寒剤導入量制御弁
【課題】寒剤導入量制御弁において、温度変動に応じた寒剤の導入量の制御を単純な構造で実現することにより、省エネ化を図る。
【解決手段】寒剤導入量制御弁(100)は、寒剤貯留空間(26)から、壁部(50)を介して隔てられた冷却空間(21)に対して寒剤(26)を導入する。寒剤導入部(22a)を有する第1の部材(22)と、寒剤導入部を貫通するように延在して設けられ、寒剤貯留空間側先端にスリット部等(25)を有する第2の部材(23)と、第2の部材を延在方向に沿って移動可能に保持する第3の部材(24)とを備える。第2の部材は、第1の部材と異なる線熱膨張率を有する材料から形成されている。
【解決手段】寒剤導入量制御弁(100)は、寒剤貯留空間(26)から、壁部(50)を介して隔てられた冷却空間(21)に対して寒剤(26)を導入する。寒剤導入部(22a)を有する第1の部材(22)と、寒剤導入部を貫通するように延在して設けられ、寒剤貯留空間側先端にスリット部等(25)を有する第2の部材(23)と、第2の部材を延在方向に沿って移動可能に保持する第3の部材(24)とを備える。第2の部材は、第1の部材と異なる線熱膨張率を有する材料から形成されている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒剤が貯留された寒剤貯留空間から、該寒剤貯留空間に壁部を介して隔てられて設けられた冷却空間に寒剤を導入するための寒剤導入量制御弁の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導変圧器は省エネを図る上で重要な電力機器の1つである。例えば外部電力系統から受電した電力を工場施設内に設置された負荷に適した電圧に変電するための変圧器を超電導化することは、送電時の電力損失を大幅に低減できると共に、変圧器の小型化や軽量化を図る上で非常に有用である。また、超電導変圧器を冷却するための寒剤として使用される液体窒素は、絶縁油の代わりとしても機能するので、優れた不燃性が得られる。
【0003】
このように、超電導変圧器を用いて省エネを図る際には、超電導変圧器をエネルギー的にいかに高効率で動作させるかが課題となっている。特に、超電導変圧器を始めとする超電導体を用いた各種送電手段では、極低温下で動作する超電導部を常温下にある電力系統に接続する必要がある。このような大きな温度差の下で電力を出し入れする手段としてパワーリードが用いられており、当該パワーリードにおける熱負荷をいかに抑制できるかが省エネ効率を向上させる課題となっている。
【0004】
ここで、パワーリードにおける熱負荷は、主に、常温側からの伝導による熱侵入と通電時に発生するジュール発熱に分類される。上述したようにパワーリードは大きな温度差を有する導体間を接続して送電するため、当該温度差に応じた熱侵入が生じる。また、パワーリードは主として電気抵抗値の低い金属(典型的には、高純度の銅)などの導体(以下、適宜「パワーリード導体」と称する)を含んでなるが、有限の電気抵抗値を有するため、流れる電流値に応じたジュール熱が発生する。ここで、ジュール熱を軽減すべくパワーリード導体の断面積を増加させると、伝導による熱侵入の増加が問題となる。一方、伝導による熱侵入を軽減すべくパワーリード導体の断面積を減少させると、パワーリード導体の電気抵抗値が増大し、逆にジュール熱の増加が問題となる。このようにパワーリード導体の設計において、熱侵入の抑制と通電時に生じるジュール熱の抑制とを両立可能なようにバランスを考えて設計することが要求される。典型的には、パワーリード導体は次式
を満足するように設計するとよい。尚、(1)式において、κはパワーリード導体の熱伝導度、σはパワーリード導体の電気抵抗率、Iはパワーリード導体を流れる電流値、L及びAはパワーリード導体の長さ及び断面積、ΔTはパワーリード導体の両端における温度差である。
【0005】
しかしながら、(1)式を用いたパワーリードの設計は、パワーリードの電力負荷が一定であるという条件が前提とされている。そのため、上述のような工場内に設置される超電導変圧器のように電力負荷が時間帯によって大きく変動する場合には、(1)式を用いたパワーリードの設計は最適ではない。このような問題に対して、例えば非特許文献1では、パワーリード導体に熱電素子の一種であるペルチェ素子を組み込むことによって、ペルチェ素子の両端に温度差を発生させ、熱侵入を軽減する技術が開示されている。また非特許文献2には、パワーリード導体の内側に設けられた空洞(即ち、冷却空間)に寒剤を導入することで、パワーリード導体を内側から冷却し、熱侵入とジュール熱の抑制を両立する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】第79回 2008年度秋季低温工学・超電導学会 予稿98頁「直流超伝導送電ケーブル試験装置におけるペルチェ電流リードの特性と動作試験」藤井友宏等
【非特許文献2】低温工学 Vol.8 No.2(1973)「極低温装置の電流リード(パワーリード)」尾形久直
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に係るパワーリードでは、熱電素子の両端に十分な温度差を生じさせるために、ペルチェ素子内の電圧降下を補償するために電源電圧を上昇するか、もしくは別途電源系を設けて熱電素子に電圧を供給する必要があるので、当該ペルチェ素子によって消費される電力量を鑑みると、送電システムの全体的な送電効率が低下してしまうという技術的問題点がある。また、パワーリードで交流電力を送電しようとする場合には、パワーリード導体をプラス側とマイナス側とに分割する必要が生じ、構造が複雑化してしまうという技術的問題点もある。
【0008】
また、非特許文献2に係る技術では、パワーリード導体の内部に恒常的に寒剤を導入する必要があるため、大量に寒冷を消費し、運用コストが増大しまうという技術的問題点がある。特に、上述のような工場内に設置される超電導変圧器のように電力負荷が時間帯によって大きく変動する場合においても恒常的に寒剤を導入することは、必要以上量の寒剤を無駄に消費してしまい、効率が悪い。
【0009】
このような問題に対する一つの解決手段として、例えばパワーリード導体の内部に導入される寒剤の量を開弁動作によって制御可能な寒剤導入量制御弁を設けることが考えられる。一般的にこの種の弁の開閉制御には、別途電源や制御装置が必要とされる。しかしながら、このような電源や制御装置を別途設けると、システム内のエネルギー消費量の増大による送電効率の悪化や、周辺構造の複雑化及び製造コストの増加が問題となる。
【0010】
本発明は上述した問題点に鑑みなされたものであり、冷却対象の温度変動に応じて寒剤の導入量を制御可能な寒剤導入量制御弁において、特段の電源や制御装置を別途設けることなく開閉動作を可能にすると共に、周辺構造の複雑化や製造コストの増加を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の寒剤導入量制御弁は上記課題を解決するために、寒剤が貯留された寒剤貯留空間から、該寒剤貯留空間と壁部を介して隔てられて設けられた冷却空間に前記寒剤を導入するための寒剤導入量制御弁において、前記壁部に連結されており、前記寒剤を前記冷却空間に導入するために開口して形成された寒剤導入部を有する第1の部材と、前記寒剤導入部を貫通するように延在して設けられ、寒剤貯留空間側先端にスリット部等を有する第2の部材と、前記寒剤導入部において前記第2の部材を延在方向に沿って移動可能なように周囲から保持することによって、前記寒剤貯留空間と前記冷却空間とを隔離する第3の部材とを備え、前記第2の部材は、前記第1の部材と異なる線熱膨張率を有する材料から形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、第2の部材は第1の部材と異なる線熱膨張率を有する材料から形成されているので、第1の部材及び第2の部材の熱伸縮により、第2の部材に設けられたスリット部等の第3の部材に対する位置を制御することができる。その結果、寒剤貯留空間に対するスリット部等の露出度を調整することによって、当該スリット部等を介して冷却空間に導入される寒剤の量を制御することができる。このように第1の部材の温度変化に応じて寒剤の導入量を制御できるので、寒冷の無駄な消費を抑制し、冷却効率を向上させることができる。また、本発明の寒剤導入量制御弁の開閉動作は第1の部材及び第2の部材の熱伸縮によって行われるので、別途電源や制御装置等を設ける必要もない。
【0013】
好ましくは、前記第2の部材は、前記第1の部材より小さい線熱膨張率を有する材料から形成されており、前記第1の部材の温度が所定値以下である場合に、前記寒剤導入部は前記第2の部材の前記寒剤貯留空間側先端及び前記第3の部材によって塞がれ、且つ、前記スリット部等が前記第3の部材より寒剤貯留空間側に位置することによって、前記冷却空間は前記寒剤貯留空間から隔離され、前記第1の部材の温度が前記所定値より大きい場合に、前記スリット部等が前記第3の部材より前記冷却空間側に露出することによって、該露出したスリット部等を介して前記寒剤貯留空間から前記冷却空間に前記寒剤が導入されるとよい。
【0014】
この場合、寒剤導入量制御弁は、低温時には、寒剤導入部が第2の部材の寒剤貯留空間側先端及び第3の部材によって塞がれることによって閉じており、スリット部等は第3の部材より寒剤貯留空間側に位置している。そして温度が上昇すると、第2の部材に設けられたスリット部等は第1の部材及び第2の部材の熱伸縮により、冷却空間側に向かって次第に移動し、第3の部材より冷却空間側に露出することによって、該露出したスリット部等を介して冷却空間に寒剤を導入することができる。
【0015】
また、前記第2の部材は、前記第1の部材より大きい線熱膨張率を有する材料から形成されており、前記第1の部材の温度が所定値以下である場合に、前記寒剤導入部は前記第2の部材の前記寒剤貯留空間側先端及び前記第3の部材によって塞がれ、且つ、前記スリット部等が前記第3の部材より冷却空間側に位置することによって、前記冷却空間は前記寒剤貯留空間から隔離され、前記第1の部材の温度が前記所定値より大きい場合に、前記スリット部等が前記第3の部材より前記寒剤貯留空間側に露出することによって、該露出したスリット部等を介して前記寒剤貯留空間から前記冷却空間に前記寒剤を導入してもよい。
【0016】
この場合、寒剤導入量制御弁は、低温時には、寒剤導入部が第2の部材の寒剤貯留空間側先端及び第3の部材によって塞がれることによって閉じており、スリット部等は第3の部材より冷却空間側に位置している。そして温度が上昇すると、第2の部材に設けられたスリット部等は第1の部材及び第2の部材の熱伸縮により、寒剤貯留空間側に向かって次第に移動し、第3の部材より寒剤貯留空間側に露出することによって、該露出したスリット部等を介して冷却空間に寒剤を導入することができる。
【0017】
好ましくは、前記スリット部等は、前記第1の部材の温度の上昇に従い前記スリット部等が移動する方向に向かって、断面積が次第に減少するように形成されているとよい。
【0018】
この場合、低温時にはスリット部等を介して冷却空間に導入される寒剤の導入量は少なく、温度が上昇するに従い、導入量も増加する。そのため、冷却空間に置かれた冷却対象の温度が高くなるに従って加速度的に寒剤導入量を増やすことができ、優れた冷却作用を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第2の部材は第1の部材と異なる線熱膨張率を有する材料から形成されているので、第1の部材及び第2の部材の熱伸縮により、第2の部材に設けられたスリット部等の第3の部材に対する位置を制御することができる。その結果、寒剤貯留空間に対するスリット部等の露出度を調整することによって、当該スリット部等を介して冷却空間に導入される寒剤の量を制御することができる。このように第1の部材の温度変化に応じて寒剤の導入量を制御できるので、寒冷の無駄な消費を抑制し、冷却効率を向上させることができる。また、本発明の寒剤導入量制御弁の開閉動作は第1の部材及び第2の部材の熱伸縮によって行われるので、別途電源や制御装置等を設ける必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施例に係る送電システムの全体構成を模式的に示す平面図である。
【図2】寒剤として用いられる液体窒素のエントロピーと温度との関係を示すグラフ図である。
【図3】超電導変圧器に流れる電流値の時間変化を示すグラフ図である。
【図4】超電導変圧器及びその周辺構造を示す断面図である。
【図5】実施例1に係るパワーリードの内部構造を示す断面図である。
【図6】実施例1に係るパワーリードの内部構造の他の例を示す断面図である。
【図7】実施例1に係る寒剤導入量制御弁の非発熱時における構造を示す断面図である。
【図8】実施例1に係る寒剤導入量制御弁の発熱時における構造を示す断面図である。
【図9】パワーリードに所定値の電流を流した際の導体部の延在方向における温度分布及び熱負荷量を示すグラフ図である。
【図10】実施例2に係るパワーリードの内部構造を示す断面図である。
【図11】実施例2に係る寒剤導入量制御弁の非発熱時における構造を示す断面図である。
【図12】実施例2に係る寒剤導入量制御弁の発熱時における構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0022】
図1は、本実施例に係る送電システム1の全体構成を模式的に示す平面図である。送電システム1は工場敷地内に設置された複数の施設(A棟からH棟)の各々に外部電力系統(図不示)から供給される電力を配電するためのシステムであり、外部電力系統から供給される高圧電力を受電する特高変電所110、該特高変電所110において受電した高圧電力を各施設に送電するための超電導送電ケーブル120、該超電導送電ケーブル120によって各施設に送電された電力を受電し、施設内に設置された負荷に適した電圧に変圧するための超電導変圧器10を含んでなる。超電導送電ケーブルとは、液体窒素で冷却された超電導電線である。
【0023】
超電導電線を冷却した液体窒素で冷却された超電導変圧器10は各施設に対応して設けられており(図1では各施設(A棟からH棟)に対応する超電導変圧器を符号10aから10hで示してある)、超電導送電ケーブル120から供給される高圧電力を、施設内に設置された負荷に適した電圧(例えばAC200V)に変圧する。本実施例では、施設内に設けられた負荷として200Vの電圧で点灯する工場用電灯(以下、単に「電灯」と称する)を想定して説明することとする。
【0024】
超電導変圧器10は、主に一次側コイル、二次側コイル及びトランスコアからなり(超電導変圧器10の具体的な構成について後に詳述する)、特に一次側コイル及び二次側コイルは超電導体の一種である高温超電導線から形成されている。また、超電導送電ケーブル120もまた高温超電導線から形成されている。これらは後に詳述するように、寒剤たる液体窒素により冷却されることによって超電導状態に維持されている。そのため、超電導送電ケーブル120及び超電導変圧器10は、特高変電所から受電した高圧電力を極めて小さな損失で送電することができる。
【0025】
図2は寒剤たる液体窒素のエントロピーと温度との関係を示すグラフ図である。通常、寒剤として用いられる液体窒素は沸点温度(常圧において77K)にあり、気液混合状態(図2において(ii)から(iii)の間で示される状態)にある。それに対し、本実施例において寒剤として用いられる液体窒素は、通常の液体窒素に比べて更に低温に冷却された(サブクールされた)ものを用いていることを特徴としている。具体的には、本実施例で用いられる液体窒素は、沸点(常圧で77K)より低温な65Kにサブクールされており、更にその圧力が3気圧から4気圧に加圧された状態(即ち、図2において(i)で示す状態)にある。このようにサブクールされた液体窒素を用いることにより、通常の液体窒素に比べて非常に高い冷却能力を得ることができる。
【0026】
例えば、超電導送電ケーブル120及び超電導変圧器10が発熱すると、液体窒素の状態は、初期状態(i)から図2に示す実線に沿って移動する。当初状態(i)にある液体窒素が(ii)の状態に達すると、液体窒素の一部が蒸発し始め、気液混合状態となる。液体窒素が蒸発する際には気化熱を要するので、(iii)の状態にかけて温度は一定に維持されたまま気液混合状態が継続する。そして、(iii)の状態に達すると液体窒素は完全に気化し、(iv)の状態に向けて気化ガスの温度が上昇する。このようにサブクールされた液体窒素を用いて冷却を行うことにより、状態(i)から(ii)に至るために要する熱量、状態(ii)から(iii)において気化熱として消費される熱量、更に状態(iii)移行に気化した気化ガスを昇温させるために要する熱量を利用して冷却することができる。通常の液体窒素(サブクールされていない液体窒素)を用いる場合、冷却に利用できる熱量は、状態(ii)から(iii)において気化熱として消費される熱量の一部分と、状態(iii)移行に気化した気化ガスを昇温させるために要する熱量しかない。そのため、サブクールされた液体窒素を用いると、より大きくの熱量を利用して冷却できるので、非常に高い冷却能力が得られる。
【0027】
ここで、図3は超電導変圧器10に流れる電流値の時間変化を示すグラフ図である。図3に示すように、超電導変圧器10に流れる電流値は、施設内に設置された負荷において消費される電力量に応じて時間帯によって変動する。具体的に説明すると、まず工場の始業時である7時〜8時を経過すると、電流値は急増する。12時〜13時の昼休み時には一時的に電流値は低下するものの、午後の始業時間である13時を経過すると再び増大し、夕方以降次第に低下する。特に、超電導変圧器10を流れる電流値は5時の時間帯に最小値を示し、このときの電流値は61.3A(最小電流値)である。一方、超電導変圧器10を流れる電流値は15時から16時の時間帯に最大値を示し、このときの電流値は571.3A(最大電流値)である。
【0028】
このように超電導変圧器10を流れる電流値は時間帯によって大きく変動するため、超電導変圧器10において発生するジュール発熱量もまた変動することとなる。特に、最大電流値(571.3A)が流れる際にジュール発熱量も最大値となり、超電導変圧器10及びその周辺回路(後述するパワーリードを含む)は当該最大発熱量にも耐えられるように設計される必要がある。一方、最低電流値(61.3A)が流れる際のジュール発熱は無視できるほど小さい。本実施例では超電導変圧器10の外部回路(超電導送電ケーブル120や施設内送電線130)への接続手段として、本発明の寒剤導入量制御弁を内蔵したパワーリードを用いることによって、このように時間帯によってジュール発熱量が大きく変動する状況下においても、省エネを達成しつつ、高い冷却能力を得ることができる。
【0029】
図4は、超電導変圧器10及びその周辺構造を示す断面図である。超電導変圧器10は、一次側コイル11、二次側コイル12及びトランスコア13を含んでなる。一次側コイル11、二次側コイル12及びトランスコア13の周囲は、内壁50によって寒剤貯留空間26が形成されており、該寒剤貯留空間26に上述したサブクールされた液体窒素が3気圧から4気圧で圧入されている。また、内壁50の外側には図不示の真空ポンプによって真空状態に維持された真空空間41を介して外壁40が設けられている。このように真空空間41を設けることにより、常温にある外壁40に対して、液体窒素122が貯留されている寒剤貯留空間26を断熱し、冷却能力を向上維持している。
【0030】
超電導変圧器10には超電導送電ケーブル120が接続されることにより、特高変電所110から高圧電力が供給される。超電導送電ケーブル120は高温超電導線121から形成されており、寒剤たる液体窒素122により冷却され、超電導状態に維持されている。液体窒素122は超電導送電ケーブル120内において図中に示す矢印方向に流れており、その一部が寒剤貯留空間26に貯留されるように構成されている。超電導送電ケーブル120から供給された高圧電力は、まず一次側コイル11に入力され、トランスコア13を介して二次側コイル12側に変圧されて伝達される。ここで二次側コイル12における電圧は、施設内に設置された負荷である照明140に適した電圧(200V)である。二次側コイル12は銅線80を介してパワーリード20に電気的に接続されることによって、二次側コイル12を施設内送電線130に接続している。施設内送電線130は二次側コイル12から充電された電力を照明140に供給し、点灯させる。
【実施例1】
【0031】
図5は、実施例1に係る出力用パワーリード20の内部構造を示す断面図である。パワーリード20は、内部に冷却空間21を有するように円筒形状に形成された、二次側コイル12と施設内送電線130とを電気的に接続するための導体部22と、該冷却空間21内に導体部22の延在方向に沿って棒状に形成された棒状部材23と、該棒状部材23を導体部22の延在方向に沿って移動可能なように周囲から保持するシール部材24とを備えてなる。ここで、導体部22、棒状部材23及びシール部材24は、それぞれ本発明の「第1の部材」、「第2の部材」及び「第3の部材」の一例であり、本発明の寒剤導入量制御弁100を構成している。
【0032】
導体部22と棒状部材23とは異なる線熱膨張率を有する材料から形成されている。実施例1では特に、導体部22は、熱膨張係数が比較的大きく電気抵抗の小さな材料(例えば銅の熱膨張係数は16.8×10−6/℃である)から形成されている。また、棒状部材23は、導体部22に比べて線熱膨張率の小さい材料である、SUS410、タンタル、鉄或いは炭素などから形成されている。尚、SUS410から形成した場合、熱膨張係数は10.4×10−6/℃である。シール部材24は、安定性、耐熱性及び耐薬品性に優れた材料から形成されている。
【0033】
導体部22及び棒状部材23の端部のうち施設内送電線130側(図5において上側)は、固定部材27に固定されている。固定部材27は導電性材料から形成されており、導体部22を介して供給される電力を導電部材28を介して施設内送電線130(図5において不示)に伝達する。固定部材27は、パワーリード20の発熱時に導体部22が熱変形することによって発生する機械的歪みを吸収可能なように弾性を有するように形成されている。導体部22はソリッドな導電性材料から形成されているため、温度変化に伴って導体部22が熱変形すると、該導体部22が連結された部材(例えば内壁50)との間で大きな機械的歪みが生じる場合がある。本実施例では、固定部材27を弾性を有する高純度の銅からなる「より線」で形成することによって、熱変形の際に生じる機械的歪みを吸収軽減できるように構成している。
【0034】
尚、このような機械的歪みを吸収軽減するための他の構成例として、図6に示すように、導体部22及び棒状部材23の施設内送電線130側の端部を導電部材28に直接連結しつつ、その周囲に弾性的に形成されたベローズ状外壁29を設けてもよい。尚、図6に示す例では、図5に示す例と共通する箇所には、同一の符号を付すこととし、詳細な説明は省略する。
【0035】
次に、図7及び図8を参照して、パワーリード20に内蔵された寒剤導入量制御弁100の構造及び動作について詳細に説明する。図7及び図8は、それぞれ非発熱時及び発熱時における寒剤導入量制御弁100の構造を示す断面図である。
【0036】
まず図7に示すように、非発熱時(所定温度以下)では、導体部22の寒剤導入部22aは棒状部材23及びその周囲を保持するシール部材24によって塞がれており、冷却空間21は寒剤貯留空間26から隔離されている。棒状部材23の先端にはスリット部等25が設けられている。この場合、スリット部等25はシール部材24より寒剤貯留空間26側に位置しているため、冷却空間21には寒剤が導入されない。即ち、寒剤導入量制御弁50は完全に閉じた状態にある。
【0037】
図8に示すように、パワーリード20が発熱すると(所定温度より高い)、温度上昇に伴い、導体部22及び棒状部材23は熱膨張し、棒状部材23の先端に設けられたスリット部等25は冷却空間21側に向かって次第に移動する。上述したように、棒状部材23は導体部22より線熱膨張率の小さい材料から形成されているため、導体部22の膨張量は棒状部材23の膨張量より大きい。その結果、棒状部材23の先端に設けられたスリット部等25は、図8に示すように上側に移動する。すると、スリット部等25はやがてシール部材24より冷却空間21側に露出し、該露出したスリット部等25を介して寒剤貯留空間26に貯留されていた寒剤が冷却空間21に導入される。寒剤は寒剤貯留空間26に圧入されているため、スリット部等25が冷却空間21側に露出すると、寒剤貯留空間26と冷却空間21との間の差圧に基づいて寒剤の冷却空間21への導入が自動的に開始される。
【0038】
冷却空間21に導入された寒剤は、導体部22の内壁や棒状部材23の表面によって加熱蒸発することにより、パワーリード20を内側から冷却する。このとき、液体窒素の蒸発によって生じた気化ガスは、冷却空間21に設けられた排出口45から外部に排出される(図5を参照)。尚、排出口45からの気化ガスの排出量は、排出口45に設けられたバルブ46によって調整可能であり、冷却空間21内の気圧を調整することができるように構成されている。
【0039】
このようにパワーリード20は本発明の寒剤導入量制御弁100を備えることによって、温度変化に応じて寒剤の導入量を制御することができる。このような寒剤導入量制御弁100の開閉動作は、別途電源や制御装置等を設けることなく、専ら導体部22や棒状部材23の熱伸縮によって行われるため、当該動作に余分なエネルギーを消費せずに済む。また、冷却空間21への寒剤の導入量はパワーリード20の温度に依存して調整されるので、無駄に寒冷を消費することがなく、省エネに適した冷却を行うことができる。
【0040】
尚、導体部22及び棒状部材23の長さは、寒剤導入量制御弁100の開閉タイミングが、導体部22の温度が所定の温度値を境界に行われるように設定するとよい。これにより、施設内での消費電力量が増大してジュール発熱量が多いときには、寒剤導入量制御弁100が開くことによりパワーリード20を内側から冷却し、施設内の消費電力量が減少してジュール発熱量が少なくなったときには、寒剤導入量制御弁100の開き具合を減少させて液体窒素の導入量を抑制することで、寒剤の無駄な消費を抑えることができる。
【0041】
ここで本発明の寒剤導入量制御弁100の有用性を、実験結果に基づいて具体的に説明する。図9は、パワーリード20に所定値の電流を流した際の導体部22の延在方向における温度分布及び熱負荷量を示すグラフ図である。
【0042】
パワーリード20に図3における最低電流値(I=61.3A)が流れるとき、寒剤導入量制御弁50は閉じた状態にあり、冷却空間21に寒剤は導入されない(導入量m=0(g/s))。このとき、パワーリード20の熱負荷量はQin0=29.95 (W)であった。一方、パワーリード20に図3における最大電流値(I=61.3A)が流れるとき、パワーリード20がジュール発熱によって加熱され、寒剤導入量制御弁50が開く。このときの寒剤の導入量はm=0.08(g/s)であった。また、このときの導体部22における最高温度は320(K)であり、熱負荷量はQin1=29.9(W)であった。ここで、仮にパワーリード20に最大電流値(I=61.3A)が流れるときに寒剤導入量制御弁50が閉じたまま(m=0g/s)であると仮定すると、導体部22の最高温度は450(K)に達し、熱負荷量はQin2=123.2(W)にまで上昇してしまう。従って、本発明の寒剤導入量制御弁100は冷却空間21への寒剤の導入によって、冷却性能を格段に改善できることが実験的にも明らかになった。
【実施例2】
【0043】
次に実施例2に係るパワーリード20について説明する。図10は、実施例2に係るパワーリード20の内部構造を示す断面図である。尚、以下の説明では、実施例1と共通する箇所に関しては、共通する符号を付して示すと共に、適宜説明を省略することとする。
【0044】
パワーリード20は、超電導変圧器10の二次側コイル12と施設内送電線130とを電気的に接続するための導体部122と、内部に前記導体部122を収納可能な冷却空間21を有するように円筒状に形成された円筒部材123と、前記導体部122を延在方向に沿って移動可能なように周囲から保持するシール部材24とを備えてなる。ここで、導体部122、円筒部材123及びシール部材24は、それぞれ本発明の「第2の部材」、「第1の部材」及び「第3の部材」の一例であり、実施例2に係る寒剤導入量制御弁200を構成している。
【0045】
導体部122と円筒部材123とは異なる線熱膨張率を有する材料から形成されている。実施例2では特に、円筒部材123は熱膨張係数の小さな材料、例えばセラミックス等から形成されている。また、導体部122は、熱膨張係数がセラミックスより大きい金属材料、例えば銅(銅の熱膨張計数は16.8×10−6/℃である)から形成されている。
【0046】
次に、図11及び図12を参照して、パワーリード20に内蔵された寒剤導入量制御弁200の構造及び動作について詳細に説明する。図11及び図12は、それぞれ非発熱時及び発熱時における寒剤導入量制御弁200の構造を示す断面図である。
【0047】
まず図11に示すように、非発熱時(所定温度以下)では、円筒部材123の寒剤導入部123aは導体部122及びその周囲を保持するシール部材24によって塞がれており、冷却空間21は寒剤貯留空間26から隔離されている。導体部122の先端にはスリット部等25が設けられている。この場合、スリット部等25はシール部材24より冷却空間21側に位置しているため、寒剤の導入は停止している。即ち、寒剤導入量制御弁200は完全に閉じた状態にある。
【0048】
図12に示すように、パワーリード20が発熱すると(所定温度より高い)、温度上昇に伴い、導体部122及び円筒部材123は熱膨張し、導体部122の先端に設けられたスリット部等25は寒剤貯留空間26側に向かって次第に移動する。上述したように、導体部122は円筒部材123より線熱膨張率の大きい材料から形成されているため、導体部122の膨張量は円筒部材123の膨張量より大きい。その結果、導体部122の先端に設けられたスリット部等25は、図12に示すように下側に向かって移動する。すると、スリット部等25はやがてシール部材24より寒剤貯留空間26側に露出し、該露出したスリット部25を介して寒剤貯留空間26に貯留されていた寒剤が冷却空間21に導入される。寒剤は寒剤貯留空間26に圧入されているため、スリット部等25が寒剤貯留空間26側に露出すると、寒剤貯留空間26と冷却空間21との間の差圧に基づいて寒剤の冷却空間21への導入が自動的に開始される。
【0049】
このように実施例2に係る寒剤導入量制御弁200においても、温度変化に応じて冷却空間21への寒剤の導入量を制御することができる。このような寒剤導入量制御弁200の開閉動作は、別途電源や制御装置等を設けることなく、専ら導体部122及び円筒部材123の熱伸縮によって行われるため、当該動作に余分なエネルギーを消費せずに済む。また、冷却空間21への寒剤の導入量はパワーリード20の温度に依存して調整されるので、無駄に寒冷を消費することがなく、寒剤の消費量を効果的に抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、寒剤が貯留された寒剤貯留空間から、該寒剤貯留空間に壁部を介して隔てられて設けられた冷却空間に寒剤を導入するための寒剤導入量制御弁に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 発電システム
20 パワーリード
21 冷却空間
22 導体部
23 棒状部材
24 シール部材
25 スリット部等
26 寒剤貯留空間
27 固定部材
28 導電部材
100 寒剤導入量制御弁
【技術分野】
【0001】
本発明は、寒剤が貯留された寒剤貯留空間から、該寒剤貯留空間に壁部を介して隔てられて設けられた冷却空間に寒剤を導入するための寒剤導入量制御弁の技術分野に関する。
【背景技術】
【0002】
超電導変圧器は省エネを図る上で重要な電力機器の1つである。例えば外部電力系統から受電した電力を工場施設内に設置された負荷に適した電圧に変電するための変圧器を超電導化することは、送電時の電力損失を大幅に低減できると共に、変圧器の小型化や軽量化を図る上で非常に有用である。また、超電導変圧器を冷却するための寒剤として使用される液体窒素は、絶縁油の代わりとしても機能するので、優れた不燃性が得られる。
【0003】
このように、超電導変圧器を用いて省エネを図る際には、超電導変圧器をエネルギー的にいかに高効率で動作させるかが課題となっている。特に、超電導変圧器を始めとする超電導体を用いた各種送電手段では、極低温下で動作する超電導部を常温下にある電力系統に接続する必要がある。このような大きな温度差の下で電力を出し入れする手段としてパワーリードが用いられており、当該パワーリードにおける熱負荷をいかに抑制できるかが省エネ効率を向上させる課題となっている。
【0004】
ここで、パワーリードにおける熱負荷は、主に、常温側からの伝導による熱侵入と通電時に発生するジュール発熱に分類される。上述したようにパワーリードは大きな温度差を有する導体間を接続して送電するため、当該温度差に応じた熱侵入が生じる。また、パワーリードは主として電気抵抗値の低い金属(典型的には、高純度の銅)などの導体(以下、適宜「パワーリード導体」と称する)を含んでなるが、有限の電気抵抗値を有するため、流れる電流値に応じたジュール熱が発生する。ここで、ジュール熱を軽減すべくパワーリード導体の断面積を増加させると、伝導による熱侵入の増加が問題となる。一方、伝導による熱侵入を軽減すべくパワーリード導体の断面積を減少させると、パワーリード導体の電気抵抗値が増大し、逆にジュール熱の増加が問題となる。このようにパワーリード導体の設計において、熱侵入の抑制と通電時に生じるジュール熱の抑制とを両立可能なようにバランスを考えて設計することが要求される。典型的には、パワーリード導体は次式
を満足するように設計するとよい。尚、(1)式において、κはパワーリード導体の熱伝導度、σはパワーリード導体の電気抵抗率、Iはパワーリード導体を流れる電流値、L及びAはパワーリード導体の長さ及び断面積、ΔTはパワーリード導体の両端における温度差である。
【0005】
しかしながら、(1)式を用いたパワーリードの設計は、パワーリードの電力負荷が一定であるという条件が前提とされている。そのため、上述のような工場内に設置される超電導変圧器のように電力負荷が時間帯によって大きく変動する場合には、(1)式を用いたパワーリードの設計は最適ではない。このような問題に対して、例えば非特許文献1では、パワーリード導体に熱電素子の一種であるペルチェ素子を組み込むことによって、ペルチェ素子の両端に温度差を発生させ、熱侵入を軽減する技術が開示されている。また非特許文献2には、パワーリード導体の内側に設けられた空洞(即ち、冷却空間)に寒剤を導入することで、パワーリード導体を内側から冷却し、熱侵入とジュール熱の抑制を両立する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】第79回 2008年度秋季低温工学・超電導学会 予稿98頁「直流超伝導送電ケーブル試験装置におけるペルチェ電流リードの特性と動作試験」藤井友宏等
【非特許文献2】低温工学 Vol.8 No.2(1973)「極低温装置の電流リード(パワーリード)」尾形久直
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、非特許文献1に係るパワーリードでは、熱電素子の両端に十分な温度差を生じさせるために、ペルチェ素子内の電圧降下を補償するために電源電圧を上昇するか、もしくは別途電源系を設けて熱電素子に電圧を供給する必要があるので、当該ペルチェ素子によって消費される電力量を鑑みると、送電システムの全体的な送電効率が低下してしまうという技術的問題点がある。また、パワーリードで交流電力を送電しようとする場合には、パワーリード導体をプラス側とマイナス側とに分割する必要が生じ、構造が複雑化してしまうという技術的問題点もある。
【0008】
また、非特許文献2に係る技術では、パワーリード導体の内部に恒常的に寒剤を導入する必要があるため、大量に寒冷を消費し、運用コストが増大しまうという技術的問題点がある。特に、上述のような工場内に設置される超電導変圧器のように電力負荷が時間帯によって大きく変動する場合においても恒常的に寒剤を導入することは、必要以上量の寒剤を無駄に消費してしまい、効率が悪い。
【0009】
このような問題に対する一つの解決手段として、例えばパワーリード導体の内部に導入される寒剤の量を開弁動作によって制御可能な寒剤導入量制御弁を設けることが考えられる。一般的にこの種の弁の開閉制御には、別途電源や制御装置が必要とされる。しかしながら、このような電源や制御装置を別途設けると、システム内のエネルギー消費量の増大による送電効率の悪化や、周辺構造の複雑化及び製造コストの増加が問題となる。
【0010】
本発明は上述した問題点に鑑みなされたものであり、冷却対象の温度変動に応じて寒剤の導入量を制御可能な寒剤導入量制御弁において、特段の電源や制御装置を別途設けることなく開閉動作を可能にすると共に、周辺構造の複雑化や製造コストの増加を回避することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の寒剤導入量制御弁は上記課題を解決するために、寒剤が貯留された寒剤貯留空間から、該寒剤貯留空間と壁部を介して隔てられて設けられた冷却空間に前記寒剤を導入するための寒剤導入量制御弁において、前記壁部に連結されており、前記寒剤を前記冷却空間に導入するために開口して形成された寒剤導入部を有する第1の部材と、前記寒剤導入部を貫通するように延在して設けられ、寒剤貯留空間側先端にスリット部等を有する第2の部材と、前記寒剤導入部において前記第2の部材を延在方向に沿って移動可能なように周囲から保持することによって、前記寒剤貯留空間と前記冷却空間とを隔離する第3の部材とを備え、前記第2の部材は、前記第1の部材と異なる線熱膨張率を有する材料から形成されていることを特徴とする。
【0012】
本発明によれば、第2の部材は第1の部材と異なる線熱膨張率を有する材料から形成されているので、第1の部材及び第2の部材の熱伸縮により、第2の部材に設けられたスリット部等の第3の部材に対する位置を制御することができる。その結果、寒剤貯留空間に対するスリット部等の露出度を調整することによって、当該スリット部等を介して冷却空間に導入される寒剤の量を制御することができる。このように第1の部材の温度変化に応じて寒剤の導入量を制御できるので、寒冷の無駄な消費を抑制し、冷却効率を向上させることができる。また、本発明の寒剤導入量制御弁の開閉動作は第1の部材及び第2の部材の熱伸縮によって行われるので、別途電源や制御装置等を設ける必要もない。
【0013】
好ましくは、前記第2の部材は、前記第1の部材より小さい線熱膨張率を有する材料から形成されており、前記第1の部材の温度が所定値以下である場合に、前記寒剤導入部は前記第2の部材の前記寒剤貯留空間側先端及び前記第3の部材によって塞がれ、且つ、前記スリット部等が前記第3の部材より寒剤貯留空間側に位置することによって、前記冷却空間は前記寒剤貯留空間から隔離され、前記第1の部材の温度が前記所定値より大きい場合に、前記スリット部等が前記第3の部材より前記冷却空間側に露出することによって、該露出したスリット部等を介して前記寒剤貯留空間から前記冷却空間に前記寒剤が導入されるとよい。
【0014】
この場合、寒剤導入量制御弁は、低温時には、寒剤導入部が第2の部材の寒剤貯留空間側先端及び第3の部材によって塞がれることによって閉じており、スリット部等は第3の部材より寒剤貯留空間側に位置している。そして温度が上昇すると、第2の部材に設けられたスリット部等は第1の部材及び第2の部材の熱伸縮により、冷却空間側に向かって次第に移動し、第3の部材より冷却空間側に露出することによって、該露出したスリット部等を介して冷却空間に寒剤を導入することができる。
【0015】
また、前記第2の部材は、前記第1の部材より大きい線熱膨張率を有する材料から形成されており、前記第1の部材の温度が所定値以下である場合に、前記寒剤導入部は前記第2の部材の前記寒剤貯留空間側先端及び前記第3の部材によって塞がれ、且つ、前記スリット部等が前記第3の部材より冷却空間側に位置することによって、前記冷却空間は前記寒剤貯留空間から隔離され、前記第1の部材の温度が前記所定値より大きい場合に、前記スリット部等が前記第3の部材より前記寒剤貯留空間側に露出することによって、該露出したスリット部等を介して前記寒剤貯留空間から前記冷却空間に前記寒剤を導入してもよい。
【0016】
この場合、寒剤導入量制御弁は、低温時には、寒剤導入部が第2の部材の寒剤貯留空間側先端及び第3の部材によって塞がれることによって閉じており、スリット部等は第3の部材より冷却空間側に位置している。そして温度が上昇すると、第2の部材に設けられたスリット部等は第1の部材及び第2の部材の熱伸縮により、寒剤貯留空間側に向かって次第に移動し、第3の部材より寒剤貯留空間側に露出することによって、該露出したスリット部等を介して冷却空間に寒剤を導入することができる。
【0017】
好ましくは、前記スリット部等は、前記第1の部材の温度の上昇に従い前記スリット部等が移動する方向に向かって、断面積が次第に減少するように形成されているとよい。
【0018】
この場合、低温時にはスリット部等を介して冷却空間に導入される寒剤の導入量は少なく、温度が上昇するに従い、導入量も増加する。そのため、冷却空間に置かれた冷却対象の温度が高くなるに従って加速度的に寒剤導入量を増やすことができ、優れた冷却作用を得ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、第2の部材は第1の部材と異なる線熱膨張率を有する材料から形成されているので、第1の部材及び第2の部材の熱伸縮により、第2の部材に設けられたスリット部等の第3の部材に対する位置を制御することができる。その結果、寒剤貯留空間に対するスリット部等の露出度を調整することによって、当該スリット部等を介して冷却空間に導入される寒剤の量を制御することができる。このように第1の部材の温度変化に応じて寒剤の導入量を制御できるので、寒冷の無駄な消費を抑制し、冷却効率を向上させることができる。また、本発明の寒剤導入量制御弁の開閉動作は第1の部材及び第2の部材の熱伸縮によって行われるので、別途電源や制御装置等を設ける必要もない。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本実施例に係る送電システムの全体構成を模式的に示す平面図である。
【図2】寒剤として用いられる液体窒素のエントロピーと温度との関係を示すグラフ図である。
【図3】超電導変圧器に流れる電流値の時間変化を示すグラフ図である。
【図4】超電導変圧器及びその周辺構造を示す断面図である。
【図5】実施例1に係るパワーリードの内部構造を示す断面図である。
【図6】実施例1に係るパワーリードの内部構造の他の例を示す断面図である。
【図7】実施例1に係る寒剤導入量制御弁の非発熱時における構造を示す断面図である。
【図8】実施例1に係る寒剤導入量制御弁の発熱時における構造を示す断面図である。
【図9】パワーリードに所定値の電流を流した際の導体部の延在方向における温度分布及び熱負荷量を示すグラフ図である。
【図10】実施例2に係るパワーリードの内部構造を示す断面図である。
【図11】実施例2に係る寒剤導入量制御弁の非発熱時における構造を示す断面図である。
【図12】実施例2に係る寒剤導入量制御弁の発熱時における構造を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
【0022】
図1は、本実施例に係る送電システム1の全体構成を模式的に示す平面図である。送電システム1は工場敷地内に設置された複数の施設(A棟からH棟)の各々に外部電力系統(図不示)から供給される電力を配電するためのシステムであり、外部電力系統から供給される高圧電力を受電する特高変電所110、該特高変電所110において受電した高圧電力を各施設に送電するための超電導送電ケーブル120、該超電導送電ケーブル120によって各施設に送電された電力を受電し、施設内に設置された負荷に適した電圧に変圧するための超電導変圧器10を含んでなる。超電導送電ケーブルとは、液体窒素で冷却された超電導電線である。
【0023】
超電導電線を冷却した液体窒素で冷却された超電導変圧器10は各施設に対応して設けられており(図1では各施設(A棟からH棟)に対応する超電導変圧器を符号10aから10hで示してある)、超電導送電ケーブル120から供給される高圧電力を、施設内に設置された負荷に適した電圧(例えばAC200V)に変圧する。本実施例では、施設内に設けられた負荷として200Vの電圧で点灯する工場用電灯(以下、単に「電灯」と称する)を想定して説明することとする。
【0024】
超電導変圧器10は、主に一次側コイル、二次側コイル及びトランスコアからなり(超電導変圧器10の具体的な構成について後に詳述する)、特に一次側コイル及び二次側コイルは超電導体の一種である高温超電導線から形成されている。また、超電導送電ケーブル120もまた高温超電導線から形成されている。これらは後に詳述するように、寒剤たる液体窒素により冷却されることによって超電導状態に維持されている。そのため、超電導送電ケーブル120及び超電導変圧器10は、特高変電所から受電した高圧電力を極めて小さな損失で送電することができる。
【0025】
図2は寒剤たる液体窒素のエントロピーと温度との関係を示すグラフ図である。通常、寒剤として用いられる液体窒素は沸点温度(常圧において77K)にあり、気液混合状態(図2において(ii)から(iii)の間で示される状態)にある。それに対し、本実施例において寒剤として用いられる液体窒素は、通常の液体窒素に比べて更に低温に冷却された(サブクールされた)ものを用いていることを特徴としている。具体的には、本実施例で用いられる液体窒素は、沸点(常圧で77K)より低温な65Kにサブクールされており、更にその圧力が3気圧から4気圧に加圧された状態(即ち、図2において(i)で示す状態)にある。このようにサブクールされた液体窒素を用いることにより、通常の液体窒素に比べて非常に高い冷却能力を得ることができる。
【0026】
例えば、超電導送電ケーブル120及び超電導変圧器10が発熱すると、液体窒素の状態は、初期状態(i)から図2に示す実線に沿って移動する。当初状態(i)にある液体窒素が(ii)の状態に達すると、液体窒素の一部が蒸発し始め、気液混合状態となる。液体窒素が蒸発する際には気化熱を要するので、(iii)の状態にかけて温度は一定に維持されたまま気液混合状態が継続する。そして、(iii)の状態に達すると液体窒素は完全に気化し、(iv)の状態に向けて気化ガスの温度が上昇する。このようにサブクールされた液体窒素を用いて冷却を行うことにより、状態(i)から(ii)に至るために要する熱量、状態(ii)から(iii)において気化熱として消費される熱量、更に状態(iii)移行に気化した気化ガスを昇温させるために要する熱量を利用して冷却することができる。通常の液体窒素(サブクールされていない液体窒素)を用いる場合、冷却に利用できる熱量は、状態(ii)から(iii)において気化熱として消費される熱量の一部分と、状態(iii)移行に気化した気化ガスを昇温させるために要する熱量しかない。そのため、サブクールされた液体窒素を用いると、より大きくの熱量を利用して冷却できるので、非常に高い冷却能力が得られる。
【0027】
ここで、図3は超電導変圧器10に流れる電流値の時間変化を示すグラフ図である。図3に示すように、超電導変圧器10に流れる電流値は、施設内に設置された負荷において消費される電力量に応じて時間帯によって変動する。具体的に説明すると、まず工場の始業時である7時〜8時を経過すると、電流値は急増する。12時〜13時の昼休み時には一時的に電流値は低下するものの、午後の始業時間である13時を経過すると再び増大し、夕方以降次第に低下する。特に、超電導変圧器10を流れる電流値は5時の時間帯に最小値を示し、このときの電流値は61.3A(最小電流値)である。一方、超電導変圧器10を流れる電流値は15時から16時の時間帯に最大値を示し、このときの電流値は571.3A(最大電流値)である。
【0028】
このように超電導変圧器10を流れる電流値は時間帯によって大きく変動するため、超電導変圧器10において発生するジュール発熱量もまた変動することとなる。特に、最大電流値(571.3A)が流れる際にジュール発熱量も最大値となり、超電導変圧器10及びその周辺回路(後述するパワーリードを含む)は当該最大発熱量にも耐えられるように設計される必要がある。一方、最低電流値(61.3A)が流れる際のジュール発熱は無視できるほど小さい。本実施例では超電導変圧器10の外部回路(超電導送電ケーブル120や施設内送電線130)への接続手段として、本発明の寒剤導入量制御弁を内蔵したパワーリードを用いることによって、このように時間帯によってジュール発熱量が大きく変動する状況下においても、省エネを達成しつつ、高い冷却能力を得ることができる。
【0029】
図4は、超電導変圧器10及びその周辺構造を示す断面図である。超電導変圧器10は、一次側コイル11、二次側コイル12及びトランスコア13を含んでなる。一次側コイル11、二次側コイル12及びトランスコア13の周囲は、内壁50によって寒剤貯留空間26が形成されており、該寒剤貯留空間26に上述したサブクールされた液体窒素が3気圧から4気圧で圧入されている。また、内壁50の外側には図不示の真空ポンプによって真空状態に維持された真空空間41を介して外壁40が設けられている。このように真空空間41を設けることにより、常温にある外壁40に対して、液体窒素122が貯留されている寒剤貯留空間26を断熱し、冷却能力を向上維持している。
【0030】
超電導変圧器10には超電導送電ケーブル120が接続されることにより、特高変電所110から高圧電力が供給される。超電導送電ケーブル120は高温超電導線121から形成されており、寒剤たる液体窒素122により冷却され、超電導状態に維持されている。液体窒素122は超電導送電ケーブル120内において図中に示す矢印方向に流れており、その一部が寒剤貯留空間26に貯留されるように構成されている。超電導送電ケーブル120から供給された高圧電力は、まず一次側コイル11に入力され、トランスコア13を介して二次側コイル12側に変圧されて伝達される。ここで二次側コイル12における電圧は、施設内に設置された負荷である照明140に適した電圧(200V)である。二次側コイル12は銅線80を介してパワーリード20に電気的に接続されることによって、二次側コイル12を施設内送電線130に接続している。施設内送電線130は二次側コイル12から充電された電力を照明140に供給し、点灯させる。
【実施例1】
【0031】
図5は、実施例1に係る出力用パワーリード20の内部構造を示す断面図である。パワーリード20は、内部に冷却空間21を有するように円筒形状に形成された、二次側コイル12と施設内送電線130とを電気的に接続するための導体部22と、該冷却空間21内に導体部22の延在方向に沿って棒状に形成された棒状部材23と、該棒状部材23を導体部22の延在方向に沿って移動可能なように周囲から保持するシール部材24とを備えてなる。ここで、導体部22、棒状部材23及びシール部材24は、それぞれ本発明の「第1の部材」、「第2の部材」及び「第3の部材」の一例であり、本発明の寒剤導入量制御弁100を構成している。
【0032】
導体部22と棒状部材23とは異なる線熱膨張率を有する材料から形成されている。実施例1では特に、導体部22は、熱膨張係数が比較的大きく電気抵抗の小さな材料(例えば銅の熱膨張係数は16.8×10−6/℃である)から形成されている。また、棒状部材23は、導体部22に比べて線熱膨張率の小さい材料である、SUS410、タンタル、鉄或いは炭素などから形成されている。尚、SUS410から形成した場合、熱膨張係数は10.4×10−6/℃である。シール部材24は、安定性、耐熱性及び耐薬品性に優れた材料から形成されている。
【0033】
導体部22及び棒状部材23の端部のうち施設内送電線130側(図5において上側)は、固定部材27に固定されている。固定部材27は導電性材料から形成されており、導体部22を介して供給される電力を導電部材28を介して施設内送電線130(図5において不示)に伝達する。固定部材27は、パワーリード20の発熱時に導体部22が熱変形することによって発生する機械的歪みを吸収可能なように弾性を有するように形成されている。導体部22はソリッドな導電性材料から形成されているため、温度変化に伴って導体部22が熱変形すると、該導体部22が連結された部材(例えば内壁50)との間で大きな機械的歪みが生じる場合がある。本実施例では、固定部材27を弾性を有する高純度の銅からなる「より線」で形成することによって、熱変形の際に生じる機械的歪みを吸収軽減できるように構成している。
【0034】
尚、このような機械的歪みを吸収軽減するための他の構成例として、図6に示すように、導体部22及び棒状部材23の施設内送電線130側の端部を導電部材28に直接連結しつつ、その周囲に弾性的に形成されたベローズ状外壁29を設けてもよい。尚、図6に示す例では、図5に示す例と共通する箇所には、同一の符号を付すこととし、詳細な説明は省略する。
【0035】
次に、図7及び図8を参照して、パワーリード20に内蔵された寒剤導入量制御弁100の構造及び動作について詳細に説明する。図7及び図8は、それぞれ非発熱時及び発熱時における寒剤導入量制御弁100の構造を示す断面図である。
【0036】
まず図7に示すように、非発熱時(所定温度以下)では、導体部22の寒剤導入部22aは棒状部材23及びその周囲を保持するシール部材24によって塞がれており、冷却空間21は寒剤貯留空間26から隔離されている。棒状部材23の先端にはスリット部等25が設けられている。この場合、スリット部等25はシール部材24より寒剤貯留空間26側に位置しているため、冷却空間21には寒剤が導入されない。即ち、寒剤導入量制御弁50は完全に閉じた状態にある。
【0037】
図8に示すように、パワーリード20が発熱すると(所定温度より高い)、温度上昇に伴い、導体部22及び棒状部材23は熱膨張し、棒状部材23の先端に設けられたスリット部等25は冷却空間21側に向かって次第に移動する。上述したように、棒状部材23は導体部22より線熱膨張率の小さい材料から形成されているため、導体部22の膨張量は棒状部材23の膨張量より大きい。その結果、棒状部材23の先端に設けられたスリット部等25は、図8に示すように上側に移動する。すると、スリット部等25はやがてシール部材24より冷却空間21側に露出し、該露出したスリット部等25を介して寒剤貯留空間26に貯留されていた寒剤が冷却空間21に導入される。寒剤は寒剤貯留空間26に圧入されているため、スリット部等25が冷却空間21側に露出すると、寒剤貯留空間26と冷却空間21との間の差圧に基づいて寒剤の冷却空間21への導入が自動的に開始される。
【0038】
冷却空間21に導入された寒剤は、導体部22の内壁や棒状部材23の表面によって加熱蒸発することにより、パワーリード20を内側から冷却する。このとき、液体窒素の蒸発によって生じた気化ガスは、冷却空間21に設けられた排出口45から外部に排出される(図5を参照)。尚、排出口45からの気化ガスの排出量は、排出口45に設けられたバルブ46によって調整可能であり、冷却空間21内の気圧を調整することができるように構成されている。
【0039】
このようにパワーリード20は本発明の寒剤導入量制御弁100を備えることによって、温度変化に応じて寒剤の導入量を制御することができる。このような寒剤導入量制御弁100の開閉動作は、別途電源や制御装置等を設けることなく、専ら導体部22や棒状部材23の熱伸縮によって行われるため、当該動作に余分なエネルギーを消費せずに済む。また、冷却空間21への寒剤の導入量はパワーリード20の温度に依存して調整されるので、無駄に寒冷を消費することがなく、省エネに適した冷却を行うことができる。
【0040】
尚、導体部22及び棒状部材23の長さは、寒剤導入量制御弁100の開閉タイミングが、導体部22の温度が所定の温度値を境界に行われるように設定するとよい。これにより、施設内での消費電力量が増大してジュール発熱量が多いときには、寒剤導入量制御弁100が開くことによりパワーリード20を内側から冷却し、施設内の消費電力量が減少してジュール発熱量が少なくなったときには、寒剤導入量制御弁100の開き具合を減少させて液体窒素の導入量を抑制することで、寒剤の無駄な消費を抑えることができる。
【0041】
ここで本発明の寒剤導入量制御弁100の有用性を、実験結果に基づいて具体的に説明する。図9は、パワーリード20に所定値の電流を流した際の導体部22の延在方向における温度分布及び熱負荷量を示すグラフ図である。
【0042】
パワーリード20に図3における最低電流値(I=61.3A)が流れるとき、寒剤導入量制御弁50は閉じた状態にあり、冷却空間21に寒剤は導入されない(導入量m=0(g/s))。このとき、パワーリード20の熱負荷量はQin0=29.95 (W)であった。一方、パワーリード20に図3における最大電流値(I=61.3A)が流れるとき、パワーリード20がジュール発熱によって加熱され、寒剤導入量制御弁50が開く。このときの寒剤の導入量はm=0.08(g/s)であった。また、このときの導体部22における最高温度は320(K)であり、熱負荷量はQin1=29.9(W)であった。ここで、仮にパワーリード20に最大電流値(I=61.3A)が流れるときに寒剤導入量制御弁50が閉じたまま(m=0g/s)であると仮定すると、導体部22の最高温度は450(K)に達し、熱負荷量はQin2=123.2(W)にまで上昇してしまう。従って、本発明の寒剤導入量制御弁100は冷却空間21への寒剤の導入によって、冷却性能を格段に改善できることが実験的にも明らかになった。
【実施例2】
【0043】
次に実施例2に係るパワーリード20について説明する。図10は、実施例2に係るパワーリード20の内部構造を示す断面図である。尚、以下の説明では、実施例1と共通する箇所に関しては、共通する符号を付して示すと共に、適宜説明を省略することとする。
【0044】
パワーリード20は、超電導変圧器10の二次側コイル12と施設内送電線130とを電気的に接続するための導体部122と、内部に前記導体部122を収納可能な冷却空間21を有するように円筒状に形成された円筒部材123と、前記導体部122を延在方向に沿って移動可能なように周囲から保持するシール部材24とを備えてなる。ここで、導体部122、円筒部材123及びシール部材24は、それぞれ本発明の「第2の部材」、「第1の部材」及び「第3の部材」の一例であり、実施例2に係る寒剤導入量制御弁200を構成している。
【0045】
導体部122と円筒部材123とは異なる線熱膨張率を有する材料から形成されている。実施例2では特に、円筒部材123は熱膨張係数の小さな材料、例えばセラミックス等から形成されている。また、導体部122は、熱膨張係数がセラミックスより大きい金属材料、例えば銅(銅の熱膨張計数は16.8×10−6/℃である)から形成されている。
【0046】
次に、図11及び図12を参照して、パワーリード20に内蔵された寒剤導入量制御弁200の構造及び動作について詳細に説明する。図11及び図12は、それぞれ非発熱時及び発熱時における寒剤導入量制御弁200の構造を示す断面図である。
【0047】
まず図11に示すように、非発熱時(所定温度以下)では、円筒部材123の寒剤導入部123aは導体部122及びその周囲を保持するシール部材24によって塞がれており、冷却空間21は寒剤貯留空間26から隔離されている。導体部122の先端にはスリット部等25が設けられている。この場合、スリット部等25はシール部材24より冷却空間21側に位置しているため、寒剤の導入は停止している。即ち、寒剤導入量制御弁200は完全に閉じた状態にある。
【0048】
図12に示すように、パワーリード20が発熱すると(所定温度より高い)、温度上昇に伴い、導体部122及び円筒部材123は熱膨張し、導体部122の先端に設けられたスリット部等25は寒剤貯留空間26側に向かって次第に移動する。上述したように、導体部122は円筒部材123より線熱膨張率の大きい材料から形成されているため、導体部122の膨張量は円筒部材123の膨張量より大きい。その結果、導体部122の先端に設けられたスリット部等25は、図12に示すように下側に向かって移動する。すると、スリット部等25はやがてシール部材24より寒剤貯留空間26側に露出し、該露出したスリット部25を介して寒剤貯留空間26に貯留されていた寒剤が冷却空間21に導入される。寒剤は寒剤貯留空間26に圧入されているため、スリット部等25が寒剤貯留空間26側に露出すると、寒剤貯留空間26と冷却空間21との間の差圧に基づいて寒剤の冷却空間21への導入が自動的に開始される。
【0049】
このように実施例2に係る寒剤導入量制御弁200においても、温度変化に応じて冷却空間21への寒剤の導入量を制御することができる。このような寒剤導入量制御弁200の開閉動作は、別途電源や制御装置等を設けることなく、専ら導体部122及び円筒部材123の熱伸縮によって行われるため、当該動作に余分なエネルギーを消費せずに済む。また、冷却空間21への寒剤の導入量はパワーリード20の温度に依存して調整されるので、無駄に寒冷を消費することがなく、寒剤の消費量を効果的に抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、寒剤が貯留された寒剤貯留空間から、該寒剤貯留空間に壁部を介して隔てられて設けられた冷却空間に寒剤を導入するための寒剤導入量制御弁に利用可能である。
【符号の説明】
【0051】
1 発電システム
20 パワーリード
21 冷却空間
22 導体部
23 棒状部材
24 シール部材
25 スリット部等
26 寒剤貯留空間
27 固定部材
28 導電部材
100 寒剤導入量制御弁
【特許請求の範囲】
【請求項1】
寒剤が貯留された寒剤貯留空間から、該寒剤貯留空間と壁部を介して隔てられて設けられた冷却空間に前記寒剤を導入するための寒剤導入量制御弁において、
前記壁部に連結されており、前記寒剤を前記冷却空間に導入するために開口して形成された寒剤導入部を有する第1の部材と、
前記寒剤導入部を貫通するように延在して設けられ、寒剤貯留空間側先端にスリット部を有する第2の部材と、
前記寒剤導入部において前記第2の部材を延在方向に沿って移動可能なように周囲から保持することによって、前記寒剤貯留空間と前記冷却空間とを隔離する第3の部材と
を備え、
前記第2の部材は、前記第1の部材と異なる線熱膨張率を有する材料から形成されていることを特徴とする寒剤導入量制御弁。
【請求項2】
前記第2の部材は、前記第1の部材より小さい線熱膨張率を有する材料から形成されており、
前記第1の部材の温度が所定値以下である場合に、前記寒剤導入部は前記第2の部材の前記寒剤貯留空間側先端及び前記第3の部材によって塞がれ、且つ、前記スリット部が前記第3の部材より寒剤貯留空間側に位置することによって、前記冷却空間は前記寒剤貯留空間から隔離され、
前記第1の部材の温度が前記所定値より大きい場合に、前記スリット部が前記第3の部材より前記冷却空間側に露出することによって、該露出したスリット部を介して前記寒剤貯留空間から前記冷却空間に前記寒剤が導入されることを特徴とする請求項1に記載の寒剤導入量制御弁。
【請求項3】
前記第2の部材は、前記第1の部材より大きい線熱膨張率を有する材料から形成されており、
前記第1の部材の温度が所定値以下である場合に、前記寒剤導入部は前記第2の部材の前記寒剤貯留空間側先端及び前記第3の部材によって塞がれ、且つ、前記スリット部が前記第3の部材より冷却空間側に位置することによって、前記冷却空間は前記寒剤貯留空間から隔離され、
前記第1の部材の温度が前記所定値より大きい場合に、前記スリット部が前記第3の部材より前記寒剤貯留空間側に露出することによって、該露出したスリット部を介して前記寒剤貯留空間から前記冷却空間に前記寒剤を導入することを特徴とする請求項1に記載の寒剤導入量制御弁。
【請求項4】
前記スリット部は、前記第1の部材の温度の上昇に従い前記スリット部が移動する方向に向かって断面積が次第に減少するように形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の寒剤導入量制御弁。
【請求項1】
寒剤が貯留された寒剤貯留空間から、該寒剤貯留空間と壁部を介して隔てられて設けられた冷却空間に前記寒剤を導入するための寒剤導入量制御弁において、
前記壁部に連結されており、前記寒剤を前記冷却空間に導入するために開口して形成された寒剤導入部を有する第1の部材と、
前記寒剤導入部を貫通するように延在して設けられ、寒剤貯留空間側先端にスリット部を有する第2の部材と、
前記寒剤導入部において前記第2の部材を延在方向に沿って移動可能なように周囲から保持することによって、前記寒剤貯留空間と前記冷却空間とを隔離する第3の部材と
を備え、
前記第2の部材は、前記第1の部材と異なる線熱膨張率を有する材料から形成されていることを特徴とする寒剤導入量制御弁。
【請求項2】
前記第2の部材は、前記第1の部材より小さい線熱膨張率を有する材料から形成されており、
前記第1の部材の温度が所定値以下である場合に、前記寒剤導入部は前記第2の部材の前記寒剤貯留空間側先端及び前記第3の部材によって塞がれ、且つ、前記スリット部が前記第3の部材より寒剤貯留空間側に位置することによって、前記冷却空間は前記寒剤貯留空間から隔離され、
前記第1の部材の温度が前記所定値より大きい場合に、前記スリット部が前記第3の部材より前記冷却空間側に露出することによって、該露出したスリット部を介して前記寒剤貯留空間から前記冷却空間に前記寒剤が導入されることを特徴とする請求項1に記載の寒剤導入量制御弁。
【請求項3】
前記第2の部材は、前記第1の部材より大きい線熱膨張率を有する材料から形成されており、
前記第1の部材の温度が所定値以下である場合に、前記寒剤導入部は前記第2の部材の前記寒剤貯留空間側先端及び前記第3の部材によって塞がれ、且つ、前記スリット部が前記第3の部材より冷却空間側に位置することによって、前記冷却空間は前記寒剤貯留空間から隔離され、
前記第1の部材の温度が前記所定値より大きい場合に、前記スリット部が前記第3の部材より前記寒剤貯留空間側に露出することによって、該露出したスリット部を介して前記寒剤貯留空間から前記冷却空間に前記寒剤を導入することを特徴とする請求項1に記載の寒剤導入量制御弁。
【請求項4】
前記スリット部は、前記第1の部材の温度の上昇に従い前記スリット部が移動する方向に向かって断面積が次第に減少するように形成されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載の寒剤導入量制御弁。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【公開番号】特開2012−80009(P2012−80009A)
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−225870(P2010−225870)
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年10月5日(2010.10.5)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【Fターム(参考)】
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