説明

層厚測定装置

【課題】 蛍光X線強度が弱い場合でも、正確に磁性層厚さが測定できる層厚測定装置を提供することを目的とする。
【解決手段】 蛍光X線分析法を用いて非磁性支持体上に少なくとも磁性層を設けた磁気記録媒体の磁性層厚さを測定する層厚測定装置であって、該層厚測定装置は、X線の発生源であるX線管と、磁気記録媒体に照射されたX線により発生した蛍光X線を受ける検出器と、これらを含んで外気と遮断し、前記X線と前記蛍光X線を透過させるX線窓を有する密閉箱と、を含み、該密閉箱内は空気よりも密度の小さい気体で置換されており、前記X線窓と前記磁性層との距離が1〜50mmであることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蛍光X線分析方法を用いた磁気記録媒体の磁性層の層厚測定装置に関し、特に、蛍光X線強度が弱い場合でも精度よく磁性層厚測定が行なえる層厚測定装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁気記録媒体の製造に当たっては、非磁性支持体上に非磁性層や磁性層を塗布して、各層が形成されるこの時の各層の厚さを測定し規定の範囲に管理することが重要な課題となっている。また、近年の磁気記録媒体においては、非磁性支持体上に非磁性層を塗布形成し、この層が乾燥しないうちにさらに磁性層を塗布形成する(ウエットオンウエット)ことが行なわれ、この場合、磁性層の厚さは。100nm以下に薄層化される傾向にあり、蛍光X線分析法を用いた層厚さの測定をより正確に行なう試みがなされている(例えば、特許文献1)。
【0003】
また、MRヘッドやGMRヘッドなどの高感度ヘッドの普及が進むにつれて、磁気記録媒体の低ノイズ化が図られており、従来のメタル磁性粉末よりも、さらに粒子サイズの微小化が可能な、窒化鉄磁性粉末やバリウムフェライト磁性粉末を使用した磁気記録媒体が提案されている(例えば、特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2008−39542号公報
【特許文献2】特開2007−294084号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来のメタル磁性粉末を用いた磁気記録媒体の製造においては、磁性層の厚さ管理のために、メタル磁性粉末に20wt%程度含まれるCoをターゲット元素として、前述した蛍光X線分析法を用いた層厚測定が行なわれていた。Coがターゲット元素として選ばれる理由は、非磁性層にはヘマタイト(酸化鉄)が含まれるのが一般的で、メタル磁性粉末の主成分であるFeを用いることができないからである。
【0006】
しかし、前述した窒化鉄磁性粉末やバリウムフェライト磁性粉末では、好適に用いられるターゲット元素がなく、例えば窒化鉄磁性粉末ではFe以外の元素としては、Alが比較的多く含まれるが、非磁性層にもAlが用いられるのが一般的なので、用いることができずそれ以外の元素では、10wt%以下の含有量となってしまう。また、バリウムフェライト磁性粉末においてもFe以外の元素としては、Baが比較的多く含まれるがやはり10wt%以下である。
このため、これらの低ノイズ磁気記録媒体の製造にあたっては蛍光X線強度が弱く、磁性層の正確な厚さ管理が困難な状況になっていた。
【0007】
本発明では、蛍光X線強度が弱い場合でも、正確に磁性層厚さが測定できる層厚測定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、蛍光X線分析法を用いた磁性層厚測定装置について鋭意検討した結果、磁性層厚測定装置を下記の構成にすれば、蛍光X線強度が弱い場合でも、正確に磁性層厚さが測定できる層厚測定装置を提供できることを見出し、本発明をなすに至った。
【0009】
すなわち、蛍光X線分析法を用いて非磁性支持体上に少なくとも磁性層を設けた磁気記録媒体の磁性層厚さを測定する磁性層厚測定装置であって、該磁性層厚測定装置は、X線の発生源であるX線管と、磁気記録媒体に照射されたX線により発生した蛍光X線を受ける検出器と、これらを含んで外気と遮断し、前記X線と前記蛍光X線を透過させるX線窓を有する密閉箱と、を含み、該密閉箱内は空気よりも密度の小さい気体で置換されており、前記X線窓と前記磁性層との距離が1〜50mmであることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明の磁性層厚測定装置は、X線の発生源であるX線管と、磁気記録媒体に照射されたX線により発生した蛍光X線を受ける検出器と、これらを含んで外気と遮断し、前記X線と前記蛍光X線を透過させるX線窓を有する密閉箱と、を含み、該密閉箱内は空気よりも密度の小さい気体で置換されており、前記X線窓と前記磁性層との距離が1〜20mmであるために、蛍光X線の空気中での減衰が最小限に抑えられるため、蛍光X線強度が弱い場合でも、正確に磁性層厚さが測定できる磁性層厚測定装置を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、図面を参照して、本発明の膜厚測定装置について説明する。図1に本発明の、一例の層厚測定装置の断面構造図を示す。
【0012】
本発明の層厚測定装置10は、磁気シートにX線6を照射するX線管3と、X線3を照射された磁気シートTから発生する蛍光X線7を検出する検出器4a、検出器4bと、これらの機器をその内部空間2に備える密閉箱1を含み構成される。密閉箱1の磁気シートに対向する面の一部は、X線および蛍光X線を透過させ易い材料からなる膜が張られたX線窓5が設けられている。また、密閉箱1の内部空間2には、空気よりも密度の小さい気体で置換されている。
【0013】
例えば特許文献1に示されているように、従来の層厚測定装置は、X線管と検出器は空気中に設置されて、蛍光X線を検出していた。このため、X線および蛍光X線の減衰が避けられず、窒化鉄磁性粉末やバリウムフェライト磁性粉末などのような、層厚測定に好適なターゲット元素を持たない磁気記録媒体の層厚測定を正確に行なうことは困難であった。
【0014】
本発明の膜厚測定装置は、前述したようにX線管と検出器を密閉箱に収納し内部空間を空気より密度の小さい気体で置換しているために、X線及び蛍光X線の減衰は空気中よりも小さい。そのため、検出器で捕らえられる蛍光X線の強度を大きくすることができる。また、X線窓と磁性層との距離dを1〜50mmとすることにより空気中でのX線および蛍光X線の減衰を最小限に抑えることができる。
【0015】
X線管としては、従来公知のものが使用できるが、代表的なものとしては熱陰極型の2極真空管(クーリッジ管)が挙げられる。熱陰極から取り出された電子を、陽極電圧で加速し重金属でできた対陰極(陽極)に衝突させる。このとき電子の運動エネルギーの大半は熱になるが、同時にX線が発生する。この時用いる重金属の材質は、タングステン、モリブデン、金、ロジウムが好ましい。蛍光X線の検出器としては、蛍光X線のエネルギーを決めるための分光系に応じて、波長分散型またはエネルギー分散型のものが使用できる。波長分散型のものは、ソーラースリットと分光結晶を必要とするために、装置がやや大型化するが、分光精度が高い。エネルギー分散型のものは、高いエネルギー分析能力をもつ半導体検出器を使用する方法である。この方法は、検出器自体がエネルギー分析を行なうので、装置を小型化することができる。
【0016】
X線窓としては、X線を透過させ易い従来公知の材料が選ばれるが、ベリリウム箔、高分子薄膜にアルミニウムを蒸着したものなどが用いられる。
【0017】
密閉箱の内部空間を置換する気体としては、空気(密度1.29kg/m)より密度の小さいものであれば良く、小さければ小さいほど好ましい。その点では、水素(密度0.09kg/m)がもっとも好ましいが、安全性の点で問題があるので、ヘリウム(密度0.18kg/m)が好ましい。
【0018】
高密度磁気記録媒体は、通常図2に示したような層構成になっている。すなわち、非磁性支持体13上に、非磁性粉末を含む非磁性層12が設けられ、さらにその上に磁性粉末を含む磁性層11が設けられている。このような磁気記録媒体の製造は、各層を形成する塗料をウエットの状態でほぼ同時に非磁性支持体上に塗布して形成して行なわれるので、各層の層厚管理を行なうためには、図1に示したように検出器を2個設置して行なうことができる。たとえば、バリウムフェライト磁性粉末を含む磁性層、酸化鉄を含む非磁性層を有する磁気記録媒体においては、バリウムフェライト磁性粉末に含まれるBa元素からの蛍光X線を検出器4aで検出し、窒化鉄磁性粉末および酸化鉄に含まれるFe元素からの蛍光X線を検出器4bで検出することにより、それぞれの厚さを求めることができる。
【実施例】
【0019】
厚さ6μmのPETフイルム(非磁性支持体)上に、酸化鉄(α−Fe)をバインダに分散した非磁性塗料とバリウムフェライト磁性粉末をバインダに分散した磁性塗料とを、この順に、それぞれ、厚さが約1.5μm、90nmとなるように塗布して、乾燥直後の磁性層の厚さを図1に示した層厚測定装置10を用いて、ターゲット元素をBaとして測定した。この時、表1で示したように、密閉箱1の内部空間2を各種気体で置換し、X線窓5と磁性層11との距離Dを変えて厚さ測定を行なった。
【0020】
【表1】

【0021】
表1から分るように、密閉箱の内部空間を特に置換せず、空気のままの場合には、磁性層厚さに比例する検出器のカウント数が小さくて、厚さ測定の精度を確保することができないが、内部空間をヘリウムに置換したりヘリウムを混合して、例えば空気の半分程度の密度にすることにより、十分大きなカウント数を得ることができ、厚さ測定の精度を確保できることが分る。また、X線窓と磁性層の距離を大きくするとカウント数が小さくなり、50mmを超えるとカウント数が500以下になり精度が不十分なることが分る。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明の、一例の層厚測定装置の断面構造図である。
【図2】一例の磁気記録媒体の層構造を示す断面図である。
【符号の説明】
【0023】
1 密閉箱
2 内部空間
3 X線管
4a 検出器1
4b 検出器2
5 X線窓
6 X線
7 蛍光X線
10 磁性層厚測定装置
11 磁性層
12 非磁性層
13 非磁性支持体
T 磁気シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蛍光X線分析法を用いて非磁性支持体上に少なくとも磁性層を設けた磁気記録媒体の磁性層厚さを測定する磁性層厚測定装置であって、該磁性層厚測定装置は、
X線の発生源であるX線管と、
磁気記録媒体に照射されたX線により発生した蛍光X線を受ける検出器と、
これらを含んで外気と遮断し、前記X線と前記蛍光X線を透過させるX線窓を有する密閉箱と、を含み、
該密閉箱内は空気よりも密度の小さい気体で置換されており、
前記X線窓と前記磁性層との距離が1〜50mmであることを特徴とする磁性層厚測定装置。
【請求項2】
請求項1に記載の磁性層厚測定装置を用いて磁気記録媒体を製造することを特徴とする磁気記録媒体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−185881(P2011−185881A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−53891(P2010−53891)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【出願人】(000005810)日立マクセル株式会社 (2,366)
【Fターム(参考)】