説明

多孔質光触媒体の製造方法及び多孔質光触媒体並びに浄化装置

【課題】 高い化学的安定性及び機械的強度を有するとともに、光触媒作用を効率よく発揮させることができる光触媒体及びこれの製造方法、並びにこのような光触媒体を用いた浄化装置を提供する。
【解決手段】 少なくとも、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体を作製し、該多孔質シリカガラス担体の表面に、光触媒となる材料の被膜を形成する処理を行う多孔質光触媒体の製造方法、及び、少なくとも、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体と、前記多孔質シリカガラス担体の表面に形成された、光触媒となる材料の被膜とからなる多孔質光触媒体、並びに、少なくとも、反応器と、該反応器内に収容された、上記の多孔質光触媒体と、紫外線ランプとを具備し、前記紫外線ランプで前記多孔質光触媒体に紫外線を照射しながら、前記多孔質光触媒体に被処理物を通過させ、光触媒作用によって該被処理物を浄化処理する浄化装置。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光触媒材料が多孔質の担体に担持された多孔質光触媒体及びこれの製造方法、並びにこれを具備する浄化装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、可視光ないし紫外光照射下の光触媒により水や空気を浄化する技術が知られている。光触媒としては、酸化物半導体、特に酸化チタン(TiO)は優れた触媒作用があり化学的に安定であり、溶出して環境汚染する可能性の低い安全な化合物であることが知られている。
【0003】
酸化チタンの光触媒作用を利用して各種の環境汚染物質の分解除去が行われている。例えば、水の浄化、又は水中のアンモニア、アルデヒド類、アミン類等の悪臭物質の分解、更に菌類の殺菌、藻類の殺藻等に利用されている。
空気やガスの処理については、例えば、トイレの尿臭、ペットの臭い、煙草の臭い等の悪臭物質の分解、又は焼却炉から排出される窒素化合物、硫化化合物、ダイオキシン等の環境汚染物質の分解除去においても酸化チタンの光触媒作用が使われている。
【0004】
酸化チタンを各種用途の光触媒として使用する場合、他の無機材料を担体として、それに担持させることが一般的である。なお、本明細書中においては、担体と該担体に担持させた光触媒材料とからなる複合体を単に「光触媒体」と呼ぶ。
その中で、光触媒体を多孔質形状とし、光触媒材料が被処理物と接触できる比表面積を大きくすることにより、光触媒作用を効率良く発揮させるための試みが多々なされている。
【0005】
例えば特許文献1には、陶磁器、セメント、発泡コンクリート、レンガ、シリカ、アルミナ、ジルコニア、炭化ケイ素、窒化ケイ素、チタン酸バリウム等を主体とするセラミックス多孔体が担体として好ましいことが開示されている。この公報において多孔体と記述されているものは、上記各種無機材料をジョークラッシャー等の粉砕機により破砕し数mm〜数十mm、典型的には1〜100mmの細片状若しくは粒状にしたものである。
【0006】
また、別の例として、特許文献2において活性炭、ゼオライト、シリカゲル、アルミナ、パーライト、多孔質ガラスが担体として用いられており、特に活性炭が好ましい旨が開示されている。活性炭の製造方法として、椰子殻を乾燥して微粉を除いた活性炭原料をロータリーキルン(550〜650℃)中に投入し、赤熱した状態で水蒸気、炭酸ガス(燃焼ガス中のCO)及び酸素(燃焼空気中のO)の混合雰囲気にて、温度850〜950℃で活性化処理することにより、粒状の活性炭としている。
【0007】
その他、例えば、特許文献3〜7等において、各種多孔質担体に光触媒材料を担持させる態様が記載されている。
【0008】
しかしながら、これらのような従来の多孔質光触媒体は、比表面積を大きくするために多孔質としているにも関わらず、その大きな比表面積から期待されるほどの処理能力が得られていなかった。また、これらのような従来の多孔質光触媒体は、一般に、耐熱性、耐薬品性、化学的安定性等が低く、また、機械的強度が弱い等の問題があり、長期間の使用や、特には、過酷な条件下での使用には耐えられなかった。
また、不純物が多く含まれる場合、例えば水の浄化においては、担体の不純物元素含有量が多くまた化学安定性が低いために、浄化した水にこれら担体に含有される不純物元素が溶出して混入することが多々起こる。あるいは空気の浄化においては、担体の不純物元素含有量が多くまた担体が破砕された粉体であるために、浄化した空気にこれら担体に含有される不純物元素含有微粉末が混入することが多々起こる。特に、処理する気体が高温で腐蝕性ガスを含んでいる場合には、担体が劣化することにより2次的不純物が発生してしまう。
【0009】
【特許文献1】特開2004−230301号公報
【特許文献2】特開2006−110470号公報
【特許文献3】特開2004−305883号公報
【特許文献4】特開2003−181475号公報
【特許文献5】特開2002−35551号公報
【特許文献6】特開2001−232206号公報
【特許文献7】特開2001−170453号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は前述のような問題に鑑みてなされたもので、高い化学的安定性及び機械的強度を有するとともに、光触媒作用を効率よく発揮させることができる光触媒体及びこれの製造方法、並びにこのような光触媒体を用いた浄化装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、少なくとも、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体を作製し、該多孔質シリカガラス担体の表面に、光触媒となる材料の被膜を形成する処理を行うことを特徴とする多孔質光触媒体の製造方法を提供する(請求項1)。
【0012】
このように、少なくとも、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体を作製し、該多孔質シリカガラス担体の表面に、光触媒となる材料の被膜を形成する処理を行う多孔質光触媒体の製造方法であれば、多孔質担体として、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体を用いることにより、高い光透過性と機械的強度を有する多孔質光触媒体とすることができる。従って、紫外線の内部への透過性が高い多孔質光触媒体とすることができ、紫外線による光触媒作用を効率よく発揮させることができる。
また、このように高い光透過性と機械的強度を有すると同時に、連続気泡を有する多孔質担体に光触媒材料が担持された多孔質光触媒体とすることができるので、光触媒体中の通気性及び通水性が高く、光触媒材料と被処理物とが接触することができる比表面積を大きいものとすることができ、光触媒作用を効率よく発揮させることができる。
【0013】
また、上記のような多孔質光触媒体の製造方法であれば、純度の高いシリカガラスからなる多孔質担体を有する多孔質光触媒体を容易に製造することができる。
そして、このように高純度の多孔質シリカガラス担体を有する多孔質光触媒体とすることができるので、化学的安定性が高く、耐熱性が高い多孔質光触媒体とすることができる。また、金属不純物等の影響により発生する再結晶化などによるシリカガラスの劣化(いわゆる「失透」)を効果的に防止することができる。
また、純度の高いシリカガラスからなる多孔質担体を有する多孔質光触媒体とすることができるので、紫外線の内部への透過性がより高い多孔質光触媒体とすることができ、紫外線による光触媒作用を効率よく発揮させることができる。
【0014】
この場合、前記連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体の作製を、少なくとも、OH基を100〜1500wt.ppm含有する合成シリカ微粉を準備する工程と、該合成シリカ微粉を、アンモニア(NH)ガス含有雰囲気中で800〜1300℃にて加熱することによりアンモニア処理する工程と、該アンモニア処理を行った合成シリカ微粉を、1400〜1800℃にて加熱することにより溶融発泡させて、独立気泡を有するシリカガラス発泡体とする工程と、該独立気泡を有するシリカガラス発泡体に、該独立気泡の少なくとも一部を連通させる浸食処理を行って、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体とする工程とにより行うことができる(請求項2)。
【0015】
また、前記連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体の作製を、少なくとも、ケイ素化合物を原料として、火炎加水分解法により、OH基を100〜1500wt.ppm含有する層状構造の白色不透明シリカスート体を合成する工程と、該スート体を、アンモニア(NH)ガス含有雰囲気中で800〜1300℃にて加熱することによりアンモニア処理する工程と、該アンモニア処理を行ったスート体を、1400〜1800℃にて加熱することにより溶融発泡させて、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体とする工程と、により行うこともできる(請求項3)。
【0016】
これらのような工程を経て連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体の作製を行い、多孔質光触媒体の製造を行えば、高純度のシリカガラスからなる多孔質担体を、より容易に製造することができる。
また、多孔質シリカガラス担体を、粒界を有さず連続なシリカガラス領域を形成するように作製することができ、外側から紫外線を照射したときに、該紫外線がシリカガラス領域内に透過拡散可能なものとすることができる。その結果、多孔質光触媒体に担持された光触媒材料に、紫外線がより効率よく供給され、光触媒作用を効率よく発揮するものとすることができる。
【0017】
また、本発明に係る多孔質光触媒体の製造方法では、前記光触媒材料を、酸化チタン(TiO)とすることが好ましい(請求項4)。
このように、光触媒材料を、酸化チタン(TiO)とすれば、より浄化処理能力が高い光触媒体とすることができる。
【0018】
また、前記被膜形成処理を、スパッタリング法、グロー放電法、熱蒸着法、真空蒸着法、化学蒸着法(CVD法)、イオンプレーティング法のいずれかの方法で行うことができる(請求項5)。また、前記被膜形成処理を、前記光触媒材料の前駆体となる有機金属化合物の溶液又は前記光触媒材料の前駆体となる化合物からなる微粒子の分散液に前記多孔質シリカガラス担体を含浸させた後、加熱乾燥処理することにより行うことができる(請求項6)。
【0019】
このように、本発明に係る多孔質光触媒体の製造方法では、光触媒材料被膜形成処理を、上記のような各種乾式法や各種湿式法を適宜選択して行うことができる。
【0020】
また、本発明は、少なくとも、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体と、前記多孔質シリカガラス担体の表面に形成された、光触媒となる材料の被膜とからなることを特徴とする多孔質光触媒体を提供する(請求項7)。
【0021】
このような、少なくとも、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体と、前記多孔質シリカガラス担体の表面に形成された、光触媒となる材料の被膜とからなることを特徴とする多孔質光触媒体であれば、担体が、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体であるので、高い光透過性と機械的強度を有するとともに、通気性及び通水性が高く、光触媒材料と被処理物とが接触することができる比表面積を大きいものとすることができ、光触媒作用を効率よく発揮させることができる。
【0022】
この場合、前記光触媒材料は、酸化チタン(TiO)であることが好ましい(請求項8)。
このように、光触媒材料が、酸化チタン(TiO)であれば、より浄化処理能力が高い光触媒体とすることができる。
【0023】
また、本発明の多孔質光触媒体は、前記多孔質シリカガラス担体に含有される元素のうち、アルカリ金属元素Li、Na、K各々の含有量が100wt.ppb以下であり、アルカリ土類金属元素Mg、Ca各々の含有量が50wt.ppb以下であり、遷移金属元素Cr、Fe、Ni、Cu、Zn各々の含有量が10wt.ppb以下である多孔質光触媒体とすることができる(請求項9)。
このように、多孔質シリカガラス担体に含有される元素のうち、各種金属元素が上記のような含有量であれば、純度が十分に高い多孔質シリカガラス担体とすることができ、このような、不純物金属元素が非常に少なく、純度が十分に高い多孔質シリカガラス担体であるので、再結晶化などによる多孔質シリカガラス担体の劣化(失透)を効果的に防止することができる。
【0024】
また、前記多孔質シリカガラス担体は、シリカガラス領域内は粒界を有さず連続なものであり、前記多孔質シリカガラス担体の外側から紫外線を照射したときに、該紫外線が前記シリカガラス領域内に透過拡散可能なものであることが好ましい(請求項10)。
このように、多孔質シリカガラス担体は、シリカガラス領域内は粒界を有さず連続なものであり、多孔質シリカガラス担体の外側から紫外線を照射したときに、該紫外線が前記シリカガラス領域内に透過拡散可能なものであれば、多孔質光触媒体の内部まで紫外線が透過拡散するため、大きな比表面積を有する多孔質担体に担持された光触媒材料の光触媒作用を、十分に発揮させることができ、光触媒作用による浄化処理を効率よく行うことができる。
【0025】
また、前記多孔質シリカガラス担体は、かさ密度が0.1〜1.0g/cmのものであることが好ましい(請求項11)。
このように、多孔質シリカガラス担体のかさ密度が0.1〜1.0g/cmであれば、十分な強度と比表面積を同時に有する多孔質シリカガラス担体とすることができるので、これに光触媒材料を担持させた多孔質光触媒体も、十分な強度と比表面積を有するものとすることができる。その結果、機械的強度を高く保ちつつ、より効率よく浄化処理を行うことができる多孔質光触媒体とすることができる。
【0026】
また、前記多孔質シリカガラス担体は、圧縮強度が10kg/cm以上のものであることが好ましい(請求項12)。
このように、多孔質シリカガラス担体の圧縮強度が10kg/cm以上であれば、従来よりも高い強度を有する多孔質光触媒体とすることができる。その結果、様々な条件下での利用が可能な光触媒体とすることができる。
【0027】
また、前記多孔質シリカガラス担体は、OH基含有量が1〜100wt.ppmであることが好ましい(請求項13)。
このように、多孔質シリカガラス担体のOH基含有量が1〜100wt.ppmであれば、紫外線の照射による、担体の光透過率低下や強度劣化を効果的に防止することができる多孔質光触媒体とすることができる。
【0028】
また、本発明は、少なくとも、反応器と、該反応器内に収容された、上記のいずれかの多孔質光触媒体と、紫外線ランプとを具備し、前記紫外線ランプで前記多孔質光触媒体に紫外線を照射しながら、前記多孔質光触媒体に被処理物を通過させ、光触媒作用によって該被処理物を浄化処理するものであることを特徴とする浄化装置を提供する(請求項14)。
【0029】
このような、本発明に係る多孔質光触媒体を具備する浄化装置であれば、高い化学的安定性及び機械的強度を有するとともに、光触媒作用を効率よく発揮させることができる光触媒体を具備する浄化装置であるので、高耐久性と高い処理能力を併せ持つ浄化装置とすることができる。
【発明の効果】
【0030】
以上のように、本発明に従う多孔質光触媒体の製造方法であれば、高い光透過性と機械的強度を有するとともに、通気性及び通水性が高く、光触媒材料と被処理物とが接触することができる比表面積が大きい光触媒体とすることができる。また、純度の高いシリカガラスからなる多孔質担体を有する多孔質光触媒体を容易に製造することができるので、化学的安定性、耐熱性が高く、失透の発生が防止された多孔質光触媒体とすることができるとともに、紫外線の内部への透過性がより高い多孔質光触媒体とすることができる。
また、本発明に従う多孔質光触媒体であれば、担体が、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体であるので、高い光透過性と機械的強度、および大きな比表面積を同時に有するものとすることができる。
そして、このような多孔質光触媒体を具備する浄化装置であれば、高耐久性と高い処理能力を併せ持つ浄化装置とすることができ、様々な条件下で使用することも可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0031】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
前述のように、従来の多孔質光触媒体は、比表面積を大きくするために多孔質としているにも関わらず、その大きな比表面積から期待されるほどの処理能力が得られていないという問題があった。また、一般に、耐熱性、耐薬品性、化学的安定性等が低く、また、機械的強度が弱い等の問題があった。
【0032】
本発明者は、これらのような問題を解決すべく、以下のような検討を行った。
例えば、特許文献1に記載されている光触媒体を構成する担体は、前述のように、多孔体ではあるが、各種無機材料を破砕し1〜100mmの細片状若しくは粒状にしたものである。従ってこの担体材料は、塊状で高耐熱性、高耐薬品性、高化学的安定性、低熱膨張性等を有するものではない。また、特に微粉末状であることから、光反応を促進させるため、担体の外側から可視光ないし紫外光を照射しても担体微粒子の表面で乱反射してしまい、光触媒体内側まで光が十分に届かないものである。また、粉砕過程により、どうしても金属等の不純物が混入し、純度を高く保てないものであった。このように不純物が入るため、耐熱性、耐薬品性、化学的安定性はよりいっそう低いものとなってしまう。
また、従来の担体は可視光ないし紫外光の透過性が無いのが一般的であり、多孔質光触媒体を使用した光化学反応が、主にこれら光触媒体の表層部分でしか起こっておらず、効率の低いものとなっていた。
【0033】
そこで、本発明者らは、まず、微粉末状の光触媒体や、微粉末を焼結することにより製造された多孔質光触媒体に比べ、可視光ないし紫外線の透過性が高い多孔質体を作製することができる、溶融発泡法により多孔質シリカガラスを製造する方法により多孔質担体を作製し、これを多孔質光触媒体とすることを考えた。
シリカガラスは元来紫外線の透過率が高く、溶融発泡法によれば、特に、純度が極めて高い高純度の多孔質シリカガラスを作製でき、粉末粒子界面(以下、単に「粒界」とも呼ぶ)がほとんど存在しないため、このような界面での入射光の反射を防止することができる多孔質シリカガラスとなる。
【0034】
従来、シリカガラス発泡体は知られており、シリコンウェハー熱処理用治具材料、電気炉の保温材、ミラー等の低熱膨張性軽量構造材料としての用途が考えられている。
【0035】
例えば、特公平6−24999号公報において、OH基を100ppm以上含有する多孔質石英ガラス母材とアンモニアとを800〜1300℃で反応させ、次いでこれを1350〜1700℃に加熱して発泡させることを特徴とする石英ガラス発泡体の製造方法が示されている。
【0036】
また、例えば、特公平6−92261号公報においてOH基を含有する粉末状シリカ又は塊状スートの多孔質シリカ体をアンモニア雰囲気中で600〜1300℃の範囲の温度でアンモニア処理し、次いで多孔質状シリカ体の場合はこれを粉砕し、これらのアンモニア処理粉体を所定形状の型の中で加圧成型し、次いで1400〜1900℃の温度で溶融発泡させることを特徴とするシリカ発泡体の製造方法が示されている。
【0037】
さらに、例えば、特許第2875686号公報において、含有金属不純物が100ppm以下で0.01wt.%以上の窒素を含有し、かつ100ppm以下の水酸基を含有する非晶質シリカで構成され、かつ見掛け密度0.1〜1.2g/cmを有する実質的に独立気泡からなる高純度シリカガラス質発泡体及びその製造方法が示されている。
【0038】
しかしながらシリカガラス発泡体に関するこれらの発明は、前述のように主として熱処理用治具材、保温材、軽量構造材として開発されたことから、主に独立気泡から成る発泡体であり、可視光ないし、紫外光照射により水や空気を浄化するための光触媒用担体として適するものではなかった。汚染された水や空気を効率良く光触媒反応により純化するためには、光触媒を担持しているシリカガラス発泡体中を、被処理物である水や空気を均一に透過させる通気性及び通水性を有する必要がある。
【0039】
一方、透明なシリカゲル粒子も同様に使用できるのではないかと考えられるが、粒径の大きいシリカゲルの場合、これを担体として使用しても浄化処理物の空気や水が粒子の隙間を流れてしまい、シリカゲル粒子内部の細孔には入りにくく、結果として光触媒反応の効率が悪いという結果になってしまう。反対に、粒子の細かいシリカゲルの場合、空気や水の処理時に目詰まりを起こしたり、粒子内部に紫外光が入りにくく、結果として光触媒反応の効率が悪いという結果になってしまう。
また、シリカゲルのようなゲル体を担体として使用した場合、機械的強度が不足し、そのために光触媒材料が使用中に剥がれる等の問題も発生する。
【0040】
本発明者らは、これらの知見から、まず、通気性及び通水性と光透過性を付与すべく、連続気泡を有する多孔質シリカガラス(発泡性多孔質シリカガラス)担体を作製し、次いで、該連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体の表面に、光触媒となる材料の被膜を形成する処理を行うことによって多孔質光触媒体の製造を行うことを見いだした。そして、このような製造方法によれば、高い光透過性と機械的強度を有するとともに、通気性及び通水性も高く、光触媒材料と被処理物とが接触することができる比表面積が大きい光触媒体とすることができ、また、純度の高いシリカガラスからなる多孔質担体を有する多孔質光触媒体を容易に製造することができるので、化学的安定性、耐熱性が高く、失透の発生が防止された多孔質光触媒体とすることができるとともに、紫外線の内部への透過性が高い多孔質光触媒体を製造することができることに想到し、本発明を完成させた。
【0041】
以下、本発明について図面を参照しながらさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0042】
図1に、本発明に係る多孔質光触媒体の製造方法の一例を示した。
まず、図1(a)に示したような、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体11を作製する(段階(a))。
この連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体11は、公知の方法によって作製することができるが、例えば、以下のような方法によって作製することが好ましい。
【0043】
(連続気泡多孔質シリカガラス担体の第1の作製方法)
特開平6−316425号公報に記載されている製造方法にしたがって、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体11の作製を行う。
まず、OH基を100〜1500wt.ppm含有する合成シリカ微粉を準備する(工程1)。
このような合成シリカ微粉は、どのような製造方法によって製造してもよいが、できるだけ高純度のものとすることが好ましい。特に、後述するような火炎加水分解法によれば、高純度のものが得られ、OH基の密度も調節しやすいので好ましい。
なお、このOH基は次の工程2にてアンモニアガスとの反応基とされるものであり、少なくとも100wt.ppm、好ましくは500wt.ppm以上含まれる必要がある。また1500wt.ppm程度が工業的、経済的観点からの上限値である。
【0044】
次に、この合成シリカ微粉を、アンモニア(NH)ガス含有雰囲気中で800〜1300℃にて加熱することによりアンモニア処理する(このことをアンモニアドープとも呼ぶ)(工程2:アンモニア処理)。
このアンモニア雰囲気下での加熱処理により、合成シリカ微粉中にアンモニアを付加(ドープ)する。合成シリカ微粉中へのアンモニアのドープメカニズムは、合成シリカ微粉中の≡Si−OH基がNHと反応して≡Si−NH基になるものと推定されている。しかしこの反応は800℃以下では進行が遅いため実用的ではない。また1350℃以上では一度生成した≡Si−NHが分解して合成シリカ微粉外へ離脱してしやすくなる。従って熱処理温度域は800〜1300℃とする。
【0045】
次に、該アンモニア処理を行った合成シリカ微粉を、1400〜1800℃にて加熱することにより溶融発泡させて、独立気泡を有するシリカガラス発泡体とする(工程3)。
例えば、カーボン製ルツボ内に、高純度シリカガラス微粉を予め850℃のアンモニアガス+窒素ガス雰囲気内で4時間程熱処理した前記石英ガラス微粉を充填し、1650〜1700℃にて1〜2時間程度加熱処理して前記石英ガラス微粉を融着発泡させ、多数の独立気泡よりなるシリカガラス発泡体を得る。溶融発泡処理中の雰囲気は大気中でも可能であるが、減圧下でも良い。
【0046】
次に、独立気泡を有するシリカガラス発泡体に、独立気泡の少なくとも一部を連通させる浸食処理を行って、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体とする(工程4)。
この浸食処理は、例えば、フッ酸溶液中に浸漬することにより、独立気泡の一部が連続気泡となったシリカガラス発泡体が得られる。得られた連続気泡を有するシリカガラス発泡体を所定寸法に研削すれば、所要の連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体11を得ることができる。
【0047】
(連続気泡多孔質シリカガラス担体の第2の作製方法)
まず、ケイ素化合物を原料として、火炎加水分解法により、OH基を100〜1500wt.ppm含有する層状構造の白色不透明シリカスート体を合成する(工程1:白色不透明シリカスート体の合成)。
ここで、原料となるケイ素化合物は、SiCl、SiHCl、SiHCl、SiCHCl、Si(CHCl、Si(CHOCH、Si(CH(OCH)、SiCH(OCH)、SiF、SiHF、SiH等から選択することができる。火炎加水分解は、OH基が上記範囲で含有されるようにできるものが選択され、酸水素火炎加水分解法又やプロパン酸素火炎加水分解法等を好適に選択することができる。
【0048】
このOH基は次の工程2にてアンモニアガスとの反応基とされるものであり、少なくとも100wt.ppm、好ましくは500wt.ppm以上含まれる必要がある。また1500wt.ppm程度が工業的、経済的観点からの上限値である。
また、この連続気泡多孔質シリカガラス担体の作製方法では、特に、スート体を層状構造とすることが重要であり、このためには火炎加水分解法で合成する時に、均一回転速度の円板状ターゲット上に層状スートを堆積させる、または反対に固定した円板状ターゲット上に火炎バーナを一定周期で往復運動させるのが好ましい。あるいは、棒状ターゲットを回転させておき、その外周部に徐々に同芯円状に層状スートを堆積させる。更に回転ターゲットの軸に対して平行に火炎バーナを一定周期で往復運動させるのが好ましい。
【0049】
次に、このようにして得られたスート体を、アンモニア(NH)ガス含有雰囲気中で800〜1300℃にて加熱することによりアンモニア処理する(アンモニアドープ)(工程2:アンモニア処理)。
このアンモニア雰囲気下での加熱処理により、スート体中にアンモニアを付加(ドープ)する。熱処理温度域は前述の場合と同様に、800〜1300℃とする。
なお、このとき、スート体の層状構造を破壊しないようにする。
【0050】
次に、アンモニア処理を行ったスート体を、1400〜1800℃にて加熱することにより溶融発泡させて、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体とする(工程3:溶融発泡処理)。
【0051】
具体的には、工程2でアンモニア処理したシリカスート体を、高純度アルミナボードを保温材とする常圧大気炉又はステンレススチールジャケットの真空炉に設置して、1400〜1800℃温度域まで昇温加熱させシリカスート体からアンモニアガスを離脱させ、このガスを発泡剤としてシリカガラス発泡体とする。この方法では、スート体が層状構造を維持したままで溶融発泡されるため、シリカガラス発泡体は、気泡が特定の方向に発達して連通している。ただし、上記溶融発泡処理を行った直後のシリカガラス発泡体は内部の気泡は連通していても、表面は加熱溶融されたために、内部の気泡や空隙が表面で密閉された状態になっている。この状態のままでは、後述する段階(b)において、光触媒材料被膜を内部まで均一に形成することができない。このため、このシリカガラス発泡体の外表面を、外周研削機等を用いて必要量除去し、外部に連通した連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体とする。
上記溶融発泡処理は、1350℃以下ではアンモニアガス離脱反応速度が遅いためうまく進行させにくく、1800℃を超える温度ではシリカガラス自体が溶融蒸発するため好ましくない。溶融発泡処理中の雰囲気は大気中でも可能であるが、減圧下でも良い。
【0052】
これらのような方法により、図1(a)に示したように、連続気泡を有する多孔質シリカガラス(発泡性多孔質シリカガラス)担体11を作製することができる。連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体11は、連続気泡13と、非晶質シリカガラスからなるシリカガラス領域12と、一部に独立気泡14を含む。
【0053】
なお、溶融発泡処理の昇温速度、最高温度、温度保持時間、雰囲気圧力等を各種設定することにより、シリカガラス発泡体の発泡空隙の量、寸法等の物性を制御することができる。
溶融発泡処理後の多孔質シリカガラス担体のかさ密度としては0.1〜1.0g/cmの範囲が好ましく、圧縮強度としては10kg/cm以上が好ましい。多孔質光触媒体の用途にもよるが、一般的には光触媒反応を促進する目的からもなるべく圧縮強度を保っておいて、かさ密度を低くかつ比表面積を高く設定するのが好ましい。比表面積は1m/g以上、実用的には1〜50m/gの範囲が好ましい。またOH基は1〜100wt.ppm、好ましくは1〜10wt.ppm程度含有させておく方が耐紫外線性、特に透過率低下防止と強度劣化防止の点から好ましい。
【0054】
上記したような方法1、2のような連続気泡多孔質シリカガラス担体の製造方法であれば、微粒子の焼結による方法等よりも、はるかに純度の高いシリカガラスからなる多孔質担体とすることができるので好ましい。
【0055】
次に、上記したような方法により、図1(a)に示したような、連続気泡13を有する多孔質シリカガラス担体11を作製した後、この連続気泡13を有する多孔質シリカガラス担体11の表面に、光触媒となる材料の被膜15を形成する処理を行って多孔質光触媒体20とする(段階(b))。
【0056】
本発明に用いられる光触媒材料としては酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム等が挙げられるが、光触媒活性が高い等の理由により酸化チタンが好ましい。酸化チタンには、純粋な無水酸化チタン(TiO)の他、各種の水和物等が包含される。
本発明の実施にあたって使用する酸化チタンとしては、光触媒活性の高いアナターゼ型結晶構造のもの(アナターゼ型酸化チタン)が特に好ましい。
以下では、好適な例として、酸化チタンの被膜を形成する場合について主に説明する。
【0057】
この光触媒材料被膜は、例えば、以下のような方法により形成することができる。大きく分けて2種類、すなわち、乾式法と湿式法が挙げられる。
【0058】
第1の方法は多孔質シリカガラス担体の表面への光触媒材料の蒸着である(乾式法)。蒸着法としては、酸化チタン(TiO)を高濃度でドープしたシリカガラス(TiO+SiO)、また必要に応じて更に酸化チタンの触媒活性を向上させるためにW、S、Mo、V、Mn等の元素を少量ドープさせたチタン化合物をスパッタリング法、グロー放電法、熱蒸着法、真空蒸着法、化学蒸着法(CVD法)、イオンプレーティング法等の膜付け技術により蒸着することができる。技術的な手軽さやコスト面からは特に熱蒸着法が好ましい。被膜として形成される酸化チタンは二酸化チタン(TiO)が好ましく、構造としてはアナターゼ型酸化チタンが好ましい。
【0059】
第2の方法は、光触媒材料の前駆体となる有機金属化合物の溶液、又は、光触媒材料の前駆体となる化合物からなる微粒子の分散液(酸化チタンの場合は、有機チタン化合物の溶液又は酸化チタン分散液)に、連続気泡多孔質シリカガラス担体を含浸させた後、加熱乾燥処理することにより行うものである(湿式法、ディップコーティング法)。
例えば、有機チタン化合物を酸触媒下で加水分解によって調整した酸化チタン(TiO)のゾル溶液に多孔質シリカガラス担体を浸漬して含浸させ、次いで一定速度で引き上げて乾燥、300〜700℃程度で加熱焼成する。均一で高品質の酸化チタンの被膜を作成するためには、前述の浸漬・含浸・乾燥・焼成の各工程を複数回繰り返すのが好ましい。有機チタン化合物としては、チタンエトキシド[Ti(OC]、チタンプロキシド[Ti(OC]、チタンブロキシド[Ti(OC]等のチタンアルコキシドが利用できる。酸触媒としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸などの無機酸、又は蓚酸、乳酸、酢酸などの有機酸を使用することができる。
【0060】
多孔質シリカガラス担体の表面部に形成、担持させる酸化チタン光触媒の量は、特に限定されるものではなく、その用途や目的、被処理体の気体又は液体かの物質形態等に応じて適宜選択することができる。一般的には多孔質シリカガラス担体100wt.%に対して、光触媒0.1〜50wt.%程度を被膜として担持させることが好ましい。
【0061】
このようにして製造された、本発明に係る多孔質光触媒体は、連続気泡13を有する多孔質シリカガラス担体11と、連続気泡多孔質シリカガラス担体の表面に形成された、光触媒となる材料の被膜15とからなる多孔質光触媒体20である。また、通常、独立気泡14も一部含む。
このような多孔質光触媒体であれば、高い通気性及び通水性、光透過性、機械的強度を有すると同時に、光触媒材料と被処理物とが接触することができる比表面積を大きいものとすることができ、光触媒作用を効率よく発揮させることができる。
【0062】
また、本発明に係る多孔質光触媒体は、特に、アルカリ金属元素Li、Na、K各々の含有量が100wt.ppb以下、アルカリ土類金属元素Mg、Ca各々の含有量が50wt.ppb以下、遷移金属元素Cr、Fe、Ni、Cu、Zn各々の含有量が10wt.ppb以下とすることができる。これらの金属元素は、それぞれ、作業者の人体、建築物の構成材料、製造装置の構成材料(ステンレス等)から混入しやすいものであるが、本発明によれば、上記範囲に抑制することが可能である。このように、不純物金属元素が非常に少なく、高純度の多孔質シリカガラス担体であれば、失透等を効果的に防止することができ、光触媒体として利用する際の環境中への不純物の放出も防止することができる。このような高純度は、従来の焼結法等による多孔質光触媒体の製造方法では達成することは極めて困難であった。従って、本発明の多孔質光触媒体は、耐久性に関しても優れている。
【0063】
そして、このような本発明の多孔質光触媒体を反応器内に収容し、紫外線ランプにより多孔質光触媒体に紫外線を照射しながら、多孔質光触媒体に被処理物を通過させ、光触媒作用によって被処理物を浄化処理する浄化装置として使用することができる。
浄化装置の構成は、様々な態様とすることができる。図2に多孔質光触媒体と紫外線ランプとを具備する汚染ガス浄化装置の一例を示した。金属製チャンバー31に覆われたシリカガラス製外管32内に、反応器として、仕切り板34aを有するシリカガラス製内管34と紫外線ランプ33が配置されている。そして、シリカガラス製内管34内に本発明の連続気泡多孔質光触媒体35が配置されている。紫外線ランプ33によりシリカガラス製内管34内の連続気泡多孔質光触媒体35に紫外線を照射しながら汚染ガス導入口36から汚染ガスを導入し、連続気泡多孔質光触媒体35を通過させることにより汚染ガスを浄化し、浄化ガス排出口37から浄化されたガスを排出させる。
なお、紫外線ランプ33は、少なくとも紫外線を含む光線を照射できるものであればよいが、効率よく紫外線を照射するために、水銀ランプ、エキシマランプ等を用いることが好ましい。
【0064】
このような、多孔質光触媒体を具備する浄化装置であれば、高い化学的安定性及び機械的強度を有するとともに、光触媒作用を効率よく発揮させることができる光触媒体を具備する浄化装置であるので、高耐久性と高い処理能力を併せ持つ浄化装置とすることができる。したがって、悪臭や空気中の有害物質除去する浄化装置として利用でき、特に、熱反応装置から排出される高温燃焼ガス中の環境汚染物質除去等の過酷な環境下においても使用できる。例えば、焼却炉、火力発電所、自動車等の排ガスの処理に用いることができる。
【実施例】
【0065】
以下、本発明の実施例及び比較例を示して本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
(実施例1)
図1に示したような、多孔質光触媒体の製造方法に従い、以下のように、多孔質光触媒体を製造した。なお、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体の製造方法は、層状構造の白色不透明シリカスート体を担体の母材とする方法によって行った(SiCl原料スート合成法)。
【0066】
まず、高純度四塩化ケイ素(SiCl)を原料とした酸水素炎加水分解法によりシリカスート体を合成する。SiClを蒸留精製した高純度化原料をバブラーにて気化させ、このガス体原料を水素ガスと酸素ガスとをガラスバーナに供給し、酸水素火炎中でSiClを加水分解させ、回転する円板状高純度グラファイトターゲット上に層状に白色不透明シリカスート体として堆積させ、最終的に直径500mm高さ500mmの層状構造の白色不透明シリカスート体を得た。
このスート体のOH基濃度を、後述するような赤外吸収分光光度法により測定したところ、1200wt.ppm含有するものであった。
【0067】
次に、上記の白色不透明シリカスート体を電気炉内の直径1m高さ1mの円筒状シリカガラスチャンバー内に設置し、10−2Torr(約0.13Pa)以下の減圧にしつつ、室温から100℃/hrの昇温速度にて1000℃に昇温保持し、次いでチャンバー内にキャリアガスとしての窒素ガス200ml/minに対しアンモニアガス200ml/minを1時間流すことによりアンモニア処理を行った。
【0068】
次に、アンモニア処理を行ったスート体を高純度アルミナボード保温材とし高純度二ケイ化モリブデンをヒータとする電気炉内に設置し、大気雰囲気にて5〜10℃/min昇温速度範囲にて昇温させ1650℃にて1時間保持することによりスート体を溶融発泡させた後、室温まで除冷した。
【0069】
次に、溶融発泡処理された多孔質シリカガラス担体を切削機及び研削機により加工・成型し、外径100mm内径20mm長さ300mmの円筒形多孔質シリカガラス担体を複数作成した。これら円筒形多孔質シリカガラス担体のかさ密度、比表面積、連続気泡率、圧縮強度、不純物元素含有量及びOH基含有量を以下のような手法により評価した。
【0070】
かさ密度:多孔質体の実測重量(g)と外形寸法から計算される体積(cm)との関係からかさ密度(g/cm)を算出した。
比表面積:多孔質体の平均細孔径(μm)を水銀圧入法に基づいて測定し、比表面積(m/g)は圧入法に基づくBET式より概算した。
連続気泡率:多孔質体の全気泡空間のうち連続気泡が占める比率(%)である。多孔質シリカ体中の気泡比率はシリカガラス体の密度2.2(g/cm)とかさ密度との関係から算出できる。独立気泡比率は多孔質シリカ体に比重2.2の重液を圧入した後にかさ密度を測定することにより算出できる。多孔質シリカ体の全気泡量から、独立気泡比率を差し引いた値が連続気泡率となる。
圧縮強度:多孔質体を直径10mm高さ10mmの円柱形に成形し、毎秒100g/cmの昇圧速度で圧縮力を加えて圧縮破壊試験を行った。
【0071】
不純物元素濃度:多孔質体をフッ化水素酸で分解溶融した後、原子吸光光度法によりNa、K、Mg、Ca、Feの測定を行い、プラズマ質量分析法(ICP−MS)によりLi、Cr、Ni、Cu、Znの濃度測定を行った。
OH基濃度:赤外吸収分光光度法により濃度測定を行った。D.M.Dodd and D.B.Fraser,Optical determination of OH in fused silica, Journal of Applied Physics, Vol.37(1966) P.3911に従う。
【0072】
次に、多孔質シリカガラス担体の表面に、光触媒材料として酸化チタンを用いて、被膜をディップコーティング法により形成した。
酸化チタン源となるチタンアルコキシドと溶媒となるエチルアルコール、安定化剤となるジエチレングリコールモノエチルエーテル、ポリエチレングリコールの4種の試薬を混合して、ディップコーティング液として調整した。次いで、耐圧性のグローブボックス内に、先に作られた連続気泡を有する高純度多孔質シリカガラス担体と容器入りのディップコーティング液を入れ、次いでグローブボックス内を10−2Torr(約0.13Pa)以下の減圧にしつつ多孔質シリカガラス担体内部を脱ガスして、次いで常圧に戻しつつこの担体をディップコーティング液に入れてディップコーティング液に浸漬させた。このディップコーティング操作を5回繰り返し、多孔質光触媒体とした。
【0073】
その後、グローブボックスより取り出し、電気炉内に設置し、450℃1時間で焼成を行い透明の被膜を得た。その後この透明被膜をX線回折分析法等により調べたところ、アナターゼ型の酸化チタン(TiO)であることが確認され、また走査型電子顕微鏡(SEM)等により観察したところ被膜表面は粒径5〜10nm程度の酸化チタンの超微粒子から成り、2〜3nm程度の細孔を有していた。次いで、酸化チタン被膜が形成された後の多孔質光触媒体の重量(g)を測定することにより、シリカ担体重量に対する光触媒重量比率(%)を求めた。
【0074】
(実施例2)
実施例1と同様に、ただし、多孔質シリカガラス担体のかさ密度を、溶融発泡条件を調節することにより変化させ、多孔質光触媒体を製造した。
また、各属性値を実施例1と同様に測定した。
【0075】
(比較例1)
粒状で径50〜150μm程度の天然水晶粉の電気加熱溶融法によって得られた従来の天然原料溶融石英ガラスを、アルミナセラミック製クラッシャーで粉砕し、これに炭酸カルシウム(CaCO)と炭素(C)の粉末を各1wt.%混合し、次いでアルミナセラミック製ボールミルにて更に混合粉砕した。この時の平均粒径は約5〜50μmでBET法による比表面積は4m/gであった。これを大気雰囲気にて10℃/minの昇温速度にて昇温させ1650℃にて1時間保持することにより、上記炭酸カルシウム粉末と炭素粉末を発泡剤とする溶融発泡処理を行った。室温まで除冷した後、酸化チタン光触媒のディップコーティング法による被膜形成処理を行った。
その後、各属性値を実施例1と同様に測定した。
【0076】
(比較例2)
粒径1〜5mmのアルミナセラミックス粉をそのまま担体として用い、実施例1と同様に酸化チタンの被膜形成処理を行って光触媒体とした。
この光触媒体は見た目でも不透明である。
その後、各属性値を実施例1と同様に測定した。なお、粉体であるため、かさ密度、連続気泡率、圧縮強度等は測定できない。
【0077】
実施例1、2、比較例1、2で製造したそれぞれの光触媒体について、光触媒特性を測定した。
(NOx浄化試験)
光触媒体の浄化処理能力を評価するため、図3に概念図を示したような評価装置を用いて、窒素酸化物(NOx)の分解実験を行った。NOxとしては、具体的には、一酸化窒素(NO)を用いた。
円筒形の反応容器52内には、中心に紫外線ランプ51を通し、その周りに多孔質光触媒体50を配置した。その他、空気ガスボンベ61、NO100wt.ppm標準ガスを流せるNOxガスボンベ62、圧力調整器63、マスフローコントローラ64、各種バルブ65、NOx濃度計66、排気ファン67等を備えているシステムである。
【0078】
実験条件は以下の通りである。
(1)吸着安定化を図るため、NOxガスフローを、NO濃度1wt.ppm、ガス流量60ml/min、30分行った。
(2)次に、反応容器内の紫外線ランプを点灯、紫外線強度1mW/cmとした。
この状態で、NOxガスフロー、NO濃度1wt.ppm、ガス流量600ml/min、温度25℃、相対湿度50%、5時間で光触媒作用によりNOの分解実験を行った。
NO浄化率の評価は、下記の式(1)により計算された数値に基づいて行った。
【0079】
{(NO初期濃度)−(NO浄化後濃度)}/(NO初期濃度)…式(1)
【0080】
NO分解率が80%以上を○、80%〜50%を△、50%未満を×と評価した。
【0081】
(耐候性試験)
多孔質光触媒体に対して、低圧水銀ランプを用い1mW/cmの紫外線照射エネルギー密度にて温度30℃、湿度90%以上500時間の耐候性実験を行い、その後その触媒体の目視観察、実体顕微鏡観察を行った。変化が検知されない時は○、若干変色が生じたり酸化チタンの剥離が認められた時は△、変色が認められかつ1割以上に剥離が認められた時は×と評価した。
【0082】
(耐熱性試験)
各多孔質光触媒体に対して、高純度アルミナ保温材を使用した大気雰囲気電気加熱炉内にて、400℃、300時間の加熱処理を行い、その後、実体顕微鏡観察にて各多孔質光触媒体表面ないし内部の白色失透(再結晶化)の程度を観察した。変化が検知されない時は○、若干の白色失透が認められた時は△、表面の1割以上に白色失透が認められた時は×と評価した。
【0083】
実施例1、2、比較例1、2で製造したそれぞれの光触媒体について、物性値と、光触媒としての特性評価の結果を表1に示した。
【0084】
【表1】

【0085】
実施例1、2では、比較例1に対して比表面積が十分に大きく、連続気泡率も高いものであり、NOx浄化試験は良好な結果であった。
一方、比較例1は、連続気泡率が測定できないほど小さく、気泡のほぼ全てが独立気泡であった。そのため、光触媒作用が発揮されるのは光触媒体の塊の表層のみであり、NOx浄化試験では浄化能力が非常に低かったものと考えられる。
また、比較例2では、比表面積は比較的大きかったが、NOx浄化試験はやや不良であった。これは、比較例2のようなアルミナセラミックス粉体に酸化チタンが担持された光触媒体は、紫外線が十分に行き渡らないためであると考えられる。
【0086】
実施例1、2は、不純物含有量が極めて低く、耐候性試験、耐熱性試験の結果も良好であった。一方、比較例1、2の光触媒体は、不純物が多く、耐久性も低いので、2次的な汚染の心配がある。
また、実施例1、2の圧縮強度は比較例1に比べて劣るが、十分に強度は高いものである。
【0087】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は単なる例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【図面の簡単な説明】
【0088】
【図1】本発明に係る多孔質光触媒体の製造方法の一例を、各段階における構造の概念図とともに示す図である。
【図2】本発明に係る多孔質光触媒体と紫外線ランプとを具備する浄化装置の一例を示した概略断面図である。
【図3】多孔質光触媒体の処理能力を評価する装置の一例として、実施例のNOx浄化試験装置を示した概略図である。
【符号の説明】
【0089】
11…連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体、 12…シリカガラス領域、
13…連続気泡、 14…独立気泡、 15…光触媒材料、
20…本発明の多孔質光触媒体、
31…金属製チャンバー、 32…シリカガラス製外管、
33…紫外線ランプ、 34…仕切り板付シリカガラス製内管、 34a…仕切り板、
35…連続気泡多孔質光触媒体、 36…汚染ガス導入口、
37…浄化ガス排出口、
50…多孔質光触媒体、 51…紫外線ランプ、 52…反応容器、
61…空気ガスボンベ、
62…NOxガスボンベ(NO100wt.ppm標準ガス)、
63…圧力調整器、 64…マスフローコントローラ、
65…バルブ、 66…NOx濃度計、 67…排気ファン。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体を作製し、該多孔質シリカガラス担体の表面に、光触媒となる材料の被膜を形成する処理を行うことを特徴とする多孔質光触媒体の製造方法。
【請求項2】
前記連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体の作製を、少なくとも、
OH基を100〜1500wt.ppm含有する合成シリカ微粉を準備する工程と、
該合成シリカ微粉を、アンモニア(NH)ガス含有雰囲気中で800〜1300℃にて加熱することによりアンモニア処理する工程と、
該アンモニア処理を行った合成シリカ微粉を、1400〜1800℃にて加熱することにより溶融発泡させて、独立気泡を有するシリカガラス発泡体とする工程と、
該独立気泡を有するシリカガラス発泡体に、該独立気泡の少なくとも一部を連通させる浸食処理を行って、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体とする工程と
により行うことを特徴とする請求項1に記載の多孔質光触媒体の製造方法。
【請求項3】
前記連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体の作製を、少なくとも、
ケイ素化合物を原料として、火炎加水分解法により、OH基を100〜1500wt.ppm含有する層状構造の白色不透明シリカスート体を合成する工程と、
該スート体を、アンモニア(NH)ガス含有雰囲気中で800〜1300℃にて加熱することによりアンモニア処理する工程と、
該アンモニア処理を行ったスート体を、1400〜1800℃にて加熱することにより溶融発泡させて、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体とする工程と、
により行うことを特徴とする請求項1に記載の多孔質光触媒体の製造方法。
【請求項4】
前記光触媒材料を、酸化チタン(TiO)とすることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか一項に記載の多孔質光触媒体の製造方法。
【請求項5】
前記被膜形成処理を、スパッタリング法、グロー放電法、熱蒸着法、真空蒸着法、化学蒸着法(CVD法)、イオンプレーティング法のいずれかの方法で行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の多孔質光触媒体の製造方法。
【請求項6】
前記被膜形成処理を、前記光触媒材料の前駆体となる有機金属化合物の溶液又は前記光触媒材料の前駆体となる化合物からなる微粒子の分散液に前記多孔質シリカガラス担体を含浸させた後、加熱乾燥処理することにより行うことを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか一項に記載の多孔質光触媒体の製造方法。
【請求項7】
少なくとも、連続気泡を有する多孔質シリカガラス担体と、前記多孔質シリカガラス担体の表面に形成された、光触媒となる材料の被膜とからなることを特徴とする多孔質光触媒体。
【請求項8】
前記光触媒材料は、酸化チタン(TiO)であることを特徴とする請求項7に記載の多孔質光触媒体。
【請求項9】
前記多孔質シリカガラス担体に含有される元素のうち、アルカリ金属元素Li、Na、K各々の含有量が100wt.ppb以下であり、アルカリ土類金属元素Mg、Ca各々の含有量が50wt.ppb以下であり、遷移金属元素Cr、Fe、Ni、Cu、Zn各々の含有量が10wt.ppb以下であることを特徴とする請求項7または請求項8に記載の多孔質光触媒体。
【請求項10】
前記多孔質シリカガラス担体は、シリカガラス領域内は粒界を有さず連続なものであり、前記多孔質シリカガラス担体の外側から紫外線を照射したときに、該紫外線が前記シリカガラス領域内に透過拡散可能なものであることを特徴とする請求項7ないし請求項9のいずれか一項に記載の多孔質光触媒体。
【請求項11】
前記多孔質シリカガラス担体は、かさ密度が0.1〜1.0g/cmのものであることを特徴とする請求項7ないし請求項10のいずれか一項に記載の多孔質光触媒体。
【請求項12】
前記多孔質シリカガラス担体は、圧縮強度が10kg/cm以上のものであることを特徴とする請求項7ないし請求項11のいずれか一項に記載の多孔質光触媒体。
【請求項13】
前記多孔質シリカガラス担体は、OH基含有量が1〜100wt.ppmであることを特徴とする請求項7ないし請求項12のいずれか一項に記載の多孔質光触媒体。
【請求項14】
少なくとも、反応器と、該反応器内に収容された、請求項7ないし請求項13のいずれか一項に記載の多孔質光触媒体と、紫外線ランプとを具備し、前記紫外線ランプで前記多孔質光触媒体に紫外線を照射しながら、前記多孔質光触媒体に被処理物を通過させ、光触媒作用によって該被処理物を浄化処理するものであることを特徴とする浄化装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2009−7219(P2009−7219A)
【公開日】平成21年1月15日(2009.1.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−171830(P2007−171830)
【出願日】平成19年6月29日(2007.6.29)
【出願人】(000190138)信越石英株式会社 (183)
【Fターム(参考)】