説明

塗布装置

【課題】ヘッドの吐出口においてインクのメニスカスの形状を安定させることができる塗布装置を提供する。
【解決手段】インクを吐出する吐出口11を有するヘッド7と、溜めているインクをヘッド7に供給するサブタンク8とを備えている。さらに、ヘッド7の近傍部19におけるインクの圧力を検出する圧力計16と、ヘッド7内のインクの圧力を所定の値とするために、圧力計16の検出結果に応じて、サブタンク8内のインクを増圧又は減圧させる制御を行う圧力調整部17とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばカラー液晶ディスプレイ用のカラーフィルタを製造するために用いられる塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
カラー液晶ディスプレイには、色形成の中核を成す部材としてカラーフィルタが用いられている。このカラーフィルタは、ガラス基板上に微細なR(赤色)、G(緑色)、B(青色)の3色が多数並べられて形成されている。
近年、このカラーフィルタを効率よく製造する装置として、ガラス基板上に形成された多数の画素部に、R、G、Bの各インク(塗布液)をインクジェットヘッドから供給して、R、G、Bの色画素を形成する塗布装置(インクジェット装置)が提案されている。
【0003】
この塗布装置は、(図1を参考に説明すると)機台1、ガラス基板Wを吸着する吸着テーブル2、インクジェットヘッド7を有している塗布液供給部、及び、インクジェットヘッド7を移動させる塗布ガントリ3等を備えている。
例えば特許文献1に示している前記塗布液供給部は、インクを収容しているメインタンクと、インクをガラス基板に対して吐出する前記インクジェットヘッド(以下、ヘッドという)と、メインタンクから供給されたインクをヘッドに供給するためのサブタンクとを有している。
【0004】
前記サブタンクは、1枚乃至数枚のガラス基板にインクを塗布するだけの容量を有していて、特許文献1に記載のサブタンクは、インクを溜めている本体部分として、チューブ状の弾性体を有している。そして、(図1を参考に説明すると)サブタンク8は、ヘッド7よりも高い位置として塗布ガントリ3に搭載されていて、サブタンク8内のインクは自重によってヘッド7側へと流れることができる。
また、ヘッド7は、当該ヘッド7の内外を貫通させた微細な孔からなる多数の吐出口(ノズル)を有していて、各吐出口には、対のピエゾ素子が相互離れて配置されている。この塗布装置(インクジェット装置)は、電圧を加えて各吐出口のピエゾ素子を接近させるように変形させることで、ヘッド内のインクを外へと押し出すようにして吐出させるピエゾ式となっている。
【0005】
そして、吸着テーブル2上のガラス基板Wにインクを塗布する作業は、サブタンク8から供給されたインクをヘッド7から吐出させながら、塗布ガントリ3をX方向に移動させて行う。この際、インクを吐出させるヘッド7の吐出口の選択、及び、吐出口からインクを吐出させるタイミングは、吐出口毎に設けられた前記ピエゾ素子に電圧を加えるか否かによって制御される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2008−229534号公報(特許請求の範囲、図1参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記塗布装置(インクジェット装置)では、サブタンク8内のインクは自重によってヘッド7側へと流れることができ、また、ヘッド7においてインクを吐出させる吐出口の選択が、前記ピエゾ素子を動作させることによって制御されている。このため、インクを吐出させない吐出口ではインクが勝手に漏れ出ないように、ヘッド7内のインクは大気圧に対して負圧に保たれている。
【0008】
そこで、前記特許文献1では、サブタンク内に設けられ前記チューブ状の弾性体を収容している負圧室内の空気を、ポンプによって吸引している。これにより、サブタンク内、及び、サブタンクと配管を介して繋がっているヘッド内のインクの圧力を下げ、吐出口においてインクにメニスカスを形成した状態(例えば図2(a)参照)とし、インクを吐出させない吐出口においてインクの漏れを防いでいる。
【0009】
しかし、前記のとおり、ガラス基板Wにインクを塗布する作業では、ヘッド7からインクを吐出させながら、塗布ガントリ3がX方向に移動する。これにより、塗布ガントリ3上に設けられたサブタンク8内のインクは、チューブ状の弾性体と共にX方向に揺れ動き、これによりサブタンク8内に動圧が発生し、当該サブタンク8から延びる配管を介して、当該動圧がヘッド7内のインクの圧力(内圧)に影響を及ぼすことがある。
この結果、吐出口におけるインクのメニスカスの形状に影響を与えるおそれがある。つまり、ヘッド内のインクの圧力が大気圧に近づくように変動するとインク漏れが生じ(図2(b))、ヘッド内のインクの圧力が負圧側に大きくなるように変動すると空気を吸い込んでしまう(図2(c))ことも考えられる。特に、塗布作業の効率化のために塗布ガントリ3を速く移動させると、生じる動圧も大きくなり、この現象が生じやすくなる。
【0010】
そこで本発明は、ヘッドの吐出口において塗布液(インク)のメニスカスの形状を安定させることができる塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の塗布装置は、塗布液を吐出する吐出口を有するヘッドと、塗布液を溜めることができると共に当該塗布液を前記ヘッドに供給するタンクと、前記タンクから前記ヘッドへと前記塗布液が流出する当該タンクの出口部以降の流路に存在している塗布液の圧力を検出する検出部と、前記ヘッド内の塗布液の圧力を所定の値とするために、前記検出部の検出結果に応じて、前記タンクから前記ヘッドまでの間に存在している塗布液を増圧又は減圧させる制御を行う圧力調整部とを備えたことを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、前記ヘッド及び前記タンクが例えば塗布ガントリに搭載されていて、当該塗布ガントリが移動することでタンク内の塗布液に動圧が作用しても、検出部が、タンクの出口部以降の流路に存在している塗布液の圧力を検出し、圧力調整部が、この検出結果に応じて、タンクからヘッドまでの間に存在している塗布液を増圧又は減圧させる制御を行うことによって、ヘッド内の塗布液の圧力を所定の値とすることで、ヘッド内の塗布液の圧力の変動を抑えることが可能となる。これにより、ヘッドの吐出口において、塗布液のメニスカスの形状を安定させることができる。
【0013】
なお、従来の塗布装置として、前記のとおりサブタンク(タンク)がチューブ状の弾性体を有し、この弾性体を収容している負圧室の圧力を、当該負圧室に接続した圧力計によって検出すると共に、この負圧室の圧力が一定値となるように、前記圧力計の計測結果に基づいて制御する装置が提案されている。しかし、サブタンクからヘッドまでの間には、塗布液を流す流路(配管)が設けられていることから、たとえサブタンク内の負圧室の圧力を一定とするように、前記圧力計の計測結果に基づいて制御しても、塗布液が前記流路を流れる流量が変化した場合、当該流路による圧力損失が変化し、ヘッド内の塗布液の圧力が当該圧力損失の変化に伴って変動してしまう。しかし、本発明によれば、前記のとおり、検出部が、タンクの出口部以降の流路に存在している塗布液の圧力を検出し、この結果に基づいて前記制御を行うことで、ヘッド内の塗布液の圧力の変動を抑えることが可能となる。
【0014】
また、前記検出部は、前記ヘッド内の前記塗布液の圧力乃至前記ヘッドの近傍部における前記塗布液の圧力を検出するのが好ましい。
この場合、前記圧力調整部は、ヘッドの塗布液の圧力を(ほぼ)直接的に制御することができ、適切なメニスカス形状を維持することが容易となる。
なお、「ヘッドの近傍部」とは、ヘッドの上流側の流路であっても当該ヘッド内の塗布液の圧力と同等となる位置であり、例えば、ヘッドから上流側の流路の最初の分岐部までの間の位置や、ヘッドから上流側の流路の最初の屈曲部までの間の位置等である。つまり、ヘッドから上流側の流路において、大きな圧力損失を発生させる要因となる位置(ヘッド内の圧力と比較して塗布液の圧力が大きく変わる要因となる位置)と、当該ヘッドまでの間である。
【0015】
また、前記圧力調整部は、前記タンクから前記ヘッドまでの間に存在している前記塗布液を増圧又は減圧させる調圧部と、前記ヘッド内の前記吐出口で前記塗布液に適切なメニスカスを形成させるための塗布液の基準圧力に対して、前記検出部の検出結果である実際の前記塗布液の検出圧力が高くなると、前記調圧部によって前記塗布液を減圧させ、前記基準圧力に対して、前記検出圧力が低くなると、前記調圧部によって前記塗布液を増圧させるように制御する制御部とを有している構成とすることができる。
【0016】
これにより、前記基準圧力に対して、タンクの出口部以降の流路に存在している塗布液の検出圧力が高くなると、塗布液がヘッドの吐出口から漏れやすくなるが、調圧部によって、タンクからヘッドまでの間に存在している塗布液を減圧させることで、この漏れを抑制することができる。一方、基準圧力に対して前記検出圧力が低くなると、ヘッドの吐出口から空気を吸い込みやすくなるが、調圧部によって、タンクからヘッドまでの間に存在している塗布液を増圧させることで、空気の吸い込みを抑制することができる。なお、前記基準圧力は、前記検出部による検出位置での圧力とすることができる。
【0017】
また、本発明は、塗布液を吐出する吐出口を有するヘッドと、塗布液を溜めることができると共に当該塗布液を前記ヘッドに供給するタンクと、前記塗布液を前記吐出口から吐出している状態で前記ヘッド及び前記タンクを所定の塗布方向に移動させる駆動機構とを備え、前記タンクが有していて前記塗布液を充満させた状態で収容するタンク本体部は、一方向に長く当該一方向に直交する他方向に短い偏平形状に形成されかつ柔軟性を備えた隔壁膜を有し、前記隔壁膜の前記一方向と前記塗布方向とが平行となるように、前記タンクは配置されている。
【0018】
この場合、隔壁膜は、一方向に長く他方向に短い偏平形状に形成されているので、この隔壁膜を有するタンク本体部に塗布液を充満させた状態で、当該隔壁膜は、一方向の方が他方向よりも変形し難くなる。このため、塗布方向と隔壁膜の一方向とが平行となるようにタンクが配置されていることから、前記駆動機構によってタンクを塗布方向に移動させても、隔壁膜及びその内部に満たされている塗布液は、他方向に比べると、一方向に変形及び移動し難い。これにより、タンク内の塗布液には一方向の動圧が作用し難くなる。したがって、タンクを塗布方向に移動させて塗布作業を行っても、この移動による動圧が、ヘッド内の塗布液に影響を与えにくく、ヘッドの吐出口において、塗布液のメニスカスの形状を安定させることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、ヘッドの吐出口において、塗布液のメニスカスの形状を安定させることができるので、例えばヘッド及びタンクを搭載している塗布ガントリを速く移動させることが可能となり、塗布作業を効率化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】塗布装置の斜視図である。
【図2】ヘッドの吐出口を説明する断面図である。
【図3】本発明の塗布装置が備えている塗布液供給部の概略を示している構成図である。
【図4】塗布ガントリの要部の概略を説明する平面図である。
【図5】サブタンクの断面図であり、(a)は図1のY方向に見た図であり、(b)はX方向に見た図である。
【図6】(a)は、吐出口の稼働率と、圧力計による検出圧力との関係の説明図であり、(b)は圧力計による検出圧力と吐出口からのインクの吐出量との関係の説明図である。
【図7】電空レギュレータの制御方法を説明するフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は本発明の塗布装置の実施の一形態を示す斜視図である。この塗布装置は、例えばカラー液晶ディスプレイに用いられるカラーフィルタを製造するための装置であり、機台1、当該機台1上に設けられた吸着テーブル2及び塗布ガントリ3等を備えている。
【0022】
吸着テーブル2は、平板状の基板(ガラス基板)Wを吸着保持することができ、さらに、基板Wを位置決めするために、図示しない駆動機構及びガイド機構によって、Z方向の軸周りに回転駆動される。
なお、前記Z方向は鉛直方向であり、図1におけるX方向及びY方向は、水平面上の方向であり、X方向、Y方向及びZ方向は相互に直交する。そして、吸着テーブル2により吸着保持された基板Wの上面は、X方向及びY方向を含む平面と平行となる。
【0023】
塗布ガントリ3は、複数個のインクジェットヘッド7(以下、ヘッド7という)を整列させて有しているインクジェットヘッドバー4を搭載している。塗布ガントリ3は、吸着テーブル2上の基板Wを跨ぐ形状であり、当該基板Wの上方にヘッド7は位置することができる。そして、ヘッド7から吐出させたインク(塗布液)を基板Wに塗布するために、塗布ガントリ3は、第一の駆動機構3a及び第一のガイド機構3bによって、X方向に移動することができる。このX方向を「塗布方向」と呼ぶ。つまり、インクを吐出口11から吐出している状態で、ヘッド7をこの塗布方向に移動させて塗布作業を行う。
また、基板Wに対するヘッド7のY方向及びZ方向についての相対位置を調整するために、第二の駆動機構3c及び第二のガイド機構3dによって、ヘッド7(インクジェットヘッドバー4)を、Y方向及びZ方向に移動させることができる。なお、ヘッド7をY方向に移動させる際、インクの吐出を停止している。
【0024】
図2は、ヘッド7の吐出口を説明する断面図である。各ヘッド7は、複数個の微細な吐出口11(インクジェットノズル)を整列させて有している。各吐出口11は、ヘッド7の下壁を内外貫通する孔からなる。各吐出口7には、相互が離れて配置され電圧を加えることで相互が接近するように変形するピエゾ素子(図示せず)が設けられ、当該ピエゾ素子を相互接近させるように変形させることで、ヘッド7内のインク10を吐出口11から押し出すようにして外へと吐出させる。なお、ピエゾ素子の動作制御及び塗布ガントリ3の動作制御は、塗布装置が備えている制御装置5(図1参照)が行う。
【0025】
図3は、塗布装置が備えている塗布液供給部6の概略を示している構成図である。塗布液供給部6は、インクを吐出する前記ヘッド7の他に、R(赤色)、G(緑色)、B(青色)各色のインクが分かれて充填されているメインタンク9と、メインタンク9からインクが供給されると共に供給されたインクをヘッド7に供給するために、一旦インクを溜めているサブタンク8とを備えている。
メインタンク9とサブタンク8とは、配管21によって接続されていて、この配管21には開閉バルブ21aが設けられている。サブタンク8とヘッド7とは、配管22によって接続されている。配管22は分岐部23a〜23eを有していて、一つのサブタンク8に対して複数のヘッド7が接続されている。
サブタンク8は、1枚乃至数枚の基板10にインクを塗布するだけの容量を有していて、サブタンク8内のインクが所定量を下回ると、バルブ21aが開き、メインタンク9からインク10がサブタンク8へと補充される。
【0026】
図4は塗布ガントリ3の要部の概略を説明するための平面図である。サブタンク8は、RGB用でそれぞれ設けられていて、これらサブタンク8は塗布ガントリ3上に配置されている。したがって、塗布ガントリ3が塗布方向(図1のX方向)へ移動すると、サブタンク8もヘッド7と共に同方向へ移動する。
サブタンク8を塗布ガントリ3に搭載することにより、サブタンク8を塗布ガントリ3と並行して移動させるための別の駆動装置が不要となり、また、サブタンク8からヘッド7までの配管22は短くて済む。この配管22を短くすることで、後に説明する圧力調整部17の制御によってヘッド7の吐出口11でインクのメニスカスを安定させるのが容易となる。なお、図1において、メインタンク9は、機台1と別体として設置されていて、配管21は可撓性を有し塗布ガントリ3の移動に追従することができる。
また、図3に示しているように、サブタンク8の出口部18は、ヘッド7の吐出口11よりも高い位置(高さの差ΔH)に配置されている。このため、吐出口11の前記ピエゾ素子によってインクの吐出の可否が制御されてはいるが、サブタンク8内のインクは自重によってヘッド7側へと流れることができる。
【0027】
図5はサブタンク8の断面図であり、(a)は図1のY方向に見た図であり、(b)はX方向に見た図である。サブタンク8は、インク10を充満させた状態で収容する上部のサブタンク本体部26と、下部のケーシング27とを有している。ケーシング27は金属製等の剛性を有している材質及び構成からなる。サブタンク本体部26は、柔軟性を備えた隔壁膜28を有していて、この隔壁膜28はサブタンク本体部26のタンク壁の一部となる。隔壁膜28は、自由に変形が可能な薄膜からなり、例えばPET、テフロン(登録商標)、ポリエチレン等の樹脂製とすることができる。
【0028】
図5の実施形態では、サブタンク本体部26は、ケーシング27と同様に剛性を有している基板29を有していて、この基板29の一面(下面)側(の一部)を覆うようにして隔壁膜28が当該基板29に取り付けられている。そして、基板29の一面と隔壁膜28との間に形成される領域(溜め部)S1に、インク10が充満した状態となる。この領域S1のX方向の一端部(図5(a)の右側端)がサブタンク8の上流側端であり、メインタンク9から供給されたインク10が流入する入口部19となる。また、領域S1のX方向の他端部(図5(a)の左側端)がサブタンク8の下流端であり、サブタンク8からヘッド7へとインク10が流出する出口部18となる。
そして、隔壁膜28とケーシング27の内面との間に密閉空間(減圧室)S2が形成されていて、この密閉空間S2に、吸引用の配管24の一方側端部が接続されている。
また、図3に示しているように、前記吸引用の配管24の他方側端部には、吸引ポンプ13が接続されている。
【0029】
また、前記のとおり、ヘッド7からインクを吐出させる吐出口11の選択は、ピエゾ素子(図示せず)を用いて制御されているが、サブタンク8内のインクは自重によってヘッド7側へと流れることができるため、インクを吐出させない吐出口11ではインクが勝手に漏れ出ないように、ヘッド7内のインクは大気圧に対して負圧に保たれている。
このために、前記吸引ポンプ13が、前記密閉空間S2の空気を配管24から吸引する(負圧とする)。この吸引によって、密閉空間S2が狭くなる方向に前記隔壁膜28は引かれ、サブタンク8(領域S1)内のインクの圧力を低下させ、配管22を通じて、ヘッド7内のインクの圧力を大気圧に対して負圧としている。
ヘッド7内のインク10の圧力を大気圧に対して負圧とすることで、図2(a)に示しているように、吐出口11の直上流側でインク10に凹形状のメニスカスを形成することができ、吐出口11からインクが勝手に漏れ出ることを防止しようとしている。
【0030】
しかし、このように、ヘッド7内においてインクのメニスカスを維持しようとしているが、適切な形状で維持されない場合が生じる。
すなわち、ヘッド7において、インクを吐出する吐出口11の組み合わせや、インクを吐出するタイミングの変化によって、全吐出口11の内のインクを吐出している吐出口11の数(稼働率)が変動するために、ヘッド7を流れるインクの流量、及び、サブタンク8からヘッド7までの配管22を流れるインクの流量が変化する。この場合、インクの流速が変化することで配管22における圧力損失も変化し、ヘッド7内のインクの圧力Pが、前記圧力損失の変化に伴って変動し、メニスカスの形状を変化させるおそれがある。
また、サブタンク8を搭載した塗布ガントリ3が塗布方向(図1のX方向)に移動しながら、ヘッド7からインクを吐出させている際に、当該塗布ガントリ3上のサブタンク8内のインクが移動して動圧が作用し、この動圧が、配管22を通じて、ヘッド7内のインクの内圧に影響を与え、メニスカスの形状を変化させるおそれがある。
【0031】
そこで、このようなメニスカスの形状の変化を抑制するために、本発明の塗布装置は、図3において、サブタンク8の出口部18以降の流路、つまり、前記配管22に存在しているインクの圧力(内圧)を検出する圧力計16(検出部)と、この圧力計16による検出結果に応じて、ヘッド7内のインクの圧力Pを所定の値(目標値)とするように制御(フィードバック制御)する圧力調整部17とを備えている。圧力計16がインクの圧力を検出する前記配管22は、圧力損失が生じその値が吐出口11の稼働率に応じて変化するものであり、また、サブタンク8内で生じた動圧をヘッド7へと伝えることとなる配管である。
【0032】
前記圧力計16及び前記圧力調整部17による制御を具体的に説明すると、図2(a)に示しているように、ヘッド7内のインク10の圧力Pを、大気圧に対して−2〜−3Kpa程度とするように制御する(0Kpa(大気圧)>P>−2〜−3Kpa)。これにより、吐出口11の直上流側でインク10に凹形状のメニスカスが形成され、吐出口11からインクが勝手に漏れ出ることを防止することができる。
なお、ヘッド7内のインク10の圧力Pが正であると(P>0)、図2(b)に示しているように、インク10の漏れが発生し、また、圧力Pが所定の値よりも小さくなると(−2〜−3Kpaよりも小さくなると)、図2(c)に示しているように、空気がヘッド7内に引き込まれ、インク10に気泡aが混入してしまう。
このように、ヘッド7内のインク10の圧力Pを所定の負の値に設定することで、図2(a)に示しているように、吐出口11に適切なメニスカスが形成される。
【0033】
圧力計16は、ヘッド7よりも上流側(サブタンク8側)にある前記配管22の内の、ヘッド7の近傍部19に取り付けられていて、当該ヘッド7の近傍部19におけるインクの圧力を検出する。図3の実施形態の場合、前記近傍部19は一つのヘッド(ヘッドモジュール)7の直上流側の位置であり、ヘッド7と分岐部23eとの間の位置である。さらには、前記近傍部19は、ヘッド7と配管22の屈曲部23f(例えば、曲がり角度が45°を超える部分)との間の位置である。
なお、圧力計16の取り付け位置は、これに限定されず、ヘッド7の上流側の配管22であって当該ヘッド7内のインクの圧力Pと同等となる位置であればよい。つまり、ヘッド7から上流側の配管22において大きな圧力損失を発生させる要因となる位置と、ヘッド7までの間の位置であればよい。
又は、図示しないが、ヘッド7に圧力計16を取り付け、この圧力計16によって、ヘッド7内のインクの圧力Pを検出してもよい。
【0034】
前記圧力調整部17は、ヘッド7内のインクの圧力Pを所定の値(目標値)とするために、圧力計16の検出結果に応じて、サブタンク8からヘッド7までの間に存在しているインクを増圧又は減圧させるように制御する機能を有している。
更に説明すると、圧力調整部17は、サブタンク8からヘッド7までの間に存在しているインクを増圧(加圧)又は減圧させる調圧部31と、この調圧部31の動作を制御する制御部32とを有する。制御部32は、マイコン等からなり、各機能を実行するためのプログラムが記憶されていて、当該プログラムによって、調圧部31の動作を制御する機能を有している。
【0035】
そして、実施形態の圧力調整部17は、サブタンク8とポンプ13との間の配管24に接続されている電空レギュレータ14であり、圧力計16の検出結果に応じて、ポンプ13によって減圧されているサブタンク8(領域S1)内のインクに対して増圧又は減圧の調整を行う構成としている。
この電空レギュレータ14が、前記調圧部31と前記制御部32との機能を有していて、制御部32は圧力計16の検出結果に基づいて調圧部31を制御することによって、密閉空間S2内の圧力を制御し、隔壁膜28を介してサブタンク8(領域S1)内に存在しているインクに与える力を調整する。これにより、サブタンク8内のインクを増圧又は減圧させる。つまり、圧力計16の検出結果に基づいて、サブタンク8の密閉空間S2の圧力を調整することによって、隔壁膜28を引く力を調整し、領域S1に満たされているインクの圧力を調整する。
このように、この制御は、前記圧力計16の検出結果に応じて行われている。なお、圧力調整部17を電空レギュレータ14としていることで、圧力計16の検出結果をデジタル信号に変換する変換器が設けられている。この変換器の機能は圧力計16が有することができる。
【0036】
以上のように構成された塗布装置の塗布供給部6による、ヘッド7内のインクの圧力Pの制御方法の具体例を説明する。この制御は、塗布装置によってインクを基板Wに塗布している作業中に実行される。
【0037】
圧力調整部17としての電空レギュレータ14の前記制御部32は、ヘッド7内の吐出口11でインクに適切なメニスカスを形成させるためのインクの基準圧力Paを記憶している。つまり、塗布作業中において、インクを吐出させていない吐出口11におけるインクのメニスカスの形状を、図2(a)の状態とするためのヘッド7内の圧力は、所定の値(−2〜−3Kpa)とされている。そこで、ヘッド7内のインクの圧力Pが当該所定の値となっている際の、前記圧力計16の取り付け位置におけるインクの圧力を、前記基準圧力Paとして、制御部32は記憶している。
【0038】
また、塗布作業中では、前記ポンプ13によって、サブタンク8内の密閉空間S2が吸引され、ヘッド7におけるインクのメニスカスを維持しようとしている。
しかし、この状態において、吐出口11の稼働率が変化すると、インクの流量(流速)が変化し、配管22の圧力損失が変動し、圧力計16による検出値に変化が生じる。圧力計16は、変化した圧力を検出し、その検出結果を電空レギュレータ14に与える。
【0039】
図6(a)は、吐出口11の稼働率と、圧力計16による検出圧力との関係の説明図であり、図6(b)は、圧力計16による検出圧力と吐出口11からのインクの吐出量との関係の説明図である。図7は、電空レギュレータ14の制御方法を説明するフロー図である。
例えば、インクを吐出させている吐出口11の数が減少して吐出口11の稼働率が低くなると(図6(a)の矢印L1)、配管22における流量が減少し、配管22における圧力損失が小さくなる。これにより、配管22内及びヘッド7内のインクの圧力は高くなり(大気圧に近づき:図6(a)の矢印L2)、図2(b)に示す状態となろうとする。すなわち、図6(b)の矢印L3に示しているように、インクを吐出させている吐出口11においては、その吐出量が増加しようとする。
【0040】
この場合、図7のステップS1において、圧力計16が検出する検出圧力が高くなり(図6(b)の矢印L2:大気圧に近づき)、電空レギュレータ14の制御部32は、前記基準圧力Paに対して、前記圧力計16の検出結果である実際のインクの検出圧力が高くなっていると判定するので(図7のステップS2のYes)、当該電空レギュレータ14の調圧部31によってサブタンク8内のインクを減圧させる(負の方向に大きくする)(図7のステップS3)。つまり、ポンプ13による吸引力が強くなるように、電空レギュレータ14は働き、隔壁膜28を引く力を強め、サブタンク8内のインクの圧力を更に低くする。これにより、図2(b)に示す状態となることを抑制することができ、また、インクを吐出させている吐出口11においてもその吐出量が増加しようとするのを防ぎ、規定の吐出量を維持させることができる。
【0041】
一方、インクを吐出させている吐出口11の数が増大して吐出口11の稼働率が高くなると(図6(a)の矢印H1)、配管22における流量が増加し、配管22における圧力損失が大きくなる。これにより、配管22内及びヘッド7内のインクの圧力は低くなり(負の方向に大きくなり:図6(a)の矢印H2)、図2(c)に示す状態となろうとする。すなわち、図6(b)の矢印H3に示しているように、インクを吐出させている吐出口11においては、その吐出量が減少しようとする。
【0042】
この場合、図7のステップS1において、圧力計16が検出する検出圧力が低くなり(図6(b)の矢印H2)、電空レギュレータ14の制御部32は、前記基準圧力Paに対して、前記圧力計16の検出結果である実際のインクの検出圧力が低くなっていると判定するので(図7のステップS2のNo及びステップS4のYes)、当該電空レギュレータ14の調圧部31によってサブタンク8内のインクを増圧させる(大気圧側に近づける)(図7のステップS5)。つまり、ポンプ13による吸引力が弱くなるように、電空レギュレータ14は働き、隔壁膜28を引く力を弱め、サブタンク8内のインクの圧力を高くする。これにより、図2(c)に示す状態となることを抑制することができ、また、インクを吐出させている吐出口11においては、その吐出量が減少しようとするのを防ぎ、規定の吐出量を維持させることができる。
【0043】
なお、このような制御は、サブタンク8内のインクに動圧が作用した場合においても、行われる。つまり、サブタンク8における動圧の発生によって配管22内のインクの圧力が変化し、圧力計16がこの変化した圧力を検出することによって、前記制御が行われる。
【0044】
以上より、吐出口11の稼働率が変化したり、塗布ガントリ3が移動した際にサブタンク8内のインクに動圧が作用したりすることで、ヘッド7におけるインクのメニスカスの形状に影響を与えようとしても、及び、インクの吐出量が変化しそうになっても、圧力計16が、ヘッド7の近傍部19におけるインクの圧力を検出し、圧力調整部17(電空レギュレータ14)が、この検出結果に応じて、サブタンク8内のインクを増圧又は減圧させることによって、ヘッド7内のインクの圧力を所定の値とするように制御することで、ヘッド7内のインクの圧力の変動を抑えることが可能となる。これにより、インクを適切なメニスカスに維持することができ、また、吐出口11からのインクの吐出量を規定値に維持させることができる。
【0045】
特に、図3の実施形態の場合、圧力計16は、ヘッド7の近傍部19におけるインクの圧力を検出していることから、ヘッド7の近傍部19におけるインクの圧力(この圧力はヘッド7内の圧力とほぼ等しい)を、前記基準圧力Paとするように制御することが可能となる。すなわち、ヘッド7内のインクの圧力をほぼ直接的に制御することができ、適切なメニスカスを維持する制御が容易となる。なお、圧力計16がヘッド7内の圧力を検出する場合は、ヘッド7内のインクの圧力を直接的に制御することができる。
また、温度変化等によってインクの粘度や比重が変化すると、配管22におけるインク圧(圧力計16における圧力)は変化するが、圧力調整部17が、このインク圧を一定とするようにフィードバック制御を行っているので、インクの粘度や比重が変化の影響を受けにくい。
【0046】
また、本発明の塗布装置による塗布作業は、前記のとおり、インクをヘッド7の吐出口11から吐出している状態で、塗布ガントリ3(駆動機構)によりヘッド7及びサブタンク8を塗布方向(X方向)に移動させている。
そして、図5に示しているように、サブタンク8のサブタンク本体部26は、インク10を充満させた状態で収容していて、このサブタンク本体部26が有している柔軟性のある前記隔壁膜28は、X方向(一方向)に長く、このX方向に直交するY方向(他方向)に短い偏平形状に形成されている。
【0047】
つまり、サブタンク本体部26の前記領域S1は、X方向に長く、このX方向に直交するY方向に短い偏平形状となっていて、この領域S1のY方向の寸法は、X方向の寸法よりも小さい。具体的に説明すると、領域S1は、平面視においてX方向に長い長円形状を有していて(図4参照)、さらに、上下方向に薄い領域となっている。
このように偏平形状とすることで、サブタンク本体部26にインクを充満させた状態で、隔壁膜28は長手方向(X方向)の方が、その直交方向(Y方向)よりも変形し難くなる。
【0048】
そして、図1及び図4に示しているように、隔壁膜28(領域S1)の長手方向(X方向)と、前記塗布方向とが平行となるように、サブタンク8は配置されている。このため、塗布作業の際に、塗布ガントリ3が塗布方向(X方向)に移動することで、サブタンク8が同方向に移動しても、前記のとおり、隔壁膜28及びその内部に満たされているインクは長手方向(X方向)に変形及び移動し難い。このため、サブタンク8内のインクにはX方向の動圧が作用し難くなる。したがって、塗布ガントリ3の移動によって、サブタンク8をX方向に移動させて塗布作業を行っても、この移動によるインクの動圧が、配管22を通じて、ヘッド7内のインクに影響を与えにくく、ヘッド7の吐出口11において、メニスカスの形状を安定させることができる、
【0049】
以上のように、本発明によれば、ヘッド7の吐出口11において、メニスカスの形状を安定させることができることから、塗布ガントリ3を塗布方向に速く移動させることが可能となり、塗布作業を効率化することができる。
【0050】
また、本発明の塗布装置は、図示する形態に限らず本発明の範囲内において他の形態のものであっても良い。例えば、図3の実施形態では、圧力調整部17としての電空レギュレータ14が、サブタンク8内のインクに与える力を調整する場合を説明したが、圧力調整部17(電空レギュレータ14)を、サブタンク8以外の場所に別途設けてもよい。すなわち、圧力調整部17を、例えば配管22の途中部に別途設け、当該圧力調整部17が、サブタンク8からヘッド7までの間(配管22の途中部)に存在しているインクに与える力を調整し、当該インクを増圧又は減圧させてもよい。
【0051】
また、前記実施形態では、圧力調整部17を、ポンプ圧によってヘッド7内のインク圧をバランスさせる型式としたが、これ以外として、図示しないが、サブタンク8からヘッド7までの間に存在しているインクに与える力を調整する構成として、サブタンク8の高さを変更するように制御する機構とし、サブタンク8の出口部18と、ヘッド7の吐出口11との高さの差ΔHを変更する構成(大気圧バランス型)としてもよい。
【符号の説明】
【0052】
3 塗布ガントリ(駆動機構)
7 ヘッド
8 サブタンク(タンク)
9 メインタンク
10 インク(塗布液)
16 圧力計(検出部)
17 圧力調整部
18 出口部
19 近傍部
22 配管
26 サブタンク本体部(タンク本体)
28 隔壁膜
31 調圧部
32 制御部
Pa 基準圧力

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗布液を吐出する吐出口を有するヘッドと、
塗布液を溜めることができると共に当該塗布液を前記ヘッドに供給するタンクと、
前記タンクから前記ヘッドへと前記塗布液が流出する当該タンクの出口部以降の流路に存在している塗布液の圧力を検出する検出部と、
前記ヘッド内の塗布液の圧力を所定の値とするために、前記検出部の検出結果に応じて、前記タンクから前記ヘッドまでの間に存在している塗布液を増圧又は減圧させる制御を行う圧力調整部と、を備えたことを特徴とする塗布装置。
【請求項2】
前記検出部は、前記ヘッド内の前記塗布液の圧力乃至前記ヘッドの近傍部における前記塗布液の圧力を検出する請求項1に記載の塗布装置。
【請求項3】
前記圧力調整部は、
前記タンクから前記ヘッドまでの間に存在している前記塗布液を増圧又は減圧させる調圧部と、
前記ヘッド内の前記吐出口で前記塗布液に適切なメニスカスを形成させるための塗布液の基準圧力に対して、前記検出部の検出結果である実際の前記塗布液の検出圧力が高くなると、前記調圧部によって前記塗布液を減圧させ、前記基準圧力に対して、前記検出圧力が低くなると、前記調圧部によって前記塗布液を増圧させるように制御する制御部と、を有している請求項1又は2に記載の塗布装置。
【請求項4】
前記塗布液を前記吐出口から吐出している状態で前記ヘッド及び前記タンクを所定の塗布方向に移動させる駆動機構を備え、
前記タンクが有していて前記塗布液を充満させた状態で収容するタンク本体部は、一方向に長く当該一方向に直交する他方向に短い偏平形状に形成されかつ柔軟性を備えた隔壁膜を有し、
前記隔壁膜の前記一方向と前記塗布方向とが平行となるように、前記タンクは配置されている請求項1〜3のいずれか一項に記載の塗布装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−179225(P2010−179225A)
【公開日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−23996(P2009−23996)
【出願日】平成21年2月4日(2009.2.4)
【出願人】(000219314)東レエンジニアリング株式会社 (505)
【Fターム(参考)】