説明

姿勢角安定化装置及び方法

【課題】高精度速度計測装置に組み込まれて、移動体の静止時における位置、速度及び方位の変化を解消すると共に、静止状態から動的状態に切り替わるときであっても、連続的な姿勢角及び速度応答出力を行うことができるようにする姿勢角安定化装置及び方法を提供すること。
【解決手段】姿勢角安定化装置100は、移動体の角速度とフィードバックした補正値とから姿勢角の変化量を算出し、算出した姿勢角の変化量を積分した姿勢角と、カルマンフィルタによって推定された姿勢角の推定値とから姿勢行列を生成し出力する。そして、動作時と判定した場合に生成した姿勢行列のラッチを行い、静止時と判定した場合に静止時であると判定する前の姿勢行列のラッチを保持し、ラッチしている姿勢行列と、生成した姿勢行列とから姿勢角誤差を算出し、算出した姿勢角誤差と生成した姿勢行列とに基づいて姿勢角を補正するための補正制御値を算出し、フィードバックする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、姿勢角安定化装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、GPS(Global Positioning System)/IMU(Inertial Measurement Unit:慣性計測装置)複合航法によって移動体の位置、速度及び方位等を演算するGPS複合航法装置では、誤差の推定にカルマンフィルタが広く使用されている。カルマンフィルタでは、移動体の位置、速度及び方位等をモデルによって推定するが、移動体の移動中と静止中とで、モデルが大きく異なる。特に、移動体の静止時において、カルマンフィルタは観測量の可観測性問題によって推定精度が劣化してしまう。移動体が静止し続けた場合(例えば、移動体が赤信号で止まる等)、移動体の位置、速度及び方位等が次第にドリフトするという不具合が生じる。また、移動中と静止中とでモデルを切り替えると、静止時から動的状態に切り替わるときに姿勢角、速度の応答性が劣化して非連続な出力となってしまう。
【0003】
このような不具合について、GPS複合航法装置において、移動体の静止時における推定位置、推定速度及び推定方位の変化を解消すると同時に、静止時から移動時における応答性の劣化を解消する技術を開示する特許文献1が知られている。特許文献1に開示されたGPS複合航法装置は、移動体の静止を判定する静止判定部を設け、該静止判定部で静止状態と判定されたとき、カルマンフィルタの観測更新に用いる観測モデルを変更すると共に、更新による誤差共分散行列の変化分を補正する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−232869号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような技術が提案されているが、GPS/IMU複合航法を利用した高精度速度計測装置において、移動体の静止時における位置、速度及び方位の変化を解消し、静止時から移動時に切り替わるときであっても、従来技術よりもさらに連続的な姿勢角及び速度応答出力を行うことができるようにする装置が求められている。
【0006】
本発明は、GPS受信機を利用し、カルマンフィルタを用いる高精度速度計測装置に組み込まれて、移動体の静止時における位置、速度及び方位の変化を解消すると共に、静止状態から動的状態に切り替わるときであっても、連続的な姿勢角及び速度応答出力を行うことができるようにする姿勢角安定化装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明では、以下のような解決手段を提供する。
【0008】
(1) GPS受信機及びIMUを使用して計測した計測速度からカルマンフィルタによって移動体の速度を推定し、推定した速度と前記計測速度とを融合して自律航法アルゴリズムによって移動体の速度を算出する装置に含まれる姿勢角安定化装置であって、前記IMUを使用して計測された移動体の角速度と、フィードバックされた補正値とから姿勢角の変化量を算出する姿勢角変化量算出手段と、前記姿勢角変化量算出手段によって算出された姿勢角の変化量を積分する積分処理手段と、前記積分処理手段によって積分された姿勢角と、前記カルマンフィルタによって推定された姿勢角の推定値とから姿勢行列を生成し、出力するカルマンフィルタ姿勢補正処理手段と、前記GPS受信機によって計測された速度が一定の閾値未満であり、かつ、前記IMUを使用して計測された角速度が一定の閾値未満であるか否かを判定する速度旋回判定手段と、前記速度旋回判定手段によって、速度又は角速度が一定の閾値以上であると判定された場合に、前記カルマンフィルタ姿勢補正処理手段によって生成された姿勢行列のラッチを行い、速度及び角速度が一定の閾値未満であると判定された場合に、前記生成された姿勢行列のラッチを行わずに前記閾値未満であると判定される前の姿勢行列のラッチを保持する姿勢角ラッチ手段と、前記姿勢角ラッチ手段によってラッチされている姿勢行列の転置行列を算出する転置処理手段と、前記転置処理手段によって転置された姿勢行列と、前記カルマンフィルタ姿勢補正処理手段によって生成された姿勢行列との乗算処理を行い、姿勢角誤差を算出する姿勢角誤差演算処理手段と、前記姿勢角誤差演算処理手段によって算出された姿勢角誤差と、前記カルマンフィルタ姿勢補正処理手段によって生成された姿勢行列とに基づいて姿勢角を補正するための補正制御値を算出し、前記姿勢角変化量算出手段にフィードバックする前記補正値とする補正制御手段と、を備える姿勢角安定化装置。
【0009】
(1)の構成によれば、本発明に係る姿勢角安定化装置は、IMUを使用して計測された移動体の角速度と、フィードバックした補正値とから姿勢角の変化量を算出し、算出した姿勢角の変化量を積分し、積分した姿勢角と、カルマンフィルタによって推定された姿勢角の推定値とから姿勢行列を生成し、出力する。そして、姿勢角安定化装置は、GPS受信機によって計測された速度が一定の閾値未満であり、かつ、IMUを使用して計測された角速度が一定の閾値未満であるか否かを判定し、速度又は角速度が一定の閾値以上であると判定した場合に、生成した姿勢行列のラッチを行い、速度及び角速度が一定の閾値未満であると判定した場合に、生成した姿勢行列のラッチを行わずに閾値未満であると判定する前の姿勢行列のラッチを保持し、ラッチしている姿勢行列の転置行列を算出し、算出した転置行列と、生成した姿勢行列との乗算処理を行い、姿勢角誤差を算出し、算出した姿勢角誤差と、生成した姿勢行列とに基づいて姿勢角を補正するための補正制御値を算出し、フィードバックする補正値とする。
【0010】
すなわち、本発明に係る姿勢角安定化装置は、移動体の移動と静止との判定を行い、移動体が静止すると、移動から静止に移る前の姿勢行列を保持し、保持した姿勢行列を用いて姿勢角を補正制御し、移動し始めると、保持した姿勢行列を用いて姿勢行列を生成し始める。したがって、本発明に係る姿勢角安定化装置は、GPS受信機を利用し、カルマンフィルタを用いる高精度速度計測装置に組み込まれて、移動体の静止時における位置、速度及び方位が変化することを解消すると共に、静止状態から動的状態に切り替わるときであっても、連続的な姿勢角及び速度応答出力を行うようにすることができる。
【0011】
(2) GPS受信機及びIMUを使用して計測した計測速度からカルマンフィルタによって移動体の速度を推定し、推定した速度と前記計測速度とを融合して自律航法アルゴリズムによって移動体の速度を算出する装置に含まれる姿勢角安定化装置が実行する方法であって、前記IMUを使用して計測された移動体の角速度と、フィードバックされた補正値とから姿勢角の変化量を算出する姿勢角変化量算出ステップと、前記姿勢角変化量算出ステップによって算出された姿勢角の変化量を積分する積分処理ステップと、前記積分処理ステップによって積分された姿勢角と、前記カルマンフィルタによって推定された姿勢角の推定値とから姿勢行列を生成し、出力するカルマンフィルタ姿勢補正処理ステップと、前記GPS受信機によって計測された速度が一定の閾値未満であり、かつ、前記IMUを使用して計測された角速度が一定の閾値未満であるか否かを判定する速度旋回判定ステップと、前記速度旋回判定ステップによって、速度又は角速度が一定の閾値以上であると判定された場合に、前記カルマンフィルタ姿勢補正処理手段によって生成された姿勢行列のラッチを行い、速度及び角速度が一定の閾値未満であると判定された場合に、前記生成された姿勢行列のラッチを行わずに前記閾値未満であると判定される前の姿勢行列のラッチを保持する姿勢角ラッチステップと、前記姿勢角ラッチステップによってラッチされている姿勢行列の転置行列を算出する転置処理ステップと、前記転置処理ステップによって求められた転置行列と、前記カルマンフィルタ姿勢補正処理ステップによって生成された姿勢行列との乗算処理を行い、姿勢角誤差を算出する姿勢角誤差演算処理ステップと、前記姿勢角誤差演算処理ステップによって算出された姿勢角誤差と、前記カルマンフィルタ姿勢補正処理ステップによって生成された姿勢行列とに基づいて姿勢角を補正するための補正制御値を算出し、前記姿勢角変化量算出ステップにフィードバックする前記補正値とする補正制御ステップと、を備える方法。
【0012】
したがって、(1)と同様に、本発明に係る方法は、GPS受信機を利用し、カルマンフィルタを用いる高精度速度計測装置に組み込まれた姿勢角安定化装置によって実行され、移動体の静止時における位置、速度及び方位が変化することを解消すると共に、静止状態から動的状態に切り替わるときであっても、連続的な姿勢角及び速度応答出力を行うようにすることができる。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、GPS受信機及びIMUを使用して計測した速度からカルマンフィルタ及び自律航法アルゴリズムによって移動体の速度を算出する装置において、静止状態で算出する移動体の姿勢角を一定に安定させることができる。さらに、本発明は、静止状態から動的状態に切り替わるときであっても、連続的な姿勢角及び速度応答出力を行うようにすることができ、その結果、低速度、低旋回時の測定精度を向上させることが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の一実施形態である姿勢角安定化装置の構成を示すブロック図である。
【図2】本発明の一実施形態に係る姿勢角安定化装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態に係る姿勢角安定化装置の処理内容を示すフローチャートである。
【図4】本発明の一実施形態に係る姿勢角安定化装置における姿勢角の出力の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について図を参照しながら説明する。
【0016】
図1は、本発明の一実施形態である姿勢角安定化装置100の構成を示すブロック図である。姿勢角安定化装置100は、姿勢角変化量算出部101と、積分処理部102と、カルマンフィルタ姿勢補正処理部103と、速度旋回判定部104と、姿勢角ラッチ部105と、転置処理部106と、姿勢角誤差演算処理部107と、補正制御部108とを備える。姿勢角安定化装置100は、高精度速度計測装置(図示せず)の自律航法アルゴリズムを実行するストラップダウンナビゲータ内部に組み込まれる。高精度速度計測装置は、GPS受信機及びIMUを使用して計測した計測速度からカルマンフィルタによって移動体の速度を推定し、推定した速度と計測速度とを融合する際に、姿勢角安定化装置100に、3軸ジャイロセンサによる角速度(ω)と、カルマンフィルタからの姿勢角補正値(δθ)と、GPS/IMUの統合速度(V)とを入力し、姿勢角安定化装置100から方向余弦マトリクスで表される姿勢行列(Rnew)を取得して、自律航法アルゴリズムによって移動体の速度を算出する。
【0017】
高精度速度計測装置において、3軸ジャイロセンサは、移動体の3次元の角速度を計測する。カルマンフィルタは、姿勢角から姿勢角の補正値を推定演算する。
【0018】
姿勢角変化量算出部101は、IMUを使用して計測された移動体の角速度と、フィードバックされた補正値とから姿勢角の変化量を算出する。すなわち、姿勢角変化量算出部101は、数式1を計算することで、姿勢角変化量を算出する。
【0019】
【数1】

【0020】
積分処理部102は、姿勢角変化量算出部101によって算出された姿勢角の変化量を積分する。積分処理部102は、数式2の積分処理を行うが、例えば数式3のように1次近似し、離散積分処理を実施する。ここで、Rn+1は1ステップ演算後の姿勢角であり、Rが1ステップ前の姿勢角となる。
【0021】
【数2】

【0022】
カルマンフィルタ姿勢補正処理部103は、積分処理部102によって積分された姿勢角と、カルマンフィルタによって推定された姿勢角の推定値とから姿勢行列を生成し、出力する。カルマンフィルタ姿勢補正処理部103は、数式4により、姿勢角をGPSの位置及び速度を基準として補正処理する。ここで、Rnewはカルマンフィルタ姿勢補正処理後の姿勢行列、Iは3x3の単位行列、δθはカルマンフィルタによって推定された姿勢角誤差、×は外積を意味する。
【0023】
【数3】

【0024】
速度旋回判定部104は、GPS受信機によって計測された速度が一定の閾値未満であり、かつ、IMUを使用して計測された角速度が一定の閾値未満であるか否かを判定する。すなわち、速度旋回判定部104は、GPS受信機によって計測された速度が一定の閾値未満であり、かつ、IMUを使用して計測された角速度が一定の閾値未満である場合に、静止状態と判定する。同様に、速度旋回判定部104は、GPS受信機によって計測された速度が一定の閾値以上であるか、又は、IMUを使用して計測された角速度が一定の閾値以上である場合に、動的状態と判定する。
【0025】
例えば、速度旋回判定部104は、GPS/IMUによる統合速度の平均値Vがxkm/h未満、かつ、3軸ジャイロの角速度出力ωの平均値がすべて、ydeg/s未満である場合、静止状態と判定し、静止状態フラグを出力する。速度旋回判定部104は、GPS/IMUによる統合速度の平均値Vがxkm/h以上、又は、3軸ジャイロの角速度出力ωの平均値がすべて、ydeg/s以上である場合、動的状態と判定し、動的状態フラグを出力する。
【0026】
姿勢角ラッチ部105は、速度旋回判定部104によって、速度又は角速度が一定の閾値以上であると判定された場合に、カルマンフィルタ姿勢補正処理部103によって生成された姿勢行列Rnewのラッチを行い、速度及び角速度が一定の閾値未満であると判定された場合に、カルマンフィルタ姿勢補正処理部103によって生成された姿勢行列Rnewのラッチを行わずに閾値未満であると判定される前の姿勢行列のラッチを保持する。すなわち、姿勢角ラッチ部105は、速度旋回判定部104の出力結果によって、姿勢行列Rnewのラッチを行うか否かを決定し、姿勢行列をラッチする。例えば、速度旋回判定部104によって動的状態フラグが出力されている場合、姿勢角ラッチ部105は、姿勢行列Rnewを生成されるごとにラッチする。速度旋回判定部104によって静止状態フラグが出力されている場合、姿勢角ラッチ部105は、生成された姿勢行列Rnewのラッチを行わずに、静止状態フラグが出力される前の動的状態フラグが出力されている場合にラッチした姿勢行列を保持する。
【0027】
転置処理部106は、姿勢角ラッチ部105によってラッチされている姿勢行列の転置行列Rnewを算出する。
【0028】
姿勢角誤差演算処理部107は、転置処理部106によって算出された転置行列Rnewと、カルマンフィルタ姿勢補正処理部103によって生成された姿勢行列Rnewとの乗算処理を行い、姿勢角誤差を算出する。ここで、動的状態時では、姿勢角ラッチ部105がアクティブであり、姿勢行列Rnewをラッチするため、転置処理部106は、姿勢角ラッチ部105がラッチした姿勢行列RnewをRnewに常に更新し、現在の姿勢行列Rnewを単純に転置した転置行列を算出する。すなわち、RnewとRnewとは直交関係が維持されているので、数式5によって算出されるIは、3x3の単位行列である。
【0029】
【数4】

【0030】
一方、静止状態時では、姿勢角ラッチ部105は、動的状態から静止状態に遷移する前の姿勢行列Rを保持しているため、転置処理部106は、動的状態から静止状態に遷移する前の姿勢行列Rの転置行列Rを算出する。すなわち、姿勢行列Rnewは、ジャイロのオフセット誤差とカルマンフィルタの補正とにより、次第に正しい姿勢からドリフトしていくのに対して、転置処理部106が算出したRは、動的状態から静止状態に遷移する前の姿勢行列Rの転置行列であるので、RとRnewとの乗算処理(数式6)を行うと、上記ドリフト分の誤差量を算出することができる。
【0031】
【数5】

【0032】
ここで、δRnewは姿勢角誤差行列であり、δθ11、δθ12、δθ13、δθ21、δθ22、δθ23、δθ31、δθ32、δθ33、がそれぞれの行列要素における誤差である。
【0033】
補正制御部108は、姿勢角誤差演算処理部107によって算出された姿勢角誤差と、カルマンフィルタ姿勢補正処理部103によって生成された姿勢行列Rnewとに基づいて姿勢角を補正するための補正制御値を算出し、姿勢角変化量算出部101にフィードバックする補正値とする。例えば、補正制御部108は、姿勢角誤差演算処理部107によって算出されたドリフト誤差δRnewを、生成された姿勢行列Rnewに基づいてPI制御によって修正する。すなわち、補正制御部108は静止時においてのみ動作する。補正制御部108は、動的状態から静止状態に遷移する時の姿勢角を保持するように、数式7及び数式8によってPI制御によるフィードバック制御を行う。
【0034】
【数6】

【0035】
数式7において、KはPゲイン、KはIゲインである。diffDCMはPI制御によるフィードバック値であり、姿勢角変化量算出部101にフィードバックするRFBに補正される。ここでPI制御のフィードバックゲインはカルマンフィルタの補正とジャイロオフセットドリフトの補正をキャンセルする程度の微小な値とする。これにより、姿勢角安定化装置100は、静止状態から動的状態に切り替わるとき、上記フィードバックの効果が得られる前に動的状態への切り替わりを行うことが可能なため、従来の技術と比較してより連続的な姿勢角及び速度応答出力を行うことができる。
【0036】
図2は、本発明の一実施形態に係る姿勢角安定化装置100のハードウェア構成の一例を示す図である。姿勢角安定化装置100は、例えば、CPU(Central Processing Unit)1010、バスライン1005、メモリ1050及び入出力I/F1040を備える。
【0037】
CPU1010は、姿勢角安定化装置100を統括的に制御する部分であり、メモリ1050に記憶された各種プログラムを適宜読み出して実行することにより、上述したハードウェアと協働し、本発明に係る各種機能を実現している。
【0038】
メモリ1050は、適宜読み出して実行されるプログラムを記憶し、プログラムの実行によって作成される種々の情報を記憶する。例えば、メモリ1050は、PI制御のためのゲイン値や、姿勢角の変化量等の各種演算結果を記憶する。
【0039】
入出力I/F1040は、姿勢角安定化装置100が高精度速度計測装置から3軸ジャイロセンサによる角速度(ω)と、カルマンフィルタからの姿勢角補正値(δθ)と、GPS/IMUの統合速度(V)とを入力し、高精度速度計測装置に姿勢角を出力するためのインターフェースである。
【0040】
図3は、本発明の一実施形態に係る姿勢角安定化装置100の処理内容を示すフローチャートである。
【0041】
ステップS101において、CPU1010は、高精度速度計測装置から角速度(ω)と、カルマンフィルタからの姿勢角補正値(δθ)と、統合速度(V)とを入力する。その後、CPU1010は、処理をステップS102に移す。
【0042】
ステップS102において、CPU1010(姿勢角変化量算出部101)は、入力した角速度(ω)と、フィードバックされた補正値とから姿勢角の変化量を算出する。その後、CPU1010は、処理をステップS103に移す。
【0043】
ステップS103において、CPU1010(積分処理部102)は、ステップS102によって算出された姿勢角の変化量を積分する。その後、CPU1010は、処理をステップS104に移す。
【0044】
ステップS104において、CPU1010(カルマンフィルタ姿勢補正処理部103)は、ステップS103によって積分された姿勢角と、カルマンフィルタからの姿勢角補正値(δθ)とから姿勢行列を生成し、高精度速度計測装置に出力する。その後、CPU1010は、処理をステップS105に移す。
【0045】
ステップS105において、CPU1010(速度旋回判定部104)は、静止状態か否かを判断する。より具体的には、CPU1010は、入力した統合速度(V)が一定の閾値未満であり、かつ、入力した角速度(ω)が一定の閾値未満であるか否かを判断する。この判断がYESの場合、CPU1010は、処理をステップS106に移し、NOの場合、CPU1010は、処理をステップS107に移す。
【0046】
ステップS106において、CPU1010(姿勢角ラッチ部105)は、ステップS104によって生成された姿勢行列Rnewを記憶しないで、閾値未満であると判定される前の姿勢行列の記憶を保持する。その後、CPU1010は、処理をステップS108に移す。
【0047】
ステップS107において、CPU1010(姿勢角ラッチ部105)は、ステップS104によって生成された姿勢行列Rnewを記憶する。その後、CPU1010は、処理をステップS108に移す。
【0048】
ステップS108において、CPU1010(転置処理部106)は、ステップS106又はステップS107によって記憶されている姿勢行列の転置行列Rnewを算出する。その後、CPU1010は、処理をステップS109に移す。
【0049】
ステップS109において、CPU1010(姿勢角誤差演算処理部107)は、ステップS108において算出された転置行列Rnewと、ステップS104において生成された姿勢行列Rnewとの乗算処理を行い、姿勢角誤差を算出する。その後、CPU1010は、処理をステップS110に移す。
【0050】
ステップS110において、CPU1010(補正制御部108)は、ステップS109において算出された姿勢角誤差と、ステップS104において生成された姿勢行列Rnewとに基づいて姿勢角を補正するための補正制御値を算出し、ステップS102にフィードバックする補正値とする。その後、CPU1010は、処理をステップS101に移す。
【0051】
図4は、本発明の一実施形態に係る姿勢角安定化装置100における姿勢角の出力の変化を示す図である。図4(a)は、移動体の速度の変化を示し、静止状態の時間を示している。図4(b)は、従来において算出される姿勢角の変化を示す図である。図4(c)は、姿勢角安定化装置100において算出される姿勢角の変化を示す図である。
【0052】
図4(b)の静止状態において、姿勢角の角度ドリフトは次第に大きくなっていることが示されている。一方、図4(c)の静止状態において、姿勢角安定化装置100によって、移動体の静止時における角度ドリフトが次第に大きくなることが解消され、静止状態であっても角度ドリフトは小さく、一定幅で安定している。
【0053】
本実施例によれば、姿勢角安定化装置100は、IMUを使用して計測された移動体の角速度と、フィードバックされた補正値とから姿勢角の変化量を算出する姿勢角変化量算出部101と、姿勢角変化量算出部101によって算出された姿勢角の変化量を積分する積分処理部102と、積分処理部102によって積分された姿勢角と、カルマンフィルタによって推定された姿勢角の推定値とから姿勢行列を生成し、出力するカルマンフィルタ姿勢補正処理部103と、GPS受信機によって計測された速度が一定の閾値未満であり、かつ、IMUを使用して計測された角速度が一定の閾値未満であるか否かを判定する速度旋回判定部104と、速度旋回判定部104によって、速度又は角速度が一定の閾値以上であると判定された場合に、カルマンフィルタ姿勢補正処理部103によって生成された姿勢行列のラッチを行い、速度及び角速度が一定の閾値未満であると判定された場合に、生成された姿勢行列のラッチを行わずに閾値未満であると判定される前の姿勢行列のラッチを保持する姿勢角ラッチ部105と、姿勢角ラッチ部105によってラッチされている姿勢行列の転置行列を算出する転置処理部106と、転置処理部106によって算出された転置行列と、カルマンフィルタ姿勢補正処理部103によって生成された姿勢行列との乗算処理を行い、姿勢角誤差を算出する姿勢角誤差演算処理部107と、姿勢角誤差演算処理部107によって算出された姿勢角誤差と、カルマンフィルタ姿勢補正処理部103によって生成された姿勢行列とに基づいて姿勢角を補正するための補正制御値を算出し、姿勢角変化量算出部101にフィードバックする補正値とする補正制御部108と、を備える。したがって、姿勢角安定化装置100は、GPS受信機を利用し、カルマンフィルタを用いる高精度速度計測装置に組み込まれて、移動体の静止時における位置、速度及び方位が変化することを解消すると共に、静止状態から動的状態に切り替わるときであっても、連続的な姿勢角及び速度応答出力を行うようにすることができ、その結果、低速度、低旋回時の測定精度を向上させることが可能である。
【0054】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は上述した実施形態に限るものではない。また、本発明の実施形態に記載された効果は、本発明から生じる最も好適な効果を列挙したに過ぎず、本発明による効果は、本発明の実施形態に記載されたものに限定されるものではない。
【符号の説明】
【0055】
100 姿勢角安定化装置
101 姿勢角変化量算出部
102 積分処理部
103 カルマンフィルタ姿勢補正処理部
104 速度旋回判定部
105 姿勢角ラッチ部
106 転置処理部
107 姿勢角誤差演算処理部
108 補正制御部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
GPS受信機及びIMUを使用して計測した計測速度からカルマンフィルタによって移動体の速度を推定し、推定した速度と前記計測速度とを融合して自律航法アルゴリズムによって移動体の速度を算出する装置に含まれる姿勢角安定化装置であって、
前記IMUを使用して計測された移動体の角速度と、フィードバックされた補正値とから姿勢角の変化量を算出する姿勢角変化量算出手段と、
前記姿勢角変化量算出手段によって算出された姿勢角の変化量を積分する積分処理手段と、
前記積分処理手段によって積分された姿勢角と、前記カルマンフィルタによって推定された姿勢角の推定値とから姿勢行列を生成し、出力するカルマンフィルタ姿勢補正処理手段と、
前記GPS受信機によって計測された速度が一定の閾値未満であり、かつ、前記IMUを使用して計測された角速度が一定の閾値未満であるか否かを判定する速度旋回判定手段と、
前記速度旋回判定手段によって、速度又は角速度が一定の閾値以上であると判定された場合に、前記カルマンフィルタ姿勢補正処理手段によって生成された姿勢行列のラッチを行い、速度及び角速度が一定の閾値未満であると判定された場合に、前記生成された姿勢行列のラッチを行わずに前記閾値未満であると判定される前の姿勢行列のラッチを保持する姿勢角ラッチ手段と、
前記姿勢角ラッチ手段によってラッチされている姿勢行列の転置行列を算出する転置処理手段と、
前記転置処理手段によって算出された転置行列と、前記カルマンフィルタ姿勢補正処理手段によって生成された姿勢行列との乗算処理を行い、姿勢角誤差を算出する姿勢角誤差演算処理手段と、
前記姿勢角誤差演算処理手段によって算出された姿勢角誤差と、前記カルマンフィルタ姿勢補正処理手段によって生成された姿勢行列とに基づいて姿勢角を補正するための補正制御値を算出し、前記姿勢角変化量算出手段にフィードバックする前記補正値とする補正制御手段と、
を備える姿勢角安定化装置。
【請求項2】
GPS受信機及びIMUを使用して計測した計測速度からカルマンフィルタによって移動体の速度を推定し、推定した速度と前記計測速度とを融合して自律航法アルゴリズムによって移動体の速度を算出する装置に含まれる姿勢角安定化装置が実行する方法であって、
前記IMUを使用して計測された移動体の角速度と、フィードバックされた補正値とから姿勢角の変化量を算出する姿勢角変化量算出ステップと、
前記姿勢角変化量算出ステップによって算出された姿勢角の変化量を積分する積分処理ステップと、
前記積分処理ステップによって積分された姿勢角と、前記カルマンフィルタによって推定された姿勢角の推定値とから姿勢行列を生成し、出力するカルマンフィルタ姿勢補正処理ステップと、
前記GPS受信機によって計測された速度が一定の閾値未満であり、かつ、前記IMUを使用して計測された角速度が一定の閾値未満であるか否かを判定する速度旋回判定ステップと、
前記速度旋回判定ステップによって、速度又は角速度が一定の閾値以上であると判定された場合に、前記カルマンフィルタ姿勢補正処理ステップによって生成された姿勢行列のラッチを行い、速度及び角速度が一定の閾値未満であると判定された場合に、前記生成された姿勢行列のラッチを行わずに前記閾値未満であると判定される前の姿勢行列のラッチを保持する姿勢角ラッチステップと、
前記姿勢角ラッチステップによってラッチされている姿勢行列の転置行列を算出する転置処理ステップと、
前記転置処理ステップによって算出された転置行列と、前記カルマンフィルタ姿勢補正処理ステップによって生成された姿勢行列との乗算処理を行い、姿勢角誤差を算出する姿勢角誤差演算処理ステップと、
前記姿勢角誤差演算処理ステップによって算出された姿勢角誤差と、前記カルマンフィルタ姿勢補正処理ステップによって生成された姿勢行列とに基づいて姿勢角を補正するための補正制御値を算出し、前記姿勢角変化量算出ステップにフィードバックする前記補正値とする補正制御ステップと、
を備える方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−47495(P2012−47495A)
【公開日】平成24年3月8日(2012.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−187553(P2010−187553)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【出願人】(000145806)株式会社小野測器 (230)
【Fターム(参考)】