説明

変速装置およびその故障特定方法

【課題】対応する油圧式摩擦係合要素に油圧を正常に供給し得なくなった調圧バルブを迅速かつ精度よく特定可能とする。
【解決手段】本発明の自動変速機では、何れかの変速段の形成が指示されている最中に当該何れかの変速段に対応した変速比が得られなくなると、それ以後、時間間隔をおいて変速段の強制変更が指示される(ステップS110,S220)。そして、変速段の強制変更が指示されるたびに、指示された変速段に対応した変速比が得られたか否かが判定され(ステップS130,S240)、基本的に連続した2回分の判定結果を複数用いて正常に油圧を供給し得なくなった調圧バルブが特定される(ステップS150−S170,S260−S280)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数の油圧式摩擦係合要素と、それぞれ複数の油圧式摩擦係合要素の中の対応する要素への油圧を調圧する複数の調圧バルブを有する油圧制御装置とを含み、複数の油圧式摩擦係合要素の係脱により複数の変速段を形成可能な変速装置およびその故障特定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、複数のソレノイドバルブを含む無段変速装置として、ソレノイドバルブのオン故障/オフ故障によって生じる異常現象の組合せを各ソレノイドバルブごとに予め記憶しておき、記憶された組合せと実際に生じている異常現象の組合せとを比較した結果に基づいて、何れのソレノイドバルブのオン故障/オフ故障が生じているのかを特定するものが知られている(例えば、特許文献1参照。)。この無段変速装置では、複数のソレノイドバルブが故障している可能性がある「ロックアップ係合不可現象」、「ダウンシフト不可現象」、「γmin未達現象」、「ベルト滑り現象」が生じると、何れのソレノイドバルブが故障しているかを特定するために、ロックアップ係合指令時、運転者によるアクセルペダルの増し踏み時、目標変速比が所定変速比より小さくなったとき、車両の発進時のそれぞれにおいて所定の判定が実行されると共に、判定結果に基づいて故障ソレノイドバルブが特定される。
【0003】
また、従来、複数の摩擦係合要素の締結解放状態を切り換えることで指令変速段を達成する変速装置として、摩擦係合要素の解放故障または締結故障が検出された後に初めて車速が所定値以下に低下したとき(停車したとき)に、故障した摩擦係合要素を特定するための処理を開始するものも知られている(例えば、特許文献2参照。)。この変速装置では、車両の走行状態に基づく自動変速を禁止しながら指令変速段を複数の変速段から選択された1つ以上の変速段に順次移行させることにより故障した摩擦係合要素が特定され、故障した摩擦要素が特定されると、故障した摩擦要素を用いないリンプホーム制御が実行される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2009−257424号
【特許文献2】特開2010−025346号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された無段変速装置のように、運転者の意向に依存したタイミングで行われる判定結果に基づいて故障したソレノイドバルブを特定しようとすると、故障したソレノイドバルブを迅速に特定することが困難になってしまう。また、特許文献2に記載された変速装置では、摩擦係合要素の解放故障または締結故障が検出されても、一旦車両が停車するまで故障したソレノイドバルブを特定することができない。
【0006】
そこで、本発明は、対応する油圧式摩擦係合要素に油圧を正常に供給し得なくなった調圧バルブを迅速かつ精度よく特定可能とすることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の変速装置およびその故障特定方法は、上記主目的を達成するために以下の手段を採っている。
【0008】
本発明の変速装置は、
複数の油圧式摩擦係合要素と、それぞれ前記複数の油圧式摩擦係合要素の中の対応する要素への油圧を調圧する複数の調圧バルブを有する油圧制御装置とを含み、前記複数の油圧式摩擦係合要素の係脱により複数の変速段を形成可能な変速装置において、
何れかの変速段の形成が指示されている最中に当該何れかの変速段に対応した変速比が得られなくなった後に、前記変速段の強制変更を指示する強制変速指示手段と、
前記強制変速指示手段により指示された変速段に対応した変速比が得られたか否かを判定する判定手段と、
正常に油圧を供給し得なくなった前記調圧バルブを特定する異常バルブ特定手段とを備え、
前記強制変更指示手段は、前記指示された変速段に対応した変速比が得られたか否かに拘わらず前記変速段の強制変更を複数回指示すると共に、前記判定手段は、前記強制変速指示手段により前記変速段の強制変更が指示されるたびに前記指示された変速段に対応した変速比が得られたか否かを判定し、前記異常バルブ特定手段は、前記判定手段による連続した2回以上の判定結果を複数用いて前記正常に油圧を供給し得なくなった前記調圧バルブを特定することを特徴とする。
【0009】
この変速装置では、何れかの変速段の形成が指示されている最中に当該何れかの変速段に対応した変速比が得られなくなると、それ以後、指示された変速段に対応した変速比が得られたか否かに拘わらず変速段の強制変更が複数回指示される。そして、変速段の強制変更が指示されるたびに、指示された変速段に対応した変速比が得られたか否かが判定され、連続した2回以上の判定結果を複数用いて正常に油圧を供給し得なくなった調圧バルブが特定される。このように、何れかの変速段の形成が指示されている最中に当該何れかの変速段に対応した変速比が得られなくなった時点から変速段の強制変更を複数回指示していくことで、変速装置を搭載した車両が走行しているか停車しているかに拘わらず、かつ車両の運転者の意向に依存することなく、正常に油圧を供給し得なくなった調圧バルブを特定することができる。また、連続した2回以上の判定結果を複数用いることで、正常に油圧を供給し得なくなった調圧バルブを精度よく特定することができる。従って、この変速装置では、対応する油圧式摩擦係合要素に油圧を正常に供給し得なくなった調圧バルブを迅速かつ精度よく特定することが可能となる。なお、変速段の強制変更が指示された後に指示された変速段に対応した変速比が得られたか否かを判定し得ないこともあるが、このような場合には、判定結果が得られなかったときの前後において得られた2回以上の判定結果を、連続した2回以上の判定結果として用いることができる。
【0010】
また、前記異常バルブ特定手段は、前記複数の調圧バルブごとに規定されると共に各調圧バルブから正常に油圧を供給し得ない状態でなされた前記変速段の強制変更の指示の前後における変速段の形成可否を示す変速段形成可否パターンを用いて正常に油圧を供給し得ない前記調圧バルブを特定するものであってもよい。このような変速段形成可否パターンと判定手段による連続した2回の判定結果とを対比することにより、正常に油圧を供給し得なくなった調圧バルブをより精度よく特定することが可能となる。
【0011】
更に、前記強制変速指示手段は、前記変速段の強制変更を指示する際に指示前の変速段が最高変速段以外である場合には前記変速段の1段シフトアップを指示し、前記変速段の強制変更を指示する際に指示前の変速段が最高変速段である場合には前記変速段の1段シフトダウンを指示するものであってもよい。これにより、変速段の強制変更が指示されて変速装置の状態が変化した際に変速装置と連結される原動機の吹き上がりを抑制することが可能となる。
【0012】
また、前記強制変速指示手段は、前記変速段の強制変更を一旦指示してから所定時間が経過するまでの間、時間間隔をおいて前記変速段の強制変更を指示すると共に前記判定手段により前記指示された変速段に対応した変速比が得られたと判断されたときには前記所定時間が経過するまで前記変速段の強制変更を指示しないものであってもよい。このように、変速段の強制変更が指示された後に指示された変速段に対応した変速比が得られたときに次の変速段の強制変更の指示を遅らせることで、変速装置を搭載した車両の安定した走行をできるだけ確保しながら、正常に油圧を供給し得なくなった調圧バルブを迅速かつ精度よく特定することが可能となる。
【0013】
更に、前記強制変速指示手段は、前記所定時間が経過したときに指示されている変速段と予め定められた変速線図を用いて定められる変速段とが一致していない場合、前記変速線図を用いて定められる変速段への強制変更を指示するものであってもよい。
【0014】
本発明の変速装置の故障特定方法は、
複数の油圧式摩擦係合要素と、それぞれ前記複数の油圧式摩擦係合要素の中の対応する要素への油圧を調圧する複数の調圧バルブを有する油圧制御装置とを含み、前記複数の油圧式摩擦係合要素の係脱により複数の変速段を形成可能な変速装置の故障特定方法であって、
何れかの変速段の形成が指示されている最中に当該何れかの変速段に対応した変速比が得られなくなった後に、前記変速段の強制変更を複数回指示すると共に、前記強制変更が指示されるたびに指示された変速段に対応した変速比が得られたか否かを判定し、連続した2回以上の判定結果を複数用いて正常に油圧を供給し得なくなった前記調圧バルブを特定するものである。
【0015】
この方法によれば、対応する油圧式摩擦係合要素に油圧を正常に供給し得なくなった調圧バルブを迅速かつ精度よく特定することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施例に係る変速装置である自動変速機30を含む動力伝達装置20を搭載した車両である自動車10の概略構成図である。
【図2】動力伝達装置20の概略構成図である。
【図3】自動変速機30の各変速段とクラッチおよびブレーキの作動状態との関係を表した作動表である。
【図4】自動変速機30を構成する回転要素間における回転数の関係を例示する共線図である。
【図5】動力伝達装置20の油圧制御装置50を示す系統図である。
【図6】動力伝達装置20の変速ECU21により実行される故障特定ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【図7】図6のルーチンが実行されたときに変速段等が変化する様子を示すタイムチャートである。
【図8】変速段形成可否パターンの一例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例】
【0018】
図1は、本発明の実施例に係る変速装置である自動変速機30を含む動力伝達装置20を搭載した車両である自動車10の概略構成図であり、図2は、動力伝達装置20の概略構成図である。図1に示す自動車10は、ガソリンや軽油といった炭化水素系の燃料と空気との混合気の爆発燃焼により動力を出力する内燃機関である原動機としてのエンジン12と、エンジン12を制御するエンジン用電子制御ユニット(以下、「エンジンECU」という)14と、図示しない電子制御式油圧ブレーキユニットを制御するブレーキ用電子制御ユニット(以下、「ブレーキECU」という)15と、流体伝動装置(発進装置)23や有段の自動変速機30、これらに作動油(作動流体)を給排する油圧制御装置50、これらを制御する変速用電子制御ユニット(以下、「変速ECU」という)21等を有し、エンジン12のクランクシャフト16に接続されると共にエンジン12からの動力を左右の駆動輪DWに伝達する動力伝達装置20とを備える。エンジンECU14、ブレーキECU15および変速ECU21は、何れも図示しないCPUを中心とするマイクロコンピュータとして構成されており、CPUの他に各種プログラムを記憶するROM、データを一時的に記憶するRAM、入出力ポートおよび通信ポート(何れも図示せず)等を有する。そして、エンジンECU14、ブレーキECU15および変速ECU21は、バスライン等を介して相互に接続されており、これらのECU間では制御に必要なデータのやり取りが随時実行される。
【0019】
エンジンECU14には、アクセルペダル91の踏み込み量(操作量)を検出するアクセルペダルポジションセンサ92からのアクセル開度Accや車速センサ99からの車速V、クランクシャフト16の回転を検出する図示しないクランクシャフトポジションセンサといった各種センサ等からの信号、ブレーキECU15や変速ECU21からの信号等が入力され、エンジンECU14は、これらの信号に基づいて何れも図示しない電子制御式スロットルバルブや燃料噴射弁、点火プラグ等を制御する。ブレーキECU15には、ブレーキペダル93が踏み込まれたときにマスタシリンダ圧センサ94により検出されるマスタシリンダ圧や車速センサ99からの車速V、図示しない各種センサ等からの信号、エンジンECU14や変速ECU21からの信号等が入力され、ブレーキECU15は、これらの信号に基づいて図示しないブレーキアクチュエータ(油圧アクチュエータ)等を制御する。動力伝達装置20の変速ECU21は、トランスミッションケース22の内部に収容される。変速ECU21には、複数のシフトレンジの中から所望のシフトレンジを選択するためのシフトレバー95の操作位置を検出するシフトレンジセンサ96からのシフトレンジSRや車速センサ99からの車速V、図示しない各種センサ等からの信号、エンジンECU14やブレーキECU15からの信号等が入力され、変速ECU21は、これらの信号に基づいて流体伝動装置23や自動変速機30等を制御する。
【0020】
動力伝達装置20は、トランスミッションケース22の内部に収容される流体伝動装置23や、油圧発生源としてのオイルポンプ29、自動変速機30等を含む。流体伝動装置23は、ロックアップクラッチ付きの流体式トルクコンバータとして構成されており、図2に示すように、フロントカバー18を介してエンジン12のクランクシャフト16に接続されるポンプインペラ24や、タービンハブを介して自動変速機30のインプットシャフト(動力入力部材)31に固定されるタービンランナ25、ポンプインペラ24およびタービンランナ25の内側に配置されてタービンランナ25からポンプインペラ24への作動油(ATF)の流れを整流するステータ26、ステータ26の回転方向を一方向に制限するワンウェイクラッチ27、図示しないダンパ機構を有するロックアップクラッチ28等を含む。流体伝動装置23は、ポンプインペラ24とタービンランナ25との回転速度差が大きいときにはステータ26の作用によりトルク増幅機として機能し、両者の回転速度差が小さくなると流体継手として機能する。ロックアップクラッチ28は、フロントカバー18と自動変速機30のインプットシャフト31とを直結するロックアップと当該ロックアップの解除とを実行可能なものである。そして、自動車10の発進後、所定のロックアップオン条件が成立すると、ロックアップクラッチ28によりフロントカバー18と自動変速機30のインプットシャフト31とが直結(ロックアップ)され、エンジン12からの動力がインプットシャフト31に機械的かつ直接的に伝達されるようになる。この際、インプットシャフト31に伝達されるトルクの変動は、図示しないダンパ機構により吸収される。
【0021】
油圧発生源としてのオイルポンプ29は、ポンプボディとポンプカバーとからなるポンプアッセンブリと、ハブを介して流体伝動装置23のポンプインペラ24に接続された外歯ギヤとを備えるギヤポンプとして構成されており、油圧制御装置50に接続される。エンジン12が運転されているときには、当該エンジン12からの動力により外歯ギヤが回転し、それによりオイルポンプ29によってストレーナを介してオイルパン(何れも図示省略)に貯留されている作動油が吸引されると共に当該オイルポンプ29から吐出される。従って、エンジン12の運転中には、オイルポンプ29により流体伝動装置23や自動変速機30により要求される油圧を発生させたり、各種軸受などの潤滑部分に作動油を供給したりすることができる。
【0022】
自動変速機30は、4段変速式変速機として構成されており、図2に示すように、ラビニヨ式遊星歯車機構32と、入力側から出力側までの動力伝達経路を変更するための複数のクラッチC1,C2およびC3と2つのブレーキB1およびB3とワンウェイクラッチF2とを含む。ラビニヨ式遊星歯車機構32は、外歯歯車である2つのサンギヤ33a,33bと、自動変速機30のアウトプットシャフト(動力出力部材)37に固定された内歯歯車であるリングギヤ34と、サンギヤ33aに噛合する複数のショートピニオンギヤ35aと、サンギヤ33bおよび複数のショートピニオンギヤ35aに噛合すると共にリングギヤ34に噛合する複数のロングピニオンギヤ35bと、互いに連結された複数のショートピニオンギヤ35aおよび複数のロングピニオンギヤ35bを自転かつ公転自在に保持すると共にワンウェイクラッチF2を介してトランスミッションケース22に支持されたキャリア36とを有する。そして、自動変速機30のアウトプットシャフト37は、ギヤ機構38および差動機構39を介して駆動輪DWに接続される。
【0023】
クラッチC1は、インプットシャフト31とラビニヨ式遊星歯車機構32のサンギヤ33aとを締結すると共に両者の締結を解除することができる油圧クラッチである。クラッチC2は、インプットシャフト31とラビニヨ式遊星歯車機構32のキャリア36とを締結すると共に両者の締結を解除することができる油圧クラッチである。クラッチC3は、インプットシャフト31とラビニヨ式遊星歯車機構32のサンギヤ33bとを締結すると共に両者の締結を解除することができる油圧クラッチである。ブレーキB1は、ラビニヨ式遊星歯車機構32のサンギヤ33bをトランスミッションケース22に固定すると共にサンギヤ33bのトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる油圧クラッチである。ブレーキB3は、ラビニヨ式遊星歯車機構32のキャリア36をトランスミッションケース22に固定すると共にキャリア36のトランスミッションケース22に対する固定を解除することができる油圧クラッチである。これらのクラッチC1〜C3、ブレーキB1およびB3は、油圧制御装置50による作動油の給排を受けて動作する。図3に、自動変速機30の各変速段とクラッチC1〜C3、ブレーキB1およびB3ならびにワンウェイクラッチF2の作動状態との関係を表した作動表を示し、図4に自動変速機30を構成する回転要素間における回転数の関係を例示する共線図を示す。自動変速機30は、クラッチC1〜C3、ブレーキB1およびB3を図3の作動表に示す状態にすることで前進1〜4速の変速段と後進1段の変速段とを提供する。
【0024】
図5は、上述のロックアップクラッチ28を含む流体伝動装置23や自動変速機30に対して作動油を給排する油圧制御装置50を示す系統図である。油圧制御装置50は、エンジン12からの動力により駆動されてオイルパンから作動油を吸引して吐出する上述のオイルポンプ29に接続されるものであり、図5に示すように、オイルポンプ29からの作動油を調圧してライン圧PLを生成するプライマリレギュレータバルブ51や、シフトレバー95の操作位置に応じてプライマリレギュレータバルブ51からのライン圧PLの供給先を切り替えるマニュアルバルブ52、マニュアルバルブ52(プライマリレギュレータバルブ51)からのライン圧PLを調圧してクラッチC1へのC1ソレノイド圧Pslc1を生成するC1リニアソレノイドバルブSLC1、マニュアルバルブ52(プライマリレギュレータバルブ51)からのライン圧PLを調圧してクラッチC2へのC2ソレノイド圧Pslc2を生成するC2リニアソレノイドバルブSLC2、マニュアルバルブ52(プライマリレギュレータバルブ51)からのライン圧PLを調圧してブレーキB1へのB1ソレノイド圧Pslb1を生成するB1リニアソレノイドバルブSLB1とを含む。
【0025】
更に、実施例の油圧制御装置50は、C2リニアソレノイドバルブSLC2からのC2ソレノイド圧Pslc2をクラッチC2とブレーキB3とに選択的に供給可能とする切替バルブ53と、リニアソレノイドバルブSLC1,SLC2およびSLB1の出力ポートに接続されると共にC1ソレノイド圧Pslc1、C2ソレノイド圧Pslc2およびB1ソレノイド圧Pslb1の中の最大圧力Pmaxを出力するシャトルバルブ(最大圧選択バルブ)54を含む。
【0026】
プライマリレギュレータバルブ51は、上述のシャトルバルブ54からの最大圧力Pmaxを信号圧として入力し、当該最大圧力Pmaxに応じたライン圧PLを生成する。ただし、プライマリレギュレータバルブ51は、オイルポンプ29側(例えばライン圧PLを調圧して一定の油圧を出力するモジュレータバルブ)からの作動油をアクセル開度Accあるいはスロットルバルブの開度に応じて調圧して制御圧を出力する図示しないリニアソレノイドバルブからの制御圧により駆動されるものであってもよい。
【0027】
マニュアルバルブ52は、シフトレバー95と連動して軸方向に摺動可能なスプールや、ライン圧PLが供給される入力ポート、C1リニアソレノイドバルブSLC1、C2リニアソレノイドバルブSLC2およびB1リニアソレノイドバルブSLB1の入力ポートと油路を介して連通するドライブレンジ出力ポート、クラッチC3の油圧入口と油路を介して連通するリバースレンジ出力ポート等を有する。運転者により前進走行シフトレンジ(ドライブレンジ等)が選択されているときには、マニュアルバルブ52のスプールにより入力ポートがドライブレンジ出力ポートのみと連通され、これにより、C1リニアソレノイドバルブSLC1、C2リニアソレノイドバルブSLC2およびB1リニアソレノイドバルブSLB1にライン圧PLが供給される。また、運転者によりリバース走行用のリバースレンジが選択されたときには、マニュアルバルブ52のスプールにより入力ポートがリバースレンジ出力ポートのみと連通され、これにより、クラッチC3にライン圧PLが供給される。更に、運転者によりパーキングレンジやニュートラルレンジが選択されたときには、マニュアルバルブ52のスプールにより入力ポートとドライブレンジ出力ポートおよびリバースレンジ出力ポートとの連通が遮断される。
【0028】
C1リニアソレノイドバルブSLC1は、マニュアルバルブ52からのライン圧PLを図示しない補機バッテリから印加される電流値に応じて調圧してクラッチC1に供給されるC1ソレノイド圧Pslc1を生成する常開型リニアソレノイドバルブである。C2リニアソレノイドバルブSLC2は、マニュアルバルブ52からのライン圧PLを図示しない補機バッテリから印加される電流値に応じて調圧してクラッチC2に供給されるC2ソレノイド圧Pslc2を生成する常開型リニアソレノイドバルブである。B1リニアソレノイドバルブSLB1は、マニュアルバルブ52からのライン圧PLを図示しない補機バッテリから印加される電流値に応じて調圧してブレーキB1に供給されるB1ソレノイド圧Pslb1を生成する常閉型リニアソレノイドバルブである。実施例では、コスト面や設計の容易さといった観点から、リニアソレノイドバルブSLC1,SLC2およびSLB1として、同一サイズかつ同一の最高出力圧を有するものが採用されている。そして、リニアソレノイドバルブSLC1,SLC2およびSLB1(それぞれに印加される電流)は、予め定められた図示しない変速線図から取得されるアクセル開度Acc(あるいはスロットルバルブの開度)および車速Vに対応した変速段がクラッチC1−C3およびブレーキB1の係脱により形成されるように変速ECU21によって制御される。
【0029】
次に、図6から図8を参照しながら、バルブ故障(オフ固着や通電不良等)や油路の閉塞等によってC1リニアソレノイドバルブSLC1、C2リニアソレノイドバルブSLC2およびB1リニアソレノイドバルブSLB1の少なくとも何れか一つから対応するクラッチ等に正常に油圧が供給されなくなったときに、故障したバルブあるいは閉塞した油路に対応したバルブを特定する手順について説明する。図6は、自動変速機30の何れかの変速段の形成が指示されている最中に当該何れかの変速段に対応した変速比が得られなくなると、変速ECU21により実行される故障特定ルーチンの一例を示すフローチャートであり、図7は、図6のルーチンが実行されたときに変速段等が変化する様子を示すタイムチャートである。以下、適宜、図7に示すようにバルブ故障等によってC1リニアソレノイドバルブSLC1からクラッチC1にC1ソレノイド圧Pslc1を供給し得なくなったケースを例にとって図6のルーチンを説明する。
【0030】
ここで、実施例の変速ECU21は、自動車10の走行中や停車中に、何れかの変速段の形成が指示されて変速処理が完了した後の所定の判定時間td内(例えば1秒程度)にアウトプットシャフト37の回転数と現変速段(指示された何れかの変速段)におけるギヤ比との積がインプットシャフト31の回転数あるいはエンジン12の回転数を中心とした所定範囲内に含まれたか否かを判定している。そして、変速ECU21は、上記判定時間tdの間、アウトプットシャフト37の回転数と現変速段におけるギヤ比との積が上記所定範囲の上限を超えている場合に現変速段に対応した変速比が得られていないと判断し(図7の時刻t0)、図6の故障特定ルーチンの実行を開始する。また、変速ECU21は、図6のルーチンの開始前に、現変速段(指示された何れかの変速段)に対応した変速比が得られていないと判断したときに当該現変速段(図7の例では第2速)に対応した変速比が得られていない旨(第2速:×)を図示しないメモリの予め定められた判定結果記憶領域に記憶させる。
【0031】
図6のルーチンの開始に際して(時刻t0)、変速ECU21は、まず図示しないタイマをオンする(ステップS100)。次いで、変速ECU21は、図示しない変速線図に従って形成されている現変速段を取得した上で、変速段が現変速段から当該現変速段に応じて予め定められた変速段へと強制変更されるようにC1リニアソレノイドバルブSLC1、C2リニアソレノイドバルブSLC2およびB1リニアソレノイドバルブSLB1の中の対応するものに制御信号を送信する(変速段の強制変更を指示する)と共に(ステップS110)、エンジン12の出力トルクが例えば所定値以下に制限されるようにエンジンECU14にトルク調整指令を送信する(S120)。実施例のステップS110では、現変速段(ステップS110での強制変更指示前の変速段)が最高変速段すなわち第4速以外である場合には変速段の1段シフトアップ、すなわち、現変速段が第1速であれば第2速へのシフトアップ、現変速段が第2速であれば第3速へのシフトアップ、現変速段が第3速であれば第4速へのシフトアップが指示される。また、ステップS110では、現変速段(ステップS110での強制変更指示前の変速段)が最高変速段すなわち第4速である場合、第4速から第3速への1段シフトダウンが指示される。これにより、変速段の強制変更が指示されて自動変速機30の状態が変化した際に自動変速機30と連結されるエンジン12の吹き上がりを抑制することが可能となる。
【0032】
ステップS120の処理の後、変速ECU21は、ステップS110にて変速段の強制変更を指示した後に変速が完了したとみなされる時間が経過した時点から上記判定時間tdが経過するまでの間、強制変更指示後の変速段に対応した変速比が得られたか否かを判定する(ステップS130)。実施例のステップS130では、判定時間tdの間、アウトプットシャフト37の回転数と強制変更指示後の変速段におけるギヤ比との積がインプットシャフト31の回転数を中心とした所定範囲の上限を超えている場合、強制変更指示後の変速段に対応した変速比が得られていない(×)と判断され、判定時間tdの間、アウトプットシャフト37の回転数とギヤ比との積がインプットシャフト31の回転数を中心とした所定範囲に含まれている場合には、強制変更指示後の変速段に対応した変速比が得られている(○)と判断される。
【0033】
ステップS130にて強制変更指示後の変速段に対応した変速比が得られたか否かを判定し得た場合(ステップS140)、変速ECU21は、ステップS130における判定結果(例えば、第3速:×)を上記メモリの判定結果記憶領域に記憶させると共に当該判定結果記憶領域に2回分の判定結果が記憶されるように最も古い判定結果を消去した上で、判定結果記憶領域に記憶された2回分の判定結果の組み合わせと予め定められた変速段形成可否パターンとを対比する(ステップS150)。図8にステップS150にて用いられる変速段形成可否パターンの一例を示す。同図に示すように、変速段形成可否パターンは、C1リニアソレノイドバルブSLC1、C2リニアソレノイドバルブSLC2およびB1リニアソレノイドバルブSLB1ごとに規定されており、それぞれのバルブから対応するクラッチ等に正常に油圧を供給し得ない状態でなされた変速段の強制変更指示の前後における変速段の形成可否を示すものである。また、図8の変速段形成可否パターンにおける“○”は、右欄のバルブから正常に油圧が供給されない場合であっても当該変速段に対応した変速比が得られることを示し、“×”は右欄のバルブから正常に油圧が供給されない場合に当該変速段に対応した変速比が得られないことを示す。
【0034】
変速ECU21は、上記判定結果の組み合わせがC1リニアソレノイドバルブSLC1、C2リニアソレノイドバルブSLC2およびB1リニアソレノイドバルブSLB1の変速段形成可否パターンのうちの何れに含まれているかを判別した上で、C1リニアソレノイドバルブSLC1、C2リニアソレノイドバルブSLC2およびB1リニアソレノイドバルブSLB1ごとに用意されている3つのカウンタ(図示省略)のうち、上記判定結果の組み合わせに対応したリニアソレノイドバルブのカウンタをインクリメントする(ステップS160)。図7の例では、第2速の形成が指示されたにも拘わらず第2速が正常に形成されずに当該第2速に対応した変速比が得られなかったことにより本ルーチンが開始され(時刻t0)、その後に第2速から第3速へのシフトアップが指示されたにも拘わらず第3速が正常に形成されずに当該第3速に対応した変速比が得られなかったことから(時刻t1)、この場合、ステップS150にて用いられる判定結果の組み合わせは、“2速:×&3速:×”といった組み合わせとなる。そして、“2速:×&3速:×”という組み合わせは、C1リニアソレノイドバルブSLC1の変速段形成可否パターンに含まれていることから、ステップS160では、C1リニアソレノイドバルブSLC1のカウンタがインクリメントされることになる(時刻t1)。なお、ステップS130にて強制変更指示後の変速段に対応した変速比が得られたか否かを判定不能であった場合(ステップS140)、ステップS150およびS160の処理はスキップされる。この場合、ステップS130における判定結果は、上記メモリの判定結果記憶領域には記憶されず、それまでの判定結果が保持される。
【0035】
ステップS140またはS160の処理の後、変速ECU21は、各カウンタのカウント値が所定値C(実施例では、値5)未満であるか否かを判定し(ステップS170)、すべてのカウンタのカウント値が所定値C未満であれば、タイマによる計時時間tが所定時間tref(例えば5〜10秒程度)以上であるか否かを判定する(ステップS180)。計時時間tが所定時間tref未満である場合、変速ECU21は、ステップS130における判定結果に基づいて強制変更指示後の変速段に対応した変速比が得られたか否かを再判定し(ステップS190)、強制変更指示後の変速段に対応した変速比が得られていないか、判定不能であった場合、上述のステップS110−S180の処理を再度実行する。また、ステップS190にて強制変更指示後の変速段に対応した変速比が得られていると判断した場合、変速ECU21は、ステップS180の処理を実行し、タイマによる計時時間tが所定時間trefに達するまで待機する。
【0036】
このような処理が実行される結果、図7の例では、時刻t1に強制変更指示後の変速段である第3速に対応した変速比が得られていないと判断されてC1リニアソレノイドバルブSLC1のカウンタがインクリメントされた後、タイマによる計時時間tが所定時間tref未満であることにより、再度ステップS110以降の処理が実行され、第3速から第4速への強制変更が指示される。更に、図7に示すように、第4速への強制変更指示後に第4速に対応した変速比が得られたと判断された場合には(時刻t2)、タイマによる計時時間tが所定時間trefに達するまで(時刻t3まで)自動変速機30は第4速を形成する状態に維持される。
【0037】
また、ステップS180にてタイマによる計時時間tが所定時間trefに達したと判断すると、変速ECU21は、変速線図からアクセル開度Accや車速Vに対応した変速段を取得した上で(ステップS200)、現変速段と変速線図から取得した変速段とが一致しているか否かを判定する(ステップS210)。現変速段と変速線図から取得した変速段とが一致していない場合、変速ECU21は、変速段が現変速段から変速線図から取得された変速段へと強制変更されるようにC1リニアソレノイドバルブSLC1、C2リニアソレノイドバルブSLC2およびB1リニアソレノイドバルブSLB1の中の対応するものに制御信号を送信する(変速段の強制変更を指示する)と共に(ステップS220)、エンジン12の出力トルクが例えば所定値以下に制限されるようにエンジンECU14にトルク調整指令を送信する(S230)。
【0038】
こうして、ステップS220およびS230の処理を実行した後、変速ECU21は、上述のステップS130と同様にして強制変更指示後の変速段に対応した変速比が得られたか否かを判定し(ステップS240)、ステップS240にて強制変更指示後の変速段に対応した変速比が得られたか否かを判定し得た場合には(ステップS250)、上述のステップS150と同様にして上記メモリの判定結果記憶領域に記憶された2回分の判定結果の組み合わせと予め定められた変速段形成可否パターンとを対比する(ステップS260)。そして、変速ECU21は、上記判定結果の組み合わせがC1リニアソレノイドバルブSLC1、C2リニアソレノイドバルブSLC2およびB1リニアソレノイドバルブSLB1の変速段形成可否パターンのうちの何れに含まれているかを判別した上で、上記3つのカウンタのうち、上記判定結果の組み合わせに対応したリニアソレノイドバルブのカウンタをインクリメントする(ステップS270)。なお、ステップS240にて強制変更指示後の変速段に対応した変速比が得られたか否かを判定不能であった場合(ステップS250)、ステップS260およびS270の処理はスキップされる。この場合も、ステップS240における判定結果は、上記メモリの判定結果記憶領域には記憶されず、それまでの判定結果が保持される。ステップS250またはS270の処理の後、変速ECU21は、各カウンタのカウント値が所定値C未満であるか否かを判定し(ステップS280)、すべてのカウンタのカウント値が所定値C未満であれば、再度ステップS100以降の処理を実行する。また、ステップS210にて現変速段と変速線図から取得した変速段とが一致していると判断された場合にも、再度ステップS100以降の処理が実行される。
【0039】
上述のような処理が実行され、ステップS170またはS280にて何れかのリニアソレノイドバルブのカウンタのカウンタ値が所定値Cに達したと判断されると、当該リニアソレノイドバルブから対応するクラッチ等に油圧を供給し得なくなったことが確定すると共にエマージェンシーフラグがオンされ(ステップS290)、本ルーチンが終了する。こうしてエマージェンシーフラグがオンされると、自動車10のインストルメントパネルに配置された所定の警告灯が点灯されると共に、対応するクラッチ等に油圧を供給し得なくなったリニアソレノイドバルブ以外のリニアソレノイドバルブを用いた変速処理が実行されることになる。
【0040】
図7の例では、時刻t3にタイマによる計時時間tが所定時間trefに達して現変速段である第4速から変速線図より取得された変速段である第2速への強制変更が指示された後、強制変更指示後の変速段である第2速に対応した変速比が得られていないと判断されると、ステップS260にて用いられる判定結果の組み合わせは、“4速:○&2速:×”といった組み合わせとなる。このような“4速:○&2速:×”という組み合わせもC1リニアソレノイドバルブSLC1の変速段形成可否パターンに含まれていることから、ステップS270にてC1リニアソレノイドバルブSLC1のカウンタがインクリメントされることになる(時刻t4)。
【0041】
この時点で、C1リニアソレノイドバルブSLC1のカウンタのカウンタ値は、図示するように値3であり、ステップS280にて否定判断がなされて再度ステップS100以降の処理が実行され、ステップS110にて第2速から第3速への強制変更が指示される。そして、時刻t5にて強制変更指示後の変速段である第3速に対応した変速比が得られていないと判断されると、ステップS150にて用いられる判定結果の組み合わせは、“2速:×&3速×”といった組み合わせになる。このような“2速:×&3速×”という組み合わせはC1リニアソレノイドバルブSLC1の変速段形成可否パターンに含まれていることから、ステップS160にてC1リニアソレノイドバルブSLC1のカウンタがインクリメントされることになる(時刻t5)。
【0042】
図7の例では、この時点でタイマによる計時時間tが所定時間trefを超えておらず、現変速段である第3速に対応した変速比が得られていないことから、再度ステップS100以降の処理が実行され、ステップS110にて第3速から第4速への強制変更が指示される。そして、時刻t6にて強制変更指示後の変速段である第4速に対応した変速比が得られていると判断されると、ステップS150にて用いられる判定結果の組み合わせは、“3速:×&4速○”といった組み合わせになる。このような“3速:×&4速○”という組み合わせもC1リニアソレノイドバルブSLC1の変速段形成可否パターンに含まれていることから、ステップS160にてC1リニアソレノイドバルブSLC1のカウンタがインクリメントされることになる(時刻t6)。この結果、時刻t6にてC1リニアソレノイドバルブSLC1のカウンタのカウント値が所定値Cすなわち値5に達することから、C1リニアソレノイドバルブSLC1からクラッチC1にC1ソレノイド圧Pslc1を供給し得なくなったことが特定され、エマージェンシーフラグがオンされ(ステップS290)、本ルーチンが終了する。
【0043】
以上説明したように、実施例の動力伝達装置20に含まれる自動変速機30では、何れかの変速段の形成が指示されている最中に当該何れかの変速段に対応した変速比が得られなくなると、それ以後、指示された変速段に対応した変速比が得られたか否かに拘わらず時間間隔をおいて変速段の強制変更が複数回指示される(図6のステップS110,S220)。そして、変速段の強制変更が指示されるたびに、指示された変速段に対応した変速比が得られたか否かが判定され(図6のステップS130,S240)、基本的に連続した2回分の判定結果を複数(上記実施例では5組)用いて正常に油圧を供給し得なくなった調圧バルブが特定される(図6のステップS150−S170,S260−S280)。このように、何れかの変速段の形成が指示されている最中に当該何れかの変速段に対応した変速比が得られなくなった時点から時間間隔をおいて変速段の強制変更を複数回指示していくことで、自動変速機30を搭載した自動車10が走行しているか停車しているかに拘わらず、かつ車両の運転者の意向に依存することなく、正常に油圧を供給し得なくなったリニアソレノイドバルブを特定することができる。また、基本的に連続した2回の判定結果を複数用いることで、正常に油圧を供給し得なくなったリニアソレノイドバルブを精度よく特定することができる。従って、実施例の自動変速機30では、対応するクラッチ等に油圧を正常に供給し得なくなったリニアソレノイドバルブを迅速かつ精度よく特定することが可能となる。ただし、基本的に連続した3回以上の判定結果を複数用いて正常に油圧を供給し得なくなったリニアソレノイドバルブを精度よく特定してもよい。
【0044】
また、上記実施例では、C1リニアソレノイドバルブSLC1、C2リニアソレノイドバルブSLC2およびB1リニアソレノイドバルブSLB1ごとに規定されると共に各リニアソレノイドバルブから正常に油圧を供給し得ない状態でなされた変速段の強制変更の指示の前後における変速段の形成可否を示す変速段形成可否パターンを用いて正常に油圧を供給し得ないリニアソレノイドバルブが特定される。このような変速段形成可否パターンと連続した2回の判定結果とを対比することにより、正常に油圧を供給し得なくなったリニアソレノイドバルブをより精度よく特定することが可能となる。
【0045】
更に、上記実施例では、変速段の強制変更の指示に際して、指示前の変速段が最高変速段以外である場合には変速段の1段シフトアップが指示され、指示前の変速段が最高変速段である場合には変速段の1段シフトダウンが指示される(図6のステップS110)。これにより、変速段の強制変更が指示されて自動変速機30の状態が変化した際に当該自動変速機30と連結されるエンジン12の吹き上がりを抑制することが可能となる。
【0046】
また、上記実施例では、変速段の強制変更が一旦指示されてから所定時間が経過するまでの間、すなわちタイマによる計時時間tが所定時間trefに達するまで、時間間隔をおいて変速段の強制変更が指示されると共に、指示された変速段に対応した変速比が得られたと判断されたときにはタイマによる計時時間tが所定時間に達するまで変速段の強制変更が指示されない(図6のステップS180,S190)。このように、変速段の強制変更が指示された後に指示された変速段に対応した変速比が得られたときに次の変速段の強制変更の指示を遅らせることで、自動変速機30を搭載した自動車10の安定した走行をできるだけ確保しながら、正常に油圧を供給し得なくなったリニアソレノイドバルブを迅速かつ精度よく特定することが可能となる。
【0047】
ここで、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。すなわち、上記実施例では、クラッチC1およびC2ならびにブレーキB1と、それぞれクラッチC1およびC2ならびにブレーキB1の中の対応するクラッチ等への油圧を調圧するC1リニアソレノイドバルブSLC1,C2リニアソレノイドバルブSLC2およびB1リニアソレノイドバルブSLB1を有する油圧制御装置50とを含み、クラッチC1等の係脱により複数の変速段を形成可能な自動変速機30が「変速装置」に相当し、図6のステップS110およびS220の処理を実行する変速ECU21が「強制変速指示手段」に相当し、図6のステップS130およびS240の処理を実行する変速ECU21が「判定手段」に相当し、図6のステップS150−S170およびS260−S280の処理を実行する変速ECU21が「異常バルブ特定手段」に相当する。
【0048】
ただし、実施例等の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載された発明の主要な要素との対応関係は、実施例等が課題を解決するための手段の欄に記載された発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。すなわち、実施例等はあくまで課題を解決するための手段の欄に記載された発明の具体的な一例に過ぎず、課題を解決するための手段の欄に記載された発明の解釈は、その欄の記載に基づいて行なわれるべきものである。
【0049】
以上、実施例を用いて本発明の実施の形態について説明したが、本発明は上記実施例に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において様々な変更をなし得ることはいうまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、油圧制御装置の製造産業において利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
10 自動車、12 エンジン、14 エンジン用電子制御ユニット(エンジンECU)、15 ブレーキ用電子制御ユニット(ブレーキECU)、16 クランクシャフト、18 フロントカバー、20 動力伝達装置、21 変速用電子制御ユニット(変速ECU)、22 トランスミッションケース、23 流体伝動装置、24 ポンプインペラ、25 タービンランナ、26 ステータ、27 ワンウェイクラッチ、28 ロックアップクラッチ、29 オイルポンプ、30 自動変速機、31 インプットシャフト、32 ラビニヨ式遊星歯車機構、33a,33b サンギヤ、34 リングギヤ、35a ショートピニオンギヤ、35b ロングピニオンギヤ、36 キャリア、37 アウトプットシャフト、38 ギヤ機構、39 差動機構、50 油圧制御装置、51 プライマリレギュレータバルブ、52 マニュアルバルブ、54 シャトルバルブ、91 アクセルペダル、92 アクセルペダルポジションセンサ、93 ブレーキペダル、94 マスタシリンダ圧センサ、95 シフトレバー、96 シフトレンジセンサ、99 車速センサ、B1,B3 ブレーキ、C1,C2,C3 クラッチ、F2 ワンウェイクラッチ、SLB1 B1リニアソレノイドバルブ、SLC1 C1リニアソレノイドバルブ、SLC2 C2リニアソレノイドバルブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の油圧式摩擦係合要素と、それぞれ前記複数の油圧式摩擦係合要素の中の対応する要素への油圧を調圧する複数の調圧バルブを有する油圧制御装置とを含み、前記複数の油圧式摩擦係合要素の係脱により複数の変速段を形成可能な変速装置において、
何れかの変速段の形成が指示されている最中に当該何れかの変速段に対応した変速比が得られなくなった後に、前記変速段の強制変更を指示する強制変速指示手段と、
前記強制変速指示手段により指示された変速段に対応した変速比が得られたか否かを判定する判定手段と、
正常に油圧を供給し得なくなった前記調圧バルブを特定する異常バルブ特定手段とを備え、
前記強制変更指示手段は、前記指示された変速段に対応した変速比が得られたか否かに拘わらず前記変速段の強制変更を複数回指示すると共に、前記判定手段は、前記強制変速指示手段により前記変速段の強制変更が指示されるたびに前記指示された変速段に対応した変速比が得られたか否かを判定し、前記異常バルブ特定手段は、前記判定手段による連続した2回以上の判定結果を複数用いて前記正常に油圧を供給し得なくなった前記調圧バルブを特定することを特徴とする変速装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変速装置において、
前記異常バルブ特定手段は、前記複数の調圧バルブごとに規定されると共に各調圧バルブから正常に油圧を供給し得ない状態でなされた前記変速段の強制変更の指示の前後における変速段の形成可否を示す変速段形成可否パターンを用いて正常に油圧を供給し得ない前記調圧バルブを特定することを特徴とする変速装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の変速装置において、
前記強制変速指示手段は、前記変速段の強制変更を指示する際に指示前の変速段が最高変速段以外である場合には前記変速段の1段シフトアップを指示し、前記変速段の強制変更を指示する際に指示前の変速段が最高変速段である場合には前記変速段の1段シフトダウンを指示することを特徴とする変速装置。
【請求項4】
請求項1から3の何れか一項に記載の変速装置において、
前記強制変速指示手段は、前記変速段の強制変更を一旦指示してから所定時間が経過するまでの間、時間間隔をおいて前記変速段の強制変更を指示すると共に前記判定手段により前記指示された変速段に対応した変速比が得られたと判断されたときには前記所定時間が経過するまで前記変速段の強制変更を指示しないことを特徴とする変速装置。
【請求項5】
請求項4に記載の変速装置において、
前記強制変速指示手段は、前記所定時間が経過したときに指示されている変速段と予め定められた変速線図を用いて定められる変速段とが一致していない場合、前記変速線図を用いて定められる変速段への強制変更を指示することを特徴とする変速装置。
【請求項6】
複数の油圧式摩擦係合要素と、それぞれ前記複数の油圧式摩擦係合要素の中の対応する要素への油圧を調圧する複数の調圧バルブを有する油圧制御装置とを含み、前記複数の油圧式摩擦係合要素の係脱により複数の変速段を形成可能な変速装置の故障特定方法であって、
何れかの変速段の形成が指示されている最中に当該何れかの変速段に対応した変速比が得られなくなった後に、前記変速段の強制変更を複数回指示すると共に、前記強制変更が指示されるたびに指示された変速段に対応した変速比が得られたか否かを判定し、連続した2回以上の判定結果を複数用いて正常に油圧を供給し得なくなった前記調圧バルブを特定する変速装置の故障特定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2012−215180(P2012−215180A)
【公開日】平成24年11月8日(2012.11.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−78958(P2011−78958)
【出願日】平成23年3月31日(2011.3.31)
【出願人】(000100768)アイシン・エィ・ダブリュ株式会社 (3,717)
【Fターム(参考)】