説明

多気筒内燃機関の制御装置

【課題】二つの中央処理装置の演算負荷を小さく抑えつつ、それら中央処理装置による気筒毎の演算処理をそれぞれ適切なタイミングで実行することのできる多気筒内燃機関の制御装置を提供する。
【解決手段】この装置は、メインCPU41とサブCPU42とを有する電子制御ユニット40Bを備える。メインCPU41は、気筒判別を行う演算処理と燃料噴射量についての制御目標値を算出する演算処理とを実行する。その演算処理の結果に基づいて、燃料噴射弁20の開弁駆動のための駆動パルスと同駆動パルスより前の予め定められた時期に設定される燃料噴射弁20を開弁させないパルス幅のダミーパルスとを含む作動信号を、各燃料噴射弁20およびサブCPU42に各別に出力する。サブCPU42は、ダミーパルスの入力に基づき直後に燃料噴射が実行される気筒を特定し、同気筒に対応する圧力センサ51によって燃料圧力を検出する演算処理を実行する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多気筒内燃機関の制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
多気筒内燃機関では、クランクセンサやカムセンサの検出信号に基づいて燃焼行程を迎える気筒の特定(いわゆる気筒判別)を行うとともに、その結果をもとに各気筒の燃料噴射弁の開弁駆動がそれぞれ適当なタイミングで実行される。
【0003】
また多気筒の内燃機関において、燃料噴射の実行時における燃料供給経路内の燃料圧力を検出するとともに、同燃料圧力の変動波形に基づいて燃料噴射弁の作動特性(例えば噴射量誤差や開弁遅れ時間、閉弁遅れ時間)を検出する装置が提案されている(特許文献1参照)。こうした装置において、気筒毎に設けられた燃料噴射弁の作動特性を効率良く検出するためには、燃料噴射の開始前に燃料噴射が実行される燃料噴射弁、すなわち燃焼行程になる気筒を認識しておく必要がある。特許文献1に記載の装置では、気筒判別の結果をもとに燃焼行程になる気筒を特定したうえで、気筒毎に、燃料供給経路内の燃料圧力の検出と同燃料圧力の変動波形に基づく燃料噴射弁の作動特性の検出とが行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−144749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
内燃機関にはその周辺機器としての電子制御ユニットが設けられている。そして、この電子制御ユニットに内蔵された中央処理装置(CPU)により、燃料噴射弁の駆動制御のための処理や気筒判別のための処理などといった機関運転のための各種の演算処理が実行される。
【0006】
また近年、同一の電子制御ユニット内に、対象となる演算処理毎に設定された専用のCPUを複数設けることが提案されている。仮に、こうした装置を上記特許文献1に記載の装置に適用する場合には、燃料噴射弁の駆動制御のための処理を実行するメインCPUとは別に、燃料圧力の変動波形の検出を行うためのサブCPUを設けることが考えられる。
【0007】
この場合、気筒判別のための演算処理をメインCPUに実行させることに加えてサブCPUにも実行させることにより、各気筒の燃料噴射弁の開弁駆動と燃料圧力の検出とがそれぞれ適切なタイミングで実行されるようになる。ただし気筒判別のための演算処理は、単にクランクセンサやカムセンサの検出信号を取り込むだけの処理ではなく、クランクセンサの検出信号とカムセンサの検出信号との関係に基づいて機関出力軸の回転位相を特定するといった煩雑な処理であるために、その演算負荷が大きくなり易い。そのため、そうした気筒判別にかかる処理をメインCPUとサブCPUとの双方において実行することは効率が悪く、望ましくない。
【0008】
なお、こうした気筒判別の実行についての不都合は、実行対象となる気筒の特定と同気筒についての演算処理とを行うCPUを複数備えた装置においては同様に生じる。
本発明は、そうした実情に鑑みてなされたものであり、その目的は、二つの中央処理装置の演算負荷を小さく抑えつつ、それら中央処理装置による気筒毎の演算処理をそれぞれ適切なタイミングで実行することのできる多気筒内燃機関の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
以下、上記目的を達成するための手段及びその作用効果について説明する。
請求項1に記載の構成では、多気筒内燃機関に第1中央処理装置(第1CPU)および第2中央処理装置(第2CPU)を有する電子制御ユニットが設けられる。そして、第1CPUによって気筒判別を行う演算処理が実行されるとともに、その結果に基づいて燃料噴射弁を開弁駆動するための駆動パルスが気筒毎に設けられた燃料噴射弁のいずれかに対して選択的に出力される。これにより、各燃料噴射弁に対してそれぞれ適切なタイミングで駆動パルスが出力されるようになる。また第1CPUから駆動パルスを出力することに加えて、予め定められた時期(機関出力軸の所定回転位相)において燃料噴射弁を開弁させないパルス幅のダミーパルスが出力される。そして、このダミーパルスが第2CPUに入力されることにより、このときの機関出力軸の回転位相を同第2CPUに把握させることが可能になるため、その把握した回転位相をもとに演算処理の実行対象となる気筒を特定することが可能になり、その特定した気筒についての演算処理を実行することも可能になる。なお、上記ダミーパルスは各燃料噴射弁に対して出力されるとはいえ、ダミーパルスのパルス幅は燃料噴射弁を開弁させない長さに設定されるため、ダミーパルスが入力されたことをもって燃料噴射弁が不要に開弁駆動されることはない。
【0010】
このように上記構成によれば、第1CPUと第2CPUとにおいて共に実行対象となる気筒の特定と同気筒についての演算処理とが実行されるものの、第1CPUによる気筒判別の結果をもとに第2CPUによる演算処理を適正に行うことができる。したがって、第1CPUおよび第2CPUの双方において気筒判別を行うための演算処理を実行する装置と比較して演算負荷を小さく抑えつつ、それらCPUにおける気筒毎の演算処理をそれぞれ適切なタイミングで実行することができる。
【0011】
燃料噴射弁内部の燃料圧力は、燃料噴射弁の開弁に伴って低下するとともにその後における同燃料噴射弁の閉弁に伴って上昇するといったように、燃料噴射弁の開閉動作に伴い変動する。そのため、燃料噴射の実行時における燃料圧力の変動波形を監視することにより、燃料噴射弁の実動作特性(例えば、開弁動作が開始される時期や閉弁動作が開始される時期など)を精度良く把握することができる。
【0012】
請求項2に記載の構成では、内燃機関の気筒毎に、昇圧された状態の燃料を蓄える蓄圧容器と同蓄圧容器に各別に接続された燃料噴射弁との間の部位の燃料圧力を検出する圧力センサが設けられている。そして第2中央処理装置により、ダミーパルスの入力に基づき直後に燃料噴射が実行される気筒が特定されるとともに同気筒に対応する圧力センサによって燃料圧力を検出する処理が実行される。
【0013】
こうした請求項2に記載の構成によれば、燃料噴射の実行時における燃料圧力の検出を、気筒毎に、燃料噴射弁の開弁駆動に合わせて適切なタイミングで実行することができる。
【0014】
なお前記予め定められた時期としては、請求項3に記載の構成によるように、前記実行対象となる気筒の圧縮行程中の時期を設定することができる。
請求項4に記載の構成では、第2中央処理装置により、直後に燃料噴射が実行される気筒に対応する圧力センサによって燃料圧力を検出する処理が実行されることに合わせて、さらにその次に燃料噴射が実行される気筒に対応する圧力センサによって燃料圧力を検出する処理が実行される。そのため、ダミーパルスが入力されたことにより、燃料噴射の実行時における燃料圧力を検出することに加えて、燃料噴射の非実行時における燃料圧力、言い換えれば燃料噴射の実行に伴う燃料圧力の変動波形の監視に際して基準となる燃料圧力を検出することができる。そして、それら燃料圧力に基づいて燃料噴射弁の開閉動作に伴う燃料圧力の変動波形を精度よく検出することができる。
【0015】
請求項5に記載の構成によれば、圧力センサが燃料噴射弁に取り付けられるため、圧力センサによって燃料噴射弁から離れた位置の燃料圧力が検出される装置と比較して、燃料噴射弁の噴射孔に近い部位の燃料圧力を検出することができ、燃料噴射弁の開閉動作に伴う同燃料噴射弁内部の燃料圧力の変化を精度良く検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明を具体化した一実施形態にかかる多気筒内燃機関の制御装置の概略構成を示す略図。
【図2】燃料噴射弁の断面構造を示す断面図。
【図3】メイン噴射の実行時において算出される基本時間波形の一例を示すタイムチャート。
【図4】電子制御ユニットから燃料噴射弁への作動信号の出力経路を示す略図。
【図5】クランク角と各作動信号と燃料圧力の検出実行期間との関係の一例を示すタイムチャート。
【図6】メインCPU処理の実行手順を示すフローチャート。
【図7】サブCPU処理の実行手順を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明を具体化した一実施形態にかかる多気筒内燃機関の制御装置について説明する。
図1に示すように、内燃機関10の気筒11には吸気通路12が接続されている。内燃機関10の気筒11内には吸気通路12を介して空気が吸入される。なお、この内燃機関10としては複数(本実施形態では四つ[♯1〜♯4])の気筒11を有するディーゼル機関が採用されている。内燃機関10には、気筒11(♯1〜♯4)毎に、同気筒11内に燃料を直接噴射する直噴タイプの燃料噴射弁20が取り付けられている。この燃料噴射弁20の開弁駆動によって噴射された燃料は内燃機関10の気筒11内において圧縮加熱された吸入空気に触れて着火および燃焼する。そして内燃機関10では、気筒11内における燃料の燃焼に伴い発生するエネルギによってピストン13が押し下げられて機関出力軸としてのクランクシャフト14が強制回転するようになる。内燃機関10の気筒11において燃焼した燃焼ガスは排気として内燃機関10の排気通路15に排出される。
【0018】
各燃料噴射弁20は分岐通路31aを介してコモンレール34に各別に接続されている。コモンレール34は供給通路31bを介して燃料タンク32に接続されている。この供給通路31bには、燃料を圧送する燃料ポンプ33が設けられている。本実施形態では、燃料ポンプ33による圧送によって昇圧された燃料がコモンレール34に蓄えられるとともに各燃料噴射弁20の内部に供給される。なお本実施形態では、分岐通路31aおよび供給通路31bが燃料供給通路として機能し、コモンレール34が燃料供給通路の途中に設けられる蓄圧容器として機能する。
【0019】
また、各燃料噴射弁20にはリターン通路35が接続されている。リターン通路35はそれぞれ燃料タンク32に接続されている。このリターン通路35を介して燃料噴射弁20の内部の燃料の一部が燃料タンク32に戻される。
【0020】
以下、燃料噴射弁20の内部構造について説明する。
図2に示すように、燃料噴射弁20のハウジング21の内部にはニードル弁22が設けられている。このニードル弁22はハウジング21内において往復移動(同図の上下方向に移動)することの可能な状態で設けられている。ハウジング21の内部には上記ニードル弁22を噴射孔23側(同図の下方側)に常時付勢するスプリング24が設けられている。またハウジング21の内部には、上記ニードル弁22を間に挟んで一方側(同図の下方側)の位置にノズル室25が形成されるとともに、他方側(同図の上方側)の位置に圧力室26が形成されている。
【0021】
ノズル室25には、その内部とハウジング21の外部とを連通する噴射孔23が形成されるとともに、導入通路27を介して上記分岐通路31a(コモンレール34)から燃料が供給されている。圧力室26には連通路28を介して上記ノズル室25および分岐通路31a(コモンレール34)が接続されている。また圧力室26は排出路30を介してリターン通路35(燃料タンク32)に接続されている。
【0022】
上記燃料噴射弁20としては電気駆動式のものが採用されている。詳しくは、燃料噴射弁20のハウジング21の内部に駆動信号の入力によって伸縮する圧電素子(例えばピエゾ素子)が積層された圧電アクチュエータ29が設けられている。この圧電アクチュエータ29には弁体29aが取り付けられている。この弁体29aは圧力室26の内部に設けられている。そして、圧電アクチュエータ29の作動による弁体29aの移動を通じて、連通路28(ノズル室25)と排出路30(リターン通路35)とのうちの一方が選択的に圧力室26に連通されるようになっている。
【0023】
この燃料噴射弁20では、圧電アクチュエータ29に閉弁信号が入力されると、圧電アクチュエータ29が収縮して弁体29aが移動することによって、連通路28と圧力室26とが連通された状態になるとともに、リターン通路35と圧力室26との連通が遮断された状態になる。これにより、圧力室26内の燃料のリターン通路35(燃料タンク32)への排出が禁止された状態でノズル室25と圧力室26とが連通されるようになる。その結果、ノズル室25と圧力室26との圧力差がごく小さくなって、ニードル弁22がスプリング24の付勢力によって噴射孔23を塞ぐ位置に移動するために、このとき燃料噴射弁20は燃料が噴射されない状態(閉弁状態)になる。
【0024】
一方、圧電アクチュエータ29に開弁信号が入力されると、圧電アクチュエータ29が伸長して弁体29aが移動することによって、連通路28と圧力室26との連通が遮断された状態になるとともに、リターン通路35と圧力室26とが連通された状態になる。これにより、ノズル室25から圧力室26への燃料の流出が禁止された状態で圧力室26内の燃料の一部がリターン通路35を介して燃料タンク32に戻されるようになる。その結果、圧力室26内の燃料の圧力が低下して同圧力室26とノズル室25との圧力差が大きくなって、同圧力差によってニードル弁22がスプリング24の付勢力に抗して移動して噴射孔23から離れるために、このとき燃料噴射弁20は燃料が噴射される状態(開弁状態)になる。
【0025】
燃料噴射弁20には、上記導入通路27の内部の燃料圧力PQに応じた信号を出力する圧力センサ51が一体に取り付けられている。そのため、例えばコモンレール34(図1参照)内の燃料圧力などの燃料噴射弁20から離れた位置の燃料圧力が検出される装置と比較して、燃料噴射弁20の噴射孔23に近い部位の燃料圧力を検出することができ、燃料噴射弁20の開弁に伴う同燃料噴射弁20の内部の燃料圧力の変化を精度良く検出することができる。なお、上記圧力センサ51は各燃料噴射弁20に一つずつ、すなわち内燃機関10の気筒11毎に設けられている。
【0026】
図1に示すように、内燃機関10には、その周辺機器として、運転状態を検出するための各種センサが設けられている。それらセンサとしては、上記圧力センサ51の他、例えば吸気通路12を通過する空気の量(通路空気量GA)を検出するための吸気量センサ52や、クランクシャフト14の回転に伴いパルス状の信号を出力するクランクセンサ53、カムシャフトの回転に伴いパルス状の信号を出力するカムセンサ54が設けられている。その他、アクセル操作部材(例えばアクセルペダル)の操作量(アクセル操作量ACC)を検出するためのアクセルセンサ55なども設けられている。本実施形態では、クランクセンサ53の検出信号とカムセンサ54の検出信号との関係に基づいて同クランクシャフト14の回転位相(クランク角)の変化に伴って変化する信号(以下、クランク信号)が形成される。そして、このクランク信号に基づいて、そのときどきのクランク角やクランクシャフト14の回転速度(機関回転速度NE)、燃料噴射を実行する気筒11などが特定される。
【0027】
また内燃機関10の周辺機器としては、中央処理装置を備えて構成された二つの電子制御ユニット40A,40Bなども設けられている。これら電子制御ユニット40A,40Bは各種センサの出力信号を取り込むとともにそれら出力信号をもとに各種の演算を行い、内燃機関10の運転にかかる各種制御を実行する。なお電子制御ユニット40Bは燃料噴射弁20の作動制御(燃料噴射制御)に関する演算処理を実行する。また電子制御ユニット40Aは主に、それ以外の機関制御にかかる演算処理を実行する。
【0028】
上記燃料噴射制御は基本的には次のように実行される。すなわち先ず、通路空気量GAや機関回転速度NE、アクセル操作量ACCなどの機関運転状態に基づいて、噴射パターンが選択されるとともに同噴射パターンの各噴射についての各種制御目標値が算出される。そして、それら制御目標値に応じたかたちで駆動信号が出力され、この駆動信号の入力に基づき各燃料噴射弁20が各別に開弁駆動される。これにより、そのときどきの機関運転状態に適した噴射パターンで同機関運転状態に見合う量の燃料が各燃料噴射弁20から噴射されて内燃機関10の各気筒11内に供給されるようになるために、機関運転状態に見合う回転トルクがクランクシャフト14に付与されるようになる。
【0029】
なお本実施形態では、メイン噴射やパイロット噴射、アフター噴射などを組み合わせた複数の噴射パターンが予め設定されて電子制御ユニット40Bに記憶されており、燃料噴射制御の実行に際してはそれら噴射パターンのうちの一つが選択される。また各種の制御目標値としては、メイン噴射やパイロット噴射、アフター噴射などといった各噴射の燃料噴射量についての制御目標値、メイン噴射の噴射時期やパイロットインターバルなどといった各種噴射の燃料噴射時期についての制御目標値が算出される。さらに本実施形態では、上記機関運転状態と同運転状態に適した各制御目標値との関係や、上記機関運転状態と同運転状態に適した噴射パターンとの関係が実験やシミュレーションの結果に基づき予め求められて電子制御ユニット40Bにそれぞれ記憶されている。そして、電子制御ユニット40Bはそのときどきの機関運転状態に基づいて上記関係から各種の制御目標値や噴射パターンを各別に設定する。
【0030】
また本実施形態では、メイン噴射の実行に際して、メイン噴射における燃料噴射量の制御目標値(目標メイン噴射時間)および燃料噴射時期の制御目標値(目標メイン噴射時期)に基づく燃料噴射の実行に合わせて、圧力センサ51により検出される燃料圧力PQに基づいて燃料噴射弁20の開弁期間や燃料噴射量を補正する補正制御が実行される。この補正制御は、詳しくは、以下のように実行される。
【0031】
すなわち先ず、上記目標メイン噴射時間および目標メイン噴射時期に基づいて燃料噴射率についての基本時間波形が算出される。なお本実施形態では、目標メイン噴射時間および目標メイン噴射時期により定まる機関運転領域と同運転領域に適した基本時間波形との関係が実験やシミュレーションの結果に基づき予め求められて電子制御ユニット40Bのメモリ(図示略)に記憶されている。そして、電子制御ユニット40Bはそのときどきの機関運転領域に基づいて上記関係から基本時間波形を算出する。
【0032】
図3は、上記基本時間波形の一例を示している。
同図3の実線に示すように、基本時間波形としては、燃料噴射弁20の開弁動作が開始される時期(開弁動作開始時期Tos)、燃料噴射率が最大になる時期(最大噴射率到達時期Toe)、閉弁動作が開始される時期(閉弁動作開始時期Tcs)、および閉弁動作が完了する時期(閉弁動作完了時期Tce)により規定される台形の波形が設定される。
【0033】
その一方で、圧力センサ51により検出される燃料圧力PQに基づいて、実際の燃料噴射率の時間波形(検出時間波形)が形成される。具体的には先ず、燃料圧力PQの推移に基づいて燃料噴射弁20の開弁動作開始時期Tosr、最大噴射率到達時期Toer、閉弁動作開始時期Tcsr、および閉弁動作完了時期Tcerがそれぞれ特定される。燃料噴射弁20の内部(詳しくは、ノズル室25)の燃料圧力は、同燃料噴射弁20が開弁駆動されるとリフト量の増加に伴って低下し、その後において閉弁駆動されるとリフト量の減少に伴って上昇するようになる。本実施形態では、そうした燃料噴射弁20内部の燃料圧力(詳しくは、燃料圧力PQ)の推移をもとに、上記開弁動作開始時期Tosr、最大噴射率到達時期Toer、閉弁動作開始時期Tcsr、および閉弁動作完了時期Tcerが精度よく特定される。
【0034】
なお本実施形態では、燃料圧力PQの変化速度(詳しくは、燃料圧力PQの一階微分値)が算出されるとともに、同変化速度が上記開弁動作開始時期Tosr、最大噴射率到達時期Toer、閉弁動作開始時期Tcsr、および閉弁動作完了時期Tcerの特定に用いられる。これにより、燃料噴射弁20の開弁動作の開始に伴って燃料圧力PQが急低下を開始する時期や、開弁動作開始後に燃料圧力PQの変化速度が下降から上昇に転じる時期、閉弁動作の開始に伴って燃料圧力PQが急上昇を開始する時期、閉弁動作開始後に燃料圧力PQの変化速度が上昇から下降に転じる時期などを容易に特定することが可能になる。そのため、燃料圧力PQに基づく燃料噴射弁20の動作態様の把握が適正に行われて、上記開弁動作開始時期Tosr、最大噴射率到達時期Toer、閉弁動作開始時期Tcsr、および閉弁動作完了時期Tcerの特定が精度よく行われるようになる。そして、図3中に一点鎖線で示すように、それら特定した時期によって実際の燃料噴射率の時間波形(検出時間波形)が形成される。
【0035】
本実施形態の補正制御では、この検出時間波形と前記基本時間波形とが比較されるとともに、それら検出時間波形および前記基本時間波形の差を小さく抑えることの可能な値が噴射時期についての補正項K1および噴射時間についての補正項K2としてそれぞれ算出されて電子制御ユニット40Bに記憶される。
【0036】
詳しくは、基本時間波形の開弁動作開始時期Tosと検出時間波形の開弁動作開始時期Tosrとの差を補償することの可能な値が補正項K1として算出されるとともに電子制御ユニット40Bに記憶される。そして、メイン噴射の実行に際しては、前記目標メイン噴射時期を補正項K1によって補正した値が最終的な目標メイン噴射時期として設定される。また、基本時間波形の面積と検出時間波形の面積との差を補償することの可能な値が上記補正項K2として算出されるとともに電子制御ユニット40Bに記憶される。そして、メイン噴射の実行に際しては、前記目標メイン噴射時間を補正項K2によって補正した値が最終的な目標メイン噴射時間として設定される。
【0037】
なお上記補正制御は、例えば内燃機関10の気筒11[♯1]に設けられた圧力センサ51の検出信号に基づき同気筒11[♯1]の燃料噴射弁20についての上記各補正項K1,K2の学習を実行するなどといったように、内燃機関10の気筒11(♯1〜♯4)毎にそれぞれ対応する圧力センサ51の出力信号に基づき実行される。
【0038】
以下、電子制御ユニット40A,40Bから各燃料噴射弁20に同燃料噴射弁20を開閉動作させるための作動信号の出力経路について詳しく説明する。
図4に示すように、電子制御ユニット40Bは二つの中央処理装置(メインCPU41およびサブCPU42)を内蔵している。この電子制御ユニット40Bは、図中に白抜きの矢印で示すように、メインCPU41とサブCPU42との間でデータ転送が可能な構造になっている。
【0039】
またメインCPU41と電子制御ユニット40Aとの間には四本の信号線路SA[♯1],SA[♯2],SA[♯3],SA[♯4]が設けられている。これら信号線路SA[♯1]〜SA[♯4]を介して各燃料噴射弁20(詳しくは、電子制御ユニット40A)に対して上記作動信号が各別に出力される。
【0040】
これら信号線路SA[♯1]〜SA[♯4]はそれぞれ途中で分岐されており、それら分岐された信号線路SB[♯1],SB[♯2],SB[♯3],SB[♯4]はそれぞれサブCPU42に接続されている。これら信号線路SB[♯1]〜SB[♯4]を介して各作動信号がサブCPU42に各別に入力される。
【0041】
さらに電子制御ユニット40Aと各燃料噴射弁20との間には四本の信号線路SC[♯1],SC[♯2],SC[♯3],SC[♯4]が設けられている。これら信号線路SC[♯1]〜SC[♯4]を介して各燃料噴射弁20に対して前記駆動信号が各別に出力される。
【0042】
また各燃料噴射弁20に設けられた圧力センサ51と電子制御ユニット40BのサブCPU42との間には四本の信号線路SD[♯1],SD[♯2],SD[♯3],SD[♯4]が設けられている。これら信号線路SD[♯1]〜SD[♯4]を介して各圧力センサ51の検出信号がサブCPU42に各別に入力される。
【0043】
上記メインCPU41は以下の[機能1]〜[機能5]に記載する機能を有している。
[機能1]クランクセンサ53の検出信号とカムセンサ54の検出信号との関係に基づいてクランク角の変化に伴い変化するクランク信号を形成し、同クランク信号に基づいて燃焼行程を迎える気筒11の特定(いわゆる気筒判別)を行う。
[機能2]メインCPU41とサブCPU42との間におけるデータ転送を通じてサブCPU42から検出時間波形を受信するとともに同検出時間波形を気筒11毎に記憶する。
[機能3]機関運転状態に基づいて燃料噴射制御についての各種の制御目標値を算出する。
[機能4]サブCPU42から受信した検出時間波形に基づく補正制御を実行する。
[機能5]燃料噴射制御についての各種の制御目標値に基づいて各燃料噴射弁20を開閉動作させるための駆動パルス(燃料噴射弁20の開弁期間を規定するパルス)を含む作動信号を形成するとともに、それら作動信号を上記信号経路SA[♯1]〜SA[♯4]を介して電子制御ユニット40Aに各別に出力する。
【0044】
また上記サブCPU42は以下の[機能6]〜[機能10]に記載する機能を有している。
[機能6]燃料噴射弁20の開弁時(具体的には、圧縮行程中期から燃焼行程中期までの期間)において同燃料噴射弁20に対応する圧力センサ51の検出信号に基づき燃料圧力PQを検出するとともに、その検出値を気筒11毎に記憶する。
[機能7]燃料噴射弁20の閉弁時(具体的には、吸気行程中期から圧縮行程中期までの期間)において同燃料噴射弁20に対応する圧力センサ51の検出信号に基づき燃料圧力PQを検出するとともに、その検出値を気筒11毎に記憶する。なお本実施形態では、このようにして検出された燃料圧力PQの平均値が算出されるとともに、同平均値が、検出時間波形の形成に際して燃料噴射弁20の開閉動作に伴う燃料圧力PQの変化の基準となる圧力として用いられる。
[機能8]燃料噴射弁20の開弁時に検出した燃料圧力PQと閉弁時に検出した燃料圧力PQとに基づいて同燃料噴射弁20の開閉動作に伴う燃料圧力PQの変動波形(前記検出時間波形)を形成するとともに気筒11毎に記憶する。
[機能9]検出時間波形を、データ転送を通じて適宜のタイミングでメインCPU41に出力する。
[機能10]信号線路SB[♯1]〜SB[♯4]を介して入力される各作動信号を監視するなどして、メインCPU41の作動状態を監視する。
【0045】
また電子制御ユニット40Aは以下の[機能11]に記載する機能を有している。
[機能11]電子制御ユニット40BのメインCPU41から入力される各作動信号に応じて、燃料噴射弁20を開弁させるための駆動信号(開弁信号)と閉弁させるための駆動信号(閉弁信号)とを信号線路SB[♯1]〜SB[♯4]を介して適宜のタイミングで出力する。具体的には先ず、電子制御ユニット40Aが開弁信号を出力してから実際に燃料噴射弁20の開弁動作が開始されるまでの時間(開弁遅れ時間TA)と電子制御ユニット40Bから入力される作動信号(詳しくは、その駆動パルス)とに基づいて開弁信号の出力タイミングが設定される。また電子制御ユニット40Aから閉弁信号が出力されてから実際に燃料噴射弁20の閉弁動作が開始されるまでの時間(閉弁遅れ時間TB)と電子制御ユニット40Bから入力される作動信号とに基づいて閉弁信号の出力タイミングが設定される。そして電子制御ユニット40Aは、それら出力タイミングにおいて各燃料噴射弁20に開弁信号や閉弁信号を出力する。
【0046】
ここで本実施形態では、電子制御ユニット40Bに設けられたメインCPU41およびサブCPU42が共に、直後に燃料噴射が実行される気筒11を特定するとともに同気筒11についての演算処理(駆動パルスの出力、あるいは燃料圧力PQの検出)を実行する。
【0047】
そのため本実施形態の装置では、気筒判別のための演算処理をメインCPU41に実行させることに加えてサブCPU42にも実行させることにより、メインCPU41による駆動パルスの出力とサブCPU42による燃料圧力PQの検出とをそれぞれ適切なタイミングで実行することが可能になる。ただし気筒判別のための演算処理は、単にクランクセンサ53やカムセンサ54の検出信号を取り込むだけの処理ではなく、クランクセンサ53の検出信号とカムセンサ54の検出信号との関係に基づいてクランク角を特定するといった煩雑な処理を含むため、その演算負荷が大きくなり易い。そのため、そうした気筒判別にかかる演算処理をメインCPU41とサブCPU42との双方において実行することは効率が悪く、望ましくない。
【0048】
この点をふまえて本実施形態では、メインCPU41から駆動パルスを出力するのに先立ち、同駆動パルスより前の予め定められた時期(本実施形態では、圧縮行程中のBTDC90°)において所定のパルス幅のパルス状の信号(以下、ダミーパルス)を出力するようにしている。これら駆動パルスとダミーパルスとからなる作動信号は気筒11毎に設定される。そのため各作動信号は信号線路SA[♯1]〜SA[♯4]を介して電子制御ユニット40Aに各別に入力されることに加えて、信号線路SB[♯1]〜SB[♯4]を介して電子制御ユニット40BのサブCPU42にも各別に入力される。なお、上記ダミーパルスとしては、燃料噴射弁20の無効噴射時間に相当するパルス幅より短いパルス幅、すなわち燃料噴射弁20を開弁させないパルス幅の信号が出力される。
【0049】
そして電子制御ユニット40BのサブCPU42はダミーパルスの入力に基づいて、直後に燃料噴射が実行される気筒11を特定する。そして、その特定した気筒11に対応する圧力センサ51の検出信号に基づく燃料圧力PQの検出と、特定した気筒11の次に燃料噴射が実行される気筒11に対応する圧力センサ51の検出信号に基づく燃料圧力PQの検出とを実行する。
【0050】
以下、図5に示すタイムチャートを参照して、そうしたサブCPU42による燃料圧力PQの検出態様を具体的に説明する。
図5に示すように、時刻t1において、電子制御ユニット40BのサブCPU42に気筒11[♯1]に対応する信号線路SB[♯1]を介してダミーパルスが入力されると、その直後において燃料噴射が実行される気筒11[♯1]が特定される。そして、その後の時刻t1〜t2において、気筒11[♯1]に対応する圧力センサ51の検出信号に基づく燃料圧力PQの検出と同気筒11[♯1]の次に燃料噴射が実行される気筒11[♯3]に対応する圧力センサ51の検出信号に基づく燃料圧力PQの検出とが実行される。
【0051】
同様に、サブCPU42に気筒11[♯3]に対応する信号線路SB[♯3]を介してダミーパルスが入力されると(時刻t2)、直後に燃料噴射が実行される気筒11[♯3]についての燃料圧力PQの検出と、同気筒11[♯3]の次に燃料噴射が実行される気筒11[♯4]についての燃料圧力PQの検出とが実行される(時刻t2〜t3)。
【0052】
また、サブCPU42に気筒11[♯4]に対応する信号線路SB[♯4]を介してダミーパルスが入力されると(時刻t3)、直後に燃料噴射が実行される気筒11[♯4]についての燃料圧力PQの検出と、同気筒11[♯4]の次に燃料噴射が実行される気筒11[♯2]についての燃料圧力PQの検出とが実行される(時刻t3〜t4)。
【0053】
さらに、サブCPU42に気筒11[♯2]に対応する信号線路SB[♯2]を介してダミーパルスが入力されると(時刻t4)、直後に燃料噴射が実行される気筒11[♯2]についての燃料圧力PQの検出と、同気筒11[♯2]の次に燃料噴射が実行される気筒11[♯1]についての燃料圧力PQの検出とが実行される(時刻t4〜t5)。
【0054】
以下、このようにして駆動パルスとダミーパルスとを含む作動信号を電子制御ユニット40BのメインCPU41からサブCPU42と電子制御ユニット40Aとにそれぞれ出力することによる作用について説明する。
【0055】
本実施形態の装置では、メインCPU41によって気筒判別を行う演算処理が実行されるとともに、その結果に基づいて燃料噴射弁20を開弁駆動するための駆動パルスが信号線路SA[♯1]〜SA[♯4]を介して、気筒11毎に設けられた燃料噴射弁20のいずれかに対して選択的に出力される。これにより、各燃料噴射弁20に対してそれぞれ適切なタイミングで駆動パルス(詳しくは、電子制御ユニット40Aからの駆動信号)が出力されるようになる。
【0056】
またメインCPU41から駆動パルスを出力することに加えて同駆動パルスより前の予め定められた時期においてダミーパルスが出力されており、このダミーパルスが信号線路SB[♯1]〜SB[♯4]を介してサブCPU42に入力されている。そのため、このダミーパルスが信号線路SB[♯1]〜SB[♯4]のいずれかを介してサブCPU42に入力されたことをもって、直後に開弁駆動される燃料噴射弁20に対応する気筒11を同サブCPU42に把握させることができる。これにより、直後に燃料噴射が実行される気筒11に対応する圧力センサ51の検出信号に基づく燃料圧力PQの検出と、同気筒11の次に燃料噴射が実行される気筒11に対応する圧力センサ51の検出信号に基づく燃料圧力PQの検出とを実行することができる。
【0057】
このように本実施形態では、メインCPU41とサブCPU42とにおいて共に、直後に燃料噴射が実行される気筒11の特定と同気筒11についての演算処理(駆動パルスの出力、あるいは燃料圧力PQの検出)とが実行されるものの、メインCPU41による気筒判別の結果をもとにサブCPU42による演算処理を適正に行うことができる。したがって、メインCPU41およびサブCPU42の双方において気筒判別を行うための演算処理を実行する装置と比較して演算負荷を小さく抑えつつ、それらメインCPU41およびサブCPU42における気筒11毎の演算処理をそれぞれ適切なタイミングで実行することができるようになる。
【0058】
なお本実施形態では、ダミーパルスが信号線路SA[♯1]〜SA[♯4]を介して電子制御ユニット40Aに入力されるとはいえ、ダミーパルスのパルス幅が燃料噴射弁20を開弁させない長さに設定されているため、ダミーパルスが入力されたことをもって燃料噴射弁20が不要に開弁駆動されることはない。
【0059】
また本実施形態では、サブCPU42によってメインCPU41の作動状態を監視する前記[機能10]を実現するために、メインCPU41から出力される各作動信号が信号線路SB[♯1]〜SB[♯4]を介してサブCPU42に入力されている。
【0060】
本実施形態では、そうした各作動信号の入出力のための構成(具体的には、信号線路SB[♯1]〜SB[♯4]や回路、プログラムなど)を利用して、気筒判別のための信号(ダミーパルス)がメインCPU41からサブCPU42に出力される。
【0061】
そのため、専用の構成を別途設けて気筒判別のための信号の入出力を行う装置と比較して、同信号の入出力のためのプログラムや電子制御ユニット40Bの構造の簡素化を図ることができる。また、前記[機能10]の実現のためにメインCPU41から出力される各作動信号が信号線路SB[♯1]〜SB[♯4]を介してサブCPU42に入力される装置に本実施形態にかかる装置を適用する場合には、既存の構成を利用することができるため、新たな構成の追加を極力抑えることができる。
【0062】
以下、ダミーパルスを出力する処理や同ダミーパルスの入力に基づいて燃料圧力PQの検出を行う処理の具体的な実行手順について説明する。
ここでは先ず、図6に示すフローチャートを参照して、ダミーパルスを含む作動信号を出力するべくメインCPU41により実行される処理(メインCPU処理)の実行手順を説明する。このフローチャートに示される一連の処理は所定周期毎の割り込み処理として実行される。
【0063】
図6に示すように、この処理では、クランク角が検出基準角度になると(ステップS11:YES)、直後に燃料噴射が実行される気筒11に対応する信号線路(SA[♯1]〜SA[♯4]のいずれか)を介してダミーパルスが出力される(ステップS12)。上記検出基準角度としては、いずれかの気筒11が圧縮行程中におけるBTDC90°になる四つの角度(Cd[♯1],Cd[♯2],Cd[♯3],Cd[♯4])が予め設定されている。本実施形態では、それら検出基準角度Cd[♯1]〜Cd[♯4]として、クランク角で180°間隔になる四つの角度が設定される。そのため本処理では、いずれかの気筒11が圧縮行程中におけるBTDC90°になる度に、同気筒11に対応する信号線路(SA[♯1]〜SA[♯4]のいずれか)を介してダミーパルスが出力されるようになる。
【0064】
また、クランク角が噴射基準角度になると(ステップS13:YES)、直後に燃料噴射が実行される気筒11についての前回の燃焼サイクルにおける検出時間波形に基づいて同気筒11のメイン噴射についての前記補正制御が実行される(ステップS14)。なお、この検出時間波形としてはサブCPU42から予め受信して気筒11毎に記憶されている値が用いられる。
【0065】
上記噴射基準角度としても、上記検出基準角度と同様に、クランク角で180°間隔になる四つの角度(Ci[♯1],Ci[♯2],Ci[♯3],Ci[♯4])が予め設定されている。ただし、これら噴射基準角度としてはそれぞれ、検出基準角度(詳しくは、直後に燃料噴射が実行される気筒11の圧縮行程中におけるBTDC90°)から同気筒11に対応する燃料噴射弁20への駆動パルスの出力が開始される可能性のあるクランク角までの範囲における所定角度が設定される。
【0066】
そのため本処理では、燃料噴射が実行される気筒順序(気筒11[♯1]→気筒11[♯3]→気筒11[♯4]→気筒11[♯2])で、180°クランク角毎のタイミングにおいて、いずれかの気筒11についての補正制御が選択的に実行される。言い換えれば、一回の燃焼サイクルにおいて前回の燃焼サイクルにおける検出時間波形に基づく補正制御が各気筒11について一回ずつ実行される。
【0067】
さらに本処理では、ステップS14の処理を通じて設定されたメイン噴射についての制御目標値や別途の処理を通じて設定されたメイン噴射以外の噴射についての制御目標値に基づいて駆動パルスの出力タイミングが設定される。そして、その出力タイミングにおいて、駆動パルスの出力対象である気筒11に対応する信号線路(SA[♯1]〜SA[♯4]のいずれか)を介して同駆動パルスが出力される(ステップS15)。
【0068】
次に、ダミーパルスの入力に基づき燃料圧力PQを検出するべくサブCPU42により実行される処理(サブCPU処理)を図7に示すフローチャートを参照して説明する。このフローチャートに示される一連の処理は所定周期毎の割り込み処理として実行される。
【0069】
図7に示すように、この処理では先ず、信号線路SB[♯1]〜SB[♯4]のいずれかを介してダミーパルスが入力されたか否かが判断される(ステップS21)。
そして、ダミーパルスが入力されたと判断される場合には(ステップS21:YES)、ダミーパルスが入力された信号線路(SB[♯1]〜SB[♯4]のいずれか)に基づいて直後に燃料噴射が実行される気筒11が特定されるとともに、同気筒11の気筒番号が今回パルス気筒Nとして記憶される(ステップS22)。例えば、信号線路SB[♯1]を介してダミーパルスが入力された場合には、気筒11[♯1]の気筒番号「1」が今回パルス気筒Nとして記憶される。なおダミーパルスが入力されない場合には(ステップS21:NO)、今回パルス気筒Nが変更されない(ステップS22の処理がジャンプされる)。また本実施形態では、運転スイッチの操作によって内燃機関10が始動される際に、今回パルス気筒Nの初期値として、いずれかの気筒番号(1〜4)以外の所定値(例えば「0」)が設定される。
【0070】
その後、燃料圧力PQの検出対象となる気筒11を切り替えるタイミングであるか否かが判断される(ステップS23)。ここでは、今回パルス気筒Nと後述する前回パルス気筒[N−1]とが一致していないことをもって、検出対象となる気筒11を切り替えるタイミングであると判断される。そして、検出対象の気筒11を切り替えるタイミングであると判断される場合には(ステップS23:YES)、共に後述するステップS24の処理とステップS25の処理とが実行された後、今回パルス気筒Nに記憶されている値が前回パルス気筒[N−1]として記憶される(ステップS26)。なお本実施形態では、運転スイッチの操作によって内燃機関10が始動される際に、前回パルス気筒[N−1]の初期値として、いずれかの気筒番号(1〜4)以外の所定値(例えば「0」)が設定される。
【0071】
こうしたことから本処理では、ダミーパルスが入力されて今回パルス気筒Nが更新された直後においてのみ(ステップS21:YES)、今回パルス気筒Nと前回パルス気筒[N−1]とが一致しなくなる。したがって、ステップS24の処理およびステップS25の処理がダミーパルスの入力の度に一回のみ実行される。
【0072】
ステップS24の処理は次のように実行される。すなわち先ず、今回パルス気筒Nに基づいて、直後に燃料噴射が実行される気筒11の次に燃料噴射が実行される気筒11(次回パルス気筒[N+1])が特定される。本実施形態では、気筒順序により定まる今回パルス気筒Nと次回パルス気筒[N+1]との関係(例えばN=1なら[N+1]=3、N=3なら[N+1]=4など)がサブCPU42のメモリに予め記憶されており、同対応関係に基づいて今回パルス気筒Nから次回パルス気筒[N+1]が特定される。そして、今回パルス気筒Nに対応する圧力センサ51に基づいて燃料圧力PQ(すなわち、燃料噴射の実行時における燃料圧力PQ)を検出する処理の実行と、次回パルス気筒[N+1]に対応する圧力センサ51に基づいて燃料圧力PQ(すなわち、燃料噴射の非実行時における燃料圧力PQ)を検出する処理の実行とがそれぞれ開始される。また、それら検出された燃料圧力PQはサブCPU42のメモリに各別に記憶される。なお、このとき今回パルス気筒Nおよび次回パルス気筒[N+1]に対応する圧力センサ51以外の圧力センサ51による燃料圧力PQの検出および記憶は実行されない。
【0073】
また、ステップS25の処理は次のように実行される。先のステップS23の処理において検出対象の気筒11が切り替わったと判断される直前において検出されて記憶されていた各燃料圧力PQ、すなわち直後に燃料噴射が実行される気筒11の燃料噴射の非実行時における燃料圧力PQと直前に燃料噴射が実行された気筒11の燃料噴射の実行時における燃料圧力PQとに基づいて検出時間波形を形成する処理の実行が開始される。なお、この検出時間波形の形成が完了すると、同波形が直前に燃料噴射が実行された気筒11に対応する検出時間波形としてメインCPU41に転送される。
【0074】
このように本処理では、ダミーパルスが入力される度に、燃料圧力PQの検出対象となる気筒11の切り替えと、その切り替え前において検出されていた燃料圧力PQに基づく検出時間波形の形成および同波形のメインCPU41への転送とが実行される。
【0075】
以上説明したように、本実施形態によれば、以下に記載する効果が得られる。
(1)メインCPU41によって気筒判別を行う演算処理を実行するとともに、その結果に基づいて駆動パルスを気筒11毎に設けられた燃料噴射弁20のいずれかに対して選択的に出力するようにした。またメインCPU41から駆動パルスを出力することに加えて同駆動パルスより前の予め定められた時期においてダミーパルスを出力するとともに、このダミーパルスをサブCPU42に入力させるようにした。そのため、メインCPU41とサブCPU42とにおいて共に、直後に燃料噴射が実行される気筒11の特定と同気筒11についての演算処理(駆動パルスの出力、あるいは燃料圧力PQの検出)とが実行されるものの、メインCPU41による気筒判別の結果をもとにサブCPU42による演算処理を適正に行うことができる。したがって、メインCPU41およびサブCPU42の双方において気筒判別を行うための演算処理を実行する装置と比較して演算負荷を小さく抑えつつ、それらメインCPU41およびサブCPU42における気筒11毎の演算処理をそれぞれ適切なタイミングで実行することができるようになる。
【0076】
(2)サブCPU42により、ダミーパルスの入力に基づき直後に燃料噴射が実行される気筒11を特定する処理と、同気筒11に対応する圧力センサ51によって燃料圧力PQを検出する処理とを実行するようにした。そのため、燃料噴射の実行時における燃料圧力PQの検出を、気筒11毎に、燃料噴射弁20の開弁駆動に合わせて適切なタイミングで実行することができる。
【0077】
(3)直後に燃料噴射が実行される気筒11に対応する圧力センサ51によって燃料圧力PQを検出する処理を実行することに合わせて、さらにその次に燃料噴射が実行される気筒11に対応する圧力センサ51によって燃料圧力PQを検出する処理を実行するようにした。そのため、ダミーパルスが入力されたことにより、燃料噴射の実行時における燃料圧力PQを検出することに加えて、燃料噴射の非実行時における燃料圧力PQ、言い換えれば検出時間波形の形成に際して燃料噴射弁20の開閉動作に伴う燃料圧力PQの変化の基準となる圧力を検出することができる。そして、それら燃料圧力PQに基づいて検出時間波形を精度よく形成することができる。
【0078】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施してもよい。
・ダミーパルスが入力された直後に燃料圧力PQの検出の実行を開始することに限らず、ダミーパルスが入力されてから若干の時間をおいた後に燃料圧力PQの検出の実行を開始してもよい。
【0079】
・上記実施形態では、サブCPU42によって気筒11毎に検出されて記憶されている燃料圧力PQのうちの、異なる気筒11についての二つの燃料圧力PQ(具体的には、燃料噴射の実行時における燃料圧力PQと燃料噴射の非実行時における燃料圧力PQ)に基づいて検出時間波形を形成するようにした。これに代えて、同一の気筒11についての燃料噴射の実行時における燃料圧力PQと燃料噴射の非実行時における燃料圧力PQとに基づいて検出時間波形を形成してもよい。
【0080】
・燃料噴射の実行時における燃料圧力PQを、直後に燃料噴射が実行される気筒11の次に燃料噴射が実行される気筒11に対応する圧力センサ51によって検出することに限らず、次に燃料噴射が実行される気筒11のさらに次(二回後)に燃料噴射が実行される気筒11に対応する圧力センサ51により検出してもよい。また燃料噴射の実行時における燃料圧力PQを、三回後に燃料噴射が実行される気筒11に対応する圧力センサ51によって検出することもできる。
【0081】
・ダミーパルスの出力時期は、圧縮行程中のBTDC90°に限らず、任意に変更することができる。なお、ダミーパルスの出力時期を早くすると、その分だけダミーパルスがサブCPU42に入力されてから燃料圧力PQの検出対象となる気筒11を切り替えるタイミングまでの期間が長くなるために、その切り替えのタイミングや燃料圧力PQの検出期間の設定精度の低下を招き易くなる。また、ダミーパルスの出力時期を遅くしすぎると、燃料噴射弁20の開弁が開始される前のタイミングで燃料圧力PQの検出を開始することができなくなってしまう。そのため、ダミーパルスの出力時期としては、次の[要件1]および[要件2]を共に満たす時期を設定することが望ましい。[要件1]直後に燃料噴射が実行される気筒11の燃料噴射弁20の開弁が開始される前において確実に燃料圧力PQの検出を開始することができるクランク角であること。[要件2]例えば直前に燃料噴射が行われる気筒11の燃料噴射弁20が開弁状態になる可能性のあるクランク角範囲より後のクランク角など、直後に燃料噴射が実行される気筒11の燃料噴射弁20の開弁開始タイミングから離れすぎていないクランク角であること。
【0082】
・サブCPU42によってメインCPU41の作動状態を監視する機能(前記[機能10])を省略してもよい。
・燃料噴射の実行時における燃料圧力PQの検出のためのダミーパルスと燃料噴射の非実行時における燃料圧力PQの検出のためのダミーパルスとを各別に設定してもよい。
【0083】
・上記実施形態にかかる制御装置は、燃料噴射の非実行時における燃料圧力PQの検出を実行しない装置にも、その構成を適宜変更した上で適用することができる。この場合には、検出時間波形の形成に際して燃料噴射弁20の開閉動作に伴う燃料圧力PQの変化の基準となる圧力として、燃料噴射弁20が開弁される直前に検出された燃料圧力PQを用いるようにすればよい。
【0084】
・燃料噴射弁20の内部(詳しくは、ノズル室25内)の燃料圧力の指標となる圧力、言い換えれば同燃料圧力の変化に伴って変化する燃料圧力を適正に検出することができるのであれば、圧力センサ51を燃料噴射弁20に直接取り付けることに限らず、同圧力センサ51の取り付け態様は任意に変更することができる。具体的には、圧力センサ51を燃料供給通路におけるコモンレール34と燃料噴射弁20との間の部位(分岐通路31a)に取り付けたり、コモンレール34に取り付けたりしてもよい。
【0085】
・ダミーパルスの入力に基づき直後に燃料噴射が実行される気筒11を特定して、同気筒11の内部における燃料燃焼時における圧力を検出する処理を実行するなど、その特定した気筒11についてのなんらかの演算処理であって、同気筒11に対応する圧力センサ51によって燃料圧力PQを検出する処理以外の演算処理を実行するようにしてもよい。こうした構成を採用する場合には、各圧力センサ51や前記補正制御を実行するための制御プログラムなど、同補正制御を実行するための構成を省略することができる。
【0086】
・ダミーパルスの入力に基づき直後に燃料噴射が実行される気筒11を特定することに限らず、同気筒11の次(二回後)に燃料噴射が実行される気筒11を特定したり、三回後に燃料噴射が実行される気筒11を特定したりして、その特定した気筒11についての演算処理を実行するようにしてもよい。
【0087】
・直後に燃料噴射が実行される気筒11以外の気筒11に対応する信号線路(SB[♯1]〜SB[♯4]のいずれか)を介して予め定めた所定のクランク角においてダミーパルスを出力させるとともに、そのダミーパルスの入力に基づき同気筒11を実行対象となる気筒11として特定するようにしてもよい。例えば直前に燃料噴射が実行される気筒11に対応する信号線路(SB[♯1]〜SB[♯4]のいずれか)を介して同気筒11の圧縮行程中期における予め定めた所定のクランク角においてダミーパルスを出力させるとともに、同ダミーパルスの入力に基づき直前に燃料噴射が実行される気筒11を特定することができる。
【0088】
・圧電アクチュエータ29により駆動されるタイプの燃料噴射弁20に代えて、例えばソレノイドコイルなどを備えた電磁アクチュエータによって駆動されるタイプの燃料噴射弁を採用することもできる。
【0089】
・四つの気筒を有する内燃機関に限らず、二つの気筒を有する内燃機関や、三つの気筒を有する内燃機関、あるいは五つ以上の気筒を有する内燃機関にも、本発明は適用することができる。
【0090】
・本発明は、ディーゼル機関に限らず、ガソリン燃料を用いるガソリン機関や天然ガス燃料を用いる天然ガス機関にも適用することができる。
【符号の説明】
【0091】
10…内燃機関、11…気筒、12…吸気通路、13…ピストン、14…クランクシャフト、15…排気通路、20…燃料噴射弁、21…ハウジング、22…ニードル弁、23…噴射孔、24…スプリング、25…ノズル室、26…圧力室、27…導入通路、28…連通路、29…圧電アクチュエータ、29a…弁体、30…排出路、31a…分岐通路、31b…供給通路、32…燃料タンク、33…燃料ポンプ、34…コモンレール、35…リターン通路、40A,40B…電子制御ユニット、41…メインCPU(第1中央処理装置)、42…サブCPU(第2中央処理装置)、51…圧力センサ、52…吸気量センサ、53…クランクセンサ、54…カムセンサ、55…アクセルセンサ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1中央処理装置および第2中央処理装置を有する電子制御ユニットを備えた多気筒内燃機関の制御装置であって、
前記第1中央処理装置は、気筒判別を行う演算処理と燃料噴射量についての制御目標値を算出する演算処理とを実行するとともに、それら演算処理の結果に基づいて燃料噴射弁を開弁駆動するための駆動パルスと予め定められた時期に設定される前記燃料噴射弁を開弁させないパルス幅のダミーパルスとを含む作動信号を前記内燃機関の各気筒に設けられた燃料噴射弁および前記第2中央処理装置に各別に出力し、
前記第2中央処理装置は、前記ダミーパルスの入力に基づき演算処理の実行対象となる気筒を特定し、その特定した気筒についての演算処理を実行する
ことを特徴とする多気筒内燃機関の制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の多気筒内燃機関の制御装置において、
前記内燃機関は、昇圧された状態の燃料を蓄える蓄圧容器を有し、且つ前記各気筒に設けられた燃料噴射弁が前記蓄圧容器に各別に接続され、且つ前記各気筒にそれぞれ、前記燃料噴射弁に燃料を供給する燃料供給通路内における前記蓄圧容器と前記燃料噴射弁の噴射孔との間の部位の圧力を検出する圧力センサが設けられ、
前記第1中央処理装置は、前記ダミーパルスの出力時期を前記駆動パルスより前の時期に設定し、
前記第2中央処理装置は、前記実行対象となる気筒として直後に燃料噴射が実行される気筒を特定するものであり、前記特定した気筒についての演算処理として同気筒に対応する圧力センサによって前記燃料圧力を検出する処理を実行する
ことを特徴とする多気筒内燃機関の制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の多気筒内燃機関の制御装置において、
前記予め定められた時期は、前記実行対象となる気筒の圧縮行程中の時期である
ことを特徴とする多気筒内燃機関の制御装置。
【請求項4】
請求項2または3に記載の多気筒内燃機関の制御装置において、
前記第2中央処理装置は、前記直後に燃料噴射が実行される気筒に対応する圧力センサによって燃料圧力を検出する処理の実行に合わせて、前記直後に燃料噴射が実行される気筒の次に燃料噴射が実行される気筒に対応する圧力センサによって燃料圧力を検出する処理を実行する
ことを特徴とする多気筒内燃機関の制御装置。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか一項に記載の多気筒内燃機関の制御装置において、
前記圧力センサは前記燃料噴射弁に取り付けられてなる
ことを特徴とする多気筒内燃機関の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2012−167617(P2012−167617A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−29959(P2011−29959)
【出願日】平成23年2月15日(2011.2.15)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】