多層プリント配線板及びその製造方法
【課題】 同一層に立体的に交差スルーホール回路配線を有し、しかも電気的特性に優れる多層プリント配線板の提供。
【解決手段】 平面層部位の直下の絶縁層内部に下層に接することのない有底構造の凹部が設けられ、かつ当該凹部の底部及び壁面に第1の回路配線が配置されていると共に、当該凹部の表層部に第1の回路配線と立体的に交差する第2の回路配線が配置されている多層プリント配線板;平面層部位の直下の絶縁層部に、当該平面層部位に開口し、かつ下層に接することのない有底構造の凹部を形成する工程と、当該凹部の底部及び壁面に回路配線を形成する工程と、当該凹部の表層部に前記回路配線と立体的に交差する回路配線を形成する工程とを有する多層プリント配線板の製造方法。
【解決手段】 平面層部位の直下の絶縁層内部に下層に接することのない有底構造の凹部が設けられ、かつ当該凹部の底部及び壁面に第1の回路配線が配置されていると共に、当該凹部の表層部に第1の回路配線と立体的に交差する第2の回路配線が配置されている多層プリント配線板;平面層部位の直下の絶縁層部に、当該平面層部位に開口し、かつ下層に接することのない有底構造の凹部を形成する工程と、当該凹部の底部及び壁面に回路配線を形成する工程と、当該凹部の表層部に前記回路配線と立体的に交差する回路配線を形成する工程とを有する多層プリント配線板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一層部において立体的に交差する回路配線を有する多層プリント配線板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリント配線板の小型化、薄型化、高密度化が求められる中で、回路配線を効率良く小スペースに配置する方法が重要視されている。その際に、同一平面上に回路配線を重なり合うような配置は信号の伝達の上で好ましくない。そのため、これまでのプリント配線板の技術としては、図10に示したような回路配線の配置を行なっていた。
【0003】
すなわち、第1の層面(L1面)で立体的に交差する回路配線101及び回路配線104の場合には、回路配線101を別層に引き回し、例えば図10に示されるように、スルーホールやブラインドビアホール(BVH)などのような層間接続ビア106を使用し、別層の第2の層面(L2面)に配置させ、次いで、回路配線103に接続し、再び層間接続ビアを用いて、L1面への引き回しを行なうことが行なわれている。
【0004】
ここで、前記別層への回路配線の引き回し構造は、多ピン化する半導体チップなどを受けるプリント配線板の重要な技術としてこれまで使用されてきたが、電気的な特性や信号の伝達効率の上では問題があった。
【0005】
すなわち、前記回路配線の引き回しを行なう際に、スルーホールやBVHなどのような層間接続ビア106を使用した場合には、特性インピーダンスの急激な変化により、多重反射を発生させる問題を生じる。また、スルーホールのランド部105が大きいために、電磁界の不要反射範囲も広くなるといった問題を生じる。さらに、薄型化などの理由により各配線層にグランド部を設けられないため信号は不安定となることが多い。
【0006】
また、従来技術として、2本のストリップ線路の交差を同一層で行ない、多層プリント板の配線の容易化及び層数の削減を可能にする技術も既に報告されている(特許文献1参照)。
【0007】
これは電気的な特性を利用したものであり、図11に示したような交差状態の回路を形成し、2入力2出力の交差回路において、全接点間を1/4波長線路で接続することにより、第1入力接点に入力した第1信号は第1出力接点のみに現れ、第2入力接点に入力した第2信号は第2出力接点のみの現れる方向性結合を実現できる構成より成り立っている。
【0008】
しかしながら、図11に示したような従来の交差状態の回路構造において、波長(λ)は実効比誘電率に依存するところ、実効比誘電率を正確につかむことは非常に困難であり、自ずと目的の周波数(f)に対する1/4波長を規定することは難しいと云う問題があった。
【0009】
さらに、構造的な特徴を利用した従来技術としては、例えば、BVH構造を体積的に半減させ、削減されたスペース部分に回路配線を配置する技術も既に報告されている(特許文献2参照)。しかし、この技術では回路配線を交差状態に形成することは難しく、また、層間接続厚みによって製造方法が異なるためプリント配線板の製造が難しいと云う問題があった。
【特許文献1】特開平7−38301号報
【特許文献2】特開2003−258428号報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のような背景に基づき本発明が解決しようとする課題は、高密度な回路配線を形成する際に、同一層に立体的に交差する回路配線を有し、しかも特性インピーダンスなどの電気的特性に優れた多層プリント配線板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成するために種々研究を重ねた。その結果、回路配線を有する導体層の直下の絶縁層部に凹部を設け、当該凹部の底部に第1の回路配線を配置すると共に、当該凹部の表層部に第2の回路配線を配置し、当該凹部にて立体的に交差する回路配線を有する多層プリント配線板が有効であることを見出して発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、同一平面層部位に第1の回路配線と第2の回路配線を有する多層プリント配線板において、当該平面層部位の直下の絶縁層内部に下層に接することのない有底構造の凹部が設けられ、かつ当該凹部の底部及び壁面に第1の回路配線が配置されていると共に、当該凹部の表層部に第1の回路配線と立体的に交差する第2の回路配線が配置されている多層プリント配線板により上記課題を解決したものである。
【0013】
また本発明は、前記凹部の底部及び壁面に配置された第1の回路配線と前記凹部の表層部に配置された第2の回路配線との間に絶縁部材を設けた多層プリント配線板により上記課題を解決したものである。
【0014】
また本発明は、前記絶縁部材を前記凹部内に充填した多層プリント配線板により上記課題を解決したものである。
【0015】
また本発明は、導体回路配線を有する平面層部位の直下の絶縁層部に、当該平面層部位に開口し、かつ下層に接することのない有底構造の凹部を形成する工程と、当該凹部の底部及び壁面に導体を付与し、回路配線を形成する工程と、当該凹部を絶縁部材にて充填する工程と、当該凹部の表層部に導体を付与し、前記回路配線と立体的に交差する回路配線を形成する工程とを有することを特徴とする多層プリント配線板の製造方法により上記課題を解決したものである。
【0016】
また本発明は、前記凹部を、高圧噴射型粗化処理にて形成する多層プリント配線板の製造方法により上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、同一層に交差する回路配線を容易に形成し得るので、回路配線を高密度化することができる。しかも、特性インピーダンスの整合や電磁界の不要反射範囲の削減に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明を実施の形態を示す図1〜図5を使用して更に説明する。
【0019】
本発明は、多層プリント配線板における層間絶縁部に凹部を設け、当該凹部を用いて立体交差状の回路配線を形成するものである。ここで使用される層間絶縁部は、多層プリント配線板における内層のコア部もしくはビルトアップ部が用いられる。
【0020】
図1では始めに両面銅張り板10を用意し、当該両面銅張り板10に凹部2を設ける。ここで、凹部2の構造は、その開口部を両面銅張り板10の表層部に開口させ、その底部を絶縁部1の内部に設ける。この凹部2の開口部から底部に届く壁面3は、図1に示されるようなテーパー角度を有する斜面、あるいは、底部に対する垂直面の何れであっても良い。
【0021】
凹部2を形成する穴加工の方法としては特に限定されないが、例えば、(i)ドリルやルーターを使用した機械的な加工方法、(ii)ウエットブラストやサンドブラストのような研磨剤を投射することによって絶縁部を細かく粗化する加工方法、(iii)レーザを使用して絶縁部を燃焼させる加工方法、(iv)薬液などを使用して絶縁部を化学的に溶融させる加工方法、(v)樹脂付き銅箔に金型開口部を設けて絶縁基板に積層する方法が挙げられる。
【0022】
本発明においては、凹部2の深さ量が加工の上で調整しやすいという理由より、前記(i)ドリルやルーターを使用した機械的な加工方法及び(ii)ウエットブラストやサンドブラストのような研磨剤を投射することによって絶縁部を細かく粗化する加工方法が特に好適に使用される。
【0023】
ドリルやルーターを使用した機械的な加工方法としては、前記両面銅張り板10にあらかじめ位置決めされた箇所にドリルやルーターを設置し、機械的に穴あけを行なう。この際に、凹部2の底部を絶縁部1の内部に設ける、いわゆる有底構造を形成するが、ドリルやルーターを使用した機械的な加工方法では、凹部2の平面形状の調整は容易に行なえるが、厚み方向の深さを精度良く形成することは難しい。
【0024】
従って、当該ドリルやルーターを使用した機械的な加工方法は、絶縁部1の厚みが比較的厚い材料を使用した場合に使用するのが好ましい。例えば、絶縁部1の厚みが400μm以上を有する場合で、凹部2の深さを200μm以上とした場合に、現行のドリルやルーターの機械性能を考慮すれば、深さ方向の調整は精度良く行なえる。しかし、凹部2の深さが200μm未満であり、例えば深さ50μmとした場合には、深さ50μmの精度の良い加工は現行のドリルやルーターでは困難であるため、その場合は次の加工方法にてザグリ穴2を形成するのが好ましい。
【0025】
前記求める凹部2の深さが200μm以下である場合は、ウエットブラストやサンドブラストのような研磨剤を投射することによって絶縁部を細かく粗化する加工方法が好適に使用される。
【0026】
凹部2の製造方法としては、例えば前記両面銅張り板10の銅部4にあらかじめ回路形成し、まず凹部2の開口部に対応する箇所の銅をエッチングにより取り除く。その後、ウエットブラストやサンドブラストにより粗化を行なうことで、研磨剤により凹部2の箇所を徐々に粗化せしめ、複数回の粗化処理を行なうことにより目的とする凹部2を形成する方法が挙げられる。
【0027】
この製造方法は、絶縁部1が銅部4よりも研磨材により粗化され易いということを利用したものである。すなわち前記ウエットブラストやサンドブラストにより投射される研磨剤が絶縁部1を強く粗化できるのに対し、銅部4は硬度の違いにより前記絶縁部1よりも粗化量が少ないという利点を生かした製造方法である。これにより、前記凹部2の加工が可能になり、複数回の前記粗化処理を行なうことにより目的とする深さを有する凹部2の形成形成が精度良く行なえる。
【0028】
ここで、複数回の前記粗化処理を行なう過程で銅部4も徐々に粗化され、銅部4の厚みが薄い場合には前記粗化処理により銅部4がすべて削除されることとなる。そこで、銅部4の厚みを18μm以上とすることが好適である。これは、深さ200μm未満の凹部2を形成する上で、銅部4の厚みを18μm以上とすれば当該銅部4は粗化終了後に残り、また当該銅部4は薄くなっていても残ることが良い状態であり、これは銅部4が残れば凹部2の加工は良好に行なえるためである。
【0029】
また、前記凹部2の加工はウエットブラストの方がサンドブラストよりも粗化能力が大きいという利点から、好適に使用される。そこで、以下ウエットブラストを使用した凹部2の加工方法について例を挙げて説明する。
【0030】
始めに、ウエットブラストとは高圧噴射型表面粗化処理であり、その特徴は研磨剤と水と空気を十分に混合し、ブラストガンと呼ばれる噴出口からエアー圧力でシャワーのようにプリント配線板に吹き付ける工法である。この際、研磨剤がプリント配線板の表面に叩き付けられて、結果として微細に粗化することが可能である。また、プリント配線板が水平コンベアにより搬送され、プリント配線板に対して高圧噴射型表面粗化処理の研磨剤が垂直方向に当たるため、凹部2の加工は良好に行なえる。
【0031】
本発明方法では、マコー株式会社製のウエットブラスト「Physical Fine Etcher:FR−663、Wet Blasting System」が好適に使用される。また、使用条件としては、プリント配線板に対して垂直方向に吹き付けられる水平式装置であり、処理速度を0.3〜2.7M/分、エアー消費量を8.0〜12.0m3/分、エアー圧力を0.1〜0.3MPaとすると共に、研磨剤に#800〜2000を使用すると良好に行なえる。また、水と研磨剤と圧縮空気を混合したスラリー液を、ブラストガンと呼ばれる噴射口から被加工物に投射する方法が望ましい。凹部2の深さ方向への加工を目的としているためである。
【0032】
前記条件にて加工を行なうことにより、10から50μmの深さを有する凹部2が得られる。これを複数回で繰り返すことにより、目的とする深さの凹部2を得ることが可能となる。すなわち、200μm以下の精度の良い凹部2の加工は、前記ウエットブラスト加工の条件を調整し、処理回数を適宜選択することで可能になる。
【0033】
また、絶縁部1にガラスクロスや高充填のフィラーが含有するものを使用する場合、当該絶縁部1の硬さに違いを生じ、良好に凹部2の加工が行なわれない場合がある。そのような場合には、前記ウエットブラスト加工の前にレーザ加工を行なうと良好に凹部2の加工が行なわれる。
【0034】
ここでレーザ加工としては、三菱電機社製のレーザ加工機(ML−605GTX)が好適に使用される。また、ここに、レーザ加工条件の一例としては、パルス幅8μs、ショット数1から5ショット、マスク径φ0.7mm、コリメーション152mmとすることが挙げられる。
【0035】
前記レーザの加工により、絶縁部1に5〜20μmの深さの凹部2を形成することができ、次いで前記ウエットブラスト加工を行なうことで、絶縁部1に目的とする深さの凹部2を形成することができる。
【0036】
以上のような加工方法により凹部2を設けた後の断面構造は図1(a)に示した如き構造となり、また凹部2の表面形状は図1(b)に示した如き形状となる。ここで、凹部2の表面形状は、前記回路形成による銅部4のエッチング加工で形状を自由に設定できるために、円形状以外にも多角形や図1(b)に示した角の取れた四角形状のものでも良好に行なえる。すなわち、当該凹部2の形状に関しては求められるプリント配線板の設計に依存し、加工方法は当該形状に拘束されること無く行なえる。
【0037】
次いで、前記凹部2を設けた両面銅張り板10に銅めっき5を行ない、図2(a)に示される構造体を得る。当該銅めっき5は、化学銅めっき及び電解銅めっきを順に行ない、両面銅張り板10の表層にある銅部4及び凹部2の表面を含めた全面に付着させる。
【0038】
次いで、凹部2内に付着した銅めっき5に回路形成し、図2(b)に示される回路配線6を有する構造体を得る。また、この図2(b)に示される構造体の上表面からの状態図を図2(c)に示した。
【0039】
回路形成としては、例えば電着塗装法(ED法)による電着レジスト回路形成が挙げられる。以下にこの回路形成方法の具体例を挙げる。電着レジストに日本ペイント社製のフォトED(品番:P−1000)を使用する。電着条件としては、電着液温度を24±2℃とし、電着電流密度を70mA/dm3とする。ザグリ穴内部のパターン露光については、自動整合式手動露光機を用いて、露光量を350mj/cm2とし、露光真空度を0.09MPa以下とするm条件にて露光を行なう。次工程の現像については、現像液に濃度1.0±0.05%のメタ珪酸ソーダを使用し、コンベアスピードを2.2m/minとし、現像液温度を30℃とする。また、次工程の銅エッチングでは、エッチング液に塩化第二鉄を用いて、レジスト剥離には濃度1.0%の苛性ソーダ水溶液を使用する方法を用いる。
【0040】
次いで、前記回路配線6を有する凹部2の内部を充填材7にて封止し、図3(a)に示される構造体を得る。
【0041】
凹部2の封止に使用する充填材7には、電気絶縁型のエポキシ系熱硬化性樹脂もしくはフェノール系熱硬化性樹脂が好適に使用される。プリント配線板の熱膨張係数などの熱的特性を近似させるためである。
【0042】
凹部2の封止方法としては、減圧と大気圧との差圧を利用したスクリーン印刷方式による封止方法が好適に使用される。当該封止方法は、スクリーン印刷の際の印刷環境内を減圧し、スクリーン印刷による前記充填樹脂を使用した凹部2の封止を行ない、次いで印刷環境内を大気圧に戻すことで圧力差を得て、当該圧力差を利用して、有底構造で立体的に複雑な構造となる凹部2に空隙やボイドを生じることのない封止を行なうことができる。
【0043】
凹部2の封止終了後には、充填材7の仕様に基づいて加熱を行ない、充填材7の硬化を行なう。加熱硬化終了後には、プリント配線板の表層部に残る余分な充填材7をバフ研磨などにより研磨し、切削による除去をすることで、表面が平滑な図3(a)に示される構造体を得る。また、この図3(a)に示される構造体の上表面からの状態図を図3(b)に示した。
【0044】
次いで、凹部2の表面に銅めっき15を行ない、図3(c)に示される構造体を得る。
【0045】
次いで、前記図3(c)に示される構造体の銅めっき15部の回路形成を行ない、立体交差状の回路配線を有する図4(a)に示される構造体を得る。
【0046】
ここで、図4(a)に示される構造体の立体交差状の回路配線を説明すれば、同一の平面層の位置に回路配線6Xと回路配線6Yが存在する。そして、回路配線6Xと回路配線6Yは、凹部2を介し、立体的に交差する状態が形成されている。また、前記凹部2は前記平面層の位置に開口部が設けられ、平面層の直下の絶縁層内部に底部が設けられている有底構造である。
【0047】
図4(b)には、図4(a)に示される構造体のX断面図を示し、図4(c)には、図4(a)に示される構造体のY断面図を示した。ここで、凹部2の底部に回路配線6Yが配置され、充填材7をはさんで、その上面に回路配線6Xが配置される構造となっている。すなわち、回路配線6Xと回路配線6Yの間には絶縁部材が設けられていることことから2本の回路配線6Xと6Yは互いに分離しており、電気的に接続しない構造となっている。
【0048】
上記記載の本発明における立体交差状態の回路部について、その模式図を図5に示した。同一平面層(L1)に第1の回路配線51と第2の回路配線54があり、凹部56を使用することで、それらが立体的に交差する回路が形成されている。ここで凹部56は下層(L2)に接することのない有底の構造であるため、電気的な層間の接続をしない構造となっている。すなわち、第1の回路配線51は凹部56の壁面55を渡り、直線的に回路配線53と接続し、同様に壁面55を渡り、回路配線52を経由して接続され、第2の回路配線54と立体的に交差している。
【0049】
試験例
図10に示される従来の交差状の配線構造と図5に示される本発明の交差状の配線構造との電気的な特性及び効果を比較する試験を行なった。試験方法としては、CST社製の電磁界解析シュミレータ(MW−Studio)を使用して、それぞれの構造におけるモデルを作製し、非定常解析によって伝送特性の比較を検討した。また、当該試験結果を図6〜図9に示した。
【0050】
試験方法として、配線の始端部から1(V)のガウシアンパルスを入力し、当該配線の終端部より出力させ、入力信号に対する出力信号及び入力側へ戻ってくる反射信号を、時間軸(信号波形)と周波数軸(Sパラメータ)によって解析した。
【0051】
すなわち、従来の交差状の配線構造として、図10に示される回路配線101より1(V)のガウシアンパルスを入力し、当該ガウシアンパルスを回路配線102より出力させ前記電気信号の解析を行ない、その結果を図6に示した。また、本発明の交差状の配線構造として、図5に示される回路配線51より同様にガウシアンパルスを入力し、当該ガウシアンパルスを回路配線52より出力させ前記電気信号の解析を行ない、その結果を図7に示した。
【0052】
図6に示される従来の交差状の配線構造の場合、入力信号61に対して出力信号62は大きく低下し、1(V)のガウシアンパルスを入力した場合に0.45(V)の出力しか得られないことが確認された。また、反射信号63の値も大きいことが確認された。
【0053】
一方、図7に示される本発明における交差状の配線構造の場合、入力信号71に対して出力信号72は大きな値を示し、1(V)のガウシアンパルスを入力した場合に0.95(V)の出力が得られることが確認された。また、反射信号73の値も小さいことが確認された。
【0054】
この結果は、従来の交差状の配線構造の場合に、層間接続ビア(図10内106)やランド部(図10内105)の影響が大きく、当該ビアやランドにおいて特性インピーダンスの急激な変化により多重反射を発生させたために生じたものである。一方、本発明における交差状の配線構造の場合には、当該ビアやランドが存在しないために特性インピーダンスの急激な変化を生じることが無く、反射信号の影響が少ない信号伝送が得られたものである。
【0055】
また、同様の比較にて、各Sパラメータ(通過特性S21、反射特性S11)の解析を行なった。その結果について、従来の交差状の配線構造の場合を図8に示し、本発明における交差状の配線構造の場合を図9に示した。
【0056】
その結果、図8に示される従来の交差状の配線構造の場合は、層間接続ビアなど容量成分の影響により、反射特性81において20GHz付近で共振が見られることが確認された。また、通過特性82でも広い帯域で減衰が生じることが確認された。一方、図9に示される本発明における交差状の配線構造の場合は、層間接続ビアなどの影響がないために、反射特性91において40GHz付近まで信号の不要な共振などは生じておらず、また、通過特性92でも減衰がほとんど生じないことが確認された。これより、本発明における交差状の配線構造の場合は、広い周波数帯域で伝送特性が優れていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明多層プリント配線板の製造方法を示す概略工程説明図。
【図2】図1に引き続く概略工程説明図。
【図3】図2に引き続く概略工程説明図。
【図4】図3に引き続く概略工程説明図。
【図5】本発明多層プリント配線板の回路配置を示す模式説明図。
【図6】従来多層プリント配線板の試験結果図。
【図7】本発明多層プリント配線板の試験結果図。
【図8】従来多層プリント配線板の試験結果図。
【図9】本発明多層プリント配線板の試験結果図。
【図10】従来多層プリント配線板の回路配置を示す模式説明図。
【図11】他の従来多層プリント配線板の入出力関係を示す模式説明図。
【符号の説明】
【0058】
1:絶縁部
2:凹部
3:壁面
4:銅部
5:銅めっき
6,6X,6Y:回路配線
7:充填材
10:両面銅張り板
15:銅めっき
51,52,53,54:回路配線
55:壁面
56:凹部
101,102,103,104:回路配線
105:ランド部
106:層間接続ビア
【技術分野】
【0001】
本発明は、同一層部において立体的に交差する回路配線を有する多層プリント配線板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、プリント配線板の小型化、薄型化、高密度化が求められる中で、回路配線を効率良く小スペースに配置する方法が重要視されている。その際に、同一平面上に回路配線を重なり合うような配置は信号の伝達の上で好ましくない。そのため、これまでのプリント配線板の技術としては、図10に示したような回路配線の配置を行なっていた。
【0003】
すなわち、第1の層面(L1面)で立体的に交差する回路配線101及び回路配線104の場合には、回路配線101を別層に引き回し、例えば図10に示されるように、スルーホールやブラインドビアホール(BVH)などのような層間接続ビア106を使用し、別層の第2の層面(L2面)に配置させ、次いで、回路配線103に接続し、再び層間接続ビアを用いて、L1面への引き回しを行なうことが行なわれている。
【0004】
ここで、前記別層への回路配線の引き回し構造は、多ピン化する半導体チップなどを受けるプリント配線板の重要な技術としてこれまで使用されてきたが、電気的な特性や信号の伝達効率の上では問題があった。
【0005】
すなわち、前記回路配線の引き回しを行なう際に、スルーホールやBVHなどのような層間接続ビア106を使用した場合には、特性インピーダンスの急激な変化により、多重反射を発生させる問題を生じる。また、スルーホールのランド部105が大きいために、電磁界の不要反射範囲も広くなるといった問題を生じる。さらに、薄型化などの理由により各配線層にグランド部を設けられないため信号は不安定となることが多い。
【0006】
また、従来技術として、2本のストリップ線路の交差を同一層で行ない、多層プリント板の配線の容易化及び層数の削減を可能にする技術も既に報告されている(特許文献1参照)。
【0007】
これは電気的な特性を利用したものであり、図11に示したような交差状態の回路を形成し、2入力2出力の交差回路において、全接点間を1/4波長線路で接続することにより、第1入力接点に入力した第1信号は第1出力接点のみに現れ、第2入力接点に入力した第2信号は第2出力接点のみの現れる方向性結合を実現できる構成より成り立っている。
【0008】
しかしながら、図11に示したような従来の交差状態の回路構造において、波長(λ)は実効比誘電率に依存するところ、実効比誘電率を正確につかむことは非常に困難であり、自ずと目的の周波数(f)に対する1/4波長を規定することは難しいと云う問題があった。
【0009】
さらに、構造的な特徴を利用した従来技術としては、例えば、BVH構造を体積的に半減させ、削減されたスペース部分に回路配線を配置する技術も既に報告されている(特許文献2参照)。しかし、この技術では回路配線を交差状態に形成することは難しく、また、層間接続厚みによって製造方法が異なるためプリント配線板の製造が難しいと云う問題があった。
【特許文献1】特開平7−38301号報
【特許文献2】特開2003−258428号報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のような背景に基づき本発明が解決しようとする課題は、高密度な回路配線を形成する際に、同一層に立体的に交差する回路配線を有し、しかも特性インピーダンスなどの電気的特性に優れた多層プリント配線板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は上記目的を達成するために種々研究を重ねた。その結果、回路配線を有する導体層の直下の絶縁層部に凹部を設け、当該凹部の底部に第1の回路配線を配置すると共に、当該凹部の表層部に第2の回路配線を配置し、当該凹部にて立体的に交差する回路配線を有する多層プリント配線板が有効であることを見出して発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、同一平面層部位に第1の回路配線と第2の回路配線を有する多層プリント配線板において、当該平面層部位の直下の絶縁層内部に下層に接することのない有底構造の凹部が設けられ、かつ当該凹部の底部及び壁面に第1の回路配線が配置されていると共に、当該凹部の表層部に第1の回路配線と立体的に交差する第2の回路配線が配置されている多層プリント配線板により上記課題を解決したものである。
【0013】
また本発明は、前記凹部の底部及び壁面に配置された第1の回路配線と前記凹部の表層部に配置された第2の回路配線との間に絶縁部材を設けた多層プリント配線板により上記課題を解決したものである。
【0014】
また本発明は、前記絶縁部材を前記凹部内に充填した多層プリント配線板により上記課題を解決したものである。
【0015】
また本発明は、導体回路配線を有する平面層部位の直下の絶縁層部に、当該平面層部位に開口し、かつ下層に接することのない有底構造の凹部を形成する工程と、当該凹部の底部及び壁面に導体を付与し、回路配線を形成する工程と、当該凹部を絶縁部材にて充填する工程と、当該凹部の表層部に導体を付与し、前記回路配線と立体的に交差する回路配線を形成する工程とを有することを特徴とする多層プリント配線板の製造方法により上記課題を解決したものである。
【0016】
また本発明は、前記凹部を、高圧噴射型粗化処理にて形成する多層プリント配線板の製造方法により上記課題を解決したものである。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、同一層に交差する回路配線を容易に形成し得るので、回路配線を高密度化することができる。しかも、特性インピーダンスの整合や電磁界の不要反射範囲の削減に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明を実施の形態を示す図1〜図5を使用して更に説明する。
【0019】
本発明は、多層プリント配線板における層間絶縁部に凹部を設け、当該凹部を用いて立体交差状の回路配線を形成するものである。ここで使用される層間絶縁部は、多層プリント配線板における内層のコア部もしくはビルトアップ部が用いられる。
【0020】
図1では始めに両面銅張り板10を用意し、当該両面銅張り板10に凹部2を設ける。ここで、凹部2の構造は、その開口部を両面銅張り板10の表層部に開口させ、その底部を絶縁部1の内部に設ける。この凹部2の開口部から底部に届く壁面3は、図1に示されるようなテーパー角度を有する斜面、あるいは、底部に対する垂直面の何れであっても良い。
【0021】
凹部2を形成する穴加工の方法としては特に限定されないが、例えば、(i)ドリルやルーターを使用した機械的な加工方法、(ii)ウエットブラストやサンドブラストのような研磨剤を投射することによって絶縁部を細かく粗化する加工方法、(iii)レーザを使用して絶縁部を燃焼させる加工方法、(iv)薬液などを使用して絶縁部を化学的に溶融させる加工方法、(v)樹脂付き銅箔に金型開口部を設けて絶縁基板に積層する方法が挙げられる。
【0022】
本発明においては、凹部2の深さ量が加工の上で調整しやすいという理由より、前記(i)ドリルやルーターを使用した機械的な加工方法及び(ii)ウエットブラストやサンドブラストのような研磨剤を投射することによって絶縁部を細かく粗化する加工方法が特に好適に使用される。
【0023】
ドリルやルーターを使用した機械的な加工方法としては、前記両面銅張り板10にあらかじめ位置決めされた箇所にドリルやルーターを設置し、機械的に穴あけを行なう。この際に、凹部2の底部を絶縁部1の内部に設ける、いわゆる有底構造を形成するが、ドリルやルーターを使用した機械的な加工方法では、凹部2の平面形状の調整は容易に行なえるが、厚み方向の深さを精度良く形成することは難しい。
【0024】
従って、当該ドリルやルーターを使用した機械的な加工方法は、絶縁部1の厚みが比較的厚い材料を使用した場合に使用するのが好ましい。例えば、絶縁部1の厚みが400μm以上を有する場合で、凹部2の深さを200μm以上とした場合に、現行のドリルやルーターの機械性能を考慮すれば、深さ方向の調整は精度良く行なえる。しかし、凹部2の深さが200μm未満であり、例えば深さ50μmとした場合には、深さ50μmの精度の良い加工は現行のドリルやルーターでは困難であるため、その場合は次の加工方法にてザグリ穴2を形成するのが好ましい。
【0025】
前記求める凹部2の深さが200μm以下である場合は、ウエットブラストやサンドブラストのような研磨剤を投射することによって絶縁部を細かく粗化する加工方法が好適に使用される。
【0026】
凹部2の製造方法としては、例えば前記両面銅張り板10の銅部4にあらかじめ回路形成し、まず凹部2の開口部に対応する箇所の銅をエッチングにより取り除く。その後、ウエットブラストやサンドブラストにより粗化を行なうことで、研磨剤により凹部2の箇所を徐々に粗化せしめ、複数回の粗化処理を行なうことにより目的とする凹部2を形成する方法が挙げられる。
【0027】
この製造方法は、絶縁部1が銅部4よりも研磨材により粗化され易いということを利用したものである。すなわち前記ウエットブラストやサンドブラストにより投射される研磨剤が絶縁部1を強く粗化できるのに対し、銅部4は硬度の違いにより前記絶縁部1よりも粗化量が少ないという利点を生かした製造方法である。これにより、前記凹部2の加工が可能になり、複数回の前記粗化処理を行なうことにより目的とする深さを有する凹部2の形成形成が精度良く行なえる。
【0028】
ここで、複数回の前記粗化処理を行なう過程で銅部4も徐々に粗化され、銅部4の厚みが薄い場合には前記粗化処理により銅部4がすべて削除されることとなる。そこで、銅部4の厚みを18μm以上とすることが好適である。これは、深さ200μm未満の凹部2を形成する上で、銅部4の厚みを18μm以上とすれば当該銅部4は粗化終了後に残り、また当該銅部4は薄くなっていても残ることが良い状態であり、これは銅部4が残れば凹部2の加工は良好に行なえるためである。
【0029】
また、前記凹部2の加工はウエットブラストの方がサンドブラストよりも粗化能力が大きいという利点から、好適に使用される。そこで、以下ウエットブラストを使用した凹部2の加工方法について例を挙げて説明する。
【0030】
始めに、ウエットブラストとは高圧噴射型表面粗化処理であり、その特徴は研磨剤と水と空気を十分に混合し、ブラストガンと呼ばれる噴出口からエアー圧力でシャワーのようにプリント配線板に吹き付ける工法である。この際、研磨剤がプリント配線板の表面に叩き付けられて、結果として微細に粗化することが可能である。また、プリント配線板が水平コンベアにより搬送され、プリント配線板に対して高圧噴射型表面粗化処理の研磨剤が垂直方向に当たるため、凹部2の加工は良好に行なえる。
【0031】
本発明方法では、マコー株式会社製のウエットブラスト「Physical Fine Etcher:FR−663、Wet Blasting System」が好適に使用される。また、使用条件としては、プリント配線板に対して垂直方向に吹き付けられる水平式装置であり、処理速度を0.3〜2.7M/分、エアー消費量を8.0〜12.0m3/分、エアー圧力を0.1〜0.3MPaとすると共に、研磨剤に#800〜2000を使用すると良好に行なえる。また、水と研磨剤と圧縮空気を混合したスラリー液を、ブラストガンと呼ばれる噴射口から被加工物に投射する方法が望ましい。凹部2の深さ方向への加工を目的としているためである。
【0032】
前記条件にて加工を行なうことにより、10から50μmの深さを有する凹部2が得られる。これを複数回で繰り返すことにより、目的とする深さの凹部2を得ることが可能となる。すなわち、200μm以下の精度の良い凹部2の加工は、前記ウエットブラスト加工の条件を調整し、処理回数を適宜選択することで可能になる。
【0033】
また、絶縁部1にガラスクロスや高充填のフィラーが含有するものを使用する場合、当該絶縁部1の硬さに違いを生じ、良好に凹部2の加工が行なわれない場合がある。そのような場合には、前記ウエットブラスト加工の前にレーザ加工を行なうと良好に凹部2の加工が行なわれる。
【0034】
ここでレーザ加工としては、三菱電機社製のレーザ加工機(ML−605GTX)が好適に使用される。また、ここに、レーザ加工条件の一例としては、パルス幅8μs、ショット数1から5ショット、マスク径φ0.7mm、コリメーション152mmとすることが挙げられる。
【0035】
前記レーザの加工により、絶縁部1に5〜20μmの深さの凹部2を形成することができ、次いで前記ウエットブラスト加工を行なうことで、絶縁部1に目的とする深さの凹部2を形成することができる。
【0036】
以上のような加工方法により凹部2を設けた後の断面構造は図1(a)に示した如き構造となり、また凹部2の表面形状は図1(b)に示した如き形状となる。ここで、凹部2の表面形状は、前記回路形成による銅部4のエッチング加工で形状を自由に設定できるために、円形状以外にも多角形や図1(b)に示した角の取れた四角形状のものでも良好に行なえる。すなわち、当該凹部2の形状に関しては求められるプリント配線板の設計に依存し、加工方法は当該形状に拘束されること無く行なえる。
【0037】
次いで、前記凹部2を設けた両面銅張り板10に銅めっき5を行ない、図2(a)に示される構造体を得る。当該銅めっき5は、化学銅めっき及び電解銅めっきを順に行ない、両面銅張り板10の表層にある銅部4及び凹部2の表面を含めた全面に付着させる。
【0038】
次いで、凹部2内に付着した銅めっき5に回路形成し、図2(b)に示される回路配線6を有する構造体を得る。また、この図2(b)に示される構造体の上表面からの状態図を図2(c)に示した。
【0039】
回路形成としては、例えば電着塗装法(ED法)による電着レジスト回路形成が挙げられる。以下にこの回路形成方法の具体例を挙げる。電着レジストに日本ペイント社製のフォトED(品番:P−1000)を使用する。電着条件としては、電着液温度を24±2℃とし、電着電流密度を70mA/dm3とする。ザグリ穴内部のパターン露光については、自動整合式手動露光機を用いて、露光量を350mj/cm2とし、露光真空度を0.09MPa以下とするm条件にて露光を行なう。次工程の現像については、現像液に濃度1.0±0.05%のメタ珪酸ソーダを使用し、コンベアスピードを2.2m/minとし、現像液温度を30℃とする。また、次工程の銅エッチングでは、エッチング液に塩化第二鉄を用いて、レジスト剥離には濃度1.0%の苛性ソーダ水溶液を使用する方法を用いる。
【0040】
次いで、前記回路配線6を有する凹部2の内部を充填材7にて封止し、図3(a)に示される構造体を得る。
【0041】
凹部2の封止に使用する充填材7には、電気絶縁型のエポキシ系熱硬化性樹脂もしくはフェノール系熱硬化性樹脂が好適に使用される。プリント配線板の熱膨張係数などの熱的特性を近似させるためである。
【0042】
凹部2の封止方法としては、減圧と大気圧との差圧を利用したスクリーン印刷方式による封止方法が好適に使用される。当該封止方法は、スクリーン印刷の際の印刷環境内を減圧し、スクリーン印刷による前記充填樹脂を使用した凹部2の封止を行ない、次いで印刷環境内を大気圧に戻すことで圧力差を得て、当該圧力差を利用して、有底構造で立体的に複雑な構造となる凹部2に空隙やボイドを生じることのない封止を行なうことができる。
【0043】
凹部2の封止終了後には、充填材7の仕様に基づいて加熱を行ない、充填材7の硬化を行なう。加熱硬化終了後には、プリント配線板の表層部に残る余分な充填材7をバフ研磨などにより研磨し、切削による除去をすることで、表面が平滑な図3(a)に示される構造体を得る。また、この図3(a)に示される構造体の上表面からの状態図を図3(b)に示した。
【0044】
次いで、凹部2の表面に銅めっき15を行ない、図3(c)に示される構造体を得る。
【0045】
次いで、前記図3(c)に示される構造体の銅めっき15部の回路形成を行ない、立体交差状の回路配線を有する図4(a)に示される構造体を得る。
【0046】
ここで、図4(a)に示される構造体の立体交差状の回路配線を説明すれば、同一の平面層の位置に回路配線6Xと回路配線6Yが存在する。そして、回路配線6Xと回路配線6Yは、凹部2を介し、立体的に交差する状態が形成されている。また、前記凹部2は前記平面層の位置に開口部が設けられ、平面層の直下の絶縁層内部に底部が設けられている有底構造である。
【0047】
図4(b)には、図4(a)に示される構造体のX断面図を示し、図4(c)には、図4(a)に示される構造体のY断面図を示した。ここで、凹部2の底部に回路配線6Yが配置され、充填材7をはさんで、その上面に回路配線6Xが配置される構造となっている。すなわち、回路配線6Xと回路配線6Yの間には絶縁部材が設けられていることことから2本の回路配線6Xと6Yは互いに分離しており、電気的に接続しない構造となっている。
【0048】
上記記載の本発明における立体交差状態の回路部について、その模式図を図5に示した。同一平面層(L1)に第1の回路配線51と第2の回路配線54があり、凹部56を使用することで、それらが立体的に交差する回路が形成されている。ここで凹部56は下層(L2)に接することのない有底の構造であるため、電気的な層間の接続をしない構造となっている。すなわち、第1の回路配線51は凹部56の壁面55を渡り、直線的に回路配線53と接続し、同様に壁面55を渡り、回路配線52を経由して接続され、第2の回路配線54と立体的に交差している。
【0049】
試験例
図10に示される従来の交差状の配線構造と図5に示される本発明の交差状の配線構造との電気的な特性及び効果を比較する試験を行なった。試験方法としては、CST社製の電磁界解析シュミレータ(MW−Studio)を使用して、それぞれの構造におけるモデルを作製し、非定常解析によって伝送特性の比較を検討した。また、当該試験結果を図6〜図9に示した。
【0050】
試験方法として、配線の始端部から1(V)のガウシアンパルスを入力し、当該配線の終端部より出力させ、入力信号に対する出力信号及び入力側へ戻ってくる反射信号を、時間軸(信号波形)と周波数軸(Sパラメータ)によって解析した。
【0051】
すなわち、従来の交差状の配線構造として、図10に示される回路配線101より1(V)のガウシアンパルスを入力し、当該ガウシアンパルスを回路配線102より出力させ前記電気信号の解析を行ない、その結果を図6に示した。また、本発明の交差状の配線構造として、図5に示される回路配線51より同様にガウシアンパルスを入力し、当該ガウシアンパルスを回路配線52より出力させ前記電気信号の解析を行ない、その結果を図7に示した。
【0052】
図6に示される従来の交差状の配線構造の場合、入力信号61に対して出力信号62は大きく低下し、1(V)のガウシアンパルスを入力した場合に0.45(V)の出力しか得られないことが確認された。また、反射信号63の値も大きいことが確認された。
【0053】
一方、図7に示される本発明における交差状の配線構造の場合、入力信号71に対して出力信号72は大きな値を示し、1(V)のガウシアンパルスを入力した場合に0.95(V)の出力が得られることが確認された。また、反射信号73の値も小さいことが確認された。
【0054】
この結果は、従来の交差状の配線構造の場合に、層間接続ビア(図10内106)やランド部(図10内105)の影響が大きく、当該ビアやランドにおいて特性インピーダンスの急激な変化により多重反射を発生させたために生じたものである。一方、本発明における交差状の配線構造の場合には、当該ビアやランドが存在しないために特性インピーダンスの急激な変化を生じることが無く、反射信号の影響が少ない信号伝送が得られたものである。
【0055】
また、同様の比較にて、各Sパラメータ(通過特性S21、反射特性S11)の解析を行なった。その結果について、従来の交差状の配線構造の場合を図8に示し、本発明における交差状の配線構造の場合を図9に示した。
【0056】
その結果、図8に示される従来の交差状の配線構造の場合は、層間接続ビアなど容量成分の影響により、反射特性81において20GHz付近で共振が見られることが確認された。また、通過特性82でも広い帯域で減衰が生じることが確認された。一方、図9に示される本発明における交差状の配線構造の場合は、層間接続ビアなどの影響がないために、反射特性91において40GHz付近まで信号の不要な共振などは生じておらず、また、通過特性92でも減衰がほとんど生じないことが確認された。これより、本発明における交差状の配線構造の場合は、広い周波数帯域で伝送特性が優れていることが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0057】
【図1】本発明多層プリント配線板の製造方法を示す概略工程説明図。
【図2】図1に引き続く概略工程説明図。
【図3】図2に引き続く概略工程説明図。
【図4】図3に引き続く概略工程説明図。
【図5】本発明多層プリント配線板の回路配置を示す模式説明図。
【図6】従来多層プリント配線板の試験結果図。
【図7】本発明多層プリント配線板の試験結果図。
【図8】従来多層プリント配線板の試験結果図。
【図9】本発明多層プリント配線板の試験結果図。
【図10】従来多層プリント配線板の回路配置を示す模式説明図。
【図11】他の従来多層プリント配線板の入出力関係を示す模式説明図。
【符号の説明】
【0058】
1:絶縁部
2:凹部
3:壁面
4:銅部
5:銅めっき
6,6X,6Y:回路配線
7:充填材
10:両面銅張り板
15:銅めっき
51,52,53,54:回路配線
55:壁面
56:凹部
101,102,103,104:回路配線
105:ランド部
106:層間接続ビア
【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一平面層部位に第1の回路配線と第2の回路配線を有する多層プリント配線板において、当該平面層部位の直下の絶縁層内部に下層に接することのない有底構造の凹部が設けられ、かつ当該凹部の底部及び壁面に第1の回路配線が配置されていると共に、当該凹部の表層部に第1の回路配線と立体的に交差する第2の回路配線が配置されていることを特徴とする多層プリント配線板。
【請求項2】
前記凹部の底部及び壁面に配置された第1の回路配線と前記凹部の表層部に配置された第2の回路配線との間には絶縁部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の多層プリント配線板。
【請求項3】
前記絶縁部材が前記凹部内に充填されてなることを特徴とする請求項2に記載の多層プリント配線板。
【請求項4】
導体回路配線を有する平面層部位の直下の絶縁層部に、当該平面層部位に開口し、かつ下層に接することのない有底構造の凹部を形成する工程と、当該凹部の底部及び壁面に導体を付与し、回路配線を形成する工程と、当該凹部を絶縁部材にて充填する工程と、当該凹部の表層部に導体を付与し、前記回路配線と立体的に交差する回路配線を形成する工程とを有することを特徴とする多層プリント配線板の製造方法。
【請求項5】
前記凹部は、高圧噴射型粗化処理にて形成することを特徴とする請求項4に記載の多層プリント配線板の製造方法。
【請求項1】
同一平面層部位に第1の回路配線と第2の回路配線を有する多層プリント配線板において、当該平面層部位の直下の絶縁層内部に下層に接することのない有底構造の凹部が設けられ、かつ当該凹部の底部及び壁面に第1の回路配線が配置されていると共に、当該凹部の表層部に第1の回路配線と立体的に交差する第2の回路配線が配置されていることを特徴とする多層プリント配線板。
【請求項2】
前記凹部の底部及び壁面に配置された第1の回路配線と前記凹部の表層部に配置された第2の回路配線との間には絶縁部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載の多層プリント配線板。
【請求項3】
前記絶縁部材が前記凹部内に充填されてなることを特徴とする請求項2に記載の多層プリント配線板。
【請求項4】
導体回路配線を有する平面層部位の直下の絶縁層部に、当該平面層部位に開口し、かつ下層に接することのない有底構造の凹部を形成する工程と、当該凹部の底部及び壁面に導体を付与し、回路配線を形成する工程と、当該凹部を絶縁部材にて充填する工程と、当該凹部の表層部に導体を付与し、前記回路配線と立体的に交差する回路配線を形成する工程とを有することを特徴とする多層プリント配線板の製造方法。
【請求項5】
前記凹部は、高圧噴射型粗化処理にて形成することを特徴とする請求項4に記載の多層プリント配線板の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−210388(P2006−210388A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−16519(P2005−16519)
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000228833)日本シイエムケイ株式会社 (169)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願日】平成17年1月25日(2005.1.25)
【出願人】(000228833)日本シイエムケイ株式会社 (169)
【Fターム(参考)】
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