説明

工作機械の熱変位補正方法および熱変位補正装置

【課題】工作機械の電源投入直後からより高精度に熱変位補正が可能な工作機械の熱変位補正方法および熱変位補正装置を提供すること。
【解決手段】傾斜量取得部52は、電源投入(時点t0)直後に、コラム10に設定された傾斜検査点P1の傾斜量θaを直接取得するようにしているので、この傾斜量θaをもとにコールドスタート時に高精度な熱変位補正が可能となる。この傾斜量の取得はコラム10が移動しているときは困難であるが、温度変化量取得部55は、電源投入(時点t0)から所定時間(時点t1)経過後に、コラム10に設定された各温度検査点Pa0〜Pa5の温度分布の時間的変化量を取得するようにしているので、コラム10が移動していても温度分布の時間的変化量をもとに高精度な熱変位補正が可能となる。よって、加工のサイクルタイムのロスを解消することができ、加工効率を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械における熱変位補正方法および熱変位補正装置に関する。
【背景技術】
【0002】
工作機械は、制御装置により各駆動軸を位置制御することにより工作物の加工を行っている。この工作機械において、工具による加工やモータの回転等の内的要因による発熱および設置環境の室温変動等の外的要因による熱伝達により、移動体を支持する支持体が熱変形することがある。支持体の熱変形は、移動体の位置に影響を及ぼすため、加工精度の低下を招来するおそれがある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1には、以下の工作機械における熱変位補正方法が開示されている。この方法は、発熱源の影響を受ける支持体の温度分布の時間的変化を検出し、検出した温度分布の時間的変化を用いて、ある時定数等の熱特性を有する工作機械の熱変位の熱的挙動と略同じ挙動をするような温度分布の時間的変化を演算する。そして、算出した演算温度分布の時間的変化と上述の熱変位との関係を定める関数を用いて得た熱変位に基づいて加工誤差を補正する。
【0004】
しかし、特許文献1に記載の工作機械における熱変位補正方法では、工作機械の電源投入直後においては支持体の温度分布の時間的変化を得ることができないため、電源投入から所定時間は加工を開始せずに支持体の温度分布の時間的変化を検出しなければならず、加工効率の低下を招いている。
【0005】
そこで、例えば、特許文献2には、以下の工作機械における熱変位推定方法が開示されている。工作機械(旋盤)の機体には、工作機械の熱変形時定数よりも小さい温度時定数を有する第1基準ブロックと、工作機械の熱変形時定数よりも大きい温度時定数を有する第2基準ブロックとが設けられている。各基準ブロックの温度測定値の差に係数を乗じ、その値に第2基準ブロックの温度測定値を加算して工作機械の電源投入直後の推定用暫定値を求める。そして、この推定用暫定値に係数を乗じて熱変位量を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−108992号公報(段落0010、図1)
【特許文献2】特開2001‐269840号公報(段落0008,0009、図2)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の特許文献2に記載の工作機械における熱変位推定方法では、工作機械の電源投入直後から加工を行うことができるため、加工効率を向上させることができる。ところが、工作機械の電源投入直後の熱変位量を温度時定数が異なる2種類の基準ブロックを用いて推定しているため、得られる熱変位量の精度に限界がある。よって、より高精度な熱変位補正が必要な場合は適用できないという問題がある。
【0008】
本発明は上記課題を鑑みてなされたものであり、工作機械の電源投入直後からより高精度に熱変位補正が可能な工作機械の熱変位補正方法および熱変位補正装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(工作機械の熱変位補正方法)
上記の課題を解決するため、請求項1に記載の工作機械の熱変位補正方法に係る発明の構成上の特徴は、
工作機械の基台に支持された支持体と、当該支持体に移動可能に支持された移動体と、を備える工作機械の熱変位補正方法において、
電源投入時に、前記支持体に設定された傾斜検査点の傾斜量を取得する傾斜量取得工程と、
前記傾斜量に基づいて、前記移動体の指令位置に対する第1補正値を算出する第1補正値算出工程と、
前記第1補正値により前記移動体の前記指令位置を補正する第1補正工程と、
前記電源投入時から所定時間経過後に、前記支持体に設定された温度検査点の温度分布の時間的変化量を取得する温度変化量取得工程と、
前記温度分布の時間的変化量に基づいて、前記移動体の指令位置に対する第2補正値を算出する第2補正値算出工程と、
前記第2補正値により前記移動体の前記指令位置を補正する第2補正工程と、
を備えることである。
【0010】
(工作機械の熱変位補正装置)
上記の課題を解決するため、請求項2に記載の工作機械の熱変位補正装置に係る発明の構成上の特徴は、
工作機械の基台に支持された支持体と、当該支持体に移動可能に支持された移動体と、を備える工作機械の熱変位補正装置において、
電源投入時に、前記支持体に設定された傾斜検査点の傾斜量を取得する傾斜量取得手段と、
前記傾斜量に基づいて、前記移動体の指令位置に対する第1補正値を算出する第1補正値算出手段と、
前記第1補正値により前記移動体の前記指令位置を補正する第1補正手段と、
前記電源投入時から所定時間経過後に、前記支持体に設定された温度検査点の温度分布の時間的変化量を取得する温度変化量取得手段と、
前記温度分布の時間的変化量に基づいて、前記移動体の指令位置に対する第2補正値を算出する第2補正値算出手段と、
前記第2補正値により前記移動体の前記指令位置を補正する第2補正手段と、
を備えることである。
【0011】
請求項3に記載の発明の構成上の特徴は、請求項2において、
前記傾斜量取得手段は、前記傾斜検査点に配置された傾斜センサにより測定される傾斜量を取得し、温度変化量取得手段は、前記温度検査点に配置された温度センサにより測定される温度分布の時間的変化量を取得することである。
【発明の効果】
【0012】
請求項1に係る発明によると、傾斜量取得工程において、電源投入時に、支持体に設定された傾斜検査点の傾斜量を直接取得するようにしているので、この傾斜量をもとにコールドスタート時に高精度な熱変位補正が可能となる。この傾斜量の取得は支持体が移動しているときは困難であるが、温度変化量取得工程において、電源投入時から所定時間経過後に、支持体に設定された温度検査点の温度分布の時間的変化量を取得するようにしているので、支持体が移動していても温度分布の時間的変化量をもとに高精度な熱変位補正が可能となる。よって、加工のサイクルタイムのロスを解消することができ、加工効率を向上させることができる。
【0013】
また、本発明の工作機械の熱変位補正方法としての他の特徴部分について、本発明の工作機械の熱変位補正装置に同様に適用可能である。そして、この場合における効果についても、上記工作機械の熱変位補正方法としての効果と同様の効果を奏する。このとき、傾斜量取得手段は、傾斜検査点に配置された傾斜センサにより測定される傾斜量を取得し、温度変化量取得手段は、温度検査点に配置された温度センサにより測定される温度分布の時間的変化量を取得する簡易な構成となっている。傾斜センサとしては、例えば、水準器が用いられ、温度センサとしては、例えば、サーミスタが用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施の形態に係る工作機械の全体構成を示す斜視図である。
【図2】図1の工作機械の数値制御装置を示すブロック図である。
【図3】図1の工作機械のコラムの一部の概略側面図であり、傾斜センサおよび温度センサの取付位置を示す図である。
【図4】図1の工作機械のコラムの傾斜の時間的変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の工作機械の熱変位補正方法および熱変位補正装置を具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。工作機械として、3軸マシニングセンタを例に挙げて説明する。つまり、当該工作機械は駆動軸として、相互に直交する3つの直進軸(X,Y,Z軸)を有する工作機械である。実施形態の工作機械の熱変位補正装置について図1〜図3を参照して説明する。図1は、工作機械の全体図である。図2は、工作機械の数値制御装置(熱変位補正装置)を示すブロック図である。図3は、工作機械のコラムの一部の概略側面図である。
【0016】
工作機械1は、図1に示すように、ベッド2と、コラム10(本発明の「支持体」に相当する)と、サドル20(本発明の「移動体」に相当する)と、回転主軸30と、テーブル40と、図2に示す数値制御装置50(本発明の「熱変位補正装置」に相当する)とを備えている。工作物Wは、工作機械1によって加工される被加工部材である。ベッド2は、床面に設置されており、上面にX軸方向(水平方向)に延在する一対のレール3およびX軸方向と直交するZ軸方向(水平方向)に延在する一対のレール4が設けられている。
【0017】
コラム10は、底面にX軸方向に延在する一対のガイド溝10aが形成され、ベッド2に対してX軸方向に移動可能なように、一対のガイド溝10aがX軸方向に延在する一対のレール3上にボールガイド11を介して嵌め込まれ、底面がベッド2の上面に密接されている。このボールガイド11は、図3に示すように、上下左右の4箇所で45°の方向に支持するボール11aが配置されたガイドである。
【0018】
コラム10は、ベッド2に固定された図略のX軸モータの回転駆動によりレール3にガイドされながらベッド2の上面に沿ってX軸方向へ摺動する。このコラム10は、サドル20をY軸方向に摺動可能に支持する支持体であり、摺動面10b(X軸に平行な側面)にはX軸方向およびZ軸方向と直交するY軸方向(垂直方向)に延在する一対のレール5が設けられている。
【0019】
コラム10の摺動面10bに直交する側面10c(Z軸に平行な側面)には、熱変位補正を行うために、図3に示すように、1つの傾斜検査点P1が設定され、傾斜検査点P1には水準器等の傾斜センサ12(本発明の「傾斜センサ」に相当する)が取り付けられている。傾斜検査点P1は、ベッド2からコラム10の全高に対して、5割程度の高さに設定されている。傾斜センサ12は、設置された箇所において、コラム10の傾斜を検知して、傾斜に応じた信号を数値制御装置50に出力している。
【0020】
コラム10の摺動面10bおよび背面10dの内部には、熱変位補正を行うために、図3に示すように、複数(本例では6つ)のサーミスタ等の温度センサ14が設置されている。各温度センサ14は、コラム10の摺動面10bの内部において、基準温度検査点Pa0、第1温度検査点Pa1および第2温度検査点Pa2の3箇所、並びにコラム10の背面10dの内部において第3温度検査点Pa3、第4温度検査点Pa4および第5温度検査点Pa5の3箇所の計6箇所に設置されている。
【0021】
基準温度検査点Pa0、第1温度検査点Pa1および第2温度検査点Pa2は、ベッド2からコラム10の全高に対して、それぞれ2割程度の高さ、4割程度の高さおよび8割程度の高さに設定されている。第3温度検査点Pa3、第4温度検査点Pa4および第5温度検査点Pa5も、ベッド2からコラム10の全高に対して、それぞれ2割程度の高さ、4割程度の高さおよび8割程度の高さに設定されている。各温度センサ14は、設置された各箇所において、コラム10の温度を検知して、温度に応じた信号を数値制御装置50に出力している。
【0022】
このコラム10が工具による加工やモータの回転等の内的要因による発熱および設置環境の室温変動等の外的要因による熱伝達等の工作機械1の熱影響により熱変形することから、数値制御装置50は、コラム10の熱変形に伴う回転主軸30の先端もしくはサドル20の熱変位を補正の対象としている。本実施形態では、工作機械1の電源投入直後は、傾斜センサ12から取得した傾斜量に基づいて、コラム10の熱変形に伴う回転主軸30の先端もしくはサドル20の熱変位補正を行い、工作機械1の電源投入から所定時間経過後は、各温度センサ14から取得した温度分布の時間的変化量に基づいて、コラム10の熱変形に伴う回転主軸30の先端もしくはサドル20の熱変位補正を行うものとしている。
【0023】
サドル20は、コラム10の摺動面10bに対向する側面20bにY軸方向に延在する一対のガイド溝20aが形成され、コラム10に対してY軸方向に移動可能なように、一対のガイド溝20aがY軸方向に延在する一対のレール5に嵌め込まれ、側面20bがコラム10の摺動面10bに密接されている。サドル20は、コラム10に固定された図略のY軸モータの回転駆動によりレール5にガイドされながらコラム10の摺動面10bに沿ってY軸方向へ摺動する。このサドル20は、回転主軸30を軸回りで回転可能に支持してY軸方向に移動する移動体である。
【0024】
回転主軸30は、サドル20内に収容された図略の主軸モータにより回転可能に設けられ、工具31を支持している。工具31は、回転主軸30の先端に固定され、回転主軸30の回転に伴って回転する。また、工具31は、コラム10およびサドル20の移動に伴ってベッド2に対してX軸方向およびY軸方向に移動する。なお、工具31としては、例えば、ボールエンドミル、エンドミル、ドリル、タップ等である。
【0025】
テーブル40は、ベッド2に対してZ軸方向に移動可能なように、Z軸方向に延在する一対のレール4上に設けられている。テーブル40は、ベッド2に固定された図略のZ軸モータの回転駆動によりレール4にガイドされながらZ軸方向へ移動する。このテーブル40は、上面に工作物Wを固定する治具41が設置されており、工作物WをZ軸方向に移動する送り台である。このような工作機械1においては、制御装置50による指令位置に基づいて、コラム10、サドル20、および、テーブル40が指令位置に移動するように制御される。これにより、工作物Wに対して工具31を相対移動させて加工を行っている。
【0026】
数値制御装置50は、工作機械1の熱影響による熱変位を補正し、NCデータに基づいて各軸モータおよび主軸モータ等を制御する装置であり、以下、本発明の特徴的な部分の構成について説明する。数値制御装置50は、図2に示すように、制御部51と、傾斜量取得部52と、第1補正値算出部53と、第1補正部54と、温度変化量取得部55と、第2補正値算出部56と、第2補正部57と、メモリ58とを有する。ここで、制御部51、傾斜量取得部52、第1補正値算出部53、第1補正部54、温度変化量取得部55、第2補正値算出部56、および第2補正部57は、それぞれ個別のハードウエアによる構成することもできるし、ソフトウエアによりそれぞれ実現する構成とすることもできる。
【0027】
制御部51は、入力されるNCデータに基づいて各軸モータおよび主軸モータ等の駆動モータ60を制御する。これにより、数値制御装置50は、コラム10、サドル20、およびテーブル40を移動制御し、回転主軸30を回転制御し、工作物Wに対して回転駆動させた工具31を相対移動させて加工を行っている。
【0028】
上述したように、数値制御装置50は、コラム10の傾斜量および温度分布の時間的変化量に基づいて工作機械1の熱影響による熱変位を補正する熱変位補正装置である。つまり、図4に示すように、数値制御装置50は、電源投入(時点t0)直後は、コラム10の傾斜量θを測定し、電源投入(時点t0)から所定時間(時点t1)までは、測定した一定の傾斜量θaに基づいて既知の方法により工作機械1の熱影響によるコラム10の熱変形に対応した補正値を算出し、この補正値に基づいて制御部51による駆動モータ60の制御を補正することで初期の加工の高精度化を図っている。なお、所定時間(時点t1)とは、以下に説明するコラム10の温度分布の時間的変化量が取得可能となる時間である。
【0029】
そして、数値制御装置50は、電源投入(時点t0)から所定時間(時点t1)経過後は、コラム10の温度分布の時間的変化量を測定し、その温度分布の時間的変化量から既知の方法により推定したコラム10の傾斜の時間的変化量θ(t)に基づいて既知の方法により工作機械1の熱影響によるコラム10の熱変形に対応した補正値を逐次算出し、この補正値に基づいて制御部51による駆動モータ60の制御を補正することで加工途中からの高精度化を図っている。
【0030】
なお、温度分布の時間的変化量からコラム10の傾斜の時間的変化量θ(t)を推定する方法としては、例えば、第1温度検査点Pa1の温度分布の時間的変化量および第2温度検査点Pa2の温度分布の時間的変化量に基づいて、第1温度検査点Pa1と第2温度検査点Pa2との間の温度分布の時間的変化量を推定する。そして、第1、第2温度検査点Pa1,Pa2の間の温度分布の時間的変化量、距離および熱抵抗値等に基づいて、第1、第2温度検査点Pa1,Pa2の間の傾斜の時間的変化量θ(t)を推定する。この推定を各温度検査点Pa0〜Pa5について行い、コラム10の傾斜の時間的変化量θ(t)を推定する。
【0031】
傾斜量取得部52は、工作機械1の電源投入(時点t0)直後に、傾斜検査点P1の傾斜量θaを取得する傾斜量取得手段である。第1補正値算出部53は、傾斜量取得部52で取得したコラム10の傾斜量θaに基づいて、回転主軸30の先端もしくはサドル20の指令位置に対する補正値を算出する補正値算出手段である。この指令位置とは、制御部51が入力されるNCデータに基づいて各軸モータを制御するために出力する値である。第1補正部54は、第1補正値算出部53で算出した補正値により回転主軸30の先端もしくはサドル20の指令位置を補正する補正手段である。
【0032】
温度変化量取得部55は、工作機械1の電源投入(時点t0)から所定時間(時点t1)経過後に、6つの温度検査点Pa0〜Pa5の温度分布の時間的変化量を取得する温度変化量取得手段である。第2補正値算出部56は、温度変化量取得部55で取得したコラム10の温度分布の時間的変化量から推定したコラム10の傾斜の時間的変化量θ(t)に基づいて、回転主軸30の先端もしくはサドル20の指令位置に対する補正値を算出する補正値算出手段である。この指令位置とは、制御部51が入力されるNCデータに基づいて各軸モータを制御するために出力する値である。第2補正部57は、第2補正値算出部56算出した補正値により回転主軸30の先端もしくはサドル20の指令位置を補正する補正手段である。
【0033】
以上のような構成の数値制御装置50の動作を説明する。先ず、傾斜量取得工程において、工作機械1の電源投入(時点t0)直後に、コラム10の傾斜検査点P1の傾斜量θaを取得する。つまり、傾斜量取得部52は、工作機械1の電源投入(時点t0)直後に、傾斜検査点P1に取り付けられている傾斜センサ12からコラム10の傾斜量θaを取得する。
【0034】
そして、第1補正値算出工程において、コラム10の傾斜量θaに基づいて、回転主軸30の先端もしくはサドル20の指令位置に対する補正値を算出する。つまり、第1補正値算出部53は、傾斜量取得部52からコラム10の傾斜量θaを入力し、その傾斜量θaに基づいて既知の方法により回転主軸30の先端もしくはサドル20の傾斜量に換算して補正値を算出する。
【0035】
そして、第1補正工程において、補正値により回転主軸30の先端もしくはサドル20の指令位置を補正する。つまり、第1補正部54は、第1補正値算出部53から入力した補正値により制御部51が出力する指令位置を補正指令位置に補正する。これにより、コラム10の初期の熱変形に伴う回転主軸30の先端もしくはサドル20の熱変位を補正することとなり、コールドスタート状態での加工の高精度化を図っている。
【0036】
次に、温度変化量取得工程において、工作機械1の電源投入(時点t0)から所定時間(時点t1)経過後に、コラム10の各温度検査点Pa0〜Pa5の温度分布の時間的変化を取得する。つまり、温度変化量取得部55は、工作機械1の電源投入(時点t0)から所定時間(時点t1)経過後に、各温度検査点Pa0〜Pa5に取り付けられている温度センサ14からコラム10の温度分布の時間的変化量を取得する。
【0037】
そして、第2補正値算出工程において、コラム10の温度分布の時間的変化量から推定したコラム10の傾斜の時間的変化量θ(t)に基づいて、回転主軸30の先端もしくはサドル20の指令位置に対する補正値を算出する。つまり、第2補正値算出部53は、温度変化量取得部55からコラム10の温度分布の時間的変化量を入力し、その温度分布の時間的変化量からコラム10の傾斜の時間的変化量θ(t)を推定し、その傾斜の時間的変化量θ(t)に基づいて既知の方法により回転主軸30の先端もしくはサドル20の傾斜量に換算して補正値を算出する。
【0038】
そして、第2補正工程において、補正値により回転主軸30の先端もしくはサドル20の指令位置を補正する。つまり、第2補正部54は、第2補正値算出部53から入力した補正値により制御部51が出力する指令位置を補正指令位置に補正する。これにより、コラム10の熱変形に伴う回転主軸30の先端もしくはサドル20の熱変位を逐次補正することとなり、加工途中からの高精度化を図っている。
【0039】
以上のように、本実施形態によれば、傾斜量取得部52は、電源投入(時点t0)直後に、コラム10に設定された傾斜検査点P1の傾斜量θaを直接取得するようにしているので、この傾斜量θaをもとにコールドスタート時に高精度な熱変位補正が可能となる。この傾斜量の取得はコラム10が移動しているときは困難であるが、温度変化量取得部55は、電源投入(時点t0)から所定時間(時点t1)経過後に、コラム10に設定された各温度検査点Pa0〜Pa5の温度分布の時間的変化量を取得するようにしているので、コラム10が移動していても温度分布の時間的変化量をもとに高精度な熱変位補正が可能となる。よって、加工のサイクルタイムのロスを解消することができ、加工効率を向上させることができる。
【0040】
なお、上述した実施形態では、熱変位補正は、支持体であるコラム10の熱変形によるものとして説明した。これに対して、工具31または工作物Wを支持し、工作機械1の熱影響により熱変位が生じる部材、例えばサドル20やテーブル40等であれば、本発明の熱変位補正方法を適用することができる。その他に、工作機械1は、3軸マシニングセンタを例に挙げて説明した。これに対して、工作機械1は、例えば、さらに回転軸(A,B軸)を有する5軸マシニングセンタとしてもよい。このような構成においても同様の効果を奏する。
【符号の説明】
【0041】
1:工作機械、 2:ベッド、 3,4,5:レール
10:コラム(支持体)、 10b:摺動面、 10d:背面、 12:傾斜センサ、 14:温度センサ
20:サドル(移動体)
30:回転主軸、 31:工具
40:テーブル、 41:治具
50:制御装置(熱変位補正装置)、 51:制御部、 52:傾斜量取得部、 53:第1補正値算出部、 54:第1補正部、 55:温度変化量取得部、 56:第2補正値算出部、 57:第2補正部、 58:メモリ、 60:駆動モータ
W:工作物、 P1:傾斜検査点、 Pa0〜Pa5:温度検査点

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械の基台に支持された支持体と、当該支持体に移動可能に支持された移動体と、を備える工作機械の熱変位補正方法において、
電源投入時に、前記支持体に設定された傾斜検査点の傾斜量を取得する傾斜量取得工程と、
前記傾斜量に基づいて、前記移動体の指令位置に対する第1補正値を算出する第1補正値算出工程と、
前記第1補正値により前記移動体の前記指令位置を補正する第1補正工程と、
前記電源投入時から所定時間経過後に、前記支持体に設定された温度検査点の温度変化量を取得する温度変化量取得工程と、
前記温度変化量に基づいて、前記移動体の指令位置に対する第2補正値を算出する第2補正値算出工程と、
前記第2補正値により前記移動体の前記指令位置を補正する第2補正工程と、
を備えることを特徴とする工作機械の熱変位補正方法。
【請求項2】
工作機械の基台に支持された支持体と、当該支持体に移動可能に支持された移動体と、を備える工作機械の熱変位補正装置において、
電源投入時に、前記支持体に設定された傾斜検査点の傾斜量を取得する傾斜量取得手段と、
前記傾斜量に基づいて、前記移動体の指令位置に対する第1補正値を算出する第1補正値算出手段と、
前記第1補正値により前記移動体の前記指令位置を補正する第1補正手段と、
前記電源投入時から所定時間経過後に、前記支持体に設定された温度検査点の温度変化量を取得する温度変化量取得手段と、
前記温度変化量に基づいて、前記移動体の指令位置に対する第2補正値を算出する第2補正値算出手段と、
前記第2補正値により前記移動体の前記指令位置を補正する第2補正手段と、
を備えることを特徴とする工作機械の熱変位補正装置。
【請求項3】
請求項2において、
前記傾斜量取得手段は、前記傾斜検査点に配置された傾斜センサにより測定される傾斜量を取得し、温度変化量取得手段は、前記温度検査点に配置された温度センサにより測定される温度変化量を取得することを特徴とする工作機械の熱変位補正装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−24869(P2012−24869A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−164478(P2010−164478)
【出願日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】