説明

工具の位置を決定する方法

【課題】工作機械において、熱的変位の影響を受けないで工作物に対する工具の位置を正確に求める。
【解決手段】工作機械(10)が機械制御装置(26)を介すると共に関連の測定システム(26a)を介して座標系(27)において工作物ホルダ(12)に対して動くことができる主軸(24)及び工具貯蔵空間(30,38)を備えた工具マガジン(31)を有し、主軸(24)は使用済み工具(25)が新たな工具(32)と交換される工具交換位置に動かされる。主軸が工具交換と関連して測定位置(50)を占めたかどうかを指示する別個の測定システム(43,46)が設けられ、測定位置では座標系原点に対する主軸の位置が機械制御装置及び関連測定システムにより求められ、それにより少なくとも1つの補正値(Δy,Δx)が求められる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工作機械に関する熱的変位を補償する方法であって、工作機械が機械制御装置を介すると共に関連の測定システムを介して座標系原点を備えた座標系中で工作物ホルダに対して動くことができる主軸を有し、工作機械が工具のための貯蔵空間を備えた工具マガジンを有し、主軸を使用済み工具が使用されるべき新たな工具と交換される工具交換位置に動かすようになっている方法に関する。
【0002】
本発明は又、工作機械であって、機械制御装置及び関連の測定システムを介して座標系原点を備えた座標系中で工作物ホルダに対して動くことができる主軸を有すると共に工具のための貯蔵空間を備えた工具マガジンを有し、主軸が使用済み工具が使用されるべき新たな工具と交換される工具交換位置に動かされるようになっている工作機械に関する。
【背景技術】
【0003】
このような方法及び工作機械は、本出願人にとって公然実施の技術である。このような公知の工作機械では、機械加工の精度は、特に、特に主軸のところ及び座標原点に対する主軸の位置を求める測定システムのところで生じる熱的変位によって悪影響を受ける。他方、これら熱的変位の主要な原因は、モータ、ボールねじシャフト、直線案内及び主軸軸受のところの膨張である。
【0004】
他方、種々の機械コンポーネントの不均一な加熱により生じる変形も又、機械加工の精度に悪影響を及ぼす。
【0005】
これら熱的変位の原因は、内部熱源及び外部熱源であり、外部熱源は、部屋を正しい温度にすると共に工作機械をこれが太陽に直接当たらないように配置することにより対抗できる。
【0006】
内部熱源は、主として、熱を発生させる機械コンポーネントであり、このような機械コンポーネントの自己発熱は、動作温度に達するまで種々の影響をもたらす場合がある。これは、スピンドル回転、内部摩擦及び特に切削プロセスそれ自体、このプロセス中に生じる高温金属チップ及び供給された冷却用潤滑剤を含む。
【0007】
これら全ての要因は、工作機械の熱的挙動に悪影響を及ぼすので、適正な機械加工精度を達成するためにはこれら要因を減らさなければならない。
【0008】
これら要因を設計上の対策により減少させるか、目的上、直接的及び間接的方法が用いられる制御工学の観点で補償するかのいずれかを行なう場合がある。
【0009】
熱的変位により生じた精度の問題を設計上の対策により軽減する一例が独国特許出願公開第10343320(A1)号明細書に記載されており、この場合、或る特定のコンポーネントを正確な温度に至らせて保持する。
【0010】
直接的補償方式では、主軸の実際の位置を別個の測定システムにより各場合において現時点であらかじめ定められた所望の位置と比較する。求めた偏差を制御装置で用いて経路制御指令を是正する。
【0011】
このような方法は、例えば、独国特許出願公開第10330915(A1)号明細書から知られている。
【0012】
この公知の方法では、レーザ光バリヤの形態の別個の測定システムを工作機械の作業空間に設け、このレーザ光バリヤは、主軸頭の直線移動軸線に対して斜めに配置されている。測定ツールを或る特定の時点で主軸頭内の定位置に掴み、次に、測定ツールを移動軸線に平行に光バリヤに近づけ、光バリヤが遮られたときに主軸頭の位置を測定する。このようにして測定した実際の値を制御装置によってあらかじめ定められた所望の値と比較し、補正値をこの比較から算出し、制御装置は、新たな所望値を割り当てるときにこの補正値を考慮に入れる。
【0013】
この方法は非常に正確であるが、製造プロセスを測定作業のために中断しなければならず、したがって、測定は、主要加工時間中に実施されない。製造プロセスの中断が或る特定の製造ステップ中において可能ではないということは、もう一つの問題と見なされる場合がある。これら製造ステップが長引いた場合、この時間間隔中に補償を行なうことができない。
【0014】
独国特許第10251829(B4)号明細書、同第102005060104(B4)号明細書及び同第3836263(C1)号明細書は、工作機械における熱的変位を補償するそれぞれ別の方法を開示している。これら3通りの方法の全てに関し、測定ツールを主軸内の定位置にクランプすることが必要であり、更に主軸を次に熱的変位の発生を示す測定値が得られる測定箇所まで移動させる必要がある。これら方法も又、時間がかかり、主要加工時間中にこれら方法を実施することができない。
【0015】
間接的な補償では、工作物に対する主軸の位置の熱により生じる偏差を測定された補助変数、例えば工作機械中の種々の箇所での温度から数学的モデルによって計算し、このような偏差を補償のために制御装置で用いる。
【0016】
この方法は、例えば、独国特許出願公開第10344903(A1)号明細書から知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】独国特許出願公開第10343320(A1)号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第10330915(A1)号明細書
【特許文献3】独国特許第10251829(B4)号明細書
【特許文献4】独国特許第102005060104(B4)号明細書
【特許文献5】独国特許第3836263(C1)号明細書
【特許文献6】独国特許出願公開第10344903(A1)号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
これら測定は、主要加工時間中に可能であるが、測定は、数学的モデルに入力されるパラメータを求めるために多岐にわたらなければならない。さらに、数学的モデルは、実際の作動状態を部分的にしか再現しない場合が多く、したがって、これら方法は、上述の直接的補償と同じほど正確であるというわけではない。
【0019】
この点に関して説明した先行技術の主要な欠点は、測定を十分に正確且つ迅速には実施できず、しかも主要加工時間中に実施することができない場合が多いということにある。
【0020】
これら全ての理由により、工作物に対する工具の位置を正確に求めることができるようにすると共に熱的変位がこの精度に悪影響を及ぼさないようにする新規な工作機械及び新規な方法に対する要望が依然として存在する。
【0021】
上記記載を考慮して、本発明の目的は、製造プロセスを中断せず又は過度に遅延させない状態で熱的変位を迅速に検出して設計の面で簡単な仕方で補償することができるように本明細書の導入部で言及した方法及び工作機械を改良することにある。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本明細書の導入部で言及した工作機械に関し、熱的変位を補償する方法において、この目的は、好ましくは工具交換と関連して、別個の測定システムの助けにより、主軸を座標系原点に対する主軸の位置が機械制御装置及び関連測定システムにより求められる測定位置に移動させ又は該位置を通過させ、それにより少なくとも1つの補正値を求めることによって達成される。
【0023】
本明細書の導入部で言及した工作機械に関し、この目的は、主軸が好ましくは工具交換と関連して、測定位置を占めたかどうかを指示する別個の測定システムが設けられ、測定位置において、座標系原点に対する主軸の位置が機械制御装置及び関連測定システムにより求められ、そして主軸位置が少なくとも1つの補正値を求めるために利用されることによって達成される。
【0024】
即ち、本出願の発明者は、特に、主軸の工具交換位置により、熱的変位に関する補正値を迅速に且つ設計の面で簡単な仕方で求めることができるという知見を得た。
【0025】
ピックアップ法による工具交換中、どのような場合であっても、主軸を工作物から取り外し、これまで用いられた工具を自由貯蔵空間内に置かなければならない。その後、主軸は、置いた工具から遠ざかり、次に、工具マガジン内の新たな貯蔵位置に接近するか工具マガジンが割送り運動を実施し、即ち、用いられるべき次の工具の入った貯蔵空間を移送位置に動かすまで待機するかのいずれかを行なわなければならない。
【0026】
この待機時間又は移送時間は、今や、本発明によれば、主軸を測定位置に近づけ又はこれを通過させ、このような接近位置において、次に、占められた位置の所望の値と実際の値の比較を行なうために用いられる。次に、新たな所望の値が割り当てられると、機械制御装置によって考慮に入れられる補正値をこの比較から算出する。この場合、別個の測定システムは、主軸が測定位置に達したどうかに関する情報を機械制御装置に送り、機械制御装置は、次に、主軸の移動を可能にするためにとにかく設けられている測定システムによって主軸の実際の位置を求める。次に、この実際の位置を熱的変位がなかった場合に主軸が占めると共に機械制御装置に記憶されている所望の位置と比較する。主軸は、この場合、測定位置で直接停止することができるか主軸を更に移動させることができるかのいずれかである。というのは、主軸は、別の位置に近づいているときに測定位置を単に通過して関連の測定システムが実際の値をいわば「オンザフライ(on the fly)」で検出するようになるからであり、或いは、主軸が慣性及び制御装置の遅延により測定位置をオーバーランするまで停止しないからである。
【0027】
工具交換が工具交換装置を用いて又は実際には移動工具マガジンのところで行なわれる場合、本発明に従って利用できる待機時間又は移送時間が同様に生じる。
【0028】
測定位置に達する箇所は、本発明によれば、別個の測定システムが主軸又は主軸を取り付けた主軸台と直接相互作用することにより検出される。したがって、別個の測定ツールを主軸中に導入し又は主要加工時間中に別個の測定位置に近づくことは必要ではない。これとは対照的に、主軸の現在の位置は、好ましくは、工具交換と関連して、即ち、工作物の機械加工がどのようにしても可能ではない時点で求められる。
【0029】
このように、毎回の工具交換中、主軸台の熱的変位を検出し、必要ならば是正することが可能である。これは、本発明者が熱的変位を工具交換時に補償すればほとんどの用途について十分であり、頻繁な補正が不要であることを認識しているからである。しかしながら、本発明の方法では、精度を優先して製造速度の関連の低下を許容できれば工具交換時間を超えて測定位置に近づき又はこれを通過することも可能である。それにもかかわらず、新規な方法は、この場合であっても、先行技術の方法よりも迅速である。というのは、主軸に別個の測定ツールを組み込む必要がないからである。
【0030】
したがって、本発明の目的は、このようにして完全に解決される。
【0031】
この場合、別個の測定システムは、主軸と工作物ホルダに対して少なくとも1つの座標方向に固定された測定場所との間で間接的に又は直接的に働くことが好ましく、別個の測定システムは、少なくとも1つの測定面及び少なくとも1つの測定センサを有し、測定面か測定センサかのいずれかが主軸に連結され、測定センサ又は測定面は、測定場所に配置されている。
【0032】
これら対策により、設計が簡単であり、更に特に測定プローブが別個の測定システムで、即ち、イエス/ノー決定のように、主軸が測定位置を占めたかどうかを示す切り換え測定システムが用いられた場合、迅速且つ確実に働く安価な測定システムの実現が可能である。
【0033】
この新規な方法では、この関係で、主軸を別個の測定システムが応答するまで測定位置に向かう方向に動かすことが好ましい。
【0034】
この場合、測定位置を迅速且つ確実に占めることができることが有利である。この方法では、主軸をクリープ速度で動かすことができる。
【0035】
一般に、主軸は、使用済み工具を自由貯蔵空間内に置き、使用されるべき新たな工具を被占有貯蔵空間から取り出すことが好ましく、主軸は、好ましくは、使用済み工具が自由貯蔵空間内に置かれた後、測定位置に接近し又はこれを通過し、工具マガジンは、これ叉好ましくは、主軸が測定位置に移動している間、使用済み工具によって占有された貯蔵空間を使用されるべき新たな工具を備えた貯蔵空間と交換し、工具マガジンは、ピックアップ法による工具交換を可能にする。
【0036】
この場合、主要加工時間が全く無駄にされず又は少なくとも事実上主要加工時間が無駄にされないことが有利であり、測定位置に近づくと同時に工具マガジンは割送り運動を実施する。
【0037】
別の利点は、以下の説明及び添付の図面から明らかになろう。
【0038】
上述の特徴及び以下に更に説明される特徴をそれぞれ指定された組み合わせだけでなく、本発明の範囲から逸脱することなく他の組み合わせにおいて又はこれら自体で用いることができるということはいうまでもない。
【0039】
本発明の実施形態が図面に示されており、以下これについて詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】新規の工作機械の概略側面図であり、工具マガジン及び主軸台の工具交換位置が破線で示されている図である。
【図2】図1の工具マガジンの概略切除平面図である。
【図3】主軸の付近において且つ工具交換中の図1の工作機械の別の実施形態の概略拡大詳細図である。
【図4】工具交換の後の段階における図3と同様な図である。
【図5】工具交換の更に後の段階における図3と同様な図であり、工具マガジンが割送り運動を実施し、主軸台の位置がそれと同時に求められる状態を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0041】
垂直移動コラム型機械として設計された工作機械10が図1に概略側面図で示されている。新規な工作機械は、門形構成タイプ又は他の従来構成タイプのうちの任意のものにおいて水平移動コラム型機械として提供されても良く、垂直移動コラム型機械は、本明細書において、本発明の内容を説明するのに役立つに過ぎない。
【0042】
工作機械10は、補強バー網状組織又はコンクリートポリマー、鋼又は鋳鉄から製作できるベース11を有する。ベース11上には、工作物ホルダ12として工作物台が概略的に示されており、工作物14が、図1においてこの工作物ホルダ12上に見え、この工作物は、掴み手段15,16を介して工作物台12上に取り付けられている。
【0043】
x‐スライダ18が直線案内17を介してベース11上に配置されており、このx‐スライダは、工作機械10のx軸に対応した図の紙面に対して出入りすることができる。
【0044】
案内シュー19がx‐スライダ18上に配置されており、このような案内シュー内において、コラム21をx方向に対して横断方向に、即ち、ベース11に対してy方向に動かすことができる。
【0045】
コラム21は、その前側に案内22を有し、主軸台23をこの案内22上でx方向に対して横方向に且つy方向に対して横方向に、即ち、ベース11に対してz方向に動かすことができる。
【0046】
主軸台23は、それ自体知られているやり方で、回転駆動される主軸24を支持し、この主軸24内において、加工物14を機械加工するツール25を公知の仕方で掴むことができる。
【0047】
直線案内17、x‐スライダ18、案内シュー19、コラム21、案内22及び主軸台23は、別個の駆動装置及び線形(等分)目盛又は他の測定システムを備えたコンポーネントであり、これらの目的は、特に、符号26で示された機械制御装置によって工具ホルダ24を工作物ホルダ12に対して動かしてそれぞれのコンポーネントの位置を制御することにある。図1では、これら関連の測定システムが26aで示されている。
【0048】
したがって、上述した程度まで説明した仕方で、工具25を符号27で示された座標系で示されているように、互いに直交した3つの軸線に沿って工作物14に対して動かすことができる。座標系27は、座標原点28を定めており、工作物14の位置は、この原点に対して既知であり、工作物14を機械加工するために工具25を機械制御装置26の管理下において且つ測定システム26aの助けを借りて作業空間29内で動かす。
【0049】
また、図1には、工具マガジン31が示されており、この工具マガジンは、工具25の交換品として主軸中に導入することができる工具32,33,34のための複数の貯蔵空間30を有している。図1には、貯蔵空間が3つしか示されていないが、最大60又は61個以上の貯蔵空間を設けることができる。
【0050】
工具交換のため、工具マガジン31をこの前側端部36が自由貯蔵空間が設けられているその前側端部36が作業空間29内に位置するようにベース11に対して矢印35の方向に動かす。工具マガジン31のこの位置は、図1に破線で示されると共に符号31′で指示されている。
【0051】
次に、主軸台23を主軸24が工具25を工具マガジン31の自由貯蔵空間内に置くことができるよう動かす。主軸台23のこの工具交換位置は、符号23′で示されている。主軸24及び工具25の位置は、それぞれ、24′及び25′で示されている。
【0052】
工具25が工具マガジン31の自由貯蔵空間内に置かれた後、主軸台23は、工具25を主軸24から解除するために上方に、即ちz方向に移動する。次に、工具マガジン31は、新たな工具32,33又は34をその前側端部36に移動させ、ここで、新たな工具を主軸24によってピックアップする。
【0053】
この種の工具交換は、ピックアップ法と呼ばれており、先行技術においてそれ自体十分に良く知られている。
【0054】
説明のため、工具マガジン31は、図2の切除概略平面図に再度示されている。工具マガジン31は、工具のための馬蹄形又は閉鎖搬送経路37を有するのが良い。工具マガジンの自由前側端部36のところには自由貯蔵空間38が示されており、この自由貯蔵空間は、上述の工具交換中、工具25を主軸24から受け入れる。
【0055】
既に図1に示した工具32,33,34とは別に、別個の工具39,41が示されており、これら工具39,41を矢印42で示されているように搬送経路37に沿って前後に動かすことができる。このようにすると、各工具32,33,34,39,41を前側端部36まで動かすことができ、そして交換品として主軸24内に導入することができる。このような工具マガジンは、チェーンマガジンとも呼ばれている。
【0056】
工具の交換後、工具マガジン31を再び図1の矢印35の方向とは逆に作業空間29から出し、そして新たな工具を用いて工作物14の機械加工を続行する。
【0057】
完全を期すために、この場合、新規な工作機械は、ピックアップ法による工具交換方式の静止工具マガジン又は工具交換がピックアップ法によっては行なわれず、関連の工具交換装置によって行なわれる他の工具マガジンを装備しても良いことが注目される。この場合、チェーンマガジンは、本発明の内容を説明するのに役立つに過ぎない。
【0058】
工作機械10の作動中、今や、熱的変位が本明細書の導入部で上述したように起こる。これら熱的変位の結果として、座標原点28に対する工具25の所望の位置が測定システム26aによって求められた実際の位置から外れ、したがって、工作物14を所要の精度及び再現性で機械加工することができない。これら熱的変位を補償するため、本発明によれば、座標原点28に対する主軸台23の位置を工具交換中に求め、この目的のため、工作機械10は、別個の測定システムを備えている。
【0059】
図3は、主軸24の付近の図1の工作機械10の概略拡大詳細図であり、主軸24は、その工具交換位置に配置されており、この工具交換位置では、工具25は、工具マガジン31の前側端部36のところの自由貯蔵空間38内に置かれる。2つの測定面44,45を備えたブロック43が主軸台23上に配置されており、これら測定面は、以下に説明する仕方で測定装置46と相互作用する。ブロック43及び測定装置46は、熱的変位を補償する上述の別個の測定システムを構成する。
【0060】
ブロック43及び測定装置46は、図1にも示されており、この場合、測定装置46は、x‐スライダ18に固定されていることが理解されている。しかしながら、測定装置46は、図3〜図5の実施形態の場合と同様、ベース11に直接締結されても良い。
【0061】
図3を参照すると、測定装置46は、機械制御装置26に接続されていて、測定プローブ47,48の形態をした2つの測定センサを有し、測定プローブ47,48は、水平に動く測定面44、即ちx/y平面内に位置した測定面44と相互作用すると共にそれぞれ垂直に動く測定面45、即ちx/z平面内に位置した測定面45と相互作用する。z方向におけるブロック及び主軸台の位置は、測定面44及び測定プローブ47により検出され、y方向におけるブロック及び主軸台の位置は、測定面45及び測定プローブ48により検出され、これについては以下に詳細に説明する。
【0062】
先ず最初に、図4は、主軸24が前もって自由であり又は空になっている貯蔵空間38内に工具25を置いたときの工具交換の後の段階における状態を示している。主軸24は、今や、工具25を解除しなければならず、この目的のため、主軸台23は、上方に移動しなければならない。次に、工具マガジン31は、工具25を前側端部36から出すと同時に別の工具をその位置に動かすことができ、図5では、これは、工具32である。工具マガジン31内におけるこの運動シーケンスは、「割送り」とも呼ばれている。
【0063】
工具マガジン31がこのような割送り運動を実施している間、主軸台23は、それと同時に図4に示された矢印51,52の方向に移動して符号50で示された測定位置に至り、その結果、ブロック43は、測定装置46の「測定コーナー部」内に動かされる。矢印51,52の方向におけるこれら運動は、機械制御装置26により測定プローブ47が測定面44に触れ、測定プローブ48が測定面45に触れていることが認識されるまで続けられる。したがって、別個の測定システム43,46は、主軸24が測定位置50を占めた時点を認識する。この方法では、主軸24それ自体が測定位置で停止することは必要ではなく、例えば、主軸24は、クリープ速度で測定位置を通過することも可能であり、この場合、機械制御装置26は、別個の測定システム43,46により測定位置に達したことが分かると、関連の測定システム26aによって実際の値を検出する。
【0064】
したがって、ブロック43が座標原点28に対してy軸及びz軸に沿って測定位置50に達すると占める相対位置は、機械制御装置26及び測定システム26aによって検出され、この位置は、主軸台23の実際の位置に一致している。次に、この実際の位置を主軸台23が占める所望の位置と比較し、次に、ブロック43が上述した仕方で「測定コーナー部」46中に動かされて熱的変位が生じなかった場合、この所望の位置を測定システム26aによって検出する。このような所望の位置を機械制御装置26にファイルする。
【0065】
補正値Δy,Δzを所望の位置と実際の位置の偏差から算出し、これら補正値Δy,Δzは、それぞれ、y軸及びz軸の方向における所望の位置と実際の位置との差に対応しており、これら補正値を機械制御装置26による工作物14の次の機械加工中、機械制御装置26により考慮に入れ、この機械制御装置は、記憶している所望の値を所望の位置に交換し、工作物14の次の機械加工中、補正値Δy,Δzだけ主軸24又は工具32を追随させる。換言すると、新たな所望の値が割り当てられると、補正値を機械制御装置によって考慮に入れる。
【0066】
例えば工具32が座標原点28に対して位置(x1,y1,z1)に近づくべき場合、今や、補正された位置(x1,y1+Δy,z1+Δz)に近づく。
【0067】
このようにすると、毎回の工具交換の際、主軸台23の熱的変位を検出し、必要ならばこれを是正することが可能である。このために設けられたブロック43及び測定装置46から成る追加の測定システムは、機械制御装置26及び駆動装置及びこれら自体の測定システムを備えたとにかく存在しているコンポーネントと一緒に用いられる。その目的は、特に、機械制御装置26によって主軸台23を動かして「測定コーナー部」によってあらかじめ定められた実際の位置を求めることにある。別個の測定装置43,46は、この場合、主軸24又は主軸台23が測定位置50に達したことを機械制御装置26に示すためにのみ用いられる。
【0068】
この場合、設計及び制御工学の面で必要な追加のコストが僅かであるに過ぎず、実際の位置は、もしそのように構成されていなければ工具マガジン31が割送り運動を行なうために主軸台23が待機する時間の間に求められる。したがって、「工具交換の際」における熱的変位のこの測定は、設計の面で簡単であるだけでなく(これは又、本発明に従って熱的変位を補償しない作業と比較して遅延なしに又は少なくとも事実上遅延なしに行なわれる)、機械加工の精度及び再現性に関して追加の利点をもたらす。
【0069】
この場合、y方向及びz方向における偏差の測定は、熱的変位を補償するのに十分であることが判明した。というのは、工作機械は、y/z平面に関して対称に構成されているからである。換言すると、z方向における傾きモーメントがなく、z方向における移動精度も又、y方向及びz方向における移動精度よりも高い。というのは、x‐スライダ18は、ガラス目盛によって補償されるボールねじスピンドルによって動かされるからである。したがって、本発明によれば、y軸及びz軸の方向における熱的変位のみが補償される。
【0070】
この理由で、測定装置46をベース11だけでなくx‐スライダ18にも取り付けるのが良い。これは、いわば測定場所を形成する測定装置46が工作物ホルダ12に対してy方向及びz方向に固定されていることが必要不可欠だからである。
【0071】
当然のことながら、運動学的逆転手法に類似した仕方で、ブロック43をx‐スライダ18又はベース18に、即ち測定場所に固定し、主軸台23に測定装置46を設けることも又可能である。
【符号の説明】
【0072】
10 工作機械
11 ベース
12 工作物ホルダ
14 工作物
15,16 掴み手段
17,22 案内
18 x‐スライダ
19 案内シュー
23 主軸台
24 主軸
25,32,33,34,39 工具
26 工作機械制御装置
26a 測定システム
27 座標系
28 座標系の原点
29 作業空間
30 貯蔵空間

【特許請求の範囲】
【請求項1】
工作機械に関する熱的変位を補償する方法であって、前記工作機械が機械制御装置(26)を介すると共に関連の測定システム(26a)を介して座標系原点(28)を備えた座標系(27)中で工作物ホルダ(12)に対して動くことができる主軸(24)を有し、前記工作機械が工具(25,32,33,34,39)のための貯蔵空間(30,38)を備えた工具マガジン(31)を有し、前記主軸(24)を使用済み工具(25)が使用されるべき新たな工具(32)と交換される工具交換位置に動かす方法において、
好ましくは前記工具交換と関連して、別個の測定システム(43,46)の助けにより、前記主軸(24)を前記座標系原点(28)に対する前記主軸(24)の位置が前記機械制御装置(26)及び前記関連測定システム(26a)により求められる測定位置(50)に移動させ又は該位置を通過させ、それにより少なくとも1つの補正値(Δy,Δx)を求める、
ことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記別個の測定システム(43,46)は、前記主軸(24)と前記工作物ホルダ(12)に対して少なくとも1つの座標方向(y,z)に固定された測定場所との間で間接的に又は直接的に働く、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記別個の測定システム(43,46)は、少なくとも1つの測定面(44,45)及び少なくとも1つの測定センサ(47,48)を有し、前記測定面(44,45)か前記測定センサ(47,48)かのいずれかが前記主軸(24)に連結され、前記測定センサ(47,48)又は前記測定面(44,45)は、前記測定場所に配置されている、
請求項2記載の方法。
【請求項4】
前記主軸(24)を前記別個の測定システム(43,46)が応答するまで前記測定位置(50)に向かう方向(51,52)に動かす、
請求項2又は3記載の方法。
【請求項5】
前記主軸(24)は、前記使用済み工具(25)を自由貯蔵空間(38)内に置き、使用されるべき新たな工具(32)を被占有貯蔵空間から取り出す、
請求項1ないし4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記主軸(24)は、前記使用済み工具(25)が前記自由貯蔵空間(38)内に置かれた後、前記測定位置(50)に接近し又はこれを通過する、
請求項5記載の方法。
【請求項7】
前記工具マガジン(31)は、前記主軸(24)が前記測定位置(50)に移動している間、前記使用済み工具(25)によって占有された前記貯蔵空間(38)を使用されるべき前記新たな工具(32)を備えた貯蔵空間と交換する、
請求項6記載の方法。
【請求項8】
工作機械であって、機械制御装置(26)及び関連の測定システム(26a)を介して座標系原点(28)を備えた座標系(27)中で工作物ホルダ(12)に対して動くことができる主軸(24)を有すると共に工具(25,32,33,34,39)のための貯蔵空間(30,38)を備えた工具マガジン(31)を有し、前記主軸(24)が使用済み工具(25)が使用されるべき新たな工具(32)と交換される工具交換位置に動かされる工作機械において、
前記主軸(24)が好ましくは前記工具交換と関連して、測定位置(50)を占めたかどうかを指示する別個の測定システム(43,46)が設けられ、前記測定位置(50)において、前記座標系原点(28)に対する前記主軸(24)の位置が前記機械制御装置(26)及び前記関連測定システム(26a)により求められ、そして前記主軸位置が少なくとも1つの補正値(Δy,Δx)を求めるために利用される、
ことを特徴とする工作機械。
【請求項9】
前記別個の測定システム(43,46)は、前記主軸(24)と前記工作物ホルダ(12)に対して少なくとも1つの座標方向(y,z)に固定された測定場所との間で間接的に又は直接的に働く、
請求項8記載の工作機械。
【請求項10】
前記別個の測定システム(43,46)は、少なくとも1つの測定面(44,45)及び少なくとも1つの測定センサ(47,48)を有し、前記測定面(44,45)か前記測定センサ(47,48)かのいずれかが前記主軸(24)に連結され、前記測定センサ(47,48)又は前記測定面(44,45)は、前記測定場所に配置されている、
請求項9記載の工作機械。
【請求項11】
前記測定センサ(47,48)は、測定プローブ(47,48)である、
請求項10記載の工作機械。
【請求項12】
前記工具マガジン(31)は、ピックアップ法による工具交換を可能にする、
請求項8ないし11のいずれか1項に記載の工作機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−121134(P2012−121134A)
【公開日】平成24年6月28日(2012.6.28)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−284301(P2011−284301)
【出願日】平成23年12月7日(2011.12.7)
【出願人】(511315677)チロン ヴェルケ ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンデイトゲゼルシャフト (1)
【Fターム(参考)】