説明

多階調フォトマスクの製造方法、及び半導体トランジスタの製造方法

【課題】 レジストパターンの剥離を抑制し、黒欠陥の発生を抑制する。
【解決手段】 透光性基板上に半透光膜と遮光膜とがこの順に形成され、最上層に第1のレジスト膜が形成されたマスクブランクを準備する工程と、第1のレジストパターンをマスクとして遮光膜をエッチングして遮光膜パターンを形成すると共に、第1のレジストパターン又は遮光膜パターンをマスクとして半透光膜をエッチングして透光部を形成する工程と、第1のレジストパターンを除去して得られた基板の全面を覆う第2のレジスト膜を形成する工程と、第2のレジストパターンをマスクとして遮光膜パターンをエッチングして半透光部及び遮光部を形成する工程と、を有し、第2のレジスト膜を形成する工程は、第2のレジスト膜の形成に先立ち、透光部を形成することで露出した透光性基板の表面にSi含有有機化合物による表面処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶表示装置などのフラットパネルディスプレイ(Flat Panel Display:以下FPDと呼ぶ)等の製造に用いられる多階調フォトマスクの製造方法、及び半導体トランジスタの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、FPDの製造に必要なフォトマスクの枚数を削減するため、透光部、遮光部及び半透光部を含むパターンを備えた多階調のフォトマスクが用いられるようになってきた。このようなフォトマスクとしては、半透光部が微細な遮光パターンで構成されたものが知られている。また、グレートーンマスクよりも設計や製造が容易である等の理由から、半透光部が半透光性の膜で構成されたハーフトーンタイプのものの実用化も進んでいる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−256922号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のハーフトーンタイプの多階調フォトマスクは、例えば以下のように製造される。まず、透光性基板上に半透光膜と遮光膜とが順に形成され、最上層に第1のレジスト膜が形成されたマスクブランクを準備する。そして、第1のレジスト膜にパターンを描画して現像し、遮光部の形成予定領域及び半透光部の形成予定領域をそれぞれ覆う第1のレジストパターンを形成する。そして、この第1のレジストパターンをマスクとして遮光膜及び半透光膜をエッチングして透光部を形成する。或いは、第1のレジストパターンをマスクとして遮光膜をエッチングし、その遮光膜パターンをマスクとして半透光膜をエッチングして透光部を形成してもよい。そして、第1のレジストパターンを除去して得られた基板の全面を覆う第2のレジスト膜を形成する。そして、第2のレジスト膜にパターンを描画して現像し、遮光部の形成予定領域を覆う第2のレジストパターンを形成する。そして、この第2のレジストパターンをマスクとして遮光膜をエッチングして半透光部及び遮光部を形成する。
【0005】
しかしながら、上述の方法では、第1のレジストパターンの描画位置と第2のレジストパターンの描画位置との間に位置ずれが生じることを、完全には防止することは困難であった。描画機やアライメントの精度に限界があるからである。例えば、遮光部の形成予定領域と透光部との境界において、第2のレジストパターンの外縁が遮光部の形成予定領域内側にずれてアライメントされてしまうと、その後のエッチング工程において前記境界における遮光膜が意図せずにエッチングされてしまうことになる。そして、遮光部の寸法や形状が設計値と異なってしまったり、下地の半透光膜が露出して不要な半透光部が形成されてしまったりする。また、例えば、TFT用のパターンにおいては、半透光部をはさんで2つの遮光部が対向する形の転写パターンが用いられることがある。ここで半透光部はチャネル部に対応し、2つの遮光部はそれぞれソースとドレインに対応する。このときに、上記の位置ずれが生じると、ソースやドレインの面積が設計値と異なるものになり、上記対向部分の長さが設計値より小さくなるなど、TFTの性能に影響を及ぼすこととなる。
【0006】
そこで、描画位置に上述のような位置ズレが生じても、得ようとするデバイスに深刻な影響が出ないようにするため、描画するレジストパターンに予め所定のマージン領域を設
けておく方法も考えられる。例えば、遮光部の形成予定領域と透光部との境界において、第2のレジストパターンの寸法を透光部側に予め所定量拡大させるようにマージン領域を設けて描画すれば、前記境界における遮光膜が意図せずにエッチングされてしまうことを回避できる。
【0007】
ところで、第2のレジストパターンを、遮光部の形成予定領域と透光部との境界において透光部側に所定量拡大させるようにマージン領域を設けて描画すると、前記マージン領域を構成するレジスト膜は、透光性基板との接触面をもつことになる。そして、この状態で現像され、次のエッチング工程に進むことになる。なお、FPD製造用のフォトマスクはサイズが大きく、一辺が300mm以上の方形であり、大きいものでは、一辺が1000mmを超える方形である。このため、エッチング工程は、装置上の制約から、ウェットエッチングを用いるのが有利である。ところが、マージン領域を構成するレジスト膜と透光性基板との密着力はあまり高くなく、両者が密着した状態でも、エッチング液に晒されると剥離する場合があることが、発明者らにより見出された。
【0008】
そして、マージン領域を構成するレジスト膜が透光性基板の表面から部分的に剥離すると、エッチングがまだ完了していない遮光膜上に付着し、その部分のエッチングが阻害され、これによりパターン欠陥が発生してしまう場合があることが、発明者らにより見出された。例えば、レジスト膜が部分的に剥離すると、剥離したレジスト膜の一部が遮光膜の表面に再付着してしまい、その後のエッチング工程においてエッチングされるべき遮光膜が残留してしまう欠陥(意図しない遮光部が発生してしまう欠陥であり、黒欠陥とも呼ぶ)を発生してしまう場合がある。
【0009】
更に、発明者らによると、第2のレジストパターンが形成されたあと、マージン領域を構成するレジスト膜と透光性基板の間に間隙が生じると、その部分に浸入したエッチング液により、エッチング挙動に変化が生じ、エッチング速度などに影響が出ることが見出された。
【0010】
本発明は、レジストパターンの剥離を抑制し、黒欠陥の発生を抑制することが可能なフォトマスクの製造方法を提供することを目的とする。更に、エッチング挙動を安定させ、再現性の高い精緻なパターニングを実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の態様は、透光部、遮光部及び半透光部を含む転写パターンを備えた多階調フォトマスクの製造方法であって、透光性基板上に半透光膜と遮光膜とがこの順に形成され、最上層に第1のレジスト膜が形成されたマスクブランクを準備する工程と、前記第1のレジスト膜にパターンを描画して現像し、前記遮光部の形成予定領域及び前記半透光部の形成予定領域をそれぞれ覆う第1のレジストパターンを形成し、該第1のレジストパターンをマスクとして前記遮光膜をエッチングして遮光膜パターンを形成すると共に、前記第1のレジストパターン又は前記遮光膜パターンをマスクとして前記半透光膜をエッチングして前記透光部を形成する第1パターニング工程と、前記第1のレジストパターンを除去して得られた基板の全面を覆う第2のレジスト膜を形成する工程と、前記第2のレジスト膜にパターンを描画して現像し、前記遮光部の形成予定領域を覆う第2のレジストパターンを形成し、該第2のレジストパターンをマスクとして前記遮光膜パターンをエッチングして前記半透光部及び前記遮光部を形成する第2パターニング工程と、を有し、前記第2のレジスト膜を形成する工程では、前記第2のレジスト膜の形成に先立ち、前記透光部が形成されて露出した前記透光性基板の表面にSi含有有機化合物による表面処理を行う多階調フォトマスクの製造方法である。
【0012】
本発明の第2の態様は、前記第2のレジストパターンは、前記遮光部の形成予定領域と
前記透光部との境界において前記透光部側に拡大されたマージン領域を有する第1の態様に記載の多階調フォトマスクの製造方法である。
【0013】
本発明の第3の態様は、前記マージン領域は、前記境界における前記半透光膜の側面と前記遮光膜の側面とを覆うと共に、前記透光部の一部表面を覆う第2の態様に記載の多階調フォトマスクの製造方法である。
【0014】
本発明の第4の態様は、前記第1パターニング工程及び前記第2パターニング工程で行うエッチングはウェットエッチングである第1から第3のいずれかの態様に記載の多階調フォトマスクの製造方法である。
【0015】
本発明の第5の態様は、前記遮光膜はクロム又はその化合物からなり、前記半透光膜はモリブデンシリサイド又はその化合物からなる第1から第4のいずれかの態様に記載の多階調フォトマスクの製造方法である。
【0016】
本発明の第6の態様は、前記Si含有有機化合物はヘキサメチルジシランである多階調フォトマスクの製造方法である。
【0017】
本発明の第7の態様は、第1〜6の態様に記載の多階調フォトマスクに露光光を照射し、前記転写パターンを被転写体に転写する半導体トランジスタの製造方法である。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係るフォトマスクの製造方法によれば、レジストパターンの剥離を抑制し、黒欠陥の発生を抑制することが可能となる。更に、エッチング挙動を安定させ、再現性の高い精緻なパターニングを実現することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】(a)は本発明の一実施形態に係るフォトマスクの部分断面図であり、(b)は該フォトマスクの部分平面図である。
【図2】本発明の一実施形態に係るフォトマスクの製造方法のフローを示す概略図である。
【図3】従来のフォトマスクの製造方法のフローを示す概略図である。
【図4】従来のフォトマスクの製造方法のフローを示す概略図である。
【図5】(a)は本発明の一実施形態に係るフォトマスクの製造方法にて用いられる表面処理装置の概略構成図であり、(b)は図4(a)のX−X断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
<本発明の一実施形態>
以下に、本発明の一実施形態について図面を参照しながら説明する。
【0021】
図1(a)は、本発明の一実施形態に係るフォトマスクの部分断面図であり、(b)は該フォトマスクの部分平面図である。図2は、本発明の一実施形態に係るフォトマスクの製造方法のフローを示す概略図である。図5(a)は本発明の一実施形態に係るフォトマスクの製造方法にて用いられる表面処理装置の概略構成図であり、図5(b)は図5(a)のX−X断面図である。
【0022】
(1)フォトマスクの構成
以下に、本実施形態に係るフォトマスク100の構成について、図1(a)、図1(b)を参照しながら説明する。
【0023】
本実施形態に係るフォトマスク100は、例えば液晶ディスプレイ等の表示デバイス(FPD)の製造工程等に用いられる露光用マスクとして構成されている。図1に断面拡大図を示すとおり、フォトマスク100は、透光性基板101と、透光性基板101の一部表面上に形成された半透光膜102と、半透光膜102の一部表面上に形成された遮光膜103と、を備えている。
【0024】
透光性基板101の表面には、透光部111、半透光部112及び遮光部113を含む転写パターンが設けられている。透光部111は、透光性基板101の表面が露出してなる。半透光部112は、透光性基板101の表面上に半透光膜102のみが形成されてなる。遮光部113は、透光性基板101の表面上に半透光膜102と遮光膜103とがこの順に(半透光膜102が下層、遮光膜103が上層になるように)積層してなる。透光部111、遮光部113及び半透光部112の平面形状は、表示デバイス用基板上に形成する回路パターン(デバイスパターン)に応じて種々の形状に構成されている。例えばTFTなどを製造する際には、図1(b)のような平面形状に構成されている。
【0025】
透光性基板101は、例えば石英(SiO)ガラスや、SiO,Al,B,RO,RO等を含む低膨張ガラス等からなる平板として構成されている。透光性基板101の主面(表面及び裏面)は、研磨されるなどして平坦且つ平滑に構成されている。透光性基板101は例えば一辺が300mm以上の方形や、例えば一辺が2000〜2400mmの矩形とすることができ、透光性基板101の厚さは例えば3mm〜20mmとすることができる。
【0026】
半透光膜102は、フォトマスク100の使用時に、透光部111(透光性基板101)を透過する光(露光光)の光量に対して、例えば20〜60%の光量の光を透過する半透性の膜として構成されている。半透光膜102は、例えばモリブデン(Mo)及びシリコン(Si)を含むモリブデンシリサイド(MoSi)から構成されている。なお、半透光膜102は、MoSiのみにより構成されている場合に限らず、MoSiを主成分とする窒化物、酸化物、酸化窒化物などにより構成されていても良い。半透光膜102は、クロム用エッチング液に対するエッチング耐性を有し、後述するようにクロム用エッチング液を用いて遮光膜103をエッチングする際のエッチングストッパ層として機能する。半透光膜102の厚さは、得ようとする透過率によって決定することができ、例えば2〜50nmとすることが出来る。
【0027】
遮光膜103は、フォトマスク100の使用時に、露光光に対する遮光性をもつ膜として構成されている。遮光膜103のみで例えば光学濃度3.0程度の遮光性を有していてもよく、または半透光膜102との組み合わせにより上記遮光性が実現されていてもよい。遮光膜103は、例えば主成分をCr(クロム)とすることができる。例えば、遮光膜103を実質的にCrからなる層の表面にCr化合物(CrO、CrC,CrNなど)を積層することで形成すれば、遮光膜103の表面に露光光(描画光)に対する反射抑制機能を持たせることが出来る。なお、本発明に係る遮光膜103は、本実施形態のように一層の反射抑制層を有していてもよく、それ以上の積層された層から構成されていてもよい。係る場合、積層された膜のうち少なくとも最上面の層は、上述の反射抑制膜として構成することが好ましい。遮光膜103の厚さは例えば50nm〜300nmとすることが出来る。
【0028】
(2)フォトマスクの製造方法
続いて、本実施形態に係るフォトマスクの製造方法について、図2,図5を参照しながら説明する。
【0029】
(マスクブランク準備工程)
まず、図2(a)に示すように、透光性基板101上に半透光膜102と遮光膜103とがこの順に形成され、最上層に第1のレジスト膜104が形成されたマスクブランク100bを準備する。なお、第1のレジスト膜104は、ポジ型フォトレジスト材料或いはネガ型フォトレジスト材料により構成することが可能である。以下の説明では、第1のレジスト膜104がポジ型フォトレジスト材料より形成されているものとする。第1のレジスト膜104は、例えばスピン塗布やスリットコータ等の手法を用いて形成することが出来る。
【0030】
(第1パターニング工程)
次に、図2(b)に示すように、レーザー描画機等により第1のレジスト膜104に描画露光を行い、第1のレジスト膜104を感光させる。その後、現像液をスプレー方式等の手法により第1のレジスト膜104に供給して現像し、遮光部113の形成予定領域及び半透光部112の形成予定領域をそれぞれ覆う第1のレジストパターン104pを形成する。
【0031】
次に、図2(c)に示すように、形成した第1のレジストパターン104pをマスクとして遮光膜103をエッチングして、遮光膜パターン103pを形成すると共に、第1のレジストパターン104p又は遮光膜パターン103pをマスクとして半透光膜102をエッチングして透光性基板101の表面を露出させ、透光部111を形成する。なお、遮光膜パターン103pをマスクとして半透光膜102をエッチングする際には、第1のレジストパターン104pを剥離してから行っても良い。遮光膜103のエッチングは、例えば硝酸第2セリウムアンモニウム((NHCe(NO)及び過塩素酸(HClO)を含む純水からなるクロム用エッチング液を、スプレー方式等の手法により遮光膜103に供給することで行うことが可能である。半透光膜102のエッチングは、フッ素(F)系のエッチング液(又はエッチングガス)を半透光膜102に供給することで行うことが可能である。
【0032】
(第2のレジスト膜形成工程)
透光部111の形成が完了したら、第1のレジストパターン104pを剥離する。レジストパターン252pの剥離は、レジストパターン252pに剥離液を接触させて剥離させること等で行うことが可能である。以後、第1のレジストパターン104pを剥離して得られた基板(透光部111においては透光性基板101の表面が露出しており、その他の領域においては半透光膜102と遮光膜103とがこの順に積層されている基板)を、中間基板100cと呼ぶことにする。
【0033】
次に、図2(d)に示すように、少なくとも透光部111が形成されて露出した透光性基板101の表面にSi含有有機物を接触させる表面処理を行う。該有機物は、透光性基板とレジストとの密着性を高めるものであり、公知のシランカップリング剤を用いることができる。Si含有有機物としては、例えば、ヘキサメチルジシラザン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−2−(アミノエチル)−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、オクタデシルトリクロロシラン、オクタデシルトリメトキルシラン、ビニルトリメトキシシラン、アリルトリメトキシシランのいずれかを用いることができる。以下の態様では、ヘキサメチルジシラザン((CHSiNHSi(CH)(通称HMDS)を供給する表面処理を実施する。
【0034】
上記表面処理は、例えば図5に示す表面処理装置500を用いて行うことが出来る。図5に示す表面処理装置500は、密閉容器として構成された処理容器510を備えている。処理容器510内には、上述の中間基板100cが搬入されるように構成されている。処理容器510内には、搬入された中間基板100cを例えば垂直姿勢で保持するホルダ550と、ホルダ550に保持された中間基板100cを加熱するヒータ560と、が設
けられている。処理容器510内の上方には、上述のSi含有有機化合物(ここではヘキサメチルジシラザンを使用)を供給するノズル520が設けられている。ノズル520にはヘキサメチルジシラザンを噴出する複数の開口が設けられている。ノズル520の上流側は、処理容器510外に設けられた気化器530内に接続されている。気化器530内には液状のヘキサメチルジシラザンが貯留されている。ノズル520の上流端は、気化器530内に貯留された液状のヘキサメチルジシラザンの上方の空間に開口している。気化器530には、キャリアガスとしてのNガスを供給するキャリアガス供給管540が接続されている。キャリアガス供給管540の下流端は、気化器530内に貯留された液状のヘキサメチルジシラザン内に浸漬されている。
【0035】
表面処理は例えば以下のように行う。まず、第1のレジストパターン104pを剥離して得られた中間基板100cの表面を例えば純水や酸、アルカリ等を用いて洗浄し、中間基板100cの表面に付着している異物(第1のレジストパターン104pの残骸等)を除去する。そして、洗浄後の中間基板100cを処理容器510内に搬入し、中間基板100cの表面をヒータ560により100〜150℃に加熱する。そして、キャリアガス供給管540から気化器530内にNガスを供給する。その結果、気化器530内に貯留されている液状のヘキサメチルジシラザンがバブリングされて気化され、気化されたヘキサメチルジシラザンとNガスとの混合ガスがノズル520を介して処理容器510内に導入される。処理容器510内に供給された前記混合ガスは、少なくとも透光部111が形成されて露出した透光性基板101の表面に供給され、係る表面を改質する(例えば、係る表面と後述する工程で形成される第2のレジスト膜105との密着性を向上させる)。そして、1時間程度経過したら処理容器510内への混合ガスの導入を停止して、中間基板100cを処理容器510内から搬出し、表面処理を終了する。上記処理は常圧で実施できる。上記加熱から1時間以内、より好ましくは30分以内にヘキサメチルジシランとの接触を行うことが望ましく、また表面処理が終了したのち、1時間以内、より好ましくは30分以内に、次工程のレジスト塗布を行うことが望まれる。
【0036】
次に、図2(e)に示すように、表面処理を実施した後の中間基板100cの全面を覆う第2のレジスト膜105を形成する。第2のレジスト膜105は、ポジ型フォトレジスト材料或いはネガ型フォトレジスト材料により構成することが可能である。なお、以下の説明では、第2のレジスト膜105がポジ型フォトレジスト材料より形成されているものとする。第2のレジスト膜105は、例えばスピン塗布やスリットコータ等の手法を用いて形成することが出来る。
【0037】
(第2パターニング工程)
次に、図2(f)に示すように、レーザー描画機等により第2のレジスト膜105に描画露光を行い、第2のレジスト膜105を感光させる。その後、現像液をスプレー方式等の手法により第2のレジスト膜105に供給して現像し、図2(g)に示すように、遮光部113の形成予定領域及び半透光部112の形成予定領域をそれぞれ覆う第2のレジストパターン105pを形成する。
【0038】
なお、第2のレジスト膜105に描画露光を行う際には、図2(f)に示すように、遮光部113の形成予定領域と透光部111との境界において、第2のレジストパターン105pが透光部111側に所定量拡大するように加工された描画データを用いて描画を行う。例えば、上記境界において、遮光部を設計値より、0.5〜2.0μm程度、より好ましくは、0.5〜1.0μmの範囲で、透光部側に拡大するように描画する。その結果、第2のレジストパターン105pは、図2(g)に示すように、遮光部113の形成予定領域と透光部111との境界において、透光部111側に所定量拡大されたマージン領域105mを有することとなる。マージン領域105mは、前記境界における半透光膜102の側面と遮光膜103の側面とを覆うと共に、透光部111における透光性基板10
1の一部表面を覆う。マージン領域105mの幅は、第2のレジストパターン105pを描画する際に想定される位置ずれの量を基準に適宜設定される。
【0039】
そして、形成した第2のレジストパターン105pをマスクとして、遮光膜103をエッチングする。遮光膜103のエッチングは、上述のクロム用エッチング液をスプレー方式等の手法により遮光膜103上に供給することで行うことが可能である。半透光膜102は、上述したようにクロム用エッチング液に対するエッチング耐性を有するため、エッチングされることなく残留する。その結果、透光性基板101の表面上に半透光膜102のみが形成されてなる半透光部112と、透光性基板101の表面上に半透光膜102と遮光膜103とがこの順に(半透光膜102が下層、遮光膜103が上層になるように)積層してなる遮光部113と、が形成される。
【0040】
なお、上述したように、透光部111が形成されて露出した透光性基板101の表面はヘキサメチルジシラザンとNガスとの混合ガスが供給されることで改質されており、第2のレジスト膜105との密着性が向上している。そのため、上述の現像工程やエッチング工程を実施したとしても、第2のレジストパターン105pが透光性基板101の表面から剥離してしまうことが抑制される。また、エッチング中に、レジストパターン105pと透光性基板101の間に間隙が生じて、エッチング液が浸入することが抑止できる。
【0041】
次に、第2のレジストパターン105pを除去して、本実施形態に係るフォトマスク100の製造方法を終了する。第2のレジストパターン105pは、第2のレジストパターン105pに剥離液を接触させて剥離させること等で除去することが可能である。
【0042】
その後、製造したフォトマスク100を用いて露光を行い、表示デバイス用基板上に形成されたレジスト層にフォトマスク100に形成されたパターン(透光部111、半透光部112、遮光部113を含むパターン)を転写する。具体的には、フォトマスク100を介して、露光光源からの光を被転写体(表示デバイス用基板)上に形成されたレジスト層に照射し、前記レジスト層に上述のパターンを転写する。その後、この転写されたパターンに基づく画素構造を表示デバイス用基板の表面に形成して、表示デバイス用基板の製造を完了する。
【0043】
(3)本実施形態に係る効果
本実施形態によれば、以下に示す1つまたは複数の効果を奏する。
【0044】
(a)本実施形態に係る第2のレジスト膜形成工程によれば、遮光部113の形成予定領域と透光部111との境界において、第2のレジストパターン105pが透光部111側に所定量拡大するように描画を行う。その結果、図2(g)に示すように、第2のレジストパターン105pは、遮光部113の形成予定領域と透光部111との境界において、透光部111側に所定量拡大されたマージン領域105mを有することとなる。マージン領域105mは、前記境界における半透光膜102の側面と遮光膜103の側面とを覆うと共に、透光部111における透光性基板101の表面を覆う。これにより、第1のレジストパターン103pの描画位置と第2のレジストパターン105pの描画位置との間にずれが生じたとしても、パターンの欠陥発生を抑制することができる。すなわち、遮光部113の形成予定領域と透光部111との境界において、第2のレジストパターン105pが遮光部113の形成予定領域側にずれて描画されてしまったとしても、係る境界において遮光膜103の表面が露出してしまうことを抑制でき、前記境界における遮光膜103がエッチングされてしまうことを抑制できる。そして、遮光部113の寸法や形状が設計値と異なってしまったり、下地の半透光膜102が露出して不要な半透光部が形成されてしまったりすることを抑制できる。尚、上記位置ずれが生じなかった場合には、設計値どおりの寸法の転写パターンが形成される。
【0045】
参考までに、第2のレジストパターンにマージン領域を設けない従来のフォトマスク300の製造方法について、図3を参照しながら説明する。図3は、係る従来方法のフローを示す概略図である。
【0046】
図3に示す従来方法では、まず、透光性基板201上に半透光膜202と遮光膜203とがこの順に形成され、最上層に第1のレジスト膜204が形成されたマスクブランク200bを準備する。そして、第1のレジスト膜204にパターンを描画して現像し、遮光部213の形成予定領域及び半透光部212の形成予定領域をそれぞれ覆う第1のレジストパターン204pを形成する。そして、第1のレジストパターン204pをマスクとして遮光膜203及び半透光膜202をエッチングして透光部211を形成する。そして、第1のレジストパターン204pを除去して得られた基板の全面を覆う第2のレジスト膜205を形成する。そして、第2のレジスト膜205にパターンを描画して現像し、遮光部213の形成予定領域を覆う第2のレジストパターン205pを形成する。この際、第2のレジストパターン205pにマージン領域を設けることなく、第2のレジストパターン205pの寸法や位置を形成しようとする遮光部213の寸法や位置に一致させるように描画を行う。そして、第2のレジストパターン205pをマスクとして遮光膜203をエッチングして半透光部212及び遮光部223を形成し、第2のレジストパターン205pを除去してフォトマスク200を製造する。
【0047】
しかしながら、図3に示す従来方法では、第1のレジストパターン204pの描画位置と第2のレジストパターン205pの描画位置との間にずれが生じ易く、形成するパターンに欠陥が生じ易いという課題があった。例えば、遮光部213の形成予定領域と透光部211との境界において、第2のレジストパターン205pが遮光部213の形成予定領域側にずれて描画されてしまうと(図3の符号A参照)、その後のエッチング工程において前記境界における遮光膜203が意図せずにエッチングされてしまうことになる。そして、遮光部213の寸法や形状が設計値と異なってしまったり、下地の半透光膜202が露出して不要な半透光部212aが形成されてしまったりする(図3の符号B参照)。
【0048】
(b)本実施形態に係る第2のレジスト膜形成工程によれば、第2のレジスト膜105の形成に先立ち、少なくとも透光部111が形成されて露出した透光性基板101の表面に、ヘキサメチルジシラザンを供給する表面処理を実施する。係る処理を実施することにより、透光部111が形成されて露出した透光性基板101の表面は、ヘキサメチルジシラザンとNガスとの混合ガスが供給されて改質され、透光性基板101の表面と第2のレジスト膜105との密着性が向上する。その結果、上述の現像工程やエッチング工程を実施したとしても、第2のレジストパターン105pのマージン領域105mが透光性基板101の表面から剥離してしまうことを抑制できる。そして、剥離した第2のレジストパターン105pの一部が遮光膜103表面に再付着してしまうことを抑制でき、上述の黒欠陥の発生を抑制できる。更に、透光性基板101とレジストパターン105pの間に間隙が生じないため、このような間隙からエッチング液が浸入することが無い。これにより、エッチング速度の変動を抑制してエッチング工程を速やかに進行できると共に、エッチング挙動を安定させて再現性の高い精緻なエッチングが行えるようになる。
【0049】
参考までに、表面処理を実施しない従来のフォトマスク300の製造方法について、図4を参照しながら説明する。図4は、係る従来方法のフローを示す概略図である。
【0050】
図4に示す従来方法では、まず、透光性基板301上に半透光膜302と遮光膜303とがこの順に形成され、最上層に第1のレジスト膜304が形成されたマスクブランク300bを準備する。そして、第1のレジスト膜304にパターンを描画して現像し、遮光部313の形成予定領域及び半透光部312の形成予定領域をそれぞれ覆う第1のレジス
トパターン304pを形成する。そして、第1のレジストパターン304pをマスクとして遮光膜303及び半透光膜302をエッチングして透光部311を形成する。そして、第1のレジストパターン304pを除去して得られた基板の全面を覆う第2のレジスト膜305を形成する。そして、第2のレジスト膜305にパターンを描画して現像し、遮光部313の形成予定領域を覆う第2のレジストパターン305pを形成する。この際、遮光部313の形成予定領域と透光部311との境界において、第2のレジストパターン305pが透光部311側に所定量拡大するように描画を行う。そして、この第2のレジストパターン305pをマスクとして遮光膜303をエッチングして半透光部312及び遮光部323を形成し、第2のレジストパターン305pを除去してフォトマスク300を製造する。
【0051】
しかしながら、図4に示す従来方法では、第1のレジストパターン304pを除去して得られた基板に表面処理を施すことなく第2のレジスト膜305を形成しているため、透光性基板301の表面と第2のレジスト膜305との密着性が得られ難い場合があった。そのため、第2のレジストパターン305pを、遮光部313の形成予定領域と透光部311との境界において透光部311側に所定量拡大させるようにマージン領域を設けて描画すると、前記マージン領域を構成する第2のレジスト膜305が透光性基板301の表面から部分的に剥離し(図4の符号C参照)、これによりパターン欠陥が発生してしまう場合があった。例えば、前記マージン領域を構成する第2のレジスト膜305が部分的に剥離すると、剥離した第2のレジスト膜305の一部が遮光膜303表面に再付着してしまい(図4の符号D参照)、その後のエッチング工程においてエッチングされるべき遮光膜303が残留してしまう欠陥(黒欠陥)を生じさせる場合があった(図4の符号E参照)。
【0052】
更に、透光性基板310と、レジストパターン305pの間に間隙が生じたため、ここにエッチング液が浸入してしまい、遮光膜303の断面及び半透光膜302の断面にエッチング液が接触してしまう場合がある。ここで、遮光膜303はCrを主成分とし、半透光膜302はMoSiからなる膜であるため、いずれも、所定程度の導電性を有する。このため、遮光膜303の断面及び半透光膜302の断面において、エッチング液に浸漬された電位の異なる電極がそれぞれ構成され(いわゆる電池効果が発生し)、これがエッチング挙動に影響を及ぼしてしまう。例えば、Crを主成分とする遮光膜303のエッチング速度が減少するなどの不都合が生じることがある。
【0053】
(c)尚、本発明に類似の多階調フォトマスクの製造方法として、以下のような方法もある。すなわち、用意したフォトマスク部上の第1のレジスト膜にパターンを描画して現像し、遮光部の形成予定領域を覆う第1レジストパターンを形成し、この第1のレジストパターンをマスクとして遮光膜をエッチングする。そして、第1のレジストパターンを除去して得られた基板の全面を覆う第2のレジスト膜を形成する。ついで、第2のレジストパターンにパターン描画して現像し、少なくとも半透光部の形成予定領域を覆う第2のレジストパターンを形成し、これをマスクとして遮光膜をエッチングする方法もある。但し、この方法によると、半透光膜が二回の現像、洗浄工程に晒されるため、半透光膜素材がダメージを受け、透過率が変化してしまう恐れがある。これに対し、本実施形態によれば、半透光膜が上記ウエット処理に晒されるのは、一回のみであるため、多階調フォトマスクとしての透過率制御が容易になる利点がある。そして、本実施形態による表面処理の効果が顕著に得られるのである。
【0054】
<本発明の他の実施形態>
以上、本発明の実施の形態を具体的に説明したが、本発明は上述の実施形態限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。例えば、上述の実施形態では、透光性基板101上に半透光膜102と遮光膜103とがこの順に形成されてい
たが、本発明は係る形態に限定されず、半透光膜102と遮光膜103との間に他の膜が設けられていても良い。
【符号の説明】
【0055】
100 フォトマスク
100b マスクブランク
100c 中間基板
101 透光性基板
102 半透光膜
103 遮光膜
103p 第1のレジストパターン
104 第1のレジスト膜
104p 第1のレジストパターン
105 第2のレジスト膜
105m マージン領域
105p 第2のレジストパターン
111 透光部
112 半透光部
113 遮光部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
透光部、遮光部及び半透光部を含む転写パターンを備えた多階調フォトマスクの製造方法であって、
透光性基板上に半透光膜と遮光膜とがこの順に形成され、最上層に第1のレジスト膜が形成されたマスクブランクを準備する工程と、
前記第1のレジスト膜にパターンを描画して現像し、前記遮光部の形成予定領域及び前記半透光部の形成予定領域をそれぞれ覆う第1のレジストパターンを形成し、該第1のレジストパターンをマスクとして前記遮光膜をエッチングして遮光膜パターンを形成すると共に、前記第1のレジストパターン又は前記遮光膜パターンをマスクとして前記半透光膜をエッチングして前記透光部を形成する第1パターニング工程と、
前記第1のレジストパターンを除去して得られた基板の全面を覆う第2のレジスト膜を形成する工程と、
前記第2のレジスト膜にパターンを描画して現像し、前記遮光部の形成予定領域を覆う第2のレジストパターンを形成し、該第2のレジストパターンをマスクとして前記遮光膜パターンをエッチングして前記半透光部及び前記遮光部を形成する第2パターニング工程と、を有し、
前記第2のレジスト膜を形成する工程では、前記第2のレジスト膜の形成に先立ち、前記透光部が形成されて露出した前記透光性基板の表面にSi含有有機化合物による表面処理を行う
ことを特徴とする多階調フォトマスクの製造方法。
【請求項2】
前記第2のレジストパターンは、前記遮光部の形成予定領域と前記透光部との境界において前記透光部側に拡大されたマージン領域を有する
ことを特徴とする請求項1に記載の多階調フォトマスクの製造方法。
【請求項3】
前記マージン領域は、前記境界における前記半透光膜の側面と前記遮光膜の側面とを覆うと共に、前記透光部における前記透光性基板の一部表面を覆う
ことを特徴とする請求項2に記載の多階調フォトマスクの製造方法。
【請求項4】
前記第1パターニング工程及び前記第2パターニング工程で行うエッチングはウェットエッチングである
ことを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の多階調フォトマスクの製造方法。
【請求項5】
前記遮光膜はクロム又はその化合物からなり、
前記半透光膜はモリブデンシリサイド又はその化合物からなる
ことを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の多階調フォトマスクの製造方法。
【請求項6】
前記Si含有有機化合物はヘキサメチルジシランである
ことを特徴とする請求項1から5のいずれかに記載の多階調フォトマスクの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜6に記載の多階調フォトマスクに露光光を照射し、前記転写パターンを被転写体に転写する
ことを特徴とする半導体トランジスタの製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−191310(P2010−191310A)
【公開日】平成22年9月2日(2010.9.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−37359(P2009−37359)
【出願日】平成21年2月20日(2009.2.20)
【出願人】(000113263)HOYA株式会社 (3,820)
【Fターム(参考)】