説明

変速機

【課題】潤滑性の向上を図るとともに、撹拌抵抗を低減することが可能な変速機を提供す
ることを目的とする。
【解決手段】変速機1は、リングギヤ80の回転により上方に掻き上げられた潤滑油を複
数のギヤの潤滑箇所へ供給する供給レシーバ92と、複数のギヤのうち駆動側のギヤ51
〜57を回転可能に支持する入力軸21,22と、原動機の回転駆動力を入力軸21,2
2に伝達するクラッチ40であって、クラッチ40に操作力が加えられている場合に原動
機と入力軸21,22を連結状態とし、該クラッチ40に操作力が加えられていない場合
に原動機と入力軸21,22を開放状態とする常開型のクラッチ40と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変速ギヤにより潤滑油を掻き上げて潤滑を行う変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
内燃機関などの駆動力を変速させる車両用の変速機は、変速ギヤにより潤滑油を掻き上
げて潤滑を行っているものがある。例えば、特開2001−254811号公報(特許文
献1)には、オイルレシーバを有する変速機の潤滑機構が開示されている。この潤滑機構
は、変速ギヤにより掻き上げられた潤滑油をオイルレシーバで受け止め、他の変速ギヤの
歯面や各軸の内部に潤滑油を供給している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−254811号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような変速機の潤滑機構では、変速ギヤがケース内に貯留されている潤滑油を掻き
上げるため、変速ギヤに撹拌抵抗が生じる。この撹拌抵抗の増大は、変速機の動力損失と
なり、車両の駆動や燃費に大きく影響するおそれがある。
【0005】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、撹拌抵抗を低減することが可能な変速
機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の課題を解決するために、請求項1に係る発明の特徴は、
ケースと、
前記ケース内に回転可能に支持され、ディファレンシャルのリングギヤを含む複数のギ
ヤと、
前記ケース内に形成され、前記ケース内に収容された潤滑油を貯留し、且つ、当該貯留
された前記潤滑油をリングギヤの回転により前記リングギヤの上方へ掻き上げ可能な潤滑
油貯留領域と、
前記リングギヤの回転により上方に掻き上げられた前記潤滑油を複数の前記ギヤの潤滑
箇所へ供給する供給レシーバと、
複数の前記ギヤのうち駆動側のギヤを回転可能に支持する入力軸と、
原動機の回転駆動力を前記入力軸に伝達するクラッチであって、該クラッチに操作力が
加えられている場合に前記原動機と前記入力軸を連結状態とし、該クラッチに操作力が加
えられていない場合に前記原動機と前記入力軸を開放状態とする常開型の前記クラッチと

を備えることである。
【0007】
請求項2に係る発明の特徴は、請求項1において、
前記リングギヤの周縁部のうち前記潤滑油貯留領域から前記潤滑油貯留領域の外部に亘
って前記リングギヤの周縁部を囲むように形成され、前記潤滑油貯留領域の外部において
前記リングギヤの回転により掻き上げられた前記潤滑油を前記リングギヤとの間で保持し
、且つ、前記潤滑油貯留領域の外部において保持された前記潤滑油を前記供給レシーバに
向かって前記リングギヤが飛散可能とさせる潤滑油保持部をさらに備えることである。
【0008】
請求項3に係る発明の特徴は、請求項2において、
前記潤滑油保持部は、前記ケースを構成する第一ケース部と第二ケース部とに夫々固定
された二つの側片で構成され、前記第一ケース部に前記第二ケース部が締結されると、前
記二つの側片が前記リングギヤの周縁部の周面および両側面を囲むことである。
【0009】
請求項4に係る発明の特徴は、請求項1〜3の何れか一項において、
複数の前記ギヤの回転により飛散した前記潤滑油を捕集し、当該捕集した前記潤滑油を
前記リングギヤの近傍へ戻す返戻レシーバをさらに備えることである。
【0010】
請求項5に係る発明の特徴は、請求項4において、
前記返戻レシーバは、捕集した前記潤滑油を前記ケースの内壁面に沿って前記リングギ
ヤの近傍に戻すように、前記返戻レシーバの底壁部が前記ケースの前記内壁面から突出す
るように一体的に形成されていることである。
【0011】
請求項6に係る発明の特徴は、請求項4または5において、
前記返戻レシーバは、前記返戻レシーバの底面が前記ギヤの回転により前記ケースの上
方へ飛散する前記潤滑油を衝突させ前記ケースの下方に落下させるように配置されている
ことである。
【0012】
請求項7に係る発明の特徴は、請求項1〜6の何れか一項において、
前記入力軸は、複数の前記ギヤのうち駆動側のギヤを回転可能に支持する第一入力軸と
、前記第一入力軸と同心に配置される第二入力軸とを有し、
複数の前記ギヤのうち従動側のギヤを回転可能に支持する第一出力軸および第二出力軸
が前記入力軸と平行に配置され、
前記クラッチは、原動機の回転駆動力を前記第一入力軸に伝達する第一クラッチと前記
回転駆動力を前記第二入力軸に伝達する第二クラッチとを有するデュアルクラッチであり

前記ディファレンシャルの前記リングギヤは、前記第一出力軸および前記第二出力軸に
常時回転連結されていることである。
【発明の効果】
【0013】
請求項1に係る発明によると、常開型のクラッチ(「ノーマルオープンタイプのクラッ
チ」とも称する)を備える変速機において、ケースに収容されたディファレンシャルのリ
ングギヤにより潤滑油を掻き上げる構成となっている。これにより、リングギヤは、潤滑
油貯留領域から潤滑油を掻き上げ、供給レシーバが潤滑油を捕集可能な位置まで掻き上げ
ることができる。ここで、「常開型のクラッチ」とは、操作力が加えられていない状態に
おいて、エンジンなどの原動機と入力軸を開放状態とするクラッチである。例えば、車両
が一定速度で走行している場合に、原動機と入力軸が連結状態となるように常開型のクラ
ッチには常に操作力が加えられていることになる。このような常開型のクラッチを備える
変速機の複数のギヤは、ノーマルクローズタイプの変速機と異なり、車両停車時において
クラッチに操作力が加えられないため回転しない。つまり、原動機と入力軸を開放状態と
している場合には、複数のギヤの潤滑箇所に潤滑油を供給する必要がない。
【0014】
そこで、本発明では、車両走行時に常時回転しているディファレンシャルのリングギヤ
により潤滑油を掻き上げている。これにより、潤滑が必要な時にのみ潤滑油を掻き上げる
ことができる。また、変速機におけるリングギヤは、一般に、ケースに収容される複数の
ギヤの中で大径であり、且つ、最下方に位置することが多い。これにより、ケースの底部
に形成される潤滑油貯留領域から潤滑油をより効率的に掻き上げることができる。また、
リングギヤは、変速機におけるファイナルギヤとして構成される。そのため、リングギヤ
に加えられる撹拌抵抗は、駆動源である原動機に対して、シフト位置に応じた減速比を有
する複数のギヤを介して伝達される。よって、リングギヤに加えられる撹拌抵抗により原
動機に作用する動力抵抗を低減させることができる。
【0015】
また、このような構成により効率的に潤滑油を掻き上げ、ケース内における潤滑油の循
環性を向上させることができる。そこで、ケース内に収容する潤滑油の油量を、例えば、
車両走行時においてリングギヤの下部のみが浸漬するように設定してもよい。これにより
、リングギヤ以外のギヤによる潤滑油の撹拌がなくなるため、複数のギヤ全体としての撹
拌抵抗を低減できる。よって、撹拌抵抗による動力損失を低減するとともに、複数のギヤ
の潤滑箇所に十分に潤滑油を供給できる。従って、変速機として、動力の伝達効率を向上
させることができる。
【0016】
請求項2に係る発明によると、潤滑油保持部は、ケース内に回転可能に支持されたリン
グギヤの周縁部を囲むように形成され、潤滑油保持部の下側の端部の少なくとも一部は、
潤滑油貯留領域に貯留する潤滑油に浸漬している。よって、潤滑油保持部は、リングギヤ
の上部のうち供給レシーバに潤滑油を飛散する位置まで、より多くの潤滑油を掻き上げる
ことができる。さらに、潤滑油貯留領域に貯留する潤滑油を潤滑油保持部によって区画す
ることにより、リングギヤの周縁近傍に適量の潤滑油を貯留させることができる。
【0017】
そして、リングギヤと潤滑油保持部との間には、リングギヤの回転により潤滑油貯留領
域から掻き上げられた潤滑油を保持する間隔が設けられている。さらに、潤滑油保持部は
、潤滑油貯留領域の外部において保持された潤滑油を供給レシーバに向かってリングギヤ
が飛散可能とさせている。例えば、潤滑油保持部の一端は、リングギヤから供給レシーバ
に飛散する潤滑油を遮らないように、且つ、潤滑油を飛散するリングギヤの周縁部付近ま
で囲むように形成されるものである。
【0018】
このような構成とすることで、リングギヤは潤滑油貯留領域の潤滑油を効率よく掻き上
げることができる。これにより、供給レシーバは、リングギヤがより多くの潤滑油を飛散
することにより潤滑油を捕集し、潤滑箇所に効率的に潤滑油を供給できる。よって、変速
機の潤滑性を向上させることができる。また、潤滑油貯留領域において、リングギヤによ
って撹拌される潤滑油は、主としてリングギヤと潤滑油保持部との間に存在する潤滑油と
なる。つまり、リングギヤにより撹拌される潤滑油の油量を従来と比較して少なくできる
。これにより、リングギヤによる撹拌抵抗を低減することができる。よって、変速機の動
力損失を低減することができる。さらに、ケース内において潤滑油を効率的に循環させる
ことができるので、ケース内に収容する潤滑油の油量を低減することができる。
【0019】
請求項3に係る発明によると、潤滑油を掻き上げるリングギヤの形状に適応した潤滑油
保持部を簡易に設定することができる。ここで、変速機のケースは、リングギヤを収容す
る部位において締結される第一ケース部と第二ケース部とから構成されることがある。そ
こで、潤滑油保持部を第一ケース部と第二ケース部とに夫々固定する二つの側片で構成さ
れるものとする。この二つの側片は、第一ケース部に第二ケース部が締結されると、リン
グギヤの周縁部および両側面を囲み、潤滑油保持部を構成する。例えば、変速機は、実用
上ギヤ比の変更などにより、同一のケースにおいて多種のギヤを交換して収容することが
ある。このような場合において、上述したような構成とすることで、リングギヤを含む交
換された多種のギヤに適応することができる。また、ケースに収容する潤滑油の油量や種
類に適応して、潤滑油保持部の形状を設定することができる。
【0020】
請求項4に係る発明によると、変速機は、潤滑油をリングギヤの近傍へ戻す返戻レシー
バをさらに備える構成となっている。供給レシーバを備える変速機は、リングギヤの上方
へ掻き上げられた潤滑油を複数のギヤの潤滑箇所にそれぞれ供給している。ここで、ケー
ス内に収容された潤滑油を潤滑箇所により確実に供給するためには、ケース内において潤
滑油を効率的に循環させることが好適である。しかし、潤滑箇所に供給された潤滑油は、
例えば、ギヤの噛み合い面を通過した後、そのギヤの回転によりケース内で飛散すること
がある。このような場合に、飛散した潤滑油は、潤滑油貯留領域のうちリングギヤの近傍
に位置する領域に戻るまでにケースの内壁面または底部を伝って流れることになり、掻き
上げ可能となるリングギヤの下方に到達するまでに時間を要する。
【0021】
そこで、変速機がさらに備える返戻レシーバにより、飛散した潤滑油を捕集するととも
に、リングギヤの近傍に戻している。これにより、ギヤの噛み合い面を通過した後の潤滑
油は、速やかにリングギヤの下方に到達し、リングギヤにより再び掻き上げられることに
なる。つまり、返戻レシーバは、ケース内における潤滑油の循環を促進し、効率的な循環
を可能としている。
【0022】
請求項5に係る発明によると、返戻レシーバの底壁部は、ケースの内壁面から突出する
ように一体的に形成される構成となっている。上述したように、潤滑箇所に供給された後
の潤滑油は、ギヤの回転によりケース内で飛散しケースの内壁面を伝って流れることがあ
る。そこで、返戻レシーバは、捕集した潤滑油をケースの内壁面に沿ってリングギヤの近
傍に戻すように形成されるものとする。これにより、返戻レシーバは、ケースの内壁面を
伝ってケースの底部へ流れる潤滑油をさらに捕集することができる。この返戻レシーバは
、その底壁部をケースの内壁面から突出するように形成されていればよいので、例えば、
断面L字状またはコの字状からなるものとしてもよい。このような構成により、複数のギ
ヤとケースの内壁面との間のスペースを有効に利用し、潤滑油を速やかにリングギヤの近
傍に戻すことができる。よって、返戻レシーバは、ケース内において潤滑油をより効率的
に循環させることができる。
【0023】
請求項6に係る発明によると、返戻レシーバは、その底面がケースの上方へ飛散する潤
滑油を衝突させケースの下方に落下させるように配置される。上述したように、潤滑箇所
に供給された後の潤滑油は、そのギヤの回転によりケース内で飛散することがある。ここ
で、返戻レシーバよりも下方に位置するギヤの下部から潤滑油が飛散することがある。ま
た、潤滑油を速やかにリングギヤの近傍に戻すためには、戻るまでの潤滑油の経路を短く
することが好適である。例えば、ギヤの下部から飛散する潤滑油については、ケースの上
方へ飛散し返戻レシーバにより捕集するよりも、返戻レシーバよりも上方に飛散すること
を防止することで上記経路を短くすることができる。そこで、ギヤの下部から飛散する潤
滑油を返戻レシーバの底面に衝突させることで、潤滑油がケースの上方へ飛散する経路を
除外することができる。このような位置に返戻レシーバを配置することにより、ケース内
において潤滑油をより効率的に循環させることができる。
【0024】
請求項7に係る発明によると、変速機は、デュアルクラッチ式自動変速機である構成と
なっている。デュアルクラッチ式自動変速機は、第一入力軸および第二入力軸に対して、
二つのクラッチにより原動機との連結をそれぞれ切り換えることによって、高速のシフト
変更を可能にする機構である。つまり、デュアルクラッチ式自動変速機は、常開型のクラ
ッチを備える変速機である。そして、この変速機は車両走行時において、一方の入出力軸
が原動機とクラッチにより連結されている場合、他方の入出力軸は回転駆動しないことが
ある。このようなデュアルクラッチ式自動変速機において、第一出力軸および第二出力軸
に常時回転連結されているリングギヤにより潤滑油を掻き上げる構成とする。これにより
、車両走行時に常に潤滑油が掻き上げられることとなり変速機の潤滑性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】第一実施形態:変速機1の軸方向から見た一部のギヤを示す構成図である。
【図2】図1におけるA方向から見た断面模式図であって、ケース10のミッションケース11およびクラッチハウジング12を断面とし、ケース10に収容される摺動部や潤滑油を模式的に示す図である。
【図3】図1におけるB方向から見た断面模式図である。
【図4】変速機1の全体構造を示すスケルトン図である。
【図5】図1におけるC−C断面の拡大図である。
【図6】第二実施形態:変速機101の軸方向から見た一部のギヤを示す構成図である。
【図7】図6におけるD方向から見た断面模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の変速機を具体化した実施形態について、図1〜図7を参照しつつ説明す
る。また、図2,図3,図6は、ケース10のミッションケース11およびクラッチハウ
ジング12を断面とし、ケース10に収容される摺動部や潤滑油を模式的に示す図である

<第一実施形態>
(変速機1の構成)
本実施形態の変速機1は、図1〜図5に示すように、デュアルクラッチ式自動変速機で
あり、ケース10内に、第1入力軸21、第2入力軸22、第1出力軸31、第2出力軸
32、デュアルクラッチ40、各変速段の駆動ギヤ51〜57(本発明の「駆動側のギヤ
」に相当する)、最終減速駆動ギヤ58,68、各変速段の従動ギヤ61〜67、後進ギ
ヤ70、リングギヤ80、および、潤滑機構90を備えている。最終減速駆動ギヤ58,
68、従動ギヤ61〜67および後進ギヤ70は、本発明の「従動側のギヤ」に相当する

【0027】
ケース10は、図2,図3に示すように、ミッションケース11(本発明の「第一ケー
ス部」に相当する)とクラッチハウジング12(本発明の「第二ケース部」に相当する)
を有する。ミッションケース11は、複数の軸受けにより各軸を支承するとともに、上記
の複数のギヤおよびスリーブなどの摺動部を含む潤滑箇所を潤滑するための潤滑油を収容
している。クラッチハウジング12は、ミッションケース11の端面と対向する端面を有
し、ボルト締結により固定される。このクラッチハウジング12は、複数の軸受けにより
各軸を支承するとともに、内部にデュアルクラッチ40を収容している。
【0028】
第1入力軸21は、中空軸状に形成されて、軸受によりミッションケース11に対して
回転可能に支承されている。また、第1入力軸21の外周面には、軸受けを支持する部位
と複数の外歯スプラインが形成されている。そして、第1入力軸21には、1速駆動ギヤ
51および大径の3速駆動ギヤ53が直接形成されている。5速駆動ギヤ55および7速
駆動ギヤ57は、第1入力軸21の外周面に形成された外歯スプラインにスプライン嵌合
により圧入されている。また、第1入力軸21は、デュアルクラッチ40の第1クラッチ
41に連結される連結部が形成されている。
【0029】
第2入力軸22は、中空軸状に形成されており、第1入力軸21の一部の外周に複数の
軸受を介して回転可能に支承され、且つ、軸受によりクラッチハウジング12に対して回
転可能に支承されている。つまり、第2入力軸22は、第1入力軸21に対して同心に相
対回転可能に配置されている。また、第2入力軸22の外周面には、第1入力軸21と同
様に、軸受けを支持する部位と複数の外歯歯車が形成されている。第2入力軸22には、
2速駆動ギヤ52および大径の4速駆動ギヤ54および6速駆動ギヤ56が形成されてい
る。また、第2入力軸22は、デュアルクラッチ40の第2クラッチ42に連結される連
結部が形成されている。
【0030】
第1出力軸31は、軸受によりミッションケース11およびクラッチハウジング12に
対して回転可能に支承され、ミッションケース11内において第1入力軸21に平行に配
置されている。また、第1出力軸31の外周面には、最終減速駆動ギヤ58が形成される
とともに、軸受けを支持する部位と複数の外歯スプラインが形成されている。第1出力軸
31の外歯スプラインには、ギヤシフトクラッチ101,103の各ハブ201がスプラ
イン嵌合により圧入される。最終減速駆動ギヤ58は、ディファレンシャル(差動機構)
のリングギヤ80に噛合している。さらに、第1出力軸31は、1速従動ギヤ61、3速
従動ギヤ63、4速従動ギヤ64、後進ギヤ70を遊転可能に支持する支持部が形成され
ている。
【0031】
第2出力軸32は、軸受によりミッションケース11およびクラッチハウジング12に
対して回転可能に支承され、ミッションケース11内において第1入力軸21に平行に配
置されている。また、第2出力軸32の外周面には、第1出力軸31と同様に、最終減速
駆動ギヤ68が形成されるとともに、軸受けを支持する部位と複数の外歯スプラインが形
成されている。第2出力軸32の外歯スプラインには、ギヤシフトクラッチ102,10
4の各ハブ201がスプライン嵌合により圧入されている。最終減速駆動ギヤ68は、デ
ィファレンシャルのリングギヤ80に噛合している。さらに、第2出力軸32は、2速従
動ギヤ62、5速従動ギヤ65、6速従動ギヤ66、7速従動ギヤ67、を遊転可能に支
持する支持部が形成されている。
【0032】
ここで、デュアルクラッチ40は、図4に示すように、内燃機関E/G(本発明の「原
動機」に相当する)の回転駆動力を第1入力軸21に伝達する第1クラッチ41と、内燃
機関E/Gの駆動力を第2入力軸22に伝達する第2クラッチ42とを有する。このデュ
アルクラッチ40は、図2の右側においてクラッチハウジング12に収容され、第1入力
軸21および第2入力軸22に対して同心に設けられている。第1クラッチ41は、第1
入力軸21の連結軸部に連結され、第2クラッチ42は、第2入力軸22の連結軸部に連
結されている。そして、第1,第2入力軸21,22に対して、車両の制御装置から入力
される制御指令に基づき第1,第2クラッチ41,42により内燃機関E/Gとの連結を
切り換えることにより、高速のシフト変更を可能としている。
【0033】
また、このデュアルクラッチ40は、制御指令に基づき操作力が加えられている場合に
、内燃機関E/Gに対して、第1入力軸21または第2入力軸22の何れか一方を連結状
態とする。そして、デュアルクラッチ40は、制御指令に基づき操作力が加えられていな
い場合に、内燃機関E/Gに対して、第1入力軸21および第2入力軸22の両方を開放
状態とする。この時、各ギヤシフトクラッチ101〜104は中立位置にあり、リングギ
ヤ80を含む何れのギヤも回転しない。このように、デュアルクラッチ40は、車両停車
時など変速機1の不作動状態において、操作力を加えられず各クラッチ41,42を開放
状態とする常開型のクラッチである。
【0034】
後進ギヤ70は、第1出力軸31に形成された後進ギヤの支持部に遊転可能に設けられ
ている。また、本実施形態において、後進ギヤ70は、2速従動ギヤ62に一体的に形成
された小径ギヤ62aに常に噛合している。
【0035】
各ギヤシフトクラッチ101〜104は、それぞれ、ハブ201と、スリーブ202と
を備える。ハブ201は、内歯スプラインおよび外歯スプラインが形成された中空円盤状
をなし、第1出力軸31または第2出力軸32の外歯スプラインにスプライン嵌合により
圧入されている。スリーブ202は、ハブ201に対して軸方向にスライド可能となるよ
うにハブ201の外歯スプラインに噛合し、スライドした際に変速段の従動ギヤ61〜6
7または後進ギヤ70のシンクロギヤ部に噛合可能となる。つまり、スリーブ202は、
軸方向にスライドすることにより、変速段の従動ギヤ61〜67または後進ギヤ70に設
けられた図示しないシンクロギヤとの噛合状態と非噛合状態とを切り替えることにより、
従動ギヤ61〜67または後進ギヤ70と第1出力軸31、第2出力軸32とを選択的に
連結する役割を有する。
【0036】
リングギヤ80は、図1に示すように、最終減速駆動ギヤ58および最終減速駆動ギヤ
68に噛合することで、第1出力軸31および第2出力軸32に常時回転連結している。
また、リングギヤ80は、最終減速駆動ギヤ58、68より大径で、且つ、歯数が多い。
このリングギヤ80は、ケース10に軸支される軸体としての回転軸80aおよび差動機
構(図示せず)を介して駆動輪に連結されている。つまり、ディファレンシャルのリング
ギヤ80は、変速機におけるファイナルギヤとして構成され、車両走行時に常に回転する
ギヤである。また、リングギヤ80は、他のギヤよりも下方に位置している。そして、リ
ングギヤ80の少なくとも一部は、ミッションケース11の底部に貯留する潤滑油に浸漬
し、潤滑油の掻き上げが可能となっている。
【0037】
潤滑機構90は、潤滑油貯留領域91と、供給レシーバ92と、セパレータ93(本発
明の「潤滑油保持部」に相当する)と、返戻レシーバ94を有している。潤滑油貯留領域
91は、図1〜図3に示すように、ミッションケース11の底部において潤滑油を貯留す
る領域である。また、潤滑油貯留領域91は、一部をセパレータ93によりの下部により
区画されている。この潤滑油貯留領域91は、貯留した潤滑油をリングギヤ80の回転に
よりリングギヤ80の上方へ掻き上げ可能としている。リングギヤ80により掻き上げら
れた潤滑油は、リングギヤ80の上部において飛散し、供給レシーバ92により捕集され
る。また、本実施形態では、ミッションケース11に収容される潤滑油は、潤滑油貯留領
域91の油面が低くなる車両走行時において、リングギヤ80の下部のみが浸漬するよう
に、その油量を設定されている。
【0038】
供給レシーバ92は、ケース10の上部にボルト締結により固定され、ミッションケー
ス11と別体の部材である。この供給レシーバ92は、図2に示すように、リングギヤ8
0の軸直交方向に位置する供給レシーバ92の一端に、潤滑油を受け取る捕集部92aが
形成されている。さらに、供給レシーバ92は、捕集した潤滑油を変速機1の潤滑箇所へ
流動させるように、変速機1の軸方向に延びる樋形状の流路92bが形成されている。こ
の流路92bには、各ギヤの歯面、各ギヤシフトクラッチ101〜104などの摺動部を
含む潤滑箇所に適量の潤滑油を流下または滴下するように、その潤滑箇所の上方において
複数の流下口(図示しない)が設けられている。
【0039】
また、供給レシーバ92は、供給レシーバ92の他端に供給口92cが形成されている
。ここで、第1出力軸31や第2出力軸32などの各軸には内部に潤滑油を流動させる貫
通孔が形成されている。そして、ミッションケース11は、ミッションケース11の端部
に一体的に形成されたカバーに、各軸の貫通孔に潤滑油を流入させる油路である流入溝1
1aが設けられている。そして、供給レシーバ92の供給口92cは、流入溝11aに連
通する横穴に挿入されている。供給レシーバ92は、供給口92cから流入溝11aの横
穴に潤滑油を流動させることにより、流入溝11aを介して、第1出力軸31および第2
出力軸32の貫通孔に潤滑油を供給している。
【0040】
セパレータ93は、図1に示すように、変速機1の軸方向から見た場合に弓状であり、
リングギヤ80の周縁部のうち潤滑油貯留領域91から潤滑油貯留領域91の外部に亘っ
てリングギヤ80の周縁部を囲むように形成されている。このセパレータ93は、リング
ギヤ80の周縁部の軸方向断面の形状に倣うようにコの字型形状に形成されている。具体
的には、セパレータ93は、リングギヤ80の周縁部のうちリングギヤ80の周面および
両側面を囲む形状に形成されている。つまり、リングギヤ80の周縁部とセパレータ93
との間隔が所定距離に維持可能に構成されている。セパレータ93の上側の端部は、リン
グギヤ80から供給レシーバ92に飛散する潤滑油を遮らないように、且つ、潤滑油を飛
散するリングギヤ80の周縁部付近まで囲むように形成されている。
【0041】
また、このセパレータ93は、本実施形態において、左右で分離可能な断面L字状の二
つの側片93L,93Rの底部が重合して断面コの字型形状に構成されている。図2に示
すように、セパレータ93の左側片93Lおよび右側片93Rは、側部に4個の凹部93
aがそれぞれ設けられている。また、図5に示すように、左側片93Lは、4個の凹部9
3aをミッションケース11に形成された4箇所の取付穴11bにそれぞれ入れられた状
態でボルト13により締結されている。同様に、セパレータ93の右側片93Rは、4個
の凹部93aがクラッチハウジング12に形成された4箇所の取付穴12bにそれぞれ入
れられた状態でボルト13によって締結されている。
【0042】
そして、セパレータ93は、ミッションケース11にクラッチハウジング12が当接さ
れてボルト締結により固定されると、二つの側片93L,93Rがリングギヤ80の両側
面を左右から挟み込み、外周面と対向するように組み付けられる。これにより、セパレー
タ93をリングギヤ80の周縁部の周面および両側面を囲むようにケース10に容易に固
定することができる。そして、セパレータ93の二つの側片93L,93Rは、その凹部
93aが取付穴11b,12bに入れられた状態でボルト13によって締結されるので、
セパレータ93の内面は平坦となり、リングギヤ80によって掻き上げられる潤滑油を円
滑に流すことができる。
【0043】
また、セパレータ93の下側の端部は、潤滑油貯留領域91に設けられている。つまり
、セパレータ93の下部は、上述したように、ミッションケース11内に貯留する潤滑油
と、リングギヤ80の周縁近傍に貯留する潤滑油とを区画している。これにより、回転す
るリングギヤ80により撹拌される潤滑油の油量を設定している。
【0044】
返戻レシーバ94は、ミッションケース11の中段部から下段部に配置され、ボルト締
結により固定されるミッションケース11と別体の部材である。この返戻レシーバ94は
、図1に示すように、断面コの字状に形成された樋形状に形成され、コの字状の一方側の
縦壁がミッションケース11の内壁面に当接した状態で固定される。つまり、返戻レシー
バ94は、その底壁部がミッションケース11の内壁面から突出するように一体的に固定
されている。
【0045】
さらに、返戻レシーバ94は、図3に示すように、1速従動ギヤ61の軸直交方向に位
置する返戻レシーバ94の一端に、潤滑油を受け取る捕集部94aが形成されている。こ
の捕集部94aは、1速駆動ギヤ51および1速従動ギヤ61の歯面に供給され、ギヤが
噛み合った後に各ギヤの歯面から飛散する潤滑油を捕集している。ここで、第1出力軸3
1や第2出力軸などの各軸に設けられた貫通孔に供給された潤滑油は、各軸の内部を流動
した後、ギヤシフトクラッチ101〜104などに供給される。そして、供給された潤滑
油は、ギヤシフトクラッチ101〜104を潤滑した後、ギヤシフトクラッチ101〜1
04の周縁部から飛散することになる。そこで、返戻レシーバ94の捕集部94aは、ギ
ヤシフトクラッチ101〜104のうち1速駆動ギヤ51および1速従動ギヤ61に隣接
配置されたギヤシフトクラッチ101,104の周縁から飛散する潤滑油を捕集している

【0046】
また、返戻レシーバ94は、捕集した潤滑油をリングギヤ80の近傍に流動させるよう
に、変速機1の軸方向に延びる流路94bが形成されている。この流路94bは、捕集し
た潤滑油をミッションケース11の内壁面に沿って流動するように、コの字状の一方側の
縦壁がミッションケース11の内壁面に当接した状態で固定されている。これにより、流
路94bは、ミッションケース11の内壁面を伝ってミッションケース11の底部へ流れ
る潤滑油をさらに捕集することができる構成となっている。また、返戻レシーバ94は、
返戻レシーバ94の他端に返戻口94cが形成されている。この返戻口94cは、流路9
4bを流動する潤滑油を、潤滑油貯留領域91のうちリングギヤ80の近傍に位置する領
域へ戻している。
【0047】
ここで、返戻レシーバ94の捕集部94aと返戻口94cは、変速機1の中段部から下
段部にそれぞれ離間して配置されている。これにより、それぞれを連結する返戻レシーバ
94の流路94bは、捕集した潤滑油をミッションケース11の底部よりも傾斜角度が大
きくなっている。つまり、返戻レシーバ94は、各ギヤの歯面またはギヤシフトクラッチ
101,104から飛散する潤滑油やミッションケース11の内壁面を伝って流れ落ちる
潤滑油を捕集し、リングギヤ80の近傍へ潤滑油を流動させて戻している。また、返戻レ
シーバ94は、その底壁部の下側面である底面が各ギヤの回転によりミッションケース1
1の上方へ飛散する潤滑油を衝突させミッションケース11の下方に落下させるように配
置されている。
【0048】
また、返戻レシーバ94は、コの字状の他方側の縦壁が各ギヤの歯面に近接するように
、ミッションケース11の内壁面から突出する底壁部の幅が適宜設定されている。これに
より、返戻レシーバ94の底面は、各ギヤの回転によりミッションケース11の上方へ飛
散する潤滑油を衝突させ、潤滑油が返戻レシーバ94よりも上方に飛散することを防止す
る。このように、返戻レシーバ94は、その底面に衝突した潤滑油をミッションケース1
1の下方に落下させ底部の潤滑油貯留領域91に戻す構成となっている。
【0049】
(変速機1の作用)
次に、本実施形態の変速機1の作用について説明する。車両の制御装置は、アクセル開
度、エンジン回転速度、車速などの車両の作動状態に応じて、変速機1に対して制御指令
を出力する。デュアルクラッチ40は、変速機1から制御指令に基づき操作力を加えられ
、デュアルクラッチ40の第1クラッチ41および第2クラッチ並びに各ギヤシフトクラ
ッチ101〜104を作動させる。また、上述したように変速機1は、車両の停車時など
の不作動状態の場合には、デュアルクラッチ40の第1クラッチおよび第2クラッチ42
はともに開放状態とし、各ギヤシフトクラッチ101〜104は中立位置にある。つまり
、デュアルクラッチ40に対して操作力は加えられず、リングギヤ80を含む何れのギヤ
に対して回転駆動力は伝達されていない。このような状態では、変速機1の潤滑箇所へ潤
滑油の供給は不要である。
【0050】
次に、車両の制御装置は、車両の停車時において内燃機関E/Gが始動し、変速装置の
シフトレバーが前進位置に切り換わると、ギヤシフトクラッチ101が有するスリーブ2
02をスライドさせ、スリーブ202と1速従動ギヤ61のシンクロギヤ部とを噛合する
。この時、変速機1は、その他の各ギヤシフトクラッチが中立位置となるようにして第1
速段を形成する。そして、アクセル開度が増大して内燃機関E/Gが所定の低回転速度を
越えると、制御装置はアクセル開度に合わせてデュアルクラッチ40の第1クラッチ41
の係合力を徐々に増加させる。
【0051】
これにより、駆動トルク(回転駆動力)は第1クラッチ41から第1入力軸21、1速
駆動ギヤ51、1速従動ギヤ61、ギヤシフトクラッチ101、第1出力軸31、最終減
速駆動ギヤ58を介してディファレンシャルのリングギヤ80に伝達され、車両は第1速
段で走行し始める。このように、第1クラッチ41の係合力を増加させるために、デュア
ルクラッチ40に対して操作力が加えられ、内燃機関E/Gと第1入力軸21とが連結状
態となる。このような状態では、上述した駆動トルクの伝達経路に係る変速機1の潤滑箇
所へ潤滑油を供給する必要がある。
【0052】
車両の制御装置は、アクセル開度が増大するなどして車両の作動状態が第2速段の走行
に適した状態となると、先ずギヤシフトクラッチ102が有するスリーブ202をスライ
ドさせ、スリーブ202と2速従動ギヤ62のシンクロギヤ部とを噛合する。このように
変速機1は、第2速段を形成してから、デュアルクラッチ40を第1クラッチ41から第
2クラッチ42に切り換えて第2速段の走行に切り換える。次いで、ギヤシフトクラッチ
101のスリーブ202を離脱させる。
【0053】
これにより、駆動トルクは第2クラッチ42から第2入力軸22、2速駆動ギヤ52、
2速従動ギヤ62、ギヤシフトクラッチ102、第2出力軸32、最終減速駆動ギヤ68
を介してディファレンシャルのリングギヤ80に伝達され、車両は第2速段で走行する。
このように、第2クラッチ42の係合力を増加させるために、デュアルクラッチ40に対
して操作力が加えられ、内燃機関E/Gと第2入力軸22とが連結状態となる。このよう
な状態では、上述した駆動トルクの伝達経路に係る変速機1の潤滑箇所へ潤滑油を供給す
る必要がある。
【0054】
なお、第2速段に切り換えられると、ギヤシフトクラッチ101が中立状態となるとと
もに、第1クラッチ41が開放状態となり第1入力軸21の回転数が徐々に低下する。こ
れに対して、1速従動ギヤ61を支持する第1出力軸31は、リングギヤ80に常時回転
連結される最終減速駆動ギヤ58の回転に伴い常時回転されている。これによって1速従
動ギヤ61の支持部は回転され、該支持部に支持される1速従動ギヤ61は支持部との摩
擦力によって連れ回りすることになる。車両の制御装置は、第3速段〜第7速段への変速
において、同様にして、車両の作動状態に応じた変速段を順次選択するとともに第1クラ
ッチ41と第2クラッチ42を交互に選択して、その状態に適した変速段での走行が行わ
れるようにする。
【0055】
そして第1入力軸21が第1クラッチ41に接続されて変速段が形成される第3速段、
第5速段、第7速段においては、1速従動ギヤ61は第1入力軸21に形成された1速駆
動ギヤ51と回転連結されているため、常時回転される。また第2入力軸22が第2クラ
ッチ42に接続されて変速段が形成される第4速段、第6速段においては、1速従動ギヤ
61は、2速段時と同様に常時回転される最終減速駆動ギヤ58の回転に伴い回転する第
1出力軸31に設けられた支持部によって連れ回りされる。これらによって1速従動ギヤ
61及びリングギヤ80は車両走行中に常時回転している。
【0056】
また、車両の制御装置は、車両の停車時において内燃機関E/Gを始動し、変速装置の
シフトレバーが後進位置に切り替わると、ギヤシフトクラッチ103が有するスリーブ2
02をスライドさせ、スリーブ202と後進ギヤ70のシンクロギヤ部とを噛合する。こ
の時、変速機1は、その他の各ギヤシフトクラッチが中立位置となるようにして後進段を
形成する。また、後進ギヤ70は、従動ギヤ62と一体的に形成された小径ギヤ62aと
常時噛合されている。
【0057】
これにより、駆動トルクは第2クラッチ42から第2入力軸22、2速駆動ギヤ52、
2速従動ギヤ62、小径ギヤ62a、後進ギヤ70、ギヤシフトクラッチ103、第1出
力軸31、最終減速駆動ギヤ58を介してディファレンシャルのリングギヤ80に伝達さ
れ、車両は後進を開始する。このように、第2クラッチ42の係合力を増加させるために
、デュアルクラッチ40に対して操作力が加えられ、内燃機関E/Gと第2入力軸22と
が連結状態となる。このような状態では、上述した駆動トルクの伝達経路に係る変速機1
の潤滑箇所へ潤滑油を供給する必要がある。
【0058】
(変速機1による効果)
以上説明したように構成される変速機1によれば、以下の効果を奏する。
変速機1の潤滑機構90は、車両走行時に常時回転しているディファレンシャルのリン
グギヤ80により潤滑油を掻き上げている。これにより、潤滑が必要な時にのみ潤滑油を
掻き上げることができる。また、変速機1におけるリングギヤ80は、一般に、ミッショ
ンケース11に収容される複数のギヤの中で大径であり、且つ、最下方に位置することが
多い。これにより、ミッションケース11の底部に形成される潤滑油貯留領域91から潤
滑油をより効率的に掻き上げることができる。
【0059】
また、リングギヤ80は、変速機1におけるファイナルギヤとして構成される。そのた
め、リングギヤ80に加えられる撹拌抵抗は、駆動源である原動機に対して、シフト位置
に応じた減速比を有する複数のギヤを介して伝達される。よって、リングギヤ80に加え
られる撹拌抵抗により原動機に作用する動力抵抗を低減させることができる。
【0060】
また、このような構成により効率的に潤滑油を掻き上げ、ミッションケース11内にお
ける潤滑油の循環性を向上させることができる。そして、ミッションケース11内に収容
する潤滑油の油量は、車両走行時においてリングギヤ80の下部のみが浸漬するように設
定されている。これにより、リングギヤ80以外の各ギヤによる潤滑油の撹拌がなくなる
ため、変速機1全体としての撹拌抵抗を低減できる。よって、撹拌抵抗による動力損失を
低減するとともに、各ギヤの潤滑箇所に十分に潤滑油を供給できる。従って、変速機1と
して、動力の伝達効率を向上させることができる。
【0061】
セパレータ93は、ミッションケース11内に回転可能に支持されたリングギヤ80の
周縁部を囲むように形成され、セパレータ93の下側の端部の少なくとも一部は、潤滑油
貯留領域91に貯留する潤滑油に浸漬している。よって、セパレータ93は、リングギヤ
80の上部のうち供給レシーバ92に潤滑油を飛散する位置まで、より多くの潤滑油を掻
き上げることができる。さらに、潤滑油貯留領域91に貯留する潤滑油をセパレータ93
によって区画することにより、リングギヤ80の周縁近傍に適量の潤滑油を貯留させるこ
とができる。
【0062】
そして、リングギヤ80とセパレータ93との間には、リングギヤ80の回転により潤
滑油貯留領域91から掻き上げられた潤滑油を保持する間隔が設けられている。さらに、
セパレータ93は、潤滑油貯留領域91の外部において保持された潤滑油を供給レシーバ
92に向かってリングギヤ80が飛散可能とさせている。例えば、セパレータ93の一端
は、リングギヤ80から供給レシーバ92に飛散する潤滑油を遮らないように、且つ、潤
滑油を飛散するリングギヤ80の周縁部付近まで囲むように形成されるものである。
【0063】
このような構成とすることで、リングギヤ80は潤滑油貯留領域91の潤滑油を効率よ
く掻き上げることができる。これにより、供給レシーバ92は、リングギヤ80がより多
くの潤滑油を飛散することにより潤滑油を捕集し、潤滑箇所に効率的に潤滑油を供給でき
る。よって、変速機1の潤滑性を向上させることができる。また、潤滑油貯留領域91に
おいて、リングギヤ80によって撹拌される潤滑油は、主としてリングギヤ80とセパレ
ータ93との間に存在する潤滑油となる。つまり、リングギヤ80により撹拌される潤滑
油の油量を従来と比較して少なくできる。これにより、リングギヤ80による撹拌抵抗を
低減することができる。よって、変速機1の動力損失を低減することができる。さらに、
ミッションケース11内において潤滑油を効率的に循環させることができるので、ミッシ
ョンケース11内に収容する潤滑油の油量を低減することができる。
【0064】
ここで、変速機1のケース10は、リングギヤ80を収容する部位において締結される
ミッションケース11とクラッチハウジング12とから構成される。そして、セパレータ
93は、ミッションケース11とクラッチハウジング12とに夫々固定する二つの側片9
3L,93Rで構成されるものとする。この二つの側片93L,93Rは、ミッションケ
ース11にクラッチハウジング12が締結されると、リングギヤ80の周縁部および両側
面を囲み、セパレータ93を構成する。例えば、変速機1は、実用上ギヤ比の変更などに
より、同一のミッションケース11において多種のギヤを交換して収容することがある。
このような場合において、上述したような構成とすることで、リングギヤ80を含む交換
された多種のギヤに適応することができる。また、ミッションケース11に収容する潤滑
油の油量や種類に適応して、セパレータ93の形状を設定することができる。
【0065】
また、変速機1は、潤滑油をリングギヤ80の近傍に戻す返戻レシーバ94をさらに備
える構成となっている。供給レシーバ92を備える変速機1は、リングギヤ80の上方へ
掻き上げられた潤滑油を複数の各ギヤの潤滑箇所にそれぞれ供給している。ここで、ミッ
ションケース11内に収容された潤滑油を潤滑箇所により確実に供給するためには、ミッ
ションケース11内において潤滑油を効率的に循環させることが好適である。しかし、潤
滑箇所に供給された潤滑油は、例えば、各ギヤの噛み合い面を通過した後、そのギヤの回
転によりミッションケース11内で飛散することがある。
【0066】
このような場合に、飛散した潤滑油は、潤滑油貯留領域91のうちリングギヤ80の近
傍に位置する領域に戻るまでにミッションケース11の内壁面または底部を伝って流れる
ことになり、掻き上げ可能となるリングギヤ80の下方に到達するまでに時間を要する。
そこで、返戻レシーバ94により、飛散した潤滑油を捕集するとともに、リングギヤ80
の近傍に戻している。これにより、各ギヤの噛み合い面を通過した後の潤滑油は、速やか
にリングギヤ80の下方に到達し、リングギヤ80により再び掻き上げられることになる
。つまり、返戻レシーバ94は、ミッションケース11内における潤滑油の循環を促進し
、効率的な循環を可能としている。
【0067】
さらに、返戻レシーバ94の底壁部は、ミッションケース11の内壁面から突出するよ
うに一体的に形成される構成となっている。上述したように、潤滑箇所に供給された後の
潤滑油は、ギヤの回転によりミッションケース11内で飛散しミッションケース11の内
壁面を伝って流れることがある。そこで、返戻レシーバ94は、捕集した潤滑油をミッシ
ョンケース11の内壁面に沿ってリングギヤ80の近傍に戻すように形成されるものとし
ている。これにより、返戻レシーバ94は、ミッションケース11の内壁面を伝ってミッ
ションケース11の底部へ流れる潤滑油をさらに捕集することができる。
【0068】
この返戻レシーバ94は、その底壁部をミッションケース11の内壁面から突出するよ
うに形成されていればよいので、例えば、断面L字状またはコの字状からなるものとして
もよい。このような構成により、複数のギヤとミッションケース11の内壁面との間のス
ペースを有効に利用し、潤滑油を速やかにリングギヤ80の近傍に戻すことができる。よ
って、返戻レシーバ94は、ミッションケース11内において潤滑油をより効率的に循環
させることができる。
【0069】
そして、返戻レシーバ94は、その底面がミッションケース11の上方へ飛散する潤滑
油を衝突させミッションケース11の下方に落下させるように配置される。上述したよう
に、潤滑箇所に供給された後の潤滑油は、そのギヤの回転によりミッションケース11内
で飛散することがある。ここで、返戻レシーバ94よりも下方に位置するギヤの下部から
潤滑油が飛散することがある。また、潤滑油を速やかにリングギヤ80の近傍に戻すため
には、戻るまでの潤滑油の経路を短くすることが好適である。
【0070】
例えば、ギヤの下部から飛散する潤滑油については、ミッションケース11の上方へ飛
散し返戻レシーバ94により捕集するよりも、返戻レシーバ94よりも上方に飛散するこ
とを防止することで上記経路を短くすることができる。そこで、ギヤの下部から飛散する
潤滑油を返戻レシーバ94の底面に衝突させることで、潤滑油がミッションケース11の
上方へ飛散する経路を除外することができる。このような位置に返戻レシーバ94を配置
することにより、ミッションケース11内において潤滑油をより効率的に循環させること
ができる。
【0071】
また、変速機1は、第1入出力軸21,31および第2入出力軸22,32に対して、
二つのクラッチ41,42により内燃機関E/Gとの連結をそれぞれ切り換えるノーマル
オープンタイプのデュアルクラッチ40を備える変速機である。そして、潤滑油貯留領域
91の潤滑油を掻き上げる部材として、ディファレンシャルのリングギヤ80とした。リ
ングギヤ80は、車両走行時に常に回転するギヤであり、変速機1の内部において潤滑が
必要となる車両走行時において、潤滑油を常に掻き上げることができる。
【0072】
これにより、レシーバ92に安定して潤滑油を供給できるので、変速機1の内部におい
て潤滑油を効率的に循環させることができる。一方で、変速機1は、車両停車時などの不
作動状態の場合には、デュアルクラッチ40に対して操作力が加えられず、何れのクラッ
チ41,42も解放状態としている。つまり、リングギヤ80の回転も停止する。このよ
うに、潤滑が不要な場合に、リングギヤ80が回転しないため不要な潤滑油の掻き上げが
行われることを防止できる。よって、リングギヤ80による撹拌抵抗を低減し、変速機1
の動力損失を低減することができる。
【0073】
<第二実施形態>
第二実施形態の変速機について、図6,図7を参照して説明する。ここで、第二実施形
態の構成は、主に、第一実施形態の変速機1がデュアルクラッチ式自動変速機であったの
に対し、機械式自動変速機である点が相違する。これに伴い、変速機101におけるギヤ
などの摺動部の構成が相違する。なお、その他の構成については、第一実施形態と同一で
あるため、詳細な説明を省略する。以下、相違点のみについて説明する。
【0074】
(変速機101の構成)
機械式自動変速機である変速機101は、図6,図7に示すように、ケース10内に、
入力軸123、出力軸133、自動クラッチ機構143、各変速段の駆動ギヤ151〜1
56、各変速段の従動ギヤ161〜166、最終減速駆動ギヤ168、後進ギヤ170、
リングギヤ180、および、潤滑機構190を備えている。
【0075】
入力軸123は、軸状に形成され、軸受けによりミッションケース11に対して回転可
能に支持されている。また、入力軸123の外周面には、1速駆動ギヤ151、2速駆動
ギヤ152、及び後進ギヤ170と図略のカウンタギヤを介して噛合される小径のギヤ1
57が直接形成されている。また入力軸123の外周面には、各ギヤを遊転可能に支持す
る支持部と複数の外歯スプラインが形成されている。入力軸123の外歯スプラインには
、ギヤシフトクラッチのハブがスプライン嵌合により圧入され、支持部には3速駆動ギヤ
153〜6速駆動ギヤ156が遊転可能に支持されている。
【0076】
この入力軸123は、図示しない内燃機関E/Gのクランク軸とクラッチを介して連結
され、変速機101に駆動力を入力する。つまり、入力軸123は、第一実施形態の第1
入力軸21及び第2入力軸22に相当する。そして入力軸123の内部には、潤滑箇所で
あるギヤ153〜156の支持部を潤滑するための潤滑油が流動される貫通孔が形成され
ている。
【0077】
出力軸133は、軸受けによりミッションケース11およびクラッチハウジング12に
対して回転可能に支承され、ミッションケース11内において入力軸123と平行に配置
されている。また、出力軸133の外周面には3速従動ギヤ163〜6速従動ギヤ166
および最終減速駆動ギヤ168が直接形成されている。さらに出力軸133の外周面には
、ギヤ161,162,170を遊転可能に支持する支持部と複数の外歯スプラインが形
成されている。
【0078】
そして、出力軸133の外歯スプラインには、ギヤシフトクラッチのハブがスプライン
嵌合により圧入され、支持部には1速従動ギヤ161、および2速従動ギヤ162、後進
ギヤ170が遊転可能に支持されている。1速従動ギヤ161は出力軸133の軸線方向
において内燃機関E/G側と反対側に配置されている。そして、1速従動ギヤ161は入
力軸123に形成された1速駆動ギヤ151と噛合し入力軸123と常時回転連結されて
いる。
【0079】
出力軸133は、出力軸133に支持された何れかの従動ギヤと、入力軸123に支持
された何れかの駆動ギヤとが回転連結され、出力軸133に形成された最終減速駆動ギヤ
168を介してディファレンシャルのリングギヤ180を回転させ変速機101から駆動
力を出力する。出力軸133は、第一実施形態の第1出力軸31および第2出力軸32に
相当する。また出力軸133の内部には、潤滑油が流動される貫通孔が形成されている。
そして第一実施形態と同様にミッションケース11の軸線方向において内燃機関E/G側
と反対側の開口部を閉塞するカバーに形成されている流入溝11aを介して潤滑油を流入
させることにより、入力軸123及び出力軸133の貫通孔に潤滑油が供給される。そし
て入力軸123および出力軸133の貫通孔を介して潤滑箇所としてのギヤ153〜15
6,161,162,170の支持部等が潤滑される。
【0080】
自動クラッチ機構143は、内燃機関E/Gの回転駆動力を入力軸123に伝達するク
ラッチを有する。この自動クラッチ機構143は、図7の左側においてクラッチハウジン
グ12に収容され、入力軸123に対して同心に設けられている。自動クラッチ機構14
3のクラッチは、入力軸123の連結軸部に連結され、車両の制御装置から入力される制
御指令に基づいて、内燃機関E/Gと入力軸123の連結状態を切り換えることにより、
各変速段のシフト変更を可能としている。つまり、自動クラッチ機構143のクラッチは
、第一実施形態の第1クラッチ41および第2クラッチ42に相当する。
【0081】
また、この自動クラッチ機構143は、制御指令に基づき操作力が加えられている場合
に、内燃機関E/Gに対して入力軸123を連結状態とする。そして、自動クラッチ機構
114は、制御指令に基づき操作力が加えられていない場合に、内燃機関E/Gに対して
入力軸123を開放状態とする。この時、各ギヤシフトクラッチは中立位置にあり、リン
グギヤ180を含む何れのギヤも回転しない。このように、自動クラッチ機構143は、
車両停車時など変速機101の不作動状態において、操作力を加えられず自動クラッチ機
構143のクラッチを開放状態とする常開型のクラッチである。
【0082】
リングギヤ180は、最終減速駆動ギヤ168に噛合することで、出力軸133に常時
回転連結されている。また、リングギヤ180は、最終減速駆動ギヤ168より大径で、
且つ、歯数が多い。つまり、ディファレンシャルのリングギヤ180は、出力軸133の
軸線方向において内燃機関E/G側に配置され、変速機101におけるファイナルギヤと
して車両走行時に常に回転するギヤである。また、リングギヤ180は、他のギヤよりも
下方に位置している。そして、リングギヤ180の下部は、ミッションケース11の底部
に貯留する潤滑油に浸漬し、潤滑油の掻き上げが可能となっている。このように、リング
ギヤ180は、潤滑油貯留領域91の潤滑油に浸漬されている。
【0083】
潤滑機構190は、潤滑油貯留領域91と、供給レシーバ92と、セパレータ93と、
返戻レシーバ194を有している。潤滑油貯留領域91、供給レシーバ92、および、セ
パレータ93については第一実施形態と同様であるため詳細な説明を省略する。
【0084】
返戻レシーバ194は、ミッションケース11の中段部から下段部に配置され、ボルト
締結により固定されるミッションケース11と別体の部材である。この返戻レシーバ19
4は、図6に示すように、断面コの字状に形成された樋形状に形成され、コの字状の一方
側の縦壁がミッションケース11の内壁面に当接した状態で固定される。つまり、返戻レ
シーバ194は、その底壁部がミッションケース11の内壁面から突出するように一体的
に固定されている。
【0085】
さらに、返戻レシーバ194は、図7に示すように、6速従動ギヤ166の軸直交方向
に位置する返戻レシーバ194の一端に、潤滑油を受け取る捕集部194aが形成されて
いる。この捕集部194aは、6速駆動ギヤ156および6速従動ギヤ166の歯面に供
給され、ギヤが噛み合った後に各ギヤの歯面から飛散する潤滑油を捕集している。ここで
、入力軸123や出力軸133などの各軸に設けられた貫通孔に供給された潤滑油は、各
軸の内部を流動した後、ギヤシフトクラッチなどに供給される。そして、供給された潤滑
油は、ギヤシフトクラッチを潤滑した後、ギヤシフトクラッチの周縁部から飛散すること
になる。そこで、返戻レシーバ194の捕集部194aは、ギヤシフトクラッチのうち6
速駆動ギヤ151および6速従動ギヤ166に隣接配置されたギヤシフトクラッチの周縁
から飛散する潤滑油を捕集している。
【0086】
また、返戻レシーバ194は、捕集した潤滑油をリングギヤ180の近傍に流動させる
ように、変速機101の軸方向に延びる流路194bが形成されている。この流路194
bは、捕集した潤滑油をミッションケース11の内壁面に沿って流動するように、コの字
状の一方側の縦壁がミッションケース11の内壁面に当接した状態で固定されている。こ
れにより、流路194bは、ミッションケース11の内壁面を伝ってミッションケース1
1の底部へ流れる潤滑油をさらに捕集することができる構成となっている。また、返戻レ
シーバ194は、返戻レシーバ194の他端に返戻口194cが形成されている。この返
戻口194cは、流路194bを流動する潤滑油を、潤滑油貯留領域91のうちリングギ
ヤ180の近傍に位置する領域へ戻している。
【0087】
ここで、返戻レシーバ194の捕集部194aと返戻口194cは、変速機101の中
段部から下段部にそれぞれ離間して配置されている。これにより、それぞれを連結する返
戻レシーバ194の流路194bは、捕集した潤滑油をミッションケース11の底部より
も傾斜角度が大きくなっている。つまり、返戻レシーバ194は、各ギヤの歯面またはギ
ヤシフトクラッチから飛散する潤滑油やミッションケース11の内壁面を伝って流れ落ち
る潤滑油を捕集し、リングギヤ180の近傍へ潤滑油を流動させて戻している。また、返
戻レシーバ194は、その底壁部の下側面である底面が各ギヤの回転によりミッションケ
ース11の上方へ飛散する潤滑油を衝突させミッションケース11の下方に落下させるよ
うに配置されている。
【0088】
また、返戻レシーバ194は、コの字状の他方側の縦壁が各ギヤの歯面に近接するよう
に、ミッションケース11の内壁面から突出する底壁部の幅が適宜設定されている。これ
により、返戻レシーバ194の底面は、各ギヤの回転によりミッションケース11の上方
へ飛散する潤滑油を衝突させ、潤滑油が返戻レシーバ194よりも上方に飛散することを
防止する。このように、返戻レシーバ194は、その底面に衝突した潤滑油をミッション
ケース11の下方に落下させ底部の潤滑油貯留領域91に戻す構成となっている。
【0089】
(変速機101による効果)
以上説明したように、本発明は、常開型のトランスミッションに適用することができる
。このように、自動機械式変速機である変速機101に潤滑機構190を適用した場合、
第一実施形態と同様の効果を奏するものである。また、自動機械式変速機の内部において
潤滑油を掻き上げている部材に対して、本発明の潤滑機構190を設ける構成とする。こ
れにより、リングギヤ180に加えられる撹拌抵抗により内燃機関E/Gに作用する動力
抵抗を低減させることができる。さらに、このような構成により効率的に潤滑油を掻き上
げ、ミッションケース11内における潤滑油の循環性を向上させることができる。従って
、ミッションケース11内に収容する潤滑油の油量は、従来と比較して少なくすることが
可能となる。よって、各ギヤによる潤滑油の撹拌抵抗を低減し、これによる動力損失を低
減することができる。従って、変速機101として、動力の伝達効率を向上させることが
できる。
【0090】
<第一、第二実施形態の変形態様>
第一実施形態において、ミッションケース11に収容される潤滑油は、潤滑油貯留領域
91の油面が低くなる車両走行時において、リングギヤ80の下部のみが浸漬するように
、その油量を設定されるものとした。これに対して、車両走行時において、リングギヤ8
0以外のギヤについても潤滑油貯留領域91に浸漬するように、その油量を調整してもよ
い。例えば、第二実施形態において、ミッションケース11に収容される潤滑油は、車両
走行時において、リングギヤ180の下部に加えて1速従動ギヤ161,2速従動ギヤ1
62の下部が浸漬するように油量を設定している。ミッションケース11に収容する潤滑
油の油量を多くすると、ミッションケース11内における潤滑性を向上させることができ
るが、撹拌抵抗が増大するおそれがある。そのため、本発明を変速機に適用し、ミッショ
ンケース11内における効率的な潤滑油の循環を確保した上、適正な油量を設定すること
が好適である。
【符号の説明】
【0091】
1,101:変速機
10:ケース、 11:ミッションケース(第一ケース部)、 11a:流入溝
12:クラッチハウジング(第二ケース部)、 11b,12b:取付穴
13:ボルト
21:第1入力軸(第一入力軸)、 22:第2入力軸(第二入力軸)
123:入力軸
31:第1出力軸(第一出力軸)、 32:第2出力軸(第二出力軸)
133:出力軸
40:デュアルクラッチ、 41:第1クラッチ、 42:第2クラッチ
143:自動クラッチ機構
51〜57,151〜156:変速段の駆動ギヤ、 58:最終減速駆動ギヤ
61〜67,161〜166:変速段の従動ギヤ、 62a:小径ギヤ
68,168:最終減速駆動ギヤ
70,170:後進ギヤ
80,180:リングギヤ、 80a,180a:回転軸
90,190:潤滑機構、 91:潤滑油貯留領域
92:供給レシーバ、 92a:捕集部、 92b:流路、 92c:供給口
93:セパレータ(潤滑油保持部)、 93a:凹部、 93L,93R:側片
94,194:返戻レシーバ、 94a,194a:捕集部
94b,194b:流路、 94c,194c:返戻口
101〜104:ギヤシフトクラッチ
201:ハブ、 202:スリーブ
E/G:内燃機関(原動機)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケースと、
前記ケース内に回転可能に支持され、ディファレンシャルのリングギヤを含む複数のギ
ヤと、
前記ケース内に形成され、前記ケース内に収容された潤滑油を貯留し、且つ、当該貯留
された前記潤滑油をリングギヤの回転により前記リングギヤの上方へ掻き上げ可能な潤滑
油貯留領域と、
前記リングギヤの回転により上方に掻き上げられた前記潤滑油を複数の前記ギヤの潤滑
箇所へ供給する供給レシーバと、
複数の前記ギヤのうち駆動側のギヤを回転可能に支持する入力軸と、
原動機の回転駆動力を前記入力軸に伝達するクラッチであって、該クラッチに操作力が
加えられている場合に前記原動機と前記入力軸を連結状態とし、該クラッチに操作力が加
えられていない場合に前記原動機と前記入力軸を開放状態とする常開型の前記クラッチと

を備えることを特徴とする変速機。
【請求項2】
請求項1において、
前記リングギヤの周縁部のうち前記潤滑油貯留領域から前記潤滑油貯留領域の外部に亘
って前記リングギヤの周縁部を囲むように形成され、前記潤滑油貯留領域の外部において
前記リングギヤの回転により掻き上げられた前記潤滑油を前記リングギヤとの間で保持し
、且つ、前記潤滑油貯留領域の外部において保持された前記潤滑油を前記供給レシーバに
向かって前記リングギヤが飛散可能とさせる潤滑油保持部をさらに備えることを特徴とす
る変速機。
【請求項3】
請求項2において、
前記潤滑油保持部は、前記ケースを構成する第一ケース部と第二ケース部とに夫々固定
された二つの側片で構成され、前記第一ケース部に前記第二ケース部が締結されると、前
記二つの側片が前記リングギヤの周縁部の周面および両側面を囲むことを特徴とする変速
機。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
複数の前記ギヤの回転により飛散した前記潤滑油を捕集し、当該捕集した前記潤滑油を
前記リングギヤの近傍へ戻す返戻レシーバをさらに備えることを特徴とする変速機。
【請求項5】
請求項4において、
前記返戻レシーバは、捕集した前記潤滑油を前記ケースの内壁面に沿って前記リングギ
ヤの近傍に戻すように、前記返戻レシーバの底壁部が前記ケースの前記内壁面から突出す
るように一体的に形成されていることを特徴とする変速機。
【請求項6】
請求項4または5において、
前記返戻レシーバは、前記返戻レシーバの底面が前記ギヤの回転により前記ケースの上
方へ飛散する前記潤滑油を衝突させ前記ケースの下方に落下させるように配置されている
ことを特徴とする変速機。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項において、
前記入力軸は、複数の前記ギヤのうち駆動側のギヤを回転可能に支持する第一入力軸と
、前記第一入力軸と同心に配置される第二入力軸とを有し、
複数の前記ギヤのうち従動側のギヤを回転可能に支持する第一出力軸および第二出力軸
が前記入力軸と平行に配置され、
前記クラッチは、原動機の回転駆動力を前記第一入力軸に伝達する第一クラッチと前記
回転駆動力を前記第二入力軸に伝達する第二クラッチとを有するデュアルクラッチであり

前記ディファレンシャルの前記リングギヤは、前記第一出力軸および前記第二出力軸に
常時回転連結されていることを特徴とする変速機。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−64211(P2011−64211A)
【公開日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−212761(P2009−212761)
【出願日】平成21年9月15日(2009.9.15)
【出願人】(592058315)アイシン・エーアイ株式会社 (490)
【出願人】(000000011)アイシン精機株式会社 (5,421)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】