説明

太陽電池の製造方法

【課題】意匠性および光電変換効率に優れるとともに量産に適した安価な太陽電池を得ること。
【解決手段】p型半導体基板の表面にリンが拡散されたn型のリン拡散層とリン拡散層上に設けられた窒化膜とを備えた太陽電池の製造方法であって、半導体基板の表面にリンを拡散させてリン拡散層を形成する第1工程と、第1工程においてリン拡散層上を含む半導体基板の表面に形成されたリンガラス層を除去する第2工程と、リンガラス層が除去されたリン拡散層上に窒化膜を形成する第3工程と、を含み、第1工程後であって第2工程前の状態のリンガラス層の表面に対する、質量分析法によるマススペクトルが質量電荷比(質量数/電荷)88において一番大きいピークを有する有機物質の吸着を判定し、有機物質の吸着があったと判定された場合にのみ、第2工程後であって第3工程の前にリン拡散層の表面に対してアンモニアガスを用いたプラズマ処理を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池の製造方法に関し、特に、太陽電池の受光面の変色を防止可能な太陽電池の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、地球上で用いられている電力用太陽電池の主流はシリコン太陽電池である。このようなシリコン太陽電池の量産においては、そのプロセスフローをなるべく簡素化して製造コストの低減を図ることが一般的に行われている(たとえば、特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1におけるシリコン太陽電池の製造方法について説明する。まず、p型シリコン(Si)基板を準備し、その表面に例えばリン(P)を熱的に拡散させ、導電型を反転させたn型拡散層を形成する。通常、リンの拡散源としては、オキシ塩化リン(POCl)が用いられることが多い。一般的には、n型拡散層はSi基板の全面に形成される。なお、このn型拡散層のシート抵抗は数十Ω/□程度であり、その深さは0.3μm〜0.5μm程度である。
【0004】
続いて、基板の一主面側のn型拡散層をレジストにより保護した後、該基板の一主面側のみにn型拡散層を残すようにエッチング処理を実施する。処理後の残存レジストは、有機溶剤等を用いて除去される。次いで、プラズマCVD法等により、絶縁膜(反射防止膜)としてのシリコン窒化膜を、n型拡散層上に700Å〜900Å程度の膜厚で形成する。
【0005】
つぎに、基板の裏面にアルミニウムペーストをスクリーン印刷し、乾燥させる。通常、アルミニウムペースト面上の一部あるいは開口部に銀ペーストを重ねて印刷し、その上に配線を半田付けする。一方、基板の表面(受光面)側のシリコン窒化膜上には表面電極となる銀ペーストを裏面と同様にスクリーン印刷し、乾燥する。
【0006】
その後、基板を700℃〜900℃で数分から十数分間、近赤外ランプ炉中で焼成する。その結果、基板の裏面側では、焼成中にアルミニウムペーストから不純物としてのアルミニウムが基板中に拡散し、アルミニウムの高濃度不純物を含んだp+層が形成される。この層は、一般にBSF(Back Surface Field)層と呼ばれ、太陽電池のエネルギー変換効率の向上に寄与するものである。また、焼成後、アルミニウムペーストは裏面アルミニウム電極となり、銀ペーストも同時に裏面銀電極となる。一方、表面側の銀ペーストは、焼成中にシリコン窒化膜を溶融・貫通し、n型拡散層と電気的な接触を取ることが可能となる。この様な方法は、一般的にファイヤースルーと言われる。
【0007】
また、上記のように反射防止膜をプラズマCVD法により受光面に形成する場合、水素パッシベーション効果を促進するために前処理として水素あるいはアンモニアプラズマ処理を実施することが提案されている(たとえば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004−207493号公報(従来技術)
【特許文献2】特開2009−164518号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記特許文献1の太陽電池の製造プロセスにおいては、焼成中に反射防止膜であるシリコン窒化膜が数μm〜数10μmサイズで剥離し、その部分では反射防止がなされないため白く光ったように変色して見える場合がある。このような変色(シリコン窒化膜の剥離)が高密度に発生すると、外観上の問題もさることながら、光の有効利用率の低下による光電変換特性の低下をも引き起こす。このため、当該シリコン窒化膜の剥離防止に関する量産上の工夫が必要となっている。また、全ての基板に対して上記特許文献2のようなアンモニアプラズマ処理を実施することは、工程の煩雑化およびアンモニアガス使用量の増加に基づく材料費や処理費用の増加などのコストの増大につながる。
【0010】
本発明は、上記に鑑みてなされたものであって、意匠性および光電変換効率に優れるとともに量産に適した安価な太陽電池を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明にかかる太陽電池の製造方法は、p型の半導体基板の表面にリンが拡散されてなるn型のリン拡散層と前記リン拡散層上に設けられた窒化膜とを備えた太陽電池の製造方法であって、前記半導体基板の表面にリンを拡散させて前記半導体基板の表面に前記リン拡散層を形成する第1工程と、前記第1工程において前記リン拡散層上を含む前記半導体基板の表面に形成されたリンガラス層を除去する第2工程と、前記リンガラス層が除去された前記リン拡散層上に窒化膜を形成する第3工程と、を含み、前記第1工程後であって前記第2工程前の状態の前記リンガラス層の表面に対する、質量分析法によるマススペクトルが質量電荷比(質量数/電荷)88において一番大きいピークを有する有機物質の吸着を判定し、前記有機物質の吸着があったと判定された場合にのみ、前記第2工程後であって前記第3工程の前に前記リン拡散層の表面に対してアンモニアガスを用いたプラズマ処理を行うこと、を特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、製造プロセスにおける半導体基板上での窒化膜の剥離を防止して白色変色の発生を防止することができ、意匠性および光電変換特性に優れた太陽電池を簡便かつ安価に作製することができる、という効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1−1】図1−1は、本発明の実施の形態にかかる太陽電池の製造方法により作製した太陽電池セルの概略構成を示す断面図である。
【図1−2】図1−2は、本発明の実施の形態にかかる太陽電池の製造方法により作製した太陽電池セルの概略構成を示す上面図である。
【図1−3】図1−3は、本発明の実施の形態にかかる太陽電池の製造方法により作製した太陽電池セルの概略構成を示す下面図である。
【図2−1】図2−1は、本実施の形態にかかる太陽電池セルの製造工程を説明するための断面図である。
【図2−2】図2−2は、本実施の形態にかかる太陽電池セルの製造工程を説明するための断面図である。
【図2−3】図2−3は、本実施の形態にかかる太陽電池セルの製造工程を説明するための断面図である。
【図2−4】図2−4は、本実施の形態にかかる太陽電池セルの製造工程を説明するための断面図である。
【図2−5】図2−5は、本実施の形態にかかる太陽電池セルの製造工程を説明するための断面図である。
【図2−6】図2−6は、本実施の形態にかかる太陽電池セルの製造工程を説明するための断面図である。
【図3】図3は、本実施の形態にかかる太陽電池セルの製造工程を説明するためのフローチャートである。
【図4−1】図4−1は、従来の太陽電池の製造方法における白色変色現象の発生を説明するための断面図である。
【図4−2】図4−2は、従来の太陽電池の製造方法における白色変色現象の発生を説明するための断面図である。
【図4−3】図4−3は、従来の太陽電池の製造方法における白色変色現象の発生を説明するための断面図である。
【図4−4】図4−4は、従来の太陽電池の製造方法における白色変色現象の発生を説明するための断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、本発明にかかる太陽電池の製造方法の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。なお、本発明は以下の記述に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。また、以下に示す図面においては、理解の容易のため、各部材の縮尺が実際とは異なる場合がある。各図面間においても同様である。
【0015】
実施の形態
図1−1〜図1−3は、本発明の実施の形態にかかる太陽電池の製造方法により作製した太陽電池セル1の概略構成を示す図であり、図1−1は、太陽電池セル1の断面図、図1−2は、受光面側からみた太陽電池セル1の上面図、図1−3は、受光面と反対側からみた太陽電池セル1の下面図である。図1−1は、図1−2の線分A−Aにおける断面図である。
【0016】
太陽電池セル1は、図1−1〜図1−3に示されるように、光電変換機能を有する太陽電池基板であってpn接合を有する半導体基板11と、半導体基板11の受光面側の面(おもて面)に形成されて受光面での入射光の反射を防止する反射防止膜17と、半導体基板11の受光面側の面(おもて面)において半導体基板に導通して形成された第1電極である受光面側電極19と、半導体基板11の受光面と反対側の面(裏面)に形成された第2電極である裏面側電極21と、を備える。
【0017】
半導体基板11は、p型(第1の導電型)多結晶シリコン層13と、該p型多結晶シリコン層13の表面の導電型が反転したn型(第2の導電型)不純物拡散層15とを有し、これらによりpn接合が構成されている。反射防止膜17は、例えばシリコン窒化膜(SiN膜)やシリコン酸窒化膜(SiON膜)などの窒化膜からなる。
【0018】
受光面側電極19としては、太陽電池セルの表銀グリッド電極23および表銀バス電極25を含む。表銀グリッド電極23は、半導体基板11で発電された電気を集電するために受光面に局所的に設けられている。表銀バス電極25は、表銀グリッド電極23で集電された電気を取り出すために表銀グリッド電極23にほぼ直交して設けられている。また、裏面側電極21は、半導体基板11の裏面の全面に形成されている。また、半導体基板11の裏面側には、アルミニウムの高濃度不純物を含んだp+層(BSF)27が形成されている。
【0019】
このように構成された太陽電池セル1では、太陽光が太陽電池セル1の受光面側から半導体基板11のpn接合面(p型多結晶シリコン層13とn型不純物拡散層15との接合面)に照射されると、ホールと電子が生成する。pn接合部の電界によって、生成した電子はn型不純物拡散層15に向かって移動し、ホールはp型多結晶シリコン層13に向かって移動する。これにより、n型不純物拡散層15に電子が過剰となり、p型多結晶シリコン層13にホールが過剰となる結果、光起電力が発生する。この光起電力はpn接合を順方向にバイアスする向きに生じ、n型不純物拡散層15に接続した受光面側電極19がマイナス極となり、p型多結晶シリコン層13に接続した裏面側電極21がプラス極となって、図示しない外部回路に電流が流れる。
【0020】
以上のように構成された本実施の形態にかかる太陽電池セル1では、窒化膜からなる反射防止膜17の半導体基板11(n型不純物拡散層15)からの剥離が防止されており、半導体基板11(n型不純物拡散層15)に対する反射防止膜17の密着状態が、半導体基板11(n型不純物拡散層15)の全面において良好とされている。これにより、窒化膜からなる反射防止膜17の半導体基板11(n型不純物拡散層15)からの剥離に起因して太陽電池セル1の外観(表面)が部分的に白く光ったように変色して見える変色(以下、白色変色と呼ぶ)や、光の有効利用率の低下による光電変換特性の低下が防止されている。したがって、実施の形態にかかる太陽電池セル1では、意匠性および光電変換特性に優れた太陽電池セルが実現されている。
【0021】
つぎに、このような太陽電池セル1の製造方法の一例について図2−1〜図2−6を参照して説明する。図2−1〜図2−6は、本実施の形態にかかる太陽電池セル1の製造工程を説明するための断面図である。図3は、本実施の形態にかかる太陽電池セル1の製造工程を説明するためのフローチャートである。本実施の形態では、後述するリン拡散工程を基板枚数が数10枚単位のバッチ処理で行う場合について説明する。
【0022】
まず、半導体基板として、例えば民生用太陽電池向けとして最も多く使用されているp型多結晶シリコン基板を用意する(以下、p型多結晶シリコン基板11aと呼ぶ)(図2−1)。
【0023】
p型多結晶シリコン基板11aは、溶融したシリコンを冷却固化してできたインゴットをワイヤーソーでスライスして製造するため、表面にスライス時のダメージが残っている。そこで、まずはこのダメージ層の除去も兼ねて、p型多結晶シリコン基板11aを酸または加熱したアルカリ溶液中、例えば水酸化ナトリウム水溶液に浸漬して表面をエッチングすることにより、シリコン基板の切り出し時に発生してp型多結晶シリコン基板11aの表面近くに存在するダメージ領域を取り除く。
【0024】
また、ダメージ除去と同時に、またはダメージ除去に続いて、p型多結晶シリコン基板11aの受光面側の表面にテクスチャー構造として微小凹凸を形成してもよい(図示せず)。このようなテクスチャー構造をp型多結晶シリコン基板11aの受光面側に設けることで、太陽電池セル1の表面側で光の多重反射を生じさせ、太陽電池セル1に入射する光を効率的に半導体基板11の内部に吸収させることができ、実効的に反射率を低減して変換効率を向上させることができる。
【0025】
なお、本発明は反射防止膜形成に特徴を有する発明であるので、テクスチャー構造の形成方法や形状については、特に制限するものではない。例えば、イソプロピルアルコールを含有させたアルカリ水溶液や主にフッ酸、硝酸の混合液からなる酸エッチングを用いる方法、部分的に開口を設けたマスク材をp型多結晶シリコン基板11aの表面に形成して該マスク材を介したエッチングによりp型多結晶シリコン基板11aの表面にハニカム構造や逆ピラミッド構造を得る方法、或いは反応性ガスエッチング(RIE:Reactive Ion Etching)を用いた手法など、何れの手法を用いても差し支えない。
【0026】
つぎに、製品作製用のp型多結晶シリコン基板11aの通常の1バッチ(例えば30枚程度)にモニター基板1枚を追加して挿入し(ステップS10)、これを次工程のリン拡散工程の処理単位とする。ここでモニター基板とは、実際の製品化に用いることなく評価のためだけに用いるウエハという意味である。モニター基板は、製品作製用のp型多結晶シリコン基板11aと同じp型多結晶シリコン基板である。そして、1バッチ分のp型多結晶シリコン基板11aおよびモニター基板を熱酸化炉へ投入し、n型の不純物であるリン(P)の雰囲気下で加熱する。この工程によりp型多結晶シリコン基板11aの表面にリン(P)を拡散させて、導電型を反転させたn型不純物拡散層15aをp型多結晶シリコン基板11aの全表面に形成して半導体pn接合を形成する(ステップS20、図2−2)。
【0027】
リンの拡散源としては、たとえばオキシ塩化リン(POCl)が用いることができる。本実施の形態では、p型多結晶シリコン基板11aをオキシ塩化リン(POCl)ガス雰囲気中において加熱することにより、n型不純物拡散層15aを形成する。また、n型不純物拡散層15aのシート抵抗は、数十Ω/□程度であり、当該n型不純物拡散層15aの深さは、0.3μm〜0.5μm程度である。このとき、p型多結晶シリコン基板11aの最表面にはリンガラス層31が形成される。
【0028】
そして、リン拡散工程後であって次工程であるpn分離工程に進む直前に、リン拡散工程の処理単位のバッチからモニター基板を抜き取り、該モニター基板の表面に特定有機物質が吸着しないように密閉可能なウエハカセットに収納する(ステップS30)。特定有機物質については、後述する。
【0029】
つぎに、製品作製用のp型多結晶シリコン基板11aの端面を、例えば反応ガスにフッ化炭素(CF)および酸素(O)を用いたプラズマエッチング処理によりエッチングしてpn分離を施す(ステップS40)。pn分離のためのプラズマエッチング処理は、モニター基板を除いた上記の1バッチ単位で行う。ついで、p型多結晶シリコン基板11aを例えばフッ酸(HF)に浸漬することにより、リン拡散工程においてp型多結晶シリコン基板11aの最表面に形成されたリンガラス層31を除去する(ステップS50、図2−3)。これにより、第1導電型層であるp型多結晶シリコン層13と、該p型多結晶シリコン層13の受光面側に形成された第2導電型層であるn型不純物拡散層15と、によりpn接合が構成された半導体基板11が得られる。
【0030】
ここで、リン拡散後の状態におけるp型多結晶シリコン基板11aの表面には、図4−1に示すようにリンガラス層31が形成されている。図4−1〜図4−4は、従来の太陽電池の製造方法における白色変色現象の発生を説明するための断面図である。また、リン拡散工程とpn分離のためのプラズマエッチング処理工程との間には時間的な不連続が生じる。このため、リン拡散後の状態におけるp型多結晶シリコン基板11aの表面は、製造環境空気に一定時間以上暴露される。この際、大気中に浮遊している特定有機物質32がp型多結晶シリコン基板11aの表面に形成されたリンガラス層31の表面に物理吸着することによりリンガラス層31と特定有機物質32との化学反応が生じ、図4−2に示すように後工程であるpn分離およびフッ酸(HF)浸漬によるリンガラス層31の除去工程でも除去できない変質物質33に変化することがある。
【0031】
ここで、特定有機物質32と呼んでいる吸着物質は具体的にはアミン系の有機物質であり、質量分析法により当該物質を分析した場合のマススペクトルにおいて、質量電荷比(質量数/電荷(M/Z))が88において主要ピーク(1番大きいピーク)を有する有機物質であることが発明者の研究により判明している。
【0032】
この特定有機物質32がリンガラス層31の表面に物理吸着した状態のp型多結晶シリコン基板11aが、製造プロセスに従ってpn分離工程を経てリンガラス層31の表面との化学反応を生じた状態のまま図4−3に示すように後述する反射防止膜17の形成工程(CVD工程)により半導体基板11の受光面側にシリコン窒化膜を形成し、例えば850℃〜900℃の高温焼成工程を通過する。この場合、図4−4に示すようにシリコン窒化膜の製膜前に半導体基板11上に残存していた物質が熱分解して揮発性物質となる。このため、その上部の反射防止膜17であるシリコン窒化膜を剥離しつつ反射防止膜17(シリコン窒化膜)の外部に放出される。この場合は、反射防止膜17として形成されているシリコン窒化膜の一部が剥離膜17aとなって欠損することになり、その箇所での反射防止機能が損なわれるため外観上白く光って見えることになる(白色変色)。
【0033】
ここで、白色変色発生のメカニズムに関する筆者らの研究結果に基づき、特許文献2による目的とは異なるが、変色発生防止のために上記アンモニアプラズマ処理が有効であることが判明している。そこで、本実施の形態ではこのような白色変色を防止するために特許文献2のような窒化膜形成工程前のアンモニアプラズマ処理を施すことにより、フッ酸(HF)浸漬で除去できない変質物質33を除去する。アンモニアプラズマ処理は還元性を持っており変質物質33を化学的に分解するとともに、物理的なスパッタリング効果も合わさって変質物質33を除去しているものと考えられる。
【0034】
したがって、反射防止膜17の形成工程(CVD工程)の前に半導体基板の受光面側の表面にアンモニアプラズマ処理を施した場合には、後述する焼成工程での反射防止膜17であるシリコン窒化膜の剥離現象が生じることがないため、白色変色の発生を防止することが可能となる。
【0035】
特許文献2では、このようなアンモニアプラズマ処理によりアンモニアが分解した水素が基板に拡散することによりシリコン基板中の化学結合が切断された部位と水素が反応するいわゆる水素パッシベーション効果があることが記載されている。したがって、アンモニアプラズマ処理は白色変色の防止のみならず、水素パッシベーション効果による太陽電池の光電変換特性の向上効果も期待できることになる。
【0036】
しかしながら、アンモニアプラズマ処理工程を反射防止膜17の形成工程(CVD工程)の前に挿入することにより、工程の煩雑化およびアンモニアガス使用量の増加に起因した材料費や処理費用が増加するとともに反射防止膜17であるシリコン窒化膜と半導体基板11(n型不純物拡散層15)との界面に余分な窒素が存在することによる特性の劣化が生じる。したがって、アンモニアプラズマ処理工程を実施することによる総合的な効果を考えた場合に、上述したアンモニアプラズマ処理工程を全てのp型多結晶シリコン基板11aに対して実施することは有意ではない。このため、アンモニアプラズマ処理は、上記特性向上効果との兼ね合いにおいて必要最小限にしか使用しないことが好ましいのが現実である。すなわち、該アンモニアプラズマ処理工程を省略して工程の簡易化を図るとともに、アンモニアガス消費量の低減による低コスト化を達成し、かつ変色の発生を防止することが重要である。
【0037】
これらの事柄を勘案して、本実施の形態においては、白色変色が発生するリン拡散後のp型多結晶シリコン基板11aの表面の表面分析を行う。すなわち、リン拡散後のp型多結晶シリコン基板11aの表面に形成されたリンガラス層31の表面に対する、白色変色発生の原因となる特定有機物質32の吸着の有無を分析判定する。そして、特定有機物質32の吸着が確認された場合にのみ、リンガラス層31の除去(ステップS50)の後にアンモニアプラズマ処理を実施する。
【0038】
本実施の形態では、p型多結晶シリコン基板11aの表面に形成されたリンガラス層31の表面に対する特定有機物質32の吸着の有無を分析判定するために、製品作製用のp型多結晶シリコン基板11aと同様の基板に同工程でリン拡散を行ったモニター基板の表面分析を行う(ステップS60)。すなわち、モニター基板の表面に形成されたリンガラス層31の表面に対する特定有機物質32の吸着の有無を、リン拡散工程後であって次工程であるpn分離工程に進む直前の状態において分析する。pn分離工程に進む直前の状態に限定しているのは、pn分離工程が実施されるp型多結晶シリコン基板11aの表面との表面状態の差をなくすためである。
【0039】
また、pn分離工程に進む直前の状態が保持されていれば、分析自体はpn分離工程後であっても反射防止膜17の形成工程(CVD工程)の前に実施すればよい。このため、本実施の形態では上述したステップS30において、リン拡散工程後において次工程であるpn分離工程に進む直前にモニター基板を抜き取り、該モニター基板の表面に特定有機物質が吸着しないように密閉ウエハカセットに収納している。これにより、製品作製用のp型多結晶シリコン基板11aがpn分離工程に進む直前の状態と同じ状態を保持することができる。
【0040】
特定有機物質32の吸着の有無の分析評価は、当該特定有機物質32の特徴である、質量分析法により当該物質を分析した場合のマススペクトルにおいて質量電荷比(質量数/電荷(M/Z))=88の成分を主要ピーク(1番大きいピーク)として有する物質が存在するか否かを表面分析法により分析することで行う。分析法としては、飛行時間型2次イオン質量分析が好ましい。飛行時間型2次イオン質量分析を用いることにより、的確に質量電荷比(質量数/電荷(M/Z))を測定することができ、特定有機物質32の吸着の有無を判別することができる。
【0041】
そして、モニター基板の表面の質量分析においてM/Z=88の成分を主要ピーク(1番大きいピーク)とする成分が検出された場合、すなわち特定有機物質32の成分が検出された場合には(ステップS70肯定)、該モニター基板のリン拡散工程(ステップS20)を実施したバッチの全ての半導体基板11に、窒化膜形成工程前のアンモニアプラズマ処理を施す(ステップS80)。このアンモニアプラズマ処理は、少なくとも半導体基板11において窒化膜からなる反射防止膜17を形成する面、すなわち受光面側の面(n型不純物拡散層15)に対して実施する。そして、次工程である反射防止膜の形成工程に進む。
【0042】
一方、モニター基板の表面の質量分析においてM/Z=88の成分を主要ピーク(1番大きいピーク)とする成分が検出されない場合、すなわち特定有機物質32の成分が検出されない場合には(ステップS70否定)、アンモニアプラズマ処理は不要であるため窒化膜形成工程前のアンモニアプラズマ処理は実施せず、次工程の反射防止膜の形成工程に進む。
【0043】
つぎに、半導体基板11の受光面側に、光電変換効率改善のために、反射防止膜17として例えば700Å〜900Å程度のシリコン窒化膜(SiN膜)を形成する(ステップS90、図2−4)。反射防止膜17の形成には、例えばプラズマCVD法を使用し、シランとアンモニアの混合ガスを用いて400℃〜450℃程度、数分間の条件で所定の膜厚を得ることができる。反射防止膜17の膜厚および屈折率は、光反射を最も抑制する値に設定する。なお、反射防止膜17として、屈折率の異なる2層以上の膜を積層してもよい。
【0044】
つぎに、半導体基板11の裏面に電極ペーストであるアルミニウムペーストをスクリーン印刷し、乾燥させる(ステップS100、図2−5)。当該印刷・乾燥処理を施すことにより、半導体基板11の裏面上に、裏面アルミニウムペースト層21aが形成される。当該裏面アルミニウムペースト層21aの厚みは、20μm〜40μm程度である。
【0045】
つぎに、半導体基板11の表面(受光面)側の反射防止膜17(シリコン窒化膜)上に電極ペーストである銀ペーストを受光面側電極19の形状、すなわち表銀グリッド電極23および表銀バス電極25の形状にスクリーン印刷し、乾燥させる(ステップS100、図2−5)。当該印刷・乾燥処理を施すことにより、半導体基板11の表面(受光面)上に、所定のパターンの表銀ペースト層19aが形成される。
【0046】
つぎに、裏面アルミニウムペースト層21aおよび表銀ペースト層19aが形成された半導体基板11に対して、近赤外炉中で焼成処理を施す(ステップS110、図2−6)。ここで、当該焼成処理は、温度700℃〜900℃程度で、数分から十数分間の期間実施される。当該焼成処理を施すことにより、裏面側電極21および受光面側電極19が形成される。また、半導体基板11の裏面側では、裏面アルミニウムペースト層21aから不純物としてのアルミニウムが半導体基板11中に拡散する。これにより、アルミニウムの高濃度不純物を含んだp+層(BSF27)が、裏面側電極の下方において形成される。ここで、半導体基板11の裏面の大部分の表面積内にBSF27を形成する必要が有る。したがって、裏面アルミニウムペースト層21aが半導体基板11の裏面の大部分の表面を覆って形成されていることが望ましい。また、受光面側電極19中の銀が反射防止膜17を貫通して、n型不純物拡散層15と受光面側電極19とが電気的に接続する。
【0047】
以上のような工程を実施することにより、図1−1〜図1−3に示す本実施の形態にかかる太陽電池セル1を作製することができる。なお、電極材料であるペーストの半導体基板11への配置の順番を、受光面側と裏面側とで入れ替えてもよい。また、上記一連の工程により複数の太陽電池セル1を作製した後は、各太陽電池セル1の裏面側電極21を構成するアルミニウム電極および受光面側電極19を構成する銀電極に相互に銅箔等を半田付けし、太陽電池セル1の所望の直列・並列接続を形成する。これにより、複数の太陽電池セル1から構成される太陽電池モジュールが作製される。
【0048】
上述したように、本実施の形態にかかる太陽電池の製造方法においては、リン拡散工程後であって次工程であるpn分離工程に進む直前の状態において、白色変色の発生原因となる特定有機物質32の半導体基板11の表面への吸着の有無を判定する。そして、半導体基板11の表面への特定有機物質32の吸着が発生していない場合にはアンモニアガスプラズマ処理を実施せず、半導体基板11の表面への特定有機物質32の吸着が発生している場合にのみ半導体基板11に対してアンモニアガスプラズマ処理を実施する。
【0049】
すなわち、アンモニアガスプラズマ処理が必要な場合にのみ半導体基板11に対して該アンモニアガスプラズマ処理を実施する。特定有機物質32の吸着が発生している半導体基板11に対してアンモニアガスプラズマ処理を実施することにより、半導体基板11(n型不純物拡散層15)に対する反射防止膜17の密着状態を半導体基板11(n型不純物拡散層15)の全面において良好な状態とすることができ、白色変色の発生を防止することが可能となる。
【0050】
これにより、アンモニアガスプラズマ処理の実施による工程の煩雑化およびアンモニアガス使用量の増加に基づく材料費や処理費用の増加を必要最小限に抑制しつつ、白色変色の発生を防止することが可能となる。また、反射防止膜17であるシリコン窒化膜と半導体基板11であるシリコン基板の界面に余分な窒素が存在することによる特性の劣化を防止することができる。また、アンモニアガスプラズマ処理の実施による水素パッシベーション効果による光電変換特性の向上効果も期待できる。また、反射防止膜17の剥離に起因した耐久性の低下や歩留まりの低下を防止することができる。
【0051】
したがって、本実施の形態にかかる太陽電池の製造方法によれば、簡便かつ安価に白色変色の発生を防止することができ、意匠性および光電変換特性に優れた太陽電池セルを作製することができる。
【0052】
なお、上記においては、リン拡散工程後であって次工程であるpn分離工程に進む直前の基板表面における特定有機物質32の吸着を判定するためにモニター基板の表面分析を行う場合について説明したが、本発明はこれに限定されない。すなわち、リン拡散工程後であって次工程であるpn分離工程に進む直前の製品作製用のp型多結晶シリコン基板11aに対して表面分析を行ってもかまわない。但し、モニター基板を用いることにより製品作製用のp型多結晶シリコン基板11aに何ら影響を与えることなく表面分析を行うことができるため、好ましい。
【0053】
また、上記においては、リン拡散工程をバッチ処理で行う場合について説明したが、リン拡散工程を枚葉式で行う場合においても本発明は適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0054】
以上のように、本発明にかかる太陽電池の製造方法は、半導体基板上での窒化膜を備えた太陽電池の製造に有用である。
【符号の説明】
【0055】
1 太陽電池セル
11 半導体基板
11a p型多結晶シリコン基板
13 p型多結晶シリコン層
15 n型不純物拡散層
15a n型不純物拡散層
17 反射防止膜
17a 剥離膜
19 受光面側電極
19a 表銀ペースト層
21 裏面側電極
21a 裏面アルミニウムペースト層
23 表銀グリッド電極
25 表銀バス電極
31 リンガラス層
32 特定有機物質
33 変質物質

【特許請求の範囲】
【請求項1】
p型の半導体基板の表面にリンが拡散されてなるn型のリン拡散層と前記リン拡散層上に設けられた窒化膜とを備えた太陽電池の製造方法であって、
前記半導体基板の表面にリンを拡散させて前記半導体基板の表面に前記リン拡散層を形成する第1工程と、
前記第1工程において前記リン拡散層上を含む前記半導体基板の表面に形成されたリンガラス層を除去する第2工程と、
前記リンガラス層が除去された前記リン拡散層上に窒化膜を形成する第3工程と、
を含み、
前記第1工程後であって前記第2工程前の状態の前記リンガラス層の表面に対する、質量分析法によるマススペクトルが質量電荷比(質量数/電荷)88において一番大きいピークを有する有機物質の吸着を判定し、前記有機物質の吸着があったと判定された場合にのみ前記第2工程後であって前記第3工程の前に前記リン拡散層の表面に対してアンモニアガスを用いたプラズマ処理を行うこと、
を特徴とする太陽電池の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程では、前記有機物質の吸着を判定するための専用のモニター基板を含む複数の前記半導体基板に対してバッチ処理により前記リン拡散層の形成を行い、
前記モニター基板を用いて前記有機物質の吸着を判定すること、
を特徴とする請求項1に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項3】
前記第1工程と前記第2工程との間に前記半導体基板と前記リン拡散層との接合を分離する第4工程を有し、
前記第4工程の直前において前記有機物質の吸着を判定すること、
を特徴とする請求項1に記載の太陽電池の製造方法。
【請求項4】
飛行時間型2次イオン質量分析法により前記リンガラス層の表面分析を行って前記有機物質の吸着を判定すること、
を特徴とする請求項1に記載の太陽電池の製造方法。

【図1−1】
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【図1−2】
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【図1−3】
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【図2−1】
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【図2−2】
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【図2−3】
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【図2−4】
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【図2−5】
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【図2−6】
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【図3】
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【図4−1】
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【図4−2】
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【図4−3】
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【図4−4】
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【公開番号】特開2011−165806(P2011−165806A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−25378(P2010−25378)
【出願日】平成22年2月8日(2010.2.8)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】