説明

射出成形金型及び射出成形方法

【課題】異なる材料からなる第1部分及び第2部分を一体に有する樹脂成形品において、第1部分と第2部分との見切り線を明りょうにする。
【解決手段】第1部分(上面部2)を成形する第1成形面31のうち、第1部分と第2部分(正面部3)との境界部を成形する面に沿って、粗面31aを設ける。この粗面31aは、粗面31aから前記境界部と離反した領域に設けられた平滑面31bよりも、表面粗さが大きくなるように設定される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、異なる材料からなる複数の部分を一体に有する樹脂成形品の射出成形金型、及びこの金型による射出成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、図1に示すような車のインストルメントパネル1(以下、インパネ1と言う。)は、デザイン上の観点から、上面部2と正面部3を異なる色の材料で形成することがある。また、直射日光が当たりやすい上面部2は耐熱性に優れた材料で形成し、直射日光が当たりにくい正面部3を比較的低価格な材料で形成することにより、材料コストの低減を図ることがある。このようなインパネ1は、例えば上面部2と正面部3をそれぞれ別個に形成したり、あるいは成形後に一部を塗装することにより形成されていた。これらの場合、別個に形成した部品を接合する工程や、塗装工程を要するため、製造コストの高騰を招くこととなる。
【0003】
この点に鑑み、例えば特許文献1の図10には、異なる材料からなる第1部分(オーバフェンダ)及び第2部分(プロテクタ)を一体に成形する方法が示されている。この方法は、キャビティに材料を射出して第1部分を成形し、第1部分が固化した後、第2部分の射出材料を第1部分に接触させることにより、第1部分と第2部分とを一体に成形するものである。
【0004】
しかし、この方法では、先に形成された第1部分が成形収縮することにより、第1部分と金型との間に隙間が形成される場合がある。このような隙間に第2部分の射出材料が侵入すると、完成品における第1部分と第2部分との境界線(見切り線)が不明りょうとなり、見栄えが悪くなる。
【0005】
そこで、特許文献1には、金型に設けた押し出しピンを第1部分に食い込ませることにより、第1部分の成形収縮を抑える方法が示されている。
【0006】
【特許文献1】特開平7−124990号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記のように、押し出しピンを第1部分に食い込ませると、金型と成形品との間にアンダーカットが生じ、離型が困難となる恐れがある。また、このように押し出しピンを第1部分に食い込ませると、第1部分の肉厚が部分的に薄くなり、あるいは厚くなるため、厚さ方向の成形収縮量が場所によって異なり、製品の表面に凹凸が生じる恐れがある。特に、車のインパネのような肉厚の薄い製品の場合には、このような凹凸が生じる恐れが高く、製品の強度低下を招いたり、見栄えが悪くなる恐れがある。
【0008】
また、上記特許文献1の方法では、押し出しピンを配置した箇所の周辺の成形収縮はある程度抑えられるが、隣り合う押し出しピンの間の領域における成形収縮を抑えることは難しく、見切り線に不明りょうな部分が生じる恐れが高い。特に、車のインパネのように、第1部分と第2部分との境界線が比較的長い製品の場合は、上記の方法で境界線の全長に亘って見切り線を明りょうにすることは極めて困難となる。
【0009】
本発明の課題は、異なる材料からなる第1部分及び第2部分を一体に有する樹脂成形品において、第1部分と第2部分との見切り線を明りょうにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するために、本発明は、異なる材料からなる第1部分及び第2部分を有する樹脂成形品を射出成形するための金型であって、第1部分を成形するための第1成形面と、第2部分を成形するための第2成形面とを有し、固化した第1部分に第2部分の射出材料を接触させることにより、第1部分と第2部分とを一体に成形する射出成形金型において、第1成形面のうち、第1部分と第2部分との境界部を成形する面に沿った領域に、該領域よりも前記境界部から離反した領域より表面粗さの大きい粗面を設けたことを特徴とする。
【0011】
尚、「異なる材料」とは、異なる性質を有する材料のことを言い、例えば、材料の色や材料の種類(ベース樹脂や充填材の種類あるいは配合割合)が異なるものを言う。「境界部を成形する面に沿った」とは、境界部を成形する面と接している状態に限らず、境界部から離隔していてもよい。「表面粗さ」とは、JIS B 0601:2001に規定される平均高さ粗さRcのことを言う。
【0012】
このように、第1成形面に、他の領域よりも表面粗さの大きい粗面を設けると、成形面と直交する方向における成形品と金型との固着力が場所によって異なることとなる。すなわち、粗面では、表面に形成された微小な凹部に射出材料が入り込むため、成形面と直交する方向における成形品と金型との固着力は比較的強くなる。一方、表面粗さの比較的小さい領域(以下、平滑面と言う。)では、成形面と直交する方向における成形品と金型との固着力は相対的に弱くなる。従って、成形品の第1部分に成形収縮が生じると、第1部分のうち、前記粗面と接触した部分が金型と固着した状態で、前記平滑面と接触した部分が金型から剥離し、全体として平滑面から粗面へ向けて成形収縮する。よって、この粗面を、第1成形面のうち、第1部分と第2部分との境界部を成形する面に沿って設ければ、境界部へ向けて第1部分を成形収縮させることができる。これにより、境界線付近において第1部分と金型とを固着させておくことができるため、境界線付近で第1部分と金型との間に隙間が形成される事態を防止できる。
【0013】
例えば、上記のような金型では、キャビティ内に進退可能な仕切り部を設け、仕切り部を進出させて第1部分を成形するための第1キャビティを形成し、仕切り部を後退させて第2部分を成形するための第2キャビティを形成することができる。この仕切り部の進出方向先行側の端面(以下、先端面と言う。)で第1部分を成形する場合、第1部分が固化した後、仕切り部を後退させて先端面を第1部分から剥離する必要がある。このとき、仕切り部の進退方向における仕切り部の先端面と第1部分との強固力が強いと、仕切り部の後退に伴って第1部分が引っ張られ、第1部分と金型との間に隙間が形成される恐れがある。そこで、仕切り部の先端面に前記粗面を設けると、仕切り部の進退方向における仕切り部と第1部分との離型性を高めることができるため、上記の不具合を回避できる。
【発明の効果】
【0014】
以上のように、本発明によれば、第1部分と金型との間に隙間が形成されることを防止できるため、第1部分と金型との間に第2部分の射出材料が入り込むことがなく、第1部分と第2部分との見切り線を明りょうにすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1は、本発明に係る成形金型で形成可能な樹脂成形品の一例としてのインパネ1である。インパネ1は、第1部分としての上面部2と、第2部分としての正面部3とを有し、上面部2と正面部3とは異なる材料(例えば、色が異なる材料)で形成される。上面部2と正面部3との見切り線10は、インパネ1の幅方向全長に亘って直線状に設けられている。尚、以下の説明において、インパネ1の見切り線10が延びる方向を幅方向と言う。
【0017】
図2に示すインパネ1の成形金型は、固定型20と、可動型30と、仕切り部40とを備え、固定型20と可動型30とを型締めすることにより、キャビティ50が形成される。仕切り部40は、仕切り部材41とシリンダ42とを有し、シリンダ42の伸縮により仕切り部材41をキャビティ50内に進退させることができる。仕切り部材41は、幅方向(紙面と直行する方向)に延びた形状を成し、可動型30の幅方向全長に亘って形成された溝33内に配される。シリンダ42を伸長し、仕切り部材41をキャビティ50に進出させ、仕切り部材41の先端面の一部を固定型20に当接させると、キャビティ50が分断され、上面部2を成形する第1キャビティ51が形成される(図2参照)。この第1キャビティ51に面する固定型20、可動型30、及び仕切り部材41の成形面を、それぞれ第1成形面21、31、411と称す。具体的には、固定型20の第1成形面21で上面部2の表側の面(図1で見えている側の面)を成形し、可動型30及び仕切り部材41の第1成形面31、411で、上面部2の裏側の面(図1で見えていない側の面)を成形する。このうち、仕切り部材41の第1成形面411は、上面部2と正面部3との境界部を成形する面となる。
【0018】
シリンダ42を退入し、仕切り部材41をキャビティ50から後退させると、正面部3を成形する第2キャビティ52が形成される(図3参照)。この第2キャビティ52に面する固定型20、可動型30、及び仕切り部材41の成形面を、それぞれ第2成形面22、32、412と称す。具体的には、固定型20の第2成形面22で正面部3の表側の面を成形し、可動型30及び仕切り部材41の第2成形面32、412で、正面部3の裏側の面を成形する。仕切り部材41の先端面は、図2に示す第1キャビティ51形成時には第1成形面411として機能し、図3に示す第2キャビティ52形成時には第2成形面412として機能する。
【0019】
金型の第1成形面のうち、上面部2と正面部3との境界部を成形する面に沿った領域には、粗面が設けられる。本実施形態では、図2及び図3に示すように、可動型30の第1成形面31に、仕切り部材41の第1成形面411に沿った粗面31aが形成される。詳しくは、図4に示すように、可動型30の第1成形面31のうち、仕切り部材41側の端縁Pに沿った領域に、幅方向全長に亘って粗面31aが形成される。この粗面31aは、例えば腐食加工で金型表面を粗面化することにより形成され、第1成形面31のうち、粗面31aよりも前記端縁Pから離隔した平滑面31bよりも、表面粗さが大きくなるように形成される。尚、図2及び図3では、理解の容易化のために粗面31aの凹凸を誇張して示している。また、図4では粗面31aを端縁Pから僅かに離隔して設けているが、これに限らず、粗面31aを端縁Pに接触させて設けても良い。
【0020】
上記の金型を用いた射出成形方法を以下に示す。まず、図2に示すように仕切り部材41をキャビティ50内に進出させ、第1キャビティ51を形成する。この状態で、固定型20に設けた第1ゲート23から、上面部2の材料を射出する。上面部2が固化したら、図3に示すように仕切り部材41を後退させ、第2キャビティ52を形成する。この状態で、固定型20に設けた第2ゲート24から、正面部3の材料を射出し、この射出材料を固化した上面部2に接触させることにより、上面部2及び正面部3が一体に成形される。正面部3が固化した後、成形品を金型から取り出し、インパネ1が完成する。
【0021】
上記の工程で、第1キャビティ51に射出された上面部2の材料が固化する際、上面部2に成形収縮が生じる。特に、本実施形態のように成形品が薄肉である場合、成形収縮は主に成形面と直交する方向(成形品の厚さ方向と直交する方向)で生じる。第1キャビティ51に上面部2の材料を射出すると、可動型30の粗面31aの微小な凹部に上面部2の射出材料が入り込む。この微小凹部に入り込んだ上面部2の材料が、第1成形面31と直交する方向、すなわち主に成形収縮が生じる方向でアンカー効果を発揮し、成形収縮による上面部2の移動を規制することができる。これに対し、平滑面31bでは、上記のようなアンカー効果は発揮されず、成形面31と直交する方向における上面部2と金型との固着力は比較的弱くなる。従って、上面部2の成形収縮は、平滑面31bから粗面31aに向けて生じ、上面部2の材料が正面部3との境界部側へ向けて流動する。これにより、上面部2と正面部3との境界部付近において、上面部2と金型(第1成形面)との間に隙間が形成される事態を防止できるため、上面部2と金型との間に正面部3の射出材料が入り込むことはなく、上面部2と正面部3の見切りを明りょうにし、製品の見栄えをよくすることができる。
【0022】
このような効果を得るために、すなわち、成形面と直行する方向における金型と上面部2との十分な固着力を得るために、粗面31aの表面粗さは、例えば50μm〜150μmの範囲内、好ましくは80μm〜120μmの範囲内、さらに好ましくは90μm〜110μmの範囲内に設定することが望ましい。また、粗面31aの表面粗さが同じであっても、粗面31aの面積を拡大すれば、前記固着力を大きくすることができる。ところで、粗面31aの表面粗さが肉厚に対して大き過ぎると、粗面31aの凹凸により上面部2の厚さ方向の成形収縮量にバラつきが生じ、上面部2の表側の面に凹凸が生じる恐れがある。従って、粗面31aの表面粗さは、成形面と直交する方向における上面部2の成形収縮を抑えることができる範囲内で、なるべく小さく設定することが望ましい。例えば、インパネ1の表側の面が平滑面である場合は、粗面31aの表面粗さを肉厚の10%以下に抑えることが好ましく、表側の面に微小な凹凸(いわゆる「シボ」)が形成される場合は、粗面31aの表面粗さを肉厚の30%以下に抑えることが好ましい。
【0023】
こうして形成されたインパネ1には、可動型30の第1成形面31の粗面31a及び平滑面31bの形状が転写される。具体的には、上面部2の裏側の面うち、正面部3との境界部(見切り線10)に沿った領域に、該領域よりも見切り線10から離反した領域より表面粗さの大きい粗面部が形成される(図示省略)。このように、インパネ1の裏側の面に粗面部を設けることにより、意匠面となる表側の面のデザイン設計の幅を広げることができる。
【0024】
本発明は、上記の実施形態に限られない。以下、本発明の他の実施形態を説明する。以下の説明において、上記の実施形態と同一の構成、機能を有する箇所には、同一の符号を付して説明を省略する。
【0025】
上記の実施形態では、可動型30の第1成形面31にのみ粗面31aを形成した場合を示しているが、これに限られない。例えば図5及び図6に示すように、可動型30の第1成形面31に加えて、仕切り部材41の先端面にも粗面41aを設けてもよい。このように、上面部2と正面部3との境界部を成形する仕切り部材41の先端面に粗面41aを設けることにより、境界部において、成形面と直交する方向での上面部2と金型との固着力を高めることができるため、上面部2の成形収縮により金型と上面部2との間に隙間が生じる事態をより確実に防止することができる。
【0026】
ところで、図5に示すように仕切り部材41の第1成形面411で上面部2を成形した後、図6に示すように仕切り部材41をキャビティ50から後退させる際、仕切り部材41の先端面と上面部2とが固着し、仕切り部材41の後退に伴って上面部2が引っ張られ、上面部2と固定型20との間に隙間が形成される恐れがある。本実施形態のように、仕切り部材41の先端面に粗面41aを形成することにより、仕切り部材41進退方向における仕切り部材41と上面部2との離型性を高めることができるため、上記のような不具合を回避することができる。また、上記のように仕切り部材41の粗面41aで上面部2を成形することで、上面部2のうち、正面部3との境界部に粗面部が形成される(図6参照)。この粗面部の微小凹部に正面部3の材料が入り込むことにより、上面部2と正面部3との結合力を高めることができる。
【0027】
また、上記の実施形態では、上面部2が固化した後に正面部3を射出しているが、これに限らず、上面部2の固化後に正面部3の射出材料が接触する限り、上面部2及び正面部3の材料を同時に射出してもよい。例えば、第1ゲート23及び第2ゲート24の位置や、射出材料の融点及び固化速度等を適宜設定することにより、固化した上面部2と正面部3の射出材料とが接触するタイミングを調整することができる。
【0028】
また、上記の実施形態では、樹脂成形品が第1部分(上面部2)及び第2部分(正面部3)からなる場合を示しているが、これに限らず、例えば、3以上の複数の部分を有する成形品であってもよい(図示省略)。
【0029】
また、上記の実施形態では、本発明を車のインパネの射出成形に適用した場合を示しているが、これに限らず、他の射出成形品にも適用することができる。特に、本発明は、第1部分と第2部分との見切り線が長く、且つ、肉厚が薄い射出成形品に好適に適用することができ、上記実施形態のようにインパネの射出成形に適用する他、例えば車のバンパーの射出成形に適用することもできる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】車のインパネを示す斜視図である。
【図2】本発明の実施形態に係る射出成形金型を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る射出成形金型を示す断面図である。
【図4】可動型の第1成形面を示す斜視図である。
【図5】他の実施形態に係る射出成形金型の断面図である。
【図6】他の実施形態に係る射出成形金型の断面図である。
【符号の説明】
【0031】
1 インストルメントパネル
2 上面部
3 正面部
10 見切り線
20 固定型
21 第1成形面
22 第2成形面
23 第1ゲート
24 第2ゲート
30 可動型
31 第1成形面
31a 粗面
31b 平滑面
32 第2成形面
40 仕切り部
41 仕切り部材
411 第1成形面
412 第2成形面
42 シリンダ
50 キャビティ
51 第1キャビティ
52 第2キャビティ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
異なる材料からなる第1部分及び第2部分を有する樹脂成形品を射出成形するための金型であって、第1部分を成形するための第1成形面と、第2部分を成形するための第2成形面とを有し、固化した第1部分に第2部分の射出材料を接触させることにより、第1部分と第2部分とを一体に成形する射出成形金型において、
第1成形面のうち、第1部分と第2部分との境界部を成形する面に沿った領域に、該領域よりも前記境界部から離反した領域より表面粗さの大きい粗面を設けたことを特徴とする射出成形金型。
【請求項2】
キャビティ内に進退可能な仕切り部を設け、仕切り部を進出させて第1部分を成形するための第1キャビティを形成すると共に、仕切り部を後退させて第2部分を成形するための第2キャビティを形成し、この仕切り部の進出方向先行側の端面に前記粗面を設けた請求項1記載の射出成形金型。
【請求項3】
異なる材料からなる第1部分と第2部分とを有する樹脂成形品を射出成形するに際し、第1部分の材料が固化した後、第2部分の射出材料を第1部分に接触させることにより、第1部分と第2部分とを一体に成形する射出成形方法であって、
第1成形面のうち、第1部分と第2部分との境界部を成形する面に沿った領域に、該領域よりも前記境界部から離反した領域より表面粗さの大きい粗面を設けたことを特徴とする射出成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−241463(P2009−241463A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−91790(P2008−91790)
【出願日】平成20年3月31日(2008.3.31)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】