤の平均分子量をMとし、前記乾燥ゾーン内の温度における前記有機溶剤の蒸気圧分率をVとしたとき、下記式の条件を満たすように乾燥を行うことを特徴とする塗布膜の乾燥方法。
{(M/28.8)−1}×V×(X/U)1.5<0.25
【請求項3】
前記相対風速は、3m/秒以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の塗布膜の乾燥方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか1項に記載の塗布膜の乾燥方法を適用して製造したことを特徴とする光学フイルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2008−116182(P2008−116182A)
【公開日】平成20年5月22日(2008.5.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−302002(P2006−302002)
【出願日】平成18年11月7日(2006.11.7)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】