説明

希土類永久磁石の製造方法およびその原料合金

【課題】熱処理温度の適正範囲の幅を広げ、量産性を向上させることのできる希土類永久磁石の製造方法およびその原料合金を提供することを目的とする。
【解決手段】粒界相において、添加物であるAlが合金全体に均一に分散しているのではなく、粒界相部分におけるAl量が他の部分よりも少ない分布となっている急冷薄帯合金を用いることで、高い保磁力が得られる第2時効処理温度の範囲を広げる。熱処理温度の適正範囲の幅を広げることで、量産時における熱処理炉内における温度分布のばらつきにかかわらず、安定して高い保持力を有したR−T−B系希土類永久磁石を得ることが可能となり、量産性を向上させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、希土類永久磁石の製造方法およびその原料合金に関する。
【背景技術】
【0002】
R−T−B系希土類永久磁石(Rは希土類元素の1種又は2種以上であり、TはFe、又はFe及びCo)は、磁気特性に優れていることや、主成分であるNdが資源的に豊富で比較的安価であることから、各種モータ等の電気機器に使用されている。
希土類永久磁石の製造方法の一例として粉末冶金法がある。粉末冶金法は低コストでの製造が可能なことから広く用いられている。粉末冶金法では、原料合金を粗粉砕及び微粉砕し、数μmの微粉砕粉末を得る。このようにして得られた微粉砕粉末を磁場中で磁場配向させ、磁場がかかった状態のままプレス成形を行い、得られた成形体を熱処理することで、焼結体を得ている。そして、所定形状への加工、さらに必要に応じて表面処理を行うことで、R−T−B系希土類永久磁石は製造されている。
【0003】
ここで、R−T−B系希土類永久磁石の高特性化、特に保磁力向上のために、原料合金としては、ストリップキャスト合金が多用されている。ストリップキャスト合金は、所定組成の原料合金の溶湯を、金属ロールの表面上に落下させることで急冷凝固させることによって、薄片状としたものである。
従来、このストリップキャスト合金の粒径等をコントロールすることによって、磁気特性の向上を図る試みがなされていた(例えば、特許文献1〜3参照。)。
【0004】
【特許文献1】特開昭63−317643号公報
【特許文献2】特開平5−222488号公報
【特許文献3】特開2000−219942号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このようなさまざまな試みに関わらず、実際の量産現場では、研究・開発段階での試験どおりの結果が必ずしも得られないことが判明した。
成形後の成形体を熱処理する過程では、量産用の大型炉を用いるわけであるが、大型であるが故に、試験用の小型炉に比較し、炉内温度分布の均一性に劣る。このため、試験によって得られた適正範囲内の条件で炉の温度設定等を行っても、炉内の位置によっては、温度がその適正範囲から外れてしまうことがある。その結果、その部分で熱処理が行われたR−T−B系希土類永久磁石は、適正範囲から外れているため、高い磁気特性(特に保磁力HcJ)が得られないことになる。
したがって、同じ組成の原料合金であっても、保磁力の熱処理温度依存性が大きい材料は生産効率が悪いため、熱処理温度の適正範囲の幅が少しでも広くなるのが量産性の面で好ましい。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、熱処理温度の適正範囲の幅を広げ、量産性を向上させることのできる希土類永久磁石の製造方法およびその原料合金を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
かかる目的のもと、本発明者らが鋭意検討を行った結果、ストリップキャスト合金の粒界相においてAlがプアとなる組成分布とすることで、保磁力を増加させるための熱処理時における適正範囲を広げることができることを見出した。
この知見に基づいてなされた本発明は、R−T−B(R:希土類元素の1種又は2種以上、T:Fe、又はFe及びCo、B:ホウ素)系希土類永久磁石の製造方法であって、粒界相におけるAlの含有量が他の領域よりも少ない原料合金を粉砕する粉砕工程と、粉砕工程を経た粉砕粉末を磁場中で成形する成形工程と、成形工程で得られた成形体を焼結する焼結工程と、焼結工程で得られた焼結体を熱処理する時効処理工程と、を備えることを特徴とする。このような原料合金を用いることで、高い保磁力を得ることのできる適正な熱処理温度の幅(以下、これを適正温度幅と称することがある。)を広げることが可能となる。
このとき、熱処理として、焼結工程における焼結温度よりも低い温度領域における第一の熱処理と、第一の熱処理における温度領域よりも低い温度領域における第二の熱処理と、を行う場合、特に低温側の第二の熱処理における適正温度幅を広げることが可能となる。
このような原料合金は、溶湯をロール上で急冷することで形成した薄帯状である。
また、最終的に得られる希土類永久磁石は、R14B相からなる主相結晶粒と、主相結晶粒よりRを多く含む粒界相とを備えるものである。
なお、粉砕工程では、R14B結晶粒を主体とする低R合金からなる原料合金片と、低R合金よりRを多く含む高R合金からなる原料合金片を粉砕し、成形工程では、低R合金および高R合金を粉砕して得た粉砕粉末を磁場中で成形するようにしても良い。
【0007】
本発明は、R−T−B系希土類永久磁石の原料合金であって、粒界相におけるAlの含有量が他の領域よりもプアであり、Rの含有量が他の領域よりもリッチであることを特徴とする希土類永久磁石の原料合金とすることもできる。このとき、Rの含有量が他の領域よりもリッチである粒界相中には、RがR又は/及びR−Fe系組成物として存在する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、熱処理温度の適正範囲の幅を広げ、量産性を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
まず、希土類永久磁石の製造方法について説明する。ここでまず、本発明の適用対象の磁石について説明する。
本発明はR−T−B(Rは希土類元素の1種又は2種以上、TはFe又はFe及びCo)で示されるネオジム系永久磁石について適用することが望ましい。もちろん、これに限らず、他の希土類永久磁石に本発明を適用することも有効である。
【0010】
R−T−B系永久磁石は、希土類元素(R)を25〜37wt%含有する。ここで、RはYを含む概念を有しており、したがってY、La、Ce、Pr、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuの1種又は2種以上から選択される。Rの量が25wt%未満であると、R−T−B系永久磁石の主相となるR14B相の生成が十分ではなく軟磁性を持つα−Feなどが析出し、保磁力が著しく低下する。一方、Rが37wt%を超えると主相であるR14B相の体積比率が低下し、残留磁束密度が低下する。またRが酸素と反応し、含有する酸素量が増え、これに伴い保磁力発生に有効なRリッチ相が減少し、保磁力の低下を招く。したがって、Rの量は25〜37wt%とする。望ましいRの量は28〜35wt%である。
【0011】
また、本発明が適用されるR−T−B系永久磁石は、ホウ素(B)を0.5〜4.5wt%含有する。Bが0.5wt%未満の場合には高い保磁力を得ることができない。一方で、Bが4.5wt%を超えると残留磁束密度が低下する傾向がある。したがって、Bの上限を4.5wt%とする。望ましいBの量は0.5〜1.5wt%、さらに望ましいBの量は0.8〜1.2wt%である。
本発明が適用されるR−T−B系永久磁石は、Coを5.0wt%以下(0を含まず)、望ましくは0.1〜3.0wt%含有することができる。CoはFeと同様の相を形成するが、キュリー温度の向上、粒界相の耐食性向上などに効果がある。
【0012】
本発明が適用されるR−T−B系永久磁石は、他の元素の含有を許容する。本発明においては、Alの含有を必須とする。Alを添加すると得られる永久磁石の高保磁力化、温度特性の改善が可能となり、添加量は0.03〜1.0wt%が好ましく、より好ましくは0.03〜0.5wt%である。前記添加量より過剰であると残留磁束密度が低下し磁気特性の低下を招くこととなり、また、前記添加量以下であると添加する効果が希薄となる。他にも、例えば、Cu、Zr、Ti、Bi、Sn、Ga、Nb、Ta、Si、V、Ag、Ge等の元素を適宜含有させることができる。一方で、酸素、窒素、炭素等の不純物元素を極力低減することが望ましい。特に磁気特性を害する酸素は、その量を7000ppm以下、さらには5000ppm以下とすることが望ましい。酸素量が多いと非磁性成分である希土類酸化物相が増大して、磁気特性を低下させるからである。
【0013】
このようなR−T−B系永久磁石は、図1に示すような工程を経ることで製造される。
以下、各工程の内容を説明する。
<原料合金作製>
R−T−B系永久磁石の原料合金は、真空又は不活性ガス、望ましくはAr雰囲気中でストリップキャスト法により作製することができる。ストリップキャスト法は、原料金属をArガス雰囲気などの非酸化性雰囲気中で溶解して得た溶湯を回転するロールの表面に噴出させる。ロールで急冷された溶湯は、薄板または薄片(鱗片)状に急冷凝固される。この急冷凝固された合金は、結晶粒径が1〜50μmの均質な組織を有している。
【0014】
本発明においては、R−T−B系希土類永久磁石を得る場合、R14B結晶粒を主体とする合金(以下、これを低R合金と称する)と、低R合金よりRを多く含む合金(以下、これを高R合金と称する)とを用いる所謂混合法を適用することができる。
また混合法としては、Rの含有量が異なるR14B結晶粒を主体とする2種類以上の合金を混合する方法や、重希土類(Dy,Tbなど)の含有量が異なるR14B結晶粒を主体とする2種類以上の合金を混合する方法を適用することができる。
これに対し、組成の異なる2種類以上の合金を用いない場合を1合金法と称し、この1合金法を適用し、R−T−B系希土類永久磁石を得る場合もある。
【0015】
そして、ストリップキャスト法によって得られた薄板または薄片状の原料合金(以下、これを急冷薄帯合金と称することがある)において、添加物であるAlが合金全体に均一に分散しているのではなく、RがR又は/及びR−Fe組成物として存在する粒界相部分におけるAl量が、他の領域よりも少ない分布となっているものを用いるのが好ましい。なお、この領域において、Rの含有量は他の領域よりも多い分布となっている。
このような急冷薄帯合金は、例えば、溶湯をロール上に噴出させ、ロールから剥離するときの合金の温度をコントロールすることで得られる。例えば、ロールから剥離するときの合金の温度を、850〜1100℃とすることで、上記のような分布の急冷薄帯合金を得ることができる。他に、急冷薄帯合金の組成分布をコントロールする因子としては、溶湯の温度、ロール上での合金の厚さ、ロールの周速、ロールの表面状態等がある。
【0016】
<粉砕>
得られた急冷薄帯合金は粉砕工程に供される。混合法による場合には、低R合金及び高R合金は別々に又は一緒に粉砕される。粉砕工程には、粗粉砕工程と微粉砕工程とがある。まず、急冷薄帯合金を、粒径数百μm程度になるまで粗粉砕する。粗粉砕は、スタンプミル、ジョークラッシャー、ブラウンミル等を用い、不活性ガス雰囲気中にて行うことが望ましい。粗粉砕に先立って、急冷薄帯合金に水素を吸蔵させた後に放出させることにより粉砕を行うことが効果的である。水素放出処理は、希土類永久磁石として不純物となる水素を減少させることを目的として行われる。水素放出のための加熱保持の温度は、200℃以上、望ましくは350℃以上とする。保持時間は、保持温度との関係、急冷薄帯合金の厚さ等によって変わるが、少なくとも30分以上、望ましくは1時間以上とする。水素放出処理は、真空中又はArガスフローにて行う。なお、水素吸蔵処理、水素放出処理は必須の処理ではない。この水素粉砕を粗粉砕と位置付けて、機械的な粗粉砕を省略することもできる。
【0017】
粗粉砕工程後、微粉砕工程に移る。微粉砕には主にジェットミルが用いられ、粒径数百μm程度の粗粉砕粉末を、平均粒径1〜10μm、望ましくは2〜7μmとする。ジェットミルは、高圧の不活性ガスを狭いノズルより開放して高速のガス流を発生させ、この高速のガス流により粗粉砕粉末を加速し、粗粉砕粉末同士の衝突やターゲットあるいは容器壁との衝突を発生させて粉砕する方法である。微粉砕前の粗紛末に潤滑剤を添加混合しても良く、微粉砕後あるいはその両方で潤滑剤を添加混合しても良い。
【0018】
混合法による場合、2種の合金の混合のタイミングは限定されるものではないが、微粉砕工程において低R合金及び高R合金を別々に粉砕した場合には、微粉砕された低R合金粉末及び高R合金粉末を窒素雰囲気中で混合する。低R合金粉末及び高R合金粉末の混合比率は、重量比で50:50〜97:3程度とすればよい。低R合金及び高R合金を一緒に粉砕する場合の混合比率も同様である。
【0019】
<磁場中成形>
以上のようにして得られた微粉砕粉(磁性材料)を、磁場中成形し、成形体を得る。本実施の形態では、加圧方向と印加する磁界の方向が直交する直交磁界成形法を用いる。加圧方向と印加する磁界の方向が平行な成形法である平行磁界成形法を用いることもできる。
磁場中成形における成形圧力は30〜300MPa(0.3〜3ton/cm)の範囲とすればよい。成形圧力が低いほど配向性は良好となるが、成形圧力が低すぎると成形体の強度が不足して成形体のハンドリング時に問題が生じるので、この点を考慮して上記範囲から成形圧力を選択する。磁場中成形で得られる成形体の最終的な相対密度は、50〜65%が好ましい。
本発明において印加する磁場は、800〜1600kA/m(10〜20kOe)程度とすればよい。印加する磁場は静磁界に限定されず、パルス状の磁界とすることもできる。また、静磁界とパルス状磁界を併用することもできる。パルス状の磁界を用いる場合は、2400kA/m(30kOe)程度の高い磁界を使用することが可能である。
【0020】
<焼結>
磁場中成形によって得られた成形体を真空又は不活性ガス雰囲気中で焼結し、R−T−B系永久磁石を得る。焼結温度は、組成、粉砕方法、平均粒径と粒度分布の違い等、諸条件により調整する必要があるが、1000〜1200℃で1〜10時間程度焼結すればよい。
【0021】
<時効熱処理>
焼結後、得られた焼結体に時効処理を施すことができる。この工程は、保磁力(HcJ)を制御する重要な工程であり、不活性ガス雰囲気中あるいは真空中で時効処理を施すことが好ましい。この時効処理としては、2段時効処理が好ましい。1段目の時効処理工程(第一の熱処理)では、700〜900℃の範囲内に0.5〜3時間保持する。次いで、室温〜200℃の範囲内にまで急冷する第1急冷工程を設ける。2段目の時効処理工程(第二の熱処理)では、500〜700℃の範囲内に0.5〜3時間保持する。次いで、室温まで急冷する第2急冷工程を設ける。時効処理を1段で行う場合には、500〜900℃の時効処理を施すとよい。
【0022】
上述したように、粒界相において、添加物であるAlが合金全体に均一に分散しているのではなく、粒界相部分におけるAl量が他の部分よりも少ない分布となっている急冷薄帯合金を用いることで、高い保磁力が得られる第2時効処理温度の範囲を広げることが可能となる。
このようにして熱処理温度の適正範囲の幅を広げることができるので、量産時における熱処理炉内における温度分布のばらつきにかかわらず、安定して高い保磁力を有したR−T−B系希土類永久磁石を得ることが可能となり、量産性を向上させることが可能となる。
【実施例1】
【0023】
ここで、上記構成を用いることによる効果を確認したので、その結果を以下に示す。
ストリップキャスト法により、次に示す2種類の急冷薄帯合金を作製した。
(1)低R合金:30wt%Nd−0.2wt%Al−1.2wt%B−bal.Fe
(2)高R合金:45wt%Nd−0.2wt%Al−10wt%Co−1.0wt%Cu−bal.Fe
このとき、(1)の低R合金は、溶湯温度、ロール面上における合金厚さ、ロールの周速、溶湯をロールに供給するためのタンディッシュのロールに対する位置等を変えることで、ロール面上から剥離されるときの急冷薄帯合金の温度(ストリップ剥離温度)が表1となるようにした。
【0024】
【表1】

【0025】
このようにして得られた(1)低R合金の急冷薄帯合金について、X線マイクロアナライザ(EPMA)で分析した。
その結果を図2、図3に示す。これらの図において、Fe量が少なく、かつNd量が多い箇所(図中点線で囲んだ部分)が、Nd−リッチ相、すなわち粒界相である。
なお、表1中における平均結晶粒径は、Nd−リッチ相の間隔により求めた。
これらの図3において、ストリップ剥離温度を850℃未満とした比較例1においては、Al量が、Nd−リッチ相においても他の領域と変わらず、合金全体にほぼ均一に分散している。これに対し、図2に示したように、ストリップ剥離温度を850℃以上とした実施例においては、Al量が、Nd−リッチ相において、他の領域よりも明らかに落ち込んでいることがわかる。
【0026】
得られた合金(1)、(2)のそれぞれに室温で水素を吸蔵させた後にAr雰囲気中で600℃×1時間の脱水素処理を行い、粗粉砕粉末を得た。脱水素処理により原料合金片は数百μm程度に粗粉砕された。
【0027】
水素粉砕処理で得られた粗粉砕粉末に潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.05wt%添加した。なお、ステアリン酸亜鉛が添加された粗粉砕粉末をジェットミルにて平均粒径が5.0〜6.0μmになるまで微粉砕した。なお、粉砕粒径は、シンパテック社製HELOS&RODOSにて測定した。
【0028】
そして、得られた合金(1)、(2)の微粉末を、所望の最終組成:31.5wt%Nd−1.0wt%Co−0.1wt%Cu−0.2wt%Al−1.1wt%B−bal.Feとなるように、ナウターミキサーで30分間混合した。
なお、高R合金である合金(1)と低R合金である合金(2)との混合比率(重量比)は、90:10である。
【0029】
以上の処理を施して十分に時間が経過した後に、微粉砕粉末を磁場中成形した。なお、磁場中成形は、成形圧力:140MPa、印加磁場:1110kA/mの条件で行った。
磁場中成形で得られた成形体を焼結した。焼結は、真空中、1060℃で4時間保持する条件とした。次いで得られた焼結体に900℃×1時間と510〜590℃×1時間(ともにAr雰囲気中)の2段時効処理を施した。
【0030】
このようにして得られた希土類永久磁石の保磁力(HcJ)を測定した。
その結果、図4(a)に示す絶対値データから分かるように、結晶粒径を細かくすることで保磁力の絶対値は向上するものの、第2時効処理温度の適正幅は広がらない。図4(b)に示すように、第2時効処理温度を530℃とした場合の保磁力を基準として比較すると、比較例1、2の急冷薄帯合金を用いた場合、第2時効処理温度が550℃を超えると保磁力が急激に低下しているのに対し、実施例の急冷薄帯合金を用いた場合、第2時効処理温度が570℃を超えるまで、保磁力が低下していないことがわかる。
つまり、粒界相においてAl量が落ち込んでいる急冷薄帯合金を用いることで、高い保磁力が得られる第2時効処理温度の範囲を広げることができることがわかる。
【実施例2】
【0031】
続いて、時効処理を1段のみとした場合についても検討を行った。
実施例1と同様にして、実施例と比較例1の低R合金、高R合金の2種類の急冷薄帯合金を作製し、これを粗粉砕、微粉砕し、磁場中成形により得た成形体を焼結した。
次いで得られた焼結体に510〜590℃×1時間(ともにAr雰囲気中)のみの1段の時効処理を施した。
【0032】
このようにして得られた希土類永久磁石の保磁力(HcJ)を測定した。
その結果、図5に示すように、比較例1の急冷薄帯合金を用いた場合、時効処理温度が550℃を超えると保磁力が急激に低下しているのに対し、実施例の急冷薄帯合金を用いた場合、時効処理温度が570℃を超えるまで、保磁力が低下していないことがわかる。
【実施例3】
【0033】
ここで、上記構成を用いることによる効果を確認したので、その結果を以下に示す。
ストリップキャスト法により、次に示す急冷薄帯合金を1合金法により作製した。
27wt%Nd−4.5wt%Dy−0.2wt%Al−1.5wt%Co-0.1wt%Cu−1.0wt%B−bal.Fe
このとき、実施例1と同様の手法で、ロール面上から剥離されるときの急冷薄帯合金の温度(ストリップ剥離温度)が900、850℃となるように制御した。
【0034】
得られた合金を実施例1と同条件にて粗粉砕粉末、微粉砕粉末とした。
【0035】
そして、得られた合金の微粉末を、磁場中成形した。なお、磁場中成形は、成形圧力:140MPa、印加磁場:1110kA/mの条件で行った。
磁場中成形で得られた成形体を焼結した。焼結は、真空中、1090℃で4時間保持する条件とした。次いで得られた焼結体に850℃×1時間と520〜590℃×1時間(ともにAr雰囲気中)の2段時効処理を施した。
【0036】
このようにして得られた希土類永久磁石の保磁力(HcJ)を測定した。
その結果、図6(a)に示すように、ストリップ剥離温度が850℃の急冷薄帯合金を用いた場合、第2時効処理温度が570℃を超えると保磁力が急激に低下しているのに対し、ストリップ剥離温度が900℃の急冷薄帯合金を用いた場合、第2時効処理温度が580℃を超えるまで、保磁力が低下していないことがわかる。
つまり、ストリップ剥離温度を高めて900℃とすることで、高い保磁力が得られる第2時効処理温度の範囲を広げることができることがわかる。
【0037】
続いて、ストリップキャスト法により、次に示す2種類の組成の合金を用い、後述するそれぞれ2種類の条件により、計4種類の急冷薄帯合金を得た。
(1)高Dy合金:25.5wt%Nd−6wt%Dy−0.2wt%Al−1.5wt%Co−0.1wt%Cu-1.0wt%B−bal.Fe
(2)低Dy合金:28.5wt%Nd−3wt%Dy−0.2wt%Al−1.5wt%Co−0.1wt%Cu-1.0wt%B−bal.Fe
このとき、(1)、(2)の両合金は、溶湯温度、ロール面上における合金厚さ、ロールの周速、溶湯をロールに供給するためのタンディッシュのロールに対する位置等を変えることで、ロール面上から剥離されるときの急冷薄帯合金の温度(ストリップ剥離温度)が、900、850℃となるように制御した。
【0038】
得られた合金(1)、(2)のそれぞれに室温で水素を吸蔵させた後にAr雰囲気中で600℃×1時間の脱水素処理を行い、粗粉砕粉末を得た。脱水素処理により原料合金片は数百μm程度に粗粉砕された。
【0039】
水素粉砕処理で得られた粗粉砕粉末に潤滑剤としてステアリン酸亜鉛を0.05wt%添加した。なお、ステアリン酸亜鉛が添加された粗粉砕粉末をジェットミルにて平均粒径が4.5〜5.0μmになるまで微粉砕した。なお粉砕粒径は、シンパテック社製HELOS&RODOSにて測定した。
【0040】
そして、得られた合金(1)、(2)の微粉末のうち、ストリップ剥離温度が同じ合金から得られた微粉末どうしを、所望の最終組成:27wt%Nd−4.5wt%Dy−1.5wt%Co-0.1wt%Cu−0.2wt%Al−1.0wt%B−bal.Fe
となるように、ナウターミキサーで30分間混合した。
なお、高Dy合金である合金(1)から得られた微粉末と低Dy合金である合金(2)から得られた微粉末との混合比率は50:50であった。
【0041】
そして、得られた合金の微粉末を、磁場中成形した。なお、磁場中成形は、成形圧力:140MPa、印加磁場:1110kA/mの条件で行った。
磁場中成形で得られた成形体を焼結した。焼結は、真空中、1090℃で4時間保持する条件とした。次いで得られた焼結体に850℃×1時間と520〜590℃×1時間(ともにAr雰囲気中)の2段時効処理を施した。
【0042】
このようにして得られた希土類永久磁石の保磁力(HcJ)を測定した。
その結果、図6(b)に示すように、ストリップ剥離温度が850℃の急冷薄帯合金を用いた場合、第2時効処理温度が560℃を超えると保磁力が急激に低下しているのに対し、ストリップ剥離温度が900℃の急冷薄帯合金を用いた場合、第2時効処理温度が580℃を超えるまで、保磁力が低下していないことがわかる。
つまり、ストリップ剥離温度を高めて900℃とすることで、高い保磁力が得られる第2時効処理温度の範囲を広げることができることがわかる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本実施の形態におけるR−T−B系希土類永久磁石の製造工程を示すフローチャートである。
【図2】実施例における急冷薄帯合金のX線マイクロアナライザによる分析結果を示す図である。
【図3】比較例における急冷薄帯合金のX線マイクロアナライザによる分析結果を示す図である。
【図4】第2時効処理温度と磁気特性(保磁力(HcJ))との関係を示す図であり、(a)は絶対値のデータ、(b)は第2時効処理温度を530℃とした場合の保磁力を基準とした相対値によるデータである。
【図5】1段のみの時効処理温度と磁気特性(保磁力(HcJ))との関係を示す図であり、(a)は絶対値のデータ、(b)は時効処理温度を530℃とした場合の保磁力を基準とした相対値によるデータである。
【図6】1合金法と混合法において、ストリップ剥離温度を変化させた場合の第2時効処理温度と磁気特性(保磁力(HcJ))との関係を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
R−T−B(R:希土類元素の1種又は2種以上、T:Fe、又はFe及びCo、B:ホウ素)系希土類永久磁石の製造方法であって、
粒界相におけるAlの含有量が他の領域よりも少ない原料合金を粉砕する粉砕工程と、
前記粉砕工程を経た粉砕粉末を磁場中で成形する成形工程と、
前記成形工程で得られた成形体を焼結する焼結工程と、
前記焼結工程で得られた焼結体を熱処理する熱処理工程と、
を備えることを特徴とする希土類永久磁石の製造方法。
【請求項2】
前記熱処理は、前記焼結工程における焼結温度よりも低い温度領域における第一の熱処理と、
前記第一の熱処理における温度領域よりも低い温度領域における第二の熱処理と、を行うことを特徴とする請求項1に記載の希土類永久磁石の製造方法。
【請求項3】
前記原料合金は、溶湯をロール上で急冷することで形成した薄帯状であることを特徴とする請求項1または2に記載の希土類永久磁石の製造方法。
【請求項4】
前記希土類永久磁石は、R14B相からなる主相結晶粒と、前記主相結晶粒よりRを多く含む粒界相とを備えることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の希土類永久磁石の製造方法。
【請求項5】
前記粉砕工程では、R14B結晶粒を主体とする低R合金からなる原料合金片と、低R合金よりRを多く含む高R合金からなる原料合金片を粉砕し、
前記成形工程では、前記低R合金および前記高R合金を粉砕して得た前記粉砕粉末を磁場中で成形することを特徴とする請求項1から4のいずれかに記載の希土類永久磁石の製造方法。
【請求項6】
R−T−B(R:希土類元素の1種又は2種以上、T:Fe、又はFe及びCo、B:ホウ素)系希土類永久磁石の原料合金であって、
粒界相におけるAlの含有量が他の領域よりもプアであり、Rの含有量が前記他の領域よりもリッチであることを特徴とする希土類永久磁石の原料合金。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2007−270163(P2007−270163A)
【公開日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−93763(P2006−93763)
【出願日】平成18年3月30日(2006.3.30)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】