説明

導体層の形成方法および回路基板の製造方法

【課題】無電解めっき工程を必要とせずに、絶縁基材との密着強度に優れ、かつ欠陥が少ない導体層を絶縁基材上に形成する。
【解決手段】導体層の形成方法は、ポリイミド前駆体樹脂を含有する塗布液を絶縁基材表面に塗布し、乾燥して塗布膜を形成する塗布膜形成工程(S1)と、前記塗布膜を金属化合物を含有する溶液に浸漬して、該溶液中の金属イオンを前記塗布膜の表層に含浸させる浸漬工程(S2)と、前記浸漬工程によって前記塗布膜の表層に含浸させられた金属イオンを還元処理して金属被膜を形成する金属被膜形成工程(S3)と、熱処理を行って前記塗布膜中の前記ポリイミド前駆体樹脂をイミド化してポリイミド樹脂層を形成するイミド化工程(S5)と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子部品に用いられる絶縁基材に配線等となる導体層を形成する導体層の形成方法およびこの導体層の形成方法を利用した回路基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子部品の小型化や信号伝達速度の高速化に伴い、フレキシブルプリント基板などの回路基板において高密度配線が必要になっている。高密度配線を実現するには、パターン形成された導体層を微細加工することが不可欠である。しかし、導体層を微細加工していくと、基材との密着性が低下してしまう、という欠点がある。従って、電子部品の信頼性と歩留まりの向上を図るためには、微細加工に耐え得るように導体層と基材との密着性を高めることが重要になってきている。
【0003】
回路基板に微細なパターンで基材との密着性に優れた導体層を形成する方法として、特許文献1には、有機溶剤を含む熱硬化性樹脂組成物中に微細な平均粒子径の金属超微粒子を均一に分散してなる導電性金属ペーストを利用する方法が記載されている。この特許文献1の方法では、インクジェット方式の印刷技術を利用して導電性金属ペーストを基板に塗布した後、150℃〜210℃の温度に塗布膜を加熱する。この加熱は、金属微粒子を焼結させて塗布膜の導通を図るとともに熱硬化性樹脂を硬化させる目的で行なわれる。しかし、特許文献1の方法では、金属微粒子の焼結がうまくいかないと、パターン化導体層の導通が図れなくなり、電子部品の信頼性を低下させてしまう可能性があった。
【0004】
また、金属微粒子を使用しないパターン化導体層の形成方法として、特許文献2には、パラジウムイオン含有化合物とポリイミド前駆体樹脂とを含有するポリイミド前駆体樹脂溶液を用いる方法が記載されている。この特許文献2の方法では、前記ポリイミド前駆体樹脂溶液をバーコーターなどによりポリイミド基材に塗布した後、塗布膜を乾燥させてポリイミド前駆体金属錯体層を形成する。次いで、このポリイミド前駆体金属錯体層に、水素供与体の存在下において紫外線を照射し、めっき下地核を形成した後、無電解めっき処理によりめっき下地金属層を形成する。さらに、めっき下地金属層の上に、電気めっきによって電気めっき層を形成した後または形成する前にポリイミド前駆体樹脂を加熱イミド化してポリイミド樹脂層を形成する。この特許文献2に記載された技術は、金属微粒子を含有する導電性金属ペーストを使用しないため、金属微粒子の焼結状態に左右されずに導体層を形成できるという利点がある。しかし、この特許文献2の方法では、金属イオンを還元するために紫外線照射還元を採用しており、還元効率が不十分であるという問題があった。
【0005】
また、樹脂表面に金属層を形成する方法として、樹脂製基材に陽イオン交換基を導入した後、これを金属イオン含有液で処理して陽イオン交換基に金属イオンを化学的に吸着させ、その後還元処理を行なう方法も知られている。陽イオン交換基に吸着させた金属イオンを還元剤溶液によって湿式還元した場合、樹脂表面に対して金属がアイランド状に析出するため、欠陥がない金属被膜を形成することは困難であるという問題があった。この問題を改善するため、例えば特許文献3には、陽イオン交換基に金属イオンを吸着させたポリイミド樹脂の還元処理をpH1〜6に調製した還元剤溶液中で行ない、さらに無電解めっきを行なう技術が記載されている。しかし、特許文献3の方法では、無電解めっき工程に加え、ポリイミド樹脂に陽イオン交換基を導入しておく工程が必要であり、工程数が増加してしまうという欠点があった。
【0006】
【特許文献1】特開2002−324966号公報
【特許文献2】特開2005−154880号公報
【特許文献3】特開2002−266075号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献2および特許文献3の方法は、基材表面に欠陥のない金属被膜を形成するために、無電解めっき工程を必須とする方法である。しかし、無電解めっきは、めっき液の管理や廃液の処理が煩雑であるという問題がある。このため、無電解めっきを使用せずに基材表面への密着性に優れた導体層を形成できる代替技術の開発が強く求められていた。
【0008】
本発明は上記問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、無電解めっき工程を必要とせずに、絶縁基材との密着強度に優れ、かつ欠陥が少ない導体層を絶縁基材上に形成することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の導体層の形成方法は、
絶縁基材上に導体層を形成する導体層の形成方法であって、
ポリイミド前駆体樹脂を含有する塗布液を、前記絶縁基材の表面に塗布し、乾燥して塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、
前記塗布膜を、金属化合物を含有する溶液に浸漬して該溶液中の金属イオンを前記塗布膜の表層に含浸させる浸漬工程と、
前記浸漬工程によって前記塗布膜の表層に含浸させられた金属イオンを還元処理して前記導体層としての金属被膜を形成する金属被膜形成工程と、
熱処理を行って前記塗布膜中の前記ポリイミド前駆体樹脂をイミド化してポリイミド樹脂層を形成するイミド化工程と、
を備えている。
【0010】
本発明の導体層の形成方法において、前記塗布膜形成工程では、前記絶縁基材表面に所定のパターンで細線状に前記塗布液を塗布してもよい。この場合、ディスペンサーを用いて前記塗布液を塗布してもよいし、あるいは、微小液滴を吐出する液滴吐出ヘッドを有する液滴吐出装置を用いて前記塗布液を塗布してもよい。
【0011】
また、本発明の導体層の形成方法においては、前記塗布膜形成工程の前に、さらに前記絶縁基材の表面をシランカップリング剤で処理する表面処理工程をさらに備えてもよいし、あるいは、前記塗布膜形成工程の前に、さらに前記絶縁基材の表面をプラズマで処理する表面処理工程をさらに備えてもよい。
【0012】
本発明の回路基板の製造方法は、
絶縁基材と、該絶縁基材に形成された導体層とを備えた回路基板の製造方法であって、前記導体層を、上記導体層の形成方法により形成するものである。
【0013】
なお、本発明において、絶縁基材に形成された「導体層」とは、金属イオンの還元により形成された金属被膜を含む意味と、前記金属被膜およびその上層に形成された電気めっき層を含む意味と、の両方の意味で用いる。なお、導体層は、金属被膜や電気めっき層以外の任意の層を有していてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明の導体層の形成方法では、ポリイミド前駆体樹脂を含有する塗布液を絶縁基材表面に塗布し乾燥して塗布膜を形成した後、金属イオンを塗布膜の表層に含浸させ、これを還元処理して金属被膜を形成する。イミド化前のポリイミド前駆体樹脂は、金属イオンを含浸させやすいことから、上記特許文献3のように樹脂表面に陽イオン交換基を導入しなくても十分な量の金属イオンを含浸させることができる。そして、ポリイミド前駆体樹脂に十分な量の金属イオンを含浸させた状態で還元処理を行うことにより、容易にポリイミド樹脂との密着性に優れ、かつ緻密な金属被膜を形成できる。従って、本発明によれば、無電解めっき工程や陽イオン交換基導入工程を必要とせずに、少ない工程数で欠陥がほとんどない導体層を形成できる、という効果を奏する。
【0015】
また、本発明の導体層の形成方法を利用した回路基板の製造方法によれば、絶縁基材と導体層との密着性に優れ、信頼性の高い電子部品を高歩留まりで製造できるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の実施の形態に係る導体層の形成方法が適用される回路基板の概略構成を示す斜視図である。図2は、図1の回路基板の要部断面を拡大して示す説明図である。
【0017】
まず、図1および図2を参照しながら本発明の実施の形態が適用される回路基板1について説明する。回路基板1は、絶縁基材3と該絶縁基材3上で配線となるパターン化導体層5とを備えている。絶縁基材3としては、例えば、ガラス基板、シリコン基板、セラミックス基板などの無機基板や、ポリイミド樹脂、ポリエチレンテレフタレート(PET)などの合成樹脂基板を用いることができる。
【0018】
パターン化導体層5は、図2に示すように、絶縁基材3にポリイミド樹脂層7を介して形成された金属被膜9と、この金属被膜9を覆うように形成された電気めっき層11とを有している。これらポリイミド樹脂層7、金属被膜9および電気めっき層11は所定の形状にパターン形成されている。なお、本実施の形態では、金属被膜9のみ、または金属被膜9および電気めっき層11を、それぞれ「パターン化導体層5」とする。なお、パターン化導体層5は、上記各層以外に任意の層を有していてもよい。
【0019】
ポリイミド樹脂層7は、ポリイミド前駆体樹脂であるポリアミック酸を加熱して脱水・環化反応させてイミド化したポリイミド樹脂を主体とするものである。ポリイミド樹脂は、他の合成樹脂例えばエポキシ樹脂、フェノール樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化性樹脂に比べて、耐熱性および寸法安定性に優れた性質を有しているため好ましく用いられる。本実施の形態におけるポリイミド樹脂層7は、絶縁基材3上にポリイミド前駆体樹脂を含む塗布液をパターン塗布した後に、ポリイミド前駆体樹脂をイミド化して形成されたものである。このため、ポリイミド樹脂層7は、絶縁基材3に対して高い密着性を有している。このようなポリイミド樹脂層7は、絶縁基材3と金属被膜9との間に介在してバインダーの役割を果たしている。
【0020】
金属被膜9は、ポリイミド前駆体樹脂に含浸させられた金属イオンを還元することによってポリイミド前駆体樹脂(ポリイミド樹脂層7)の表面に析出した金属からなる被膜である。この金属被膜9における金属の種類は問わないが、電気めっき層11を構成する金属とは異なる金属種を用いることが、電気めっき層11との間で高い密着性が得られるので好ましい。金属被膜9を構成する金属としては、例えばCu、Ni、Pd、Ag、Au、Pt、Sn、Fe、Co、Cr、Rh、Ruなどが好ましく、これらの中でもNi、Cu、Cr、Pdなどが特に好ましい。
【0021】
電気めっき層11は、例えばCu、Au、Ni、Co、Sn、Pd、Sn-Cuなどを主体とする金属被膜である。これらの金属の中でも、特にCu、Auなどを好ましく用いることができる。
【0022】
回路基板1において、金属被膜9は、金属イオンを塗布膜40に含浸させた後で還元することにより形成されたものである。このため、含浸によるアンカー効果でポリイミド樹脂層7と金属被膜9との密着性に優れている。また、電気めっき層11は、金属層である金属被膜9が間に介在することにより、ポリイミド樹脂層7に強固に固定されている。さらに、ポリイミド樹脂層7は、ポリイミド前駆体樹脂を絶縁基材3に塗布した後でイミド化することにより形成されたものであることから、絶縁基材3に対して高い密着性を有している。以上のことから、本実施の形態に係る導体層の形成方法が適用される回路基板1は、パターンを微細化しても剥離の問題が生じにくく、高い信頼性を有するものである。
【0023】
[第1の実施の形態]
次に、図3ないし図9を参照しながら本発明の第1の実施の形態に係る導体層の形成方法について説明する。本実施の形態において形成される導体層は、パターン化された導体層である。図3は、本実施の形態に係る導体層の形成方法における主要な工程の概要を示すフロー図である。図4ないし図9は、本実施の形態に係る導体層の形成方法の主要な工程を説明するための説明図である。
【0024】
図3に示すように、本実施の形態にかかる導体層の形成方法は、主要な工程としてステップS1〜ステップS5までの工程を備えている。
【0025】
ステップS1では、ポリイミド前駆体樹脂を含有する塗布液20を、図4に示すようにディスペンサー30を用いて絶縁基材3に所定のパターンで塗布し、乾燥させて塗布膜40を形成する(塗布膜形成工程)。なお、図4における符号40aは、乾燥前の塗布膜を意味する。ステップS1の塗布膜形成工程で、絶縁基材3上に形成された塗布膜40の断面形状を図5に示した。
【0026】
本実施の形態では、塗布液20として、イミド化前のポリイミド前駆体樹脂を含有するものを用いる。ポリイミド前駆体樹脂は、金属イオンを容易に含浸させる性質を持つ。塗布液20に用いられるポリイミド前駆体樹脂としては、ポリイミド樹脂と同じモノマー成分から得られたポリアミック酸や、分子中に感光性基、例えばエチレン性不飽和炭化水素基を含有するポリアミック酸が用いられる。このようなポリイミド前駆体樹脂は、公知のジアミン化合物と酸無水物とを溶媒の存在下で反応させることにより製造することができる。
【0027】
ここで、ポリイミド前駆体樹脂の製造に用いられるジアミン化合物としては、例えば、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、2'−メトキシ−4,4'−ジアミノベンズアニリド、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、2,2'−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジヒドロキシ−4,4'−ジアミノビフェニル、4,4'−ジアミノベンズアニリド等が挙げられる。
【0028】
また、上記以外のジアミン化合物として、例えば、2,2−ビス−[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]スルホン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)ビフェニル、ビス[1−(4−アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[1−(3−アミノフェノキシ)]ビフェニル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]メタン、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]エーテル、ビス[4−(4−アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4−(3−アミノフェノキシ)]ベンゾフェノン、ビス[4,4'−(4−アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、ビス[4,4'−(3−アミノフェノキシ)]ベンズアニリド、9,9−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、9,9−ビス[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]フルオレン、2,2−ビス−[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、2,2−ビス−[4−(3−アミノフェノキシ)フェニル]ヘキサフルオロプロパン、4,4'−メチレンジ−o−トルイジン、4,4'−メチレンジ−2,6−キシリジン、4,4'−メチレン−2,6−ジエチルアニリン、4,4'−ジアミノジフェニルプロパン、3,3'−ジアミノジフェニルプロパン、4,4'−ジアミノジフェニルエタン、3,3'−ジアミノジフェニルエタン、4,4'−ジアミノジフェニルメタン、3,3'−ジアミノジフェニルメタン、4,4'−ジアミノジフェニルスルフィド、3,3'−ジアミノジフェニルスルフィド、4,4'−ジアミノジフェニルスルホン、3,3'−ジアミノジフェニルスルホン、4,4'−ジアミノジフェニルエーテル、3,3−ジアミノジフェニルエーテル、3,4'−ジアミノジフェニルエーテル、ベンジジン、3,3'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジメチル−4,4'−ジアミノビフェニル、3,3'−ジメトキシベンジジン、4,4''−ジアミノ−p−テルフェニル、3,3''−ジアミノ−p−テルフェニル、m−フェニレンジアミン、p−フェニレンジアミン、2,6−ジアミノピリジン、1,4−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3−ビス(4−アミノフェノキシ)ベンゼン、4,4'−[1,4−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリン、4,4'−[1,3−フェニレンビス(1−メチルエチリデン)]ビスアニリン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(p−β−アミノ−t−ブチルフェニル)エーテル、ビス(p−β−メチル−δ−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス(2−メチル−4−アミノペンチル)ベンゼン、p−ビス(1,1−ジメチル−5−アミノペンチル)ベンゼン、1,5−ジアミノナフタレン、2,6−ジアミノナフタレン、2,4−ビス(β−アミノ−t−ブチル)トルエン、2,4−ジアミノトルエン、m−キシレン−2,5−ジアミン、p−キシレン−2,5−ジアミン、m−キシリレンジアミン、p−キシリレンジアミン、2,6−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノピリジン、2,5−ジアミノ−1,3,4−オキサジアゾール、ピペラジン等を使用することもできる。
【0029】
ポリイミド前駆体樹脂の製造に用いられる酸無水物としては、例えば、無水ピロメリット酸、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3',4,4'−ジフェニルスルフォンテトラカルボン酸二無水物、4,4'−オキシジフタル酸無水物が挙げられる。また、上記以外の酸無水物として、例えば、2,2',3,3'−、2,3,3',4'−又は3,3',4,4'−ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2',3,3'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,3',3,4'−ジフェニルエーテルテトラカルボン酸二無水物、ビス(2,3−ジカルボキシフェニル)エーテル二無水物等が好ましく挙げられる。また、3,3'',4,4''−、2,3,3'',4''−又は2,2'',3,3''−p−テルフェニルテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)−プロパン二無水物、ビス(2,3−又は3.4−ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)スルホン二無水物、1,1−ビス(2,3−又は3,4−ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2,7,8−、1,2,6,7−又は1,2,9,10−フェナンスレン−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−アントラセンテトラカルボン酸二無水物、2,2−ビス(3,4−ジカルボキシフェニル)テトラフルオロプロパン二無水物、2,3,5,6−シクロヘキサン二無水物、2,3,6,7−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,2,5,6−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、1,4,5,8−ナフタレンテトラカルボン酸二無水物、4,8−ジメチル−1,2,3,5,6,7−ヘキサヒドロナフタレン−1,2,5,6−テトラカルボン酸二無水物、2,6−又は2,7−ジクロロナフタレン−1,4,5,8−テトラカルボン酸二無水物、2,3,6,7−(又は1,4,5,8−)テトラクロロナフタレン−1,4,5,8−(又は2,3,6,7−)テトラカルボン酸二無水物、2,3,8,9−、3,4,9,10−、4,5,10,11−又は5,6,11,12−ペリレン−テトラカルボン酸二無水物、シクロペンタン−1,2,3,4−テトラカルボン酸二無水物、ピラジン−2,3,5,6−テトラカルボン酸二無水物、ピロリジン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、チオフェン−2,3,4,5−テトラカルボン酸二無水物、4,4−ビス(2,3−ジカルボキシフェノキシ)ジフェニルメタン二無水物等を使用することもできる。
【0030】
上記ジアミン化合物および酸無水物は、それぞれ1種のみを使用してもよく、あるいは2種以上を併用することもできる。また、上記ジアミン化合物および酸無水物に上記以外のジアミン化合物または酸無水物を併用することもできる。この場合、上記以外のジアミン化合物又は酸無水物の使用割合は90モル%以下、好ましくは50モル%以下とすることができる。ポリイミド前駆体樹脂の製造に際し、ジアミン化合物及び酸無水物の種類や、2種以上のジアミン化合物又は酸無水物を使用する場合のそれぞれのモル比を選定することにより、熱膨張性、接着性、ガラス転移点(Tg)等を制御することができる。
【0031】
また、ジアミン化合物と酸無水物との反応は、有機溶媒中で行わせることが好ましい。このような有機溶媒としては特に限定されないが、具体的には、例えばジメチルスルフォキシド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン、ヘキサメチルホスホルムアミド、フェノール、クレゾール、γ−ブチロラクトン等が挙げられ、これらは単独で又は混合して用いることができる。また、このような有機溶媒の使用量としては特に制限されるものではないが、重合反応よって得られるポリイミド前駆体樹脂(ポリアミック酸)溶液の濃度が、5〜30重量%程度の範囲内になるように調整して用いることが好ましい。このように調整した溶液は、そのまま塗布液20として利用することができる。
【0032】
ポリイミド前駆体樹脂は、イミド化後のポリイミド樹脂層7が熱可塑性のポリイミド樹脂を含むように選定することが好ましい。熱可塑性のポリイミド樹脂を用いることで、イミド化後のポリイミド樹脂層7を、絶縁基材3と金属被膜9との密着性を高める接着層として機能させることができる。
【0033】
塗布液20の粘度は、10〜100,000cpsの範囲内の粘度とすることが好ましい。塗布液20の粘度が10cps未満では、ディスペンサー30を用いて塗布する際に、目的とする線幅の制御が困難となるおそれがある。また、塗布液20の粘度が100,000cpsを超えると、ディスペンサー30のノズルに塗布液20が詰まり、絶縁基材3に塗布できないおそれがある。また、塗布膜40の線幅によって、塗布液20の粘度を調整することができる。例えば、塗布膜40の線幅Lを10μm以上100μm以下の範囲内とする場合には、塗布液20の粘度は10〜100cpsの範囲内とすることが好ましい。塗布膜40の線幅Lを100μm超200μm以下の範囲内とする場合には、塗布液20の粘度は100〜500cpsの範囲内とすることが好ましい。塗布膜40の線幅Lを200μm超300μm以下の範囲内とする場合には、塗布液20の粘度は500〜50,000cpsの範囲内とすることが好ましい。塗布膜40の線幅Lを300μm超400μm以下の範囲内とする場合には、塗布液20の粘度は50,000〜70,000cpsの範囲内とすることが好ましい。塗布膜40の線幅Lを400μm超500μm以下の範囲内とする場合には、塗布液20の粘度は70,000〜90,000cpsの範囲内とすることが好ましい。塗布膜40の線幅Lを500μm超600μm以下の範囲内とする場合には、塗布液20の粘度は90,000〜100,000cpsの範囲内とすることが好ましい。
【0034】
塗布液20としてのポリイミド前駆体樹脂溶液の粘度は、ポリイミド前駆体樹脂の分子量や、ポリイミド前駆体樹脂溶液の固形分濃度を制御することによって調整可能である。なお、本実施の形態において、塗布液20は、金属化合物(金属イオン)を含有しないので、塗布液20に粘度調整剤を配合する必要はない。従って、湿式還元工程を採用しても、粘度調整剤の作用によりポリイミド前駆体樹脂が溶出して還元効率を低下させるという問題が生じることはなく、効率的な還元処理が可能になる。
【0035】
また、ポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量は、10,000〜300,000の範囲内が好ましく、15,000〜250,000の範囲内がより好ましく、30,000〜200,000の範囲内がさらに好ましい。ポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量が10,000未満では、後のイミド化により形成されるポリイミド樹脂が脆くなるおそれがある。一方、ポリイミド前駆体樹脂の重量平均分子量が300,000を超えると、塗布液20としてのポリイミド前駆体樹脂溶液の粘度が高くなりすぎて取り扱いが困難となる。また、ポリイミド前駆体樹脂溶液の固形分濃度は、5〜30重量%の範囲内とすることが好ましい。
【0036】
塗布液20には、上記必須成分以外の任意成分として、例えばレベリング剤、消泡剤、密着性付与剤、架橋剤などを配合することができる。
【0037】
塗布液20は、例えばポリイミド前駆体樹脂および上記任意成分を、任意の溶媒例えばピリジン系溶媒、イミダゾール系溶媒などの中で混合することによって調製できる。なお、本実施の形態では、ポリアミック酸を含有するポリアミック酸ワニスを塗布液20(ポリイミド前駆体樹脂溶液)として用いることができる。ポリアミック酸ワニスとしては、例えば新日鐵化学株式会社製の熱可塑性ポリイミドワニスSPI−200N(商品名)、同SPI−300N(商品名)、同SPI−1000G(商品名)、東レ株式会社製のトレニース#3000(商品名)などを挙げることができる。
【0038】
ステップS1の塗布膜形成工程において、塗布液20を吐出するディスペンサー30としては、既知の構成のものを利用できる。市販品では、例えばCASTPRO II(商品名;ソニー株式会社製)を使用することができる。ディスペンサー30を使用することで、例えば凹凸面や曲面などの立体的な面に対しても直接所定のパターンで塗布液20を塗布することが可能である。従って、従来の2次元(平面)の回路形成にとどまらず、3次元(立体)の回路形成も可能となる。
【0039】
塗布膜40を形成する際、パターン状の塗布膜40の線幅Lは10〜400μmの範囲内が好ましく、15〜200μmの範囲内がより好ましい。また、ディスペンサーで形成する塗布膜40の線幅Lは、ポリイミド前駆体樹脂溶液の粘度の調整、ノズル(吐出口)径の制御、吐出圧力の制御、描画速度の制御またはこれらの組み合わせにより、目的の大きさに調節できる。本実施の形態では、前記のように、塗布液20の粘度を10〜100,000cpsの範囲内としたことにより、ディスペンサー30の吐出ノズル30aの目詰まりを防止しながら、所望の線幅で微細なパターンを形成することができる。
【0040】
ステップS1の塗布膜形成工程では、絶縁基材3上に塗布液20を吐出した後、乾燥させて塗布膜40を形成する。乾燥は、絶縁基材3上に吐出された塗布液20を好ましくは50〜150℃の範囲内、より好ましくは80〜140℃の範囲内、更に好ましくは100〜120℃の範囲内の温度で3〜10分間程度の時間加熱することによって行うことができる。この場合、加熱温度が150℃を超えると、ポリイミド前駆体樹脂のイミド化が進行し、引き続き行なわれる浸漬工程(ステップS2)において金属イオンを含浸させることが困難になるので、上記範囲内の温度で乾燥することが好ましい。
【0041】
次に、ステップS2では塗布膜40を有する絶縁基材3を、金属化合物を含有する溶液(以下、「金属化合物溶液」と記す)に浸漬する(浸漬工程)。このステップS2の浸漬工程では、図6に示したように、塗布膜40の表面からある程度の深さの表層部分に金属化合物溶液中の金属イオンを含浸させて含浸層41を形成する。この浸漬工程で使用する金属化合物としては、還元剤の酸化還元電位より高い酸化還元電位を持つ金属種を含む化合物であれば特に制限無く用いることができる。金属化合物としては、例えばCu、Ni、Pd、Ag、Au、Pt、Sn、Fe、Co、Cr、Rh、Ru等の金属種を含むものを挙げることができる。また、金属化合物としては、前記金属の塩や有機カルボニル錯体などを用いることができる。金属の塩としては、例えば塩酸塩、硫酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩、クエン酸塩などを挙げることができる。金属塩は、前記金属がCu、Ni、Pdである場合に好ましく用いられる。金属化合物の好ましい具体例として、Ni(CHCOO)、Cu(CHCOO)、Pd(CHCOO)、NiSO、CuSO、PdSO、NiCO、CuCO、PdCO、NiCl、CuCl、PdCl、NiBr、CuBr、PdBr、Ni(NO)、NiC、Ni(HPO)、Cu(NH)Cl、CuI、Cu(NO)、Pd(NO)、Ni(CHCOCHCOCH)、Cu(CHCOCHCOCH)、Pd(CHCOCHCOCH)などを挙げることができる。
【0042】
また、上記金属と有機カルボニル錯体を形成する有機カルボニル化合物としては、例えばアセチルアセトン、ベンゾイルアセトン、ジベンゾイルメタン等のβ−ジケトン類、アセト酢酸エチル等のβ−ケトカルボン酸エステルなどを挙げることができる。
【0043】
浸漬工程で用いる金属化合物溶液中には、金属化合物を30〜300mMの範囲内で含有することが好ましく、50〜100mMの範囲内で含有することがより好ましい。金属化合物の濃度が30mM未満では、金属イオンを塗布膜40の表層に含浸させるための時間がかかり過ぎるので好ましくなく、300mM超では、ポリイミド前駆体樹脂からなる塗布膜40の表面が腐食(溶解)し、パターン化導体層5を劣化させる原因となる。
【0044】
金属化合物溶液は、金属化合物のほかに、例えば緩衝液などのpH調整を目的とする成分を含有することができる。
【0045】
浸漬工程では、例えば、上記濃度の金属化合物溶液を20〜40℃の範囲内の温度に調整し、そこに塗布膜40が形成された絶縁基材3を浸漬する。浸漬時間は、金属化合物溶液中の金属イオンを塗布膜40の表層部分に含浸させて含浸層41を形成し得る時間であればよく、例えば5分〜5時間が好ましく、5分〜2時間がより好ましい。浸漬時間が5分より短い場合には、塗布膜40への金属イオンの含浸が不十分になって後述するアンカー効果が十分に得られない。一方、浸漬時間が5時間を越えても、金属イオンの塗布膜40への含浸の程度は頭打ちになることから、それ以上の効果の向上を望むことができない。
【0046】
次に、ステップS3では、塗布膜40の含浸層41中の金属イオンを還元処理して金属被膜9を形成する(金属被膜形成工程)。このステップS3の金属被膜形成工程における還元処理の方法は特に限定されず、例えば、湿式還元法、水素還元法、紫外線照射還元法、電子線照射法、加熱還元法、電気的還元法などの方法を採用することができる。湿式還元法は、含浸層41が形成された塗布膜40を、還元剤を含有する溶液(還元剤溶液)中に浸漬して金属イオンを還元する方法である。紫外線照射還元法は、含浸層41が形成された塗布膜40に対して紫外線を照射して金属イオンを還元する方法である。水素還元法は、含浸層41が形成された塗布膜40を水素雰囲気に置き、金属イオンを還元する方法である。これらの還元処理手法の中でも、金属被膜形成工程における金属被膜9の析出のムラが少なく、短時間で均一な金属被膜を形成する効果が大きな湿式還元法を採用することが好ましい。
【0047】
なお、前述の特許文献2(特開2005−154880号公報)のように、パラジウムイオンとポリイミド前駆体樹脂とを含有するポリイミド前駆体樹脂溶液中では、パラジウムイオンとポリイミド前駆体樹脂であるポリアミック酸との分子間で3次元の架橋形成反応が生じる。このため、時間の経過とともにポリイミド前駆体樹脂溶液が増粘、ゲル化し、ポリイミド基材への塗布が困難になってしまう。このような増粘、ゲル化を防ぐため、特許文献2の技術では、低分子有機化合物のアセチルアセトンやアセト酢酸エチルを粘度安定剤としてポリイミド前駆体樹脂溶液中に添加している。しかし、低分子有機化合物は、ポリイミド前駆体樹脂に対して溶解作用を持っていることから、湿式還元工程でポリイミド前駆体樹脂が還元剤溶液中に溶出して還元効率の低下を引き起こすという問題があった。このため、低分子有機化合物を配合したポリイミド前駆体樹脂溶液を用いる特許文献2の方法では、還元効率のよい湿式還元法を採用することが出来ず、紫外線照射法により金属イオンの還元を行っている。これに対して、本実施の形態に係る導体層の形成方法では、塗布液20(ポリイミド前駆体樹脂溶液)中に金属化合物を含まないため、湿式還元を採用することが可能である。
【0048】
最も好ましい還元処理方法である湿式還元法で使用する還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウム、ジメチルアミンボラン等のホウ素化合物が好ましい。これらのホウ素化合物は、例えば次亜燐酸ナトリウム、ホルマリン、ヒドラジン類等の溶液(還元剤溶液)にして用いることができる。還元剤溶液中のホウ素化合物の濃度は、例えば0.005〜0.5mol/Lの範囲内が好ましく、0.01〜0.1mol/Lの範囲内がより好ましい。還元剤溶液中のホウ素化合物の濃度が0.005mol/L未満では、塗布膜40の含浸層41中に含まれる金属イオンの還元が不十分になることがあり、0.1mol/Lを超えるとホウ素化合物の作用で塗布膜40中のポリイミド前駆体樹脂が溶解してしまうことがある。
【0049】
また、湿式還元処理では、塗布膜40が形成された絶縁基材3を、10〜90℃の範囲内、好ましくは50〜70℃の範囲内の温度の還元剤溶液中に、20秒〜30分、好ましくは30秒〜10分、更に好ましくは1分〜5分の時間で浸漬する。
【0050】
以上の金属被膜形成工程により、塗布膜40表面の金属イオンが還元されて金属が析出し、図7に示したように、塗布膜40を覆う金属被膜9が形成される。この金属被膜9は、後で行われる電気めっきの核とすることができる。
【0051】
本実施の形態にかかる導体層の形成方法では、ステップS2の浸漬工程と、ステップS3の金属被膜形成工程を、必要に応じて複数回例えば2〜10回程度、好ましくは2〜5回程度繰り返すことができる。これにより、金属被膜9がより緻密なものとなり、後段の電気めっき工程において十分な導通を確保することができる。
【0052】
次に、ステップS4では、金属被膜9を核として電気めっきを施し、電気めっき層11を形成する(電気めっき工程)。電気めっきにより、図8に示すように、金属被膜9を覆うように電気めっき層11が形成される。なお、このステップS4の電気めっき工程は任意工程である。電気めっきは、例えば硫酸、硫酸銅、塩酸および光沢剤[例えば、市販品として日本マクダーミット製のマキュスペック(商品名)等]を含有する組成のめっき液中で、絶縁基材3の金属被膜9を陰極とし、Cu等の金属を陽極として実施することができる。電気めっきにおける電流密度は、例えば1〜3.5A/dmの範囲内とすることが好ましい。なお、電気めっきの陽極としては、Cu以外に例えばNi、Co等の金属を用いることができる。
【0053】
次に、ステップS5では、塗布膜40と金属被膜9を有する絶縁基材3を熱処理して塗布膜40中のポリイミド前駆体樹脂をイミド化する(イミド化工程)。熱処理により塗布膜40中のポリアミック酸を脱水・環化させてイミド化することによって、図9に示すように絶縁基材3との密着性に優れたポリイミド樹脂層7が形成される。イミド化は、所要の温度まで塗布膜40を加熱できる熱処理装置を用いて、好ましくは窒素などの不活性ガス雰囲気中で行うことができる。熱処理は、例えば150〜400℃の範囲内の温度条件で1〜60分間行うことができる。熱処理温度が150℃未満ではイミド化が十分に進行せず、また熱処理温度が400℃超では、ポリイミド樹脂の熱分解を起こすおそれがある。
【0054】
以上のようにして、絶縁基材3の表面に金属配線となるパターン化導体層5が形成された回路基板1を製造することができる。この回路基板1は、例えば硬質プリント基板、フレキシブルプリント基板、TAB(Tape Automated Bonding)材料やCSP(Chip Size Package)材料、COG(Chip on Glass)材料などの用途に好適に使用できる。
【0055】
本実施の形態では、金属化合物を含有しない塗布液20を用いて塗布膜40を形成する塗布膜形成工程(ステップS1)と、塗布膜40を有する絶縁基材3を金属化合物溶液に浸漬して塗布膜40の表層に含浸層41を形成する浸漬工程(ステップS2)と、含浸層41に含まれる金属イオンを還元処理して金属被膜9を形成する金属被膜形成工程(ステップS3)と、を備えた構成とした。このように金属化合物を含有しない塗布液20を用いることによって、塗布液20の粘度上昇の問題が生じることがないので、塗布液20の取り扱いが容易になる。すなわち、本実施の形態に用いる塗布液20中には、金属化合物を含有しないことから、金属イオンとポリアミック酸との架橋形成に起因する増粘・ゲル化の問題が生じることはない。従って、塗布液20の塗布にディスペンサー30を用いても、ノズルの目詰まりは生じにくく、塗布が容易である。また、塗布液20に粘度調整剤を配合する必要がないことから、金属イオンの還元処理に効率のよい湿式還元法を採用しても、粘度調整剤によるポリイミド前駆体樹脂の溶出の問題が生じる心配はない。さらに、塗布膜40を構成するポリイミド前駆体樹脂は、金属イオンを含浸させやすい性質を持つことから、絶縁基材3に塗布膜40を形成した後に、浸漬処理および還元処理を行なうことで、塗布膜40の表面に容易に緻密な金属被膜9を十分な厚みで形成することが可能であり、無電解めっきや陽イオン交換基の導入を行なわずとも十分に電気的な導通を図ることができる。このように緻密に形成された金属被膜9は、そのまま電気めっきの核(下地)にすることもできる。従って、本実施の形態に係るパターン化導体層の形成方法では、従来技術で必須であった無電解めっき工程が不要になり、めっき液の管理や廃液処理の問題を生じさせることなく、パターン化導体層5を形成できる。
【0056】
また、本実施の形態では、ポリイミド前駆体樹脂を含有する塗布液20を絶縁基材3上に塗布して塗布膜40とした後でイミド化を行なってポリイミド層7を形成するため、絶縁基材3とポリイミド樹脂層7との間に高い密着性が得られる。また、ポリイミド前駆体樹脂からなる塗布膜40に金属イオンを含浸させた後に還元して得られる金属被膜9は、ポリイミド樹脂層7に対してアンカー効果を有するものとなる。このアンカー効果によって、ポリイミド樹脂層7と金属被膜9との密着性が高められる。しかも、本実施の形態で用いるポリイミド樹脂は、他の合成樹脂に比べて分子配向の制御が容易であるため、ポリイミド樹脂層7の熱線膨張係数を低く抑え、配線となる金属被膜9および電気めっき層11を構成する金属の熱線膨張係数に近づけることが可能になる。以上のことから、本実施の形態では、絶縁基材3との密着性に優れたパターン化導体層5を形成できる。
【0057】
また、本実施の形態では、ディスペンサー30を用いて所定のパターンで絶縁基材3に対して直接塗布液20を塗布することにより、パターン化導体層5の形成過程で、フォトリソグラフィー工程やエッチング工程を省略することができる。さらに、塗布液20の塗布にディスペンサー30を用いることにより、例えば絶縁基材3の凹凸面や曲面などの立体的な面に対しても容易にパターン化導体層5を形成することができる。従って、本実施の形態では、少ない工程数で、平板だけでなく立体的な形状の回路基板1についても製造できる。
【0058】
本実施の形態に係る導体層の形成方法を利用した回路基板の製造方法によれば、絶縁基材と導体層との密着性が高く、信頼性に優れた電子部品を高い歩留まりで製造できる。なお、本実施の形態では、導電性金属微粒子を含有する導電性ペーストを用いないため、焼結工程が不要で、パターン化導体層5の導通不良が発生しにくい。
【0059】
[第2の実施の形態]
次に、図10を参照して、本発明の第2の実施の形態について説明する。図10は、本実施の形態に係る導体層の形成方法の手順の概要を示すフロー図である。本実施の形態に係る導体層の形成方法は、図10に示すステップS11〜ステップS16の各工程を備えている。本実施の形態では、第1の実施の形態におけるステップS1の塗布膜形成工程に相当するステップS12の塗布膜形成工程の前に、絶縁基材3の表面改質を行うステップS11の表面処理工程を備えている。なお、本実施の形態におけるステップS12〜ステップS16までの各工程は、第1の実施の形態のステップS1〜ステップS5までの各工程と同様であるため説明を省略する。
【0060】
本実施の形態において、ステップS11の表面処理工程では、絶縁基材3の材質に応じて、表面改質の内容を選択することが好ましい。絶縁基材3がガラス基板、セラミックス基板などの無機材料により構成されている場合には、絶縁基材3の表面をシランカップリング剤により表面処理することが好ましい。この場合、表面処理は例えば絶縁基材3をシランカップリング剤の溶液に浸漬することによって行なうことができる。シランカップリング剤による表面処理によって、無機材料の絶縁基材3の表面が疎水化され、塗布液20を塗布した後の液の流動を抑制し、線幅の広がりを抑制できる。また、シランカップリング剤による表面処理により、塗布膜40と絶縁基材3との密着性についても向上させることができる。従って、塗布膜40により形成されるパターンの精度を維持するとともに、絶縁基材3からパターン化導体層5が剥離する不良の発生を少なくすることができる。絶縁基材3への表面処理は、水との接触角が例えば20〜110°の範囲内となるように行うことが好ましく、より好ましくは30〜100°の範囲内となるように行うことがよい。この場合、水との接触角が20°未満では、塗布液20を塗布した後の液の流動を抑制することが困難となり、また110°超では、塗布膜40と絶縁基材3との密着性が低下する恐れがある。
【0061】
表面処理に用いるシランカップリング剤としては、例えば3−アミノプロピルトリエトキシシラン、3−アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジエトキシシラン、3−(2−アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、3−トリエトキシシリル−N−(1,3−ジメチル−ブチリデン)プロピルアミン、N−フェニル−3−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−(ビニルベンジル)−2−アミノエチル−3−アミノプロピルトリメトキシシランの塩酸塩、3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3−メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、2−(3,4エポキシシクロへキシル)エチルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシトリエトキシシラン、p−スチリルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシランなどを挙げることができる。
【0062】
また、絶縁基材3がポリイミド基板、PET(ポリエチレンテレフタレート)基板などの合成樹脂材料により構成されている場合、絶縁基材3の表面をプラズマにより表面処理することが好ましい。このプラズマによる表面処理によって、絶縁基材3の表面を粗化させるか、又は表面の化学構造を変化させることができる。これによって、絶縁基材3の表面の濡れ性が向上し、塗布液20との親和性が高まり、該表面上に塗布液20を所定形状で安定的に保持できるようになる。従って、塗布膜40により形成されるパターンの精度を維持することができる。
【0063】
プラズマとしては、例えば大気圧方式のプラズマ処理装置を用い、真空処理室内でアルゴン、ヘリウム、窒素又はこれらの混合ガスのプラズマを生成させる。この際の処理圧力は5000〜200000Paの範囲内、処理温度は10〜40℃の範囲内、高周波(あるいはマイクロ波)出力は50〜400Wの範囲内とすることが好ましい。
【0064】
なお、絶縁基材3の材質がポリイミド樹脂の場合、塗布膜40と絶縁基材3との密着性を向上させる手段として、アルカリ処理によって絶縁基材3表面のポリイミド樹脂を加水分解することも有効である。ここで、アルカリとしては、例えばLiOH、KOH、NaOH等のアルカリ金属水酸化物等が挙げられ、好ましくはKOHまたはNaOHから選ばれる1種以上を用いることができる。
【0065】
以上のように、ステップS11の表面処理工程を行うことにより、塗布液20を塗布した後の液の流動を抑制し、線幅の広がりを抑制できる。また、表面処理によって、塗布膜40と絶縁基材3との密着性も向上させることができる。従って、パターン化導体層5のパターン精度を維持するとともに、絶縁基材3とポリイミド樹脂層7との接着力の低下に起因するパターン化導体層5の剥離などの不良の発生を少なくすることができる。本実施の形態におけるその他の作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。
【0066】
[第3の実施の形態]
次に、図11および図12を参照して、本発明の第3の実施の形態について説明する。図11は、本実施の形態に係る導体層の形成方法の手順の概要を示すフロー図である。本実施の形態に係る導体層の形成方法は、図11に示すステップS21〜ステップS25の各工程を備えている。第1の実施の形態におけるステップS1の塗布膜形成工程では、ディスペンサー30を使用して塗布液20を塗布したが、本実施の形態では、ステップS21の塗布膜形成工程において、微小液滴を吐出する液滴吐出装置50を用いる。なお、本実施の形態におけるステップS22〜ステップS25までの各工程は、第1の実施の形態のステップS2〜ステップS5までの各工程と同様であるため説明を省略する。
【0067】
本実施の形態においては、図12(a)に示すように、液滴吐出装置50を使用して絶縁基材3上に塗布液20を所定のパターンで塗布する。液滴吐出装置50は、絶縁基材3に対してXY方向に相対移動可能な液滴吐出ヘッド52を備えている。この液滴吐出ヘッド52は、インクジェットプリンタ技術を利用した吐出機構(図示省略)を備えており、図12(b)に示すように、絶縁基材3に向けて塗布液20を微小液滴として吐出する。すなわち、液滴吐出ヘッド52は、例えば多数の微細なノズル孔52aと、該ノズル孔52aに連通し、ピエゾ素子の収縮・伸長によって内部容積を増減可能に構成された圧力発生室(図示省略)とを備えている。そして、図示しない制御部からの電気的な駆動信号でピエゾ素子を駆動させて圧力発生室の容積を変化させ、その際に生じる内部圧力の上昇を利用して各ノズル孔52aから塗布液20を数ピコリットル〜数マイクロリットル程度の微小な液滴として絶縁基材3へ向けて噴射できるように構成されている。なお、液滴吐出ヘッド52としては、上記ピエゾ方式に替えてサーマル方式のものを使用することも可能である。
【0068】
塗布液20としては、第1の実施の形態における塗布液20とほぼ同様の組成のものを使用できる。ただし、液滴吐出装置50を用いる場合の塗布液20の粘度は、10〜20cpsの範囲内とすることが好ましい。塗布液20の粘度が10cps未満では、目的とする線幅の制御が困難となるおそれがある。また、塗布液20の粘度が20cpsを超えると、ノズル孔52a内で塗布液20が詰まり、塗布不能になるおそれがある。塗布液20としてのポリイミド前駆体樹脂溶液の粘度は、第1の実施の形態と同様に、ポリイミド前駆体樹脂の分子量や、ポリイミド前駆体樹脂溶液の固形分濃度を制御することによって調整可能である。本実施の形態で用いるポリイミド前駆体樹脂の分子量、ポリイミド前駆体樹脂溶液の固形分濃度、調製方法などは、第1の実施の形態と同様である。
【0069】
液滴吐出装置50を用いて塗布膜40を形成する際、パターン状の塗布膜40の線幅Lは10〜400μmの範囲内が好ましく、15〜200μmの範囲内がより好ましい。また、液滴吐出装置50の液滴吐出ヘッド52を利用して形成する塗布膜40の線幅Lは、ポリイミド前駆体樹脂溶液の粘度の調整、ノズル(吐出口)径の制御、吐出圧力の制御、描画速度の制御またはこれらの組み合わせにより、目的の大きさに調節できる。
【0070】
本実施の形態では、前記のように、塗布液20の粘度を10〜20cpsの範囲内としたことにより、液滴吐出装置50の液滴吐出ヘッド52の内部の圧力発生室(図示省略)やノズル孔52aにおける目詰まりを防止しながら、所望の線幅で微細なパターンを形成することができる。
【0071】
液滴吐出ヘッド52から絶縁基材3上に塗布液20を吐出した後は、乾燥させる。乾燥は、第1の実施の形態におけるステップS1と同様の条件で行うことができる。このようにして、絶縁基材3上に所定のパターンで塗布膜40を形成することができる。
【0072】
本実施の形態におけるその他の作用および効果は、第1の実施の形態と同様である。なお、液滴吐出装置50を用いる本実施の形態において、第2の実施の形態と同様に、塗布膜形成工程に先立って、表面処理工程を設けることも可能である。
【0073】
次に、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により制約を受けるものではない。
【0074】
[参考例1]
N−メチル−2−ピロリジノン(以下、「NMP」と略す)70mlに、ピロメリット酸二無水物(以下、「PMDA」と略す)5.45gと4,4'−ジアミノジフェニルエーテル(以下、「ODA」と略す)5.00gを加え、室温で4時間攪拌し、ポリイミド前駆体ワニスAを作成した。この溶液の粘度は、E型粘度計で測定したところ、665cpsであった。
【0075】
[参考例2]
NMP105mlに、3,3',4,4'−ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(以下、「BPDA」と略す)7.36gと2,2−ビス[4−(4−アミノフェノキシ)フェニル]プロパン(以下、「BAPP」と略す)10.26gを加え、室温で4時間攪拌し、ポリイミド前駆体ワニスBを作成した。この溶液の粘度は、E型粘度計で測定したところ、660cpsであった。
【0076】
[参考例3]
NMP250mlに、BPDA7.36gとBAPP10.26gを加え、室温で4時間攪拌し、ポリイミド前駆体ワニスCを作成した。この溶液の粘度は、E型粘度計で測定したところ、15cpsであった。
【0077】
[実施例1]
無アルカリガラス(旭硝子株式会社製 AN−100)の試験片12.5cm×12.5cm(厚み0.7mm)を50℃の5N水酸化ナトリウム水溶液により5分間処理した。次に、試験片のガラス基板を純水で洗浄し、乾燥した後、1重量%の3−アミノプロピルトリメトキシシラン(以下、「γ−APS」と略す)水溶液に浸漬させた。このガラス基板をγ−APS水溶液から取り出した後、乾燥し、150℃で5分間加熱した。このガラス基板上に、ディスペンサー(ソニー株式会社製 CASTPRO II(商品名);以下、同様である)を使って上記ポリイミド前駆体ワニスAを、約200μm幅の直線になるよう描画した後、125℃で10分間乾燥した。描画、乾燥により形成した塗布膜の厚みは2μmであった。
【0078】
次に、上記ガラス基板を、500mMの酢酸ニッケル水溶液に60分間浸漬し、塗布膜の表層にニッケルイオンを含浸させて含浸層を形成した。その後、ガラス基板をさらに50℃の100mMジメチルアミンボラン水溶液に3分間浸漬させることで、含浸層中のニッケルイオンを還元し、電気銅めっきの下地となる金属被膜としてのニッケル層を形成した。
【0079】
さらに、ガラス基板のニッケル層に対して、電気銅めっき浴中で、2.5A/dmの電流密度で電気めっきを行い、銅膜厚20μmの銅配線層を形成した。
【0080】
得られた銅配線形成ガラス基板を、窒素雰囲気中において300℃まで加熱し、同温度で5分間かけて塗布膜を構成するポリイミド前駆体樹脂をイミド化してポリイミド樹脂層を形成した。その後、銅配線形成ガラス基板を窒素雰囲気中で常温まで冷却した。この銅配線形成ガラス基板は、ポリイミド樹脂層とニッケル層との密着性に優れており、これらポリイミド樹脂層およびニッケル層を介して銅配線層がガラス基板に強固に固定されたものであった。また、ニッケル層およびこれを下地として形成された銅配線層は、いずれも欠陥がなく、優れた導通性能を有するものであった。
【0081】
[実施例2]
無アルカリガラス(旭硝子株式会社製 AN−100)の試験片12.5cm×12.5cm(厚み0.7mm)を50℃の5N水酸化ナトリウム水溶液により5分間処理した。次に、試験片のガラス基板を純水で洗浄し、乾燥した後、1重量%のγ−APS水溶液に浸漬させた。このガラス基板を、γ−APS水溶液から取り出した後、乾燥し、150℃で5分間加熱した。このガラス基板上に、ディスペンサーを使って上記ポリイミド前駆体ワニスBを、約200μm幅の直線になるよう描画した後、125℃で10分間乾燥した。描画、乾燥により形成した塗布膜の厚みは2μmであった。
【0082】
次に、上記ガラス基板を、500mMの酢酸ニッケル水溶液に60分間浸漬し、塗布膜の表層にニッケルイオンを含浸させて含浸層を形成した。その後、ガラス基板をさらに50℃の100mMジメチルアミンボラン水溶液に3分間浸漬させることで含浸層中のニッケルイオンを還元し、電気銅めっきの下地となる金属被膜としてのニッケル層を形成した。
【0083】
さらに、ガラス基板のニッケル層に対して、電気銅めっき浴中で、2.5A/dmの電流密度で電気めっきを行い、銅膜厚20μmの銅配線層を形成した。
【0084】
得られた銅配線形成ガラス基板を窒素雰囲気中において300℃まで加熱し、同温度で5分間かけて塗布膜を構成するポリイミド前駆体樹脂をイミド化してポリイミド樹脂層を形成した。その後、銅配線形成ガラス基板を窒素雰囲気中で常温まで冷却した。この銅配線形成ガラス基板は、ポリイミド樹脂層とニッケル層との密着性に優れており、これらポリイミド樹脂層およびニッケル層を介して銅配線層がガラス基板に強固に固定されたものであった。また、ニッケル層およびこれを下地として形成された銅配線層は、いずれも欠陥がなく、優れた導通性能を有するものであった。
【0085】
[実施例3]
ポリイミド基板として、東レ・デュポン株式会社製のポリイミドフィルム“カプトンEN”(商品名)の試験片10cm×10cm(厚み25μm)を用意した。このポリイミド基板上に、ディスペンサーを使ってポリイミド前駆体ワニスAを約200μm幅の直線になるように描画した後、125℃で10分間乾燥した。描画、乾燥により形成した塗布膜の厚みは2μmであった。
【0086】
次に、上記ポリイミド基板を500mMの酢酸ニッケル水溶液に60分間浸漬し、塗布膜の表層にニッケルイオンを含浸させて含浸層を形成した。その後、ポリイミド基板をさらに50℃の100mMジメチルアミンボラン水溶液に3分間浸漬させることで含浸層中のニッケルイオンを還元し、電気銅めっきの下地となる金属被膜としてのニッケル層を形成した。
【0087】
さらに、ポリイミド基板のニッケル層に対して、電気銅めっき浴中で、3.5A/dmの電流密度で電気めっきを行い、銅膜厚20μmの銅配線層を形成した。
【0088】
得られた銅配線形成ポリイミド基板を窒素雰囲気中において300℃まで加熱し、同温度で5分間かけて塗布膜を構成するポリイミド前駆体樹脂をイミド化してポリイミド樹脂層を形成した。その後、銅配線形成ポリイミド基板を窒素雰囲気中で常温まで冷却した。この銅配線形成ポリイミド基板は、ポリイミド樹脂層とニッケル層との密着性に優れており、これらポリイミド樹脂層およびニッケル層を介して銅配線層がポリイミド基板に強固に固定されたものであった。また、ニッケル層およびこれを下地として形成された銅配線層は、いずれも欠陥がなく、優れた導通性能を有するものであった。
【0089】
[実施例4]
ポリイミド基板として、東レ・デュポン株式会社製のポリイミドフィルム“カプトンEN”(商品名)の試験片10cm×10cm(厚み25μm)を用意した。このポリイミド基板上に、ディスペンサーを使ってポリイミド前駆体ワニスBを約200μm幅の直線になるように描画した後、125℃で10分間乾燥した。描画、乾燥により形成した塗布膜の厚みは2μmであった。
【0090】
次に、上記ポリイミド基板を、500mMの酢酸ニッケル水溶液に60分間浸漬し、塗布膜の表層にニッケルイオンを含浸させて含浸層を形成した。その後、ポリイミド基板をさらに50℃の100mMジメチルアミンボラン水溶液に3分間浸漬させることで含浸層中のニッケルイオンを還元し、電気銅めっきの下地となる金属被膜としてのニッケル層を形成した。
【0091】
さらに、ポリイミド基板のニッケル層に対して、電気銅めっき浴中で、3.5A/dmの電流密度で電気めっきを行い、銅膜厚20μmの銅配線層を形成した。
【0092】
得られた銅配線形成ポリイミド基板を窒素雰囲気中において300℃まで加熱し、同温度で5分間かけて塗布膜を構成するポリイミド前駆体樹脂をイミド化してポリイミド樹脂層を形成した。その後、銅配線形成ポリイミド基板を窒素雰囲気中で常温まで冷却した。この銅配線形成ポリイミド基板は、ポリイミド樹脂層とニッケル層との密着性に優れており、これらポリイミド樹脂層およびニッケル層を介して銅配線層がポリイミド基板に強固に固定されたものであった。また、ニッケル層およびこれを下地として形成された銅配線層は、いずれも欠陥がなく、優れた導通性能を有するものであった。
【0093】
[実施例5]
無アルカリガラス(旭硝子株式会社製 AN−100)の試験片12.5cm×12.5cm(厚み0.7mm)を50℃の5N水酸化ナトリウム水溶液により5分間処理した。次に、試験片のガラス基板を純水で洗浄し、乾燥した後、1重量%のγ−APS水溶液に浸漬させた。このガラス基板をγ−APS水溶液から取り出した後、乾燥し、150℃で5分間加熱した。このガラス基板上に、上記ポリイミド前駆体ワニスAを均一に塗布し、130℃で30分間乾燥した。塗布、乾燥により形成した塗布膜の厚みは2μmであった。
【0094】
次に、上記ガラス基板を、500mMの酢酸ニッケル水溶液に60分間浸漬し、塗布膜の表層にニッケルイオンを含浸させて含浸層を形成した。その後、ガラス基板をさらに50℃の100mMジメチルアミンボラン水溶液に3分間浸漬させることで、含浸層中のニッケルイオンを還元し、電気銅めっきの下地となる金属被膜としてのニッケル層を形成した。
【0095】
さらに、ガラス基板のニッケル層に対して、電気銅めっき浴中で、2.5A/dmの電流密度で電気めっきを行い、銅膜厚20μmの銅めっき層を形成した。
【0096】
得られた銅めっき形成ガラス基板を、窒素雰囲気中において300℃まで加熱し、同温度で5分間かけて塗布膜を構成するポリイミド前駆体樹脂をイミド化してポリイミド樹脂層を形成した。その後、銅めっき形成ガラス基板を窒素雰囲気中で常温まで冷却した。
【0097】
この銅めっき形成ガラス基板の銅めっき層上にドライフィルムレジストをラミネートした後、フォトマスクを介して紫外線露光し、現像して50μmピッチ{配線幅/配線間隔(L/S)=20μm/30μm}のレジストパターンを形成した。形成した配線スペース部の銅めっき層をエッチングで除去し、続くポリイミド樹脂層をエッチング除去することで、銅配線形成ガラス基板を得た。この銅配線形成ガラス基板は、ポリイミド樹脂層とニッケル層との密着性に優れており、これらポリイミド樹脂層およびニッケル層を介して銅配線層がガラス基板に強固に固定されたものであった。また、ニッケル層およびこれを下地として形成された銅配線層は、いずれも欠陥がなく、優れた導通性能を有するものであった。
【0098】
[実施例6]
無アルカリガラス(旭硝子株式会社製 AN−100)の試験片12.5cm×12.5cm(厚み0.7mm)を50℃の5N水酸化ナトリウム水溶液により5分間処理した。次に、試験片のガラス基板を純水で洗浄し、乾燥した後、1重量%のγ−APS水溶液に浸漬させた。このガラス基板をγ−APS水溶液から取り出した後、乾燥し、150℃で5分間加熱した。液滴吐出装置として、市販のインクジェット式プリンタのインクタンクカートリッジに上述のポリイミド前駆体ワニスCを充填したものを用意した。そして、このインクジェットプリンタにより、上記ガラス基板上にポリイミド前駆体ワニスCを吐出し、約50μm幅の直線に描画した。その後、ガラス基板上の塗布液を130℃の温度で10分間乾燥した。描画、乾燥により形成した塗布膜の厚みは0.5μmであった。
【0099】
次に、上記ガラス基板を500mMの酢酸ニッケル水溶液に60分間浸漬し、塗布膜の表層にニッケルイオンを含浸させて含浸層を形成した。その後、ポリイミド基板をさらに50℃の100mMジメチルアミンボラン水溶液に3分間浸漬させることで含浸層中のニッケルイオンを還元し、電気銅めっきの下地となる金属被膜としてのニッケル層を形成した。
【0100】
さらに、ガラス基板のニッケル層に対して、電気銅めっき浴中で、2.5A/dmの電流密度で電気めっきを行い、銅膜厚20μmの銅配線層を形成した。
【0101】
得られた銅配線形成ガラス基板を窒素雰囲気中において300℃まで加熱し、同温度で5分間かけて塗布膜を構成するポリイミド前駆体樹脂をイミド化してポリイミド樹脂層を形成した。その後、銅配線形成ガラス基板を窒素雰囲気中で常温まで冷却した。この銅配線形成ガラス基板は、ポリイミド樹脂層とニッケル層との密着性に優れており、これらポリイミド樹脂層およびニッケル層を介して銅配線層がガラス基板に強固に固定されたものであった。また、ニッケル層およびこれを下地として形成された銅配線層は、いずれも欠陥がなく、優れた導通性能を有するものであった。
【0102】
なお、本発明は上記各実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、上記第1〜第3の実施の形態では、イミド化工程を電気めっき工程の後に行うようにしたが、電気めっき工程の前(金属被膜形成工程の後)にイミド化工程を実施することもできる。
【0103】
また、上記第1〜第3の実施の形態において、浸漬工程の後に、純水やイオン交換水等による水洗工程(洗浄工程)を設けることも可能である。
【0104】
さらに、上記第1〜第3の実施の形態においては、塗布膜形成工程において、ディスペンサーまたは液滴吐出ヘッドを有する液滴吐出装置を用いて絶縁基材に直接所定のパターンで塗布液を塗布し、パターン化された塗布膜を形成した。しかし、上記実施例5に例示したように、塗布膜形成工程で、絶縁基材の全面に塗布液を塗布して塗布膜を形成しておき(いわゆる「ベタ塗り」)、電気めっき後に、フォトリソグラフィー工程と化学エッチング工程を設けて導体層を所定のパターンに加工してもよい。
【0105】
なお、本発明の導体層の形成方法は、回路基板等に用いるパターン化導体層を形成する目的以外にも、絶縁基材の表面に該絶縁基材との密着性に優れ、かつ欠陥が少ない導体層を形成する目的で広く利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0106】
【図1】本発明の実施の形態に係る導体層の形成方法が適用される回路基板の構成を示す説明図である。
【図2】図1に示した回路基板の要部を拡大して示す断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態に係る導体層の形成方法の手順の概要を示すフロー図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態に係る導体層の形成方法における塗布膜形成工程を説明するための説明図である。
【図5】塗布膜形成工程後の塗布膜の状態を説明するための説明図である。
【図6】浸漬工程後の塗布膜の状態を説明するための説明図である。
【図7】還元工程後のパターン化導体層の状態を説明するための説明図である。
【図8】電気めっき工程後のパターン化導体層の状態を説明するための説明図である。
【図9】イミド化工程後のパターン化導体層の状態を説明するための説明図である。
【図10】本発明の第2の実施の形態に係る導体層の形成方法の手順の概要を示すフロー図である。
【図11】本発明の第3の実施の形態に係る導体層の形成方法の手順の概要を示すフロー図である。
【図12】本発明の第3の実施の形態に係る導体層の形成方法における塗布膜形成工程を説明するための説明図である。
【符号の説明】
【0107】
1…回路基板、3…絶縁基材、5…パターン化導体層、7…ポリイミド樹脂層、9…金属被膜、11…電気めっき層、20…塗布液、30…ディスペンサー、40…塗布膜、50…液滴吐出装置。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
絶縁基材上に導体層を形成する導体層の形成方法であって、
ポリイミド前駆体樹脂を含有する塗布液を、前記絶縁基材の表面に塗布し、乾燥して塗布膜を形成する塗布膜形成工程と、
前記塗布膜を、金属化合物を含有する溶液に浸漬して該溶液中の金属イオンを前記塗布膜の表層に含浸させる浸漬工程と、
前記浸漬工程によって前記塗布膜の表層に含浸させられた金属イオンを還元処理して前記導体層としての金属被膜を形成する金属被膜形成工程と、
熱処理を行って前記塗布膜中の前記ポリイミド前駆体樹脂をイミド化してポリイミド樹脂層を形成するイミド化工程と、
を備えたことを特徴とする導体層の形成方法。
【請求項2】
前記塗布膜形成工程では、前記絶縁基材表面に所定のパターンで細線状に前記塗布液を塗布することを特徴とする請求項1に記載の導体層の形成方法。
【請求項3】
ディスペンサーを用いて前記塗布液を塗布することを特徴とする請求項2に記載の導体層の形成方法。
【請求項4】
微小液滴を吐出する液滴吐出ヘッドを有する液滴吐出装置を用いて前記塗布液を塗布することを特徴とする請求項2に記載の導体層の形成方法。
【請求項5】
前記塗布膜形成工程の前に、前記絶縁基材の表面をシランカップリング剤で処理する表面処理工程をさらに備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の導体層の形成方法。
【請求項6】
前記塗布膜形成工程の前に、前記絶縁基材の表面をプラズマで処理する表面処理工程をさらに備えたことを特徴とする請求項1ないし4のいずれかに記載の導体層の形成方法。
【請求項7】
絶縁基材と、該絶縁基材に形成された導体層とを備えた回路基板の製造方法であって、
前記導体層を、請求項1ないし6のいずれかに記載の導体層の形成方法により形成することを特徴とする回路基板の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【公開番号】特開2008−294059(P2008−294059A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−135487(P2007−135487)
【出願日】平成19年5月22日(2007.5.22)
【出願人】(000006644)新日鐵化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】