説明

密封装置、転がり軸受および車輪用転がり軸受

【課題】トルクを低減でき、かつ、軸受内部から軸受外にエアおよび潤滑剤が抜けにくくて、軸受外部からエアおよび異物が軸受内に浸入しにくい密封装置、転がり軸受および車輪用転がり軸受を提供すること。
【解決手段】ラジアルリップ70を形成する弾性部材51の軸方向の反フランジ部側の表面72の軸方向の凹部の底73が、芯金部材50の径方向延在部61における筒部65側の端面77に径方向に重なるようにする。ラジアルリップ70を形成する弾性部材51のスリンガ52の筒部65に面する径方向の凹部の底81が、芯金部材50の上記端面77よりも軸方向のフランジ部66側に位置するようにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密封装置に関し、特に、軌道面を有する軌道部材が複数の筒部材のみからなる転がり軸受、車輪用転がり軸受、ウォータポンプ、または、転がり軸受を使用したモータに使用されれば好適な密封装置に関する。また、本発明は、転がり軸受および車輪用転がり軸受に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、密封装置としては、実開平4−93571号公報(特許文献1)に記載されているものがある。
【0003】
この密封装置は、車輪用転がり軸受のインナーレースとアウターレースとの間に配置されている。この密封装置は、芯金部材と、芯金部材に固定された弾性部材と、断面L字状のスリンガと、ガータスプリングとを備える。上記スリンガは、軸方向延在部と、径方向延在部とからなり、上記弾性部材は、上記軸方向延在部に常に摺動するラジアルリップと、上記径方向延在部に摺動する第1アキシアルリップと、第1アキシアルリップの径方向の内方に位置すると共に、上記径方向延在部に摺動する第2アキシアルリップとを有する。上記第2アキシアルリップは、径方向の外方の表面に環状溝を有している。
【0004】
上記ガータスプリングは、上記第2アキシアルリップの上記環状溝に嵌入されている。上記ガータスプリングは、第2アキシアルリップを径方向の内方に押圧している。
【0005】
この密封装置は、第2アキシアルリップが摩耗していない状態で、第2アキシアルリップが上記軸方向延在部に接触していない一方、第2アキシアルリップが摩耗して第2アキシアルリップの上記径方向延在部に対する緊迫力が所定力以下になったとき、第2アキシアルリップの軸方向延在部に対向している部分の一部が、上記軸方向延在部に接触して、上記対向している部分の一部が、ラジアルシールを構成するようになっている。
【0006】
この密封装置は、上記第2アキシアルリップが、摩耗していない状態で、アキシアルシールとして機能する一方、上記第2アキシアルリップが、摩耗した状態で、第2アキシアルリップの上記対向している部分の一部が、ラジアルシールとして機能することによって、継続して安定したシール機能を維持することができるようになっている。
【特許文献1】実開平4−93571号公報(第1図)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本願発明者は、上記従来の構成の密封装置において、次に示す課題が存在することを発見した。
【0008】
すなわち、従来の密封装置では、第2アキシアルリップが、ガータスプリングによって常時径方向の内方に付勢されることにより、第2アキシアルリップの径方向の外方への反発力が大きくなって、第2アキシアルリップが、スリンガのフランジ部を押圧する力が過大になり、トルクが過大になる場合があることを見出した。
【0009】
また、軸受内部の昇温または温度低下による気圧の変化を一次的に受けるラジアルリップにおいて、緊迫力の変動が大きくて、上記第2アキシアルリップが上記軸方向延在部に接触していない状態において、軸受内部の昇温時に、軸受内部から軸受外にエアおよび潤滑剤が抜け易い一方、軸受昇温時に続く軸受内の温度低下時には、軸受内部が負圧になることに起因して、軸受外部からエアおよび異物(泥水等)が軸受内に引き込まれて軸受内に浸入し易いことを見出した。
【0010】
そこで、本発明の課題は、トルクを低減でき、かつ、軸受内部から軸受外にエアおよび潤滑剤が抜けにくくて、軸受外部からエアおよび異物(泥水等)が軸受内に浸入しにくい密封装置、転がり軸受および車輪用転がり軸受を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、この発明の密封装置は、
第1軌道輪に固定される筒状の軸方向延在部と、この軸方向延在部から上記軸方向延在部の径方向に延在する径方向延在部とを有する芯金部材と、
第2軌道輪に固定される筒部と、この筒部から上記径方向に延在すると共に、上記径方向延在部に上記筒部の軸方向に対向するフランジ部とを有するスリンガと、
上記径方向延在部に固定されている基部と、上記基部につながると共に、上記スリンガに摺動するリップ部とを有する弾性部材と
を備え、
上記リップ部は、
上記基部から上記径方向の反筒部側かつ上記軸方向の上記フランジ部側に延在して、上記フランジ部に摺動する第1アキシアルリップと、
上記第1アキシアルリップの上記径方向の上記筒部側に、上記第1アキシアルリップに対して上記径方向に間隔をおいて位置していると共に、上記フランジ部に摺動する第2アキシアルリップと、
上記基部から上記スリンガの上記筒部の中心軸に対して斜方向に反フランジ部側に延在して、上記筒部に摺動するラジアルリップと
からなり、
上記第2アキシアルリップは、
上記基部から上記径方向の上記筒部側かつ上記軸方向の上記フランジ部側に延在する第1部分と、
上記第1部分の上記軸方向の上記フランジ部側の先端から上記径方向の上記反筒部側かつ上記軸方向の上記フランジ部側に延在して、上記フランジ部に摺動する第2部分と
からなり、
上記弾性部材が上記スリンガに組み込まれた後の組込後の非摩耗状態において、上記第2アキシアルリップは、上記スリンガの上記筒部に対して上記径方向に間隔をおいて位置している一方、上記弾性部材が上記スリンガに組み込まれた後の摩耗した状態で、かつ、上記第2アキシアルリップの摩耗によって上記第2アキシアルリップの上記フランジ部に対する緊迫力が所定力以上低下した状態で、上記第2アキシアルリップにおいて上記スリンガの上記筒部に対向している部分の一部は、上記スリンガの上記筒部に摺動し、
上記ラジアルリップを形成する上記弾性部材の上記軸方向の上記反フランジ部側の表面の上記軸方向の凹部の底は、上記芯金部材の上記径方向延在部における上記筒部側の端面に、上記径方向に重なっており、
上記ラジアルリップを形成する上記弾性部材の上記スリンガの上記筒部に面する上記径方向の凹部の底は、上記芯金部材の上記端面よりも上記軸方向の上記フランジ部側に位置していることを特徴としている。
【0012】
上記「径方向に延在する」という文言は、少なくとも径方向に延在する成分を有する延在方向に延在していることを言う。このことから、上記「径方向に延在する」という文言は、径方向の延在成分のみからなる延在方向に延在している場合は勿論のこと、径方向の延在成分および軸方向の延在成分の両方を有する延在方向に延在している場合も含むものとする。
【0013】
また、上記軌道輪とは、軌道面を有する部材を指す。このことから、内軸のように、内周面を有さない部材であっても、軌道面を有していさえすれば、軌道輪に含まれるものとする。
【0014】
本発明によれば、上記ラジアルリップを形成する弾性部材の軸方向の反フランジ部側の表面の軸方向の凹部の底が、芯金部材の径方向延在部における筒部側の端面に、径方向に重なっており、かつ、ラジアルリップを形成する弾性部材のスリンガの筒部に面する径方向の凹部の底が、芯金部材の上記端面よりも軸方向のフランジ部側に位置しているから、ラジアルリップの大部分が芯金部材の上記端面に、径方向に重なる箇所に位置することになって、ラジアルリップが変形しにくくなる。したがって、上記第2アキシアルリップが、スリンガの筒部に接触していようといまいと、また、芯金部材に対して軸方向の反フランジ部側(フランジ部側とは反対側)に位置する軸受内部の気圧が高かろうと低かろうと、ラジアルリップの緊迫力が変動しにくくて、ラジアルリップの緊迫力を常時、所望の値の付近に設定できる。
【0015】
したがって、各仕様において、初期状態において、ラジアルリップの緊迫力を、適切に設定することによって、従来よりもラジアルリップに起因するトルクを低減でき、かつ、長期に亘って常時、軸受内部から軸受外にエアおよび潤滑剤が抜けにくくすることができると共に、軸受外部からエアおよび異物(泥水等)が軸受内に浸入しにくくすることができる。
【0016】
また、本発明によれば、第2アキシアルリップの上記フランジ部に対する緊迫力が所定力以上低下する迄、上記弾性部材がスリンガの筒部と非接触な状態になっていて、ラジアルリップが存在しない状態になっているから、第2アキシアルリップの上記フランジ部に対する緊迫力が所定力以上低下する迄、トルクを低減することができる。したがって、この密封装置を有する自動車等の燃費を低減できる。
【0017】
また、本発明によれば、第2アキシアルリップの第2部分の摩耗によって、第2アキシアルリップのフランジ部に対する緊迫力が所定力以上低下した状態で、上記第2アキシアルリップにおいて上記スリンガの上記筒部に対向している部分の一部が、スリンガの筒部に接触して、筒部に摺動するようになっているから、第2アキシアルリップの摩耗がすすんだとしても、外部から泥水等の異物が、車輪用転がり軸受において転動体が配置されている室に、浸入することを抑制できる。
【0018】
また、一実施形態では、
上記弾性部材が上記スリンガに組み込まれる前の状態において、上記第1部分の上記径方向の上記筒部側の表面は、凹面である一方、上記第2部分の上記径方向の上記筒部側の表面は、円錐面または凸面である。
【0019】
本明細書では、円錐面は、凹面に含まれる一方、凸面に含まれないものとする。
【0020】
本発明者は、従来の構成の密封装置では、組込時における、径方向の内方のアキシアルリップの芯金部材側の部分の変形が大きくて、この部分に応力集中がおこって、この部分の耐久性が小さくなって、結果として、密封装置の寿命が短くなっていることを見出した。
【0021】
上記実施形態によれば、上記第1部分の上記径方向の上記筒部側の表面が、上記弾性部材が上記スリンガに組み込まれる前の組込前の状態で凹面であるから、第1部分の径方向の筒部側の表面が凸面である場合と異なり、組込状態の初期状態において、第2アキシアルリップを、スリンガの筒部に対して非接触にするのに、第2アキシアルリップの第1部分の基部側の一部分を、集中的かつ過度に変形させる必要がなくて、第1部分全体を、その延在方向に略均等に変形させることによって、第2アキシアルリップを、スリンガの筒部に対して非接触にすることができる。すなわち、第1部分の一部に局所的で過大な応力がかかることがないから、第2アキシアルリップの耐久力を格段に向上させることができて、密封装置の寿命を長くすることができる。
【0022】
また、上記実施形態によれば、上記第2部分の上記径方向の上記筒部側の表面は、上記組込前の状態で円錐面または凸面であるから、第2部分の径方向の筒部側の表面が凹面である場合と比較して、第2アキシアルリップとスリンガのフランジ部との接触面圧を小さくすることができて、第2アキシアルリップの摩耗を抑制することができる。したがって、第2アキシアルリップが、スリンガの筒部に接触するまでの時間を、長くすることができるから、第2部分の径方向の筒部側の表面が凹面である場合と比較して、トルクが小さい状態を、長期に亘って持続することができる。
【0023】
また、一実施形態では、
上記第2部分の上記径方向の上記筒部側の表面は、滑らかにつながり、かつ、上記ラジアルリップの上記軸方向の上記フランジ部側の表面は、滑らかにつながっている。
【0024】
上記第2部分の上記径方向の上記筒部側の表面が滑らかにつながるとは、密封装置の軸方向の断面において、上記第2部分の上記径方向の上記筒部側の表面が、一端から他端まで微分可能な状態であることをいい、上記ラジアルリップの上記軸方向の上記フランジ部側の表面が、滑らかにつながるとは、密封装置の軸方向の断面において、上記ラジアルリップの上記軸方向の上記フランジ部側の表面が、一端から他端まで微分可能な状態であることをいう。
【0025】
上記実施形態によれば、上記第2部分の上記径方向の上記筒部側の表面が、滑らかにつながっているから、組込時に第2アキシアルリップの変形に起因して生じる応力を、第2部分全体で略均等に分配して負担することができる。また、組込時に第2アキシアルリップを、径方向の反筒部側(径方向の上記芯金部材の上記筒状の軸方向延在部側)に容易に変形させることができ、かつ、第1および第2アキシアルリップの非摩耗状態において、第2アキシアルリップと、スリンガの筒部との間に、所定のクリアランスを容易かつ正確に生成することができる。
【0026】
また、上記実施形態によれば、上記ラジアルリップの上記軸方向の上記フランジ部側の表面が、滑らかにつながっているから、ラジアルリップの変形に起因して生じる応力を、ラジアルリップ全体で略均等に分配して負担することができる。
【0027】
また、一実施形態では、上記組込前の状態において、上記軸方向の断面において、上記第1部分の上記径方向の上記筒部側の表面の曲率は、上記軸方向の上記フランジ部側にいくにしたがって大きくなっている。
【0028】
「上記軸方向の上記フランジ部側にいくにしたがって大きくなっている」という文言には、軸方向の断面において、第1部分の上記径方向の上記筒部側の表面が、軸方向のフランジ部側にいくにしたがって、部分的に曲率が一定になっている部分を含んでいる場合も含まれるものとする。このことから、例えば、上記文言には、軸方向の断面において、第1部分の径方向の筒部側の表面が、基部側に位置する円錐面と、この円錐面に滑らかにつながると共に、回転楕円面の一部からなる凹面とからなっている場合等が含まれる。
【0029】
上記実施形態によれば、上記組込前の状態において、上記軸方向の断面において、上記第1部分の上記径方向の上記筒部側の表面の曲率は、上記軸方向の上記フランジ部側にいくにしたがって大きくなっているから、組込時に第2アキシアルリップの変形に起因して生じる応力を、第1部分全体で略均等に分配して負担することができ、第2アキシアルリップの筒部に対する非接触状態を実現したとき、第1部分に局所的な応力の集中が発生することを確実に防止することができる。
【0030】
また、一実施形態では、上記第2アキシアルリップが受ける力は、上記スリンガからの力だけである。
【0031】
上記実施形態によれば、第2アキシアルリップが受ける力は、スリンガからの力だけであるから、ガータスプリング等の締め付け部材がある場合と異なり、第2アキシアルリップの径方向の反筒部側(第2アキシアルリップの径方向の上記芯金部材の上記軸方向延在部側)への反発力が過度に大きくなることがなく、第2アキシアルリップがスリンガのフランジ部を押圧する力が過大になることがなく、トルクが過大になることがない。
【0032】
また、上記実施形態によれば、第2アキシアルリップにおいて上記スリンガの上記筒部に対向している部分を、スリンガの筒部に押し付けようとするガータスプリング等の締め付け部材がないから、ガータスプリング等の締め付け部材がある場合と比較して、上記第2アキシアルリップを、上記スリンガの上記フランジ部に押し付ける組立時において、第2アキシアルリップにおいて上記スリンガの上記筒部に対向している部分を、上記筒部に対して離間させ易くすることができる。
【0033】
また、一実施形態では、
上記ラジアルリップの上記筒部に対する接触点は、上記芯金部材の上記端面に上記径方向に重なっている。
【0034】
上記実施形態によれば、上記ラジアルリップの上記筒部に対する接触点は、上記芯金部材の上記端面に上記径方向に重なっているから、従来と比較して、ラジアルリップの時間的な変形を更に抑制することができる。したがって、従来と比較して、更に、ラジアルリップに起因するトルクを低減でき、かつ、長期に亘って常時、軸受内部から軸受外にエアおよび潤滑剤が抜けにくくすることができ、かつ、軸受外部からエアおよび異物(泥水等)が軸受内に浸入しにくくすることができる。
【0035】
また、一実施形態では、
上記ラジアルリップを形成する上記弾性部材の上記スリンガの上記筒部に面する上記径方向の凹部の底は、上記基部において最も上記径方向の上記筒部側に位置する部分に、上記径方向に重なっている。
【0036】
上記実施形態によれば、弾性部材においてラジアルリップの軸方向のフランジ部側の近傍に極端に径方向の肉厚が薄い部分が形成されることがない。したがって、従来と比較して、ラジアルリップの時間的な変形を更に抑制することができ、更に、ラジアルリップに起因するトルクを低減でき、かつ、長期に亘って常時、軸受内部から軸受外にエアおよび潤滑剤が抜けにくくすることができ、かつ、軸受外部からエアおよび異物(泥水等)が軸受内に浸入しにくくすることができる。
【0037】
また、上記実施形態によれば、第1部分の軸方向の寸法を大きくすることができる。したがって、組込時に第2アキシアルリップの変形に起因して生じる応力を、第1部分全体で略均等に分配して負担することができ、第1部分の一部に局所的で過大な応力がかかることを抑制できる。したがって、第2アキシアルリップの耐久力を格段に向上させることができて、密封装置の寿命を長くすることができる。
【0038】
また、本発明の転がり軸受は、
本発明の密封装置と、
少なくとも一つの軌道面を有する内輪と、
少なくとも一つの軌道面を有する外輪と、
上記内輪の上記軌道面と上記外輪の上記軌道面との間に配置された複数の転動体と
を備え、
上記密封装置は、上記内輪の外周面と上記外輪の内周面とで画定されて、上記複数の転動体が配置される転動体配置室における上記軸方向の少なくとも一方の側の開口を密封するように配置され、
上記密封装置の上記スリンガが、上記内輪に固定され、
上記密封装置の上記弾性部材と上記密封装置の上記芯金部材とからなるシール部材が、上記外輪に固定されることを特徴としている。
【0039】
本発明によれば、本発明の密封装置を備えるから、運転時において、密封装置のトルクを低減でき、かつ、軸受内部から軸受外にエアおよび潤滑剤が抜けることを抑制でき、軸受外部からエアおよび異物(泥水等)が軸受内に浸入することを抑制できる。
【0040】
また、本発明の車輪用転がり軸受は、
本発明の密封装置と、
第1軌道面を有する内軸と、
上記内軸に固定されると共に、第2軌道面を有する内輪と、
第3軌道面と第4軌道面とを有する外輪と、
上記第1軌道面と上記第3軌道面との間に配置された複数の第1の転動体と、
上記第2軌道面と上記第4軌道面との間に配置された複数の第2の転動体と
を備え、
上記密封装置は、上記外輪の内周面と、上記内軸の外周面および上記内輪の外周面において上記外輪の内周面に上記径方向に対向している部分とで画定されて、上記複数の転動体が配置される転動体配置室における上記軸方向の少なくとも一方の側の開口を密封するように配置され、
上記密封装置のスリンガが上記内輪および上記内軸のうちの少なくとも一方に固定され、
上記密封装置の上記弾性部材と上記密封装置の上記芯金部材とからなるシール部材が、上記外輪に固定されることを特徴としている。
【0041】
本発明によれば、本発明の密封装置を備えるから、運転時において、密封装置のトルクを低減でき、かつ、軸受内部から軸受外にエアおよび潤滑剤が抜けることを抑制でき、軸受外部からエアおよび異物(泥水等)が軸受内に浸入することを抑制できる。
【発明の効果】
【0042】
本発明の密封装置、転がり軸受、および、車輪用転がり軸受によれば、運転時において、トルクを低減でき、かつ、軸受内部から軸受外にエアおよび潤滑剤が抜けることを抑制でき、軸受外部からエアおよび異物(泥水等)が軸受内に浸入することを抑制できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0043】
以下、本発明を図示の形態により詳細に説明する。
【0044】
図1は、本発明の一実施形態の密封装置を有する車輪用転がり軸受の軸方向の断面図である。
【0045】
この車輪用転がり軸受は、内軸2、外輪3、内輪4、複数の第1の玉5、複数の第2の玉6、本発明の一実施形態の第1密封装置8、および、本発明の一実施形態の第2密封装置9を備える。第1の玉5は、第1の転動体を構成し、第2の玉6は、第2の転動体を構成する。
【0046】
上記内軸2は、軸方向の一端部に、ブレーキディスク11を取り付けるための径方向に広がる円板状のブレーキディスク取付用フランジ10を有する。このブレーキディスク取付用フランジ10の略中心を中心とする同心円上には、複数のボルト貫通穴が形成されている。上記ブレーキディスク取付用フランジ10に、ブレーキディスク11を当接させ、さらに、ブレーキディスク11にホイール部材13を当接させた状態で、ホイール部材13のブレーキディスク11側とは反対側の端面と、ブレーキディスク取付用フランジ10との間を、複数のボルト15で固定している。
【0047】
上記内軸2の軸方向の他端部には、内輪4が外嵌されて固定されている。上記内軸2における、内輪4と、ブレーキディスク取付用フランジ10との間には、第1軌道面としてのアンギュラ型の第1軌道溝16が形成されている一方、内輪4の外周面には、第2軌道面としてのアンギュラ型の第2軌道溝17が形成されている。
【0048】
上記外輪3は、内軸2におけるブレーキディスク取付用フランジ10よりも上記他端部側に、内軸2に径方向に対向するように、配置されている。上記外輪3は、軸方向の上記他端部側に、径方向に広がる車体側取付用フランジ14を有する。この円板状の車体側取付用フランジ14には、車体側取付用フランジ14を車体側(ナックル)に取り付けるボルトを挿入するためのボルト貫通穴が複数形成されている。上記外輪3は、外輪3の内周面に軸方向に離間配置された第3軌道面としてのアンギュラ型の第3軌道溝26および第4軌道面としてのアンギュラ型の第4軌道溝27を有し、アンギュラ型の第3軌道溝26は、アンギュラ型の第4軌道溝27よりも上記一端部側に位置している。
【0049】
上記複数の第1の玉5は、内軸2の第1軌道溝16と外輪3の第3軌道溝26との間に、保持器18に保持された状態で、周方向に所定の間隔を隔てられて配置されている。上記複数の第2の玉6は、内輪4の第2軌道溝17と外輪3の第4軌道溝27との間に、保持器19に保持された状態で、周方向に所定の間隔を隔てられて配置されている。
【0050】
上記第1密封装置8は、内軸2と外輪3との間における、軸方向の上記一端部側(ブレーキディスク取付用フランジ10側)の開口付近に配置されている。上記第1密封装置8は、内軸2と外輪3との間における上記一端部側の開口を密封している。一方、上記第2密封装置9は、内輪4と外輪3との間における、軸方向の上記他端部側(ブレーキディスク取付用フランジ10側とは反対側)の開口付近に配置されている。上記第2密封装置9は、内輪4と外輪3との間における上記他端部側の開口を密封している。上記第2密封装置9は、第1密封装置8と同一な構造を有している。
【0051】
図2および図3は、上記第1密封装置8の構造を、詳細に説明する断面図である。詳しくは、図2は、組み付け位置での、芯金部材50、弾性部材51およびスリンガ52の位置関係を示す軸方向の断面図である。図2では、弾性部材51の位置として、弾性部材51がスリンガ52から力を受けないと仮定した場合における、弾性部材の組み付け位置での位置を示している。一方、図3は、弾性部材51をスリンガ52に組み付けた状態で、かつ、弾性部材51が摩耗していない非摩耗状態での、弾性部材51の位置と、スリンガ52の位置とを示す断面図である。上記第2密封装置9は、第1密封装置8と同一の構造を有している。上記第2密封装置9は、図2および図3において軸方向の左右を反転させた状態で、内輪4と外輪3との間における、軸方向の上記他端部側の開口付近に配置されている。上記第2密封装置9についての説明は、第1密封装置8の説明をもって省略する。
【0052】
図2に示すように、第1密封装置(以下、単に密封装置という)8は、芯金部材50と、弾性部材51と、スリンガ52とを有する。上記芯金部材50と弾性部材51とは互いに固定されて一体になっている。上記芯金部材50および弾性部材51は、シール部材48を構成している。
【0053】
上記芯金部材50は、環状に形成されている。上記芯金部材50は、断面L字状の形状を有している。芯金部材は、筒状の軸方向延在部60と、径方向延在部61からなる。上記軸方向延在部60は、第1軌道輪としての外輪3(図1参照、図2には、図示せず)の内周面に内嵌されて固定されている。上記径方向延在部61は、軸方向延在部60の内周面における軸方向の上記他端部側(図2の紙面における左側、すなわち、軸方向の内方側(軸方向の転動体側))から径方向の内方に延在している。
【0054】
上記スリンガ52は、環状に形成されている。上記スリンガ52は、断面L字状の形状を有している。上記スリンガ52は、筒部65と、筒部65につながるフランジ部66とを有する。上記筒部65は、第2軌道輪としての内軸2の外周面に外嵌されて固定されている。尚、第2密封装置9においては、スリンガが固定される第2軌道輪に相当する部材が、内輪4であることは言うまでもない。上記フランジ部66は、筒部65の外周面の軸方向の外方側(紙面における右側)の端部から径方向の外方側に延在している。上記フランジ部66は、芯金部材50の径方向延在部61よりも軸方向の外方に位置している。上記フランジ部66において径方向の内方の一部を除いた大部分は、径方向延在部61に対して隙間を介して軸方向に対向している。
【0055】
上記弾性部材は、環状に形成されている。上記弾性部材51は、軸方向延在部60の内周面全面と、軸方向延在部60の内周面につながる径方向延在部61の軸方向の外方側の端面の全面とを覆うように、芯金部材50に固着されている。上記弾性部材は、基部53と、第1アキシアルリップ54と、第2アキシアルリップ55と、ラジアルリップ70とを有する。上記弾性部材51は、具体的には、ゴム材からなる。ゴム材としては、例えば、ニトリルゴム、水素化ニトリルゴム、アクリルゴム、シリコンゴム、フッ素ゴムが好適に用いられることができる。
【0056】
上記基部53は、軸方向延在部60の内周面および径方向延在部61の上記軸方向の外方側の端面に沿うように配置されている。上記基部53は、軸方向延在部60の内周面および径方向延在部61の上記外方側の端面に固着されている。上記第1アキシアルリップ54は、基部53から外輪3(図1参照)側かつ軸方向の外方側(軸方向のフランジ部66側)に延在している。
【0057】
上記第2アキシアルリップ55は、第1アキシアルリップ54の径方向の内軸2(図1参照)側(径方向の内方側)に、第1アキシアルリップ54に対して径方向に間隔をおいて位置している。
【0058】
上記第2アキシアルリップ55は、第1部分56と、第2部分57とを有する。上記第1部分56は、基部53から径方向の筒部65側かつ軸方向のフランジ部66側に延在している。上記第2部分57は、第1部分56の軸方向の外方側(軸方向のフランジ部66側)の先端につながると共に、径方向の外輪3側かつ軸方向の外方側に延在している。
【0059】
上記ラジアルリップ70は、基部53から径方向の筒部65側(径方向の内軸2側、図1参照)かつ内軸2の軸方向の内方側(軸方向の反フランジ部側)に延在して、スリンガ52の筒部65に摺動するようになっている。換言すると、上記ラジアルリップ70は、基部53からスリンガ52の筒部65の中心軸に対して斜方向に反フランジ部側に延在して、筒部65に摺動するようになっている。上記ラジアルリップ70の軸方向のフランジ部66側の表面83は、滑らかにつながっている。
【0060】
図2に示すように、弾性部材51がスリンガ52から力を受けないと仮定した場合の弾性部材51の位置は、組み付け位置において、スリンガ52と重なっている。詳しくは、弾性部材51の第1アキシアルリップ54の軸方向の外方の先端部、および、弾性部材51の第2アキシアルリップ55の軸方向の外方の先端部は、スリンガ52のフランジ部66と重なり、第2アキシアルリップ55において、第1部分56と第2部分57との接続部の近傍に位置する屈曲部(第2アキシアルリップ55において筒部65に径方向に対向する部分の一部)は、スリンガ52の筒部65と重なっている。
【0061】
また、図2に示すように、弾性部材51がスリンガ52に組み込まれる前の状態において、第1部分56の径方向の内方の表面58は、凹面である一方、第2部分57の径方向の内方の表面59は、円錐面になっている。軸方向の断面において、第1部分56の径方向の内方の表面58の曲率は、軸方向の外方(軸方向のフランジ部66側)にいくにしたがって大きくなっている。具体的には、軸方向の断面において、第1部分56の径方向の内方の表面58は、基部53側に位置する略円錐面状の部分と、この円錐面状の部分に滑らかにつながると共に、軸方向の外方(軸方向のフランジ部66側)にいくにしたがって曲率が大きくなっている略回転楕円面の一部からなる部分とからなっている。
【0062】
上記第2部分57の径方向の内方の表面59は、軸方向の断面において、一端から他端まで微分可能になっており、上記表面59は、滑らかにつながっている。
【0063】
図3に示すように、第1アキシアルリップ54、および、第2アキシアルリップ55の第2部分57は、組み付け時において、車輪用転がり軸受の中心軸を略中心とするシール部材48とスリンガ52との相対回転により、スリンガ52のフランジ部66に摺動するようになっている。
【0064】
図3に示すように、組み付け状態、かつ、組込後の非摩耗状態において、第2アキシアルリップ55は、スリンガ52の筒部65に対して径方向に間隔をおいて位置している。すなわち、図2および図3に示すように、組み付け時に、芯金部材50の径方向延在部61とスリンガ52のフランジ部66とが接近するように、芯金部材50とスリンガ52とを軸方向に相対移動させることで、第1アキシアルリップ54、および、第2アキシアルリップ55の第2部分57が、スリンガ52のフランジ部66の表面に沿って径方向の外方(径方向の反筒部側)に移動することによって、第1部分56と第2部分57との間の上記屈曲部が、径方向の外方に移動して、上記屈曲部が、筒部65の外周面から径方向の外方に浮上するようになっている。
【0065】
図3に示すように、弾性部材51の軸方向の最も内方の表面72において、軸方向において最も外方に位置する第1箇所73は、芯金部材50の径方向延在部61における径方向の筒部65側(図1参照)の端面77に、径方向に重なっている。換言すると、上記ラジアルリップ70を形成する弾性部材51の軸方向の反フランジ部側の表面72の軸方向の凹部の底73は、芯金部材50の径方向延在部61における筒部65側の端面に、径方向に重なっている。
【0066】
また、軸方向において、スリンガ52の筒部65に対するラジアルリップ70の接触点78から第1部分56の軸方向の最外方に位置する第2箇所79までの範囲において、弾性部材50の径方向の筒部65側の端面において、径方向の最も外輪3側に位置する第3箇所81は、芯金部材50の上記端面77よりも軸方向の外方側に位置している。換言すると、上記ラジアルリップ70を形成する弾性部材51のスリンガ52の筒部65に面する径方向の凹部の底81は、芯金部材50の端面77よりも軸方向のフランジ部66側に位置している。
【0067】
また、上記スリンガ52の筒部65に対するラジアルリップ70の接触点78は、芯金部材50の端面77に径方向に重なっている。また、上記第3箇所(上記径方向の凹部の底)81は、弾性部材51の基部53において最も径方向の内方側(径方向の筒部65側)に位置する部分に径方向に重なっている。
【0068】
図3に示すように、上記第2アキシアルリップ55が受ける力は、スリンガ52のフランジ部66からの力だけになっている。すなわち、本実施形態では、上記屈曲部を径方向の内方に押圧するガータスプリング等の締め付け部材がなくて、上記第2アキシアルリップ55がガータスプリング等の締め付け部材から径方向の内方の力を受けないようになっている。本実施形態では、ガータスプリング等の締め付け部材がないから、上記屈曲部を容易かつ確実に、筒部65の外周面から径方向の外輪3側に浮上させることができる。屈曲部を径方向の内方に押圧するガータスプリング等の締め付け部材があると、屈曲部がスリンガの筒部の外周面から径方向の外輪側に浮上しない場合があるからである。
【0069】
上述のように、弾性部材51がスリンガ52から力を受けないと仮定した場合の上記屈曲部の位置は、筒部65に重なるように設定されている。第2アキシアルリップ55の第2部分57の摩耗によって、第2アキシアルリップ55のフランジ部66に対する緊迫力が所定力以上低下した状態で、上記屈曲部は、スリンガ52の筒部65に接触して、車輪用転がり軸受の中心軸を略中心とするシール部材48とスリンガ52との相対回転により、筒部65に摺動するようになっている。すなわち、上記屈曲部は、第2アキシアルリップ55の第2部分57の摩耗によって、第2アキシアルリップ55のフランジ部66に対する緊迫力が所定力以上低下した状態で、ラジアルリップの役割を果たすようになっている。
【0070】
上記第1アキシアルリップ54と第2アキシアルリップ55とスリンガ52とで形成される空間、第2アキシアルリップ55とスリンガ52とで囲まれた空間、および、ラジアルリップ70と第2アキシアルリップ55とスリンガ52とで形成される空間には、潤滑剤としての適量のグリースが封入または塗布され、上記グリースによって第1アキシアルリップ54とスリンガ52との摺動部、第2アキシアルリップ55とスリンガ52との摺動部、および、ラジアルリップ70とスリンガ52との摺動部とが、潤滑されるようになっている。
【0071】
また、図3において、上記第2アキシアルリップ55とスリンガ52とで囲まれた領域につながると共に、第1密封装置8より軸方向の内方側(紙面における左側)に位置する転動体(この実施形態では玉18,19)が配置される転動体配置室には、潤滑剤(この実施形態ではグリース)が封入され、玉17,18(図1参照)の表面や、軌道溝16,17,26,27(図1参照)等が潤滑されるようになっている。
【0072】
上記実施形態の密封装置によれば、ラジアルリップ70を形成する弾性部材51の軸方向の反フランジ部側の表面の軸方向の凹部の底73が、芯金部材50の径方向延在部61における筒部65側の端面77に、径方向に重なっており、かつ、ラジアルリップ70を形成する弾性部材51のスリンガ52の筒部65に面する径方向の凹部の底81が、芯金部材50の上記端面77よりも軸方向のフランジ部66側に位置しているから、ラジアルリップ70の大部分が芯金部材50の上記端面77に、径方向に重なる箇所に位置することになって、ラジアルリップ70が変形しにくくなる。したがって、上記第2アキシアルリップ55が、スリンガ52の筒部65に接触していようといまいと、また、軸受内部の気圧が高かろうと低かろうと、それらの要因に殆ど影響を受けず、ラジアルリップ70の緊迫力が変動しにくくて、ラジアルリップ70の緊迫力を常時、所望の値の付近に設定できる。
【0073】
したがって、各仕様において、初期状態において、ラジアルリップ70の緊迫力を、適切に設定することによって、従来よりもラジアルリップ70に起因するトルクを低減でき、かつ、長期に亘って常時、軸受内部から軸受外にエアおよび潤滑剤が抜けにくくすることができると共に、軸受外部からエアおよび異物(泥水等)が軸受内に浸入しにくくすることができる。
【0074】
また、グリースの攪拌等の理由によって軸受内の温度が高くなって軸受内の内圧が高くなったとしても、エアの流れによって、第1および第2アキシアルリップ54,55の向きが径方向の外方側に変動することがなく、このことから、その後の軸受内部の温度の低下時に、向きが径方向の外方側に変動した状態の第1および第2アキシアルリップ54,55が、腹当たりを起こして、第1および第2アキシアルリップ54,55の緊迫力が大きくなることもない。したがって、第1および第2アキシアルリップ54,55の腹当たりに起因するトルクの上昇を起こることがない。
【0075】
また、上記実施形態の密封装置によれば、第2アキシアルリップ55のフランジ部66に対する緊迫力が所定力以上低下する迄、弾性部材51がスリンガ52の筒部65と非接触な状態になっていて、ラジアルリップが存在しない状態になっているから、第2アキシアルリップ55のフランジ部66に対する緊迫力が所定力以上低下する迄、トルクを低減することができる。
【0076】
また、上記実施形態の密封装置によれば、第1部分56の径方向の内方の表面58が、弾性部材51がスリンガ52に組み込まれる前の組込前の状態で凹面であるから、第1部分が凸面である場合と異なり、組込状態の非摩耗状態において、第2アキシアルリップ55を、スリンガ52の筒部65に対して非接触にするのに、第2アキシアルリップ55の第1部分56の基部53側の一部分を、集中的かつ過度に変形させる必要がない。そして、第1部分56全体を、その延在方向に略均等に変形させることによって、第2アキシアルリップ55を、スリンガ52の筒部65に非接触にすることができる。すなわち、第1部分56の一部に局所的で過大な応力がかかることがないから、第2アキシアルリップ55の耐久力を格段に向上させることができて、密封装置の寿命を長くすることができる。
【0077】
また、上記実施形態の密封装置によれば、第2部分57の径方向の内方の表面59は、組込前の状態で円錐面であるから、第2部分の径方向の内方の表面が凹面である場合と比較して、第2アキシアルリップ55とスリンガ52のフランジ部66との接触面圧を小さくすることができて、第2アキシアルリップ55の摩耗を抑制することができる。したがって、第2アキシアルリップ55の上記屈曲部が、スリンガ52の筒部65に接触するまでの時間を、長くすることができて、第2部分の径方向の内方の表面が凹面である場合と比較して、トルクが小さい状態を、長期に亘って持続することができる。
【0078】
また、上記実施形態の密封装置によれば、第2部分57の径方向の内方の表面59が、滑らかにつながっているから、組込時に第2アキシアルリップ55の変形に起因して生じる応力を、第2部分57の全体に略均等に分配することができて、第2部分57の全体に均等に負担させることができる。また、組込時に第2アキシアルリップ55を、径方向の外方に容易に変形させることができ、かつ、第2アキシアルリップ55の非摩耗状態において、第2アキシアルリップ55と、スリンガ52の筒部65との間に、所定のクリアランスを容易かつ正確に生成することができる。
【0079】
また、上記実施形態の密封装置によれば、上記ラジアルリップ70の軸方向のフランジ部66側の表面83が、滑らかにつながっているから、ラジアルリップ70の変形に起因して生じる応力を、ラジアルリップ70全体で略均等に分配して負担することができる。また、組込時において、ラジアルリップ70を、軸方向の内方に容易に変形させることができる。
【0080】
また、上記実施形態の密封装置によれば、組込前の状態において、軸方向の断面において、第1部分56の径方向の内方の面の曲率が、軸方向の外方にいくにしたがって大きくなっているから、組込時に第2アキシアルリップ55の変形に起因して生じる応力を、第1部分56の全体に略均等に分配することができて、第2部分57の全体に均等に負担させることができ、第1部分56に局所的な応力の集中が発生することを確実に防止することができる。したがって、密封装置の寿命を更に延ばすことができる。
【0081】
また、上記実施形態の密封装置によれば、第2アキシアルリップ55の第2部分57の摩耗によって、第2アキシアルリップ55のフランジ部66に対する緊迫力が所定力以上低下した状態で、上記屈曲部が、スリンガ52の筒部65に接触して、筒部65に摺動するようになっているから、第2アキシアルリップ55の摩耗がすすんだとしても、外部からの泥水が、車輪用転がり軸受において玉8,9が配置されている玉配置室に、浸入することを抑制できる。
【0082】
また、上記実施形態の密封装置によれば、上記第2アキシアルリップ55が受ける力が、スリンガ52からの力だけであって、第2アキシアルリップ55においてスリンガ52の筒部65に対向している部分を、スリンガ52の筒部65に押し付けようとするガータスプリング等の締め付け部材がない。したがって、第2アキシアルリップにおいてスリンガの筒部に対向している部分を、スリンガの筒部に押し付けようとするガータスプリング等の締め付け部材がある場合と比較して、上記第2アキシアルリップ55をスリンガ52のフランジ部66に押し付ける組立時において、スリンガ52の筒部65に対向している部分を、上記筒部65に対して離間させ易くすることができる。
【0083】
また、上記実施形態の密封装置によれば、上記ラジアルリップ70のスリンガ52の筒部65に対する接触点78は、芯金部材50の径方向延在部61の径方向の内方の端面77に径方向に重なっているから、ラジアルリップ70の時間的な変形を更に抑制することができる。したがって、更に、ラジアルリップ70に起因するトルクを低減でき、かつ、長期に亘って常時、軸受内部から軸受外にエアおよび潤滑剤が抜けにくくすることができ、かつ、軸受外部からエアおよび異物(泥水等)が軸受内に浸入しにくくすることができる。
【0084】
上記実施形態の密封装置によれば、上記ラジアルリップ70を形成する弾性部材51のスリンガ52の筒部65に面する径方向の凹部の底81が、基部53の径方向の外輪2側の端面に径方向に重なっているから、弾性部材51においてラジアルリップ70の軸方向の外方の近傍に極端に径方向の肉厚が薄い部分が形成されることがない。したがって、ラジアルリップ70の時間的な変形を更に抑制することができ、更にラジアルリップに起因するトルクを低減できる。また、長期に亘って常時、軸受内部から軸受外にエアおよび潤滑剤が抜けにくくすることができ、かつ、軸受外部からエアおよび異物(泥水等)が軸受内に浸入しにくくすることができる。
【0085】
また、上記実施形態の密封装置によれば、第1部分56の軸方向の寸法を大きくすることができる。したがって、組込時に第2アキシアルリップ55の変形に起因して生じる応力を、第1部分56全体で略均等に分配して負担することができ、第1部分56の一部に局所的で過大な応力がかかることを抑制できる。したがって、第2アキシアルリップ55の耐久力を格段に向上させることができて、密封装置の寿命を長くすることができる。
【0086】
また、上記実施形態の車輪用転がり軸受によれば、本発明の密封装置8,9を備えるから、運転時において、密封装置8,9のトルクを低減でき、かつ、軸受内部から軸受外にエアおよび潤滑剤が抜けることを抑制でき、軸受外部からエアおよび異物(泥水等)が軸受内に浸入することを抑制できる。
【0087】
尚、上記実施形態の密封装置では、第2部分57の径方向の内方の表面59は、組込前の状態で円錐面であったが、この発明では、第2部分の径方向の内方の表面は、組込前の状態で凸面であっても良い。
【0088】
また、上記実施形態の密封装置では、軸方向の断面において、第1部分56の径方向の内方に位置する凹面である表面58は、基部53側に位置する略円錐面状の部分と、この円錐面状の部分に滑らかにつながると共に、軸方向の外方(フランジ部66側)にいくにしたがって曲率が大きくなっている略回転楕円面の一部からなる部分とからなっていた。しかしながら、この発明では、軸方向の断面において、第1部分の径方向の内方に位置する表面全体が、円錐面、または、軸方向の外方(フランジ部側)にいくにしたがって曲率が大きくなっている回転楕円面の一部からなる部分であっても良い。この発明では、第1部分の径方向の内方に位置する表面は、軸方向の断面において、軸方向の外方(フランジ部側)にいくにしたがって曲率が大きくなっている形状であれば、如何なる形状であっても良い。
【0089】
また、上記車輪用転がり軸受では、転動体(玉)配置室(潤滑剤封入室)の軸方向の両側の開口の近傍に、本発明の一実施形態の密封装置8,9が配置されていたが、本発明の密封装置は、車輪用転がり軸受の転動体配置室(潤滑剤封入室)の軸方向の片側の開口の近傍のみに配置されても良い。尚、転動体は、玉でなくて、ころであっても良い、また、玉ところの両方であっても良い。転動体が、ころであるとは、転動体が、円錐ころである場合と円筒ころである場合とを含むが、転動体がころである場合、転動体が円錐ころであると好ましい。尚、本発明の一実施形態の第2密封部材9は、内輪4と外輪3との間における軸方向の上記他端部側の開口付近に配設され、ブレーキディスク取付用フランジ10がない側に配設されているから、内輪4にスリンガ50を、外輪3にシール部材48を容易に取り付けることができる。
【0090】
図4は、本発明の密封装置99を備えたウォータポンプの上記密封装置99周辺の拡大断面図である。
【0091】
このウォータポンプは、ポンプ軸100と、メカニカルシール101と、ポンプハウジング102と、外輪105と、本発明の密封装置99とを有している。上記ポンプハウジング102は、ポンプハウジング102を貫通する水抜き穴107を有している。また、外輪105は、ポンプハウジング102の内周面に内嵌されて固定されている。
【0092】
上記ポンプ軸100、外輪105、および、密封装置99は、ウォータポンプのウォータポンプ軸受の一部をなしている。すなわち、図示しないが、外輪105の内周面の図6に矢印aで示す側には、軸方向に間隔をおいて、密封装置99に近い方から、深溝型の軌道溝と、円筒軌道面が形成されている一方、ポンプ軸100の外周面の図6に矢印aで示す側には、軸方向に間隔をおいて、密封装置99に近い方から、深溝型の軌道溝と、円筒軌道面が形成されている。
【0093】
外輪105の上記軌道溝と、ポンプ軸100の上記軌道溝との間には、保持器に保持された状態の玉が、周方向に所定の間隔を隔てられて複数配置されている。また、外輪105の上記円筒軌道面と、ポンプ軸100の上記円筒軌道面との間には、保持器に保持された状態の円筒ころが、周方向に所定の間隔を隔てられて複数配置されている。
【0094】
上記密封装置99の芯金部150は、第1軌道輪としての外輪105の内周面に内嵌されて固定されている一方、密封装置99のスリンガ152は、第2軌道輪としてのポンプ軸100の外周面に外嵌されて固定されている。上記密封装置99は、外輪105と、ポンプ軸100との間における、メカニカルシール101側の開口を密封している。このようにして、メカニカルシール101から矢印bで示す方向に漏れだしたポンプ室の冷却水が、ウォータポンプ軸受の内部に入ることを防止している。
【0095】
上記漏れだしたポンプ室の冷却水は、ポンプハウジング102に形成された水抜き穴107を介して矢印cに示す方向に外部に確実に排出されるようになっている。尚、図6において、111は、メカニカルシール101のゴムスリーブを示し、110は、メカニカルシール101のコイルバネを示している。
【0096】
図4に示すウォータポンプのように、本発明の密封装置を、ウォータポンプに設置すると、運転時において、密封装置99のトルクを低減でき、かつ、軸受内部から軸受外にエアおよび潤滑剤が抜けることを抑制でき、軸受外部からエアおよび異物(泥水等)が軸受内に浸入することを抑制できる。
【0097】
尚、上記実施例では、本発明の密封装置を、車輪用転がり軸受や、ウォータポンプに設定した。しかしながら、本発明の密封装置を、軌道面を有する軌道部材が外輪および内輪である転がり軸受において、上記外輪と上記内輪との間の少なくとも一方の開口を密封するように配置しても良い。また、本発明の密封装置を、モータにおける、ロータ部材とステータ部材との間に配設する転がり軸受に設置しても良く、この場合、モータの運転コストを低減することができる。
【0098】
尚、本発明の密封装置は、内周面を有する第1部材と、外周面を有する第2部材とを有し、かつ、上記第1部材と、上記第2部材とが、上記第1部材の内周面の径方向に対向する装置であれば、如何なる機械にも設置することができる。そして、本発明の密封装置を設置した機械の運転コストを低減でき、機械の内部の密封性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明の一実施形態の密封装置を有する車輪用転がり軸受の軸方向の断面図である。
【図2】上記実施形態の密封装置全体の拡大断面図である。
【図3】上記実施形態の密封装置の第1および第2アキシアルリップ周辺の拡大断面図である。
【図4】本発明の密封装置を備えたウォータポンプの上記密封装置周辺の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0100】
2 内軸
3 外輪
4 内輪
5 第1の玉
6 第2の玉
8 第1密封装置
9 第2密封装置
50,150 芯金部材
51 弾性部材
52,152 スリンガ
53 基部
54 第1アキシアルリップ
55 第2アキシアルリップ
56 第1部分
57 第2部分
58 第1部分の径方向の内方の表面
59 第2部分の径方向の内方の表面
60 軸方向延在部
61 径方向延在部
65 筒部
66 フランジ部
70 ラジアルリップ
72 ラジアルリップを形成する弾性部材の軸方向の反フランジ部側の表面
73 ラジアルリップを形成する弾性部材の軸方向の反フランジ部側の表面の軸方向の凹部の底
77 芯金部材の径方向延在部における径方向の筒部側の端面
78 スリンガの筒部に対するラジアルリップの接触点
81 ラジアルリップを形成する弾性部材のスリンガの筒部に面する径方向の凹部の底
83 ラジアルリップの軸方向のフランジ部側の表面
99 密封装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1軌道輪に固定される筒状の軸方向延在部と、この軸方向延在部から上記軸方向延在部の径方向に延在する径方向延在部とを有する芯金部材と、
第2軌道輪に固定される筒部と、この筒部から上記径方向に延在すると共に、上記径方向延在部に上記筒部の軸方向に対向するフランジ部とを有するスリンガと、
上記径方向延在部に固定されている基部と、上記基部につながると共に、上記スリンガに摺動するリップ部とを有する弾性部材と
を備え、
上記リップ部は、
上記基部から上記径方向の反筒部側かつ上記軸方向の上記フランジ部側に延在して、上記フランジ部に摺動する第1アキシアルリップと、
上記第1アキシアルリップの上記径方向の上記筒部側に、上記第1アキシアルリップに対して上記径方向に間隔をおいて位置していると共に、上記フランジ部に摺動する第2アキシアルリップと、
上記基部から上記スリンガの上記筒部の中心軸に対して斜方向に反フランジ部側に延在して、上記筒部に摺動するラジアルリップと
からなり、
上記第2アキシアルリップは、
上記基部から上記径方向の上記筒部側かつ上記軸方向の上記フランジ部側に延在する第1部分と、
上記第1部分の上記軸方向の上記フランジ部側の先端から上記径方向の上記反筒部側かつ上記軸方向の上記フランジ部側に延在して、上記フランジ部に摺動する第2部分と
からなり、
上記弾性部材が上記スリンガに組み込まれた後の組込後の非摩耗状態において、上記第2アキシアルリップは、上記スリンガの上記筒部に対して上記径方向に間隔をおいて位置している一方、上記弾性部材が上記スリンガに組み込まれた後の摩耗した状態で、かつ、上記第2アキシアルリップの摩耗によって上記第2アキシアルリップの上記フランジ部に対する緊迫力が所定力以上低下した状態で、上記第2アキシアルリップにおいて上記スリンガの上記筒部に対向している部分の一部は、上記スリンガの上記筒部に摺動し、
上記ラジアルリップを形成する上記弾性部材の上記軸方向の上記反フランジ部側の表面の上記軸方向の凹部の底は、上記芯金部材の上記径方向延在部における上記筒部側の端面に、上記径方向に重なっており、
上記ラジアルリップを形成する上記弾性部材の上記スリンガの上記筒部に面する上記径方向の凹部の底は、上記芯金部材の上記端面よりも上記軸方向の上記フランジ部側に位置していることを特徴とする密封装置。
【請求項2】
請求項1に記載の密封装置において、
上記弾性部材が上記スリンガに組み込まれる前の状態において、上記第1部分の上記径方向の上記筒部側の表面は、凹面である一方、上記第2部分の上記径方向の上記筒部側の表面は、円錐面または凸面であることを特徴とする密封装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載の密封装置において、
上記第2部分の上記径方向の上記筒部側の表面は、滑らかにつながり、かつ、上記ラジアルリップの上記軸方向の上記フランジ部側の表面は、滑らかにつながっていることを特徴とする密封装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか1つに記載の密封装置において、
上記組込前の状態において、上記軸方向の断面において、上記第1部分の上記径方向の上記筒部側の表面の曲率は、上記軸方向の上記フランジ部側にいくにしたがって大きくなっていることを特徴とする密封装置。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1つに記載の密封装置において、
上記第2アキシアルリップが受ける力は、上記スリンガからの力だけであることを特徴とする密封装置。
【請求項6】
請求項1乃至5のいずれか1つに記載の密封装置において、
上記ラジアルリップの上記筒部に対する接触点は、上記芯金部材の上記端面に上記径方向に重なっていることを特徴とする密封装置。
【請求項7】
請求項1乃至6のいずれか1つに記載の密封装置において、
上記ラジアルリップを形成する上記弾性部材の上記スリンガの上記筒部に面する上記径方向の凹部の底は、上記基部において最も上記径方向の上記筒部側に位置する部分に、上記径方向に重なっていることを特徴とする密封装置。
【請求項8】
請求項1乃至7のいずれか1つに記載の密封装置と、
少なくとも一つの軌道面を有する内輪と、
少なくとも一つの軌道面を有する外輪と、
上記内輪の上記軌道面と上記外輪の上記軌道面との間に配置された複数の転動体と
を備え、
上記密封装置は、上記内輪の外周面と上記外輪の内周面とで画定されて、上記複数の転動体が配置される転動体配置室における上記軸方向の少なくとも一方の側の開口を密封するように配置され、
上記密封装置の上記スリンガが、上記内輪に固定され、
上記密封装置の上記弾性部材と上記密封装置の上記芯金部材とからなるシール部材が、上記外輪に固定されることを特徴とする転がり軸受。
【請求項9】
請求項1乃至7のいずれか1つに記載の密封装置と、
第1軌道面を有する内軸と、
上記内軸に固定されると共に、第2軌道面を有する内輪と、
第3軌道面と第4軌道面とを有する外輪と、
上記第1軌道面と上記第3軌道面との間に配置された複数の第1の転動体と、
上記第2軌道面と上記第4軌道面との間に配置された複数の第2の転動体と
を備え、
上記密封装置は、上記外輪の内周面と、上記内軸の外周面および上記内輪の外周面において上記外輪の内周面に上記径方向に対向している部分とで画定されて、上記複数の転動体が配置される転動体配置室における上記軸方向の少なくとも一方の側の開口を密封するように配置され、
上記密封装置のスリンガが上記内輪および上記内軸のうちの少なくとも一方に固定され、
上記密封装置の上記弾性部材と上記密封装置の上記芯金部材とからなるシール部材が、上記外輪に固定されることを特徴とする車輪用転がり軸受。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2009−127658(P2009−127658A)
【公開日】平成21年6月11日(2009.6.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−300332(P2007−300332)
【出願日】平成19年11月20日(2007.11.20)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】