説明

希釈測定場所を設定するための装置

【課題】透析患者にも、医療関係者にもストレスをほとんど与えず、かつ取扱いが容易で、機能的に信頼性および簡便性がある透析患者の血流充填レベル評価を可能にする。
【解決手段】装置は、血液透析器14上に希釈測定位置を設定するのに役立つ。このような測定位置による希釈測定を介して、透析治療中の透析患者32の充填状態を決定することが可能である。静脈接続要素2は、注入チャンネル16を有し、希釈測定を実行するのに必要なボーラスを、血液透析器14から静脈血管アクセスの方向に、静脈接続要素2を通って流れて来る血液中に注入できる。動脈接続要素1は、動脈血管アクセスから血液透析器14の方向に、静脈接続要素2を通って流れて来る血液の温度を測定できる温度センサ30を有し、ボーラス注入による透析患者32の血流内に起きる影響に対するシステム応答は、本温度測定を介して決定でき、血流充填状態が決定できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液透析器上に希釈測定場所を設定するための装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ドイツだけで、約50,000人の患者が、定期的に、すなわち、1週間に数回、血液透析(血液浄化治療)を受けなければならない。これに関しては、よく知られているように、体外血液透析器(いわゆる「人工腎臓」)を、対象とする患者の血流に直接接続する。ほとんどの場合、接続は、動静脈瘻、すなわち、外科的に創り出した動脈と静脈との間の血管接続、において瘻針を介して行われるか、またはいわゆるシャント、すなわち、動脈と接続され、かつ静脈と接続される体外人工接続ラインを介して行われる。この接続では、血液は、動脈側から血液透析器に渡され、静脈側で身体に戻される。血液透析器にはポンプ、熱交換器、および気泡が静脈側の血流に入るのを防ぐ空気トラップだけでなく、核となる要素として透析部を有する。後者は、大きな膜表面を有し、例えば、患者の血液が一方側に流れ、他方側に透析流体が流れる毛細管システム、または薄膜システムとして構成される。膜表面を通る拡散交換に基づいて、余りに高濃度の電解質、および尿中に排泄しなければならない物質が、血液中から除去される。更に、水分交換が行われるとともに、必要に応じて、低濃度のグルコース、および電解質を加えることができる。
【0003】
血液透析器は、複雑なバランスシステムを備え、とりわけ、透析した血液の含水量変化を介して、接続した患者の身体から、余りに多くの液体が除去され、または加えられるのを、防ぐよう想定されている。患者の安寧および健康にとって、患者の血流充填状態、すなわち、患者身体の全循環血液量、が基準範囲を超えず、特にそれ未満にならないことが決定的に重要である。そのために、上記バランスシステムを用いるのに加えて、どの場合にも、患者は、透析治療前後に正確に体重を測定する。それでも、数時間に及ぶ透析治療中に、透析患者は、固体、または液体の栄養物を摂取することが多く、汗、尿、および便の形での排泄を生じることがあるので、正確なバランス化は困難である。
【発明の開示】
【0004】
これに関連する改良を行うこと、すなわち、透析患者にも、医療関係者にもストレスをほとんど与えず、かつ取扱いが容易で、機能的に信頼性および簡便性がある透析患者の血流充填レベル評価を可能にすることが本発明の任務である。
【0005】
この任務は、本発明の一態様に基づく、血液透析器上に希釈測定場所を設定するための装置により達成される。このような測定場所により、透析治療中の任意の所望時間、特に、治療の開始直後、および終了直前の希釈測定により、透析患者の血流充填状態を決定する可能性が与えられる。誤差を生じる透析患者の体重測定による液体バランスのチェックは排除できる。本発明に基づく装置による希釈測定場所の設定は、充填レベルを決定できるだけでなく、周知の熱希釈法、または指示薬希釈法による他の血流力学パラメータ決定が可能である。これにより、特に、生命を血液透析に依存している集中治療患者の監視に対して、単純で、信頼性が高く、便利な関連データを決定できるという利点が生じる。
【0006】
実施の際に本発明により設定された測定場所を用いることが特に有益な、熱希釈測定法による患者の血流充填レベルを決定する方法が、ドイツ特許公開公報DE42 14 402 A1に記載されている。また、実施の際に本発明により設定された測定場所を用いることも可能な、指示薬希釈測定法による患者の循環血液量を決定する方法が、ドイツ特許公開公報DE41 30 93 A1で周知である。更に、本発明により設定された測定場所を、米国特許第6,757,554 B2号によるか、またはそれと類似の指示薬希釈測定法に対して、またはドイツ特許公開公報DE101 43 955 A1に記載の、指示薬希釈と熱希釈とを組合せた測定法(デュアル指示薬希釈法)に対して用いることができる。
【0007】
詳細には、本発明が基づく任務は、請求項1の装置により達成される。特に有益な実施の形態は、請求項2〜21の内の一つにより構成できる。
【0008】
上記のように、本発明による装置は、熱希釈法だけでなく、指示薬希釈法、またはそれらの組合せ、を有益に用いるのに適している。
【0009】
しかしながら、本発明は、(経肺)熱希釈法を実行するために実装するのが最も好適である。従って、本明細書の説明に基づく構成の装置で測定した熱希釈曲線から、心臓血管パラメータを導き出すことができるような方法で、本発明を実装するのが特に好ましい。詳細には、本発明によるシステムの特に有益な実施の形態は、動脈接続要素に備えられる温度センサからの温度測定値を用いて、径肺熱希釈法の分野でそれ自体周知のアルゴリズムにより、心臓血管パラメータを決定する。本発明を径肺熱希釈法を実行するために実装する場合、測定精度を上げるために、使用時に透析する血液と密接に熱接触している温度センサを有する動脈側を備えるのが特に有益である。通常、透析する血液との、この意味における密接な熱接触は、普通のチューブの壁越しの血液温度測定では達成されない。比較的厚い壁が、かなりの熱抵抗、および局部的放熱の両方の点から測定に影響することがあり、その結果、センサ応答を遅延させるからである。従って、温度センサを動脈接続要素に一体化するか、または温度センサープローブ等の、適切な温度センサ装置が、透析する血液と密接に熱接触するように挿入できるような方法で、動脈接続要素を構成することが好ましい。
【0010】
動脈接続要素が備えるセンサは、希釈測定法で用いられる既知のセンサのように構成すると有益である。温度測定には、白金抵抗センサが特に適しているが、他の熱抵抗素子、または熱電素子も実用的である。
【0011】
動脈および静脈の接続要素は、機械的に接続し、従って、共通の機能ユニットに一体化した方が有益であるが、接続要素の別体構成を実施することも可能で、有益である。これに関連して、動脈および静脈の接続要素を瘻針に接続することが可能であるのと同様に、動脈および静脈の接続要素を、シャント内に一体化するのも可能である。この接続は、固定式、または、例えばルアーロック型接続による、脱着式の両方で実施できると有益である。血液透析器入力接続、および血液透析器出力接続における血液透析器への接続は、概して脱着式で、ルアーロック型接続を備えるのも有益であるが、ねじ式接続、バヨネット接続、キャッチ係合接続、クランプ式接続等の、別の方法で構成した接続を提供してもよい。
【0012】
特に動脈血管接続は(しかし、原理的には静脈血管接続も)、カテーテルにより実施することもできる。これに関連して、透析する血液の温度を測定するためのセンサ、および/または透析する血液内の指示薬濃度を測定するためのセンサを、カテーテルに一体化するか、またはプローブによりカテーテルを通じてセンサを導くことが可能で、有益である。
【0013】
特に、評価ハードウエアが使用される場合、機械的、および/または電気的、すなわち電子的な接続コーディングを、血液透析器への接続の一方、または両方、および他の接続に提供できる。そのコーディングは、互換性のある装置を用いることを保証し、動脈側および静脈側のコネクタが相互交換できないことを保証する。更に、血液透析器、および接続する評価ハードウエアは、動作、サービス、補正、または計算パラメータを、使用する本発明による装置の型式に適合させるために、適切な接続コーディングを照会できる。対応するコーディングを、例えば、抵抗器、インピーダンスブリッジ、電気接続した、またはトランスポンダ結合したチップ、特定ピン編成等として、実装できるのが有益である。
【0014】
本発明による装置の静脈接続要素の注入チャンネルは、文献EP1 034 737 A1により既知の注入チャンネルの装置特性を有することができるのが有益であるが、代替として、ずっと簡単な方法で構築することもできる。このチャンネルは、室温での注入液使用に対して特に最適化されるが、本発明によれば、代替として、冷却した、または加熱した注入液を用いることもできる。
【0015】
本発明の他の態様によれば、任務は、請求項22による透析部、および請求項23によるシステムにより達成できる。特に有益な実施の形態は、請求項24〜26の内の一つにより構築できる。
【0016】
好適には、これに関連して、評価ユニットのプログラム技術装置は、上記に挙げた文献の内の一つによる希釈方法の評価ステップを実行するように構築する。
【0017】
注入時間ポイント、および注入継続時間の決定は、ドイツ特許公開公報DE197 38 942 A1の記載に従って提供でき、有益である。しかしながら、これは絶対的に必要というものでもない。
【0018】
本発明の特に有益な更なる進展によれば、制御回路を提供して、決定した血流充填レベルの変化の関数として、血液透析器内の血液から流体を引き出すか、または血液の流体濃縮をする効果をもたらす。
【0019】
基本的に、本明細書の大枠内で説明し、または示唆した本発明のいずれの変形も、個々の場合の経済的、または技術的状況に応じて、特に有益になり得る。否定的なことに言及しない限り、これを技術的に実施することが基本的に可能な程度まで、説明した実施の形態の個々の特性は、相互交換し、または互いに組合せることが可能である。
【0020】
以下に、本発明の好適な実施の形態の例を、関連する図面を用いて、より詳細に説明する。
【0021】
これに関連して、図面は、判りやすく図解するために、純粋に略図としてあり、正確な尺度を表すものではない。詳細には、寸法間の関連、特に、チャンネルの直径、ホースの長さ、および外径の寸法は、実際の実施の形態から逸脱することがある。実際には、寸法は、従来の血液透析器の血管アクセスポイント、および市販の(入手可能な)注入チャンネル等の、個々の場合の要件、および入手可能な標準部品に基づいて決めることができる。
【0022】
個々の図の互いに一致する要素は、それが道理に適う限り、同一の参照符号で表す。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
図1は、本発明による装置を示す。本装置の動脈接続要素1、および静脈接続要素2は、別体の構成部品として構築する。血管アクセスとして、動脈接続要素1は、動脈瘻針3と接続し、静脈接続要素2は、静脈瘻針4と接続する。瘻針3、4は、どの事例でも、研磨した中空針5、プラスチック製把手部品6、ならびにホーススリーブ8、および締め付けクランプ9を有するホース部品7を有する。プラスチック製把手部品6は、例えば、動脈血管アクセスは赤、静脈は青として、色別に印を付けるのが好ましい。
【0024】
接続要素1、接続要素2と、瘻針3、瘻針4との間の接続は、例えば、動脈接続要素1について示すように、単純なホースタップ接続11により構築するか、または、静脈接続要素2について示すように、例えば、ルアーロック型接続10、または別のワンタッチ接続による何らかの別の方法でも構築できる。動脈接続要素1上の血液透析器入力コネクタ12、および動脈接続要素2上の血液透析器出力コネクタ13は、例えば、ルアーロックナット15により、血液透析器14のコネクタとワンタッチ接続できるように構築するのも好適である。
【0025】
静脈接続要素2は、注入チャンネル16を有し、それを通じて、希釈測定を実行するのに必要なボーラス(bolus:薬剤又は検査試薬)を、血液透析器出力コネクタ13から静脈血管アクセスの方向に、静脈接続要素2を通って流れて来る血液に注入できる。血液透析器を閉止した時(すなわち、血液透析器14を通る血流39が停止する時)、注入液が、血液透析器の方に向かって、血液透析器出力コネクタ13を通過するのを防ぐための、血液透析器出力コネクタ13の領域にあるオプションとして提供されるバルブは図示していない。これは単純なキックバックバルブとすることができるが、代替として、(半)自動、または手動バルブ、例えば、接続した血液透析器14が電子的に制御する、血液透析器14を閉止した時に閉じるソレノイドバルブでもよい。
【0026】
図示の注入チャンネル16は、注射器、注入ポンプ、または注入液を供給する他の装置を接続できるコネクタ17を有する。注入ポンプは、注入測定のための評価ユニット21としても役立つ装置を介して制御すると有益である。
【0027】
更に、注入チャンネル16には、注入液温度を決定するための温度センサ18が備えられる。ケーブル(シールドされている可能性がある)内を通り、プラグ(機械的、および/または電気的、または電子的にコーディングされている可能性がある)を介して評価ユニット21に接続できる、信号線20(単に図示するのみ)を有する白金熱抵抗器センサの注入チャンネル16内に突出している先端を単なる略図で示す。更に注入チャンネル16は、最小注入圧力を越えると開き、同時に、注入時間ポイント、および/または注入継続時間を決定するスイッチ機能を作動させるバルブを有する。
【0028】
バルブは、基本的に、注入チャンネル16内部に案内されるシリンダ22、注入チャンネル16内部の、シリンダ長の一部だけに延伸する一つ以上の長手溝23、および注入方向と逆方向にシリンダ22を押す圧力ばね24から成る。好適には、停止部(不図示)を備え、注入チャンネル16内に、注入圧力が働かないか、または僅かな注入圧力しか働かない場合、シリンダ22はそこで静止する。従って、圧力ばね24に、僅かなバイアスが加わっていることが好ましい。注入圧力が増加すると、ばね24は圧縮される。閾値を越えた時、シリンダが十分大きく移動することにより、長手溝23が、注入チャンネル16の近位部分25と、遠位部分26との間の注入液の連通を生み出し、注入液は、血液透析器出力コネクタ13から静脈血管アクセスへの血流に入ることができる。注入の最後に、ばね24のリセット力が、ピストン22を開始位置に押し戻す。
【0029】
注入時間ポイント、および/または注入継続時間(好ましくは両方)を決定するためのスイッチ機能を働かせるために、シリンダ22は、強磁性体の金属から成り、磁石27、およびリードスイッチ28とともに作用する。シリンダ22が、磁石27と、リードスイッチ28との間に位置する場合(注入時)、磁場が偏向される。他方、シリンダ22が磁石27と、リードスイッチ28との間に位置していない場合(注入の前後)、リードスイッチ28は、磁場の影響により作動する。信号線29(図面に示すのみ)を介したリードスイッチ28への照会により、注入時間ポイント、および/または注入継続時間(好ましくは両方)の決定が可能である。信号線29は、ケーブル(シールドされている可能性がある)内を通り(温度センサ18の信号線20と併せての可能性がある)、プラグ(機械的、および/または電気的、または電子的にコーディングされている可能性がある)(不図示)を経由して評価ユニット21に接続できる。
【0030】
バルブ、またはスイッチは、言うまでもなく、それぞれ、上記に提示したものと異なる構造とすることもできる。例えば、注入の時間ポイント、および継続時間は、容量性測定を介して、または温度測定を介して決定することもできる。更に、注入時間ポイントは、手動で、例えば注入を実行する関係者が操作するボタンを介して、記録することもできる。測定技術の質に対する要求に応じて、注入チャンネル16の、バルブまたはスイッチがないか、またはセンサがない、より単純な実施の形態も可能である。また、加熱できる注入チャンネル16も実施することができる。
【0031】
動脈接続要素1は、動脈血管アクセスから血液透析器入力コネクタ12の方向に、静脈接続要素2を通って流れて来る血液の温度を測定できる温度センサ30を有する。ボ−ラス注入により透析患者32の循環系(システム)に起きる影響に対するシステム応答を、この温度測定を介して決定できる。
【0032】
ケーブル(シールドされている可能性がある)内を通り、プラグ(機械的、および/または電気的、または電子的にコーディングされている可能性がある)(不図示)を介して評価ユニット21に接続できる、信号線31(単に図示するのみ)を有する白金熱抵抗器センサの、動脈接続要素1の内側に突出している先端を単なる略図で示す。図2に示すように、動脈および静脈接続要素(1、2)を共通機能ユニットに一体化する場合、全ての信号線20、29、31を、共通ケーブルに通すこともできる。
【0033】
接続要素1、2は、衛生上の理由から、使い捨て製品として構築し、無菌パッケージ内に、瘻針3、4なし、またはありのいずれかで、個別梱包、または集合梱包するのが好ましい。
【0034】
図2に示す、本発明による装置の機能の構造、および方法は、図1との関連で説明したものと基本的に同一である。しかしながら、動脈および静脈接続要素(1、2)は、共通機能ユニット33として、互いに接続される。瘻針(3、4)を接続するためのワンタッチ接続を、両血管アクセスに提供する。
【0035】
図2によるか、またはそれと類似の構造を有する装置33が、血液透析器14に接続される本発明によるシステムを図3に示す。信号線20、29、および31は、本発明による装置33を用いて実行できる熱希釈測定の評価プログラム技術の観点から備えられる評価ユニット21と接続する。
【0036】
動脈および静脈血管アクセスは、どの事例でも、動脈および静脈接続要素(1、2)とそれぞれ接続される瘻針(3、4)を介して、透析患者32の動静脈瘻34で行われる。
【0037】
透析する血液は、血液ポンプ35により送られて、動脈血管アクセスから、動脈接続要素1を通って、血液透析器14に向かって流れる。一般に、血液にはヘパリンが添加されている。大きな膜表面40を備える実際の透析部36では、浸透液との膜浸透物質交換、従って「血液浄化」が行われる。浸透液流37は、基本的に従来の血液透析器と同様に実装できる本明細書で詳細に示す複雑なバランスシステム38を通る。浸透液の電解質、および流体の含有量は、バランスシステム38で正確に調整され、更に浸透液は、限外濾過され、熱交換器により予熱され、気体を除去し、そして漏出血液を検査する。
【0038】
血流39が、実際の透析部36内の膜表面40上を流れた後、空気トラップ42を通過して、血液透析器出力コネクタ13を通って、静脈接続要素2に入る。そこから、静脈血管アクセスを通って患者32の血流41に返血される。
【0039】
静脈接続要素2では、注入チャンネル16を経由してボーラスを注入できるが、このボーラスの温度は、血液温度と異なる。その温度、時間ポイント、および適用可能なら、ボーラス注入継続時間も、温度センサ18、およびリードスイッチ28を用いて、上記の方法で測定し、その測定値を評価ユニット21に渡すのが好ましい。
【0040】
このような方法で患者の血液に与えた局部的温度変化は、血液の方向に流れ続け、順次、右心房、右心室43、肺循環44、左心房、左心室45、および大動脈46を経由して患者32の血流41に再び到達する。このように、ボーラス注入によって起きる影響に対するシステム応答は、動脈接続要素1内の温度センサ30により記録できる。熱希釈曲線が、温度伝搬(すなわち、通常の血液温度からの温度偏差の伝搬)により時間全体に亘ってもたらされる。
【0041】
従って、経肺熱希釈技法の周知の方法に基づいて、評価ユニット21は、各種の血流力学パラメータ、しかし特に、グローバル拡張末期容量GEDV、従って、患者32の充填状態を計算できる。この目的のために、評価ユニット21は、ボーラス注入を特徴付ける注入液温度、注入継続時間、および注入時間ポイントの測定変数はもとより、入力チャンネル47、48、49を経由して、温度センサ30からの動脈温度測定データを受け取る。
【0042】
グローバル拡張末期容量GEDVは、次式で決定できる:
GEDV = CO ・(MTT _ DST)
この式で、COは心拍出量、MTTは平均通過時間、およびDSTは指数下降時間、すなわち、ボーラス注入に起因する温度偏差が1/eだけ下降するのに必要な時間である。
【0043】
心拍出量COは、スチュアートハミルトンの方程式に基づくアルゴリズムにより決定できる。
【数1】

【0044】
この式で、TBは開始時の血液温度、TLは熱指示薬として用いるボーラスの温度、つまり注入液の測定温度、VLは注入したボーラスの体積、およびΔTB(t)は血液温度の基線温度TBからの偏差の時間関数である。K1およびK2は、特定の測定編成を考慮して経験的に決定するか、または推定した定数である。
【0045】
決定した血流力学パラメータは、操作者を導くのに役立つディスプレイ52を介して出力できる。更に、評価ユニット21は、外部メモリ媒体、またはプリンタを備えることもできる。
【0046】
更に、バランスシステム38は出力チャンネル51を介して制御できる。グローバル拡張末期容量GEDVが、患者特有の基準値から過度に偏っている場合は、患者32の充填状態の補正を、目標とする流体含有量の増加、または減少により達成できる。対応制御はオプションである。代替として、担当医が、出力したGEDV計算値に基づいて適切な対応策をとることができる。
【0047】
動脈側の代替の実施の形態を図4a〜図4cを用いて、二つの異なる変形で示す。ここでカテーテル53は、動脈血管アクセスに提供されるが、図4aに、紙面の関係で、動脈接続要素1と分離させて、かつ途中を省略して、非断面で示す。図4b、および図4cに、カテーテル遠位端部54の断面表示に基づく、いずれも、図4aと比較して拡大した温度センサ30の編成の二つの異なる変形を示す。静脈側は図2のように構成する。
【0048】
カテーテル53は、その近位端において、ルアーロック型接続10、または類似のワンタッチ接続を介して動脈接続要素1と接続できる。加えて、カテーテル53と動脈接続要素1とを、共通部品として、例えば、接合または接着により恒久的に相互接続することも有益である。
【0049】
血液ガイド内腔56が、カテーテル53の近位端から、カテーテル遠位端部54まで通る。透析する動脈血液は、血液ガイド内腔56により動脈接続要素1に渡される。
【0050】
チャンネル分離部55の遠位側では、温度センサ30の信号線31、および血液ガイド内腔56が、共通カテーテル本体59内を通る。温度センサ30は、図4bに示すようにカテーテル53に強固に一体化するか、または図4cに示すように、プローブ内腔57を通って導かれる別体のプローブの一部として構築できる。不図示の別の変形によれば、血液ガイド内腔56内に導かれる別体のプローブとして、温度センサ30を構築することもできる。
【0051】
透析する血液の温度測定は、温度センサ30がカテーテル遠位端部54を超えて突出する図4cに示すように、自由な血流内か、または図4bに示すように、血液ガイド内腔56の内部のいずれかで実行できる。
【0052】
チャンネル分離部55の近位側では、信号線31が別体のホース片、またはケーブル58内を通って、プラグ(機械的、および/または電気的、または電子的にコーディングされている可能性がある)(不図示)を介して評価ユニット21と接続できる
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明による装置の断面図を示す。動脈、および静脈の接続要素が別体で構成され、いずれも血管アクセスポイントとしての瘻針と既に接続してある。
【図2】本発明による装置の断面図を示す。動脈、および静脈の接続要素が共通機能ユニットに一体化されている。
【図3】図2の装置、血液透析器、および評価ユニットを有する本発明によるシステムを様式化した形式でのみ示す。本装置は、2本の瘻針を介して、透析患者の血流に接続する。
【図4a】図2と類似の本発明による装置を示すが、カテーテルが動脈血管接続に提供され、温度センサは、カテーテル内に移動してある。カテーテルは、途中を省略して、非断面形式で示す。
【図4b】図4aと比較して拡大したカテーテル遠位端部の断面表示を用いて、温度センサ編成の変形を示す。
【図4c】図4aと比較して拡大したカテーテル遠位端部の断面表示を用いて、温度センサ編成の別の変形を示す。
【符号の説明】
【0054】
1 動脈接続要素
2 静脈接続要素
12 血液透析器入力コネクタ
13 血液透析器出力コネクタ
14 血液透析器
16 注入チャンネル
30 センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
血液透析器(14)上に希釈測定場所を設定するための装置であって、
血液透析器入力コネクタ(12)を有する動脈接続要素(1)と、
透析する血液の温度を測定するためのセンサ(30)および/または透析する血液内の指示薬濃度を測定するためのセンサと、
血液透析器出力コネクタ(13)を有し、かつ、当該静脈接続要素(2)を通って流れる透析した血液にボーラスを注入するための注入チャンネル(16)を有する静脈接続要素(2)と、
を有する装置。
【請求項2】
前記動脈接続要素(1)は、動脈血管アクセスに接続するための接続手段を有し、前記静脈接続要素は、静脈血管アクセスに接続するための接続手段を有する請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記動脈血管アクセスは、前記動脈接続要素の前記接続手段を介して前記動脈接続要素と接続され、前記静脈血管アクセスは、前記静脈接続要素の前記接続手段を介して前記静脈接続要素と接続される請求項2に記載の装置。
【請求項4】
前記静脈血管アクセスは、瘻針(4)を有する請求項2〜3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
前記動脈血管アクセスは、瘻針(3)を有する請求項2〜4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記動脈血管アクセスおよび前記静脈血管アクセスを、シャント内に集約している請求項2〜3のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記動脈血管アクセスは、カテーテル(53)を有する請求項3〜4のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
前記カテーテル(53)は、透析する血液の温度を測定するための前記センサ(30)、および/または透析する血液内の指示薬濃度を測定するための前記センサのキャリアとして機能する請求項7に記載の装置。
【請求項9】
透析する血液の温度を測定するための前記センサ(30)、および/または透析する血液内の指示薬濃度を測定するための前記センサを、前記カテーテル(53)内に集約している請求項8に記載の装置。
【請求項10】
透析する血液の温度を測定するための前記センサ(30)、および/または透析する血液内の指示薬濃度を測定するための前記センサを、前記カテーテル(53)の内腔(57)内に押し込まれるプローブ内に集約している請求項8に記載の装置。
【請求項11】
前記センサ(30)を、前記カテーテルを通って流れる血液の温度を測定するよう、および/または前記カテーテル(53)を通って流れる血液内の指示薬濃度を測定するよう設計する請求項8〜10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
前記センサ(30)を、前記カテーテル遠位端部(54)の近傍の自由血流の温度を測定するよう、および/または前記カテーテル遠位端部(54)の近傍の自由血流内の指示薬濃度を測定するよう設計してなる請求項8〜10のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
前記センサ(30)を、前記動脈接続要素(1)を通って流れる血液の温度を測定するよう、および/または前記動脈接続要素(1)を通って流れる血液内の指示薬濃度を測定するよう設計してなる請求項1〜7のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
前記動脈接続要素(1)および前記静脈接続要素(2)を、共通機能ユニット(33)に集約している請求項1〜13のいずれかに記載の装置。
【請求項15】
前記注入チャンネル(16)は、前記注入チャンネル(16)の内部温度を測定するための温度センサ(18)を有する請求項1〜14のいずれかに記載の装置。
【請求項16】
前記注入チャンネル(16)は、前記注入チャンネル(16)内が圧力閾値に達した時に、スイッチ開放、またはスイッチ閉鎖をもたらすスイッチ特性を有する圧力スイッチを有する請求項1〜15のいずれかに記載の装置。
【請求項17】
前記注入チャンネル(16)は、前記注入チャンネル(16)内が流体流量閾値に達した時に、スイッチ開放、またはスイッチ閉鎖をもたらすスイッチ特性を有する流量スイッチを有する請求項1〜15のいずれかに記載の装置。
【請求項18】
前記注入チャンネル(16)は、バルブを有する先行請求項のいずれかに記載の装置。
【請求項19】
前記静脈接続要素の前記血液透析器出力コネクタ(13)は、前記血液透析器(14)の方向のボーラス流を避けるためのバルブを備える請求項1〜18のいずれかに記載の装置。
【請求項20】
前記動脈接続要素(1)および前記静脈接続要素(2)を、無菌パッケージ内に梱包する請求項1〜19のいずれかに記載の装置。
【請求項21】
前記動脈接続要素(1)および前記静脈接続要素(2)を、共通の無菌パッケージ内に梱包する請求項20に記載の装置。
【請求項22】
請求項1〜19のいずれかに記載の前記装置における前記動脈接続要素(1)の前記血液透析器入力コネクタ(12)に接続され、当該血液透析器(14)に血液を流すための透析器入力と、
請求項1〜19のいずれかに記載の前記装置の前記静脈接続要素(2)の前記血液透析器出力コネクタ(13)に接続され、当該血液透析器から血液を流出させるための透析器出力と、
を有する血液透析器。
【請求項23】
透析患者(32)の心臓血管系において希釈測定を実行するためのシステムであって、請求項1〜19のいずれかに記載の前記装置と、評価ユニット(21)とを有し、前記評価ユニットは、
透析する血液の温度を測定するための前記センサ(30)および/または透析する血液内の指示薬濃度を測定するための前記センサの測定信号を読み込むための入力チャンネル(47)と、
ボーラス注入を特徴付ける少なくとも一つの特性変数を読み込むための別の入力チャンネル(48、49)および/または該特性変数を入力するための入力ユニットと、
を有するとともに、
プログラム技術によって、経肺拡散測定を評価するよう設計され、前記測定において、前記読み込んだ測定信号およびボーラス注入を特徴付ける前記少なくとも一つの変数から、少なくとも一つの血流力学パラメータが決定されることを特徴とするシステム。
【請求項24】
前記評価ユニット(21)の前記プログラム技術設計は、前記透析患者(32)の充填状態を決定するための関数を含む請求項23に記載のシステム。
【請求項25】
前記評価ユニット(21)は、血液透析器(14)を制御するための制御チャンネル(50)を更に有し、前記評価ユニット(21)の前記プログラム技術設計は、前記充填状態の関数とし、前記血液透析器(14)を通って流れる血液の流体バランスに影響を与える制御関数を有する請求項24に記載のシステム。
【請求項26】
血液透析器(14)を有する請求項23〜25のいずれかに記載のシステム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4a】
image rotate

【図4b】
image rotate

【図4c】
image rotate


【公開番号】特開2007−203044(P2007−203044A)
【公開日】平成19年8月16日(2007.8.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−18404(P2007−18404)
【出願日】平成19年1月29日(2007.1.29)
【出願人】(500180813)プウルジョン メデカル システムズ アクチエンゲゼルシャフト (14)
【氏名又は名称原語表記】PULSION Medical Systems AG
【住所又は居所原語表記】Stahlgruberring 28, D−81829 Munchen, Germany
【Fターム(参考)】