説明

容器又は枠体に柔軟なメッシュ部材をインサート成型により一体化する方法

【課題】パウダー状化粧料容器の内蓋のような開口部を有する合成樹脂製の容器又は枠体に、インサート成型によりきわめて柔軟なメッシュ部材を一体成型する場合に、枠体に沿った溶融樹脂の流れによるメッシュ部材の変形を防ぐ一般的な方法を提供する。
【解決手段】開口部を有する容器1又は枠体のキャビティ内に予め柔軟なメッシュ部材を装着し、溶融樹脂を射出充填して、前記容器又は枠体の開口部を覆うように前記メッシュ部材を張設する成型方法において、前記成形型を構成する金型のうち前記開口部の周囲でメッシュ部材と重なる部分に、予め凹凸形状、例えば多数の放射状のリブを設けておくことにより、下型上面に沿う溶融樹脂の流れを抑止する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は開口部を有する容器や容器内に設置される枠体に柔軟なメッシュ部材を張設する方法に関し、特に、パウダー状化粧料容器の内蓋の製造のため、成形型内に溶融樹脂を射出充填して成形する際に、この成形型内に予め柔軟なメッシュ部材を配置しておくことにより張設を行うインサート成型の方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、パウダー状化粧料等の容器において、上部が開放されたパウダー容器本体にパウダー化粧料を収容し、その上に網体を上下移動可能に戴置し、使用時には網目の上からパフで拭うことにより、容器に収容されたパウダー化粧料を適量ずつ取り出すことができるようにしたものが使用されていた。特開2005−224398号は、中空の枠体に網体が張設されたものをパウダー化粧料の表面に戴置し、枠体の外周には容器内面に摺接する鍔体を設けたものを開示している。
【特許文献1】特開2005−224398号
【0003】
従来、メッシュ張設体の成型をするには、従来は組立コストの削減のため、容器あるいは枠体を成型する金型のキャビティ内に予めメッシュ部材を配置しておき、その後、金型射出口を通してキャビティ内に溶融樹脂を射出充填することによって、メッシュ部材の周囲縁に枠体を成型してメッシュを張設していた。
【特許文献2】特開平5−65105号公報
【0004】
また特開2004−202983号公報には、メッシュ状のシート状部材をピンと張った状態で枠体に保持するため、シート部材の縁部をインサート成型により枠体の内部に埋設保持する技術が開示されている。具体的には、シート状部材の縁部よりも外側で溶融樹脂を射出することにより、シート状部材が枠体の下面に押し込まれて張り付くことを防止することが記載されている。
【特許文献3】特開2004−202983号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
また最近、素材や編み方の工夫により容器の底へ届くように伸縮性を高めた柔軟なメッシュ部材を内蓋に張設することにより、内蓋全体を上下可動としなくても、メッシュ部材の中央部を下側へ押圧してパウダーに届くまで変形させることによりパウダーを取り出せるようにした技術が提案されている。
【0006】
内蓋にメッシュ部材を張設する場合に、メッシュ部材の伸縮性が小さい場合には、特開平5−65105号公報及び特開2004−202983号公報に記載されたインサート成型方法を用いることができるが、上記のように伸縮性を高めたメッシュ部材を内蓋に張設するときは、不都合を生じることがわかった。すなわち、射出口の縦断面内での位置を調節してメッシュ部材の上下方向の移動を防止したとしても、射出口から他の部分へ枠体に沿った溶融樹脂の流れに伴ってメッシュ部材の網体を構成する各条体が容易に周方向に移動してしまうため、メッシュの網状組織がいびつになったり、枠体の平面に沿った状態を保てずにしわになってしまう恐れがある。金型やピンなどでメッシュ部材の一部を固定したとしても、メッシュ部材の網状組織が容易に変形可能であるために部分的な変形が防止できず、有効な固定方法とはいえない。
【0007】
本発明の目的は、パウダー状化粧料容器の内蓋の製造のため、成形型内に予め柔軟なメッシュ部材を配置してインサート成型を行う場合に、枠体に沿った溶融樹脂の流れに沿ったメッシュ部材の条体の移動や網状組織の変形を防ぐことのできる成型方法を提供することである。
【0008】
本発明の他の目的は、開口部を有する合成樹脂製の容器又は枠体にインサート成型によりきわめて柔軟なメッシュ部材を一体成型する場合に、枠体に沿った溶融樹脂の流れによるメッシュ部材の変形を防ぐ一般的な方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1記載の方法は、開口部を有する容器又は枠体のキャビティ内に予め柔軟なメッシュ部材を装着し、溶融樹脂を射出充填して、前記容器又は枠体の開口部を覆うように前記メッシュ部材を張設する成型方法において、前記成形型を構成する金型のうち前記開口部の周囲でメッシュ部材と重なる部分に、予め凹凸を設けておくことを特徴とする成型方法により、上記の課題を解決する。
【0010】
メッシュ部材は細い条体から構成された網状組織であり、金型にピンや凹凸を設けてもメッシュ部材を直接固定することは容易ではない。しかし、射出口から射出された溶融樹脂はメッシュ部材の網目内に容易に入り込んで下型の上面に当接するから、この面に凹凸を設けて、溶融樹脂が枠体に沿って流れる速度を低下させることにより、柔軟なメッシュ部材の条体が溶融樹脂と共に移動して網状組織が歪むのを防止できることがわかった。
【0011】
キャビティのメッシュ部材と重なる部分に設ける凹凸は、例えばシボ加工により形成することができる。シボ加工とは、予めキャビティの内面にエッチングやサンドブラスト等により凹凸を施し、その金型を用いて射出成型を行う技術である。本来は成型品の表面に微細な凹凸からなる独特の凹凸を形成することにより、ソフトあるいは落ち着いた外観・触感を与えることを目的とするものであるが、このシボ加工を前記開口部の周囲でメッシュ部材と重なる部分に施すことにより、金型表面に沿った溶融樹脂の流れを抑止し、メッシュ部材の移動を効果的に防ぐことができる。
【0012】
請求項2記載の方法は、請求項1の方法において、溶融樹脂の流れを防ぐ凹凸として、前記金型のうち前記開口部の周囲でメッシュ部材と重なる部分に放射状のリブを多数設けることを特徴とするものである。すなわち放射状のリブを設けることにより、環状の枠体を多数の弧状の部分に区分し、その中に入り込んだ溶融樹脂をメッシュ部材と共に保持することで、金型表面に沿った溶融樹脂の流れを抑止し、メッシュ部材の移動を効果的に防ぐことができる。
【0013】
請求項3記載の方法は、請求項1又は2の成型方法により製造される合成樹脂製の容器又は枠体であって、メッシュ部材で覆われた開口部を有し、前記容器又は枠体の開口部の周囲でメッシュ部材と重なる部分が凹凸形状をなしていることを特徴とするものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
以下、図面を参照しながら、本発明の具体的な実施形態について説明する。
【実施例1】
【0015】
本発明の実施例を図1〜図4に基づいて説明する。図1は、本発明の張設方法によりメッシュを張設した内蓋を備える化粧用コンパクト容器の分解斜視図である。上面を開口した透明な有底円筒形の容器本体1の内部にはパウダー化粧料2が収納される。容器本体1の上面開口には、環状の枠体に柔軟なメッシュ部材を張設した内蓋3が内嵌固定されている。また容器本体1の上部外面には螺条が設けられ外蓋4がねじ込みにより外嵌されている。使用者は外蓋4を回して容器を開け、網目の上からパフで拭うことにより容器に収容されたパウダー化粧料を適量ずつ取り出して使用することができる。
【0016】
図2は容器本体1の上面に固定される内蓋3の外周部の縦断面図である。内蓋3は軟質な合成樹脂製の枠体5と、柔軟な網状組織で構成されたメッシュ部材6とからなる。略円筒形の枠本体5aの外面は、容器本体1の内面よりもわずかに小径となっており、上部は外側へ広がって容器本体1の外周上端部に当接保持されるつば部5bを形成し、下部は内側へ延出してメッシュ部材の張設のための縁部5cを形成している。枠体5は軟質の合成樹脂からなっており、硬質の合成樹脂からなる容器本体1の口部に嵌合固定しやすいようになっている。縁部5cの下面には多数の放射状の溝5dが等角度間隔で形成されており、この縁部5cの下面に沿ってメッシュ部材6が張設されて内蓋3の下側開口部を覆っている。
【0017】
図3は図2の合成樹脂製枠体5を射出成型する際に、インサート成型によりメッシュ部材6を張設して一体化させるために使用する金型10の縦断面図である。金型は、成形が行なわれる枠体3の形に合わせて加工されたキャビティCを取り囲むように、円筒状の中央上型11と中央下型12、及びリング状の周囲上型13と周囲下型14とから構成されている。中央上型11にはキャビティC内に溶融樹脂を射出充填するための射出口11aが設けられているが、射出口11aは図に示された位置には限らず、断面内の別の位置にあっても良い。周囲上型13と周囲下型14の間には0.1mm程度の隙間が設けられ、中央下型12の上面12の縁には、成型後に、隙間に入り込んで固化した合成樹脂をメッシュ部材6とともにカットするための顎部12aが設けられている。また中央下型12の上面12には、短い放射状のリブ12bが多数設けられ、その上に不図示の供給手段から繰り出されたメッシュ部材6が載置される。
【0018】
図4は枠体5の縁部5cを横切る図3のA−A断面に対応するキャビティCの横断面図である。射出成型において、溶融樹脂が注入される射出口の跡は枠体の表面に残るので、製品の外観面やコスト面からは射出口の数が少ないほうが良い。そこで本実施例では、射出口11aは、枠体5の周上で180°離れた2箇所に面する中央上型12内に設け、射出口11aから射出された溶融樹脂は図に矢印で示されるごとく、枠体5の周に沿って他の部分へ回り込むことになる。射出口11aの数は2個に限らず、1個または3個以上であってもよい。キャビティCの下面には、中央上型12の上面12に設けられるリブ12bの配置が示されている。本実施例では、縁部5cの幅6mmに対して各リブ12aの長さは3.5mm程度であり、また幅は1mm、高さは1mm程度である。各リブは内蓋の中心に対して6°毎に1つずつ配置されており、隣接するリブの間隔は3mm程度である。
【0019】
本実施例においてメッシュ部材6を金型10に設置する手順を説明すると、まず中央下型12と周囲下型14をセットし、不図示の供給手段からメッシュ部材6を繰り出してキャビティC全体を覆うように戴置する。この時、メッシュ部材6の周囲は中央下型12から外側にはみ出した状態となる。この状態で上方から周囲上型13をセットすると、メッシュ部材6のキャビティC周囲にはみ出した部分は周囲上型13と周囲下型14の間に挟まれて保持される。本実施例では周囲上型13と周囲下型14の当接する面は平面であるが、メッシュ部材6を緊張させるための噛み込み構造などを適宜設けることもできる。
【0020】
次に上方から中央上型11をセットすると、メッシュ部材6の中央部が中央上型11の下面と中央下型12の上面の間に挟まれて固定され、またキャビティCの全体が形成される。そして形成されたキャビティCに対し、中央上型11の2ヶ所に設けた射出口11aを通して溶融樹脂6を射出充填すると、溶融樹脂6は射出口11aの位置より図4矢印のように両側へ流れ、キャビティCに沿って環状に回り込みながら全体へ充填される。
【0021】
図5は図4の金型のB−Bを通る縦断面におけるメッシュ部材6の配置と溶融樹脂の流れを示す説明図である。図の左側から射出された溶融樹脂Pは、右側へ向かって流れながら中央下型12の上面およびリブ12bに重ねて戴置されたメッシュ部材6を下方に押し付け、同時にメッシュ部材6の網目を容易に通過して前後2個のリブ12bに挟まれた部分に入り込み、そこでメッシュ条体と共に静止する。進行方向にはリブ12bがあるため、溶融樹脂PはキャビティCの下面に沿ってそれ以上移動することはできない。従って、後から射出された溶融樹脂のキャビティCに沿う流れが続いている間も、メッシュ条体と一体化した溶融樹脂はその場で保持され、冷却されて枠体5の下面を形成する。従ってメッシュ部材6の網状組織が乱されることがなく、またしわを生じることも避けられる。
【0022】
このようにして枠体5が成形された後、中央上型11を上方へ移動させて取り外し、さらに中央下型12を上方に突き出すと、メッシュ部材6のキャビティ周囲にはみ出した部分は、周囲上型13と周囲下型14の間で固化した合成樹脂の一部分と共に、中央下型12の周囲の顎部12bにより切り落とされる。これによりメッシュ部材6の縁と枠体5の縁が揃えられるので、枠体5の縁からメッシュ部材6の繊維が飛び出して製品の外観を損なうことが防がれる。メッシュ部材6の周囲は成型後にカッターによって切落とすようにしてもよい。またメッシュ部材を連続的に繰り出すのでなく、予め円形に打ち抜いたメッシュ部材6を金型内に配置するようにしてもよい。
【0023】
本実施例の成型方法によれば、柔軟なメッシュ部材6が溶融樹脂Pの下面に埋め込まれるようにして各リブ12bの間で固定され、全体として整然とした網状組織と平面状態を保ったままで、枠体5の開口部全体を覆って張設されている。従って、機能上も外観上も好ましい内蓋3が得られる。
【0024】
本実施例では本発明の成型方法をパウダー化粧料容器の内蓋へのメッシュ部材の張設に適用した場合について説明したが、これに限らず、開口を有する合成樹脂製の容器や枠体にインサート成型によりきわめて柔軟なメッシュ部材を一体化するための方法として、広く使用することができる。
【産業上の利用可能性】
【0025】
以上説明したように、本発明のメッシュ張設方法によれば、パウダー化粧料容器の製造等において、きわめて柔軟なメッシュ部材を内蓋に張設する場合にもインサート成型による大量生産が可能となるので、安いコストで機能上・外観上優れた一定品質の製品を製造することができ、産業上大きな利用可能性がある。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の張設方法によりメッシュを張設した内蓋を備える化粧用コンパクト容器の分解斜視図
【図2】実施例に係る内蓋の外周部の縦断面図
【図3】図2の内蓋の成型に用いる金型の縦断面図
【図4】図3のA−A面に対応するキャビティCの横断面図
【図5】図4のB−B断面におけるメッシュ部材6の配置と溶融樹脂Pの流れを示す説明図
【符号の説明】
【0027】
1 容器本体
2 パウダー化粧料
3 内蓋
4 外蓋
5 枠体
5a 枠本体
5b つば部
5c 縁部
6 メッシュ部材
10 金型
11 中央上型
11a 射出口
12 中央下型
12a 顎部
12b リブ
13 周囲上型
14 周囲下型
C キャビティ
P 溶融樹脂

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口部を有する容器又は枠体のキャビティ内に予め柔軟なメッシュ部材を装着し、溶融樹脂を射出充填して、前記容器又は枠体の開口部を覆うように前記メッシュ部材を張設する成型方法において、前記成形型を構成する金型のうち前記開口部の周囲でメッシュ部材と重なる部分に、予め凹凸を設けておくことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記凹凸が、前記金型のうち前記開口部の周囲でメッシュ部材と重なる部分に放射状に多数設けられたリブであることを特徴とする請求項1記載の方法。
【請求項3】
メッシュ部材で覆われた開口部を有する合成樹脂製の容器又は枠体であって、前記容器又は枠体の開口部の周囲でメッシュ部材と重なる部分が凹凸形状をなしていることを特徴とする容器又は枠体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−286013(P2009−286013A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−141842(P2008−141842)
【出願日】平成20年5月30日(2008.5.30)
【出願人】(597084227)株式会社イワサキ (2)
【Fターム(参考)】