説明

多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物及びレーザーマーキング方法

【課題】 ポリカーボネート樹脂及びアクリル系樹脂を併用することによる優れた耐衝撃性を維持しつつ、真珠光沢外観を発現せず、且つ、黒色又は暗色系の地色の成形品の表面に、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を異なる位置に照射することにより、2以上の異なる色調にマーキングすることができる多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物及びレーザーマーキング方法を提供する。
【解決手段】 本組成物は、ポリカーボネート樹脂及びアクリル系樹脂を含む重合体成分と、リン酸エステル系化合物と、有彩色着色剤と、レーザー光の受光によりそれ自身が消滅する又は変色する黒色物質(カーボンブラック等)とを含有し、上記リン酸エステル系化合物は、芳香族基及びエステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物、並びに/又は、芳香族基を有するリン酸エステル系化合物及びエステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物の組み合わせである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物及びレーザーマーキング方法に関し、更に詳しくは、ポリカーボネート樹脂及びアクリル系樹脂を併用することによる優れた耐衝撃性を維持しつつ、真珠光沢外観を発現せず、且つ、黒色又は暗色系の地色の成形品の表面に、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を照射することにより、2以上の異なる色調にマーキングすることができる多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物及びレーザーマーキング方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂と、ポリメタクリル酸メチル等のアクリル系樹脂とを含有する熱可塑性樹脂組成物を用いると、真珠光沢外観を有する成形品を容易に得ることができることが知られている。また、この成形品は、上記成分を含むことから、耐衝撃性、耐熱性、硬さ等に優れていることも知られている(特許文献1、2等)。
【0003】
一方、樹脂等を含む組成物からなる成形品の表面に、所望の色の文字、記号、図柄等のマーキングを付与する技術として、レーザーマーキング方法が知られている(特許文献3等)。また、近年、マーキングの色を多様化させて広い分野で利用するための熱可塑性重合体組成物及びレーザーマーキング方法が開示されている(特許文献4)。この特許文献4において、有色の着色剤として、レーザー光の影響を受けにくい有機顔料・染料と、熱可塑性重合体として、ポリオレフィン系樹脂、ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、アクリル系樹脂等の樹脂とを含む樹脂組成物が開示されている。
また、黒色又は暗色系の地色に隠蔽された着色剤に由来する有彩色のマーキングを付与するための熱可塑性重合体組成物が開示されている(特許文献5)。
【0004】
【特許文献1】特開平8−48863号公報
【特許文献2】特開平11−60878号公報
【特許文献3】特開平5−92657号公報
【特許文献4】特開平6−297828号公報
【特許文献5】特開平8−127175号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、ポリカーボネート樹脂及びアクリル系樹脂を併用することによる優れた耐衝撃性を維持しつつ、真珠光沢外観を発現せず、且つ、黒色又は暗色系の地色の成形品の表面に、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を照射することにより、2以上の異なる色調にマーキングすることができる多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物及びレーザーマーキング方法を提供することを目的とする。この多色発色レーザーマーキングは、黒色又は暗色系の地色を呈する成形品の表面に形成された、着色剤に由来する有彩色を含む2以上の異なる色調を含み、例えば、着色剤に由来する有彩色及び白色を含む。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下に示される。
1.〔A〕ポリカーボネート樹脂(A1)及びアクリル系樹脂(A2)を含む重合体成分と、〔B〕リン酸エステル系化合物と、〔C〕有彩色着色剤と、〔D〕レーザー光の受光によりそれ自身が消滅する又は変色する黒色物質とを含有し、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を照射することにより、2以上の異なる色調にマーキングされる多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物であって、上記リン酸エステル系化合物〔B〕は、芳香族基及びエステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物(B1)、並びに/又は、芳香族基を有するリン酸エステル系化合物及びエステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物の組み合わせ(B2)であり、上記重合体成分〔A〕に含まれる上記ポリカーボネート樹脂(A1)及び上記アクリル系樹脂(A2)の含有割合は、これらの合計を100質量%とした場合にそれぞれ1〜99質量%及び99〜1質量%であり、上記リン酸エステル系化合物〔B〕の含有量は、上記ポリカーボネート樹脂(A1)及び上記アクリル系樹脂(A2)の合計を100質量部とした場合に0.1〜50質量部であり、上記有彩色着色剤〔C〕の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に0.001〜3質量部であり、且つ、上記黒色物質〔D〕の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に0.01〜2質量部であることを特徴とする多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
2.上記アクリル系樹脂(A2)は、ゴム質重合体(a1)の存在下に、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む単量体(a2)を重合して得られるゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)、及び/又は、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む単量体の(共)重合体(A2−2)を含む請求項1に記載の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
3.上記リン酸エステル系化合物〔B〕に含まれる上記芳香族基は、下記一般式(I)で表される基であり、上記エステル結合含有基は、下記一般式(II)で表される基である上記1又は2に記載の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

〔一般式(I)中、R〜Rは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基又はα,α−ジメチルベンジル基であり、各々、同一であっても異なってもよい。〕
【化2】

〔一般式(II)中、Rは、炭素数2〜5のアルケニル基又は炭素数1〜5のアルキル基であり、Yは、炭素数1〜5のアルキレン基であり、kは、正の整数である。〕
4.上記有彩色着色剤〔C〕は、示差熱分析において、360℃以上590℃以下の範囲に発熱ピークを有する上記1乃至3のいずれかに記載の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
5.上記黒色物質〔D〕は、カーボンブラック、チタンブラック及び黒色酸化鉄から選ばれる少なくとも1種である上記1乃至4のいずれかに記載の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
6.上記重合体成分〔A〕は、更に、ポリエステル系樹脂(E1)、ゴム強化スチレン系樹脂(E2)及びポリオレフィン系樹脂(E3)から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂〔E〕を含み、上記重合体成分〔A〕に含まれるこの熱可塑性樹脂〔E〕の含有量は、上記重合体成分〔A〕の全量に対し、98質量%以下である上記1乃至5のいずれかに記載の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
7.2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を、上記1乃至6のいずれかに記載の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物を含む成形品に照射して、2以上の異なる色調にマーキングすることを特徴とするレーザーマーキング方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物によれば、ポリカーボネート樹脂及びアクリル系樹脂を併用することによる優れた耐衝撃性を維持しつつ、真珠光沢外観を発現せず、且つ、黒色又は暗色系の地色の成形品の表面に、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を照射することにより、2以上の異なる色調にマーキングすることができる。即ち、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を照射した場合に、この有彩色着色剤〔C〕に由来する有彩色(着色剤そのものの色、濃度変化の度合いが小さい色、又は、変色により色調が異なる色)を含む2以上の異なる色調にマーキングをすることができる。
上記リン酸エステル系化合物〔B〕が有する芳香族基及びエステル結合含有基が、各々、所定の官能基である場合には、成形品表面における真珠光沢外観の消失性が高いため、多色発色のマーキングがより鮮明となる。
上記有彩色着色剤〔C〕が所定温度範囲に発熱ピーク温度を有する場合には、鮮明なマーキングを形成することができる。
上記黒色物質〔D〕が、カーボンブラック、チタンブラック及び黒色酸化鉄から選ばれる少なくとも1種である場合には、レーザー光が照射されて形成されるマーキング部にこれらが有色状態で残存することなく、有彩色着色剤〔C〕に由来する色、白色等の鮮明なマーキングを得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
以下、本発明の実施の形態について詳細に説明するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
本発明の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物は、〔A〕ポリカーボネート樹脂(A1)及びアクリル系樹脂(A2)を含む重合体成分と、〔B〕リン酸エステル系化合物と、〔C〕有彩色着色剤と、〔D〕レーザー光の受光によりそれ自身が消滅する又は変色する黒色物質とを含有し、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を照射することにより、2以上の異なる色調にマーキングされる多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物であって、上記リン酸エステル系化合物〔B〕は、芳香族基及びエステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物(B1)、並びに/又は、芳香族基を有するリン酸エステル系化合物及びエステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物の組み合わせ(B2)であり、上記重合体成分〔A〕に含まれる上記ポリカーボネート樹脂(A1)及び上記アクリル系樹脂(A2)の含有割合は、これらの合計を100質量%とした場合にそれぞれ1〜99質量%及び99〜1質量%であり、上記リン酸エステル系化合物〔B〕の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に0.1〜50質量部であり、上記有彩色着色剤〔C〕の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に0.001〜3質量部であり、且つ、上記黒色物質〔D〕の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に0.01〜2質量部であることを特徴とする。
【0009】
1.重合体成分〔A〕
本発明に関わる重合体成分〔A〕は、ポリカーボネート樹脂(A1)及びアクリル系樹脂(A2)を含む。
【0010】
1−1.ポリカーボネート樹脂(A1)
このポリカーボネート樹脂(A1)は、主鎖にカーボネート結合を有するものであれば特に限定されない。
上記ポリカーボネート樹脂(A1)は、芳香族ポリカーボネートでもよいし、脂肪族ポリカーボネートでもよい。また、これらを組み合わせて用いてもよい。本発明においては、併用されるアクリル系樹脂(A2)との相溶性、更には、成形品とした場合の耐衝撃性、耐熱性等の観点から、芳香族ポリカーボネートが好ましい。
【0011】
芳香族ポリカーボネートとしては、芳香族ジヒドロキシ化合物及び炭酸ジエステルを溶融によりエステル交換(エステル交換反応)して得られたもの、ホスゲンを用いた界面重縮合法により得られたもの、ピリジンとホスゲンとの反応生成物を用いたピリジン法により得られたもの等を用いることができる。
【0012】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物としては、分子内にヒドロキシル基を2つ有する化合物であればよく、ヒドロキノン、レゾルシノール等のジヒドロキシベンゼン、4,4’−ビフェノール、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル)プロパン(以下、単に「ビスフェノールA」という。)、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ブタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ペンタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−4−イソプロピルシクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)−1−フェニルエタン、9,9−ビス(p−ヒドロキシフェニル)フルオレン、9,9−ビス(p−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)フルオレン、4,4’−(p−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、4,4’−(m−フェニレンジイソプロピリデン)ジフェノール、ビス(p−ヒドロキシフェニル)オキシド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)ケトン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エーテル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)エステル、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルフィド、ビス(p−ヒドロキシ−3−メチルフェニル)スルフィド、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)スルホン、ビス(p−ヒドロキシフェニル)スルホキシド等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0013】
上記芳香族ジヒドロキシ化合物のうち、2つのベンゼン環の間に炭化水素基を有する化合物が好ましい。尚、この化合物において、炭化水素基は、ハロゲン置換された炭化水素基であってもよい。また、ベンゼン環は、そのベンゼン環に含まれる水素原子がハロゲン原子に置換されたものであってもよい。従って、上記化合物としては、ビスフェノールA、2,2−ビス(3,5−ジブロモ−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(4−ヒドロキシフェニル−3−メチルフェニル)プロパン、2,2−ビス(3−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2−ビス(3、5−ジメチル−4−ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4−ヒドロキシフェニル)メタン、1,1−ビス(p−ヒドロキシフェニル)エタン、2,2−ビス(p−ヒドロキシフェニル)ブタン等が挙げられる。これらのうち、特に、ビスフェノールAが好ましい。
【0014】
芳香族ポリカーボネートをエステル交換反応により得るために用いられる炭酸ジエステルとしては、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジ−t−ブチルカーボネート、ジフェニルカーボネート、ジトリルカーボネート等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0015】
上記ポリカーボネート樹脂(A1)の粘度平均分子量は、好ましくは13,000〜32,000、より好ましくは17,000〜31,000、特に好ましくは18,000〜30,000である。
【0016】
上記重合体成分〔A〕に含まれるポリカーボネート樹脂(A1)は、アクリル系樹脂(A2)との含有割合が所定範囲にある。即ち、このポリカーボネート樹脂(A1)の含有割合は、ポリカーボネート樹脂(A1)とアクリル系樹脂(A2)との合計を100質量%とした場合に1〜99質量%であり、好ましくは3〜97質量%、より好ましくは5〜95質量%である。この範囲であれば、本組成物を用いて得られる成形品の耐衝撃性、耐熱性、成形外観等に特に優れる。
【0017】
1−2.アクリル系樹脂(A2)
このアクリル系樹脂(A2)は、好ましくは、(i)特定のゴム強化アクリル系樹脂、及び、(ii)(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む単量体の(共)重合体を含む樹脂である。これらは、各々、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いてもよい。
【0018】
上記(i)としては、ゴム質重合体(a1)の存在下に、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む単量体(a2)を重合して得られるゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)である。このゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)は、ゴム質重合体(a1)に単量体(a2)がグラフト重合されてなるグラフト化ゴム質重合体のみからなる樹脂であってよいし、このグラフト化ゴム質重合体と、単量体(a2)の(共)重合体との混合物からなる樹脂であってもよい。
【0019】
上記ゴム質重合体(a1)としては、共役ジエン系化合物を用いてなるジエン系ゴム質重合体、共役ジエン系化合物以外の単量体を用いてなる非ジエン系ゴム質重合体が挙げられる。これらは、1種単独であるいは組み合わせて用いることができる。
【0020】
ジエン系ゴム質重合体としては、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・イソプレン共重合体、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体、ブタジエン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、スチレン・ブタジエンブロック共重合体、スチレン・イソプレンブロック共重合体等が挙げられる。これらのうち、ポリブタジエン、スチレン・ブタジエン共重合体等が好ましい。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、非ジエン系ゴム質重合体としては、エチレン・α−オレフィン共重合体、エチレン・α−オレフィン・非共役ジエン共重合体等のエチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体;スチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物、スチレン・ブタジエンブロック共重合体の水素添加物、スチレン・イソプレン共重合体の水素添加物、スチレン・イソプレンブロック共重合体の水素添加物、ブタジエン・アクリロニトリル共重合体の水素添加物、ブタジエン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体の水素添加物、その他のブタジエン系(共)重合体の水素添加物、スチレン・ブタジエンランダム共重合体の水素添加物等のジエン系重合体の水素添加物;シリコーン系ゴム;アクリル系ゴム等が挙げられる。これらのうち、エチレン・α−オレフィン系ゴム質重合体、スチレン・ブタジエン共重合体の水素添加物、スチレン・ブタジエンブロック共重合体の水素添加物、シリコーン系ゴム、アクリル系ゴム等が好ましい。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
上記ゴム質重合体(a1)の形状は、通常、球状であるが、特に限定されず、各種形状であってもよい。また、平均粒子径は、好ましくは0.1〜2μm、より好ましくは0.12〜0.8μmである。この範囲であれば、得られる成形品の耐衝撃性、剛性及び外観性が特に良好となる。
【0022】
次に、ゴム質重合体(a1)の存在下に、重合される単量体(a2)について説明する。この単量体(a2)は、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む。
上記(メタ)アクリル酸エステル化合物としては、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n−プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸sec−ブチル、アクリル酸t−ブチル、アクリル酸n−アミル、アクリル酸n−ヘキシル、アクリル酸n−オクチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n−プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸sec−ブチル、メタクリル酸t−ブチル、メタクリル酸n−アミル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸n−オクチル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸フェニル、メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸エステルが挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記例示した化合物のうち、メタクリル酸メチル、メタクリル酸n−ブチル、アクリル酸n−ブチル等が好ましく、メタクリル酸メチルが特に好ましい。
上記単量体(a2)に含まれる上記(メタ)アクリル酸エステル化合物の含有割合は、通常、10質量%以上であり、好ましくは15質量%以上、更に好ましくは20〜100質量%である。
【0023】
上記単量体(a2)は、上記(メタ)アクリル酸エステル化合物と共重合可能な他の単量体を含んでもよい。他の単量体としては、芳香族ビニル化合物、シアン化ビニル化合物、マレイミド系化合物等が挙げられる。また、ヒドロキシル基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、オキサゾリン基等の官能基を有する(メタ)アクリル酸エステル化合物、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基、アミド基、エポキシ基、オキサゾリン基等の官能基を有する芳香族ビニル化合物を用いることもできる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0024】
上記芳香族ビニル化合物としては、スチレン、α−メチルスチレン、o−メチルスチレン、p−メチルスチレン、エチルスチレン、ビニルトルエン、ビニルキシレン、メチル−α−メチルスチレン、t−ブチルスチレン、ジビニルベンゼン、1,1−ジフェニルスチレン、ビニルナフタレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記例示した化合物のうち、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン等が好ましい。
上記芳香族ビニル化合物を使用する場合は、上記単量体(a2)の全量に対し、好ましくは1〜90質量%、より好ましくは5〜85質量%、更に好ましくは10〜80質量%である。
【0025】
上記シアン化ビニル化合物としては、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、アクリロニトリルが好ましい。
上記シアン化ビニル化合物を使用する場合は、上記単量体(a2)の全量に対し、好ましくは1〜60質量%、より好ましくは2〜55質量%、更に好ましくは5〜55質量%である。
【0026】
上記マレイミド系化合物としては、マレイミド、N−メチルマレイミド、N−ブチルマレイミド、N−フェニルマレイミド、N−(2−メチルフェニル)マレイミド、N−(4−ヒドロキシフェニル)マレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド、α,β−不飽和ジカルボン酸のイミド化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、N−フェニルマレイミド、N−シクロヘキシルマレイミド等が好ましい。尚、マレイミド系化合物を用いずに、マレイミド系化合物からなる単量体単位を重合体に導入する他の方法としては、例えば、無水マレイン酸を共重合し、その後イミド化する方法等が挙げられる。
上記マレイミド系化合物を使用する場合は、上記単量体(a2)の全量に対し、好ましくは1〜60質量%、より好ましくは2〜55質量%、更に好ましくは5〜55質量%である。
【0027】
また、ヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸2−ヒドロキシエチル、アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、メタクリル酸2−ヒドロキシエチル、メタクリル酸2−ヒドロキシプロピル等が挙げられる。アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、メタクリル酸ジメチルアミノエチル等が挙げられる。アミド基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリルアミド、メタクリルアミド等が挙げられる。また、エポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステルとしては、アクリル酸グリシジル、メタクリル酸グリシジル等が挙げられる。
また、アミノ基を有する芳香族ビニル化合物としては、N,N−ジエチル−p−アミノメチルスチレン、N,N−ジエチル−p−アミノエチルスチレン等が挙げられる。
上記例示した他の単量体以外では、アクリル酸、メタクリル酸、ビニルオキサゾリン、ビニルピリジン等のビニル系化合物等を用いることもできる。
上記化合物は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記の各種官能基を有する化合物と、(メタ)アクリル酸エステル化合物とを共重合して得られるゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)を用いた場合には、本組成物に、他の熱可塑性樹脂を含有する際に、その樹脂成分との相溶性を調節することができる。
上記官能基を有する化合物を使用する場合は、上記単量体(a2)の全量に対し、好ましくは0.01〜30質量%、より好ましくは0.1〜20質量%、更に好ましくは0.1〜15質量%である。上記範囲にあれば、使用する化合物が有する好ましい性能の付与を調節することができる。
【0028】
上記ゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)は、ゴム質重合体(a1)の存在下、単量体(a2)を、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等により得ることができる。これらのうち、乳化重合が好ましい。
【0029】
乳化重合の際には、通常、重合開始剤、連鎖移動剤(分子量調節剤)、乳化剤、水等が用いられる。
重合時の上記単量体(a2)の使用方法としては、ゴム質重合体(a1)全量の存在下に、単量体(b2)の全量を一括添加してから重合してもよく、分割又は連続添加しながら重合してもよく、これらを組み合わせた方法で重合してもよい。また、ゴム質重合体(a1)についても、使用量の全量又は一部を重合途中で添加してもよい。
【0030】
上記重合開始剤としては、クメンハイドロパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、パラメンタンハイドロパーオキサイド等で代表される有機ハイドロパーオキサイド類と含糖ピロリン酸処方、スルホキシレート処方等で代表される還元剤との組み合わせによるレドックス系、あるいは過硫酸カリウム等の過硫酸塩、ベンゾイルパーオキサイド(BPO)、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ブチルパーオキシモノカーボネート等の過酸化物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。この重合開始剤の使用量は、単量体(a2)の全量に対し、通常、0.1〜1.5質量%、好ましくは0.2〜0.7質量%である。
重合時の上記重合開始剤は、反応系に一括又は連続的に添加することができる。
【0031】
上記連鎖移動剤としては、n−ヘキシルメルカプタン、オクチルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン、t−ドデシルメルカプタン、n−ヘキサデシルメルカプタン、n−テトラデシルメルカプタン、t−テトラデシルメルカプタン等のメルカプタン類、ターピノーレン、α−メチルスチレンのダイマー等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。この連鎖移動剤の使用量は、単量体(a2)の全量に対し、通常、0.05〜2.0質量%である。
【0032】
上記乳化剤としては、高級アルコールの硫酸エステル、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム等のアルキルベンゼンスルホン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム等の脂肪族スルホン酸塩、高級脂肪族カルボン酸塩、ロジン酸塩等のアニオン性界面活性剤、ポリエチレングリコールのアルキルエステル型、アルキルエーテル型等のノニオン系界面活性剤等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。この乳化剤の使用量は、単量体(a2)の全量に対し、通常、0.3〜5.0質量%である。
【0033】
乳化重合により得られたラテックスは、通常、凝固剤により凝固させ、重合体成分を粉末状とし、その後、これを水洗、乾燥することによって精製される。この凝固剤としては、塩化カルシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウム、塩化ナトリウム等の無機塩、硫酸、塩酸等の無機酸、酢酸、乳酸等の有機酸等が用いられる。
その他、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等による場合は、各々、公知の方法を適用できる。
【0034】
上記ゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)に含まれるグラフト重合体のグラフト率は特に限定されないが、好ましくは10〜200%、更に好ましくは15〜150%、特に好ましくは20〜100%である。この範囲であれば得られる成形品の衝撃強度に優れ、更には、外観も良好である。また、加工性にも優れる。
ここで、グラフト率とは、上記ゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)1グラム中のゴム成分をxグラム、上記ゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)1グラムをアセトン(但し、アクリル系ゴムをゴム質重合体(a1)として用いて得られたゴム強化アクリル系樹脂の場合は、アセトニトリルを用いる。)に溶解させた際の不溶分をyグラムとしたときに、次式により求められる値である。
グラフト率(%)={(y−x)/x}×100
尚、上記グラフト率(%)は、上記ゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)を製造するときの、重合開始剤、連鎖移動剤、乳化剤、溶剤等の種類や量、更には、重合時間、重合温度等を変えることにより、容易に制御することができる。
【0035】
上記ゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)のアセトン可溶分(但し、アクリル系ゴムをゴム質重合体(a1)として用いて得られたゴム強化アクリル系樹脂の場合は、アセトニトリル可溶分とする。)の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.1〜1.2dl/g、より好ましくは0.2〜1.0dl/g、特に好ましくは0.2〜0.8dl/gである。
【0036】
上記ゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)に含まれるグラフト化ゴム質重合体の平均粒子径は、電子顕微鏡により測定することができ、好ましくは0.1〜2μm、より好ましくは0.12〜0.8μmである。この範囲であれば、得られる成形品の耐衝撃性、剛性及び外観性が特に良好となる。
上記ゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0037】
上記アクリル系樹脂(A2)として、上記ゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)を単独で用いる場合、上記ゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)、後述する(メタ)アクリル酸エステル化合物を含有する単量体を重合して得られる(共)重合体(A2−2)とを併用する場合には、上記ゴム質重合体(a1)の含有量は、アクリル系樹脂(A2)全体に対し、好ましくは2〜70質量%、より好ましくは3〜65質量%、更に好ましくは5〜65質量%である。この範囲であれば、得られる成形品の耐衝撃性及び剛性が特に良好となる。
【0038】
また、上記(ii)は、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含有する単量体を重合して得られる(共)重合体(A2−2)である。
上記(共)重合体(A2−2)とするために用いられる単量体としては、上記(A2−1)を形成する際に用いることのできる単量体(a2)として例示したものをそのまま用いることができる。尚、各単量体の使用割合は、上記単量体(a2)と同じであってよいし、異なってもよい。
【0039】
上記(共)重合体(A2−2)は、乳化重合、懸濁重合、溶液重合、塊状重合等公知の方法により得ることができる。
また、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含有する単量体の使用方法としては、この単量体の全量を一括添加してから重合してもよく、分割又は連続添加しながら重合してもよく、これらを組み合わせた方法で重合してもよい。
【0040】
上記(共)重合体(A2−2)のアセトン可溶分の極限粘度(メチルエチルケトン中、30℃で測定)は、好ましくは0.1〜1.2dl/g、より好ましくは0.2〜1.0dl/g、特に好ましくは0.2〜0.8dl/gである。
上記(共)重合体(A2−2)は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0041】
上記重合体成分〔A〕に含まれるアクリル系樹脂(A2)の含有割合は、ポリカーボネート樹脂(A1)とアクリル系樹脂(A2)との合計を100質量%とした場合に1〜99質量%であり、好ましくは3〜97質量%、より好ましくは5〜95質量%である。この範囲であれば、本組成物を用いて得られる成形品の耐衝撃性、耐熱性、成形外観等に特に優れる。
【0042】
上記重合体成分〔A〕は、ポリカーボネート樹脂(A1)及びアクリル系樹脂(A2)からなるものであってよいし、ポリカーボネート樹脂(A1)と、アクリル系樹脂(A2)と、更に他の重合体とからなるものであってもよい。
【0043】
他の重合体としては、熱可塑性、熱硬化性、光硬化性(可視光、紫外線、電子線等)、室温硬化性等の性質は限定されないが、熱可塑性重合体が好ましい。尚、上記「硬化性」の重合体は、硬化後に重合体となるオリゴマー等を含むものとする。また、上記「硬化性」の重合体、他の重合体等は、どの時点で硬化していてもよく、混練時、成形時あるいはレーザー光照射時に硬化してもよい。
この熱可塑性重合体としては、樹脂、アロイ及びエラストマーが挙げられ、これらは、各々、単独で、あるいは、組み合わせて用いることができる。また、これらのうち、熱可塑性樹脂が好ましい。
熱可塑性樹脂としては、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂;スチレン・アクリロニトリル共重合体、スチレン・無水マレイン酸共重合体等のスチレン系樹脂;ゴム強化スチレン系樹脂(ゴム質重合体の存在下、スチレンを含む単量体を重合して得られる共重合樹脂を含む樹脂である。);ポリエチレン、ポリプロピレン、アイオノマー、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、環状オレフィン共重合体、塩素化ポリエチレン等のα−オレフィン単位を含むオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル、エチレン・塩化ビニル重合体、ポリ塩化ビニリデン等の塩化ビニル系樹脂;ポリアミド6、ポリアミド6,6、ポリアミド6,12等のポリアミド系樹脂(PA);ポリアセタール樹脂(POM);ポリアリレート樹脂;ポリフェニレンエーテル;ポリフェニレンサルファイド;ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等のフッ素樹脂;液晶ポリマー;ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド等のイミド系樹脂;ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン等のケトン系樹脂;ポリスルホン、ポリエーテルスルホン等のスルホン系樹脂、更に、ポリ酢酸ビニル、ポリエチレンオキシド、ポリビニルアルコール、ポリビニルエーテル、ポリビニルブチラール、フェノキシ樹脂、感光性樹脂、生分解性プラスチック等が挙げられる。これらのうち、ポリエステル系樹脂、ゴム強化スチレン系樹脂及びポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0044】
熱可塑性のアロイとしては、PA/ゴム強化熱可塑性樹脂(ゴム強化スチレン系樹脂等)、PBT/ゴム強化熱可塑性樹脂(ゴム強化スチレン系樹脂等)等が挙げられる。
また、熱可塑性エラストマーとしては、オレフィン系エラストマー;スチレン・ブタジエン・スチレンブロック共重合体等のスチレン系エラストマー;ポリエステル系エラストマー;ウレタン系エラストマー;塩ビ系エラストマー;ポリアミド系エラストマー;フッ素ゴム系エラストマー等が挙げられる。
【0045】
上記重合体成分〔A〕が、上記の他の重合体を含む場合、その含有割合は、重合体成分〔A〕の全量に対し、好ましくは98質量%以下、より好ましくは1〜98質量%、更に好ましくは、1〜94質量%、特に好ましくは1〜90質量%である。また、目的、用途に応じて、1〜80質量%、更に1〜50質量%、より更に1〜25質量%、特に1〜25質量%等とすることができる。
【0046】
2.リン酸エステル系化合物〔B〕
このリン酸エステル系化合物〔B〕は、芳香族基及びエステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物(B1)、並びに/又は、芳香族基を有するリン酸エステル系化合物及びエステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物の組み合わせ(B2)である。
本発明に関わるリン酸エステル系化合物〔B〕は、リン酸エステル骨格、即ち、−O−P−O−を少なくとも含む化合物であり、リン酸エステル化合物、亜リン酸エステル化合物、ポリリン酸エステル化合物等を広く含むものである。
尚、リン酸エステル系化合物〔B〕が上記(B1)である場合は、芳香族基及びエステル結合含有基が、各々、独立して、上記リン酸エステル骨格内の酸素原子に直接、あるいは、2価の基を介して、結合している化合物である。本発明においては、芳香族基及びエステル結合含有基が、各々、独立して、リン酸エステル骨格内の酸素原子に直接結合していることが好ましい。
また、リン酸エステル系化合物〔B〕が上記(B2)である場合は、芳香族基を有するリン酸エステル系化合物、及び、エステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物は、いずれも、芳香族基及びエステル結合含有基が、各々、上記リン酸エステル骨格内の酸素原子に直接、あるいは、2価の基を介して、結合している化合物である。
【0047】
上記芳香族基は、後述するエステル結合含有基と直接結合していない基である。この芳香族基は、単環式芳香族基(ベンゼン環を含む基)、二環式芳香族基(ナフタレン環を含む基)及び三環式芳香族基(アントラセン環を含む基)のいずれであってもよく、その他の芳香族基であってもよい。これらのうち、単環式芳香族基、即ち、下記一般式(I)で表される基が好ましい。
【化3】

〔式中、R、R、R、R及びRは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、ベンゼン環を含む基又はヘテロ原子を含む基であり、各々、同一であっても異なってもよい。〕
【0048】
上記一般式(I)において、R、R、R、R又はRがアルキル基である場合、このアルキル基は、炭素数が1〜20、好ましくは1〜10である脂肪族アルキル基(直鎖状でも、分岐状でもよい。)、脂環族アルキル基(置換基を有してもよい。)等とすることができる。従って、このアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロへキシル基等が挙げられる。これらのうち、メチル基及びエチル基が好ましい。
【0049】
上記一般式(I)において、R、R、R、R又はRがアルケニル基である場合、これらは、炭素数が2〜20であることが好ましい。
また、R、R、R、R又はRがベンゼン環を含む基である場合、フェニル基、ベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基等が挙げられる。これらのうち、α,α−ジメチルベンジル基が好ましい。また、このベンゼン環を含む基は、ベンゼン環に結合する水素原子がハロゲン原子又は置換基によって置換されたものであってもよい。
更に、R、R、R、R又はRがヘテロ原子を含む基である場合、ヒドロキシル基、アルコキシシリル基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、イミノ基、アミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基等が挙げられる。
【0050】
上記一般式(I)において、R、R、R、R及びRがすべて水素原子である場合には、一般式(I)で表される基は、フェニル基である。
また、R、R、R、R及びRのうちの少なくとも1つが水素原子以外の置換基である場合、R、R、R、R及びRは、各々、アルキル基及びベンゼン環を含む基から選ばれた基であることが好ましい。この場合、アルキル基としては、炭素数が1〜10であるアルキル基がより好ましく、ベンゼン環を含む基としては、α,α−ジメチルベンジル基がより好ましい。更には、炭素数が1〜3であるアルキル基、又は、α,α−ジメチルベンジル基であることが好ましい。
従って、上記一般式(I)において、R、R、R、R及びRは、各々、水素原子、炭素数が1〜3であるアルキル基、又は、α,α−ジメチルベンジル基であることが特に好ましい。
【0051】
上記一般式(I)で表される芳香族基としては、R、R、R、R及びRのうち、任意の2つの置換基を有する基であることが好ましく、この基は、下記一般式(III)で表される。
【化4】

〔式中、R及びRは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、ベンゼン環を含む基又はヘテロ原子を含む基であり、各々、同一であっても異なってもよい。〕
【0052】
上記一般式(III)において、R及びRの種類については、上記R、R、R、R及びRと同様である。また、R及びRの置換位置は特に限定されず、リン酸エステル骨格内の酸素原子に直接結合した際に最隣接している炭素原子を1位とした場合に、2位及び4位、3位及び5位、又は、2位及び6位に位置することが好ましく、2位及び4位に位置することが特に好ましい。
従って、上記芳香族基としては、フェニル基及びジメチルフェニル基が好ましい。
【0053】
次に、上記エステル結合含有基は、エステル結合部位を含む基であれば、特に限定されない。このエステル結合部位は、基の主鎖にあってもよいし、側鎖にあってもよい。上記エステル結合含有基としては、下記一般式(II)で表される基が好ましい。
【化5】

〔式中、Rは、アルケニル基、アルキル基、ベンゼン環を含む基又はヘテロ原子を含む基であり、Yはアルキレン基であり、kは正の整数である。〕
【0054】
上記一般式(II)において、Rがアルケニル基である場合、その炭素数は、好ましくは2〜5、より好ましくは2〜4、特に好ましくは2〜3である。
また、Rがアルキル基である場合、脂肪族アルキル基(直鎖状でも、分岐状でもよい。)が好ましく、その炭素数は、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜4、特に好ましくは2〜3である。
更に、Rがベンゼン環を含む基である場合、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。尚、このベンゼン環を含む基は、ベンゼン環に結合する水素原子がハロゲン原子又は置換基によって置換されたものであってもよい。
【0055】
上記一般式(II)において、アルキレン基Yの炭素数は、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜5、特に好ましくは2〜4である。また、kは、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜3である。
【0056】
上記一般式(II)におけるRは、アルケニル基又はアルキル基であることが好ましく、アルケニル基が特に好ましい。Rがアルケニル基である場合のエステル結合含有基は、下記一般式(IV)で表される。
【化6】

〔式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、Yはアルキレン基であり、lは正の整数である。〕
【0057】
上記一般式(IV)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はプロピル基であるが、これらのうち、水素原子及びメチル基が好ましい。アルキレン基Yの炭素数は、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜5、特に好ましくは2〜4である。
また、上記一般式(IV)において、lは、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜3である。
【0058】
上記リン酸エステル系化合物〔B〕が、芳香族基及びエステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物(B1)である場合には、これらの基を各々1つずつ含む化合物であってもよいし、いずれか一方を2つ含む化合物であってもよい。前者の例としては、芳香族基1つと、エステル結合含有基1つと、リン酸エステル骨格内のリン原子に結合したヒドロキシル基1つと、を含むリン酸エステル系化合物である。後者の例としては、芳香族基1つと、エステル結合含有基2つと、を含むリン酸エステル系化合物である。また、このリン酸エステル系化合物(B1)は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
また、上記リン酸エステル系化合物〔B〕は、芳香族基を有するリン酸エステル系化合物及びエステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物の組み合わせ(B2)であるものとすることもできるが、この場合、前者の、芳香族基を有するリン酸エステル系化合物は、芳香族基を1つ以上含んでもよい。また、後者の、エステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物もエステル結合含有基を1つ以上含んでもよい。
上記リン酸エステル系化合物(B2)を構成する、芳香族基を有するリン酸エステル系化合物、及び、エステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物は、それぞれ、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
更に、芳香族基を有するリン酸エステル系化合物、及び、エステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物の含有割合は、これらの合計を100質量%とした場合、好ましくは20〜80質量%/80〜20質量%、より好ましくは30〜70質量%/70〜30質量%である。
【0060】
本発明においては、上記リン酸エステル系化合物〔B〕として、芳香族基及びエステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物(B1)と、芳香族基を有するリン酸エステル系化合物及びエステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物の組み合わせ(B2)とを、各々、単独で用いてもよいし、組み合わせて用いることもできる。
【0061】
上記リン酸エステル系化合物〔B〕の製造方法は特に限定されないが、上記リン酸エステル系化合物(B1)の製造例を下記に示す。
上記リン酸エステル系化合物(B1)は、例えば、下記一般式(V)で表されるフェノール類(b1)と、下記一般式(VI)で表される、ヒドロキシル基を有するカルボン酸エステル類(b2)と、五酸化二リン(b3)とを反応させることにより得ることができる。
【0062】
【化7】

〔式中、R、R、R、R及びRは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、ベンゼン環を含む基又はヘテロ原子を含む基であり、各々、同一であっても異なってもよい。〕
【0063】
【化8】

〔式中、Rは、アルケニル基、アルキル基、ベンゼン環を含む基又はヘテロ原子を含む基であり、Yはアルキレン基であり、mは正の整数である。〕
【0064】
上記一般式(V)で表されるフェノール類(b1)において、R、R、R、R又はRがアルキル基である場合、このアルキル基は、炭素数が1〜20、好ましくは1〜10である脂肪族アルキル基(直鎖状でも、分岐状でもよい。)、脂環族アルキル基(置換基を有してもよい。)等とすることができる。従って、このアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−アミル基、n−ヘキシル基、n−オクチル基、2−エチルヘキシル基、ノニル基、デシル基、シクロプロピル基、シクロへキシル基等が挙げられる。これらのうち、メチル基及びエチル基が好ましい。
【0065】
上記一般式(V)において、R、R、R、R又はRがアルケニル基である場合、これらは、炭素数が2〜20であることが好ましい。
また、R、R、R、R又はRがベンゼン環を含む基である場合、フェニル基、ベンジル基、α,α−ジメチルベンジル基等が挙げられる。これらのうち、α,α−ジメチルベンジル基が好ましい。また、このベンゼン環を含む基は、ベンゼン環に結合する水素原子がハロゲン原子又は置換基によって置換されたものであってもよい。
更に、R、R、R、R又はRがヘテロ原子を含む基である場合、ヒドロキシル基、アルコキシシリル基、エポキシ基、カルボキシル基、カルボニル基、オキシカルボニル基、スルフィド基、ジスルフィド基、スルホニル基、スルフィニル基、チオカルボニル基、イミノ基、アミノ基、ニトリル基、アンモニウム基、イミド基、アミド基、ヒドラゾ基、アゾ基、ジアゾ基等が挙げられる。
【0066】
上記一般式(V)において、R、R、R、R及びRがすべて水素原子である場合には、一般式(V)で表される化合物は、フェノールである。
また、R、R、R、R及びRのうちの少なくとも1つが水素原子以外の置換基である場合、R、R、R、R及びRは、各々、アルキル基及びベンゼン環を含む基から選ばれた基であることが好ましい。この場合、アルキル基としては、炭素数が1〜10であるアルキル基がより好ましく、ベンゼン環を含む基としては、α,α−ジメチルベンジル基がより好ましい。更には、炭素数が1〜3であるアルキル基、又は、α,α−ジメチルベンジル基であることが好ましい。
従って、上記一般式(V)において、R、R、R、R及びRは、各々、水素原子、炭素数が1〜3であるアルキル基、又は、α,α−ジメチルベンジル基であることが特に好ましい。
【0067】
上記一般式(V)で表されるフェノール類(b1)としては、R、R、R、R及びRのうち、任意の2つの置換基を有する化合物であることが好ましく、この化合物は、下記一般式(VII)で表される。
【化9】

〔式中、R及びRは、水素原子、アルキル基、アルケニル基、ベンゼン環を含む基又はヘテロ原子を含む基であり、各々、同一であっても異なってもよい。〕
【0068】
上記一般式(VII)において、R及びRの種類については、上記R、R、R、R及びRと同様である。また、R及びRの置換位置は特に限定されない。リン酸エステル骨格に結合し、且つ、最隣接する炭素原子を1位とした場合に、2位及び4位、3位及び5位、又は、2位及び6位に位置することが好ましく、2位及び4位に位置することが特に好ましい。
【0069】
従って、上記一般式(V)で表されるフェノール類(b1)としては、フェノール、クレゾール(o−クレゾール、m−クレゾール、p−クレゾール)、エチルフェノール(o−エチルフェノール、m−エチルフェノール、p−エチルフェノール)ジメチルフェノール(2,4−ジメチルフェノール、3,5−ジメチルフェノール、2,6−ジメチルフェノール等)、ジエチルフェノール、ベンジルフェノール、4−α−クミルフェノール等が挙げられる。これらのうち、フェノール、2,4−ジメチルフェノール、3,5−ジメチルフェノール及び4−α−クミルフェノールが好ましい。
【0070】
次に、上記一般式(VI)で表される、ヒドロキシル基を有するカルボン酸エステル類(b2)において、Rがアルケニル基である場合、その炭素数は、好ましくは2〜5、より好ましくは2〜4、特に好ましくは2〜3である。
また、Rがアルキル基である場合、脂肪族アルキル基(直鎖状でも、分岐状でもよい。)が好ましく、その炭素数は、好ましくは1〜5、より好ましくは1〜4、特に好ましくは2〜3である。
更に、Rがベンゼン環を含む基である場合、フェニル基、ベンジル基等が挙げられる。尚、このベンゼン環を含む基は、ベンゼン環に結合する水素原子がハロゲン原子又は置換基によって置換されたものであってもよい。
【0071】
上記一般式(VI)において、アルキレン基Yの炭素数は、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜5、特に好ましくは2〜4である。また、mは、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜3である。
【0072】
上記一般式(VI)におけるRは、アルケニル基又はアルキル基であることが好ましく、アルケニル基が特に好ましい。Rがアルケニル基である場合のヒドロキシル基を有するカルボン酸エステル類(b2)は、下記一般式(VIII)で表される。
【化10】

〔式中、Rは、水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、Yはアルキレン基であり、nは正の整数である。〕
【0073】
上記一般式(VIII)において、Rは、水素原子、メチル基、エチル基又はプロピル基であるが、これらのうち、水素原子及びメチル基が好ましい。アルキレン基Yの炭素数は、好ましくは1〜5、より好ましくは2〜5、特に好ましくは2〜4である。
また、上記一般式(VIII)において、nは、好ましくは1〜20、より好ましくは1〜10、特に好ましくは1〜3である。
【0074】
従って、上記一般式(VI)で表される、ヒドロキシル基を有するカルボン酸エステル類(c2)としては、ヒドロキシメチルアクリレート、2−ヒドロキシルエチルアクリレート、3−ヒドロキシプロピルアクリレート、4−ヒドロキシブチルアクリレート、ヒドロキシメチルメタクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、3−ヒドロキシプロピルメタクリレート、4−ヒドロキシブチルメタクリレート、ポリエチレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコールモノアクリレート、ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリプロピレングリコールモノアクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノメタクリレート、ポリエチレングリコール−ポリプロピレングリコールモノアクリレート等が挙げられる。
【0075】
上記「五酸化二リン(b3)」は、通常、Pで表される化合物であるが、P及びP10等を含むものとする。
【0076】
上記のフェノール類(b1)と、ヒドロキシル基を有するカルボン酸エステル類(b2)と、五酸化二リン(b3)とを反応させる方法(反応手順)は特に限定されない。即ち、例えば、2段階反応により得てもよく、1段階反応により得てもよい。2段階反応の場合には、フェノール類(b1)と五酸化二リン(b3)とを反応させて得られた反応生成物と、ヒドロキシル基含有カルボン酸エステル類(b2)とを反応させることにより、リン酸エステル系化合物(B1)を製造してもよいし、ヒドロキシル基含有カルボン酸エステル類(b2)と五酸化二リン(b3)とを反応させて得られた反応生成物と、フェノール類(b1)とを反応させることにより、リン酸エステル系化合物(B1)を製造してもよい。更に、1段階反応の場合には、フェノール類(b1)及びヒドロキシル基含有カルボン酸エステル類(b2)の混合物と五酸化二リン(b3)とを反応させることにより、リン酸エステル系化合物(B1)を製造することができる。
【0077】
五酸化二リン(b3)を用いる際、フェノール類(b1)及びヒドロキシル基含有カルボン酸エステル類(b2)が各々融点を有する場合には、融点の高い化合物の融点以上の温度で用いる(更には、投入する)ことが好ましく、その融点〜120℃がより好ましく、その融点〜100℃が特に好ましい。
また、上記2段階反応を用いる場合であって、フェノール類(b1)又はヒドロキシル基含有カルボン酸エステル類(b2)を投入(滴下等)する際には、1段階目の反応生成物が固化しない温度で行うことが好ましく、固化しない温度〜120℃で行うことがより好ましく、固化しない温度〜100℃で行うことが特に好ましい。
【0078】
フェノール類(b1)、ヒドロキシル基含有カルボン酸エステル類(b2)及び五酸化二リン(b3)の使用量は特に限定されないが、五酸化二リン(b3)の使用量に対するフェノール類(b1)とヒドロキシル基含有カルボン酸エステル類(b2)との合計量は、好ましくは1:1〜1:10、より好ましくは1:2〜1:5である。また、五酸化二リン(b3)(P2O5)1モルに対して、フェノール類(b1)とヒドロキシル基含有カルボン酸エステル類(b2)とに含まれるヒドロキシル基は1〜10モルであることが好ましく、2〜5モルが好ましい。また、この範囲となるように、フェノール類(b1)とヒドロキシル基含有カルボン酸エステル類(b2)とを組み合わせて用いることができる。
【0079】
また、上記リン酸エステル系化合物〔B〕として、上記(B2)とする場合には、上記(B1)の製造方法を利用して、芳香族基を有するリン酸エステル系化合物と、エステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物とを別々に製造した後、所定の割合で混合すればよい。即ち、芳香族基を有するリン酸エステル系化合物は、上記一般式(V)で表されるフェノール類(b1)、及び、五酸化二リン(b3)を反応させることにより得られ、一方、エステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物は、ヒドロキシル基を有するカルボン酸エステル類(b2)、及び、五酸化二リン(b3)を反応させることにより得られる。これらの各反応の際には、目的に応じたモル比が調整される。
【0080】
尚、上記リン酸エステル系化合物(B1)の製造方法によると、反応系に、フェノール類(b1)、ヒドロキシル基含有カルボン酸エステル類(b2)及び五酸化二リン(b3)を含むため、少量ではあるが、上記(B2)として列挙した、芳香族基を有するリン酸エステル系化合物、及び、エステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物が反応生成物中に副生することがある。本発明においては、上記リン酸エステル系化合物(B1)の製造方法により得られた反応生成物を、そのまま組成物の原料として用いることができる。
【0081】
本発明の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物に含有されるリン酸エステル系化合物〔B〕の含有量は、上記ポリカーボネート樹脂(A1)及びアクリル系樹脂(A2)の合計を100質量部とした場合に0.1〜50質量部であり、好ましくは0.1〜20質量部、より好ましくは0.5〜10質量部である。このリン酸エステル系化合物〔B〕の含有量が少なすぎると、成形品とした場合に、真珠光沢外観を発現する。一方、その含有量が多すぎると、耐熱性、硬さ、外観性等が低下することがある。
【0082】
3.有彩色着色剤〔C〕
この有彩色着色剤〔C〕は、黒色及び白色以外であれば、黒色及び白色以外であれば、赤色系、黄色系、青色系、紫色系、緑色系等どんな色の着色剤であってもよい。即ち、顔料でもよいし、染料でもよい。好ましいものは、示差熱分析により、360℃以上590℃以下の範囲に発熱ピークを有するものである。好ましい温度は380℃以上585℃以下であり、より好ましくは400℃以上585℃以下である。発熱ピークを示す温度が低すぎると、低エネルギーのレーザー光を照射した場合に有彩色のマーキングが不良となる傾向にある。一方、温度が高すぎると、高エネルギーのレーザー光を照射した場合に白色又はこの有彩色着色剤に由来する色の濃度が低下した色のマーキングが不良となる傾向にある。尚、示差熱分析による測定条件は実施例に記載の通りである。
【0083】
上記有彩色着色剤〔C〕は、発熱ピークを示す温度が上記好ましい温度範囲にあれば、2種以上の有彩色着色剤を組み合わせて用いることもできる。
発熱ピークを示す温度が上記範囲にある有彩色着色剤としては、フタロシアニン骨格を有する顔料又は染料(青〜緑色)、ジケトピロロピロール骨格を有する顔料又は染料(橙〜赤色)、ジオキサジン骨格を有する顔料又は染料(紫色)、キナクリドン骨格を有する顔料又は染料(橙〜紫色)、キノフタロン骨格を有する顔料又は染料(黄〜赤色)、アンスラキノン骨格を有する顔料又は染料(黄〜青色)、ペリレン骨格を有する顔料又は染料(赤〜紫色)、ペリノン骨格を有する顔料又は染料(橙〜赤色)、金属錯体骨格を有する顔料又は染料(黄〜紫色)、インダンスロン系顔料(青〜緑色)、トリアリルカルボニウム系顔料(青色)、モノアゾ系顔料(黄〜緑色)、ジスアゾ系顔料(黄〜緑色)、イソインドリノン系顔料(黄〜紫色)、チオインジゴ系顔料(赤〜紫色)、アンスラピリドン系染料(黄色)等が挙げられる。尚、括弧内に着色剤の色を記載したが、一例である。
上記のうち、好ましい有彩色着色剤は、フタロシアニン骨格、ジケトピロロピロール骨格、ジオキサジン骨格、キナクリドン骨格、キノフタロン骨格、アンスラキノン骨格、ペリレン骨格、金属錯体骨格等から選ばれる少なくとも1種の骨格を有する着色剤であり、以下に具体的に例示する。
【0084】
上記フタロシアニン骨格を有する有彩色着色剤としては、下記一般式(IX)で表される化合物が挙げられる。
【化11】

〔式中、Mは、配位金属原子又は2つの水素原子であり、R〜R16は、各々、独立して任意の官能基である。〕
上記フタロシアニン骨格を有する有彩色着色剤は、顔料又は染料である。
上記一般式(IX)において、Mは、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、亜鉛(Zn)、スズ(Sn)又は2つの水素原子であることが好ましく、銅(Cu)、アルミニウム(Al)又は亜鉛(Zn)が更に好ましく、銅(Cu)又はアルミニウム(Al)が特に好ましい。尚、Mが金属の場合、ハロゲン原子、OH等の配位子を有してもよい。
また、上記一般式(IX)において、R〜R16は、無置換の水素原子;フッ素、塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;スルホン酸アミド基(−SONHR)、−SO・NH等の置換基(式中、Rは、炭素数1〜20のアルキル基である。)が好ましく、R〜R16のうちの複数の隣接するRが連結して芳香環を形成した基も好ましい。特に好ましくは、無置換の水素原子又はスルホン酸アミド基である。
【0085】
上記フタロシアニン骨格を有する有彩色着色剤として、好ましい具体的な構造を以下の(1)〜(6)に列挙する。このうち、(1)、(3)及び(4)が特に好ましい。
(1)上記一般式(IX)におけるMがCuであり、且つ、R〜R16が無置換の水素原子である銅フタロシアニン顔料。
【化12】

上記銅フタロシアニン顔料の結晶はα型であっても、β型であってもよい。β型銅フタロシアニン顔料の平均二次粒子径は、一般的に、20μmを超え30μm以下であるが、本発明においては、その上限が好ましくは20μm、より好ましくは10μmであり、下限が1μmである。尚、平均二次粒子径は、レーザー散乱法粒径分布測定装置等により確認することができる。
(2)上記一般式(IX)におけるMがCuであり、R〜R16が、各々、独立して無置換の水素原子又はハロゲン原子であるハロゲン含有銅フタロシアニン顔料。尚、ハロゲン原子は、塩素原子、臭素原子が好ましい。
(3)上記一般式(IX)におけるMがCuであり、R〜R16のうちの4〜8個、好ましくは4個が、上記スルホン酸アミド基又は−SO・NH、好ましくはスルホン酸アミドである溶剤可溶型銅フタロシアニン染料。特に好ましい溶剤可溶型銅フタロシアニン染料の構造を、下記一般式(X)に示す。
【化13】

〔式中、各Rは、各々、独立して炭素数1〜20のアルキル基である。〕
上記一般式(X)において、各Rは、各々、独立して炭素数4〜8のアルキル基であることが特に好ましい。
(4)上記一般式(IX)におけるMがAlであり、且つ、R〜R16が無置換の水素原子であるアルミニウムフタロシアニン顔料。Alは、配位子として−OH又は−Clを有しているものが好ましく、−OHを有しているものが更に好ましい。特に好ましいアルミニウムフタロシアニン顔料の構造を、以下に示す。
【化14】

(5)上記一般式(IX)におけるMがSnであり、且つ、R〜R16が、各々、独立して無置換の水素原子又はハロゲン原子であるスズフタロシアニン顔料。
(6)上記一般式(IX)におけるMがZnであり、且つ、R〜R16が、各々、独立して無置換の水素原子又はハロゲン原子である亜鉛フタロシアニン顔料。
この亜鉛フタロシアニン顔料の構造を、下記一般式(XI)に示す。
【化15】

〔式中、R〜R16は、各々、独立して無置換の水素原子又はハロゲン原子である。〕
亜鉛フタロシアニン顔料としては、上記一般式(XI)におけるR〜R16がすべて水素原子である亜鉛フタロシアニン顔料が特に好ましい。
【0086】
上記ジケトピロロピロール骨格を有する有彩色着色剤としては、下記一般式(XII)で表される化合物が挙げられ、この着色剤は、通常、顔料である。
【化16】

〔式中、Ar及びAr’は、各々、独立して置換基を有してもよい芳香族環である。〕
Ar及びAr’を構成する芳香族環は、芳香族性を有すれば、どのような環でもよいが、通常、5又は6員環の、単環又は2〜6縮合環からなる芳香環であり、O、S、N等のヘテロ原子を含んでいてもよい。具体的には、ベンゼン環、ナフタレン環、アンスラセン環、フェナントレン環、フルオレン環、ピリジン環、チオフェン環、ピロール環、フラン環、ベンゾチオフェン環、ベンゾフラン環、ベンゾピロール環、イミダゾール環、キノリン環、イソキノリン環、カルバゾール環、チアゾール環、ジベンゾチオフェン環等が挙げられ、これらのうち、6員環が好ましく、6員環の単環が更に好ましく、ベンゼン環が特に好ましい。
上記芳香族環は置換基を有している方が好ましく、好ましい置換基としては、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、アミノ基、−NHCOR’、−COR’及び−COOR’〔但し、R’は、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数12以下の(ヘテロ)アリール基である。〕が挙げられ、このうち、ハロゲン原子、特に塩素原子が好ましい。
【0087】
上記ジオキサジン骨格を有する有彩色着色剤としては、下記骨格を含む化合物が挙げられ、この着色剤は、通常、顔料である。
【化17】

この骨格を含む着色剤は、置換基を有する化合物であっても、有しない化合物であってもよいが、置換基を有する化合物であることが好ましい。置換基を有する化合物の構造は、例えば、下記一般式(XIII)で表される。
【化18】

〔式中、R17〜R22は、各々、独立して、ハロゲン原子、−NHCOR’(但し、R’は、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数12以下の(ヘテロ)アリール基である。)、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシル基である。〕
上記ジオキサジン骨格を有する有彩色着色剤としては、上記一般式(XIII)において、置換基R17及びR18を有することが特に好ましい。R17及びR18は、ハロゲン原子又は−NHCOR’が好ましく、−NHCOR’が更に好ましい。また、R19〜R22は、ハロゲン原子、−NHCOR’、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基等が好ましく、炭素数1〜12のアルコキシル基又は−NHCOR’が更に好ましい。
【0088】
上記キナクリドン骨格を有する有彩色着色剤としては、下記骨格を含む化合物が挙げられ、この着色剤は、通常、顔料である。
【化19】


この骨格を含む着色剤は、置換基を有する化合物であっても、有しない化合物であってもよいが、置換基を有する化合物の構造は、例えば、下記一般式(XIV)で表される。
【化20】

上記一般式(XIV)において、置換基は、R23〜R26の位置に結合していることが好ましい。好ましい置換基としては、ハロゲン原子又は炭素数1〜12のアルキル基が挙げられる。
【0089】
上記キノフタロン骨格を有する有彩色着色剤としては、下記骨格を含む化合物が挙げられ、この着色剤は、顔料又は染料である。
【化21】

この骨格を含む着色剤は、置換基を有する化合物であっても、有しない化合物であってもよいが、置換基を有する化合物の構造は、例えば、下記一般式(XV)で表される。
【化22】

〔式中、R27〜R30は、各々、独立して無置換の水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基又は環構造を含む基であり、R31は、無置換の水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数5〜12のアリールオキシ基、炭素数1〜12のヘテロアリールオキシ基、炭素数1〜12のアルキルチオ基、炭素数5〜12のアリールチオ基又は炭素数1〜12のヘテロアリールチオ基であり、R32は、無置換の水素原子又はヒドロキシル基であり、R33〜R36は、各々、独立して無置換の水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、−COOR’、−CONR’(但し、R’は、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数12以下の(ヘテロ)アリール基である。)である。尚、R28及びR29、R31及びR32、R33及びR34、R34及びR35、並びに、R35及びR36は、各々、互いに連結して環を形成してもよい。〕
【0090】
上記一般式(XV)において、R27〜R30が環構造を含む基である場合、下記一般式(XVI)で表される置換基が挙げられる。
【化23】

〔式中、X〜Xは、各々、独立して無置換の水素原子又はハロゲン原子である。〕
【0091】
上記一般式(XV)におけるR27が、上記一般式(XVI)で表される置換基である場合の着色剤の構造を、下記に一般式(XVII)として示す。
【化24】

〔式中、R28〜R36は、前記と同様であり、X〜Xは、各々、独立して無置換の水素原子又はハロゲン原子である。〕
上記一般式(XVII)で表される、キノフタロン骨格を有する有彩色着色剤としては、R28〜R30が無置換の水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシル基であり、R31及びR32が無置換の水素原子であり、且つ、R33〜R36がハロゲン原子である化合物が好ましい。
より好ましい着色剤は、R28及びR29が無置換の水素原子又はハロゲン原子であり、R30〜R32が無置換の水素原子であり、R33〜R36がハロゲン原子であり、且つ、X〜Xがハロゲン原子である化合物である。この着色剤は、通常、顔料である。
特に好ましい着色剤は、R28及びR29が無置換の水素原子であり、R30〜R32が無置換の水素原子であり、R33〜R36がハロゲン原子(X〜X12)であり、且つ、X〜Xがハロゲン原子である化合物(下記一般式(XVIII)参照)である。
【化25】

〔式中、X〜X12は、各々、独立してハロゲン原子である。〕
【0092】
尚、上記一般式(XV)において、R27及びR30が無置換の水素原子であり、R28及びR29がハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシル基である化合物(下記一般式(XIX)参照)は、通常、染料である。
【化26】

〔式中、R28及びR29は、各々、独立してハロゲン原子、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数1〜12のアルコキシル基であり、R31は、無置換の水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数5〜12のアリールオキシ基、炭素数1〜12のヘテロアリールオキシ基、炭素数1〜12のアルキルチオ基、炭素数5〜12のアリールチオ基又は炭素数1〜12のヘテロアリールチオ基であり、R32は、無置換の水素原子又はヒドロキシル基であり、R33〜R36は、各々、独立して無置換の水素原子、ハロゲン原子、カルボキシル基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、−COOR’、−CONR’(但し、R’は、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数12以下の(ヘテロ)アリール基である。)である。尚、R28及びR29、R31及びR32、R33及びR34、R34及びR35、並びに、R35及びR36は、各々、互いに連結して環を形成してもよい。〕
【0093】
上記アンスラキノン骨格を有する有彩色着色剤としては、下記骨格を含む化合物が挙げられる。この着色剤は、下記骨格を1つのみ含む化合物であってもよいし、2つ以上を含む化合物であってもよい。
【化27】

この骨格を含む着色剤としては、下記一般式(XX)で表される化合物、上記骨格を複数含む化合物、及び、アミノ基を有する化合物が好ましく、2つのアンスラキノン骨格及び2つのアミノ基を有する化合物が特に好ましい。
【化28】

〔式中、R37〜R44は、各々、独立して無置換の水素原子、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシル基、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数1〜12のアルコキシル基、炭素数5〜12のアリール基、炭素数1〜12のヘテロアリール基、−NHR’、−NR’、−OR’、−SR’、−COOR’又は−NHCOR’(但し、R’は、炭素数1〜12のアルキル基又は炭素数12以下の(ヘテロ)アリール基である。)である。〕
上記一般式(XX)で表される化合物は、通常、黄〜青色の染料である。
【0094】
また、2つのアンスラキノン骨格及び2つのアミノ基を有する化合物としては、下記一般式(XXI)及び構造式(XXII)で表される化合物が挙げられる。これらの化合物は、通常、青色の顔料である。
【化29】

〔式中、R45及びR46は、各々、独立して無置換の水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のアリール基、炭素数1〜12のヘテロアリール基、炭素数2〜13のアルキルカルボニル基、炭素数6〜13のアリールカルボニル基又は炭素数2〜13のヘテロアリールカルボニル基である。〕
【化30】

尚、構造式(XXII)で表される化合物は、芳香族環に結合する水素原子がハロゲン原子等に置換されていてもよい。
【0095】
上記ペリレン骨格を有する有彩色着色剤としては、例えば、下記一般式(XXIII)で表される化合物が挙げられ、この着色剤は、通常、顔料である。
【化31】

〔式中、R47及びR48は、各々、独立して水素原子、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数5〜12のアリール基、炭素数1〜12のヘテロアリール基、−COR’又は−COOR’(但し、R’は、炭素数1〜12のアルキル基、炭素数12以下の(ヘテロ)アリール基である。)である。〕
上記一般式(XXIII)で表される、ペリレン骨格を有する有彩色着色剤としては、R47及びR48が炭素数1〜12のアルキル基である着色剤が好ましく、炭素数1〜3のアルキル基である着色剤が更に好ましい。
【0096】
上記金属錯体骨格を有する有彩色着色剤としては、例えば、有機色素骨格に金属イオンが配位した化合物等が挙げられる。この有機色素骨格としては、アゾ基を有するもの、アゾメチン基を有するもの等があり、アゾ基あるいはアゾメチン基のオルト位又はペリ位にヒドロキシル基、アミノ基、イミノ基等を有してもよい。金属イオンとしては、銅、ニッケル、コバルト、亜鉛等のイオンが挙げられる。
【0097】
上記有彩色着色剤〔C〕の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に0.001〜3質量部であり、好ましくは0.002〜1質量部、より好ましくは0.005〜0.8質量部である。この有彩色着色剤〔C〕の含有量が多すぎると、高エネルギー、例えば、532nm等の短波長のレーザー光の照射による白色マーキングが得られない場合があり、一方、少なすぎると、低エネルギー、例えば、1,064nm等の長波長のレーザー光の照射により上記有彩色着色剤〔C〕に由来する色のマーキングが得られない場合がある。
【0098】
4.黒色物質〔D〕
この黒色物質〔D〕としては、レーザー光の受光により消滅する又は変色するものであれば特に限定されない。即ち、レーザー光のエネルギーによりそれ自身が消滅する、変色する等して、本組成物及びこれを用いて得られた成形品におけるレーザー光の照射部の色が、この黒色物質以外の物質の色の影響の強く現れた色となるものであれば、どのような黒色物質でもよい。
上記黒色物質〔D〕としては、例えば、ポリメタクリル酸メチル100質量部及び黒色物質0.1質量部のみからなる黒色試験片に対し、出力31A、周波数5.5kHz、波長1,064nmのレーザー光を照射した場合に、照射部が白色又は黒色以外の色に変色するものが好ましい。
【0099】
上記黒色物質〔D〕は、無機物質でも有機物質でもよく、顔料でも染料でもよく、更に、本発明の優れた効果を損なわなければ、これらに含まれない化合物や鉱物等を含んでいてもよい。上記黒色物質〔D〕としては、カーボンブラック、チタンブラック、黒色酸化鉄等の無機顔料、黒鉛、活性炭等が挙げられる。これらは、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、これらのうち、カーボンブラック、チタンブラック及び黒色酸化鉄が好ましく、特に、カーボンブラックを主成分とするものが好ましい。
【0100】
カーボンブラックとしては、アセチレンブラック、チャンネルブラック、ファーネスブラック等が挙げられる。上述のカーボンブラックの平均粒径の下限は、好ましくは0.1nm、更に好ましくは1nm、特に好ましくは5nm、最も好ましくは10nmであり、上限は、好ましくは1,000nm、更に好ましくは500nm、特に好ましくは100nm、最も好ましくは80nmである。また、上述のカーボンブラックの窒素吸着比表面積の下限は、好ましくは1m/g、更に好ましくは5m/g、特に好ましくは10m/g、最も好ましくは20m/gであり、上限は、好ましくは10,000m/g、更に好ましくは5,000m/g、特に好ましくは2,000m/g、最も好ましくは1,500m/gである。
チタンブラックは、一般に、二酸化チタンを還元して得られるものである。上述のチタンブラックの平均粒径の下限は、好ましくは0.01μm、更に好ましくは0.05μm、特に好ましくは0.1μmであり、上限は、好ましくは2μm、更に好ましくは1.5μm、特に好ましくは1.0μm、最も好ましくは0.8μmである。
また、黒色酸化鉄は、一般に、Fe又はFeO・Feで表される鉄の酸化物である。上述の黒色酸化鉄の平均粒径の下限は、好ましくは0.01μm、更に好ましくは0.05μm、特に好ましくは0.1μm、最も好ましくは0.3μmであり、上限は、好ましくは2μm、更に好ましくは1.5μm、特に好ましくは1.0μm、最も好ましくは0.8μmである。
【0101】
上記黒色物質〔D〕の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に0.01〜2質量部であり、好ましくは0.03〜1質量部、より好ましくは0.05〜0.8質量部である。この黒色物質〔D〕の含有量が多すぎると、レーザー光の照射により上記有彩色着色剤〔C〕に由来する色が鮮明でなく、黒ずんだ色となる場合があり、一方、少なすぎると、上記有彩色着色剤〔C〕に由来する色、白色、及び、上記有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色のいずれをも得られない場合がある。
【0102】
本発明の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物は、上記重合体成分〔A〕、リン酸エステル系化合物〔B〕、有彩色着色剤〔C〕及び黒色物質〔D〕を所定量ずつ含有するものであるが、この組み合わせによる組成物あるいは成形品の地色は、黒色又は暗色系の色を呈する。本発明においては、これらの色の明度を調節するため、高エネルギーのレーザー光の照射部において白色を発色させた場合の白色度を向上させるため等の目的で、白色物質等の白色系物質を更に含有させることができる。
上記白色系物質としては、二酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0103】
上記白色系物質の平均粒径は特に限定されないが、通常、0.1〜3.0μm、好ましくは0.1〜2.0μm、より好ましくは0.1〜1.0μmである。
【0104】
上記白色系物質の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に、好ましくは0.001〜1質量部であり、より好ましくは0.001〜0.5質量部、更に好ましくは0.001〜0.1質量部である。この白色系物質の含有量が多すぎると、コントラストの良好なマーキングが得られない場合があり、一方、少なすぎると、成形品の地色の自由度が制限される場合がある。
【0105】
本発明の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物は、目的、用途に応じて、紫外線吸収剤、酸化防止剤、老化防止剤、帯電防止剤、難燃剤、耐候剤、可塑剤、充填材、滑剤、抗菌剤、親水性付与剤、加飾剤、淡色系着色剤等の添加剤を含有してもよい。
【0106】
紫外線吸収剤としては、ベンゾフェノン類、ベンゾトリアゾール類、サリチル酸エステル類、金属錯塩類等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記紫外線吸収剤の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に、好ましくは0.05〜5質量部である。
【0107】
老化防止剤としては、ナフチルアミン系、ジフェニルアミン系、p−フェニレンジアミン系、キノリン系、ヒドロキノン誘導体、モノフェノール系、ビスフェノール系、トリスフェノール系、ポリフェノール系、チオビスフェノール系、ヒンダードフェノール系、亜リン酸エステル系化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記老化防止剤の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に、好ましくは0.1〜5質量部である。
【0108】
酸化防止剤としては、ヒンダードアミン類、ハイドロキノン類、ヒンダードフェノール類、硫黄含有化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記酸化防止剤の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に、好ましくは0.1〜5質量部である。
【0109】
帯電防止剤としては、低分子型帯電防止剤及び高分子型帯電防止剤が挙げられる。また、これらは、イオン伝導型でもよいし、電子伝導型でもよい。
低分子型帯電防止剤としては、アニオン系帯電防止剤;カチオン系帯電防止剤;非イオン系帯電防止剤;両性系帯電防止剤;錯化合物;アルコキシシラン、アルコキシチタン、アルコキシジルコニウム等の金属アルコキシド及びその誘導体;コーテッドシリカ、リン酸塩、リン酸エステル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
また、高分子型帯電防止剤としては、分子内にスルホン酸金属塩を有するビニル共重合体、アルキルスルホン酸金属塩、アルキルベンゼンスルホン酸金属塩、ベタイン等が挙げられる。更に、ポリアミドエラストマー、ポリエステルエラストマー等を用いることもできる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記帯電防止剤の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に、好ましくは0.5〜10質量部である。
【0110】
難燃剤としては、有機系難燃剤、無機系難燃剤、反応系難燃剤等を用いることができる。
上記有機系難燃剤としては、ブロム化ビスフェノール系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系フェノキシ樹脂、ブロム化ビスフェノール系ポリカーボネート樹脂、ブロム化ポリスチレン樹脂、ブロム化架橋ポリスチレン樹脂、ブロム化ビスフェノールシアヌレート樹脂、ブロム化ポリフェニレンエーテル、デカブロモジフェニルオキサイド、テトラブロモビスフェノールA及びそのオリゴマー、ブロム化アルキルトリアジン化合物等のハロゲン系難燃剤;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート、トリプロピルホスフェート、トリブチルホスフェート、トリペンチルホスフェート、トキヘキシルホスフェート、トリシクロヘキシルホスフェート、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェート、クレジルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、ジメチルエチルホスフェート、メチルジブチルホスフェート、エチルジプロピルホスフェート、ヒドロキシフェニルジフェニルホスフェート等のリン酸エステルやこれらを各種置換基で変性した化合物、各種の縮合型のリン酸エステル化合物、リン元素と窒素元素を含むホスファゼン誘導体等のリン系難燃剤;ポリテトラフルオロエチレン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0111】
上記無機系難燃剤としては、水酸化アルミニウム、酸化アンチモン、水酸化マグネシウム、ホウ酸亜鉛、ジルコニウム系、モリブデン系、スズ酸亜鉛、グアニジン塩、シリコーン系、ホスファゼン系化合物等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記反応系難燃剤としては、テトラブロモビスフェノールA、ジブロモフェノールグリシジルエーテル、臭素化芳香族トリアジン、トリブロモフェノール、テトラブロモフタレート、テトラクロロ無水フタル酸、ジブロモネオペンチルグリコール、ポリ(ペンタブロモベンジルポリアクリレート)、クロレンド酸(ヘット酸)、無水クロレンド酸(無水ヘット酸)、臭素化フェノールグリシジルエーテル、ジブロモクレジルグリシジルエーテル等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記難燃剤の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは3〜20質量部である。
【0112】
尚、本組成物に難燃剤を配合する場合には、難燃助剤を併用することが好ましい。この難燃助剤としては、三酸化二アンチモン、四酸化二アンチモン、五酸化二アンチモン、アンチモン酸ナトリウム、酒石酸アンチモン等のアンチモン化合物や、ホウ酸亜鉛、メタホウ酸バリウム、水和アルミナ、酸化ジルコニウム、ポリリン酸アンモニウム、酸化スズ等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0113】
耐候剤としては、有機リン系化合物、有機硫黄系化合物、ヒドロキシル基を含有する有機化合物等が挙げられる。これらは1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記耐候剤の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に、好ましくは0.1〜5質量部である。
【0114】
充填材としては、ガラス繊維、炭素繊維、シリカ繊維、シリカ・アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化硅素繊維、硼素繊維、チタン酸カリウムウィスカ−、ウォラストナイト、更にはステンレス、アルミニウム、チタン、銅、真鍮等の金属の無機系繊維状充填材;有機系繊維状充填材;シリカ、石英粉末、ガラスビ−ズ、ガラス粉、硅酸カルシウム、硅酸アルミニウム、カオリン、クレ−、硅藻土等の硅酸塩、アルミナ等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の炭酸塩、硫酸カルシウム等の硫酸塩、炭化硅素、窒化硅素、窒化硼素等からなる粒子状充填材;タルク、マイカ、ガラスフレ−ク、金属箔等の板状充填材等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。これらの充填材は、補強材として用いることもできる。
上記充填材の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に、好ましくは1〜30質量部、より好ましくは1〜25質量部、更に好ましくは1〜20質量部である。
【0115】
滑剤としては、脂肪酸エステル、炭化水素樹脂、パラフィン、高級脂肪酸,オキシ脂肪酸、脂肪酸アミド、アルキレンビス脂肪酸アミド、脂肪族ケトン、脂肪酸低級アルコールエステル、脂肪酸多価アルコールエステル、脂肪酸ポリグリコールエステル、脂肪族アルコール、多価アルコール、ポリグリコール、ポリグリセロール、金属石鹸、シリコーン、変性シリコーン等が挙げられる。これらは、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
上記滑剤の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に、好ましくは0.1〜5質量部である。
【0116】
抗菌剤としては、無機系抗菌剤、有機系抗菌剤、無機・有機ハイブリッド抗菌剤、天然抗菌剤等が挙げられる。これらは、単独で用いてもよいし、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
無機系抗菌剤としては、銀系ゼオライト、銀・亜鉛系ゼオライト等のゼオライト系抗菌剤;錯体化銀・シリカゲル等のシリカゲル系抗菌剤;ガラス系抗菌剤;リン酸カルシウム系抗菌剤;リン酸ジルコニウム系抗菌剤;銀・ケイ酸アルミン酸マグネシウム等のケイ酸塩系抗菌剤;チタン含有抗菌剤;セラミック系抗菌剤;ウィスカー系抗菌剤等が挙げられる。
また、有機系抗菌剤としては、ホルムアルデヒド放出剤、ハロゲン化芳香族化合物、ロードプロパルギル誘導体、チオシアナト化合物、イソチアゾリノン誘導体、トリハロメチルチオ化合物、第四アンモニウム塩、ビグアニド化合物、アルデヒド類、フェノール類、ベンズイミダゾール誘導体、ピリジンオキシド、カルバニリド、ジフェニルエーテル、カルボン酸、有機金属化合物等が挙げられる。
上記抗菌剤の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に、好ましくは0.01〜10質量部、より好ましくは0.1〜5質量部である。
【0117】
加飾剤としては、成形品とした場合に、その表面に、メタリック調、メタリック光沢等のメタリック模様を形成することができるものを用いることができる。
メタリック調の模様を形成するためには、メタリック顔料を用いることができ、このメタリック顔料は、平均粒径が所定の範囲にあり、且つ、金属様光沢を有する粒子を用いることが好ましい。この粒子の形状は特に限定されず、球形、略球形、角形(立方体、直方体、多面体等)、鱗片状、星形、棒状等が挙げられるが、これらのうち、金属様光沢性に優れる多面体が好ましい。このようなメタリック顔料の好ましい平均粒径は1〜500μmであり、より好ましくは2〜300μmである。この範囲とすることによって、上記模様が鮮明な外観性を備える成形品を容易に得ることができる。尚、上記メタリック顔料が球形以外の場合、上記「平均粒径」は、最大長さを意味するものとする。
【0118】
上記金属様光沢を有する粒子としては、ニッケル、アルミニウム、銀、銅、スズ、クロム、亜鉛、コバルト、鉄、モリブデン、マンガン、タングステン、金、チタン、アンチモン、ケイ素、白金、マグネシウム等の金属からなるもの、上記金属を含む合金からなるもの、更に、金属様光沢のある金属化合物(酸化物、窒化物、硫化物等)からなるもの、炭酸カルシウムガラスの無機化合物等が挙げられる。これらのうち、ニッケル、アルミニウム、銀、銅、スズ、クロム、金、チタン、白金及び亜鉛が好ましい。また、上記金属様光沢を有する粉体としては、雲母等の鉱物からなるものを用いることもできる。
また、金属様光沢のない粒子状材料の表面に、メッキ、蒸着等により上記金属、合金、金属化合物等からなる膜を、あるいはガラス等の膜を形成させてメタリック顔料として用いることもできる。
これらの各粒子は、1種単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
尚、上記各粒子は、光沢面の保護のために、脂肪酸等の有機化合物からなる皮膜を形成させたり、酸化チタン、シリカ等の無機化合物を含む皮膜を形成させたりしてもよい。
上記加飾剤の含有量は、目的、用途等によるが、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に、好ましくは0.1〜10質量部、より好ましくは0.5〜10質量部である。
【0119】
本発明の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物は、例えば、上記各原料成分を、各種押出機、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等に投入し、混練りすること等によって得ることができる。混練方法としては、各成分を一括添加してもよいし、多段添加方式で混練りしてもよい。このようにして得られた組成物は、それ自身を、あるいは、他の重合体と更に混合してから、射出成形、押出成形、中空成形、圧縮成形、フィルム押出、シート押出、真空成形、発泡成形、ブロー成形等によって所定形状を有する成形品とすることができる。成形品の形状は、目的、用途等に応じて様々な形状のものが選択可能であり、レーザー光が照射可能であれば、マーキングされる部分が平面、曲面、角部を有する凹凸面等であってもよい。
本多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物及びこれを用いて得られた成形品は、重合体成分〔A〕をマトリックスとし、リン酸エステル系化合物〔B〕、有彩色着色剤〔C〕、黒色物質〔D〕等が分散している。従って、上記成形品等は、通常、黒色又は暗色系の地色を呈する。
【0120】
本発明のレーザーマーキング方法は、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を、上記の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物を含む成形品に照射して、2以上の異なる色調にマーキングすることを特徴とする。
即ち、本発明の方法は、多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物又はこれを含む成形品に対して、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を照射し、2以上の異なる色調、例えば、上記有彩色着色剤〔C〕に由来する色と、白色又は上記有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色とにマーキングを形成することができる。
具体的には、2の異なるエネルギーを有するレーザー光を照射した場合、低エネルギーのレーザー光の照射により上記有彩色着色剤〔C〕に由来する色にマーキングされ、高エネルギーのレーザー光の照射により白色又は上記有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色のマーキングを得ることができる。
【0121】
一般的に、レーザー光の「エネルギー」は、レーザー光の照射条件に依存する。具体的には、照射するレーザー光の種類、波長、パルス幅、周波数、出力の他、照射時間、照射面積、光源から成形品までの距離と角度、照射方法等を変えることにより、2以上のレーザー光を照射する際の「異なるエネルギーを有する」レーザー光とすることができる。具体的には、波長の異なるレーザー光を用いる場合のみならず、同一波長のレーザー光を用い、照射時間等の他の照射条件が異なる場合も、異なるエネルギーとすることができる。また、照射条件を同一として、1回照射の場合、及び、2回以上照射の場合において、被照射物に対するエネルギーは異なり、この場合、照射時間の長い後者の方が「高いエネルギー」となる。
【0122】
また、本発明における「2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光」とは、被照射物に与えるダメージの程度が異なる、2以上のレーザー光のことをいう。上述の照射条件が全て同一のとき、これを1回で照射した場合と複数回に分けて照射した場合とで被照射物に与えるダメージが異なるが、この場合も、本発明に係る「2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光」に含めることとする。即ち、与える総エネルギーが同一でも、1回照射の方が2回照射より、被照射物が受けるダメージが大きい場合は、前者を「高いエネルギー」とする。
【0123】
本発明のレーザーマーキング方法において、成形品に照射するレーザー光は、本発明の多色発色レーザーマーキングの優れた性能を大幅に損なわなければ、どのような照射条件で行ってもよい。照射方法も、スキャン方式及びマスク方式のいずれでもよく、異なるエネルギーを有する2以上のレーザー光を同時に照射してもよいし、1つずつ照射してもよい。また、レーザー光の照射装置としては、一般的なレーザーマーキング用装置等を用いることができる。この装置は、通常、レーザー発振器、レーザー変調器、ハンドリングユニット、コントローラー等を備えており、レーザー発振器から発振したレーザー光を、レーザー変調器によりパルス変調し、成形品の表面に照射することで、マーキングを形成させる。尚、レーザーマーキングに際しては、1台の装置で異なるエネルギーを有する2以上のレーザー光を照射してもよいし、複数の装置を用いてもよい。2波長のレーザーマーキングが可能な装置としては、例えば、ロフィン・バーゼル社製レーザーマーキングシステム「RSM50D型」、「RSM30D型」等を用いることができる。
【0124】
本発明の多色発色レーザーマーキングで使用するレーザー光は、気体、固体、半導体、色素、エキシマー及び自由電子のいずれでもよいが、波長が100〜2,000nmの範囲内にあるものが好ましい。尚、本発明において、例えば、1,064nm、532nmのようにレーザー光の「波長」を示す数字は、いずれも中心波長を意味し、通常、±3%の誤差を含むものとする。
気体レーザーとしては、ヘリウム・ネオンレーザー、希ガスイオンレーザー、ヘリウム・カドミウムレーザー、金属蒸気レーザー、炭酸ガスレーザー等が挙げられる。固体レーザーとしては、ルビーレーザー、ネオジウムレーザー、波長可変固体レーザー等が挙げられる。半導体レーザーは、無機でも有機でもよく、無機の半導体レーザーとしては、GaAs/GaAlAs系、InGaAs系、InP系等が挙げられる。また、Nd:YAG、Nd:YVO、Nd:YLF等の半導体レーザー励起固体レーザーを用いることもできる。上述に例示したレーザー光は、単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0125】
異なるエネルギーを有するレーザー光を得る簡便な方法は、異なる波長のレーザー光を使用することである。例えば、波長だけが異なるレーザー光照射により、本発明に係る多色発色レーザーマーキングを鮮明に行う場合、各レーザー光の波長の差は、好ましくは100nm以上、更に好ましくは200nm以上、特に好ましくは500nm以上である。尚、上限は、通常、1,500nmである。上記有彩色着色剤〔C〕、即ち、360℃以上590℃以下の温度範囲に示差熱分析による発熱ピークを有する有彩色着色剤を用いる場合、波長のみが異なる2つのレーザー光照射によって、有彩色着色剤〔C〕に由来する色のマーキングと、白色、あるいは、有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色のマーキングとを鮮明に形成するには、波長1,064nmのレーザー光及び波長532nmのレーザー光を用いることが好ましい。即ち、波長1,064nmのレーザー光照射で有彩色着色剤〔C〕に由来する色に、波長532nmのレーザー光照射で白色、あるいは、有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色に、発色した鮮明なマーキングを形成するのに適している。
【0126】
レーザー光照射による発色方法の例を図面により簡単に説明するが、本発明に係る多色発色レーザーマーキング方法は、これに限定されるものではない。
本発明の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物を含む成形品1に対し、2つの異なるエネルギーを有するレーザー光を異なる位置に照射する(図1の〔I〕)。このとき、レーザー光の照射は同時に行ってよいし、別々に行ってもよい。低エネルギーのレーザー光の照射部は、有彩色着色剤〔C〕に由来する色にマーキング(図1の3a)され、一方、高エネルギーのレーザー光の照射部は、白色、あるいは、有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色にマーキング(図1の3b)される(図1の〔II〕)。以上の要領で、2つの異なる色調にマーキングされた成形品(多色マーキング付き成形品)2を得ることができる。
【0127】
本発明のレーザーマーキング方法により得られる「有彩色着色剤に由来する色」は、主に、レーザー光照射により黒色物質が消滅する、変色する等の結果、得られる色をいう。具体的には、黒色物質の消滅、変色等により黒色物質の色の影響が小さくなることにより現れる、(a)本発明の有彩色着色剤そのものの色(以下、単に「本発明の着色剤の色」ともいう。)、(b)本発明の着色剤の色に黒色がかった色(本発明の着色剤の色+黒色物質の色、本発明の着色剤の色+黒色物質が変色した色)、(c)本発明の有彩色着色剤が変色して色調が変化した色、(d)上述の色(c)に黒色がかった色、等が含まれる。
また、本発明のレーザーマーキング方法により得られる「有彩色着色剤に由来する色の濃度が低下した色」は、上記『有彩色着色剤に由来する色』の濃度が低下した色」をいう。この色は、主に、レーザー光照射により有彩色着色剤が変化した結果、得られる色であり、具体的には、有彩色着色剤の分解、飛散等により有彩色着色剤の色の影響が小さくなることにより現れる色の他、上記有彩色着色剤が変色して色調が変化した色等も含まれる。「有彩色着色剤に由来する色の濃度が低下した色」は、白色に近い色であるほど、上述の「有彩色着色剤に由来する色」と区別しやすいため好ましい。
【0128】
また、本発明のレーザーマーキング方法により得られる「白色」は、通常、本発明の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物に含まれる重合体成分〔A〕そのものの色を主として、純白に限らず、他の色が混じった白系の色も含まれる。更に、この色の他、本発明の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物にチタンブラックが黒色物質〔D〕として含まれる場合には、レーザー光の照射により二酸化チタンに変化した後の、この二酸化チタンに由来の色、あるいは、この色と上記重合体成分〔A〕の色との混合色、更には、必要に応じて配合される白色系物質等に由来する色、あるいは、この色と上記重合体成分〔A〕の色との混合色等である。本発明の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物に含まれる重合体成分〔A〕がレーザー光の受光により発泡しやすいものである場合、高エネルギーのレーザー光の照射部における発色は、白色度がより高くなる。
尚、上記「白色」の白色度は、JIS K7105等により評価することができる。この白色度は、色の白さの度合いを意味し、ある一定光量の光を対象物に照射したときの反射率により評価される。反射率は、ハンター白色度計等により測定することができる。ここで、反射率は、照射する光の種類(波長等)によって異なり、ハンター白色度計の場合は、光の3原色である青色光で測定を行う。本発明の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物及びこれを含む成形品において得られた白色マーキングの白色度(%)は、酸化マグネシウムの反射光に対する強度の割合で表すことができる。人間の視覚による白さと白色度計による白色度とは必ずしも一致しないこともあるが、本発明の組成物及びこれを含む成形品において得られた白色マーキングは、白色度が低くても人間の目に白く見えればよい。しかしながら、白色度の目安としては、好ましくは55〜100%、より好ましくは60〜100%、更に好ましくは70〜100%、特に好ましくは80〜100%である。
【0129】
本発明に係る多色発色レーザーマーキングによると、上記成形品にレーザー光を照射したとき、黒色物質〔D〕の変化(消滅、変色等)が生じた部分は黒色物質〔D〕以外の物質の色が強く現れ、有彩色着色剤〔C〕の変化(分解、飛散等)が生じた部分は有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色、あるいは、白色になる。レーザー光のエネルギーが低い場合は、黒色物質〔D〕の気化、揮散、完全分解等による消滅;又は、黒色物質〔D〕の少なくとも一部又は全てがそこに留まり、分解等により元の黒色と異なる色となる変色が起こり、レーザー光照射部は、有彩色着色剤〔C〕に由来する色に発色する。レーザー光のエネルギーが更に高くなると、上記成形品に含まれる有彩色着色剤〔C〕の変化が、黒色物質〔D〕が上記のように変化するエネルギーより高いエネルギーで起こるため、高エネルギーのレーザー光照射部は、白色、あるいは、有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色に発色する。
【0130】
本発明の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物に、波長532nmのレーザー光を照射して得られる白色マーキング部のLab値と、上記有彩色着色剤〔C〕を含有しない組成物に、波長1,064nmのレーザー光を照射して得られる白色マーキング部のLab値と、から算出されるΔE1を、好ましくは3以下、より好ましくは2.5以下、更に好ましくは2〜0とすることができる。このΔE1は、小さい方がより白色度が高い。
また、本発明の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物に、波長532nmのレーザー光を照射して得られる白色系マーキング部のLab値と、本組成物に、波長1,064nmのレーザー光を照射して得られる有彩色のマーキング部のLab値と、から算出されるΔE2を、好ましくは3以上、より好ましくは3.5以上、更に好ましくは4〜50とすることができる。このΔE2は、大きいほど色調差が明瞭である。
尚、ΔE1及びΔE2は、下記方法により求めることができる。
【0131】
ΔE1は、本発明の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物からなる試験片に対し、波長532nmのレーザー光を照射した際に形成された白色マーキング部と、上記着色剤を含まない配合で成形した試験片に対して波長1,064nmのレーザー光を照射した際に形成された白色マーキング部との間で、各Lab値(L;明度、a;赤色度、b;黄色度)を測定し、下記式に従い、算出する。Labの測定装置は、Gretag Macbeth社製、「Color−Eye 7000A」等を用いることができる。
ΔE1=√{(L−L+(a−a+(b−b
上記式において、L、a及びbは、波長532nmのレーザー光を照射した際に形成された白色マーキング部の値であり、L、a及びbは、上記着色剤を含まない配合で成形した試験片に対して波長1,064nmのレーザー光を照射した際に形成された白色マーキング部の値である。
また、ΔE2は、上記試験片に対して波長532nmのレーザー光を照射した際に形成された白色マーキング部、及び、同じ試験片の異なる位置に対して波長1,064nmmのレーザー光を照射した際に形成された有彩色マーキング部の各Lab値を測定し(後者をL、a及びbとする。)、下記式に従い、算出することができる。
ΔE2=√{(L−L+(a−a+(b−b
【0132】
上記成形品において、レーザー光の照射により形成されたマーキング部の少なくとも1箇所が発泡していることが好ましい。これにより、マーキング部の発色をより鮮明なものとすることができる。上記成形品に含有される重合体成分〔A〕に含まれる重合体の種類、含有割合等にもよるが、特に、アクリル系樹脂(A2)として、上記ゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)、及び/又は、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む単量体の(共)重合体(A2−2)を用いた場合には、低エネルギーのレーザー光を受光した場合であっても、有彩色着色剤〔C〕、黒色物質〔D〕等の種類、含有量等にかかわらず、マーキング部は発泡するため、マーキング部の発色がより鮮明なものとなる。
【0133】
また、上記成形品において、レーザー光の照射により形成されたマーキング部が、白色に発色された発泡状態にあることが好ましい。これにより、白色度の高い白色マーキングを形成することができる。
尚、レーザーマーキングにより得られる「白色」は、上記のように、含有される重合体そのものの色であることが多いが、その種類によって、あるいは、発泡した場合には、その程度によって、白色度の高い白色が得られる場合がある。
【0134】
上記成形品が、上記黒色物質〔D〕としてカーボンブラックを含み、この成形品にレーザー光が照射されると、照射部に存在するカーボンブラックがレーザー光を吸収し、気化する現象が知られている。カーボンブラックが消滅すると、照射部における黒色又は暗色の度合いが小さくなる、あるいは、ほぼ無色となる。従って、成形品に有彩色着色剤〔C〕が含まれていると、レーザー光が照射された箇所は、その有彩色着色剤〔C〕に由来する色、あるいは、有彩色着色剤〔C〕の分解、飛散等によって、白色又は有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色にマーキングされる。
レーザー光の波長が異なると、レーザー光のエネルギーも異なることが一般的であるため、より低いエネルギーにおいてカーボンブラックを気化させ、上記有彩色着色剤〔C〕に由来する色のマーキングを、より高いエネルギーにおいて白色又はその有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色のマーキングを形成することができる。
【0135】
ここで、エネルギーが異なる2種のレーザー光を照射する際に、それらのエネルギーをそれぞれE1及びE2とし、E1<E2であり、且つ、E1がカーボンブラックを気化させる程度のエネルギーであるものとする。
異なる2種のエネルギーを有するレーザー光を本組成物を含む成形品の表面に照射すると、エネルギーE1のレーザー光が照射された部分は、レーザー光の熱変換によりカーボンブラックが気化するのみであるため、有彩色着色剤〔C〕に由来する色にマーキングされ、また、エネルギーE2のレーザー光が照射された部分は、カーボンブラックを気化し、更に、その有彩色着色剤〔C〕の一部又は全部を分解、飛散等させることによって、もとの有彩色着色剤〔C〕の色と異なる色、例えば、白色、その有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色、又は、変色してその有彩色着色剤〔C〕と全く異なる色にマーキングされると考えられる。
【0136】
また、上記黒色物質〔D〕としてチタンブラックが含まれる成形品に、レーザー光が照射されると、成形品の照射部に存在するチタンブラックが白色の二酸化チタンに変化し、照射部における黒色の度合いが小さくなる、あるいは無色となる。
更に、上記黒色物質〔D〕として黒色酸化鉄が含まれる成形品に、レーザー光が照射されると、成形品の照射部に存在する黒色酸化鉄が、赤みがかった白色に変色し、照射部における黒色の度合いが小さくなる、あるいは無色となる。
従って、上記黒色物質〔D〕としてチタンブラック、黒色酸化鉄等が含まれる成形品に、更に有色の着色剤が含まれている場合、カーボンブラックを用いた場合と同様のマーキングをすることができる。異なる2種のエネルギーを有するレーザー光を照射した場合も、カーボンブラックの場合と同様であり、異なる色調のレーザーマーキングを形成することができる。
【0137】
このように、異なるエネルギーを有するレーザー光を照射することによって、所望の色のマーキングを形成することができる。尚、レーザー光のエネルギーは、上記のように、通常、波長に依存するが、同じ波長のレーザー光を用い、照射条件(時間、パルス出力、パルス幅等)を変化させて照射する方法等によって、異なるエネルギーを有する又は与えるものとし、異なる色調のマーキングを形成することもできる。
【0138】
尚、上記のように、レーザー光の照射部は、レーザー光のエネルギーによって、発色する色が異なるが、レーザー光のエネルギーが、黒色物質〔D〕を消滅又は変色させる程度のエネルギーから、それより高いエネルギーの間においては、有彩色着色剤〔C〕に由来する発色に濃淡をつけることができる。即ち、上記エネルギー範囲では、レーザー光の侵入深さにより、有彩色着色剤〔C〕の反応(分解等)の進行の程度が変わることにより、濃淡が形成される。
【0139】
上記のように、上記有彩色着色剤〔C〕は、2種以上を組み合わせて用いることができるため、異なる色調の有彩色着色剤〔C〕を複数含有する成形品に、異なる波長のレーザー光をそれぞれ照射し、それぞれ異なる色調のマーキングと、白色又は有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色のマーキングとを形成することもできる。このように、複数の有彩色着色剤〔C〕を用いた場合、例えば、赤色着色剤と青色着色剤とを用いた場合は、照射するレーザー光のエネルギー(E1、E2及びE3を用い、E1<E2<E3とする。)によって、次のような態様を得ることができる。エネルギーE1のレーザー光により、黒色(又は暗色)がなくなって赤色と青色の混合色である紫色のマーキングが形成され、エネルギーE2のレーザー光により一方の有彩色着色剤〔C〕、例えば赤色着色剤のみが分解、飛散等して主として青色着色剤に由来する色にマーキングされる。更に、エネルギーE3のレーザー光により、青色着色剤が分解、飛散等して白色又は上記有彩色着色剤に由来する色の濃度が低下した色にマーキングが形成される。
【0140】
上記有彩色着色剤〔C〕が、360℃以上590℃以下という所定の温度範囲に発熱ピークを有する場合には、カーボンブラック等の黒色物質〔D〕との共存下においてレーザー光が照射されると、上記のような波長(1,064nm、532nm等)を有するレーザー光のパルスエネルギーに依存して、反応(分解等)し、上記のような態様による、異なる色調のマーキングが鮮明に形成される。
【0141】
尚、本発明の組成物を含む成形品1に対し、低エネルギーのレーザー光を照射することにより、広い面積の、有彩色着色剤〔C〕に由来する色のマーキング部を形成し、その後、このマーキング部の中に、更にレーザー光を照射することにより、その照射部を、白色、あるいは、有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色にマーキングすることができる(図2参照)。この方法によると、有彩色着色剤〔C〕に由来する色のマーキング部3aと、白色、あるいは、有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色のマーキング部3bとが隣り合ったレーザーマーキングを現出した多色マーキング付き成形品2aとすることができる。尚、この2回目に照射するレーザー光のエネルギーは、1回目と同じであってよいし、異なってもよく、特に限定されない。
【0142】
レーザー光が成形品に照射されると、その照射部は、重合体成分〔A〕の種類、黒色物質〔D〕の種類等によって、凸部となったり、凹部となったり、あるいはそのままであったりする。特に、重合体成分〔A〕が、レーザー光の受光により発泡する樹脂を含む場合には、凸部となる場合がある。凹部となる場合もある。
また、レーザー光の照射によって、それ自身が消滅する又は変色する黒色物質〔D〕は、レーザー光の熱を吸収した後、瞬時に上記挙動を示すが、例えば、チタンブラック等は、レーザー光の熱により変色した際、蓄熱を伴うことがある。これによって、レーザー光の照射部が上記形状を有することとなる。
【0143】
凸部を形成した場合の、高さは、通常、1〜200μmであり、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜80μmである。また、凹部を形成した場合の、深さは、通常、1〜200μmであり、好ましくは1〜100μmである。各長さは、レーザー光の照射条件を変化させることにより調節することができる。特に、凸部の高さが200μmを超えると、マーキング部の視認性が向上する一方、マーキング部の接触を要する用途(キーボード、点字等)においては、接触回数、接触圧等と共に文字潰れが発生する場合がある。
【0144】
尚、重合体成分〔A〕が熱硬化性重合体を含む態様において、レーザー光が照射され、硬化された際には、その熱硬化性重合体の大きさ(体積)が変化し硬化する場合、及び、大きさの変化率が小さいまま硬化する場合がある。
前者の例としては、レーザー光の照射によって、瞬時に溶解し、もとの大きさから変形する、例えば、大きくなることがある。この場合には、マーキング部の強度がより向上し、特に、マーキング部が凸部である場合には、より耐久性に優れる。このような効果を示す熱硬化性重合体は、粒状であってもよいし、それ以外の形状であってもよい。
【0145】
従って、重合体成分〔A〕として、レーザー光の受光により発泡する樹脂と、熱硬化性重合体とを含む成形品に対してレーザー光を照射した場合であっても、発泡部の周辺部(壁等)に熱硬化性重合体に由来する成分が存在するため、補強材としての効果が発揮されることとなり、マーキング部全体として、特に強度における耐久性がより向上する。また、熱硬化性重合体の種類、含有割合等によっては、発泡により形成された空隙に、熱硬化性重合体に由来する成分が存在することがある。レーザー光の照射条件を調節し、発泡部をより小さくし、その空隙に熱硬化性重合体に由来する成分が入り込むような態様では、特に優れた発色性及び耐衝撃性を得ることができる。
【0146】
上記成形品における、レーザー光未照射部は、重合体成分〔A〕と、リン酸エステル系化合物〔B〕と、有彩色着色剤〔C〕と、黒色物質〔D〕等とから構成されている。
また、レーザー光が照射されてなる多色マーキング付き成形品において、より低エネルギーのレーザー光(例えば、波長1,064nmのレーザー光)の照射部は、黒色物質〔D〕が消滅(気化等)又は変色(白色化等)しており、有彩色着色剤〔C〕がそのまま残っている。より高エネルギーのレーザー光(例えば、波長532nmのレーザー光)の照射部は、白色又はその有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色を呈しており、この部分において、黒色物質〔D〕は消滅(気化等)又は変色(白色化等)しており、その有彩色着色剤〔C〕は一部残存しているかもしれないが、ほとんど存在していない。上記有彩色着色剤〔C〕は、レーザー光により分解、飛散等したためである。多色マーキング付き成形品において、多色マーキングは、上記のように、成形品表面の異なる位置にレーザー光を照射して発色した部分、及び、有彩色着色剤〔C〕に由来する色と、白色、あるいは、有彩色着色剤〔C〕に由来する色の濃度が低下した色とが隣り合って発色した部分とを有してもよい。
尚、上記成形品は、アクリル系樹脂(A2)を含むため、レーザー光照射部は発泡しやすい。従って、レーザー光照射部が発泡部となると、レーザー光照射時の有彩色着色剤〔C〕の挙動によっては、レーザー光照射部(発泡部)とその周辺の未照射部との屈折率差が大きくなり、マーキングがより鮮明となることがある。特に、より高いエネルギーによって有彩色着色剤〔C〕が分解、飛散等することにより、白色又はその着色剤に由来する色の濃度が低下した色となった場合には、レーザー光照射部(発泡部)とその周辺の未照射部との屈折率差が大きいために、より鮮明なマーキングが形成された多色マーキング付き成形品とすることができる。
【0147】
多色マーキング付き成形品は、マーキング部を有する面に、保護層を備えてもよい。この保護層を構成する材料は、目的、用途に応じて選択すればよく、特に限定されないが、マーキング部の保護や、マーキングの視認性維持等のため、透明性を有する材料であることが好ましい。上述の保護層は、少なくともマーキング部の全面に配設することが好ましく、成形品の表面全体に配設してもよい。
上述の保護層を備えることにより、マーキング部の保護等の目的以外に、成形品の表面の平滑性を向上させることもできる。尚、上述の保護層の形成方法は特に限定されない。
【実施例】
【0148】
以下、本発明について、実施例を挙げて具体的に説明する。尚、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。また、実施例中の「%」及び「部」は、特に断らない限り質量基準である。
【0149】
1.成形部の製造
1−1.組成物〔X〕の原料成分
(1)重合体(A)
(1)ポリカーボネート樹脂(A1)
三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリカーボネート「NOVAREX 7022PJ」(商品名)を用いた。粘度平均分子量は22,000である。
【0150】
(2)アクリル樹脂(A2)
(A2−1)として、下記の製造方法により得られたゴム強化アクリル樹脂を、また、(A2−2)として、三菱レイヨン社製ポリメタクリル酸メチル「アクリペット VH001」(商品名)を用いた。
【0151】
<ゴム強化アクリル樹脂(A2−1)の製造方法>
撹拌機を備えたガラス製フラスコに、イオン交換水100部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1.5部、t−ドデシルメルカプタン0.1部、ポリブタジエンラテックス(重量平均粒子径240nm、ゲル含率85%)30部(固形分換算)、メタクリル酸メチル12.25部、スチレン4部及びアクリロニトリル1.25部を投入し、撹拌しながら昇温した。内温が45℃に達した時点で、エチレンジアミン四酢酸ナトリウム0.1部、硫酸第一鉄0.003部、ホルムアルデヒドナトリウムスルホキシラート二水和物0.2部及びイオン交換水15部からなる活性剤水溶液、並びに、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド0.1部を添加し、1時間反応させた。
その後、イオン交換水50部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム1部、t−ドデシルメルカプタン0.1部、ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキサイド0.2部、メタクリル酸メチル36.75部、スチレン12部及びアクリロニトリル3.75部からなる重合用成分を3時間に渡って連続的に添加し、重合を継続した。全ての重合用成分を添加し、更に1時間撹拌した後、2,2−メチレン−ビス(4−エチル−6−t−ブチルフェノール)0.2部を添加し、重合を停止した。得られた反応生成物のラテックスに塩化カルシウム2部を添加して凝固し、水洗した。その後、重合体を取り出して乾燥することにより、白色粉末状のゴム強化アクリル樹脂(A2−1)を得た。得られた重合転化率は98.5%、グラフト率は40%、アセトン可溶分の極限粘度〔η〕は0.3dl/gであった。
【0152】
(3)熱可塑性樹脂(A3)
他の重合体成分として、下記の2種を用いた。
熱可塑性樹脂(A3−1)として、日本ユニペット社製ポリエチレンテレフタレート「ユニペットRT523C」(商品名)を、また、(A3−2)として、三菱エンジニアリングプラスチックス社製ポリブチレンテレフタレート「NOVADUR 5007」(商品名)を用いた。
【0153】
1−2.リン酸エステル系化合物〔B〕
リービッヒ冷却管、撹拌装置及び温度計をセットした容積300mlの4つ口フラスコに、2,4−ジメチルフェノール122.2g(1.00モル)を入れた。その後、この4つ口フラスコと、五酸化二リン71g(0.50モル)を入れた容積100mlの丸底フラスコとを、連結ジョイントを介して接続した。4つ口フラスコの内温を40℃とした後、五酸化二リンを徐々に添加した。発熱による内温の上昇で65±5℃に達した後、この温度で更に五酸化二リンを添加した。五酸化二リンを全量添加後、内温を90℃まで昇温させて、内温が90±5℃の状態で2時間反応させた。
次に、内温75±5℃まで冷却し、4−ヒドロキシブチルアクリレート72.1g(0.50モル)を滴下し、この温度で2時間反応させ、リン酸エステル系化合物〔B〕を含む褐色液体のリン酸エステル系反応生成物265.4gを得た。酸価は300mgKOH/gであった。得られたリン酸エステル系反応生成物の赤外線吸収スペクトルを図3に示した。このリン酸エステル系反応生成物をリン酸エステル系化合物〔B〕として用いた。
【0154】
1−3.有彩色着色剤〔C〕
以下に示す着色剤を用いた。尚、示差熱分析により測定された発熱ピーク温度を併記した。測定装置は、セイコー電子社製「TG−DTA320型(横型炉)」である。約3mgの試料をアルミニウム製の直径5mm×高さ2.5mmの皿型容器に均一に密に充填し、昇温速度を10℃/分として、空気中、流速200ml/分で測定した。尚、測定装置における温度の較正は、インジウム及びスズを用いて行った。また、重量の較正は、室温下、分銅を用いて行い、更に、シュウ酸カルシウムを用いて行った。発熱ピーク温度は、昇温曲線におけるピークトップにより決定した。
(1)着色剤(a)
下記の構造を有するジオキサジン系顔料(紫色)を用いた。発熱ピーク温度は402℃である。
【化32】

(2)着色剤(b)
下記の構造を有するジケトピロロピロール系顔料(赤色)を用いた。発熱ピーク温度は550℃である。
【化33】

(3)着色剤(c)
下記の構造を有するアルミニウムフタロシアニン顔料(緑色)を用いた。発熱ピーク温度は581℃である。
【化34】

(4)着色剤(d)
下記の構造を有するペリノン系染料(赤色)を用いた。発熱ピーク温度はなかった。
【化35】

(5)着色剤(e)
下記の構造を有するアンスラキノン系染料(青色)を用いた。発熱ピーク温度はなかった。
【化36】

【0155】
1−4.黒色物質〔D〕
三菱化学社製カーボンブラック「三菱カーボン#45」(商品名)を用いた。
【0156】
2.熱可塑性樹脂組成物の調製及び評価(実施例1〜6及び比較例1〜7)
上記原料成分を用い、表1及び表2に記載の配合処方に従って、各熱可塑性樹脂組成物を調製した。即ち、各原料成分をミキサーにより5分間混合した後、50mmφ押出機でシリンダー設定温度180〜220℃で溶融混練押出し、ペレットを得た。得られたペレットを十分に乾燥し、射出成形機(型名「EC−60」、東芝機械社製)により、レーザーマーキング性及び成形外観性評価用の試験片(縦80mm、横55mm、厚さ2.5mm)と、耐衝撃性評価用試験片とを得た。
【0157】
上記各試験片を用い、下記方法によりレーザーマーキング性、耐衝撃性及び成形外観性を評価し、表1及び表2に併記した。
(1)レーザーマーキング性
ロフィン・バーゼル社製ロフィンパワーライン「E/SHG型」及び同社製レーザーマーカー「RSM30D型」を用い、レーザー光の波長をそれぞれ532nm及び1,064nmとして、表3に示す各照射条件に従い、試験片表面の異なる位置にレーザー光をそれぞれ照射し、照射部の色を観察した。
【0158】
(2)耐衝撃性
シャルピー衝撃強度をもって評価した。このシャルピー衝撃強度は、ISO179に準じて測定した。単位は、kJ/mである。尚、表1及び表2において、試験片が折れない場合は、「NB」と記した。
(3)成形外観性
試験片の表面を目視観察し、真珠光沢が認められるか否かを判定した。表1及び表2において、真珠光沢が認められたものには、「真珠調」と、認められなかったものには、「良好」と記した。
【0159】
【表1】

【0160】
【表2】

【0161】
【表3】

【0162】
表2より、比較例1は、有彩色着色剤〔C〕を含有しない組成物を用いた例であり、レーザー光を照射しても、有彩色のマーキングが得られなかった。比較例2は、リン酸エステル系化合物〔B〕を含有しない例であり、試験片の表面に真珠光沢外観が発現し、有彩色及び白色のマーキングが得られなかった。比較例3〜5は、示差熱分析による発熱ピークを有さない着色剤を用いた例であり、レーザー光を照射しても、各着色剤に由来する色しか得られなかった。比較例6は、低エネルギーを与えるための、1,064nmの波長のレーザー光を照射した場合に、発色が確認されず、元の黒色(地色)のままであった。また、比較例7は、発色性は良好であったが、耐衝撃性が十分ではない。一方、実施例1〜6は、いずれも試験片の表面には、真珠光沢外観が全く認められず、レーザー光の照射によるマーキングが鮮明であり、耐衝撃性も十分であった。特に、熱可塑性樹脂(A3−1)及び(A3−2)をそれぞれ用いた実施例5及び6は、耐衝撃性が実施例1〜3に比べて50%以上も向上した。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性重合体組成物は、容易に黒色又は暗色系の地色を呈する成形品とすることができ、この成形品に異なるエネルギーを有するレーザー光を照射することで2以上の異なる色調のマーキングを鮮明に形成させるのに好適である。従って、パソコン、キーボード、プリンタ、ファクシミリ、電話機、携帯電話等のハウジング、冷蔵庫、洗濯機等の家電製品、各種容器、電線等の被覆材、プリント配線板あるいはそれに搭載される電子部品等の精密部品、自動車の内装部品、各種パイプ、建材用フィルム、クレジットカード、ICカード等のカード類、看板、標識等の外装材等の成形品に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【図1】本発明のレーザーマーキング方法を示す説明図である。
【図2】本発明の他のレーザーマーキング方法により得られた多色マーキング付き成形品を示す概略断面図である。
【図3】リン酸エステル系反応生成物の赤外線吸収スペクトルを示す図である。
【符号の説明】
【0165】
1;成形品、2,2a;多色マーキング付き成形品、3a;有彩色マーキング部、3b;白色マーキング部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
〔A〕ポリカーボネート樹脂(A1)及びアクリル系樹脂(A2)を含む重合体成分と、〔B〕リン酸エステル系化合物と、〔C〕有彩色着色剤と、〔D〕レーザー光の受光によりそれ自身が消滅する又は変色する黒色物質とを含有し、2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を照射することにより、2以上の異なる色調にマーキングされる多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物であって、
上記リン酸エステル系化合物〔B〕は、芳香族基及びエステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物(B1)、並びに/又は、芳香族基を有するリン酸エステル系化合物及びエステル結合含有基を有するリン酸エステル系化合物の組み合わせ(B2)であり、
上記重合体成分〔A〕に含まれる上記ポリカーボネート樹脂(A1)及び上記アクリル系樹脂(A2)の含有割合は、これらの合計を100質量%とした場合にそれぞれ1〜99質量%及び99〜1質量%であり、
上記リン酸エステル系化合物〔B〕の含有量は、上記ポリカーボネート樹脂(A1)及び上記アクリル系樹脂(A2)の合計を100質量部とした場合に0.1〜50質量部であり、
上記有彩色着色剤〔C〕の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に0.001〜3質量部であり、且つ、
上記黒色物質〔D〕の含有量は、上記重合体成分〔A〕を100質量部とした場合に0.01〜2質量部であることを特徴とする多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項2】
上記アクリル系樹脂(A2)は、ゴム質重合体(a1)の存在下に、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む単量体(a2)を重合して得られるゴム強化アクリル系樹脂(A2−1)、及び/又は、(メタ)アクリル酸エステル化合物を含む単量体の(共)重合体(A2−2)を含む請求項1に記載の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項3】
上記リン酸エステル系化合物〔B〕に含まれる上記芳香族基は、下記一般式(1)で表される基であり、上記エステル結合含有基は、下記一般式(2)で表される基である請求項1又は2に記載の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
【化1】

〔一般式(1)中、R、R、R、R及びRは、水素原子、炭素数1〜3のアルキル基又はα,α−ジメチルベンジル基であり、各々、同一であっても異なってもよい。〕
【化2】

〔一般式(2)中、Rは、炭素数2〜5のアルケニル基又は炭素数1〜5のアルキル基であり、Yは、炭素数1〜5のアルキレン基であり、kは、正の整数である。〕
【請求項4】
上記有彩色着色剤〔C〕は、示差熱分析において、360℃以上590℃以下の範囲に発熱ピークを有する請求項1乃至3のいずれかに記載の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項5】
上記黒色物質〔D〕は、カーボンブラック、チタンブラック及び黒色酸化鉄から選ばれる少なくとも1種である請求項1乃至4のいずれかに記載の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項6】
上記重合体成分〔A〕は、更に、ポリエステル系樹脂、ゴム強化スチレン系樹脂及びポリオレフィン系樹脂から選ばれる少なくとも1種の熱可塑性樹脂〔E〕を含み、上記重合体成分〔A〕に含まれる該熱可塑性樹脂〔E〕の含有量は、該重合体成分〔A〕の全量に対し、98質量%以下である請求項1乃至5のいずれかに記載の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物。
【請求項7】
2以上の異なるエネルギーを有するレーザー光を、請求項1乃至6のいずれかに記載の多色発色レーザーマーキング用熱可塑性樹脂組成物を含む成形品に照射して、2以上の異なる色調にマーキングすることを特徴とするレーザーマーキング方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−83242(P2006−83242A)
【公開日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−267604(P2004−267604)
【出願日】平成16年9月14日(2004.9.14)
【出願人】(396021575)テクノポリマー株式会社 (278)
【出願人】(591258587)日本カラリング株式会社 (36)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】