説明

多層チューブ

【課題】燃料及びその蒸気の蒸散規制に対応する低透過性を確保しつつ、柔軟性及び耐衝撃性を有し、層間密着性が向上した多層チューブを提供する。
【解決手段】燃料成分と接触する内層と、燃料成分の透過を規制するバリア層と、最外層との少なくとも3層積層構造を有し、前記内層は、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物で構成され、バリア層は、ポリエステル樹脂組成物で構成され、最外層は(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)エラストマー成分、(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物、および(D)酸化防止剤を含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物で構成されている、低透過性、柔軟性、及び耐衝撃性を有し、層間密着性に優れた多層チューブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料透過性が低く、柔軟性、延性及び耐衝撃性を有し、ポリブチレンテレフタレート樹脂組成物で構成された多層チューブ(特に、燃料移送用多層チューブ)に関する。より詳細には、燃料系部品の成形に適したポリブチレンテレフタレート樹脂組成物で構成され、低温時を含めた靱性、耐加水分解性、耐有機薬品性、耐オゾン性などに優れ、各層間の接着性に優れたハロゲンフリー多層チューブに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車分野などでの燃料由来の蒸散規制が厳しくなっており、この規制に対応する燃料バリア性の検討がなされている。また、燃費改善の観点から、軽量化のために、燃料関連機器やその周辺機器に対する樹脂の使用量は年々増加しており、このような点からも、樹脂に対する燃料バリア性に関する要求が高まってきている。燃料に対するバリア性の高い樹脂として、フッ素系樹脂やポリブチレンナフタレート(以下、PBNと記載する場合がある)などが知られている。例えば、特開平7−96564号公報(特許文献1)には、フッ素樹脂及びポリアミド系樹脂から選択された樹脂の最内層と、ポリアルキレンナフタレート樹脂(ポリブチレンナフタレートなど)からなる中間層と、熱可塑性樹脂又は熱可塑性エラストマーからなる外層と、前記最内層と中間層との間に形成された接着層とを有する燃料移送用チューブが開示されている。特開平6−23930号公報(特許文献2)には、多層ポリマーホース又はパイプにおいて、ポリエステル(ポリブチレンテレフタレート、PBNなど)からなる少なくとも遮断層を有する同時押出成形された多層ポリマーホース又はパイプが開示されている。
【0003】
しかし、フッ素系樹脂については、ハロゲンとして環境対応上使用が制限される方向に進んでいると共に、他の部材との接合や接着が困難であり、多層構造化についても適さない。また、PBNなどのポリエステルについても、単層構造で使用するためには、耐加水分解性の向上や柔軟性材料との多層化が必要であり、過去には表面をプラズマやスパッタ処理を施して接着層を設け、ナイロンなどをコーティングしたものが報告されている。
【0004】
特開2006−272630号公報(特許文献3)には、低温特性、柔軟性および耐加水分解性に優れる燃料用ホースに関し、管状の内層と、この内層の外周面に形成された燃料低透過層と、この低透過層の外周面に形成された外層とを備え、前記内層がエラストマー成分のアロイ又は共重合により柔軟化されたポリエステル樹脂で構成され、低透過層がポリブチレンナフタレートおよびポリブチレンテレフタレートの少なくとも一方のポリエステル樹脂で構成され、外層が、ポリテトラメチレングリコールおよびダイマー酸の少なくとも一方を共重合成分とするポリエステルエラストマーと、スチレン−イソブチレンブロック共重合体とのブレンドポリマーで構成された3層構造の燃料用ホースが開示されている。特開2007−261078号公報(特許文献4)には、低温性、柔軟性、耐加水分解性、耐候性および耐オゾン性に優れる燃料用ホースに関し、上記と同様の管状の内層および燃料低透過層を備え、この低透過層の外周面に形成された外層が、ポリブチレンテレフタレートと、コアシェル構造を有するポリマー微粒子、エチレンアクリルゴム(AEM)およびスチレン−イソブチレン共重合体からなる群から選ばれた少なくとも一つとをブレンドしたブレンドポリマーで構成された3層構造の燃料用ホースが開示されている。しかし、エラストマー成分についてはオゾンやキセノンなどの光線に対する耐候性を向上させる必要がある。また、スチレン−イソブチレンブロック共重合体などのポリスチレン系エラストマーについては、ポリブチレンテレフタレートやポリエステル系エラストマーとの併用系で相溶性が課題となる。そのため、相溶化剤(エチレン−グリシジルメタクリレート共重合体;EGMAなど)の使用なども報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平7−96564号公報(特許請求の範囲)
【特許文献2】特開平6−23930号公報(特許請求の範囲)
【特許文献3】特開2006−272630号公報(特許請求の範囲)
【特許文献4】特開2007−261078号公報(特許請求の範囲)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、燃料およびその蒸気の蒸散規制に対応する低透過性を確保しつつ、柔軟性、延性及び耐衝撃性を有し、層間密着性が向上した多層チューブ(特に、燃料用多層チューブ)を提供することにある。
【0007】
本発明の他の目的は、耐加水分解性や耐候性、相溶性が大きく改善された多層チューブ(特に、燃料用多層チューブ)を提供することにある。
【0008】
本発明のさらに他の目的は、低温時を含めた靱性、耐加水分解性、耐有機薬品性、耐オゾン性などに優れた多層チューブ(特に、燃料用多層チューブ)を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、前記課題を解決すべく、多層チューブの積層構造パターンと要求特性に対応する樹脂組成物とを中心に鋭意検討を重ねた結果、(1)多層チューブを構成する各層(特に少なくとも内層及び外層)をポリブチレンテレフタレート(以下、PBT)樹脂組成物又はポリブチレンナフタレート(以下、PBN)樹脂組成物で構成すると、接着剤の使用やスパッタなどの2次加工を行うことなく、共押出し成形のみで高い層間接着性が得られるとともに、耐加水分解性をはじめとする諸物性を向上できること、(2)バリア性の高いPBT樹脂あるいはPBN樹脂を中間層(バリア層)として設け、その内外層に柔軟性を付与したPBT樹脂組成物で構成すると、燃料またはその蒸気に対して高いバリア性を有し、層間接着性に優れた燃料チューブが得られること、(3)特に最外層が直接の破壊起点となりうることから、内層よりもさらに延性、靱性、柔軟性に優れると共に、耐候性などにも優れる柔軟性付与PBT樹脂組成物で最外層を形成するのが有利であることを見いだし、本発明を完成した。
【0010】
すなわち、本発明の多層チューブは、燃料成分と接触する内層と、燃料成分の透過を規制するバリア層と、最外層との少なくとも三層積層構造を有する。そして、前記内層は少なくとも(A)PBT樹脂を含むPBT樹脂組成物で構成され、バリア層がポリエステル樹脂組成物(例えば、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂および(E)ポリブチレンナフタレート樹脂から選択された少なくとも一種で構成された樹脂組成物、例えば、PBT樹脂組成物あるいはPBN樹脂組成物)で構成され、最外層は、(A)PBT樹脂、(B)エラストマー成分、(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物、および(D)酸化防止剤を含むポリブチレンテレフタレート(PBT)樹脂組成物で構成されている。
【0011】
このような多層チューブにおいて、前記内層、バリア層および最外層の(A)PBT樹脂は、PBT単独重合体及び/又はPBT共重合体と、ポリエステルエラストマー(PBTエラストマーなど)とで構成してもよい。例えば、内層、バリア層および最外層の(A)PBT樹脂は、(A1)PBT単独重合体及び/又はPBT共重合体と、(A2)ポリエステルエラストマー(PBTエラストマーなど)とを前者/後者=30/70〜70/30の重量割合で含んでいてもよい。ポリエステルエラストマーは、PBTをハードセグメントとして20〜90重量%の割合で含むPBTエラストマーであってもよい。
【0012】
前記(B)エラストマー成分はジエン成分を含まないアクリル系コアシェル型エラストマーであってもよい。また、(D)酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、またはヒンダードフェノール系酸化防止剤とチオエーテル系酸化防止剤との組み合わせで構成してもよい。
【0013】
より具体的には、多層チューブは、内層、バリア層および最外層が接着剤を用いることなく共押出し成形により直接接合した多層チューブであってもよく、このような構造の多層チューブにおいて、内層は、(A)PBT樹脂100重量部に対して、(B)エラストマー成分20〜40重量部及び(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物0.01〜5重量部を含む樹脂組成物で構成し、バリア層は、(A)PBT樹脂及び/又は(E)PBN樹脂100重量部に対して、(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物0〜5重量部(例えば、0.01〜5重量部)を含む樹脂組成物で構成し、最外層は、(A)PBT樹脂100重量部に対して、(B)エラストマー成分10〜80重量部、(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物0.01〜5重量部、および(D)酸化防止剤0.01〜5重量部を含む樹脂組成物で構成してもよい。
【0014】
最外層を構成するPBT樹脂組成物は、ISO178に規定される測定法によって測定した曲げ弾性率が600MPa以下の柔軟性を有し、かつISO527−1,2記載の測定法によって測定した引張り試験による呼び歪が200%以上であってもよい。
【0015】
なお、多層チューブは、内層が自動車液体燃料又はその蒸気と接触する燃料部品を構成する。多層チューブは、温度120℃でのヒートエージング処理を1000時間行った後、180°の折れ曲げ試験を行ったとき、割れが発生しないのが好ましく、プレッシャークッカーテスト(121℃、2気圧)処理を48時間行った後、180°の折れ曲げ試験を行ったとき、割れが発生しないのが好ましい。さらに、燃料(Fuel C(トルエン/イソオクタン=50/50(容量%))100容量部にエタノール10容量部を混合した混合燃料)に対する透過性をSHED法より測定したとき、透過性が10mg/test以下であるのが好ましい。SHED法では、次のようにして透過性が評価される。すなわち、評価試験用ガソリンとして、Fuel C(トルエン/イソオクタン=50/50(容量%))100容量部にエタノール10容量部を混合した混合燃料(以下、FC/E10と言う場合がある)を、両端をシール状態で密栓したホースに封入して、40℃で1000時間放置して安定化し、その後、FC/E10を排出して新規なFC/E10を再度封入した後、所定の温度サイクル環境に放置し、24時間毎に燃料透過量を測定する。この操作を3回繰り返し、その3回の測定値中の最大値をテスト1回当たりの燃料透過量[(mg/test)=(mg/24Hr)]とするものである。
【0016】
本発明の好ましい態様では、多層チューブを構成する各層(少なくとも内層及び外層)をPBT樹脂組成物で構成し、特に柔軟性や耐候性の求められる最外層に(A1)耐候性に優れたPBT単独重合体及び/又はPBT共重合体と、同樹脂に相溶性の高い“ハードセグメントがPBTである(A2)PBTエラストマーと、(B)エラストマー成分(特に、コアシェル型エラストマー)とを組み合わせ、柔軟性などの特性を付与する。さらに、(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物、および(D)酸化防止剤を添加することにより、ポリエステル樹脂の耐加水分解性などの特性を向上させる。このような態様では、層間接着性、燃料バリア性、柔軟性、耐加水分解性、耐有機溶媒性、耐オゾン性に優れ、かつ全層がPBT樹脂組成物で構成された多層燃料チューブを共押出し成形によって効率的に製造できる。
【0017】
なお、本明細書において、「(B)エラストマー成分」と「PBTエラストマー」とは区別して用いられ、「(B)エラストマー成分」は「PBTエラストマー」を含まない。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、多層チューブの各層(少なくとも内層及び外層)がPBT樹脂組成物で構成されているため、燃料およびその蒸気の蒸散規制に対応する低透過性を確保しつつ、柔軟性、延性及び耐衝撃性を有し、層間密着性を向上できる。また、多層チューブ(特に、燃料用多層チューブ)は、耐加水分解性や耐候性、相溶性も大きく改善できる。さらには、多層チューブ(特に、燃料用多層チューブ)は、低温時を含めた靱性、耐加水分解性、耐有機薬品性、耐オゾン性などに優れている。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の多層チューブ(特に、燃料用多層チューブ)は、燃料成分と接触する中空筒状の内層と、この内層の外周に形成され、かつ燃料成分の透過を規制するためのバリア層と、このバリア層の外周に形成された最外層との少なくとも三層構造を有している。
【0020】
(1)内層は燃料成分に対する耐性(耐燃料性)及び柔軟性を有している場合が多い。前記内層は、少なくとも(A)PBT樹脂で構成すればよく、通常、少なくとも(A)PBT樹脂を含むPBT樹脂組成物で構成されている。特に、内層を形成するPBT樹脂組成物を、PBT単独重合体及び/又はPBT共重合体と、PBTエラストマーとで構成すると、柔軟性、延性を向上できる。また、内層には隣接するバリア層との密着性も要求される。そのため、内層は、(A)PBT樹脂と、(B)エラストマー成分とを含むPBT樹脂組成物で構成するのが有利である。また(A)PBT樹脂はPBT単独重合体及び/又はPBT共重合体やPBTエラストマー単独で構成してもよい。このような樹脂組成物を用いると、共押出によりバリア層との密着性を向上できる。内層用樹脂組成物において、(B)エラストマー成分は単独又は2種以上組み合わせて使用できるが、燃料が直接接する層であることから、燃料による寸法変化が少ないエラストマー、例えば、コアシェル型エラストマー(特に、ブタジエン成分を含まないタイプのコアシェル型エラストマー)が好ましい。
【0021】
前記内層用PBT樹脂組成物において、(B)エラストマー成分の使用量は、必要とされる柔軟性を付与できる範囲、例えば、(A)PBT樹脂100重量部に対して、20〜40重量部程度であってもよい。(B)エラストマー成分が少ないと、所望の柔軟性が得られず、多すぎると、耐燃料性が低下する。さらに、内層は、耐加水分解性を向上させるため、(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物を含むPBT樹脂組成物で構成する場合が多い。(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物の使用量は、(A)PBT樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部程度であってもよい。(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物はエポキシ化合物と併用してもよい。
【0022】
(2)バリア層は、燃料成分に対するバリア性および内外層との密着性の観点から、ポリエステル樹脂(例えば、結晶性芳香族ポリエステル樹脂)が用いられる。ポリエステル樹脂としては、例えば、ポリアルキレンアリレート樹脂[例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN樹脂)など]、ポリアルキレンアリレート単位をハードセグメントとする熱可塑性エラストマー[例えば、PBT系熱可塑性エラストマー(PBT系TPEE)、PBN系熱可塑性エラストマー(PBN系TPEE)など]があげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのなかでも、PBT樹脂、PBN樹脂が好適に用いられる。バリア層は、PBT樹脂あるいはPBN樹脂単独で構成してもよい。
【0023】
バリア層にPBT樹脂組成物を用いる場合は、高いバリア性を維持するため、95重量%以上のPBT樹脂で構成するのが好ましい。好ましい態様では、燃料成分に対する非透過性(バリア性)及び耐加水分解性などを向上させるため、バリア層は、ポリエステル樹脂(PBT樹脂、PBN樹脂など)に(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物を含む樹脂組成物(PBT樹脂組成物など)で構成してもよい。PBT樹脂としてはポリブチレンテレフタレート単独重合体及び/又はポリブチレンテレフタレート共重合体を単独で使用することも好ましい。前記バリア層用樹脂組成物(PBT樹脂組成物など)において、(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物の使用量は、ポリエステル樹脂の種類に応じて、ポリエステル樹脂(PBT樹脂、PBN樹脂など)100重量部に対して、0〜5重量部程度の範囲から選択でき、通常、0.01〜5重量部(例えば、0.1〜3重量部)程度であってもよい。なお、PBN樹脂において芳香族ポリカルボジイミド化合物は必ずしも必要ではない。(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物の添加量が少ないと、耐加水分解性が低下し、多すぎると、溶融成形過程でゲル成分や炭化物の生成が起こりやすくなる。(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物は単独でポリエステル樹脂(PBT樹脂、PBN樹脂など)と組み合わせてもよく、エポキシ化合物と併用してもよい。なお、前記バリア層用PBT樹脂組成物には、添加剤(充填剤など)を添加してもよいが、高いバリア性を維持するため、95重量%以上のPBT樹脂を含むのが好ましい。
【0024】
(3)さらに、最外層は、チューブの装着や実際の使用に伴う変形に対処するため、内層よりも高い柔軟性、延性、靱性、耐衝撃性などが要求される。また、最外層は外気と接することから耐候性にも配慮する必要がある。そのため、最外層は、(A)PBT樹脂、(B)エラストマー成分、(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物、および(D)酸化防止剤を含むPBT樹脂組成物で構成するのが有利である。さらに、必要によりエポキシ化合物を併用してもよい。
【0025】
最外層用PBT樹脂組成物において、(B)エラストマー成分の使用量は、(A)PBT樹脂100重量部に対して、10〜80重量部(例えば、20〜75重量部)程度であってもよく、(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物の使用量は、(A)PBT樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部(例えば、0.1〜2重量部)程度であってもよい。また、(D)酸化防止剤の使用量は、(A)PBT樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部(例えば、0.1〜2重量部)程度であってもよい。
【0026】
前記最外層において、エラストマー成分(例えば、コアシェル型ポリマー)を使用することなく、例えば、PBT樹脂(PBT単独重合体及び/又はPBT共重合体とPBTエラストマー)だけで所定の弾性率を達成するために、柔軟性成分(PBTエラストマー)の使用割合を大きくすると、樹脂組成物中でPBT樹脂が海島構造の島を形成し、耐候性などの特性を満たすことが困難となる。一方、エラストマー成分(例えば、コアシェル型ポリマー)とPBT単独重合体及び/又はPBT共重合体だけで所定の弾性率を達成しようとすると、PBT樹脂に対する非相溶成分であるエラストマー成分(例えば、コアシェル型ポリマー)の割合が多くなり凝集などを生じ、かえって低温耐衝撃性が低下し、成形品の成形も困難となる。すなわち、耐候性を維持するためのベース樹脂においてPBT樹脂中のPBT単独重合体及び/又はPBT共重合体の割合を所定の比率以上に保ちながら、PBT樹脂に対して非相溶性のエラストマー成分(例えば、コアシェル型ポリマー)を組み合わせることにより、弾性率を調整することが重要である。
【0027】
なお、多層チューブの層構造は少なくとも三層構造であればよく、バリア層と最外層との間に、内層用PBT樹脂組成物で構成された中間層を介在させ、4層構造とすることも可能である。例えば、内層とバリア層との間、及び/又はバリア層と最外層との間には、それぞれ中間層(PBT樹脂組成物で構成された中間層)が介在していてもよい。さらに、必要により、各層の間には接着剤層を介在させてもよいが、本発明では層間接着性を向上できるため、接着剤層は必ずしも必要ではない。そのため、本発明の多層チューブは、通常、内層、バリア層および最外層が接着剤を用いることなく共押出し成形により直接接合している。
【0028】
以下に、(1)内層、(2)バリア層及び(3)最外層に用いる成分と各成分の割合について説明する。
【0029】
ポリエステル樹脂
ポリエステル樹脂としては、例えば、例えば、ポリアルキレンアリレート系樹脂[例えば、ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)、ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN樹脂)、ポリエチレンテレフタレート樹脂(PET樹脂)、ポリエチレンナフタレート樹脂(PEN樹脂)など]、ポリアルキレンアリレート単位をハードセグメントとする熱可塑性エラストマー[例えば、PBT系熱可塑性エラストマー(PBT系TPEE,PBTエラストマー)、PBN系熱可塑性エラストマー(PBN系TPEE,PBNエラストマー)など]などがあげられる。これらは単独でもしくは2種以上併せて用いられる。これらのポリエステル樹脂のうち、PBT樹脂、PBN樹脂が好適に用いられる。
【0030】
(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂(PBT樹脂)
(A)PBT樹脂は、(A1)ポリブチレンテレフタレート単独重合体(PBT単独重合体)及び/又はポリブチレンテレフタレート共重合体(PBT共重合体)と、(A2)ポリエステルエラストマー(PBTエラストマーなど)とで構成される。(A1)PBT単独重合体又はPBT共重合体は、少なくともテレフタル酸またはそのエステル形成誘導体(メチルエステルなどの低級アルコールエステル、酸クロライド、酸無水物など)を含むジカルボン酸成分と、少なくとも炭素数4のアルキレングリコール(1,4−ブタンジオール)又はそのエステル形成誘導体を含むグリコール成分との重縮合により得られる。
【0031】
PBT共重合体は、テレフタル酸成分及び1,4−ブタンジオール成分の少なくとも一方の成分の一部(例えば、1〜30モル%、特に3〜25モル%程度)を、共重合性単量体、例えば、ジカルボン酸成分(フタル酸、イソフタル酸などの非対称ベンゼンジカルボン酸、ナフタレンジカルボン酸、ピロメリット酸などの芳香族多価カルボン酸、アジピン酸などの脂肪族C4−12ジカルボン酸、脂環式C8−12ジカルボン酸など)、ジオール成分(エチレングリコール、プロピレングリコール、1,4−ブテンジオール、ネオペンチルグリコール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオールなどのC2−10アルキレングリコール又はアルケングリコール、ジエチレングリコールなどの(ポリ)オキシアルキレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノールなどのC5−12シクロアルカンジオール、ビス(4−ヒドロキシ)ジフェニル、ビス(ヒドロキシアリール)C1−6アルカン[ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパンなど]、ビス(ヒドロキシアリール)C4−10シクロアルカン、ビス(ヒドロキシアリール)エーテル、ビス(ヒドロキシアリール)スルホン、ビス(ヒドロキシアリール)スルフィド、ビス(ヒドロキシアリール)ケトンなどのビスフェノール類又はこれらのアルキレンオキサイド付加体など)で置換した重合体が例示できる。必要であれば、オキシカルボン酸(オキシ安息香酸、オキシナフトエ酸など)、ラクトン(ε−カプロラクトンなどのC3−12ラクトンなど)を共重合してもよい。さらに必要に応じて、多官能化合物、例えば、トリメリット酸などの多価カルボン酸や、グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン、ペンタエリスリトールなどのポリオールを併用してもよい。前記単独重合体及び共重合体は単独で又は混合して使用してもよい。好ましい(A1)PBT樹脂は、結晶性の高い樹脂、例えば、単量体全体に対して共重合性単量体の含有量が0〜10モル%程度のポリブチレンテレフタレート単独又は共重合体、特にポリブチレンテレフタレート単独重合体(ホモポリブチレンテレフタレート樹脂)である。
【0032】
(A1)PBT重合体は、溶剤としてo−クロロフェノールを用い、35℃で測定した固有粘度が0.6〜1.4dl/g、好ましくは0.7〜1.2dl/g程度であるのが有利である。固有粘度が0.6dl/g未満では、テトラヒドロフランなどのポリブチレンテレフタレート樹脂を発生源とするガスの発生量が十分低減できず、1.4dl/gを超えると成形流動性が低下する。なお、耐加水分解性を向上させる観点からも、許容される流動性の範囲で固有粘度の高い樹脂を選択するのが好ましい。
【0033】
(A2)ポリエステルエラストマーの種類は特に制限されないが、PBTエラストマーである場合が多い。PBTエラストマーは、ハードセグメントとしてのポリブチレンテレフタレートとソフトセグメントとを含む。PBTエラストマー(ポリブチレンテレフタレートユニットを有するエラストマー成分)の添加により、柔軟性、延性および低温耐衝撃性を付与できるとともに、PBT系重合体との相溶性も向上できる。
【0034】
ハードセグメントはポリブチレンテレフタレート骨格(PBT骨格)を有していればよく、ハードセグメントを形成するジカルボン酸成分としては、テレフタル酸及びそのエステル誘導体(テレフタル酸成分)が使用され、ハードセグメントを構成するジオール成分としては1,4−ブタンジオールが利用される。前記ハードセグメントのテレフタル酸成分の一部は、前記ポリブチレンテレフタレート共重合体と同様の共重合性単量体(イソフタル酸、ナフタレンジカルボン酸など)で置換されていてもよい。また、ハードセグメントを構成する1,4−ブタンジオールの一部は、前記ポリブチレンテレフタレート系共重合体と同様の共重合性単量体(C2−10アルキレングリコール、(ポリ)オキシアルキレングリコール、C5−12シクロアルカンジオール、ビスフェノール類又はこれらのアルキレンオキサイド付加体など)で置換されていてもよい。ハードセグメントは、通常、結晶性のPBT骨格で構成されている。また、ハードセグメントは、通常、短鎖エステル骨格である。
【0035】
PBTエラストマーにおいて、ソフトセグメントとしては、脂肪族ポリエステル及びポリエーテルから選択された少なくとも一種のソフトセグメントが使用でき、ポリエーテル単位を含むポリエステルであってもよい。
【0036】
ポリエステルタイプのソフトセグメントとしては、ジカルボン酸類(アジピン酸などの脂肪族C4−12ジカルボン酸など)とジオール類(1,4−ブタンジオールなどのC2−10アルキレングリコール、ジエチレングリコールなどの(ポリ)オキシアルキレングリコールなどの脂肪族ジオールなど)との重縮合体、オキシカルボン酸の重縮合体やラクトン(ε−カプロラクトンなどのC3−12ラクトンなど)の開環重合体などにより得ることができる。ポリエステルタイプのソフトセグメントは、通常、非晶性ポリエステルである。ソフトセグメントとしてのポリエステルの具体例としては、カプロラクトン重合体、ポリエチレンアジペート、ポリブチレンアジペートなどのC2−6アルキレングリコールとC6−12アルカンジカルボン酸とのポリエステルなどが例示できる。ポリエステルの数平均分子量は、200〜15000程度の範囲から選択でき、通常、200〜10000(例えば、300〜8000)程度であってもよい。
【0037】
ポリエーテルタイプのソフトセグメントとしては、ポリアルキレングリコール(ポリオキシエチレングリコール、ポリオキシプロピレングリコール、ポリオキシテトラメチレングリコールなどのポリC2−4アルキレングリコールなど)、特にポリオキシテトラメチレングリコールが好ましい。ポリエーテルの数平均分子量は、200〜10000程度の範囲から選択でき、通常、200〜6000程度であってもよい。
【0038】
ソフトセグメントは、ポリエーテル単位を有するポリエステル、例えば、前記脂肪族ポリエステルと前記ポリエーテルとの共重合体(ポリエーテル−ポリエステル)、ポリオキシアルキレングリコール(ポリオキシテトラメチレングリコールなど)などの前記ポリエーテルと脂肪族ジカルボン酸とのポリエステルなどであってもよい。
【0039】
(A2)ポリエステルエラストマー(PBTエラストマーなど)において、ハードセグメントとソフトセグメントとの重量割合は、前者/後者=20/80〜90/10、好ましくは30/70〜85/15、さらに好ましくは40/60〜80/20程度であってもよい。
【0040】
さらに、(A)PBT樹脂において、(A1)PBT単独重合体及び/又はPBT共重合体と、(A2)ポリエステルエラストマー(PBTエラストマーなど)との重量割合は、各成分の種類、PBT骨格(又は単位)の含有量などに応じて、前者/後者=20/80〜80/20程度の範囲から選択でき、通常、30/70〜70/30、好ましくは40/60〜60/40程度である。PBTエラストマー成分の含有量が多くなりすぎると、PBT樹脂組成物の特性が十分に得られず、耐候性や耐薬品性、耐熱性などが低下し、少な過ぎると、柔軟性や延性などが得られず、低温衝撃性も低下する。なお、(A)PBT樹脂だけでは、耐候性などの他の特性とのバランスを両立させるのが困難な場合が多く、PBTエラストマー成分の含有量が少ない範囲で検討しても、通常、所定の弾性率を達成することが困難である。
【0041】
(E)ポリブチレンナフタレート樹脂(PBN樹脂)
PBN樹脂は、主たる繰返し単位が1,4−ブタンジオールとナフタレンジカルボン酸(2,6−ナフタレンジカルボン酸など)で形成されるブチレンナフタレートで構成されていればよく、ポリブチレンナフタレート単独重合体(PBN単独重合体)であってもよく、ブチレンナフタレート成分以外の第3成分を共重合したポリブチレンナフタレート共重合体(PBN共重合体)であってもよい。上記第3成分(共重合成分)は、ジカルボン酸成分、グリコール成分、又は芳香族ジオール成分のいずれでもよい。第3成分としては、前記PBT共重合体と同様の共重合性成分が例示できる。なお、上記「主たる」とは全繰り返し単位中70モル%以上を表す。
【0042】
例えば、第3成分としての酸成分(ジカルボン酸成分)には、イソフタル酸、フタル酸、ジフェニルジカルボン酸、ジフェニルエーテルジカルボン酸、ジフェニルスルホンジカルボン酸、ジフェニルケトンジカルボン酸、ナトリウム−スルホイソフタル酸、ジブロモテレフタル酸などの芳香族ジカルボン酸、マロン酸、コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、デカンジカルボン酸などの脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸、デカリンジカルボン酸、ヘキサヒドロテレフタル酸などの脂環族ジカルボン酸などが含まれる。これらの酸成分はエステル結合形成性誘導体であってもよい。「エステル結合形成性誘導体」とは化学反応により容易にエステル結合を形成する化合物を意味し、具体的には、酸ハライド、低級アルキルエステル、又は低級芳香族エステルなどが挙げられる。これらのジカルボン酸成分は単独でまたは二種以上を使用することができる。
【0043】
第3成分であるグリコール成分としては、脂肪族ジオール成分[例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、トリメチレングリコール、ヘキサメチレングリコールなどのアルキレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどの(ポリ)オキシアルキレングリコールなど]、脂環式ジオール成分[例えば、シクロヘキサンジオール、シクロヘキサンジメタノールなど]、芳香族ジオール成分[例えば、2,2−ビス[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]プロパンなどのビスフェノール類のアルキレンオキサイド付加体など]などが例示できる。
【0044】
また、第3成分としては、脂肪族オキシカルボン酸成分[例えば、グリコール酸、ヒドロアクリル酸、3−オキシプロピオン酸など]、脂環式オキシカルボン酸成分[例えば、アシアチン酸、キノバ酸など]、芳香族オキシカルボン酸成分[例えば、サリチル酸、m−オキシ安息香酸、p−オキシ安息香酸、マンデル酸、アトロラクチン酸など]を挙げることができる。これらは単独又は二種以上を使用することができる。さらに、芳香族ジオール成分として、例えば、ヒドロキノン、カテコール、ナフタレンジオール、レゾルシン、4,4’−ジヒドロキシ−ジフェニルスルホン、ビスフェノールA[2,2’−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン]、テトラブロモビスフェノールAなどが例示できる。これらの成分も単独または二種以上を使用することができる。
【0045】
さらに、ポリブチレンナフタレートで構成された高分子鎖が実質的に線状である範囲内で、3価以上の多官能化合物、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、トリメリット酸、トリメシン酸、ピロメリット酸、トリカルバリル酸、没食子酸などを共重合してもよく、必要に応じて単官能化合物、例えばo−ベンゾイル安息香酸又はナフトエ酸などを共重合してもよい。
【0046】
PBN樹脂(PBN単独重合体又はPBN共重合体)は、従来公知のポリブチレンナフタレートの製造方法を用いて製造すればよく、例えば、ナフタレンジカルボン酸(2,6−ナフタレンジカルボン酸など)と1,4−ブタンジオールと必要により第3成分とのエステル化反応や、ナフタレンジカルボン酸の低級アルキルエステル(例えば、ジメチルエステル)と1,4−ブタンジオールと必要により第3成分とのエステル交換反応により製造できる。
【0047】
(B)エラストマー成分
エラストマー成分は、柔軟性を付与できる種々の成分、例えば、エチレン−酢酸ビニル共重合体ゴム、アクリル系ゴム、ジエン系ゴム(天然ゴム、イソプレンゴム、クロロプレンゴム、スチレン−ブタジエン共重合体ゴムなどのジエン系エラストマー)、オレフィン系ゴム(エチレン−プロピレンゴムなど)、フッ素ゴム(フッ化ビニリデン−パーフルオロプロペン共重合体など)]、ケイ素系ゴム(ケイ素系エラストマー)、ウレタン系ゴムなどであってもよい。これらのエラストマー成分は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらのエラストマー成分のうち、ジエン成分を含まないエラストマー成分、特にコアシェル型エラストマーが好ましい。
【0048】
コアシェル型エラストマーは、コア層およびシェル層のうち、いずれか一方をゴム成分(軟質成分)で構成し、他方の成分を硬質成分で構成してもよい。コアシェル型エラストマーは、通常、ゴム成分で構成されたコア層と、このコア層を被覆又は包含する硬質樹脂(ガラス状樹脂など)で構成されたシェル層とを備えた多層構造を有している場合が多い。
【0049】
ゴム成分は、例えば、不飽和結合含有単量体の重合体[アクリル系ゴム、ジエン系ゴム(ジエン系エラストマー)、オレフィン系ゴム(エチレンプロピレンゴムなど)、フッ素ゴム(フッ化ビニリデン−パーフルオロプロペン共重合体など)]、ケイ素系ゴム(ケイ素系エラストマー)、ウレタン系ゴムなどで構成できる。好ましいエラストマーはジエン成分(例えば、ブタジエン成分)を含まない。そのため、ゴム成分はジエン成分(ブタジエン成分又はジエン系ゴム)を含まないエラストマー、好ましくはアクリル系ゴムが用いられ、場合によりケイ素系ゴムを共重合/グラフト重合させた共重合体を使用することもできる。なお、ジエン系ゴム(ジエン系エラストマー)であっても、水添ゴム、例えば、水素添加ニトリルゴムなどであれば使用できる。好ましいコアシェル型エラストマーはアクリル系コアシェル型エラストマーである。
【0050】
コア層のアクリル系ゴムは、アクリル酸エステルと少量の架橋性モノマーとの重合により得ることができる。アクリル酸エステルとしては、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、プロピルアクリレート、ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ラウリルアクリレートなどのC1−12アルキルアクリレートなどが挙げられる。これらのアクリル酸エステルのうち、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレートなどのC2−8アルキルアクリレート(特に少なくともブチルアクリレートを含むアルキルアクリレート)が好ましい。これらのアクリル酸エステルは単独で又は2種以上組み合わせてもよい。
【0051】
架橋性モノマーとしては、ブチレンジ(メタ)アクリレートなどのアルキレンポリ(メタ)アクリレート;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリ(又はオリゴ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート(ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレートなど)、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールエタントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールジ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどの複数の(メタ)アクリロイル基を有する多官能性(メタ)アクリレートなど、ビニル(メタ)アクリレート、ジビニルベンゼンなどのビニル基を有する多官能性ビニル化合物、アリル(メタ)アクリレート、ジアリルマレート、ジアリルフマレート、ジアリルイタコネート、モノアリルマレート、モノアリルフマレート、トリアリルシアヌレートなどの複数のアリル基を有する多官能性アリル化合物などが挙げられる。架橋性モノマーとしては、例えば、加水分解縮合性化合物[例えば、(メタ)アクリロイル基を有するシランカップリング剤(3−トリメトキシシリルプロピル(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリロイルオキシアルキルトリアルコキシシランなど)など]も使用できる。代表的な架橋性モノマーとしては、ブチレンジアクリレートなどが例示できる。これらの架橋性モノマーは単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0052】
架橋性モノマーの使用量は、例えば、単量体全体100重量部に対して0.1〜10重量部(例えば、0.1〜5重量部、好ましくは0.2〜3重量部)程度であってもよい。
【0053】
ケイ素系ゴムは、例えば、ジメチルポリシロキサン鎖、メチルビニルポリシロキサン鎖、メチルフェニルポリシロキサン鎖、これらのシロキサン単位の共重合体鎖[ジメチルシロキサン−メチルビニルシロキサン共重合体鎖、ジメチルシロキサン−メチルフェニルシロキサン共重合体鎖、ジメチルシロキサン−メチル(3,3,3−トリフルオロプロピル)シロキサン共重合体鎖、ジメチルシロキサン−メチルビニルシロキサン−メチルフェニルシロキサン共重合体鎖など]で構成できる。シリコーンゴムの両末端は、例えば、トリメチルシリル基などであってもよい。珪素系ゴムは、オルガノシロキサン系単量体の重合により得られる。オルガノシロキサン系単量体としては、例えば、ヘキサメチルトリシクロシロキサン、オクタメチルシクロシロキサン、デカメチルペンタシクロシロキサン、ドデカメチルヘキサシクロシロキサン、トリメチルトリフェニルシロキサン、テトラメチルフェニルシクロテトラシロキサン、オクタフェニルシクロテトラシロキサンなどが例示できる。
【0054】
ゴム成分のガラス転移温度は、例えば、0℃未満(例えば、−10℃以下)、好ましくは−20℃以下(例えば、−180〜−25℃程度)、さらに好ましくは−30℃以下(例えば、−150〜−40℃程度)であってもよい。
【0055】
シェル層は、通常、硬質樹脂成分(又はガラス状樹脂成分)で構成でき、通常、ビニル系重合体(ビニル系共重合体など)で構成できる。ビニル系重合体(ビニル系共重合体)は、芳香族ビニル単量体(スチレン、α−メチルスチレンなど)、シアン化ビニル単量体(例えば、(メタ)アクリロニトリルなど)、メタクリル酸エステル系単量体、及びアクリル酸エステル単量体の中から選ばれた少なくとも1種の単量体の単独又は共重合体で構成できる。メタクリル酸エステル系単量体としては、例えば、アルキルメタクリレート(例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、ブチルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、2−エチルヘキシルメタクリレートなどのC1−20アルキルメタクリレート、好ましくはC1−10アルキルメタクリレート、さらに好ましくはC1−6アルキルメタクリレート)、アリールメタクリレート(フェニルメタクリレートなど)、シクロアルキルメタクリレート(シクロへキシルメタクリレートなど)などが例示できる。アクリル酸エステル単量体としては、前記コア層のアクリル酸エステルが例示できる。ビニル系重合体は、メタクリル系モノマー、芳香族ビニル系モノマーから選択された少なくとも1種[特に、少なくともメチルメタクリレートなど)]を重合成分とする重合体である場合が多い。なお、シェル層を構成するビニル系重合体は、前記と同様の架橋性モノマーとの共重合体であってもよい。
【0056】
シェル層のガラス転移温度は、例えば、30℃以上(例えば、30〜300℃程度)、好ましくは50℃以上(例えば、60〜250℃程度)、さらに好ましくは70℃以上(例えば、80〜200℃程度)であってもよい。
【0057】
コアシェル型ポリマーにおいて、コア層とシェル層との重量割合は、前者/後者=95/5〜5/95(例えば、95/5〜30/70)、好ましくは90/10〜10/90(例えば、85/15〜50/50)であってもよい。
【0058】
コアシェル型ポリマー(コアシェル型ポリマー粒子)の平均粒子径は、例えば、0.05〜10μm程度の範囲から選択でき、例えば、0.05〜5μm、好ましくは0.1〜3μm程度であってもよい。
【0059】
コアシェル型エラストマーのゴム層とシェル層とは、通常、グラフト結合によって結合している。このグラフト結合は、必要により、コア層(ゴム層)の重合成分にシェル層と反応するグラフト交差剤を添加して、ゴム層に反応基を与えた後、シェル層を形成させることによって得られる。グラフト交差剤としては、ケイ素系ゴムでは、ビニル結合及び/又はチオール基を有するオルガノシロキサン(例えば、(メタ)アクリロイルオキシシロキサン、ビニルシロキサンなど)などが例示できる。また、耐薬品性の点から、ブタジエン成分を含有しないコアシェル型エラストマーは、トルエン:イソオクタン=1:1(体積比)混合溶液に室温(20〜25℃程度)で溶解しないものが好ましい。
【0060】
なお、コアシェル型ポリマーは、慣用の方法(乳化重合法、シード重合法、マイクロサスペンジョン重合法、懸濁重合法など)により調製したものを用いてもよく、市販品を使用してもよい。例えば、コアシェル型ポリマーは、ロームアンドハースジャパン(株)から、「パラロイドEXL−2314」などとして入手することができる。
【0061】
(B)コアシェル型エラストマーなどのエラストマー成分の使用量は、各層の特性に応じて選択できる。例えば、前記内層用PBT樹脂組成物において、(B)エラストマー成分の使用量は、(A)PBT樹脂100重量部に対して、20〜40重量部程度であってもよい。また、バリア層用にPBT樹脂組成物を用いる場合は、バリア性を損なわない範囲で(B)エラストマー成分を含んでいてもよいが、通常、(B)エラストマー成分を含まない場合が多い。
【0062】
最外層用PBT樹脂組成物において、(B)エラストマー成分の使用量は、(A)PBT樹脂100重量部に対して、10〜80重量部、好ましくは15〜80重量部程度であってもよい。エラストマー成分の使用量が少なすぎると、耐衝撃性、柔軟性を向上させるのが困難である。なお、(B)エラストマー成分は(A)PBT樹脂成分に対して非相溶である場合が多く、エラストマー成分の使用量が多すぎると、凝集などが生じて耐衝撃性や柔軟性を充分に向上できない場合があるだけでなく、逆に悪化させることもある。
【0063】
(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物
芳香族ポリカルボジイミド化合物は、分子中に(−N=C=N−)なるカルボジイミド基を有し、その骨格に芳香族成分を含む化合物である。骨格が脂肪族成分だけのカルボジイミド化合物は、耐加水分解性を改善するのが困難である。
【0064】
芳香族ポリカルボジイミド化合物としては、例えば、無置換又は置換基(アルキル基、ニトロ基、アミノ基(又はN−置換アミノ基)、ヒドロキシル基、アルコキシ基、ハロゲン原子などから選択された少なくとも一種の置換基)を有するポリ(ジフェニルアルカンカルボジイミド)[例えば、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,5’−ジメチル−4,4’−ビフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(3,5’−ジメチル−4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)など]、無置換又は前記置換基を有するポリ(アリーレンカルボジイミド)[例えば、ポリ(p−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(m−フェニレンカルボジイミド)、ポリ(ナフチレンカルボジイミド)、ポリ(1,3−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1−メチル−3,5−ジイソプロピルフェニレンカルボジイミド)、ポリ(1,3,5−トリエチルフェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)など]などが挙げられる。これらの芳香族ポリカルボジイミド化合物は単独で又は2種以上併用できる。
【0065】
これらのカルボジイミド化合物のうち、ポリ(4,4’−ジフェニルメタンカルボジイミド)、ポリ(フェニレンカルボジイミド)およびポリ(トリイソプロピルフェニレンカルボジイミド)が好適に使用される。
【0066】
ポリカルボジイミド化合物の数平均分子量は、1,000〜30,000、好ましくは2,000〜25,000程度である。数平均分子量が小さすぎると耐熱性に劣る虞があり、大きすぎると樹脂への分散不良や耐加水分解性向上効果が十分得られない虞がある。
【0067】
(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物の使用量は、ポリエステル樹脂の種類に応じて、(A)ポリエステル樹脂(PBT樹脂及び/又は(E)PBN樹脂など)100重量部に対して、0〜5重量部程度の範囲から選択でき、通常、0.01〜5重量部、好ましくは0.1〜3重量部、さらに好ましくは0.2〜1.5重量部程度である。(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物の使用量が少なすぎると、高い耐加水分解性を得ることが困難であり、多すぎると流動性の低下や、コンパウンドや成形加工時にゲル成分、炭化物の生成が生じやすくなる。
【0068】
(D)酸化防止剤
酸化防止剤には、ヒンダードフェノール系、チオエーテル系、ヒンダードアミン系、リン系酸化防止剤などが含まれる。
【0069】
ヒンダードフェノール系酸化防止剤は、単環式ヒンダードフェノール化合物、炭化水素基又はイオウ原子を含む基で連結された多環式ヒンダードフェノール化合物、エステル基又はアミド基を有するヒンダードフェノール化合物などであってもよい。ヒンダードフェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、C2−10アルキレンビス(t−ブチルフェノール)[例えば、2,2′−メチレンビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、4,4′−メチレンビス(2,6−ジ−t−ブチルフェノール)など]、トリス(ジ−t−ブチル−ヒドロキシベンジル)ベンゼン[例えば、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼンなど]、C2−10アルカンジオール−ビス[(ジ−t−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート[例えば、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]など]、ジ又はトリオキシC2−4アルカンジオール−ビス(t−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート[例えば、トリエチレングリコール−ビス[3−(3−t−ブチル−5−メチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]など]、C3−8アルカントリオール−ビス[(ジ−t−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、C4−8アルカンテトラオールテトラキス[(ジ−t−ブチル−ヒドロキシフェニル)プロピオネート][例えば、ペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]など]、長鎖アルキル(ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート[例えば、n−オクタデシル−3−(4′,5′−ジ−t−ブチルフェニル)プロピオネート、ステアリル−2−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネートなど]、2−t−ブチル−6−(3−t−ブチル−5−メチル−2−ヒドロキシベンジル)−4−メチルフェニルアクリレート、4,4′−チオビス(3−メチル−6−t−ブチルフェノール)などが挙げられる。これらのフェノール系酸化防止剤は単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。フェノール系酸化防止剤としては、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、トリエチレングリコールビス[3−(3−t−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート]などが好適に用いられる。
【0070】
チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、ジ長鎖アルキルチオジプロピオネート(ジラウリルチオジプロピオネート、ジトリデシルチオジプロピオネートなど)、テトラキス[メチレン−3−(長鎖アルキルチオ)プロピオネート]アルカン(例えば、テトラキス[メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート]メタンなど)などが例示できる。長鎖アルキル基としては、直鎖状又は分岐鎖状C8−20アルキル基などが例示できる。
【0071】
ヒンダードアミン系酸化防止剤としては、例えば、4−メトキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、4−ベンゾイルオキシ−2,2,6,6−テトラメチルピペリジン、ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)オギサレート、ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)アジペート、ビス−(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジル)テレフタレート、1,2−ビス(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジルオキシ)エタン、フェニル−1−ナフチルアミン、フェニル−2−ナフチルアミン、N,N′−ジフェニル−1,4−フェニレンジアミン、N−フェニル−N′−シクロヘキシル−1,4−フェニレンジアミンなどが挙げられる。
【0072】
リン系酸化防止剤として、例えば、トリイソデシルホスファイト、トリフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、2,2−メチレンビス(4,6−ジ−t−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、トリス(2−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ビス(2−t−ブチルフェニル)フェニルホスファイト、トリス[2−(1,1−ジメチルプロピル)−フェニル]ホスファイト、トリス(2−t−ブチル−4−フェニルフェニル)ホスファイト等が挙げられる。
【0073】
さらに、酸化防止剤としては、ヒドロキノン系酸化防止剤(例えば、2,5−ジ−t−ブチルヒドロキノンなど)、キノリン系酸化防止剤(例えば、6−エトキシ−2,2,4−トリメチル−1,2−ジヒドロキノリンなど)などが挙げられる。
【0074】
これらの酸化防止剤は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。これらの酸化防止剤のうち、変色や加水分解性を抑制する点から、(D)酸化防止剤は、ヒンダードフェノール系酸化防止剤が好ましく、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とチオエーテル系酸化防止剤とを組み合わせると、より効率的に上記効果が発現する。(D)酸化防止剤は、PBTエラストマーの耐熱安定性を向上させるためにも重要である。なお、ヒンダードフェノール系酸化防止剤とチオエーテル系酸化防止剤を併用する場合、両者の重量割合は、90/10〜10/90(例えば、80/20〜20/80)程度の範囲から選択でき、チオエーテル系酸化防止剤の添加量が少なくなるように調整することが望ましい。両者の重量割合は、90/10〜60/40(例えば、80/20〜70/30)程度であってもよい。
【0075】
(D)酸化防止剤全体の添加量は、(A)PBT樹脂及び/又は(E)PBN樹脂100重量部に対して、0.01〜5重量部(例えば、0.1〜3重量部)、好ましくは0.5〜3重量部(例えば、0.5〜2重量部)、さらに好ましくは0.7〜2.5重量部(例えば、0.8〜2.3重量部)程度である。添加量が少なすぎると、効果的でなく、多すぎると、成形品からのブリードアウトなどが懸念される。
【0076】
本発明の樹脂組成物には、必要により、エポキシ化合物、特に多官能エポキシ化合物(例えば、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂、グリシジル基を有するビニル系共重合体など)などを添加してもよい。多官能エポキシ化合物としては、例えば、芳香族エポキシ樹脂(ビスフェノール型エポキシ樹脂、ノボラック型エポキシ樹脂など)が挙げられ、ビニル系共重合体としては、例えば、(メタ)アクリル酸グリシジルエステル共重合体、(メタ)アクリル酸C1−4アルキルエステル−(メタ)アクリル酸グリシジルエステル共重合体、エチレン−(メタ)アクリル酸グリシジルエステル共重合体などのオレフィン−(メタ)アクリル酸グリシジルエステル共重合体、オレフィン−(メタ)アクリル酸C1−4アルキルエステル−(メタ)アクリル酸グリシジルエステル共重合体などが挙げられる。エポキシ化合物は、単独で又は二種以上組み合わせて使用できる。エポキシ化合物の使用量は、(A)PBT樹脂100重量部に対して、0.1〜20重量部(例えば、0.5〜15重量部)、好ましくは1〜10重量部程度であってもよい。
【0077】
本発明の多層チューブにおいて、各層(例えば、内層及び/又は最外層)には、必要により、有機系又は無機充填剤を添加してもよい。無機充填剤としては、例えば、粉粒体(炭酸カルシウム、高分散性珪酸塩、アルミナ、水酸化アルミニウム、タルク、クレー、マイカ、ガラスフレーク、ガラス粉、ガラスビーズ、石英粉、珪砂、ウォラストナイト、カーボンブラック、硫酸バリウム、焼石膏、炭化珪素、ボロンナイトライドや窒化珪素など)、板状体(の無機化合物)、繊維(ガラス繊維、炭素繊維など)などが例示できる。充填剤は単独で又は2種以上併用してもよい。
【0078】
また、本発明の多層チューブにおいて、各層(例えば、内層、バリア層及び/又は最外層)には、必要により、熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂等に添加される公知の添加剤、例えば、上記酸化防止剤以外の耐熱安定剤、紫外線吸収剤などの安定剤、帯電防止剤、染料や顔料などの着色剤、潤滑剤、可塑剤及び結晶化促進剤、結晶核剤、充填剤などを靱性や柔軟性を損なわない範囲で添加してもよい。
【0079】
なお、最外層用PBT樹脂組成物は高い柔軟性を備えているのが好ましく、ISO178に規定される測定法によって測定した曲げ弾性率は、100〜1000MPa程度であってもよく、特に600MPa以下、好ましくは200〜550MPa、さらに好ましくは250〜500MPa程度であってもよい。弾性率が低すぎると、耐圧性に劣り変形などの原因になりやすく、高すぎると、比較的高い強度で加工する必要があるとともに、組み立て・装着後も高い反発力を示すこととなる。
【0080】
さらに、最外層用PBT樹脂組成物において、ISO527−1,2記載の測定法によって測定した引張り試験による呼び歪は、200%以上であるのが好ましい。
【0081】
本発明の多層チューブは耐久性も高く、例えば、温度120℃でのヒートエージング処理を1000時間行った後、180°の折れ曲げ試験を行ったとき、割れが発生しない。さらに、プレッシャークッカーテスト(121℃×2気圧、湿度100%)処理を48時間行った後、180°の折れ曲げ試験を行ったとき、割れが発生しない。
【0082】
さらに、本発明の多層チューブは燃料に対する透過性が極めて小さい。例えば、燃料(Fuel C(トルエン/イソオクタン=50/50(容量%))100容量部にエタノール10容量部を混合した混合燃料)に対する透過性をSHED法より測定したとき、透過性は100mg/test以下(好ましくは10mg/test以下、さらに好ましくは3mg/test以下)である。
【0083】
なお、多層チューブ(燃料用チューブなど)において、各層の厚み及び曲げ弾性率は特に制限されず、前記特許文献4及び5などを参照できる。内層の厚みは0.01〜0.5mm、バリア層の厚みは0.01〜1mm、最外層の厚みは0.1〜3mm程度であってもよい。各層の厚みが薄すぎると、各層の機能を十分に発揮することが困難であり、厚すぎると重量が増加する。
【0084】
チューブの内径は、例えば、3〜60mm、好ましくは4〜40mm程度であってもよい。また、チューブの外径は、例えば、5〜50mm、好ましくは7〜40mm程度であってもよい。チューブの内径が小さすぎると、燃料の流量が制限されるとともにチューブの剛性が高くなりすぎ、大きすぎると、全体の剛性が低下するとともに重量が増し、自動車などの燃料部品への取り付け・装着作業が複雑化しやすい。
【0085】
また、各層に使用する使用する材料の曲げ弾性率は内層で300〜2000MPa、好ましくは1000〜2000MPa、バリア層で1000〜3000MPa、最外層で100〜10000MPa程度であってもよい。
【0086】
本発明の多層チューブは、種々の方法、例えば、次のようにして製造できる。
【0087】
上記内層用材料、バリア層用材料および最外層用材料を準備し、これらPBT樹脂組成物を各々の混練機で溶融混練し、共押出成形機を用いて三層を同時に押出成形(共押出成形)することにより、三層構造の多層チューブ(例えば、燃料用チューブ)を得ることができる。各樹脂組成物を利用して各層を同時に押出成形することにより、各層の界面を、接着剤を用いることなく強固に接着でき、積層一体化できる。また、必要であれば、真空サイジング法などを利用してストレート形状(直管状)や、コルゲーターを用いて蛇腹構造のチューブを形成することも可能である。なお、同時押出成形(共押出成形)法においては、必要により、共押出成形により各層間に接着剤層を介在させてもよい。
【0088】
なお、多層チューブは、各層を同時に押出成形して積層する製法に限定されず、例えば、まず上記内層用材料を押出成形機を用いて単層構造のチューブを作製し、このチューブの外周面に、バリア層(中間層)、最外層を順次、押出成形機を用いて押出成形又はテープ状押出成形体を螺旋状に巻回することにより作製してもよい。この方法において、必要により、予め成形した層の表面をブラストなどにより粗化処理したり接着剤を塗布して積層してもよい。
【実施例】
【0089】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。
【0090】
実施例1
実施例1では、以下の材料を用いた。
【0091】
(A1)PBT重合体(ポリブチレンテレフタレート,ウィンテックポリマー(株)製、固有粘度0.9dl/g)
(A2)PBTエラストマー(エーテルタイプ)(東洋紡(株)製「ペルプレンGP400」)
(B)コアシェル型エラストマー
アクリル系コアシェル型ポリマー:ロームアンドハースジャパン(株)製「パラロイドEXL2314」)
(C)カルボジイミド化合物
芳香族ポリカルボジイミド;ラインケミージャパン(株)製「スタバックゾールP」
(D)酸化防止剤
(D1)ヒンダードフェノール系酸化防止剤;チバ社製「イルガノックス1010」
(D2)チオエーテル系酸化防止剤;ADEKA社製「アデカスタブAO412S」
上記材料を用いて調製した内層用PBT樹脂組成物、バリア層用PBT樹脂組成物、最外層用PBT樹脂組成物を、それぞれ押出成形機(押出し機;プラスチック工学研究所製多層押出機)を用いて溶融混練し、共押出成形することにより、厚み300μmの内層と、厚み500μmのバリア層と、厚み300μmの最外層とを有する三層構造の燃料用チューブ(内径12mm、外径14.2mm)を作製した。
【0092】
なお、内層用PBT樹脂組成物は、(A1)PBT樹脂100重量部に対して、(B)コアシェル型エラストマー25重量部、(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物0.4重量部、(D)酸化防止剤1重量部[(D1)0.6重量部及び(D2)0.4重量部]を含み、バリア層用PBT樹脂組成物は、PBT樹脂(A1)100重量部に対して(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物1重量部を含み、最外層用PBT樹脂組成物は、(A)PBT樹脂100重量部[(A1)56重量部及び(A-2)44重量部]に対して、(B)コアシェル型エラストマー44重量部、(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物0.6重量部、(D)酸化防止剤1.1重量部[(D1)0.7重量部及び(D2)0.4重量部]を含む。
【0093】
また、内層用、バリア層用及び最外層用の各PBT樹脂組成物について、ISO178の規定に準拠して、曲げ弾性率を測定した。その結果、各層用の樹脂組成物の曲げ弾性率は、内層用PBT樹脂組成物:1500MPa、バリア層用PBT樹脂組成物:2500MPa、及び最外層用PBT樹脂組成物:420MPaであった。さらに、最外層用PBT樹脂組成物については、ISO527−1及び2の規定に準拠して、引張試験を行ったところ、呼び歪みは、200%を超える値であった。
【0094】
実施例2
バリア層に(E)ポリブチレンナフタレート(PBN)樹脂組成物(東洋紡(株)「ペルプレンEN2000」)を使用した以外は実施例1と同様にして多層チューブを作製した。
【0095】
比較例1
外層材にエーテルタイプPBTエラストマー(東洋紡(株)製「ペルプレンP150B」、A3)を用いる以外は実施例2と同様にして多層チューブを作製した。
【0096】
比較例2
外層材にポリエステルタイプPBTエラストマー樹脂組成物(東洋紡(株)製「ペルプレンS3001」、A4)を用いる以外は実施例2と同様にして多層チューブを作製した。
【0097】
[燃料チューブ特性の評価]
実施例及び比較例で得られた3層構造の多層チューブについて、以下のようにして燃料チューブ特性を評価した。
【0098】
[燃料透過量]
評価試験用ガソリンとして、Fuel C(トルエン/イソオクタン=50/50(容量%))100容量部にエタノール10容量部を混合した混合燃料(FC/E10)を、両端をシール状態で密栓したホースに封入して、40℃で1000時間放置して安定化し、その後、内容物(混合燃料)を排出して新規な混合燃料(FC/E10)を再度封入した後、所定の温度サイクル環境に放置し、24時間毎に燃料透過量を測定した。この操作を3回繰り返し、その3回の測定値中の最大値をテスト1回当たりの燃料透過量[(mg/test)=(mg/24Hr)]とした。また、10mg/test以下の燃料透過量を「○」とした。
【0099】
[耐加水分解性(プレッシャークッカーテスト)]
燃料用チューブを、温度121℃、2気圧、湿度100%の条件下において48時間放置後、180°に折り曲げ、クラックの有無を確認した。クラックが生じなかったチューブについては「○」、クラックが生じたチューブは「×」とした。
【0100】
[柔軟性(曲げ柔軟性)]
燃料用チューブを用い、JIS K7171に記載の3点曲げ試験に準拠して、支点間距離100mm及び試験速度100mm/分の条件で、チューブを10mm撓ますのに必要な応力を測定した。
【0101】
なお、この試験で測定される曲げ応力は、曲げ加工性の指標となるものである。曲げ応力が小さい程、柔軟で曲げ成形し易いことを意味し、通常、曲げ応力が60N以下であれば、柔軟性に優れていると判断される。表1中では、曲げ応力が60N以下である場合を、「○」で示した。
【0102】
[低温柔軟性]
燃料用チューブを、−40℃にて4時間冷却後、直ちに180°に折り曲げ、クラックの有無を確認した。クラックが生じなかったチューブについては「○」、クラックが生じたチューブは「×」とした。
【0103】
[耐サワーガソリン性]
Fuel C(トルエン/イソオクタン=50/50(容量%))にラウロイルパーオキサイド(LPO)を5重量%混合した模擬変性ガソリンを調製した。そして、長さ10mの燃料用チューブの両端部に金属製パイプを圧入し、圧力レギュレーターを介して、0.3MPaの圧力で上記模擬変性ガソリンを、60℃で8時間循環させた後、16時間封入した。この操作を1サイクルとして10サイクル行った後、燃料用チューブをサンプリングして、180°に折り曲げ、その折り曲げ部分を半割し、内面状態を目視により観察した。その結果、クラック等の異常が何ら生じなかったチューブを「○」、クラックや割れが生じたチューブを「×」として、耐サワーガソリン性の評価を行った。
【0104】
[引き剥し性(耐引き剥し性)]
バースト性試験を実施し、破壊サンプルの層間の状態を観察した。接着力が強く剥離のみられないもの、あるいは層間の界面で剥離しなかったものを「○」、層間界面で剥離するものを「×」とした。
【0105】
[耐熱老化性]
120℃の環境下で、1000時間放置し、180°に折り曲げ、クラック等の異常が何ら生じなかったチューブを「○」、クラックや割れが生じたチューブを「×」として耐熱老化性の評価を行った。
【0106】
[耐候性]
耐候性の指標のひとつとして、耐オゾン性の評価を行った。40℃雰囲気下で、50pphmのオゾン環境にサンプルを放置後、180°に折り曲げ、クラック等の異常が何ら生じなかったチューブを「○」、クラックや割れが生じたチューブを「×」として耐候性の評価を行った。
【0107】
[耐候性]
耐候性の指標のひとつとして、耐キセノン性の評価をASTM D2565に基づき実施した。サンプルを放置後、180°に折り曲げ、クラック等の異常が何ら生じなかったチューブを「○」、クラックや割れが生じたチューブを「×」として、耐候性の評価を行った。
【0108】
結果を表1に示す。
【0109】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の多層チューブ(又は多層パイプ)は、燃料成分に対する非透過性が高いため、内層が燃料成分と接触する用途、例えば、内層が自動車液体燃料又はその蒸気と接触する燃料部品、例えば、燃料チューブ(又は燃料ホース、燃料パイプ)として有用である。多層チューブ(又は燃料チューブ)は、種々の燃料、例えば、プロパン、ガソリン、アルコール混合ガソリンなどの燃料成分(液体燃料、気体燃料など)を移送するのに有用であり、自動車、航空機、2輪車、トラクター、耕運機などのベヒクルの燃料関連機器部材やその周辺機器部材(燃料移送部品)として利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料成分と接触する内層と、燃料成分の透過を規制するバリア層と、最外層との少なくとも三層積層構造を有し、前記内層が、少なくとも(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂を含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物で構成され、バリア層がポリエステル樹脂組成物で構成され、最外層が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂、(B)エラストマー成分、(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物、および(D)酸化防止剤を含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物で構成されている多層チューブ。
【請求項2】
バリア層のポリエステル樹脂組成物が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂および(E)ポリブチレンナフタレート樹脂から選択された少なくとも一種で構成されている請求項1記載の多層チューブ。
【請求項3】
内層、バリア層および最外層の(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が、(A1)ポリブチレンテレフタレート単独重合体及び/又はポリブチレンテレフタレート共重合体と、(A2)ポリエステルエラストマーとで構成されている請求項1又は2記載の多層チューブ。
【請求項4】
(A2)ポリエステルエラストマーが、ポリブチレンテレフタレートをハードセグメントとして20〜90重量%の割合で含む請求項3に記載の多層チューブ。
【請求項5】
内層、バリア層および最外層の(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂が、(A1)ポリブチレンテレフタレート単独重合体及び/又はポリブチレンテレフタレート共重合体と、(A2)ポリエステルエラストマーとを前者/後者=30/70〜70/30の重量割合で含む請求項1〜4のいずれかに記載の多層チューブ。
【請求項6】
(B)エラストマー成分がジエン成分を含まないアクリル系コアシェル型エラストマーである請求項1〜5のいずれかに記載の多層チューブ。
【請求項7】
(D)酸化防止剤が、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、またはヒンダードフェノール系酸化防止剤とチオエーテル系酸化防止剤との組み合わせで構成されている請求項1〜6のいずれかに記載の多層チューブ。
【請求項8】
内層、バリア層および最外層が接着剤を用いることなく共押出し成形により直接接合した多層チューブであって、
内層が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(B)エラストマー成分20〜40重量部及び(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物0.01〜5重量部を含む樹脂組成物で構成され、
バリア層が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂及び/又は(E)ポリブチレンナフタレート樹脂100重量部に対して、(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物0〜5重量部を含む樹脂組成物で構成され、
最外層が、(A)ポリブチレンテレフタレート樹脂100重量部に対して、(B)エラストマー成分10〜80重量部、(C)芳香族ポリカルボジイミド化合物0.01〜5重量部、および(D)酸化防止剤0.01〜5重量部を含む樹脂組成物で構成されている請求項1〜7のいずれかに記載の多層チューブ。
【請求項9】
最外層を構成するポリブチレンテレフタレート樹脂組成物が、ISO178に規定される測定法によって測定した曲げ弾性率が600MPa以下の柔軟性を有し、かつISO527−1,2記載の測定法によって測定した引張り試験による呼び歪が200%以上である請求項1〜8のいずれかに記載の多層チューブ。
【請求項10】
内層が自動車液体燃料又はその蒸気と接触する燃料部品である請求項1〜9のいずれかに記載の多層チューブ。
【請求項11】
温度120℃でのヒートエージング処理を1000時間行った後、180°の折れ曲げ試験を行ったとき、割れが発生しない請求項1〜10のいずれかに記載の多層チューブ。
【請求項12】
プレッシャークッカーテスト(121℃、2気圧)処理を48時間行った後、180°の折れ曲げ試験を行ったとき、割れが発生しない請求項1〜11のいずれかに記載の多層チューブ。
【請求項13】
燃料(Fuel C(トルエン/イソオクタン=50/50(容量%))100容量部にエタノール10容量部を混合した混合燃料)に対する透過性をSHED法より測定したとき、透過性が10mg/test以下である請求項1〜12のいずれかに記載の多層チューブ。

【公開番号】特開2009−262545(P2009−262545A)
【公開日】平成21年11月12日(2009.11.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−68702(P2009−68702)
【出願日】平成21年3月19日(2009.3.19)
【出願人】(501183161)ウィンテックポリマー株式会社 (54)
【出願人】(000219602)東海ゴム工業株式会社 (1,983)
【Fターム(参考)】