説明

変速機の制御装置

【課題】 変速機におけるヒルホールド制御を実現する。
【解決手段】 ツインクラッチ式変速機の制御装置において、前記複数の動力伝達部材のうち第1クラッチ出力軸4に設けられた第1速ドリブンギヤ16にワンウェイクラッチOWCが設けられており、前記ワンウェイクラッチOWCは第1速ドリブンギヤ16の回転方向が前進方向で、かつ第1速ドリブンギヤ16の回転数が第3変速機出力軸8の回転数よりも大きく、または、第3変速機出力軸8の回転方向が後進方向の場合に、係合してトルクの伝達をおこない、かつ、第3変速機出力軸8の回転方向が前進方向で、かつ第1速ドリブンギヤ16の回転数が第3変速機出力軸8の回転数よりも小さい場合に空転するように構成されているとともに、第1速用歯車対9以外の、第1クラッチ出力軸4に設けられたいずれかの歯車対を選択して係合する手段を備えていることを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、複数のクラッチの係合・解放を切り換えることにより、変速機の変速を実行するように構成された変速機の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
坂道発進などの場合に、ブレーキのオフ状態から車輪に十分な駆動力が伝達されるまでの間に、車両の後退を防止するヒルホールド制御を行うことが考えられる。このような場合、変速段を構成する歯車対の一部にワンウェイクラッチを設けることで車輪からのトルク自体によって駆動軸の回転を阻止し、ヒルホールドを実現することが考えられる。
【0003】
例えば特許文献1には、ヒルホルダー機構を係合可能なオーバーランニングタイプ一方向ローラクラッチの形態で提供された発明が記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、副変速ギヤ列とギヤ軸側のオーバー回転を許容するワンウェイクラッチが設けられており、坂道を下る方向に車両が後退しようとすると、入力軸と副軸との間に閉じた動力伝達系が構成され、入力軸をロックさせるように構成された発明が記載されている。
【特許文献1】特開2000−97297号公報
【特許文献2】特開平5−126254号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1の発明によれば、ヒルホールド段が独立して設けられているために、ヒルホールド段に係合する際のシンクロナイザー装置を設ける必要があり、部品点数の増加や、レイアウト上不利になり変速機全体が大型化するという問題点がある。また、特許文献2の発明によれば、動力伝達とは関係ない副軸を設けなければならず、部品点数の増加やレイアウト上不利になり変速機全体が大型化するという問題点がある。
【0006】
この発明は、上記の技術的課題に着目してなされたものであり、変速機の大型化を抑制しつつ、ヒルホールドを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するために、この発明は、変速段を構成する歯車対の一方の歯車にワンウェイクラッチを設けたものである。より具体的には、請求項1の発明は原動機と複数の動力伝達部材とが、複数の動力伝達用クラッチを介して連結され、前記複数の動力伝達部材と出力軸間で伝達機構によってトルクが伝達可能となるように構成され、前記伝達機構が複数の歯車対によって構成され、前記複数の動力伝達部材のいずれかと出力部材との間でトルクの伝達を行う複数の歯車対のいずれかを選択して係合する変速用クラッチによって変速制御を行う変速機の制御装置において、前記複数の動力伝達部材のうち第1の動力伝達部材に設けられた第1歯車対の出力部材側にワンウェイクラッチが設けられており、前記ワンウェイクラッチは出力部材の回転方向が前進方向でかつワンウェイクラッチが設けられた歯車の回転数が前記出力部材の回転数よりも小さい場合に空転し、前記ワンウェイクラッチは、出力部材の回転方向が前進方向でかつワンウェイクラッチが設けられた歯車の回転数が前記出力部材の回転数よりも大きい場合に係合してトルクの伝達をおこない、前記ワンウェイクラッチは出力部材の回転方向が後進方向の場合に係合してトルクの伝達をおこなうように構成されているとともに、前記変速機の制御装置は、ヒルホールド制御必要時には、第1歯車対以外の、前記第1の動力伝達部材に設けられたいずれかの歯車対を選択して係合する手段を備えていることを特徴とする制御装置である。
【0008】
また、請求項2の発明は、請求項1の前記第1歯車対は変速比の最も大きな変速段を構成する歯車対であることを特徴とする変速機の制御装置である。
【発明の効果】
【0009】
請求項1の発明によれば、ワンウェイクラッチは第1歯車対に設けられている。すなわち、車両後退時には、第1歯車対以外の、前記第1の動力伝達部材に設けられたいずれかの歯車対を選択して係合するだけで、循環トルクを発生させることができるので、ヒルホールド専用の機構を設ける必要がなく変速機の大型化を抑制できる。
【0010】
また、請求項2の発明によれば、前記第1歯車対は変速比の最も大きな変速段を構成している。したがって、ヒルホールド必要時以外の駆動力を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
つぎに、この発明を具体例に基づいて説明する。図4には、この発明の一実施例である車両Veのドライブトレーンおよび制御系統の一例が、模式的に示されている。まず、車両Veには駆動力源としてのエンジン1が設けられており、エンジン1と車輪2との間に形成された動力伝達経路に変速機3が設けられている。この変速機3は、第1クラッチ出力軸4および第2クラッチ出力軸5および第1変速機出力軸6および第2変速機出力軸7を有している。第2クラッチ出力軸5は円筒状に構成されており、第2クラッチ出力軸5の内部に第1クラッチ出力軸4が配置されている。また、第1クラッチ出力軸4と第2クラッチ出力軸5とが同軸上に配置され、第1クラッチ出力軸4と第2クラッチ出力軸5とが相対回転可能となるように構成されている。さらに、第1クラッチ出力軸4および第2クラッチ出力軸5に対して、第1変速機出力軸6が平行に配置されているとともに、第1変速機出力軸6と第2変速機出力軸7とが平行に配置されている。
【0012】
また、変速機3は、前進段を設定するために、第1速用歯車対9ないし第4速用歯車対12および第6速用歯車対13と第7速用歯車対14を有している。まず、第1速用歯車対9は、第1速ドライブギヤ15と、第1速ドライブギヤ15に噛合された第1速ドリブンギヤ16とにより構成されている。第1速ドライブギヤ15は第1クラッチ出力軸4に設けられており、第1速ドライブギヤ15と第1クラッチ出力軸4とが一体回転するように構成されている。これに対して、第1速ドリブンギヤ16は第3変速機出力軸8に設けられており、第1速ドリブンギヤ16と第3変速機出力軸8とが相対回転可能となるように構成されている。
【0013】
なお、第3変速機出力軸8と第1速ドリブンギヤ16とはオーバランニングタイプのワンウェイクラッチOWCを介して噛合している。このオーバランニングタイプのワンウェイクラッチOWCは、車両前進時で第1速ドリブンギヤ16の回転数が第3変速機出力軸8の回転数よりも大きい場合に、内輪と外輪との間に設けられたローラもしくはスプラグによって内輪と外輪との相対回転が阻止され、トルクの伝達がおこなわれ、車両前進時で第1速ドリブンギヤ16の回転数が第3変速機出力軸8の回転数よりも小さい場合には、内輪と外輪との相対回転が許容されることによって空転してトルクの伝達が抑制されるように構成されている。また、車両後進時には、内輪と外輪との間に設けられたローラもしくはスプラグによって内輪と外輪との相対回転が阻止されてトルクの伝達がおこなわれるように構成されている。
【0014】
つぎに、第2速用歯車対10は、第2速ドライブギヤ17と、第2速ドライブギヤ17に噛合された第2速ドリブンギヤ18とにより構成されている。第2速ドライブギヤ17は第2クラッチ出力軸5に設けられており、第2速ドライブギヤ17と第2クラッチ出力軸5とが一体回転するように構成されている。これに対して、第2速ドリブンギヤ18は第1変速機出力軸6に設けられており、第2速ドリブンギヤ18と第1変速機出力軸6とが相対回転可能となるように構成されている。
【0015】
さらに、第3速用歯車対11は、第3速ドライブギヤ19と、第3速ドライブギヤ19に噛合された第3速ドリブンギヤ20とにより構成されている。第3速ドライブギヤ19は第1クラッチ出力軸4に設けられており、第3速ドライブギヤ19と第1クラッチ出力軸4とが一体回転するように構成されている。これに対して、第3速ドリブンギヤ20は第1変速機出力軸6に設けられており、第3速ドリブンギヤ20と第1変速機出力軸6とが相対回転可能となるように構成されている。
【0016】
さらに、第4速用歯車対12は、第4速ドライブギヤ21と、第4速ドライブギヤ21に噛合された第4速ドリブンギヤ22とにより構成されている。第4速ドライブギヤ21は第2クラッチ出力軸5に設けられており、第4速ドライブギヤ21と第2クラッチ出力軸5とが一体回転するように構成されている。これに対して、第4速ドリブンギヤ22は第1変速機出力軸6に設けられており、第4速ドリブンギヤ22と第1変速機出力軸6とが相対回転可能となるように構成されている。
【0017】
さらに、第6速用歯車対13は、第6速ドライブギヤ23と、第6速ドライブギヤ23に噛合された第6速ドリブンギヤ24とにより構成されている。第6速ドライブギヤ23は第2クラッチ出力軸5に設けられており、第6速ドライブギヤ23と第2クラッチ出力軸5とが一体回転するように構成されている。これに対して、第6速ドリブンギヤ24は第1変速機出力軸6に設けられており、第6速ドリブンギヤ24と第1変速機出力軸6とが相対回転可能となるように構成されている。
【0018】
さらに、第7速用歯車対14は、第7速ドライブギヤ25と、第7速ドライブギヤ25に噛合された第7速ドリブンギヤ26とにより構成されている。第7速ドライブギヤ25は第1クラッチ出力軸4に設けられており、第7速ドライブギヤ25と第1クラッチ出力軸4とが相対回転するように構成されている。これに対して、第7速ドリブンギヤ26は第1変速機出力軸6に設けられており、第7速ドリブンギヤ26と第1変速機出力軸6とが一体回転可能となるように構成されている。
【0019】
また、第2変速機出力軸7にはリダクションドリブンギヤ29が設けられ、このリダクションドリブンギヤ29と噛合する第1リダクションドライブギヤ27が第3変速機出力軸8に設けられるとともに、リダクションドリブンギヤ29に噛合する第2リダクションドライブギヤ28が第1変速機出力軸6に設けられている。さらに、第2変速機出力軸7と第1クラッチ出力軸4とは変速用クラッチC3により係合可能に構成されている。
【0020】
そして、変速機3は、後進段を設定するための後進用歯車対30を有している。後進用歯車対30は、後進ドライブギヤ31および後進ドリブンギヤ32とにより構成されている。後進ドライブギヤ31は第2クラッチ出力軸5に設けられており、後進ドライブギヤ31と第2クラッチ出力軸5とが一体回転するように構成されている。これに対して、後進ドリブンギヤ32は第1変速機出力軸6に設けられており、後進ドリブンギヤ32と第1変速機出力軸6とが相対回転可能となるように構成されている。
【0021】
そして、各変速用歯車対に対応して複数の変速用クラッチが設けられている。この変速用クラッチは、変速用歯車対を構成する各ギヤと、各軸との間における動力伝達状態を制御する装置である。この実施例においては、変速用クラッチとして同期噛合い装置(シンクロメッシュ機構)を用いた場合を説明する。まず、変速用クラッチC3は、第1クラッチ出力軸4に設けられている。変速用クラッチC3は、第1クラッチ出力軸4と一体回転し、かつ、第1クラッチ出力軸4の軸線方向に動作可能なスリーブ33と、第2変速機出力軸7と一体回転するアウターギヤ34と、スリーブ33と一体回転し、かつ、スリーブ33とともに軸線方向に動作可能なシンクロナイザーリング(図示せず)およびシンクロナイザーキー(図示せず)とを有している。スリーブ33にはインナーギヤ(図示せず)が形成されており、スリーブ33が軸線方向に動作することにより、アウターギヤ34と、スリーブ33のインナーギヤとの係合・解放がおこなわれるように構成されている。このアウターギヤ34と、スリーブ33のインナーギヤとが係合された場合は、第1クラッチ出力軸4と第2変速機出力軸7との間で、動力伝達をおこなうことが可能となる。これに対して、スリーブ33が軸線方向で中立位置に動作されて、スリーブ33のインナーギヤと、アウターギヤ34とが解放された場合は、第1クラッチ出力軸4と第2変速機出力軸7との間で、動力伝達をおこなうことが不可能となる。
【0022】
また、この変速用クラッチC3は第7速用歯車対14に対応するクラッチとしての機能を兼備している。すなわち、第7速ドライブギヤ25と一体回転するアウターギヤ44が設けられており、アウターギヤ44に対応するシンクロナイザーリング(図示せず)が設けられている。そして、スリーブ33が軸線方向に動作することにより、アウターギヤ44とスリーブ33のインナーギヤとの係合・解放がおこなわれるように構成されている。このアウターギヤ44とスリーブ33のインナーギヤとが係合された場合は、第1クラッチ出力軸4と第1変速機出力軸6との間で、第7速用歯車対14を経由させて動力伝達をおこなうことが可能となる。これに対して、アウターギヤ44とスリーブ33のインナーギヤとが解放された場合は、第1クラッチ出力軸4と第1変速機出力軸6との間で、第7速用歯車対14を経由させて動力伝達をおこなうことが不可能となる。なお、スリーブ33を軸線方向で中立位置に移動させると、スリーブ33のインナーギヤを、2つのアウターギヤ34,44から共に解放させることは可能であるが、スリーブ33のインナーギヤが軸線方向のいずれの位置にある場合でも、2つのアウターギヤ34,44のいずれか一方にのみ噛合する。
【0023】
また、第3速用歯車対11に対応する変速用クラッチC4は、第1変速機出力軸6に設けられている。変速用クラッチC4は、第1変速機出力軸6と一体回転し、かつ、第1変速機出力軸6の軸線方向に動作可能なスリーブ35と、第3速ドリブンギヤ20と一体回転するアウターギヤ36と、スリーブ35と一体回転し、かつ、スリーブ35とともに軸線方向に動作可能なシンクロナイザーリング(図示せず)およびシンクロナイザーキー(図示せず)とを有している。スリーブ35にはインナーギヤ(図示せず)が形成されており、スリーブ35が軸線方向に動作することにより、アウターギヤ36と、スリーブ35のインナーギヤとの係合・解放がおこなわれるように構成されている。このアウターギヤ36と、スリーブ35のインナーギヤとが係合された場合は、第1クラッチ出力軸4と第1変速機出力軸6との間で、第3速用歯車対11を経由させて動力伝達をおこなうことが可能となる。これに対して、スリーブ35が軸線方向で中立位置に動作されて、スリーブ35のインナーギヤと、アウターギヤ36とが解放された場合は、第1クラッチ出力軸4と第1変速機出力軸6との間で、第3速用歯車対11を経由させて動力伝達をおこなうことが不可能となる。
【0024】
一方、前記第2速用歯車対10に対応する変速用クラッチC5は、第1変速機出力軸6に設けられている。変速用クラッチC5は、第1変速機出力軸6と一体回転し、かつ、第1変速機出力軸6の軸線方向に動作可能なスリーブ37と、第2速ドリブンギヤ18と一体回転するアウターギヤ39と、スリーブ37と一体回転し、かつ、スリーブ37とともに軸線方向に動作可能なシンクロナイザーリング(図示せず)およびシンクロナイザーキー(図示せず)とを有している。スリーブ37にはインナーギヤ(図示せず)が形成されており、スリーブ37が軸線方向に動作することにより、アウターギヤ39とインナーギヤとの係合・解放がおこなわれるように構成されている。このアウターギヤ39と、スリーブ37のインナーギヤとが係合された場合は、第2クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、第2速用歯車対10を経由させて動力伝達をおこなうことが可能となる。これに対して、アウターギヤ39と、スリーブ37のインナーギヤとが解放された場合は、第2クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、第2速用歯車対10を経由させて動力伝達をおこなうことが不可能となる。
【0025】
また、この変速用クラッチC5は後進用歯車対30に対応するクラッチとしての機能を兼備している。すなわち、後進ドリブンギヤ32と一体回転するアウターギヤ38が設けられており、アウターギヤ38に対応するシンクロナイザーリング(図示せず)が設けられている。そして、スリーブ37が軸線方向に動作することにより、アウターギヤ38とスリーブ37のインナーギヤとの係合・解放がおこなわれるように構成されている。このアウターギヤ38とスリーブ37のインナーギヤとが係合された場合は、第2クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、後進用歯車対30を経由させて動力伝達をおこなうことが可能となる。これに対して、アウターギヤ38とスリーブ37のインナーギヤとが解放された場合は、第2クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、後進用歯車対30を経由させて動力伝達をおこなうことが不可能となる。なお、スリーブ37を軸線方向で中立位置に移動させると、スリーブ37のインナーギヤを、2つのアウターギヤ38,39から共に解放させることは可能であるが、スリーブ37のインナーギヤが軸線方向のいずれの位置にある場合でも、2つのアウターギヤ38,39のいずれか一方にのみ噛合する。
【0026】
そして、前記第4速用歯車対12に対応する変速用クラッチC6は、第1変速機出力軸6に設けられている。変速用クラッチC6は、第1変速機出力軸6と一体回転し、かつ、第1変速機出力軸6の軸線方向に動作可能なスリーブ40と、第4速ドリブンギヤ22と一体回転するアウターギヤ41と、スリーブ40と一体回転し、かつ、スリーブ40とともに軸線方向に動作可能なシンクロナイザーリング(図示せず)およびシンクロナイザーキー(図示せず)とを有している。スリーブ40にはインナーギヤ(図示せず)が形成されており、スリーブ40が軸線方向に動作することにより、アウターギヤ41とスリーブ40のインナーギヤとの係合・解放がおこなわれるように構成されている。このアウターギヤ41とスリーブ40のインナーギヤとが係合された場合は、第2クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、第4速用歯車対12を経由させて動力伝達をおこなうことが可能となる。これに対して、アウターギヤ41とスリーブ40のインナーギヤとが解放された場合は、第2クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、第4速用歯車対12を経由させて動力伝達をおこなうことが不可能となる。
【0027】
また、この変速用クラッチC6は第6速用歯車対13に対応するクラッチとしての機能を兼備している。すなわち、第6速ドリブンギヤギヤ24と一体回転するアウターギヤ42が設けられており、アウターギヤ42に対応するシンクロナイザーリング(図示せず)が設けられている。そして、スリーブ40が軸線方向に動作することにより、アウターギヤ42とスリーブ40のインナーギヤとの係合・解放がおこなわれるように構成されている。このアウターギヤ42とスリーブ40のインナーギヤとが係合された場合は、第2クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、第6速用歯車対13を経由させて動力伝達をおこなうことが可能となる。これに対して、アウターギヤ42とスリーブ40のインナーギヤとが解放された場合は、第2クラッチ出力軸5と第1変速機出力軸6との間で、第6速用歯車対13を経由させて動力伝達をおこなうことが不可能となる。なお、スリーブ40を軸線方向で中立位置に移動させると、スリーブ40のインナーギヤを、2つのアウターギヤ41,42から共に解放させることは可能であるが、スリーブ40のインナーギヤが軸線方向のいずれの位置にある場合でも、2つのアウターギヤ41,42のいずれか一方にのみ噛合する。
【0028】
変速機3は、エンジン1に接続される入力軸45を有している。また、第1クラッチ出力軸4と入力軸45との間における動力伝達状態を制御する第1切換クラッチC1と、第2クラッチ出力軸5と入力軸45との間における動力伝達状態を制御する第2切換クラッチC2とが設けられている。この第1切換クラッチC1および第2切換クラッチC2としては、例えば、摩擦式クラッチ、より具体的には湿式クラッチを用いていることが可能である。つまり、第1切換クラッチC1および第2切換クラッチC2を構成するプレートやディスクが、潤滑油により潤滑および冷却される。この第1切換クラッチC1および第2切換クラッチC2は、別々に係合圧もしくはトルク容量を制御可能に構成された、いわゆるデュアルクラッチ(言い換えれば、ツインクラッチ)である。なお、変速時に切換クラッチを交互に切換るように構成されていれば、切換クラッチは3つ以上あってもよい。
【0029】
一方、前記エンジン1には内燃機関および外燃機関が含まれるが、この実施例では、内燃機関を用いている場合について説明する。内燃機関としては、例えば、ガソリンエンジン、ディーゼルエンジン、LPGエンジン、メタノールエンジンなどを用いることが可能である。この実施例では、エンジン1としてガソリンエンジンが用いられている場合について説明する。このエンジン1は、電子スロットルバルブ、燃料噴射量制御装置、点火時期制御装置などを有する公知のものである。さらに、車両Veにはブレーキ装置(図示せず)が設けられている。このブレーキ装置は、乗員により操作されるブレーキペダル、および車輪2に設けられたホイールシリンダなどにより構成されている。そして、ブレーキペダルの操作に応じてホイールシリンダの油圧が制御されて、車輪2に対する制動力が調整される。
【0030】
つぎに、車両Veの制御系統について説明すると、第1切換クラッチC1および第2切換クラッチC2および変速用クラッチC3、C4,C5,C6を、それぞれ別々に制御することの可能なアクチュエータが設けられている。この実施例では、アクチュエータとして油圧アクチュエータ46が用いられている。つまり、第1切換クラッチC1および第2切換クラッチC2および変速用クラッチC3,C4,C5,C6は、いずれも油圧制御式のクラッチであり、各クラッチに対応して油圧室(図示せず)が形成されているととともに、各油圧室の油圧が油圧アクチュエータ46により制御されるように構成されている。つまり、第1切換クラッチC1および第2切換クラッチC2の係合圧は、油圧アクチュエータ46により制御される。この油圧アクチュエータ46は、油圧回路およびソレノイドバルブなどを有する公知の構造を有している。
【0031】
また、車両Veの全体を制御する総合電子制御装置47が設けられているとともに、エンジン1を制御するエンジン用電子制御装置48が設けられている。さらに、変速機3を制御するために乗員が操作するシフト操作装置49が設けられているとともに、変速機3における変速状態を表示するシフト状態表示装置50が設けられている。シフト操作装置49は、乗員が手で操作する構造のものまたは足で操作する構造のもののいずれでもよい。シフト操作装置49の操作により、前進段(ドライブポジション)、後進段(リバースポジション)、ニュートラルポジション、パーキングポジションなどを選択的に切換可能である。さらに、シフト状態表示装置50は、ランプ点灯、音声表示、ディスプレイ表示などの少なくとも1つの表示システムにより、変速機3の変速状態を出力する構成となっている。また、潤滑油および油圧アクチュエータ46の作動油の温度を検出する油温センサ56および各クラッチの軸線方向におけるスリーブの位置を検知するスリーブ位置センサ51が設けられている。
【0032】
前記エンジン用電子制御装置48には、各種のセンサやスイッチの信号が入力される。このエンジン用電子制御装置48には、例えば、エンジン1回転速度、吸入空気量、吸入空気温度、アクセル開度、スロットル開度、冷却水温、エンジン吹き上げ禁止スイッチ52などの信号が入力される。エンジン吹き上げ禁止スイッチ52は、シフト操作装置49に設けたり、シフト操作装置49とは別にインストルメントパネルなどに設けることが可能である。エンジン用電子制御装置48からは、エンジン1の電子スロットルバルブの開度、吸入空気量、点火時期、燃料噴射量などを制御する信号が出力される。
【0033】
前記総合電子制御装置47には、各種のセンサやスイッチの信号が入力される。総合電子制御装置47には、例えば、第1クラッチ出力軸4の回転速度センサ53、第2クラッチ出力軸5の回転速度センサ54、第2変速機出力軸7の回転速度センサ55、潤滑油および作動油の温度、ブレーキペダルの操作状態、ナビゲーションシステムで得られる道路状況、シフト操作装置49の操作状態、道路勾配センサ、加速度センサなどの信号が入力される。総合電子制御装置47からは、油圧アクチュエータ46を制御する信号、シフト状態表示装置50を制御する信号などが出力される。なお、エンジン用電子制御装置48と総合電子制御装置47との間で相互に信号の授受がおこなわれる。また、この実施例において、各種の回転部材の回転速度は、各種の回転部材の回転数と等価のパラメータである。
【0034】
つぎに、変速機3の制御について説明する。変速機3で前進段の第1速を設定する場合は、全ての変速用クラッチC3,C4,C5,C6を解放もしくは中立状態とするとともに第1切換クラッチC1を係合する。これにより、エンジンの出力トルクは第1クラッチ出力軸4から第1速用歯車対9を介して第3変速機出力軸8に伝達される。すなわち、変速機3の変速段として第1速が設定される。
【0035】
また、変速機3で前進段の第2速を設定する場合は、変速用クラッチC5のスリーブ35の動作により、スリーブ35のインナーギヤとアウターギヤ39とが係合されるとともに、第2切換クラッチC2が係合されるとともに、変速用クラッチC5以外の変速用クラッチのスリーブが全て中立位置に制御される。このような制御により、入力軸45と第2変速機出力軸7との間で、第2切換クラッチC2および第2速用歯車対11を経由して動力伝達をおこなうことが可能になるとともに、入力軸45と第2変速機出力軸11との間における変速比が、第2速用歯車対10を構成する第2速ドライブギヤ17と第2速ドリブンギヤ18との歯数比に応じた値となる。すなわち、変速機3の変速段として第2速が設定される。
【0036】
なお、第2速が設定されたことにより、エンジンの出力トルクは第2変速機出力軸7に伝達されるが、リダクションドリブンギヤ29と第1リダクションドライブギヤ27との歯数比に応じて、第3変速機出力軸8の回転数が第1速ドリブンギヤ16の回転数よりも増大する。したがって、ワンウェイクラッチOWCの作用によって、第3変速機出力軸8と第1速ドリブンギヤ16との間の動力伝達が遮断される。この動力伝達遮断は、第3速から第7速が設定された場合にも同様におこなわれる。
【0037】
また、変速機3で前進段の第3速を設定する場合は、変速用クラッチC4のスリーブ35の動作により、スリーブ35のインナーギヤとアウターギヤ36とが係合されるとともに、第1切換クラッチC1が係合されるとともに、変速用クラッチC4以外の変速用クラッチC3,C5,C6のスリーブが全て中立位置に制御され、かつ、第2切換クラッチC2が解放される。このような制御により、入力軸45と第2変速機出力軸7との間で、第1切換クラッチC1および第3速用歯車対11を経由して動力伝達をおこなうことが可能になるとともに、入力軸45と第2変速機出力軸7との間における変速比が、第3速用歯車対11を構成する第3速ドライブギヤ19と第3速ドリブンギヤ20との歯数比に応じた値となる。すなわち、変速機3の変速段として第3速が設定される。
【0038】
さらに、変速機3で前進段の第4速を設定する場合は、変速用クラッチC6のスリーブ40の動作により、スリーブ40のインナーギヤとアウターギヤ41とが係合されるとともに、第2切換クラッチC2が係合されるとともに、変速用クラッチC6以外の変速用クラッチのスリーブが全て中立位置に制御され、かつ、第1切換クラッチC1が解放される。このような制御により、入力軸45と第2変速機出力軸7との間で、第2切換クラッチC2および第4速用歯車対12を経由して動力伝達をおこなうことが可能になるとともに、入力軸45と第2変速機出力軸7との間における変速比が、第4速用歯車対12を構成する第4速ドライブギヤ21と第4速ドリブンギヤ22との歯数比に応じた値となる。すなわち、変速機3の変速段として第4速が設定される。
【0039】
さらに、変速機3で前進段の第5速を設定する場合は、変速用クラッチC3のスリーブ33の動作により、スリーブ33のインナーギヤとアウターギヤ34とが係合されるとともに、第1切換クラッチC1が係合されるとともに、変速用クラッチC3以外の変速用クラッチのスリーブが全て中立位置に制御され、かつ、第2切換クラッチC2が解放される。このような制御により、第1クラッチ出力軸4と第2変速機出力軸7とが直結される。すなわち、変速機3の変速段として第5速が設定される。
【0040】
さらに、変速機3で前進段の第6速を設定する場合は、変速用クラッチC6のスリーブ40の動作により、スリーブ40のインナーギヤとアウターギヤ42とが係合されるとともに、第2切換クラッチC2が係合されるとともに、変速用クラッチC6以外の変速用クラッチのスリーブが全て中立位置に制御され、かつ、第1切換クラッチC1が解放される。このような制御により、入力軸45と第2変速機出力軸7との間で、第2切換クラッチC2および第6速用歯車対13を経由して動力伝達をおこなうことが可能になるとともに、入力軸45と第2変速機出力軸7との間における変速比が、第6速用歯車対13を構成する第6速ドライブギヤ23と第6速ドリブンギヤ24との歯数比に応じた値となる。すなわち、変速機3の変速段として第6速が設定される。
【0041】
そして、変速機3で前進段の第7速を設定する場合は、変速用クラッチC3のスリーブ33の動作により、スリーブ33のインナーギヤとアウターギヤ44とが係合されるとともに、第1切換クラッチC1が係合されるとともに、変速用クラッチC3以外の変速用クラッチのスリーブが全て中立位置に制御され、かつ、第2切換クラッチC2が解放される。このような制御により、入力軸45と第2変速機出力軸7との間で、第1切換クラッチC1および第7速用歯車対14を経由して動力伝達をおこなうことが可能になるとともに、入力軸45と第2変速機出力軸7との間における変速比が、第7速用歯車対14を構成する第7速ドライブギヤ25と第7速ドリブンギヤ26との歯数比に応じた値となる。すなわち、変速機3の変速段として第7速が設定される。このように、変速機3は、前進段において第1速ないし第7速を選択的に切り換えることが可能である。つまり、変速機3は、変速比を段階的に、または不連続に切り換えることの可能な有段変速機である。
【0042】
一方、シフト操作装置49の操作により、後進段(リバースポジション)が選択された場合は、変速用クラッチC5のスリーブ37の動作により、スリーブ37のインナーギヤとアウターギヤ38とが係合されるとともに、第2切換クラッチC2が係合されるとともに、変速用クラッチC5以外の変速用クラッチのスリーブが全て中立位置に制御され、かつ、第1切換クラッチC1が解放される。このような制御により、入力軸45と第2変速機出力軸7との間で、第2切換クラッチC2および後進用歯車対30を経由して動力伝達をおこなうことが可能になるとともに、入力軸45と第2変速機出力軸7との間における変速比が、後進用歯車対30を構成する後進ドライブギヤ31とアイドラギヤ43と後進ドリブンギヤ32との歯数比に応じた値となる。すなわち、変速機3で後進段が設定される。なお、前進段が設定された場合と、後進段が設定された場合とでは、第2変速機出力軸7の回転方向が逆となる。
【0043】
前進段または後進段が選択された場合は、上記のように入力軸45と第2変速機出力軸7とが動力伝達可能に接続されるため、エンジン1が運転され、かつ、アクセルペダルが踏み込まれた場合、つまり、パワーオンの状態では、エンジントルクが変速機3を経由して車輪2に伝達されて、駆動力が発生する。これに対して、車両Veの惰力走行時、つまり、アクセルペダルが踏まれていないパワーオフの状態では、車両Veの運動エネルギに対応するトルクが、車輪2から変速機3を経由してエンジン1に伝達され、エンジンブレーキ力が生じる。
【0044】
さらに、シフト操作装置49により、パーキングポジションまたはニュートラルポジジョンが選択された場合は、第1切換クラッチC1および第2切換クラッチC2が共に解放される。このような制御により、入力軸45と第2変速機出力軸7との間で動力伝達をおこなうことが不可能となる。そして、現在設定されている変速段から他の変速段(目標変速段)に切り換える場合は、現在の変速段を設定しているクラッチのスリーブを動作させて、現在の変速段に対応するアウターギヤと、スリーブのインナーギヤとを解放するとともに、目標変速段に対応するクラッチのスリーブを動作させて、目標変速段を設定するアウターギヤと、スリーブのインナーギヤとを係合させる制御が実行される。また、現在の変速段から目標変速段に切り換える場合に、第1切換クラッチC1および第2切換クラッチC2の係合・解放状態を切り換える必要がある場合は、その切換制御が実行される。
【0045】
この実施例において、前進段では、変速段を示す数字が小さいほど、変速機3における変速比が大きくなる。ここで、変速機3の変速比とは、入力軸45の回転速度を第2変速機出力軸7の回転速度で除した値である。この実施例において、現在の変速段における変速比よりも、目標変速段における変速比の方が大きくなる変速制御がダウンシフトである。また、現在の変速段における変速比よりも、目標変速段における変速比の方が小さくなる変速制御がアップシフトである。そして、変速機3は、変速比を切え換る場合に、第1切換クラッチC1のトルク容量、および第2切換クラッチC2のトルク容量が制御されるように構成された、いわゆるデュアル・クラッチ式の変速機3である。つまり、変速機3の変速段を変更する場合は、第1切換クラッチC1および第2切換クラッチC2の係合・解放を並行して実行する、いわゆるクラッチ・ツウ・クラッチ変速となる。
【0046】
なお、この実施例においては、変速機3の変速段を切り換えるにあたり、自動変速制御とマニュアル変速制御とを選択可能である。マニュアル変速制御とは、乗員がシフト操作装置49をマニュアル操作することにより、第1速ないし第7速の変速段を選択的に切り換える制御である。また、自動変速制御とは、シフト操作装置49で前進段が選択されている場合に、車両Veの走行状態、例えば、車速およびアクセル開度および総合電子制御装置47に記憶されている変速マップに基づいて、変速判断をおこない、第1速ないし第7速の変速段を選択的に切り換える制御である。この場合、変速マップには、現在の変速段から他の変速段にアップシフトする場合の基準となるアップシフト線、および、現在の変速段から他の変速段にダウンシフトする場合の基準となるダウンシフト線が設けられている。
【0047】
次に、発進時におけるエンジン起動時点から変速時点までの、ワンウェイクラッチOWCの作用について説明する。まず、発進時、エンジン1の起動直後においては、第3変速機出力軸8の回転数および第1速ドリブンギヤ16の回転数は、共に零となっているので、ワンウェイクラッチOWCは解放状態となっている。
【0048】
そして、エンジンの回転数が上昇し、第1切換クラッチC1の係合によって、第1速ドリブンギヤ16の回転数が上昇し、第3変速機出力軸8の回転数(起動直後は零)よりも上昇すると、ワンウェイクラッチOWCが係合し、エンジン1からのトルクが第1速用歯車対9を経由して、第3変速機出力軸8へ伝達され、いわゆる1速発進(ロー発進)となる。この時、変速用クラッチC3〜C6は中立状態となっている。
【0049】
その後、車速の増大とともに変速がおこなわれ、第1速ドリブンギヤ16の回転数が第3変速機出力軸8の回転数よりも低下すると、ワンウェイクラッチOWCは解放状態となり、第1クラッチ出力軸4から第3変速機出力軸8へのトルク伝達が遮断される。このとき変速に伴って、変速用クラッチC3〜C5のいずれかが係合されているので第1速用歯車対9以外の歯車対を経由してトルクが伝達される。なお、第5速が設定されている場合には、クラッチC3がアウターギヤ34と係合しているので、第1クラッチ出力軸4から直接第2変速機出力軸7へトルクが伝達される。
【0050】
一方、坂道などにおける車両停止時の車両後退時には、車輪2からのトルクが第1リダクションドライブギヤ27に伝達され、さらに第2変速機出力軸8にトルクが伝達される。なお、このトルクは前進時とは逆向きかつ逆回転のトルクである。ワンウェイクラッチOWCは逆回転時には係合しトルクを伝達するので、第3変速機出力軸8に伝達されたトルクは、第1速ドライブギヤ15に伝達されるが、車両停止時には第1切換クラッチC1および第2切換クラッチC2はいずれも解放されているので、第1クラッチ出力軸4および第2クラッチ出力軸5はいずれも空転する。したがって、車両の後退を防止することができない。そこで、変速機内部に循環トルクを発生させるヒルホールド制御をおこない、車両の後退を抑制する必要がある。
【0051】
次に、このヒルホールド制御について述べる。ヒルホールド制御とは、具体的には、上記坂道などにおける車両停止時の車両後退時に、変速用クラッチC4をアウターギヤ36と係合させるか、変速用クラッチC3をアウターギヤ34またはアウターギヤ44と係合させることにより変速機内部に循環トルクを発生させ、車輪2からのトルクにより、第2変速機出力軸7の回転を抑制させる制御である。なお、以下の説明は、変速用クラッチC4をアウターギヤ36と係合させた場合、すなわち第3速用歯車列を係合させた場合について述べる。
【0052】
上述のように、車両停止中の車輪2からのトルクは、第2変速機出力軸7と,リダクションドリブンギヤ29と、第1リダクションドライブギヤ27と、第3変速機出力軸8と、ワンウェイクラッチOWCと、第1速ドリブンギヤ16と、第1速ドライブギヤ15とを経由して、第1クラッチ出力軸4に伝達される。また、変速用クラッチC4がアウターギヤ36と係合されているので、車輪2からのトルクは、第2変速機出力軸7と,リダクションドリブンギヤ29と,第2リダクションドライブギヤ28と,第1変速機出力軸6と,第3速ドリブンギヤ20と、第3速用歯車対11とを経由して第1クラッチ出力軸4に伝達される。
【0053】
ここで、第1速と第3速とが同時に係合されている。すなわち、第2変速機出力軸7と第1クラッチ出力軸4とは変速比の異なる動力伝達が並列しておこなわれているため、動力伝達経路内のどこかで滑りが生じないと回転できない。車両後退時はワンウェイクラッチOWCは滑らないので第2変速機出力軸7は回転することができず、ヒルホールドを実現することができる。
【0054】
次に、ヒルホールド制御の具体例について、図1を参照して説明する。図1は本ヒルホールド制御の具体例を示すフローチャートである。まず、道路勾配センサーにより現在の道路勾配が所定値以上であるか否かが判断される(ステップS1)。
【0055】
そして、ステップS1で否定的に判断された場合、このルーチンを抜けるが、ステップS1で肯定的に判断された場合、すなわち、現在の道路勾配が所定値以上である場合には、後退防止機能すなわちヒルホールド機能が必要な状態か否かが判断される(ステップS2)。ここで、後退防止機能が必要な状態とは、例えば、道路勾配が所定値以上であり、前進段が選択され、車両が停止状態で、パーキングブレーキが作動していない場合等である。より具体的には、坂道発進時でパーキングブレーキを解除してからエンジンが立ち上がるまでの状態等である。
【0056】
そして、ステップS2で否定的に判断された場合にはこのルーチンを抜けるが、ステップS2で肯定的に判断された場合、すなわち、後退防止機能が必要と判断された場合には、直ちに、変速用クラッチC4をアウターギヤ36と係合させ、第3速段を設定する(ステップS3)。そしてこのルーチンを抜ける。
【0057】
つまり、第3変速機出力軸8に設けられたワンウェイクラッチOWCは、車両後退時にには係合し、第1速用歯車対9が選択され、車輪からのトルクが伝達される。また、ヒルホールド必要時には上記第1速用歯車対9に加えて、第2変速機出力軸7に接続された第3速用歯車列11が選択され、車輪からのトルクが伝達される。第1速用歯車対9と第3速用歯車対11とは、ギア比が異なっているために、変速機内部で循環トルクが発生する。したがって、切換クラッチC1,C2を解放し、エンジン1からのトルクが変速機3に入力されていない場合でも、第1クラッチ出力軸4の回転を阻止することができ、ヒルホールドを実現することができる。
【0058】
また、ワンウェイクラッチOWCは第3変速機出力軸8に設けられており、また、車両後退時には自動的に係合され、トルクが伝達される。そして、車両後退時にワンウェイクラッチが係合している状態で、第3速用歯車対11を選択すればヒルホールドが実現できるので、ヒルホールド専用段を設ける必要がなく、変速機の大型化を抑制することができる。
【0059】
また、ワンウェイクラッチOWCはいずれの変速段にもうけてもよいが、上記実施例においては、ワンウェイクラッチOWCは変速比の最も低い変速段(1速段)に設けられている。1速段に設けることで、車両停止からヒルホールド制御をおこなわずに直ちに発進制御をおこなう場合の駆動力を確保することができる。
【0060】
ここで、実施例で説明した構成と、この発明との対応関係を説明すると、エンジン1が原動機に相当し、第1クラッチ出力軸4および第2クラッチ出力軸5が動力伝達部材に相当する。また、切換クラッチC1,C2が複数の動力伝達用クラッチに相当し、第1ないし第3変速機出力軸6ないし8が出力軸に相当する。そして、第1ないし第7速用歯車対9ないし14が伝達機構および複数の歯車対に相当し、第1ないし第3変速機出力軸6ないし8が出力部材に相当する。また、変速用クラッチC3ないしC6が変速用クラッチに相当する。
【0061】
なお、上記実施例においては、ヒルホールド制御時に第3速用歯車対11を選択したが、図2および図3に示すように、変速用クラッチC3をアウターギヤ34またはアウターギヤ44と係合させてもよい。要は、ヒルホールド制御時に第1クラッチ出力軸4に設定された変速比の異なる変速段を同時に選択することによって、変速機内部に循環トルクを発生させるように制御すればよい。
【0062】
なお、請求項1における「ヒルホールド制御必要時」とは、例えば、坂道などにおける車両停止時の車両後退時であって、車両の後退を防止する必要がある場合である。
【0063】
また、この発明は、各動力伝達部材および各回転部材の回転軸線が、車両Veの前後方向または車両Veの幅方向のいずれの向きで配置されている車両Veにおいても実行可能である。また、この発明は、第2変速機出力軸7のトルクが、前輪または後輪のいずれに伝達される構成の二輪駆動車にも適用可能である。また、この発明は、第2変速機出力軸7のトルクが、動力分配装置(トランスファ)により、前輪および後輪に分配される構成の四輪駆動車にも適用可能である。またこの発明は、車両Ve以外の駆動装置、例えば、建設機械、工作機械などにも適用可能である。また、この発明に用いられる各種のクラッチとしては、摩擦式クラッチ、例えば、湿式クラッチおよび乾式クラッチが挙げられる。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】この発明における変速機で実行可能な制御例を示すフローチャートである。
【図2】この発明における変速機で実行可能な制御例の他の例を示すフローチャートである。
【図3】この発明における変速機で実行可能な制御例の第3の例を示すフローチャートである。
【図4】図1の制御例を実行可能な車両のパワートレーンおよびその制御系統を示す概念図である。
【符号の説明】
【0065】
1…エンジン、 3…変速機、 4…第1クラッチ出力軸、 5…第2クラッチ出力軸、 6…第1変速機出力軸、 7…第2変速機出力軸、 8…第3変速機出力軸、 9…第1速用歯車対、 10…第2速用歯車対、 11…第3速用歯車対、 12…第4速用歯車対、 13…第6速用歯車対、 14…第7速用歯車対、 15…第1速ドライブギヤ、 16…第1速ドリブンギヤ、 17…第2速ドライブギヤ、 18…第2速ドリブンギヤ、 19…第3速ドライブギヤ、 20…第3速ドリブンギヤ、 21…第4速ドライブギヤ、 22…第4速ドリブンギヤ、 23…第6速ドライブギヤ、 24…第6速ドリブンギヤ、 25…第7速ドライブギヤ、 26…第7速ドリブンギヤ、 C3…変速用クラッチ、 C4…変速用クラッチ、 C5…変速用クラッチ、 C6…変速用クラッチ、 45…入力軸、 46…油圧アクチュエータ、 C1…第1切換クラッチ、 C2…第2切換クラッチ、 Ve…車両、 OWC…ワンウェイクラッチ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機と複数の動力伝達部材とが、複数の動力伝達用クラッチを介して連結され、前記複数の動力伝達部材と出力軸間で伝達機構によってトルクが伝達可能となるように構成され、前記伝達機構が複数の歯車対によって構成され、前記複数の動力伝達部材のいずれかと出力部材との間でトルクの伝達を行う複数の歯車対のいずれかを選択して係合する変速用クラッチによって変速制御を行う変速機の制御装置において、
前記複数の動力伝達部材のうち第1の動力伝達部材に設けられた第1歯車対の出力部材側にワンウェイクラッチが設けられており、
前記ワンウェイクラッチは出力部材の回転方向が前進方向でかつワンウェイクラッチが設けられた歯車の回転数が前記出力部材の回転数よりも小さい場合に空転し、
前記ワンウェイクラッチは、出力部材の回転方向が前進方向でかつワンウェイクラッチが設けられた歯車の回転数が前記出力部材の回転数よりも大きい場合に係合してトルクの伝達をおこない、
前記ワンウェイクラッチは出力部材の回転方向が後進方向の場合に係合してトルクの伝達をおこなうように構成されているとともに、
前記変速機の制御装置は、ヒルホールド制御必要時には、第1歯車対以外の、前記第1の動力伝達部材に設けられたいずれかの歯車対を選択して係合する手段を備えていることを特徴とする変速機の制御装置。
【請求項2】
前記第1歯車対は変速比の最も大きな変速段を構成する歯車対であることを特徴とする請求項1に記載の変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−57041(P2007−57041A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−244771(P2005−244771)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】