説明

射出成形方法

【課題】板状部の裏面に突起部を有する射出成形品の成形に際し、板状部のヒケを防止できる射出成形方法の提供を目的とする。
【解決手段】板状部の裏面に突起部を有する射出成形品を射出成形する際に、射出成形金型20内の突起部成形用キャビティ25に溶融樹脂を射出して射出成形品の突起部13を成形した後、射出成形金型20を板状部の厚みに応じた分だけ開くことにより、射出成形金型20内に突起部13の一方の端面13aと接する板状部成形用キャビティ27を形成し、板状部成形用キャビティ27に溶融樹脂を射出して突起部13の高さよりも厚みが小で、且つ突起部13の一方の端面13aを覆う板状部を成形する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、射出成形方法に関し、特には板状部の裏面に突起部を有する射出成形品の射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、板状部の裏面にリブを有する成形品の射出成形方法として、まず射出成形金型内に溶融樹脂を射出して板状部を一次成形した後、板状部の底面部の中央に待機していた金型を下降させて、下降した金型と板状部のとの離間部分に溶融樹脂を射出することにより板状部の裏面にリブを一体に成形する方法がある(特許文献1の段落0002参照)。
【0003】
しかし、従来の射出成形方法では、リブの存在する部分と存在しない部分とで樹脂の厚みが異なるため、金型内に射出された溶融樹脂が冷却硬化する際に、厚みの大の部分(リブが存在する部分)と薄い部分(リブが存在しない部分)とで樹脂の収縮率が異なり、板状部の表面にヒケ(窪み等)を生じる問題がある。
【0004】
ヒケを防止する方法として、射出後における金型内の保持圧を高くしたり、リブ厚を薄くしたり、板状部の厚みを厚くしたりする等の方法が提案されている。ところが、これらの方法では、次のような問題がある。すなわち、前記の保持圧を高くする方法では、保持圧を高くしすぎると、金型が開き、バリが発生するようになり、一方、リブ厚を薄くする方法では、リブ厚を薄くしすぎると、リブによる補強効果が得られなくなり、また板状部の厚みを厚くする方法では、板状部の厚みを薄くする要求に反することになる。そのため、従来の方法では、板状部の厚みが薄い射出成形品、例えば板状部の厚みが1.0mm以下の射出成形品では、板状部のヒケを防止することが困難であった。
【0005】
また、ヒケを防止する他の方法として、平板状の薄肉部を一次成形した後、金型を薄肉部から離間させて厚肉部に対応する形状の第2キャビティを画成し、前記第2キャビティに溶融樹脂を射出し、第2キャビティに射出した溶融樹脂の表面が固化した際に第2キャビティ内にガスを注入することにより中空部を形成し、これによって中空の厚肉部と平板状の薄肉部が一体になった射出成形品を成形する方法が提案されている(特許文献1)。
【0006】
しかしながら、ガスを注入する前記の方法では、製造装置が複雑なために装置の費用及び成形品のコストが嵩む問題がある。また、中空としたことによって、厚肉部分による補強効果が減少する問題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平9−164544号公報
【特許文献2】特開平8−309791号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は前記の点に鑑みなされたものであって、板状部の裏面に突起部を有する射出成形品の成形に際し、板状部のヒケを防止できる射出成形方法の提供を目的とする。なお、本発明において、突起部は、板状部の裏面から突出した部分を意味し、たとえば、複数のボス、格子状に繋がったリブ、ハニカムを挙げることができる。
【課題を解決するための手段】
【0009】
請求項1の発明は、板状部の裏面に突起部を有する射出成形品を射出成形する方法において、
射出成形金型内の突起部成形用キャビティに溶融樹脂を射出して前記突起部を成形した後、
前記射出成形金型を前記板状部の厚みに応じた分だけ開くことにより、前記射出成形金型内に前記突起部の一方の端面と接する板状部成形用キャビティを形成し、
前記板状部成形用キャビティに溶融樹脂を射出して前記突起部の高さよりも厚みが小で、且つ前記突起部の一方の端面を覆う前記板状部を成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
請求項1の発明によれば、突起部成形用キャビティに溶融樹脂を射出して突起部を成形した後、板状部成形用キャビティに溶融樹脂を射出して突起部の一方の端面を覆う板状部を成形するため、板状部成形用キャビティに射出された溶融樹脂は、突起部の一方の端面と接する位置と他の位置とで、保有熱量に突起部の影響が無いことから、収縮率に差が無くなり、板状部の表面にヒケが発生するのを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の射出成形方法により得られた射出成形品の一実施例における裏面図である。
【図2】同射出成形品のA−A断面図とB−B断面図である。
【図3】同実施例の射出成形品のA−A位置及びB−B位置と対応する射出成形金型の断面図である。
【図4】同射出成形金型における突起部成形用キャビティに溶融樹脂を射出し硬化させた状態を示す断面図である。
【図5】同射出成形金型における突起部成形後の型開き状態を示す断面図である。
【図6】同射出成形金型における板状部成形用キャビティに溶融樹脂を射出し硬化させた状態を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の射出成形方法について、図面を用いて説明する。図1及び図2に示す射出成形品10は、本発明の射出成形方法によって得られたものであり、自動車の運転席のロアパネルに使用される自動車内装部材である。前記射出成形品10は、板状部11の裏面に突起部13を有する。前記板状部11の厚みtは、前記突起部13の高さhよりも小さく(薄く)されている。本実施例では、前記板状部10の厚みtは0.7mm、前記突起部13の高さhは1.0mmである。前記突起部13は、本実施例では格子状に繋がったリブからなる。
【0013】
図3乃至図6に示す射出成形金型20は、前記射出成形品10の射出成形に用いられるものである。前記射出成形金型20は、コア型21とキャビティ型23とよりなり、開閉可能に構成されている。前記コア型21とキャビティ型23間にキャビティ24が形成される。前記キャビティ24は、前記射出成形品10と対応する形状からなり、図3に示すように、前記コア型21とキャビティ型23を閉じた場合に前記コア型21とキャビティ型23間に形成される突起部成形用キャビティ25と、前記コア型21とキャビティ型23を閉じた状態から図5のように前記射出成形品10の板状部11の厚みに応じた分だけ開いた場合に、前記突起部成形用キャビティ25と前記コア型21間に形成される板状部成形用キャビティ27とよりなる。前記突起部成形用キャビティ25は、前記射出成形品10の突起部13を成形するためのキャビティであり、一方、前記板状部成形用キャビティ27は、前記射出成形品10の板状部11を成形するためのキャビティである。
【0014】
前記コア型21には、前記突起部成形用キャビティ25に溶融樹脂を射出するための突起部用ノズル25aと、前記板状部成形用キャビティ27に溶融樹脂を射出するための板状部用ノズル27aが形成されている。前記突起部用ノズル25aには、図示しない公知の2頭式射出成形機の第1射出ユニットが接続され、一方、前記板状部用ノズル27aには2頭式射出成形機の第2射出ユニットが接続される。
【0015】
まず、図3のように、前記コア型21とキャビティ型23を合わせて射出成形金型20を閉じた状態とし、これにより、前記コア型21とキャビティ型23間に、キャビティ24として突起部成形用キャビティ25のみを形成する。その状態で、前記突起部用ノズル25aと接続されている第1射出ユニット(図示せず)から溶融樹脂を突起部成形用キャビティ25に射出し、所定の冷却時間経過させることにより溶融樹脂を硬化させて図4に示すように突起部成形用キャビティ25に突起部13を成形する。
【0016】
次に、図5に示すように前記コア型21をキャビティ型23に対して、前記射出成形品10の板状部11の厚みに応じた分(本実施例では前記板状部11の厚みと等しい距離)だけ後退させることにより、前記射出成形金型20を前記板状部11の厚みに応じた分だけ開く。これによって、前記射出成形金型20内に前記突起部13の一方の端面13aと接する前記板状部成形用キャビティ27を形成する。その状態で、前記板状部用ノズル27aと接続されている第2射出ユニット(図示せず)から溶融樹脂を前記板状部成形用キャビティ27に射出し、所定の冷却時間経過させることにより溶融樹脂を硬化させて図6に示すように、前記突起部13の高さよりも厚みが小で、且つ前記突起部13の一方の端面13aを覆う板状部11を成形する。その際、前記板状部成形用キャビティ27に射出された溶融樹脂は、前記突起部13の端面13aと接する位置と他の位置とで、保有熱量に関して前記突起部13の存在に起因する違いが無いことから、冷却硬化時の収縮率に差が無くなり、表面にヒケの無い前記板状部11となる。
【0017】
その後、型開きを行って、前記板状部11の裏面に前記突起部13が接合した前記射出成形品10を脱型する。
【0018】
このように本発明の射出成形方法によれば、板状部の表面にヒケの無い射出成形品を得ることができる。通常、射出成形方法では、板状部の厚みが薄いほどヒケが発生し易くなるため、本発明では、板状部の厚みが薄い射出成形品、特には板状部の厚みが0.5〜2.0mmの射出成形品に対してヒケ防止効果が顕著なものとなる。
【0019】
なお、前記実施例では、板状部裏面の突起部として、格子状に繋がったリブの場合を挙げたが、本発明では前記突起部がリブに限定されるものではなく、ハニカム、複数のボスであってもよい。また、本発明の射出成形方法によって成形される射出成形品は、自動車の運転席のロアパネルに限定されるものではなく、他の自動車内装部材であってもよい。さらに、自動車内装部材に限られるものではなく、家具の構成部材や電気製品のケース等であってもよい。
【符号の説明】
【0020】
10 射出成形品
11 板状部
13 突起部
13a 突起部の一方の端面
20 射出成形金型
21 コア型
23 キャビティ型
25 突起部成形用キャビティ
27 板状部成形用キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
板状部の裏面に突起部を有する射出成形品を射出成形する方法において、
射出成形金型内の突起部成形用キャビティに溶融樹脂を射出して前記突起部を成形した後、
前記射出成形金型を前記板状部の厚みに応じた分だけ開くことにより、前記射出成形金型内に前記突起部の一方の端面と接する板状部成形用キャビティを形成し、
前記板状部成形用キャビティに溶融樹脂を射出して前記突起部の高さよりも厚みが小で、且つ前記突起部の一方の端面を覆う前記板状部を成形することを特徴とする射出成形方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−214830(P2010−214830A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−65496(P2009−65496)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000119232)株式会社イノアックコーポレーション (1,145)
【Fターム(参考)】