説明

少なくとも450mmの直径を有するシリコンから成る半導体ウェハを製造するための方法、及び450mmの直径を有するシリコンから成る半導体ウェハ

【課題】シリコンから成る半導体ウェハを、高い歩留りで、かつ経済的な引き上げ速度で製造する。
【解決手段】増大する直径を有する円錐状セクションと、少なくとも450mmの直径とるつぼに含まれた融液から少なくとも800mmの長さとを有する隣接する円筒状セクションとを備える単結晶を、円錐状セクションから円筒状セクションへの移行部を引き上げる過程において、円筒状セクションの引上げ中の平均引上げ速度よりも少なくとも1.8倍高い引上げ速度で引き上げ、成長する単結晶を少なくとも20kWの冷却電力で冷却し、るつぼの側壁から成長する単結晶に熱を供給し、成長する単結晶を包囲する熱シールドと融液の表面との間に、少なくとも70mmの高さを有する間隙が存在しており、円筒状セクションから半導体ウェハをスライスし、複数の半導体ウェハが、半導体ウェハの中心から半導体ウェハのエッジまで延びた、v−欠陥を備えた領域を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコンから成る半導体ウェハを製造するための方法に関し、半導体ウェハは、少なくとも450mmの直径を有し、かつこのような半導体ウェハを電子部品の製造のための基板としての使用に適したものにする欠陥特性を有する。本発明は、450mmの直径を有するシリコンから成る半導体ウェハにも関する。
【背景技術】
【0002】
450mmの公称直径を有するシリコンから成る半導体ウェハは、現在、次世代のための基板として開発されている。300mmから450mmへの直径の急激な拡大は、従来の製造方法の単なる適応及び最適化以上のことを要求するため、開発者は大きな困難に直面している。1つの具体的な困難は、300mmの直径において好ましいとされてきた品質、特に欠陥特性に関連する品質を達成することである。特に、空格子点(以下ではv−欠陥と呼ぶ)の蓄積によって又は格子間シリコン(以下ではi−欠陥と呼ぶ)の蓄積によって生ぜしめられる欠陥に関連して、及びBMD("バルク・マイクロ・欠陥")及びOSF("酸化誘発積層欠陥")等の欠陥に関連して、欠陥特性が関心事となっている。OSFの発生において、析出する酸素が重要な役割を果たす。
【0003】
国際公開第2009/104534号は、300mmから450mmへの直径の急激な拡大が既に達成されていることを示す従来技術の代表例である。
【0004】
Shiraishi他による報告書、Journal of Crystal Growth 229 (2001) 17-21は、400mmの直径を有するシリコンから成る単結晶を製造するための方法の開発の過程で得られた経験を要約している。前記経験は、欠陥が存在しないか又は直径に亘って均一な欠陥分布を有する半導体ウェハを製造することは不可能であったという事実を含む。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2009/104534号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Shiraishi他,Journal of Crystal Growth 229 (2001) 17-21
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、シリコンから成る半導体ウェハを、高い歩留りで、かつ経済的な引き上げ速度で製造することが可能であるためになされねばならないことを説明することであり、この半導体ウェハは、少なくとも450mmの直径と、直径に亘って均一な欠陥分布とを有している。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記課題は、増大する直径を有する円錐状セクションと、少なくとも450mmの直径及びるつぼに含まれた融液からの少なくとも800mmの長さを有する隣接する円筒状セクションとを備える単結晶を、円錐状セクションから円筒状セクションへの移行部を引き上げる過程において、円筒状セクションの引上げ中の平均引上げ速度よりも少なくとも1.8倍高い引上げ速度で引き上げ、
成長する単結晶を少なくとも20kWの冷却電力で冷却し、
るつぼの側壁から、成長する単結晶に熱を供給し、成長する単結晶を包囲する熱シールドと融液の表面との間に、少なくとも70mmの高さを有する間隙が存在しており、
円筒状セクションから半導体ウェハをスライスし、
複数の半導体ウェハが、半導体ウェハの中心から半導体ウェハのエッジまで延びた、v−欠陥を備えた領域を有している、シリコンから成る半導体ウェハを製造するための方法によって達成される。
【0009】
前記方法によって製造された少なくとも450mmの直径を有する複数の半導体ウェハは、半導体ウェハの中心から半導体ウェハのエッジまで延びた、v−欠陥を備えた欠陥領域によって識別される。これらの半導体ウェハの場合、OSF欠陥の平均密度は、好適には6cm-2以下、好適には2cm-2以下、極めて好適には0.5cm-2以下である。抵抗率の半径方向ばらつきは、好適には10%以下、特に好適には5%以下、極めて好適には2%以下である。酸素濃度の半径方向ばらつきROVは、好適には12%以下、特に好適には8%以下、極めて好適には4%以下である。半導体ウェハは、直接に、又はエピタキシャル層の堆積の後に、電子部品を製造するための基板として使用することができる。
【0010】
対応する単結晶を、少なくとも0.5mm/minの経済的な引上げ速度とともに、高い歩留りで製造することができるために、炉構成("ホットゾーン")に関連して及び幾つかのプロセス実行パラメータに関連して、幾つかの事前条件を考慮する必要がある。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】方法を実施するために適したホットゾーンを示している。
【図2】冷却電力PowCと単結晶の円筒状セクションにおける位置POSとの関係を示すグラフである。
【図3】引上げ速度KHと単結晶の円筒状セクションにおける位置POSとの関係を示すグラフである。
【図4】円筒状セクションの第1の3分の1(POS23cm)から得られた半導体ウェハのサンプルにおける、測定装置を用いて行われたレーザ散乱光測定の結果を示すグラフである。
【図5】円筒状セクションの第2の3分の1から得られた半導体ウェハのサンプルにおける、測定装置を用いて行われたレーザ散乱光測定の結果を示すグラフである。
【図6】円筒状セクションの第3の3分の1から得られた半導体ウェハのサンプルにおける、測定装置を用いて行われたレーザ散乱光測定の結果を示すグラフである。
【図7】酸素濃度の半径方向ばらつきROVと、単結晶の円筒状セクションにおける位置POSとの関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
図1は、方法を実施するために適した"ホットゾーン"を示している。単結晶1は、るつぼ3に含まれた融液2から引き上げられる。るつぼの周囲には抵抗加熱ヒータ4が配置されており、この抵抗加熱ヒータ4により融液は液体に保たれている。磁界、例えばカスプ磁界又は水平磁界を、融液2に加えることができる。この目的のために、磁界を発生するための装置5が設けられている。単結晶1は、冷却器6と、熱シールド7とによって包囲されている。熱シールド7は、単結晶に向かって円錐状にテーパした終端セクションを有している。熱シールド7の終端セクションの下端部における底面は、融液2の表面から距離Dだけ離れて位置している。従って、距離Dに対応する高さを有する間隙が、熱シールド7と融液の表面との間に存在している。
【0013】
発明者によって行われた実験によって示されているように、無転位単結晶の歩留りは、単結晶の円錐状セクション8から円筒状セクション9への移行部を引き上げる時の引上げ速度が単結晶1の円筒状セクション9の成長の間の平均引上げ速度よりも著しく高くないと、著しく低下する。転位形成の結果としての歩留りの損失を大幅に回避するために、単結晶の円錐状セクション8から円筒状セクション9への移行部の引上げ中の引上げ速度、すなわち、円錐状セクションが円筒状セクションの所望の直径の約30%に達した時間から所望の直径が達せられる時間までの引上げ速度は、単結晶の円筒状セクションの引上げ中の平均引上げ速度よりも、少なくとも1.8倍、好適には1.8〜3倍だけ高いことが望ましい。
【0014】
単結晶の円筒状セクションの引上げ中の平均引上げ速度は、好適には、0.5mm/min以上、特に好適には0.65mm/min以上である。
【0015】
少なくとも450mmの直径を有するシリコンから成る単結晶を0.5mm/min以上の引上げ速度で引き上げることができるためには、生じる結晶化の熱は、有効に散逸されなければならない。冷却器6の所要の冷却電力は少なくとも20kWでなければならないことが確認された。単結晶に面した冷却器6の内面の放射率は、単結晶からの熱放射が効果的に吸収されるようにできるだけ高いと有利である。従って、冷却器の内面を、吸熱層、好適には黒鉛層で被覆することができる。冷却器6の外側に面した面は、この面に衝突する熱放射が有効に反射され、冷却器に負担をかけないように、好適には研磨されている。
【0016】
さらに、冷却の結果として、成長する単結晶によって受ける熱負荷が熱応力を生ぜしめないようにするために注意が払われなければならない。熱応力の性質は、熱応力が単結晶を破壊するというものである。発明者によって行われた実験が示しているように、熱負荷が、35MPaよりも大きなフォンミーゼス応力を生じることが回避されるべきである。以下のパラメータは、フォンミーゼス応力を計算するために使用された:弾性係数=150GPa、2.6e−6 1/K(2.6×10-6-1)の室温における膨張係数、及び0.25のポアソン比。結果として生じる熱負荷は、熱シールド7の終端セクションの下端部における底面と融液2の表面との間の距離Dが70mm以上であるならば、大きな影響がないままであることが分かった。
【0017】
融液2と成長する単結晶1との間の界面における軸方向温度勾配Gが、単結晶の中心とエッジとにおいてほぼ同じであるようにするためにも、70mm以上の距離Dが必要である。単結晶の成長速度vと、軸方向温度勾配Gとは、比v/Gの関係で、空格子点の超過及び間隙シリコンの超過が単結晶に生じるかどうかに関連して大きな影響を与える変数である。例えば、発明が、空格子点が単結晶の中心において支配的になることを回避しかつ格子間シリコンが単結晶のエッジにおいて支配的になることを回避すべきであるならば、軸方向温度勾配が単結晶の中心から単結晶のエッジに向かって著しく増大するという通常生じる状況に対抗する手段を実行することが必要である。比較的大きな直径を有する単結晶の場合、熱は単結晶のエッジから発散されるので、中心Gcにおける軸方向温度勾配は、通常単結晶のエッジGeにおける軸方向温度勾配よりも著しく小さい。熱シールド7の終端セクションの下端部における底面と融液2の表面との間の距離Dが70mm以上であるならば、十分な熱がるつぼ3の側壁から界面のエッジへ移動することができ、GeはGcと一致させられる。
【実施例】
【0018】
円筒状セクションにおいて450mmの直径を有する単結晶が、方法を用いて引き上げられた。円筒状セクションは800mmの長さを有していた。"ホットゾーン"は図1に示された特徴を有していた。単結晶の引上げ中、2800Pa(28mbar)の圧力のアルゴンが、165l/minの流量で"ホットゾーン"を通過させられた。270mT(テスラ)の磁束密度を有する水平磁界が融液に加えられた。熱シールド7の終端セクションの下端部における底面と融液2の表面との間の距離Dは70mmであった。冷却器6は、黒鉛で黒色処理された内面と、研磨された外面とを有していた。冷却電力は平均で24kWの範囲であった。図2は、冷却電力PowCと、単結晶の円筒状セクションにおける位置POS(長さの単位で示されている)との関係のグラフを示している。円筒状セクションの引上げ中、平均引上げ速度は0.65mm/minであった。図3は、引上げ速度KHと、単結晶の円筒状セクションにおける位置POSとの関係のグラフを示している。単結晶の円錐状セクションから円筒状セクションへの移行部の引上げ中、引上げ速度は、0.65mm/minの平均引上げ速度よりも1.8倍高かった。単結晶とるつぼとはそれぞれ7rpmと0.3rpmとで互いに反対方向に回転させられた。
【0019】
その後、単結晶の円筒状セクションは、シリコンから成る半導体ウェハを形成するために処理され、半導体ウェハの重要な特性が試験された。
【0020】
図4から図6は、円筒状セクションの第1の3分の1と、第2の3分の1と、第3の3分の1とから得られた3つの半導体ウェハのサンプル(POS23cm、POS41cm及びPOS67cm)における、Mitsui Mining & Smelting製のMO-4型式の測定装置を用いて行われたレーザ散乱光測定の結果を示している。散乱光測定は、v−欠陥の密度DDと半導体ウェハの半径Rとの関係を示している。半導体ウェハは、円筒状セクションにおける位置にかかわらず、半導体ウェハの中心からエッジまで延びた、v−欠陥を備えた領域を有することを認めることができる。
【0021】
以下の表は、ウェット酸化及び1100℃で120分間継続する熱処理の後に数えられた半導体ウェハのOSF欠陥の平均密度と、単結晶の円筒状セクションにおける半導体ウェハの位置とを列挙している。
【0022】
【表1】

【0023】
抵抗率の半径方向ばらつきは平均して2%未満であった。抵抗率は、偏析により、円筒状セクションの始まりにおける約17.2オームから、円筒状セクションの終わりにおける約13.9オームまで減少した。
【0024】
図7は、New ASTMに従って測定された酸素濃度の半径方向ばらつきROVと、単結晶の円筒状セクションにおける位置POSとの関係を示している。酸素濃度は、軸方向で、円筒状セクションの始まりにおける約9.5・1017atom/cm3から、円筒状セクションの終わりにおける約5.3・1017atom/cm3まで減少した。
【0025】
酸素析出を形成した熱処理の後における、単結晶と融液との間の界面の曲線を可視化する電荷担体寿命測定が示したところでは、円筒状セクションの位置210mmにおける界面が、界面の中心における27mmの曲線とともに、単結晶に関して凸状に湾曲させられた。
【符号の説明】
【0026】
1 単結晶、 2 融液、 3 るつぼ、 4 抵抗加熱ヒータ、 5 磁界発生装置、 6 冷却器、 7 熱シールド、 8 円錐状セクション、 9 円筒状セクション

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコンから成る半導体ウェハを製造するための方法において、
増大する直径を有する円錐状セクションと、少なくとも450mmの直径及びるつぼに含まれた融液から少なくとも800mmの長さを有する隣接する円筒状セクションとを備える単結晶を、円錐状セクションから円筒状セクションへの移行部を引き上げる過程において、円筒状セクションの引上げ中の平均引上げ速度よりも少なくとも1.8倍高い引上げ速度で引き上げ、
成長する単結晶を少なくとも20kWの冷却電力で冷却し、
るつぼの側壁から、成長する単結晶に熱を供給し、成長する単結晶を包囲する熱シールドと融液の表面との間に、少なくとも70mmの高さを有する間隙が存在しており、
円筒状セクションから半導体ウェハをスライスし、
複数の半導体ウェハが、半導体ウェハの中心から半導体ウェハのエッジまで延びた、v−欠陥を備えた領域を有していることを特徴とする、シリコンから成る半導体ウェハを製造するための方法。
【請求項2】
単結晶が、円筒状セクションの引上げ中、0.5mm/min以上の平均引上げ速度で引き上げられる、請求項1記載の方法。
【請求項3】
450mmの直径と、半導体ウェハの中心から半導体ウェハのエッジまで延びた、v−欠陥を備えた領域とを有する、シリコンから成る半導体ウェハ。
【請求項4】
6cm-2以下のOSF欠陥の平均密度を有する、請求項3記載の半導体ウェハ。
【請求項5】
10%以下の抵抗率の半径方向ばらつきを有する、請求項3又は4記載の半導体ウェハ。
【請求項6】
12%以下の酸素濃度の半径方向ばらつきを有する、請求項3から5までのいずれか1項記載の半導体ウェハ。
【請求項7】
エピタキシャルコーティングを有する、請求項3から6までのいずれか1項記載の半導体ウェハ。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2011−148691(P2011−148691A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−9101(P2011−9101)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(599119503)ジルトロニック アクチエンゲゼルシャフト (223)
【氏名又は名称原語表記】Siltronic AG
【住所又は居所原語表記】Hanns−Seidel−Platz 4, D−81737 Muenchen, Germany
【Fターム(参考)】