説明

外部端子電極具備電子部品、その搭載電子用品及び外部端子電極具備電子部品の製造方法

【課題】室温及びヒートサイクル試験下でも錫めっき層にウィスカが発生、成長し難いようなその下地のめっき層を実現するとともに、それを煩雑で組成比の安定しない銅錫合金めっきしか得られない電解合金めっき方法ではなく、簡単な方法で実現できるようにする。
【解決手段】電子部品本体に外部端子電極を有する電子部品において、該外部端子電極は複数層を積層した積層体からなり、銅層と、錫を主成分とした錫含有層の最外層と、該最外層の内側に接触してCu:Sn=2.5〜3.5:1(原子比)の銅錫合金層又は銀を主成分とした銀含有層とを少なくとも有し、ニッケルを主成分とするニッケル含有層を有しない外部端子電極具備電子部品。銅層と錫含有層の積層体を加熱処理することによりCu:Sn=2.5〜3.5:1(原子比)の銅錫合金層を形成する外部端子電極具備電子部品の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、室温及びヒートサイクル試験( 高温と低温を繰り返す試験) でもウィスカが発生、成長し難く、また、これとともに「はんだ食われ」の現象を回避できるニッケルめっき層に代わる耐熱層を設けることができる外部端子電極を有する外部端子電極具備電子部品、その搭載電子用品及び外部端子電極具備電子部品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
積層コンデンサやチップ抵抗器等のチップ状電子部品は、プリント配線板や多層基板等に搭載されて使用されるが、それにはチップ状電子部品に外部端子電極を設け、プリント配線板や多層基板等にはんだ付け接続する。
外部端子電極は、コンデンサ本体、抵抗器本体等の電子部品本体の両端等の外壁に異なる材料を用いて複数層形成される。上記のはんだ付けのために、外部端子電極には、溶融はんだに接触したときに溶融して細る、いわゆる「はんだ食われ」を起こさない耐熱性や、溶融はんだに濡れ易い濡れ性が要求される。これを満たすには、異なる金属材料を積層するのが定法である。
【0003】
例えば上記の積層コンデンサにおいては、内部電極パターンを形成したグリーンシートを積層し圧着して得た圧着体を焼成し、その焼成体(コンデンサ本体)の両端に電極材料ペーストを付着させて焼き付けたり、あるいは内部電極パターンを形成したグリーンシートを積層し圧着して得た圧着体の両端に電極材料ペーストを付着させてから焼成し、コンデンサ本体に電極材料膜を形成する。この電極材料ペーストとしては、銀- パラジウム(Ag−Pd)粉末あるいはニッケル粉末等の酸化性のある金属材料粉末などの貴金属材料粉末を樹脂等に混合し、ペーストとしたものが用いられている。
コンデンサ本体に焼付形成したAg−Pdの電極材料膜に、ニッケル層、錫めっき層を順次積層した外部端子電極が最も一般的であるが、電解あるいは無電解めっきにより、ニッケルめっき層、銅めっき層及び錫めっき層を順次積層した外部端子電極(特許文献1)や、ニッケルめっき層、銅めっき層を設けず、その代わりにNi、Cu、Coのうちの少なくとも1種類とSnとからなるSn合金めっき層を設け、これと錫めっき層を積層した外部端子電極(特許文献2)が知られている。
【0004】
【特許文献1】特開2001−155955号公報
【特許文献2】特開2000−77253号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記の外部端子電極の最外層の錫めっき層表面には、その下地層のめっき層の種類により、室温において、また、ヒートサイクル試験下において、ウィスカ(Snの針状結晶状の髭)が発生し、成長し易いという問題がある。ウィスカは、例えば特に実装密度が高いプリント配線板に電子部品をはんだ付けするときに、電子回路の短絡を引き起こす恐れがあり、その発生の抑制が望まれる。
室温においては、錫めっき層のSnとその下地金属が相互拡散して体積変化が生じた場合に、特に体積が膨張して錫めっき層に圧縮応力が働いた場合にウィスカを発生し易く、ヒートサイクル試験下では、錫めっき層のSnと下地金属の熱膨張係数の差による体積膨張が錫めっき層に圧縮応力として働き、ウィスカを発生し易い。
上記の最も一般的なAg−Pdの電極材料膜にニッケル層、錫めっき層を順次積層した外部端子電極については、室温においては、Snと下地金属のNiの拡散は遅く、拡散しても体積変化による錫めっき層への圧縮応力が少ないので、ウィスカはほとんど発生しない。しかし、ヒートサイクル試験下では、Snと下地金属のNiの熱膨張係数が著しく異なるため、体積膨張が錫めっき層への圧縮応力として働き、ウィスカを発生し易い。
また、上記特許文献1に記載のAg−Pdの電極材料膜にニッケルめっき層、銅めっき層及び錫めっき層を順次積層した外部端子電極では、室温においても、錫めっき層のSnとその下地金属のCuが相互拡散し、Cu6Sn5(Cu:Sn=6:5(原子比)、以下これに準ずる)が形成され、この合金層の形成による体積変化(膨張)による錫めっき層への圧縮応力が働き、ウィスカが発生し、成長する。
上記特許文献1には、常温又は加温下自然放置により銅めっき層と錫めっき層の界面にそれぞれの無鉛金属が相互拡散して錫銅合金層(拡散層)が形成され、電解錫めっき層の融点を下げることが記載されているが、参考文献(社団法人、電子情報技術産業協会(JEITA)「ウィスカ試験方法分科会」「試験方法のためのウィスカ成長メカニズム」(2003.12))によれば、図1(訳文を付加する等一部編集してある)に示すように、Cu3Snの錫銅合金は室温では形成されず、60℃未満でも形成され難く、不十分であるだけではなく、Cu6Sn5の錫銅合金がその10倍近く(両縦軸の目盛りが異なる)も形成される。60℃以上100℃未満では、Cu3SnとCu6Sn5とが競合的に形成されるが、Cu6Sn5の割合が多くなる(例えば80℃では5倍)ことを避けることができない。
このように、Cu6Sn5が割合的に多く発生すると、上記のウィスカの発生、成長の抑制効果がなくなり、室温環境においてもウィスカが発生し易いだけではなく、高温と低温に繰り返し曝すヒートサイクル試験下でもそのウィスカの発生、成長を十分には抑制できない。
【0006】
また、上記特許文献2では、表2には表1に示された電解めっき条件により電解めっきを施した場合のSn/Cu合金組成が示され、これには「Snに対する合金金属の含有率(wt%)」として、Cuを0.1〜100まで7段階に変化させた場合に、Cu:50だけがウィスカ発生無しとあり、その前後のものはウィスカの長さが50μm未満とあり、それよりCuが多過ぎても、少なすぎてもウイスカの長さはより長くなることが示されているが、このような電解合金めっき方法では、Cu−Snの組成比は、めっき浴成分の濃度比率、温度、電流密度で変動し、例えば上記のCu:50(wt%)の銅錫合金層を形成しようとしても、そのめっき条件の管理が煩雑で、安定した組成比の合金膜を作り難いという問題がある。なお、上記特許文献1(出願人は本件特許出願人)の〔0011〕段落には、「メッキ浴に安定性がない錫合金の場合には、メッキ層を形成してもその金属比率が変動し易く、融点が安定しないというような問題」とある。
【0007】
また、上記特許文献1では、電解ニッケルめっき層を設け、これをバリアー層にして、はんだ付け時に溶融はんだがAg−Pdの電極材料膜を浸食する、いわゆる「はんだ食われ」の現象をより良く回避できるとしており、上記特許文献2では、上記した表2には、「耐Ag喰われ性」はCu:0.1(×)、0.5(○)、1.0、50、75、100(いずれも◎)(下地層のAgペーストの焼付膜のAgの面積の残存が全体の50%未満を×、50%以上75%未満を△、75%以上90%未満を○、90%以上を◎としている。)のSn/Cu合金層により改善できるとしている。
しかしながら、上記特許文献2のものでは、実際の実験では、JIS C60068−2−58:2006,8.2.1項の電極の耐はんだ食われ性試験を満足できない。なお、Sn/Cu合金は純銅より融点が低く、その改善にはなり難い。
これらのことから、「はんだ食われ」の現象を回避するバリアー層としての耐熱層を設けるためには、特許文献1のものではウィスカの発生の抑制をし難いニッケルめっき層に代わる耐熱層を、また、特許文献2のものではSn/Cu合金層より優れる耐熱層を設ける工夫が望まれる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、鋭意研究の結果、錫めっき層の内側に銅めっき層を形成し、特定の加熱処理をすれば、両層の界面にCu3 Snの銅錫合金層が選択的に形成され、また、そのCu3 Snの銅錫合金層の代わりに銀層を設ければ、Cu3 Snの銅錫合金層あるいは銀層は錫めっき層とは熱膨張係数の値に大きな相違がなく、Cu3 Snの銅錫合金層は体積変化も収縮であり、ヒートサイクル試験では特に、また室温においても、錫めっき層にウィスカの発生が抑制されることを見出し、また、「はんだ食われ」を回避する耐熱層としては、厚さが少なくとも10μmの銅層を設ければよいことを見出し、本発明をするに至った。
したがって、本発明は、(1)、電子部品本体に外部端子電極を有する電子部品において、該外部端子電極は複数層を積層した積層体からなり、銅層と、錫を主成分とした錫含有層の最外層と、該最外層の内側にCu:Sn=2.5〜3.5:1(原子比)の銅錫合金層又は銀を主成分とした銀含有層とを少なくとも有する外部端子電極具備電子部品を提供するものである。
また、本発明は、(2)、電子部品本体に外部端子電極を有する電子部品において、該外部端子電極は複数層を積層した積層体からなり、該電子部品本体に直接設けられた金属材料ペーストを焼付した膜と、銅層と、錫を主成分とした錫含有層の最外層と、該最外層の内側にCu:Sn=2.5〜3.5:1(原子比)の銅錫合金層又は銀を主成分とした銀含有層とを少なくとも有する外部端子電極具備電子部品、(3)、Cu:Sn=2.5〜3.5:1(原子比)の銅錫合金層の厚さが0.05μm〜0.55μmである上記(1)又は(2)の外部端子電極具備電子部品、(4)、Cu:Sn=2.5〜3.5:1(原子比)の銅錫合金層は銅層と錫含有層との界面に加熱処理により形成した銅錫合金層である上記(1)ないし(3)のいずれかの外部端子電極具備電子部品、(5)、銅層の厚さが少なくとも10μmである上記(1)ないし(4)のいずれかの外部端子電極具備電子部品、(6)、電子部品本体に外部端子電極を有する電子部品の製造方法において、該外部端子電極は該電子部品本体に銅層を形成する工程と、該銅層上に錫を主成分とした錫含有層の最外層を形成する工程と、該銅層と該錫層を加熱処理することにより両層の界面にCu:Sn=2.5〜3.5:1(原子比)の銅錫合金層を形成する工程とを少なくとも有する外部端子電極具備電子部品の製造方法、(7)、電子部品本体に外部端子電極を有する電子部品の製造方法において、該外部端子電極は該電子部品本体に金属材料ペーストの塗布膜の焼付膜を形成する工程と、銅層を形成する工程と、該銅層上に錫を主成分とした錫含有層の最外層を形成する工程と、該銅層と該錫層を加熱処理することにより両層の界面にCu:Sn=2.5〜3.5:1(原子比)の銅錫合金層を形成する工程とを少なくとも有する外部端子電極具備電子部品の製造方法、(8)、加熱処理が120〜180℃、30分〜6時間である上記(6)又は(7)の外部端子電極具備電子部品の製造方法、(9)、上記(1)ないし(5)のいずれかの外部端子電極具備電子部品をプリント配線板にはんだによりはんだ付けした外部端子電極具備電子部品搭載電子用品を提供するものである。
なお、上記(1)、(2)において、「該最外層の内側に」を「該最外層の内側に接触(連続)して」としてもよく、「ニッケルを主成分とするニッケル含有層を有しない」を追加してもよく、この追加とともに又は単独で「室温及びヒートサイクル試験において錫含有層表面にウィスカが発生しないかその長さが50μm未満である外部端子電極を有する」を追加してもよく、その際、「ウィスカが発生しないかその長さが50μm以下である」を、「ウィスカの長さが最長でも20μm〜50μmである」あるいは「ウィスカの長さが0〜20μm未満である」としてもよい。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、室温及びヒートサイクル試験でもウィスカが発生、成長し難く、しかもこれを熱処理という簡単な手段で達成でき、また、これとともに「はんだ食われ」の現象を回避できるニッケルめっき層に代わる耐熱層を設けることができる外部端子電極具備電子部品、その搭載電子用品及び外部端子電極具備電子部品の製造方法を提供することができる。
そして、ウィスカ発生の抑制効果が安定して得られ、性能がよく比較的簡単に安価に得られる外部端子電極具備電子部品、その搭載電子用品及び外部端子電極具備電子部品の製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、「銅層」とは銅の電解めっき層、無電解めっき層のいずれかあるいはその両方でもよく、電子部品本体に直接銅の無電解めっきを行ってこれらの銅層を形成してもよく、Ag、Pd、Ag−Pd等の貴金属材料粉末、Cu、Ni等の金属材料粉末ぺーストの塗布膜の焼付膜を介してこれらの銅層を形成させてもよい。
「錫を主成分とした錫含有層」とは、錫層又は錫が50atom%を超える錫合金層である。
【0011】
「Cu:Sn=2.5〜3.5:1(原子比)の銅錫合金層」は、合金としてはCu3Snとして同定される銅錫合金層であり、その厚さは0.05μm〜0.55μm、好ましくは0.1μm〜0.3μmである。その厚さが0.05μm未満ではウィスカの発生を抑制でき難く、0.55μmを超えるとCu3Snとして同定される銅錫合金層を形成するための加熱処理条件(温度、時間等)が厳しくなり易い。
Cu3Snの銅錫合金層を形成するには、めっき浴中における銅イオンと錫イオンの比率、電流密度、通電時間等のめっき条件を調整することにより銅錫合金の電解めっきにより形成させることもできるが、Cu3Snを安定的に形成するためのめっき条件の管理を徹底することが難しいので、銅層に錫含有層を積層した状態で加熱処理をするだけの比較的簡単な方法でCu3Snの銅錫合金層を安定的に得られる加熱処理方法が好ましい。
加熱処理方法としては、銅層に錫含有層を積層して得られる加熱処理前の外部端子電極を有する製品化前の電子部品を120〜180℃、30分〜6時間、好ましくは140〜160℃で例えば150℃、45分〜75分で例えば1時間、大気中あるいは窒素ガスや不活性ガス等の非酸化性雰囲気中において加熱処理すればよい。大気中で加熱処理する場合には、処理温度が高過ぎ、処理時間が長過ぎると錫含有層の最外層に錫の酸化が進行し、はんだ付け時に溶融はんだが濡れ難い、いわゆる「はんだ不濡れ」が生じる恐れがある。処理温度が低過ぎ、処理時間が短過ぎると、Cu3Snの形成が不十分でウィスカの発生の抑制効果が低下ないしは無くなる。
【0012】
「銀を主成分とした銀含有層」とは、銀層又は銀が50atm%を超える銀合金層が含まれる。「ニッケルを主成分とするニッケル含有層を有しない」とは、上記の各合金層の合金にニッケルを微量含む程度はよいが、例えばニッケル層あるいはニッケルが50atm%を超えるニッケル合金層は設けないということである。これは、ニッケル層を設けると、ニッケルと錫の熱膨張係数の差が大きいので、ヒートサイクル試験下でウィスカが発生し易くなるのを避けるためである。ニッケル層を設けない場合は、「はんだ食われ」を起こさない耐熱性を持つために銅層を10μm以上(少なくとも10μm、以下これに準ずる)の厚さとすることが好ましい。その耐熱性は銅層の厚さが10μmであれば、JIS C60068−2−58:2006,8.2.1項の「電極の耐はんだ食われ性試験」を満足する。なお、銅錫合金層は一般には錫より融点が低くなるので、この耐熱性のためには役立たない。
【実施例】
【0013】
以下に実施例を述べるが、本発明はこれらに限られるものではない。
実施例1
チタン酸パリウムを主成分とする誘電体セラミック材料とバインダー等からなるセラミックスラリーをポリエチレンテレフタレートフィルム(PETフィルム)等の平坦面に塗布してセラミックグリーンシートを複数枚作製し、これにPdの粉末、バインダー等からなる導電ペーストを塗布して内部電極パターンを一定間隔毎に多数形成する。次に、これら内部電極パターンを形成した内部電極付きグリーンシートを順次重ねて圧着し、ついで重ねた各内部電極パターン毎に裁断する。この際内部電極パターンはその一端部のみを交互に反対側の端面に導出するようにする。
このようにして得られた直方体の積層圧着体の個別片の一端部を、Ag−Pd粉末、チタン酸バリウムを主成分とする誘電体セラミック材料粉末、バインダー等からなりα−ターピネオール等の有機溶剤を使用して混合した粘度100ポイズ(25℃)の電極材料ペーストを平滑な板の上に0.4mmの厚さに塗布した塗布層に、垂直になるように浸漬させ、ゆっくり引き上げ、乾燥させる。個別片の他端部についても同様に処理する。
得られた電極材料ペースト膜付個別片を焼成し、電極材料膜付積層セラミックコンデンサ(1.6mm×0.8mm×0.8mm)(電極材料膜の膜厚15μm)を得た。
【0014】
次に、Cu塩水溶液の銅のめっき浴中、50℃、0.4A/dm2 、120分通電するバレルめっきを行ない、上記の電極材料膜上に銅の電解めっき膜(10μm)を形成する。この後、上記の銅の電解めっきを行った試験片を上記の銅のめっきを行なったと同様のバレルに投入し、Sn塩水溶液中、室温、0.1A/dm2 、60分間通電するバレルによる錫の電解めっき(膜厚3μm)を行なった。
これにより、図2に示すように、セラミック本体1に、焼付膜のセラミック材料粉末を含むAg−Pdの電極材料膜2、電解銅めっき層3及び電解錫めっき層4を順次積層した加熱処理前の外部端子電極5を有する積層セラミックコンデンサ(以下、「加熱処理前の積層セラミックコンデンサ」という。)が得られる。
【0015】
(加熱処理によるCu3 Snの銅錫合金層の形成)
この加熱処理前の積層セラミックコンデンサを大気中、150℃で0〜6時間まで加熱処理を行なった。30分後、1時間後、6時間後にそれぞれを加熱処理して得られた加熱処理後の積層セラミックコンデンサの外部端子電極( 実施例1−1、1−2、1−3)について、断面をしらべたところ、図3(図2の四角枠Aの拡大図)に示すように、電解銅めっき層3及び電解錫めっき層4の界面(図2では四角枠Aだけではなく界面全周)にCu2.6 〜3.3 Snの銅錫合金層6がSEM(走査型電子顕微鏡)により観察された。この銅錫合金層がCu2.6 〜3.3 Snと同定されることは、EDX(エネルギー分散型X線分析装置)より同一試料で2箇所測定したところ、下記表1に示す結果が得られたことからわかる。
エネルギー分散型X線分光器:Thermo ELECTRON社製NSS300
極低加速走査型電子顕微鏡:ZEISS社製 ULTRA55
【0016】
表1から、Cu/Sn(Cu:Snの原子比)は2.6〜3.3(Cu2.6 〜3.3 Sn)であり、ほぼ3.0が中心であり、この銅錫合金層はCu3Snと同定される。なお、実質的にはCu2.5〜3.5SnがCu3Snと同定される。
図5に示すように、150℃の一定温度での加熱処理により、Cu3 Snの銅錫合金層の厚さ(Cu3 Snの厚さ(nm))が熱処理時間(hr)とともに増加する。その厚さは、表1 に示すように、上記した30分、1時間、6時間それぞれ加熱処理のもの(実施例1−1、1−2、1−3)が順に、174nm、212nm、534nmである。この図5から、大気中での150℃の一定温度での加熱処理では、30分〜6時間が好ましく、6時間を超えると、電解錫めっき層4の表面の酸化が進行し、はんだ付けの際に溶融はんだにより濡れにくくなる、いわゆる「はんだ不濡れ」を起こす恐れがある。しかし、窒素ガス等の非酸化性雰囲気中ではその制限はなく、Cu3 Snの銅錫合金層を最大錫めっき層全厚さに到るまでさらに厚くできる。また、30分未満であると、Cu3Snの銅錫合金層の形成が不十分で、ウィスカの発生の抑制効果が不十分で、その効果がなくなるようになる。
【0017】
比較のために、上記した加熱処理前の積層セラミックコンデンサ(比較例1−1)を、めっき後室温1ケ月放置し、実施例1−1〜1−3の加熱処理後の積層セラミックコンデンサと同様にSEM分析、EDX分析したところ、表1に示す結果が得られた。なお、銅錫合金層 (Cu6Sn5) は厚さの386nmは実測値である。
【0018】
【表1】

【0019】
(恒温、ヒートサイクル試験におけるウィスカの発生、成長について)
上記の加熱処理後の積層セラミックコンデンサ(30分、1時間、6時間加熱処理のもの)( 実施例1−1、1−2、1−3)と、上記の加熱処理なしのもの(比較例1−1))と、さらに上記の外部端子電極の形成において銅の電解めっきを行わず、その代わりにニッケル塩水溶液中、50℃、0.2A/dm2 、60分間通電するバレルめっきによるニッケルの電解めっき(膜厚2μm)を行なったこと以外は同様にして得られる積層セラミックコンデンサ( 加熱処理なし) (比較例1−2)とについて、それぞれの試験片におけるウィスカの発生、成長について以下に示す条件で試験を行った結果を表2に示す。
(恒温試験) 30℃、60%相対湿度下に1000時間放置し、外部端子電極の表面を前述したSEMにより観察し、最長ウィスカの長さを測定し、その結果を表2に示す。
(ヒートサイクル試験)
温度変化試験(JIS C 0025Na)に従って、各試験片を−40℃から85℃、さらに85℃から−40℃を1サイクルとして1000サイクル、温度変化に曝した後、外部端子電極の表面を前述のSEMにより観察し、最長ウィスカの長さを測定し、その結果を表2に示す。
(ウィスカの長さの評価)
最長ウィスカの長さを次の基準で評価した結果を表2に示す。
○:20μm未満
△:20μm以上、50μm未満
×:50μm以上
【0020】
【表2】

【0021】
表2から、比較例1−1の加熱処理前の積層セラミックコンデンサの外部端子電極( 銅層と錫層を積層したもので、加熱処理なしのもの) は、「恒温試験」では「最長ウィスカの長さ評価」は「×」であって、最長ウィスカの長さが「50μm以上」であり、比較例1−2の積層セラミックコンデンサの外部端子電極( ニッケル層と錫層を積層したもの) では、「ヒートサイクル試験」では「最長ウィスカの長さ評価」は「△」であって、最長ウィスカの長さが「20μm以上50μm未満」であるのに対し、実施例1−1〜1−3の製品の積層セラミックコンデンサの外部端子電極(銅層と錫層を積層したもので加熱処理ありのもの)は、「恒温試験」、「ヒートサイクル試験」のいずれも「最長ウィスカの長さ評価」は「○」であって、最長ウィスカの長さが「20μm未満」であり、両方の試験に優れるのは実施例のものであることがわかる。
実施例1−1〜1−3の加熱処理後の積層セラミックコンデンサの外部端子電極は、加熱処理によりCu3 Snの銅錫合金層が形成されるので、室温の場合は勿論のこと、ヒートサイクル試験下でもウィスカの発生、成長が抑制されるのに対し、比較例1−1のものは、Cu6Sn5の銅錫合金層が形成されることにより、ヒートサイクル試験でも、また、室温では特に、ウィスカの発生、成長を抑制し難く、比較例1−2のものは、ニッケル層と錫層の熱膨張係数の差による影響が現れて、ヒートサイクル試験ではウィスカの発生、成長を抑制し難いことが窺われる。
【0022】
実施例2
(「はんだ食われ」を起こさない耐熱性の付加)
実施例1において、銅の電解めっきについて、Cu塩水溶液中、50℃、0.4A/dm2 で、通電時間を変えることによりバレルめっきを行ない、上記の電極材料膜上に銅の電解めっき膜を3〜10μm未満の厚さ(参考例)、10〜12μmの厚さ(実施例2)を形成すること以外は同様にして、積層セラミックコンデンサ(150℃、1時間加熱処理のもの)を得た。なお、比較のため、上記比較例1−2の積層セラミックコンデンサも用意した。
(「はんだ食われ」を起こさない耐熱性の試験)
上記の参考例、実施例2、上記比較例1−2(ニッケル層に錫層を積層したもので、ニッケルめっき膜の膜厚が2μmのもの)のそれぞれの積層セラミックコンデンサについて、次の試験を行った結果、表3が得られた。
(はんだの)ディップ試験(単品ディップ試験条件) JIS C60068−2−58:2006,8.2.1項に準じ、外部端子電極にフラックス(ロジン25%溶液)処理した後、はんだ(Sn−3Ag−0.5Cu)を260℃、30秒間浸漬した後、外部端子電極の断面から電解銅めっき層の厚さ(Cu膜厚(μm))と、電極材料膜(Ag−Pdの電極材料膜)についてその元の面積の浸食された割合の「クワレ発生率」との関係を求め、下記のように評価した。なお、サンプル数は10個とし、その平均を求めた。
(クワレ評価)
◎:はんだに食われずに残っている外部電極の面積が全体の90%以上
○:はんだに食われずに残っている外部電極の面積が全体の75%以上90%未満 △:はんだに食われずに残っている外部電極の面積が全体の75%未満
【0023】
【表3】

【0024】
表3から、はんだのディップ試験では、実質的には銅膜厚が10.0μm以上(少なくとも10μm)(実施例2)で、「はんだ食われ」を起こさない耐熱性はあるということができる。これは、ニッケルめっき膜の膜厚が2μmのもの(比較例1−2)に匹敵する耐熱性であるということができる。なお、銅錫合金は電解めっきの錫より通常は融点が低く、その銅錫合金層の形成だけではかえって「はんだ食われ」耐熱性を低下させることがある。
なお、銅膜厚が6.0μm以上(少なくとも6μm)でもよい場合があるので、上記(6)の発明において、「銅層の厚さが少なくとも10μmである」を、「銅層の厚さが少なくとも6μmである」としてもよく、また、「銅層の厚さが10μm以上で15μmでもよく」(経済性の点からその上限を設ける)としてもよい。
【0025】
実施例3
図4に示すように、実施例1と同様に電解銅めっき層3を形成した後、Ag塩水溶液中、室温、0.1A/dm2 、30分のバレルめっきを行って電解銀めっき層7(膜厚1.5μm)を形成し、それから実施例1と同様に電解錫めっき層4を形成し、加熱処理をしないこと以外は実施例1と同様にして外部端子電極8を形成した積層セラミックコンデンサを得た。
この外部端子電極では、電解銀めっき層7が実施例1、2のCu3 Snの銅錫合金層の代わりに用いられている。
この製品の積層セラミックコンデンサについても、上記と同様に「恒温試験」、「ヒートサイクル試験」を行ない、上記と同様に外部端子電極8の表面を調べた結果を表2に示す。
表2から、実施例3の製品の積層セラミックコンデンサの外部端子電極は、加熱処理によるCu3 Snの銅錫合金層の代わりに、電解銀めっき層を設けたので、室温の場合は勿論のこと、ヒートサイクル試験でもウィスカの発生、成長が抑制されることがわかる。 なお、電解銅めっき層の厚さに対する「はんだ食われ」の耐熱性の関係は表3と同様である。
【0026】
上記のようにして得られた製品の積層セラミックコンデンサ等の外部端子電極具備電子部品は、例えばプリント配線板のはんだ付けランドに、従来と同様のリフローはんだ付け方法、噴流はんだ付け方法によりはんだ付けされて使用され、この外部端子電極具備電子部品を搭載したプリント配線板の電子用品が得られる。
このプリント配線板に電子部品をはんだ付けする際に使用されるはんだとしては、有鉛はんだ、無鉛はんだのいずれも使用できる。無鉛はんだとしては、SnとAg、Sb、Bi又はAuとの2元合金、Sn−Cu−Ag等3元合金等が挙げられる。これらの無鉛はんだの溶融はんだが上記の外部端子電極に接触すると、最外層の電解錫めっき層を介し、あるいは銅錫めっき層がその表面まで形成されている場合には直接にこの融点の低い銅錫層が溶融し、溶融はんだの濡れを良くし、溶融金属同士は混ざり合いがよいので、その冷却後はそのはんだ付け強度を向上させることができる。なお、上記実施例1、2や本発明における最外層の錫層は錫合金でもよく、その錫合金としては上記のプリント配線板に電子部品をはんだ付けする際に使用される無鉛はんだであってもよいがこれらに限らない。
【0027】
上記の例は、電解銅めっき、電解銀めっきを採用したが、無電解銅めっき、無電解銀めっきを採用してもよい。また、上記の積層圧着体を焼成し、その焼成体の個別片に上記の電極材料膜を設けてもよいが、これを設けることなく、無電解銅めっき膜、以下上記と同様にしてもよい。錫の電解めっきも無電解めっきでもよく、いずれのめっきの場合も錫は無鉛の錫合金でもよいが、錫めっきの場合にはめっき浴の安定性が錫合金より優れ、めっき浴に安定性がない錫合金の場合には、めっき層を形成してもその金属比率が変動し易く融点が安定しないというような問題がない点では好ましい。錫めっき層の代わりに錫の合金層を最外層に設ける場合には、融点の低い錫の合金層を設けてもよい。
なお、上記実施例は積層セラミックコンデンサの外部端子電極について述べたが、他の積層複合電子部品(チップ状LC複合部品)、その他の電子部品(チップ状インダクタ、チップ状サーミスタ、各種アレイ等)についても外部端子電極を有するものについては同様に適用できるか、あるいは準用できる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】組成の異なる2種類の銅錫合金について加熱温度による生成割合変化を示すグラフである。
【図2】本発明の一実施例の加熱処理前の積層コンデンサの断面図である。
【図3】その加熱処理後の積層コンデンサの図2のAの拡大断面図である。
【図4】本発明の他の実施例の積層コンデンサの断面図である。
【図5】本発明の外部端子電極具備電子部品の製造方法の一実施例によるCu3Sn合金厚さと熱処理時間の関係を示すグラフである。
【符号の説明】
【0029】
1 セラミック本体
2 電極材料膜
3 電解銅めっき層
4 電解錫めっき層
5 外部端子電極
6 銅錫合金層
7 電解銀めっき層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子部品本体に外部端子電極を有する電子部品において、該外部端子電極は複数層を積層した積層体からなり、銅層と、錫を主成分とした錫含有層の最外層と、該最外層の内側にCu:Sn=2.5〜3.5:1(原子比)の銅錫合金層又は銀を主成分とした銀含有層とを少なくとも有する外部端子電極具備電子部品。
【請求項2】
電子部品本体に外部端子電極を有する電子部品において、該外部端子電極は複数層を積層した積層体からなり、該電子部品本体に直接設けられた金属材料ペーストを焼付した膜と、銅層と、錫を主成分とした錫含有層の最外層と、該最外層の内側にCu:Sn=2.5〜3.5:1(原子比)の銅錫合金層又は銀を主成分とした銀含有層とを少なくとも有する外部端子電極具備電子部品。
【請求項3】
Cu:Sn=2.5〜3.5:1(原子比)の銅錫合金層の厚さが0.05μm〜0.55μmである請求項1又は2に記載の外部端子電極具備電子部品。
【請求項4】
Cu:Sn=2.5〜3.5:1(原子比)の銅錫合金層は銅層と錫含有層との界面に加熱処理により形成した銅錫合金層である請求項1ないし3のいずれかに記載の外部端子電極具備電子部品。
【請求項5】
銅層の厚さが少なくとも10μmである請求項1ないし4のいずれかに記載の外部端子電極具備電子部品。
【請求項6】
電子部品本体に外部端子電極を有する電子部品の製造方法において、該外部端子電極は該電子部品本体に銅層を形成する工程と、該銅層上に錫を主成分とした錫含有層の最外層を形成する工程と、該銅層と該錫層を加熱処理することにより両層の界面にCu:Sn=2.5〜3.5:1(原子比)の銅錫合金層を形成する工程とを少なくとも有する外部端子電極具備電子部品の製造方法。
【請求項7】
電子部品本体に外部端子電極を有する電子部品の製造方法において、該外部端子電極は該電子部品本体に金属材料ペーストの塗布膜の焼付膜を形成する工程と、銅層を形成する工程と、該銅層上に錫を主成分とした錫含有層の最外層を形成する工程と、該銅層と該錫層を加熱処理することにより両層の界面にCu:Sn=2.5〜3.5:1(原子比)の銅錫合金層を形成する工程とを少なくとも有する外部端子電極具備電子部品の製造方法。
【請求項8】
加熱処理が120〜180℃、30分〜6時間である請求項6又は7に記載の外部端子電極具備電子部品の製造方法。
【請求項9】
請求項1ないし5のいずれかに記載の外部端子電極具備電子部品をプリント配線板にはんだによりはんだ付けした外部端子電極具備電子部品搭載電子用品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−141292(P2009−141292A)
【公開日】平成21年6月25日(2009.6.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−319092(P2007−319092)
【出願日】平成19年12月11日(2007.12.11)
【出願人】(593135365)太陽化学工業株式会社 (15)
【Fターム(参考)】