説明

帯電防止ハードコートフィルム、並びに紫外線硬化性樹脂材料組成物及びその製造方法

【課題】 基材フィルムの帯電を防止する高い導電性を有し、透明性に優れ、十分な硬度を有するハードコート層を備えた帯電防止ハードコートフィルム、並びに、帯電防止ハードコート層の形成材料として好適な紫外線硬化性樹脂材料組成物及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】 (A)2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマー、(B)(メタ)アクリロイル基と親水基とを有するモノマー及び/又はそのオリゴマー、(C)導電性を有する(メタ)アクリル系樹脂ポリマー、又は、この導電性ポリマーを形成し得るモノマー及び/又はオリゴマー、(D)平均一次粒子径が5〜150nmの無機導電性微粒子、および(E)重合開始剤を含有する紫外線硬化性樹脂材料組成物層を基材フィルム1上に形成し、硬化させ、ハードコート層2を形成する。(A)に親水基を有する成分が含まれる場合、この成分が(B)を兼ねることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基材フィルムの帯電を防止する導電性を有するハードコート層を備えた帯電防止ハードコートフィルム、並びに、帯電防止ハードコート層の形成材料として好適な紫外線硬化性樹脂材料組成物及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶表示装置(LCD)や、プラズマ表示装置(PDP)や、エレクトロルミネッセンス表示装置(ELD)などの画像表示装置が、広く用いられている。これらの画像表示装置では、多くの場合、画像表示部の使用者側最表面に、傷つき防止のためのハードコートフィルムが設けられている。ハードコートフィルムは、通常、基材フィルムと、その表面に設けられたハードコート層などによって構成されている。
【0003】
基材フィルムとしては、機械特性、透明性、および耐熱性などに優れた特性を有することから、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルム、トリアセチルセルロース(TAC)フィルム、およびシクロオレフィンポリマー(COP)フィルムなどが用いられる。しかし、PETなどのプラスチック類は電気絶縁性であるので、摩擦などによってフィルム表面が帯電しやすい。基材フィルムの帯電は、静電気自体、または静電気によって吸着された粉塵などによって、画像表示装置の生産性が低下する原因になる。また、吸着された粉塵などは、画像の視認性が低下する原因になる。従って、ハードコートフィルムには、製造工程における生産性の向上、粉塵の付着防止、および光学特性(輝度特性や視野角特性)の悪化防止などのために、帯電を防止する機能が求められている。
【0004】
一方、ハードコート層を形成する材料としては、塗布法などによって簡易に樹脂材料層を形成できる有機系樹脂材料組成物が好ましい。この際、樹脂として熱硬化性樹脂を用いると、樹脂材料層を硬化させるのに加熱が必要になる。しかし、基材が薄いフィルムである場合には、加熱によって基材の変形などが起こるので、加熱は望ましくない。従って、ハードコート層を構成する樹脂としては、通常、硬化させるのに加熱が不要な紫外線硬化性樹脂が用いられる。
【0005】
従って、ハードコートフィルムに帯電防止機能をもたせるには、ハードコート層を構成する紫外線硬化性樹脂に導電性材料を添加することによって、ハードコート層の表面抵抗を低下させることができれば、好都合である。現在、導電性材料として、五酸化アンチモンSb25、ITO(酸化インジウム・酸化スズ)、ATO(酸化アンチモン・酸化スズ)、およびPTO(酸化リン・酸化スズ)などの無機導電性微粒子を紫外線硬化性樹脂に添加する構成が主流である。
【0006】
例えば、後述の特許文献1には、酸化スズまたは酸化インジウムを主成分とする導電性粉末を、複数種の紫外線硬化性樹脂モノマーとともに有機溶剤中に加え、ボールミルなどを用いて分散させたハードコート剤が提案されている。
【0007】
また、後述の特許文献2では、アンチモンがドープされた酸化スズ微粒子を、紫外線重合性官能基を有するシランカップリング剤で表面処理した後に、上記シランカップリング剤とテトラアルコキシシランとを加水分解して得られるシロキサン系ポリマーと重合させ、導電膜を作製する導電膜の製造方法が提案されている。この場合、シランカップリング剤は表面処理剤およびバインダー樹脂として2通りに用いられている。
【0008】
無機導電性微粒子を導電性材料として紫外線硬化性樹脂に添加する構成では、通常、樹脂と無機微粒子との親和性がよくないため、無機微粒子が二次凝集することによって、光透過率やヘイズなどの光学特性が劣化することがある。また、導電性微粒子を含有した組成物およびその硬化物の透明性と表面抵抗率は、微粒子の分散状態によって大きく変化する。分散性が高まるほど透明性は向上するが、これとは反対に、導電性は低下することが多い。これは、硬化物全体としての電気伝導は、導電性微粒子同士が十分に接近していないと効果的に起こらないことによる。従って、導電性微粒子が個々に完全分散している系では、導電性が極端に低くなる。よって、導電性微粒子の添加によって表面抵抗を低下させ、帯電防止機能を発揮させるには、導電性微粒子の適度な二次凝集を促すか、多量の微粒子を添加する必要がある。しかし、導電性微粒子の過度の凝集や多量の添加は透明性の低下を招くおそれがある。このように、高い透明性と高い導電性を両立させるには、導電性微粒子の分散を制御する技術が必要である。
【0009】
特許文献1では、導電性微粒子を、表面処理を行うことなく、紫外線硬化性樹脂モノマーまたは溶媒中に分散させている。この場合、分散させることのできる無機導電性微粒子の量は少量に限られるので、硬化物の導電性は低い。また、樹脂の選択肢も大きく制限される。さらに、硬化後の無機導電性微粒子の分散安定性が悪化し、保存安定性が損なわれる不具合もある。また、多量の、表面処理をしていない無機導電性微粒子を樹脂中に分散させた硬化物は、機械的強度が低下して脆くなるという不具合もある。
【0010】
特許文献2のように、樹脂に分散させる前に無機導電性微粒子の表面処理を行い、無機導電性微粒子と樹脂との親和性を高めておくことは、分散性を向上させる上で望ましいことである。ただし、分散性を高めていくと、粒子同士の接触が少なくなり、導電性が低下していくので、高い透明性と高い導電性を両立させるには、無機導電性微粒子の分散性と二次凝集の適度な兼ね合いが必要であることは上述した通りである。特許文献2に示されている表面処理方法でそのような制御を行うのは困難であると考えられる。
【0011】
無機導電性微粒子の分散状態の制御を目指したものとして、後述の特許文献3では、導電性酸化物微粉末をバインダーとともに易分散性低沸点溶剤と難分散性高沸点溶剤の混合溶剤中に分散させた導電性膜形成用塗料が開示されている。特許文献3には、2種類の溶媒の使い分けによって分散性が制御され、一次粒子径が1〜10nm、二次粒子径が20〜150nmである場合に、透明性と導電性がともに優れた透明導電性膜が形成されやすいと記されている。
【0012】
また、後述の特許文献4では、導電性微粒子が分散している樹脂組成物であって、導電性微粒子が2種類以上の表面処理剤で処理されたものであり、且つ該表面処理剤の少なくとも1種が分子内に反応性アクリレート基を有するものであることを特徴とする帯電防止ハードコート用樹脂組成物が提案されている。特許文献4には、表面処理剤の組み合わせとしては、一方が樹脂への分散性を極力高めうるものであり、もう一方が分散性を高める上で劣るものであると、2種類の表面処理剤の使い分けによって分散性が制御され、微粒子の適度な分散と凝集を促すことができると記されている。
【0013】
一方、導電性材料として導電性ポリマーを用いる提案も多い。例えば、後述の特許文献5には、ハードコート層形成用樹脂材料として、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有する紫外線または放射線硬化型樹脂と、導電性ポリマーと、1個または2個の(メタ)アクリロイル基および少なくとも1個のヒドロキシ基を有する相溶化剤とを含有する組成物が提案されている。ここで、導電性ポリマーは、分子量が2×104〜50×104であり、ポリエーテル、第四級アンモニウム塩基含有ポリマー、スルホン酸含有ポリマー、または高分子電荷移動型結合体ポリマーのいずれかである。また、相溶化剤は、紫外線または放射線反応型のモノマーまたは分子量1×103以下のオリゴマーである。
【0014】
また、後述の特許文献6には、次の成分(A)〜(C)
(A)第四級アンモニウム基を有するビニル基含有単量体およびこれと共重合可能な(メタ)アクリル系単量体を共重合して得られる(メタ)アクリル系コポリマー、
(B)3官能以上のビニル基を有するポリウレタンオリゴマー、
(C)2〜6官能のビニル基を有するアクリル系モノマー
を含有してなるハードコート層形成用樹脂組成物が提案されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
既述したように、無機導電性微粒子を紫外線硬化性樹脂に添加する構成で高い透明性と高い帯電防止性能とを両立させるには、無機導電性微粒子の分散性と二次凝集の適度な兼ね合いを実現することが必要である。特許文献1や特許文献2の発明ではそのような制御を行うことは意図されておらず、これらの構成で上記適度な兼ね合いを実現することは困難であると考えられる。特許文献3の実施例では、表面抵抗値と全光線透過率とがともに満足されることはなく、特許文献4の実施例では、全光線透過率は高いが表面抵抗値が大きい。これらの結果を見る限り、特許文献3や特許文献4の構成で上記適度な兼ね合いの実現に成功しているとは言い難い。従って、高い透明性と高い帯電防止性能とを両立させるには、無機導電性微粒子の分散をより効果的に制御する新規な技術、または全く発想の異なる新規な構成が必要であることは明らかである。
【0016】
一方、導電性ポリマーを導電性材料として紫外線硬化性樹脂に添加する構成では、一般に帯電防止性能が十分ではなく、導電性を向上させるために導電性ポリマーを多量に添加すると、ハードコート層の硬度が低下するという問題がある。例えば、特許文献5の構成では、得られる被膜の表面抵抗値が5×1010Ω/□程度であり、帯電防止性能が十分ではなく、また、鉛筆硬度がH程度であり、硬度も十分ではない。特許文献6の構成では、ほこりの付着を防止するなど、通常の用途には十分な導電性と硬度とを有する帯電防止ハードコート層が得られる。しかし、液晶表示パネルには、表示画面の表面が帯電すると液晶分子のチルト角を制御できなくなり、その結果、白抜けなどの表示の乱れが発生する構造のパネルがある。このようなパネルでは、帯電による表示の乱れを防止するために、表面抵抗値が106〜108Ω/□程度であることが必要である。特許文献6の構成でも、このように高い導電性を実現することはできない。
【0017】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであって、その目的は、基材フィルムの帯電を防止する高い導電性を有し、透明性に優れ、十分な硬度を有するハードコート層を備えた帯電防止ハードコートフィルム、並びに、帯電防止ハードコート層の形成材料として好適な紫外線硬化性樹脂材料組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
即ち、本発明は、次の成分(A)〜(E);
(A)2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマ ー、
(B)(メタ)アクリロイル基と親水基とを有するモノマー及び/又はそのオリゴマ ー、
(C)導電性を有する(メタ)アクリル系樹脂ポリマー、又は、重合して導電性ポリ マーを形成し得る(メタ)アクリル系樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマー、
(D)平均一次粒子径が5〜150nmの無機導電性微粒子、
(E)重合開始剤
を含有してなる、紫外線硬化性樹脂材料組成物に係わる。
(但し、成分(A)に親水基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーが含まれる場合には、この成分が成分(B)を兼ねることができる。)
【0019】
また、
成分(D)である平均一次粒子径が5〜150nmの無機導電性微粒子の表面の少な くとも一部に、成分(B)である(メタ)アクリロイル基と親水基とを有するモノマー 及び/又はそのオリゴマーを被着させる工程と、
前記表面の少なくとも一部が成分(B)によって被覆された前記無機導電性微粒子を 、次の成分(A)、(C)、及び(E);
(A)2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマ ー、
(C)導電性を有する(メタ)アクリル系樹脂ポリマー、又は、重合して導電性ポリ マーを形成し得る(メタ)アクリル系樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマー、
(E)重合開始剤
と混合する工程と
を有する、紫外線硬化性樹脂材料組成物の製造方法に係わる。
(但し、成分(A)に親水基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーが含まれる場合には、この成分が成分(B)を兼ねることができる。)
【0020】
また、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物の層が基材フィルム上に形成され、この層が硬化して、前記基材フィルム上にハードコート層が形成されてなる、帯電防止ハードコートフィルムに係わるものである。
【0021】
なお、(メタ)アクリロイル基とは、アクリロイル基及びメタクリロイル基のいずれかを意味するものとする。また、混乱を避けるため、硬化処理前のモノマー及び/又はオリゴマーを含む組成物を樹脂材料組成物と呼び、硬化処理後の重合体を樹脂組成物と呼ぶ。
【発明の効果】
【0022】
本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物において、成分(A)である、前記2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーは、硬化後、前記ハードコート層に硬さを付与する。成分(A)が、モノマー1分子につき2個以上の(メタ)アクリロイル基を含有しているので、硬化後の高分子鎖間に架橋構造が形成され、前記ハードコート層の高い硬度が得られる。また、成分(A)〜(C)の硬化物が(メタ)アクリル系樹脂であることによって、優れた光透過性も得られる。
【0023】
成分(C)および成分(D)は、前記ハードコート層の導電性を向上させ、表面抵抗値を低下させ、前記ハードコート層に帯電防止性能を付与する。この際、成分(D)の前記無機導電性微粒子は、その高い導電性によって寄与する。成分(C)の導電性ポリマー又は成分(C)から生じる導電性ポリマーは、自身の導電性によって寄与するばかりでなく、分散して孤立している無機導電性微粒子間を電気的に連結することによって、前記無機導電性微粒子の高い導電性が前記ハードコート層全体の導電性として生かされるように、補助する。
【0024】
本発明は、樹脂硬化物が導電性を有し、前記無機導電性微粒子間を電気的に連結する新規な構成を有するので、前記無機導電性微粒子の二次凝集を促す必要がない。この結果、単に前記無機導電性微粒子を良好に分散させることで、高い透明性と高い帯電防止性能とを両立させることができる。また、前記ハードコート層全体の導電性に有効に寄与する前記無機導電性微粒子が増加すること、および、導電性を前記無機導電性微粒子と前記導電性ポリマーとで分担して実現すればよいことから、成分(D)および成分(C)の添加量は、各々を単独で用いる場合よりはるかに少なくてよい。従って、前記無機導電性微粒子や前記導電性ポリマーの添加による光透過性やヘイズの低下、および硬度の低下を最小限に抑えることができる。
【0025】
成分(B)は、上述した3つの材料、すなわち、成分(A)、(C)および(D)に親和することによって、前記無機導電性微粒子や前記導電性ポリマーを、紫外線硬化性樹脂材料組成物中に均一に分散させる働きをする。この際、成分(B)は、その(メタ)アクリロイル基で、成分(A)および成分(C)がそれぞれ有する(メタ)アクリロイル基と親和する。また、その親水基で、前記無機導電性微粒子および成分(C)の導電性基に親和する。このため、前記無機導電性微粒子や前記導電性ポリマーの添加による光透過性の低下やヘイズの低下などを最小限に抑えることができる。
【0026】
また、成分(B)は(メタ)アクリロイル基を有するので、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物が硬化する際に、成分(A)や成分(C)の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及びオリゴマーと重合し、全体が一体化する。この結果、前記無機導電性微粒子が前記ハードコート層中で安定に保持され、前記ハードコート層の保存安定性が向上する。また、前記無機導電性微粒子の添加による硬度の低下を最小限に抑えることができる。
【0027】
従って、本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物を用いて前記基材フィルム上にハードコート層を形成すれば、基材フィルムの帯電を防止する高い導電性を有し、透明性に優れ、十分な硬度を有するハードコート層を備えた帯電防止ハードコートフィルムを得ることができる。また、本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物は、プラスチック成形物や塗装物の表面など、ハードコートフィルムを適用し難い箇所にハードコート塗膜を形成するのにも、好適に用いることができる。
【0028】
また、本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物の製造方法は、前記無機導電性微粒子の表面の少なくとも一部に成分(B)を被着させ、前記無機導電性微粒子を成分(B)で被覆する工程を行った後に、前記無機導電性微粒子と成分(A)、(C)、及び(E)とを混合するので、前記無機導電性微粒子を二次凝集させることなく、紫外線硬化性樹脂材料組成物中に均一に分散させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の実施の形態に基づく帯電防止ハードコートフィルムおよび比較例の帯電防止ハードコートフィルムの、各構造を示す部分断面図である。
【図2】本発明の実施例で用いた市販のITOゾルから、溶媒である2−プロパノールを除去して得られた粉末の、赤外吸収スペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、詳細に説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。
【0031】
本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物において、前記2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーが、3個以上の(メタ)アクリロイル基を有するのがよい。
【0032】
また、成分(A)の配合率が5〜55質量%、成分(B)の配合率が35〜85質量%、成分(C)の配合率が0.02〜5質量%、成分(D)の配合率が5〜15質量%、成分(E)の配合率が0.1〜10質量%であるのがよい。
【0033】
また、成分(D)の前記無機導電性微粒子が、五酸化アンチモンSb25、ITO(酸化インジウム・酸化スズ)、ATO(酸化アンチモン・酸化スズ)、及びPTO(酸化リン・酸化スズ)の各酸化物微粒子からなる群から選ばれた少なくとも1種類の微粒子であるのがよい。
【0034】
また、成分(B)が前記親水基としてヒドロキシ基を有するのがよく、例えば、成分(B)の前記モノマーが2−ヒドロキシエチルアクリレート又は4−ヒドロキシブチルアクリレートであるであるのがよい。
【0035】
以下、図面を参照しながら、本発明の好ましい実施の形態に基づく紫外線硬化性樹脂材料組成物及びハードコートフィルムについてより具体的に説明する。
【0036】
図1は、本発明の実施の形態に基づく帯電防止ハードコートフィルムおよび比較例の帯電防止ハードコートフィルムの、各構造を示す部分断面図である。
【0037】
図1(a)は、ポリエチレンテレフタラート樹脂などからなる基材フィルム1の上にハードコート層2が形成され、帯電防止ハードコートフィルム10として構成された例である。
【0038】
基材フィルム1の材料は、とくに限定されるものではないが、例えば、ポリエチレンテレフタラート(PET)樹脂や、トリアセチルセルロース(TAC)樹脂や、シクロオレフィンポリマー(COP)樹脂などである。これらの材料からなる基材フィルムは、耐擦傷性、透明性、および耐熱性などに優れている。
【0039】
ハードコート層2は、少なくとも次の5つの成分(A)〜(E);
(A)2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマ ー、
(B)(メタ)アクリロイル基と親水基とを有するモノマー及び/又はそのオリゴマ ー、
(C)導電性を有する(メタ)アクリル系樹脂ポリマー、又は、重合して導電性ポリ マーを形成し得る(メタ)アクリル系樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマー、
(D)平均一次粒子径が5〜150nmの無機導電性微粒子、
(E)重合開始剤
を含有する紫外線硬化性樹脂材料組成物の硬化物であり、成分(A)、(B)、(C)、および(E)の混合物が硬化してなる樹脂硬化物3中に、無機導電性微粒子4が分散している構造を有する。
【0040】
成分(A)である、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーは、硬化後、ハードコート層2に硬さを付与する。成分(A)が、モノマー1分子につき2個以上の(メタ)アクリロイル基を含有していると、硬化後の高分子鎖間に架橋構造が形成され、ハードコート層2の硬度が向上する。上記モノマーは、1分子中に3個以上の(メタ)アクリロイル基を有するのがより好ましい。また、成分(A)〜(C)の硬化物が(メタ)アクリル系樹脂であることによって、優れた光透過性も得られる。
【0041】
成分(C)および成分(D)は、ハードコート層2の導電性を向上させ、表面抵抗値を低下させ、ハードコート層2に帯電防止性能を付与する。この際、成分(D)の無機導電性微粒子4は、その高い導電性によって寄与する。成分(C)の導電性ポリマーまたは成分(C)から生じる導電性ポリマーは、自身の導電性によって寄与するばかりでなく、分散して孤立している無機導電性微粒子4の間を電気的に連結することによって、無機導電性微粒子4の高い導電性がハードコート層2全体の導電性として生かされるように、補助する。
【0042】
図1(b)は、比較のために、基材フィルム1の上に従来のハードコート層102が形成された帯電防止ハードコートフィルム100の例を示している。このハードコート層102も、ハードコート層2と同様、樹脂硬化物103中に無機導電性微粒子4が分散しているが、ハードコート層2と異なり、樹脂硬化物103に導電性がない。このため、分散して孤立している無機導電性微粒子4は、ハードコート層102全体の導電性に寄与しない。その結果、高い帯電防止性能を実現させるには、無機導電性微粒子4の適度な二次凝集を促すことが必要になり、高い透明性と両立させるには、無機導電性微粒子4の分散性を高度に制御することが必要になる。
【0043】
これに対し、本発明では、樹脂硬化物3が導電性を有し、無機導電性微粒子4間を電気的に連結するので、無機導電性微粒子4の二次凝集を促す必要がない。この結果、単に無機導電性微粒子4を良好に分散させることで、高い透明性と高い帯電防止性能とを両立させることができる。また、ハードコート層2全体の導電性に有効に寄与する無機導電性微粒子4が増加すること、および、導電性を無機導電性微粒子4と導電性ポリマーとで分担して実現すればよいことから、無機導電性微粒子4および導電性ポリマーの添加量は、各々を単独で用いる場合よりはるかに少なくてよい。従って、無機導電性微粒子4および導電性ポリマーの添加による光透過性やヘイズなどの低下、および硬度の低下を最小限に抑えることができる。
【0044】
成分(B)は、上述した3つの材料、すなわち、成分(A)、(C)および(D)に親和することによって、無機導電性微粒子4や導電性ポリマーを、紫外線硬化性樹脂材料組成物中に均一に分散させる働きをする。この際、成分(B)は、その(メタ)アクリロイル基で、成分(A)および成分(C)がそれぞれ有する(メタ)アクリロイル基と親和する。また、その親水基で無機導電性微粒子4および成分(C)の導電性基に親和する。このため、無機導電性微粒子4や導電性ポリマーの添加による光透過性の低下やヘイズの低下などを最小限に抑えることができる。
【0045】
また、成分(B)は(メタ)アクリロイル基を有するので、紫外線硬化性樹脂材料組成物が硬化する際に、成分(A)や成分(C)の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はオリゴマーと重合し、全体が一体化する。この結果、無機導電性微粒子4がハードコート層2中で安定に保持され、ハードコート層2の保存安定性が向上する。また、無機導電性微粒子4の添加による硬度の低下を最小限に抑えることができる。
【0046】
従って、上記の紫外線硬化性樹脂材料組成物を用いて基材フィルム1上にハードコート層2を形成すれば、基材フィルム1の帯電を防止する高い導電性を有し、透明性に優れ、十分な硬度を有するハードコート層2を備えた帯電防止ハードコートフィルム10を得ることができる。
【0047】
上記の紫外線硬化性樹脂材料組成物を作製するには、無機導電性微粒子4の表面の少なくとも一部に成分(B)を被着させ、無機導電性微粒子4を成分(B)で被覆する工程を行った後に、成分(B)によって被覆された無機導電性微粒子4を成分(A)、(C)および(E)と混合する工程を行う。これによって、無機導電性微粒子4を二次凝集させることなく、紫外線硬化性樹脂材料組成物中に均一に分散させることができる。
【0048】
また、この紫外線硬化性樹脂材料組成物を用いて帯電防止ハードコートフィルム10を作製するには、まず、紫外線硬化性樹脂材料組成物を適当な溶媒に溶解または分散させ、紫外線硬化性樹脂材料組成物を含む塗液を調製する。次に、塗布法、印刷法、または浸積法などによって塗液を基材フィルム1の上に被着させた後、所定の温度で溶媒を蒸発させ、紫外線硬化性樹脂材料組成物の層を形成する。次に、この層に紫外線を照射して硬化させ、基材フィルム1に接して帯電防止ハードコート層2を形成する。
【0049】
また、本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物は、プラスチック成形物や塗装物の表面など、ハードコートフィルムを適用し難い箇所にハードコート塗膜を形成するのにも、好適に用いることができる。
【0050】
以下、各成分について詳述する。
【0051】
成分(A)の、1分子につき2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーとしては、例えば、ペンタエリスリトール(別名テトラ(ヒドロキシメチル)メタン)のトリアクリレートであるペンタエリスリトールトリアクリレートが挙げられる。下記に、その構造式を示す。
【0052】
(化学式1)ペンタエリスリトールトリアクリレートの構造式:
【化1】

【0053】
また、成分(B)が親水基としてヒドロキシ基を有するのがよく、例えば、成分(B)のモノマーが2−ヒドロキシエチルアクリレートまたは4−ヒドロキシブチルアクリレートであるであるのがよい。下記に、2−ヒドロキシエチルアクリレートの構造式を示す。
【0054】
(化学式2)2−ヒドロキシエチルアクリレートの構造式:
【化2】

【0055】
先述した成分(A)であるペンタエリスリトールトリアクリレートは、アクリロイル基とともにヒドロキシ基を有するので、成分(B)としても機能する。成分(A)に親水基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーが含まれ、この成分が成分(B)として必要な機能を十分にはたすことができる場合には、成分(A)と別に成分(B)を別途添加する必要はない。
【0056】
成分(C)の、導電性を有する(メタ)アクリル系樹脂ポリマーは、その構造中に導電性基を含有していればよく、これ以外に特に限定されるものではない。従来公知のものとしては、第四級アンモニウム塩基含有ポリマーやスルホ基含有ポリマーなどを挙げることができ、例えば、導電性基を有するビニル基含有モノマーと、これと共重合可能な(メタ)アクリル系モノマーとを主要構成モノマーとして共重合させることにより得られる共重合体などを挙げることができる。導電性基として第四級アンモニウム塩基を有するモノマーとしては、特に限定されるものではないが、より高い導電性が得られる塩化物塩が好ましい。例えば、(メタ)アクリロイルオキシエチルトリメチルアンモニウムクロリドを挙げることができる。その他、(メタ)アクリロイルアミノプロピルトリメチルアンモニウムクロリド、(メタ)アクリロイルオキシヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどを挙げることができる。
【0057】
成分(C)および(D)の配合率は、多いほど表面抵抗率を低下させることができるが、多くなりすぎると表面硬度が低下する。成分(B)の配合率は、成分(D)を良好に分散させ、良好な光学特性を得るために、成分(D)の配合率の5〜7倍程度であることが好ましい。成分(A)の配合率が多いほど、表面硬度は向上するが、表面抵抗率は大きくなる。従って、表面抵抗率に対する要求と光学特性に対する要求と表面硬度に対する要求とをどのように調停するかに応じて、それに最適な配合率を選択するのがよく、例えば、成分(A)の配合率が5〜55質量%、成分(B)の配合率が35〜85質量%、成分(C)の配合率が0.02〜5質量%以下、成分(D)の配合率が5〜15質量%、成分(E)の配合率が0.1〜10質量%であるのがよい。
【0058】
ただし、ペンタエリスリトールトリアクリレートのように、成分(A)としても成分(B)としても機能する成分が含まれている場合、成分(A)と成分(B)の配合率の合計を変えないようにすると、そのような成分が含まれない場合に比べて表面硬度および光学特性を向上させることができる。また、表面硬度および光学特性を同じに保つようにすると、そのような成分が含まれない場合に比べて成分(A)と成分(B)の配合率の合計を減少させることができるので、その分だけ成分(C)と成分(D)の配合率の合計を増加させることができ、表面抵抗率をより低下させることができる。
【0059】
成分(D)の無機導電性微粒子は、五酸化アンチモンSb25、ITO(酸化インジウム・酸化スズ)、ATO(酸化アンチモン・酸化スズ)、及びPTO(酸化リン・酸化スズ)の各酸化物微粒子からなる群から選ばれた少なくとも1種類の微粒子であるのがよい。無機導電性微粒子の平均一次粒子径は、5〜150nmであるのがよい。平均一次粒子径が5nm未満の場合、微粒子同士の凝集力が非常に強いことから、透明性の高い一次粒子レベルの分散をさせることが非常に困難である。また、平均一次粒子径が150nmをこえる場合、可視光などの光を散乱させやすく、透明性を悪化させることがある。なお、平均一次粒子径は、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)や走査型電子顕微鏡(SEM)などによって粒子径を測定することによって得られる。
【0060】
成分(E)の重合開始剤としては、公知の材料を適宜選択して用いるのがよい。重合開始剤の配合率は、紫外線硬化性樹脂材料組成物の0.1〜10質量%であるのがよい。配合率が0.1質量%よりも少ないと、光硬化性が不足し、実質的に工業生産に適さない。一方、配合率が10質量%よりも多いと、照射光量が少ない場合に、ハードコート層2に臭気が残ることがある。
【0061】
また、レベリング剤として、1つ以上の(メタ)アクリロイル基、ビニル基、或いはエポキシ基を含有するシリコーンオリゴマー及び/又はフッ素含有有機高分子オリゴマーが、1種類以上含まれているのがよい。レベリング剤は、ハードコート層2に防汚性を付与する働きをする。この際、これらのオリゴマーの配合率は、前記紫外線硬化性樹脂材料組成物の0.01〜5質量%であるのがよい。配合率が0.01質量%よりも少ない場合、充分な防汚特性が得られない。一方、配合率が5質量%よりも多い場合、塗工性が悪くなる傾向がある。
【実施例】
【0062】
以下、本発明の実施例について説明するが、本発明は下記実施例に何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0063】
実施例1では、実施の形態で説明した紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液を調製し、その外観を調べた。
【0064】
[実施例1−1]
実施例1−1では、下記の通り各成分を配合し、紫外線硬化性樹脂材料組成物を調製した。
フルキュア HCE−022 3g
2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー・・・40〜50質量%
メタクリル酸エステル共重合物・・・・・・・・・・・・・・・・<1質量%
光重合開始剤・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1〜10質量%
プロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)・・40〜50質量%
エタノール・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・<1質量%
2−プロパノール(IPA)・・・・・・・・・・・・・・・<0.5質量%
2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA) 3g
ITOゾル 1g
ITO微粒子(平均粒子径20nm)・・・・・・・・・・・・・20質量%
2−プロパノール(IPA)・・・・・・・・・・・・・・・・・80質量%
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 固形分の5質量%
【0065】
フルキュア HCE−022(商品名;綜研化学(株)製)は、市販の、帯電防止ハードコート層形成用の紫外線硬化性樹脂材料組成物である。HCE−022は、成分(A)である、2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマーを40〜50質量%、成分(C)の導電性ポリマーとして導電性メタクリル酸エステル共重合物を1質量%未満、および成分(E)の光重合開始剤を1〜10質量%の割合で含有する。これらの不揮発性分は、40〜50質量%のプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)、1質量%未満のエタノール、および0.5質量%未満の2−プロパノール(IPA)からなる混合溶媒に溶解または分散されている。
【0066】
2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA)(商品名ライトエステルHOA;共栄社化学(株)製)は、成分(B)である、(メタ)アクリロイル基と親水基とを有するモノマーである。ITOゾル(商品名SN1015ITV;触媒化成(株)製)は、成分(D)である平均粒子径20nmのITO微粒子を、20質量%の濃度で2−プロパノール(IPA)に分散させたゾルである。1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンは光重合開始剤であり、固形分の5質量%を添加した(以下、同様。)。1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとして、IRGACΜRE 184(商品名;チバ・ジャパン(株)製)を用いた。
【0067】
図2は、上記の市販ITOゾルから溶媒を除去して得られた粉末の赤外吸収スペクトルである。図2には、メチル基等の炭化水素基に帰属される3000cm-1付近の吸収ピーク、カルボニル基C=Oに帰属される1700cm-1付近の吸収ピーク、およびC=C二重結合に帰属される1600cm-1付近の吸収ピークがないことから、このITO微粒子には表面処理が施されていないことがわかる。
【0068】
上記の紫外線硬化性樹脂材料組成物を調製するには、HEAにITOゾルを加えて混合し、ITO微粒子の表面にHEA分子を被着させる工程を行った後、さらにHCE−022を加えて混合する。得られた紫外線硬化性樹脂材料組成物は、目視による観察では白濁がなく、色相が均等であった。この結果から、ITO微粒子は良好な分散状態を維持していると考えられる。
【0069】
[実施例1−2]
実施例1−2では、ITOゾル1gの代わりに、酸化アンチモン(V)Sb25ゾル(商品名V4524;触媒化成(株)製)1gを用いた。V4524は、平均粒子径20nmの酸化アンチモン(V)微粒子の表面をビニル変性処理した後、30wt%の濃度で2−プロパノールに分散させたゾルである。それ以外は実施例1−1と同様にして、紫外線硬化性樹脂材料組成物を調製した。
【0070】
[実施例1−3]
実施例1−3では、ITOゾル1gの代わりに、酸化アンチモン(V)Sb25ゾル(商品名V4521;触媒化成(株)製)1gを用いた。V4521は、平均粒子径20nmの酸化アンチモン(V)微粒子の表面をエポキシ変性処理した後、30wt%の濃度で2−プロパノールに分散させたゾルである。それ以外は実施例1−1と同様にして、紫外線硬化性樹脂材料組成物を調製した。
【0071】
[実施例1−4]
実施例1−4では、HEA3gの代わりに、4−ヒドロキシブチルアクリレート(4−HBA)(日本化成(株)製)3gを用いた。それ以外は実施例1−1と同様にして、紫外線硬化性樹脂材料組成物を調製した。
【0072】
[比較例1−1]
比較例1−1では、下記の通り、HEAを加えず、それ以外は実施例1−1と同様にして、紫外線硬化性樹脂材料組成物を調製した。
HCE−022 3g
ITOゾル 1g
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 固形分の5質量%
【0073】
[比較例1−2]
比較例1−2では、HEAを加えず、それ以外は実施例1−2と同様にして、紫外線硬化性樹脂材料組成物を調製した。
【0074】
[比較例1−3]
比較例1−3では、HEAを加えず、それ以外は実施例1−3と同様にして、紫外線硬化性樹脂材料組成物を調製した。
【0075】
[比較例1−4]
比較例1−4では、ITOゾル1gの代わりに、ATOゾル(商品名SN1010ATV;触媒化成(株)製)1gを用いた。これは、平均粒子径8nmのATO微粒子を、30質量%の濃度で2−プロパノール(IPA)に分散させたゾルである(微粒子の表面処理状態は不明である。)。それ以外は比較例1−1と同様にして、紫外線硬化性樹脂材料組成物を調製した。
【0076】
[比較例1−5]
比較例1−5では、ITOゾル1gの代わりに、PTOゾル(商品名SN1028;触媒化成(株)製)1gを用いた。これは、平均粒子径20nmのPTO微粒子を、30質量%の濃度でプロピレングリコールモノメチルエーテル(PGME)に分散させたゾルである(微粒子の表面処理状態は不明である。)。それ以外は比較例1−1と同様にして、紫外線硬化性樹脂材料組成物を調製した。
【0077】
表1に、以上の結果をまとめて示した。
【表1】

【0078】
実施例1−1〜1−4では、紫外線硬化性樹脂材料組成物は、目視による外観で白濁がなく、溶液色相が均等であった。この結果から、各導電性微粒子が分散状態を維持していると考えられる。一方、比較例1−1では、目視において紫外線硬化性樹脂材料組成物の底が白濁し、溶液色相が均等になっていない。これはATOフィラーが凝集沈殿したものと考えられる。また、比較例1−2および1−3では、紫外線硬化性樹脂材料組成物の底がゲル化した。これは塗料として用いる事はできない。比較例1−4および1−5では、目視において紫外線硬化性樹脂材料組成物の底が白濁し、溶液色相が均等になっていない。これはATOフィラーが凝集沈殿したものと考えられる。
【実施例2】
【0079】
実施例2では、図1(a)に示した帯電防止ハードコートフィルム10を作製し、その特性を調べた。
【0080】
[実施例2−1]
まず、紫外線硬化性樹脂材料組成物における各成分を下記の通り配合し、シクロヘキサノン1.65gと2−プロパノール(IPA)1.65gとからなる混合溶媒に溶解または分散させ、紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液を調製した。
HCE−022 0.54g
2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA) 2.16g
ITOゾル 1.5g
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 固形分の5質量%
シクロヘキサノン 1.65g
2−プロパノール(IPA) 1.65g
【0081】
次に、基材フィルム1として厚さ80μmのTACフィルム(富士フィルム(株)製)を用い、このフィルム上にコイルバーを用いて上記の紫外線硬化型樹脂組成物塗液を塗布した。塗布後、80℃で2分間加熱処理し、溶媒を蒸発させた。その後、窒素雰囲気下で300mJ/cm2の紫外線を照射し、厚さ13μmのハードコート層2を形成し、帯電防止ハードコートフィルム10を作製した。
【0082】
実施例2−1によって得られた帯電防止ハードコートフィルム10の特性を下記に示す。
初期表面抵抗値:6×107Ω/□
ジャーミル水中攪拌を2時間行った後の表面抵抗値:4×106Ω/□
光学特性:ヘイズ 0.2%、全光線透過率 90.8%
鉛筆硬度試験結果:750g荷重にて2H未満
碁盤目試験による初期密着性:良
顕微鏡観察によるクラックの有無:なし
【0083】
[実施例2−2]
実施例2−2では、HEA2.16gの代わりに、4−HBA2.16gを用いて紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液を調製した。それ以外は実施例2−1と同様にして、厚さ13μmのハードコート層2を有する帯電防止ハードコートフィルム10を作製し、特性を調べた。
【0084】
実施例2−1によって得られた帯電防止ハードコートフィルム10の特性を下記に示す。
初期表面抵抗値:3×106Ω/□
ジャーミル水中攪拌を2時間行った後の表面抵抗値:2×105Ω/□
光学特性:ヘイズ 0.5%、全光線透過率 90.4%
鉛筆硬度試験結果:750g荷重にて2H未満
碁盤目試験による初期密着性:良
顕微鏡観察によるクラックの有無:なし
【0085】
HEAと同様に4−HBAも有効であることがわかった。これは、アクリロイル基と親水性基(ヒドロキシ基)とを有する分子が成分(B)として有効であることを示している。
【0086】
[比較例2−1]
比較例2−1では、下記の通り、HCE−022の量を増やし、HEAの量を減らして、紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液を調製した。
HCE−022 1.35g
2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA) 1.35g
ITOゾル 1.5g
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 固形分の5質量%
シクロヘキサノン 1.65g
2−プロパノール(IPA) 1.65g
それ以外は実施例2−1と同様にして、厚さ13μmのハードコート層を有する帯電防止ハードコートフィルムを作製し、特性を調べた。
【0087】
比較例2−1によって得られた帯電防止ハードコートフィルムの特性を下記に示す。
初期表面抵抗値:6×106Ω/□
光学特性:ヘイズ 1.7%、全光線透過率 90.9%
鉛筆硬度試験結果:750g荷重にて2H未満
碁盤目試験による初期密着性:良
顕微鏡観察によるクラックの有無:なし
【0088】
実施例2−1に比べて、HEAの量が少ないために分散効果が不足し、ITO微粒子が凝集することによって、膜のヘイズ特性が悪化した。
【0089】
[比較例2−2]
比較例2−2では、下記の通り、ITOゾルの量を減らして、紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液を調製した。それ以外は実施例2−1と同様にして、厚さ13μmのハードコート層を有する帯電防止ハードコートフィルムを作製し、特性を調べた。
HCE−022 0.59g
2−ヒドロキシエチルアクリレート(HEA) 2.37g
ITOゾル 0.15g
1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン 固形分の5質量%
シクロヘキサノン 2.19g
2−プロパノール(IPA) 2.19g
【0090】
比較例2−2によって得られた帯電防止ハードコートフィルムの特性を下記に示す。
初期表面抵抗値:8×1010Ω/□
光学特性:ヘイズ 0.4%、全光線透過率 90.3%
鉛筆硬度試験結果:750g荷重にて2H未満
碁盤目試験による初期密着性:良
顕微鏡観察によるクラックの有無:なし
【0091】
実施例2−1に比べて、ITO微粒子の量が少ないために導電性が不足し、初期表面抵抗値が悪化した。
【0092】
[比較例2−3]
比較例2−3では、下記の通り、ITOゾルおよびHEAを加えないで、紫外線硬化性樹脂材料組成物の塗液を調製した。
HCE−022 3.00g
シクロヘキサノン 0.75g
2−プロパノール(IPA) 0.75g
それ以外は実施例2−1と同様にして、厚さ13μmのハードコート層を有する帯電防止ハードコートフィルムを作製し、特性を調べた。
【0093】
比較例2−3によって得られた帯電防止ハードコートフィルムの特性を下記に示す。
初期表面抵抗値:8×109Ω/□
ジャーミル水中攪拌を2時間行った後の表面抵抗値:3×1010Ω/□
光学特性:ヘイズ 0.2%、全光線透過率 92.2%
鉛筆硬度試験結果:750g荷重にて2H以上
碁盤目試験による初期密着性:不良
顕微鏡観察によるクラックの有無:あり
【0094】
表2に、以上の結果をまとめて示す。
【表2】

【0095】
以上、本発明を実施の形態および実施例に基づいて説明したが、本発明はこれらの例に何ら限定されるものではなく、発明の主旨を逸脱しない範囲で適宜変更可能であることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の帯電防止ハードコートフィルムは、画像表示装置ばかりでなく、建物や車両の窓ガラス用の保護フィルムや遮光フィルムなどとして好適に用いることができる。また、本発明の紫外線硬化性樹脂材料組成物は、プラスチック成形物や塗装物の表面に帯電防止ハードコート塗膜を形成するのに好適に用いることができる。
【符号の説明】
【0097】
1…基材フィルム、2…帯電防止ハードコート層、3…樹脂硬化物(導電性あり)、
4…無機導電性微粒子、10…帯電防止ハードコートフィルム
100…帯電防止ハードコートフィルム、102…ハードコート層、
103…樹脂硬化物(導電性なし)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0098】
【特許文献1】特開平4−172634号公報(請求項1、第2−4頁、表1)
【特許文献2】特開平6−264009号公報(請求項1、第2−5頁)
【特許文献3】特開2001−131485号公報(請求項1、第2−5頁、表1及び2)
【特許文献4】特開2001−131485号公報(請求項1、第4−7頁、表1)
【特許文献5】WO2003/055950号公報(請求項1及び2、第4−16頁、表1)
【特許文献6】特開2008−56872号公報(請求項1、第3−7頁、表1)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の成分(A)〜(E);
(A)2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマ ー、
(B)(メタ)アクリロイル基と親水基とを有するモノマー及び/又はそのオリゴマ ー、
(C)導電性を有する(メタ)アクリル系樹脂ポリマー、又は、重合して導電性ポリ マーを形成し得る(メタ)アクリル系樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマー、
(D)平均一次粒子径が5〜150nmの無機導電性微粒子、
(E)重合開始剤
を含有してなる、紫外線硬化性樹脂材料組成物。
(但し、成分(A)に親水基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーが含まれる場合には、この成分が成分(B)を兼ねることができる。)
【請求項2】
成分(A)の配合率が5〜55質量%、成分(B)の配合率が35〜85質量%、成分(C)の配合率が0.02〜5質量%、成分(D)の配合率が5〜15質量%、成分(E)の配合率が0.1〜10質量%である、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物。
【請求項3】
成分(B)が前記親水基としてヒドロキシ基を有する、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物。
【請求項4】
成分(B)の前記モノマーが2−ヒドロキシエチルアクリレート又は4−ヒドロキシブチルアクリレートである、請求項3に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物。
【請求項5】
成分(D)の前記無機導電性微粒子が、五酸化アンチモンSb25、ITO(酸化インジウム・酸化スズ)、ATO(酸化アンチモン・酸化スズ)、及びPTO(酸化リン・酸化スズ)の各酸化物微粒子からなる群から選ばれた少なくとも1種類の微粒子である、請求項1に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物。
【請求項6】
成分(D)である平均一次粒子径が5〜150nmの無機導電性微粒子の表面の少な くとも一部に、成分(B)である(メタ)アクリロイル基と親水基とを有するモノマー 及び/又はそのオリゴマーを被着させる工程と、
前記表面の少なくとも一部が成分(B)によって被覆された前記無機導電性微粒子を 、次の成分(A)、(C)、及び(E);
(A)2個以上の(メタ)アクリロイル基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマ ー、
(C)導電性を有する(メタ)アクリル系樹脂ポリマー、又は、重合して導電性ポリ マーを形成し得る(メタ)アクリル系樹脂モノマー及び/又はそのオリゴマー、
(E)重合開始剤
と混合する工程と
を有する、紫外線硬化性樹脂材料組成物の製造方法に係わる。
(但し、成分(A)に親水基を有するモノマー及び/又はそのオリゴマーが含まれる場合には、この成分が成分(B)を兼ねることができる。)
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載した紫外線硬化性樹脂材料組成物の層が基材フィルム上に形成され、この層が硬化して、前記基材フィルム上にハードコート層が形成されてなる、帯電防止ハードコートフィルム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−99056(P2011−99056A)
【公開日】平成23年5月19日(2011.5.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−255157(P2009−255157)
【出願日】平成21年11月6日(2009.11.6)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】