説明

好中球による肺浸潤を軽減するためのcis−エポキシエイコサトリエン酸および可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤の使用

可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)阻害剤は、閉塞性肺疾患、拘束性気道疾患、および喘息の重篤度の低下または進行の阻害において有用であることが現在、発見されている。この阻害剤に加えて、cis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)の投与は、肺に存在する好中球の数の減少により測定されたように、これらの状態および疾患の軽減または阻害において少なくとも相加的であり、かつ相乗的であり得る。sEH阻害剤は低分子干渉RNAなどの核酸でもよい。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2004年3月31日に出願された米国特許出願第10/815,425号の恩典を主張する。米国特許出願第10/815,425号の内容は参照として本明細書に組み入れられる。
【0002】
連邦政府の支援による研究および開発によってなされた発明に対する権利に関する記載
本発明は、米国立衛生研究所により付与された助成金番号ES02710およびES04699による政府支援によってなされた。政府は本発明において一定の権利を有する。
【0003】
付録として提出した、コンパクトディスク上の「配列表」、表、またはコンピュータプログラムへの言及
該当なし。
【背景技術】
【0004】
発明の背景
気腫および慢性気管支炎を伴う閉塞性気道疾患は、喫煙による死亡の26%に関与している(Peto, R. et al., Lancet 339:1268-1278 (1992)(非特許文献1))。慢性閉塞性肺疾患(COPD)は米国において約2000万人の男性および女性に蔓延しており、4番目に大きな死因である(死亡率20/100,000)(Snider, G. L. ed. Leff, A. R. (McGraw-Hill, New York), pp. 821-828 (1996)(非特許文献2))。COPDの最もよくみられる原因はタバコの喫煙である。しかしながら、禁煙しても、気道に存在する炎症反応を含むCOPDの特徴の多くが自然治癒するように見えない(Turato, G. et al., Am J Respir Crit Care Med 152:1262-126 (1995)(非特許文献3); Rutgers, S. R. et al., Thorax 55:12-18 (2000)(非特許文献4))。慢性的な気管支炎症は、喘息、急性呼吸窮迫症候群、およびCOPDなどの多くの疾患の原因に関与する一般的な特徴である。慢性気管支炎およびCOPDの病状には、気道粘液腺過形成、粘液過分泌、ならびに好中球、マクロファージ、およびリンパ球を含む炎症細胞の流入が含まれる(Jeffery, P. K. Thorax 53:129-136 (1998)(非特許文献5); Fournier, M. et al., Am. Rev. Respir. Dis. 140:737-742 (1989)(非特許文献6); Saetta, M. et al.., Am. J. Respir. Crit. Care Med. 156:1633-1639 (1997)(非特許文献7); Grashoff, W. F. et al., Am. J. Pathol. 151:1785-1790 (1997)(非特許文献8); Saetta, M. et al., Am. J. Respir. Crit. Care Med. 157:822-826 (1998)(非特許文献9))。慢性炎症はまた、癌につながる細胞変化に理想的な環境をもたらすことがある。
【0005】
エポキシドヒドロラーゼ(EH)は、エポキシドに水を付加して、対応する1,2-ジオールを生じさせる酵素である(Hammock, B. D. et al., in Comprehensive Toxicology: Biotransformation (Elsevier, New York), pp. 283-305 (1997)(非特許文献10); Oesch, F. Xenobiotica 3:305- 340 (1972)(非特許文献11))。4種類の主要なEH(ロイコトリエンエポキシドヒドロラーゼ、コレステロールエポキシドヒドロラーゼ、ミクロソームEH(「mEH」)、および可溶性EH(「sEH」(以前はサイトゾルEHと呼ばれていた))が知られている。ロイコトリエンEHはロイコトリエンA4に作用するのに対して、コレステロールEHは、コレステロールの5,6-エポキシドに関連する化合物を加水分解する(Nashed, N. T., et al., Arch. Biochem. Biophysics., 241:149-162, 1985(非特許文献12); Finley, B. and B. D. Hammock, Biochem. Pharmacol., 37:3169-3175,1988(非特許文献13))。ミクロソームエポキシドヒドロラーゼは、一置換エポキシド、1,1-二置換エポキシド、cis-1,2-二置換エポキシド、および環式構造エポキシド上のエポキシドを対応するジオールに代謝する。この酵素は広い基質特異性があるために、エポキシド毒性の改善に重要な役割を果たしていると考えられている。一般的に、解毒反応によって化合物の疎水性が低下し、極性が高く(それによって排泄可能な)物質が生じる。
【0006】
可溶性EHはmEHとの関連性はわずかしかなく、環式構造上にない広範囲のエポキシドを加水分解する。潜在的な毒性エポキシドの分解においてmSHが果たす役割とは対照的に、sEHは、内因性化学伝達物質の形成または分解において役割を果たしていると考えられている。例えば、チトクロムP450エポキシゲナーゼは、アラキドン酸から4種類の光学活性cis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)へのNADPH依存性エナンチオ選択的エポキシ化を触媒する(Karara, A., et al., J. Biol. Chem., 264:1 9822-19877, (1989)(非特許文献14))。可溶性エポキシドヒドロラーゼは、インビボで、位置特異性およびエナンチオ特異性を有するこれらの化合物を、対応するvic-ジヒドロキシエイコサトリエン酸(「DHET」)に変換することが示されている。肝臓サイトゾル画分および肺サイトゾル画分は両方とも、優先順序で、14,15-EET、8,9-EET、および11,12-EETを加水分解する。5,6EETは、さらにゆっくりと加水分解される。精製されたsEHは、基質として、これらの鏡像異性体の中で8S,9R-EETと14R,15S-EETを選択する。研究から、EETおよびその対応するDHETは広範囲の生物学的活性を示すことが分かっている。これらの活性の一部には、黄体形成ホルモン放出ホルモンへの関与、黄体形成ホルモン放出の刺激、Na+/K+ATPaseの阻害、冠状動脈の血管拡張、Ca2+の動員、および血小板凝集の阻害が含まれる。
【0007】
【非特許文献1】Peto, R. et al., Lancet 339:1268-1278 (1992)
【非特許文献2】Snider, G. L. ed. Leff, A. R. (McGraw-Hill, New York), pp. 821-828 (1996)
【非特許文献3】Turato, G. et al., Am J Respir Crit Care Med 152:1262-126 (1995)
【非特許文献4】Rutgers, S. R. et al., Thorax 55:12-18 (2000)
【非特許文献5】Jeffery, P. K. Thorax 53:129-136 (1998)
【非特許文献6】Fournier, M. et al., Am. Rev. Respir. Dis. 140:737-742 (1989)
【非特許文献7】Saetta, M. et al.., Am. J. Respir. Crit. Care Med. 156:1633-1639 (1997)
【非特許文献8】Grashoff, W. F. et al., Am. J. Pathol. 151:1785-1790 (1997)
【非特許文献9】Saetta, M. et al., Am. J. Respir. Crit. Care Med. 157:822-826 (1998)
【非特許文献10】Hammock, B. D. et al., in Comprehensive Toxicology: Biotransformation (Elsevier, New York), pp. 283-305 (1997)
【非特許文献11】Oesch, F. Xenobiotica 3:305- 340 (1972)
【非特許文献12】Nashed, N. T., et al., Arch. Biochem. Biophysics., 241:149-162, 1985
【非特許文献13】Finley, B. and B. D. Hammock, Biochem. Pharmacol., 37:3169-3175,1988
【非特許文献14】Karara, A., et al., J. Biol. Chem., 264:1 9822-19877, (1989)
【発明の開示】
【0008】
発明の簡単な概要
本発明は、多くの使用、組成物、および方法を提供する。1つの群の態様において、本発明は、閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、および喘息からなる群より選択される状態の進行を阻害する、または遅らせる医用薬剤を製造するための、cis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)の使用を提供する。閉塞性肺疾患は、慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)、気腫、および慢性気管支炎からなる群より選択することができる。ある態様において、間質性肺疾患は特発性肺線維症である。他の態様において、間質性肺疾患は塵埃への職業性被爆に関連するものである。ある態様において、状態は喘息である。EETは、14,15-EET、8,9-EET、および11,12-EETであり得る。5,6-EETは不安定であるが、ある用途に適している場合がある。ある態様において、EETは14R,15S-EETである。EETは、EETを周囲環境に徐々に放出する材料の中にあってもよい。好ましくは、医用薬剤は吸入による投与に適している。
【0009】
別の組の態様において、本発明は、閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、および喘息からなる群より選択される状態の進行を阻害する、または遅らせる医用薬剤を製造するための、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)阻害剤の使用を提供する。閉塞性肺疾患は、例えば、慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)、気腫、および慢性気管支炎からなる群より選択することができる。間質性肺疾患は、例えば、特発性肺線維症でもよく、塵埃への職業性被爆に関連するものでもよい。状態は喘息でもよい。sEH阻害剤は、アダマンチルドデシルウレア(例えば、ブチルエステル)、N-シクロヘキシル-N'-ドデシルウレア(CDU)、およびN,N'-ジシクロヘキシルウレア(DCU)でもよい。医用薬剤は徐放性製剤でもよい。さらに、医用薬剤はcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)を含んでもよい。EETは、14,15-EET、8,9-EET、または11,12-EETでもよい。ある好ましい態様において、EETは14R,15S-EETである。好ましくは、医用薬剤は吸入による投与に適している。
【0010】
さらに、本発明は、閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、および喘息からなる群より選択される状態の進行を阻害する、または遅らせる医用薬剤を製造するための、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)の発現を阻害する核酸の使用を提供する。ある好ましい態様において、核酸は低分子干渉RNAである。閉塞性肺疾患は、例えば、慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)、気腫、または慢性気管支炎でもよい。間質性肺疾患は、例えば、特発性肺線維症でもよく、塵埃への職業性被爆に関連するものでもよい。状態は喘息でもよい。ある態様において、医用薬剤は吸入による投与に適している。
【0011】
なおさらなる群の態様において、本発明は、閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、および喘息からなる群より選択される状態の進行を阻害する方法を提供する。この方法は、それを必要とする人に、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)阻害剤およびcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)を投与する工程を含む。閉塞性肺疾患は、例えば、慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)、気腫、または慢性気管支炎でもよい。間質性肺疾患は、例えば、特発性肺線維症でもよく、塵埃への職業性被爆に関連するものでもよい。状態は喘息でもよい。sEH阻害剤もしくはEET、または両方が、阻害剤を徐々に放出する材料の中にあってもよい。EETは、14,15-EET、8,9-EET、または11,12-EETでもよい。ある好ましい態様において、EETは14R,15S-EETである。阻害剤は経口投与されてもよく、吸入によって投与されてもよい。一般的に、阻害剤は、約0.001mg/kg〜約100mg/kg体重の総一日量で投与される。
【0012】
別の群の態様において、本発明は、閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、および喘息からなる群より選択される状態の進行を阻害する方法を提供する。この方法は、それを必要とする人に、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)をコードする遺伝子の発現を阻害する核酸、およびcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)を投与する工程を含む。閉塞性肺疾患は、例えば、慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)、気腫、または慢性気管支炎でもよい。間質性肺疾患は、例えば、特発性肺線維症でもよく、塵埃への職業性被爆に関連するものでもよい。状態は喘息でもよい。核酸は低分子干渉RNA(「siRNA」)でもよい。
【0013】
詳細な説明
I.序論
慢性閉塞性肺疾患すなわちCOPDは、米国および他の国における主な死因の1つである肺疾患である。COPDは2つの症状(気腫および慢性気管支炎)を含む。これらの症状は、大気汚染、化学物質への慢性曝露、およびタバコ煙によって肺に引き起こされる損傷と関連している。疾患としての気腫は、肺の肺胞への損傷と関連している。肺胞への損傷によって、肺胞間の仕切りが無くなり、その結果として、ガス交換に利用可能な全表面積が減少する。慢性気管支炎は細気管支の過敏と関連している。細気管支の過敏によって、ムチンが過剰に生産され、その結果として、肺胞につながる気道がムチンによって塞がれる。気腫のある人は必ずしも慢性気管支炎を有するとは限らず、逆もまた同じであるが、これらの症状の1つを有する人はもう一方の症状ならびに他の肺疾患も有するのが一般的である。
【0014】
驚くべきことに、可溶性エポキシドヒドロラーゼまたは「sEH」として公知の酵素の阻害剤を投与することによって、COPD、気腫、慢性気管支炎、および他の閉塞性肺疾患による肺損傷の一部を阻害または逆転できることが、現在発見されている。さらに驚くべきことに、cis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)も投与することによって、sEH阻害剤の効果を高めることができることが現在、発見されている。この作用は、これらの2種類の薬剤の単独投与より優れて、少なくとも相加作用であり、実際は相乗作用であり得る。以下でさらに詳細に述べるように、本明細書において報告される研究の結果から、本発明は、間質性肺疾患および喘息による損傷の軽減に有用であるだろう。
【0015】
アラキドン酸のエポキシドであるEETは、血圧のエフェクター、炎症のレギュレーター、および血管透過性のモジュレーターであることが知られている。エポキシドがsEHによって加水分解されると、この活性が低下する。sEHが阻害されると、EETがDHETに加水分解される速度が遅くなるため、EET濃度が上昇する。
【0016】
本発明の方法において有用なEETには、優先順序で、14,15-EET、8,9-EET、および11,12-EET、ならびに5,6EETが含まれる。好ましくは、EETは、より安定なメチルエステルとして投与される。当業者であれば、EETは位置異性体(例えば、8S,9R-EETおよび14R,15S-EET)であることを理解するであろう。8,9-EET、11,12-EET、および14R,15S-EETは、例えば、Sigma-Aldrich(それぞれ、カタログ番号E5516、E5641、およびE5766,Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO)から市販されている。
【0017】
EETは、主として、内因性sEHによる加水分解が速すぎて役に立たないと考えられていたという理由で、以前に治療目的で投与されたことがない。外因性EETを投与して、通常存在するEET濃度以上にEET濃度を上昇させるために、肺の内因性sEHを十分に阻害できるかどうかは分かっていなかった。さらに、エポキシドとしてのEETは不安定すぎて、治療目的の使用に必要な保存および取り扱いが不可能であると考えられていた。
【0018】
しかしながら、本発明の基礎をなす研究において、タバコ煙に曝露されたラットにEETとsEH阻害剤を投与すると、肺における白血球の補充のレベルがsEH阻害剤のみの投与より低下した。この結果から、肺へのタバコ煙関連過敏の軽減において、2種類の薬剤の組み合わせがsEH阻害剤のみの投与より強力であることが分かる。(EETは分解が速すぎて有用な効果がないと予想されたので、単独で投与されなかった)。さらに、本発明者らは、EETは酸性条件またはsEHに曝露されなければ安定であり、適度な保存、取り扱い、および投与に耐えることができることを発見した。
【0019】
従って、本明細書において報告された結果から、タバコ煙による、拡張(extension)による、職業性刺激物もしくは環境刺激物による肺への損傷を軽減するために、EETとsEH阻害剤は併用できることが分かる。これらの発見から、COPD、気腫、慢性気管支炎、または肺に過敏を引き起こす他の慢性閉塞性肺疾患の発症または進行を阻害するか、または遅らせるために、sEH阻害剤およびEETの同時投与を使用することができることが分かる。
【0020】
本発明者らのCOPD動物モデルおよびヒトにおいて、本発明者らは、免疫調節性リンパ球および好中球の濃度が上昇していることを発見した。好中球は、組織損傷を引き起こす因子を放出し、調節されていなくても、ある期間にわたって破壊作用を有する。理論に拘束されるつもりはないが、好中球濃度が低下すると、COPD、気腫、および慢性気管支炎などの閉塞性肺疾患に寄与する組織損傷が軽減すると考えられている。実施例において報告された研究において、COPD動物モデルのラットにsEH阻害剤を投与すると、肺に見られる好中球の数が約55%低下した。sEH阻害剤に加えてEETを投与すると、好中球濃度が合計約73%低下した。sEH阻害剤およびEETの存在下での好中球濃度は、sEH阻害剤のみの存在下より約41%低下した。図4を参照されたい。
【0021】
これは重要な進歩である。sEH阻害剤の働きによって引き起こされるsEH活性阻害によって、内因性EET濃度は上昇する、従って、症状または病状が少なくともある程度改善されると予想されるが、COPDまたは他の肺疾患の進行を阻害するには全ての場合において十分でないかもしれない。このことは、疾患または他の要因が、健常個体に通常存在する内因性EET濃度以下に内因性EET濃度を低下させている場合に特に当てはまる。従って、外因性EETとsEH阻害剤の投与は、COPDまたは他の肺疾患の進行の阻害または軽減におけるsEH阻害剤の効果を増大させると予想される。
【0022】
慢性閉塞性気道疾患の進行の阻害または軽減に加えて、本発明はまた、慢性拘束性気道疾患の重篤度または進行を軽減する新たなやり方を提供する。閉塞性気道疾患は肺の実質組織、特に、肺胞の破壊に起因する傾向があるが、拘束性疾患は、実質組織における過剰なコラーゲンの沈着に起因する傾向がある。これらの拘束性疾患は俗に「間質性肺疾患」または「ILD」と呼ばれており、特発性肺線維症などの状態を含む。本発明の方法、組成物、および使用は、特発性肺線維症などのILDの重篤度または進行の軽減に有用である。マクロファージは間質細胞(特に、コラーゲンを貯蔵する線維芽細胞)の刺激において重要な役割を果たしている。理論に拘束されるつもりはないが、好中球はマクロファージの活性化に関与すると考えられ、本明細書に報告された研究において発見された好中球濃度の低下は、本発明の方法および使用がILDの重篤度および進行の軽減にも適用可能であることを証明している。
【0023】
ある好ましい態様において、ILDは特発性肺線維症である。他の好ましい態様において、ILDは、職業性被爆もしくは環境曝露に関連するものである。このようなILDの例は、石綿症、珪肺、炭坑労働者の塵肺症、およびベリリウム症である。さらに、セメント塵、コークス炉放出物、雲母、岩粉、綿塵、および穀物塵を含む、多くの種類の無機塵埃および有機塵埃のいずれかに対する職業性被爆が粘液過分泌および呼吸器疾患に関連していると考えられている(これらの状態に関連する職業塵埃のより完全なリストについては、Speizer,「Environmental Lung Diseases」Harrison's Principles of Internal Medicine,下記, pp. 1429-1436の表254-1を参照されたい)。他の態様において、ILDは肺サルコイドーシスである。ILDはまた、医学的処置における放射線(特に、乳癌の医学的処置における放射線)に起因することもあり、慢性関節リウマチおよび全身性硬化症などの結合組織病または膠原病に起因することもある。本発明の方法、使用、および組成物は、これらの間質性肺疾患の各々に有用であり得ると考えられる。
【0024】
別の組の態様において、本発明は、喘息の重篤度または進行を軽減するために用いられる。一般的に、喘息によってムチンの過分泌が起こり、それによって気道が部分的に閉塞する。さらに、気道過敏によってメディエーターが放出され、それによって気道が閉塞する。喘息において肺に補充されるリンパ球および他の免疫調節性細胞は、COPDまたはILDの結果として補充されるものとは異なり得るが、本発明によって免疫調節性細胞(例えば、好中球および好酸球)の流入が低下し、閉塞の程度が寛解すると予想される。従って、sEH阻害剤の投与およびsEH阻害剤とEETを組み合わせた投与は、喘息による気道閉塞の軽減に有用であると予想される。
【0025】
これらの疾患および状態の各々において、肺損傷の少なくとも一部は肺に浸潤する好中球によって放出される因子によるものであると考えられている。従って、気道における好中球の存在は、疾患または状態による損傷が持続することを示しているのに対して、好中球数の減少は、損傷または疾患進行の軽減を示している。従って、薬剤の存在下での気道における好中球数の減少は、薬剤が疾患または状態による損傷を軽減し、疾患または状態のこれ以上の進展を遅らせているマーカーである。肺に存在する好中球の数は、例えば、気管支肺胞洗浄によって決定することができる。
【0026】
本発明者らは以前、sEH阻害剤が高血圧の治療および炎症の軽減に用いられることを発見した。本発明のある態様において、本発明の方法または組成物によってCOPD、喘息、ILDなどの治療を受けている人は高血圧を有さない。ある態様において、治療を受けている人には炎症を有さず、または炎症を有しても、sEH阻害剤を抗炎症剤として服用していない。ある好ましい態様において、治療を受けている人は、sEH阻害剤でない抗炎症剤(例えば、ステロイド)によって炎症の治療を受けている。例えば、COPD患者には抗炎症剤としてプレドニゾンまたはメチルプレドニゾロンなどのステロイドが処方されることが多い。これらの薬剤は、sEHに対して阻害作用があると考えられていない、または知られていない。特定の抗炎症剤もまたsEH阻害剤であるか、sEH阻害剤でないかは、標準的なアッセイ法(例えば、米国特許第5,955,496号に開示されるアッセイ法)によって容易に確かめることができる。
【0027】
ある態様において、患者の疾患または状態は、自己免疫疾患またはTリンパ球を介した免疫機能自己免疫応答に関連する疾患が原因でないことが好ましい。ある態様において、患者は、1型糖尿病または2型糖尿病、インスリン抵抗性症候群、アテローム性動脈硬化症、冠状動脈疾患、アンギナ、虚血、虚血性脳卒中、レイノー病、または腎疾患より選択される病理学的状態を有さない。ある態様において、患者は、血圧が130/80以下の糖尿病の人、血圧が130/85未満のメタボリックシンドロームの人、トリグリセリド濃度が215mg/dLを超える人、コレステロール濃度が200mg/dLを超える人でないか、またはsEH阻害剤を服用していない、これらの状態の1つまたは複数を有する人である。
【0028】
1つまたは複数の種類のsEH阻害剤と共に投与することが可能なEET医用薬剤が製造されてもよく、1つまたは複数の種類のsEH阻害剤を含有する医用薬剤が1つまたは複数の種類のEETを任意に含有してもよい。EETは、sEH阻害剤と同時投与されてもよく、sEH阻害剤投与後に投与されてもよい。全ての薬物と同様に、阻害剤には、身体の代謝速度または排出速度によって規定される半減期があり、阻害剤が効果を示すのに十分な量で存在する投与後期間があることが理解される。従って、阻害剤が投与された後に、EETが投与される場合、EETは、阻害剤がEETの加水分解を遅らせるのに有効な量で存在する期間の間に投与されることが望ましい。一般的に、1つまたは複数の種類のEETは、sEH阻害剤を投与して48時間以内に投与される。好ましくは、1つまたは複数の種類のEETは、阻害剤の24時間以内に投与され、さらにより好ましくは12時間以内に投与される。望ましさの高い順序で、1つまたは複数の種類のEETは、阻害剤の投与後、10時間以内、8時間以内、6時間以内、4時間以内、2時間以内、1時間以内、または30分以内に投与される。最も好ましくは、1つまたは複数の種類のEETは阻害剤と同時に投与される。
【0029】
ある態様において、sEH阻害剤は、sEHをコードする遺伝子の発現を低下させる核酸(例えば、低分子干渉RNA(siRNA)またはミクロRNA(miRNA))でもよい。EETは、このような核酸と組み合わせて投与することができる。一般的に、研究によって、核酸投与後であって、sEH濃度の減少が見られる前の期間が求められる。次いで、一般的に、核酸の活性によってsEH濃度が低下した後であると計算された時間に、1つまたは複数の種類のEETが投与される。
【0030】
ある態様において、EET、sEH阻害剤、またはその両方が、作用期間を長くするために徐放を可能にする材料の中に入れて提供される。徐放性コーティングは薬学の分野において周知である。特定の徐放性コーティングの選択は本発明の実施にとって重要でない。
【0031】
EETは酸性条件下で分解されやすい。従って、EETが経口投与される場合、胃の中で分解しないように保護することが望ましい。都合よく、経口投与用のEETは、胃の酸性環境から腸の塩基性環境に通過できるようにコーティングすることができる。このようなコーティングは当技術分野において周知である。例えば、いわゆる「腸溶コーティング」でコーティングされたアスピリンは商業的に広く入手することができる。このような腸溶コーティングは、胃を通過する間にEETを保護するのに使用することができる。例示的なコーティングを実施例に示した。
【0032】
II.定義
単位、接尾語、および記号は、国際単位系(Systeme International de Unites)(SI)により認められた形で表示した。数字の範囲は、その範囲を規定する数字を含む。他で特定しない限り、核酸は左から右へ5'方向から3'方向へ書かれている。アミノ酸配列は左から右へアミノ方向からカルボキシ方向へ書かれている。本明細書において示される表題は、本明細書全体を参照することによって有することができる本発明の様々な局面または態様の限定ではない。従って、すぐ下で定義される用語は、本明細書全体を参照することによって、さらに的確に定義される。本明細書において定義される用語は、当業者に理解されるような普通の意味を有する。
【0033】
「cis-エポキシエイコサトリエン酸」(「EET」)は、チトクロムP450エポキシゲナーゼによって合成されるバイオメディエーター(biomediator)である。
【0034】
「エポキシドヒドロラーゼ」(「EH;」EC3.3.2.3)は、水を、エポキシドと呼ばれる3員環エーテルに付加するαβヒドロラーゼフォールドファミリー(alpha beta hydrolase fold family)の酵素である。
【0035】
「可溶性エポキシドヒドロラーゼ」(「sEH」)は、内皮細胞および平滑筋細胞において、EETを、ジヒドロキシエイコサトリエン酸(「DHET」)と呼ばれるジヒドロキシ誘導体に変換する酵素である。マウスsEHのクローニングおよび配列は、Grant et al., J. Biol. Chem. 268(23): 17628-17633 (1993)に示されている。ヒトsEH 配列のクローニング、配列、およびアクセッション番号は、Beetham et al., Arch. Biochem. Biophys. 305(1): 197-201 (1993)において示されている。ヒトsEHのアミノ酸配列は、米国特許第5,445,956号のSEQ ID NO:2として示されている。ヒトsEHをコードする核酸配列は、前記の特許のSEQ ID NO:1のヌクレオチド42〜1703として示されている。この遺伝子の進化および命名は、Beetham et al., DNA Cell Biol. 14(1):61-71 (1995)において述べられている。可溶性エポキシドヒドロラーゼは、げっ歯類とヒトの間で90%を超える相同性を有する、高度に保存された単一遺伝子産物である(Arand et al., FEBS Lett., 338:251-256 (1994))。他で特定しない限り、本明細書で使用する用語「可溶性エポキシドヒドロラーゼ」および「sEH」はヒトsEHを指す。
【0036】
他で特定しない限り、本明細書で使用する用語「sEH阻害剤」は、ヒトsEH阻害剤を意味する。好ましくは、阻害剤はまた、阻害剤がsEHを少なくとも50%阻害する濃度で、ミクロソームエポキシドヒドロラーゼの活性を25%を超えて阻害せず、より好ましくは、その濃度でmEHを10%を超えて阻害しない。より言及しやすくするための便宜上、文脈によって特に必要とされない限り、本明細書で使用する用語「sEH阻害剤」は、活性型sEH阻害剤に代謝されるプロドラッグを含む。さらに、より言及しやすくするための便宜上、および文脈によって特に必要とされる場合を除いて、本明細書におけるsEH阻害剤としての化合物への言及は、sEH阻害剤としての活性を保持している、その化合物の誘導体(例えば、その化合物のエステル)への言及を含む
【0037】
「生理学的条件」は、関心対象の細胞の維持または増殖を可能にする条件(例えば、温度、pH、およびモル浸透圧濃度)を有する細胞外環境を意味する。
【0038】
文脈によって特に必要とされない限り、EETおよびsEH阻害剤を必要とする人にEETおよびsEH阻害剤を「投与する」は、sEH阻害剤を投与した後に、sEHによるEET加水分解の速度を少なくとも25%低下させるのに十分な量のsEH阻害剤が依然として存在する間に、EETを後投与することを含む。
【0039】
「実質組織」は、関連する結合組織または支持組織とは区別される、器官に特有の組織を意味する。
【0040】
「慢性閉塞性肺疾患」または「COPD」は、時として、「慢性閉塞性気道疾患」、「慢性閉塞性肺疾患」、および「慢性気道疾患」としても公知である。COPDは、一般的に、最大呼気速度の低下および肺の強制排出(forced emptying)の遅延を特徴とする疾患として定義される。COPDは、2つの関連する症状(気腫および慢性気管支炎)を含むとみなされている。COPDは、当技術分野において認められている技法(例えば、患者の努力肺活量(「FVC」)(最大吸入の後に強制的に排出することができる最大空気体積))を用いて、一般医によって診断することができる。FVCは、一般医の診察室において、典型的的に、肺活量計による6秒最大呼息によって見積もられる。COPD、気腫、および慢性気管支炎の定義、診断、および治療は当技術分野において周知であり、例えば、Honig and Ingram, in Harrison's Principles of Internal Medicine, (Fauci et al, Eds.), 14th Ed., 1998, McGraw-Hill, New York, pp. 1451-1460 (以下「Harrison's Principles of Internal Medicine」)によって詳細に述べられている。
【0041】
「気腫」は、終末細気管支の遠位にある気腔の恒久的な破壊的拡大を特徴とし、明らかな線維症のない肺疾患である。
【0042】
「慢性気管支炎」は、2年にわたって、1年に3ヶ月、1ヶ月の大半続く慢性気管支分泌を特徴とする肺疾患である。
【0043】
名前が示すように、「閉塞性肺疾患(obstructive pulmonary disease)」および「閉塞性肺疾患(obstructive lung disease)」は、拘束性疾患とは相対する閉塞性疾患を意味する。これらの疾患には、特に、COPD、気管支喘息、および小気道疾患が含まれる。
【0044】
「小気道疾患」。空気流の閉塞が、小気道の関与のみによる、または主に末梢気道の関与によるものである、別個の少数派の患者がいる。これらは直径が2mm未満の気道と定義され、小軟骨性気管支(small cartilaginous bronchi)、終末細気管支、および呼吸細気管支に対応する。小気道疾患(SAD)は、気道抵抗を高める炎症性変化および線維性変化による管腔閉塞である。閉塞は一過的でもよく、恒久的でもよい。
【0045】
「間質性肺疾患(ILD)」は、肺胞壁、肺胞周囲組織、および隣接する支持構造が関与する状態の一群である。米国肺学会(American Lung Association)のウェブサイトにおいて説明されているように、肺の肺胞嚢間の組織は間質であり、これは、この疾患における線維増多の影響を受ける組織である。この疾患にかかっている人は、肺組織が硬いために吸い込みが困難であるが、閉塞性肺疾患の人とは対照的に、吐き出しは困難でない。間質性肺疾患の定義、診断、および治療は当技術分野において周知であり、例えば、Reynolds, H.Y., Harrison's Principles of Internal Medicine, 前記, pp. 1460-1466によって詳細に述べられている。Reynoldsは、ILDには様々な初期事象があるが、肺組織の免疫病理学的反応は限定されており、従って、ILDには共通の特徴があると述べている。
【0046】
「特発性肺線維症」または「IPF」はILDのプロトタイプとみなされている。原因が分かっていないので特発性であるが、Reynolds, 前記は、この用語が明確な臨床的実体(clinical entity)を指すと述べている。
【0047】
「気管支肺胞洗浄」または「BAL」は、下気道からの細胞の取り出しと検査を可能にする検査であり、IPFなどの肺疾患の診断法としてヒトに用いられる。ヒト患者において、BALは通常、気管支鏡検査の間に行われる。
【0048】
ほとんど全ての形態の仕事の間に、就業者は環境にある一般的な塵埃に曝露されると理解されている。環境にある一般的な塵埃への曝露は特に毒性はないが、塵埃への職業性被爆、特に、様々な塵埃(例えば、セメント塵、コークス炉放出物、雲母、岩粉、綿塵、および穀物塵)のいずれかへの慢性曝露は粘液過分泌および呼吸器疾患の原因となることが当技術分野において周知である(これらの状態に関連する職業塵埃のより完全なリストについては、Speizer, 「Environmental Lung Diseases」 Harrison's Principles of Internal Medicine,下記, pp. 1429-1436の表254-1を参照されたい)。従って、本明細書で使用する用語「塵埃への職業性被爆」は、呼吸器疾患の原因であることが公知であるか、または発見されている塵埃への曝露を意味し、ある好ましい態様では、前記で言及された塵埃を意味する。
【0049】
「ミクロRNA」(「miRNA」)は、多くの真核生物において相補的なmRNAを転写後レベルで負に調節する、長さが18〜25ntの小さな非コードRNAを意味する。例えば、Kurihara and Watanabe, Proc Natl Acad Sci USA 101(34):12753-12758 (2004)を参照されたい。ミクロRNAは、1990年代の初めに線虫C.elegansにおいて最初に発見され、現在、ヒトを含む多くの種において知られている。本明細書で使用する「ミクロRNA」は、特に具体的に言及されていない限り、または文脈によって特に必要とされていない限り、外因的に投与されたmiRNAを意味する。
【0050】
薬剤は、エアロゾル、細粉、または細かい霧として肺に送達することができる。例えば、液体は、液体を細かい霧に変えるネブライザーで肺に送達されることが多い。用語「吸入に適した」は、薬剤が、これらの送達方法の1つまたは複数によって肺に送達される形であることを伝えることを目的とする。「吸入」は、口を通って肺に送達されることを示すことを目的とするのに対して、「鼻腔内投与」は、最初に鼻の粘膜および関連する構造に送達されることを伝えることを意図する。
【0051】
III.可溶性エポキシドヒドロラーゼ阻害剤
様々な化学構造の多数のsEH阻害剤が知られている。sEH阻害剤として、尿素、カルバメート、またはアミドファーマコフォア(本明細書で使用する「ファーマコフォア」はsEHに結合するリガンド構造部分を意味する)がアダマンタンと12炭素鎖ドデカンの両方に共有結合している誘導体が特に有用である。代謝的に安定な誘導体がインビボで高い活性を有すると予想されるため好ましい。様々な尿素誘導体、カルバメート誘導体、およびアミド誘導体によるインビトロでのsEHの選択的および競合的な阻害は、例えば、この酵素を阻害する尿素誘導体の設計に関して内容のあるガイダンスを行っている、Morisseau et al., Proc. Natl. Acad. Sci. U. S. A, 96:8849-8854 (1999)によって開示されている。
【0052】
尿素誘導体は、sEH阻害剤の好ましい群を形成する遷移状態模倣物(transition state mimetics)である。この群の中にあるN,N'-ドデシル-シクロヘキシルウレア(DCU)が阻害剤として好ましいが、N-シクロヘキシル-N'-ドデシルウレア(CDU)が特に好ましい。一部の化合物(ジシクロヘキシルカルボジイミド(親油性ジイミド))は分解して、DCUなどの活性型尿素阻害剤になる。標準的なアッセイ法(例えば、本明細書に記載のアッセイ法)によって、任意の特定の尿素誘導体または他の化合物を、sEHを阻害する能力について簡単に試験することができる。sEH阻害剤としての尿素誘導体およびカルバメート誘導体の生成および試験は、例えば、Morisseau et al., Proc Natl Acad Sci (USA) 96:8849-8854 (1999)に詳述されている。
【0053】
N-アダマンチル-N'-ドデシルウレア(「ADU」)は代謝的に安定であり、かつsEHに対して特に高い活性を有する。(1-および2-アドママンチル(admamantyl)ウレアは両方とも試験されており、sEH阻害剤としてほぼ同じ高い活性を有する)。従って、アダマンチルドデシルウレアの異性体は特に好ましい阻害剤である。さらに、N,N'-ドデシル-シクロヘキシルウレア(DCU)および他のsEH阻害剤、特に、尿素のドデカン酸エステル誘導体は、本発明の方法における使用に適していると予想される。好ましい阻害剤には以下が含まれる。
12-(3-アダマンタン-1-イル-ウレイド)ドデカン酸(AUDA)

12-(3-アダマンタン-1-イル-ウレイド)ドデカン酸ブチルエステル(AUDA-BE)

アダマンタン-1-イル-3-{5-[2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ]ペンチル}ウレア(化合物950)

【0054】
他の多くの阻害剤(これらはどれも本発明の方法および組成物における使用に好ましい)が、同一所有者による(co-owned)出願であるPCT/US2004/010298および米国特許出願第2005/0026844号に示されている。
【0055】
米国特許第5,955,496号(‘496特許)は、本発明の方法において使用するのに適した多数のエポキシドヒドロラーゼ阻害剤を示している。阻害剤の一部類は、酵素の基質を模倣する阻害剤を含む。脂質アルコキシド(例えば、ステアリン酸の9-メトキシド)は、この群の阻害剤の一例である。‘496特許において説明された阻害剤に加えて、1ダース以上の脂質アルコキシド(オレイン酸のメチルアルコキシド、エチルアルコキシド、およびプロピルアルコキシド(ステアリン酸アルコキシドとしても公知)、リノール酸のメチルアルコキシド、エチルアルコキシド、およびプロピルアルコキシド、ならびにアラキドン酸のメチルアルコキシド、エチルアルコキシド、およびプロピルアルコキシドを含む)がsEH阻害剤として試験されており、全てsEH阻害剤として作用することが分かっている。
【0056】
別の群の態様において、‘496特許は、代謝回転が遅い代替酵素基質をもたらすsEH阻害剤を示している。この部類の阻害剤の例は、フェニルグリシドール(例えば、S,S-4-ニトロフェニルグリシドール)およびカルコンオキシドである。‘496特許は、適切なカルコンオキシドには4-フェニルカルコンオキシドおよび4-フルオロカルコンオキシドが含まれることを述べている。フェニルグリシドールおよびカルコンオキシドは、安定したアシル酵素を形成すると考えられている。
【0057】
本発明の方法における使用に適したさらなるsEH阻害剤は、米国特許第6,150,415号(‘415特許)および同第6,531,506号(‘506特許)において示されている。2種類の好ましい本発明の阻害剤が‘415特許および‘506特許に記載の式1および式2の化合物である。このような化合物を調製する手段およびエポキシドヒドロラーゼを阻害する能力について望ましい化合物をアッセイする手段も述べられている。特に、‘506特許は、多数の式1の阻害剤および約20個の式2の阻害剤を開示している。これらの阻害剤は、0.1μMという低い濃度でヒトsEHを阻害することが示された。本発明の方法においてうまくいくかどうか確かめるために、標準的なアッセイ法(例えば、以下の実施例に示したアッセイ法)によって、任意の特定の阻害剤を容易に試験することができる。
【0058】
前記のように、カルコンオキシドは代替酵素基質として役立ち得る。カルコンオキシドは特定の構造に部分的に左右される半減期を有するが、群として、カルコンオキシドの半減期は短い傾向がある(薬物の半減期は、通常、薬物濃度が初期値の半分に低下する時間として定義される。例えば、Thomas, G., Medicinal Chemistry: an introduction, John Wiley & Sons Ltd.(West Sussex, England, 2000)を参照されたい)。本発明の使用は、測定可能な期間(数日、数週間、または数ヶ月)にわたるsEH阻害を意図するので、医師が望ましいと考える期間より短い半減期を有するカルコンオキシドおよび他の阻害剤は、好ましくは、ある期間にわたって薬剤を提供する方法で投与される。例えば、阻害剤は、高い局所濃度をもたらすために、阻害剤をゆっくりと放出する材料(腎臓において、または腎臓の近くで阻害剤を放出する材料を含む)に入れて提供することができる。ある期間にわたって阻害剤の局所濃度を高くする投与方法は公知であり、半減期の短い阻害剤を用いた使用に限定されないが、半減期が比較的短い阻害剤の場合、好ましい投与方法である。
【0059】
酵素-基質遷移状態または反応中間体を模倣する阻害剤に基づいて可逆的に酵素と相互作用する‘506特許の式1の化合物に加えて、酵素の不可逆的阻害剤である化合物がある。活性型構造(例えば、‘506特許の表または式1にある構造)によって阻害剤は酵素に向けられ、酵素触媒部位にある反応性官能基は阻害剤と共有結合を形成することができる。このように相互作用することができる分子の一群は、リジンまたはヒスチジンと一緒にSN2で攻撃することができる、ハロゲンまたはトシラートなどの脱離基を有するであろう。または、反応性官能基は、エポキシドまたはMichaelアクセプター(例えば、α/β-不飽和エステル、アルデヒド、ケトン、エステル、またはニトリル)であり得る。
【0060】
さらに、式1の化合物に加えて、本発明を実施するための活性型誘導体を設計することができる。例えば、ジシクロヘキシルチオウレアを酸化させてジシクロヘキシルカルボジイミドにすることができる。ジシクロヘキシルカルボジイミドは、酵素または酸水溶液(生理食塩水)と共に活性型ジシクロヘキシルウレアを形成する。または、酸化、加水分解、またはグルタチオンなどの求核剤による攻撃が起こると、対応する親構造を生じさせる様々な置換基で、カルバメートまたは尿素にある酸プロトンを置換することができる。これらの材料はプロドラッグまたはプロトキシンとして公知である(Gilman et al., The Pharmacological Basis of Therapeutics, 7th Edition, MacMillan Publishing Company, New York, p. 16 (1985))。例えば、エステルは、放出されて、対応するアルコールおよび酸を酵素的に生じる一般的なプロドラッグである(Yoshigae et al., Chirality, 9:661-666 (1997))。薬物およびプロドラッグは、特異性を上げるためにキラルでもよい。これらの誘導体は、化合物の薬理学的特性を変えるために(例えば、水溶解度を上げるために、製剤の化学的特性を改善するために、組織標的化を変えるために、分布容積を変えるために、および浸透を変えるために)医用薬剤化学および農芸化学において広範囲に用いられている。これらはまた、毒物学的特性を変えるために用いられている。
【0061】
可能性のある多くのプロドラッグがあるが、本明細書に記載の尿素にある2つの活性水素の一方もしくは両方の置換、またはカルバメートに存在する1つの活性水素の置換が特に魅力的である。このような誘導体はFukutoおよび同僚によって広範囲に説明されている。これらの誘導体は広範囲に説明されており、化合物の薬理学的特性を変えるために農芸化学および医用薬剤化学において一般的に用いられている(Black et al., Journal of Agricultural and Food Chemistry, 21(5):747-751 (1973); Fahmy et al, Journal of Agricultural and Food Chemistry, 26(3):550-556 (1978); Jojima et al., Journal of Agricultural and Food Chemistry, 31(3):613-620 (1983);およびFahmy et al., Journal of Agricultural and Food Chemistry, 29(3):567-572 (1981))。
【0062】
このような活性型プロインヒビター誘導体は本発明の範囲内であり、たった今引用された参考文献は参照により本明細書に組み入れられる。理論に拘束されるつもりはないが、酵素触媒部位と安定して相互作用するように、本発明の適切な阻害剤は酵素遷移状態を模倣すると考えられる。阻害剤は、触媒部位の求核性カルボン酸および極性化チロシンと水素結合を形成するように思われる。
【0063】
ある態様において、sEHの阻害は、sEHの量の減少を含むことがある。従って、本明細書で使用する「sEH阻害剤」は、sEHコード遺伝子の発現を阻害する核酸を含み得る。転写の減少およびsiRNAなどの遺伝子発現を減少させる多くの方法が知られており、以下でさらに詳しく説明される。
【0064】
好ましくは、阻害剤は、ミクロソームエポキシドヒドロラーゼ(「mEH」)を有意に阻害することなくsEHを阻害する。好ましくは、500μMの濃度で、阻害剤はsEH活性を少なくとも50%阻害すると同時に、mEH活性を10%を超えて阻害しない。好ましい化合物のIC50 (阻害効力、定義上、酵素活性を50%減少させる阻害剤の濃度)は、約500μM未満である。IC50が500μM未満の阻害剤が好ましく、IC50が100μM未満の阻害剤がより好ましく、IC50が減少するように、IC50が50μM、40μM、30μM、25μM、20μM、15μM、10μM、5μM、3μM、2μM、1μM、さらにはそれ以下の阻害剤がより好ましい。EH活性を求めるアッセイ法は当技術分野において公知であり、本明細書の他の箇所で説明される。
【0065】
IV.EET
COPDの発症または悪化を阻害するために、EETを投与することができる。好ましい態様において、1つまたは複数の種類のEETは急速に加水分解されないように、sEH阻害剤の投与と同時に、またはsEH阻害剤の投与後に投与される。
【0066】
任意で、1つまたは複数の種類のEETは、EETを徐々に放出する材料に埋め込まれるか、他の方法で入れられる。EETなどの組成物の徐放性を促進するのに適した材料は、当技術分野において公知である。
【0067】
都合よく、1つまたは複数の種類のEETは経口投与することができる。EETは酸性条件下で分解されやすいので、経口投与を目的としたEETは、酸性条件下での溶解に対して耐性があるが、腸に存在する弱塩基性条件下で溶解するコーティングでコーティングすることができる。「腸溶コーティング」として一般に知られている適切なコーティングは、胃障害を引き起こす、または胃酸に曝露されると分解する製品(例えば、アスピリン)に広く用いられている。適切な溶解特性を有するコーティングを使用することによって、コーティングされた物質を、腸管の選択された部分に放出することができる。例えば、結腸に放出される物質は、pH6.5〜7で溶解する物質でコーティングされるのに対して、十二指腸に放出される物質は、5.5を超えるpH値で溶解するコーティングでコーティングすることができる。このようなコーティングは、例えば、Rohm Specialty Acrylics (Rohm America LLC, Piscataway, NJ)から商品名「Eudragit(登録商標)」で市販されている。特定の腸溶コーティングの選択は本発明の実施にとって重要でない。
【0068】
好ましいEETには、優先順序で、14,15-EET、8,9-EET、および11,12-EETが含まれる。精製されたsEHは8S,9R-EETと14R,15S-EETを選択した。従って、これらのEETは特に好ましい。8,9-EET、11,12-EET、および14R,15S-EETは、例えば、 Sigma-Aldrich (それぞれ、カタログ番号E5516、E5641、およびE5766,Sigma-Aldrich Corp., St. Louis, MO)から市販されている。
【0069】
V.エポキシドヒドロラーゼ活性アッセイ法
エポキシドヒドロラーゼ活性を求める多くの標準的なアッセイ法のどれを用いても、sEHの阻害を確かめることができる。例えば、適切なアッセイ法は、Gill,, et al, Anal Biochem 131, 273-282 (1983);およびBorhan, et al, Analytical Biochemistry 231, 188-200 (1995))において述べられている。適切な インビトロアッセイ法は、Zeldin et al., J Biol. Chem. 268:6402-6407 (1993)において述べられている。適切なインビボアッセイ法は、Zeldin et al., Arch Biochem Biophys 330:87-96 (1996)において述べられている。推定天然基質および代用基質の両方を用いたエポキシドヒドロラーゼアッセイ法が概説されている(Hammock, et al. Methods in Enzymology, Volume III, Steroids and Isoprenoids, Part B, (Law, J.H. and H.C. Rilling, eds. 1985), Academic Press, Orlando, Florida, pp. 303-311およびWixtrom et al. , Biochemical Pharmacology and Toxicology, Vol. 1: Methodological Aspects of Drug Metabolizing Enzymes, (Zakim, D. and D.A. Vessey, eds. 1985), John Wiley & Sons, Inc., New York, pp. 1-93を参照されたい)。結果として生じるジオール生成物と水素結合との反応性または傾向に基づく、スペクトルによるいくつかのアッセイ法が存在する(例えば、Wixtrom,前出、およびHammock. Anal. Biochem. 174:291-299 (1985)、およびDietze, et al. Anal. Biochem. 216:176-187 (1994)を参照されたい)。
【0070】
この酵素はまた、特定のリガンドと触媒部位が結合することによって、酵素が固定化される、または酵素がプローブ(例えば、ダンシル、フルオラセイン(fluoracein)、ルシフェラーゼ、緑色蛍光タンパク質、もしくは他の試薬)で標識されることに基づいて検出することができる。この酵素は、EETの水和によって、Dietze et al.,1994,前記に記載のようにエポキシドの加水分解による着色生成物の生成によって、または放射性代用基質の加水分解によってアッセイすることができる(Borhan et al., 1995,前記)。この酵素はまた、エポキシド加水分解後の蛍光生成物の生成に基づいて検出することもできる。非常に多くのエポキシドヒドロラーゼ検出法が説明されている(例えば、Wixtrom,前記を参照されたい)。
【0071】
これらのアッセイ法は、通常、親和性精製後の組換え酵素を用いて実施される。これらのアッセイ法は、当技術分野において公知なように、および前記で引用された参考文献に記載のように、粗組織ホモジネート、細胞培養物、さらにはインビボにおいて実施することができる。
【0072】
VI.sEH活性を阻害する他の手段
sEHの活性または遺伝子発現を阻害する他の手段も本発明の方法において使用することができる。sEH遺伝子発現を阻害するために、例えば、ヒトsEH遺伝子の少なくとも一部に相補的な核酸分子を使用することができる。例えば、短いRNA分子を用いて遺伝子発現を阻害する手段が知られている。これらの中には、低分子干渉RNA(siRNA)、低分子一過性RNA(small temporal RNA)(stRNA)、およびミクロRNA(miRNA)がある。低分子干渉RNAはmRNA分解経路を介して遺伝子のサイレンシングを引き起こすのに対して、stRNAおよびmiRNAは、内因的にコードされるヘアピン構造前駆体からプロセシングされた約21ntまたは22ntのRNAであり、翻訳抑制を介して遺伝子のサイレンシングを引き起こすように機能する。例えば、McManus et al., RNA, 8(6):842-50 (20O2); Morris et al, Science. 305(5688):1289-92 (2004); He and Hannon, Nat Rev Genet. 5(7): 522-31 (2004)を参照されたい。
【0073】
転写後遺伝子サイレンシング(「PTGS」)の一形態である「RNA干渉」は、二本鎖RNAが細胞に導入されることによって生じる効果を表している(Fire, A. Trends Genet 15:358-363 (1999); Sharp, P. Genes Dev 13:139-141 (1999); Hunter, C. Curr Biol 9:R440-R442 (1999); Baulcombe. D. Curr Biol 9: R599-R601 (1999); Vaucheret et al. Plant J 16: 651-659 (1998)に概説される)。通称、RNAiと呼ばれているRNA干渉は、クローニングされた遺伝子を特異的に不活化する手段をもたらし、遺伝子機能を調べるための強力なツールである。
【0074】
RNAiにおける活性因子は長い二本鎖(逆平行二重鎖)RNAであり、鎖の一方は、阻害しようとするRNAに対応するか、または相補的である。阻害されるRNAは標的RNAである。長い二本鎖RNAは、約20〜25ヌクレオチド対の短い二重鎖に切断される。この後に、短いRNAが標的の発現を阻害する機構は、現在、ほとんど分かっていない。当初、RNAiは下等真核生物において良好に働くことが示されたが、哺乳動物細胞の場合、卵母細胞および着床前胚の研究にしかRNAiは適さない可能性があると考えられた。しかしながら、これら以外の哺乳動物細胞において、長いRNA二重鎖が、タンパク質合成の非特異的阻害を特徴とする「配列非特異的RNA干渉」として公知の反応を引き起こした。
【0075】
さらなる研究から、この効果は、約30塩基対を超えるdsRNAによって(明らかに、インターフェロン反応が原因で)誘導されることが分かった。約30塩基対を超えるdsRNAはプロテインPKRおよび2',5'-オリゴヌクレオチド合成酵素(2',5'-AS)に結合し、これらを活性化すると考えられた。活性化されたPKRは翻訳開始因子eIF2αのリン酸化によって翻訳を止め、活性化された2',5'-ASは、2',5'-オリゴヌクレオチド活性化リボヌクレアーゼLによるmRNA分解を引き起こす。これらの反応は、本質的に、誘導性dsRNAとの配列特異性がない。これらの反応はまたアポトーシスすなわち細胞死をもたらすことが多い。従って、ほとんどの体細胞性哺乳動物細胞は、下等真核細胞においてRNAiを誘導する濃度のdsRNAに曝露されるとアポトーシスを起こす。
【0076】
つい最近、RNA鎖が約19ヌクレオチド対の予め大きさが決められた二重鎖として提供されれば、RNAiはヒト細胞においてうまくいき、各鎖の末端に短い不対3'伸長部分があると特にうまくいくことが分かった(Elbashir et al. Nature 411: 494-498 (2001))。この報告では、「低分子干渉RNA」(siRNA、低分子干渉RNAとも呼ばれる)は、オリゴフェクタミンミセルによるトランスフェクションによって培養細胞に適用された。これらのRNA二重鎖は短すぎて、アポトーシスのような配列非特異的反応を誘発しなかったが、RNAiを効率的に引き起こした。この後、多くの研究室が、siRNAを用いて、哺乳動物細胞の標的遺伝子をノックアウトする試験を行った。これらの結果から、ほとんどの場合で、siRNAは極めて良好に作用することが証明された。
【0077】
sEH活性を減少させる目的で、コンピュータプログラムを用いて、sEHをコードする遺伝子に対するsiRNAを特異的に設計することができる。ヒトsEH配列のクローニング、配列、およびアクセッション番号は、Beetham et al., Arch. Biochem. Biophys. 305(1): 197-201 (1993)に示されている。ヒトsEHのアミノ酸配列も米国特許第5,445,956号のSEQ ID NO:2として示されており、配列番号1のヌクレオチド42〜1703は、このアミノ酸配列をコードする核酸配列である。
【0078】
プログラムsiDESIGN(Dharmacon, Inc. (Lafayette, CO))は任意の核酸配列に対するsiRNAの予測を可能にし、ワールドワイドウェブにおいてdharmacon.comで入手可能である。siRNAを設計するプログラムはそれ以外からも入手可能であり(Genscript(ウェブにおいてgenscript.com/ssl-bin/app/rnaiで入手可能)を含む)、学界および非営利の研究者に対してはインターネット上で「http://」の後に「jura.wi.mit.edu/pubint/http://iona.wi.mit.edu/siRNAext/」を入力することによってWhitehead Institute for Biomedical Researchから入手することができる。
【0079】
例えば、Whitehead Instituteから入手可能なプログラムを使用すると、以下のsEH標的配列およびsiRNA配列を作成することができる。

【0080】
または、siRNAは、遺伝子からsiRNAを作成するキットを用いて作成することができる。例えば、「Dicer siRNA Generation」キット(カタログ番号T510001, Gene Therapy Systems, Inc., San Diego, CA)では、長い二本鎖RNAを22bp siRNAに切断するために、インビトロで組換えヒト酵素「dicer」が用いられる。siRNAの混合物があることで、このキットは、標的遺伝子の発現を低減させるsiRNAの作成においてかなりの成果を挙げることができる。同様に、Silencer(商標)siRNA Cocktail Kit(RNase III)(カタログ番号1625, Ambion, Inc., Austin, TX)は、dicerの代わりにRNase IIIを用いてdsRNAからsiRNAの混合物を作成する。dicerと同様に、RNase IIIは、dsRNAを、12〜30bpのdsRNA断片(2〜3ヌクレオチドの3'オーバーハングと、5'リン酸末端および3'ヒドロキシル末端を有する)に切断する。製造業者によれば、dsRNAは、キットに入れられているT7 RNAポリメラーゼ、反応成分、および精製成分を用いて生成される。次いで、siRNAの集団を生成するために、dsRNAはRNase IIIによって消化される。キットには、インビトロ転写によって長いdsRNAを合成する試薬、およびRNase IIIを用いてdsRNAをsiRNA様分子に消化する試薬が入れられている。製造業者は、使用者が必要とするのは、対向するT7ファージポリメラーゼプロモーターを有するDNAテンプレート、または転写しようとする領域の反対側にプロモーターを有する2つの別個のテンプレートの用意のみであると述べている。
【0081】
siRNAはベクターから発現させることもできる。一般的に、このようなベクターは、対応する相補鎖をコードする第2のベクターと共に投与される。発現されると、2本の鎖は互いにアニールし、機能的な二本鎖siRNAを形成する。本発明における使用に適した例示的なベクターの1つは、OligoEngine, Inc. (Seattle, WA)から入手可能なpSuperである。ある態様において、ベクターは2つのプロモーターを含み、あるプロモーターは第1のプロモーターの下流に逆平行の方向で配置される。第1のプロモーターはある方向に転写され、第2のプロモーターは第1のプロモーターとは逆平行の方向に転写されて、相補鎖が発現される。さらに別の組の態様において、プロモーターの後に、第1の鎖をコードする第1のセグメントと、第2の鎖をコードする第2のセグメントが続く。第2の鎖は、第1の鎖の回文構造と相補的である。第1の鎖と第2の鎖の間には、第2の鎖が折れ曲がり、第1の鎖とアニールできるように、「ヘアピン」として公知の構造でリンカーとして働くRNA部分(時として「スペーサー」と呼ばれる)がある。
【0082】
リンカー部分の使用を含むヘアピンRNAの形成は当技術分野において周知である。一般的に、ヒトU6、マウスU6、またはヒトH1などのポリメラーゼIIIプロモーターを使用するsiRNA発現カセットが用いられる。コード配列は、一般的に、短いスペーサーによって逆の相補的アンチセンスsiRNA配列に連結された19ヌクレオチドセンスsiRNA配列である。9ヌクレオチドスペーサーが一般的であるが、他のスペーサーを設計することができる。例えば、Ambionウェブサイトは、Ambionの科学者がスペーサー

を用いて成功を収めたことを示している。さらに、ポリメラーゼIIIの終結部位として働くように、オリゴヌクレオチドの3'末端に5〜6個のTが付加されることが多い。Yu et al., MoI Ther 7(2):228-36 (2003); Matsukura et al., Nucleic Acids Res 31(15):e77 (2003)も参照されたい。
【0083】
一例として、前記で特定されたsiRNA標的は、以下のようにヘアピンsiRNAによって標的化することができる。1つのベクターから生成される短いヘアピンRNAによって同じ標的を攻撃したければ(持続的なRNAi効果)、センス鎖およびアンチセンス鎖を一列に並べられる(ループ形成配列は中間にあり、この配列の両端には適切な発現ベクターに適した配列がある)。もちろん、末端はベクターの切断部位に左右される。以下は、pSuperベクターにクローニングすることができるヘアピン配列の限定しない例である。


【0084】
siRNAに加えて、他の阻害手段が当技術分野において公知である。アンチセンス分子の発現、リボザイムなどが当業者に周知である。核酸分子は、DNAプローブ、リボプローブ、ペプチド核酸プローブ、ホスホロチオエートプローブ、または2'-Oメチルプローブでもよい。
【0085】
一般的に、特異的ハイブリダイゼーションを確実なものとするために、アンチセンス配列は標的配列と実質的に相補的である。ある特定の態様において、アンチセンス配列は標的配列と厳密に相補的である。しかしながら、sEH遺伝子に対応する関連標的配列との特異的結合がポリヌクレオチドの機能特性として保持されている限り、アンチセンスポリヌクレオチドはまた、ヌクレオチドの置換、付加、欠失、トランジション、転位、もしくは修飾、または他の核酸配列もしくは非核酸部分を含んでもよい。1つの態様において、アンチセンス分子は、三重らせん含有核酸すなわち「三重鎖」核酸を形成する。三重らせんの形成は、例えば、標的遺伝子の転写を阻害することによって、遺伝子発現の阻害をもたらす(例えば、Cheng et al., 1988, J. Biol. Chem. 263:15110; Ferrin and Camerini-Otero, 199L , Science 354:1494; Ramdas et al., 1989, J. Biol. Chem. 264:17395; Strobel et al., 1991, Science 254:1639;およびRigas et al., 1986, Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. 83:9591を参照されたい)。
【0086】
アンチセンス分子は当技術分野において公知の方法によって設計することができる。例えば、インターネット上でhttp://の後にbiotools.idtdna.com/antisense/AntiSense.aspxを入力することによって見つけることができるプログラムが、Integrated DNA Technologies (Coralville, IA)から入手可能である。このプログラムによって、長さが10,000ヌクレオチドまでの核酸配列に対する適切なアンチセンス配列が提供される。このプログラムとsEH遺伝子を使用すると、以下の例示的な配列が得られる。

【0087】
別の態様において、望ましい位置でmRNAを切断するためにリボザイムを設計することができる(例えば、Cech, 1995, Biotechnology 13:323;およびEdgington, 1992, Biotechnology 10:256、ならびにびHu et al., PCT公報WO94/03596を参照されたい)。
【0088】
アンチセンス核酸(DNA、RNA、修飾核酸、類似体など)は、任意の適切な核酸生成法(例えば、本明細書において開示され、当業者に公知の化学合成および組換え法)を用いて作成することができる。1つの態様において、例えば、本発明のアンチセンスRNA分子はデノボ化学合成またはクローニングによって調製することができる。例えば、アンチセンスRNAは、sEH遺伝子配列を、ベクター(例えば、プラスミド)内で逆方向に、プロモーターに機能的に結合させて挿入することによって作成することができる。プロモーターと、好ましくは、終結シグナルおよびポリアデニル化シグナルが適切に配置されていれば、非コード鎖に対応する挿入配列の鎖は転写され、本発明のアンチセンスオリゴヌクレオチドとして作用する。
【0089】
望ましい特性(例えば、高いヌクレアーゼ耐性、密接した結合、安定性、または望ましいTm)を得るために、標準的でない塩基(例えば、アデニン、シチジン、グアニン、チミン、およびウリジン以外の塩基)、または標準的でないバックボーン構造を用いてオリゴヌクレオチドを作成できることが理解されるであろう。オリゴヌクレオチドをヌクレアーゼ耐性にする技法には、PCT公報WO94/12633に記載の技法が含まれる。ペプチド-核酸(PNA)バックボーンを有するオリゴヌクレオチド(Nielsen et al., 1991, Science 254:1497)、または2'-O-メチルリボヌクレオチド、ホスホロチオエートヌクレオチド、メチルホスホネートヌクレオチド、ホスホトリエステルヌクレオチド、ホスホロチオエートヌクレオチド、ホスホルアミデートが組み込まれたヌクレオチドを含む、多種多様な有用な修飾オリゴヌクレオチドを生成することができる。
【0090】
細胞膜を横切って望ましい核酸を移動させる能力を有するタンパク質が述べられている。一般的に、このようなタンパク質は、膜移動担体として働く能力のある両親媒性部分配列または疎水性部分配列を有する。例えば、ホメオドメインタンパク質は細胞膜を横断する能力を有する。ホメオドメインタンパク質であるアンテナペディア(Antennapedia)の最短内部移行ペプチドは、このタンパク質の3番目のへリックス(アミノ酸位置43〜58)であることが発見された(例えば、Prochiantz, 1996, Current Opinion in Neurobiology 6:629-634を参照されたい)。別の部分配列であるシグナルペプチドのh(疎水性)ドメインは同様の細胞膜移動特性を有することが見出された(例えば、Lin et al, 1995, J. Biol. Chem. 270:14255-14258を参照されたい)。このような部分配列を用いて、細胞膜を横切ってオリゴヌクレオチドを移動させることができる。都合よく、このような配列を用いてオリゴヌクレオチドを誘導体化することができる。例えば、リンカーを用いて、オリゴヌクレオチドおよび移動配列を連結することができる。任意の適切なリンカー(例えば、ペプチドリンカーまたは他の任意の適切な化学リンカー)を使用することができる。
【0091】
miRNAおよびsiRNAはいくつかの点で異なる。miRNAは、以前に認められている遺伝子とは異なるゲノム内の点に由来するが、siRNAは、mRNA、ウイルス、またはトランスポゾンに由来する。miRNAはヘアピン構造から生じるのに対して、siRNAは長い二本鎖RNAから生じる。miRNAは、関連する生物間で保存されているのに対して、siRNAは、通常、保存されていない。miRNAは、miRNAが生じる遺伝子座以外の遺伝子座のサイレンシングを引き起こすのに対して、siRNAは、siRNAが生じる遺伝子座のサイレンシングを引き起こす。興味深いことに、miRNAは、miRNAが発現阻害するmRNAと完全な相補性を示す傾向はない。McManus et al.,前記を参照されたい。Cheng et al., Nucleic Acids Res. 33(4):1290-7 (2005); Robins and Padgett, Proc Natl Acad Sci U S A. 102(11):4006-9 (2005); Brennecke et al., PLoS Biol. 3(3):e85 (2005)も参照されたい。miRNAを設計する方法は公知である。例えば、Zeng et al., Methods Enzymol. 392:371-80 (2005); Krol et al., J Biol Chem. 279(40):42230-9 (2004); Ying and Lin, Biochem Biophys Res Commun. 326(3):515-20 (2005)を参照されたい。
【0092】
VII.治療目的の投与
EETおよびsEH阻害剤は、多種多様な経口製剤、非経口製剤、およびエアロゾル製剤で調製および投与することができる。好ましい形態において、本発明の方法において使用するための化合物は、注射によって(すなわち、静脈内に、筋肉内に、皮内に、皮下に、十二指腸内に、または腹腔内に)投与することができる。sEH阻害剤もしくはEET、またはその両方を、吸入によって(例えば、鼻腔内に)投与することができる。さらに、sEH阻害剤もしくはEET、またはその両方を経皮投与することができる。従って、本発明の方法は、薬学的に許容される担体または賦形剤と、選択された阻害剤または阻害剤の薬学的に許容される塩のいずれかを含む薬学的組成物の投与を可能にする。
【0093】
sEH阻害剤もしくはEET、またはその両方から薬学的組成物調製するために、薬学的に許容される担体は固体でもよく、液体でもよい。固体型調製物には、散剤、錠剤、丸剤、カプセル、カシェ剤、坐剤、および分散性顆粒が含まれる。固形担体は、希釈剤、着香剤、結合剤、防腐剤、錠剤崩壊剤、またはカプセル化材料としても作用し得る、1つまたは複数の種類の物質でもよい。
【0094】
散剤において、担体は、微粒子状活性成分と混合される超微粒子状固体である。錠剤では、活性成分は、必要な結合特性を有する担体と適切な比率で混合され、望ましい形状およびサイズに圧縮される。散剤および錠剤は、好ましくは、5%または10%〜70%の活性化合物を含む。適切な担体は、炭酸マグネシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、糖、ラクトース、ペクチン、デキストリン、デンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、低融点ろう、カカオ脂などである。用語「調製」は、カプセルを形成する担体としてカプセル化材料を用いた活性化合物の処方を含むことが意図される。ここで、他の担体を含む、または含まない活性成分は、担体によって取り囲まれ、従って、担体は活性成分と関連している。同様に、カシェ剤およびトローチ剤が含まれる。錠剤、散剤、カプセル、丸剤、カシェ剤、およびトローチ剤は、経口投与に適した固形剤形として使用することができる。
【0095】
坐剤を調製するために、まず最初に、低融点ろう(例えば、脂肪酸グリセリドの混合物またはカカオ脂)が溶かされ、その中に活性成分が攪拌によって均一に分散される。次いで、溶けた均一混合物は、便利な大きさの型に注がれ、冷却され、それによって固まる。
【0096】
液体型調製物には、溶液、懸濁液、およびエマルジョン(例えば、水、または水/プロピレングリコール溶液)が含まれる。非経口注射の場合、液体調製物は、ポリエチレングリコール水溶液に溶解して処方することができる。経皮投与は適切な担体を用いて実施することができる。所望の場合、経皮送達を容易にするように設計された装置を使用することができる。適切な担体および装置は、米国特許第6,635,274号、同第6,623,457号、同第6,562,004号、および同第6,274,166号に例示されるように当技術分野において周知である。
【0097】
経口使用に適した水溶液は、水に活性成分を溶解し、所望の通りに、適切な着色剤、フレーバー、安定剤、および増粘剤を添加することによって調製することができる。経口使用に適した水性懸濁液は、水に、微粒子状活性成分を様々な材料(例えば、天然ゴムまたは合成ゴム、樹脂、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、および他の周知の懸濁剤)と一緒に分散させることによって作成することができる。
【0098】
使用直前に、経口投与用の液体型調製物に変えられることが意図される固体型調製物も含まれる。このような液体型には、溶液、懸濁液、およびエマルジョンが含まれる。これらの調製物は、活性成分に加えて、着色剤、フレーバー、安定剤、緩衝液、人工甘味料および天然甘味料、分散剤、増粘剤、可溶化剤などを含んでもよい。
【0099】
薬学的調製物は、好ましくは単位剤形である。このような形態において、調製物は、適切な量の活性成分を含む投与単位にさらに分けられる。単位剤形は、包装容器に別個の量の調製物が入れられている、包装された調製物(例えば、包装された錠剤、カプセル、およびバイアルまたはアンプルに入った散剤)でもよい。また、単位剤形は、カプセル、錠剤、カシェ剤、またはトローチ剤それ自体でもよく、包装された形の、適切な数のこれらのいずれかでもよい。
【0100】
本明細書で使用する用語「単位剤形」は、ヒト被験者および動物への単位投与として適切な物理的に別個の単位を意味し、それぞれの単位は、必要とされる薬学的希釈剤、担体、またはビヒクルと共同して望ましい薬学的効果を生じるように計算された所定量の活性物質を含む。本発明の新規の単位剤形の仕様は、本明細書に詳細に開示されるような、(a)活性物質の独特の特徴および実現しようとする特定の効果、ならびに(b)ヒトおよび動物において使用するための、このような活性物質を配合する当技術分野において固有の制限によって、かつ直接依存して決められ、これらは本発明の特徴である。
【0101】
治療的有効量のsEH阻害剤もしくはEET、またはその両方は、肺炎症、COPD、またはその両方の遅延または阻害に用いられる。治療のための特定の化合物の投与量は当業者に周知の多くの要因に左右される。これらの要因には、例えば、投与経路および特定の化合物の効力が含まれる。例示的な用量は、約0.001μM/kg〜約100mg/kg哺乳動物体重である。
【0102】
EETは不安定であり、酸性条件(例えば、胃の中の酸性条件)ではDHETに変換され得る。これを避けるために、EETは注射によって静脈内投与されてもよく、エアロゾルによって投与されてもよい。経口投与を目的とするEETは、胃を通過する間にEETを保護するコーティングの中に入れてカプセル化することができる。例えば、EETに、いわゆる「腸溶」コーティング(例えば、いくつかのブランドのアスピリンに用いられている腸溶コーティング)が施されてもよく、EETが製剤の中に埋め込まれてもよい。このような腸溶コーティングおよび製剤は当技術分野において周知である。ある製剤では、薬剤の徐放投与を容易にするために、EETまたはEETとsEH阻害剤の組み合わせが徐放性製剤の中に埋め込まれている。
【0103】
別の組の態様において、sEH阻害剤、1つもしくは複数の種類のEET、またはsEH阻害剤およびEETの両方が、鼻または肺への送達によって投与される。薬物を鼻腔内または肺に送達する装置は当技術分野において周知である。装置は、一般的に、治療的に活性な薬剤を溶液に溶かしたエアロゾル、または薬剤の乾燥粉末を送達する。再現性のある薬剤投与を助けるために、乾燥粉末製剤は、充填剤として、かなりの量の賦形剤(例えば、多糖)を含むことが多い。
【0104】
治療的に活性な薬剤をエアロゾルの形で、または粉末として送達することについての詳細な情報は当技術分野において入手可能である。例えば、米国食品医用薬剤局の医用薬剤評価研究センター(Center for Drug Evaluation and Research:「CDER」)は、「Guidance for Industry: Nasal Spray and Inhalation Solution, Suspension, and Spray Drug Products - Chemistry, Manufacturing, and Controls Documentation」 (Office of Training and Communications, Division of Drug Information, CDER, FDA, July 2002)という題名の刊行物において詳細なガイダンスを行っている。このガイダンスはCDERから書面で入手可能である、または「http://www.」の後に「fda.gov/cder/guidance/4234fhl.htm」を入力することによってオンラインで見つけることができる。FDAはまた、ドライパウダー吸入器および定量吸入器に関して入手可能な詳細なドラフトガイダンスも行っている。Metered Dose Inhaler (MDI) and Dry Powder Inhaler (DPI) Drug Products - Chemistry, Manufacturing, and Controls Documentation, 63 Fed. Reg. 64270, (Nov. 1998)を参照されたい。
【0105】
本発明のある局面において、sEH阻害剤、EET、またはその組み合わせは、水、エタノール、または食塩水などの適切な溶媒に溶解または懸濁され、噴霧によって投与される。ネブライザーは、液体を微細な液滴にし、微細な液滴を分散させて、流動する気体の流れにすることによって、微粒子のエアロゾルを生じさせる。医療用ネブライザーは、水もしくは水溶液またはコロイド懸濁液を、吸入中に患者の肺に入り、呼吸気道の表面に沈着することができる吸入可能で微細な液滴に変えるように設計されている。代表的な空気(加圧気体)医療用ネブライザーは、微粒子状の液滴の状態で、気体1リットル当たり約15〜30マイクロリットルのエアロゾル(2〜4マイクロメートルの呼吸可能な範囲の体積中位径または質量中位径を有する)を発生する。主に、低い溶質濃度(典型的に、1.0〜5.0mg/mL)を有する水溶液または食塩水が用いられる。
【0106】
エアロゾル化した溶液を肺に送達するためのネブライザーは、AERx(商標)(Aradigm Corp., Hayward, CA)、Ultravent(商標)(Mallinkrodt)、Acorn II(登録商標)(Vital Signs Inc., Totowa, NJ)を含む多くの供給者から市販されている。
【0107】
定量吸入器もまた公知であり、入手可能である。呼吸動作による吸入器は、一般的に、加圧噴霧剤を含み、患者の吸息動作によって機械式レバーが動かされた時、または(熱線流速計によって検出される)検出された流れが、予め設定された閾値を超えた時に、自動的に一定量を供給する。例えば、米国特許第3,187,748号、同第3,565,070号、同第3,814,297号、同第3,826,413号、同第4,592,348号、同第4,648,393号、同第4,803,978号、および同第4,896,832号を参照されたい。
【0108】
製剤はまた、ドライパウダー吸入器(DPI)(すなわち、乾燥粉末薬物を肺に運ぶために、患者の吸い込んだ息をビヒクルとして利用する吸入装置)を用いて送達することができる。このような装置は、例えば、米国特許第5,458,135号、同第5,740,794号、および同第5,785,049号で述べられている。この種類の装置を用いて投与する時、粉末は、穴を開けることができる蓋または他の接続表面(好ましくは、ブリスター包装またはカートリッジ)を有する容器に入れられる。ここで、容器は、一回投与単位または複数の投与単位を含んでもよい。
【0109】
乾燥粉末を肺に投与するための他の乾燥粉末分散装置には、Newell,欧州特許第EP129985号;Hodson,欧州特許第EP472598号、Cocozza,欧州特許第EP467172号、ならびにLloyd,米国特許第5,522,385号、同第4,668,281号、同第4,667,668号、および同第4,805,811号に記載のものが含まれる。乾燥粉末はまた、米国特許第5,320,094号および同第5,672,581号に記載のように、薬学的に不活性の液体噴霧剤(例えば、クロロフルオロカーボンまたはフルオロカーボン)に溶解した薬物の溶液または懸濁液を含む加圧定量吸入器(MDI)を用いて送達することができる。
【0110】
これ以上の詳述なく、当業者であれば、前記の説明を用いて本発明を完璧に実施できると考えられる。
【0111】
実施例
以下の実施例は、クレームされた本発明の例示のために示されるが、限定のために示されない。
【0112】
実施例1:
材料および方法
試薬および化学物質
本発明者らの研究室において、12-(3-アダマンタン-1-イル-ウレイド)-ドデカン酸ブチルエステル(AUDA-nBE)および1-シクロヘキシル-3-テトラデシルウレア(CTU,内部標準)を合成した。これらの生成物を再結晶によって精製し、1H-および/または13C-NMR、赤外分光光度法、ならびに質量分析によって構造的に特徴付けた。HPLCグレードのメタノール、アセトニトリル、および酢酸エチルは、EMD Chemicals Inc. (Gibbstown, NJ)から購入した。蟻酸はSigma-Aldrich (St. Louis, MO)から入手した。使用した水(>18.0MΩ)は、NANO pure II system (Barnstead, Newton, MA)によって精製した。
【0113】
機器
LC-MS-MS分析は、大気圧イオン源[大気圧zスプレー圧力化学イオン化(APcI)またはエレクトロスプレーイオン化(ESI)インターフェース]を備えるMicromass Quattro Ultima三連四重極タンデム質量分析計(Micromass, Manchester, UK)を用いて行った。HPLC装置は、Watersモデル2790 separations module(Waters Corporation, Milford, MA)(冷却試料区画を有するオートサンプラー、インライン真空脱気装置、およびWatersモデル2487デュアルλ吸光度検出器(Waters Corporation)を備える)からなった。XTerra(商標)MS C18カラム(30x2.1mm内径,3.5μm; Waters Corporation)は、流速0.3mL/min、周囲温度で使用した。データはMassLynxソフトウェア(Ver.4.0)を用いて処理した。
【0114】
LC-MS-MS条件
ESI質量分析計は、陽イオンモードで、1.0kVのキャピラリー電圧を用いて操作した。コーンガス(cone gas)(N2)およびデソルベーションガス(desolvation gas)(N2)は、それぞれ、流速130L/hおよび630L/hに維持した。供給源温度およびデソルベーション温度は、それぞれ、100℃および300℃に設定した。最適コーン電圧は、AUDA-nBEの場合、50V、AUDAの場合、80V、およびCTU(内部標準)の場合、100Vに設定した。定量分析は、マルチプルリアクションモニタリング(MRM)モードで、ドゥエル時間(dwell time)300msで行った。衝突誘起解離(CID)のために2.5ミルトルの圧力で、衝突ガスとして超高純度のアルゴン(99.9999%)を使用した。クロマトグラフィー分離は2溶媒直線勾配系を用いて行った。使用した溶媒AおよびBは、それぞれ、0.1%蟻酸、および0.1%蟻酸を含むアセトニトリルであった。溶媒を0.45μmの膜に通して濾過し、使用前に脱気した。移動相を、0〜5分にわたって40%B〜100%Bの直線勾配を用いて混合し、次いで、8分間、100%Bを用いて均一濃度にした。カラムを初期条件まで平衡化するために、次のランの前に1分間、ポストラン(postrun)を行った。10マイクロリットルの標準および抽出された血液試料をカラムに注入した。
【0115】
EETワックスプラグの作成
ワックスペレットを作成するために、ワックスを、ホットプレートを用いて100℃で20分間溶かし、攪拌しながら、溶けたワックスにEETを添加した。次いで、ワックス-EET懸濁液を、ガラス板で作られた型に注ぎ、次いで、室温まで冷却した。結果として得られたEET含有ワックススティックを適切な大きさに切断した。結果として生じたワックスペレットからのEETの放出速度をインビトロで調べるために、ペレット(EET 600μgを含有するペレット60mg)を、酸化防止剤を含む純水(1ml)に入れて37℃でインキュベートした。様々な間隔でアリコート(20μl)を採取した。それぞれのアリコートを内部標準含有MeOH 30μlに添加し、アリコート中のEET濃度を求めるためにLC-MSに注入した。結果を図8に表として示した。
【0116】
経口投与のためのEETの腸溶コーティング
腸溶剤形は、酸感受性薬物を送達する最も有用な方法の1つである。DHETの生物学的効果と区別してEETの生物学的効果を調べるために、本発明者らは、胃の中での溶解しないようにするために腸溶性EET粒子による経口投与を開発した。
【0117】
粒子は、ラクトース、EET、および酢酸フタル酸セルロースの腸溶コーティングポリマーからなった(比2.0:0.1:0.4)。コアとして使用したラクトース粉末に、EETを混合しながら滴下し、次いで、この混合物に腸溶コーティングポリマーのアセトン溶液またはEtOAC/EtOH溶液を滴下した。減圧下で(in vacco)乾燥させると、マウスおよびラットの経口投与に適した大きさの粉末として200〜360nmの腸溶性EET粒子が得られた。
【0118】
溶出試験は、水溶液、酸性溶液、およびpH7.4緩衝液において行った。それぞれの粒子10mgを、0.1M HCl溶液、蒸留水、およびpH7.4リン酸緩衝液1mlに添加し、次いで、37℃でインキュベートした。抽出物を0.2μmナイロンフィルターで濾過し、EtOAc 0.5mlで抽出した。内部標準を添加した後、N2ガスを用いて溶媒層を蒸発させ、LC-MSに注入した。10分後、腸溶性粒子からpH7.4緩衝液にEETが溶出したパーセントは、ほぼ100%であった。対照的に、酸性溶液および水溶液では、放出されたEETはごくわずかな量しか(0.01%未満)見出されなかった。これらの結果は、腸溶ポリマーが可溶化する十二指腸に到達するまで、腸溶性粒子からのEET放出を遅らせることができることを示唆した。
【0119】
動物
健常な11週齢の雄の自然発症高血圧(「SH」)(SHR/NCrlBR)ラット(高血圧形質の表現型分離および同系交配によってWKYラットから得られた)はCharles River Laboratories(Portage, MI)から購入し、タバコ煙に曝露する前に1週間隔離した。動物は、米国立衛生研究所ガイドラインに示されたU.S. Animal Welfare ActsおよびUniversity of California, Davis Animal Care and Use Committeeによって確立された標準に従って取り扱った。ラットは、TEK-Chipペレット状紙床敷(Harlan Teklad, Madison, WI)が入っているプラスチックケージに入れ、12時間明/12時間暗周期で飼育した。全ての動物は、曝露前、曝露中、および曝露後に、水およびLaboratory Rodent Diet 5001(LabDiet(Brentwood, MO)から購入)を自由摂取した。
【0120】
薬物動態試験のための動物の処置
1〜2週間の順化期間の後に、体重層別無作為化に基づく薬物動態試験のために動物を選択した。動物の体重は250〜280gであった。10mg/kg体重用量のこれらの阻害剤(7mg/1mlトウモロコシ油)をSHラットに皮下投与した。
【0121】
血液試料の調製
投与後、連続尾採血血液試料(<10μL)を様々な時点(30分〜72時間)で集めた。血液試料を1.5mLエッペンドルフ微量遠心管に移した。血液試料を化学天秤で秤量し、純水100μLおよび内部標準(500ng/mL CTU)25μLと共にボルテックスした。試料を酢酸エチル500μLで抽出した。酢酸エチル層を1.5mLエッペンドルフ微量遠心管に移し、次いで、窒素下で乾燥させた。残渣をメタノール25μLで再構成した。アリコート(10μL)をLC-MS-MS装置に注入した。
【0122】
薬物動態分析
薬物動態パラメータは、WinNonlinソフトウェア(Pharsight, Mountain View, CA)を用いて、血中濃度-時間データをノンコンパートメントモデルにフィットさせることによって入手した。概算されたパラメータは、ラムダz (λz)、最大濃度時間(Tmax)、最大濃度(Cmax)、排出半減期(T1/2)、終末時間(terminal time)までの濃度-時間曲線下の面積(AUCt)、無限時間(infinite time)までの濃度-時間曲線下の面積(AUC)、および平均滞留時間(MRT)を含んだ。AUCtは、線形/対数台形公式(linear/log trapezoidal rule)によって計算した。
【0123】
EET合成
m-クロロ-過安息香酸(mCPBA,4.3g,16.4mmol)を用いて、アラキドン酸メチルエステル(5g,16.4mmol)をCH2Cl2/リン酸緩衝液(pH7.4)三相系において室温で2時間エポキシ化した。有機相を単離し、無水フッ化カリウムで処理し、沈殿したmCPBA残渣を取り除くために濾過した。有機相を減圧下で蒸発させた。残渣をフラッシュクロマトグラフィーで精製した(ヘキサン-EtOAc:2,3,4および6%EtOAcで段階溶出)。メタノールに溶解した単離モノエポキシドの溶液に、塩基を0℃で添加し、室温で24時間インキュベートした。混合物をシュウ酸で中和し、EtOACで抽出した。有機相を飽和NaCl水溶液で洗浄し、フラッシュクロマトグラフィー(ヘキサンに溶解した10%EtOAcで溶出)に適用して、それぞれの位置異性体(10%の8,9-EET,40%の11,12-EET、および50%の14,15-EET)のエポキシエイコサストリエン酸(epoxyeicosastrienoic acid)混合物(EET,2.5g,アラキドン酸メチルエステルからの総収率:48%)を得た。合成を図7に示した。
【0124】
EETのLC-MS
EETおよび各異性体は全て以下のようにLC-MSで分析した。ESI質量分析計は、陰イオンモードで、1.0kVのキャピラリー電圧を用いて操作した。コーンガス(N2)およびデソルベーションガス(N2)は、それぞれ、流速125L/hおよび643L/hに維持した。供給源温度およびデソルベーション温度は、それぞれ、125℃および400℃に設定した。最適コーン電圧は55Vに設定した。衝突誘起解離(CID)のために2.5ミルトルの圧力で、衝突ガスとして超高純度のアルゴン(99.9999%)を使用した。クロマトグラフィー分離は2溶媒直線勾配系を用いて行った。使用した溶媒AおよびBは、それぞれ、0.1%酢酸、および0.1%蟻酸を含む85:15のアセトニトリル:メタノールであった。溶媒を0.45μmの膜に通して濾過し、使用前に脱気した。移動相は、0〜2分にわたって15%B〜30%B、2〜8分にわたって30%B〜55%B、8〜28分にわたって55%B〜75%Bの直線勾配を用いて混合し、次いで、5分間、100%Bを用いて均一濃度にした。カラムを初期条件まで平衡化するために、次のランの前に1分間、ポストランを行った。10マイクロリットルの標準および抽出物をカラムに注入した。
【0125】
タバコ煙曝露のためのEET皮下移植
EET含有ワックス製剤を、タバコ煙曝露開始の1日前に皮下移植した。曝露初日の1日前に、動物にEET製剤を移植した。対照群からの動物4匹およびタバコ煙曝露群からの動物4匹にEET製剤を移植した。麻酔による動物のストレスを最小限にするために、3日試験のために皮下移植を1回行うアプローチを選択した。
【0126】
タバコ煙曝露のためのAUDA-nBE皮下注射
10mg/kg体重用量のAUDA-nBE(7mg/1mlトウモロコシ油)をSHラットに皮下投与した。総注射体積は0.36〜0.46mlであった。曝露前、毎日、動物にAUDA-nBEを注射した。この試験に使用したAUDA-nBEの用量は、マウスおよびラットにおける予備薬物動態試験からの結果に基づいて選択した。これらの用量は、3日間にわたって最適効力および最小毒性をもたらすように選択された。対照群からの動物4匹およびタバコ煙曝露群からの動物4匹にAUDA-nBEを注射した。対照群からのEET移植片を有する動物4匹およびタバコ煙曝露群からのEET移植片を有する動物4匹にAUDA-nBEを注射した。さらに、4匹の対照動物および4匹のタバコ煙曝露動物に、AUDA-nBE注射動物と同じプロトコールを用いてトウモロコシ油を注射した。
【0127】
タバコ煙曝露
喫煙装置(Teague, S. V. et al., Inhal. Toxicol. 6:79-93 (1994))の中で、ラットを副流煙および主流煙の混合物に曝露させた。タバコは、湿らせた2R4F研究用タバコ(Tobacco Health Research Institute; Lexington, KY)であった。連邦取引委員会の条件下でタバコの煙を出すために、自動定量パファー(automatic metered puffer)を使用した(一吹き35ml、期間2秒、1分につき一吹き)。煙突に煙を集め、濾過空気で希釈し、全身曝露室に送った。曝露は、タバコ煙の3つの主要な構成要素:ニコチン、一酸化炭素、および総浮遊微粒子(TSP)について特徴付けられた。動物を2〜15日にわたって1日6時間曝露させた。一酸化炭素を30分毎に、TSPを2時間毎に、ニコチンを1日1回(曝露期間のほぼ中間)測定した。
【0128】
気管支肺胞洗浄
動物の気管支肺胞洗浄(BAL)のために、確立されているプロトコールに従った(Gossart, S. et al., J Immunol. 156:1540-1548(1996))。タバコ煙への最後の曝露の18時間後に、過量のナトリウムペントバルビタールを用いて動物に麻酔をかけた。気管にカニューレを挿入し、肺を、1アリコートのCa2+/Mg2+非含有リン酸緩衝食塩水(PBS,pH7.4)で洗浄した。アリコートの体積は35ml/kg体重(総肺体積の約90%)に等しかった。最終採取前に、アリコートを肺に3回注入した。細胞を取り出すために、直ぐに、BAL液(BALF)を250xgで、4℃で10分間遠心分離した。次いで、細胞ペレットをPBSに再懸濁し、細胞を血球計で計数した。細胞差(cell differential)は、HEMA3(Fisher Scientific, Swedesboro, NJ)で染色したサイトスピン調製物(Shandon, Pittsburgh, PA)に対して行った。光学顕微鏡(1000細胞/試料)を用いて、マクロファージ、好中球、およびリンパ球を計数した。
【0129】
データ分析
全ての数値データは平均±SDまたはSEとして比較した。分散分析の後に、Fisher's PLSD(protected least significant difference)ポストテストを行うことによって、タバコ煙曝露対照と濾過空気曝露対照とを比較した。0.05以下のp値が有意であるとみなした。統計解析はStatView 5.0.1(SAS Institute Inc., Cary, NC)を用いて行った。
【0130】
実施例2
タバコ煙曝露の特徴
3日試験中のタバコ煙中のTSP濃度、ニコチン濃度、および一酸化炭素濃度を表1に示した。
【0131】
薬物動態
SHラットにおけるAUDA-nBEおよびAUDAの血中濃度を推定するために、薬物動態試験を1回量で行った。図1は、皮下投与後のSHラットにおけるAUDA-nBEおよびAUDAの血中濃度-時間プロファイルを示す。AUDA-nBEは、強力なsEH阻害剤であるAUDAに代謝された。従って、AUDA-nBEは、バイオアベイラビリティを改善するためのAUDAプロドラッグとして投与した。AUDAの半減期は22時間であった。
【0132】
BAL
3日間のタバコ煙曝露後に、BALF中の細胞の総数は有意に増加した。曝露前にAUDA-nBEを皮下注射することによって、BALF細胞数が有意に減少した(図2)。3日間のタバコ煙曝露前に、AUDA-nBEおよびEETで動物を処置すると、AUDA-nBEのみでの処置と比較して、BALFの総細胞はさらに減少した(図2)。3日間のタバコ煙曝露後に、BALFマクロファージ数は有意に増加した(図3)。曝露前にAUDA-nBEを注射すると、3日間の曝露後に存在するBALFマクロファージ数が有意に減少した。動物がAUDA-nBEに加えてEETで処置された時に、回収されたBALFマクロファージの数のさらなる減少は観察されなかった(図3)。3日間のタバコ煙曝露後に、BALF中の好中球の数も有意に増加した(図4)。曝露前にAUDA-nBEを注射すると、3日間の曝露後のBALF好中球数が有意に減少した。タバコ煙曝露前にAUDA-nBEとEETの組み合わせで処置すると、AUDA-nBEのみでの処置と比較して、洗浄により回収される好中球がさらに減少した。3日間のタバコ煙曝露後に、BALF中のリンパ球の数も有意に増加した(図5)。曝露前にAUDA-nBEを注射すると、濾過空気対照と有意な差が無いレベルまでBALFリンパ球数が減少した。タバコ煙曝露前にAUDA-nBEおよびEETを用いて動物を併用処置しても、AUDA-nBEのみでの処置と比較して、BAL好中球数はさらに減少しなかった。3日間のタバコ煙曝露後にBALF中の好酸球の数が増加したが、統計的に有意な水準まで増加しなかった(図6)。表2に示した細胞差は、(曝露前のAUDA-nBEの注射を伴う、または伴わない)タバコ煙曝露後のBALF中の異なる細胞タイプの数に対して同様の傾向を示している。
【0133】
実施例3
平均濃度(平均±S.D.)76.4±16.0mg TSP/m3のタバコ煙に3日間曝露されたラットにおいて、肺の炎症が誘導され、持続した。タバコ煙曝露前にAUDA-nBEを皮下注射すると、タバコ煙処置ラットから回収されるBALF中の細胞の数は有意に減少した(これは、マクロファージ、好中球、およびリンパ球の有意な減少と関連している)。sEH阻害剤とEETを組み合わせると、sEH阻害剤のみと比較して、TSにより誘導される炎症はさらに軽減した。
【0134】
繊毛細胞の消失、ムチン過分泌、気管支炎、気腫、および肺癌につながる変化を気道上皮に引き起こさせる推進力として炎症が果たす重要な役割を裏付ける多くの研究がある。喫煙は肺において局所的サイトカイン分泌を引き起こし、局所的サイトカイン分泌は気道への白血球の浸潤および肺胞の破壊につながる。活性酸素種(ROS)は、非常に多くの形の炎症において重要な役割を果たすことが示されている(Rahman, I. et al., Free Radic. Biol. Med. 28:1405-1420 (2000); Driscoll, K. E. Toxicol. Lett. 112-113:177-183 (2000); Salvemini, D. et al., Eur. J. Pharmacol. 303:217-220 (1996); Cuzzocrea, S. et al., Free Radic. Biol. Med. 24:450-459 (1998))。タバコ煙の気相およびタール相はオキシダントおよびフリーラジカルを含んでおり(Pryor, W. A. et al., Environ Health Perspect 47:345-355 (1983))、これらは、肺微小循環からの好中球の隔離(sequestration)ならびに呼吸細気管支におけるマクロファージの蓄積を引き起こす可能性がある(Drost, E. M. et al., Am. J. Respir. Cell Mol. Biol. 6:287-295 (1992))。さらに、肺胞マクロファージおよび好中球は、NADPHオキシダーゼを介して多量の反応性酸素中間体を生成する能力を有する(Emmendorffer, A. et al., J. Immunol. Methods 131:269-275 (1990); Emmendorffer, A. et al., Cytometry 18:147-155 (1994))。吸入された、または炎症細胞により生成されたオキシダントは肺における炎症プロセスに結びつけられている。触媒抗酸化物質であるAEOL10150はラットの肺におけるタバコ煙誘導炎症を軽減することが以前に示されている。このことは、おそらく、酸化還元感受性転写因子である核内因子(NF)-κBのオキシダント媒介活性化を介した、炎症誘発性サイトカインおよびケモカインの誘導における酸素ラジカルの役割を示唆している(Smith, K. R., Free Radic Biol Med 33:1106-1114 (2002))。しかしながら、タバコ煙によって誘導される炎症は、抗酸化物質による処置によってベースラインレベルまで消散しなかった。このことは、さらなる炎症メディエーターの役割を示唆している。
【0135】
コルチコステロイドには、サイトカイン分泌の阻害を含む抗炎症特性がある。この特性のために、これらの化合物はCOPD治療において有用である。しかしながら、いくつかの重要な研究の概説は、全身コルチコステロイドで治療されたCOPD患者の症状の有意な改善の証拠を示していない(Wood-Baker, R. Am J Respir Med 2:451-458 (2003))。このことは、COPDの発症に一般的に関連する炎症のさらなる治療モダリティーの必要性を示唆している。
【0136】
EETは広域スペクトルの抗炎症活性を有し、おそらく、いくつかのサイトカインの効果を媒介し、いくつかの細胞接着分子(CAM)(E-セレクチン、血管細胞接着分子1(VCAM-1)、細胞内接着分子1(ICAM-1)(Campbell, W. B. Trends Pharmacol Sci 21: 125-127 (2000))を含む)の発現を促進する機構によって作用する。白血球およびマクロファージによって産生されるサイトカイン(腫瘍壊死因子α(TNF-α)およびインターロイキン1α(IL-1α)を含む)はCAM発現を促進する。EETは、TNF-αおよびIL-1αによって誘導されるCAM発現の強力な阻害剤であり、VCAM-1に及ぼす効果が最も顕著である(Node, K. et al., Science 285:1276-1279 (1999))。サイトカインは、核転写因子κB(NF-κB)を活性化することで、CAMおよび他の炎症性タンパク質の発現を誘導する。不活性型のNF-κBは細胞質内で阻害タンパク質IκBと結合している(Karin, M. J Biol Chem 274:27339-27342 (1999))。TNF-αおよびIL-1はIκBキナーゼを活性化する。IκBキナーゼは、IκBにある重要なセリンをリン酸化し、このタンパク質を分解させる。NF-κBの遊離サブユニットは細胞質から核へ移動し、核内で炎症促進性CAMをコードする遺伝子に結合し、この遺伝子を転写させる。EETは、IκBの分解およびNF-κBにより媒介される遺伝子転写を阻害することによって作用する(Node, K. et al., Science 285:1276-1279 (1999))。
【0137】
EETの排除に関与する酵素(Zeldin, D. C. et al., J Biol Chem 268:6402-6407 (1993))であるsEHは、EET濃度の調節において重要な役割を有している可能性があり、従って、肺における重要な炎症メディエーターである可能性がある。sEHは、インビボで、EETを対応するジヒドロキシ誘導体に代謝するように機能する(Fang, X. et al., J Biol Chem 276:14867-14874 (2001))。この酵素は、げっ歯類とヒトの間で90%を超える相同性を有し(Arand, M. et al., FEBS Lett 338:251-256 (1994))、インビトロでは多くの尿素誘導体、カルバメート誘導体、およびアミド誘導体によって阻害することができる(Morisseau, C. et al., Proc Natl Acad Sci USA 96:8849-8854 (1999); Morisseau, C. et al., Biochem Pharmacol 63:1599-1608 (2002)。このような阻害剤の1つであるN,N'-ジシクロヘキシルウレア(DCU)をSHラットに注射すると、血圧が低下し、尿中14,15-EETが増加し、尿中ジヒドロキシ誘導体が減少した。これらの観察は、インビボでのDCUによるsEH阻害と一致している。
【0138】
(表1)タバコ煙の特徴a

aデータは平均±SDで表した。
【0139】
(表2)ラットにおける3日間のタバコ煙曝露後のBAL中の細胞差

データは平均±SEで表した(n=4)。
p<0.05,それぞれの濾過空気対照と比較した。
p<0.05,タバコ煙+ビヒクルと比較した。
§p<0.05,タバコ煙+sEH阻害剤と比較した。
【0140】
本明細書に記載の実施例および態様は例示にすぎず、本明細書に記載の実施例および態様を考慮すれば、様々な変更または修正が当業者に示唆され、本願の精神および範囲ならびに添付の特許請求の範囲の中に含まれることが理解される。本明細書において引用された全ての刊行物、特許、特許出願は、全ての目的のために、その全体が参照により本明細書に組み入れられる。
【図面の簡単な説明】
【0141】
【図1】皮下投与後のSHラットにおけるAUDA-nBEおよびAUDAの血中濃度-時間プロファイルを示す。
【図2】タバコ煙に3日間曝露されたラットからのBALにおける細胞の数を示す。ラットを、ビヒクル、sEH阻害剤、またはsEH阻害剤+EETで処置した後に、濾過空気(灰色の棒)に曝露した。さらなるラットを、ビヒクル、sEH阻害剤、またはsEH阻害剤+EETで処置した後に、タバコ煙(黒色の棒)に曝露した。データは平均±SE(n=4)で示した。a p<0.05(それぞれの濾過空気対照と比較した)。b p<0.05(タバコ煙+ビヒクルと比較した)。c p<0.05(タバコ煙+sEH阻害剤と比較した)。
【図3】タバコ煙に3日間曝露されたラットからのBALにおけるマクロファージの数を示す。ラットを、ビヒクル、sEH阻害剤、またはsEH阻害剤+EETで処置した後に、濾過空気(灰色の棒)に曝露した。さらなるラットを、ビヒクル、sEH阻害剤、またはsEH阻害剤+EETで処置した後に、タバコ煙(黒色の棒)に曝露した。データは平均±SE(n=4)で示した。a p<0.05(それぞれの濾過空気対照と比較した)。b p<0.05(タバコ煙+ビヒクルと比較した)。c p<0.05(タバコ煙+sEH阻害剤と比較した)。
【図4】タバコ煙に3日間曝露されたラットからのBALにおける好中球の数を示す。ラットを、ビヒクル、sEH阻害剤、またはsEH阻害剤+EETで処置した後に、濾過空気(灰色の棒)に曝露した。さらなるラットを、ビヒクル、sEH阻害剤、またはsEH阻害剤+EETで処置した後に、タバコ煙(黒色の棒)に曝露した。データは平均±SE(n=4)で示した。a p<0.05(それぞれの濾過空気対照と比較した)。b p<0.05(タバコ煙+ビヒクルと比較した)。c p<0.05(タバコ煙+sEH阻害剤と比較した)。
【図5】タバコ煙に3日間曝露されたラットからのBALにおけるリンパ球の数を示す。ラットを、ビヒクル、sEH阻害剤、またはsEH阻害剤+EETで処置した後に、濾過空気(灰色の棒)に曝露した。さらなるラットを、ビヒクル、sEH阻害剤、またはsEH阻害剤+EETで処置した後に、タバコ煙(黒色の棒)に曝露した。データは平均±SE(n=4)で示した。a p<0.05(それぞれの濾過空気対照と比較した)。b p<0.05(タバコ煙+ビヒクルと比較した)。c p<0.05(タバコ煙+sEH阻害剤と比較した)。
【図6】タバコ煙に3日間曝露されたラットからのBALにおける好酸球の数を示す。ラットを、ビヒクル、sEH阻害剤、またはsEH阻害剤+EETで処置した後に、濾過空気(灰色の棒)に曝露した。さらなるラットを、ビヒクル、sEH阻害剤、またはsEH阻害剤+EETで処置した後に、タバコ煙(黒色の棒)に曝露した。データは平均±SE(n=4)で示した。
【図7】EET合成プロセスを示す。
【図8】ワックスペレットからのEETの放出速度を示す表である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、および喘息からなる群より選択される状態の進行を阻害する医用薬剤を製造するための、cis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)の使用。
【請求項2】
閉塞性肺疾患が、慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)、気腫、および慢性気管支炎からなる群より選択される、請求項1記載の使用。
【請求項3】
間質性肺疾患が特発性肺線維症である、請求項1記載の使用。
【請求項4】
間質性肺疾患が塵埃への職業性被爆に関連するものである、請求項1記載の使用。
【請求項5】
状態が喘息である、請求項1記載の使用。
【請求項6】
EETが、14,15-EET、8,9-EET、および11,12-EETからなる群より選択される、請求項1記載の使用。
【請求項7】
EETが14R,15S-EETである、請求項1記載の使用。
【請求項8】
EETが、EETを周囲環境に徐々に放出する材料の中にある、請求項1記載の使用。
【請求項9】
医用薬剤が鼻腔内投与用または吸入投与用である、請求項1記載の使用。
【請求項10】
閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、および喘息からなる群より選択される状態の進行を阻害する医用薬剤を製造するための、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)阻害剤の使用。
【請求項11】
閉塞性肺疾患が、慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)、気腫、および慢性気管支炎からなる群より選択される、請求項10記載の使用。
【請求項12】
間質性肺疾患が特発性肺線維症である、請求項10記載の使用。
【請求項13】
間質性肺疾患が塵埃への職業性被爆に関連するものである、請求項10記載の使用。
【請求項14】
状態が喘息である、請求項10記載の使用。
【請求項15】
sEH阻害剤が、アダマンチルドデシルウレア、12-(3-アダマンタン-1-イル-ウレイド)ドデカン酸、12-(3-アダマンタン-1-イル-ウレイド)ドデカン酸ブチルエステル、およびアダマンタン-1-イル-3-{5-[2-(2-エトキシエトキシ)エトキシ]ペンチル}ウレアからなる群より選択される、請求項10記載の使用。
【請求項16】
医用薬剤が徐放性製剤である、請求項10記載の使用。
【請求項17】
医用薬剤がcis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)をさらに含む、請求項10記載の使用。
【請求項18】
EETが、14,15-EET、8,9-EET、および11,12-EETからなる群より選択される、請求項17記載の使用。
【請求項19】
医用薬剤が鼻腔内投与用または吸入投与用である、請求項10記載の使用。
【請求項20】
閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、および喘息からなる群より選択される状態の進行を阻害する医用薬剤を製造するための、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)の発現を阻害する単離された核酸の使用。
【請求項21】
核酸が低分子干渉RNAである、請求項20記載の使用。
【請求項22】
閉塞性肺疾患が、慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)、気腫、および慢性気管支炎からなる群より選択される、請求項20記載の使用。
【請求項23】
間質性肺疾患が特発性肺線維症である、請求項20記載の使用。
【請求項24】
間質性肺疾患が塵埃への職業性被爆に関連するものである、請求項20記載の使用。
【請求項25】
状態が喘息である、請求項20記載の使用。
【請求項26】
それを必要とする人に、可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)阻害剤を投与する工程を含む、閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、および喘息からなる群より選択される状態の進行を阻害する方法。
【請求項27】
閉塞性肺疾患が、慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)、気腫、および慢性気管支炎からなる群より選択される、請求項26記載の方法。
【請求項28】
間質性肺疾患が特発性肺線維症である、請求項26記載の方法。
【請求項29】
間質性肺疾患が塵埃への職業性被爆に関連するものである、請求項26記載の方法。
【請求項30】
状態が喘息である、請求項26記載の方法。
【請求項31】
sEH阻害剤が、阻害剤を徐々に放出する材料の中にある、請求項26記載の方法。
【請求項32】
cis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)を投与する工程をさらに含む、請求項26記載の方法。
【請求項33】
EETが、14,15-EET、8,9-EET、および11,12-EETからなる群より選択される、請求項32記載の方法。
【請求項34】
EETが14R,15S-EETである、請求項33記載の方法。
【請求項35】
sEH阻害剤が経口投与される、請求項26記載の方法。
【請求項36】
sEH阻害剤が鼻腔内投与または吸入によって投与される、請求項25記載の方法。
【請求項37】
以下の工程を含む、閉塞性肺疾患、間質性肺疾患、および喘息からなる群より選択される状態の進行を阻害する方法:
それを必要とする人に、(a)可溶性エポキシドヒドロラーゼ(「sEH」)をコードする遺伝子の発現を阻害する単離された核酸、および(b)cis-エポキシエイコサトリエン酸(「EET」)を投与する工程。
【請求項38】
閉塞性肺疾患が、慢性閉塞性肺疾患(「COPD」)、気腫、および慢性気管支炎からなる群より選択される、請求項37記載の方法。
【請求項39】
間質性肺疾患が特発性肺線維症である、請求項37記載の方法。
【請求項40】
間質性肺疾患が塵埃への職業性被爆に関連するものである、請求項37記載の方法。
【請求項41】
状態が喘息である、請求項37記載の方法。
【請求項42】
核酸が低分子干渉RNA(「siRNA」)である、請求項37記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公表番号】特表2007−534673(P2007−534673A)
【公表日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−506523(P2007−506523)
【出願日】平成17年3月31日(2005.3.31)
【国際出願番号】PCT/US2005/010781
【国際公開番号】WO2005/094373
【国際公開日】平成17年10月13日(2005.10.13)
【出願人】(505006585)ザ レジェンツ オブ ザ ユニバーシティー オブ カリフォルニア (16)
【Fターム(参考)】