説明

増幅器および通信装置。

【課題】ピーク電流を削減することで、スイッチング素子にかかるストレスを軽減させて、増幅器としての信頼性を向上させることが可能な増幅器を提供すること。
【解決手段】所定の電流を出力する電流源と接地電位との間に接続される第1スイッチング素子と、第1スイッチング素子と並列に接続され、電流源と接地電位との間に接続される第1キャパシタと、を含む第1増幅回路と、所定の電流を出力する電流源と接地電位との間に接続される第2スイッチング素子と、第2スイッチング素子と並列に接続され、電流源と接地電位との間に接続される第2キャパシタと、を含む第2増幅回路と、第1増幅回路と第2増幅回路との間に設けられる第3キャパシタと、を備え、第1スイッチング素子は、第2スイッチング素子がオフの場合にオンとなり、第2スイッチング素子がオンの場合にオフとなる、増幅器が提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、増幅器および通信装置に関し、より詳細には、E級増幅器およびE級増幅器を備えた通信装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、スイッチング素子を用いた増幅器の一種であるE級増幅器が提案・開発されている(例えば、非特許文献1〜3参照)。E級増幅器は、ZVS(Zero Voltage Sweitching;ゼロボルトスイッチング)と呼ばれる動作によって、理想的には100%の高効率が得られるものである。ZVSとは、オン状態のスイッチング素子に電流が流れていても、電圧がゼロであればそのスイッチング素子は電力を消費しないことである。
【0003】
E級増幅器は、非特許文献1、2に示すように、1970年代に開発された技術である。しかし、近年でも非特許文献3に示すように、F級および逆F級増幅器の特徴である高調波処理をE級増幅器にも追加したE/F級増幅器が開発されるなど、注目されている技術である。また最近では、無線によって電力を伝送するワイヤレス電力伝送の分野においてこのE級増幅器を用いることも提案されている。
【0004】
【非特許文献1】N. O. Sokal and A. D.Sokal, “Class-E, a new class of high efficiency tuned single ended switchingpower amplifiers,” IEEE J.Solid-State Circuits,vol. SC-10, NO. 3, pp. 168-176, June 1975.
【非特許文献2】F. H. Raab, “IdealizedOperation of the Class E Tuned Power Amplifier,” IEEE Trans. Circuits andSystems, vol. CAS-24, NO. 12, pp. 725-735, Dec. 1977.
【非特許文献3】Scott D. Kee, IchiroAoki, Ali Hajimiri, and David Rutledge, “The Class-E/F Family of ZVS SwitchingAmplifiers,” IEEE Trans. Microwave Theory and Techniques, vol. 51, NO.6,pp.1677-1690, June 2003.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、E級増幅器には、ピーク電圧およびピーク電流が高くなってしまうという問題があった。上記非特許文献3では、3次高調波を操作することでピーク電圧を低下させることができる旨が開示されている。しかし、ピーク電流を低下させる最適な手法は開示されていない。ピーク電圧とピーク電流は、E級増幅器に含まれるスイッチング素子のストレスになり、増幅器としての信頼性を低下させる原因となる。また、同一サイズのスイッチング素子を用いた場合に得られる最大出力電力が、ピーク値で制限されることで、他の動作クラスの増幅器に比べて小さくなってしまうという問題もあった。
【0006】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、スイッチング素子に流れる電流のピーク値を低減することで、スイッチング素子にかかるストレスを軽減させて、増幅器としての信頼性を向上させることが可能な、新規かつ改良された増幅器および通信装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明のある観点によれば、所定の電流を出力する電流源と接地電位との間に接続される第1スイッチング素子と、第1スイッチング素子と並列に接続され、電流源と接地電位との間に接続される第1キャパシタと、を含む第1増幅回路と、所定の電流を出力する電流源と接地電位との間に接続される第2スイッチング素子と、第2スイッチング素子と並列に接続され、チョークコイルと接地電位との間に接続される第2キャパシタと、を含む第2増幅回路と、第1増幅回路と第2増幅回路との間に設けられる第3キャパシタと、を備え、第1スイッチング素子は、第2スイッチング素子がオフの場合にオンとなり、第2スイッチング素子がオンの場合にオフとなる、増幅器が提供される。
【0008】
かかる構成によれば、第1増幅回路に含まれる第1スイッチング素子は、第2増幅回路に含まれる第2スイッチング素子がオフの場合にオンとなり、第2スイッチング素子がオンの場合にオフとなる。第1スイッチング素子がオンの場合、第2増幅回路に接続された電流源からの電流が第2キャパシタおよび第3キャパシタに流れ、第3キャパシタに流れる電流によって第1スイッチング素子に流れる電流を低下させることができる。また、第1スイッチング素子がオフの場合、第1増幅回路に接続された電流源からの電流が第1キャパシタおよび第3キャパシタに流れ、第3キャパシタに流れる電流によって第2スイッチング素子に流れる電流を低下させることができる。その結果、第1スイッチング素子および第2スイッチング素子に流れる電流のピーク値を低減させることができる。第1スイッチング素子および第2スイッチング素子に流れる電流のピーク値を低減させることで、スイッチング素子にかかるストレスを軽減させることができる。
【0009】
第3キャパシタは、第1キャパシタおよび第2キャパシタと並列に接続されていてもよい。
【0010】
第1キャパシタと第3キャパシタとの容量比は0:1から1:1の範囲内であってもよい。
【0011】
第1スイッチング素子がオンとなる時間とオフとなる時間とは等しくなるようにしてもよい。
【0012】
電流源はチョークコイルであってもよい。
【0013】
また、上記課題を解決するために、本発明の別の観点によれば、上記増幅器を備える、通信装置が提供される。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように本発明によれば、増幅回路を差動化して、スイッチング素子に流れる電流のピーク値を低減することで、スイッチング素子にかかるストレスを軽減させて信頼性を向上させることが可能な、新規かつ改良された増幅器および通信装置を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0016】
また、以下の順序に従って本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。
<1.従来のE級増幅器>
[1−1.従来のE級増幅器の構成]
[1−2.従来のE級増幅器の構成]
[1−3.従来のE級増幅器の問題点]
<2.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器>
[2−1.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器の構成]
[2−2.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器の動作]
<3.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器を備えた通信装置>
<4.まとめ>
【0017】
<1.従来のE級増幅器>
まず、本発明の好適な実施の形態について説明する前に、従来のE級増幅器の構成及び動作、並びに従来のE級増幅器が抱える問題点について説明する。
【0018】
[1−1.従来のE級増幅器の構成]
図6は、一般的なE級増幅器10の回路構成について示す説明図である。図6に示したように、一般的には、E級増幅器10は、チョークコイル11と、スイッチング素子12と、キャパシタC1と、直列共振器13と、移相コイルLxと、負荷抵抗Rと、を含んで構成される。また直列共振器13は、キャパシタC2と、インダクタL2と、を含んで構成される。
【0019】
チョークコイル11は、一般的には所定の周波数を上回る高周波電流を阻止するために用いられる電子部品であり、ここでは電源VDDから直流電流I_DCを供給する働きを有する。スイッチング素子12は、バイポーラトランジスタや電界効果トランジスタその他のスイッチング素子を用いることができ、図7に示したデューティ比が50%の矩形波の信号に応じてオンとオフを繰り返す素子である。図7に示した矩形波の信号が0の場合にはスイッチング素子12はオフとなり、1の場合にはスイッチング素子12はオンとなる。スイッチング素子12がオンの場合にはスイッチング素子電流I_TRが流れ、スイッチング素子12がオフの場合には電流が流れない。
【0020】
キャパシタC1には、スイッチング素子12がオフの場合に、チョークコイル11からの電流が流れ込む。スイッチング素子12がオフの場合にキャパシタC1に流れる電流をI_C1とする。なおキャパシタC1の容量をC1とする。キャパシタC2およびインダクタL2からなる直列共振器13は、キャパシタC2およびインダクタL2によって規定される動作周波数の出力電流I_OUTを通過させ、当該動作周波数以外の周波数ではオープンとなるバンドパスフィルタの働きを有する。
【0021】
移相コイルLxは、出力電流I_OUTに対して基本波の電圧と電流を移相するためのリアクタンスである。移相コイルLxは、E級増幅器に必要となる位相条件を満たすために設けられるものである。負荷抵抗Rは、移相コイルLxによって移相された電流を消費する。
【0022】
[1−2.従来のE級増幅器の構成]
図6に示したE級増幅器10におけるスイッチング素子電流I_TR、およびキャパシタC1に流れる電流I_C1を直流電流I_DCで正規化した場合について、図8に示す。図8では、直流電流I_DCを1.0[A]として各電流値を正規化している。図8では、実線がスイッチング素子電流I_TRであり、点線がキャパシタC1に流れる電流I_C1であり、一点鎖線が直流電流I_DCである。
【0023】
図6に示した4つの電流(I_DC、I_TR、I_C1、I_OUT)の値は、図6中のノードAでのキルヒホッフの第一法則に従う。従って、直流電流I_DCから出力電流I_OUTを引いた残りが、スイッチング素子電流I_TR、およびキャパシタC1に流れる電流I_C1となる。
【0024】
図8に示したように、直流電流I_DCは、常に1.0[A]の電流が流れる。また、スイッチング素子電流I_TRは、時刻が0.0[s]から0.5[s]の間はスイッチング素子12がオフであるので、電流が流れず0.0[A]である。時刻が0.5[s]から1.0[s]の間はスイッチング素子12がオンになり、急峻にスイッチング素子電流I_TRが立ち上がる。およそ0.8[s]付近でスイッチング素子電流I_TRはピークとなり、徐々に低下した後に、時刻が1.0[s]になると再びスイッチング素子12がオフになり、スイッチング素子電流I_TRは0.0[A]となる。
【0025】
キャパシタC1に流れる電流I_C1は、時刻0.0[s]では約2.0[A]である。しかし、時刻が0.0[s]から0.5[s]の間にスイッチング素子12がオフになると、約−0.9[A]まで降下した後に0.0[A]に戻る。時刻が0.5[s]から1.0[s]の間はスイッチング素子12がオンになり、スイッチング素子12に電流が流れる一方で、キャパシタC1に流れる電流I_C1は0.0[A]となる。
【0026】
図8に示したスイッチング素子電流I_TR、およびキャパシタC1に流れる電流I_C1を併せると、中心が1.0[A]の正弦波となっている。この正弦波は、直流電流I_DCから、キャパシタC2およびインダクタL2からなる直列共振器13に流れる電流I_OUTを引いた残りを示している。また正弦波のオフセットの1.0[A]は、チョークコイル11に流れる直流電流I_DCと等しい値となっている。
【0027】
なお、キャパシタC1は直流電流を通さないので、キャパシタC1に流れる電流I_C1を時刻0.0[s]から0.5[s]の間で積分すると0.0[A]となる。電流I_C1によってキャパシタC1に蓄積された電荷量に比例して、ノードAには電圧が発生する。従って、ノードAの電圧は、時刻0.0[s]の時点でスイッチング素子12がオフになると、キャパシタC1への電荷の蓄積に伴って0.0[V]から急峻に上昇し、電流I_C1の波形が0になる時点でピークに達する。その後はノードAの電圧は下降し、時刻0.5[s]の時点で再び0.0[V]に戻る。このノードAの電圧は、オフ状態のスイッチング素子12に印加されるスイッチング素子電圧V_TRとなる。
【0028】
整理すると、スイッチング素子12には、オン状態の場合に電流が流れ、スイッチング素子12がオン状態の場合に印加される電圧は0.0[V]である。そして、スイッチング素子12がオフ状態の場合に電流は流れず、スイッチング素子12がオフ状態の場合に印加される電圧は時々刻々と変化する。これがZVSである。
【0029】
図9は、スイッチング素子12に印加されるスイッチング素子電圧V_TRと、スイッチング素子12に流れるスイッチング素子電流I_TRとを、それぞれ正規化したものをグラフで示す説明図である。図9に示したグラフでは、実線が電源電圧V_DDで正規化したスイッチング素子電圧V_TRであり、点線が直流電流I_DCで正規化したスイッチング素子電流I_TRである。そして、図9にはZVSの様子が現れている。
【0030】
[1−3.従来のE級増幅器の問題点]
図9に示したように、スイッチング素子電圧V_TRのピーク値は約3.56[V]であり、スイッチング素子電流I_TRのピーク値は2.86[A]であり、いずれも高いものとなっている。このように、スイッチング素子に印加されるスイッチング素子電圧のピーク電圧と、スイッチング素子に流れるスイッチング素子電流のピーク電流とが高いことが、従来のE級増幅器における問題点である。上述したように、上記非特許文献3では、3次高調波を操作することでピーク電圧を低下させることができる旨が開示されているが、ピーク電流を低下させる最適な手法は上記非特許文献3には開示されていない。
【0031】
そこで、本発明においては、ピーク電圧だけではなく、ピーク電流も削減することで、スイッチング素子にかかるストレスを軽減させ、E級増幅器としての信頼性を向上させることを目的とする。
【0032】
<2.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器>
[2−1.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器の構成]
まず、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器の構成について説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100の構成について示す説明図である。以下、図1を用いて本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100の構成について説明する。
【0033】
図1に示したように、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100は、チョークコイル102a、102bと、スイッチング素子104a、104bと、キャパシタC1a、C1b、C1cと、直列共振器106a、106bと、移相コイルLxa、Lxbと、負荷抵抗Ra、Rbと、を含んで構成される。また直列共振器106aは、キャパシタC2aと、インダクタL2aと、を含んで構成され、直列共振器106bは、キャパシタC2bと、インダクタL2bと、を含んで構成される。
【0034】
図1に示したE級増幅器100においては、チョークコイル102aとチョークコイル102bとは同じ特性のものを用いることが望ましい。同様に、スイッチング素子104a、104b、キャパシタC1a、C1b、直列共振器106a、106b、移相コイルLxa、Lxb、および負荷抵抗Ra、Rbは、それぞれ同じ特性のものを用いることが望ましい。
【0035】
チョークコイル102a、102bは、図6に示した一般的なE級増幅器10と同様に、一般的には所定の周波数を上回る高周波電流を阻止するために用いられる電子部品である。チョークコイル102a、102bは、本発明の電流源の一例であり、本実施形態では、電源VDDから直流電流I_DCを供給する働きを有するものである。スイッチング素子104a、104bは、バイポーラトランジスタや電界効果トランジスタその他のスイッチング素子を用いることができる。スイッチング素子104aは、図7に示したデューティ比が50%の矩形波に応じてオンとオフを繰り返す素子である。一方スイッチング素子104bは、デューティ比が50%で、図7に示した矩形波の逆相の矩形波に応じてオンとオフを繰り返す素子である。スイッチング素子104aがオンの場合にはスイッチング素子電流I_TRaが流れ、スイッチング素子104aがオフの場合には電流が流れない。同様に、スイッチング素子104bがオンの場合にはスイッチング素子電流I_TRbが流れ、スイッチング素子104bがオフの場合には電流が流れない。
【0036】
キャパシタC1aには、スイッチング素子104aがオフの場合に、チョークコイル102aからの電流が流れ込む。そのときキャパシタC1aに流れる電流をI_C1aとする。また、スイッチング素子104aがオフの場合には、スイッチング素子104bはオンとなっている。従って、スイッチング素子104aがオフの場合にはキャパシタC1cは片側が接地された状態になるので、チョークコイル102aからの電流が流れ込む。そのときキャパシタC1cに流れる電流をI_C1cとする。
【0037】
キャパシタC1bには、スイッチング素子104bがオフの場合に、チョークコイル102bからの電流が流れ込む。そのときキャパシタC1bに流れる電流をI_C1bとする。また、スイッチング素子104bがオフの場合には、スイッチング素子104aはオンとなっている。従って、スイッチング素子104bがオフの場合にはキャパシタC1cは片側が接地された状態になるので、チョークコイル102bからの電流が流れ込む。
【0038】
キャパシタC2aおよびインダクタL2aからなる直列共振器106aは、キャパシタC2aおよびインダクタL2aによって動作周波数が規定される共振器である。直列共振器106aは、規定される動作周波数の出力電流I_OUTaを通過させ、当該動作周波数以外の周波数ではオープンとなるバンドパスフィルタの働きを有する。同様に、直列共振器106bは、キャパシタC2bおよびインダクタL2bによって規定される動作周波数の出力電流I_OUTbを通過させ、当該動作周波数以外の周波数ではオープンとなるバンドパスフィルタの働きを有する。
【0039】
移相コイルLxaは、出力電流I_OUTaに対して基本波の電圧と電流を移相するためのリアクタンスである。同様に、移相コイルLxbは、出力電流I_OUTbに対して基本波の電圧と電流を移相するためのリアクタンスである。移相コイルLxa、Lxbは、それぞれE級増幅器に必要となる位相条件を満たすために設けられるものである。負荷抵抗Ra、Rbは、それぞれ移相コイルLxa、Lxbによって移相された電流を消費する。
【0040】
以上、図1を用いて本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100の構成について説明した。次に、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100の動作について説明する。
【0041】
[2−2.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器の動作]
図1に示したE級増幅器100において、キャパシタC1a、C1b、C1cの容量比を以下のように規定する。なお、下記の数式1〜数式3において、C1aはキャパシタC1aの容量を、C1bはキャパシタC1bの容量を、C1cはキャパシタC1cの容量を、それぞれ示すものである。
【0042】
【数1】

・・・(数式1)

・・・(数式2)

・・・(数式3)
【0043】
上記数式1〜数式3において、C_ratioは容量C1をキャパシタC1a(またはキャパシタC1b)とキャパシタC1cとに分割する分割比であり、0.0から1.0の範囲内の実数である。スイッチング素子104a、104bのピーク電流削減効果を発揮するためには、C_ratioの値は0.0〜0.5程度であることが望ましい。すなわち、キャパシタC1a(またはキャパシタC1b)とキャパシタC1cとの容量比は、0:1〜1:1の範囲内に収まることが望ましい。なお、現実には、スイッチング素子104a、104bが持つ寄生容量があるために、キャパシタC1a、C1bの容量をゼロにすることはできない。
【0044】
図2は、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100において、C_ratioの値を0.25に設定した場合の、キャパシタC1aに流れる電流I_C1aとキャパシタC1cに流れる電流をI_C1cとの関係をついてグラフで示す説明図である。図2において、実線はキャパシタC1aに流れる電流I_C1aを示し、点線はキャパシタC1cに流れる電流I_C1cを示している。
【0045】
C_ratioの値を0.25とすると、キャパシタC1aの容量C1aはキャパシタC1cの容量C1cの1/3となる。キャパシタC1aの容量C1aと、キャパシタC1cの容量C1cの容量の比が1:3となるので、図8に示した電流I_C1は、キャパシタC1aとキャパシタC1cとに、それぞれ1:3の割合で割り振られる。従って、時刻0.0[s]から0.5[s]の間では、図2に示した電流I_C1aは、図8に示した電流I_C1を0.25倍した波形と同じ波形になり、電流I_C1cは、図8に示した電流I_C1を0.75倍した波形と同じ波形になる。そして、0.0[s]から0.5[s]の間でキャパシタC1cに流れる電流I_C1cはスイッチング素子104bに流れ込み、スイッチング素子104bに流れる電流値を低下させる働きを行う。
【0046】
続いて時刻0.5[s]から1.0[s]の間では、スイッチング素子104aがオンとなり、キャパシタC1aに流れる電流I_C1aは0.0[A]となる。しかし、キャパシタC1cに流れる電流I_C1cは0.0[A]とはならない。これは、スイッチング素子104aがオンとなることで、逆相側のチョークコイル102bからの電流がキャパシタC1cに流れ込むからである。時刻0.5[s]から1.0[s]の間における電流I_C1cの波形は、時刻0.0[s]から0.5[s]の間における電流I_C1cの波形を0.0[A]で反転させたものと一致する。そして、0.5[s]から1.0[s]の間でキャパシタC1cに流れる電流I_C1cは、スイッチング素子104aに流れ込み、スイッチング素子104aに流れる電流値を低下させる働きを行う。
【0047】
図3は、図6に示した従来のE級増幅器10におけるスイッチング素子12に流れる電流I_TRと、図1に示した本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100におけるスイッチング素子104aに流れる電流I_TRaとをグラフで示して比較する説明図である。図3では、実線がスイッチング素子104aに流れる電流I_TRaであり、点線が従来のE級増幅器10におけるスイッチング素子12に流れる電流I_TRである。
【0048】
0.5[s]から1.0[s]の間、および1.5[s]から2.0[s]の間において、図3に示した電流I_TRから図2に示した電流I_C1cを引いたものが、スイッチング素子104aに流れる電流I_TRaである。時刻0.5[s](または1.5[s])においてスイッチング素子104aがオンになると電流I_TRaは急峻に立ち上がるが、その後の電流増加は、電流I_TRに比べて穏やかである。そして、約0.8[s](または約1.8[s])におけるピーク電流値は、電流I_TRがおよそ2.86[A]なのに対し、電流I_TRaがおよそ2.22[A]であり、ピーク電流値が約22%低下していることが分かる。
【0049】
上述したように、C_ratioの値は完全に0にすることは現実的には不可能である。しかし、仮にC_ratioの値を完全に0にすることができると、電流I_C1a、I_C1bは常に0.0[A]となり、電流I_C1として流れていた電流が全て電流I_C1cとなる。そして、電流I_TRa、I_TRbは矩形波となる。図4は、C_ratioの値を0にした場合において、電流I_TRと、電流I_TRaとをグラフで示して比較する説明図である。図4においても、図3と同様に、実線がスイッチング素子104aに流れる電流I_TRaであり、点線が従来のE級増幅器10におけるスイッチング素子12に流れる電流I_TRである。図4に示したように、C_ratioの値が0になると、電流I_TRaは0.0[A]と2.0[A]とによる矩形波となり、ピーク電流値が約30%低下することになる。
【0050】
なお、図3および図4には、図9のようにスイッチング素子104a、104bに印加される電圧の波形は図示していないが、図1に示したE級増幅器100においても、スイッチング素子104a、104bにおいてZVSが行われる。キャパシタC1a、C1cは直流電流を通さないので、キャパシタC1a、C1cに流れる電流I_C1a、I_C1cを時刻0.0[s]から0.5[s]の間で積分すると0.0[A]となる。電流I_C1a、I_C1cによってキャパシタC1aおよびキャパシタC1cに蓄積された電荷量に比例して、ノードAには電圧が発生する。従って、ノードAの電圧は、時刻0.0[s]の時点でスイッチング素子104aがオフになると、キャパシタC1aおよびキャパシタC1cへの電荷の蓄積に伴って0.0[V]から急峻に上昇し、電流I_C1a、I_C1cの波形が0になる時点でピークに達する。その後はノードAの電圧は下降し、時刻0.5[s]の時点で再び0.0[V]に戻る。このノードAの電圧は、オフ状態のスイッチング素子104aに印加されるスイッチング素子電圧V_TRとなる。
【0051】
このように、スイッチング素子104a、104bに流れる電流のピーク値を低下させることで、スイッチング素子にかかるストレスを軽減させ、増幅効率を向上させることで、E級増幅器としての信頼性を向上させることができる。
【0052】
以上、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100の動作について説明した。次に、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100を備えた通信装置について説明する。
【0053】
<3.本発明の一実施形態にかかるE級増幅器を備えた通信装置>
図5は、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100を備えた通信装置200について示す説明図である。図5には、E級増幅器100を備えた送信側の通信装置200の他に、受信側の通信装置300を併せて示している。
【0054】
図5に示したように、通信装置200は、E級増幅器100と、E級増幅器100に電圧VDDを供給する電源220と、E級増幅器100のスイッチング素子104のスイッチングを制御する交流電源230と、を含んで構成される。通信装置200は、通信装置300に対して、無線による電力の伝送を行う装置である。通信装置200において、E級増幅器100で電力を増幅し、通信装置200に備えられるアンテナ210から、通信装置300に備えられるアンテナ310に対して電波を送信する。通信装置300では、アンテナ310で受信した電波を復調することで電力を受け取ることができる。
【0055】
このように、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100を通信装置200に適用することで、無線による電力伝送の際の効率を向上させることができる。以上、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100を備えた通信装置について説明した。なお、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100を備える通信装置の構成は、図5に示したものに限られないことは言うまでもない。
【0056】
<4.まとめ>
以上説明したように本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100では、従来のE級増幅器を差動構成にし、E級増幅器間に新たにキャパシタC1cを設ける。そして、新たに設けたキャパシタC1cを流れる電流を逆相側に流し込む構成を採ることにより、スイッチング素子104a、104bに流れる電流のピーク値を低下させることができる。従って、以上説明したように本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100によれば、ピーク電流を削減することで、スイッチング素子にかかるストレスを軽減させて信頼性を向上させることができる。また、本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100によれば、スイッチング素子のピーク電流を抑えることによりスイッチング素子での電力消費が抑えられ、同一サイズのスイッチング素子を用いた場合に出力電力を大きくすることができる。
【0057】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は係る例に限定されないことは言うまでもない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【0058】
例えば、上記実施形態では、E級増幅器100において2つのチョークコイル102a、102bを用いたが、本発明ではかかる例に限定されない。例えば、2つのチョークコイルをまとめて中点にタップのある1つの単相単巻オートトランスとして、中点のタップに流れ込む電流を2つに分けて、スイッチング素子104a、104bを流れるように構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、増幅器および通信装置に適用可能であり、特に、E級増幅器およびE級増幅器を備えた通信装置に適用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0060】
【図1】本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100の構成について示す説明図である。
【図2】キャパシタC1aに流れる電流I_C1aとキャパシタC1cに流れる電流をI_C1cとの関係をついてグラフで示す説明図である。
【図3】電流I_TRと電流I_TRaとをグラフで示して比較する説明図である。
【図4】電流I_TRと電流I_TRaとをグラフで示して比較する説明図である。
【図5】本発明の一実施形態にかかるE級増幅器100を備えた通信装置200について示す説明図である。
【図6】一般的なE級増幅器の回路構成について示す説明図である。
【図7】スイッチング素子のオンオフを制御する矩形波の信号について示す説明図である。
【図8】スイッチング素子電流I_TRおよび電流I_C1を、直流電流I_DCで正規化したものを示す説明図である。
【図9】スイッチング素子電圧V_TRおよびスイッチング素子電流I_TRを正規化したものをグラフで示す説明図である。
【符号の説明】
【0061】
10、100 E級増幅器
11、102a、102b チョークコイル
12、104a、104b スイッチング素子
200、300 通信装置
C1、C1a、C1b、C1c、C2、C2a、C2b キャパシタ
13、106a、106b 直列共振器
Lx,Lxa、Lxb 移相コイル
R、Ra、Rb 負荷抵抗
L2、L2a、L2b インダクタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定の電流を出力する電流源と接地電位との間に接続される第1スイッチング素子と、
前記第1スイッチング素子と並列に接続され、前記電流源と前記接地電位との間に接続される第1キャパシタと、
を含む第1増幅回路と、
所定の電流を出力する電流源と接地電位との間に接続される第2スイッチング素子と、
前記第2スイッチング素子と並列に接続され、前記電流源と前記接地電位との間に接続される第2キャパシタと、
を含む第2増幅回路と、
前記第1増幅回路と前記第2増幅回路との間に設けられる第3キャパシタと、
を備え、
前記第1スイッチング素子は、前記第2スイッチング素子がオフの場合にオンとなり、前記第2スイッチング素子がオンの場合にオフとなる、増幅器。
【請求項2】
前記第3キャパシタは、前記第1キャパシタおよび前記第2キャパシタと並列に接続される、請求項1に記載の増幅器。
【請求項3】
前記第1キャパシタと前記第3キャパシタとの容量比は0:1から1:1の範囲内である、請求項1に記載の増幅器。
【請求項4】
前記第1スイッチング素子がオンとなる時間とオフとなる時間とは等しい、請求項1に記載の増幅器。
【請求項5】
前記電流源はチョークコイルである、請求項1に記載の増幅器。
【請求項6】
請求項1に記載の増幅器を備える、通信装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2010−141521(P2010−141521A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−314753(P2008−314753)
【出願日】平成20年12月10日(2008.12.10)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】