説明

外科用マニプレータ

【課題】
【解決手段】本発明は、外科用すなわち医療用ツールが6自由度までの動きをするよう操作することのできる外科用マニプレータを提供する。該マニプレータは、接触型インターフェースと、それに関係した位置検知システムとを有している。マニプレータ及び接触型インターフェースの互いに相対的な向きに基づく、動きの情報が、接触型インターフェースから与えられる。この動きの情報を調節するため使用することのできるコントローラが提供される。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[0001] 本特許出願は、2007年4月27日付けにて出願された米国特許出願第11/796,204号の一部継続出願であり、該出願は、2004年1月13日付けにて出願された同時出願係属中の米国特許出願第10/755,932号であり、該出願第10/755,932号は、2002年1月16日付けにて出願され且つ米国特許第6,676,669号として発行された米国特許出願第10/050,241号の継続出願であり、該出願第10/050,241号の特許請求の範囲は、2001年1月16日付けにて出願された米国仮特許出願第60/261,940号の利益を主張する。これら出願の全ての内容は、参考として引用し本明細書に含めるものとする。
【技術分野】
【0002】
[0002] 本発明は、マニプレータ、より具体的には、外科的処置を含む医療処置にて使用するのに適したマニプレータに関する。
【背景技術】
【0003】
[0003] 神経外科手術、脊椎外科手術、耳鼻科手術、頭及び首外科手術、手外科手術及び最小侵襲外科的方法のような、極めて複雑及び(又は)身体への負担が大きい外科的方法を実行するため使用されている従来の装置は、使いこなしが外科医の技量に関係するため、多数の短所を有している。例えば、外科医は、外科用装置の使用中、その装置を手で支持しなければならないので疲れ易い。更に、外科医は、該装置を操作するため自己の手を不自然な位置に向けなければならないことがある。更に、かかる外科的処置にて使用される従来の装置は、小さな操作の誤りを顕著に拡大する可能性がある。その結果、外科医は、かかる外科用装置を使用して手術を行なうとき、外科医がツールを直接把む従来の技術によって手術を行なうときよりも、技量及び正確さが著しく低下することになる。
【0004】
[0004] 従って、医療処置を行なう間、外科用ツールを支持し且つ操作するため、ロボット型のマスタースレーブマニプレータのような、動力式マニプレータを使用することへの関心が増している。かかるマニプレータは、患者及び医療従事者の双方にとって多数の有利な効果を提供することができる。特に、マスター/スレーブ制御式マニプレータは、外科医/操作者の技量を向上させ、外科医が実際にツールを自分の手で保持することができる場合よりも、外科医が優れた技量にて医療用ツールを操作することを許容することができる。マニプレータは、また、外科医が医療用ツール又は装置を使用する間、その医療用ツール又は装置を物理的に支持している必要性を解消するため、外科医が経験する疲労を減少させることもできる。更に、外科医は、医療用ツールを動かすことなく、マニプレータを自由に動かし且つその他の作業を行なうことができ、このことは、外科手術の効率を向上させ且つ、特定の方法を実行するのに必要な員数を少なくすることができる。このように、マニプレータは、医療方法を遥かにより迅速に実行することを許容することができ、その結果、患者へのストレスは少なくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願第10/755,932号明細書
【特許文献2】米国特許出願第11/796,204号明細書
【特許文献3】米国仮特許出願第60/261,940号明細書
【特許文献4】米国特許第6,676,669号明細書
【特許文献5】米国特許出願第10/050,241号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
[0005] しかし、かかる動力式マニプレータを使用することは、特定の安全上の問題を引き起す可能性がある。特に、外科的処置その他の介入的処置を行なう間、患者がマニプレータに対して動くと、大きな外傷を招く可能性がある。このため、患者は、動力式マニプレータを使用して行なわれる処置の間、全身麻酔又はその他の麻痺状態にしなければならないと一般に考えられている。すなわち動力式マニプレータは一般的に、覚醒方法にて使用するのに適していないと考えられている。しかし、神経−筋肉麻痺又は同様のものを伴う全身麻酔を使用することは、方法によっては多くの危険性を招き、また、患者がマニプレータに対して動いてしまうかも知れないという問題点を完全には解決しない。例えば、全身麻酔の状況下でさえ、呼吸、心臓−変縮動作、不随意的筋肉の動作(例えば、ミオクローヌス反射、震え、単収縮)、蠕動、人との偶発的な接触などによって患者の動きが引き起されることがある。
【0007】
[0006] 従って、上記のことに鑑みて、本発明の全体的な目的は、外科的処置及びその他の介入的医療処置にて使用される改良されたマニプレータを提供することである。
【0008】
[0007] 本発明のより特定的な目的は、外科医/操作者の技量及び正確さを向上させることのできる外科用マニプレータを提供することである。
【0009】
[0008] 本発明の更なる目的は、患者がマニプレータに対して動く可能性を実質的に少なくすることにより、患者の安全性を向上させる外科用マニプレータを提供することである。
【0010】
[0009] 本発明の別の目的は、画像誘導法のため、又は外科手術の間、識別された解剖学的中間地点(基準点)を使用するため、整合の精確さの向上を実現することのできる外科用マニプレータを提供することである。
【0011】
[0010] 本発明の上記及びその他の特徴及び有利な効果は、本発明の好ましい一例としての実施の形態の以下の説明を読み且つ添付図面を参照することにより、容易に明らかになるであろう。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の教示に従った構造とした一例としてのマニプレータの前方斜視図である。
【図2】図1のマニプレータの後方斜視図である。
【図3】本発明の教示に従った構造としたマニプレータ用の一例としての制御システムのブロック図である。
【図4】焼灼/切開ツールを支持する本発明に従った構造としたマニプレータの1つの代替的な実施の形態を示す斜視図である。
【図5】ドリルを支持する図4のマニプレータの斜視図である。
【図6】頭部締め止め固定システムに取り付けた図4のマニプレータの斜視図である。
【図7】頭部締め止め固定システムに取り付けた図4のマニプレータの別の斜視図である。
【図8】概略図的に示した位置トラッキング機構を更に含む、図4のマニプレータの斜視図である。
【図9】一例としての方法及び接触型インターフェースと、基準フレームの形態変更を実行することができるマニプレータとを含む、システムの概略フローチャート図である。
【0013】
[0020] 本発明を、特定の好ましい実施の形態及び方法に関して説明し且つ開示するが、本発明をこれらの実施の形態にのみ限定することを意図するものではない。本発明の思想及び範囲に属する全ての代替的な実施の形態及び改変例を本発明は包含することを意図するものである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[0021] 先ず、特に図面の図1を参照すると、本発明に従った構造とされた外科用マニプレータ10の一例としての実施の形態が示されている。図示したマニプレータ10は、医療用ツール12を互換可能に支持し且つ該医療用ツール12を6自由度まで動かすことができる。理解し得るように、本発明においては、任意の特定型式の医療用ツールにのみではなく、針ホルダ、ステープル又はクランプアプライヤー、プローブ、鋏、鉗子、焼灼器、吸引カッター、切開器、ドリル、レーザ、超音波装置及び診断用装置など(これらにのみ限定されない)をマニプレータと共に使用することができる。ツールは、再使用可能型、限定された再使用型又は使い捨て型とすることができる。医療用ツールが従来通り人力作動の可動部品を有する場合、マニプレータ10は、例えば、電動式、空圧式又は液圧式アクチュエータのようなツール作動専用としたアクチュエータを受け入れるようにすることができる。
【0015】
[0022] 外科的処置及び特定の介入的放射線処置を実行するとき、操作者/外科医の技量の向上を可能にするため、マニプレータ10は、マスタースレーブロボット式システムのスレーブロボットとして使用することができる。かかるシステムにおいて、外科医/操作者は、図3の概略ブロック図におけるように、マスターすなわち接触型インターフェース13を介して「スレーブ」マニプレータに対し位置入力信号を提供する。接触型インターフェース13は、コントローラ15又は制御盤を通じて作動する。特に、力フィードバック、ジョイスティック、足踏みペダル又は同様のものを有する、6自由度のツールハンドルのような、接触型インターフェース13上の入力装置17を使用することを通じて、外科医は、マニプレータ10により保持されたツール12の所望の動きを指示する。接触型インターフェース13は、これらの信号をコントローラ15に伝送する一方、該コントローラ15は、これらの信号をスレーブマニプレータに伝送する前に、信号に対し色々な所望の所定の調節を為す。マニプレータと等しい又はより多くの自由度(DOF)を有する任意の接触型インターフェースが、コントローラを介してマニプレータを制御すべく使用することができる。本発明と共に使用することのできる接触型インターフェース又はマスターの例は、カナダ、モントリオールのMPBテクノロジーズ(MPB Technologies)から入手可能なフリーダム(Freedom)6S、及びマサチューセッツ州、ケンブリッジのセンサブルテクノロジー(Sensable Technology)及びニューメキシコ州、アルバカーキのマイクロデキストリティシステムズ(MicroDexterity Systems)から商業的に入手可能なその他の接触型インターフェースを含む。
【0016】
[0023] コントローラ15により提供された信号に基づいて、マニプレータ10は、ツール12の所望の動き又は操作を実行する。このように、接触型インターフェース13から送られた信号に対し適正な調節を実行するようコントローラ15を設定することにより、任意の所望の技量の向上を実現することができる。例えば、これは、所望の技能の向上アルゴリズムを実行するソフトウェアをコントローラ15に提供することにより、実現することができる。ソフトウェアの技量向上アルゴリズムは、任意の位置調整(典型的には、下方調整)、力の調整(骨及び軟骨に対して上方調整、柔軟な組織に対して下方調整)、震えのフィルタリング、重力補償、プログラム化可能な位置境界設定、動脈瘤に対する動きの補償、速度の制限(例えば、骨に穿孔した後、脳、神経又は脊髄組織内への急速な動きを防止する)、また、以下により詳細に説明するように、像の基準化を含むことができる。適用可能なアルゴリズムの上記及びその他の例は、ロボット工学の分野にて周知であり且つ出版された文献に詳細に記載されている。シンクネット(SynqNet)システムを採用し且つカリフォルニア州、サンタバーバラのモーションエンジニアリング(Motion Engineering)から入手可能なZMP SynqNet(登録商標)シリーズモーションコントローラズは、本発明と共に使用される適正なコントローラの一例である。(www.synqunet.org及びwww.motioneng.com参照)。本発明にて使用するのに適したコントローラの別の一例は、カリフォルニア州、ノースリッジのデルタトウデータシステムズ(Delta Tau Data Systems)から入手可能なターボPMACである。
【0017】
[0024] 図示した実施の形態において6自由度にてツール12を動かすことを許容するため、ツールは、回転及び線形アクチュエータを介して空間内にて平行移動することのできる、ツール支持軸14の下端に支持されている。より具体的には、図示した実施の形態にて、ツール支持軸14は、この使用例にて、垂直に隔てられた1対の支持又は制御アーム16、18により支持されており、これらのアームの各々は、それぞれの線形アクチュエータ20、22及びそれぞれの回転アクチュエータ24、26を介して独立的に可動である。図1及び図2に示したように、制御アーム16、18の各々と関係付けた線形アクチュエータ20、22は、そのそれぞれの制御アームを、長手方向に向けて伸縮式の態様にて平行移動させ得るよう配置されている。一方、線形アクチュエータ20、22の各々は、その相応する回転アクチュエータ24、26の出力軸と接続され、線形アクチュエータ20、22、ひいては制御アーム16、18の回動可能な動きを許容する。この場合、回転アクチュエータ24、26は、それらの回転軸線が整合されるように、静止支持フレーム28上にて積重ねた関係に配置される。しかし、2つの回転アクチュエータ24、26は互いに独立的に配置することができるから、回転アクチュエータは、積重ねた関係になるようにしなくともよい。
【0018】
[0025] 制御アーム16、18、及びそれらの相応する線形アクチュエータ20、22及び回転アクチュエータ24、26の組み合わせにより、ツール支持軸14は、4自由度にて空間内を動くことができる。例えば、マニプレータ10を差動機構として作動させることができる。2つの制御アーム16、18のための回転アクチュエータ24、26を互いに反対方向に回転させ、且つ、2つの制御アームのための線形アクチュエータ20、22を互いに反対方向に動かすことにより、ツール支持軸14の比較的大きいピッチ及びヨー角度を発生させ、更に、ツール支持軸14は、2つの制御アーム16、18のための回転アクチュエータ24、26を互いに同一方向に回転させ、且つ、2つの制御アームのための線形アクチュエータ20、22を互いに同一方向に動かすことにより、円柱座標又は極座標ロボットのように動かされることができる。
【0019】
[0026] ツール12をツール支持軸14の長手方向に動かすと共に、ツールをツール支持軸の長手方向軸線の回りにて回転させるため、2つの追加的なアクチュエータが提供される。具体的には、線形アクチュエータ30が、ツール支持軸14内に組み込まれ、該ツール支持軸14は、ツール12がツール支持軸14の長手方向軸線に対して伸縮式の態様にて長手方向に動くのを許容し得るよう作用可能にツール12と接続されている(軸又はその他の手段を介して)。ツール支持軸14に対するこのツール12の長手方向への動きは、ツール12を患者の体内に挿入し且つ体内から引き出すために使用することができる。ツール12の回転動作は、回転アクチュエータ32により生じせしめられ、回転アクチュエータ32は、この場合、ツール支持軸14の上端に配置され、且つ、ツール12をツール支持軸14の長手方向軸線の回りにて回転させるのを可能にし得るようにして、ツール12と(この場合にも、軸又はその他の適正な手段を介して)接続されている。ツール支持軸14に対するツール12の回転動作は、例えば、ツール支持軸に対してある角度にて伸びる鋏のような、軸方向に関して非対称のツールを使用するとき有用であろう。
【0020】
[0027] ツール支持軸が所望の自由度にて動くのを許容するため、制御アーム16、18の各々は、適正な自在継手又はジンバル継手を使用してツール軸14と接続される。図示した実施の形態において、制御アームとツール支持軸との間の継手は、3自由度のフック(Hookes)型継手34、36から成っている。ツール支持軸と制御アームとの間の継手は、ツール軸に対し6自由度を提供する必要がある。このことは、2自由度を有する1つの継手と、4自由度を有する第二の継手とを提供することにより実現することができる。更に、各々2自由度を有する2つの継手を、図1及び図2に示したように、2つの追加的な自由度をツールに供給するツール軸自体と共に使用することができる。
【0021】
[0028] 色々な線形及び回転アクチュエータ20、22、24、26、30、32、また、制御アーム16、18、継手34、36及びツール支持軸14の位置を検知するため、アクチュエータには、位置センサ50を設けることができる。線形及び回転アクチュエータの各々は、コントローラと連通するようにすることができ、また、位置センサは、図3に示したように、フィードバックループにてコントローラに対し位置情報を提供することができる。参照のし易いように、1つのアクチュエータのみに対する位置センサが図3に示されている。1つの好ましい実施の形態において、色々なアクチュエータの位置を検知するため光エンコーダが使用されるが、任意の数の異なる従来の位置センサを使用することができることが理解されよう。同様に、ツール支持軸14により加えられた力及びトルクを決定することを可能にし得るように、色々なアクチュエータには、アクチュエータにより加えられた力及びトルクを検知する力センサ52(この場合にも、その1つのみが図3に示されている)を設けることもできる。図3に示したように、この情報は、フィードバック制御ループにてコントローラ15に再び与えられ。これによって、例えば、接触型インターフェースの入力装置(線56として概略図的に図示)に対して力をフィードバックさせることができる。勿論、例えば、箔型式又は半導体歪みゲージ又はロードセルなどを含む、力及び(又は)トルクを測定する任意の既知の方法を用いることができる。
【0022】
[0029] 本発明によるマニプレータの別の実施の形態が図4及び図5に示されており、この場合、上述したものと同様の構成要素は100番台の同様の参照番号にて表示されている。図4及び図5のマニプレータ110は、形態及び作用の点にて図1及び図2に示したマニプレータ10のものと極めて類似している。具体的には、図4及び図5に示したマニプレータ110は、ツール支持軸114上に支持されたツール112が6自由度にて動くように動かすことができる。この目的のため、図1及び図2の実施の形態と同様に、ツール支持軸114は、1対の互いに隔った位置にある制御アーム116および118により支持されている。1対の制御アーム116、118は、それぞれの線形アクチュエータ120、122及びそれぞれの回転アクチュエータ124、126によって、互いに独立的に可動である。各制御アーム116、118のそれぞれと関係する線形アクチュエータ120、122は、制御アームをその長手方向に向けて移動させる。一方、回転アクチュエータ124、126は、線形アクチュエータを、ひいては制御アームを回動(枢動)させることができる。図4及び図5に示したマニプレータ110は、ツールの挿入及び引き出しを促進するツール支持軸114上の線形アクチュエータ130と、ツールの転動(回転)を促進するツール支持軸上の回転アクチュエータ132とを含む。
【0023】
[0030] 図1及び図2に示したマニプレータと相違して、回転アクチュエータ124、126は、それらの回転軸線が互いに整合しないような態様でフレーム128上に支持されている。この実施形態の場合、支持フレーム128は、上方、下方及び中間支持アーム129を含み、これらのアームの間にて、回転及び線形アクチュエータが支持されている。図示した支持フレーム128は、以下により詳細に説明するように、既存の取り付け装置と容易に接続することができる比較的小型の装置を提供する。
【0024】
[0031] 図4及び図5には、また、異なるツールを支持するため、本発明のマニプレータを使用する方法も示される。具体的には、図4に示したように、マニプレータ110は、ツール112、すなわち、図示した実施の形態において、ツール支持軸114と同軸状に配置された焼灼/切開ツールを支持することができる。これと代替的に、図5に示したように、ツール112(この場合、ドリル)を、ツール支持軸114から軸心が偏位した関係にて支持するようにして、例えば、動力式ツール用のアクチュエータの使用を受容することができる。この場合(図5)、ツール112は、コネクタピース144を介してツール支持軸114と接続されている。コネクタピース144は、ツール112が支持軸114と一緒に空間内にて動くことを許容する。更に、ツール112を、支持軸114の回動可能且つ伸長可能な下端と接続することにより、ツールは、支持軸上のツール線形アクチュエータ130及びツール回転アクチュエータ132を介して動かされることもできる。理解し得るように、ツールをツール支持軸上に取り付けるための他の装置を使用することもできる。
【0025】
[0032] 図示したマニプレータの構造及び作用は、その開示内容を参考として引用し本明細書に含めることとする、「外科用マニプレータ(Surgical Manipulator)」という名称の、同時に譲渡された国際出願第PCT/US99/27650号及びこれに対応する米国特許出願第09/856,453号に開示されたマニプレータの実施の形態の幾つかと類似している。理解し得るように、図示したマニプレータの幾何学的形態は、6自由度の動作を実現できることを含む、特定の有利な効果を提供するが、本発明は、特定のマニプレータのアーキテクチャ又は運動学的スキームに限定されるものではない。必要なことは、ツールを所望の自由度にて動かすことのできるマニプレータを提供できることである。例えば、使用可能であるその他のマニプレータのアーキテクチャ及び運動学的スキームとして、それぞれ「マスタースレーブマイクロマニプレータ装置(Master−Slave Micromanipulator Apparatus)」という名称の国際出願第PCT/US99/27650号及び米国特許出願第09/856,453号に開示されたようないわゆる二重SCARAスキーム及び「マスタースレーブマイクロマニプレータ方法(Master−Slave Micromanipulator Method)」という名称の米国特許出願第5,943,914号及び米国特許出願第6,000,297号に開示されたような二重平面状スキームを挙げることができる。更に、図示した実施の形態は、単一のマニプレータのみを含むが、両手又は腕を必要とする方法のため2つ以上のマニプレータを提供することができる。
【0026】
[0033] 本発明の1つの重要な特徴によれば、外科的処置又はその他の介入的処置を行なう際に患者がマニプレータ10、110に対して動く可能性を実質的に少なくし、且つ、それにより患者の安全性を向上させるために、マニプレータ10、110は、マニプレータを患者の身体の少なくとも特定の部分に対して固定することを許容する取り付け保持具を含むことができる。マニプレータ10、110を患者の身体に対して固定することができるということは、全身麻酔及び筋肉の麻痺の必要性を解消し、また、これに関係する医療上の危険性を解消し、さらに、マニプレータのアクチュエータのアクティブなコンプライアンスやパッシブな逆駆動の可能性、すなわち、患者が動くことにより患者とツールとの相対位置が変化したり、動いた患者によってアクチュエータが逆に駆動されてしまう可能性を解消することになろう。
【0027】
[0034] この目的のため、図1及び図2に示した実施の形態において、アクチュエータの支持フレーム28、ひいてはツール支持軸14は、患者の頭部又はその他の身体部分に直接取り付けることのできる取り付け構造体37(この場合、具体的には取り付けリング38)と接続されている。取り付けリング38を、例えば患者の頭部に装着し易くするため、取り付けリング38は、取り付け穴40(図示した実施の形態にて3つ)を含む。取り付け穴40は、取り付けリング38を頭部に装着するために使用されるねじを受け入れることができる。アクチュエータ支持フレーム28は、締止め(クランプ)機構42により取り付けリング38と接続される。該締止め機構42は、アクチュエータの支持フレーム28が取り付けリング38の周縁の回りにおける任意の所定の位置に動き且つ任意の所定の位置に係止されることを許容する。
【0028】
[0035] 取り付け構造体が頭部締止め固定システムを含んでいる本発明の1つの実施の形態が、図6及び図7に示されている。図示した実施の形態において、図4、図5のマニプレータ110の支持フレーム128を頭部クランプ162と接続するアーム160が提供される。クランプ162は、C字形フレーム164を含む。C字形フレーム164は、一側部にて第一の固定した頭部係合ピン166を支持し、また、反対側部にて第二、第三の頭部係合ピン168、170を支持する。第二及び第三の頭部係合ピン168、170は、U字形リンク172上に支持されており、該U字形リンク172は、フレーム164に対して回転し、外科医がフレーム164に対する患者の頭部の角度位置を調節することを許容する。クランプ162は、U字形リンク172をフレーム164に対する特定の角度位置にて解放可能に係止する回転機構174を含む。図示した実施の形態において、頭部クランプ162は、頭部クランプを医療テーブルに取り付けることを許容する基部ユニット176により支持されている。
【0029】
[0036] 頭部の位置を調節する間、マニプレータ110が患者の頭部に対して固定されたままであることを保証するため、マニプレータを支持するアーム160は、クランプ162の回転機構174に連結される。具体的には、アーム160は、スリーブ178に連結される。該スリーブ178は、U字形リンクの角度位置が回転機構174のノブ180を介して調節されるとき、U字形リンク172と共に回転する。このように、マニプレータ110は、頭部の位置を調節している間、U字形リンク172、ひいては患者の頭部に対して、同一の位置に固定されたままである。本発明にて使用することのできる頭部クランプ固定システムの一例は、オハイオ州、シンシナティのオハイオメディカルプロダクツ(Ohio Medical Products)によりメイフィールド(MAYFIELD)(登録商標)という商標名にて販売されている(例えば、米国特許第5,269,034号及び米国特許第5,546,663号を参照)。
【0030】
[0037] 勿論、当該技術の当業者により理解されるように、本発明は、任意の特定の取り付け保持具にのみ限定されず、マニプレータを患者の身体の所望の部分に対して固定することを許容する任意の取り付け保持具又はシステムを含む。また、本発明は、身体上の特定の位置にのみ取り付け得ることに限定されるものではない。例えば、マニプレータ10は、頭部(例えば、神経外科手術、耳の外科手術又は鼻の外科手術を実行するため)、脊椎又はその他の身体構造体に取り付けることができる。
【0031】
[0038] マニプレータ10を患者に取り付けることを許容するため、マニプレータ10は、比較的低慣性力の、比較的軽量で小型の設計のものでなければならない。軽量、小型のマニプレータを利用すれば、患者に加わる重量の一部を解放するために代替的な支持構造体を提供することは必要なくなるであろう。かかる代替的な支持構造体は、マニプレータに起因して患者に加えられる応力の一部を小さくするのを助ける一方、顕著な慣性力の問題点を招来する可能性がある。低質量及び低慣性力を実現するためには、比較的大きい力対質量比を有する線形及び回転アクチュエータをマニプレータにて使用する必要がある。この目的のため、本発明の1つの好ましい実施の形態において、マニプレータにて使用される線形及び回転アクチュエータ(20、22、24、26、120、122、124、126)は、超音波モータを備えている。
【0032】
[0039] 超音波モータは、比較的大きい力対質量比であることに加えて、従来のステッパ及び直流モータに優る幾つかのその他の有利な効果を提供する。例えば、超音波モータは、出力を落としたとき、動いているときの力に等しい力にて固有のブレーキ作用を有する。このことは、患者の安全性を向上させる。超音波モータは、熱の放散の問題点がなく、且つ、電気的に絶縁されることができる。更に、超音波モータは、極めて安定的なので、クリーンルーム内にて使用することができる。更に、空圧式アクチュエータと比較して、超音波モータに基づくアクチュエータは、ツールが剛体に力を加えるように使用されるときに、力を加えすぎてしまうという問題がない。したがって、その剛体が破壊してしまう心配がない。本発明にて線形又は回転アクチュエータの何れかとして使用するのに適した超音波モータの一例は、イスラエル、ヨークネマンのナノモーション(Nanomotion)から入手可能なSAW超音波モータである。
【0033】
[0040] これと代替的に、マニプレータ上の線形及び回転アクチュエータとして、電気力学的モータ、液圧式アクチュエータ又はケーブル駆動装置を使用してもよい。ケーブル駆動装置については、回転型又はプッシュ−プル型の何れも使用することができる。ケーブルの原動機としては、空気又は流体タービン又はサーボモータを含むことができる。ケーブル駆動装置を使用するとき、コントローラを通して顕著なトルクの増幅を行ない、バックラッシュ、ワインドアップ、ヒステリシス及びケーブルの摩擦効果を補償しなければならない。線形及び回転アクチュエータのために液圧アクチュエータが使用される場合、液圧流体が患者と接触したときの患者の安全性を保証するため、液圧作動用流体として、水、食塩水、又は過フッ化炭化水素液体を使用することができる。歯車ポンプや、蠕動ポンプ、隔膜ポンプ、ピストンポンプ及びベンチュリポンプなどのその他の適正なポンプを使用して液圧流体の流れを制御することができる。液圧流体は、空圧作動に利用される気体と比較して非圧縮性なので、オーバシュートの問題を回避することができる。アクチュエータ自体は、例えば、ピストン/シリンダアクチュエータ(線形アクチュエータ)、回転ベーン、隔膜及びブルドン管を備えることができる。静止摩擦及び動摩擦を少なくするため、回転及び線形アクチュエータのための静圧軸受を使用することができる。比較的大きい力対質量比を有するその他の型式のアクチュエータを使用することもできる。
【0034】
[0041] 本発明の更なる特徴により、マニプレータ10、110を患者に対して固定可能であることは、マニプレータ10及びツール12、112の患者に対する整合の精密さを向上させることもできる。特に、マニプレータ10、110を患者に対して固定することは、一定の機械的基準を提供し、このため。処置が進行するにつれて次々に得られる像又は像の一定の集合体は、マニプレータ10、110に対して同一の位置に止まるであろう。
【0035】
[0042] 図1及び図2に示した実施の形態において、これを用いるための1つの方法は、既に、患者に埋め込まれている状態の、マニプレータ10を固定すべく使用されるねじと一緒に手術前の画像を撮る(例えば、磁気共鳴(MR)又はX線により)ことである。MR又はX線による撮影に適合可能な材料で作られたものとすることのできるねじは、そのとき、像中の参照点又は基準点として機能することができる。外科手術時、ねじは、マニプレータの取り付けリング38の取り付け点を規定すべく使用される。次に、手術が行なわれている間、ねじの位置を基準として、手術前の像に対するツール12の位置を表示することができる。所望であるとき、手術中、ツール12の位置を表わすことのできる像データは、例えば、CT、MR又は同様のものを使用して更新することができる。
【0036】
[0043] 取り付けねじが適所にある状態にて手術前の像形成を行なう1つの代替例として、ミネソタ州、ミネアポリスのメドトロニック(Medtronic)から入手可能なステルスステーション(StealthStation)(登録商標)システムにてマニプレータを一体化し又は例えば、電磁トラッキング法のような、神経、脊椎及びその他の型式の外科手術の分野にて周知の別の三次元的な6自由度の位置検知の技術を使用することにより、光三角測量法を使用してツール12、112、取り付け構造体又はマニプレータ構造体10、110の位置を手術前又は手術中の像に対してトラッキングすることができる。
【0037】
[0044] 電磁トラッキング又は誘導システムは、例えば、磁界強度、位相遅れ、走行測定値の位相対位置又はパルス時間に対する感度に基づくものとし、1度から6度の制約の中で任意の確実度にてツールの位置及び向きを計算することができる。これを実現することのできる1つの方法は、電磁界発生装置を使用することである。電磁界発生装置おしては、例えば、図8に概略図的に示したもののように3次元的に多次元界を発生させることのできる、互いに直交状に配設した3つのコイルループから成る電磁界発生装置90を使用することができる。3つのコイルの各々により発生された磁界は、位相、周波数又は時間的多重化を介して相互に識別可能である。互いに直交状に配設した3つのダイポール検知要素から成るものとすることのできる電磁界発生装置により発生された磁界を検出する遠隔センサ92は、図8に示したように、ツール上、および、マニプレータ上のようなその他の位置に配置することができる。磁界発生装置90に対する遠隔センサ92の位置は、監視され、且つ、位置検出コントローラ94により、保存されている手術前の像と相関させられ、また、ディスプレイ96に表示されることができる。位置検出コントローラは、マニプレータの動きを制御するために使用されるものと同一のコントローラとしてもよいし、又は別のコントローラとしてもよい。
【0038】
[0045] これらの型式の電磁的な位置決め技術は、全地球測位システム(GPS)、レーダ、レゾルバ及びその他の電磁式位置決定システムと共に使用される。かかる電磁トラッキング又は誘導システムは、本明細書に開示した特定のマニプレータの形態と共に使用することにのみ限定されず、マニプレータ又はロボットに支持され且つ1以上自由度にて動くように動かされる任意のタイプのツールをトラッキングし且つ(又は)誘導すべく使用することができる。本発明と共に使用し得るようにすることのできる電磁位置決めシステムは、マサチューセッツ州、ボストンのビジュアリゼーションテクノロジーズ(Visualization Technologies)(米国特許第5,676,673号及び米国特許第5,829,444号を参照)、コロラド州、レークウッドのウルトラガイド(UltraGuide)及びヴァーモンド州、コルチェスターのポールヘモス(Polhemus)から入手可能である。
【0039】
[0046] 医療処置を行なう間、マニプレータ10、110と接触型インターフェース13とを互いに対して傾動又は回転させ、これらが患者に対して異なる向きとなるようにすることが可能である。例えば患者は、顕微鏡などによる手術箇所の映像を見ることができるよう、特定の向きに配置されることができる。マニプレータ10、110は、手術箇所の視覚化(見やすさ)を害することなく、手術箇所への最良のアクセスを提供し得るように配置されよう。一方、接触型インターフェースは、外科医の腕にとって都合の良い(やりやすい)、人間工学的に良好で且つ安楽な位置を提供するような向きとされよう。かかる場合、マニプレータ及び接触型インターフェースの座標基準フレームは、互いに且つ患者に対して傾斜するようにすることが可能である。
【0040】
[0047] 接触型インターフェースを通してマニプレータを操作する外科医は、外科手術中、マニプレータ10、110により保持されたツール12、及び外科手術箇所を観察するであろう。従って、位置トラッキングシステム(電磁式、光学式又は任意のその他の適正なシステムとすることができる)、及びこれに付随する位置検出コントローラは、マニプレータ、接触型インターフェース及び患者の位置を特定すると共に、患者の座標基準フレームにおける任意の動きを、接触型インターフェースの基準フレーム及びマニプレータの基準フレームにおける動きに置き換える(変換する)ことができる。このような変換は、例えば、コントローラにより行われる変換アルゴリズムによって実行することができ、また、このような変換は、接触型インターフェース及びマニプレータの、互いに対する、また、患者に対する向きに関係なく、接触型インターフェースの入力装置とマニプレータにより保持されたツールとの動きを患者の基準フレームに対して調和させることができる。このように、外科医が接触型インターフェースを使用してその手を前方に真直ぐに且つ水平に動かすとき、マニプレータにより保持された医療用ツールも、また、同一の軌跡にて動くであろう。マニプレータが患者に対して傾斜した向きにて取り付けられたときでさえ、そうであろう。
【0041】
[0048] 接触型インターフェース及びマニプレータの基準フレームは、一般的に、それらのそれぞれの取り付け位置により規定される。しかし、患者の基準フレームの場合、そうではない。患者の基準フレームは、患者の位置に依存するであろう。または、顕微鏡又は何らかの種類のその他の画像技術の助けを受けて処置が実行される場合、患者の基準フレームは、おそらく幾分かは像の基準フレームに依存するであろう。従って、患者の座標基準フレームは、接触型インターフェースの座標基準フレームと同一としてもよいし、又は特定の医療方法に対して望まれるように、接触型インターフェースの座標基準フレームから偏位するものとしてもよい。接触型インターフェース及びマニプレータの向きと同様、患者の基準フレームの向きは、システムの入力とし、又は、手操作のような何らかのその他の態様にてコントローラに入力することができる。所望の患者の基準フレーム、接触型インターフェースの基準フレーム及びマニプレータの基準フレームの向きが分かったなら、コントローラは、接触型インターフェースを介して発生された動きの情報の必要な変換又は調節を実行し、コントローラによりマニプレータに対して提供される、動きの命令又は指令が、患者の基準フレームにおける医療用ツールの所望の動きとなるようにする。
【0042】
[0049] マスタースレーブロボットシステムに対してかかる基準フレームの変換を実行することのできる一例としてのシステムを示す概略図的なフローチャートが図9に示されている。図9に示したシステムにおいて、マニプレータ10、接触型インターフェース13及び患者の座標基準フレームの向きを検知するため、位置トラッキング又は検知システム200が使用される。次に、これらの基準フレームの向きに関するデータは、コントローラ15に送信され、このデータは、マニプレータ、接触型インターフェース及び患者の基準フレームの相対的な向きを決定する。次に、相対的な向きに関するこのデータ又は情報は、接触型インターフェース13から受け取った動きの命令を調節し、マニプレータ10に送信される動きの命令を生成させるべく使用される。
【0043】
[0050] 多くの外科的処置は、骨のような生存組織を除去し、骨のような生存組織内へのインプラントを形成し、又は望ましくない組織をその他の生存組織から除去するステップを含む。かかる場合、生存組織を使用して患者の基準フレームを規定することが有益である。例えば、患者の基準フレームは、インプラントがその内部に配置されるところの骨により規定することができる。しかし、生体の骨は、医療処置を行なう間、固定位置に完全に拘束することは極めて困難である。その結果、骨は、医療方法を行なう間、接触力又はその他の外的刺激により動き、その結果、患者の基準フレームの向きが変位、すなわち変わってしまうことがある。
【0044】
[0051] かかる動きに対処するため、位置検知システム又は何らかの他の動き監視システムが、患者の基準フレームを規定する骨又はその他の生存組織の動きを連続的にリアルタイムにて監視し得るようにすることができる。これは、例えば、動き監視装置を直接、生存組織に装着することにより実行することができる。これにより得られるデータは、コントローラにより使用される。この場合にもリアルタイムにて、患者、接触型インターフェース及びマニプレータの相対的な向きに関するデータは連続的に更新され、骨の任意の動きを把握する。コントローラにより為される、接触型インターフェースの動きの情報に対する調節は、常に、骨又はその他の生存組織の位置に関する最新の情報を使用するようにする。このように、骨等が動いたら医療用ツールの動き又は操作を更に続けるのをやめなければならないというのではなく、動く骨等に従うようにツールを自動的に動かすマニプレータの作動を中断させることなく、医療処置を続行することができる。
【0045】
[0052] 図9には、マニプレータ、接触型インターフェース及び患者の基準フレームの向きを検出すべく使用される位置検知システム110が所望の身体組織の動きを検出するためにも使用される、本発明の1つの実施の形態が示されている。図9の実施の形態において、位置検知システムは、身体組織の動きが検出されたとき、患者の基準フレームの向きに関するデータ又は情報を更新する。次に、患者の基準フレームの向きに関する新たなデータは、コントローラに送られ、このコントローラは、新たな患者の基準フレームを使用してマニプレータ、接触型インターフェース及び患者の基準フレームの相対的向きを再度計算する。上述したように、この動きの検出および患者の基準フレームの向きのデータの更新は、コントローラによる相対的な向きのデータの更新の場合と同様、リアルタイムにて行なわれる。勿論、システムは、接触型インターフェース及び(又は)マニプレータのような、システムのその他の要素の動きをリアルタイムにて監視し得るようにすることができる。
【0046】
[0053] コントローラは、マニプレータに対する動きの命令を生成するとき、システムが全体として骨の動きを考慮してこれに対処する限り、骨の動きに関するデータを任意の適正な態様にて操作することができる。例えば、コントローラは、骨の動きに関するデータを使用して骨(すなわち、患者の基準フレーム)に対するマニプレータの基準フレームの位置を連続的にリアルタイムにて更新し、マニプレータが骨の動きに従うような態様にて動くよう設定することができる。当該技術の当業者により理解されるように、骨の動きを極めて高度な検出帯域幅にて検出することのできる位置/動き検知システムを使用する必要があり、また、コントローラは、その骨の動きのデータを取得し、且つ、基準フレームの変換を十分に高いサーボ速度にて更新し、骨の動きに拘らず、マニプレータの連続的な作動を可能にすることができなければならない。
【0047】
[0054] 当該技術の当業者により理解されるように、接触型インターフェース、マニプレータ及び患者により規定された座標基準フレームの相対的な向きは、任意の数の異なる位置トラッキング又は誘導システムを使用して決定することができ、本発明は、任意の特定の方法にのみ限定されるものではない。例えば、上述したように、接触型インターフェース、マニプレータ及び患者の基準フレームの向きは、電磁位置検知システムを使用して検知することができる。かかる場合、接触型インターフェース、マニプレータ及び患者(例えば、医療方法を受ける組織)の位置は、送信機と受信機との間の無線接続又はリンクを介して全地球測位システムと同様の態様にて局所的な三角測量法により決定することができる。例えば、手術室又は外科手術ユニットは、規定された位置にて幾つかの固定型送信機を有することができ、また、接触型インターフェース、マニプレータ及び患者の各々は、送信機から信号を受け取り且つ位置データを生成することのできる関係した受信機を有することができる。接触型インターフェース、マニプレータ及び患者の各々にて十分な受信機(及び(又は)送信機)を設け、各々の基準フレームの向きを三次元的に規定することになるであろう。これと代替的に、送信機は、接触型インターフェース、マニプレータ及び患者に設けてもよく、また、受信器は、規定された位置に固定することができる。
【0048】
[0055] 光位置決めシステムは、接触型インターフェース、マニプレータ及び患者の相対的な向きを規定すべく使用することもできるもう1つの型式の位置決めシステムである。接触型インターフェース、マニプレータ及び患者上に配置されたジャイロスコープを使用するような慣性力利用の位置トラッキングシステムを使用することもできる。レーザ距離スキャナ利用の位置検出システムは、接触型インターフェース、マニプレータ及び患者の基準フレームの相対的向きを検知する更にもう1つの方法である。
【0049】
[0056] 本発明の更に別の特徴によれば、マニプレータ10、110は、MR又はX線の環境と適合可能な構造、すなわち、MR又はX線を利用した画像法と関連させて使用できる構造とすることができる。このことは、MR画像法又はその他のX線方法を行なう間、マニプレータ10が作動し、これにより外科医が例えば、標的組織、正常な組織及びツール12、112を、同一のリアルタイム又はほぼリアルタイムの画像環境内にて視覚化することを可能にする。マニプレータ10、110がMR環境にて作動することを許容するため、マニプレータは、特定の金属、プラスチック、ガラス及びセラミックのような、MR画像法と適合可能な、すなわちMR画像法に適した(同画像法の実施に悪影響を与えない)材料にて全体が出来ていなければならない。更に、マニプレータにて使用される線形及び回転アクチュエータ20、22、24、26、120、122、124、126もMR画像法と適合可能でなければならない。この点に関して、超音波及び液圧アクチュエータの双方がMR適合可能であるという追加的に有利な効果を有する。X線画像法を行なう間、マニプレータ10、110を使用することを許容するため、マニプレータの特定の構成要素は、プラスチック、黒鉛、セラミック及びガラスのような放射線透過性材料にて出来たものとすることができる。アクチュエータと関係した位置エンコーダ及び力センサは、MR及び(又は)X線画像法と適合可能なものとすることもできる。位置暗号化及び力を検知する圧電歪み計に対して、例えば、マイクロE(MicroE)、レニショー(Renishaw)又はコンピュータオプティカルプロダクツ(Computer Optical Products)から商業的に入手可能なもののような光ファイバ接続した正弦−余弦光エンコーダを使用することができる。
【0050】
[0057] 上記の説明から、本発明は、マスタースレーブロボット式システムにて使用して操作者/外科医の技量を向上させることのできる軽量で且つ小型の患者に取り付け可能なマニプレータを提供するものであることが理解されよう。マニプレータを患者の身体に対して固定可能であることは、マニプレータに対する患者の意図しない動きに起因する外傷の可能性を実質的に少なくすることにより安全性を向上させる。更に、マニプレータを患者の身体に対して固定することは、手術前及び(又は)手術後の像に対して医療用ツールのトラッキングを容易にする極めて精密な機械的基準を提供する。マニプレータは、ツールの位置をリアルタイム又はほぼリアルタイム像に対して基準とすることを許容し得るようMR又はX線画像法を実行する間、作動可能な構造とすることができる。このように、本発明によるマニプレータが軽量、小型であること、及び、比較的大きい作業スペース内にてツールを6自由度まで作動させることが可能であるということは、本発明を例えば、神経外科手術、耳の外科手術、洞の外科手術及び脊椎の外科手術を含む任意の数の異なる医療方法にて使用するのに適したものにする。
【0051】
[0058] 特許、特許出願及び出版物を含む、本明細書にて引用した全ての文献は、その全体を参考として引用し本明細書に含めるものとする。
【0052】
[0059] 本発明は、好ましい実施の形態に特に重点的に説明したが、当該技術の当業者には、好ましい実施の形態の変形例を使用することができ、また、本発明は本明細書にて具体的に記載したもの以外の形態にて実行可能であることことを意図するものであることが明らかであろう。従って、本発明は、以下の特許請求の範囲により規定された本発明の思想及び範囲に包含される全ての改変例を含むものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の身体に医療処置を実行する方法において、
医療用ツールを少なくとも1自由度にて動かすことのできるマニプレータにより前記医療用ツールを支持する工程と、
マニプレータの座標基準フレームを規定し得るように前記マニプレータを前記患者の身体に対して支持する工程と、
マスターの座標基準フレームを規定し得るように接触型インターフェースを前記患者の身体に対して支持する工程と、
所望の患者の座標基準フレームを決定する工程と、
前記接触型インターフェースの座標基準フレーム、マニプレータの座標基準フレーム及び患者の座標基準フレームの互いに相対的な向きに関するデータを採取する工程と、
前記接触型インターフェースの入力装置の動きを通じて前記医療用ツールに対する動きの命令を入力する工程と、
前記動きの命令に基づいてマスターの座標基準フレームの動きの情報を生成する工程と、
前記相対的な向きのデータを使用して、マニプレータに対する動きの指令を発生させ得るように前記接触型インターフェースの座標基準フレームの動きを調節する工程と、
前記動きの指令を前記マニプレータに送信する工程と、を備える、患者の身体に医療処置を実行する方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法において、前記接触型インターフェース、マニプレータ及び患者の座標基準フレームの前記相対的な向きに関するデータを採取する前記工程は、少なくとも一部分、電磁トラッキング法を使用して実行される、方法。
【請求項3】
請求項1に記載の方法において、前記接触型インターフェース、マニプレータ及び患者の座標基準フレームの前記相対的な向きに関するデータを採取する前記工程は、少なくとも一部分、光三角測量法を使用して実行される、方法。
【請求項4】
請求項1に記載の方法において、前記接触型インターフェース、マニプレータ及び患者の座標基準フレームの前記相対的な向きに関するデータを採取する前記工程は、少なくとも一部分、三角測量法を使用して実行される、方法。
【請求項5】
請求項1に記載の方法において、前記所望の患者の座標基準フレームは、患者の身体組織に対して規定される、方法。
【請求項6】
請求項1に記載の方法において、前記所望の患者の座標基準フレームは、前記接触型インターフェースの座標基準フレームと同一の向きを有する、方法。
【請求項7】
患者の身体の一部分に医療処置を実行するときに使用されるマニプレータにおいて、
医療用ツールと、
前記医療用ツールを保持し、且つ、該医療用ツールが少なくとも1自由度にて動けるように該医療用ツールを動かす位置決め機構と、
前記位置決め機構に対する動きの命令を受け取り、且つ、該動きの命令に基づいて動きの情報を生成する接触型インターフェースと、
前記位置決め機構の座標基準フレームの向き及び前記接触型インターフェースの座標基準フレームの向きを検知する三次元的位置検知システムと、
前記接触型インターフェースからの前記動きの情報を受け取ると共に、前記位置決め機構の座標基準フレーム及び前記接触型インターフェースの座標基準フレームの検知された向き及び所望の患者の座標基準フレームの向きに基づいて動きの情報を調節し、且つ、該調節された動きの情報に基づいて前記位置決め機構により前記医療用ツールの動きを導くコントローラと、を備える、マニプレータ。
【請求項8】
請求項7に記載のマニプレータにおいて、前記位置検出システムは電磁トラッキング法を使用している、マニプレータ。
【請求項9】
請求項7に記載のマニプレータにおいて、前記位置検出システムは光三角測量法を使用している、マニプレータ。
【請求項10】
請求項7に記載のマニプレータにおいて、前記位置検出システムは三角測量法を使用している、マニプレータ。
【請求項11】
請求項7に記載のマニプレータにおいて、前記位置決め機構は、前記医療用ツールが6自由度にて動くように該医療用ツールを動かすことができる、マニプレータ。
【請求項12】
患者の身体に医療処置を実行する方法において、
医療用ツールを少なくとも1自由度にて動かすことのできるマニプレータにより前記医療用ツールを支持する工程と、
マニプレータの座標基準フレームを規定し得るように前記マニプレータを前記患者の身体に対して支持する工程と、
マスターの座標基準フレームを規定し得るように前記マスターを前記患者の身体に対して支持する工程と、
前記患者の身体組織に対する患者の座標基準フレームを決定する工程と、
前記マスターの座標基準フレーム、マニプレータの座標基準フレーム及び患者の座標基準フレームの互いに相対的な向きに関するデータを採取する工程と、
前記患者の座標基準フレームを規定するため使用される身体組織の動きをリアルタイムにて監視すると共に、前記患者の身体組織の動きに基づいて前記相対的な向きのデータをリアルタイムにて更新する工程と、
前記マスターの入力装置の動きを通じて前記医療用ツールに対する動きの命令を入力する工程と、
前記動きの命令に基づいてマスターの座標基準フレームの動きの情報を生成する工程と、
前記相対的な向きのデータを使用して、前記マニプレータに対する動きの指令を発生させ得るように前記マスターの座標基準フレームの動きを調節する工程と、
前記動きの指令を前記マニプレータに送信する工程と、を備える、患者の身体に医療処置を実行する方法。
【請求項13】
請求項12に記載の方法において、前記接触型インターフェース、マニプレータ及び患者のそれぞれの座標基準フレームの前記相対的な向きに関するデータを採取する前記工程は、少なくとも一部分、電磁トラッキング法を使用して実行される、方法。
【請求項14】
請求項12に記載の方法において、前記接触型インターフェース、マニプレータ及び患者のそれぞれの座標基準フレームの前記相対的な向きに関するデータを採取する前記工程は、少なくとも一部分、光三角測量法を使用して実行される、方法。
【請求項15】
請求項12に記載の方法において、前記接触型インターフェース、マニプレータ及び患者のそれぞれの座標基準フレームの前記相対的な向きに関するデータを採取する前記工程は、少なくとも一部分、三角測量法を使用して実行される、方法。
【請求項16】
請求項12に記載の方法において、前記身体組織は骨を含む、方法。
【請求項17】
患者の身体の一部分に医療処置を実行するときに使用されるマニプレータにおいて、
医療用ツールと、
前記医療用ツールを保持し且つ該医療用ツールが少なくとも1自由度にて動くように該医療用ツールを動かす位置決め機構と、
前記位置決め機構に対する動きの命令を受け取り、且つ、該動きの命令に基づいて動きの情報を生成する接触型インターフェースと、
前記位置決め機構の座標基準フレームの向きと、前記接触型インターフェースの座標基準フレームの向きと、患者の組織の位置とを検知する三次元的位置検知システムであって、前記患者の組織の位置をリアルタイムにて連続的に監視する前記三次元的位置検知システムと、
前記接触型インターフェースからの前記動きの情報を受け取ると共に、前記位置決め機構の座標基準フレーム及び前記接触型インターフェースの座標基準フレームの検知された向きと、前記患者の組織の前記リアルタイムの位置と、所望の患者の座標基準フレームの向きとに基づいて前記動きの情報を調節し、該調節された動きの情報に基づいて前記位置決め機構により前記医療用ツールの動きを指示するコントローラと、を備える、マニプレータ。
【請求項18】
請求項17に記載のマニプレータにおいて、前記位置検出システムは電磁トラッキング法を使用している、マニプレータ。
【請求項19】
請求項17に記載のマニプレータにおいて、前記位置検出システムは光三角測量法を使用している、マニプレータ。
【請求項20】
請求項17に記載のマニプレータにおいて、前記位置検出システムは三角測量法を使用している、マニプレータ。
【請求項21】
請求項17に記載のマニプレータにおいて、前記位置決め機構は、前記医療用ツールが6自由度にて動くように該医療用ツールを動かすことができる、マニプレータ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公表番号】特表2010−524634(P2010−524634A)
【公表日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−506280(P2010−506280)
【出願日】平成20年4月25日(2008.4.25)
【国際出願番号】PCT/US2008/005393
【国際公開番号】WO2008/134017
【国際公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【出願人】(501205795)マイクロデクステラティー・システムズ・インコーポレーテッド (4)
【Fターム(参考)】