説明

増幅器

【課題】 キャリア増幅器が飽和する前にピーク増幅器に流れる電流を低減して、増幅器全体としての効率を向上させることができる増幅器を提供する。
【解決手段】 AB級又はB級で動作する増幅素子を備えたキャリア増幅回路4と、B級又はC級で動作する増幅素子を有し、入力レベルに応じて段階的に動作を開始する複数のピーク増幅回路5-1〜5-nとを備え、キャリア増幅回路4とピーク増幅回路5-1〜5-nの出力を合成して出力し、ピーク増幅回路5-1〜5-nの内、最も低い入力レベルで動作を開始するピーク増幅回路の飽和出力がキャリア増幅回路4の飽和出力より小さい増幅器としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話システム等の基地局において用いられる増幅器に係り、特にドハティ増幅器の効率を向上させることができる増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、CDMA信号やマルチキャリア信号を電力増幅する場合、共通増幅器に歪補償手段を付加し、共通増幅器の動作範囲を飽和領域付近まで広げることで低消費電力化を図っていた。歪補償手段として、フィードフォワード歪補償やプリディストーション歪補償などがあるが、歪補償だけでは低消費電力化に限界が近づいている。そのため近年、高効率増幅器としてドハティ増幅器が注目されている。
【0003】
[ドハティ増幅器:図6]
従来のドハティ増幅器について図6を用いて説明する。図6は、従来のドハティ増幅器の構成ブロック図である。
図6に示すように、従来のドハティ増幅器は、入力端子1と、分配器2と、移相器3と、キャリア増幅回路4と、ピーク増幅回路5と、ドハティ合成部6と、λ/4変成器7と、出力端子8とから構成されている。
更に、キャリア増幅回路4は、入力整合回路41と、増幅素子42と、出力整合回路43とから構成され、ピーク増幅回路5は、入力整合回路51と、増幅素子52と、出力整合回路53とから構成され、ドハティ合成部6は、λ/4変成器61と、ノード(合成点)62とから構成されている。
【0004】
各構成部分について説明する。
分配器2は、入力端子1から入力された信号を、2つに分配するものである。
移相器3は、分配器2で分配された一方の信号の位相を90°遅らせるものである。
キャリア増幅回路4の入力整合回路41は、分配器2で分配された一方の信号と増幅素子42の入力側との整合をとるものである。
増幅素子42は、AB級にバイアスされた増幅素子であり、入力電力レベルが低いときから動作するものである。
出力整合回路43は、増幅素子42からの出力側とλ/4変成器61との整合をとるものである。
【0005】
ピーク増幅回路5の入力整合回路51は、移相器3からの位相が90°遅らされた信号を、増幅素子52の入力側に整合させるものである。
増幅素子52は、B級又はC級にバイアスされた増幅素子であり、入力レベルが十分高いときに動作するものである。
出力整合回路53は、増幅素子52からの出力側とノード62との整合をとるものである。
【0006】
また、ドハティ合成部6のλ/4変成器61は、キャリア増幅回路4の出力をインピーダンス変換してノード62と整合をとるものである。
ノード62は、λ/4変成器61からの出力とピーク増幅回路5からの出力とを合成するものである。
λ/4変成器7は、ノード62での合成信号をインピーダンス変換して、出力負荷9に整合させるものである。
【0007】
上記構成のドハティ増幅器における動作について説明する。
入力端子1から入った信号は、分配器2で分配される。分配された一方の信号は、キャリア増幅器4に入力され、増幅素子42で増幅される。キャリア増幅器4の出力は、λ/4変成器61でインピーダンス変換される。
【0008】
分配器2で分配されたもう一方の信号は、移相器3で位相を90度遅らされ、ピーク増幅器5に入力され、増幅素子52で増幅される。
λ/4変成器61の出力及びピーク増幅器5の出力はノード62において合成される。合成された信号は、λ/4変成器7でインピーダンス変換され、出力端子8を介して出力負荷9に接続される。このようにして従来のドハティ増幅器における動作が行われるものである。
【0009】
ここで、ドハティ増幅器の動作効率について説明する。
キャリア増幅器4とピーク増幅器5は、増幅素子42がAB級にバイアスされ、増幅素子52がB又はC級にバイアスされている点で異なる。そのため、増幅素子52が動作する入力までは増幅素子42は単独で動作し、増幅素子42が飽和領域に入る(増幅素子42の線形性が崩れ始める)と、増幅素子52が動作し始め、増幅素子52の出力が負荷に供給され、増幅素子42とともに負荷を駆動する。このとき増幅出力整合回路43の負荷線は、後述するように高い抵抗から低い抵抗へ移動するが、増幅素子42は飽和領域にあるので効率は良い。入力端子1からの入力が更に増加すると、増幅素子52も飽和し始めるが、増幅素子42、52ともに飽和しているのでこのときも効率は良い。
【0010】
[ドハティ増幅器の効率:図7]
次に、ドハティ増幅器の効率−出力電力特性について図7を用いて説明する。図7は、ドハティ増幅器と通常のB級増幅器の効率−出力電力特性を示す説明図である。図7では、点線は、一般的なB級増幅器の効率を示し、実線は、簡単なモデルにおけるドハティ増幅器の理論上のコレクタ効率又はドレイン効率を示している。
尚、ここでいう「コレクタ効率」とは、コレクタに印加される電源の電圧(直流)とその電源から供給される電流(直流)の積に対する、コレクタから取り出せる無線周波出力電力の割合の意味であり、ドレイン効率についても同様である。
【0011】
図7の横軸はバックオフ(増幅器の平均出力電力に対する飽和出力電力)であり、増幅素子42,52の両方が飽和する最小の入力端子1への入力レベル(コンプレッションポイント)を0dBとし、入力レベルがコンプレッションポイントに対してどれだけ余裕があるかを示す数値である。
【0012】
図7に示すように、入力レベルがA区間にあるときは、基本的にキャリア増幅器4のみが動作する。バックオフが6dBになる付近で、キャリア増幅器4は飽和し始め、効率はB級増幅器の最大効率付近まで達する。ドハティ増幅器の最大出力をP0とすると、このときキャリア増幅器4の出力は約P0/4である。
【0013】
バックオフが6dB以下のB区間では、入力レベルが増加するに従い、キャリア増幅器の出力は、約P0/4からP0/2へ増加する。また、ピーク増幅器5の出力はほぼ0からP0/2へ増加する。
このとき、キャリア増幅回路4とピーク増幅回路5の出力電力の和は、入力端子1への入力電力に対し、A区間と同じ比例定数で比例する。ピーク増幅器5が動作し始めると、効率は一旦低下するが、ピーク増幅回路5も飽和し始めるコンプレッションポイントで再びピークを迎える。コンプレッションポイントにおいて、キャリア増幅回路4とピーク増幅回路5の出力は等しくなる。
【0014】
[各部のインピーダンスについて:図6]
次に、図6を用いてドハティ増幅器の各部のインピーダンスについて説明する。
図6に示すように、出力負荷Z0は一定に規定されているので、これを起点とする。
ノード62からλ/4変成器7をみたインピーダンスZ7は、λ/4変成器7の特性インピーダンスをZ2とすると、
7=Z22/Z0
となる。
出力整合回路43からλ/4変成器61をみたインピーダンスZ4は、A区間においては出力整合回路53の出力インピーダンスが実質的に無限大となるために上記と同様に求まり、C区間においては負荷を等しく分担するため、λ/4変成器61の負荷インピーダンス(ノード62でのキャリア増幅回路4の寄与分)Z4と整合回路53の負荷インピーダンスZ5は、それぞれ2Z7となるので、次式となる。
【数1】

【数2】

ここで、Z1は、λ/4変成器61の特定インピーダンスである。
また、Z4及びZ5は、B区間ではA区間の時の値とC区間の時の値との間をそれぞれ遷移する。
【0015】
ドハティ増幅器を周波数の高い領域(例えばGHz領域)に応用した場合のインピーダンスについて説明する。
4は、入力信号レベルの小さいとき(A区間)のインピーダンス値に対して、入力信号レベルが大きいとき(C区間)には半分になり、換言すれば、2倍の負荷変動を起こす。例えば、Z7=25Ω、Z1=50Ωとすると、Z4は、100〜50Ωの間で変化する。従って増幅素子42の負荷インピーダンスも変動している。一般的には負荷変調と呼ぶ。
【0016】
最近のCDMA信号やOFDM信号等は、高いピークファクタ(ピーク電力と平均電力の比)を有し、7〜12dBのピークファクタに対応できるように、複数(N−1個)のピーク増幅回路を並列に接続したN−WAYドハティ増幅器や、キャリア増幅回路の出力電力よりピーク増幅回路の出力電力を大きくした不等電力ドハティ増幅器などが用いられている。
これらについても基本的な原理は上述したものと同じである。
【0017】
[先行技術文献]
尚、ドハティ増幅器に関連する従来技術としては、特開2006−332829号公報(特許文献1)、特開2006−197556号公報(特許文献2)、特開2007−006164号公報(特許文献3)、特開2006−165856号公報(特許文献4)、特開2006−157900号公報(特許文献5)がある。
特許文献1〜5には、入力信号を分配して、一方をAB級又はB級で動作するキャリア増幅器で増幅し、他方をB級又はC級で動作するピーク増幅器で増幅し、合成して出力することが記載されている。
更に、特許文献1,2には、ドハティ増幅器において、ピーク増幅器を複数並列に接続し、入力レベルに応じて段階的に動作させることが記載されている。
【0018】
【特許文献1】特開2006−332829号公報
【特許文献2】特開2006−197556号公報
【特許文献3】特開2007−006164号公報
【特許文献4】特開2006−165856号公報
【特許文献5】特開2006−157900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0019】
しかしながら、従来のドハティ増幅器では、実際には、キャリア増幅器が飽和したときに直ちにピーク増幅器が動作を開始することはできず、キャリア増幅器が飽和する前に多少ピーク増幅器を動作させているため、飽和点付近における増幅器全体としての効率は、キャリア増幅器の効率を劣化させたものとなってしまうという問題点があった。
【0020】
本発明は上記実状に鑑みて為されたもので、キャリア増幅器が飽和する前にピーク増幅器に流れる電流を低減して、ドハティ増幅器全体としての効率を向上させることができる増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
上記従来例の問題点を解決するための本発明は、AB級又はB級で動作する増幅素子を有するキャリア増幅回路と、B級又はC級で動作する増幅素子を有する複数のピーク増幅回路とを備えた増幅器であって、キャリア増幅回路と複数のピーク増幅回路の出力を合成して出力し、複数のピーク増幅回路は、入力レベルに応じて段階的に動作を開始するものであり、複数のピーク増幅回路の内、最も低い入力レベルで動作を開始するピーク増幅回路の飽和出力がキャリア増幅回路の飽和出力より小さいことを特徴としている。
【0022】
また、本発明は、上記増幅器において、基本波周波数の入力信号を分配する分配器と、分配された一方の基本波信号から2次高調波を発生する高調波発生器と、高調波発生器で発生した2次高調波の位相及び振幅を調整する調整器と、位相及び振幅が調整された2次高調波と前記分配された他方の基本波信号とを合成して出力する合成器とを有する高調波発生回路を備え、高調波発生回路から出力された2次高調波をキャリア増幅回路又は/及びピーク増幅回路の入力信号に注入することを特徴としている。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、AB級又はB級で動作する増幅素子を有するキャリア増幅回路と、B級又はC級で動作する増幅素子を有する複数のピーク増幅回路とを備えた増幅器であって、キャリア増幅回路と複数のピーク増幅回路の出力を合成して出力し、複数のピーク増幅回路は、入力レベルに応じて段階的に動作を開始するものであり、複数のピーク増幅回路の内、最も低い入力レベルで動作を開始するピーク増幅回路の飽和出力がキャリア増幅回路の飽和出力より小さい増幅器としているので、キャリア増幅回路が飽和し始める前にピーク増幅回路に流れる電流を低減し、増幅器全体の効率を向上させることができる効果がある。
【0024】
また、本発明によれば、上記増幅器において、基本波周波数の入力信号を分配する分配器と、分配された一方の基本波信号から2次高調波を発生する高調波発生器と、高調波発生器で発生した2次高調波の位相及び振幅を調整する調整器と、位相及び振幅が調整された2次高調波と前記分配された他方の基本波信号とを合成して出力する合成器とを有する高調波発生回路を備え、高調波発生回路から出力された2次高調波をキャリア増幅回路又は/及びピーク増幅回路の入力信号に注入する増幅器としているので、変調波が入力された場合でも、2次高調波の調整点以外での効率低下を抑え、高調波が注入されたキャリア増幅回路又は/及びピーク増幅回路における高調波反射による効率向上の効果を一層高めることができ、増幅器全体としての効率を向上させることができる効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
[発明の概要]
本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
本発明の実施の形態に係る増幅器は、入力信号を分配して、AB級又はB級で動作するキャリア増幅器(キャリア増幅回路)と、B級又はC級で動作する複数のピーク増幅器(ピーク増幅回路)で増幅し、各増幅器の出力を合成して出力するN−WAYドハティ増幅器であって、各ピーク増幅器は入力レベルに応じて段階的に動作し、最小の入力レベルで動作を開始するピーク増幅器の最大出力は、キャリア増幅器の最大出力より小さいものとしており、キャリア増幅器が飽和する前の入力レベルにおけるピーク増幅器側に流れる電流を低減し、増幅器全体の効率を向上させることができるものである。
【0026】
また、本発明の実施の形態に係る増幅器は、上記構成の増幅器の入力段に、基本波の2倍の周波数を持つ高調波信号を発生する高調波発生回路を備え、更に、キャリア増幅器及び複数のピーク増幅器に高調波反射回路を備えたものとしており、変調波が入力された場合に、高調波の調整点以外での効率低下を低減し、キャリア増幅器及びピーク増幅器において高調波反射による効率向上を図り、増幅器全体としての効率を一層向上させることができるものである。
【0027】
[実施の形態の構成:図1]
本発明の実施の形態に係る増幅器について図1を用いて説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る増幅器(本増幅器)の構成ブロック図である。尚、図6と同様の構成をとる部分については同一の符号を付して説明する。
図1に示すように、本増幅器は、従来と同じ部分として、入力端子1と、分配器21と、キャリア増幅回路4と、λ/4変成器61と、λ/4変成器7と、出力端子8と、出力負荷9とを備え、更に、分配器22と、ピーク増幅回路5-1〜5-nと、伝送線路54-1〜54-nとを備えている。
ドハティ合成部6は、長さ0〜λ/2の任意の電気長となるよう構成されている。
また、伝送線路54-1〜54-nは、ピーク増幅回路5-1〜5-nが動作しないときに、ノード62から各ピーク増幅回路5-1〜5-nをみたインピーダンスが大きくなるような電気長を備えている。
【0028】
分配器22は、分配器21でピーク増幅回路側に分配された信号を、複数のピーク増幅回路5-1〜5-nに分配する。ここでは、ブロックをわかり易くするために分配器21と分配器22とを用いた構成を示したが、各増幅回路に分配する構成は別の構成であってもよい。尚、図1では、分配器21と分配器22とを合わせた構成を分配部2として示している。
【0029】
また、本増幅器では、キャリア増幅回路4を経由する信号と、ピーク増幅回路5-1〜5-nを経由する信号の位相調整を行う移相器も設けられているが、説明を簡単にするために図示は省略する。
【0030】
キャリア増幅回路4の構成は従来と同様であり、入力整合回路と、増幅素子と、出力整合回路とを備えている。キャリア増幅回路4の増幅素子は、AB級又はB級で動作する。
【0031】
ピーク増幅回路5-1〜5-nの構成は、それぞれ、図6に示した従来のドハティ増幅器におけるピーク増幅回路5の構成と同じであり、入力整合回路と、増幅素子と、出力整合回路とを備えている。
【0032】
また、ピーク増幅回路5-1〜5-nの増幅素子は、B級又はC級で動作し、入力レベルに応じて段階的に動作を開始するよう段階的にバイアスされている。図1の例では、ピーク増幅回路5-1が最も低い入力レベルで動作を開始し、次にピーク増幅回路5-2が動作を開始し、…というように順次高い入力レベルで動作を開始するようになっている。
【0033】
そして、本増幅器の特徴として、後述するように、ピーク増幅回路5-1〜5-nの飽和出力は、キャリア増幅回路4の飽和出力よりも小さくなるよう構成している。ここでは、わかり易くするために、各ピーク増幅回路5-1〜5-nの最大出力Pがバイアスレベルに応じて大きくなるよう、P5-1<P5-2<…<P5-nとしている。
【0034】
ピーク増幅回路5に飽和電力が小さい増幅素子を用いることにより、立ち上がり時に大きな電力が要らないため、後述するようにキャリア増幅回路4が飽和し始める前に流す電流を小さくすることができ、効率低下を防ぐことができるものである。また、飽和電力が大きい素子と比較すると、同一出力では飽和電力が小さい素子のほうが効率が高いので、全体としての効率向上を図ることができるものである。
【0035】
特に、本増幅器では、最も低い入力レベルで動作を開始するピーク増幅回路5(図1の例ではピーク増幅回路5-1)の飽和出力をキャリア増幅回路4に比べて小さくすることにより、大きな効率向上を図るようにしている。
【0036】
[本増幅器の動作:図1]
本増幅器の動作について図1を用いて説明する。
本増幅器では、入力端子1から入力された信号は、分配器21で2つに分配され、その一方はキャリア増幅回路4に入力され、他方は分配器22に入力される。
キャリア増幅回路4に入力された信号は、増幅素子で増幅されて、λ/4変成器61でインピーダンス変換されてノード62に入力される。
【0037】
分配器22に入力された信号は、複数のピーク増幅回路5-1〜5-nに分配されて、各ピーク増幅回路5で増幅され、伝送線路54を経由してノード62に入力され、ノード62においてキャリア増幅回路4からの信号と合成される。
そして、合成された増幅信号は、λ/4変成器7でインピーダンス変換されて出力端子8に出力され、負荷9に供給される。
このようにして本増幅器における動作が行われる。
【0038】
[本増幅器の特性]
次に、本増幅器の特性について図2を用いて説明する。図2では、ピーク増幅回路群として、2段のピーク増幅回路を備えた増幅器の特性について説明する。すなわち、図1において分配器22の出力段にピーク増幅回路5-1とピーク増幅回路5-2とを接続した構成である。
図2(a)は、入力−出力電力特性を示す説明図であり、(b)は、入力−増幅器効率を示す説明図であり、(c)はピーク増幅器に流れる電流を示す説明図である。
【0039】
[入力−出力特性:図2(a)]
図2(a)において、横軸は入力電力、縦軸は出力電力を表す。キャリア増幅回路4の飽和出力をPとし、ピーク増幅回路5-1の飽和出力を0.25P、ピーク増幅回路5-2の飽和出力を0.75Pとしている。
図2(a)に示すように、入力電力の低い領域からキャリア増幅回路4が動作し、入力の増加に伴ってキャリア増幅回路4の出力400が増加する。そして、出力電力が飽和電力の1/2付近となるP1点においてキャリア増幅回路4は飽和し始める。
【0040】
一方、ピーク増幅回路5-1がP1点よりも低い入力レベルで動作を開始すると、ピーク増幅回路5-1の出力511が現れる。P1点までは、ピーク増幅回路5-1の出力511は小さいので、全体の出力800に大きな影響を及ぼすことはない。
【0041】
入力が増してピーク増幅回路5-1の出力511が増加すると、キャリア増幅回路4の出力400は、負荷変調が掛かり少し増加する。全体の出力800は、キャリア増幅回路4の出力400とピーク増幅回路5-1の出力511との和となっている。
【0042】
そして、ピーク増幅回路5-1の出力511が飽和(P2点)に近くなると、ピーク増幅回路5-2が動作し始め、その出力512が現れる。キャリア増幅回路4は、更に負荷変調が掛かり、増大する。
このときの全体の出力800は、キャリア増幅回路4の出力400と、ピーク増幅回路5-1の出力511と、ピーク増幅回路5-2の出力512とを合わせたものとなる。
【0043】
図2では、ピーク増幅回路5を2段備えたものについて説明したが、ピーク増幅回路5-1〜5-nを備えた増幅器でも同様であり、まずピーク増幅回路5-1が動作開始してキャリア増幅回路4に負荷変調が掛かり、キャリア増幅回路4の出力が増し、ピーク増幅回路5-1が飽和し始めるとピーク増幅回路5-2が動作を開始して同様な作用を行い、以下ピーク増幅回路5-nが飽和するまで同様に続けられる。
【0044】
[効率:図2(b)]
効率について図2(b)を用いて説明する。
ここでは、ピーク増幅回路5-1と5-2を備えた第1の増幅器の効率を801とし、理想的な等出力2WAYドハティ増幅器の効率を802とし、従来の2WAYドハティ増幅器の効率を803として示している。
理想的な等出力2WAYドハティ増幅器の効率802は、キャリア増幅回路4が飽和し始めるP1点において効率が高くなり、P1以上の領域では一旦著しい効率の低下が見られるのに対して、第1の増幅器の効率801は、ピーク増幅回路5-1が飽和したとき(P2点)において高くなるため、この領域での効率を大幅に改善していることがわかる。
【0045】
第1の増幅器の効率801は、P2点でピークとなった後、ピーク増幅回路5-2が動作するとその影響で効率が若干悪くなるが、効率ピーク点は3つあり、P1点からP2点の間で効率が良くなって、理想的な等出力2WAYドハティ増幅器の効率802に比べて、全体としての効率も向上している。
【0046】
ここでは、ピーク増幅回路を2段として説明したが、ピーク増幅回路をn段とした場合も同様であり、ピーク増幅回路5-1〜5-nが順次飽和することにより、効率の最大点の数を増やすことができ、全体の効率が向上するものである。
【0047】
[ピーク増幅回路の電流:図2(c)]
ピーク増幅回路5に流れる電流について図2(c)を用いて説明する。
ここでは、ピーク増幅回路5-1と5-2を備えた第1の増幅器のピーク増幅回路に流れる電流を501とし、理想的な等出力2WAYドハティ増幅器のピーク増幅回路の電流を502とし、従来の2WAYドハティ増幅器のピーク増幅回路の電流を503として示している。
【0048】
従来の2WAYドハティ増幅器では、ピーク増幅回路の飽和電力が大きく、立ち上がり時に必要な電力を出力するために、キャリア増幅回路4が飽和するより前に動作を開始する必要がある。そのため、従来の2WAYドハティ増幅器のピーク増幅回路の電流503は、理想的な等出力2WAYドハティ増幅器の電流502が零になる入力V1点より低い入力Vc点から電流が流れ、全体として503に示した電流となり、理想的な等出力2WAYドハティ増幅器の電流502に比べて大きい。
【0049】
それに対し、第1の増幅器のピーク増幅回路では、小型飽和出力のピーク増幅回路5-1を使用しており、キャリア増幅回路4が飽和する前に流す電流が小さくて済む。更に、飽和電力が大きい素子と比較すると、同一出力では飽和電力が小さい素子のほうが効率が高い。これにより、本増幅器の効率改善を図ることができるものである。
第1の増幅器のピーク増幅回路では、V1点から少し低いVa点から流れ始め、全体として従来に比べてかなり低くなり、その結果(b)に示したように効率が向上する。
【0050】
[実施の形態の効果]
本発明の実施の形態に係る増幅器によれば、入力レベルに応じて段階的に動作するピーク増幅回路5-1〜5-nを備えたN−WAYドハティ増幅器であって、ピーク増幅回路5-1〜5-nの飽和出力がキャリア増幅回路4の飽和出力より小さくなるよう構成しているので、キャリア増幅回路4が飽和する前にピーク増幅回路5に流れる電流を低減し、全体の効率を向上させることができる効果がある。
【0051】
特に、本増幅器では、最小の入力レベルで動作を開始するピーク増幅回路5(ここではピーク増幅回路5-1)の飽和出力をキャリア増幅回路4に比べて小さくしているので、キャリア増幅回路4が飽和し始める前にピーク増幅回路5に流れてしまう電流を大幅に低減でき、全体の効率を向上させることができる効果がある。
【0052】
また、本増幅器では、キャリア増幅回路4の飽和出力と、ピーク増幅回路5-1〜5-nの飽和出力の総和は等しいものとして説明したが、全ピーク増幅回路5の飽和出力がキャリア増幅回路4の飽和出力より高くても、また、ピーク増幅回路の一部の飽和出力が高くても、上述した理論で説明できる。すなわち、ピークファクタが高い信号に有効である。
【0053】
更に、一般には、ピーク増幅回路5-1〜5-nは、バイアスレベルに応じて飽和出力が順次大きくなることが望ましいが、設計上の判断に基づいて変更することも可能であり、また、バイアスレベルが最も低いピーク増幅回路5-1の飽和出力を、キャリア増幅回路4に比べてどの程度小さく抑えるかも設計上の判断で行ってよい。
【0054】
[本発明の別の実施の形態に係る増幅器:図3]
ドハティ増幅器の効率を向上させる構成として、キャリア増幅回路及びピーク増幅回路に高調波を反射する高調波反射回路を備えたものが知られている。
そこで、本発明の別の実施の形態に係る増幅器は、高調波反射による効率向上の効果を更に高める増幅器としている。
【0055】
本発明の別の実施の形態に係る増幅器の構成について図3を用いて説明する。図3は、本発明の別の実施の形態に係る増幅器(別の増幅器)の構成ブロック図である。尚、図1と同様の構成をとる部分については同一の符号を付しており、動作も同様であるため、説明を省略する。
図3に示すように、別の増幅器では、上述した図1の増幅器の構成を基本として、分配器21の入力段に、高調波を発生する高調波発生回路30を備えたものである。また、キャリア増幅回路4′及び各ピーク増幅回路5′-1〜5′-nには、高調波を反射する高調波反射回路を設けている。
【0056】
高調波反射回路30は、基本波の2次高調波を発生するものであり、入力信号に2次高調波を注入することにより、キャリア増幅回路4及びピーク増幅回路5-1〜5-nでの高調波反射の効果を高め、一層の効率向上を図ることができるものである。
高調波反射回路30の構成については後で説明する。
【0057】
ピーク増幅回路5′-1〜5′-nは、高調波反射回路を備えていることを除けば、図1に示した増幅器のピーク増幅回路5-1〜5-nと同様であり、入力レベルに応じて段階的に動作するよう、バイアスレベルを変えてあり、最も低い入力レベルで動作を開始するピーク増幅回路5′の飽和出力は、キャリア増幅回路4′の飽和出力より小さいものとなっている。
【0058】
[別の増幅器における増幅回路の構成:図4]
図4は、別の増幅器におけるキャリア増幅回路4′及びピーク増幅回路5′-1〜5′-nの構成ブロック図である。尚、ここではキャリア増幅回路4′を例として符号を付しているが、ピーク増幅回路5′-1〜5′-nについても同様の構成となっている。
図4に示すように、キャリア増幅回路4′は、入力整合回路41と、増幅素子(FET)42と、出力整合回路43と、高調波反射回路45とを備えている。
高調波反射回路45は、基本波の周波数に対して高入力インピーダンスで、且つ、その2次高調波周波数に対して低入力インピーダンスとなる高周波終端回路である。すなわち、高調波反射回路は、2次高調波をよく反射する特性を備えている。
【0059】
[高調波発生回路30:図5]
高調波発生回路30の構成について図5を用いて説明する。図5は、高調波発生回路30の構成ブロック図である。
図5に示すように、高調波発生回路30は、別の増幅器において分配器21の入力に注入する高調波を発生する回路であり、分配器31と、遅延線35と、2次高調波発生器32と、可変移相器33と、可変減衰器34と、合成器36とから構成されている。
【0060】
分配器31は、入力端子1からの入力信号を分配する。
高調波発生器32は、高調波を発生するものであり、第1の増幅器では2次高調波を発生するものとしている。
可変移相器33は、高調波発生器32で発生した2次高調波の位相を調整する。
可変減衰器34は、高調波発生器32で発生した2次高調波の振幅を調整する。
尚、可変移相器33及び可変減衰器34から成る部分は、発生した2次高調波のベクトル調整を行うベクトル調整器に相当し、可変移相器33、可変減衰器34、高調波発生器32の配列順が変わっても構わない。
【0061】
可変移相器33及び可変減衰器34では、高調波発生器32で発生した2次高調波の位相及び振幅を、分配器21より後段の増幅器部分で発生する2次高調波の位相及び振幅との関係が最適となるよう調整すると共に、基本波と2次高調波との位相のずれ及び振幅レベルの比が最適となるよう調整するものである。通常は、入力信号の特定の入力レベル(調整点、例えば図2に示したP1点)において最も良好な効率が得られるよう、可変移相器72′と可変減衰器73′が調整されている。
【0062】
遅延線35は、高調波発生器32、可変移相器33、可変減衰器34における処理時間分、分配器31からの入力信号(基本波)を遅延する。
そして、合成器36は、遅延された基本波信号と、可変減衰器34から出力された位相及び振幅が調整された2次高調波とを合成して、分配器21に出力する。
【0063】
このように、高調波を注入する別の増幅器では、特定の入力レベルP1点の効率は良くなるが、P1点からずれると効率が低下してしまい、変調波が入力された場合には高調波注入の効果があまり得られないことがある。
そこで、別の増幅器では、ピーク増幅回路5-1に低飽和電力の増幅素子を用いたN−WAYドハティ増幅器とすることにより、効率改善を図り、高調波注入による効率向上の効果を高めるようにしている。
【0064】
特に、図2で示したように、別の増幅器では、キャリア増幅回路4が飽和し始めるP1点だけでなく、P1点からP2点の間の効率が改善されるために、高調波注入を行ったドハティ増幅器において変調波が入力された場合の効率低下を抑制して、高い効率を保持することができるものである。
【0065】
また、信号レベルの発生頻度は、平均電力から高い信号になるにつれて小さくなるので、高い入力レベルにおける効率を向上させるよりも、P1点に近いところで効率を向上させることが望ましい。図2に示した例では、平均電力を0.5Pとした場合であり、その付近における効率を高くしている。
【0066】
[別の増幅器の効果]
本発明の別の実施の形態に係る増幅器によれば、入力レベルに応じて段階的に動作するピーク増幅回路5-1〜5-nを備えたN−WAYドハティ増幅器であって、ピーク増幅回路5-1〜5-nの飽和出力がキャリア増幅回路4の飽和出力より小さくなるよう構成し、また、キャリア増幅回路4及びピーク増幅回路5-1〜5-nに高調波反射回路を備え、更に、入力段に高調波発生回路30を備えた増幅器としているので、変調波入力時においても、高調波の調整点以外での効率低下を抑制し、高調波注入及び高調波反射による効率向上を一層高め、全体の効率を向上させることができる効果がある。
【0067】
また、図3では、高調波発生回路30を分配器21の入力段に設けているが、キャリア増幅回路4′の入力段に設けて、キャリア増幅回路4′のみに高調波注入を行うようにしてもよいし、また、分配器22の入力段に設けて、ピーク増幅回路5′-1〜5′-nのみに高調波を注入するようにしても全体としての効率向上を図ることができる。高調波が注入される増幅回路には、高調波反射回路を備えることが望ましい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明は、ドハティ増幅器の増幅効率を向上させることができる増幅器に適している。
【図面の簡単な説明】
【0069】
【図1】本発明の実施の形態に係る増幅器(本増幅器)の構成ブロック図である。
【図2】(a)は、入力−出力電力特性を示す説明図であり、(b)は、入力−増幅器効率を示す説明図であり、(c)はピーク増幅器に流れる電流を示す説明図である。
【図3】本発明の別の実施の形態に係る増幅器(別の増幅器)の構成ブロック図である。
【図4】別の増幅器におけるキャリア増幅回路4′及びピーク増幅回路5′-1〜5′-nの構成ブロック図である。
【図5】高調波発生回路30の構成ブロック図である。
【図6】従来のドハティ増幅器の構成ブロック図である。
【図7】ドハティ増幅器と通常のB級増幅器の効率−出力電力特性を示す説明図である。
【符号の説明】
【0070】
1…入力端子、 2…分配器(分配部)、 3…移相器、 4…キャリア増幅回路、 5…ピーク増幅回路、 6…ドハティ合成部、7…λ/4変成器、 8…出力端子、 9…出力負荷、 30…高調波発生回路、 31…分配器、 32…2次高調波発生器、 33…可変移相器、 34…可変減衰器、 36…合成器、 41…入力整合回路、 42…増幅素子、 43…出力整合回路、 51…入力整合回路、 52…増幅素子、 53…出力整合回路、 54…伝送線路、 61…λ/4変成器、 62、65…ノード(合成点)、 100…ピーク増幅回路5-1の出力、 110…ピーク増幅回路5-2の出力、 400…キャリア増幅回路4の出力、 501…本増幅器のピーク増幅回路に流れる電流、 502…理想的な2WAYドハティ増幅器のピーク増幅回路に流れる電流、 503…従来の2WAYドハティ増幅器のピーク増幅回路に流れる電流、 800…増幅器全体の出力、 801…本増幅器の効率、 802…理想的な2WAYドハティ増幅器の効率、 803…従来の2WAYドハティ増幅器の効率

【特許請求の範囲】
【請求項1】
AB級又はB級で動作する増幅素子を有するキャリア増幅回路と、
B級又はC級で動作する増幅素子を有する複数のピーク増幅回路とを備えた増幅器であって、
前記キャリア増幅回路と前記複数のピーク増幅回路の出力を合成して出力し、
前記複数のピーク増幅回路は、入力レベルに応じて段階的に動作を開始するものであり、
前記複数のピーク増幅回路の内、最も低い入力レベルで動作を開始するピーク増幅回路の飽和出力が前記キャリア増幅回路の飽和出力より小さいことを特徴とする増幅器。
【請求項2】
基本波周波数の入力信号を分配する分配器と、
前記分配された一方の基本波信号から2次高調波を発生する高調波発生器と、
前記高調波発生器で発生した2次高調波の位相及び振幅を調整する調整器と、
位相及び振幅が調整された2次高調波と前記分配された他方の基本波信号とを合成して出力する合成器とを有する高調波発生回路を備え、
前記高調波発生回路から出力された2次高調波をキャリア増幅回路又は/及びピーク増幅回路の入力信号に注入することを特徴とする請求項1記載の増幅器。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−118824(P2010−118824A)
【公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−289681(P2008−289681)
【出願日】平成20年11月12日(2008.11.12)
【出願人】(000001122)株式会社日立国際電気 (5,007)
【Fターム(参考)】