説明

多板摩擦係合装置

【課題】セパレータプレートと摩擦プレートとの間での引きずりトルクの発生を緩和し、摩擦材の表面性状の変化を防止することができる多板摩擦係合装置を提供する。
【解決手段】第1摩擦プレート4A及び第3摩擦プレート4Cの各表面に設けられる摩擦材41の配設位置を外周側に設定し、第2摩擦プレート4Bの表面に設けられる摩擦材41の配設位置を内周側に設定して、摩擦材41の配設位置が軸心方向で互いにラップしない位置とする。これにより、各摩擦プレート3A,3B,3Cとセパレータプレート4A,4B,4Cとの間のクリアランスを不均一にし、摩擦熱の発生箇所を分散化させる。その結果、引きずりトルクの発生を解消でき、摩擦熱の影響による摩擦材41の表面性状の変化を回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用自動変速機等に備えられる多板摩擦係合装置に係る。特に、本発明は、摩擦材が設けられた摩擦プレートの構成の改良に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば下記の特許文献1〜3に開示されているように、自動車に搭載される自動変速機においては、変速機構を構成する複数のプラネタリーギヤセットのリングギヤ、プラネタリキャリア、サンギヤ等を、多板摩擦係合装置である湿式多板型のクラッチやブレーキで相互に選択的に摩擦係合させたりあるいはケース側に選択的に摩擦係合させたりすることで、動力伝達経路を切り換えて複数の変速段が成立可能となっている。
【0003】
上記多板摩擦係合装置の構成として、ブレーキを例に挙げて説明すると、自動変速機のケースにスプライン嵌合されたセパレータプレートと、プラネタリキャリア等の回転要素にスプライン嵌合された摩擦プレートとが、軸線方向に亘って交互に複数枚配設されている。そして、この軸線方向の一方側に配設されたピストンによって、セパレータプレートと摩擦プレートとを相互に挟圧することで、これら両者を相対回転不能に連結可能な構成となっている。
【0004】
また、上記摩擦プレートの表裏両面には摩擦材が接着などの手段によって取り付けられており、セパレータプレートとの間の摩擦係数が高められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平3−28523号公報
【特許文献2】特開平9−287622号公報
【特許文献3】特開2008−215498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、従来の多板摩擦係合装置にあっては、以下に述べるような課題があった。
【0007】
つまり、多板摩擦係合装置が解放されている状態にあっては、セパレータプレートと摩擦プレートとの間に潤滑油が存在しているため、この潤滑油が動力伝達流体として機能してしまい、多板摩擦係合装置が解放状態であるにも拘わらず、引きずりトルクの発生によってセパレータプレートと摩擦プレートとの間で回転動力が伝達されてしまう可能性があった。
【0008】
一方、セパレータプレートと摩擦プレートとが摺動している場合(係合動作の過渡時等であって半係合状態にある場合)には摩擦熱が発生し、摩擦プレートの表面に取り付けられている摩擦材の表面性状が熱の影響を受けて変化してしまい、適正な動力伝達特性が得られなくなる可能性があった。
【0009】
本発明の発明者らは、これらの課題の発生原因について考察した。そして、上記引きずりトルクの発生は、セパレータプレートと摩擦プレートとの間のクリアランスが少なく、且つそのクリアランスが各プレート同士の対向部分において略全体に亘って均一であることが原因であることを見出した。
【0010】
また、上記摩擦材の表面性状の変化は、セパレータプレートと摩擦プレートとの係合途中(両者が摺動している状態)では、摩擦プレートの摩擦材とセパレータプレートとがそれぞれにおいて同じ位置(プレートの半径方向で同じ位置)で摺動しており、各プレート間での摩擦熱の発生箇所が特定の箇所に集中し、十分な放熱を行うことができていないのが原因であることを見出した。
【0011】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、セパレータプレートと摩擦プレートとの間での引きずりトルクの発生を緩和し、摩擦材の表面性状の変化を防止することができる多板摩擦係合装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
−課題の解決原理−
上記の目的を達成するために講じられた本発明の解決原理は、摩擦プレート(第2摩擦プレート)の表面に設けられる各摩擦材の配設位置を半径方向で異なる位置としておくことで、セパレータプレート(第1摩擦プレート)との間のクリアランスの不均一化及び摩擦熱の発生箇所の分散化が図れるようにしている。
【0013】
−解決手段−
具体的に、本発明は、複数枚の第1摩擦プレートと、表面に摩擦材が設けられた複数枚の第2摩擦プレートとが交互に配設された多板摩擦係合装置を前提とする。この多板摩擦係合装置に対し、上記複数枚の第2摩擦プレートのうち少なくとも1枚における摩擦材の配設位置を、他の第2摩擦プレートにおける摩擦材の配設位置に対して、第2摩擦プレートの半径方向で異なる位置に設定している。
【0014】
この特定事項により、多板摩擦係合装置の解放状態にあっては、第1摩擦プレートと第2摩擦プレートとの間のクリアランスとしては不均一となり、上記引きずりトルクの発生を解消することができる。また、第1摩擦プレートと第2摩擦プレートとの半係合状態で発生する摩擦熱の発生箇所としては、プレート外周側とプレート内周側とに分散され、摩擦熱の発生箇所が特定の箇所に集中することがなく、この摩擦熱の放熱空間も確保されることになる。このため、摩擦熱の影響によって摩擦材の表面性状が変化してしまうといったことが回避される。
【0015】
より具体的な構成として以下のものが挙げられる。先ず、上記複数枚の第2摩擦プレートにおける摩擦材の配設位置を第2摩擦プレートの外周縁近傍とし、上記複数枚の第2摩擦プレートのうち少なくとも1枚の外径寸法を、他の第2摩擦プレートの外径寸法よりも小径に設定するものである。
【0016】
また、上記摩擦材を、第2摩擦プレートの両面にそれぞれ配設するものに対し、上記複数枚の第2摩擦プレートのうち少なくとも1枚において、一方の面における摩擦材の配設位置と他方の面における摩擦材の配設位置とを第2摩擦プレートの半径方向で互いに異ならせたものである。
【0017】
これらの構成によっても、上記引きずりトルクの発生の解消と、摩擦熱の影響による摩擦材の表面性状変化の回避とを図ることができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明では、第2摩擦プレートの表面に設けられる各摩擦材の配設位置を半径方向で異なる位置としておくことで、第1摩擦プレートとの間のクリアランスの不均一化及び摩擦熱の発生箇所の分散化が図れるようにしている。このため、引きずりトルクの発生を解消することができ、また、摩擦熱の影響によって摩擦材の表面性状が変化してしまうといったことも回避される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】自動変速機に備えられたブレーキの構成を示す断面図である。
【図2】第1実施形態におけるブレーキの解放状態を示す模式図である。
【図3】第1実施形態におけるブレーキの係合状態を示す模式図である。
【図4】第2実施形態におけるブレーキの解放状態を示す模式図である。
【図5】第3実施形態におけるブレーキの解放状態を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。本実施形態は、車両用自動変速機に備えられたブレーキ(湿式の多板摩擦係合装置)に本発明を適用した場合について説明する。尚、車両用自動変速機に備えられたクラッチに対しても同様に適用することが可能である。
【0021】
本発明の特徴である摩擦プレートの構成について説明する前に、多板摩擦係合装置としてのブレーキの概略構成について説明する。
【0022】
−ブレーキの構成−
図1は、自動変速機に備えられた油圧式の多板摩擦係合装置としてのブレーキ1の構成を示す断面図である。この図1に示すように、ブレーキ1は、ケース2の内周側に形成され且つ一方に開口する有底円筒状部21の内周面に、第1摩擦プレートとしての複数枚(図1では3枚)のセパレータプレート3A,3B,3C(以下、特に区別しない場合には単にセパレータプレート3という)と、第2摩擦プレートとしての複数枚(図1では3枚)の摩擦プレート4A,4B,4C(以下、特に区別しない場合には単に摩擦プレート4という)とを備えている。また、このブレーキ1は、ピストン5との間で上記セパレータプレート3及び摩擦プレート4を押圧するための支持部材としてのフランジ6と、そのフランジ6の軸心方向(有底円筒状部21の開口側へ向けて)の移動を規制するためのスナップリング7と、上記フランジ6との間で上記セパレータプレート3及び摩擦プレート4を押圧するための押圧部材としてのピストン5と、上記フランジ6に対して、ピストン5をブレーキ解放側(図1における右側)へ付勢するスプリング8とを備えている。
【0023】
上記有底円筒状部21の内周面には、軸心方向に長手状のスプライン歯23が形成されている。また、上記複数のセパレータプレート3A,3B,3Cそれぞれの外周側には、上記有底円筒状部21のスプライン歯23に嵌合可能な複数の突起部が形成されており、それら複数のセパレータプレート3A,3B,3Cは、上記有底円筒状部21に対して軸心方向に移動可能且つ相対回転不能にスプライン嵌合されている。
【0024】
また、自動変速機を構成している遊星歯車装置の例えばキャリアと一体回転させられるように構成されたハブ9の外周側には、軸心方向に長手状のスプライン歯91が形成されている。また、上記複数の摩擦プレート4A,4B,4Cそれぞれの内周側には、上記ハブ9のスプライン歯91に嵌合可能な複数の突起部が形成されており、それら複数の摩擦プレート4A,4B,4Cは、上記ハブ9の外周側において軸心方向に移動可能且つ相対回転不能にスプライン嵌合されている。また、図1に示すように、上記複数のセパレータプレート3A,3B,3C、摩擦プレート4A,4B,4Cは、軸心方向に交互に配設されている。
【0025】
上記フランジ6の外周側には、上記有底円筒状部21のスプライン歯23に嵌合可能な複数の突起部が形成されており、このフランジ6は、上記有底円筒状部21における上記複数のセパレータプレート3A,3B,3C、摩擦プレート4A,4B,4Cよりも開口側に、その有底円筒状部21に対して軸心方向の移動が可能且つ相対回転が不能にスプライン嵌合されている。また、上記スナップリング7は、上記有底円筒状部21の内周面に形成された環状溝22内に軸心方向の移動が不能に嵌め込まれており、上記有底円筒状部21にスプライン嵌合された上記フランジ6、複数のセパレータプレート3A,3B,3C、摩擦プレート4A,4B,4Cの軸心方向開口側への移動が規制されている。
【0026】
上記スプリング8は、上記フランジ6とピストン5との間に圧縮状態で介在させられており、フランジ6に対してピストン5を有底円筒状部21の底部方向へ付勢している。また、有底円筒状部21とピストン5との間は、オイルシール51が設けられることで油密となっており、有底円筒状部21とピストン5との間に形成される油密な空間が、ピストン5を油圧によって移動させる推進力を発生させる油室52として機能するようになっている。
【0027】
以上のように構成されたブレーキ1において、上記油室52に図示しない作動油供給路から作動油が供給されると、ピストン5が有底円筒状部21の軸心方向開口側(フランジ6側)に向かって移動させられ、そのピストン5とフランジ6との間で複数のセパレータプレート3A,3B,3C、摩擦プレート4A,4B,4Cが挟圧されて摩擦によりその相対回転が不能とされることでブレーキ1が係合させられる。また、上記油室52から作動油が排出されると、上記スプリング8の付勢力によりピストン5が有底円筒状部21の軸心方向底部側(フランジ6とは反対側)に向かって移動させられ、そのピストン5とフランジ6との間で挟圧されていた複数のセパレータプレート3A,3B,3C、摩擦プレート4A,4B,4Cが解放されてその相対回転が可能とされることでブレーキ1が解放させられる。このようにして、図示しない油圧制御回路から上記油室52へ供給される油圧が制御されることで、ブレーキ1の係合状態が制御される。
【0028】
−摩擦プレートの構成−
次に、本実施形態の特徴である摩擦プレート4の構成についての複数の実施形態を説明する。尚、以下の説明では、理解を容易にするためにブレーキ1を模式的に示した図(図2〜図5)を用いて説明する。
【0029】
(第1実施形態)
先ず、第1実施形態について説明する。
【0030】
図2は、本実施形態におけるブレーキ1の模式図であって、ブレーキ解放状態を示している。また、図3は、ブレーキ半係合状態を示している。
【0031】
図2及び図3に示すように、本実施形態におけるブレーキ1の摩擦プレート4A,4B,4Cでは、摩擦材41の配設位置が半径方向で異なる位置に設定されている。具体的に、上記フランジ6側から第1摩擦プレート4A、第2摩擦プレート4B、第3摩擦プレート4Cとした場合に、第1摩擦プレート4A及び第3摩擦プレート4Cにあっては、その外周縁部分において周方向に沿って摩擦材41が取り付けられている。これに対し、第2摩擦プレート4Bにあっては、第1摩擦プレート4A及び第3摩擦プレート4Cにおける摩擦材41が取り付け位置よりも内周側部分において周方向に沿って摩擦材41が取り付けられている。そして、第1摩擦プレート4A及び第3摩擦プレート4Cに取り付けられている摩擦材41の取り付け位置と、第2摩擦プレート4Bに取り付けられている摩擦材41の取り付け位置とは、摩擦プレート4A,4B,4Cの軸心方向で互いにラップしない(軸心方向から見た場合に互いに重なり合わない)位置に設定されている。尚、図2における仮想線は、第2摩擦プレート4Bにおける従来の摩擦材41の取り付け位置を示している。
【0032】
尚、上記摩擦材41の具体的な材質としては、燒結合金系、カーボン系、コルク系、ペーパー系等の一般的な湿式摩擦材が適用可能である。また、この摩擦材41の取り付け形態としては、周方向の全体に亘って取り付けられていてもよいし、周方向に間欠的に取り付けられていてもよい。
【0033】
以上のように摩擦材41の取付位置が設定されていることにより、図2に示すブレーキ解放状態にあっては、セパレータプレート3A,3B,3Cと摩擦プレート4A,4B,4Cとの間のクリアランスとしては、不均一となり、上記引きずりトルクの発生を解消することができる。
【0034】
また、図3に示すセパレータプレート3と摩擦プレート4との半係合状態で発生する摩擦熱の発生箇所として、第1セパレータプレート(図中の左側のセパレータプレート)3Aと第1摩擦プレート4Aとの間では、各プレート3A,4Aの外周縁部であり、第1セパレータプレート3Aと第2摩擦プレート4Bとの間では、各プレート3A,4Bの外周縁部よりも中央側の位置であり、第2セパレータプレート(図中の中央のセパレータプレート)3Bと第2摩擦プレート4Bとの間では、各プレート3B,4Bの外周縁部よりも中央側の位置であり、第2セパレータプレート3Bと第3摩擦プレート4Cとの間では、各プレート3B,4Cの外周縁部である。このように、摩擦熱の発生箇所が半径方向で互いに異なることになるので、摩擦熱の発生箇所が特定の箇所(プレート半径方向の同一箇所)に集中することがなく、この摩擦熱の放熱空間も確保されることになる。このため、摩擦熱の影響によって摩擦材41の表面性状が変化してしまうといったことが回避される。
【0035】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。
【0036】
図4は、本実施形態におけるブレーキ1の模式図であって、ブレーキ解放状態を示している。
【0037】
図4に示すように、本実施形態におけるブレーキ1の摩擦プレート4にあっては、第1摩擦プレート4A及び第3摩擦プレート4Cの外径寸法に対して第2摩擦プレート4Bの外径寸法が小さく設定されている。また、これら摩擦プレート4A,4B,4Cにおける摩擦材41の配設位置は各摩擦プレート4A,4B,4Cの外周縁近傍である。このため、第1摩擦プレート4A及び第3摩擦プレート4Cにおける摩擦材41の配設位置に対して、第2摩擦プレート4Bにおける摩擦材41の配設位置の方が内周側に位置している。そして、上記第1実施形態の場合と同様に、第1摩擦プレート4A及び第3摩擦プレート4Cに取り付けられている摩擦材41の取り付け位置と、第2摩擦プレート4Bに取り付けられている摩擦材41の取り付け位置とは、摩擦プレート4A,4B,4Cの軸心方向で互いにラップしない(軸心方向から見た場合に互いに重なり合わない)位置に設定されている。
【0038】
このため、本実施形態においても、上述した第1実施形態の場合と同様に、ブレーキ解放状態にあっては、セパレータプレート3A,3B,3Cと摩擦プレート4A,4B,4Cとの間のクリアランスとしては不均一となり、上記引きずりトルクの発生を解消することができる。
【0039】
また、セパレータプレート3と摩擦プレート4との半係合状態で発生する摩擦熱の発生箇所が半径方向で互いに異なることになるので、摩擦熱の発生箇所が特定の箇所(プレート半径方向の同一箇所)に集中することがなく、この摩擦熱の放熱空間も確保されることになる。このため、摩擦熱の影響によって摩擦材41の表面性状が変化してしまうといったことが回避される。
【0040】
また、本実施形態によれば、外径寸法の小さな摩擦プレート(第2摩擦プレート4B)を採用していることにより、この摩擦プレート4Bの小型軽量化、材料コストの低廉化を図ることもできる。
【0041】
(第3実施形態)
次に、第3実施形態について説明する。
【0042】
図5は、本実施形態におけるブレーキ1の模式図であって、ブレーキ解放状態を示している。
【0043】
図5に示すように、本実施形態におけるブレーキ1における各摩擦プレート4A,4B,4Cは互いに同一構成となっている。具体的に、各摩擦プレート4A,4B,4Cの両面のうち、ピストン5側の摩擦材41Aにあっては、摩擦プレート4A,4B,4Cの外周縁部分に、フランジ6側の摩擦材41Bにあっては、上記ピストン5側の摩擦材41Aの配設箇所に比べて摩擦プレート4A,4B,4Cの内周縁部分にそれぞれ配設されている。
【0044】
このため、本実施形態においても、上述した第1実施形態の場合と同様に、ブレーキ解放状態にあっては、セパレータプレート3A,3B,3Cと摩擦プレート4A,4B,4Cとの間のクリアランスとしては不均一となり、上記引きずりトルクの発生を解消することができる。
【0045】
また、セパレータプレート3と摩擦プレート4との半係合状態で発生する摩擦熱の発生箇所が半径方向で互いに異なることになるので、摩擦熱の発生箇所が特定の箇所(プレート半径方向の同一箇所)に集中することがなく、この摩擦熱の放熱空間も確保されることになる。このため、摩擦熱の影響によって摩擦材41の表面性状が変化してしまうといったことが回避される。
【0046】
また、本実施形態によれば、各摩擦プレート4A,4B,4Cは互いに同一構成であるため、複数種類の摩擦プレートを作製しておく必要がなく、製造コストの低廉化を図ることもできる。
【0047】
−他の実施形態−
以上説明した各実施形態では、車両用自動変速機に備えられたブレーキ1に本発明を適用した場合について説明した。本発明はこれに限らず、車両用自動変速機に備えられたクラッチに対しても同様に適用することが可能である。
【0048】
また、上述した各実施形態では、セパレータプレート3A,3B,3C及び摩擦プレート4A,4B,4Cがそれぞれ3枚ずつ設けられたブレーキ1について説明したが、4枚以上のセパレータプレート及び摩擦プレートが設けられたブレーキやクラッチに対しても適用可能である。
【0049】
また、上記第1実施形態では、第1摩擦プレート4Aの摩擦材41の配設位置と第3摩擦プレート4Cの摩擦材41の配設位置とを同一位置に設定していたが、全ての摩擦プレート4A,4B,4Cの摩擦材41の配設位置を異ならせるようにしてもよい。但し、この場合、各摩擦プレート4A,4B,4Cそれぞれの摩擦材41の表面積が十分に確保されておりブレーキ係合時における摩擦プレート4A,4B,4Cとセパレータプレート3A,3B,3Cとの間の摩擦力が十分に確保できるようにしておく必要がある。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、自動車用自動変速機に備えられる多板摩擦係合装置の摩擦プレートに適用することが可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 ブレーキ(多板摩擦係合装置)
3 セパレータプレート(第1摩擦プレート)
4 摩擦プレート(第2摩擦プレート)
41 摩擦材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数枚の第1摩擦プレートと、表面に摩擦材が設けられた複数枚の第2摩擦プレートとが交互に配設された多板摩擦係合装置において、
上記複数枚の第2摩擦プレートのうち少なくとも1枚における摩擦材の配設位置は、他の第2摩擦プレートにおける摩擦材の配設位置に対して、第2摩擦プレートの半径方向で異なる位置に設定されていることを特徴とする多板摩擦係合装置。
【請求項2】
上記請求項1記載の多板摩擦係合装置において、
上記複数枚の第2摩擦プレートにおける摩擦材の配設位置は第2摩擦プレートの外周縁近傍であって、
上記複数枚の第2摩擦プレートのうち少なくとも1枚の外径寸法は、他の第2摩擦プレートの外径寸法よりも小径に設定されていることを特徴とする多板摩擦係合装置。
【請求項3】
上記請求項1記載の多板摩擦係合装置において、
上記摩擦材は、第2摩擦プレートの両面にそれぞれ配設されており、上記複数枚の第2摩擦プレートのうち少なくとも1枚にあっては、一方の面における摩擦材の配設位置と他方の面における摩擦材の配設位置とが第2摩擦プレートの半径方向で互いに異なっていることを特徴とする多板摩擦係合装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate


【公開番号】特開2010−185477(P2010−185477A)
【公開日】平成22年8月26日(2010.8.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−28313(P2009−28313)
【出願日】平成21年2月10日(2009.2.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】