説明

工作機械の制御方法および制御装置

【課題】加工における熱変位を制御し、加工の高精度化を図ることができる工作機械の制御方法および制御装置を提供することを目的とする。
【解決手段】複数の検査位置の温度を取得する温度取得工程52と、複数の検査位置における温度に基づいて支持体10の温度分布を作成する温度分布作成工程53と、支持体10に熱変位が生じているものと判定する判定工程54と、複数の動作経路を作成する動作経路作成工程55と、未加工の動作経路の順序を温度分布に基づいて変更する動作経路変更工程56とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動体を支持する支持体を有する工作機械の制御方法および制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は、制御装置により各駆動軸を位置制御されることにより工作物の加工を行っている。この工作機械による加工において、工作機械の熱影響により移動体を支持する支持体が熱変形することがある。支持体の熱変形は、移動体の位置に影響を及ぼすため、加工精度の低下を招来するおそれがある。そこで、例えば、特許文献1には、支持体の複数箇所の温度を測定することにより算出される温度分布関数に基づいて熱変位の補正を図る方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2006−281420号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、このような熱変位の補正方法は、工具の先端位置の補正を行うものであり、工具の姿勢までは補正することができない。例えば、支持体の温度が非常に高温になると、支持体の熱変形に伴う工具の傾きが大きくなることがある。このような場合に、工具の先端位置を補正したとしても工作物に対する工具の接触位置にずれが生じ、品質が低下するおそれがある。従って、支持体の熱変形に伴う熱変位量が所定以上となった場合には、作業者へのアラーム通知や加工の一時停止などが必要となっていた。
【0005】
本発明は、上記課題を鑑みてなされたものであり、加工における熱変位を制御し、加工の高精度化を図ることができる工作機械の制御方法および制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(工作機械の制御方法)
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の工作機械の制御方法に係る発明の構成上の特徴は、
支持体と当該支持体に移動可能に支持される移動体とを有し、制御データに基づいて加工を行う工作機械の制御方法において、
前記支持体に複数設定された検査位置の温度を取得する温度取得工程と、
複数の前記検査位置における温度に基づいて前記支持体の温度分布を作成する温度分布作成工程と、
前記温度分布における温度差が予め設定された閾値を超えた場合に、前記支持体に熱変位が生じているものと判定する判定工程と、
前記制御データにおける加工動作を分割し複数の動作経路を作成する動作経路作成工程と、
前記判定工程において前記支持体に熱変位が生じているものと判定された場合に、未加工の前記動作経路の順序を前記温度分布に基づいて変更する経路変更工程と、
を備えることである。
【0007】
請求項2に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1において、前記経路変更工程は、未加工の前記動作経路を連結した場合の連結距離に基づいて、前記動作経路の順序を変更することである。
【0008】
請求項3に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1または2において、前記経路変更工程は、前記温度分布における未加工の前記動作経路の温度状態に基づいて、前記動作経路の順序を変更することである。
【0009】
請求項4に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1〜3の何れか一項において、前記判定工程は、前記温度分布を区画した区画領域における最高温度と最低温度の差分を前記温度差として判定することである。
【0010】
請求項5に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1〜4の何れか一項において、前記判定工程において前記支持体に熱変位が生じているものと判定された場合に、順序を変更された前記動作経路に含まれる加工の動作変数を変更する動作変数変更工程をさらに備えることである。
【0011】
請求項6に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1〜5の何れか一項において、前記判定工程において前記支持体に熱変位が生じているものと判定された場合に、順序を変更された前記動作経路に基づく加工を一定時間の間だけ停止する加工一時停止工程をさらに備えることである。
【0012】
請求項7に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1〜6の何れか一項において、前記動作経路作成工程は、前記制御データに含まれる非加工指令コードに基づいて、前記制御データにおける加工動作を分割し複数の前記動作経路を作成することである。
【0013】
請求項8に記載の発明の構成上の特徴は、請求項1〜7の何れか一項において、前記温度分布作成工程は、前記支持体に対する前記移動体の移動方向の温度分布を作成することである。
【0014】
(工作機械の制御装置)
上記の課題を解決するため、請求項9に記載の工作機械の制御装置に係る発明の構成上の特徴は、
支持体と当該支持体に移動可能に支持される移動体とを有し、制御データに基づいて加工を行う工作機械の制御装置において、
前記支持体に複数設定された検査位置の温度を取得する温度取得手段と、
複数の前記検査位置における温度に基づいて前記支持体の温度分布を作成する温度分布作成手段と、
前記温度分布における温度差が予め設定された閾値を超えた場合に、前記支持体に熱変位が生じているものと判定する判定手段と、
前記制御データにおける加工動作を分割し複数の動作経路を作成する動作経路作成手段と、
前記判定手段において前記支持体に熱変位が生じているものと判定された場合に、未加工の前記動作経路の順序を前記温度分布に基づいて変更する経路変更手段と、
を備えることである。
【発明の効果】
【0015】
請求項1に係る発明によると、経路変更工程は、未加工の動作経路の順序を温度分布に基づいて変更する構成としている。この動作経路とは、制御データにおける加工動作を分割したものである。つまり、制御データは、動作経路作成工程により複数の動作経路に予め分割されていることになる。このような構成とすることにより、工作機械の支持体に熱変位が生じているものと判定された場合に、例えば、未加工の動作経路のうち熱変位の影響が小さい動作領域を加工する動作経路を優先するように順序を変更する。これにより、先に加工対象となった動作経路では、支持体の熱変位が小さいため高精度に加工を行うことができる。さらに、この動作経路により支持体の部位が発熱したとしても、熱変位が生じている部位への影響も抑制することができる。従って、熱変位が生じている支持体の部位の放熱を促進することができる。
【0016】
また、工作機械の熱変位補正に本発明の制御方法を適用することにより、工作機械による加工において発生する支持体の熱変位を均一化することができる。これにより、温度分布における温度の偏りを低減することになり、支持体の局所的な温度上昇を抑制することができる。よって、支持体の熱変形に伴う熱変位量を小さくすることができる。従って、従来と比較して支持体の熱変位を補正しやすくすることができるとともに、工具の姿勢の変化量を小さくすることができる。このような構成により、これまで工具の姿勢の変化量が大きくなり、加工の一時停止が必要となっていた加工動作であっても、分割した動作経路の順序を変更することにより一時停止することなく加工することが可能となる。これにより、結果として加工のサイクルタイムを短縮することができる。
【0017】
請求項2に係る発明によると、経路変更工程は、未加工の動作経路を連結した場合の連結距離に基づいて、動作経路の順序を変更する構成としている。経路変更工程は、動作経路作成工程により制御データにおける加工動作を分割して作成される複数の動作経路の順序を変更する。この時、例えば、次の動作経路として、温度分布において温度が上昇している領域から離間している動作経路に変更するものとする。この場合に、現在の加工位置からその動作経路を連結した連結距離が小さい動作経路を優先して加工するように順序を変更する。これにより、各動作経路の間を移動する時間を短縮することができる。
【0018】
請求項3に係る発明によると、経路変更工程は、温度分布における未加工の動作経路の温度状態に基づいて、動作経路の順序を変更する構成としている。経路変更工程は、動作経路作成工程により制御データにおける加工動作を複数に分割して作成される複数の動作経路の順序を変更する。この時、例えば、次の動作経路として、温度分布において温度が上昇している領域に含まれない動作経路に変更するものとする。この場合に、各動作経路の温度状態を温度分布から取得し、加工領域の温度が低い動作経路を優先するように順序を変更する。これにより、既に温度が上昇している領域を加工予定としている未加工の動作経路が優先されることを防止することができる。よって、工作機械による加工において発生する支持体の熱変位を均一化することができる。
【0019】
請求項4に係る発明によると、判定工程は、温度分布を区画した区画領域における最高温度と最低温度の差分を温度差として判定する構成としている。この区画領域は、工作機械の種々の構成により、その位置および大きさを適宜設定されるものである。そして、判定工程は、温度分布のある区画領域内の温度差が閾値を超えている場合に、支持体に熱変位が生じているものと判定する。これにより、温度分布の温度の偏りを検知することができる。そして、支持体に局所的な温度上昇があった場合に、熱変位が生じているものと確実に判定することができる。
【0020】
請求項5に係る発明によると、動作変数変更工程は、判定工程において支持体に熱変位が生じているものと判定された場合に、順序を変更された動作経路に含まれる加工の動作変数を変更する構成としている。これにより、例えば、動作経路に含まれる加工速度や送り速度などの動作変数を変更し、工作機械の負荷を軽減する加工条件とすることができる。よって、支持体における発熱をより確実に抑制することができる。従って、経路変更工程および動作変数変更工程により、支持体の熱変位を均一化し、熱変位を補正しやすくすることができる。
【0021】
請求項6に係る発明によると、加工一時停止工程は、判定工程において支持体に熱変位が生じているものと判定された場合に、順序を変更された動作経路に基づく加工を一定時間の間だけ停止する構成としている。これにより、例えば、支持体の局所的な温度上昇があった場合に、熱変位が生じている支持体の部位の放熱を促進することができる。よって、支持体の熱変形による工具の姿勢が変動しても、温度分布に基づいて熱変位が生じているものと判定し、加工精度が低下することを防止することができる。
【0022】
請求項7に係る発明によると、動作経路作成工程は、制御データに含まれる非加工指令コードに基づいて、制御データにおける加工動作を分割し複数の動作経路を作成する構成としている。制御データには、工作物に対して工具を接触させるように各駆動軸に移動指令する加工指令コードと、工作物に対して工具が非接触となるように各駆動軸に移動指令する非加工指令コードが含まれる。そこで、動作経路作成工程は、この非加工指令コードを認識することにより、例えば、特定の非加工指令コードの前側または後側で制御データを複数の動作経路に分割するものとしてもよい。これにより、簡易に適正な位置で制御データにおける加工動作を分割することができる。
【0023】
請求項8に係る発明によると、温度分布作成工程は、支持体に対する移動体の移動方向の温度分布を作成する構成としている。支持体は、工作機械の加工や環境温度の変化などの熱影響により変形する。特に、支持している移動体が移動することによる発熱が支持体の変形に大きく影響している。そこで、温度分布作成工程が少なくとも移動体の移動方向の温度分布を作成することにより、経路変更工程が支持体の摺動面における温度分布として動作経路を変更することができる。つまり、本発明を支持体の摺動面の熱変形に対して適用し、より適切な支持体の熱変位の補正を行うことができる。
【0024】
請求項9に係る発明によると、経路変更手段は、未加工の動作経路の順序を温度分布に基づいて変更する構成としている。このような構成とすることにより、工作機械の支持体に熱変位が生じているものと判定された場合に、例えば、未加工の動作経路のうち熱変位の影響が小さい動作領域を加工する動作経路を優先するように順序を変更する。これにより、先に加工対象となった動作経路では、支持体の熱変位が小さいため高精度に加工を行うことができる。さらに、この動作経路により支持体の部位が発熱したとしても、熱変位が生じている部位への影響も抑制することができる。従って、熱変位が生じている支持体の部位の放熱を促進することができる。
【0025】
また、工作機械の熱変位の補正に本発明の制御装置を適用することにより、工作機械による加工において発生する支持体の熱変位を均一化することができる。これにより、従来と比較して支持体の熱変位を補正しやすくすることができるとともに、工具の姿勢の変化量を小さくすることができる。つまり、支持体の局所的な温度上昇を抑制することにより、支持体の熱変形に伴う熱変位量を全体として小さくすることができる。従って、これまで加工の一時停止が必要となっていた動作経路であっても、動作経路を変更することにより一時停止することなく加工することが可能となり、サイクルタイムを短縮することができる。
【0026】
また、本発明の工作機械の制御方法としての他の特徴部分について、本発明の工作機械の制御装置に同様に適用可能である。そして、この場合における効果についても、上記工作機械の制御方法としての効果と同様の効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】工作機械1の全体図である。
【図2】制御装置50を示すブロック図である。
【図3】制御装置50による熱変位制御を説明するフローチャートである。
【図4】動作経路と温度分布の関係を示す図である。(a)はサドル20の可動範囲における動作経路の位置関係を示す図であり、(b)は温度分布における高温領域と常温領域を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の工作機械の制御方法および制御装置を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。工作機械として、3軸マシニングセンタを例に挙げて説明する。つまり、当該工作機械は駆動軸として、相互に直交する3つの直進軸(X,Y,Z軸)を有する工作機械である。
【0029】
<実施形態>
第一実施形態の工作機械1の熱変位補正装置について図1,図2を参照して説明する。図1は、工作機械1の全体図である。図2は、制御装置50を示すブロック図である。
【0030】
(工作機械1の構成)
工作機械1は、図1に示すように、ベッド2と、コラム10(本発明の「支持体」に相当する)と、サドル20(本発明の「移動体」に相当する)と、主軸基体30と、テーブル40と、制御装置50とを備える。ベッド2は、上面にZ軸方向(床面に平行な方向)のレールが形成され、床面に設置されている。工作物Wは、工作機械1によって加工される被加工部材である。
【0031】
コラム10は、ベッド2の上面に立設するように固定され、サドル20を支持する支持体である。このコラム10が工作機械1の加工や環境温度の変化などの熱影響により変形することから、コラム10の熱変形に伴うサドル20の熱変位が生じることがある。そこで、制御装置50は、コラム10の熱変形およびサドル20の熱変位などを抑制するように、動作経路の変更などの熱変位制御を行う。詳細については後述する。
【0032】
また、コラム10は、複数の温度センサ11と、レール12を有している。温度センサ11は、制御装置50が熱変位制御を行うために、コラム10の内部に複数配置されている。複数の温度センサ11は、コラム10のX軸方向に3箇所、Y軸方向に5箇所の計15箇所に設定された検査位置に配置されている。そして、それぞれの温度センサ11は、コラム10における各検査位置の温度を検知して、温度に応じた信号を制御装置50に出力している。
【0033】
レール12は、コラム10の側面においてY軸方向(床面に垂直な方向)に延伸するように形成されている。サドル20は、コラム10のレール12上に設けられ、コラム10に対してY軸方向に移動可能な移動体である。このサドル20は、コラム10に固定されたY軸モータ(図示しない)の回転駆動によりY軸方向へ摺動する。本実施形態では、Y軸方向のレール12が形成されたコラム10の側面を、サドル20が摺動するコラム10の摺動面10aとしている。またサドル20は、側面にX軸方向(床面に平行な方向)に延伸するようにレール21が形成されている。
【0034】
主軸基体30は、主軸頭31と、回転主軸32と、工具33とを有し、サドル20のレール21上に設けられている。主軸基体30は、サドル20に対してX軸方向に移動可能な送り台である。主軸頭31は、X軸方向のガイド溝が形成され、サドル20のレール21に摺動可能に嵌合されている。そして、主軸頭31は、サドル20に固定されたX軸モータ(図示しない)の回転駆動により主軸基体30全体をX軸方向へ移動する。
【0035】
回転主軸32は、主軸頭31のハウジング内に収容された主軸モータにより回転可能に設けられ、工具33を支持している。工具33は、主軸基体30の回転主軸32の先端に固定されている。つまり、工具33は、回転主軸32の回転に伴って回転する。なお、工具33は、例えば、ボールエンドミル、エンドミル、ドリル、タップなどである。つまり、この3軸マシニングセンタである工作機械1は、工具33をベッド2に対してX軸方向およびY軸方向に移動可能としている。そして、工作機械1は、工作物WをZ軸方向に移動可能としている。
【0036】
テーブル40は、ベッド2のZ軸方向のレール上に設けられ、ベッド2に対してZ軸方向に移動可能な送り台である。このテーブル40は、ベッド2に固定されたZ軸モータ(図示しない)の回転駆動によりZ軸方向へ移動する。また、テーブル40には、所定位置に工作物Wを固定する治具41設置されている。
【0037】
これにより、工作物Wは、テーブル40のZ軸方向への移動に伴ってベッド2に対してZ軸方向に移動する。このような工作機械1においては、制御装置50による指令位置に基づいて、サドル20、主軸基体30、および、テーブル40が指令位置に移動するように制御される。これにより、工作物Wに対して工具33を相対移動させて加工を行っている。
【0038】
制御装置50は、制御データに基づいて、各軸モータおよび主軸モータなどを制御する。これにより、工作機械1による加工が行われる。制御データは、工作機械1に入力されるNCデータなどの加工データであり、加工の動作変数や加工指令コード、非加工指令コードなどを含んでいる。加工の動作変数は、加工速度や送り速度、主軸の回転速度などの加工条件などである。このような制御データにはサドル20および主軸基体30の指令位置が含まれ、これらにより移動体であるサドル20の加工動作が構成されている。
【0039】
また、制御装置50は、工作機械1の熱影響によりコラム10の各部位における熱変位を制御する制御装置である。そのため、制御装置50は、コラム10の温度分布に応じて、制御データにおける加工動作を予め分割して作成した複数の動作経路の順序を変更し、熱変位の制御を行っている。つまり、未加工の動作経路のうち熱変位の影響が小さい動作領域を加工する動作経路を優先して加工することにより、熱変位を抑制するとともに、加工の高精度化を図っている。以下、工作機械1の制御装置50のうち、本発明の特徴的な部分の構成について説明する。
【0040】
制御装置50は、図2に示すように、制御部51と、温度取得部52と、温度分布作成部53と、判定部54と、動作経路作成部55と、動作経路変更部56と、動作変数変更部57と、加工一時停止部58を有する数値制御装置である。ここで、制御部51、温度取得部52、温度分布作成部53、判定部54、動作経路作成部55、動作経路変更部56、動作変数変更部57および加工一時停止部58は、それぞれ個別のハードウエアによる構成することもできるし、ソフトウエアによりそれぞれ実現する構成とすることもできる。
【0041】
制御部51は、入力される制御データに基づいて各軸モータおよび主軸モータなどを制御する。これにより、制御装置50は、サドル20、主軸基体30、および、テーブル40を移動するように制御し、工作物Wに対して回転駆動させた工具33を相対移動させて加工を行っている。
【0042】
温度取得部52は、コラム10に複数設定された検査位置の温度を取得する温度取得手段である。つまり、各検査位置に配置された温度センサ11により測定された温度を取得している。温度分布作成部53は、温度取得部52が取得した複数の検査位置における温度に基づいてコラム10の温度分布を作成する温度分布作成手段である。本実施形態において、この温度分布は、コラム10の摺動面10aの温度に対応している。これは、図1に示すように、移動体であるサドル20がレール21を有し、主軸基体30を支持しているためである。つまり、本実施形態の熱変位制御では、サドル20に対して主軸基体30が摺動することによる発熱についても考慮し、コラム10の摺動面10a(XY平面)に対応した温度分布を作成している。
【0043】
判定部54は、温度分布における温度差が予め設定された閾値を超えた場合に、コラム10に熱変位が生じているものと判定する判定手段である。判定部54は、温度分布を区画した区画領域における最高温度と最低温度の差分を温度分布における温度差としている。この区画領域は、工作機械1の種々の構成や制御データにおけるコラム20の動作領域などよって、その位置および大きさを適宜設定されるものである。本実施形態において、区画領域は、コラム10の摺動面10aを24等分に区画した領域としている。つまり、この区画領域内における温度差が閾値を超えた場合には、温度分布に温度の偏りがあることになる。一方で、全体の温度が常温よりも高い場合であっても、区画領域内の温度差が閾値以下の場合には、比較的均一な温度分布となっている。
【0044】
動作経路作成部55は、制御データにおける加工動作を分割し複数の動作経路を作成する動作経路作成手段である。この動作経路とは、制御データの加工指令コードにより工作物Wに対して工具33が相対移動する加工動作について、所定条件により加工の動作パターンとして分割した制御データの一部分である。複数の動作経路を作成する際の所定条件としては、制御データに含まれる特定の指令コードの有無を条件として分割するものとしてもよい。
【0045】
そこで、本実施形態の動作経路作成部55は、制御データに含まれる非加工指令コードに基づいて、複数の動作経路を作成する構成としている。制御データには、工作物Wに対して工具33を接触させるように各駆動軸に移動指令する加工指令コードと、工作物Wに対して工具33が非接触となるように各駆動軸に移動指令する非加工指令コードが含まれる。そこで、動作経路作成部55は、非加工指令コードであり早送りに使用される位置決めのGコード(G00)を認識することにより、制御データにおける加工動作を分割している。
【0046】
動作経路変更部56は、判定部54においてコラム10に熱変位が生じているものと判定された場合に、未加工の動作経路の順序を温度分布に基づいて変更する経路変更手段である。例えば、工作機械1が複数の動作経路に分割された制御データに基づいて加工している際にコラム10の熱変位が生じたとする。この時、動作経路変更部56は、未加工の動作経路のうち次に加工を行うのに適した動作経路が優先されるように順序を変更するものである。次の加工に適した動作経路として、例えば、現在の加工位置から離間し、発生したコラム10の熱変位の影響が小さい動作領域を加工する動作経路が優先される。
【0047】
さらに、動作経路変更部56は、未加工の動作経路を連結した場合の連結距離に基づいて、動作経路の順序を変更する構成としている。つまり、現在の加工位置から離間している動作経路が複数ある場合には、未加工の動作経路を加工した際に要する時間が短くなるように、熱変位を制御しつつ各駆動軸の移動距離を最小に抑えるようにしている。動作経路変更部56による動作経路の順序の変更の詳細については後述する。
【0048】
動作変数変更部57は、判定部54においてコラム10に熱変位が生じているものと判定された場合に、順序を変更された動作経路に含まれる加工の動作変数を変更する動作変数変更手段である。例えば、工作機械1が所定の動作経路に基づいて加工している際にコラム10の熱変位が生じたとする。この時、動作変数変更部57は、この動作経路の加工における発熱を抑制するように、加工の動作変数を段階的に変更するものである。動作変数の変更として、例えば、加工速度のオーバーライドや主軸の回転速度の変更などが考えられる。また、動作変数変更部57は、判定部54においてコラム10の熱変位の熱変位量が減少したものと判定された場合には、変更した動作変数を制御データに含まれる元の設定値に戻すように変更する。
【0049】
加工一時停止部58は、判定部54においてコラム10に熱変位が生じているものと判定された場合に、順序を変更された動作経路に基づく加工を一定時間の間だけ停止する加工一時停止手段である。例えば、工作機械1が所定の動作経路に基づいて加工している際にコラム10の熱変位が生じたとする。この時、加工一時停止部58は、この熱変位が生じているコラム10の部位の放熱を促進するように、加工を一定時間の間だけ停止する。この一定時間については、工作機械1の種々の構成による放熱の状態を勘案して適宜設定されるものであり、本実施形態では十数秒〜数分の間で設定される。
【0050】
(熱変位制御)
以下、制御装置50による工作機械1の熱変位制御について、図3,図4を参照して説明する。図3は、制御装置50による熱変位制御を説明するフローチャートである。図4は、動作経路と温度分布の関係を示す図である。図4(a)はサドル20の動作領域における動作経路の位置関係を示す図であり、図4(b)は温度分布における高温領域と常温領域を示す図である。また、本実施形態における熱変位制御は、熱影響によるコラム10の熱変形に伴うサドル20の熱変位を制御の対象として説明する。
【0051】
先ず、動作経路作成工程において、工作機械1の制御装置50に入力された制御データを複数の動作経路に分割する(S11)。そこで、動作経路作成部55は、制御データの分割位置の候補として、制御データに含まれる非加工指令コードを検索する。そして、制御データにおける非加工指令コードに基づいて、適宜制御データにおける加工動作を分割し、制御データの一部分である複数の動作経路を作成する。この時点では、複数の動作経路の順序は制御データに含まれる状態のままであり変更されていない。
【0052】
また、この時、動作経路作成部55は、各動作経路について、図4(a)に示すように、その動作経路による加工の動作領域がコラム10の摺動面10aにおけるどの範囲にあるのかを関連付けている。これにより、各動作領域は、サドル20の可動範囲に対して位置付けされる。制御装置50は、動作経路作成工程において複数の動作経路が作成された後、制御部51が最初の動作経路に基づいて各軸モータおよび主軸モータなどを制御し工作物Wの加工を開始する。
【0053】
次に、温度取得工程および温度分布作成工程において、図4(b)に示すように、コラム10に複数設定された検査位置の温度を取得するとともにコラム10の温度分布を作成する(S12)。温度取得部52は、加工中において複数の温度センサ11がそれぞれ測定した温度を取得する。温度分布作成部53は、各検査位置の温度に基づいて、各検査位置の間の温度を適宜補間して温度分布を作成する。この温度分布は、コラム10の摺動面10a、即ちサドル20の可動範囲の温度に対応している。
【0054】
続いて、判定工程において、温度分布における温度差と予め設定された閾値Thとを比較し、コラム10における熱変位の有無を判定する(S13)。そこで、判定部54は、温度分布を区画した区画領域における最高温度と最低温度の差分を温度差として、各区画領域内の温度差と閾値Thとを比較する。これにより、何れかの区画領域内の温度差も閾値Th以下であった場合(S13:Yes)は、熱変位制御が不要と判定され、現在加工している加工経路による加工が終了したら次ステップである加工終了判定(S14)に移行する。
【0055】
一方で、複数の区画領域における温度差が閾値Thを超えた場合(S13:No)は、コラム10に熱変位が生じているものと判定され、熱変位制御を行うために経路変更(S21)に移行する。また、判定工程における閾値Thは、制御装置50による熱変位制御が必要とされる程度の熱変位がコラム10に発生しているものと判定するための値に設定されている。
【0056】
S14の加工終了判定では、未加工の動作経路の有無により、入力された制御データに基づく加工が終了したかを判定する。全ての動作経路について加工が終了した場合(S14:Yes)は、加工および熱変位制御を終了する。一方で、未加工の動作経路が残っている場合(S14:No)は、次の動作経路による加工を開始し、S12の温度分布作成に戻る。
【0057】
ここで、上述したような複数の動作経路に基づく加工が行われ、コラム10に熱変位が生じたものとする。そうすると、S13の判定工程において、温度分布における温度差が閾値Thを超えることになり、コラム10に熱変位が生じているものと判定され(S13:No)、熱変位制御を行うために経路変更(S21)に移行する。また、例えば、この時点で残っている未加工の動作経路の数を6とすると、その順序を元の制御データにおける加工動作の順に動作経路Pt1〜Pt6となる。各動作経路Pt1〜Pt6は、動作経路作成部55によりコラム10の摺動面10aに関連付けされ、図4(a)に示すような位置関係となっている。
【0058】
工作機械1による加工において、コラム10に熱変位が生じた場合に、経路変更工程において、未加工の動作経路の順序を温度分布に基づいて変更する(S21)。つまり、動作経路変更部56は、現在加工している動作経路の動作領域に熱変位が発生しているため、この熱変位の影響が小さい動作領域を加工する動作経路を優先するように順序を変更する。このように、制御装置50は、熱変位が発生した動作領域の放熱を促すとともに、次に加工する動作経路の高精度化を図るように熱変位制御を行うものである。また、動作経路変更部56は、未加工の動作経路を連結した場合の連結距離に基づいて、動作経路の順序を変更している。
【0059】
ここで、S21における動作経路の順序の変更について、図4(a)(b)を参照して説明する。また、図4(b)では、高温域Htのうち、より高温の検査位置を密な斜線を施した楕円で示し、それ以外の検査位置を疎な斜線を施した楕円で示している。そして、常温域Ntの検査位置は、斜線なしの楕円で示している。
【0060】
動作経路変更部56は、取得した温度分布について、所定の温度以上となっている領域である高温域Htと、それ以外の温度が上昇していない領域である常温域Ntに区分する。これにより、未加工の動作経路Pt1〜Pt3は高温域Htに属し、動作経路Pt4〜Pt6は常温域Ntに属することになる。よって、動作経路変更部56は、動作経路Pt4〜Pt6を優先するように順序を変更する。動作経路変更部56は、動作経路Pt4〜Pt6から高温域Htに最も近接している動作経路を検出する。ここでは、図4(b)に示すように、動作経路Pt4が高温域Htに最も近接していることから、動作経路変更部56は、動作経路Pt4〜Pt6のうち動作経路Pt4を最後に加工するように順序を設定する。
【0061】
次に、動作経路変更部56は、常温域Ntに属する動作経路のうち最後に加工するように設定された動作経路Pt4に最も近接した動作経路を検出する。ここでは、図4(b)に示すように、動作経路Pt6が動作経路Pt4に最も近接していることから、動作経路変更部56は、動作経路Pt5,Pt6のうち動作経路Pt6を動作経路Pt4の直前に加工するように順序を設定する。動作経路変更部56は、同様に、常温域Ntに属する動作経路のうち上記のように順序が設定された動作経路Pt6に最も近接した動作経路を検出する。ここでは、残っている動作経路Pt5が検出され、動作経路変更部56は、動作経路Pt5を動作経路Pt6の直前に加工するように順序を設定する。これにより、常温域Ntに属する動作経路は、動作経路Pt5、動作経路Pt6、動作経路Pt4の順序となるように変更される。
【0062】
続いて、動作経路変更部56は、高温域Htに属する動作経路Pt1〜Pt3についても常温域Ntの場合と同様に順序を変更する。この場合、動作経路変更部56は、動作経路Pt1〜Pt3から高温域Htの中心部Cまたは最高温度の部位に最も接近している動作経路を検出する。この中心部Cは、高温域Htに含まれる検査位置の外接円の中心に相当する。ここでは、図4(b)に示すように、動作経路Pt2が高温域Htの中心部Cに最も近接していることから、動作経路変更部56は、動作経路Pt1〜Pt3のうち動作経路Pt2を最後に加工するように順序を設定する。同様に、動作経路変更部56は、残りの動作経路Pt1,Pt3についても順序を設定する。これにより、高温域Htに属する動作経路は、動作経路Pt1、動作経路Pt3、動作経路Pt2の順序となるように変更される。
【0063】
このように、S21において、動作経路変更部56は、高温域Htに属する動作経路よりも常温域Ntに属する動作経路を優先して順序を変更する。さらに、動作経路変更部56は、未加工の動作経路を連結した場合の連結距離が最小となるように変更する順序を設定している。
【0064】
S21における動作経路の順序を変更する経路変更工程は、現在の動作経路に基づく加工を終える前に実行される。そして、その動作経路による加工が終了すると、S21の経路変更において優先された動作経路Pt5による加工を開始する。動作経路Pt5による加工が開始されると、温度取得工程および温度分布作成工程において、S12と同様に、複数の検査位置の温度を取得するとともにコラム10の温度分布を作成する(S22)。
【0065】
そして、判定工程において、温度分布における温度差と予め設定された閾値Thとを比較し、現在加工している動作経路Pt5の動作領域においてコラム10における熱変位の有無を判定する(S23)。そこで、判定部54は、温度分布を区画した区画領域のうち動作経路Pt5が属する区画領域における温度差と閾値Thとを比較する。ここでは、動作経路Pt5は、動作経路Pt5が常温域Ntに属する動作経路であることからも上記温度差は閾値Th以下と判定される(S23:Yes)。そして、動作経路Pt5による加工が終了したら次ステップである加工終了判定(S14)に移行する。
【0066】
S14の加工終了判定では、未加工の動作経路Pt1〜Pt4,Pt6が残っているため、次の動作経路Pt6による加工を開始し、S12の温度分布作成に移行する。S12の温度取得工程および温度分布作成工程では、複数の検査位置の温度を取得するとともに、温度分布を更新作成する。次に、S13の判定工程では、更新された温度分布に基づいてコラム10に熱変位が生じているかを判定する。
【0067】
ここで、動作経路Pt6までの加工によってコラム10に熱変位が生じている場合(S13:No)、S21の経路変更に移行し、更新された温度分布に基づいてさらに動作経路の順序を変更する。ここでは、先の動作経路までの加工により高温域Htに熱変位が生じているものと判定される(S13:No)。しかし、動作経路Pt6による加工によって新たにコラム10に熱変位が生じたものでなければ、上述したように動作経路の順序の変更が行われる。つまり、結果として、未加工の動作経路は先に変更した順序と同様の順序となる。
【0068】
そして、動作経路Pt6による加工が終了すると、S21の経路変更において優先された動作経路Pt4による加工を開始する。
動作経路Pt4による加工が開始されると、温度取得工程および温度分布作成工程において、複数の検査位置の温度を取得するとともにコラム10の温度分布を作成する(S22)。ここでは、動作経路Pt5と同様に、S23の判定工程では、動作経路Pt4が属する区画領域における温度差は閾値Th以下と判定される(S23:Yes)。そして、動作経路Pt4による加工が終了したら次ステップである加工終了判定(S14)に移行する。
【0069】
S14の加工終了判定では、未加工の動作経路Pt1〜Pt3が残っているため、次の動作経路Pt1による加工を開始し、S12の温度分布作成に移行する。S12の温度取得工程および温度分布作成工程では、複数の検査位置の温度を取得するとともに、温度分布を更新作成する。次に、S13の判定工程では、更新された温度分布に基づいてコラム10に熱変位が生じているかを判定する。
【0070】
ここで、常温域Ntに属する動作経路Pt4〜Pt6による加工を行っている間に、高温域Htが十分に放熱されることがある。その場合は、温度が低下してコラム10の熱変位が生じていない状態となり(S13:Yes)、動作経路Pt1による加工を終了するとともに、再び加工終了判定(S14)に移行する。ここでは、温度分布における何れかの区画領域における温度差が閾値Thを超えているものとし、即ちコラム10の熱変位が生じているものと判定され(S13:No)、経路変更(S21)に移行する。
【0071】
S21では、上述した手順と同様に未加工の動作経路Pt2,Pt3の順序が変更される。ここでは、先と同じ動作経路Pt3、動作経路Pt2の順序となるように設定されたものとする。そして、動作経路Pt1による加工が終了すると、S21の経路変更において優先された動作経路Pt3による加工を開始する。動作経路Pt3による加工が開始されると、温度取得工程および温度分布作成工程において、複数の検査位置の温度を取得するとともにコラム10の温度分布を作成する(S22)。
【0072】
そして、判定工程において、温度分布における温度差と予め設定された閾値Thとを比較し、現在加工している動作経路Pt3の動作領域においてコラム10における熱変位の有無を判定する(S23)。そこで、判定部54は、温度分布を区画した区画領域のうち動作経路Pt3が属する区画領域における温度差と閾値Thとを比較する。ここでは、動作経路Pt3は、動作領域Pt3が高温域Htに属する動作経路であることと、動作経路Pt1による加工に伴う発熱により上記温度差は閾値Thを超えているものと判定される。よって、コラム10に熱変位が生じているものと判定され(S23:No)、次ステップである動作変数変更(S31)に移行する。
【0073】
次に、動作変数変更工程において、順序を変更された動作経路Pt3に含まれる加工の動作変数を変更する(S31)。そこで、動作変数変更部57は、S22で更新作成された温度分布に基づいて、動作経路Pt3の加工範囲における温度を取得する。そして、動作変数変更部57は、動作経路Pt3の動作変数である加工速度に対して、取得した温度に応じたオーバーライドをかけて加工速度を低下させる。このようにして、制御装置50は、動作経路Pt1の加工における発熱を抑制し、コラム10の熱変位量が増加することを防止している。
【0074】
続いて、加工の動作変数が変更された動作経路Pt3による加工が終了すると、次ステップである加工終了判定(S32)に移行する。S32の加工終了判定では、S14と同様に、未加工の動作経路の有無により、入力された制御データに基づく加工が終了したかを判定する。全ての動作経路について加工が終了した場合(S32:Yes)は、加工および熱変位制御を終了する。ここでは、未加工の動作経路Pt2が残っているので(S32:No)、次の動作経路Pt2による加工が開始される。
【0075】
そして、温度取得工程および温度分布作成工程において、S12,S22と同様に、複数の検査位置の温度を取得するとともにコラム10の温度分布を作成する(S33)。そして、判定工程において、温度分布における温度差と予め設定された閾値Thとを比較し、現在加工している動作経路Pt2の動作領域においてコラム10における熱変位の有無を判定する(S34)。そこで、判定部54は、温度分布を区画した区画領域のうち動作経路Pt2が属する区画領域における温度差と閾値Thとを比較する。
【0076】
そして、S34の判定工程において、上記温度差が閾値Th以下と判定された場合(S34:Yes)、次ステップである動作変数の戻し処理(S35)に移行する。このような判定では、現在加工している動作経路の加工領域における熱変位量が減少したものと考えられる。そこで、S35において動作変数変更部57は、S33で更新作成された温度分布に基づいて、S31で変更した加工の動作変数を元の設定値に戻すように変更する処理を行う。ここで、熱変位量が十分に減少した場合には、加工の動作変数は元の設定値に戻すように変更される。一方で、熱変位量が僅かに減少したのみの場合には、加工の動作変数は僅かに元の設定値に戻すように変更される。
【0077】
動作変数変更部57により加工の動作変数の戻し処理が行われると、この動作変数が初期の設定値と等しいかを判定する(S36)。動作変数が初期の設定値と等しい場合(S36:Yes)、現在加工している動作経路Pt2による加工が終了したら動作変数変更工程を終了し、次ステップである加工終了判定S37に移行する。また、S36の判定において、動作変数が初期の設定値と等しくない場合(S36:No)、動作変数が変更された状態で動作経路Pt2による加工を行い、この加工が終了した後、S32の加工終了判定に戻る。
【0078】
S37の加工終了判定では、S14,S32と同様に、未加工の動作経路の有無により、入力された制御データに基づく加工が終了したかを判定する。ここでは、全ての動作経路について加工が終了したので(S37:Yes)、加工および熱変位制御を終了する。一方で、未加工の動作経路が残っている場合(S32:No)は、次の動作経路による加工を開始し、再びS22の温度分布作成に移行する。
【0079】
ここで、S34において、判定部54が動作経路Pt2が属する区画領域における温度差が閾値Thを超えているものと判定した場合(S34:No)は、工作機械1による加工を一時停止させる(S41)。そこで、加工一時停止部58は、順序を変更された動作経路Pt2に基づく加工を一定時間の間だけ停止する。これは、動作経路Pt2による加工において、加工の動作変数を変更しても熱変位量が一定値を超えて、工具33の姿勢が大きく変動している場合などが考えられる。そこで、動作経路Pt2に基づく加工を一時停止することにより、コラム10の放熱の促進を図っている。S34において、工作機械1は、一時停止の後、動作経路Pt2による加工を再開し、この加工が終了した後、S32の加工終了判定に戻る。
【0080】
このように、動作変数変更工程および加工一時停止工程が実行され、未加工の動作経路について順次加工が行われる。
そして、未加工であった動作経路Pt1〜Pt6による加工が全て終了すると、何れかの加工終了判定(S14,S32,S37)により判定され、工作機械1による加工および制御装置50による熱変位制御を終了する。また、上述した熱変位制御の判定工程(S13,S23,S34)では、温度差と予め設定された閾値Thを比較するものとした。これに対して、各判定工程における閾値Thは、それぞれ異なる値に設定するものとしてもよい。
【0081】
(制御装置50の効果)
上述した工作機械1の制御装置50によれば、動作経路変更部56は、未加工の動作経路の順序を温度分布に基づいて変更する構成としている。このような構成とすることにより、工作機械1のコラム10に熱変位が生じているものと判定された場合に、未加工の動作経路のうち熱変位の影響が小さい動作領域を加工する動作経路Pt4〜Pt6を優先するように順序を変更する。これにより、先に加工対象となった動作経路では、コラム10の熱変位が小さいため高精度に加工を行うことができる。さらに、この動作経路によりコラム10の部位が発熱したとしても、熱変位が生じている部位への影響も抑制することができる。従って、熱変位が生じているコラム10の部位の放熱を促進することができる。
【0082】
また、工作機械1の熱変位補正に本発明の制御方法を適用することにより、工作機械1による加工において発生するコラム10の熱変位を均一化することができる。これにより、温度分布における温度の偏りを低減することになり、コラム10の局所的な温度上昇を抑制することができる。よって、コラム10の熱変形に伴う熱変位量を小さくすることができる。従って、従来と比較してコラム10の熱変位を補正しやすくすることができるとともに、工具33の姿勢の変化量を小さくすることができる。このような構成により、これまで工具33の姿勢の変化量が大きくなり、加工の一時停止が必要となっていた加工動作であっても、分割した動作経路の順序を変更することにより一時停止することなく加工することが可能となる。これにより、結果として加工のサイクルタイムを短縮することができる。
【0083】
動作経路変更部56は、未加工の動作経路を連結した場合の連結距離に基づいて、動作経路の順序を変更する構成としている。動作経路変更部56は、複数の動作経路の順序を変更する際に、常温域Ntに属する動作経路Pt4〜Pt6について、現在の加工位置からその動作経路を連結した連結距離が小さい動作経路を優先して加工するように順序を変更する。これにより、各動作経路の間を移動する時間を短縮することができる。
【0084】
判定部54は、温度分布を区画した区画領域における最高温度と最低温度の差分を温度差として判定する構成としている。これにより、温度分布の温度の偏りを検知することができる。そして、コラム10に局所的な温度上昇があった場合に、熱変位が生じているものと確実に判定することができる。
【0085】
動作変数変更部57は、判定部54においてコラム10に熱変位が生じているものと判定された場合に、順序を変更された動作経路に含まれる加工の動作変数を変更する構成としている。これにより、動作経路に含まれる加工速度や送り速度などの動作変数を変更し、工作機械1の負荷を軽減する加工条件とすることができる。よって、コラム10における発熱をより確実に抑制することができる。従って、動作経路変更部56および動作変数変更部57により、コラム10の熱変位を均一化し、熱変位を補正しやすくすることができる。
【0086】
加工一時停止部58は、判定部54においてコラム10に熱変位が生じているものと判定された場合に、順序を変更された動作経路に基づく加工を一定時間の間だけ停止する構成としている。これにより、コラム10の局所的な温度上昇があった場合に、熱変位が生じているコラム10の部位の放熱を促進することができる。よって、コラム10の熱変形による工具33の姿勢が変動しても、温度分布に基づいて熱変位が生じているものと判定し、加工精度が低下することを防止することができる。
【0087】
動作経路作成部55は、制御データに含まれる非加工指令コードに基づいて、制御データにおける加工動作を分割し複数の動作経路を作成する構成としている。制御データには、加工指令コードと非加工指令コードが含まれている。そこで、動作経路作成部55は、この非加工指令コードを認識することにより、検出した非加工指令コードの前側または後側で制御データにおける加工動作を複数の動作経路に分割するものとした。これにより、簡易に適正な位置で制御データにおける加工動作を分割することができる。
【0088】
温度分布作成部53は、コラム10に対するサドル20の移動方向の温度分布を作成する構成としている。コラム10は、工作機械1の加工や環境温度の変化などの熱影響により変形する。特に、支持しているサドル20が移動することによる発熱がコラム10の変形に大きく影響している。そこで、温度分布作成部53が少なくともサドル20の移動方向の温度分布を作成することにより、動作経路変更部56がコラム10の摺動面10aにおける温度分布として動作経路を変更することができる。つまり、制御装置50は、コラム10の摺動面10aの熱変形に伴う熱変位を制御の対象とし、より適切なコラム10の熱変位の補正を行うことができる。
【0089】
<実施形態の変形態様>
実施形態において、動作経路変更部56は、未加工の動作経路を連結した場合の連結距離に基づいて、動作経路の順序を変更する構成とした。これに対して、動作経路変更部56は、温度分布における未加工の動作経路の温度状態に基づいて、動作経路の順序を変更する構成としてもよい。動作経路変更部56は、例えば、複数の動作経路の順序を変更する際に、次の動作経路として、温度分布において温度が上昇している領域に含まれない動作経路に変更するものとする。
【0090】
つまり、実施形態で例示した常温域Ntに属する動作経路Pt4〜Pt6について、各動作経路の加工領域における温度を勘案して順序を変更する。これは、例えば、それまでの加工により、未加工の動作経路Pt4〜Pt6の何れかの加工領域における温度が既に上昇している場合があり、そのような動作経路が優先されることを防止するためである。このような構成においても同様の効果を奏する。また、工作機械1による加工において発生するコラム10の熱変位を均一化することができる。
【0091】
動作経路変更部56は、その他に、動作経路に含まれる加工指令コードなどを解析し、その動作経路による工作機械1の負荷および発熱を予測するものとしてもよい。このように、動作経路変更部56は、未加工の動作経路の順序を変更する際に、連結距離や動作経路の加工領域の温度などの種々の要素について重み付けをして、適宜順序を変更するものとしてもよい。このような構成により、熱変位制御の対象における熱変位を均一化できるとともに、加工のサイクルタイムを短縮することができる。
【0092】
また、実施形態において、判定部54は、温度分布を24等分に区画した区画領域における最高温度と最低温度の差分を温度分布における温度差とした。これに対して、判定部54は、区画領域の位置および大きさを適宜設定し、温度分布における温度差と閾値Thを比較するものとしてもよい。また、判定部54は、例えば、温度分布における最高温度の部位を中心とする所定領域に含まれる最低温度との差分を温度差として判定してもよい。その他に、判定部54は、温度分布に形成した等温線の間隔に基づいて、支持体における熱変位の有無を判定してもよい。このような構成においても同様に、温度分布の温度の偏りを検知することができる。そして、支持体に局所的な温度上昇があった場合に、熱変位が生じているものと確実に判定することができる。
【0093】
実施形態において、動作経路作成部55は、非加工指令コードの前側または後側で制御データにおける加工動作を複数の動作経路に分割する構成とした。これに対して、動作経路作成部55は、非加工指令コードとして、位置決めのGコード(G00)の他に、例えば、工具交換コードやサブプログラムの呼び出しコード、固定サイクルの呼び出しコードなどとしてもよい。その他に、加工指令コードおよび加工の動作変数に基づいて加工時間や加工距離などを算出し、これらによって制御データにおける加工動作を複数の動作経路に分割するものとしてもよい。このような構成においても同様の効果を奏する。
【0094】
また、実施形態では、動作経路作成部55は、工作機械1による加工を開始する前に、複数の動作経路を作成するものとした。これに対して、例えば、加工中に温度分布に基づいて支持体の熱変位を検知し、その時点において入力されている制御データにおける加工動作を複数の動作経路に分割するものとしてもよい。これにより、同様の効果を奏するとともに、環境変化や加工による発熱に対して動的に対応することができる。
【0095】
実施形態において、温度分布作成部53は、コラム10の摺動面10aに対応した温度分布を作成するものとした。これに対して、例えば、移動体に対して主軸基体が固定されているような機械構成の場合には、移動体の移動方向のみの温度分布を作成するのみで足りる。このような構成においても本発明の制御方法および制御装置を適用することで、同様の効果を奏する。
【0096】
また、制御装置50による熱変位制御について、熱変形する支持体をコラム10とし、この支持体に支持される移動体をサドル20として説明した。これに対して、工具33または工作物Wを支持し、工作機械1の熱影響により熱変位が生じる部材であれば、本発明の熱変位制御を行う制御方法および制御装置を適用することができる。その他に、工作機械1は、3軸マシニングセンタを例に挙げて説明した。これに対して、工作機械1は、例えば、さらに回転軸(A,B軸)を有する5軸マシニングセンタとしてもよい。このような構成においても同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0097】
1:工作機械、 2:ベッド
10:コラム(支持体)、 10a:摺動面、 11:温度センサ、 12:レール
20:サドル(移動体)、 21:レール
30:主軸基体、 31:主軸頭、 32:回転主軸、 33:工具
40:テーブル、 41:治具
50:制御装置、 51:制御部、 52:温度取得部、 53:温度分布作成部
54:判定部、 55:動作経路作成部、 56:動作経路変更部
57:動作変数変更部、 58:加工一時停止部
W:工作物、 Pt1〜Pt6:動作経路、 Th:閾値

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体と当該支持体に移動可能に支持される移動体とを有し、制御データに基づいて加工を行う工作機械の制御方法において、
前記支持体に複数設定された検査位置の温度を取得する温度取得工程と、
複数の前記検査位置における温度に基づいて前記支持体の温度分布を作成する温度分布作成工程と、
前記温度分布における温度差が予め設定された閾値を超えた場合に、前記支持体に熱変位が生じているものと判定する判定工程と、
前記制御データにおける加工動作を分割し複数の動作経路を作成する動作経路作成工程と、
前記判定工程において前記支持体に熱変位が生じているものと判定された場合に、未加工の前記動作経路の順序を前記温度分布に基づいて変更する経路変更工程と、
を備えることを特徴とする工作機械の制御方法。
【請求項2】
請求項1において、
前記経路変更工程は、未加工の前記動作経路を連結した場合の連結距離に基づいて、前記動作経路の順序を変更することを特徴とする工作機械の制御方法。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記経路変更工程は、前記温度分布における未加工の前記動作経路の温度状態に基づいて、前記動作経路の順序を変更することを特徴とする工作機械の制御方法。
【請求項4】
請求項1〜3の何れか一項において、
前記判定工程は、前記温度分布を区画した区画領域における最高温度と最低温度の差分を前記温度差として判定することを特徴とする工作機械の制御方法。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
前記判定工程において前記支持体に熱変位が生じているものと判定された場合に、順序を変更された前記動作経路に含まれる加工の動作変数を変更する動作変数変更工程をさらに備えることを特徴とする工作機械の制御方法。
【請求項6】
請求項1〜5の何れか一項において、
前記判定工程において前記支持体に熱変位が生じているものと判定された場合に、順序を変更された前記動作経路に基づく加工を一定時間の間だけ停止する加工一時停止工程をさらに備えることを特徴とする工作機械の制御方法。
【請求項7】
請求項1〜6の何れか一項において、
前記動作経路作成工程は、前記制御データに含まれる非加工指令コードに基づいて、前記制御データにおける加工動作を分割し複数の前記動作経路を作成することを特徴とする工作機械の制御方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項において、
前記温度分布作成工程は、前記支持体に対する前記移動体の移動方向の温度分布を作成することを特徴とする工作機械の制御方法。
【請求項9】
支持体と当該支持体に移動可能に支持される移動体とを有し、制御データに基づいて加工を行う工作機械の制御装置において、
前記支持体に複数設定された検査位置の温度を取得する温度取得手段と、
複数の前記検査位置における温度に基づいて前記支持体の温度分布を作成する温度分布作成手段と、
前記温度分布における温度差が予め設定された閾値を超えた場合に、前記支持体に熱変位が生じているものと判定する判定手段と、
前記制御データにおける加工動作を分割し複数の動作経路を作成する動作経路作成手段と、
前記判定手段において前記支持体に熱変位が生じているものと判定された場合に、未加工の前記動作経路の順序を前記温度分布に基づいて変更する経路変更手段と、
を備えることを特徴とする工作機械の制御装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2011−161519(P2011−161519A)
【公開日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−23030(P2010−23030)
【出願日】平成22年2月4日(2010.2.4)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】