説明

変速制御装置および変速制御方法

【課題】過給遅れにより生じる2段加速を抑制することで、スムーズな加速を実現でき、加速フィーリングを向上させることができる過給器付きエンジン搭載車両の変速制御装置および変速制御方法を提供することを課題とする。
【解決手段】本発明は、過給圧検出部を制御して過給圧を取得し、取得された過給圧が所定の範囲内にあるか否か(すなわち、過給圧が負圧から正圧になる圧力を含む範囲内や過給圧が最大過給圧になる圧力を含む範囲内にあるか否か)を判定し、過給圧が所定の範囲内にあると判定された場合、変速比を一時的にハイギヤ側に変更するよう無段変速機を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、過給器付きエンジン搭載車両の変速制御装置および変速制御方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、過給器付きエンジン搭載車両の制御装置が開発されている。
【0003】
例えば、特許文献1に記載の駆動力制御装置は、過給付きエンジンと無段変速機の組み合わせにおいて、過給遅れにより駆動力が不足する場合に目標エンジン回転数を大側に補正(変速比をローギヤ側に変更)している。
【0004】
また、特許文献2に記載の変速制御装置は、過給圧がピークに達するエンジン回転数以下(ターボラグが大きい領域)では、加速ダウンシフトを禁止することにより、ダウンシフト変更により生じる変速ショックを抑制している。
【0005】
また、特許文献3に記載のパワートレインの制御装置は、過給器の過給状態を考慮して自動変速機の制御に用いる変速線の位置を変更することで、過給遅れによるエンジン回転数の上昇遅れを抑制している。
【0006】
また、特許文献4に記載の自動変速制御装置は、過給器の作動有無および運転者の加速要求度に基づいて、自動変速機の制御に用いる変速パターンを決定している。
【0007】
また、特許文献5および特許文献6に記載の自動変速機の制御装置は、ターボラグが検出された場合にシフトダウン制御を行っている。
【0008】
【特許文献1】特開2001−073823号公報
【特許文献2】特開平07−243516号公報
【特許文献3】特開2006−138391号公報
【特許文献4】特開平04−143128号公報
【特許文献5】特開昭62−228742号公報
【特許文献6】特開昭62−228739号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、従来の過給器付きエンジン搭載車両の制御装置(特許文献1〜特許文献6等)においては、変速ショックや過給遅れにより車両の前後加速度が急に変化するため、スムーズな加速を実現できず、加速フィーリングが悪いという問題点を有していた。
【0010】
ここで、図1は、従来技術における発進加速の一例を示す図である。図1に示すように、従来の過給器付きエンジン搭載車両の制御装置では、車両は最大変速比(図1(d)参照)から発進加速するが、過給遅れ(図1(c)参照)により、図1(e)に示すように、一旦前後加速度が落ち込み、その後最大過給圧に近づくにつれて再度加速するという「2段加速」を生じさせてしまい、スムーズな加速を実現できず、加速フィーリングが悪いという問題点を有していた。
【0011】
例えば、特許文献1に記載の駆動力制御装置では、無段変速機を用いることにより変速ショックを無くし、加速開始直後の過給遅れによる駆動力不足を解消することができるものの、上述の過給遅れによる2段加速が生じてしまうので、スムーズな加速を実現できず、加速フィーリングが悪いという問題点を有していた。また、特許文献1に記載の駆動力制御装置では、中間加速など最大変速比を使用していない場合は、変速比をローギヤ側に変更することで目標駆動力を確保することは可能であるが、発信時のように最大変速比を使用している場合には、これ以上ローギヤ側に変更することができないという問題点を有していた。
【0012】
また、特許文献2に記載の変速制御装置では、最大過給圧以下のターボラグが大きい領域において、変速比をダウンシフトに変更することで加速させる操作(エンジン回転数を上げトルクを増加させ加速する動作)を禁止するので、加速ダウンシフトにより生じる変速ショックを抑制できるものの、依然として、過給遅れにより上述の2段加速が生じてしまうので、スムーズな加速を実現できず、加速フィーリングが悪いという問題点を有していた。
【0013】
また、その他の特許文献3〜特許文献5に記載の技術も同様に、上述の過給遅れによる2段加速が生じてしまうので、スムーズな加速を実現できず、加速フィーリングが悪いという問題点を有していた。
【0014】
本発明は、上記に鑑みてなされたもので、過給遅れにより生じる2段加速を抑制することで、スムーズな加速を実現でき、加速フィーリングを向上させることができる過給器付きエンジン搭載車両の変速制御装置および変速制御方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
このような目的を達成するため、本発明の変速制御装置は、無段変速機と過給圧検出部とに接続され、制御部を備えた過給器付きエンジン搭載車両の変速制御装置であって、上記制御部は、上記過給圧検出部を制御して過給圧を取得する過給圧取得手段と、上記過給圧取得手段により取得された上記過給圧が所定の範囲内にあるか否かを判定する過給圧判定手段と、上記過給圧判定手段により上記過給圧が上記所定の範囲内にあると判定された場合、変速比を一時的にハイギヤ側に変更するよう上記無段変速機を制御する変速機制御手段と、を備えたことを特徴とする。
【0016】
また、本発明の変速制御装置は、上記記載の変速制御装置において、上記所定の範囲は、上記過給圧が負圧から正圧になる圧力を含む範囲であることを特徴とする。
【0017】
また、本発明の変速制御装置は、上記記載の変速制御装置において、上記所定の範囲は、上記過給圧が最大過給圧になる圧力を含む範囲であることを特徴とする。
【0018】
また、本発明の変速制御方法は、無段変速機と過給圧検出部とに接続され、制御部を備えた過給器付きエンジン搭載車両の変速制御装置において実行される変速制御方法であって、上記制御部において実行される、上記過給圧検出部を制御して過給圧を取得する過給圧取得ステップと、上記過給圧取得ステップにて取得された上記過給圧が所定の範囲内にあるか否かを判定する過給圧判定ステップと、上記過給圧判定ステップにて上記過給圧が上記所定の範囲内にあると判定された場合、変速比を一時的にハイギヤ側に変更するよう上記無段変速機を制御する変速機制御ステップと、を含むことを特徴とする。
【0019】
また、本発明の変速制御方法は、上記記載の変速制御方法において、上記所定の範囲は、上記過給圧が負圧から正圧になる圧力を含む範囲であることを特徴とする。
【0020】
また、本発明の変速制御方法は、上記記載の変速制御方法において、上記所定の範囲は、上記過給圧が最大過給圧になる圧力を含む範囲であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
この発明によれば、過給圧検出部を制御して過給圧を取得し、取得された過給圧が所定の範囲内にあるか否かを判定し、過給圧が所定の範囲内にあると判定された場合、変速比を一時的にハイギヤ側に変更するよう無段変速機を制御するので、過給器付きエンジン搭載車両において、過給遅れにより生じる2段加速を抑制することができる。これにより、本発明は、スムーズな加速を実現でき、加速フィーリングを向上させることができるという効果を奏する。
【0022】
また、この発明によれば、過給圧の所定の範囲は、過給圧が負圧から正圧になる圧力を含む範囲であるので、過給器付きエンジン搭載車両において、発進直後に生じる急な加速を抑えることができ、飛び出し感を抑制することができるという効果を奏する。すなわち、本発明は、2段加速のうち1回目のピークを抑制することができ、最大変速比を用いた加速により生じる飛び出し感を抑制することができるという効果を奏する。
【0023】
また、この発明によれば、過給圧の所定の範囲は、過給圧が最大過給圧になる圧力を含む範囲であるので、過給遅れの後に生じる急な加速を抑えることができるという効果を奏する。すなわち、本発明は、2段加速のうち2回目のピークを抑制することができ、過給器が最大過給圧に近づき、過給器が動作することによりエンジンの出力が増加することにより生じる急加速を抑制することができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下に、本発明にかかる過給器付きエンジン搭載車両の変速制御装置および変速制御方法並びにプログラムの実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。
【0025】
[本発明の概要]
以下、本発明の概要について図2〜図4を参照して説明し、その後、本発明の構成および処理等について詳細に説明する。ここで、図2は、本発明の基本処理を示すフロー図である。また、図3は、本発明の発進加速の一例を示す図である。また、図4は、本発明の発進加速時の車速に対するエンジン回転数を示す図である。
【0026】
本発明は、概略的に、以下の基本的特徴を有する。すなわち、本発明は、無段変速機に接続された、過給器付きエンジン搭載車両の変速制御装置として構成される。
【0027】
図2に示すように、本発明は、過給圧検出部を制御して過給圧を取得する(ステップSA−1)。
【0028】
ここで、「過給圧」とは、過給器(例えば、ターボチャージャー等)がエンジンに空気を送るときの圧力を意味する。本発明において、過給圧は、過給圧検出部にて検出された過給圧を示す絶対値や変化率等の数値データであり、例えば、Mpa等の単位で表される。
【0029】
そして、本発明は、取得された過給圧が所定の範囲内にあるか否かを判定する(ステップSA−2)。
【0030】
ここで、本発明において、過給圧の所定の範囲は、過給圧が負圧から正圧になる前後の圧力を含む一定の範囲であってもよく、また、過給圧が最大過給圧になる前後の圧力を含む一定の範囲であってもよい。
【0031】
そして、本発明は、過給圧が所定の範囲内にあると判定された場合(ステップSA−2:Yes)、変速比を一時的にハイギヤ側に変更するよう無段変速機を制御し(ステップSA−3)、処理を終える。
【0032】
一方、本発明は、過給圧が所定の範囲内にないと判定された場合(ステップSA−2:No)、変速比を変更するよう無段変速機を制御せずに、処理を終える。
【0033】
ここで、図3を参照し、本発明の発進加速の一例について説明する。
【0034】
図3に示すように、本発明は、発進加速においては、2段加速のうち1回目のピーク(図3(e)のAが示すピーク)と2回目のピーク(図3(e)のCが示すピーク)が生じる所定の範囲(図3(c)の(1)および(2)の範囲)を、過給圧をモニタリングすることで検出する。そして、本発明は、その所定の範囲(すなわち、過給圧が負圧から正圧になる前後の圧力を含む一定の範囲(図3(c)の(1)の範囲)、および、過給圧が最大過給圧になる前後の圧力を含む一定の範囲(図3(c)の(2)の範囲))において無段変速機を一時的にハイギヤ側に変更することにより(図3(d)の点線部分参照)、一時的にエンジンの回転数を下げて一時的にトルクを減少させる。これにより、本発明は、従来技術では抑制することができなかった2段加速において生じるピーク(図3(e)の実線部分参照)を抑えることにより(図3(e)の点線部分参照)、過給遅れにより生じる2段加速を抑制することができる。すなわち、本発明は、図3(e)に示すように、A,B,Cのピーク点の偏差を一定値以下にすることができ、加速の落込みや2段加速を運転者等に感じさせないようにすることができる。これにより、本発明は、スムーズな加速を実現でき、加速フィーリングを向上させることができる。
【0035】
さらに、図4を参照し、本発明における発進加速時の車速に対するエンジン回転数について説明する。
【0036】
図4に示すように、本発明は、発進加速時に2回、すなわち、過給圧が負圧から正圧になる前後の1回目(図4の(1)が示す点線部分を参照)と、過給圧が最大過給圧になる前後の2回目(図4の(2)が示す点線部分を参照)、変速比を一時的にハイギヤ側に変更するよう無段変速機を制御するが、エンジン回転数の変化量は微小であるため、ドライバビリティを悪化させることはない。
【0037】
また、図示しないが、本発明は、図4に示す発進加速時のみでなく、所定車速以上における加速時(例えば、追い越し加速時等)においても適用される。この場合、所定の車速以上ではロックアップクラッチが結合(ロックアップが係合)されているため、エンジン回転数が落ちにくく、上述の過給圧が負圧から正圧になる前後において生じる2段加速のうち1回目のピークが発生しない。そのため、本発明は、所定車速以上における加速時においては、過給圧が最大過給圧になる前後に生じる2回目のピークのみを抑えている。
【0038】
なお、本発明は、アクセル開度が小さい場合、車両の前後加速度も小さくなるため上述のピーク(図4の(1)および(2)が示すピーク)が生じないので、無段変速機の変速比を変更しなくてよい。
【0039】
このように、本発明は、過給器付きエンジンと無段変速機の組み合わせにおいて、過給遅れ(ターボラグ)を考慮した変速比を設定することにより、スムーズな加速を実現し、加速フィーリングを向上させている。具体的には、本発明は、過給器付きエンジン搭載車両において、過給遅れを考慮し、無段変速機の変速比を一時的にハイギヤ側に変更することにより、車両前後加速度をスムーズにし、加速フィーリングを向上させるものである。なお、本発明において、一時的にハイギヤ側に変更するか否かは、車速およびアクセル開度の他に過給圧で判定する。そして、本発明は、過給圧が所定の範囲内にあると判定された場合のみ、変速比を一時的にハイギヤ側に変更している。
【0040】
以上で、本発明の概要の説明を終える。
【0041】
[変速制御装置100の構成]
次に、本変速制御装置100の構成について図5〜図7を参照して説明する。図5は、本変速制御装置100の構成の一例を示すブロック図であり、該構成のうち本発明に関係する部分のみを概念的に示している。また、図6および図7は、変速比変更条件ファイル106aに格納される変速比変更条件の一例を示す図である。
【0042】
図5に示すように、本変速制御装置100は、概略的に、過給圧検出部10と車速検出部12とアクセル開度検出部14と無段変速機20とに通信可能に接続され、制御部102と記憶部106を備えて構成される。なお、本発明において、本変速制御装置100は、過給器付きエンジン搭載車両(図示なし)において用いられる。
【0043】
図5において、過給圧検出部10は、エンジンの吸気通路内に配置された圧力センサ等であり、過給器がエンジンに空気を送るときの圧力を検出する。また、車速検出部12は、車両の速度を検出する車速センサ等であり、車速に比例する無段変速機20の出力軸の回転数を検出する。また、アクセル開度検出部14は、アクセルペダルの踏込量に対応する、エンジンの吸気通路内に配置されたスロットルバルブの開度を検出する。また、無段変速機20は、前後進切替機構とトルクコンバータとを含んで構成されたトランスミッションであり、プーリーの溝幅を変更することで、変速ショックを生じることなく変速比を無段階で連続的に自動変速する。
【0044】
また、図示しないが、過給器(ターボチャージャ等)は、タービンホイールとシャフトとコンプレッサホイールとを含んで構成される。ここで、タービンホイールは、排気通路上に回転可能に設置されており、排気通路を流れる排気がタービンホイールを通過すると、タービンホイールが回転し、シャフトを介して、吸気通路上に回転可能に設置されたコンプレッサホイールを回転させる。これにより、過給器付きエンジンは、エンジンへ送りこむ空気量を増加させることにより、エンジンの出力を上げる。
【0045】
また、図5において、記憶部106は、固定ディスク装置等のストレージ手段であり、各種のデータベースやテーブル(変速比変更条件ファイル106a等)を格納する。例えば、記憶部106は、各種処理に用いる各種のプログラムやテーブルやファイルやデータベースや、無段変速機20の変速比を変更するか否かを判定するために必要な情報(例えば、車速やアクセル開度や過給圧に関する所定の閾値や範囲など)等を格納する。
【0046】
これら記憶部106の各構成要素のうち、変速比変更条件ファイル106aは、制御部102が、過給圧検出部10にて検出された過給圧、車速検出部12にて検出された車速、および、アクセル開度検出部14にて検出されたアクセル開度に基づいて、変速比を変更するか否かを判定する際に用いる、所定の閾値や範囲等の変速比変更条件を記憶する変速比変更条件記憶手段である。
【0047】
ここで、図6および図7を参照し、変速比変更条件ファイル106aに格納される所定の閾値や範囲等の変速比変更条件の一例について以下に説明する。
【0048】
図6および図7に示すように、変速比変更条件ファイル106aは、車速(SPD)が所定の閾値(X)未満の場合(SPD<X)と、車速(SPD)が所定の閾値(X)以上の場合(SPD≧X)とに分けて、アクセル開度(PAP)に関する所定の閾値(α、β
)と、過給圧(PM)に関する所定の範囲(PM<a,a≦PM≦b,b<PM<c,c≦PM≦PMmax,PM<d,d≦PM≦PMmax)と、変速比のハイギヤ側への変更の有無を規定するコマンド(変更する、変更しない)と、を対応付けて格納している。一例として、図6に示すように、変速比変更条件ファイル106aは、車速が所定の閾値未満(SPD<X)であり、かつ、アクセル開度が所定の閾値以上(PAP≧α)であり、かつ、過給圧が所定の範囲内(a≦PM≦b)にある場合、変速比をハイギヤ側へ変更するよう無段変速機20へ指示することを規定するコマンド(変更する)を記憶している。また、一例として、図7に示すように、変速比変更条件ファイル106aは、車速が所定の閾値以上(SPD≧X)であり、かつ、アクセル開度が所定の閾値未満(PAP<β)であり、かつ、過給圧が所定の範囲外(PM<d)にある場合、変速比を維持するため変速比を変更しないこと規定するコマンド(変更しない)を記憶している。
【0049】
また、図5に戻り、制御部102は、OS(Operating System)等の制御プログラムや、各種の処理手順等を規定したプログラム、および、所要データを格納するための内部メモリを有する。そして、制御部102は、これらのプログラム等により、種々の処理を実行するための情報処理を行う。制御部102は、機能概念的に、過給圧取得部102a、過給圧判定部102b、および、変速機制御部102cを備えて構成されている。
【0050】
このうち、過給圧取得部102aは、過給圧検出部10を制御して過給圧を取得する過給圧取得手段である。
【0051】
また、過給圧判定部102bは、過給圧取得部102aにより取得された過給圧が所定の範囲内にあるか否かを判定する過給圧判定手段である。ここで、過給圧の所定の範囲は、過給圧が負圧から正圧になる前後の圧力を含む一定の範囲(例えば、図6に示す「a≦PM≦b」等)であってもよく、また、過給圧が最大過給圧になる前後の圧力を含む一定の範囲(例えば、図6に示す「c≦PM≦PMmax」や、図7に示す「d≦PM≦PMmax」等)をあってもよい。
【0052】
また、変速機制御部102cは、過給圧判定部102bにより過給圧が所定の範囲内にあると判定された場合、変速比を一時的にハイギヤ側に変更するよう無段変速機20を制御する変速機制御手段である。
【0053】
以上で、本変速制御装置100の構成の説明を終える。
【0054】
[変速制御装置100の処理]
続いて、このように構成された本実施の形態における本変速制御装置100の処理の一例について、以下に図8を参照して詳細に説明する。ここで、図8は、本実施の形態における変速制御処理の一例を示すフローチャートである。
【0055】
[変速制御処理]
図8に示すように、まず、制御部102は、車速検出部12を制御して車速(SPD)を取得し、取得された車速が、変速比変更条件ファイル106aに記憶された所定の閾値未満(SPD<X)であるか否かを判定する(ステップSB−1)。
【0056】
そして、制御部102の処理により取得された車速が所定の閾値未満(SPD<X)であると判断された場合(ステップSB−1:Yes)、制御部102は、アクセル開度検出部14を制御してアクセル開度(PAP)を取得し、取得されたアクセル開度が、変速比変更条件ファイル106aに記憶された所定の閾値以上(PAP≧α)であるか否かを判定する(ステップSB−2)。
【0057】
そして、制御部102の処理により取得されたアクセル開度が所定の閾値以上(PAP≧α)であると判断された場合(ステップSB−2:Yes)、過給圧取得部102aは、過給圧検出部10を制御して過給圧(PM)を取得して、過給圧判定部102bは、過給圧取得部102aの処理により取得された過給圧が、変速比変更条件ファイル106aに記憶された所定の範囲内(a≦PM≦b,c≦PM≦PMmax(最大過給圧))にあるか否か(PM<a,b<PM<c)を判断する(ステップSB−3)。
【0058】
そして、過給圧判定部102bの処理により過給圧が所定の範囲内(a≦PM≦b,c≦PM≦PMmax(最大過給圧))にあると判定された場合(ステップSB−3:Yes)、変速機制御部102cは、ステップSB−1にて制御部102の処理により取得された車速(SPD)、ステップSB−2にて制御部102の処理により取得されたアクセル開度(PAP)、および、ステップSB−3に取得された過給圧(PM)に基づき、変速比変更条件ファイル106aに記憶されたコマンドを検索し、検索されたコマンド(変更する)を実行することにより、変速比を一時的にハイギヤ側に変更するよう無段変速機20を制御し(ステップSB−4)、変速制御処理をリターンする。
【0059】
一方、ステップSB−3にて、過給圧判定部102bの処理により過給圧が所定の範囲外(PM<a,b<PM<c)にあると判定された場合(ステップSB−3:No)、変速機制御部102cは、ステップSB−1にて制御部102の処理により取得された車速(SPD)、ステップSB−2にて制御部102の処理により取得されたアクセル開度(PAP)、および、ステップSB−3に取得された過給圧(PM)に基づき、変速比変更条件ファイル106aに記憶されたコマンドを検索し、検索されたコマンド(変更しない)を実行することにより、変速比を変更せずに(ステップSB−5)、変速制御処理をリターンする。
【0060】
ここで、ステップSB−1に戻り、制御部102の処理により取得された車速が所定の閾値以上(SPD≧X)であると判断された場合(ステップSB−1:No)、制御部102は、アクセル開度検出部14を制御してアクセル開度(PAP)を取得して、取得されたアクセル開度が、変速比変更条件ファイル106aに記憶された所定の閾値以上(PAP≧β)であるか否かを判断する(ステップSB−6)。
【0061】
そして、制御部102の処理により取得されたアクセル開度が所定の閾値以上(PAP≧β)であると判断された場合(ステップSB−6:Yes)、過給圧取得部102aは、過給圧検出部10を制御して過給圧(PM)を取得して、過給圧判定部102bは、過給圧取得部102aの処理により取得された過給圧が、変速比変更条件ファイル106aに記憶された所定の範囲内(d≦PM≦PMmax(最大過給圧))にあるか否か(PM<d)を判断する(ステップSB−7)。
【0062】
そして、過給圧判定部102bの処理により過給圧が所定の範囲内(d≦PM≦PMmax(最大過給圧)にあると判定された場合(ステップSB−7:Yes)、変速機制御部102cは、ステップSB−1にて制御部102の処理により取得された車速(SPD)、ステップSB−6にて制御部102の処理により取得されたアクセル開度(PAP)、および、ステップSB−7に取得された過給圧(PM)に基づき、変速比変更条件ファイル106aに記憶されたコマンドを検索し、検索されたコマンド(変更する)を実行することにより、変速比を一時的にハイギヤ側に変更するよう無段変速機20を制御し(ステップSB−8)、変速制御処理をリターンする。
【0063】
一方、ステップSB−7にて、過給圧判定部102bの処理により過給圧が所定の範囲外(PM<d)にあると判定された場合(ステップSB−7:No)、変速機制御部102cは、ステップSB−1にて制御部102の処理により取得された車速(SPD)、ステップSB−6にて制御部102の処理により取得されたアクセル開度(PAP)、および、ステップSB−7に取得された過給圧(PM)に基づき、変速比変更条件ファイル106aに記憶されたコマンドを検索し、検索されたコマンド(変更しない)を実行することにより、変速比を変更せずに(ステップSB−9)、変速制御処理をリターンする。
【0064】
以上で、本変速制御装置100の処理の説明を終える。
【0065】
[他の実施の形態]
さて、これまで本発明の実施の形態について説明したが、本発明は、上述した実施の形態以外にも、上記特許請求の範囲に記載した技術的思想の範囲内において種々の異なる実施の形態にて実施されてよいものである。
【0066】
また、実施の形態において説明した各処理のうち、自動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を手動的に行うこともでき、あるいは、手動的に行われるものとして説明した処理の全部または一部を公知の方法で自動的に行うこともできる。
【0067】
このほか、上記文献中や図面中で示した処理手順、制御手順、具体的名称、各処理の登録データや検索条件等のパラメータを含む情報、画面例、データベース構成については、特記する場合を除いて任意に変更することができる。
【0068】
また、変速制御装置100に関して、図示の各構成要素は機能概念的なものであり、必ずしも物理的に図示の如く構成されていることを要しない。
【0069】
例えば、変速制御装置100の各装置が備える処理機能、特に制御部102にて行われる各処理機能については、その全部または任意の一部を、CPU(Central Processing Unit)および当該CPUにて解釈実行されるプログラムにて実現してもよく、また、ワイヤードロジックによるハードウェアとして実現してもよい。尚、プログラムは、後述する記録媒体に記録されており、必要に応じて変速制御装置100に機械的に読み取られる。すなわち、ROMまたはHDなどの記憶部106などは、OS(Operating System)として協働してCPUに命令を与え、各種処理を行うためのコンピュータプログラムが記録されている。このコンピュータプログラムは、RAMにロードされることによって実行され、CPUと協働して制御部102を構成する。
【0070】
また、このコンピュータプログラムは、変速制御装置100に対して任意のネットワークを介して接続されたアプリケーションプログラムサーバに記憶されていてもよく、必要に応じてその全部または一部をダウンロードすることも可能である。
【0071】
また、本発明に係るプログラムを、コンピュータ読み取り可能な記録媒体に格納することもできる。ここで、この「記録媒体」とは、フレキシブルディスク、光磁気ディスク、ROM、EPROM、EEPROM、CD−ROM、MO、DVD等の任意の「可搬用の物理媒体」、あるいは、LAN、WAN、インターネットに代表されるネットワークを介してプログラムを送信する場合の通信回線や搬送波のように、短期にプログラムを保持する「通信媒体」を含むものとする。
【0072】
また、「プログラム」とは、任意の言語や記述方法にて記述されたデータ処理方法であり、ソースコードやバイナリコード等の形式を問わない。なお、「プログラム」は必ずしも単一的に構成されるものに限られず、複数のモジュールやライブラリとして分散構成されるものや、OS(Operating System)に代表される別個のプログラムと協働してその機能を達成するものをも含む。なお、実施の形態に示した各装置において記録媒体を読み取るための具体的な構成、読み取り手順、あるいは、読み取り後のインストール手順等については、周知の構成や手順を用いることができる。
【0073】
記憶部106に格納される各種のデータベース等(変速比変更条件ファイル106a等)は、RAM、ROM等のメモリ装置、ハードディスク等の固定ディスク装置、フレキシブルディスク、光ディスク等のストレージ手段であり、各種処理に用いる各種のプログラムやテーブルやデータベースや、無段変速機20の変速比を変更するか否かを判定するために必要な情報(例えば、車速やアクセル開度や過給圧に関する所定の閾値や範囲など)等を格納する。
【0074】
更に、装置の分散・統合の具体的形態は図示するものに限られず、その全部または一部を、各種の付加等に応じて、または、機能負荷に応じて、任意の単位で機能的または物理的に分散・統合して構成することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上詳述に説明したように、本発明によれば、過給遅れにより生じる2段加速を抑制することで、スムーズな加速を実現でき、加速フィーリングを向上させることができる過給器付きエンジン搭載車両の変速制御装置および変速制御方法を提供することができ、自動車産業分野などの様々な分野において極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0076】
【図1】従来技術における発進加速の一例を示す図である。
【図2】本発明の基本処理を示すフロー図である。
【図3】本発明の発進加速の一例を示す図である。
【図4】本発明の発進加速時の車速に対するエンジン回転数を示す図である。
【図5】本変速制御装置100の構成の一例を示すブロック図である。
【図6】変速比変更条件ファイル106aに格納される変速比変更条件の一例を示す図である。
【図7】変速比変更条件ファイル106aに格納される変速比変更条件の一例を示す図である。
【図8】本実施の形態における変速制御処理の一例を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0077】
10 過給圧検出部
12 車速検出部
14 アクセル開度検出部
20 無段変速機
100 変速制御装置
102 制御部
102a 過給圧取得部
102b 過給圧判定部
102c 変速機制御部
106 記憶部
106a 変速比変更条件ファイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無段変速機と過給圧検出部とに接続され、制御部を備えた過給器付きエンジン搭載車両の変速制御装置であって、
上記制御部は、
上記過給圧検出部を制御して過給圧を取得する過給圧取得手段と、
上記過給圧取得手段により取得された上記過給圧が所定の範囲内にあるか否かを判定する過給圧判定手段と、
上記過給圧判定手段により上記過給圧が上記所定の範囲内にあると判定された場合、変速比を一時的にハイギヤ側に変更するよう上記無段変速機を制御する変速機制御手段と、
を備えたことを特徴とする、変速制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速制御装置において、
上記所定の範囲は、上記過給圧が負圧から正圧になる圧力を含む範囲であることを特徴とする、変速制御装置。
【請求項3】
請求項1〜2のいずれか一つに記載の変速制御装置において、
上記所定の範囲は、上記過給圧が最大過給圧になる圧力を含む範囲であることを特徴とする、変速制御装置。
【請求項4】
無段変速機と過給圧検出部とに接続され、制御部を備えた過給器付きエンジン搭載車両の変速制御装置において実行される変速制御方法であって、
上記制御部において実行される、
上記過給圧検出部を制御して過給圧を取得する過給圧取得ステップと、
上記過給圧取得ステップにて取得された上記過給圧が所定の範囲内にあるか否かを判定する過給圧判定ステップと、
上記過給圧判定ステップにて上記過給圧が上記所定の範囲内にあると判定された場合、変速比を一時的にハイギヤ側に変更するよう上記無段変速機を制御する変速機制御ステップと、
を含むことを特徴とする、変速制御方法。
【請求項5】
請求項4に記載の変速制御方法において、
上記所定の範囲は、上記過給圧が負圧から正圧になる圧力を含む範囲であることを特徴とする、変速制御方法。
【請求項6】
請求項4〜5のいずれか一つに記載の変速制御方法において、
上記所定の範囲は、上記過給圧が最大過給圧になる圧力を含む範囲であることを特徴とする、変速制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−299818(P2009−299818A)
【公開日】平成21年12月24日(2009.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−156232(P2008−156232)
【出願日】平成20年6月16日(2008.6.16)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】