説明

平版印刷材料の製造方法

【課題】本発明はDTR法を用いた平版印刷材料において、印刷諸特性に優れ、特に保水性を向上することを目的とする。
【解決手段】支持体上に、下塗り層、ハロゲン化銀乳剤層及び物理現像核層を少なくともこの順で有する平版印刷材料の製造方法において、該下塗り層を塗設するための塗布液がゼラチン、及びTgが25℃以下のポリマーラテックスを含有し、該塗布液を支持体上に塗布した後、乾燥温度が20℃以下の条件で該塗布液をゲル化させ、その後該ポリマーラテックスのTg以上の温度で乾燥することを特徴とする平版印刷材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、銀錯塩拡散転写法(以下、DTR法と称する)を応用した平版印刷材料の製造方法に関するものであり、詳しくは、印刷諸特性(保水性、インキ着肉性、インキ乗り性等)に優れたDTR法を用いた平版印刷材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
DTR法を利用した平版印刷材料は高感度であり、各種レーザーを搭載した出力機(プレートセッター)を用いて簡便に直接製版できることから、今日のCTP(コンピューター・ツー・プレート)システムに好適に用いられている。
【0003】
平版印刷材料は、油脂性のインキを受理する親油性の画線部と、インキを受理しない撥油性の非画線部とからなり、一般に該非画線部は水を受け付ける親水性素材から構成されている。通常の平版印刷では、水とインキの両方を同時に版面に供給し、画線部は着色性のインキを受理し、非画線部は水を選択的に受け入れ、該画線上に受理したインキを、例えば、紙等の被印刷体に転写させることによって印刷がなされている。
【0004】
銀錯塩拡散転写法を用いた平版印刷材料で、特にハロゲン化銀乳剤層の上に物理現像核層を有する平版印刷材料として、例えば、特公昭48−30562号公報、特開昭53−21602号公報、米国特許第3,728,114号明細書、米国特許第4,134,769号明細書、米国特許第4,160,670号明細書、米国特許第4,336,321号明細書、米国特許第4,501,811号明細書、米国特許第4,510,228号明細書、米国特許第4,621,041号明細書等に記載されており、露光されたハロゲン化銀結晶は、現像液中の現像主薬の作用により化学現像を生起し黒色の銀となり親水性の非画線部を形成する。一方、未露光のハロゲン化銀結晶は現像液中の銀塩錯化剤により銀塩錯体となって表面の物理現像核層まで拡散し、核の存在により物理現像を生起してインキ受容性の物理現像銀を主体とする画線部を形成する。
【0005】
上述したようなDTR法を用いた平版印刷材料は、支持体上に下塗り層、ハロゲン化銀乳剤層、及び物理現像核層を少なくともこの順に有し、物理現像核層上に析出した銀像をインキ受容性の画線部として利用する。この為、非画像部としては、化学現像により還元された黒色の銀を含有するゼラチン膜を利用しているため、一般の平版印刷材料(例えばPS版等)に比べて保水性に劣り、ゼラチン膜の吸水量が印刷諸特性に様々な影響をもたらしていた。この為、下塗り層やハロゲン化銀乳剤層が含有するゼラチンの硬膜度を高くしたり、下塗り層のゼラチン量を変更する努力等がなされてきたが、硬膜度やゼラチン使用量の変更だけでは印刷諸特性を十分満足する域まで高めることはできていなかった。
【0006】
下塗り層のゼラチンを低減するために、下塗り層中のバインダーとしてポリマーラテックスを利用することは従来から知られており、例えば特開昭57−19730号公報(特許文献1)には特定のメルカプト化合物と共にポリマーラテックスを利用することが記載されている。特開平05−80519号公報(特許文献2)には保水性の向上を目的にスチレンブタジエン系ラテックスを含有する下塗り層を有する平版印刷材料が開示されている。特開平06−324496号公報(特許文献3)には耐汚れ性と耐刷性の両立を目的にスチレンブタジエン系ラテックスとヒンダードホルマリン型硬膜剤を含有する下塗り層を有する平版印刷材料が開示されている。
【0007】
また特開2001−242628号公報(特許文献4)には高精細な多色印刷が可能な走査露光用平版印刷材料を得ることを目的にポリマーラテックスを含有する下塗り層を有する平版印刷材料が開示されており、特開2000−275847号公報(特許文献5)には印刷時の膜剥がれを防止することを目的に、ポリマーラテックスと多糖類を含有する下塗り層を有する平版印刷材料が開示されており、特開2002−287366号公報(特許文献6)にはインキ乗り性の改善を目的に、カチオン性ポリマーラテックスを含有する下塗り層を有する平版印刷材料が開示されている。しかしながら、利用するポリマーラテックスのTgが高過ぎたり、また、ポリマーラテックスのTgに対して乾燥温度の設定が不適当であったが故に、保水性やインキ着肉性等の性能を安定的に確保することが困難であり、更なる印刷諸特性の向上が求められていた。
【特許文献1】特開昭57−19730号公報
【特許文献2】特開平05−80519号公報
【特許文献3】特開平06−324496号公報
【特許文献4】特開2001−242628号公報
【特許文献5】特開2000−275847号公報
【特許文献6】特開2002−287366号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って本発明の目的は、印刷諸特性(保水性、インキ着肉性、インキ乗り性等)に優れ、特に保水性が向上したDTR法を用いた平版印刷材料の製造方法を得ることにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、支持体上に、下塗り層、ハロゲン化銀乳剤層及び物理現像核層を少なくともこの順で有する平版印刷材料の製造方法において、該下塗り層を塗設するための塗布液がゼラチン、及びTgが25℃以下のポリマーラテックスを含有し、該塗布液を支持体上に塗布した後、乾燥温度が20℃以下の条件で該塗布液をゲル化させ、その後該ポリマーラテックスのTg以上の温度で乾燥することを特徴とする平版印刷材料の製造方法によって達成された。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、印刷諸特性(保水性、インキ着肉性、インキ乗り性等)に優れ、特に保水性が向上したDTR法を用いた平版印刷材料の製造方法が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の下塗り層に含有するポリマーラテックスとしては、Tgが25℃以下であれば単独重合体や共重合体等各種公知のラテックスを用いることができる。単独重合体としてはブチルアクリレート、イソプレン等があり、共重合体としてはエチレン・ブタジエン共重合体、スチレン・ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート・ブタジエン共重合体、メチルメタクリレート・塩化ビニリデン共重合体、メチルアクリレート・アクリロニトリル共重合体、メチルアクリレート・ブタジエン共重合体、メチルアクリレート・スチレン共重合体、メチルアクリレート・酢酸ビニル共重合体、アクリル酸・ブチルアクリレート共重合体、メチルアクリレート・塩化ビニル共重合体、ブチルアクリレート・スチレン共重合体等がある。これらのポリマーラテックスの中でも特にスチレン・ブタジエン共重合体が好ましい。
【0012】
下塗り層が含有する上記ポリマーラテックスの含有量としては1.0〜10g/m2が好ましく、更に好ましくは2.0〜5.0g/m2である。
【0013】
本発明において下塗り層は、上記ポリマーラテックスと共にゼラチンを含有する。ゼラチンの使用量としては、被膜強度の保持や塗布性等の観点からポリマーラテックスの固形分量に対して等量以下とすることが好ましい。また下塗り層は上記ポリマーラテックス、及びゼラチン以外に、澱粉、デキストリン、アルブミン、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、アラビアゴム、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース、ポリアクリルアミド、スチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリビニルメチルエーテル−無水マレイン酸共重合体等の親水性高分子を含有しても良いが、上記ポリマーラテックスとゼラチンの総固形分量に対して5質量%以下とすることが好ましい。また、下塗り層はハレーション防止を目的にカーボンブラックあるいは各種着色顔料、平均粒径が0.1〜10μmの固形粉末粒子(例えば、シリカ粒子)、界面活性剤等を含有することが好ましい。
【0014】
本発明では、上述のポリマーラテックス及びゼラチンを含有する下塗り層を塗設する際、下塗り層を塗設するための塗布液を支持体上に塗布した後、乾燥温度が20℃以下の条件で該塗布液をゲル化させ、その後該ポリマーラテックスのTg以上の温度で乾燥する。塗布後直ちに行うゲル化工程の乾燥温度は20℃以下であり、好ましくは15℃以下に設定し、最適な温度としてはゼラチン濃度やポリマーラテックスの使用比率、塗布速度や乾燥風速等にもよるが5℃以下である。下限は1℃である。そしてその後に実施される乾燥工程、好ましくは恒率乾燥領域の初期段階、更に好ましくは前述のゲル化工程の直後にポリマーラテックスのTg以上の温度で乾燥する。但し、あまり高い温度で恒率乾燥領域の初期段階を乾燥すると、一旦ゲル化した塗布膜の再融解が生じるため、塗布膜中の含有固形分率が30質量%以下になるまでは35℃を超えないようにすることが好ましい。本発明はこのようにして下塗り層を設けること、即ち、恒率乾燥領域においてポリマーラテックス粒子の一部あるいは全部の疎水性が適度に高まった状態で下塗り層を形成させることにより、下塗り層表面に例えばマット剤等を利用した場合の凹凸よりも更に小さい、極微細な凹凸が形成され、印刷諸特性(耐刷力、保水性、インキ着肉等)に優れた平版印刷材料が得られるものと推測される。
【0015】
また本発明において下塗り層はゼラチン硬膜剤で硬膜されることが好ましい。ゼラチン硬膜剤としては、例えばクロム明ばんのような無機化合物、ホルマリン、グリオキザール、マレアルデヒド、グルタルアルデヒドのようなアルデヒド類、尿素やエチレン尿素等のN−メチロール化合物、ムコクロル酸、2,3−ジヒドロキシ−1,4−ジオキサンの様なアルデヒド等価体、2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン塩や2,4−ジヒドロキシ−6−クロロ−トリアジン塩のような活性ハロゲンを有する化合物、ジビニルスルホン、ジビニルケトンやN,N,N−トリアクロイルヘキサヒドロトリアジン、活性な三員環であるエチレンイミノ基やエポキシ基を分子中に二個以上有する化合物類、高分子硬膜剤としてのジアルデヒド澱粉等の種々の化合物の一種もしくは二種以上を用いることができる。
【0016】
硬膜剤は全ての層に添加することもでき、幾つか又は一層にのみ添加することも可能である。勿論拡散性の硬膜剤は二層以上を同時塗布する場合には、何れか一層にのみ添加することも可能である。添加方法は乳剤製造時に添加したり、塗布時にインラインで添加する方法がある。
【0017】
本発明で用いられる支持体としては、セルロースナイトレートフィルム、セルロースアセテートフィルム、セルロースアセテートブチレートフィルム、セルロースアセテートプロピオネートフィルム、ポリスチレンフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリカーボネートフィルム等の合成もしくは半合成の高分子フィルムを使用することが好ましい。また、下塗り層との接着性を高める目的において易接着層を有する支持体を用いても良い。
【0018】
ハロゲン化銀乳剤層は当分野で公知のものを全て用いることができるが、好ましくは高感度ハロゲン化銀感光材料、高温迅速処理用ハロゲン化銀感光材料に用いられる乳剤層等が好ましい。
【0019】
ハロゲン化銀乳剤層は、例えば、塩化銀、臭化銀、塩臭化銀、及びこれらに沃化銀を含むものからなる。ハロゲン化銀結晶はロジウム塩、イリジウム塩、パラジウム塩、ルテニウム塩、ニッケル塩、白金塩等の重金属塩を含んでいても良く、添加量はハロゲン化銀1モル当たり10-8〜10-3モルである。ハロゲン化銀の結晶形態に特に制限はなく、立方体ないし14面体粒子、更にはコアシェル型、平板状粒子でも良い。ハロゲン化銀結晶は、単分散、多分散結晶のどちらであっても良く、その平均粒経は0.2〜0.8μmの範囲である。好ましい例の一つとしては、ロジウム塩もしくはイリジウム塩又は両方を含む、塩化銀が70モル%以上の単分散もしくは多分散結晶がある。
【0020】
ハロゲン化銀乳剤は、それが製造される際、又は塗布されるまでに種々の方法で増感することができる。例えば、チオ硫酸ナトリウム、アルキルチオ尿素によって、又は金化合物、例えばロダン金、塩化金によって、又はこれらの両者の併用等当該技術分野において良く知られた方法により化学的に増感することができる。ハロゲン化銀乳剤は、また、例えばシアニン、メロシアニン等の色素によってポジティブにもネガティブにも増感、又は減感され得る。その増感又は減感され得る波長域には特に制限は持たない。従って、オルソ増感、パンクロ増感、ヘリウム−ネオンレーザー用増感、アルゴンレーザー用増感、LED用増感、半導体レーザー用増感もなし得るし、明室用にUV増感、可視光減感もなし得る。
【0021】
ハロゲン化銀乳剤層の上部に存在する表面層には物理現像核を含む。物理現像核としては銀、アンチモン、ビスマス、カドミウム、コバルト、鉛、ニッケル、パラジウム、ロジウム、金、白金等の金属コロイド微粒子や、これらの金属の硫化物、多硫化物、セレン化物、又はそれらの混合物、混晶であっても良い。物理現像核には親水性バインダーを含んでいてもいなくても良いが、ゼラチン、澱粉、ジアルデヒド澱粉、カルボキシメチルセルロース、アラビアゴム、アルギン酸ナトリウム、ヒドロキシエチルセルロース、ポリスチレンスルホン酸、ビニルイミダゾールとアクリルアミドの共重合体、ポリビニルアルコール等の親水性高分子又はそのオリゴマーを含むことができ、その含有量は0.5g/m2以下であることが好ましい。更に物理現像核層には、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、カテコール等の現像主薬や、ホルマリン、ジクロロ−s−トリアジン等の公知の硬膜剤を含んでも良い。
【0022】
本発明の平版印刷材料に使用する現像処理液には、アルカリ性物質、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、第三リン酸ナトリウム等、保恒剤としての亜硫酸塩、ハロゲン化銀溶剤、例えばチオ硫酸塩、チオシアン酸塩、環状イミド、2−メルカプト安息香酸、アミン等、粘稠剤、例えばヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等、カブリ防止剤、例えば臭化カリウム、更に現像剤としてハイドロキノン類、カテコール、1−フェニル−3−ピラゾリドン等、現像変性剤、例えばポリオキシアルキレン化合物、オニウム化合物等を含むことができる。更に現像処理液には、表面銀層のインキ乗りを良くする化合物等も使用することができる。
【0023】
本発明の平版印刷材料の現像後の表面銀層は、任意の公知の表面処理剤でインキ受容性に変換ないしは受容性を改善させることもできる。印刷方法、あるいは使用する不感脂化液、吸湿液等は普通に良く知られた方法により施すこともできる。
【実施例1】
【0024】
以下に本発明を実施例を用いて説明するが、勿論本発明はこれだけに限定されるものではない。なお記載中、%は質量%を示す。
【0025】
(裏塗り層の作製)
下引き加工が施されたポリエチレンテレフタレートフィルム支持体の片面に下記裏塗り液1及び裏塗り液2を、裏塗り液1が支持体側になる様に両液を同時にスライドホッパーコーティング法により積層塗布して、帯電防止層を兼ねた裏塗り層を作製した。
<裏塗り液1>
ゼラチン 8.0kg
カーボンブラック 7.0kg(固形分量=約20%)
pH調整剤、界面活性剤等を加え全量を160kgに調整して液を作製した。
湿分塗布量は16g/m2とした。
<裏塗り液2>
ゼラチン 22kg
シリカ粉末 8.0kg(平均粒子径=約3.5μm)
二酸化チタン粉末 72kg(平均粒子径=約0.2μm)
pH調整剤、界面活性剤等を加え全量を480kgに調整して液を作製した。
湿分塗布量は48g/m2とした。
【0026】
(下塗り層及び乳剤層の作製)
上記裏塗り層とは反対面の支持体表面にコロナ放電加工後、下記下塗り液と乳剤塗布液を下塗り液が支持体側になる様に両液を同時にスライドホッパーコーティング法により積層塗布した。
<下塗り液>
ゼラチン 30kg
シリカ粉末 5.0kg
(富士シリシア化学製 SY378:平均粒子径=約3.5μm)
カーボンブラック 10kg(固形分量=約32%)
スチレン−ブタジエン系ラテックス 50kg(固形分量=約48%)
(日本エイアンドエル製 スマーテックス PA9281:Tg=7℃)
pH調整剤、界面活性剤等を加え全量を450kgに調整して液を作製した。
湿分塗布量は45g/m2とした。
<乳剤塗布液>
赤感の増感色素で増感された高感度塩化銀乳剤(硝酸銀:ゼラチン質量比=2:1)
硝酸銀換算:12kg
エチレンジアミン四酢酸Na塩 0.1kg
チオサリチル酸 0.4kg
1−フェニル−3−ピラゾリドン 0.2kg
ホルマリン(37%水溶液) 0.8kg
pH調整剤、界面活性剤等を加え全量を150kgに調整して液を作製した。
湿分塗布量は15g/m2とした。
【0027】
上記高感度塩化銀乳剤は、ヘキサクロロイリジウム(IV)酸カリウムを銀1モル当たり0.006ミリモルドープさせ、0.2モル%のKI溶液でコンバージョンを行った塩化銀乳剤で、コントロールダブルジェット法により平均粒子径は約0.30μmに調整した。更に、この乳剤を沈殿−水洗−脱水後に再溶解を行い、常法により硫黄−金増感を施した後、安定剤等を添加、その後、赤色増感色素を銀1g当たり3mgを添加して分光増感を行った。
【0028】
なお、硬膜剤として、裏塗り層及び下塗り層には2,4−ジクロロ−6−ヒドロキシ−s−トリアジン塩、乳剤層にはN−メチロールエチレン尿素をそれぞれ含有させた。
【0029】
なお、上記下塗り層及び乳剤層を塗布した後の乾燥条件を、下記表1に記載する。その後、硬膜することを目的に40℃で5日間加温して、下塗り層及び乳剤層を完成させた。
【0030】
【表1】

【0031】
表1のS1、S2はセットゾーン、D1〜D5は乾燥ゾーンを表し、数値は乾燥調整風の吹き出し部での乾球温度/露点を示し、D1とD2が恒率乾燥領域に相当し、D3とD4が減率乾燥領域、D5は調湿部に大略相当する。
【0032】
(物理現像核層の作製)
上記乳剤層の上に、下記物理現像核層塗布液をファウンテン/エアドクター法にて塗布乾燥して、物理現像核層を塗設した。その後、再び40℃で5日間加温して平版印刷材料1〜3を得た。
<物理現像核層塗布液>
硫化パラジウムゾル 10kg
ハイドロキノン 7.0kg
1−フェニル−3−ピラゾリドン 0.7kg
ポリマー 1.0kg
(アクリルアミド(97モル%)とビニルイミダゾール(3モル%)共重合体;平均分子量=約10万)
界面活性剤 2.0kg
ホルマリン 1.0kg(37%水溶液)
全量を100kgに調整して液を作製した。
湿分塗布量は10g/m2とした。
【0033】
上記物理現像核層塗布液に用いる硫化パラジウムゾルは予め下記構成により調製した。
<硫化パラジウムゾルの調整>
A液 塩化パラジウム 5部
12N−塩酸 40部
蒸留水 1000部
B液 硫化ソーダ 8.6部
蒸留水 1000部
A液とB液を撹拌しながら混合し、30分後にイオン交換樹脂(ロームアンドハース製アンバーライトIR−120E,IRA−400)の充填されたカラムに通し硫化パラジウムゾルを得た。
【0034】
上記平版印刷材料1〜3の下塗り液に用いているスチレン−ブタジエン系ラテックスを下記ラテックスに変更し、更に下記量に変更した以外は、上記平版印刷材料1〜3と同様にして平版印刷材料4〜6を得た。
<ラテックス>
アクリレート系ラテックス 52kg(固形分量約46%)
(日本ゼオン製 Nipol LX814:Tg=25℃)
【0035】
上記平版印刷材料1〜3の下塗り液に用いているスチレン−ブタジエン系ラテックスを下記ラテックスに変更し、更に下記量に変更した以外は、全て平版印刷材料1〜3と同様にして平版印刷材料7〜9を得た。
<ラテックス>
アクリレート系ラテックス 60kg(固形分量約40%)
(日本ゼオン製 Nipol LX844C:Tg=32℃)
【0036】
上記平版印刷材料1〜3の下塗り液に用いているスチレン−ブタジエン系ラテックスを下記ラテックスに変更し、更に下記量に変更した以外は、全て平版印刷材料1〜3と同様にして平版印刷材料10〜12を得た。
<ラテックス>
カルボキシル化SBR 57kg(固形分量約42%)
(大日本インキ化学工業製 ラックスター DS−7440N:Tg=60℃)
【0037】
上記のようにして作製した平版印刷材料1〜12をヘリウム・ネオンレーザーを光源とするプレートセッターで露光し、下記銀錯塩拡散転写現像液を用いて、30℃で20秒間現像処理を行った後、該原版を2本の絞りローラー間に通し、余分の現像液を除去し、直ちに下記組成を有する中和液で25℃20秒間処理し、絞りローラーで余分の液を除去し室温で乾燥させそれぞれ平版印刷材料を作製した。
【0038】
<銀錯塩拡散転写現像液>
水酸化カリウム 20g
無水亜硫酸ナトリウム 50g
2−メルカプト安息香酸 1.5g
2−メチルアミノエタノール 15g
を水に加えて1リットルに調整して液を作製した。
<中和液>
クエン酸 10g
クエン酸ナトリウム 35g
コロイダルシリカ(20%液) 5ml
エチレングリコール 5ml
を水に加えて1リットルに調整して液を作製した。
【0039】
以上の操作により作製した平版印刷材料をオフセット印刷機に装着し、下記の給湿液にて版面をくまなく拭き与え、その給湿液を用いて印刷を行った。
【0040】
<給湿液>
o−リン酸 10g
硝酸ニッケル 5g
亜硝酸ナトリウム 5g
エチレングリコール 100g
コロイダルシリカ(20%液)28g
を水に加えて2リットルに調整して液を作製した。
【0041】
印刷機は、ハイデルベルグ製QM46(オフセット印刷機)を使用し、非画像部の地汚れ、及び、インキ着肉性は、これらに不良が生じて印刷に供せなくなった時の印刷枚数を、次の評価基準により判定した。なお、インキは地汚れの評価には大日本インキ化学工業製ニューチャンピオンFグロス68紫Sを、インキ着肉性評価には、同じく大日本インキ化学工業製のFusion墨Hを用いた。
◎:20,000枚以上
○:15,000〜20,000枚未満
△:10,000〜15,000枚未満
×:10,000枚未満
印刷結果を表2に示す。
【0042】
また、画像部のインキ乗り性を評価するために、画像全面に十分インキが乗った枚数を刷り始めからの枚数でカウントして判定した。本評価はインキ着肉性の評価を実施する際に合わせて評価を行った。
◎: 5枚以下
○: 6〜10枚
△:11〜15枚
×:16枚以上
印刷結果を表2に示す。
【0043】
【表2】

【0044】
上記の結果から、本発明のTg及び乾燥条件を限定することで明らかに他の印刷性能を劣化させることなく、保水性を改良していることが判る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体上に、下塗り層、ハロゲン化銀乳剤層及び物理現像核層を少なくともこの順で有する平版印刷材料の製造方法において、該下塗り層を塗設するための塗布液がゼラチン、及びTgが25℃以下のポリマーラテックスを含有し、該塗布液を支持体上に塗布した後、乾燥温度が20℃以下の条件で該塗布液をゲル化させ、その後該ポリマーラテックスのTg以上の温度で乾燥することを特徴とする平版印刷材料の製造方法。

【公開番号】特開2009−180982(P2009−180982A)
【公開日】平成21年8月13日(2009.8.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−20531(P2008−20531)
【出願日】平成20年1月31日(2008.1.31)
【出願人】(000005980)三菱製紙株式会社 (1,550)
【Fターム(参考)】