説明

多重効用造水装置

【課題】伝熱管内のミスト同伴及び蒸気偏流の発生を無くすことのできる多重効用造水装置を提案する。
【解決手段】多重効用造水装置は、第1効用11の伝熱管群22に対する蒸気入口側に設置されたデミスタ41を備えている。伝熱管群22は、多段に配置されている伝熱管列31よりなる。各段の伝熱管列31は、複数の並列状水平伝熱管32によって構成されている。各伝熱管32の蒸気入口側開口は、蒸気ボックス24に連通させられている。デミスタ41は、ベーン型のものであって、蒸気ボックス24に収容されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、伝熱管群の上部から散布された海水を各伝熱管表面上に液膜として形成し、伝熱管内に導かれた加熱蒸気と熱交換し、海水が蒸発し蒸気を得る多重効用造水装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、多重効用造水装置の最終効用で発生した低圧低温蒸気をエゼクターによって断熱圧縮して高圧高温蒸気に転換して再度加熱蒸気として第1効用に供給する点が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
このような構成において、加熱蒸気はスーパーヒート状態となっているため、エゼクターの下流側に水噴射装置を設けて、大量の水を噴射して飽和蒸気にしている。
【0004】
しかしながら、スーパーヒート状態を飽和蒸気状態にするために大量にスプレー噴霧することにより、第1効用にはミストを同伴した加熱蒸気が伝熱管内に供給されてしまい、伝熱性能の面において悪化することが懸念される。
【0005】
また、加熱蒸気は第1効用の伝熱管群の上部から供給されることが多く、水平に配置された伝熱管に流入する蒸気流量に分布が生じやすい。
【0006】
伝熱管が長ければ、管内圧力損失は大きく、伝熱管に均一に蒸気は流入するが、伝熱管が短い場合には、管内圧力損失は小さくなり、伝熱管に流入する蒸気に偏流が生じてしまう。
【0007】
このような偏流により流入する蒸気流量が少ない伝熱管では、伝熱面積を十分に活用できない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−272668号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
この発明の目的は、上記問題を解決すべく工夫して、伝熱管内のミスト同伴及び蒸気偏流の発生を無くすことのできる多重効用造水装置を提案することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この発明による多重効用造水装置は、第1効用〜最終効用のうち、少なくとも第1効用の伝熱管群に対する蒸気入口側に、デミスタが設置されているものである。
【0011】
この発明による多重効用造水装置では、デミスタによって、蒸気中のミストを除去することができ、伝熱管群に流入する蒸気の偏流を防止することができる。
【0012】
さらに、各効用の伝熱管群は、多段に配置されている伝熱管列よりなり、各段の伝熱管列は、複数の並列状水平伝熱管によって構成されており、各伝熱管の蒸気入口側開口は、蒸気ボックスに連通させられており、デミスタは、蒸気ボックスに収容されていると、蒸気ボックスによって、デミスタの機能が最大限に発揮させられる。
【0013】
また、デミスタが、蒸気ボックス内に多段に配置されているベーンよりなると、各段の伝熱管列に対するデミスタの整流機能を効果的に発揮させることができる。
【0014】
また、蒸気ボックスの頂部に、最終効用で発生した蒸気を供給するための供給管の出口端が接続されていることが好ましい。
【発明の効果】
【0015】
この発明によれば、蒸気ボックスの伝熱管群への入口にデミスタを配置することで、伝熱管内のミスト同伴及び蒸気偏流の発生を無くすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】この発明による多重効用造水装置の構成図である。
【図2】同装置のデミスタのベーンの形状を様々に示す説明図である。
【図3】同装置の動作シミュレーション結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
図1を参照すると、多重効用造水装置の第1効用11および第2効用12のみが示されている。第3効用〜最終効用の図示は、省略されている。
【0018】
第1効用11は、ケーシング21と、ケーシング21内に収容されている伝熱管群22と、ケーシング21内における伝熱管群22の上方に備えられている散水器23と、ケーシング21を挟んでその左右両側に設置されている蒸気ボックス24および生産水ボックス25とを備えている。
【0019】
伝熱管群22は、多段に配置されている伝熱管列31よりなる。各段の伝熱管列31は、左右方向にのびた複数の並列状水平伝熱管32によって構成されている。散水器23には海水管33の出口端が接続されている。各伝熱管32の左端開口が蒸気ボックス24に、その右端開口が生産水ボックス25にそれぞれ連通させられている。
【0020】
第2効用12は、第1効用11と同一構造のものである。第1効用11と対応する第2効用12の構成要素には同一の符号を付して、その説明は省略する。
【0021】
第1効用11のケーシング21頂部および第2効用12の蒸気ボックス24頂部同士は、蒸気管34によって連通させられている。第1効用11の生産水ボックス25底部および第2効用12の蒸気ボックス24底部同士は、凝縮水管35によって連通させられている。第1効用11のケーシング21底部および第2効用12のケーシング21底部同士は、濃縮水管36によって連通させられている。
【0022】
第1効用11の蒸気ボックス24頂部には、最終効用で発生した蒸気を供給するための供給管37の出口端が接続されている。
【0023】
第1効用11の蒸気ボックス24内にはデミスタ41が収容されている。デミスタ41は、ベーン型タイプのものであって、多段に配置されているベーン42よりなる。多段のベーン42は、蒸気ボックス24内において伝熱管列31にそってこれに近接する位置に縦一列に並べられている。蒸気ボックス24内におけるデミスタ41の左方には蒸気通路43を形成するスペースが生じている。
【0024】
各ベーン42は、1枚の折り板44によって構成されている。折り板44の垂直断面は、2つの山を連ねた形状をなしている。
【0025】
折り板44の形状としては、上記形状に代えて、図2(a)に示すように、横断面波形状のものであってもよいし、図2(b)に示すように、水平平板状のものであってもよいし、図2(c)に示すように、右上り傾斜平板状のものであってもよい。
【0026】
伝熱管群22内の偏流状態、温度条件、伝熱管32の径・長さ(管圧損)によって適用するデミスタ41の仕様(折り板44のサイズ・折り板44間の幅など)は適宜設定される。
【0027】
さらに、デミスタ41の形状は折り板44が何枚も重ねられた形状に限定せず、蒸気偏流を無くすように伝熱管群22に向かって整流することができるなら、形状は何でもよい。
【0028】
最終効用で発生した低圧低温蒸気は、供給管37を通過させられる間に、エゼクター(図示略)によって断熱圧縮され高圧高温蒸気に転換され、再度加熱蒸気として第1効用11の蒸気ボックス24に供給される。
【0029】
第1効用11の蒸気ボックス24の頂部から導入した加熱蒸気は、蒸気通路43を下向きに流れかつ分流して、デミスタ41を通過し、伝熱管群22に導入される。加熱蒸気がデミスタ41を通過する間に、加熱蒸気に同伴された微小な水滴(ミスト)が除去される。
【0030】
海水管33を通じて、散水器23に予熱された海水が供給される。海水は、伝熱管群22の上方から散布され、各伝熱管32表面上に液膜を形成する。
【0031】
第1効用11の伝熱管群22に導入された加熱蒸気は、各伝熱管32内を通過させられる。この間に、伝熱管32の熱交換作用により、加熱蒸気が凝縮水(淡水)に生成される。生成された凝縮水は、生産水ボックス25に排出され、生産水ボックス25の底部に貯留される。その底部に貯留された凝縮水は、その水量が所定量を超えた場合、凝縮水管35を通じて、第2効用12の蒸気ボックス24に導かれる。
【0032】
伝熱管32の熱交換作用により、伝熱管32表面上の液膜の一部は、蒸発して蒸気となり、残りは、濃縮水(海水)となる。発生した蒸気は、ケーシング21から、蒸気管34を通じて、第2効用の蒸気ボックス24に導かれる。濃縮水は第1効用11のケーシング21底部に貯留される。その底部に貯留された濃縮水はその水量が所定量を超えた場合、濃縮水管36を通じて、第2効用12のケーシング21底部に導かれる。
【0033】
つぎに、デミスタ41有無の2つのケースについて、シミュレーション解析を行ったので、その結果を説明する。
【0034】
条件
流体:単相非圧縮性粘性流(単相とは蒸気のみである)で約65℃
伝熱管群22での圧力損失:約15Pa程度(伝熱管32は2m程度)
デミスタ41での圧力損失:約30Pa程度
図3に、上記2つのケースを比較した伝熱管群22入口付近の速度分布が示されている。横軸は、伝熱管群22入口の流速であり、縦軸は、蒸気ボックス24内の高さである。
【0035】
デミスタ41を設置することで、デミスタ41を設置しないケースで発生していた蒸気偏流は、ほぼ1/3以下に抑えられ、均一になっていることがわかる。
【0036】
上記の実施例では、第1効用11にのみデミスタ41を設けていたが、全ての効用に対してデミスタ41を設けても良い。
【産業上の利用可能性】
【0037】
この発明による多重効用造水装置は、多数列の伝熱管群の上部から散布された海水を各伝熱管表面上に液膜として形成し、伝熱管内に導かれた加熱蒸気と熱交換し、海水が蒸発し蒸気を得ることを達成するのに適している。
【符号の説明】
【0038】
11 第1効用
22 伝熱管群
24 蒸気ボックス
32 伝熱管
41 デミスタ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1効用〜最終効用のうち、少なくとも第1効用の伝熱管群に対する蒸気入口側に、デミスタが設置されている多重効用造水装置
【請求項2】
各効用の伝熱管群は、多段に配置されている伝熱管列よりなり、各段の伝熱管列は、複数の並列状水平伝熱管によって構成されており、各伝熱管の蒸気入口側開口は、蒸気ボックスに連通させられており、デミスタは、蒸気ボックスに収容されている請求項1に記載の多重効用造水装置。
【請求項3】
デミスタが、蒸気ボックス内に多段に配置されているベーンよりなる請求項2に記載の多重効用造水装置。
【請求項4】
第1効用の蒸気ボックスの頂部に、最終効用で発生した蒸気を供給するための供給管の出口端が接続されている請求項2または3に記載の多重効用造水装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−148210(P2012−148210A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−6642(P2011−6642)
【出願日】平成23年1月17日(2011.1.17)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】