説明

射出成形方法及び射出成形装置

【課題】樹脂成形品にガス焼け等の不良現象が生じることを防止し、外観及び表面精度に優れた樹脂成形品を成形できる射出成形方法及び射出成形装置を提供すること。
【解決手段】射出成形装置1の成形型2は、樹脂原料80を充填するためのキャビティ20と、キャビティ20の裏側成形面202に開口するガス通過口41とを形成してなる。減圧手段61にガス通過口41を接続したときには、ガス通過口41からキャビティ20内の残存ガスG1の吸引を行って、キャビティ20内を減圧する。一方、増圧手段62にガス通過口41を接続したときには、ガス通過口41からキャビティ20の裏側成形面202と、キャビティ20内の樹脂原料80との間に押圧用ガスG2を導入し、樹脂原料80をキャビティ20の表側成形面201へ押圧する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、キャビティ内に充填した樹脂原料をガスによって押圧して、表面精度に優れた樹脂成形品を得る射出成形方法及び射出成形装置に関する。
【背景技術】
【0002】
樹脂原料を成形型のキャビティ内に射出成形して、樹脂成形品を得る技術においては、樹脂成形品の意匠表面に、ヒケ(表面に形成される凹み)等のひずみ状態が形成されることを防止するために、キャビティにおける裏側成形面と、キャビティ内における樹脂原料との間にガスを導入し、当該樹脂原料をキャビティにおける表側成形面へ押圧(加圧)している。これにより、樹脂成形品の意匠表面の外観及び形状を安定させている。
このように樹脂成形品の意匠表面にヒケ等が生じることを防止する技術としては、例えば、特許文献1、2に開示されたものがある。
【0003】
特許文献1の合成樹脂射出成形品のひけ防止方法においては、合成樹脂射出成形品の裏面側を成形するコアに、成形型内に圧力流体を導入する間隙部を形成している。そして、この間隙部から成形型内に圧力流体を導入し、合成樹脂成形品の成形表面を成形型内の表面に圧接させて、ひけの発生を防止している。
また、特許文献2のガス加圧射出成形方法においては、裏面側に突出した厚肉部を有する成形品を射出成形するに当たり、まず、キャビティ面の一部に開口する大気開放経路からキャビティ内のガスを抜きながら、キャビティ内に溶融樹脂を充填する。次いで、ガス圧入領域とキャビティ面との間に加圧ガスを圧入して、キャビティ内に成形した成形品の表面をキャビティ面に押圧している。
【0004】
しかしながら、従来の射出成形方法においては、上記特許文献2に示されるように、溶融樹脂を充填する際のキャビティ内のガス抜きは、キャビティに形成したガス抜き口(大気開放経路等)から行っている。
そのため、キャビティ内のガス抜きを十分に行うことができず、溶融樹脂の充填を行う際に、キャビティ内にガスが残存してしまうおそれがある。また、場合によっては、キャビティ内に残存したガスが、成形した樹脂成形品に空隙又はガス焼け(キャビテイ内の空気やガスが断熱圧縮されて高温になり、樹脂が分解して生じる現象)等を発生させるおそれがある。
【0005】
【特許文献1】特開昭50−75247号公報
【特許文献2】特許第3108871号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、かかる従来の問題点に鑑みてなされたもので、樹脂成形品にガス焼け等の不良現象が生じることを防止し、外観及び表面精度に優れた樹脂成形品を成形することができる射出成形方法及び射出成形装置を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、樹脂原料を充填して樹脂成形品を得るためのキャビティと、該キャビティ内に上記樹脂原料を導入するための樹脂導入口と、上記キャビティにおいて上記樹脂成形品の裏側面を成形する裏側成形面に開口形成したガス通過口とを有する成形型を用いて、射出成形を行う方法において、
上記ガス通過口から上記キャビティ内の残存ガスの吸引を行い、該キャビティ内を減圧する減圧工程と、
上記樹脂導入口から上記キャビティ内に樹脂原料を充填する原料充填工程と、
上記ガス通過口から上記裏側成形面と上記キャビティ内における上記樹脂原料との間に押圧用ガスを導入し、当該樹脂原料を上記キャビティにおいて上記樹脂成形品の表側面を成形する表側成形面へ押圧する押圧工程とを含むことを特徴とする射出成形方法にある(請求項1)。
【0008】
本発明の射出成形方法においては、上記キャビティ、樹脂導入口及びガス通過口を有する成形型を用いて、上記減圧工程、原料充填工程及び押圧工程を行い、樹脂成形品を得る。そして、本発明の射出成形方法においては、キャビティ内の残存ガスの吸引と、キャビティ内への押圧用ガスの導入とを、同じガス通過口を用いて行う。
【0009】
減圧工程においては、ガス通過口からキャビティ内の残存ガスの吸引を行い、キャビティ内を減圧する。このとき、この吸引により、キャビティ内を大気圧よりも低い真空状態にすることができ、キャビティ内の残存ガスを十分に吸引することができる。
また、原料充填工程においては、樹脂導入口からキャビティ内に樹脂原料を充填する。このとき、キャビティ内が上記残存ガスの吸引により真空状態になっているときには、迅速かつ安定して樹脂原料の充填を行うことができる。
【0010】
また、押圧工程においては、上記残存ガスの吸引を行ったガス通過口と同じガス通過口を利用して、キャビティにおける裏側成形面と、キャビティ内における樹脂原料との間に押圧用ガスを導入する。これにより、キャビティ内における樹脂原料を、キャビティにおける表側成形面へ押圧する。そのため、樹脂原料を冷却・固化して得た樹脂成形品の表側面に、ヒケ(表面に形成される凹み)等のひずみ状態が発生することを防止することができる。
【0011】
そして、上記減圧工程においては、キャビティ内への押圧用ガスの導入を行うガス通過口を利用して、キャビティ内の残存ガスの吸引を行うことができる。そのため、成形型にキャビティ内のガス抜きを行うためだけのガス抜き口を形成する必要がなく、成形型の構造を簡単にすることができる。
また、ガス通過口を利用してキャビティ内を真空状態にすることができるため、キャビティ内に残存ガスがほとんど残らないようにすることができる。そのため、上記原料充填工程及び押圧工程を行って樹脂成形品を成形したときには、樹脂成形品にガス焼け等の不良現象が生じることを防止することができる。
【0012】
それ故、本発明の射出成形方法によれば、成形型の構造を簡単にすることができると共に、キャビティ内における樹脂原料にガス焼け等の不良現象が生じることを防止し、外観及び表面精度に優れた樹脂成形品を成形することができる。
【0013】
第2の発明は、樹脂原料を充填して樹脂成形品を得るためのキャビティと、該キャビティ内に上記樹脂原料を導入するための樹脂導入口と、上記キャビティにおいて上記樹脂成形品の裏側面を成形する裏側成形面に開口するガス通過口とを形成してなる成形型を備えた射出成形装置において、
上記ガス通過口は、上記キャビティ内の残存ガスの吸引を行う減圧手段と、上記キャビティ内に押圧用ガスを導入する増圧手段とに切り換えて接続するよう構成してあり、
上記減圧手段に上記ガス通過口を接続したときには、該ガス通過口から上記キャビティ内の残存ガスの吸引を行って、該キャビティ内を減圧し、上記増圧手段に上記ガス通過口を接続したときには、該ガス通過口から上記裏側成形面と上記キャビティ内における上記樹脂原料との間に押圧用ガスを導入するよう構成してあることを特徴とする射出成形装置にある(請求項7)。
【0014】
本発明の射出成形装置は、上記キャビティ、樹脂導入口及びガス通過口を有する成形型を有しており、ガス通過口を、上記減圧手段と上記増圧手段とに切り換えて接続するよう構成している。
そして、樹脂成形品を成形する際に、減圧手段にガス通過口を接続したときには、ガス通過口からキャビティ内の残存ガスの吸引を行って、キャビティ内を減圧することができる。これにより、キャビティ内を真空状態にすることができ、キャビティ内に残存ガスがほとんど残らないようにすることができる。そのため、樹脂成形品を成形したときには、樹脂成形品にガス焼け等の不良現象が生じることを防止することができる。
【0015】
また、増圧手段にガス通過口を接続したときには、ガス通過口からキャビティにおける裏側成形面と、キャビティ内における樹脂原料との間に押圧用ガスを導入することができる。これにより、キャビティ内における樹脂原料を、キャビティにおける表側成形面へ押圧することができ、樹脂原料を冷却・固化して得た樹脂成形品の表側面に、ヒケ(表面に形成される凹み)等のひずみ状態が発生することを防止することができる。
【0016】
このように、本発明においては、キャビティ内への押圧用ガスの導入を行うガス通過口を利用して、キャビティ内の残存ガスの吸引を行うことができる。そのため、成形型にキャビティ内のガス抜きを行うためだけのガス抜き口を形成する必要がなく、成形型の構造を簡単にすることができる。
【0017】
それ故、本発明の射出成形装置によれば、成形型の構造を簡単にすることができると共に、キャビティ内における樹脂原料にガス焼け等の不良現象が生じることを防止し、外観及び表面精度に優れた樹脂成形品を成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
上述した第1、第2の発明における好ましい実施の形態につき説明する。
上記第1、第2の発明において、上記樹脂成形品は、ラジエータグリル、バックガーニッシュ、サイドモール、ホイールカバー、インストルメントパネル等とすることができる。また、上記成形型内に注入するガスは、空気又は窒素等の高圧ガスとすることができる。
【0019】
上記第1の発明において、上記原料充填工程は、上記減圧工程を行った後に開始することができる(請求項2)。
この場合には、減圧工程によってキャビティ内を真空状態にした後、原料充填工程によって迅速かつ安定してキャビティ内に樹脂原料の充填を行うことができる。
【0020】
また、上記原料充填工程は、上記減圧工程を行っているときに開始することもできる(請求項3)。
この場合には、減圧工程によってキャビティ内を減圧しながら、原料樹脂工程によって迅速かつ安定してキャビティ内に樹脂原料の充填を行うことができる。
また、この場合には、減圧工程は、キャビティ内を流動する樹脂原料が、ガス通過口に到達するまで行うことができる。
【0021】
また、上記原料充填工程は、上記減圧工程を開始する前に開始することもできる(請求項4)。
樹脂導入口からキャビティ内に樹脂原料の充填を開始した後でも、樹脂導入口から遠い位置にあるガス通過口には直ちに樹脂原料が到達しない。そのため、原料充填工程を開始して、キャビティ内を流動する樹脂原料がガス通過口に到達する前に、減圧工程を行ってキャビティ内を減圧することができる。
【0022】
また、上記ガス通過口は、上記キャビティにおける上記裏側成形面に複数形成してあり、上記押圧工程は、上記原料充填工程を行っているときに開始し、上記押圧工程においては、上記樹脂導入口に近い位置にあるガス通過口の方が、上記樹脂導入口から遠い位置にあるガス通過口よりも先に上記押圧用ガスの導入を開始することができる(請求項5)。
この場合には、キャビティ内において樹脂導入口に近い位置(樹脂原料が先に充満される部位)から先に、押圧工程を開始し、樹脂原料をキャビティにおける表側成形面へ押圧することができる。そのため、キャビティの成形面に溶融樹脂が接触して、スキン層(樹脂原料の硬化部分)が先に形成される部位から先に、樹脂原料を押圧することができる。
これにより、樹脂成形品の表側面の全体において、ヒケ等のひずみ状態が発生することを効果的に防止することができる。
【0023】
また、上記押圧工程においては、上記キャビティ内において上記樹脂原料が先に充満される部位に設けた上記ガス通過口から先に上記押圧用ガスの導入を開始することができる(請求項6)。
この場合には、キャビティ内において、樹脂原料が充満された部位から先に、順次樹脂原料を押圧することができ、樹脂成形品の表側面の全体において、ヒケ等のひずみ状態が発生することを一層効果的に防止することができる。
【実施例】
【0024】
以下に、本発明の射出成形方法及び射出成形装置にかかる実施例につき、図面と共に説明する。
本例の射出成形装置1は、図1〜図3に示すごとく、樹脂原料80を充填して樹脂成形品8を得るためのキャビティ20を形成してなる成形型2を備えている。この成形型2には、キャビティ20に開口し、このキャビティ20内に溶融状態の樹脂原料80を導入するための樹脂導入口23が形成してある。また、成形型2には、キャビティ20において樹脂成形品8の裏側面802を成形する裏側成形面202に開口するガス通過口41が形成してある。
【0025】
図4に示すごとく、上記ガス通過口41は、キャビティ20内の残存ガスG1の吸引を行う減圧手段61と、キャビティ20内に押圧用ガスG2を導入する増圧手段62とに切り換えて接続するよう構成してある。なお、残存ガスG1は、キャビティ20内の空気、及び前回の射出成形時にキャビティ20内に導入した押圧用ガスG2の残り等である。
そして、射出成形装置1は、図4に示すごとく、減圧手段61にガス通過口41を接続したときには、ガス通過口41からキャビティ20内の残存ガスG1の吸引を行って、キャビティ20内を減圧するよう構成してある。また、射出成形装置1は、図5〜図7に示すごとく、増圧手段62にガス通過口41を接続したときには、ガス通過口41からキャビティ20における裏側成形面202と、キャビティ20内における樹脂原料80との間に押圧用ガスG2を導入するよう構成してある。
【0026】
以下に、本例の射出成形方法及び射出成形装置1につき、図1〜図8と共に詳説する。
本例のガス通過口41は、キャビティ20内へ押圧用ガスG2の導入を行うガス導入口を利用し、このガス導入口を利用してキャビティ20内の残存ガスG1の吸引も行うよう構成したものである。
図4に示すごとく、本例の減圧手段61は、真空引きを行う真空ポンプであり、本例の増圧手段62は、押圧用ガスG2を高圧(例えば5〜15MPa)に蓄圧する蓄圧タンクである。
【0027】
また、同図に示すごとく、ガス通過口41に連通する配管には、ガス通過口41を減圧手段61と接続するか、ガス通過口41を増圧手段62と接続するかを切り替える切替弁51(A〜C)が配設してある。そして、切替弁51を操作することにより、ガス通過口41を、減圧手段61と増圧手段62とに切り換えて接続することができる。また、ガス通過口41は、キャビティ20内に導入した押圧用ガスG2を排気する排気ダクトに接続することもできる。
【0028】
図1に示すごとく、本例において成形する樹脂成形品8は、板状本体部81と、この板状本体部81の裏側面802から立設した立壁部82とを有している。
本例の立壁部82は、板状本体部81の裏側面802の縁部から立設した外周立壁部82Aと、板状本体部81の裏側面802の中間部から立設した仕切立壁部82Bとからなる。本例の樹脂成形品8は、ラジエータグリルである。本例の仕切立壁部82Bは、樹脂成形品8の補強を行う補強用リブであり、ラジエータグリルの長尺方向(左右方向)Wに直交して形成してある。
【0029】
図2、図3に示すごとく、本例のキャビティ20は、板状本体部81を成形する本体部用キャビティ21と、立壁部82を成形する立壁部用キャビティ22とを有している。また、本体部用キャビティ21は、立壁部用キャビティ22によって囲まれた領域である閉空間3を複数形成してなる。
本例の立壁部用キャビティ22は、上記外周立壁部82Aを成形する外周立壁部用キャビティ22Aと、仕切立壁部82Bを成形する仕切立壁部用キャビティ22Bとからなる。そして、本例の閉空間3は、本体部用キャビティ21において、外周立壁部用キャビティ22Aと仕切立壁部用キャビティ22Bとによって囲まれた領域として複数形成されている。また、複数の閉空間3は、樹脂導入口23に近い順に、第1閉空間3A、第2閉空間3B、第3閉空間3Cとして形成されている。
【0030】
また、図1、図5に示すごとく、本例の樹脂導入口23は、キャビティ20における中央部分に設けてあり、本例のキャビティ20においては、樹脂導入口23から導入した樹脂原料80を左右方向Wに分岐させて充填させる。
本例のガス通過口41は、各閉空間3における裏側成形面202にそれぞれ設けてある。このガス通過口41は、キャビティ20における樹脂原料80の通過方向Lに沿って複数設けてある。なお、本例において、樹脂原料80の通過方向Lと左右方向Wとは同じ方向である。
【0031】
図2、図4に示すごとく、本例の複数のガス通過口41は、第1閉空間3Aに設けた第1ガス通過口41A、第2閉空間3Bに設けた第2ガス通過口41B、及び第3閉空間3Cに設けた第3ガス通過口41Cとして形成してある。
また、図2に示すごとく、各ガス通過口41A、B、Cは、キャビティ20の裏側成形面202に形成したガス通過穴411と、このガス通過穴411内に配置した筒状体412との間に、押圧用ガスG2を通過させる間隙413を形成してなる。
【0032】
また、図4に示すごとく、本例の切替弁51は、第1ガス通過口41Aに連通する配管に配設した第1切替弁51A、第2ガス通過口41Bに連通する配管に配設した第2切替弁51B、及び第3ガス通過口41Cに連通する配管に配設した第3切替弁51Cとを有している。
そして、各ガス通過口41A、B、Cは、各切替弁51A、B、Cの切替操作によって、それぞれ別個に減圧手段61と増圧手段62とに切り換えて接続することができる。
【0033】
また、同図に示すごとく、減圧手段61と各切替弁51A、B、Cとの間の配管には、減圧手段61による各ガス通過口41A、B、Cからのガス吸引を停止させるための遮断弁52がそれぞれ配設してある。
なお、第1〜第3閉空間3A、B、C、第1〜第3ガス通過口41A、B、C、及び第1〜第3切替弁51A、B、Cは、成形型2におけるキャビティ20の左右に設けてある。
【0034】
また、本例の射出成形装置1は、熱可塑性樹脂の射出成形を行うものであり、キャビティ20内に導入する樹脂原料80の射出圧力は、例えば、30〜50MPaとし、キャビティ20内に導入する樹脂原料80の加熱温度は、例えば、200〜250℃とする。また、ガス通過口41からキャビティ20内に導入するガスの圧力は、例えば、5〜15MPaとする。本例のガスは、窒素ガスとした。
【0035】
次に、上記射出成形装置1を用いて樹脂成形品8を成形する方法につき説明し、射出成形装置1及び射出成形方法による作用効果を説明する。
本例の成形方法においては、図4〜図7に示すごとく、キャビティ20内を減圧する減圧工程と、キャビティ20内に溶融状態の樹脂原料80を充填する原料充填工程と、キャビティ20内に押圧用ガスG2を導入する押圧工程を行って、樹脂成形品8を射出成形する。
【0036】
そして、本例においては、減圧工程を行ってキャビティ20内を真空状態にし、次いで、減圧工程を行っているときに原料充填工程を開始し、さらに、原料充填工程を行っているときに押圧工程を開始する。この押圧工程においては、キャビティ20内において樹脂原料80が先に充満される閉空間3に設けたガス通過口41から先に、押圧用ガスG2の導入を順次開始する。
【0037】
より具体的には、上記樹脂成形品8を成形するに当たり、まず、図4に示すごとく、減圧工程として、上記減圧手段61により、各ガス通過口41A、B、Cを利用して、キャビティ20内の残存ガスG1の吸引を行い、キャビティ20内を減圧する。このとき、この吸引により、キャビティ20内を大気圧よりも低い真空状態にすることができ、キャビティ20内の残存ガスG1を十分に吸引することができる。
【0038】
次いで、図5に示すごとく、減圧手段61による残存ガスG1の吸引を継続した状態で、原料充填工程として、樹脂導入口23からキャビティ20内に樹脂原料80の充填を開始する。このとき、キャビティ20内が真空状態になっていることにより、迅速かつ安定して樹脂原料80を流動させることができる。
そして、樹脂導入口23から樹脂原料80の導入を開始するときには、樹脂導入口23に最も近い位置にある第1閉空間3Aに設けた第1ガス通過口41Aによるガス吸引を停止する。このガス吸引の停止は、減圧手段61と第1切替弁51Aとの間の配管に配設した第1遮断弁52Aを閉じることによって行うことができる。
【0039】
次いで、同図に示すごとく、キャビティ20内を流動する樹脂原料80が、第1閉空間3Aを充満したときには、上記第1切替弁51Aを操作して、この第1閉空間3Aに設けた第1ガス通過口41Aを増圧手段62に接続する。このとき、増圧手段62から第1ガス通過口41Aへ押圧用ガスG2が流れ、第1ガス通過口41Aから、第1閉空間3Aにおける裏側成形面202と、第1閉空間3A内の樹脂原料80との間に、押圧用ガスG2が導入される。これにより、第1閉空間3A内における樹脂原料80を、第1閉空間3Aにおける表側成形面201へ押圧することができる。
【0040】
また、図5に示すごとく、キャビティ20内を流動する樹脂原料80が、第1閉空間3Aを充満したときには、第1閉空間3Aに隣接する第2閉空間3Bに設けた第2ガス通過口41Bによるガス吸引を停止する。このガス吸引の停止は、減圧手段61と第2切替弁51Bとの間の配管に配設した第2遮断弁52Bを閉じることによって行うことができる。
【0041】
次いで、図6に示すごとく、キャビティ20内を流動する樹脂原料80が、第2閉空間3Bを充満したときには、上記第2切替弁51Bを操作して、この第2閉空間3Bに設けた第2ガス通過口41Bを増圧手段62に接続する。このとき、増圧手段62から第2ガス通過口41Bへ押圧用ガスG2が流れ、第2ガス通過口41Bから、第2閉空間3Bにおける裏側成形面202と、第2閉空間3B内の樹脂原料80との間に、押圧用ガスG2が導入される。これにより、第2閉空間3B内における樹脂原料80を、第2閉空間3Bにおける表側成形面201へ押圧することができる。
【0042】
また、同図に示すごとく、キャビティ20内を流動する樹脂原料80が、第2閉空間3Bを充満したときには、第2閉空間3Bに隣接する第3閉空間3Cに設けた第3ガス通過口41Cによるガス吸引を停止する。このガス吸引の停止は、減圧手段61と第3切替弁51Cとの間の配管に配設した第3遮断弁52Cを閉じることによって行うことができる。
【0043】
次いで、図7に示すごとく、キャビティ20内を流動する樹脂原料80が、第3閉空間3Cを充満したときには、上記第3切替弁51Cを操作して、この第3閉空間3Cに設けた第3ガス通過口41Cを増圧手段62に接続する。このとき、増圧手段62から第3ガス通過口41Cへ押圧用ガスG2が流れ、第3ガス通過口41Cから、第3閉空間3Cにおける裏側成形面202と、第3閉空間3C内の樹脂原料80との間に、押圧用ガスG2が導入される。これにより、第3閉空間3C内における樹脂原料80を、第3閉空間3Cにおける表側成形面201へ押圧することができる。
【0044】
こうして、図8に示すごとく、キャビティ20内に充填した樹脂原料80を冷却・固化させて、樹脂成形品8を成形することができる。
なお、第3閉空間3Cに導入した押圧用ガスG2による樹脂原料80の押圧が完了するまで、第1閉空間3Aに導入した押圧用ガスG2による樹脂原料80の押圧、及び第3閉空間3Cに導入した押圧用ガスG2による樹脂原料80の押圧を継続することができる。
また、上記各切替弁51A、B、C及び各遮断弁52等の一連の動作は、シーケンサ(プログラマブルコントローラ)等の制御手段によって制御することができる。
【0045】
このように、本例においては、キャビティ20内に樹脂原料80の導入を開始した後においても、樹脂導入口23から遠いキャビティ20の部位(特に第3閉空間3C)にあるガス通過口41(特に第3ガス通過口41C)のガス吸引を継続することができる。そのため、キャビティ20内に樹脂原料80を充填する際に、樹脂導入口23から遠いキャビティ20の部位に向けて集まるキャビティ20内の残存ガスG1を効果的に吸引することができる。
【0046】
また、本例においては、キャビティ20内において、樹脂原料80が先に充満される部位(第1閉空間3A)から順に、すなわちスキン層(樹脂原料80の硬化部分)が先に形成される部位から順に、順次樹脂原料80を押圧することができる。そのため、樹脂成形品8の表側面801の全体において、ヒケ等のひずみ状態が発生することを効果的に防止することができる。
【0047】
また、上記減圧工程においては、キャビティ20内への押圧用ガスG2の導入を行う各ガス通過口41A、B、Cを利用して、キャビティ20内の残存ガスG1の吸引を行うことができる。そのため、成形型2にキャビティ20内のガス抜きを行うためだけのガス抜き口を形成する必要がなく、成形型2の構造を簡単にすることができる。
【0048】
また、各ガス通過口41A、B、Cを利用してキャビティ20内を真空状態にすることができるため、キャビティ20内に残存ガスG1がほとんど残らないようにすることができる。そのため、上記原料充填工程及び押圧工程を行って樹脂成形品8を成形したときには、樹脂成形品8にガス焼け等の不良現象が生じることを防止することができる。
【0049】
さらに、上記各工程による射出成形は繰り返し行うことができ、樹脂成形品8を繰り返し製造することができる。そして、2回目以降の射出成形においては、前回の射出成形時にキャビティ20内に導入した押圧用ガスG2の一部が、キャビティ20内に残存する残存ガスG1となることがある。これに対し、上記減圧工程を行うことにより、押圧用ガスG2を含む残存ガスG1を効果的に排除することができ、樹脂成形品8の表側面(意匠表面)801に艶ムラ等が生じることを防止することができる。
【0050】
それ故、本例の射出成形方法及び射出成形装置1によれば、成形型2の構造を簡単にすることができると共に、キャビティ20内における樹脂原料80にガス焼け等の不良現象が生じることを防止し、外観及び表面精度に優れた樹脂成形品8を成形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】実施例における、樹脂成形品及びこれに対応するキャビティを示す斜視説明図。
【図2】実施例における、成形型を示す図で、図3のA線矢視断面説明図。
【図3】実施例における、成形型を示す平面説明図。
【図4】実施例における、キャビティ内の残存ガスの吸引を行う状態の射出成形装置を示す図で、図3のA線矢視断面説明図。
【図5】実施例における、第1ガス通過口から第1閉空間内に押圧用ガスを導入する状態の射出成形装置を示す図で、図3のA線矢視断面説明図。
【図6】実施例における、第2ガス通過口から第2閉空間内に押圧用ガスを導入する状態の射出成形装置を示す図で、図3のA線矢視断面説明図。
【図7】実施例における、第3ガス通過口から第3閉空間内に押圧用ガスを導入する状態の射出成形装置を示す図で、図3のA線矢視断面説明図。
【図8】実施例における、キャビティ内に樹脂成形品を成形した状態の成形型を示す平面説明図。
【符号の説明】
【0052】
1 射出成形装置
2 成形型
20 キャビティ
201 表側成形面
202 裏側成形面
23 樹脂導入口
3 閉空間
41 ガス通過口
51 切替弁
61 減圧手段
62 増圧手段
8 樹脂成形品
80 樹脂原料
801 表側面
802 裏側面
G1 残存ガス
G2 押圧用ガス

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂原料を充填して樹脂成形品を得るためのキャビティと、該キャビティ内に上記樹脂原料を導入するための樹脂導入口と、上記キャビティにおいて上記樹脂成形品の裏側面を成形する裏側成形面に開口形成したガス通過口とを有する成形型を用いて、射出成形を行う方法において、
上記ガス通過口から上記キャビティ内の残存ガスの吸引を行い、該キャビティ内を減圧する減圧工程と、
上記樹脂導入口から上記キャビティ内に樹脂原料を充填する原料充填工程と、
上記ガス通過口から上記裏側成形面と上記キャビティ内における上記樹脂原料との間に押圧用ガスを導入し、当該樹脂原料を上記キャビティにおいて上記樹脂成形品の表側面を成形する表側成形面へ押圧する押圧工程とを含むことを特徴とする射出成形方法。
【請求項2】
請求項1において、上記原料充填工程は、上記減圧工程を行った後に開始することを特徴とする射出成形方法。
【請求項3】
請求項1において、上記原料充填工程は、上記減圧工程を行っているときに開始することを特徴とする射出成形方法。
【請求項4】
請求項1において、上記原料充填工程は、上記減圧工程を開始する前に開始することを特徴とする射出成形方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項において、上記ガス通過口は、上記キャビティにおける上記裏側成形面に複数形成してあり、
上記押圧工程は、上記原料充填工程を行っているときに開始し、
上記押圧工程においては、上記樹脂導入口に近い位置にあるガス通過口の方が、上記樹脂導入口から遠い位置にあるガス通過口よりも先に上記押圧用ガスの導入を開始することを特徴とする射出成形方法。
【請求項6】
請求項5において、上記押圧工程においては、上記キャビティ内において上記樹脂原料が先に充満される部位に設けた上記ガス通過口から先に上記押圧用ガスの導入を開始することを特徴とする射出成形方法。
【請求項7】
樹脂原料を充填して樹脂成形品を得るためのキャビティと、該キャビティ内に上記樹脂原料を導入するための樹脂導入口と、上記キャビティにおいて上記樹脂成形品の裏側面を成形する裏側成形面に開口するガス通過口とを形成してなる成形型を備えた射出成形装置において、
上記ガス通過口は、上記キャビティ内の残存ガスの吸引を行う減圧手段と、上記キャビティ内に押圧用ガスを導入する増圧手段とに切り換えて接続するよう構成してあり、
上記減圧手段に上記ガス通過口を接続したときには、該ガス通過口から上記キャビティ内の残存ガスの吸引を行って、該キャビティ内を減圧し、上記増圧手段に上記ガス通過口を接続したときには、該ガス通過口から上記裏側成形面と上記キャビティ内における上記樹脂原料との間に押圧用ガスを導入するよう構成してあることを特徴とする射出成形装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate


【公開番号】特開2007−268822(P2007−268822A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−96230(P2006−96230)
【出願日】平成18年3月31日(2006.3.31)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】