説明

塗布装置および塗布方法

【課題】基材にカーテン膜を安定的に形成することができる塗布装置および塗布方法を提供する。
【解決手段】塗布装置1は、支持ロール10の近傍において当該支持ロール10と離間して設けられ、支持ロール10により支持される基材Wに対してカーテン膜Cを落下させる塗布ヘッド20と、支持ロール10の近傍において塗布ヘッド20から落下したカーテン膜Cが基材Wに接触する箇所Pよりも支持ロール10の回転方向における上流側に設けられた空気流除去部30とを備えている。空気流除去部30には、支持ロール10により支持された基材Wの表面に生成され支持ロール10の回転方向に沿って流れる空気流を除去するスリット34、36、38が1または複数形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、支持ロールにより支持され、連続的に搬送される基材にカーテン膜を形成する塗布装置および塗布方法に関し、とりわけ、基材にカーテン膜を安定的に形成することができる塗布装置および塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、支持ロールにより支持され、連続的に搬送される基材にカーテン膜を形成するような塗布装置として様々な種類のものが知られている(例えば、特許文献1乃至5等参照)。一般的な塗布装置においては、基材にカーテン膜を付着させるにあたり、支持ロールにより支持され、連続的に搬送される基材に対して塗布ヘッドからカーテン膜を落下させる。このことにより、基材の表面にカーテン膜が形成される。
【0003】
従来の塗布装置においては、支持ロールが連続的に回転しているので、この支持ロールにより支持された基材の表面には、支持ロールの回転方向に沿って流れるような空気流(同伴風)が生成される。ここで、塗布ヘッドから落下したカーテン膜にこのような空気流が当たってしまうと、この空気流によってカーテン膜が基材の表面における適切な位置に落下しなくなってしまい、基材の表面にカーテン膜を適切に形成することができないという問題がある。
【0004】
このため、特許文献1乃至4に示すような塗布装置では、支持ロールの近傍に減圧室を設け、この減圧室の出口部分には、ブレード等からなる遮風構造を配置することにより、塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所の近傍における基材上の空気流を除去するようにしている。また、特許文献5に示すような装置では、支持ロールの周囲に当該支持ロールの外周面に沿って湾曲するような空気シールドを設け、この空気シールドに、空気流を低減するための減圧ボックスを多段で設置するようになっている。
【0005】
また、特許文献6には、支持ロールにより支持された基材にダイヘッドを近接させ、このダイヘッドから基材に塗工液を供給するような塗工装置が開示されている。特許文献6に示すような塗工装置では、減圧用のスリットがダイヘッドの内部に形成されているとともに、ダイヘッドにおける塗工液の供給口の近傍にはラビリンスシールが形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2000−176345号公報
【特許文献2】特開昭62−186966号公報
【特許文献3】特開2001−54755号公報
【特許文献4】特開昭62−289264号公報
【特許文献5】特開平6−39331号公報
【特許文献6】特開2003−53233号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1乃至4に示すような従来の塗布装置では、減圧室の出口部分に形成されたブレード等からなる遮風構造が、支持ロールにより支持される基材に近すぎる場合には、基材が遮風構造に接触したり、異物の引っかかりが発生したりするという問題が生じるおそがれる。また、支持ロールにより支持される基材から大きな距離を空けて遮風構造を配置した場合には、減圧室内の減圧の影響により、塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所の近傍において空気流の抑制が十分に行われず、カーテン膜の塗布の欠陥が発生したり、カーテン膜が空気流の影響により引き込まれてしまったりするという問題がある。また、特許文献1乃至4に示すような従来の塗布装置では、減圧室の容積が大きく、減圧室内外での空気の差圧の微調整が難しいという問題がある。
【0008】
また、特許文献5に示すような装置では、円弧状の空気シールドは、構造的に支持ロールとの間の間隔の大きさの調整が難しく、支持ロールの幅方向における空気シールドと支持ロールとの間の間隙の大きさにばらつきが生じてしまい、このことにより支持ロールの幅方向における空気流の抑制の度合いにもばらつきが生じてしまい、その結果、基材上に形成されるカーテン膜について支持ロールの幅方向において塗布のばらつきが生じてしまうという問題がある。
【0009】
また、特許文献6に示すような塗工装置では、支持ロールに支持された基材にダイヘッドを近接させている。しかしながら、特許文献6には、基材に対してカーテン膜を落下させる塗布ヘッドが支持ロールから離間して設けられる場合については何ら記載されていない。すなわち、基材に対してカーテン膜を落下させる塗布ヘッドが支持ロールから離間して設けられる場合には、カーテン膜は塗布ヘッドから基材まで自然落下することとなり、より一層空気流の影響を受けやすくなる。これに対して、特許文献6には、基材にダイヘッドが近接している場合についてしか述べられていないので、特許文献6に開示されるような技術をそのままカーテン膜の塗布方法に適用することはできない。
【0010】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、塗布ヘッドからカーテン膜を自然落下させて基材に付着させることにより基材にカーテン膜を形成するような、より空気流の影響を受けやすい場合でも、基材の幅方向において均一に空気流を除去し、また空気流を除去するための部材に基材が接触してしまうことがなく、基材にカーテン膜を安定的に形成することができる塗布装置および塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、支持ロールにより支持され、連続的に搬送される基材にカーテン膜を形成する塗布装置であって、前記支持ロールの近傍において当該支持ロールと離間して設けられ、前記支持ロールにより支持される基材に対してカーテン膜を落下させる塗布ヘッドと、前記支持ロールの近傍において前記塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所よりも前記支持ロールの回転方向における上流側に設けられ、前記支持ロールにより支持された基材の表面に生成され当該支持ロールの回転方向に沿って流れる空気流を除去するスリットが1または複数形成された空気流除去部と、を備えたことを特徴とする塗布装置である。
【0012】
このような塗布装置によれば、塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所よりも支持ロールの回転方向における上流側に空気流除去部が設けられており、この空気流除去部には、支持ロールにより支持された基材の表面に生成され当該支持ロールの回転方向に沿って流れる空気流を除去するスリットが形成されている。このため、支持ロールにより支持された基材の表面に生成され当該支持ロールの回転方向に沿って流れる空気流が、塗布ヘッドから落下したカーテン膜に当たることを十分に抑制することができる。とりわけ、塗布ヘッドからカーテン膜を自然落下させて基材に付着させることにより基材にカーテン膜を形成するような、より空気流の影響を受けやすい場合でも、空気流除去部の内部に形成されたスリットにより、基材の幅方向において均一に空気流を除去することができる。特に、従来のような減圧室を設ける場合と比較して、スリットの容積は小さいので、微差圧の減圧でも減圧による空気流の抑制効果を十分に得ることができる。また、スリットは空気流除去部の内部に形成されており、空気流除去部は基材から離間して設けられているので、空気流除去部に基材が接触してしまうことが抑止される。このようにして、基材にカーテン膜を安定的に形成することができる。
【0013】
本発明の塗布装置においては、前記空気流除去部において、前記スリットは前記支持ロールの回転方向に沿って複数設けられていてもよい。
【0014】
この場合、前記空気流除去部において、前記複数のスリットのうち、前記塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所に最も近いスリットには吸引機構が接続されており、前記吸引機構により前記スリットから空気流が吸引されるようになっていてもよい。このような吸引機構が設けられていることにより、塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所に最も近いスリットにより除去される空気流の量を増加させることができ、カーテン膜に空気流が送られてしまうことをより一層抑制することができる。
【0015】
また、前記空気流除去部において、前記複数のスリットのうち、前記吸引機構が接続されたスリット以外のスリットはその端部が大気開放されていてもよい。
【0016】
あるいは、前記空気流除去部において、前記複数のスリットにはそれぞれ吸引機構が接続されており、前記各吸引機構により前記各スリットから空気流が吸引されるようになっていてもよい。この場合には、各スリットにより除去される空気流の量をそれぞれ増加させることができ、カーテン膜に空気流が送られてしまうことをより一層抑制することができる。
【0017】
また、前記各スリットは、前記塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所から近い順にその断面積が小さくなっていてもよい。言い換えると、塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所に最も近いスリットはその断面積が最も小さく、上述の箇所から最も遠いスリットの断面積が最も大きくなっている。このことにより、支持ロールの回転方向における上流側のスリットから順に、除去できる空気流の量が多くなる。
【0018】
また、前記空気流除去部における前記支持ロールに対向する面において、前記各スリットの入口部分には凸形状に湾曲した隅部分が設けられており、前記支持ロールにより支持された基材の表面に生成され当該支持ロールの回転方向に沿って流れる空気流は、前記隅部分に沿って前記各スリットに入るようになっていてもよい。この場合、各スリットの入口部分に設けられた隅部分は凸形状に湾曲しているので、空気流を基材から剥離させるようないわゆるコアンダ効果が得られる。コアンダ効果とは、空気流が物体に沿って流れる性質を利用したものであり、上述のような場合では空気流が凸形状に湾曲した隅部分に沿って流れることをいう。このような隅部分が各スリットの入口部分に設けられていることにより、空気流除去部の対向面と基材との間の間隙において支持ロールの回転方向に沿って流れる空気流について、より多くの量の空気流を各スリットに送ることができる。
【0019】
また、この際に、前記各スリットの入口部分に設けられた各隅部分は、前記塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所から近い順にその曲率半径が小さくなっていてもよい。言い換えると、塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所に最も近い隅部分はその曲率半径が最も小さく、上述の箇所から最も遠い隅部分はその曲率半径が最も大きくなっている。このことにより、支持ロールの回転方向における上流側のスリットから順に、隅部分の湾曲の度合いが緩やかとなり、より大きなコアンダ効果が得られるようになる。このため、支持ロールの回転方向における上流側のスリットから順に、これらのスリットに入る空気流の量が多くなる。
【0020】
本発明の塗布装置においては、前記空気流除去部において、前記塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所と、前記支持ロールの回転方向における最も下流側にあるスリットとの間における前記支持ロールに対向する面にはラビリンス構造が形成されていてもよい。ここで、ラビリンス構造とは、支持ロールにより支持される基材と空気流除去部の対向面との間の間隔の大きさが基材の搬送方向に沿って増減を繰り返すような構造のことをいう。このようなラビリンス構造が空気流除去部の対向面に設けられていることにより、空気流除去部の対向面と基材との間の間隙を流れる空気流がカーテン膜に到達することを抑制することができるととともに、カーテン膜側からこの空気流除去部の対向面と基材との間の間隙に空気流が入り込むことを抑制することができる。とりわけ、カーテン膜側から空気流除去部の対向面と基材との間の間隙に空気流が入り込むことを抑制することにより、塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に到達する前に空気流除去部側に向かって引き込まれてしまうことを抑制することができる。
【0021】
本発明の塗布装置においては、前記空気流除去部において、前記塗布ヘッドから基材に落下するカーテン膜に対向する側面には追加のスリットが形成されており、当該追加のスリットにより前記側面と前記カーテン膜との間に空気流が送られるようになっていてもよい。追加のスリットが設けられることにより、この追加のスリットからカーテン膜に向かって空気流が送られるようになっているので、塗布ヘッドからカーテン膜が落下する際にカーテン膜と空気流除去部との間の空間が負圧となってしまうことによりカーテン膜が空気流除去部の側面に接触してしまうことを抑制することができる。
【0022】
この場合、前記空気流除去部における前記支持ロールに対向する面において、前記追加のスリットの出口部分の近傍には凸形状に湾曲した隅部分が設けられており、前記追加のスリットから前記隅部分に沿って空気流が前記空気流除去部における前記支持ロールに対向する面と基材との間に流れるようになっていてもよい。このように、追加のスリットの出口部分に設けられた隅部分は凸形状に湾曲しているので、前述のようなコアンダ効果により空気流を隅部分に沿って流れさせることができ、この空気流を空気流除去部のラビリンス構造と基材との間に送ることができる。このような空気流により、スリット内の空気の圧力と、塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所の圧力との間の変動を制御することができる。
【0023】
また、前記追加のスリットはその端部が大気開放されていてもよい。
【0024】
本発明は、支持ロールにより支持され、連続的に搬送される基材に対してカーテン膜を落下させ、この基材の表面にカーテン膜を形成する工程と、前記支持ロールにより支持された基材の表面に生成され当該支持ロールの回転方向に沿って流れる空気流を、カーテン膜が基材に接触する箇所よりも前記支持ロールの回転方向における上流側に設けられた空気流除去部に形成されたスリットに流入させることによりこの空気流を除去する工程と、を備えたことを特徴とする塗布方法である。
【0025】
このような塗布方法によれば、支持ロールにより支持された基材の表面に生成され当該支持ロールの回転方向に沿って流れる空気流を、空気流除去部に形成されたスリットに流入させることによりこの空気流を除去するようになっている。このため、支持ロールにより支持された基材の表面に生成され当該支持ロールの回転方向に沿って流れる空気流がカーテン膜に当たることを十分に抑制することができる。とりわけ、カーテン膜を自然落下させて基材に付着させることにより基材にカーテン膜を形成するような、より空気流の影響を受けやすい場合でも、空気流除去部の内部に形成されたスリットにより、基材の幅方向において均一に空気流を除去することができる。特に、従来のような減圧室を設ける場合と比較して、スリットの容積は小さいので、微差圧の減圧でも減圧による空気流の抑制効果を十分に得ることができる。また、スリットは空気流除去部の内部に形成されており、空気流除去部は基材から離間して設けられているので、空気流除去部に基材が接触してしまうことが抑止される。このようにして、基材にカーテン膜を安定的に形成することができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明の塗布装置および塗布方法によれば、基材にカーテン膜を安定的に形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一の実施の形態による塗布装置の構成の概略を示す構成図である。
【図2】図1に示す塗布装置における空気流除去部の構成の詳細を示す断面図である。
【図3】図1に示す塗布装置における空気流除去部の他の構成の詳細を示す断面図である。
【図4】図1に示す塗布装置における空気流除去部の更に他の構成の詳細を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明の一の実施の形態について説明する。図1乃至図4は、本実施の形態に係る塗布装置および塗布方法を示す図である。このうち、図1は、本実施の形態による塗布装置の構成の概略を示す構成図であり、図2は、図1に示す塗布装置における空気流除去部の構成の詳細を示す断面図である。また、図3および図4は、それぞれ、図1に示す塗布装置における空気流除去部の他の構成の詳細を示す断面図である。
【0029】
図1に示すように、本実施の形態による塗布装置1は、円筒形状の支持ロール10により支持され、連続的に搬送される基材Wにカーテン膜Cを形成するようになっている。このような塗布装置1は、支持ロール10により支持される基材Wに対してカーテン膜Cを落下させる塗布ヘッド20と、支持ロール10の近傍に設けられた空気流除去部30とを備えている。空気流除去部30は、支持ロール10により支持された基材Wの表面に生成され、この支持ロール10の回転方向に沿って流れる空気流(同伴風)を除去するようになっている。
【0030】
円筒形状の支持ロール10は、図1に紙面に対して直交する方向に延びており、この支持ロール10は図示しない駆動部により図1における反時計回りの方向に回転させられるようになっている。図1に示すように、支持ロール10には基材Wが巻かれるようになっており、この支持ロール10により基材Wの搬送方向が180°転換されるようになっている。
【0031】
塗布ヘッド20は、支持ロール10の近傍において当該支持ロール10と離間して設けられている。図1に示すように、塗布ヘッド20は、支持ロール10により支持される基材Wに対してカーテン膜Cを落下させるようになっている。なお、塗布ヘッド20は、図1に紙面に対して直交する方向に延びており、この塗布ヘッド20から吐出されるカーテン膜Cも図1に紙面に対して直交する方向に延びるようになっている。塗布ヘッド20から基材Wに送られたカーテン膜Cは当該基材W上に付着する。このようにして、カーテン膜Cが付着した基材Wが支持ロール10の下流側に搬送されることとなる。
【0032】
空気流除去部30は、支持ロール10の近傍において、塗布ヘッド20から落下したカーテン膜Cが基材Wに接触する箇所Pよりも支持ロール10の回転方向における上流側に設けられている。図2に示すように、この空気流除去部30は、支持ロール10に支持された基材Wに対向する対向面30pと、塗布ヘッド20から基材Wに落下するカーテン膜Cに対向する側面30qとを有している。また、空気流除去部30の内部には3つのスリット34、36、38が形成されており、各スリット34、36、38の一端は空気流除去部30の対向面30pに設けられた開口に連通している。これらのスリット34、36、38は、支持ロール10により支持された基材Wの表面に生成され支持ロール10の回転方向に沿って流れる空気流を除去するようになっている。
【0033】
より具体的には、3つのスリット34、36、38のうち、塗布ヘッド20から落下したカーテン膜Cが基材Wに接触する箇所Pに最も近いスリット38には吸引機構40が接続されており、この吸引機構40によりスリット38から空気流が吸引されるようになっている。この吸引機構40は、スリット38を2000mPa以下で減圧するようになっている。より詳細には、空気流除去部30の対向面30pと基材Wとの間の間隙において支持ロール10の回転方向に沿って流れる空気流は、空気流除去部30の対向面30pに設けられた開口からスリット38に入り、このスリット38に入った空気流は吸引機構40により吸引される。このようにして、支持ロール10により支持された基材Wの表面に生成され、支持ロール10の回転方向に沿って流れる空気流はスリット38により除去されることとなる。ここで、吸引機構40が設けられていることにより、スリット38により除去される空気流の量を増加させることができ、カーテン膜Cに空気流が送られてしまうことをより一層抑制することができる。
【0034】
また、図2に示すように、3つのスリット34、36、38のうち、吸引機構40が接続されたスリット38以外のスリット34、36はその端部が大気開放されている。これらのスリット34、36においては、空気流除去部30の対向面30pと基材Wとの間の間隙において支持ロール10の回転方向に沿って流れる空気流は、空気流除去部30の対向面30pに設けられた開口からスリット34、36にそれぞれ入り、これらのスリット34、36に入った空気流はスリット34、36内で図2の矢印方向に流れ、最終的に空気流除去部30の外部に大気開放される。このようにして、支持ロール10により支持された基材Wの表面に生成され、支持ロール10の回転方向に沿って流れる空気流はスリット34、36により除去されることとなる。
【0035】
なお、空気流除去部30は、図1に紙面に対して直交する方向に延びており、この空気流除去部30に設けられた各スリット34、36、38も図1に紙面に対して直交する方向に延びるようになっている。
【0036】
また、各スリット34、36、38は、塗布ヘッド20から落下したカーテン膜Cが基材Wに接触する箇所Pから近い順に、すなわちスリット38、スリット36、スリット34の順に、その断面積が小さくなっている。言い換えると、塗布ヘッド20から落下したカーテン膜Cが基材Wに接触する箇所Pに最も近いスリット38はその断面積が最も小さく、上述の箇所Pから最も遠いスリット34の断面積が最も大きくなっている。このことにより、支持ロール10の回転方向における上流側のスリットから順に、すなわちスリット34、36、38の順に、除去できる空気流の量が多くなる。このため、空気流除去部30の対向面30pと基材Wとの間に入り込んだ空気流は、まず断面積が比較的大きなスリット34によりかなりの量が除去され、除去されずに残った空気流は2番目に断面積が大きなスリット36により十分に除去され、それでも除去されずに残った空気流は断面積が最も小さいスリット38により除去されることとなる。
【0037】
また、空気流除去部30における対向面30pにおいて、各スリット34、36、38の入口部分には凸形状に湾曲した隅部分34a、36a、38aがそれぞれ設けられている。そして、空気流除去部30の対向面30pと基材Wとの間の間隙において支持ロール10の回転方向に沿って流れる空気流は、各隅部分34a、36a、38aに沿って各スリット34、36、38に入るようになっている。ここで、各スリット34、36、38の入口部分に設けられた隅部分34a、36a、38aは凸形状に湾曲しているので、空気流を基材Wから剥離させるようないわゆるコアンダ効果が得られる。コアンダ効果とは、空気流が物体に沿って流れる性質を利用したものであり、本実施の形態では空気流が凸形状に湾曲した隅部分34a、36a、38aに沿って流れることをいう。このような隅部分34a、36a、38aが各スリット34、36、38の入口部分に設けられていることにより、空気流除去部30の対向面30pと基材Wとの間の間隙において支持ロール10の回転方向に沿って流れる空気流について、より多くの量の空気流を各スリット34、36、38に送ることができる。
【0038】
なお、各スリット34、36、38の入口部分に設けられた各隅部分34a、36a、38aは、塗布ヘッド20から落下したカーテン膜Cが基材Wに接触する箇所Pから近い順に、すなわち隅部分38a、隅部分36a、隅部分34aの順に、その曲率半径が小さくなっている。言い換えると、塗布ヘッド20から落下したカーテン膜Cが基材Wに接触する箇所Pに最も近い隅部分38aはその曲率半径が最も小さく、上述の箇所Pから最も遠い隅部分34aはその曲率半径が最も大きくなっている。このことにより、支持ロール10の回転方向における上流側の隅部分から順に、すなわち隅部分34a、36a、38aの順に、隅部分の湾曲の度合いが緩やかとなり、より大きなコアンダ効果が得られるようになる。このため、支持ロール10の回転方向における上流側のスリットから順に、すなわちスリット34、36、38の順に、これらのスリットに入る空気流の量が多くなる。
【0039】
空気流除去部30において、塗布ヘッド20から落下したカーテン膜Cが基材Wに接触する箇所Pと、支持ロール10の回転方向における最も下流側にあるスリット38との間における対向面30pにはラビリンス構造32が形成されている。ここで、ラビリンス構造32とは、支持ロール10により支持される基材Wと対向面30pとの間の間隔の大きさが基材Wの搬送方向に沿って増減を繰り返すような構造のことをいう。このようなラビリンス構造32が空気流除去部30の対向面30pに設けられていることにより、空気流除去部30の対向面30pと基材Wとの間の間隙を流れる空気流がカーテン膜Cに到達することを抑制することができるととともに、カーテン膜C側から空気流除去部30の対向面30pと基材Wとの間の間隙に空気流が入り込むことを抑制することができる。とりわけ、カーテン膜C側から空気流除去部30の対向面30pと基材Wとの間の間隙に空気流が入り込むことを抑制することにより、塗布ヘッド20から落下したカーテン膜Cが基材Wに到達する前に空気流除去部30側に向かって引き込まれてしまうことを抑制することができる。なお、支持ロール10により支持される基材Wとラビリンス構造32と間の間隔の大きさは調整可能となっている。
【0040】
次に、このような構成からなる塗布装置1の動作について以下に説明する。
【0041】
基材Wにカーテン膜Cを付着させるにあたり、支持ロール10により支持され、連続的に搬送される基材Wに対して塗布ヘッド20からカーテン膜Cを落下させる。このことにより、基材Wの表面にカーテン膜Cが形成される。
【0042】
この際に、支持ロール10が図1および図2における反時計回りの方向に連続的に回転しているので、この支持ロール10により支持された基材Wの表面には、支持ロール10の回転方向に沿って流れる空気流が生成される。もし仮に塗布ヘッド20から落下したカーテン膜Cにこのような空気流が当たってしまうと、この空気流によってカーテン膜Cが基材Wの表面における適切な位置に落下しなくなってしまい、基材Wの表面にカーテン膜Cを適切に形成することができない。
【0043】
これに対し、本実施の形態の塗布装置1では、空気流除去部30が設けられているので、支持ロール10により支持された基材Wの表面に生成され、支持ロール10の回転方向に沿って流れる空気流は、空気流除去部30の対向面30pと基材Wとの間の間隙に入り込むこととなる。空気流除去部30の対向面30pと基材Wとの間に入り込んだ空気流は、まず断面積が比較的大きなスリット34によりかなりの量が除去され、除去されずに残った空気流は2番目に断面積が大きなスリット36により十分に除去され、それでも除去されずに残った空気流は断面積が最も小さいスリット38により除去される。また、ラビリンス構造32が設けられていることにより、スリット38の入口部分近傍の間隙からカーテン膜C側に向かって空気流が流れることが抑制される。このように、空気流除去部30が設けられていることにより、塗布ヘッド20から落下したカーテン膜Cに空気流が当たることが抑制される。
【0044】
以上のように、本実施の形態の塗布装置1によれば、支持ロール10の近傍において塗布ヘッド20から落下したカーテン膜Cが基材Wに接触する箇所Pよりも支持ロール10の回転方向における上流側に空気流除去部30が設けられており、この空気流除去部30には、支持ロール10により支持された基材Wの表面に生成され当該支持ロール10の回転方向に沿って流れる空気流を除去するスリット34、36、38が形成されている。このため、支持ロール10により支持された基材Wの表面に生成され当該支持ロール10の回転方向に沿って流れる空気流が、塗布ヘッド20から落下したカーテン膜Cに当たることを十分に抑制することができる。とりわけ、塗布ヘッド20からカーテン膜Cを自然落下させて基材Wに付着させることにより基材Wにカーテン膜Cを形成するような、より空気流の影響を受けやすい場合でも、空気流除去部30の内部に形成されたスリット34、36、38により、基材Wの幅方向において均一に空気流を除去することができる。特に、従来のような減圧室を設ける場合と比較して、各スリット34、36、38の容積は小さいので、微差圧の減圧でも減圧による空気流の抑制効果を十分に得ることができる。また、スリット34、36、38は空気流除去部30の内部に形成されており、空気流除去部30は基材Wから離間して設けられているので、空気流除去部30に基材Wが接触してしまうことが抑止される。このようにして、基材Wにカーテン膜Cを安定的に形成することができる。
【0045】
なお、本実施の形態による塗布装置は、上記の態様に限定されるものではなく、様々の変更を加えることができる。例えば、図3に、塗布装置における空気流除去部の他の構成を示す。
【0046】
図3に示すような空気流除去部30aは、図2に示す空気流除去部30と比較して、塗布ヘッド20から基材Wに落下するカーテン膜Cに対向する側面30qに、追加のスリット39が形成された点が主に異なるのみであり、他の部分については図2に示す空気流除去部30と略同一の構成となっている。図3に示す空気流除去部30aの構成の説明において、図2に示す空気流除去部30と同一の構成要素については同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0047】
図3に示すような空気流除去部30aにおいては、当該空気流除去部30aの内部に追加のスリット39が形成されており、この追加のスリット39の一端は空気流除去部30aの側面30qに設けられた開口に連通している。また、この追加のスリット39の他端は大気開放されている。そして、図3の矢印に示すように、空気流除去部30aの外部から追加のスリット39に空気流が送られ、この追加のスリット39を流れた空気流は空気流除去部30aの側面30qとカーテン膜Cとの間に送られるようになっている。このように、追加のスリット39により、カーテン膜Cに向かって空気流が送られるようになっているので、塗布ヘッド20からカーテン膜Cが落下する際にカーテン膜Cと空気流除去部30との間の空間が負圧となってしまうことによりカーテン膜Cが空気流除去部30aの側面30qに接触してしまうことを抑制することができる。
【0048】
また、図3に示すように、空気流除去部30aにおける対向面30pにおいて、追加のスリット39の出口部分の近傍には凸形状に湾曲した隅部分39aが設けられている。そして、追加のスリット39から隅部分39aに沿って空気流が空気流除去部30aにおける対向面30pと基材Wとの間に流れるようになっている。より詳細には、追加のスリット39の出口部分に設けられた隅部分39aは凸形状に湾曲しているので、前述のようなコアンダ効果により空気流を隅部分39aに沿って流れさせることができ、この空気流を空気流除去部30aのラビリンス構造32と基材Wとの間に送ることができる。また、吸引機構40によりスリット38内の空気が吸引されていることにより、スリット38内の空気の圧力P1は、追加のスリット39の出口部分の近傍における空気の圧力P2よりも小さくなっているので、この差圧により、追加のスリット39から隅部分39aに沿って空気流除去部30aにおける対向面30pと基材Wとの間に流れるような空気流が生成されることとなる。このような空気流により、スリット38内の空気の圧力P1と、追加のスリット39の出口部分の近傍における空気の圧力P2との間の変動を制御することができる。
【0049】
塗布装置における空気流除去部の更に他の構成として、図4に示すような空気流除去部を用いてもよい。
【0050】
図4に示すような空気流除去部30bは、図2に示す空気流除去部30と比較して、スリット34、36にもそれぞれ吸引機構42、44が接続された点が主に異なるのみであり、他の部分については図2に示す空気流除去部30と略同一の構成となっている。図4に示す空気流除去部30bの構成の説明において、図2に示す空気流除去部30と同一の構成要素については同一の参照符号を付してその説明を省略する。
【0051】
図4に示すような空気流除去部30bにおいては、スリット34、36の端部は大気開放されておらず、代わりにこれらのスリット34、36の端部にはそれぞれ吸引機構42、44が接続されている。そして、これらの吸引機構42、44によりスリット34、36からそれぞれ空気流が吸引されるようになっている。これらの吸引機構42、44は、吸引機構40と同様に、スリット34、36を2000mPa以下で減圧するようになっている。このような吸引機構42、44が設けられていることにより、支持ロール10により支持された基材Wの表面に生成され、支持ロール10の回転方向に沿って流れる空気流について、スリット34、36によってより多くの量の空気流を除去することができるようになる。
【0052】
なお、更に他の構成の空気流除去部としては、吸引機構は1つも設けられておらず、当該空気流除去部の内部に形成された複数のスリットは全て大気開放されるようになっていてもよい。
【0053】
また、更に他の構成の空気流除去部としては、当該空気流除去部の内部に複数のスリットが形成されるものの代わりに、スリットが1つだけ形成された空気流除去部を用いることもできる。
【符号の説明】
【0054】
10 支持ロール
20 塗布ヘッド
30、30a、30b 空気流除去部
30p 対向面
30q 側面
32 ラビリンス構造
34、36、38 スリット
34a、36a、38a 隅部分
40、42、44 吸引機構
W 基材
C カーテン膜
P 塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持ロールにより支持され、連続的に搬送される基材にカーテン膜を形成する塗布装置であって、
前記支持ロールの近傍において当該支持ロールと離間して設けられ、前記支持ロールにより支持される基材に対してカーテン膜を落下させる塗布ヘッドと、
前記支持ロールの近傍において前記塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所よりも前記支持ロールの回転方向における上流側に設けられ、前記支持ロールにより支持された基材の表面に生成され当該支持ロールの回転方向に沿って流れる空気流を除去するスリットが1または複数形成された空気流除去部と、
を備えたことを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記空気流除去部において、前記スリットは前記支持ロールの回転方向に沿って複数設けられていることを特徴とする請求項1記載の塗布装置。
【請求項3】
前記空気流除去部において、前記複数のスリットのうち、前記塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所に最も近いスリットには吸引機構が接続されており、前記吸引機構により前記スリットから空気流が吸引されるようになっていることを特徴とする請求項2記載の塗布装置。
【請求項4】
前記空気流除去部において、前記複数のスリットのうち、前記吸引機構が接続されたスリット以外のスリットはその端部が大気開放されていることを特徴とする請求項3記載の塗布装置。
【請求項5】
前記空気流除去部において、前記複数のスリットにはそれぞれ吸引機構が接続されており、前記各吸引機構により前記各スリットから空気流が吸引されるようになっていることを特徴とする請求項2記載の塗布装置。
【請求項6】
前記各スリットは、前記塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所から近い順にその断面積が小さくなっていることを特徴とする請求項2乃至5のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項7】
前記空気流除去部における前記支持ロールに対向する面において、前記各スリットの入口部分には凸形状に湾曲した隅部分が設けられており、前記支持ロールにより支持された基材の表面に生成され当該支持ロールの回転方向に沿って流れる空気流は、前記隅部分に沿って前記各スリットに入るようになっていることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項8】
前記各スリットの入口部分に設けられた各隅部分は、前記塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所から近い順にその曲率半径が小さくなっていることを特徴とする請求項7記載の塗布装置。
【請求項9】
前記空気流除去部において、前記塗布ヘッドから落下したカーテン膜が基材に接触する箇所と、前記支持ロールの回転方向における最も下流側にあるスリットとの間における前記支持ロールに対向する面にはラビリンス構造が形成されていることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項10】
前記空気流除去部において、前記塗布ヘッドから基材に落下するカーテン膜に対向する側面には追加のスリットが形成されており、当該追加のスリットにより前記側面と前記カーテン膜との間に空気流が送られるようになっていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の塗布装置。
【請求項11】
前記空気流除去部における前記支持ロールに対向する面において、前記追加のスリットの出口部分の近傍には凸形状に湾曲した隅部分が設けられており、前記追加のスリットから前記隅部分に沿って空気流が前記空気流除去部における前記支持ロールに対向する面と基材との間に流れるようになっていることを特徴とする請求項10記載の塗布装置。
【請求項12】
前記追加のスリットはその端部が大気開放されていることを特徴とする請求項10または11記載の塗布装置。
【請求項13】
支持ロールにより支持され、連続的に搬送される基材に対してカーテン膜を落下させ、この基材の表面にカーテン膜を形成する工程と、
前記支持ロールにより支持された基材の表面に生成され当該支持ロールの回転方向に沿って流れる空気流を、カーテン膜が基材に接触する箇所よりも前記支持ロールの回転方向における上流側に設けられた空気流除去部に形成されたスリットに流入させることによりこの空気流を除去する工程と、
を備えたことを特徴とする塗布方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−67768(P2011−67768A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−221271(P2009−221271)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】